(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0020】
[ガラスフィルム1の構成]
図1は、実施の形態にかかるガラスフィルム1の断面を模式的に示す図である。
このガラスフィルム1は、例えば有機ELディスプレイのカバーフィルムとして用いられるものであって、ガスバリヤ層となるガラス基材10の一方の面にブロッキング防止層20が形成されている。なお、ガラス基材10とブロッキング防止層20の間に、密着性や光特性を改善するためのアンダーコート層などを設けてもよい。
【0021】
このガラスフィルム1は、長尺状であって、巻芯2の周りにロール状に巻回されている。
ガラス基材10:
ガラス基材10は、厚みが200μm以下(さらに好ましくは100μm以下)の薄板ガラスである。ガラス材料で形成されているため、水蒸気および酸素をはじめとするガスに対して高いガスバリヤ性を有し、可視光透過性も高い。また、厚みが200μm以下と薄いので可撓性を有している。
【0022】
ガラス基材10の厚みが小さすぎると、強度不足となるので、ガラス基材10の厚みは10μm以上であることが好ましく、30μm以上がより好ましい。
このようにガラス基材10の厚みを10〜200μmに設定することによって、ガラスフィルム1を湾曲させたときにガラスフィルム1に生じる応力も小さく、ガラスフィルム1をロール状に巻き取ることも可能である。
【0023】
なお、ロール状に巻き取る際には、ガラス基材10が割れないように、一定以上の巻き径で巻き取る。
ガラス基材10の材料としては、アルカリ含有量が1000ppm以下の無アルカリガラスが好ましい。これは、ガラス基材にアルカリが含有されていると、表面に陽イオンの置換が発生し、ソーダ吹きの現象が生じて破損し易くなるためである。
【0024】
ブロッキング防止層20:
ブロッキング防止層20は、ガラス基材10の一表面上に形成されており、熱硬化性樹脂21に加えて微粒子22が含まれている。
ブロッキング防止層20は、ガラスフィルム1が巻き取られて積層されるときに、積層されるガラス基材10同士の間に介在して、ブロッキングの発生を防止する。
【0025】
すなわち、
図1に示すように、ガラスフィルム1はロール状に巻き取られているので、ガラスフィルム1同士がロール体の径方向に積層された状態となっている。
図1中にガラスフィルム1同士が積層された拡大模式的に示している。
このようにガラスフィルム1がロール状に巻き取られた状態では、ガラス基材10が径方向に積層された状態となるが、ガラス基材10どうしの間にブロッキング防止層20が介在した状態で積層されるので、ガラス基材10同士は直接接触しない。
【0026】
一方、ガラス基材10における反対側の表面10a(ブロッキング防止層20が形成されていない表面)に、ブロッキング防止層20の表面20aが直接接触するが、ブロッキング防止層20には、熱硬化性樹脂21に加えて微粒子22が含まれている。そして、この微粒子22によりブロッキング防止層20の表面20aには凹凸が形成されていて、ブロッキング防止層20の表面20aとガラス基材10の表面10aとの間のブロッキングが抑えられる。
【0027】
熱硬化性樹脂は、耐熱性が良好であって、加熱時に変色しにくい。
熱硬化性樹脂21としては、シロキサン成分を含む熱硬化性樹脂、すなわち、熱硬化することによってシロキサン結合の主骨格を形成する樹脂を用いることが、膜の透明性、耐熱性及び強度を確保する上で好ましい。
[微粒子とブロッキング防止層20の表面]
微粒子22としては、屈折率が低い材料で、適度の粒径を有し、樹脂に対する混合分散性が良いものが好ましい。
【0028】
好ましい材料として、酸化ケイ素、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化錫などが挙げられる。ただし、酸化ジルコニウム、酸化チタンは、屈折率が高いので、微粒子22を酸化ジルコニウム、酸化チタンで形成すると、微粒子22と熱硬化性樹脂21との界面で光の反射が大きくなり、また内部ヘイズが増加するため、ブロッキング防止層20の透明性が低下しやすい。その点、微粒子22として屈折率の低いシリカ(酸化ケイ素)を用いれば、ブロッキング防止層20の透明性を確保する上で好ましい。
