(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記繊維基材が、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド、ポリプロピレン、ポリエチレン及び(メタ)アクリル樹脂からなる群より選ばれる1種以上の材料を含む不織布であり、かつ、前記含浸された樹脂が、ポリウレタン樹脂、ニトリル・ブタジエンゴム、スチレン・ブタジエンゴム、ニトリルゴム、(メタ)アクリル樹脂、フェノール樹脂及びエポキシ樹脂からなる群より選ばれる1種以上の樹脂を含む、請求項1又は2に記載の研磨布。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について詳細に説明する。なお、図面中、同一要素には同一符号を付すこととし、重複する説明は省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。更に、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。また、本明細書における「(メタ)アクリル」とは「アクリル」及びそれに対応する「メタクリル」を意味する。
【0015】
本実施形態の研磨布は、シート状の繊維基材と、その繊維基材に含浸された樹脂とを備える研磨布であって、研磨布の裏面側から研磨布に白色光を透過させたときに、研磨布の裏面とは反対側の主面(以下、「研磨面」ともいう。)側において、100〜200階調の範囲にある局所的な明度のうちの95%以上が、研磨布全体での平均明度に対して±15階調以内になるよう、局所的な明度が分布しているものである。
【0016】
シート状の繊維基材は、研磨布の基材として用いられ得るものであれば特に限定されず、従来公知のものであってもよい。シート状の繊維基材は、繊維を交絡させた不織布であっても、織物であっても編物であってもよいが、本発明の効果をより有効かつ確実に奏する観点から不織布であると好ましい。不織布を得る際に繊維を交絡させる方法は特に限定されず、例えば、ニードルパンチであってもよく、水流交絡であってもよい。また、シート状の繊維基材の繊維材料としては、天然繊維及び合成繊維のいずれであってもよく、例えば、綿及び麻などの天然繊維、並びに、ポリエチレンテレフタレート(PET)、その他のポリエステル、ポリアミド、ポリプロピレン、ポリエチレン及び(メタ)アクリル樹脂等の樹脂繊維などの合成繊維が挙げられる。これらの中では、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド、ポリプロピレン、ポリエチレン及び(メタ)アクリル樹脂からなる群より選ばれる材料が好ましい。繊維材料は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0017】
シート状の繊維基材の厚さは、0.5mm〜5.0mmであると好ましく、1.5mm〜2.5mmであるとより好ましい。この厚さが上記下限値以上であることにより、繊維基材の全体に亘って局所的な繊維の目付けが均一になりやすいため、研磨布全体の構造の均一性をより高めることができる傾向にある。また、その厚さが上記上限値以下であることにより、樹脂を繊維基材の内部まで含浸しやすく、また樹脂を凝固再生する場合は、その凝固速度を研磨布の全体に亘って均一にしやすくなるので、やはり研磨布全体の構造の均一性をより高めることができる傾向にある。
【0018】
繊維の繊度の好適な範囲は、繊維材料の種類によっても異なるが、概して、2d〜12dであると好ましく、2d〜6dであるとより好ましい。この繊度が上記下限値以上であることにより、繊維の部分的な凝集をより有効に防止することができるため、研磨布全体の構造の均一性をより高めることができる傾向にある。また、その繊度が上記上限値以下であることにより、繊維基材の全体に亘って繊維をより均一に分散させることが可能となるので、研磨布全体の構造の均一性をより高めることができる傾向にある。
【0019】
繊維基材の目付けは、200g/m
2〜600g/m
2であると好ましく、200g/m
2〜400g/m
2であるとより好ましい。この目付けが上記下限値以上であることにより、加工時に繊維基材に張力を付加することに起因する繊維基材の変形が抑制されるため、研磨布全体の構造の均一性を高めることができる傾向にある。また、その目付けが上記上限値以下であることにより、適度な空隙が確保されるため、研磨布の構造をより複雑にすることが可能となり、その結果、研磨布全体の構造の均一性をより高めることができる傾向にある。
【0020】
繊維基材に含浸された樹脂は、研磨布に備えられ得るものであれば特に限定されず、従来公知のものであってもよい。樹脂としては、熱硬化性樹脂及び光硬化性樹脂が好ましく、例えば、ポリウレタン樹脂、ニトリル・ブタジエンゴム、スチレン・ブタジエンゴム、ニトリルゴム、(メタ)アクリル樹脂、フェノール樹脂及びエポキシ樹脂が挙げられ、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。ポリウレタン樹脂としては、例えば、ポリエステル系ポリウレタン樹脂、ポリエーテル系ポリウレタン樹脂、及びポリカーボネート系ポリウレタン樹脂が挙げられる。樹脂の100%モジュラスは、5MPa〜30MPaであると好ましく、10MPa〜20MPaであるとより好ましい。樹脂の100%モジュラスは、その樹脂からなるシートを100%伸ばしたとき、すなわち元の長さの2倍に伸ばしたとき、に掛かる荷重を単位面積で割った値である。
【0021】
研磨布における繊維基材と樹脂との配合比は、特に限定されないが、それらの合計量100質量部に対して繊維基材が20〜40質量部となるような配合比であると好ましく、25〜35質量部となるような配合比であるとより好ましい。配合比が上記下限値以上であることにより、空隙への樹脂の凝集が抑制され、適度な空隙が形成されるという効果が得られる。また、配合比が上記上限値以下であることにより、繊維に十分に樹脂がコーティングされることで、構造的に全面に均一な強度が得られるという効果が得られる。
【0022】
研磨布は、上述の繊維基材及び樹脂の他、本発明による目的達成を阻害しない範囲において、通常の研磨布に含まれ得る各種添加剤を含んでもよい。そのような添加剤としては、例えば、カーボンブラック等の顔料、親水性活性剤及び疎水性活性剤が挙げられる。
【0023】
