(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記変性ポリエチレンイミンがポリエチレンイミンの全アミン価を1モル当量とした場合に前記アクリル酸エステル及びビニル化合物からなる群から選択される少なくとも1つの化合物を比率で0.3モル当量以上1モル当量未満反応させたものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の非水系顔料インク。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式は、流動性の高いインクジェットインクを微細なヘッドノズルからインク粒子として噴射し、上記ノズルに対向して置かれた記録媒体に画像を記録するものであり、低騒音で高速印字が可能であることから、近年急速に普及している。このようなインクジェット記録方式に用いられるインクとして、非水溶性溶剤に顔料を微分散させたいわゆる非水系顔料インクが知られている。
【0003】
近年、資源環境や省エネルギーの観点からプリンタ等の機器の消費電力を、可能な限り低減することが望まれており、インクジェット印刷においても節電のために省電力化の要求が益々高まっている。
【0004】
インクジェット記録装置では、インクジェットヘッドに設けられたインク室に圧力を付与して、インク室内のインクをノズルから吐出するが、ノズルから吐出されたインクは尾を引く形で飛翔し、この飛翔するインクの先頭部分と後尾部分との間に時間差や速度差が生じる。低温環境下ではインクの粘度が高くなるため、所望量のインクを吐出するためにインクジェットヘッドの駆動電圧を大きくする必要があり、消費電力が増えてしまう。また、駆動電圧が大きい状態で吐出をすると、サテライトが発生しやすくなる。サテライトは、記録媒体上に付着して印刷品質を低下させる。このため、従来、サテライトが発生しやすい低温環境下では、印刷品質を確保するためにインクジェットヘッドを加温するいわゆるウォームアップ動作を行った後に記録を開始することが行われている。
【0005】
すなわち、サテライトが発生しやすい低温環境下では、ウォームアップ動作を行った後で記録を開始するため、ウォームアップに必要な電力も消費している。また、ウォームアップ動作の時間が必要になるほど、画像の記録に長時間を要してしまうため、電力の観点だけでなく、ユーザーの作業時間の観点からも問題があった。従って、インクの側面から低温環境でのインク粘度の低粘度化ができれば節電には効果的である。そのための手段として、インクの低粘度化を図ることは極めて有効である。インク中の色材量、粉体量を減らせばインク粘度を下げることが可能であるが、そうすると印字濃度が下がり画像品質が低下してしまう。
【0006】
例えば特許文献1には、顔料と、分散剤と、この分散剤の反応性官能基と反応して分散剤に化学結合した1分子中に1級および/または2級アミノ基を2個以上含む水溶性樹脂とが複合体となった着色剤を使用したインクが提案されている。このインクは、高い保存安定性と顔料分散性、ならびにノズル部での目詰まりが起きない吐出安定性を備えたものである。一般に、分散剤は顔料表面に対して吸着と脱離を繰り返すことで平衡状態になってインクを安定化させているが、特許文献1に記載されている着色剤では、低温環境下においてインクを安定化させるためには分散剤の量を増やす必要があり、サテライトを抑制する程度にまで粘度を低下させることはできない。
【0007】
このため、特許文献1のインクにおいては、インクを加温してインク粘度を下げる等しなければならず、依然として消費電力が多くなるという問題があった。特に循環方式インクジェット記録装置で使用する場合には加温しなければならないインク容量が多くなるため、電力の消費はますます多く、加温に要する時間もさらにかかるため、ファーストプリントが遅くなる。一方、粘度を低下させるためには分散剤の量を減らす必要があるが、そうとすると顔料分散安定性を確保することが困難となる。
【0008】
ところで、炭化水素系の高沸点で低粘度の非極性溶剤(以下、単に炭化水素系非極性溶剤という)を用いることでインクの低粘度化が可能である。炭化水素系非極性溶剤をインク溶剤に用いることでインク溶剤の極性が変わることになり、顔料分散安定性が悪くなることがあるが、これは分散剤の構成を変えることで解決できると考えられる。出願人は特許文献2において、顔料分散能を有する非水溶性樹脂分散微粒子を含む非水系顔料インクを提案している。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の非水系顔料インク(以下、単にインクともいう)は、顔料と、非水系溶剤と、非水溶性樹脂と、水溶性樹脂とを含むものである。
非水溶性樹脂は、少なくとも炭素数8〜18のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート(A)と、β−ジケトン基またはβ−ケト酸エステル基を有するモノマー(B)とを含むモノマー混合物の共重合体からなるアクリル系ポリマーである。
【0022】
官能基の炭素数8〜18のアルキル基が後述する非水系溶剤の炭化水素系非極性溶剤と相溶性が高く、これによって非水系溶剤に溶解した状態となり、もう一方の官能基であるβ−ジケトン基またはβ−ケト酸エステル基を含むことによりインクの粘度を下げることができ、低温適性をより向上させることができる。また、粘度上昇が抑制されることで、インクが記録媒体に着弾する際のインクの静電的な凝集、定着にも寄与し、結果的に印刷濃度を向上させ、裏抜けの抑制を実現することができる。