【0029】
ブロッキング防止層20において、微粒子22を混ぜることによってブロッキング防止層20の表面20aに凹凸を形成し、ブロッキング防止層20の表面20aとガラス基材10の表面10aとの間の静摩擦係数を1.0以下にすることができる。
そして、ロールフィルムからガラスフィルム1を繰り出すときに、ブロッキングを防止する効果が良好に得られて、スムースに繰り出すことができる。
【0030】
ここで良好なブロッキング防止効果を得るために、ブロッキング防止層20の表面20aの平均高さRaは0.005μm以上0.05μm以下であること、また、表面最大高さRZは、0.1μm以上0.7μm以下であることが好ましい。
また、上記のようにブロッキング防止層20の表面20aに凹凸を形成してブロッキング防止効果を得る上で、用いる微粒子22の平均粒子径は、50nm以上であることが好ましい。
【0031】
一方、ブロッキング防止層20に混在させる微粒子22の粒子径が大きくなると、ヘイズ値(膜に可視光を照射したときの全透過光に対する拡散透過光の割合)が大きくなる。ヘイズ値が大きくならないように、微粒子22の平均粒子径は200nm以下とすることが好ましい。なお、平均粒子径は動的光散乱法(DLS)により測定する。
ブロッキング防止層20の中における微粒子22の含有量は、ブロッキング防止効果を得る上で0.05重量%以上とすることが好ましい。一方、微粒子22の含有量が大きくなりすぎると、ブロッキング防止層20の透明性及び強度が低下するので、ブロッキング防止層20の重量に対する微粒子22の重量は0.6重量%以下とすることが好ましい。
【0032】
[ガラスフィルム1の製造方法]
ガラスフィルム1の製造方法について、以下に例示する。
1.ガラス基材10の成形
長尺状のガラス基材10は、ガラス材料を溶融した後、ダウンドロー法(溶解したガラスを、炉の底に空けたスリットを通して下に引き出す方法)で連続的に板状に成形することによって作製することができる。
【0033】
そして、以下のように、ガラス基材10の表面に、ブロッキング防止層20を連続的に形成する。
2.ブロッキング防止層20の形成
オルガノシロキサン結合を形成する熱硬化性樹脂のプレポリマー、微粒子22及び溶剤を混合した塗工液を、ガラス基材10に表面上に塗布し、加熱硬化させることによって、ブロッキング防止層20を形成する。
【0034】
オルガノシロキサン結合を形成する熱硬化性樹脂は、一般にハードコート剤として使用されている。
例えば、ジエチルジエトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、テトラエトキシシランなどの有機シラン材料の一部を加水分解、脱水縮合させたものと、フルオロシラン化合物あるいはメチル基、エチル基等を有するオルガノシロキサン材料を用いることができる。
【0035】
ガラス基材10への塗工液の塗布は、例えばグラビアコート法などのロールコーティング法で行えば、ロール状のガラス基材10に連続的に塗布することができる。
そして、塗膜を乾燥し加熱することによって、塗膜中の樹脂成分は、加水分解および脱水縮重合して硬化し、シロキサン(Si−O−)骨格による3次元網目構造のポリマーネットワークを有する塗膜が形成される。この塗膜は、耐熱性が良好で、ガラス基材10に対する密着性が優れ、ガラス基材10が湾曲するとそれに追従して良好に変形する。
【0036】
従って、ガラス基材10の表面にブロッキング防止層20が形成されたガラスフィルム1をロール状に巻き取ることによって、
図1に示すようなガラスフィルム1のロール体が作製される。
[ガラスフィルム1による効果]
ガラスフィルム1は、長尺状に形成されているが、ロール状に巻回されているので容易に搬送することができる。ガラス基材10はロール状に巻回されているが、上述したようにガラス基材10同士の間にブロッキング防止層20が介在することによって、ブロッキング防止効果を奏する。
【0037】
