(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の空気管式の差動分布型感知器を使用した火災報知設備にあっては、監視領域に空気管を張り巡らせる設置作業が大変であり、また施工の際には監視領域に張り巡らせた空気管の空気漏れがないことを確認する必要があり、もし空気漏れが起きていた場合には、その場所を探して対処する作業が大変になるといった問題がある。
【0006】
また光電式分離型の煙感知器を用いた火災報知設備にあっては、発光部と受光部を結ぶ光軸が通過している大空間を監視しており、設置の際の光軸を合せる作業が大変であり、また長期間設置している間に、建物の歪み等により光軸がずれる場合があり、定期点検の際に光軸合せの再調整を必要とし、維持管理の手間も大きい場合がある。更に、光軸から離れた場所で火災が発生した場合には、火災による煙が拡散して受光部で火災を検知する減光量が得られるまでに時間がかかる場合もある。また、例えば光軸周辺に障害物がある場合等には使用できない場合がある。
【0007】
一方、本願出願人にあっては、主に家庭用の火災監視のため、警報器とこれに割り当てた複数の温度観測チップ(温度測定チップ)又は煙観測チップ(煙測定チップ)を所定局所に設置して温度又は煙濃度を観測し、温度観測チップの観測結果から火災を検知して、警報器から火災警報を報知する警報システムを提案している。
【0008】
このような警報システムは、温度観測チップ又は煙観測チップを例えば各種ストーブ、ガスコンロ等の火気や熱源使用機器、その設置場所、喫煙などで火気を使用する場所、特に寝タバコをするベッドや寝室の所定場所、更にはくず入れ等、その他相対的に火源となる可能性の高い機器や場所或いはそれらの近傍等、所定局所に設置することで、スポット的に観測した観測結果に基づき火災を検知して警報器から火災警報を出力し、所定局所で発生した火災を迅速且つ確実に警報することで、利用者に適切に対処させるができる。
【0009】
そこで本願出願人にあっては、上記の警報システムで使用している温度観測チップ又は煙観測チップを、例えば従来の空気管式の差動分布型感知器や光電式分離型の煙感知器を用いた火災報知設備を設ける大空間の監視領域に分散配置すれば、分散配置した温度観測チップ又は煙観測チップで観測した複数の観測点の温度や煙濃度を総合的に判断することで、監視領域全体の火災を適切に判断できる可能性がある点に着目し、本発明を成すに至ったものである。
【0010】
本発明は、温度や煙濃度等の火災現象を観測する観測チップを用いた警報システムに着目してなされたもので、複数の観測チップを大空間などの監視領域に複数配置し、これらの観測結果に基づき監視領域全体の火災監視を可能とする分布型火災監視システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(分布型火災監視システム
)
本発明は、分布型火災監視システムに於いて、
所定の監視領域を仮想的に分割した複数の監視区画毎に配置
され、監視区画の所定の火災現象を観測して得た観測情報を無線送信する複数の観測手段と、
複数の監視区画にそれぞれ配置
された観測手段からの観測情報に基づいて監視領域の火災を判断する監視手段と、
を備え、監視手段は火災と判断した場合に、伝送路を通じて受信機へ火災信号を出力することを特徴とする。
【0013】
(観測ラベル値の変換とその総和による火災判断)
監視手段は、複数の監視区画毎に、観測情報に含まれる観測値を、多段階に設定した複数の閾値に基づいて、観測値が高くなるほど大きな値をもつ観測ラベル値に変換して、監視区画毎の当該観測ラベル値の総和を算出し、当該観測ラベル値の総和が所定の閾値以上の場合に火災と判断して受信機へ火災信号を出力する。
【0014】
(観測ラベル値の変換とその総和による火災予兆と火災の判断)
監視手段は、複数の監視区画毎に、観測情報に含まれる観測値を、多段階に設定した複数の閾値に基づいて、観測値が高くなるほど大きな値をもつ観測ラベル値に変換して、監視区画毎の当該観測ラベル値の総和を算出し、当該観測ラベル値の総和が所定の第1閾値以上の場合に火災の予兆と判断して受信機へ火災予報信号を出力し、観測ラベル値の総和が第1閾値より高い所定の第2閾値以上の場合に火災と判断して受信機へ火災信号を出力する。
【0015】
(最大観測ラベル値による火災判断)
監視手段は、複数の監視区画毎の観測値から変換した
観測ラベル値のうち少なくとも1つが所定の最大ラベル値である場合、観測ラベル値の総和に基づくことなく、火災と判断して受信機へ火災信号を出力する。
【0016】
(火災判断領域の配置によるラベル値火災判断)
監視手段は、複数の監視区画
に対応する何れかの
観測ラベル値について所定の増加変化を検知した場合に、当該
観測ラベル値の変化区画を含む位置に、監視領域の区画数より少ない所定区画数の火災判断領域を仮想的に配置し、当該火災判断領域に含まれる監視区画の
観測ラベル値の総和を算出する。
【0017】
監視手段は
、複数の監視区画に対応する何れかの
観測ラベル値について所定の増加変化を検知した場合に、当該
観測ラベル値の変化区画が略中心となるように火災判断領域を仮想的に配置し、当該火災判断領域に含まれる監視区画毎のラベル値の総和を算出する。
【0018】
(
火災判断領域の配置と観測値の総和による火災判断)
監視手段は、複数の
監視区画に対応する何れかの観測値について所定の増加変化を検知した場合に、当該観測値の変化区画を含む位置に、監視領域の区画数より少ない所定区画数の火災判断領域を仮想的に配置して、当該火災判断領域に含まれる監視区画毎の観測値の総和を算出し、当該観測値の総和が所定の閾値以上の場合に火災と判断して受信機へ火災信号を出力する。
【0019】
監視手段は、複数の
監視区画に対応する何れかの観測値について所定の増加変化を検知した場合に、当該観測値の変化区画が略中心となるように火災判断領域を仮想的に配置して、当該火災判断領域に含まれる監視区画毎の観測値の総和を算出し、当該観測値の総和が所定の
閾値以上の場合に火災と判断して受信機へ火災信号を出力する。
【0020】
(
火災判断領域の配置と観測値
の総和による
火災予兆と火災判断)
監視手段は、複数の
監視区画に対応する何れかの観測値
について所定の
増加変化を検知した場合に、当該観測値の変化区画を含む位置に、監視領域の区画数より少ない所定区画数の火災判断領域を仮想的に配置し
て、当該火災判断領域に含まれる監視区画毎の観測値の総和を算出
し、当該観測値の総和が所定の第1閾値以上である場合に火災の予兆と判断して受信機へ火災予報信号を出力し、観測値の総和が第1閾値より高い所定の第2閾値以上である場合に火災と判断して受信機へ火災信号を出力する。
【0021】
監視手段は、複数の監視区画
に対応する何れかの観測値
について所定の増加変化を検知した場合に、当該
観測値の変化区画
が略中心となるように火災判断領域を仮想的に配置し
