特許第6068068号(P6068068)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6068068
(24)【登録日】2017年1月6日
(45)【発行日】2017年1月25日
(54)【発明の名称】液体調味料
(51)【国際特許分類】
   A23L 27/00 20160101AFI20170116BHJP
【FI】
   A23L27/00 D
【請求項の数】15
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2012-197223(P2012-197223)
(22)【出願日】2012年9月7日
(65)【公開番号】特開2014-50352(P2014-50352A)
(43)【公開日】2014年3月20日
【審査請求日】2015年9月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000111557
【氏名又は名称】ハナマルキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117787
【弁理士】
【氏名又は名称】勝沼 宏仁
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100107342
【弁理士】
【氏名又は名称】横田 修孝
(74)【代理人】
【識別番号】100111730
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 武泰
(74)【代理人】
【識別番号】100176083
【弁理士】
【氏名又は名称】松山 祐子
(72)【発明者】
【氏名】川 本 生 大
【審査官】 飯室 里美
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−105020(JP,A)
【文献】 「日本の食生活全集 富山」編集委員会編,日本の食生活全集16 聞き書 富山の食事,社団法人 農山漁村文化協会,1989年10月25日,55,107,161−162
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 27/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
米麹と、塩と、水とを混ぜた仕込み液を低温で発酵熟成させた後、固液分離を行うことにより得られる、液体調味料(醤油および味噌だまりを除く)。
【請求項2】
低温が4〜40℃である、請求項1に記載の液体調味料。
【請求項3】
発酵熟成を、発酵熟成1日目のBrixの値を基準に、Brixが4%以上増加するまで行う、請求項1または2に記載の液体調味料。
【請求項4】
発酵熟成を、発酵熟成1日目の直糖濃度の値を基準に、直糖濃度が8%以上増加するまで行う、請求項1〜3のいずれか一項に記載の液体調味料。
【請求項5】
発酵熟成期間が、1〜60日間である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の液体調味料。
【請求項6】
酵素活性を有する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の液体調味料。
【請求項7】
プロテアーゼ活性を有する、請求項1〜6のいずれか一項に記載の液体調味料。
【請求項8】
米麹と、塩と、水とを混ぜた仕込み液を低温で発酵熟成させた後、固液分離を行うことを含んでなる、液体調味料(醤油および味噌だまりを除く)の製造方法。
【請求項9】
低温が4〜40℃である、請求項8に記載の液体調味料の製造方法。
【請求項10】
発酵熟成を、発酵熟成1日目のBrixの値を基準に、Brixが4%以上増加するまで行う、請求項8または9に記載の液体調味料の製造方法。
【請求項11】
発酵熟成を、発酵熟成1日目の直糖濃度の値を基準に、直糖濃度が8%以上増加するまで行う、請求項8〜10のいずれか一項に記載の液体調味料の製造方法。
【請求項12】
発酵熟成期間が、1〜60日間である、請求項8〜11のいずれか一項に記載の液体調味料の製造方法。
【請求項13】
液体調味料が酵素活性を有する、請求項8〜12のいずれか一項に記載の液体調味料の製造方法。
【請求項14】
液体調味料がプロテアーゼ活性を有する、請求項8〜13のいずれか一項に記載の液体調味料の製造方法。