研磨布のA硬度は、50°〜90°であると好ましく、70°〜90°であるとより好ましい。A硬度が50°以上であることにより、研磨圧による研磨布の変形を低減できるという効果が得られる。また、A硬度が90°以下であることにより、被研磨物(以下、「ワーク」ともいう。)の形状に研磨布が密着しやすくなるという効果が得られる。これらの結果、A硬度が上記範囲内にあると、より高い研磨レート、より長い研磨布の寿命と共に、更に十分に高い被研磨物の平坦性を確保できる研磨布となりやすい。A硬度は、バネを介して厚さ4.5mm以上の試験片(研磨布が4.5mm未満の厚さである場合は、厚さが4.5mm以上になるまで研磨布を重ねて試験片を得る。)表面に押針(測定子)を押し付け30秒後の押針の押し込み深さから求められる。これを3回行って相加平均からA硬度が求められる。
【0024】
研磨布の圧縮率は、0.5%〜10%であると好ましく、0.5%〜5.0%であるとより好ましい。圧縮率が0.5%以上であることにより、ワーク形状に研磨布が密着しやすくなるという効果が得られる。また、圧縮率が10%以下であることにより、研磨圧による研磨布の変形を低減できるという効果が得られる。これらの結果、圧縮率が上記範囲内にあると、より高い研磨レート、より長い研磨布の寿命と共に、更に十分に高い被研磨物の平坦性を確保できる研磨布となりやすい。
【0025】
圧縮率は日本工業規格(JIS L 1021)に準拠して、ショッパー型厚さ測定器(加圧面:直径1cmの円形)を用いて求められる。具体的には、初荷重で30秒間加圧した後の厚さt0を測定し、次に最終圧力の下で5分間放置後の厚さt1を測定する。これらから、圧縮率を下記式:
圧縮率(%)=(t0−t1)/t0×100
により、算出する。このとき、初荷重は100g/cm
2、最終荷重は800g/cm
2とする。
【0026】
研磨布の厚さは、5.0mm以下であると好ましく、0.5mm〜5.0mmであるとより好ましく、0.5mm〜3.0mmであると更に好ましい。厚さが5.0mm以下であることにより、研磨布全体にスラリーが循環しやすくなるので、研磨布下層へのスラリーの堆積及び固着がより有効に抑制されるという効果が得られ、0.5mm以上であることにより、研磨機定盤の形状の影響を受け難くなり、ワークとの平坦な接触面が得られやすくなるという効果が得られる。厚さは、日本工業規格(JIS K 6505)に準拠して測定される。具体的には、研磨布を10cm×10cm角に切り抜いて得た試料片3枚(好ましくは3枚の試料片は、研磨布の幅方向(流れ方向に直交する方向)に異なる位置で切り抜いたもの)を用意し、各試料片毎に、厚さ測定器の所定位置にセットした後、480g/cm
2の荷重をかけた加圧面を試料片の表面に載せ、5秒経過後に厚さを測定する。1枚の試料片につき、5箇所の厚さを測定し相加平均を算出し、さらに3枚の試料片の相加平均を求める。
【0027】
研磨布の密度は、0.25g/cm
3〜0.60g/cm
3であると好ましく、0.35g/cm
3〜0.50g/cm
3であるとより好ましい。密度が0.25g/cm
3以上であることにより、更に有効に、研磨圧による研磨布のヘタリを抑制する(永久歪みを抑制する)という効果が得られる。また、密度が0.50g/cm
3以下であることにより、ワークとの接触点において、更に十分な研磨圧を得られる(接触面積の増大による作用点の圧力低下を抑制する)という効果が得られる。これらの結果、密度が上記範囲内にあると、より高い研磨レート、より長い研磨布の寿命と共に、更に十分に高い被研磨物の平坦性を確保できる研磨布となりやすい。密度は、日本工業規格(JIS K 6505)に準拠して測定される。具体的には、厚さの測定で用いたのと同様の試料片の質量を自動天秤で測定後、下記式:
密度(g/cm
3)=質量(g)/(10(cm)×10(cm)×試料片の厚さ(cm))
により密度を算出し、3枚の試料片の相加平均を求める。
【0028】
研磨布の目付けは、125g/m
2〜2500g/m
2であると好ましく、280g/m
2〜810g/m
2であるとより好ましい。目付けが上記数値範囲内にあることで、本発明による作用効果をより一層有効かつ確実に奏することができる。目付けは、厚さの測定で用いたのと同様の試料片の質量を自動天秤で小数点以下4桁まで測定後、3枚の試料片の質量の相加平均を求め、その値に係数(100)を乗ずることにより算出する。
【0029】
研磨布の通気度は、サファイヤや窒化ガリウムなどの難削材を研磨する場合は、15cc/cm
2/秒以下であると好ましく、3cc/cm
2/秒〜15cc/cm
2/秒であるとより好ましく、アルミニウムやシリコンウェハなどを研磨する場合は、30cc/cm
2/秒以上であると好ましく、30cc/cm
2/秒〜100cc/cm
2/秒であるとより好ましい。難削材の研磨においては、機械的研磨よりも化学的研磨が支配的になるため、スラリーが研磨布に保持されることが望ましく、そのような観点から、3cc/cm
2/秒〜15cc/cm
2/秒の通気度であると、より高い研磨レートとなるので好ましい。一方、アルミニウムやシリコンウェハなどの研磨においては、機械的研磨(フィラーによる物理研磨)の要素の影響も大きくなる。機械的研磨の要素では、フィラーの循環(スラリー循環)により、目詰まりを抑制すると共にフィラーを置換することが重要となる。このような観点から、通気度が30cc/cm
2/秒〜100cc/cm
2/秒であると、目詰まりが一層抑制されて長寿命化に有効になると共に、フィラーの置換によって更に高い研磨レートになるので好ましい。通気度は、フラジール形試験機(例えば、安田精機社製の織布通気度試験機)を用いて、オリフィス(8mmφ)の所定部分に試料片をセットして通気することで測定され、3枚の試料片の相加平均により求められる。
【0030】
本実施形態では、研磨布の裏面全体から研磨布に白色光を透過させたときに、研磨布の研磨面において、100〜200階調の範囲にある局所的な明度のうちの95%以上が、研磨布全体での平均明度に対して±15階調以内になるよう、その局所的な明度が分布している(以下、これを単に「明度の分布」ともいう)。このような明度の分布は、例えば、下記のようにして測定される。
【0031】
図1は、研磨布における明度の分布を測定するための測定装置を説明する概略説明図である。測定装置100は、測定対象となる研磨布110をその裏面110bが対向するように載置し、かつその研磨布の裏面110bに向かって白色光を照射する照明を備えた照明装置120と、研磨布110の主面110aを撮影する撮影装置130と、照明装置120及び撮影装置130に接続し、それらを制御するための制御装置140と、制御装置140に接続し、制御装置140を介して照明装置120及び撮影装置130を操作する操作装置150と、撮影装置130により撮影した画像や映像を表示する表示装置160とを備える。
【0032】
まず、後述のようにして選定された測定対象となる研磨布110を、その裏面110bが照明装置120に対向するように、その照明装置120上に配置する。照明装置120は、そこから照射する白色光が研磨布110の全体を均一又は略均一に照射できるものであればよい。次に、測定装置100の電源を入れ、制御装置140を介して、照明装置120から白色光を研磨布110に向かって照射し、白色光が研磨布110の裏面110b側から入射し、研磨布110を透過して主面110aから出射するよう、操作装置150で操作する(以下、操作装置150による操作の記載は省略する)。