て、当該火災判断領域に含まれる監視区画毎の観測値の総和を算出
し、当該観測値の総和が所定の第1閾値以上である場合に火災の予兆と判断して受信機へ火災予報信号を出力し、観測値の総和が第1閾値より高い所定の第2閾値以上である場合に火災と判断して受信機へ火災信号を出力する。
【0022】
監視手段は、
複数の観測値の少なくとも1つが所定の火災確定閾値以上である場合、観測値の総和に基づくことなく、火災と判断して前記受信機へ火災信号を出力する。
【0023】
(温度又は煙濃度の観測)
観測手段は、火災現象として監視区画の温度状況又は煙濃度状況を観測し、監視情報の観測値は煙濃度又は温度である。
【発明の効果】
【0024】
(基本的な効果)
本発明によれば、複数の観測手段を、所定の監視領域を仮想的に分割した複数の監視区画毎に配置し、監視区画の所定の火災現象を観測した得た観測情報を無線送信し、監視手段は、複数の監視区画にそれぞれ配置した観測手段からの観測情報に基づいて監視領域の火災を判断し、火災と判断した場合に、伝送路を通じて受信機へ火災信号を出力するようにしたため、倉庫や体育館といった大空間であっても、大空間の天井面または天井面に近い位置に複数の観測手段を所定ピッチ間隔に配置するだけで、監視領域全域に観測点を分布配置して温度又は煙濃度といった観測情報を監視手段で簡単に取得することができ、監視領域に分布した複数の観測点からスポット的に得た観測情報により監視領域全体の火災を早期に且つ確実に判断して火災を警報することが可能となる。
【0025】
また、観測手段は電池を内蔵し、無線により通信することから、監視手段との通信可能範囲であれば、それ以外の制約を受けることなく、監視領域の適宜の場所に自由に設置することができ、従来の空気管式の差動分布方感知器や光電式分離型の煙感知器を用いた場合に比べ、設置が極めて簡単であり、観測手段は小型軽量で量産に適しており、設備コストも低減できる。更に、定期点検の際に、観測手段を調整する等の作業は不要であり、万一、観測手段に障害が発生したような場合或いは電池寿命が近づいた場合は、コスト的な問題は少ないことから新しい観測手段に交換するといった対応をすることで、簡単且つ容易に対処できる。
【0026】
(観測ラベル値の変換による火災判断の効果)
また監視手段は、複数の監視区画毎に、観測情報に含まれる観測値を、多段階に設定した複数の閾値に基づいて、観測値が高くなるほど大きな値をもつ観測ラベル値に変換して、観測区画毎の当該観測ラベル値の総和を算出し、当該観測ラベル値の総和が所定の閾値以上の場合に火災を判断して受信機へ火災信号を出力するため、観測値をそのまま使用した場合に比べ、観測値をラベル値に変換することで、ラベル値の総和として比較的小さな数値を使用することができ、火災を判断する処理が簡単になる。
【0027】
また観測値から変換した観測ラベル値は、観測値が火災に繋がる度合いを示す評価値或いは重み値を意味し、火災判断に使用する観測ラベル値の総和は、監視領域全体としての火災に繋がる度合いを示す指標となり、監視領域に分布した複数の観測点の観測結果に基づく監視領域全体としての火災判断を適切に行うことを可能とする。
【0028】
(観測ラベル値の変換による火災予兆と火災の判断の効果)
また監視手段は、複数の監視区画毎に、観測情報に含まれる観測値を、多段階に設定した複数の閾値観測値に基づいて、観測値が高くなるほど大きな値をもつ観測ラベル値に変換して、監視区画毎の当該観測ラベル値の総和を算出し、当該観測ラベル値の総和が所定の第1閾値以上の場合に火災の予兆と判断して受信機へ火災予報信号を出力し、観測ラベル値の総和が第1閾値より高い所定の第2閾値以上の場合に火災と判断して受信機へ火災信号を出力するため、前述した観測ラベル値への変換による効果が得られると共に、利用者は火災警報の前に出される火災予報警報により火災の兆候を早い段階で知って適切な対応とることができる。
【0029】
(最大観測ラベル値による火災判断の効果)
また監視手段は、複数の観測値から変換したラベル値のうちの少なくとも1つが所定の最大ラベル値の場合、観測ラベル値の総和に基づく火災判断を行うことなく、火災と判断して受信機へ火災信号を出力するため、観測値としての温度又は煙濃度が火災を確定できるレベルに増加したことを検知し、観測ラベル値の総和に火災判断を行うことなく、直ちに火災と判断し、迅速に火災を警報させることができる。
【0030】
(火災判断領域の配置によるラベル値火災判断の効果)
また警報手段は、複数の監視区画の何れかのラベル値について所定の増加変化を検知した場合に、当該ラベル値の変化区画を含む位置に、監視領域の区画数より少ない所定区画数の火災判断領域、例えば縦横3区画の格子状に区切られた合計9区画の火災判断領域を仮想的に配置し、当該火災判断領域に含まれる監視区画毎のラベル値の総和を算出するようにしたため、火災判断領域以上の区画数をもつ監視領域であっても、火災判断のために観測ラベル値の総和を求める区画数を一定にして火災判断の閾値を一義的に決めることができる。
【0031】
(観測値の総和による火災判断の効果)
一方、監視手段は、前述した観測ラベル値へ変換することなく、複数の監視区画の観測値の総和を算出し、当該観測値の総和が所定の閾値以上の場合に火災と判断して受信機へ火災信号を出力するようにしても良く、総和は比較的大きな数値を扱うことになるが、観測ラベル値への変換が必要ない分、火災判断の処理を簡単にすることができる。
【0032】
(観測値総和による火災予兆と火災の判断の効果)
監視手段は、前述した観測ラベル値へ変換することなく、複数の監視区画の観測値の総和を算出し、当該観測値の総和が所定の第1閾値以上の場合に火災の予兆と判断して受信機へ火災予報信号を出力し、観測値の総和が第1閾値より高い所定の第2閾値以上の場合に火災と判断して受信機へ火災信号を出力するようにしても良く、総和は比較的大きな数値を扱うことになるが、同様に、観測ラベル値への変換が必要ない分、火災判断の処理を簡単にすることができる。
【0033】
(観測値による火災判断の効果)
また警報手段は、複数の観測値の少なくとも1つが所定の火災確定閾値以上の場合、観測値の総和に基づく火災判断を行うことなく、火災と判断して受信機へ火災信号を出力するため、観測値としての温度又は煙濃度が火災を確定できるレベルに増加したことを検知し、観測値の総和に火災判断を行うことなく、直ちに火災と判断し、迅速に火災を警報させることができる。
【0034】
(火災判断領域の配置による観測値火災判断の効果)
また警報手段は、複数の監視区画の何れかの観測値について所定の増加変化を検知した場合に、当該観測値の変化区画を含む位置に、監視領域の区画数より少ない所定区画数の火災判断領域、例えば縦横3区画となる合計9区画の火災判断領域を仮想的に配置し、当該火災判断領域に含まれる監視区画毎の観測値の総和を算出するようにしたため、火災判断領域以上の区画数をもつ監視領域であっても、火災判断のために観測値の総和を求める区画数を一定にして火災判断の閾値を一義的に決めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0036】