【請求項15】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の液体調味料を添加してなる飲食品。
【発明の詳細な説明】
【発明の背景】
【0001】
技術分野
本発明は、新規な液体調味料およびその製造方法に関する。
【0002】
背景技術
米麹は、複雑な好ましい風味を醸し出す原料として、清酒、焼酎、みりんなどの酒類や醸造調味料の製造において古くから用いられている。米麹を主原料として用いた調味料としては、みりんが挙げられ、強い甘味を付与する調味料として使用されている。
【0003】
最近、注目を集めている塩こうじは、米麹、塩および水を混ぜて発酵熟成させた調味料である。その味わいは、うま味と甘味と塩味とがバランス良く混ざった複雑な味わいであり、万能調味料とも言われている。また、塩こうじには酵素が含まれており、塩こうじで野菜や肉・魚などの食材をつけ込むと、食材の旨味が引き出されるといわれている。特許第5039964号公報(特許文献1)には、塩こうじを乾燥し、粉砕することにより得られる粉末状塩こうじが開示されている。
【0004】
特開2004−267057号公報(特許文献2)には、全窒素量が3.0重量%以上になるように調整された原料を使用した穀類麹と食塩水とを混ぜたもろみを低温で0.5〜2.0ヶ月熟成させた後、固液分離を行うことを特徴とする肉質改善効果をもつ調味料が開示されている。しかしながら、この文献では、一般に「しょうゆ麹」と呼ばれる大豆と小麦の麹について検討しているのみであり、また米麹は穀類麹の対象外とされている。さらに、この調味料の味わいは、うま味と塩味とからなるものであり、甘味が低いと思われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5039964号公報
【特許文献2】特開2004−267057号公報
【発明の概要】
【0006】
このように、塩こうじ独特の機能を有し、かつ、うま味と甘味と塩味とのバランスの良好な、液体調味料は発明者の知る限り存在しなかった。
【0007】
本発明者らは、今般、米麹と、塩と、水とを混ぜた仕込み液を低温で発酵熟成させた後、固液分離を行うと、塩こうじの機能を維持し、かつ、うま味と甘味と塩味とのバランスの良好な、新規な液体調味料が得られることを見出した。また、この液体調味料は、塩こうじに比べて、「麹臭」、「栗香」、「きのこ香」などと表現される麹独特の風味が低減していることを見出した。さらに、この液体調味料を用いて調理すると、塩こうじを用いた場合に比べて、味の浸透が早く、また調味料としての利便性も高いことを見出した。本発明はこれら知見に基づくものである。
【0008】
よって、本発明は、塩こうじの機能を維持し、うま味と甘味と塩味とのバランスの良い、麹臭が少ない、かつ、利便性の高い、新規な液体調味料およびその製造方法を提供することを目的とする。
【0009】
本発明の一つの態様によれば、本発明の液体調味料は、米麹と、塩と、水とを混ぜた仕込み液を低温で発酵熟成させた後、固液分離を行うことにより得られる。
【0010】
本発明の好ましい態様によれば、前記した液体調味料は、4〜40℃の条件で、発酵熟成を行うことにより得られる。
【0011】
本発明の好ましい態様によれば、前記した液体調味料は、発酵熟成1日目のBrixの値を基準に、Brixが4%以上増加するまで発酵熟成を行うことにより得られる。
【0012】
本発明の好ましい態様によれば、前記した液体調味料は、発酵熟成1日目の直糖濃度の値を基準に、直糖濃度が8%以上増加するまで発酵熟成を行うことにより得られる。
【0013】
本発明の好ましい態様によれば、前記した液体調味料は、発酵熟成期間が1〜60日間である。
【0014】
本発明の好ましい態様によれば、前記した液体調味料は、酵素活性を有する。
【0015】
本発明のより好ましい態様によれば、前記した液体調味料の酵素はプロテアーゼである。
【0016】
本発明の一つの態様によれば、本発明の液体調味料の製造方法は、米麹と、塩と、水とを混ぜた仕込み液を低温で発酵熟成させた後、固液分離を行うことを含んでなる。
【0017】
本発明の好ましい態様によれば、前記製造方法は、4〜40℃の条件で、発酵熟成を行うことを含んでなる。
【0018】
本発明の一つの態様によれば、本発明の飲食品は、本発明の液体調味料を添加してなる。
【0019】