【0023】
アルキル基の炭素数が19以上になると低温で非水溶性樹脂が固化しやすくなり低温適性が悪くなる。一方で、炭素数が7以下の場合には、炭化水素系非極性溶剤との相溶性が下がって、顔料を安定的に分散することができないので貯蔵安定性が悪くなり、インクの粘度も高くなってしまう。また、低温環境ではインク粘度がさらに高くなってしまうこととなり低温適性が悪くなる。より望ましくは、炭素数12〜18のアルキル基で構成されることが好ましい。
【0024】
官能基を構成する炭素数8〜18のアルキル基は、直鎖であっても分岐鎖であってもよい。具体的には、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基等が挙げられ、これらは複数種が含まれていてもよい。
【0025】
官能基を構成するβ−ジケトン基またはβ−ケト酸エステル基としては、たとえば好ましい例としてアセトアセチル基、プロピオンアセチル基等が挙げられ、β−ケト酸エステル基としては、たとえば好ましい例としてアセトアセトキシ基、プロピオンアセトキシ基等が挙げられる。
【0026】
アクリル系ポリマーの分子量(質量平均分子量)は、特に限定されないが、インクジェット用インクとして用いる場合には、インクの吐出性の観点から5000〜50000程度であることが好ましく、10000〜30000程度であることがより好ましい。
アクリル系ポリマーのガラス転移温度(Tg)は、常温以下であることが好ましく、さらには0℃以下であることがより好ましい。これにより、インクが記録媒体上で定着する際に、常温で成膜を促進させることができる。
【0027】
アルキル(メタ)アクリレート(A)は、炭素数8〜18のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートであり、モノマー(B)とともにアクリル系ポリマーの主鎖を形成し、アルキル基は主鎖の官能基を構成する。アルキル(メタ)アクリレート(A)としては、例えば、パルミチル/ステアリルメタクリレート(C16/C18)、セチルアクリレート(C16)、ドデシルメタクリレート(C12)、ドデシルアクリレート(C12)、2−エチルヘキシルメタクリレート(C8)、2−エチルヘキシルアクリレート(C8)を好ましく挙げることができる。これらは、単独でも適宜混合しても用いることができる。
【0028】
モノマー(B)はβ−ジケトン基またはβ−ケト酸エステル基を有する(メタ)アクリレートまたは(メタ)アクリルアミドであり、アルキル(メタ)アクリレート(A)とともにアクリル系ポリマーの主鎖を形成し、β−ジケトン基またはβ−ケト酸エステル基が主鎖の官能基を構成する。このモノマー(B)を含むことによりインクの粘度を下げることができ、低温適性をより向上させることができる。また、粘度上昇が抑制されることで、インクが記録媒体に着弾する際のインクの静電的な凝集、定着にも寄与し、結果的に印刷濃度を向上させ、裏抜けの抑制を実現することができる。
【0029】
モノマー(B)としては、たとえば、エステル鎖にβ−ジケトン基またはβ−ケト酸エステル基を含む(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミドが好ましい例として挙げられる。より詳細には、アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート等のアセトアセトキシアルキル(メタ)アクリレート、ヘキサジオン(メタ)アクリレート、アセトアセトキシエチル(メタ)アクリルアミド等のアセトアセトキシアルキル(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。これらは単独で、または2種以上を併用することができる。
【0030】
上記モノマー混合物(アルキル(メタ)アクリレート(A)とモノマー(B))において、アルキル(メタ)アクリレート(A)は30質量%以上含まれていることが好ましく、40〜95質量%であることがより好ましく、50〜90質量%であることが一層好ましい。モノマー(B)は3〜30質量%であることが好ましく、5〜20質量%であることがより好ましい。
【0031】
上記の各モノマーは、公知のラジカル共重合により、容易に重合させることができる。反応系としては、溶液重合または分散重合で行うことが好ましい。この場合、重合後のアクリル系ポリマーの分子量を上記の好ましい範囲とするために、重合時に連鎖移動剤を併用することが有効である。連鎖移動剤としては、たとえば、n−ブチルメルカプタン、ラウリルメルカプタン、ステアリルメルカプタン、シクロヘキシルメルカプタンなどのチオール類が用いられる。
【0032】
重合開始剤としては、AIBN(アゾビスイソブチロニトリル)等のアゾ化合物、t−ブチルペルオキシベンゾエート、t−ブチルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート(パーブチルO、日油(株)製)等の過酸化物など、公知の熱重合開始剤を使用することができる。その他にも、活性エネルギー線照射によりラジカルを発生する光重合型開始剤を用いることができる。溶液重合に用いる重合溶媒には、たとえば石油系溶剤(アロマフリー(AF)系)などを使用できる。この重合溶媒は、そのままインクの非水系溶剤として使用できる溶媒(後述)のなかから1種以上を選択することが好ましい。重合反応に際し、その他、通常使用される重合禁止剤、重合促進剤、分散剤等を反応系に添加することもできる。
【0033】