[分布型火災監視システムの構成]
(システム構成の概略)
図1は本発明による分布型火災監視システムの概略構成を示した説明図である。
図1は、n階立ての建物に設置した火災報知設備を例示しており、間仕切りのない領域である最上階のn階フロア全体を監視領域Aとして本発明の分布型火災監視システムを配置し、それ以外の階は、通常の火災監視システムの場合と同様の火災監視端末を配置している。具体的には、1階に設置した受信機14からは各階に伝送路としての感知器回線(例えば一対の電源兼用信号線)16が引き出され、例えば1階及び2階に示すように、感知器回線16には火災監視端末として公知の火災感知器18、例えばスポット型煙感知器を接続している。
【0037】
最上階に設置した分布型火災監視システムは、監視領域Aの天井面又は天井面に近い位置に、観測手段である複数の温度観測チップ10を分散配置し、また監視領域の所定位置に監視手段である監視装置12を設置し、監視装置12は受信機14からの感知器回線16に接続している。
【0038】
温度観測チップ10は、監視領域を仮想的に分割した複数の監視区画毎に配置し、監視区画の所定の火災現象を観測して得た観測情報、例えば温度観測情報を無線送信する観測手段であり、火災に伴う熱の発生状況を観測する。また監視装置12は、複数の監視区画にそれぞれは位置した観測手段からの観測情報に基づいて監視領域の火災を判断する監視手段であり、監視手段は、火災を判断した場合に、伝送路としての感知器回線16を通じて受信機14へ火災信号を出力する。
【0039】
なお、以下、温度観測チップ10−11〜10−33をそれぞれ区別しない場合は総称して温度観測チップ10という。また、監視領域を分割した監視区画は最小2区画となる。
【0040】
(温度観測チップの配置)
図2は監視領域Aにおける温度観測チップの配置を示した平面図である。
図2において、監視領域Aは、点線で示すように、仮想的に例えば9区画の監視区画a11〜a33に分割し、監視区画a11〜a33の各々に温度観測チップ10−11〜10−33を配置している。
【0041】
監視区画a11〜a33の大きさは、温度観測チップ10の感知面積の範囲内とする。温度観測チップ10の感知面積は、例えば、法的な設置基準により定めた特殊感度の定温スポット型火災感知器の感知面積の35m
2に相当し、この場合感知面積35m
2以内となる適宜の大きさに監視区画a11〜a33を決めれば良い。隣接する温度観測チップの感知面積領域同士が一部重複して良いが、本説明では重複を考慮しない。
【0042】
(温度観測チップと監視装置)
温度観測チップ10−11〜10−33は、警戒区画a11〜a33の観測点の温度を観測して観測結果が示す観測情報(温度情報)を含んだ温度観測信号を監視装置12へ送信する。監視装置12は温度観測チップ10−11〜10−33から受信した温度観測信号の温度情報に基づき火災を判断し、火災と判断した場合には火災信号を受信機14へ送信して火災警報を出力させる。
【0043】
監視装置12と温度観測チップ10−11〜10−33の間は所定の通信プロトコルに従った通信経路15(
図1)となり、温度観測チップ10−11〜10−13はこの経路を介して監視装置12との間で、分布型火災監視システムに固有な警報グループ符号を含めた信号(例えば温度観測信号)を送受信する。
【0044】
ここで温度観測チップ10−11〜10−33が観測する観測点の温度は、温度検出素子の検出信号に基づいて観測した温度を示す指標となる温度情報であり、これを「温度」或いは「観測温度」という。
【0045】
本実施形態の分布型火災監視システムにあっては、所定の監視領域(本例では監視領域A)に温度観測チップ10を複数配置し、これを1台の監視装置12に割当てて管理している。このため監視装置12に割当てた複数の温度観測チップ10は、これらを管理する監視装置12の通信範囲に配置する。監視装置12の通信範囲とは、監視装置12に割当てて管理している温度観測チップ10から送信した信号が、監視装置12で有効受信できる通信距離に入る範囲をいう。
【0046】
[温度観測チップの構成]
(温度観測チップの外観・構造)
図3は
図1に設けた温度観測チップの外観を示した説明図であり、
図3(A)に平面を、
図3(B)に内部構造の断面を、
図3(C)に底面を示している。
【0047】
図3において、温度観測チップ10は例えば合成樹脂で成型した一端(
図3(B)の図示下方)に開口した円盤状のカバー19と、カバー19の開口側に装着したベース20で筐体を構成し、筐体の内部に回路基板22を収納している。カバー19の表面には温度観測チップを特定するアドレスなどのID番号等を表示したシール45を必要に応じて貼っても良い。
【0048】
回路基板22とベース20の間には釦電池24を収納し、釦電池24の正極には正極端子金具32を接触し、釦電池24の回路基板22側に位置する端面の負極には、負極端子金具30を接触している。
【0049】
釦電池24はベース20の開口穴に対する電池蓋26の装着で固定している。電池蓋26は外周内側の相対した2箇所にL字状の嵌合突起を形成し、ベース20の開口に形成した嵌合切欠に嵌合突起を嵌め入れて回すことでロックできる。電池蓋26には釦電池24を着脱する際の回動操作のため硬貨等を嵌合する嵌合溝28を形成している。
【0050】
回路基板22の図示上側面には制御チップ38と通信チップ40を実装し、更にカバー19に形成したスリット(開口)42の内側には、外気が通流する位置に温度検出素子36を実装している。温度検出素子36としては観測点(感熱部)の温度に応じて例えば抵抗値が変化するサーミスタなどの適宜の温度検出素子を使用する。
【0051】
また回路基板22にはLED46を実装し、これに相対してカバー19側に透明樹脂などを用いた表示窓44を配置している。
【0052】
ベース20の表面外周には取付シート34を設ける。取付シート34はマグネットシート又は粘着シートなどであり、監視領域の天井面又は天井面に近い位置に簡単に取り付け配置することができる。
【0053】
なお、取付手段および方法は任意であり、取付シート34以外に、フックやクリップ、ねじ、ピン、紐などの適宜の手段を必要に応じて設けることができる。また温度観測チップ10は監視領域の天井面又は天井面に近い位置に配置する場合、特に固定する必要はなく、例えば、脱落しないように紐で吊るすといった簡単な取り付け方で十分である。このように配置が簡単であることから、例えば温度観測チップ10に障害が起きたような場合や電池寿命が近づいたような場合、簡単に交換ができる。
【0054】
(温度観測チップの機能構成)
図4は温度観測チップの機能構成の概略を示したブロック図である。温度観測チップ10は、温度検出素子106、温度観測制御部100、アンテナ104を接続した通信部102を備え、