本発明によれば、塩こうじの機能を維持し、かつ、うま味と甘味と塩味とのバランスの良好な、新規な液体調味料およびその製造方法を提供することができる。また、本発明の液体調味料は、麹臭が少ないため、麹臭を原因に塩こうじを苦手としてきた消費者でも用いることができる。さらに本発明の調味料は、調理時に、粥状またはペースト状の塩こうじのように手やヘラを用いる必要はないので、大変利便性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、本発明の製造フローの一例である。
図2図2は、仕込み液の発酵熟成中のBirxの変化を示すグラフの一例である。
図3図3は、仕込み液の発酵熟成中のpHの変化を示すグラフの一例である。
【発明の具体的説明】
【0021】
液体調味料/液体調味料の製造方法
本発明の液体調味料は、米麹と、塩と、水とを混ぜた仕込み液を低温で発酵熟成させた後、固液分離を行うことにより得られる。すなわち、本発明の液体調味料の製造方法は、米麹と、塩と、水とを混ぜた仕込み液を低温で発酵熟成させた後、固液分離を行うことを含んでなる。
【0022】
本発明に用いられる米麹は、通常の米麹の製麹方法に従って調製されうる。具体的には、米を蒸して得られた蒸米に、麹菌(種麹とも呼ばれる)を散布し、麹菌に最適な条件下で繁殖させることにより得られる。麹菌の繁殖は、自動発酵機(例えば、HK−60、ヤエガキフード&システム株式会社)を用いて、25〜40℃で2〜4日間培養により行ってもよい。本発明に用いられる米麹は、市販品を用いてもよい。
【0023】
米は、うるち米、もち米、酒米などの米、好ましくは精米(白米)を、必要に応じて洗米し、水に浸漬し、必要に応じて水切りしたものを用いることができる。
【0024】
麹菌は、通常の製麹に用いられる麹菌であれば特に限定されない。好適な例としては、アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)およびアスペルギルス・ソーヤ(Asperugillus sojae)などのコウジカビ属(アスペルギルス、Asperugillus)が挙げられる。麹菌は、種麹として販売される市販品を用いてもよいし、培養したものを用いてもよい。また、麹菌の形状は、粒状であってもよいし、粉状であってもよい。本発明に用いられる麹菌は、好ましくは糖化力やプロテアーゼ生成能の高い麹菌であり、具体的には、味噌用麹菌、米麹用麹菌または醤油用麹菌が挙げられ、より好ましくは米麹用麹菌または味噌用麹菌、さらに好ましくは味噌用麹菌である。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
本発明の仕込み液は、米麹と、塩と、水とを混ぜることにより得られる。これらは、同時に投入して混合してもよいし、逐次投入して混合してもよい。
【0026】
米麹は、仕込み液に対して、30〜70重量%となるように混合するのが望ましく、好ましくは35〜60重量%、より好ましくは40〜55重量%、さらに好ましくは45〜50重量%で混合する。
【0027】
塩は、仕込み液に対して、8〜20重量%となるように混合するのが望ましく、好ましくは10〜16重量%、より好ましくは12〜15重量%、さらに好ましくは13〜14重量%で混合する。この塩により、仕込み液中の微生物の繁殖を抑えることができ、また低減することができる。
【0028】
本発明において「仕込み液を低温で発酵熟成させる」とは、仕込み液を、仕込み液に含まれる麹菌由来の酵素を不活化(失活)させない温度で、発酵熟成させることを意味する。ここで、麹菌由来の酵素とは、麹菌が産生した酵素を意味し、例えば、アミラーゼ、プロテアーゼ、リパーゼ、セルラーゼが包含される。これらの酵素は熱に弱く、特にプロテアーゼは60℃以上で発酵熟成すると不活化される(実施例5参照)。
【0029】
本発明の好ましい態様によれば、低温は、4〜40℃であることが望ましく、好ましくは20〜38℃、より好ましくは25〜35℃、さらに好ましくは28〜32℃である。これらの温度であれば、麹菌由来の酵素は不活化されない。
【0030】
本発明において「発酵熟成」とは、麹菌による発酵を意味するだけでなく、麹菌由来の酵素によって米に含まれるデンプン、タンパク質および脂質などが分解されることを意味し、主に糖化と呼ばれることもある。なお、発酵熟成させた仕込み液(熟成物)は、「塩こうじ(塩麹、塩糀)」と呼ばれることもある。