従って、ロール状に巻回されたガラスフィルム1から繰り出すときにも、スムースに繰り出すことができ、ガラスフィルム1の破損も生じにくい。
また、ブロッキング防止層20は、上述したように耐熱性も良好なので、ガラスフィルム1は、高温で加熱する工程を経た後においても良好な透明性を保つことができる。
具体的には、ガラスフィルム1は、300℃で30分加熱した後におけるb*値を−1.0〜1.0の範囲内に抑えられる。
【0038】
ブロッキング防止層20の厚みについては、膜厚が小さすぎるとブロッキング防止層20の透明性が低下しやいので、厚みを1.0μm以上とすることが好ましい。一方、膜厚が大きすぎると、ブロッキング防止層20にクラックが発生しやすくなるので、ブロッキング防止層20の膜厚は3.0μm以下に設定することが好ましい。
従って、例えば、ガラスフィルム1を加熱して透明導電膜を形成して透明導電性フィルム3を作製した後にも、良好な透明性を保つことができる。
【0039】
なお、ブロッキング防止層を形成するのに、熱硬化性樹脂でなくUV硬化型樹脂を用いることも考えられるが、一般にUV硬化型樹脂は加熱したときに黄変しやすいので、ガラスフィルムに要求される透明性を加熱後に保つことは難しい。この点は、下記実施例の耐熱試験の結果にも示されている。
また、ブロッキング防止層20は、熱硬化性樹脂21と微粒子22からなり、上記のようにガラス基材10の表面に塗工液を塗布することによって形成できるので、ガラス基材に保護フィルムを貼り付ける場合と比べて低コストでブロッキングを防止できる。
【0040】
[透明導電性フィルム3]
図2は、上述したガラスフィルム1におけるガラス基材10の表面に、透明導電膜30を形成してなる透明導電性フィルム3の構成を示す図である。上述したガラスフィルム1に対して、ガラス基材10の表面に透明導電膜を形成することによって透明導電性フィルム3を形成することができる。ガスバリヤ性の優れた導電性のフィルムロールを実現できる。
【0041】
透明導電膜30の例として、ITO層31,Ag層32,ITO層33の3層を順次積層してなる積層膜を
図2に示す。
ITO層31、Ag層32、ITO層33は、いずれも導電層として機能するが、特にAg層32は導電性の良好なAgを主成分とする合金からなる透明層であって、導電性に優れている。
【0042】
Agは、基本的に低抵抗率を有するが、Ag合金は、Ag単独の材料と比べて、耐熱性、耐腐食性に優れ、長期にわたって良好な電気伝導性を維持できるので好ましい。特に、Ag−Pd−Cu系合金(APC合金)は、AgにPdを添加することによって、耐候性が向上し、さらに、Cuを添加することによって、加熱工程における凝集による表面ラフネスやヒロックを抑制する効果を奏する。
【0043】
また、Ag合金には、Geなどの金属が含まれていてもよく、Geを加えると耐熱性及び耐硫化性が向上する。
Ag層32の膜厚は10〜30nmに調整することが好ましい。
これは、Ag層32の膜厚を10nm以上に設定すれば、Ag層32の表面抵抗(Rs)を10Ω/□以下の低抵抗にすることができ、膜厚を30nm以下にすることによって、Ag層32の光透過性を確保できるからである。
【0044】
ITO層31及びITO層33は、In
2O
3にSnをドープしてなるITOを薄膜状に成形したものである。ITO層31の厚みは20nm〜40nmの範囲内に設定し、表面抵抗は200Ω〜1kΩ/□の範囲内とすることが好ましい。
ITO層31は、ガラス基材10の表面上に直接積層され、ガラス基材10とAg層32との密着を向上させる。ITO層33は、Ag層32を被覆して、Ag層32が大気と触れるのを防止する。
【0045】
このような透明導電性フィルムは、例えば、有機ELディスプレイや有機EL光源の表面にカバーガラスとして貼付けられる。
なお、透明導電膜30は、ガラス基材10の表面に一様に形成されていてもよいが、透明導伝性フィルム3を貼付ける対象となる有機ELディスプレイなどの本体の配線構造に合わせて、透明導電膜30に適宜パターニングを施してもよい。
【0046】
透明導電膜30の形成方法:
ガラス基材10の表面10a上に、Ag層32をITO層31,33で挟んだ構造の透明導電膜30を成膜する方法について以下に説明する。
