(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような下水道システムにおいて、下水道本管74と取付管78との接続部や下水道本管74とマンホール72との接続部においては、経年劣化によりそれぞれの境界部において隙間が生じて地下水が下水道本管74やマンホール72内に流入し、またこれに伴って周囲の土砂も流れ込む状況が生じる。これにより生じる地中の空洞が地面陥没の原因となることから、地下水及び土砂の流入を阻止する対策を施すことが必要である。
【0008】
下水道本管74と取付管78との接続部については、特許文献3に開示されているように、その接続部に跨ってライニング材で被覆する対策が講じられているものの、下水道本管74とマンホール72との接続部については現在まで十分な対策がなされてこなかった。
【0009】
更に、マンホールや下水道本管等が著しく老朽化した場合には、マンホールと下水道本管との接続部だけでなく、その他の部分においても亀裂が生じ地下水や土砂がマンホール内や下水道本管内に流入することから、マンホール及び下水道本管の全域を含む下水道システムを抜本的に補修する方法が求められている。
【0010】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、マンホールと下水道本管との接続部に生じた隙間から地下水や土砂が流入することを防止することができる下水道システムの補修構造及び補修方法を提供することにある。
【0011】
また、本発明の目的は、マンホールと下水道本管との接続部を含む下水道システム全体の抜本的な補修効果が得られる補修構造及び補修方法を提供することにもある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を解決するため、
本発明の下水道システムの補修構造は、
地中に埋設されたマンホールと、該マンホールに接続された下水道本管とを含む下水道システムの補修構造において、前記マンホールと前記下水道本管との接続部を少なくとも含む前記マンホール及び前記下水道本管の内面領域が、一体的に硬化形成されたライニング材で被覆されており、前記硬化形成されたライニング材は、前記マンホールと前記下水道本管との境界部に跨って連続して被覆された第1ライニング材と、前記下水道本管のほぼ全域に亘りその内面を被覆する第2ライニング材と、を有し、前記第1ライニング材の下水道本管側端部と前記第2ライニング材のマンホール側端部が互いに重なる重複部分を有し、該重複部分において前記両端部が密着しており、前記重複部分は、前記第1ライニング材が外側、前記第2ライニング材が内側となって互いに重なっており、前記下水道本管の端部分の内壁の一部が除去された部分を有し、その除去された部分に第1ライニング材が密着していることを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、マンホールと下水道本管との境界部を跨って被覆されたライニング材の存在により、マンホールと下水道本管との接続部に生じた隙間から地下水や土砂がマンホール内や下水道本管内に流入することを阻止することが可能となる。下水道本管全域内面及びマンホール内面に亘って一体に形成された被覆層が形成されるので、マンホールと下水道本管との接続部に隙間が生じている場合だけでなく下水道本管自体も老朽化して亀裂等が生じている場合に、下水道本管領域内においても地下水や土砂の流入を阻止し、下水を円滑に流下させることが可能な抜本的な補修効果を得ることができる。また、第1ライニング材と第2ライニング材はそれぞれの端部で重複密着しているので、高い止水効果を得ることができる。下水道本管内においては上記重複部分において第1ライニング材と第2ライニング材との継ぎ目が生じず、下水道本管内に第2ライニング材を最内側層とした完全な管状構造が形成されるので、下水を更に円滑に流下させることが可能である。
【0018】
本発明の他の態様の下水道システムの補修構造は、
前記第1ライニング材は前記マンホール内面の全領域に被覆されていることを特徴とする。この構成によれば、マンホール自体も老朽化している場合に、マンホールと下水道本管との接続部だけでなく、マンホールの内面の全領域についても被覆層が一体形成され、 万全な補修効果を確保することが可能となる。
【0019】
本発明の他の態様の下水道システムの補修構造は、