【0031】
本発明の好ましい態様によれば、発酵熟成は、発酵熟成1日目のBrixの値を基準に、発酵熟成させた仕込み液(熟成物)のBrixが、4%以上増加するまで行うのが望ましく、好ましくは6%以上、より好ましくは9%以上増加するまで行う。ここで、Brixとは、屈折糖度計を用いて測定した値を意味し、その値はショ糖、食塩、各種アミノ酸、ブドウ糖、麦芽糖およびその他成分の増減により変化する。したがって、仕込み液の原材料の構成によってBrixの値は変化する。例えば、米麹50重量%、塩13重量%、および水37重量%となるように混合した仕込み液の場合は、発酵熟成は、発酵熟成させた仕込み液のBrixが37%以上になるまで行うことが望ましく、好ましくは39%以上、より好ましくは41%以上になるまで行う。Brixは、当業者に公知の手法を用いて測定することができ、例えば、市販の手持式屈折計や、デジタル式屈折計を用いて測定することができる。一般的にBrixの測定は、直糖濃度の測定より簡易である。
【0032】
または、本発明の好ましい態様によれば、発酵熟成は、発酵熟成一日目の直糖濃度の値を基準に、発酵熟成させた仕込み液(熟成物)の直糖濃度が、8%以上増加するまで行うのが望ましく、好ましくは12%以上、より好ましくは18%以上増加するまで行う。ここで、直糖とは直接還元糖を意味し、直糖濃度は、仕込み液の原材料の構成によって変化する。例えば、米麹50重量%、塩13重量%、および水37重量%となるように混合した仕込み液の場合は、発酵熟成は、発酵熟成させた仕込み液の直糖濃度が16%以上になるまで行うことが望ましく、好ましくは20%以上、より好ましくは26%以上になるまで行う。直糖濃度は、当業者に公知の手法を用いて測定することができ、例えば、ソモギー変法(日本農芸化学会誌28(3) 171-174 (1954))や、しょうゆの日本農林規格に示される方法により測定することができる。
【0033】
本発明のより好ましい態様によれば、発酵熟成は、発酵熟成1日目の値を基準に、発酵熟成させた仕込み液(熟成物)のBrixが4%以上増加し、かつ、直糖濃度が8%以上増加するまで行うものが望ましく、好ましくは、Brixが6%以上増加し、かつ、直糖濃度が12%以上増加するまで行うものであり、より好ましくは、Brixが9%以上増加し、かつ、直糖濃度が18%以上増加するまで行うものである。発酵熟成1日目の値を基準に、発酵熟成させた仕込み液(熟成物)のBrixが4%以上増加し、かつ、直糖濃度が8%以上増加すると、うま味、甘味、塩味のバランスがより優れたものになる。
【0034】
本発明の一つの態様によれば、例えば、米麹50重量%、塩13重量%、および水37重量%となるように配合した仕込み液の場合は、発酵熟成は、好ましくは、発酵熟成させた仕込み液(熟成物)を、Brixが37%以上、かつ、直糖濃度が16%以上になるまで行うものであり、より好ましくはBrixが39%以上、かつ、直糖濃度が20%以上になるまで行うものであり、さらに好ましくはBrixが41%以上、かつ、直糖濃度が26%以上になるまで行うものである。
【0035】
本発明の好ましい態様によれば、発酵熟成は、低温で、1〜60日間行うことが望ましく、好ましくは2〜30日間、より好ましくは3〜21日間、さらに好ましくは4〜14日間、さらにより好ましくは6〜13日間、特に好ましくは8〜12日間、最も好ましくは10日間行うものである。ここで、発酵熟成期間は、温度が低くなればなるほど、麹菌由来の酵素活性が低下するため長くなる。したがって、本発明のより好ましい態様によれば、発酵熟成は、20〜38℃で、3〜21日間行うことが望ましく、さらに好ましくは4〜14日間、さらにより好ましくは6〜13日間、特に好ましくは8〜12日間、最も好ましくは10日間行うものである。
【0036】
本発明のさらに好ましい態様によれば、発酵熟成は、発酵熟成1日目の値を基準に、発酵熟成させた仕込み液(熟成物)のBrixが4%以上増加し、かつ、直糖濃度が8%以上増加するまで、20〜38℃で3〜21日間行うものである。
【0037】
したがって、本発明の一つの態様によれば、本発明の液体調味料は、低温で、所望のBrixおよび/または直糖濃度になるまで、および/または所定の期間、発酵熟成させた仕込み液(熟成物)を、固液分離を行うことにより得られる。
【0038】