図3に示した釦電池24による電源供給を受けて動作する。温度観測制御部100は、
図3の制御チップ38に対応し、例えばプログラムの実行により実現される機能である。ハードウェアとしてはCPU、メモリ、各種の入出力ポート等を備えたコンピュータ回路等を使用する。
【0055】
通信部102は
図3の通信チップ40に対応し、監視装置12との間で所定の通信プロトコルに従って信号を送受信する。この通信プロトコルは、日本国内の場合には、例えば400MHz帯の特定小電力無線局の標準規格として知られたSTD−30(小電力セキュリティシステム無線局の無線設備標準規格)又はSTD−T67(特定小電力無線局テレメータ用、テレコントロール用及びデータ伝送用無線設備の標準規格)に準拠する。この信号は、送信元を示す送信元符号、グループ符号、観測温度などのデータを適宜含んだ形式とする。
【0056】
温度検出素子106は前述したように例えばサーミスタを使用し、この場合、温度による抵抗値の変化に対応した電圧検出信号を温度観測制御部100へ出力する。
【0057】
温度観測制御部100は、例えば監視装置12からの指示に基づいて観測点の温度を観測し、この観測温度を含む温度観測信号を送信する。即ち、温度観測制御部100は、通信部102を介して監視装置12から所定周期毎に送信される一括AD変換信号の有効受信を検知した場合に、温度検出素子106からの検出信号に基づき温度を観測し、続いて送信されてくる自分のアドレス(例えば自分の送信元符号)を指定したポーリング信号を有効受信した場合に、観測温度を含んだ温度観測信号を通信部102から監視装置12へ送信させる制御を行う。
【0058】
このように監視装置12からの指示で温度を観測して温度観測信号を送信することで、複数の温度観測チップ10から送信する温度観測信号の衝突(伝送障害)を回避できる。また複数の温度観測チップ10における温度観測のタイミングコントロールすることもできる。例えば、一括AD変換信号を送信することで、温度測定のタイミングを略一致させることができる。
【0059】
なお、温度観測制御部100は、監視装置12からの指示によらず、自発的に所定周期毎に温度を観測して観測温度を含んだ温度観測信号を送信するようにしても良い。この場合には、他の温度観測チップからの温度観測信号の送信と重複しないように、キャリアセンスを行い、キャリアのないタイミングで送信する。
【0060】
[監視装置の構成]
(監視装置の機能構成)
図5は監視装置12の機能構成の概略を示したブロック図である。
図5において、監視装置12は、監視制御部200、アンテナ204を接続した通信部202及び操作表示部208を備え、例えば受信機14から感知器回線16を介して供給された電源により動作する。
【0061】
監視制御部200は、例えばプログラムの実行により実現される機能である。ハードウェアとしてはCPU、メモリ、各種の入出力ポート等を備えたコンピュータ回路等を使用する。
【0062】
通信部202は、監視制御部200の指示を受け、温度観測チップ10−11〜10−33との間で、
図4に示した温度観測チップ10の通信部102の場合と同じ通信プロトコルに従って信号を送受信する。この信号は、送信元を示す送信元符号、グループ符号、観測温度などのデータを適宜含んだ形式とする。前述の温度観測信号はこの信号に該当する。グループ符号は分布型火災監視システム(の監視領域毎)に固有な符号であり、このようなグループ符号を使用することで、通信可能範囲にある他の分布型火災監視システム(の監視領域毎)との間で温度観測信号が混信することを避けることができる。
【0063】
伝送部206は受信機14からの一対の感知器回線16を接続し、監視制御部200の指示を受け、スイッチング動作(回線短絡動作)により感知器回線16に発報電流を流すことで、火災信号を受信機14へ送信する。また監視制御部200で障害を検知して、これに基づき監視制御部200の指示を受けた場合、感知器回線16を断線状態に開放する動作により、障害検知信号を受信機14へ送信する。このため監視装置12は受信機14から見ると温度観測チップ10との間の中継器として機能する。
【0064】
操作表示部208は、監視装置12に割当てた複数の温度観測チップ10を管理するために必要な各種の設定操作、例えばアドレス、通信チャネル、グループ符号等の設定操作を操作者から受け付け、監視制御部200へ入力する。また、監視制御部200の指示に基づき、受け付けた設定操作に伴う表示等を行う。
【0065】
監視制御部200は、次の制御を行う。
【0066】
(温度観測制御)
監視制御部200は、通信部202に指示し、所定周期毎に通信部202から温度観測チップ10−11〜10−33へ一括AD変換信号を送信させる制御を行い、これを受信した温度観測チップ10−11〜10−33に温度観測動作を行わせる。続いて監視制御部200は、通信部202に指示し、温度観測チップ10−11〜10−33の各アドレス、例えばそれぞれに割り当てられた識別子である送信元符号を順次指定したポーリング信号を通信部104から温度観測チップ10−11〜10−33へ送信させる制御を行い、当該ポーリング信号を受信した温度観測チップ10−11〜10−33から観測温度を含んだ温度観測信号を順次送信させる。
【0067】
なお、監視装置12からの指示によらず、温度観測チップ10から自発的に、所定周期毎に温度を観測して温度観測結果が示す温度を含んだ温度観測信号を送信してくるようにした場合は、前述した一括AD変換信号とポーリング信号の送信により温度を観測する制御は不要となる。
【0068】
(火災監視制御)
監視制御部200は、温度観測チップ10−11〜10−33で観測した複数の監視区画a11〜a33の観測温度に基づいて監視領域Aの火災を判断する。監視制御部200は、例えば監視区画a11〜a33毎の観測温度を、多段階に設定した複数の温度閾値に対応して、観測温度が高くなるほど大きな値をもつ観測ラベル値(温度ラベル値)に変換して、これら温度ラベル値の総和を算出し、温度ラベル値の総和が所定の火災判断閾値以上の場合に火災をと判断し、伝送部206に指示し、火災信号を受信機14へ送信する制御を行う。
【0069】
監視制御部200により観測温度を温度ラベル値へ変換する処理は次のように行う。まず監視制御部200は、例えば5段階に複数の温度閾値Tth1〜Tth5を設定している。
閾値Tth1〜Tth5は例えば次のようになる。
Tth1=50℃(低発熱)
Tth2=55℃(中発熱)
Tth3=60℃(高発熱)
Tth4=65℃(過熱)
Tth5=75℃(発火の危険性)
【0070】
この閾値Tth1〜Th5に基づく温度ラベル値への変換は次の条件により行う。
Tth1未満 温度ラベル値L=0
Tth1以上Trh2未満 温度ラベル値L=1
Tth2以上Trh3未満 温度ラベル値L=2
Tth3以上Trh4未満 温度ラベル値L=3