【0033】
次いで、測定する室内をなるべく暗くした状態で、表示装置160を見て確認しながら、研磨布110の中央付近における50mm×50mm角の領域を撮影できるよう、制御装置140を介して、撮影装置130の視野及び焦点を調節する。このときの照射領域210、研磨布110、撮影視野230、及び測定領域240の大きさの関係の一例を
図2に示す。照射領域210は、例えば150mm×150mm角であり、研磨布110の寸法は、例えば100mm×100mm角であり、撮影視野230は、例えば94mm×70mm角であり、測定領域240は、例えば50mm×50mm角である。これらの面内方向の位置関係は、上記大きさの範囲でそれぞれの中央部が重なるような位置関係であると好ましい。また、後述のように、測定領域240は、10mm×10mm角の25箇所の局所的な測定領域250に分割される。上述の焦点の調節の際には併せて、測定領域240の全体における明度(後に詳述)が140〜160となるように、照明装置120の照明出力及び/又は撮影装置130のシャッタースピードを調節する。次いで、撮影視野230を撮影して(すなわち、主面110aから出射した光を受けて)、その画像を記録する。
【0034】
次に、得られた画像について、測定領域240全体における明度(すなわち研磨布全体での明度)、及び各局所的な測定領域250における明度(すなわち局所的な明度)を測定する。ここで、本発明における「明度」とは、色の三属性である色相、彩度及び明度のうちの明度を意味し、0〜255の256階調で表現される。0が最も暗い黒であり、255が最も明るい白を示す。明度は撮影された画像から得られる。そして、1枚の研磨布110で得られる25箇所の局所的な明度のうち100〜200階調の範囲にあるものについて、測定領域240全体における平均明度に対して±15階調以内にあるか判断する。
【0035】
上述の一連の測定及び判断を、100枚の研磨布110について行う。ただし、測定領域240の全体における明度が140〜160の範囲にある場合は、焦点並びに照明装置120の照明出力及び/又は撮影装置130のシャッタースピードの調節は1回目でのみ行ってもよい。また、例えば、任意に5枚の研磨布110を選んで、それらの研磨布110について、焦点並びに照明装置120の照明出力及び/又は撮影装置130のシャッタースピードの調節をしてもよい。そして、100〜200階調の範囲にある局所的な測定領域240のうち95%以上において、測定領域240全体における明度に対して±15階調以内の明度であれば、本発明の範囲内となる。
【0036】
上述では、10mm×10mm角の25箇所の局所的な測定領域250の明度を100枚の研磨布110について測定するため、合計で10mm×10mm角の2500箇所の局所的な測定領域250の明度を測定することになる。ただし、本発明においては、合計で10mm×10mm角の600箇所以上の局所的な測定領域の明度を測定できればよい。すなわち、上記600箇所以上の局所的な測定領域の中で100〜200階調の範囲にある局所的な測定領域のうち95%以上において、測定領域全体における明度に対して±15階調以内の明度であれば、本発明の範囲内となる。測定対象となる研磨布は、例えば、寸法が20cm×30cm角の1枚の研磨布であってもよく、5cm×5cm角の24枚の研磨布であってもよい。測定対象となる研磨布は、同一ロットのものであることが好ましい。
【0037】
測定対象となる研磨布110は、下記のようにして選定される。まず、利昌工業社製のガラスエポキシテープ(厚さ:2.0mm))を3枚重ねて、厚さ6.0mmの基準試料を得る。次いで、その基準試料を、照明装置120上にスペーサー(図示せず。)を介して配置する。照明装置120は、そこから照射する白色光が基準試料の全体を均一又は略均一に照射できるものであればよい。次に、測定装置100の電源を入れ、制御装置140を介して、照明装置120から白色光を基準試料に向かって照射し、白色光が基準試料を透過するよう、操作装置150で操作する。
【0038】
次いで、測定する室内をなるべく暗くした状態で、表示装置160を見て確認しながら、基準試料の中央付近における50mm×50mm角の領域を撮影できるよう、制御装置140を介して、撮影装置130の視野及び焦点を調節する。このときの照射領域210、基準試料、撮影視野230、及び測定領域240の大きさの関係、並びに面内方向の位置関係は、研磨布110における明度を測定する場合と同様(すなわち、研磨布110を基準試料と置き換えた場合)であればよい。上述の焦点の調節の際には併せて、照明装置120の照明出力及び/又は撮影装置130のシャッタースピードを調節する。このとき、測定対象となる上記研磨布110がいわゆる湿式樹脂含浸により得られるものである場合は、測定領域240全体における基準試料の平均明度が140階調±5階調になるよう、湿式樹脂含浸及び乾式樹脂含浸の両方により得られるものである場合は、測定領域240全体における基準試料の平均明度が100階調±5階調になるよう、上記焦点、照明出力及び/又はシャッタースピードを調節する。
【0039】
上述のようにして、焦点、照明出力及び/又はシャッタースピードを調節した測定装置100を用い、測定対象の候補である研磨布110の平均明度を測定し、100〜200階調の範囲に入るものを測定対象とする。
【0040】
本実施形態の研磨布が、高い研磨レート、長い研磨布の寿命と共に、十分に高い被研磨物の平坦性を確保できる要因は、下記のとおりである。ただし、要因はこれに限定されない。
シート状の繊維基材と、その繊維基材に含浸された樹脂とを備える研磨布の構造は、繊維基材における繊維、樹脂及びそれらの間に存在する空隙が、研磨布内にどのように存在するかで決定される。それら繊維、樹脂及び空隙のそれぞれが、小さな大きさに分割され、研磨布内により均一に分散するほど、その研磨布を用いた被研磨物の研磨加工の際に、局所的に高い圧力で研磨布及び被研磨物間で加圧する部分が少なくなるので、被研磨物の平坦性が高くなる。また、研磨布及び被研磨物間を全体として一定の圧力で加圧した際、局所的に高い圧力で加圧する部分が少ないほど、全体の圧力よりも低い圧力で加圧する部分も少なくなるため、結果として研磨レートが高くなる。さらには、研磨布において局所的に高い圧力で加圧する部分は優先的に劣化しやすくなり、その部分の劣化の程度が許容レベルを超えると、研磨布も全体として使用することができなくなるところ、そのような部分が少なくなるほど、研磨布が全体的に徐々に劣化するため、研磨布の一部が許容レベルを超えるまでの時間が延びることになるので、研磨布の寿命も長くなる。