本発明において「固液分離」とは、固形分と液体を分離する方法である。固液分離方法は、特に限定されず、通常みりんや醤油で行われている方法であってもよい。例えば、圧搾濾過器を用いた圧搾濾過、ろ布を使用した圧搾、遠心分離機を用いた固液分離が挙げられ、好ましくは圧搾濾過である。
【0039】
固液分離により得られた濾液は、そのまま本発明の液体調味料として用いることができる。
【0040】
このようにして得られた液体調味料は、固液分離前の熟成物と同じまたはそれより高い麹菌由来の酵素活性を有するものである。したがって、本発明の一つの態様によれば、本発明の液体調味料は、酵素活性を有する液体調味料であり、好ましくはプロテアーゼ活性を有する液体調味料である。
【0041】
また、このようにして得られた液体調味料は、固液分離する前の熟成物に比べて、麹臭が低減しており(後述する実施例1および2参照)、蜂蜜を連想する甘い香りを有する。
【0042】
さらに、このようにして得られた液体調味料の直糖濃度は、固液分離前の熟成物とほぼ同じである。したがって、本発明の液体調味料の直糖濃度は、好ましくは16%以上、より好ましくは20%以上、さらに好ましくは26%以上である。
【0043】
本発明の液体調味料は、固液分離により得られた濾液を、さらに水で希釈してから本発明の液体調味料として用いてもよい。ここで、希釈は、塩分が所望の濃度になるように希釈することが望ましい。
【0044】
本発明の液体調味料は、固液分離により得られた濾液を、さらに殺菌することにより得られるものであってもよい。殺菌方法としては、通常液体の殺菌に用いられる方法であれば特に限定されず、例えば、加熱殺菌、エタノール(酒精)添加による殺菌、濾過滅菌などが挙げられる。殺菌方法は、好ましくは、得られる液体調味料の酵素を不活化させない点で、エタノール添加による殺菌または濾過滅菌である。
【0045】
エタノール添加による殺菌において、エタノールの添加量は、液体調味料を殺菌することができれば特に制限されない。エタノールは、液体調味料に対して、好ましくは0.5〜10重量%、より好ましくは1〜6重量%、さらに好ましくは2〜5重量%となるように添加する。エタノールの添加濃度が10重量%以上になると、アルコール臭やアルコールの味が際立つ。
【0046】
濾過滅菌による殺菌は、例えば、珪藻土による濾過や、微小膜による濾過により行うことができる。この濾過により液体から、微生物を減らしたり、除菌したりすることができる。
【0047】
本発明の液体調味料は、固液分離により得られた濾液を、さらに、濃縮、または濾過膜や樹脂などを用いて脱色することにより得られるものであってもよい。
【0048】
また、本発明の液体調味料は、保存料、酸化防止剤、または香料などの他の成分を含んでいても良い。ここで、他の成分は、酵素を不活化させない点で、水溶液とした場合のpHが、好ましくは中性領域にあるものである。
【0049】
本発明の一つの態様によれば、本発明の液体調味料を添加してなる飲食品が提供される。ここで、飲食品としては、通常、塩こうじ、みりんおよび醤油が添加される飲食品であれば特に限定されない。なお、本発明の液体調味料は、塩こうじよりも食材への浸透が早いため、短時間で、肉などをやわかくしたり、食材の旨味を増強したり、あるいは液体調味料のバランスの良いうま味、甘味、塩味を付与することができる。また、塩こうじの形態は米粒の崩れたとろみのある粥状またはペースト状であるため、食材に用いる場合には、手やヘラで食材に塗布したり、揉み込んだりする必要があったが、本発明の液体調味料の形態は液体であるため使い勝手が良く、利便性が高い。さらに、本発明の液体調味料は、塩こうじに含まれる麹の粒によって見た目が悪くなるため避けられてきた食材に対しても、使用することができる(後述する実施例3参照)。
【0050】
飲食品としては、例えば、味噌、醤油、みりん、マヨネーズ、ドレッシング、ポン酢等の他の調味料;めんつゆ、おでんつゆ、鍋つゆ等のつゆ;焼き肉のタレ等のタレ;肉、魚、野菜の漬込液;ミートソース、ホワイトソース等のソース;スープ;だし、および菓子、パン等などが挙げられる。
【0051】
また、飲食品としては、本発明の調味料で処理した畜肉や魚を用いた、焼肉・魚、煮物、カレー、シチュー、味噌汁、スパゲッティー、ハンバーグ、餃子等の調理食品;および、キムチ、漬物、かまぼこ、ソーセージ、冷凍食品、レトルト食品、チルド食品等の加工食品などが挙げられる。
【0052】