前記硬化形成されたライニング材は、ライニング芯材に硬化性樹脂組成物を含浸することにより形成された未硬化状態のライニング材を光又は熱により硬化させるものであり、 前記第1ライニング材の硬化性樹脂組成物と、前記第2ライニング材の硬化性樹脂組成物には、同種の重合性樹脂が用いられていることを特徴とする。
【0020】
この構成によれば、上記重複部分において構造上の一体化だけでなく、硬化形成された第1ライニング材と第2ライニング材との材質的性質も同じものとなるので、優れた止水性及び補修効果を得ることができる。
【0021】
本発明の他の態様の下水道システムの補修構造は、
前記硬化形成されたライニング材に耐震構造が施されていることを特徴とする。この構成によれば、地震や地盤沈下等による地盤変動が発生してもても下水流下機能を維持することができるので、補修効果を長期に亘り確保することが可能となる。
【0022】
本発明の他の態様の下水道システムの補修構造は、
前記耐震構造は、前記下水道本管内面を被覆するライニング材の内側からその全周に亘って形成された溝状の目地と、前記下水道本管内面を被覆するライニング材の内側から前記目地をその全周に亘って密着被覆する筒状被覆体と、を有することを特徴とする。
【0023】
この構成によれば、地盤変動時にライニング材及び下水道本管に歪みが生じた場合には、目地が形成された位置にクラックの発生を誘導させ、目地以外の部分においてはクラックが発生しないようになる。クラックが発生した部位には筒状被覆体が密着して被覆されているので下水の流下機能をそのまま維持することが可能である。
【0024】
請求項
1に記載の下水道システムの補修方法は、
地中に埋設されたマンホールと、該マンホールに接続された下水道本管とを含む下水道システムの補修方法であって、
以下の工程:
(A)前記マンホール内面及び前記下水道本管の前記マンホール側内面に、前記マンホールと前記下水道本管との境界部に跨って未硬化状態の第1ライニング材を密着させる工程;
(B)前記未硬化状態の第1ライニング材のうち前記マンホール内面に密着した部分を硬化する工程;
(C)未硬化状態の管状の第2ライニング材を前記下水道本管内に導入し、該下水道本管内の内面に沿うように密着させると共に、その端部は前記第1ライニング材のうち前記下水道本管内面に密着した部分と重なった状態として重複部分を形成する工程;及び
(D)前記第1ライニング材のうち前記下水道本管内面に密着した部分及び前記第2ライニング材を硬化する工程;
を含むことを特徴とする。
【0025】
この構成によれば、マンホール及び下水道本管の内面領域に硬化形成されたライニング材による補修構造を効率的な作業で形成することが可能である。そして、この作業によれば、第1ライニング材と第2ライニング材との重複部分においては、第1ライニング材が外側、第2ライニング材が内側となり、この状態でライニング材が硬化形成される。したがって、下水道本管領域内では両ライニング材による継ぎ目が生じることなく、下水を滞り無く流下させることが可能である。
【0026】
請求項
2に記載の下水道システムの補修方法は、
工程(D)の後、更に、(E)前記下水道本管内面を被覆するライニング材の内側からその全周に亘り溝状の目地を形成し、前記ライニング材の内側から前記目地をその全周に亘って筒状被覆体で密着被覆する工程を含むことを特徴とする。
【0027】
この構成によれば、ライニング材の内側から目地を形成した後、その目地を筒状被覆体で密着被覆するという作業のみで効果的な耐震構造を得ることができる。そして、地盤変動時にライニング材に歪みが生じた場合には、目地が形成された位置にクラックの発生を誘導させ、目地以外の部分においてはクラックが発生しないようになる。クラックが発生した部位には筒状被覆体が密着して被覆されているので下水の流下機能はそのまま維持することが可能である。
【発明の効果】
【0028】
本発明に係る下水道システムの補修構造及び補修方法によれば、マンホールと下水道本管との接続部に生じる隙間から地下水や土砂がマンホール内や下水道本管内に流入することが阻止され、これにより地中の空洞形成及び地面陥没を防止することが可能となる。また、マンホールや下水道本管も著しく老朽化している場合には、そのマンホールや下水道本管内面についても一体的にライニング材を硬化形成することで、抜本的な補修効果を得ることが可能となり、下水道システムにおいて円滑な下水流下機能を確保することができる。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、図面を参照して本発明を詳細に説明する。補修対象であるマンホールと下水道本管との接続部を含む下水道システムの概略図を