【0041】
したがって、研磨布が、高い研磨レート、長い研磨布の寿命と共に、十分に高い被研磨物の平坦性を確保できるようにするためには、繊維、樹脂及び空隙のそれぞれが、小さな大きさに分割され、研磨布内に均一に分散することが必要となる。
【0042】
従来、研磨布の間接的な指標として用いられている、厚さ、密度及び硬度は、繊維や樹脂の種類、並びに、それら及び空隙の研磨布における占有体積(容積)が同じであれば、それぞれの大きさや分散の程度に関係なく、ほぼ同様の数値になってしまう。また、特許文献2に記載のような通気度は、研磨布の厚み方向におけるある領域で空隙が存在しなかったり、空隙の容積が小さかったりすると、それに依存して通気度が小さくなってしまい、厚み方向における他の領域での繊維、樹脂及び空隙の大きさや分散の程度には影響を受け難くなるため、研磨布全体でのそれらの大きさや分散の程度を反映するものとはいえない。
【0043】
一方、本実施形態に係る明度の分布を用いると、裏面110bから研磨布110内に入射した白色光の、研磨布110内での反射や透過の程度を見ることになる。白色光は、空隙において反射することなく透過し、樹脂及び繊維において、それぞれの入射部分及び出射部分、すなわち、樹脂と空隙との界面、繊維と空隙との界面及び樹脂と繊維との界面においては屈折・反射しながら、減衰しつつ一部が透過する。繊維、樹脂及び空隙のそれぞれが、小さく分割され均一に分散する研磨布110では、上述の界面の割合が多くなるため、白色光が屈折・反射する領域が増加し、研磨布110の面内方向の全体に亘って、白色光が一様に主面110a側に透過することになる。その結果、主面110aでの100〜200階調の範囲にある局所的な明度のうちの95%以上が、研磨布110全体での平均明度に対して±15階調以内になる研磨布110であれば、繊維、樹脂及び空隙のそれぞれが、小さく分割され均一に分散しているといえるので、高い研磨レート、長い研磨布の寿命と共に、十分に高い被研磨物の平坦性を確保できる。このように、研磨布の裏面全体に白色光を照射して、研磨布の裏面とは反対側の主面における明度を測定することにより、研磨布が高い研磨レート、長い研磨布の寿命と共に、十分に高い被研磨物の平坦性を有するか否かについて、評価可能となる。
【0044】
また、明度の分布に加えて、研磨布の通気度が上述の好ましい範囲にあると、より高い被研磨物の平坦性を確保することが可能となるので、特に望ましい。これは、下記の要因によるものと考えられるが、要因はこれに限定されない。すなわち、通気度は気体(流体)の通過量を測定することにより導出されるが、測定領域全体における微細な構造のバラツキを反映し難い。例えば、大きな流路面積を有する孔が1つ存在する場合と、小さな流路面積を有する孔が複数存在する場合との比較において、前者の流路面積と後者の合計の流路面積とが同じであれば、それらの構造が異なっているにも関わらず、通気度の測定結果は同じになる。しかしながら、通気度は、スラリーと同様の流体の流れを利用して測定するため、その点では有用である。一方、明度の分布を測定することにより、測定領域全体における微細な構造のバラツキや均一性を把握することが可能である。よって、明度の分布に加えて通気度を測定することにより、微細な構造のバラツキや均一性に起因して、気体(流体)の流れの面内での均一性を評価することができ、このことは、スラリー循環の様子を把握することができるので、被研磨物の平坦性を確保するのに有用である。
【0045】
次に、本実施形態の研磨布の製造方法について説明する。本実施形態の研磨布の製造方法は、いわゆる湿式樹脂含浸及び乾式樹脂含浸のいずれか1つ以上の含浸方法を用いて、結果としてシート状の繊維基材に樹脂を含浸して研磨布を得ることができる方法であれば、特に限定されない。以下に、その製造方法の一例として、樹脂としてポリウレタン樹脂を用いた場合を説明する。
【0046】
まず、ポリウレタン樹脂と、ポリウレタン樹脂を溶解可能であって、後述の凝固液に混和する溶媒と、必要に応じて研磨布に配合するその他の添加剤とを混合し、更に必要に応じて減圧下で脱泡して樹脂溶液を準備する。溶媒としては、特に限定されないが、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)及びN,N−ジメチルアセトアミドが挙げられる。繊維基材の全体に亘って樹脂を含浸する観点、及び、樹脂の含浸量をある程度確保する観点から、樹脂溶液について、B型回転粘度計を用いて20℃で測定した粘度が2000cp以下であると好ましく、100cp〜1500cpであるとより好ましく、400cp〜1000cpであるとより好ましい。そのような粘度の数値範囲にある樹脂溶液を得る観点から、例えば、ポリウレタン樹脂を、樹脂溶液の全体量に対して5〜25質量%の範囲、より好ましくは8〜15質量%の範囲で溶媒に溶解させてもよい。樹脂溶液の粘性は、用いる樹脂の種類及び分子量にも依存するため、これらを総合的に考慮し、樹脂の選定、濃度設定等を行うことが重要である。
【0047】
次に、樹脂溶液にシート状の繊維基材を浸漬した後、1対のローラ間を加圧可能なマングルローラを用いて樹脂溶液を絞り落とすことで所望の樹脂溶液付着量に調整し、繊維基材に樹脂溶液を略均一に含浸させる。次いで、樹脂溶液を含浸した繊維基材を、樹脂に対する貧溶媒、例えば水、を主成分とする凝固液中に浸漬することにより、ポリウレタン樹脂を凝固再生させる。凝固液には、樹脂の再生速度を調整するために、樹脂溶液中の溶媒以外の極性溶媒等の有機溶媒を添加してもよい。また、凝固液の温度は、樹脂を凝固できる温度であれば特に限定されず、例えば、15〜20℃であってもよい。その後、必要に応じて、樹脂を含浸した繊維基材内に残存する溶媒を従来知られている洗浄液を用いて除去し、さらに、マングルローラを用いたり乾燥したりすることにより洗浄液を除去してもよい。
【0048】
こうして湿式含浸により得られた、シート状の繊維基材にポリウレタン樹脂を含浸したものを、本実施形態の研磨布の一例としてもよく、さらに、乾式含浸により、ポリウレタン樹脂を含浸したものを研磨布の一例としてもよい。
【0049】