本発明の液体調味料の飲食品および畜肉や魚への添加量は、添加対象に応じて適宜選択すればよい。
【実施例】
【0053】
本発明を以下の例によって詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0054】
例1:液体調味料の製造方法
図1の工程にしたがって、液体調味料を製造した。
【0055】
(1)米麹の調製
米を1.2倍量の水で12時間浸漬し、2時間水切りした後、蒸し器(羽生田鉄工所株式会社製)を用いて45分蒸して、蒸米を得た。蒸米の温度を30℃まで冷却したら、蒸米1kgに対して種麹(味噌用種麹、株式会社樋口松之助商店より入手)0.3g(蒸米:種麹=1000:0.3)となるように、種麹を数回に分けて撒いて、混合した(種切り)。種麹を混ぜ込んだ米を、時々混ぜながら、自動醗酵機(HK−60、ヤエガキフード&システム株式会社製)にて、35℃で42時間培養して、米麹を得た。
【0056】
(2)液体調味料の調製
得られた米麹50kgと、塩(並塩)13kgと、水37Lとを混合して、仕込み液とした。仕込み液を、30℃で10日間、発酵熟成させ、熟成物を得た(比較区1)。得られた熟成物を、圧搾濾過機(設備名:ラボ用圧濾圧搾機、NSKエンジニアリング株式会社製)を用いて、圧搾濾過し、濾液を液体調味料(試験区1)として得た。
【0057】
(3)液体調味料の分析
得られた熟成物(比較区1)および液体調味料(試験区1)は、pH、直糖、塩分および酵素活性を測定し、官能評価を行った。
【0058】
pHの測定は、pHメーター(F−72、株式会社堀場製作所製)を用いて行った。
【0059】
直糖は、ソモギー変法(日本農芸化学会誌28(3) 171-174 (1954))を用いて測定した。
【0060】
塩分は、電位差滴定装置(AT−500N、京都電子工業株式会社製)により測定した。
【0061】
酵素活性の測定は、pH6.0におけるプロテアーゼ活性を、フォーリン・チオカルト(Folin−Ciocalteu)のフェノール試薬法の蔭山変法(醗酵工學雑誌33(1) 28-32 (1955))を用いて測定した。具体的には、以下の方法により行った。それぞれのサンプル(熟成物、液体調味料)5gを0.5%NaCl溶液で10倍希釈し、濾過し、ろ液(サンプル溶液)1mlを、pH6.0リン酸緩衝液4mlでさらに希釈した。得られた希釈液(検液)1mlに対して、pH6.0リン酸緩衝液を加えた1.5%ミルクカゼイン2mlを基質として加え、37℃で1時間反応させた。0.4mol/lトリクロル酢酸4mlを加えて、反応を停止した。得られた溶液を濾過し、ろ液1mlに対して、0.4mol/l炭酸ナトリウム5mlを加え、さらにフェノール試薬1mlを加えて、37℃で20分間発色させた。発色させた溶液をテストとした。なお、対照(ブランク)として、あらかじめ基質2mlに0.4mol/lトリクロル酢酸を4ml加えた後、検液1mlを加え、37℃で1時間反応させ、ろ過し、ろ液を発色させたものを用いた。テストおよびブランクを、分光光度計(UV−1200、株式会社島津製作所)を用いて、波長660nmの吸光度を測定した。テストの吸光度からブランクの吸光度を減じ、希釈倍率およびフェノール試薬のファクター(係数)を乗じて、サンプル1g当たりのプロテアーゼ活性(単位/g)を求めた(すなわち、プロテアーゼ活性(単位/g)=〈テストの吸光度−ブランクの吸光度〉×350(希釈倍率)×フェノール試薬のファクター)。ここで、フェノール試薬のファクターは、チロシン溶液を用いて算出した。具体的には、50μg/mlチロシン溶液1mlを、上述のサンプル溶液の代わりに用いる以外は同じ方法で、吸光度を測定した。チロシン溶液の標準吸光度である0.350を、得られた値で除したものをフェノール試薬のファクターとした(すなわち、フェノール試薬のファクター=0.350/フェノール試薬調製毎の50μg/mlチロシン溶液の吸光度)。
【0062】
官能評価は、訓練を受けた専門パネリスト5人で行い、熟成物(比較区1)および液体調味料(比較区1)の「香り」および「味」の項目について、それぞれ下記のとおりに評価し、その平均値を示した。また、官能所見も示した。
【0063】
(官能評価基準)
「香り」について、以下の判断基準で評価した。
5:良好。異臭(麹独特の匂い(すなわち、麹臭)、加熱臭、ムレ臭)がなく、甘い香りを強く感じる。
4:やや良好。異臭がなく、甘い香りを感じる。
3:普通。異臭がない。