Tth4以上Trh5未満 温度ラベル値L=4
Tth5以上 温度ラベル値L=5
【0071】
温度ラベル値は、観測温度の火災に繋がる度合いを評価する評価値ということができる。また温度ラベル値は、観測温度の火災に繋がる度合いを示す重み値ということもできる。このように観測温度を直接使用せず、火災に繋がる度合いを示す評価値または重み値となる温度ラベル値を使用することで、監視領域に分散配置した温度観測チップ10による複数点の観測温度に基づく火災判断の処理を、観測温度をそのまま使用した場合に比べ簡略化すると共に、火災の早期発見と非火災報の抑制を両立した適切な火災判断を可能とする。
【0072】
図2の監視領域Aの場合、監視区画は9つであることから、温度ラベル値の総和ΣLの最小値と最大値は
最小値ΣLmin=
0
最大値ΣLmax=45
となる。このように温度ラベル値の総和ΣLは、0〜45の範囲で変化することから、この範囲に、火災と判断するための火災判断閾値ΣLthを設定する。
【0073】
例えば火災判断閾値ΣLthとして、
ΣLth=20
を設定する。
【0074】
火災判断閾値ΣLthは監視領域の状況に応じた値に調整することが可能であり、例えばΣLth=20に設定した状態で非火災報が多発するような場合は、それより高い値に設定変更する。
【0075】
ここで、監視制御部200は、複数の観測温度から変換した温度ラベル値の内の少なくとも1つが所定の最大ラベル値L、例えばここでは5の場合、観測ラベル値の総和ΣLに基づく火災判断を行うことなく火災と判断し、伝送部206に指示し、火災信号を受信機14へ送信して火災警報を出力させる。これにより急激に上昇して火災と確定できる観測温度を少なくとも1つの監視区画から観測した場合は、直ちに火災と判断し、迅速に火災警報を出力させることができる。一方、監視制御部200は、観測温度から変換した温度ラベル値の全てが最大ラベル値L5未満の場合、前述した温度ラベル値の総和ΣLに基づく火災判断を行うことになる。
【0076】
また観測温度から変換した温度ラベル値の総和による火災判断は、複数回に亘る観測温度から変換した温度ラベル値の総和の変化率を求め、この変化率(上昇率)が予め定めた変化率の火災判断閾値以上となった場合に火災と判断するようにしても良い。
【0077】
なお、監視区画の観測温度を温度ラベル値に変換する多段階に設定した温度閾値は、前述した5段階の閾値Tth1〜5以外に、例えば3段階又は4段階、更には6段階以上と適宜に設定することもできる。この場合、多段階の閾値により変換した温度ラベル値の総和に対する火災判断閾値の設定も、段階数に対応して所定の火災判断閾値を設定する。また、温度ラベル値の総和に基づく火災判断を待たず火災と判断する温度ラベル値(先に示した例のL5)も、段階数に応じて設定する。
【0078】
また上記の実施形態にあっては、監視領域Aを9区画に分割して観測した観測温度を温度ラベル値に変換し、その総和から火災を判断しているが、監視領域Aの区画分割数が9区画以外となった場合には、その場合の区画数により温度ラベル値の総和が変化することから、総和をとる区画数に応じて所定の火災判断閾値を設定する。
【0079】
(火災復旧制御)
監視制御部200は、各温度観測チップ10から得た観測温度から変換し算出した温度ラベル値の総和に基づき火災と判断して火災信号を受信機14へ送信した後に温度ラベル値の総和が火災判断閾値ΣLthを下回る状態が例えば所定時間継続した場合或いは例えば所定回数連続した場合、火災の復旧(火災状態が解消したこと)を検知し、伝送部206に指示し、火災信号の送信を停止する制御、例えばスイッチング動作を解除して感知器回線16に流していた発報電流を停止する復旧制御を行う。
【0080】
[分布型火災監視システムの動作]
次に本発明の分布型火災監視システムによる火災判断処理を、簡単な例をとって説明する。
図6は監視装置12の監視制御部200が温度観測チップ10−11〜10−33から受信した観測温度を変換した1〜5の値をとる温度ラベル値を、
図2の監視領域Aの監視区画a11〜a33に配置した各温度観測チップについて示した説明図である。ここで、
図2の監視区画a11〜a33に配置した温度観測チップ10−11〜10−33の観測温度に対応したラベル値をL11〜L33とし、これらの数値例を○内に表記する。
【0081】
監視領域状態A1は、通常状態であり、全ての温度観測チップ10−11〜10−33による観測温度を変換した温度ラベル値L11〜L33は0となっている。この場合、温度ラベル値の総和ΣLはΣL=0であり、火災判断閾値ΣLth=20未満であることから、火災とは判断しない。
【0082】
続いて監視領域状態A2は、中央の監視区画で火災源Fが発生した場合であり、火災源発生区画の観測温度を変換した温度ラベル値L22がL22=1に増加している。この場合、温度ラベル値の総和ΣLはΣL=1であり、火災判断閾値ΣLth=20未満であることから、同様に、火災と判断しない。
【0083】
続いて監視領域状態A3となり、火災源Fの拡大に伴い、中央の監視区画の温度ラベル値L22がL22=2に増加し、その周囲の温度ラベル値もL12,L21,L23,L32=1と増加している。この場合、温度ラベル値の総和ΣLはΣL=6であり、火災判断閾値ΣLth=20未満であることから、同様に、火災と判断しない。
【0084】
続いて監視領域状態A4となり、火災源Fの更なる拡大に伴い、中央の監視区画の温度ラベル値L22がL22=3に増加し、その周囲の温度ラベル値もL12,L21,L23,L32=2と増加し、L11,L13,L31,L33も1に増加している。この場合、温度ラベル値の総和ΣLはΣL=15であり、火災判断閾値ΣLth=20未満であることから、同様に、火災とは判断しない。
【0085】
続いて監視領域状態A5となり、火災源Fが引き続き拡大し、中央の監視区画の温度ラベル値L22がL22=4に増加し、その周囲の温度ラベル値もL11,L13,L31,L33=2及びL12,L21,L23,L32=3と増加している。この場合、温度ラベル値の総和ΣLはΣL=24に増加し、火災判断閾値ΣLth=20以上であることから火災と判断し、受信機14へ火災信号を送信して火災警報を出力させる。
【0086】
続いて監視領域状態A6となり、中央の監視区画の温度ラベル値L22がL22=5に増加し、その周囲の温度ラベル値もL11,L13,L31,L33=3及びL12,L21,L23,L32=4に増加している。この場合、温度ラベル値の総和ΣLはΣL=33に増加し、火災判断閾値ΣLth=20以上であるが、この場合は中央の監視区画の温度ラベル値L22=5であるから、温度ラベル値の総和に基づく判断を待たず、火災と判断する。このようにして、監視領域状態A5から引き続いて火災との判断を継続し、受信機14への火災信号の送信を継続する。
【0087】