乾式含浸を行う場合、まず、末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーと、硬化剤であるアミン化合物及び/又は多価アルコール化合物と、それらを溶解可能な溶媒とを含む溶液を準備する。ウレタンプレポリマーとしては特に限定されず、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネートとヘキサントリオールとの付加物、2,4−トリレンジイソシアネートとプレンツカテコールとの付加物、トリレンジイソシアネートとヘキサントリオールとの付加物、トリレンジイソシアネートとトリメチロールプロパンとの付加物、キシリレンジイソシアネートとトリメチロールプロパンとの付加物、ヘキサメチレンジイソシアネートとトリメチロールプロパンとの付加物、及びイソシアヌル酸とヘキサメチレンジイソシアネートとの付加物が挙げられる。また、硬化剤のうち、アミン化合物としては、例えば、3,3’−ジクロロ−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4−メチル−2,6−ビス(メチルチオ)−1,3−ベンゼンジアミン、2−メチル−4,6−ビス(メチルチオ)−1,3−ベンゼンジアミン、2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス[3−(イソプロピルアミノ)−4−ヒドロキシフェニル]プロパン、2,2−ビス[3−(1−メチルプロピルアミノ)−4−ヒドロキシフェニル]プロパン、2,2−ビス[3−(1−メチルペンチルアミノ)−4−ヒドロキシフェニル]プロパン、2,2−ビス(3,5−ジアミノ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,6−ジアミノ−4−メチルフェノール、トリメチルエチレンビス−4−アミノベンゾネート、及びポリテトラメチレンオキサイド−di−p−アミノベンゾネートが挙げられる。多価アルコール化合物としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,2−ブタンジオール、3−メチル−1,2−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,4−ペンタンジオール、2,4−ペンタンジオール、2,3−ジメチルトリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、3−メチル−4,3−ペンタンジオール、3−メチル−4,5−ペンタンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,5−ヘキサンジオール、1,4−ヘキサンジオール、2,5−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、及びトリメチロールメタンが挙げられる。これらのウレタンプレポリマー及び硬化剤は、それぞれ、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0050】
溶媒としては、特に限定されないが、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド及びN,N−ジメチルアセトアミドが挙げられる。
【0051】
上記粘度の数値範囲にある樹脂溶液を得る観点から、例えば、溶液は、ウレタンプレポリマーを、溶液の全体量に対して20〜50質量%の範囲、より好ましくは30〜40質量%の範囲で含んでもよく、多価アルコール化合物を、溶液の全体量に対して5〜15質量%の範囲、より好ましくは8〜13質量%の範囲で含んでもよい。この溶液におけるウレタンプレポリマーと多価アルコール化合物との配合比は、特に限定されないが、脆性及び耐熱性の観点から、R値(水酸基に対するイソシアネート基の当量比)が0.75〜0.95となるような配合比であると好ましく、R値が0.8〜0.9となるような配合比であるとより好ましい。
【0052】
次に、上記溶液に前駆体シートを浸漬した後、1対のローラ間を加圧可能なマングルローラを用いて溶液を絞り落とすことで所望の溶液付着量に調整し、前駆体シートに溶液を略均一に含浸させる。次いで、溶液を含浸させた前駆体シートを乾燥機内で乾燥させる。これにより、ウレタンプレポリマーが硬化剤により更に重合して、前駆体シートにポリウレタン樹脂を含浸した研磨布が得られる。乾燥温度としては、例えば、100℃〜140℃であってもよい。
【0053】
本実施形態に係る、裏面での100〜200階調の範囲にある局所的な明度のうちの95%以上が、研磨布全体での平均明度に対して±15階調以内になる研磨布を得るには、例えば、下記のようにすればよい。ただし、そのような研磨布を得る方法は、下記に限定されない。一例として、まず、ポリウレタン樹脂と溶剤と必要に応じて樹脂添加剤とを混合し、樹脂溶液(バインダー)を得る。この際、樹脂溶液の粘度を、後述の含浸時の温度条件で4000cp以下になるように調整する。次いで、上記混合液に繊維基材をゆっくりと含浸させ、その後、繊維基材に含浸した樹脂量を均圧マングル等により所定の樹脂量となるように精密に調整する。そして、均一な樹脂量とした繊維基材を凝固液(例えば水とDMFとの混合液)に浸漬して、凝固再生し、水洗により樹脂中のDMFを十分に除去後、乾燥することにより、研磨布前駆体シートを得る。得られた前駆体シートをスライス、バフ等により所定の厚さに調整し、研磨布とする。また、別の一例としては、まず、上述のようにして、凝固再生まで行った前駆体シートから、スライス、バフ等により表層のスキン層を除去し、所定の厚さにした研磨布に対して、熱硬化型ウレタン樹脂などをさらに含浸したり、付着させてもよい。その際、用いる溶剤の種類を適宜選択することにより、上述の研磨布を得ることも可能である。
【0054】
こうして得られた研磨布は、その後、必要に応じて、円形等の所望の形状、寸法に裁断されてもよく、汚れや異物等の付着がないことを確認する等の検査を施されてもよい。
【0055】
得られた研磨布の表面が研磨面となるが、その研磨布を用いて被研磨物を研磨する場合、予め、研磨布の研磨面とは反対側の面に、研磨機の研磨定盤に研磨布を貼着するための両面テープ(粘着層及び剥離紙を備えるもの)を貼り合わせてもよい。
【0056】
本実施形態の研磨布を用いた研磨方法は、得られた研磨布を用いて被研磨物を研磨する工程を有する。その具体的な一例を説明する。まず、片面研磨機の保持定盤に被研磨物を保持させる。次いで、保持定盤と対向するように配置された研磨定盤に研磨布を装着する。研磨定盤に研磨布を装着する際、両面テープから剥離紙を剥離して粘着層を露出させた後、露出した粘着層を研磨定盤に接触させ押圧する。そして、被研磨物と研磨布との間に砥粒(研磨粒子)を含むスラリーを循環供給すると共に、被研磨物を研磨布の方に所定の研磨圧にて押圧しながら研磨定盤ないし保持定盤を回転させることで、被研磨物を化学的機械的研磨により研磨する。この際、本実施形態の研磨布を用いることにより、高い研磨レート、長い研磨布の寿命と共に、十分に高い被研磨物の平坦性を確保することが可能となる。
【0057】
本実施形態の研磨布は、レンズ、平行平面板、反射ミラー等の光学材料、ハードディスク用基板、半導体用シリコンウェハ、液晶ディスプレイ用ガラス基板、サファイヤや窒化ガリウムを始めとする難削材等の研磨に特に好適に用いられる。ただし、本実施形態の研磨布の用途はそれらに限定されない。