本発明のアクリル系ポリマーは、アルキル(メタ)アクリレート(A)とモノマー(B)とが構成するアクリル系ポリマーの主鎖に対してウレタン基を側鎖として有する櫛形構造であることが好ましい。アルキル(メタ)アクリレート(A)の炭素数8〜18のアルキル基によって後述する非水系溶剤の炭化水素系非極性溶剤との親和性が向上し溶剤に対する溶解性が確保される。一方で、ウレタン基の側鎖によって顔料を吸着して貯蔵安定性を向上させることができる。
【0034】
側鎖のウレタン基は、アルキル(メタ)アクリレート(A)、モノマー(B)に加え、アミノ基と反応しうる官能基を有する(メタ)アクリレートを用いることで、アミノ基と反応しうる官能基と、後述するアミノアルコールと多価イソシアネート化合物との反応により導入することができる。アミノ基と反応しうる官能基としては、グリシジル基、ビニル基、および(メタ)アクリロイル基を好ましく挙げることができる。
【0035】
グリシジル基を有する(メタ)アクリレートとしては、グリシジル(メタ)アクリレートが挙げられ、ビニル基を有する(メタ)アクリレートとしては、ビニル(メタ)アクリレート、2−(2−ビニロキシエトキシ)エチル(メタ)アクリレート等が好ましく挙げられる。(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレートとしては、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの(メタ)アクリレートは、複数種が含まれていてもよい。なお、これらのアミノ基と反応しうる官能基を有する(メタ)アクリレートはウレタン基を導入しない場合であっても用いることができる。
【0036】
アミノ基と反応しうる官能基にアミノアルコールが反応して結合し、アミノアルコールのヒドロキシ基に、多価イソシアネート化合物のイソシアン酸エステル基(R
1N=C=O)が下記のように付加反応すると、ウレタン基(ウレタン結合)(カルバミン酸エステル:R
1NHCOOR)が導入される。ここでR−は、共重合体の官能基に結合したアミノアルコール部を示す。
R
1N=C=O + R−OH→ROCONHR
1
上記により、顔料吸着基として作用するウレタン基が導入される。
【0037】
アミノアルコールとしては、モノメチルエタノールアミン、ジエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン等を例示できる。なかでも、2個のヒドロキシ基を有するものは形成されるウレタン基の数を増やせることから、一般式(HOR)
2NH(Rは2価の炭化水素基)で示されるジアルカノールアミン(2級アルカノールアミン)であることが好ましい。これらのアミノアルコールは、複数種を組み合わせて用いることもできる。
【0038】
ウレタン基を導入する場合は、ウレタン基を導入する観点から、このアミノアルコールは、上記(メタ)アクリレートのアミノ基と反応しうる官能基に対して、0.05〜1モル当量で反応させることが好ましく、0.1〜1モル当量で反応させることがより好ましい。アミノアルコールが1モル当量より少ない場合は、アミノ基と反応しうる官能基を有する(メタ)アクリレートにおいて未反応の官能基が残ることになるが、残った官能基は顔料の吸着基として作用すると考えられる。
【0039】
多価イソシアネート化合物としては、1,6−ジイソシアネートへキサン、1,3−ビス(イソシアネートメチル)ベンゼン、1,3−ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、1,5−ナフタレンジイソシアネート等の脂肪族系、脂環式系、芳香族系のものが挙げられ、複数種を使用することもできる。多価イソシアネート化合物は、ヒドロキシ基との反応でウレタン基を導入する際に未反応原料などが残らないようにするために、仕込んだ原料に含まれるヒドロキシ基に対してほぼ当量(0.98〜1.02モル当量)で反応させることが好ましい。
【0040】
アクリル系ポリマーにおける共重合体部と、導入されたウレタン基部との質量比率は、80:20〜99:1であることが好ましく、85:15〜95:5であることがより好ましい。アクリル系ポリマーにおける共重合体部の質量は、共重合に使用したモノマーの合計質量であり、導入されたウレタン基部の質量とは、反応に使用したアミノアルコールと多価イソシアネート化合物の合計質量である。ウレタン基部は顔料吸着能が高いため、ウレタン基部の質量比率が高ければ高いほど顔料吸着率が上がると考えられるが、予想に反して質量比率が20よりも高くなると溶剤との相溶性が悪くなり、遊離の非水溶性樹脂が増えてしまって逆に顔料の吸着率が低下する。
【0041】
アクリル系ポリマーのインク全量に対する含有量は、顔料分散性を確保する観点から0.1質量%以上であることが好ましく、1質量%以上であることがより好ましい。一方、アクリル系ポリマーの含有量が高すぎると、インクの粘度が高くなるばかりでなく、高温環境下での保存安定性が悪くなる恐れがあるため、20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましい。すなわち、インク全量に対するアクリル系ポリマーの含有量は、1〜10質量%であることが好ましく、2〜8質量%であることがより好ましい。
【0042】
アクリル系ポリマーの顔料に対する含有量は、貯蔵安定性を確保する観点から顔料に対する質量比で0.1から1.0であることが好ましい。アクリル系ポリマーの顔料に対する含有量が、顔料に対する質量比で0.1未満と少なすぎる場合も、1.0超と多すぎる場合も、貯蔵安定性が確保されにくくなる。