その後も同様に温度ラベル値に基づく判断を繰り返し、温度ラベル値が5を示す監視区画が無く、且つ、温度ラベル値の総和ΣLが火災判断閾値Lth=20を下回る状態が例えば所定回数連続した場合、火災復旧と判断して受信機への火災信号の送信を解除(火災復旧信号を送信)する。
【0088】
[2段階の火災判断]
監視装置12の監視制御部200は、観測温度を変換した温度ラベル値の総和から火災を判断するための火災判断閾値ΣLthを、火災の予兆と判断するための第1火災判断閾値ΣLth1と、火災と判断するための第2火災判断閾値ΣLth2の2段階に設定しても良い。この場合は、例えば
ΣLth1=15
ΣLth2=20
に設定する。
【0089】
このような2段階の火災判断閾値を設定した場合、監視制御部200は、例えば
図6の監視領域状態A4で温度ラベル値の総和ΣLがΣL=15となり、第1火災判断閾値ΣLth1=15に一致する(15以上となる)ことから火災の予兆と判断し、受信機14に対し火災予報信号を送信して火災予報警報を出力させる。続いて
図6の監視領域状態A45となり、温度ラベル値の総和ΣLはΣL=24に増加し、第2火災判断閾値ΣLth=20以上であることから火災と判断し、受信機14に対し火災信号を送信して火災警報を出力させる。
【0090】
監視制御部200が2段階の火災判断閾値を設定して火災を判断する場合、火災予報信号と火災信号を区別して受信機14へ送信する必要があり、例えば伝送部206は監視制御部200から指示により火災予報信号を送信する場合の発報電流と、火災信号を送信する場合の発報電流を異ならせる。
【0091】
このように監視装置12からの火災予報信号に基づき受信機14から火災予報警報が出力された場合、担当者は火災予報警報を聞いて火災の兆候を知り、監視領域Aへ出向いて状況を確認し、早期に適切な対処をすることが可能になる。
【0092】
[火災判断領域の配置による火災判断]
本発明の他の実施形態として、監視装置12の警報制御部200は、監視領域における監視区画の何れかのラベル値の、初期状態に対する増加変化を検知した場合に、そのラベル値変化区画(変化した区画)を含む部分領域に、固定区画数の火災判断領域(火災判断マトリクス)を仮想配置し、当該火災判断領域に含まれる監視区画のラベル値の総和を算出して火災を判断する。
【0093】
図7(A)は火災判断領域Mを監視領域Aと共に示しており、火災判断領域Mは例えば縦横3区画となる合計9区画の領域であり、監視領域Aは仮想的に縦横9区画の合計81区画に分割した場合を例にとっている。
【0094】
この火災判断領域Mはじ
図2に示したのと同じ縦横3区画で合計9区画の監視領域Aを最小監視区画数とし、これ以上の区画数をもつ監視領域の火災判断に適用できる。
【0095】
図7(B)は火災判断領域を配置した火災判断の一例であり、例えば、監視領域Aの中心区画Fで温度ラベル値が例えば+1と増加変化した場合、この変化区画Fを検出し、変化区画Fに火災判断領域Mの中心区画が位置するように火災判断領域Mを配置し、この状態で火災判断領域M内の9区画に対応する観測ラベル値を取得して総和を求め、
図6に示したと同様にして火災を判断する。
【0096】
このような固定区画数の火災判断領域Mを観測ラベル値が増加変化した区画を中心に配置して観測ラベル値の総和を算出して火災を判断することで、監視領域A全体の区画数が変わっても、火災判断に使用する区画数は常に一定となり、
図6に示したと同じ火災判断の閾値Tthを一義的に使用することができ、監視領域の区画数に対応して火災判断の閾値を変更する必要がなくなり、火災判断の精度と安定性を向上することが可能となる。
【0097】
ここで、
図5に示した監視制御部200が火災判断領域Mを配置して火災判断する火災判断処理は、監視領域Aの各監視区画に対応したメモリのアドレス領域(記憶領域)に、監視区画毎の観測温度を変換した温度ラベル値の前回値と今回値とを、都度更新記憶しており、前回値と今回値との比較から、ラベル値変化のあった変化区画Fを検知した場合に、変化区画F及びその周囲をとりまく8区画の、合計9区画のメモリのアドレス、換言すると図示のように火災判断領域Mを配置した場合にそこに含まれる合計9区画のそれぞれに対応するアドレス領域を求め、これらアドレス領域から、そのとき記憶しているそれぞれの今回(最新)温度ラベル値(全9区画分の温度ラベル値)を読み出して総和を求める制御を行う。
【0098】
図8(A)は監視領域Aの、図示左上コーナの監視区画Fで温度ラベル値が初期状態から例えば+1増加変化した場合であり、この場合にはコーナの、温度ラベル値が増加変化した区画Fに火災判断領域Mの左上コーナの区画を位置合せし、この状態で火災判断領域Mの9区画に対応する観測ラベル値をそれぞれ取得してそれらの総和を求め、
図6に示したと同様にして火災を判断する。
【0099】
図8(B)は監視領域Aのコーナを除く外周の区画Fで温度ラベル値が例えば+1と増加変化した場合であり、この場合には変化区画Fに火災判断領域Mの外周中央の区画を位置合せして配置し、この状態で火災判断領域Mの9区画に対応する観測ラベル値を取得して総和を求め、
図6に示したと同様にして火災を判断する。
【0100】
監視区画毎に、その温度ラベル値が変化した場合にはどのような火災判断領域を配置するかを予め登録しておくことで、このような変化区画に応じた火災判断領域の配置パターンを、自動選択して処理することが可能になる。
【0101】
図9(A)は監視領域Aの2つの区画F1,F2で温度ラベル値が例えば+1と増加変化した場合であり、この場合には変化区画F1,F2の各々に火災判断領域M1,M2の中央区画を位置合せして配置し、この状態で火災判断領域M1,M2の各9区画に対応する温度ラベル値をそれぞれ取得してそれらの総和を求め、
図6に示したと同様にして個別に火災を判断する。
【0102】
なお、
図9(A)で変化区画F1,F2が隣接していた場合には、変化区画F1,F2を含むように、或いはどちらか一方を中心として(代表として)火災判断領域Mを位置合せして配置し、この状態で火災判断領域Mの9区画に対応する観測ラベル値を取得して総和を求め、
図6に示したと同様にして火災を判断すれば良い。
【0103】
図9(B)は監視領域Aの2つの区画F1,F2で温度ラベル値が例えば+1と増加変化し、区画F1,F2が近い位置にあった場合であり、変化区画F1,F2の各々に火災判断領域M1,M2の中央区画を位置合せして配置する。この場合、配置した火災判断領域M1,M2は一部で区画が重複しているが、変化区画F1,F2が同じ火災判断領域に含まれないことから、個別に火災判断領域M1,M2を配置し、この状態で火災判断領域M1,M2の各9区画に対応する観測ラベル値をそれぞれ取得してそれらの総和を求め、
図6に示したと同様にして個別に火災を判断する。そして、いずれかの火災判断領域について火災と判断された場合に、監視領域Aにおける火災と判断し、受信機14に対し火災信号を送信して火災警報を出力させる。
【0104】
また、