【0058】
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明は上記本実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。例えば、本発明の別の実施形態において、研磨布を製造する際に、乾式含浸のみを用いて繊維基材に樹脂を含浸してもよく、上記本実施形態とは逆に乾式含浸を行った後に湿式含浸を行ってもよい。
【実施例】
【0059】
以下、実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0060】
(実施例1)
まず、エステル系ポリウレタン樹脂(DIC社製、商品名「C−8867」)40質量部と、添加剤(DIC社製、商品名「SD−17」)1質量部と、溶媒としてDMF59質量部とを含む樹脂溶液を調製した。この樹脂溶液の20℃での粘度は500cpであった。また、それとは別にシート状の繊維基材を準備した。その繊維基材は、繊維材料がPETである不織布であり、厚さが2.0mm、繊維の繊度が3d、目付けが250g/m
2であった。次に、上記樹脂溶液にその繊維基材を浸漬した後、1対のローラ間を加圧可能なマングルローラを用いて樹脂溶液を絞り落として、繊維基材に樹脂溶液を略均一に含浸させた。次いで、室温の水からなる凝固液中に浸漬することにより、エステル系ポリウレタン樹脂を凝固再生させて前駆体シートを得た。その後、前駆体シートを凝固液から取り出し、更に水からなる洗浄液に浸漬して、DMFを除去した後、乾燥させた。乾燥後、表面のスキン層をバフィングにより除去し、前駆体シートを得た。
【0061】
次に、ウレタンプレポリマー(三井樹脂社製、商品名「L−213」)31質量部と、硬化剤(DIC社製、商品名「パンデックスE」)8質量部と、溶媒としてDMF61質量部とを含む溶液を調製した。次に、その溶液に、上記前駆体シートを浸漬した後、1対のローラ間を加圧可能なマングルローラを用いて溶液を絞り落として、前駆体シートに溶液を略均一に含浸させた。次いで、それを110〜130℃の熱風乾燥機内で20分間静置することにより、ウレタンプレポリマーが硬化剤により更に重合して、前駆体シートにポリウレタン樹脂を含浸した研磨布が得られた。その後、所定の厚さとなるようにバフィングし、研磨布を得た。得られた研磨布の断面の電子顕微鏡写真を
図3の(A)に示す。また、得られた研磨布の各種物性を上述の方法により測定したところ、表1に示すとおりであった。
【0062】
【表1】
【0063】
なお、明度の分布の測定において、
図1に示すのと同様の構成を備える測定装置(キーエンス社製画像処理装置)を用いた。詳細には、照射装置としてCA−DSW15(白色LED、面型照明)、撮影装置としてレンズ(CA−LH12、F1.4〜F16、焦点距離12mm)とカメラ(CV−200C、200万画素3CCD)を備えたもの、制御装置としてコントローラー(CV−5500)及び光源用コントローラー(CA−DC21E)とを備えたもの、表示装置として、市販のカラー液晶ディスプレイ、及び、操作装置として上記コントローラーに付属したコンソールをそれぞれ用いた。また、レンズと研磨布の裏面(
図1に示す裏面110b)との距離は150mmであった。
図2に示すのと同様に、照射領域210は、150mm×150mm角であり、研磨布110の寸法は、100mm×100mm角であり、撮影視野230は、94mm×70mm角であり、測定領域240は、50mm×50mm角であり、測定領域240は、10mm×10mm角の25箇所の局所的な測定領域250に分割するようにした。
【0064】
<研磨試験>
得られた研磨布を研磨機の所定位置に設置し、被研磨物としての6インチ径シリコンウェハに対して、下記条件にて研磨加工を施す研磨試験を行った。結果を表1に示す。
研磨条件
使用研磨機:不二越機械工業社製、商品名「NCP−150X」
研磨速度(定盤回転数):40rpm
加工圧力:245g/cm
2
スラリー:フジミ社製、商品名「コンポール80」
トップリング回転数:連れ回り
スラリー流量:6000mL/分
研磨時間:60分/BT
【0065】
(平坦性)
平坦性は、実施例1及び2、比較例1〜3についてはTTVにより、実施例3及び4、比較例4及び5については平坦度測定器((株)ニデック製、商品名「FT−900」、エッジカットオフ値:1mm)を用いたGBIRにより、それぞれ評価した。
【0066】
(研磨レート)
研磨レートは、研磨処理前後の膜厚の差である研磨量を、研磨時間で除して表したものであり、研磨加工前後の被研磨物について各々17箇所の厚さ測定結果の平均値として求めた。なお、厚さ測定は、光学式膜厚膜質測定器(KLAテンコール社製、商品名「ASET−F5x」)のDBSモードにて測定した。
【0067】
(研磨布の寿命)
研磨布の寿命は、レートが低下してスクラッチ発生によるライフエンドまでの時間として評価した。
【0068】
(実施例2)
まず、エステル系ポリウレタン樹脂(DIC社製、商品名「C−8867」)43質量部と、添加剤(DIC社製、商品名「SD−17」)1質量部と、溶媒としてDMF56質量部とを含む樹脂溶液を調製した。この樹脂溶液の20℃での粘度は690cpであった。また、それとは別にシート状の繊維基材を準備した。その繊維基材は、繊維材料がPETである不織布であり、厚さが2.2mm、繊維の繊度が3d及び5dの混合物、目付けが310g/m
2であった。次に、上記樹脂溶液にその繊維基材を浸漬した後、1対のローラ間を加圧可能なマングルローラを用いて樹脂溶液を絞り落として、繊維基材に樹脂溶液を略均一に含浸させた。次いで、室温の水からなる凝固液中に浸漬することにより、エステル系ポリウレタン樹脂を凝固再生させて前駆体シートを得た。その後、前駆体シートを凝固液から取り出し、更に水からなる洗浄液に浸漬して、DMFを除去した後、乾燥させた。乾燥後、表面のスキン層をバフィングにより除去し、前駆体シートを得た。
【0069】
次に、ウレタンプレポリマー(三井樹脂社製、商品名「L−213」)31質量部と、硬化剤(DIC社製、商品名「パンデックスE」)8質量部と、溶媒としてDMF61質量部とを含む溶液を調製した。次に、その溶液に、DMFを除去した後の上記前駆体シートを浸漬した後、1対のローラ間を加圧可能なマングルローラを用いて溶液を絞り落として、前駆体シートに溶液を略均一に含浸させた。次いで、それを110〜130℃の熱風乾燥機内で20分間静置することにより、ウレタンプレポリマーが硬化剤により更に重合して、前駆体シートにポリウレタン樹脂を含浸した研磨布が得られた。その後、所定の厚さとなるようにバフィングし、研磨布を得た。得られた研磨布の各種物性を実施例1と同様にして測定し、研磨試験を実施例1と同様にして行ったところ、結果は表1に示すとおりであった。