【0043】
アクリル系ポリマーの水溶性樹脂に対する含有量は、質量比で0.1〜20であることが好ましく、0.4〜10であることがより好ましい。アクリル系ポリマーの含有量が、水溶性樹脂に対する質量比で0.1未満と少ない場合も、20超と多い場合も、貯蔵安定性が確保されにくくなる。
【0044】
顔料の質量に対する樹脂の質量(アクリル系ポリマーおよび水溶性樹脂の総量)は、顔料の質量を1として、顔料分散性の効果を確保する観点から0.2以上であることが好ましく、インク粘度の向上と経時変化による吐出不良を回避する観点から1.5以下であることが好ましい。
【0045】
水溶性樹脂の含有量は、顔料に対する質量比で0.01〜0.5であることが好ましく、0.05〜0.3であることがより好ましく、0.1〜0.2であることが最も好ましい。
インク総量に対して、水溶性樹脂は、0.1〜5質量%程度含まれていることが好ましく、0.5〜1.5質量%であることが一層好ましい。
【0046】
水溶性樹脂としては、ポリエチレンイミン(PEI)、ポリビニルアミン、ポリビニルピリジン等の塩基性高分子電解質またはそれらの誘導体を挙げることができ、特に、質量平均分子量が200〜2000のポリエチレンイミン、または、質量平均分子量200〜2000のポリエチレンイミンとアクリル酸エステルまたはビニル化合物のいずれかと付加反応した変性ポリエチレンイミンを好適に使用することができる。変性ポリエチレンイミンは、ポリエチレンイミンの全アミン価を1モル当量とした場合に、アクリル酸エステルまたはビニル化合物との比率が0.3モル当量以上1モル当量未満のもの(以下、単に変性ポリエチレンイミンともいう)が好ましい。ここで、アミン価は、JIS K−7237−1995(エポキシ樹脂のアミン硬化剤の全アミン価試験方法)の(2)指示薬滴定方法によりアミン価(KOHmg/g)を求め、KOHの分子量56.11mg/mmolと換算して算出したものである。
【0047】
ポリエチレンイミンの質量平均分子量が200未満であると普通紙に対する高濃度化の効果が低く、2000以上になると保存環境下にもよるが保存安定性が悪くなる。ポリエチレンイミンの質量平均分子量は、高濃度化の効果が大きく、かつ、流動点が−5℃以下であって低温時の保存安定性が良好であることから、300〜1800であることがより好ましい。
【0048】
ポリエチレンイミンは、市販のものを用いることが可能であり、たとえば、日本触媒(株)製SP−006、SP−012、SP−018、SP−200;BASF社製Lupasol FG、Lupasol G20 Waterfree、Lupasol PR8515等を好ましく挙げることができる。
【0049】
なお、変性ポリエチレンイミンにおいて、アクリル酸エステルとビニル化合物は併用してもよく、この場合にも、ポリエチレンイミンのアミン価を1モル当量とした場合に、アクリル酸エステルおよびビニル化合物の比率が0.3モル当量以上である。0.3モル当量未満の場合には、ノズルプレート撥インク性改善の効果が弱くなる。
【0050】
変性ポリエチレンイミンを使用するとノズルプレート撥インク性が改善するメカニズムについては以下のように推測される。すなわち、ポリエチレンイミンを使用したインク中に存在するイミノ基、アミノ基(-NH、-NH
2)は、インクジェットヘッドのノズルプレートに固着しやすい傾向にある。ポリエチレンイミンのイミノ基、アミノ基に対してアクリル酸エステル、ビニル化合物をマイケル付加させた変性ポリエチレンイミンを使用することによって、撥インク性が高くなりノズルプレートに対する濡れ性が改善される。
【0051】
アクリル酸エステルとしては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、等を好ましく挙げることができる。
ビニル化合物としては、アクリロニトリル、塩化ビニル、フッ化ビニル等のハロゲン化ビニル、酢酸ビニル等を好ましく挙げることができる。
【0052】
変性ポリエチレンイミンは、ポリエチレンイミンのイミノ基、アミノ基に対してアクリル酸エステル、ビニル化合物をマイケル付加させることにより得ることができる。詳細には、50〜60℃に加熱したジエタノールアミン中に、攪拌しながら、ポリエチレンイミンとアクリル酸エステルまたはビニル化合物を滴下した後、50〜60℃で、1〜3時間維持することによって製造することができる。
【0053】
ウレタン基のような顔料吸着能の高い官能基を有していないアクリル系ポリマーであっても、β−ジケトン基またはβ−ケト酸エステル基を有するアクリル系ポリマーと水溶性樹脂との併用で、強力な顔料吸着能力を得ることができる。非水溶性樹脂のβ−ジケトン基またはβ−ケト酸エステル基と、水溶性樹脂の極性基と、顔料が相互作用することにより、顔料分散を安定化させることができるものと推測される。β−ジケトン基またはβ−ケト酸エステル基と水溶性樹脂の極性基と顔料との相互作用により、非水溶性樹脂の顔料からの脱離が抑制されるので、使用する非水溶性樹脂の量をさらに減らすことが可能となり、結果として顔料分散安定性を確保しながら粘度を低く抑えることが可能となり、より低温適性に優れたものとすることができる。
【0054】
また、ウレタン基を側鎖として有する櫛形構造のアクリル系ポリマーはウレタン基によって顔料吸着能は高くなるが、ウレタン基の質量比率が高くなると溶剤との相溶性が悪くなり、顔料の吸着率が低下し、遊離の非水溶性樹脂が増えてしまい、インク粘度が増加する。しかし、ウレタン基を側鎖として有する櫛形構造のアクリル系ポリマーが、さらにβ−ジケトン基またはβ−ケト酸エステル基を有している場合、水溶性樹脂を併用することで、顔料との相互作用を高めることができ、遊離の非水溶性樹脂を低減することが可能となり、インク粘度を低くすることが可能となる。