図9(B)の場合には、変化区画F1,F2を結んだ重心位置となる区画を求め、この重心位置にある区画、或いは重心に最も近い区画のうちから任意に選択したひとつの区画に火災判断領域Mの中央区画を位置合せして配置し、この状態で火災判断領域Mの9区画に対応する観測ラベル値をそれぞれ取得してそれらの総和を求め、
図6に示したと同様にして火災を判断するようにしても良い。
【0105】
なお、これらの他にも、例えば複数の区画の温度ラベル値が同時に増加変化した場合で、且つ、これらについて変化量に差がある場合には、変化量の大きな区画を優先して火災判断領域を配置する等、適宜の方法が採用しうる。
【0106】
図10(A)は火災判断領域Mの縦横の区画数より少ない区画数に分割した部分をもつ監視領域の例であり、監視領域Aの区画Fで温度ラベル値が例えば初期状態に対して+1と増加変化した場合、変化区画Fに火災判断領域Mを配置すると、一部が監視領域Aからはみ出してしまう。
【0107】
この場合には、
図10(B)に示すように、火災判断領域Mのはみ出した区画が監視領域Aに入るように、火災判断領域Mを変形し、この状態で火災判断領域Mの9区画に対応する観測ラベル値をそれぞれ取得してそれらの総和を求め、
図6に示したと同様にして個別に火災を判断する。
【0108】
このような火災判断領域の変形配置についても、予め、監視区画毎に、その温度ラベル値が変化した場合にはどのような火災判断領域を配置するかを予め登録しておくことで、変化区画に応じた火災判断領域の配置パターンを、自動選択することによって可能になる。
【0109】
なお、火災判断領域Mは、上記のように合計9区画で形成する以外に、例えば、それより小さい合計4区画で形成しても良いし、それより多い区画数で形成してもよく、火災判断領域Mの区画数に応じて火災判断閾値を予め定めれば良い。
【0110】
[煙観測チップを用いた分布型火災監視システム]
本発明の分布型火災監視システムは、
図1の監視領域Aに配置した温度観測チップ10の代わりに、所定局所の煙濃度を観測する煙観測チップを配置しても良い。煙観測チップは火災現象として、煙濃度(火災に伴う煙発生状況)を観測する。
【0111】
(煙観測チップの外観・構造)
図11は本実施形態の分布型火災監視システムで使用する煙観測チップの外観を示した説明図であり、
図11(A)に平面を、
図11(B)に内部構造の断面を、
図11(C)に底面を示している。
【0112】
図11において、煙観測チップ11は例えば合成樹脂で成型されたカバー118と、カバー118の内部に配置した本体120で構成する。カバー118の表面には温度観測チップを特定するアドレスなどのID番号等を表示したシール145を必要に応じて貼っても良い。カバー118は裏面(
図11(B)の図示上方)に開口した形状を有し、先端側(
図11(B)の図示下方)の外周に煙流入口138を複数開口し、内部に検煙室140を形成している。
【0113】
本体120の内部には例えば赤外LEDを用いた発光部134と例えばフォトトランジスタを用いた受光部136を、両者の光軸が検煙室140内の検煙空間の検煙点Pで交差するように配置し、また
図11(A)に示すように、発光部134と受光部136は水平周りでも光軸が交差するように配置し(光軸の交点P)、これにより公知の散乱光式検煙構造を構成している。なお、このような散乱光式検煙構造以外にも、例えば化学変化を利用するもの等、適宜の検煙構造を適用することができる。
【0114】
再び
図11(B)を参照するに、散乱光式検煙構造は、発光部134を間欠駆動して発生したパルス光を検煙空間140に照射し、煙流入口138を介して外部から検煙室140に流入した煙の粒子に当該パルス光が当たって発生する散乱光を受光部136で受光して電気信号に変換し、受光散乱光量に応じた煙濃度検出信号を、後述する制御チップ141(煙濃度観測制御部110)へ出力する。なお、検煙室140の、煙流入口から検煙室140への流通路には、外部からの光を遮蔽しつつ外部からの煙が流通可能な、所謂ラビリンス構造を設けているが、説明を省略する。
【0115】
本体120の裏側(
図11(B)の図示上方)内部には回路基板122を配置し、カバー118の裏面開口側は蓋部材137を装着して閉鎖している。回路基板122と蓋部材137の間には釦電池124を収納し、釦電池24の正極には正極端子金具132を接触し、釦電池124の回路基板122側に位置する端面の負極には負極端子金具130を接触している。
【0116】
釦電池124は蓋部材137の開口穴に対する電池蓋126の装着で固定する。電池蓋126は外周内側の相対した2箇所にL字形の嵌合突起を形成し、蓋部材137の開口に形成した嵌合切欠にL字形の嵌合突起を嵌め入れて回すことでロックできる。電池蓋126には釦電池124を着脱する際の回動操作のため硬貨等を嵌合する嵌合溝128を形成している。
【0117】
なお、本実施形態の釦電池の装着構造は一例であり、必要に応じて釦電池124を着脱自在(交換可能な)な適宜の構造とすることができる。
【0118】
回路基板122の図示下面側には発光部134、受光部136、制御チップ141及び無線通信チップ142を実装している。また回路基板122には図示しない表示用LEDを実装し、表示用LEDに相対してカバー118側に透明樹脂などを用いた表示窓144を配置している。
【0119】
蓋部材137の図示上面側の、煙観測チップ11裏面外周には取付シート133を設ける。取付シート133はマグネットシート又は粘着シートなどであり、これにより監視領域の監視区画に簡単に取り付け配置することができる。なお、取付手段および方法は任意であり、取付シート133以外に、フックやクリップ、ねじ、ピン、紐などの適宜の手段を必要に応じて設けることができる。
【0120】
(煙観測チップの機能構成)
図12は煙観測チップの機能構成の概略を示したブロック図である。
図12において、煙観測チップ11は、検煙部116、煙濃度観測制御部110、アンテナ114を接続した通信部112を備え、
図11に示した釦電池124による電源供給を受けて動作する。煙濃度観測制御部110は、例えばプログラムの実行により実現される機能である。ハードウェアとしては
図7の制御チップ141を備え、CPU、メモリ、各種の入出力ポート等を備えたコンピュータ回路等を使用する。
【0121】
通信部112は
図11の無線通信チップ142に対応し、
図4の通信部102の場合と同様、監視装置12との間で信号を送受信する。
【0122】
検煙部116は
図11に示した散乱光式検煙構造をもち、発光部と受光部を備えている。検煙部116には図示しない発光駆動回路を設け、煙濃度観測制御部110の指示により、所定周期で赤外LEDを用いた発光部134を間欠的に発光駆動する。また検煙部116には図示しない増幅回路を設け、フォトダイオードなどの受光部136で受光した散乱光の受光信号を図示しない増幅回路で増幅し、煙濃度検出信号をとして煙濃度観測制御部110へ出力する。