スパッタリング装置を用いて、ブロッキング防止層20付きのガラス基材10の表面10a上に、ITO層31を成膜する。
【0047】
具体的には、ターゲットには、酸化インジウム(In
2O
3)と酸化錫(SnO
2)とを混合して焼結させたセラミックターゲットを用い、チャンバー内を減圧すると共にアルゴンガスと酸素ガスを流し、電圧を印加してプラズマを生成しながら、ブロッキング防止層20付きのガラス基材10を通過させることによって、ガラス基材10の表面10a上にITOがスパッタリングされてITO層31が形成される。ITO層31の厚みは20nm〜40nmに調整する。
【0048】
次に、スパッタリング装置を用いて、ITO層31の上にAg層32を形成する。
具体的には、ターゲットとしてAg合金を用い、アルゴンガスを流し、プラズマを生成しながら、ブロッキング防止層20付きのガラス基材10を通過させることによって、ITO層31上にAg層32を形成する。Ag層32の厚みは10〜30nmに調整する。
次に、Ag層32の上にITO層33を形成する。このITO層33は、ITO層31の成膜方法と同様にして形成することができる。
【0049】
以上のようにして、ブロッキング防止層20を形成したガラス基材10の表面10aに、3層積層構造の透明導電膜30を成膜することができる。
ITO層31の成膜工程、Ag層32の成膜工程、ITO層33は連続して行うことが好ましい。
ITO層31,33を形成するのに、スパッタリング法の他に、EB蒸着法、イオンプレーティング、CVD法などを用いてもよく、また、Ag層32を成膜するのにも、EB蒸着法やイオンプレーティング法などを用いてもよい。
【0050】
なお透明導電膜30は、ITO層31/Ag層32/ITO層33で形成したが、ITO層31,33の代わりに、アンチモン添加酸化鉛、フッ素添加酸化錫、アルミニウム添加酸化亜鉛(AZO等)、ガリウム添加酸化亜鉛(GZO等)、シリコン添加酸化亜鉛、チタン添加酸化インジウム系(ITiO)、酸化亜鉛−酸化錫系(ZnO等)、スズ酸化物(SnO
2等)、タングステン添加酸化インジウム(IWO等)などの酸化物からなる1対の薄膜で、銀合金層を挟んでも、同様に透明性及び導電性の優れた透明導電膜を形成できる。
【0051】
また、銀合金層を挟み込む1対の酸化物薄膜は、必ずしも同じ種類の酸化物で形成されていなくてもよく、別々の種類の酸化物で形成されていてもよい。例えば、ITO層とZnO層で銀合金層を挟み込んで、透明導電膜30を形成してもよい。
また、Ag層32として純銀からなる銀層を形成してもよい。
[透明導電性フィルム3による効果]
透明導電性フィルム3のロール体においても、ガラス基材10同士の間にはブロッキング防止層20が介在するので、同様にブロッキング防止効果を奏する。
【0052】
ロール状に巻回された透明導電性フィルム3を繰り出すときにも、スムースに繰り出すことができ、破損も生じにくい。
さらに、透明導電性フィルム3においては、透明導電膜30が、ITO層31/Ag層32/ITO層33が積層された積層構造なので、Ag層32によって優れた導電性を得ることができる。
【0053】
また、Ag層32がITO層31とITO層33によって挟まれているので、Ag層32の安定性も良好である。
また、透明導電膜30のITO層31が、ガラス基材10の表面と直接接触しているので、透明導電膜30とガラス基材10との密着性も良好である。
さらに、透明導電膜30は積層構造であるため、光干渉効果(基材表面に屈折率の異なる層を形成して各層の境界面での反射光の干渉効果)を利用して反射光を打ち消し合うように設計することができ、それによって良好な透明性が得られる。
【0054】
ブロッキング防止層20が、熱硬化性樹脂21と微粒子22とからなり、耐熱性を有するので、透明導電膜30を成膜する工程を250℃〜300℃程度の高温で行うこともできる。従って、ITO層31,33、Ag層32の膜厚が数十nmと薄くても、導電性の良好な透明導電膜30を製膜することができる。