【0055】
さらに、アクリル系ポリマーの炭素数8〜18のアルキル基によって、非水系溶剤の炭化水素系非極性溶剤との親和性が向上し溶剤に対する溶解性は確保されるが、非水系溶剤と顔料との親和性が高すぎると、非水系溶剤が記録媒体に浸透する際に顔料も記録媒体内部に引き込まれやすい傾向がある。しかし、アクリル系ポリマーと水溶性樹脂とを組み合わせることによって、アクリル系ポリマー量を抑えても顔料分散安定性が確保されるので、アクリル系ポリマーの量を減らすことが可能となり、顔料の浸透は抑制される。その結果として、裏抜けを抑制することができ、高い印刷濃度を実現することができる。
【0056】
非水系溶剤は炭化水素系非極性溶剤または極性溶剤を使用することができ、これらは単独で、または2種以上を適宜混合して用いることができる。低粘度化の観点で言えば、炭化水素系非極性溶剤を使用することが好ましい。
炭化水素系非極性溶剤の含有量は、インク溶剤全質量に対して20質量%以上が好ましく、50質量%以上がより好ましく、さらには80質量%以上が好ましい。炭化水素系非極性溶剤の含有量が溶剤全量に対して50質量%未満の場合、使用環境下にもよるがインクの低粘度化が充分に得られない。
【0057】
炭化水素系非極性溶剤の含有量がインク溶剤全量に対して50質量%以上の場合、インク粘度のさらなる低粘度化と、貯蔵安定性のさらなる改善の効果を得ることができる。炭化水素系非極性溶剤の含有量がインク溶剤全量に対して50質量%以上となると、水溶性樹脂および非水溶性樹脂はインク溶剤中にはほとんど遊離することなく、顔料近傍に集まり、顔料表面に強固に吸着するようになる。このため、溶剤自体の低粘度化だけでなく、溶剤中の遊離樹脂量を低減できることでの低粘度化の効果を得ることが可能となるとともに、顔料の分散安定性をより向上させることが可能となるものと推測される。
【0058】
炭化水素系非極性溶剤としては、脂肪族炭化水素溶剤、脂環式炭化水素系溶剤、芳香族炭化水素溶剤等を好ましく挙げることができる。脂肪族炭化水素溶剤、脂環式炭化水素系溶剤としては、たとえば、日本石油(株)製「テクリーンN−16、テクリーンN−20、テクリーンN−22、日石ナフテゾールL、日石ナフテゾールM、日石ナフテゾールH、0号ソルベントL、0号ソルベントM、0号ソルベントH、日石アイソゾール300、日石アイソゾール400、AF−4、AF−5、AF−6、AF−7」、Exxon社製「Isopar(アイソパー)G、IsoparH、IsoparL、IsoparM、ExxsolD40、ExxsolD80、ExxsolD100、ExxsolD130、ExxsolD140」等を好ましく挙げることができる。芳香族炭化水素溶剤としては、日本石油(株)製「日石クリーンソルG」(アルキルベンゼン)、Exxon社製「ソルベッソ200」等を好ましく挙げることができる。
【0059】
上記極性溶剤としては、エステル系溶剤、アルコール系溶剤、高級脂肪酸系溶剤、エーテル系溶剤といった極性溶剤を用いることができる。より具体的には、ラウリル酸メチル、ラウリル酸イソプロピル、ラウリン酸ヘキシル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソステアリル、オレイン酸メチル、オレイン酸エチル、オレイン酸イソプロピル、オレイン酸ブチル、リノール酸メチル、リノール酸イソブチル、リノール酸エチル、イソステアリン酸イソプロピル、大豆油メチル、大豆油イソブチル、トール油メチル、トール油イソブチル、アジピン酸ジイソプロピル、セバシン酸ジイソプロピル、セバシン酸ジエチル、モノカプリン酸プロピレングリコール、トリ2−エチルヘキサン酸トリメチロールプロパン、トリ2−エチルヘキサン酸グリセリルなどの、1分子中の炭素数が14以上のエステル系溶剤;イソミリスチルアルコール、イソパルミチルアルコール、イソステアリルアルコール、オレイルアルコールなどの、1分子中の炭素数が12以上であるアルコール系溶剤;イソノナン酸、イソミリスチン酸、ヘキサデカン酸、イソパルミチン酸、オレイン酸、イソステアリン酸などの高級脂肪酸系溶剤;ジエチルグリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールジブチルエーテルなどのエーテル系溶剤、が好ましく挙げられる。これらの非水系溶剤は、単独で、または2種以上を混合して用いることができる。
【0060】
顔料としては、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等のカーボンブラック類;銅、鉄、酸化チタン等の金属類または金属酸化物;オルトニトロアニリンブラック等の有機顔料を挙げることができる。これらは単独で、適宜混合して使用することができる。