【0070】
(比較例1)
まず、エステル系ポリウレタン樹脂(DIC社製、商品名「UW−1」)54質量部と、添加剤(DIC社製、商品名「SD−17」)2質量部と、溶媒としてDMF44質量部とを含む樹脂溶液を調製した。この樹脂溶液の20℃での粘度は2500cpであった。また、それとは別にシート状の繊維基材を準備した。その繊維基材は、繊維材料がPETである不織布であり、厚さが4.0mm、繊維の繊度が3d、目付けが510g/m
2であった。次に、上記樹脂溶液にその繊維基材を浸漬した後、1対のローラ間を加圧可能なマングルローラを用いて樹脂溶液を絞り落として、繊維基材に樹脂溶液を略均一に含浸させた。次いで、室温の水からなる凝固液中に浸漬することにより、エステル系ポリウレタン樹脂を凝固再生させて前駆体シートを得た。その後、前駆体シートを凝固液から取り出し、更に水からなる洗浄液に浸漬して、DMFを除去した後、乾燥させた。乾燥後、表面のスキン層をバフィングにより除去し、前駆体シートを得た。
【0071】
次に、ウレタンプレポリマー(三井樹脂社製、商品名「L−213」)31質量部と、硬化剤(DIC社製、商品名「パンデックスE」)8質量部と、溶媒としてDMF61質量部とを含む溶液を調製した。次に、その溶液に、DMFを除去した後の上記前駆体シートを浸漬した後、1対のローラ間を加圧可能なマングルローラを用いて溶液を絞り落として、前駆体シートに溶液を略均一に含浸させた。次いで、それを110〜130℃の熱風乾燥機内で20分間静置することにより、ウレタンプレポリマーが硬化剤により更に重合して、前駆体シートにポリウレタン樹脂を含浸した研磨布が得られた。その後、所定の厚さとなるようにバフィングし、研磨布を得た。得られた研磨布の断面の電子顕微鏡写真を
図3の(B)に示す。また、得られた研磨布の各種物性を実施例1と同様にして測定し、研磨試験を実施例1と同様にして行ったところ、結果は表1に示すとおりであった。
【0072】
(比較例2)
まず、エステル系ポリウレタン樹脂(DIC社製、商品名「C−8867」)49質量部と、添加剤(DIC社製、商品名「SD−17」)1質量部と、溶媒としてDMF50質量部とを含む樹脂溶液を調製した。この樹脂溶液の20℃での粘度は1800cpであった。また、それとは別にシート状の繊維基材を準備した。その繊維基材は、繊維材料がPETである不織布であり、厚さが4.2mm、繊維の繊度が5d、目付けが670g/m
2であった。次に、上記樹脂溶液にその繊維基材を浸漬した後、1対のローラ間を加圧可能なマングルローラを用いて樹脂溶液を絞り落として、繊維基材に樹脂溶液を略均一に含浸させた。次いで、室温の水からなる凝固液中に浸漬することにより、エステル系ポリウレタン樹脂を凝固再生させて前駆体シートを得た。その後、前駆体シートを凝固液から取り出し、更に水からなる洗浄液に浸漬して、DMFを除去した後、乾燥させた。乾燥後、表面のスキン層をバフィングにより除去し、前駆体シートを得た。
【0073】
次に、ウレタンプレポリマー(日本ポリウレタン社製、商品名「DC−6912」)33質量部と、硬化剤(DIC社製、商品名「パンデックスE」)6.8質量部と、溶媒としてDMF60.2質量部とを含む溶液を調製した。次に、その溶液に、DMFを除去した後の上記前駆体シートを浸漬した後、1対のローラ間を加圧可能なマングルローラを用いて溶液を絞り落として、前駆体シートに溶液を略均一に含浸させた。次いで、それを130℃の熱風乾燥機内で30分間静置することにより、ウレタンプレポリマーが硬化剤により更に重合して、前駆体シートにポリウレタン樹脂を含浸した研磨布が得られた。得られた研磨布の各種物性を実施例1と同様にして測定し、研磨試験を実施例1と同様にして行ったところ、結果は表1に示すとおりであった。
【0074】
(比較例3)
まず、エステル系ポリウレタン樹脂(DIC社製、商品名「C−8966」)35質量部と、添加剤(DIC社製、商品名「SD−17」)0.5質量部と、溶媒としてDMF64.5質量部とを含む樹脂溶液を調製した。この樹脂溶液の20℃での粘度は3200cpであった。また、それとは別にシート状の繊維基材を準備した。その繊維基材は、繊維材料がPETである不織布であり、厚さが4.0mm、繊維の繊度が3d及び6dの混合物、目付けが460g/m
2であった。次に、上記樹脂溶液にその繊維基材を浸漬した後、1対のローラ間を加圧可能なマングルローラを用いて樹脂溶液を絞り落として、繊維基材に樹脂溶液を略均一に含浸させた。次いで、室温の水からなる凝固液中に浸漬することにより、エステル系ポリウレタン樹脂を凝固再生させて前駆体シートを得た。その後、前駆体シートを凝固液から取り出し、更に水からなる洗浄液に浸漬して、DMFを除去した。
【0075】
次に、ウレタンプレポリマー(三井樹脂社製、商品名「L−213」)25質量部と、硬化剤(DIC社製、商品名「パンデックスE」)6.8質量部と、溶媒としてDMF68.2質量部とを含む溶液を調製した。次に、その溶液に、DMFを除去した後の上記前駆体シートを浸漬した後、1対のローラ間を加圧可能なマングルローラを用いて溶液を絞り落として、前駆体シートに溶液を略均一に含浸させた。次いで、それを110〜130℃の熱風乾燥機内で30分間静置することにより、ウレタンプレポリマーが硬化剤により更に重合して、前駆体シートにポリウレタン樹脂を含浸した研磨布が得られた。得られた研磨布の各種物性を実施例1と同様にして測定し、研磨試験を実施例1と同様にして行ったところ、結果は表1に示すとおりであった。
【0076】
(実施例3)
まず、エステル系ポリウレタン樹脂(DIC社製、商品名「C−8867」)40質量部と、添加剤(DIC社製、商品名「SD−17」)1質量部と、溶媒としてDMF59質量部とを含む樹脂溶液を調製した。この樹脂溶液の20℃での粘度は440cpであった。また、それとは別にシート状の繊維基材を準備した。その繊維基材は、繊維材料がPETである不織布であり、厚さが2.0mm、繊維の繊度が3d、目付けが325g/m
2であった。次に、上記樹脂溶液にその繊維基材を浸漬した後、1対のローラ間を加圧可能なマングルローラを用いて樹脂溶液を絞り落として、繊維基材に樹脂溶液を略均一に含浸させた。次いで、室温の水からなる凝固液中に浸漬することにより、エステル系ポリウレタン樹脂を凝固再生させて前駆体シートを得た。その後、前駆体シートを凝固液から取り出し、更に水からなる洗浄液に浸漬して、DMFを除去した後、乾燥させた。乾燥後、表面のスキン層をバフィングにより除去し、前駆体シートを得た。
【0077】