図15に示している。
【0031】
図示のように、下水道システム70は通常、一定間隔ごとに地中に埋設された略垂下方向に延びるマンホール72と、マンホール72に接続された下水道本管74と、汚水や雨水等の下水や雨水を集水する枡76と、枡76から下水道本管74まで連通され枡76に集水された下水を下水道本管74に流入させる取付管78とを有している。下水道本管74は通常、ヒューム管や陶管等の管状単位体を複数個連接することにより構成され、全体として略水平方向に延びるように設けられている。
【0032】
一般に、このようなマンホール72と下水道本管74等を新規に設置する際には、マンホール72と下水道本管74との境界部にモルタル等の隙間埋め剤が注入される等して施されるが、経年劣化によりマンホール72と下水道本管74の境界部80に隙間が生じ、地下水や土砂がマンホール72及び下水道本管74に流入する。本発明はこの隙間からの地下水や土砂の流入を防止し、ひいてはマンホール72及び下水道本管74等が著しく老朽化している場合にはこの老朽化を抜本的に解決する補修構造及び補修方法である。
【0033】
本発明の補修構造は、マンホール72と下水道本管74との接続部を少なくとも含むマンホール72及び下水道本管74の内面領域が、一体的に硬化形成されたライニング材で被覆された補修構造である。以下、本発明の補修構造を形成するための方法(補修方法)について説明する。
【0034】
本発明の下水道システムの補修方法は、以下の工程:
以下の工程:
(A)マンホール72内面及び下水道本管74のマンホール72側内面に、マンホール72と下水道本管74との境界部に跨って未硬化状態の第1ライニング材を密着させる工程;
(B)未硬化状態の第1ライニング材のうちマンホール72内面に密着された部分を硬化する工程;
(C)未硬化状態の管状の第2ライニング材を下水道本管74内に導入し、下水道本管74内の内面に沿うように密着させると共に、その端部は第1ライニング材のうち下水道本管74内面に密着した部分と重なった状態として重複部分を形成する工程;及び
(D)第1ライニング材のうち下水道本管74内面に密着した部分及び第2ライニング材を硬化する工程;
を含む。以下、それぞれの工程について詳細に説明する。
【0035】
<工程(A)>
図1は工程(A)の説明図であり、
図2は
図1の要部拡大図である。工程(A)では、マンホール72内面及び下水道本管74のマンホール72側内面に、マンホール72と下水道本管74との境界部80(
図1参照)に跨って未硬化状態の第1ライニング材12を密着させる。
図2において、符号12aは第1ライニング材12のマンホール72内面に密着した部分(以下、単に「部分12a」とも称する。)であり、符号12bは第1ライニング材12の下水道本管74端部内面に密着した部分(以下、単に「部分12b」とも称する。)である。
【0036】
硬化前の第1ライニング材12及び後述する第2ライニング材22は通常、
図3の部分断面図に示すように、ベースとなるライニング芯材に硬化性樹脂組成物を含浸させてなる硬化層32と、硬化層32の表裏両面に設けられたインナーフィルム34とアウターフィルム36とを有しており、粘着性の高い硬化層32がインナーフィルム34とアウターフィルム36で覆われた構成とされている。
【0037】
通常、アウターフィルム34及びインナーフィルム36には、必要に応じてナイロンで補強加工されたポリエチレンフィルム等が使用される。硬化層32のライニング芯材としてはガラス繊維やポリエステル繊維、フェルト等の繊維材を使用することができる。硬化層32の厚さは通常3〜20mmである。
【0038】
第1ライニング材12を上記箇所に密着させる方法としては、例えば、帯状のライニング材を複数枚用意し、マンホール72内面に互いの隙間が生じないように並べて貼り付ける作業を行う方法を採用することができる。特に、マンホール72と下水道本管74の接続部においてはその境界部を跨るように帯状のライニング材を密着させる。第1ライニング材12の下水道本管74のマンホール72側内面に密着される部分12bの長さは、例えば10〜20cmである。
【0039】