【0123】
煙濃度観測制御部110は例えばCPUによるプログラムの実行により実現される機能であり、煙濃度観測信号を扱う以外は
図4の温度観測制御部
100の場合と同様であるから、説明を省略する。
【0124】
(監視装置の機能構成)
図11及び
図12の煙観測チップ11を
図2の監視領域に配置した場合の、
図5に示した監視装置12の機能は、監視制御部200による火災監視制御が相違し、それ以外は
図5の場合と同様である。
【0125】
(観測煙濃度に基づく火災監視制御)
本実施形態における監視装置12の監視制御部200は、煙観測チップ11で観測した複数の監視区画a11〜a33の観測煙濃度に基づいて監視領域Aの火災を判断する。監視制御部200は、例えば監視区画a11〜a33毎の観測煙濃度を、多段階に設定した複数の煙濃度閾値に対応して、観測煙濃度が高くなるほど大きな値をもつ観測ラベル値(煙濃度ラベル値)に変換してこれら煙濃度ラベル値の総和を算出し、当該観測ラベル値の総和が所定の閾値以上の場合に火災と判断し、伝送部206に指示し、火災信号を受信機14へ送信する制御を行う。
【0126】
監視制御部200により観測煙濃度を煙濃度ラベル値への変換する処理は次のように行う。まず監視制御部200は、例えば5段階に複数の煙濃度閾値Sth1〜Sth5を設定している。閾値Sth1〜Sth5は例えば次のようになる。
Sth1= 5.0%/m
Sth2= 7.5%/m
Sth3=10.0%/m
Sth4=12.5%/m
Sth5=15.0%/m
【0127】
この閾値Sth1〜Sh5に基づく煙濃度ラベル値への変換は次の条件により行う。
Sth1未満 煙濃度ラベル値L=0
Sth1以上Srh2未満 煙濃度ラベル値L=1
Sth2以上Srh3未満 煙濃度ラベル値L=2
Sth3以上Srh4未満 煙濃度ラベル値L=3
Sth4以上Srh5未満 煙濃度ラベル値L=4
Sth5以上 煙濃度ラベル値L=5
【0128】
煙濃度ラベル値の総和に基づく火災判断は、温度ラベル値の場合と同様であり、例えば煙濃度ラベル値の総和ΣLが火災判断閾値ΣLth、例えばΣLth=20以上の場合に火災と判断する。火災判断閾値の設定は、設置状況等に応じて行う。
【0129】
また温度ラベル値の場合と同様に、火災の予兆を判断するための第1火災判断閾値ΣLth1と、火災を判断するための第2火災判断閾値ΣLth2の2段階に設定してもよい。即ち煙濃度ラベル値の総和ΣLが例えば第1火災判断閾値ΣLth1以上の場合に火災の予兆と判断し、受信機14に対し火災予報信号を送信して火災予報警報を出力させる。そして、煙濃度ラベル値の総和ΣLが第2火災判断閾値ΣLth2以上の場合に火災と判断し、受信機14に対し火災信号を送信して火災警報を出力させる。
【0130】
また監視制御部200は、複数の観測煙濃度から変換したラベル値の内の少なくとも1つが所定の最大ラベル値、例えばここでは5の場合、観測ラベル値の総和ΣLに基づく火災判断を行うことなく火災と判断し、伝送部206に指示し、火災信号を受信機14へ送信して火災警報を出力させる。このため監視制御部200は、観測煙濃度を変換したラベル値が最大ラベル値5未満の場合、前述した観測ラベル値の総和ΣLに基づく火災判断を行うことになる。その他の火災判断処理についても、先述した温度ラベル値による場合と概ね同様とすることができる。
【0131】
[本発明の変形例]
(システム)
例えば上記実施形態の
図1に示すn階に間仕切り等がある場合には、監視装置12が接続されている感知器回線に、監視装置12に加えて火災感知器18を接続することもできる。また、例えばこのように同じ階で間仕切りで仕切られた複数の空間についてそれぞれ分布型火災監視を行う場合には、同じ感知器回線に監視装置を複数台接続しても良い。
【0132】
(観測チップによるラベル変換)
上記の実施形態では、監視装置が温度観測チップによる観測温度又は煙観測チップによる観測温度から観測ラベル値に変換しているが、このラベル値への変換を温度観測チップ及び煙観測チップ側で行い、変換したラベル値を監視装置へ送信するようにしても良い。これにより監視装置の火災監視制御の処理負担を軽減することができる。
【0133】
(観測値の総和による火災判断)
また監視装置は、観測ラベル値を用いず、温度観測チップ又は煙観測チップによる複数の監視区画の観測温度又は観測煙濃度の総和(観測値の総和)を算出し、当該総和が所定の閾値以上の場合に火災を判断して火災信号を出力するようにしても良い。
【0134】
この場合、観測温度又は観測煙濃度の総和が所定の第1火災判断閾値以上の場合に火災の予兆と判断して受信機へ火災予報信号を出力し、当該総和が第1火災判断閾値より高い所定の第2火災判断閾値以上の場合に火災と判断して受信機へ火災信号を出力するようにしても良い。
【0135】
このように観測温度又は観測煙濃度のラベル値への変換を行わずに、観測温度又は観測煙濃度といった観測値の総和を求めて火災を判断することで、総和を求める処理負担は増加するが、ラベル値への変換を不要とし、その分の処理負担を低減できる。
【0136】
この場合にも、監視装置は、複数の観測温度の内の少なくとも1つが所定の火災確定閾値以上の場合(温度は例えば75℃以上、煙濃度は例えば15%/m以上の場合)、観測値の総和に基づく火災判断を行うことなく火災と判断し、受信機へ火災信号を送信して火災警報を出力させる。これにより急激な温度や煙濃度の上昇により火災と確定できる観測値を少なくとも1つの監視区画から観測した場合は、直ちに火災と判断し、迅速に火災警報を出力させることができる。
【0137】
また監視領域における監視区画の何れかの観測値の増加変化を検知した場合に、観測ラベル値の場合と同様、その観測値の変化区画を含む位置に所定区画数の火災判断領域を配置し、当該火災判断領域に含まれる監視区画毎の観測値の総和を算出して火災を判断するようにしても良い。
【0138】
(受信機と監視装置)
また監視装置から受信機へ火災、復旧、障害などのイベントを含む電文を伝送して警報動作を行わせるようにしてもよい。このとき、監視装置と受信機との間はこれらの情報が伝送可能な伝送路とする。またこの場合、監視装置から受信機へ複数の観測チップで観測した監視区画毎の火災現象を観測して得た観測値を含んだ観測信号を送信し、受信機側で監視領域の観測値を処理し、火災判断や火災拡大状況の判別表示等を行うようにしても良い。
【0139】
(通信形態)
また、上記の実施形態に於いては観測チップと監視装置の間の通信を無線とする場合を示したが、任意の一部又は全部を有線通信としても良い。
【0140】
(住宅以外の用途)
上記の実施形態はビルやオフィス用などに限らず、住宅等適宜の火災監視にも適用できる。
【0141】
(その他)
また本発明は上記の実施形態に限定されず、その目的と利点を損なうことのない適宜の変形を含み、更に上記の実施形態に示した数値による限定は受けない。