なお、上記透明導電膜30は、ITO層とAg層の積層構造としているが、所定の透明性及び抵抗を有するものであれば特に限定されず、透明導電膜30はITO層単独で形成することもできる。また、ガラス基材10と透明導電膜30の間に、密着性や光特性を改善するためのアンダーコート層などを設けてもよい。
【0055】
[実施例]
ガラス基材10として、厚さ50μmの無アルカリガラス薄板を用い、ガラス基材10の表面上に、各種塗工液を塗布してブロッキング防止層20を形成して、実施例及び比較例にかかるガラスフィルムのサンプルを作製した。そして、作製した各サンプルついて、各種試験を行った
図3は、作製したガラスフィルムのサンプル(No.1〜No.21)に関して、ブロッキング防止層の構成、並びに各種試験の結果を示す表である。
【0056】
No.4〜21においては、塗工液の熱硬化性樹脂として、シロキサン系縮合物(Siloxane Oligomer)、日本精化株式会社の機能性コーティング剤「NSC−2451(商品名)」を用いた。微粒子(フィラー)として、CIKナノテック社製NanoTek Slurry(SiO
2 ナノ粒子(平均粒子径 100nm)の15wt%イソプロピルアルコール(IPA)スラリー)を用いた。
【0057】
そして、熱硬化性樹脂の液に対して、前記の微粒子の分散液を所定の割合で添加し混合することによって、塗工液を作製した。
塗工液中の微粒子(フィラー)分散液の含有量は、0.1wt%、0.25wt%、0.5wt%、0.75wt%、1.0wt%の各値に設定した。
これら各塗工液が乾燥して塗膜になると、塗膜に含まれる微粒子固形分の重量の割合は、0.05wt%、0.13wt%、0.27wt%、0.40wt%、0.54wt%となる。なお、比較例用として微粒子を添加しない塗工液(微粒子添加量0wt%)も作製した。
【0058】
これらの微粒子添加量を変えた各塗工液を、ガラス基材の表面にマイヤーバーで塗布した。使用したマイヤーバーの番手は#12と#8と#4である。表3に示すように、サンプルNo.4〜9は#12のマイヤーバー、サンプルNo.10〜15は#8のマイヤーバー、サンプルNo.16〜21は#4のマイヤーバーで塗布した。
そして、塗布した塗膜を、120℃で90秒間乾燥して熱硬化させることによってブロッキング防止層20を形成した。
【0059】
使用するマイヤーバーの番手#が大きいほど、形成されるブロッキング防止層20の膜厚が大きくなり、#4では膜厚が0.51μm、#8では膜厚が1.68μm、#12では膜厚が2.86μm程度であった。なお、膜厚は分光反射率測定装置MCPD−3000(大塚電子株式会社製)で反射率測定した後、ピークバレイ法にて算出した。
以上のようにしてサンプル4〜21のガラスフィルムを作製した。
【0060】
この他に比較例として、塗工液を塗布していないガラス基材をサンプルNo.1とした。
また、ガラス基材にUV硬化型樹脂(NAB-007、日本ペイント製)を塗布し、乾燥してUV硬化させたサンプルNo.2のガラスフィルム、及びUV硬化型樹脂(Z7521、JSR製)を塗布し、乾燥してUV硬化させたサンプルNo.3のガラスフィルムも作製した。
【0061】
乾燥は60℃で90秒間行い、UV照射は9m/minで移動するテーブル上で行った。
[比較試験]
上記のように作製したサンプル1〜21について、HAZE,透過率,色相b*値を測定した。各測定結果は
図3の表中に示す通りである。
【0062】
1.HAZE値
測定方法:
HAZE(%)は、Td/Tt × 100(Td:拡散透過率、Tt:全光線透過率)で表わされ、日本電色製NHD−5000を用いて、JISK7136に基づいて測定した。
【0063】
測定結果及び考察:
図3に示すHAZE値の測定結果から、フィラー添加量が多いとヘイズ値が大きくなる傾向があることがわかる。
HAZE値が大きいと、ガラスフィルムの曇り度合いが大きいことを示す。ガラスフィルムを有機ELや電子ペーパーなどの表示装置に用いる場合、通常、HAZE値は1.0以下であることが好ましい。
【0064】
その点、ブロッキング防止層の膜厚が1μm〜3μmの範囲内にあるサンプルNo.4〜15は、HAZE値が1.0以下であって良好である。