2:やや悪い。異臭が少しある。
1:不良。異臭がある。
【0064】
「味」について、以下の判断基準で評価した。
5:良好。異味(雑味)がなく、うま味、甘味、塩味のバランスが大変良好。
4:やや良好。異味がなく、うま味、甘味、塩味のバランスがやや良好。
3:普通。異味がなく、うま味、甘味、塩味のバランスが良好。
2:やや悪い。異味がややあり、うま味、甘味、塩味の中に苦味をやや感じる。
1:不良。異味があり、うま味、甘味、塩味の中に苦味を感じる。
【0065】
結果を表1および表2に示す。
【0066】
【表1】
【0067】
【表2】
【0068】
例2:液体調味料(酵素活性なし)の製造方法
(1)酵素活性のない液体調味料の製造
上記例1の(1)で得られた米麹50kgと、塩(並塩)13kgと、水37Lとを混合して、仕込み液とした。仕込み液を、30℃で10日間、発酵熟成させ、熟成物を得た。得られた熟成物を、耐熱性袋に充填、包装し、85℃の温湯中にて、15分間静置し、加熱熟成物を得た(比較区2)。得られた加熱熟成物を、圧搾濾過機(設備名:ラボ用圧濾圧搾機、NSKエンジニアリング株式会社製)を用いて、圧搾濾過し、濾液を液体調味料(試験区2)として得た。
【0069】
(2)液体調味料の分析
得られた加熱熟成物(比較区2)および液体調味料(試験区2)は、例1の(3)と同じ方法により、pH、直糖、塩分および酵素活性を測定し、ならびに官能評価を行った。
【0070】
結果を表3および表4に示す。
【0071】
【表3】
【0072】
【表4】
【0073】
例3:液体調味料と塩こうじの比較
(1)肉類の調理−1
上記例1および例2で得られた液体調味料(それぞれ、試験区1:酵素活性55(単位/g)、および試験区2:酵素活性0(単位/g))と、例1の圧搾濾過する前の熟成物(比較区1:酵素活性52(単位/g))を用いて、食材(鶏の胸肉)を調理し、調味料としての評価をおこなった。具体的には、鶏の胸肉100gを、液体調味料(試験区1または試験区2)8ml(重量としては10g)または熟成物10gに、5℃にて12時間漬け込み、焼成した。その後、調理された食材について、官能評価を行った。
【0074】
官能評価は、訓練を受けた専門パネリスト5人で行い、肉の「旨味」および「やわらかさ」の項目について、下記のとおりに評価し、その平均値を示した。
【0075】
(官能評価基準)
肉の「旨味」を強度として表現し、以下の判断基準で評価した。
5:強い
4:やや強い
3:普通
2:やや弱い
1:弱い
【0076】
肉の「やわらかさ」を強度として表現し、以下の判断基準で評価した。
5:やわらかい
4:やややわらかい
3:普通
2:やや硬い
1:硬い
【0077】
結果を表5に示す。
【0078】
【表5】
【0079】
(2)肉類の調理−2
上記例1で得られた液体調味料(試験区1)と、塩こうじ(ハナマルキ株式会社より入手)を用いて、食材(鶏のもも肉および豚ロース)を調理し、調味料としての評価をおこなった。具体的には、鶏のもも肉および豚ロースに、肉の重量に対して10重量%の液体調味料または塩こうじを塗布し、5℃にて24時間漬け込み、焼成した。その後、調理された食材について、官能所見を示した。
【0080】
その結果、鶏のもも肉および豚ロースともに、液体調味料を用いたものが、塩こうじを用いたものよりも、肉がやわらかくなった。また、豚ロースでは、液体調味料を用いた肉は、塩こうじを用いた肉に比べて、肉の臭みが感じられなかった。
【0081】
(3)魚の調理
上記例1で得られた液体調味料(試験区1)と、塩こうじ(ハナマルキ株式会社より入手)を用いて、食材(生サケ切り身)を調理し、調味料としての評価をおこなった。具体的には、生サケ切り身の表面に、切り身の重量に対して10重量%の液体調味料または塩こうじを塗布し、5℃にて24時間漬け込み、焼成した。その後、調理された食材について、官能所見を示した。
【0082】
その結果、塩こうじを用いた切り身は、表面にしか味が浸透していなかった。一方、液体調味料を用いた切り身は、中まで味が浸透し、焼き上がりのツヤも良かった。
(4)野菜の調理
上記例1で得られた液体調味料(試験区1)と、塩こうじ(ハナマルキ株式会社より入手)を用いて、食材(枝豆)を調理し、調味料としての評価をおこなった。具体的には、枝豆を茹でる茹で湯に、水量に対して6重量%の液体調味料または塩こうじを撹拌し、生の枝豆を5分間茹でた。その後、調理された食材について、官能所見を示した。