次に、ウレタンプレポリマー(三井樹脂社製、商品名「L−213」)40.2質量部と、硬化剤(DIC社製、商品名「パンデックスE」)9.8質量部と、溶媒としてDMF50質量部とを含む溶液を調製した。次に、その溶液に、DMFを除去した後の上記前駆体シートを浸漬した後、1対のローラ間を加圧可能なマングルローラを用いて溶液を絞り落として、前駆体シートに溶液を略均一に含浸させた。次いで、それを110〜130℃の熱風乾燥機内で20分間静置することにより、ウレタンプレポリマーが硬化剤により更に重合して、前駆体シートにポリウレタン樹脂を含浸した研磨布が得られた。その後、所定の厚さとなるようにバフィングし、研磨布を得た。得られた研磨布の各種物性を実施例1と同様にして測定したところ、結果は表2に示すとおりであった。
【0078】
【表2】
【0079】
<研磨試験>
得られた研磨布を研磨機の所定位置に設置し、被研磨物としての2インチ径サファイヤウェハに対して、下記条件にて研磨加工を施す研磨試験を行った。結果を表2に示す。
ドレス条件
#280ドレッサーで3分間ドレス
回転数:20rpm
ドレス圧:無加重
純水使用
研磨条件
使用研磨機:スピードファム社製、商品名「FAM−32SPAW」
研磨速度(定盤回転数):70rpm
加工圧力:400g/cm
2
スラリー:Everlight Chemical社製、商品名「エバーライト ESR−303」(スラリー:水=2:1(質量比))
スラリー流量:約1000mL/分(循環)
研磨時間:2時間/BT
【0080】
(実施例4)
まず、エステル系ポリウレタン樹脂(DIC社製、商品名「C−8867」)40質量部と、添加剤(DIC社製、商品名「SD−17」)1質量部と、溶媒としてDMF59質量部とを含む樹脂溶液を調製した。この樹脂溶液の20℃での粘度は440cpであった。また、それとは別にシート状の繊維基材を準備した。その繊維基材は、繊維材料がPETである不織布であり、厚さが2.0mm、繊維の繊度が3d及び6dの70/30混合物、目付けが331g/m
2であった。次に、上記樹脂溶液にその繊維基材を浸漬した後、1対のローラ間を加圧可能なマングルローラを用いて樹脂溶液を絞り落として、繊維基材に樹脂溶液を略均一に含浸させた。次いで、室温の水からなる凝固液中に浸漬することにより、エステル系ポリウレタン樹脂を凝固再生させて前駆体シートを得た。その後、前駆体シートを凝固液から取り出し、更に水からなる洗浄液に浸漬して、DMFを除去した後、乾燥させた。乾燥後、表面のスキン層をバフィングにより除去し、前駆体シートを得た。
【0081】
次に、ウレタンプレポリマー(三井樹脂社製、商品名「L−315」)40.2質量部と、硬化剤(DIC社製、商品名「パンデックスE」)9.8質量部と、溶媒としてDMF50質量部とを含む溶液を調製した。次に、その溶液に、DMFを除去した後の上記前駆体シートを浸漬した後、1対のローラ間を加圧可能なマングルローラを用いて溶液を絞り落として、前駆体シートに溶液を略均一に含浸させた。次いで、それを110〜130℃の熱風乾燥機内で20分間静置することにより、ウレタンプレポリマーが硬化剤により更に重合して、前駆体シートにポリウレタン樹脂を含浸した研磨布が得られた。その後、所定の厚さとなるようにバフィングし、研磨布を得た。得られた研磨布の各種物性を実施例1と同様にして測定し、研磨試験を実施例3と同様にして行ったところ、結果は表2に示すとおりであった。
【0082】
(比較例4)
まず、エステル系ポリウレタン樹脂(DIC社製、商品名「C−8867」)49質量部と、添加剤(DIC社製、商品名「SD−17」)1質量部と、溶媒としてDMF50質量部とを含む樹脂溶液を調製した。この樹脂溶液の20℃での粘度は1450cpであった。また、それとは別にシート状の繊維基材を準備した。その繊維基材は、繊維材料がPETである不織布であり、厚さが4.2mm、繊維の繊度が6d、目付けが670g/m
2であった。次に、上記樹脂溶液にその繊維基材を浸漬した後、1対のローラ間を加圧可能なマングルローラを用いて樹脂溶液を絞り落として、繊維基材に樹脂溶液を略均一に含浸させた。次いで、室温の水からなる凝固液中に浸漬することにより、エステル系ポリウレタン樹脂を凝固再生させて前駆体シートを得た。その後、前駆体シートを凝固液から取り出し、更に水からなる洗浄液に浸漬して、DMFを除去した後、乾燥させた。乾燥後、表面のスキン層をバフィングにより除去し、前駆体シートを得た。
【0083】
次に、ウレタンプレポリマー(三井樹脂社製、商品名「L−213」)25質量部と、硬化剤(DIC社製、商品名「パンデックスE」)6.8質量部と、溶媒としてDMF68.2質量部とを含む溶液を調製した。次に、その溶液に、DMFを除去した後の上記前駆体シートを浸漬した後、1対のローラ間を加圧可能なマングルローラを用いて溶液を絞り落として、前駆体シートに溶液を略均一に含浸させた。次いで、それを110〜130℃の熱風乾燥機内で30分間静置することにより、ウレタンプレポリマーが硬化剤により更に重合して、前駆体シートにポリウレタン樹脂を含浸した研磨布が得られた。得られた研磨布の各種物性を実施例1と同様にして測定し、研磨試験を実施例3と同様にして行ったところ、結果は表2に示すとおりであった。
【0084】
(比較例5)
まず、エステル系ポリウレタン樹脂(DIC社製、商品名「C−8867」)40質量部と、添加剤(DIC社製、商品名「SD−17」)1質量部と、溶媒としてDMF59質量部とを含む樹脂溶液を調製した。この樹脂溶液の20℃での粘度は437cpであった。また、それとは別にシート状の繊維基材を準備した。その繊維基材は、繊維材料がPETである不織布であり、厚さが2.0mm、繊維の繊度が6d、目付けが316g/m
2であった。次に、上記樹脂溶液にその繊維基材を浸漬した後、1対のローラ間を加圧可能なマングルローラを用いて樹脂溶液を絞り落として、繊維基材に樹脂溶液を略均一に含浸させた。次いで、室温の水からなる凝固液中に浸漬することにより、エステル系ポリウレタン樹脂を凝固再生させて前駆体シートを得た。その後、前駆体シートを凝固液から取り出し、更に水からなる洗浄液に浸漬して、DMFを除去した後、乾燥させた。乾燥後、表面のスキン層をバフィングにより除去し、前駆体シートを得た。
【0085】
次に、ウレタンプレポリマー(三井樹脂社製、商品名「L−315」)40.2質量部と、硬化剤(DIC社製、商品名「パンデックスE」)9.8質量部と、溶媒としてDMF50質量部とを含む溶液を調製した。次に、その溶液に、DMFを除去した後の上記前駆体シートを浸漬した後、1対のローラ間を加圧可能なマングルローラを用いて溶液を絞り落として、前駆体シートに溶液を略均一に含浸させた。次いで、それを110〜130℃の熱風乾燥機内で20分間静置することにより、ウレタンプレポリマーが硬化剤により更に重合して、前駆体シートにポリウレタン樹脂を含浸した研磨布が得られた。その後、所定の厚さとなるようにバフィングし、研磨布を得た。得られた研磨布の各種物性を実施例1と同様にして測定し、研磨試験を実施例3と同様にして行ったところ、結果は表2に示すとおりであった。