また、ブロッキング防止層の膜厚が1μm未満であっても、微粒子の添加量が0.13wt%以下と少ないNo.19〜21は、HAZE値が1.0以下であって良好である。
一方、ブロッキング防止層の膜厚が1μm未満で、微粒子の添加量が0.27wt%以上のサンプルNo.16〜18は、HAZE値が1.0を超えている。このようにブロッキング防止層の膜厚が1.0μm未満の場合、微粒子の添加量が多いとHAZE値が高くなる。
【0065】
従って、ブロッキング防止層の膜厚は1μm〜3μmの範囲が好ましいといえる。
2.透過率
透過率(%)は、日本電色製NHD−5000を用いて、JISK7361に基づいて測定した。
測定結果及び考察:
図3に示す透過率の測定結果から、サンプルNo.2は、透過率が90%未満であるが、サンプルNo.3〜21はいずれも、透過率が92%以上で良好である。
【0066】
3.b*値
b*値は、Lab色空間におけるb*値であって、このb*値が小さいと青色味があり、b*値が大きいと黄色味がある。
コニカミノルタ製測色計(CM−3600d)を用いて、JISZ8729に基づいてb*値を測定した(D65光源、10度視野)。
【0067】
ガラスフィルムのb*値は−1.0〜1.0の範囲にあることが求められる。
図3に示すb*値の測定結果から、いずれのサンプルにおいてもb*値は−1.0〜1.の範囲内にあり良好であることがわかる。
4.表面粗さ:
サンプルNo.2〜21について、島津製作所製走査型プローブ顕微鏡(SPM−9600)を用いて、JISB0601−2001に基づいてブロッキング防止層の表面粗さを測定した。サンプルNo.1については、ガラス基材の表面粗さを測定した。
【0068】
図3の表中に、各サンプルの平均粗さRa及び最大高さRzの値を示している。
平均高さRaは、いずれのサンプルにおいても0.005μm〜0.05μmの範囲内にある。
マイヤーバー#4で塗布したサンプルNo.16〜21は、#8,#12で塗布したサンプルNo.4〜15と比べて、平均粗さRaが大きい。これは、ブロッキング防止層の膜厚が小さい方が平均粗さRaが大きくなる傾向があることを示している。
【0069】
図4は、サンプルNo.4〜21について、微粒子含有量と平均高さRzとの関係をグラフに表わしたものである。
図4からわかるように、微粒子含有量が多い方が、最大高さRzが大きくなる傾向を示している。
そして、サンプルNo.4〜21の中、微粒子を含有しているサンプルNo.4〜8,10〜14,16〜20では最大高さRzが0.1μm〜0.7μmの範囲内にあるが、微粒子を含有していないサンプルNo.9,15,21は最大高さRzが0.1μm未満である。
【0070】
5.滑性試験
サンプルNo.4〜21について、ブロッキング防止層の上にガラス基材を積層し、HIDON製表面性測定機Type14FWを使って、静摩擦係数を測定した。接触面積は63.5mm
2、荷重は200gとした。
サンプルNo.1についても同様に静摩擦係数を測定した。
【0071】
図3の表中に、各サンプルの静摩擦係数を測定した結果を示している。
また
図5は、サンプルNo.4〜21について、微粒子含有量と静摩擦係数との関係をグラフに表わしたものである。
図5において(a)はマイヤーバー#12で塗布したサンプルNo.4〜9、(b)はマイヤーバー#8で塗布したサンプルNo.10〜15、(c)はマイヤーバー#4で塗布したサンプルNo.16〜21について示している。
【0072】
ロール状に巻回したガラスフィルムにおいて、ブロッキングを防止してガラスフィルムをスムースに繰り出す上で、この静摩擦係数は1.0以下であることが好ましい。
ブロッキング防止層に微粒子が含有されていないサンプルNo.9,15,21は、静摩擦係数が1.0を超え、No.15では静摩擦係数がかなり大きく、オーバーレンジ(OR)となった。
【0073】
一方、ブロッキング防止層に微粒子が含有されているサンプルNo.4〜8,No.10〜14,No.16〜20は、いずれも、静摩擦係数が1.0以下である。
6.ブロッキングテスト