【0083】
その結果、塩こうじを用いた枝豆は、味が物足りなく、また麹粒がさやに付着して美感を損なうものであった。一方、液体調味料を用いた枝豆は、中まで味が浸透し、素材の甘みが引き出され、おいしいものであった。
【0084】
(5)カルパッチョ
上記例1で得られた液体調味料(試験区1)と、塩こうじ(ハナマルキ株式会社より入手)を用いて、マリネ液を調製し、調味料としての評価をおこなった。具体的には、液体調味料または塩こうじ:オリーブオイルを1:3の割合で混ぜて調製したマリネ液に、薄切りの白身魚(真鯛)を、5℃にて1時間漬け、カルパッチョを作成した。その後、それぞれのカルパッチョについて、官能所見を示した。
【0085】
その結果、液体調味料を用いたものは、塩こうじを用いたものに比べて、刺身がやわらかくなり、魚独特の臭みが消えた。
【0086】
(6)パンの調理
上記例1で得られた液体調味料(試験区1)と、塩こうじ(ハナマルキ株式会社より入手)を用いて、パンを調製した。具体的には、強力粉280g、砂糖20g、水150ml、オリーブオイル20g、スキムミルク6g、ドライイースト3gに、液体調味料40mlまたは塩こうじ38gを加え、常法にしたがって食パンを調製した。その後、それぞれのパンについて、官能所見を示した。
【0087】
その結果、液体調味料を用いたパンは、しっとりとして、非常においしいものであった。
【0088】
例4:液体調味料と他の調味料(みりん、米しょうゆ)の比較
上記例1で得られた液体塩こうじ(試験区1)と、米を主原料とする他の調味料(みりん、米しょうゆ)について、調味料としての成分の比較を行った。具体的には、成分として、原材料、塩分、直糖、アルコール分および酵素活性を測定した。塩分、直糖、酵素活性の測定は、例1の(3)と同じ方法により行った。
【0089】
アルコールの測定は、ガスクロマトグラフィー法にて行った。具体的には、FID検出器付のGC−8A(株式会社島津製作所製)で、充填剤(Porapak(商標)QS、Warters社製)を充填した1.0m(長さ)×3mm(内径)のステンレスカラムを用いて測定した。
【0090】
ここで、みりんは、本みりん(流山キッコーマン株式会社より入手)を用いた。米しょうゆは、米しょうゆ(大高醤油株式会社より入手)を用いた。
【0091】
また、それぞれの調味料について、官能所見を示した。
【0092】
結果を表6に示す。
【0093】
【表6】
【0094】
例5:仕込み液の検討
(1)発酵熟成指標
上記例1の(1)で得られた米麹50kgと、塩(並塩)13kgと、水37Lとを混合して、仕込み液とした。仕込み液を、30℃で、21日間、発酵熟成させ、熟成物を得た。発酵熟成1、2、3、4、7、10、16および21日目に熟成物を取り出し、それぞれのBrixおよびpHを測定した。また、1日目および10日目には、直糖を測定した。さらに、10日目には、糖組成分析を行った。
【0095】
pHおよび直糖の測定は、例1の(3)と同じ方法により行った。
【0096】
Birxの測定は以下の方法で行った。熟成物10gと蒸留水10mlを良く撹拌し、5分静置後、濾紙(ADVANTEC 5B)で濾過した。手持屈折計(HSR−500、ATAGO製)を用いて、濾液のBrixを測定した。希釈率(2倍)に補正し、熟成物のBrix(%)の値とした。
【0097】
糖組成分析は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法で行った。
【0098】
結果を、図2図3および表7に示す。
【0099】
【表7】
【0100】
10日目の糖組成分析の結果は、ブドウ糖27.8%、麦芽糖0.66%、イソマルトース1.11%であった。
【0101】
(2)発酵熟成条件
上記例1の(1)で得られた米麹50kgと、塩(並塩)13kgと、水37Lとを混合して、仕込み液とした。仕込み液を、高い温度(55℃)で、10日間、発酵熟成させ、熟成物(比較区3)を得た。また、発酵熟成温度が高い場合は、糖化が進みやすく、発酵熟成期間の短縮が可能であることから、発酵熟成期間を1日に変更する以外は、比較区3と同じ方法により、熟成物(比較区4)を得た。得られた熟成物の酵素活性を例1の(3)と同じ方法により、測定した。
【0102】
その結果、比較区3、比較区4ともに、酵素活性は0(単位/g)であった。
図1
図2
図3