カラーインク用顔料としては、ウォッチングレッド、トルイジンレッド、パーマネントカーミンFB、ジスアゾオレンジPMP、レーキレッドC、ブリリアントカーミン6B、キナクリドンレッド、ジオキサンバイオレット、オルトニトロアニリンオレンジ、ジニトロアニリンオレンジ、バルカンオレンジ、トルイジンレッド、塩素化パラレッド、ブリリアントファーストスカーレット、ナフトールレッド23、ビラゾロンレッド、バリウムレッド2B、カルシウムレッド2B、ストロンチウムレッド2B、マンガンレッド2B、バリウムリソームレッド、ピグメントスカーレッド3Bレーキ、レーキボルドー10B、アンソシン3Bレーキ、アンソシン5Bレーキ、ローダミン6Gレーキ、エオシンレーキ、べんがら、ファフトールレッドFGR、ローダミンBレーキ、メチルバイオレッドレーキ、ジオキサジンバイオレッド、ナフトールカーミンFB、ナフトールレッドM、ファストイエローAAA、ファストイエロー10G、ジスアゾイエローAAMX、ジスアゾイエローAAOT、ジスアゾイエローAAOA、ジスアゾイエローHR、イソインドリンイエロー、ファストイエローG、ジスアゾイエローAAA、フタロシアニンブルー、ピクトリアピュアブルー、ベーシックブルー5Bレーキ、ベーシックブルー6Gレーキ、ファストスカイブルー、アルカリブルーRトナー、ピーコックブルーレーキ、紺青、群青、レフレックスブルー2G、レフレックスブルーR、アルカリブルーGトナー、ブリリアントグリーンレーキ、ダイアモンドグリーンチオフラビンレーキ、フタロシアニングリーンG、グリーンゴールド、フタロシアニングリーンY、酸化鉄粉、さびこ、亜鉛華、酸化チタン、炭酸カルシウム、クレー、硫酸バリウム、アルミナホワイト、アルミニウム粉、ブロンズ粉、昼光蛍光顔料、パール顔料等を例示できる。これらは単独で、または適宜混合して用いることができる。
【0061】
インク中の顔料の含有量は、通常0.01〜20質量%であり、印刷濃度とインク粘度の観点から1〜15質量%であることが好ましく、5〜10質量%であることが一層好ましい。
【0062】
上記各成分に加えて、本発明のインクには慣用の添加剤が含まれていてよい。添加剤としては、界面活性剤、例えばアニオン性、カチオン性、両性、もしくはノニオン性の界面活性剤、酸化防止剤、例えばジブチルヒドロキシトルエン、没食子酸プロピル、トコフェロール、ブチルヒドロキシアニソール、及びノルジヒドログアヤレチック酸等、が挙げられる。
【0063】
インクの粘度は、インクジェット記録システム用の場合、吐出ヘッドのノズル径や吐出環境等によってその適性範囲は異なるが、一般に、23℃において5〜30mPa・sであることが好ましく、5〜15mPa・sであることがより好ましく、約10mPa・s程度であることが、インクジェット記録装置用として適している。ここで粘度は、23℃において0.1Pa/sの速度で剪断応力を0Paから増加させたときの10Paにおける値を表す。
【0064】
本発明のインクは、顔料と非水溶性樹脂と非水系溶剤と水溶性樹脂とを混合し、ボールミル、ビーズミル等の任意の分散手段を用いて顔料を分散させ、所望により、メンブレンフィルター等の公知のろ過機を通すことにより調製できる。なお、水溶性樹脂としてポリエチレンイミンを用いる場合、ポリエチレンイミンは汎用の非水系溶剤には、微溶もしくは難溶であることが多い。そのため、ビーズミルのようなシェアをかけることのできる装置を用い、シェアのかかった状態で混合させることが望ましい。使用する非水系溶剤に水溶性樹脂が可溶である場合は、このようなシェアは不要であるが、撹拌下で混合させることが好ましい。
【0065】
得られたインク中の顔料の平均粒径は、500nm以下程度であることが好ましく、200nm以下であることがより好ましく、150nm以下であることが一層好ましい。一方、印刷物の裏抜けを抑制するため、この平均粒径は50nm以上程度であることが好ましい。ここで、顔料の平均粒径は、(株)堀場製作所製の動的光散乱式粒径分布測定装置LB−500により測定される値である。
以下に本発明の非水系インクジェットインクの実施例を示す。
【実施例】
【0066】
(樹脂溶液a〜dの合成)
300mlの四つ口フラスコに、AF−7(ナフテン系溶剤;JX日鉱日石エネルギー(株)製)75gを仕込み、窒素ガスを通気し攪拌しながら、110℃まで昇温した。次いで、温度を110℃に保ちながら表1に示す組成の各単量体混合物にAF−7 16.7g、パーブチル O(t−ブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート;日油(株)製)2gの混合物を3時間かけて滴下した。その後、110℃に保ちながら1時間後および2時間後に、パーブチルOを各々0.2g添加した。さらに110℃で1時間熟成を行い、AF−7 10.6gで希釈して、不揮発分50%の無色透明の樹脂溶液a〜dを得た。得られた各樹脂溶液の質量平均分子量(GPC法、標準ポリスチレン換算)は、20000〜23000であった。
【0067】
(樹脂溶液eの合成)
500ml四つ口フラスコに、表1に示す組成の各単量体混合物を混合し、さらに重合開始剤として V−65(和光純薬工業(株))1.29g、連鎖移動剤として ステアリルメルカプタン(和光純薬工業(株))0.97g、 AF7(AFソルベント7号、ナフテン系溶剤、JX日鉱日石エネルギー(株))260.2gを加え、61℃±3℃の条件下で、還流させながら5時間反応を行なって樹脂溶液eを得た(固形分25%)。反応後に、重合禁止剤としてメトキノン(p−メトキシフェノール)を微量添加した。得られた樹脂溶液の質量平均分子量(GPC法、標準ポリスチレン換算)は、21800であった。
【0068】
【表1】
【0069】
(樹脂溶液D1およびD2の合成)