上記の滑性試験と同様に、各サンプルのブロッキング防止層の上にガラス基材を積層して、接触面積63.5mm
2に荷重200gをかけた状態で、水平方向に200gの外力をかけて、滑りが生じるか否かを観察した。そして、滑りが生じればブロッキング無しとし、滑りが生じなければブロッキング有りと判定した。
【0074】
上記滑性試験で、静摩擦係数が1.0を超えたサンプルNo.9,15,21は、滑りが生じなかったのでブロッキングが有りである。一方、静摩擦係数が1.0以下のサンプルNo.4〜8,No.10〜14,No.16〜20は、滑りが生じたので、ブロッキング無しである。
7.テープ密着試験
サンプルNo.2,3,9,15,21について、テープ密着試験を行った。
【0075】
試験方向はJISK5600に基づいて、各サンプルのブロッキング防止層をクロスカットし、テープ剥離試験を行った。
図3の表中にその結果を示している。
ブロッキング防止層にUV樹脂を用いたサンプルNo.2,3においては、ブロッキング防止層に剥離が生じた。一方、サンプルNo.9,15,21においては、ブロッキング防止層に剥離が生じなかった。
【0076】
熱硬化性樹脂を用いたブロッキング防止層は、ガラス基材との密着性が良好であることを示している。
上記の活性試験、ブロッキングテスト、テープ密着試験の結果から、ブロッキング防止層を、熱硬化性樹脂に微粒子を含有させて構成することによって、ブロッキング防止層の表面とガラス基材表面との間の静摩擦係数を1.0以下にでき、ブロッキング防止に効果があり、密着性も良好であることが確認された。
【0077】
8.耐熱性試験
サンプルNo.2,3,9,15,21,6,12,18について耐熱性試験を行った。
サンプルNo.2,3は、ブロッキング防止層に、UV硬化性樹脂を用い、微粒子を含んでいないものである。
【0078】
サンプルNo.9,15,21は、ブロッキング防止層に熱硬化性樹脂を用い、微粒子を含んでいるものである。
試験方法:
各サンプルについて、マッフル炉(大和科学製、FP−31)を用いて、200℃,250℃,300℃,350℃,400℃の各温度で30分間加熱し、外観の観察、B*値の測定、HAZE値の測定、透過率(%Tr)の測定を行った。
【0079】
図6(a)〜(d)は、その試験結果を示す表であって、加熱温度ごとに測定した結果を示している。
図6(a)に示す外観及び
図6(b)に示すb*値の測定結果によれば、UV硬化性樹脂を用いたNo.2,3では300℃以上で黄変が観察され、b*値も1.0を超えているが、熱硬化性樹脂を用いたNo.9,15,21,6,12,18では、300℃加熱しても黄変は観察されず、b*値も1.0以下である。
【0080】
これより、熱硬化性樹脂は、UV硬化性樹脂と比べて、高温でも黄変しにくいことがわかる。
ただし、熱硬化性樹脂を用いたものでも、膜厚が比較的厚いNo.9,15,6,12においては、350℃以上でクラックの発生が見られ、B*値も上昇した。
図6(c)に示すHAZE値(%)及び
図6(d)に示す透過率%の測定結果によれば、UV硬化性樹脂を用いたNo.2では、300℃以上で加熱したときにHAZE値が1.0を超え、透過率も92%を下回っている。
【0081】
また、UV硬化性樹脂を用いたNo.3では、300℃で加熱したときのHAZE値は1以下であるが、透過率は92%を下回っている。
熱硬化性樹脂を用いたNo.9,15,21,6,12は、300℃で加熱したときにも、HAZE値が1.0以下で、透過率も92%以上である。
なお、
図3において、No.16〜No.18ではHaze値が1.0を超えているのが、これは、熱硬化性樹脂を用い微粒子を含むブロッキング防止層であっても、膜厚が1μm未満と薄いことに起因して表面の凹凸が大きくなっているためと考えられる。
【0082】
以上の耐熱性試験の結果から、ブロッキング防止層のバインダとして熱硬化性樹脂を用いることによって、UV硬化性樹脂を用いる場合よりも、耐熱性が良好な層を形成することができることがわかる。
また、熱硬化樹脂に微粒子を加えてブロッキング防止層を形成するときに、HAZE値1以下に保つために膜厚を1μm以上に設定することが好ましいこともわかる。