500mLの四つ口フラスコに、上記で得られた樹脂溶液a(AF−7溶剤中固形分50%)200g、マイケル付加物(ジエタノールアミン/2−エチルヘキシルアクリレート付加物)4.0g、ジエタノールアミン(日本触媒(株)製)2.8gを仕込み、窒素ガスを通気し攪拌しながら、110℃まで昇温した。110℃に1時間保ち、樹脂溶液aのグリシジル基とジエタノールアミンとの反応を完結させた。その後、ジブチル錫ジラウレートを0.2g添加し、タケネート 600(1,3−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、三井化学ポリウレタン(株)製)7.8gとエキセパールHL(ラウリン酸ヘキシル,花王(株)製)72.0gとの混合物を1時間かけて滴下した。滴下後、温度を120℃に昇温して6時間反応させ、冷却して、固形分40%の樹脂溶液D1を得た。
同様にして、表2に示す組成で樹脂溶液D2を製造した。得られた各アクリル系ポリマーの質量平均分子量(GPC法、標準ポリスチレン換算)は、22000〜26000であった。
【0070】
【表2】
【0071】
(変性ポリエチレンイミンの調製)
300mlの四つ口フラスコに、エポミンSP-006(ポリエチレンイミン 分子量600、日本触媒(株)製)50gを仕込み、撹拌しながら60℃まで昇温した。アクリロニトリル(和光純薬(株)製)13.27gを約30分かけて滴下した。滴下後、60℃に2時間保ちマイケル付加反応を完結させて、変性ポリエチレンイミンPEI−3を得た。同様にして表3に示す処方で、PEI−4〜PEI−12の変性ポリエチレンイミンを調製した。表3に示すマイケル付加当量は、PEI−3の場合、1gのポリエチレンイミン(SP−006)には20mmolのアミノ基が含まれているから、20mmol×0.5モル当量=10mmol分のビニル化合物を反応させたことを意味する。
【0072】
【表3】
【0073】
(インクの調製)
得られた樹脂溶液a 4gと、ポリエチレンイミン(日本触媒(株)SP−012)1.5g、顔料(カーボンブラック、三菱化学(株)製MA100)10g、AF−7 17.25g、ラウリン酸ヘキシル17.25gを混合し、ジルコニアビーズ(直径0.5mm)を入れて、ロッキングミル((株)セイワ技研製)により120分間分散した。分散後ジルコニアビーズを除去し、AF−7 25g、エキセパールHL25gを加えて希釈してから、3μmおよび0.8μmのメンブランフィルターで順に濾過してゴミおよび粗大粒子を取り除いて実施例1のインクを得た。
同様にして、表4〜表8に示す配合で、上記実施例1と同様にして各実施例および比較例のインクを得た。
【0074】
得られたインクについて、顔料の分散平均粒子径とインクの粘度を測定した。顔料の分散平均粒子径は、(株)堀場製作所製の動的光散乱式粒径分布装置LB−500により測定した。インクの粘度は、23℃において0.1Pa/sの速度で剪断応力を0Paから増加させたときの10Paにおける粘度であり、ハーケ社製応力制御式レオメータRS75(コーン角度1°、直径60mm)で測定した。
【0075】
(評価方法)
(印刷濃度)
得られたインクをHC5500(理想科学工業(株)製)に装填し、普通紙(理想用紙薄口、理想科学工業(株)製)に印刷したベタ画像の表面と裏面のOD値を、光学濃度計(RD920、マクベス社製)を用いて測定し、以下の基準で評価した。表面のOD値が高ければ画像濃度が高く、裏面のOD値が低ければ裏抜けが少ないことを示している。
印刷濃度(表OD)
S:1.20以上
A:1.15以上1.20未満
B:1.10以上1.15未満
C:1.05以上1.10未満
D:1.05未満
印刷濃度(裏OD)
S:0.20以下
A:0.20超0.25以下
B:0.25超0.30以下
C:0.30超
【0076】
(インクの貯蔵安定性(70℃))
各インクを密閉容器に入れて、70℃の環境下で4週間放置し、その後インクの粘度変化および顔料の分散平均粒子径の変化を測定し、その測定結果を以下のように評価した。放置後の粘度および顔料の分散平均粒子径は上記の方法で測定した。
粘度変化率:
[(4週間後の粘度×100)/(粘度の初期値)]−100(%)
顔料の分散平均粒子径変化率:
[(4週間後の分散平均粒子径×100)/(分散粒子径の初期値)]−100(%)
S:粘度と顔料の分散平均粒子径変化率がいずれも±3%未満
A:粘度と顔料の分散平均粒子径変化率がいずれかが±3%以上±5%未満
B:粘度と顔料の分散平均粒子径変化率がいずれかが±5%以上±10%未満
C:粘度と顔料の分散平均粒子径変化率がいずれかが10%以上
【0077】
(低温適性)
得られたインクを−5℃で4週間放置した後、−5℃でのインク粘度を測定し、以下の基準で評価した。
A:50mPa・s未満
B:50mPa・s以上100mPa・s未満
C:100mPa・s以上
【0078】
(吐出安定性)
インクを70℃の環境に密閉状態で1ヶ月放置した後、このインクを東芝TEC社製インクジェットヘッド(CF1)を用いてベタ画像(主走査318ドット/副走査3000ドット)を100回連続印字し、その画像を目視により確認し、以下の基準で評価した。
A:均一なベタ画像
B:初期は均一なベタ画像が得られるが、数十回印字すると画像に乱れが生じる
C:初期から画像に乱れが生じる
【0079】
(サテライト)
ORPHIS−X(理想科学工業社製)において、ヘッドギャップ3mm、環境温度15℃、印刷速度120ppm、解像度300dpi*300dpi 1−6drop(1dropあたり6pl)の印字条件でA4用紙に印字を行い、以下の基準で評価した。
A:サテライトはほとんど確認できない
B:サテライトはわずかに確認できる
C:サテライトが顕著である
【0080】
(ノズルプレートに対する濡れ性)
インクジェットインクを30ml容器に入れ、インクジェットプリンターHC5500(商品名:理想科学工業社製)に使用されるノズルプレート(長さ5cm、幅5mm)の片端をピンセットでつまみ、もう一方の片端2cmをインクに浸漬させた。60℃の環境下で1週間放置後、濡れ性を評価した。ノズルプレートを素早く引き上げ、ノズルプレート上に残ったインク膜がワイピングせずにインク滴になるまでの時間を10回測定し、その平均値を算出し、撥インク時間とし、下記基準で評価した。なお、使用したノズルプレートは、ポリイミドフィルムを基材とし、その表面をフッ素加工したものであった。
S:インク滴になるまでに要する時間は3.5秒未満
A:インク滴になるまでに要する時間は3.5秒以上1分未満
B:インク滴になるまでに要する時間は1分以上
以上の評価結果を、インクの処方とともに表4〜表8に示す。
【0081】
【表4】
【0082】
【表5】
【0083】
【表6】
【0084】
【表7】
【0085】
【表8】
【0086】
表4および表5に示すように、実施例1〜15のインクは、実施例1〜13がアルキル(メタ)アクリレート(A)とモノマー(B)とを含むモノマー混合物の共重合体からなるアクリル系ポリマー、実施例14と15がアクリル系ポリマーの主鎖に対してウレタン基を側鎖として有する櫛形構造のアクリル系ポリマーを含むものであるが、全て、インクジェットインクとしての適正範囲の粘度、顔料分散平均粒子径を備えたものであり、いずれも低温適性、貯蔵安定性に優れていながら、裏抜けを抑制することができ、高い印刷濃度を実現できていることがわかる。また、顔料に対する非水溶性樹脂(固形分)の質量比率が20%と低い場合であっても、顔料分散安定性を得ることができ、顔料の浸透が抑制されて裏抜けが抑えられて高い印刷濃度を実現できており、非水溶性樹脂と水溶性樹脂を併用することで、より低温適性が得られることがわかる。
【0087】
一方、表8に示す比較例1〜4、比較例7〜11のインクは水溶性樹脂を含まないものであり、比較例1では非水溶性樹脂によって顔料分散安定性が確保されるので貯蔵安定性、低温適性、吐出安定性は良好であり、サテライトが抑制されたが、非水系溶剤と顔料との親和性が高いために、非水系溶剤が記録媒体に浸透する際に顔料も記録媒体内部に引き込まれて裏抜けが生じ、印刷濃度が低下した。比較例2は顔料に対する非水溶性樹脂の質量比率が比較例1の半分であるため、顔料分散安定性が悪くなった。比較例7および8はウレタン基の側鎖がないために、比較例7では顔料分散安定性が悪く、比較例8では分散されなかった。比較例9、10では本発明の非水溶性樹脂を含まないため分散できず、非水溶性樹脂を倍量に増やした比較例11では分散はできたものの安定性は悪く、印刷濃度も低かった。
【0088】
比較例3は非水溶性樹脂の官能基を構成するアルキル基の炭素数が22と8であり、アルキル基の炭素数が長いために貯蔵安定性は確保できたものの、低温で非水溶性樹脂が固化しやすくなって低温適性が悪くなり、サテライトも抑制できなかった。比較例4では非水溶性樹脂の含有量が少ないために顔料を分散することができなかった。
【0089】
比較例5および6は水溶性樹脂を含むが非水溶性樹脂のβ−ジケトン基またはβ−ケト酸エステル基がない場合であるが、比較例5では顔料に対する非水溶性樹脂の質量比率が高いためにβ−ジケトン基またはβ−ケト酸エステル基がなくても顔料分散性は得られたものの、粘度が高くなって低温適性、吐出安定性がともに悪く、実施例のインクに比べると、β−ジケトン基またはβ−ケト酸エステル基がない分、顔料の吸着が充分でないために裏抜けを抑制することができず、印刷濃度は低くなった。比較例6Aは比較例5Aにおいて非水溶性樹脂の質量比率を半分にしたものであるが、この場合には顔料吸着性が得られず、顔料を分散することができなかった。
【0090】
比較例12および13は水溶性樹脂を含むものの、β―ジケトン基またはβ―ケト酸エステル基をもたないアクリル系ポリマーであるため、低い環境温度では画質が悪く、印刷濃度も低く、安定性も悪かった。
【0091】
上記の実施例から明らかなように、非水溶性樹脂のβ−ジケトン基またはβ−ケト酸エステル基および水溶性樹脂を組み合わせることによって、使用する非水溶性樹脂の量が少なくても顔料分散安定性を確保しながら粘度を低く抑えることが可能となり、より低温適性に優れたものとすることができる。また、水溶性樹脂によって顔料分散安定性が確保されることにより非水溶性樹脂の量を減らすことが可能となり顔料の浸透は抑制され、結果、裏抜けを抑制することができ、高い印刷濃度を実現することができる。
【0092】
一方、表6および7に示すように、実施例16〜22のインクは、低温適性と顔料分散安定性を確保しながら、同時に裏抜けを抑制することができ、高い印刷濃度を実現することができた。また、撥インク性が高く、ノズルプレートの濡れ性が改善された。
【0093】
実施例23および24はポリエチレンイミンが未変性であるために、ワイピングをしない状態でのノズルプレート撥インク性は充分ではなかった。実施例25〜27はポリエチレンイミンの変性が比率として0.3当量未満であるためにワイピングをしない状態でのノズルプレート撥インク性は充分ではなかった。
【0094】
以上のように、本発明の非水系顔料インクは低温適性と顔料分散安定性を確保しながら、同時に裏抜けを抑制することができ、高い印刷濃度を実現することができるので、インクジェットインクとして好適に使用することができる。また、本発明の非水系顔料インクは、低温環境においてもインク粘度が低く抑えられているため、特にウォームアップに時間や電力を要する循環方式のインクジェット記録装置に好適に使用することができる。