第1ライニング材12が上記インナーフィルム34及びアウターフィルム36を有する場合、マンホール72及び下水道本管74の内面に密着させる前にアウターフィルム36を剥離し、硬化層32の粘着性表面を露出した状態として、その粘着性表面をマンホール12内面及び下水道本管74のマンホール72側内面に密着させることができる。あるいは、アウターフィルム36を剥離せずに、第1ライニング材12をそのままマンホール72内面に押し付けた後、ピンをマンホール72に打ち付けたり、拡径式リングバンドを上下に所定間隔で設ける等して密着させることもできる。拡径式リングバンドは、例えば、可撓性を有する細長状の板状体を環状とし、その状態で対向する対称傾斜端部に楔形状の固定部材を介在させることによってその環状が拡径した状態で維持できるものである。第1ライニング材12が光硬化性の場合には、拡径式リングバンドを構成する板状体及び固定部材には透明プラスチック製のものを使用する。マンホール72内面には必要に応じて接着剤を塗布してもよい。
【0040】
本実施の形態では、第1ライニング材12によってマンホール72の内面の全領域が覆われている。これにより、マンホール72と下水道本管74との接続部と同時にマンホール72自体も補修可能である。
【0041】
以上のようにして工程(A)が完了する。
【0042】
<工程(B)>
図4は工程(B)の説明図であり、
図5は
図4の要部拡大図である。工程(B)では、工程(A)で密着させた第1ライニング材12のうちマンホール72内面に密着した部分12a(
図2参照)を硬化する作業を行う。すなわち、工程(B)では、工程(A)で密着させた第1ライニング材12のうち下水道本管74内面に密着した部分12b(
図2参照)は硬化せず、マンホール72内面に密着した部分12a(
図2参照)のみ硬化を行う。
【0043】
硬化作業前においては、第1ライニング材12の部分12bの内側にパッカー82を設置する。パッカー82は第1ライニング材12の部分12bの硬化を防ぐ硬化阻止部材としての役割を有する。パッカー82としては気体等の流体(空気等)を内部に供給することにより膨張するゴム製の袋体を使用することができる。
【0044】
次に、マンホール72内に、流体を内部に供給することにより膨張する袋体84を導入する。袋体84の膨張は、袋体84をマンホール72内部に導入してから袋体84の上部を密閉具86で密閉し、密閉具86の流体供給用孔部(図示せず)からホース88を介して気体等の流体を供給することにより行う。袋体84を膨張させることにより第1ライニング材12の部分12a(
図2参照)をマンホール72内面に圧着させる。
【0045】
次に第1ライニング材12の硬化作業を行うが、第1ライニング材12が光硬化性か熱硬化性によって硬化方法が異なるためそれぞれ説明する。
図4は光硬化性のライニング材を使用した場合の硬化方法を示しており、袋体84の内部に予め導入しておいた光照射装置90から第1ライニング材12の部分12a(
図2参照)に対して光照射を行う。本実施の形態では、光照射装置90は複数のランプ91を直列に連結させて構成した光照射装置を示している。光照射装置90による光照射により第1ライニング材12の部分12aが硬化し、マンホール72内面に硬化形成された第1ライニング材12による被覆層が形成される。なお、第1ライニング材12が光硬化性の場合には袋体84は光透過性の材質であることが必要である。例えば、シリコンゴム等で形成された袋体を使用することができる。
【0046】
一方、第1ライニング材12が熱硬化性の場合には、袋体84の内部に加熱媒体を導入して第1ライニング材12を加熱する。この場合、袋体84の膨張させるために使用する流体として加熱媒体を利用することにより上記膨張作業と加熱作業を同時に行うことができる。加熱媒体としては蒸気や熱水等を採用することができる。加熱温度は熱硬化性樹脂組成物に含まれる熱開始剤の反応温度以上であればよく、例えば60℃〜85℃である。
【0047】
また、第1ライニング材の部分12bが上記硬化作業で硬化しないようにするため、下水道本管12内に設置されたパッカー82は、第1ライニング材が光硬化性の場合には光非透過性の材質を用いて作製されたパッカーを使用し、第1ライニング材が熱硬化性の場合にはパッカー82を膨張させる流体として熱伝導性の低い流体を使用する。熱伝導性の低い流体としては空気等を使用することができる。
【0048】
このような硬化阻止措置を講じても第1ライニング材12の下水道本管74に密着した部分12bは、上記硬化作業によって付随的にその一部が硬化する場合があるが、全部が完全に硬化することはない。すなわち、第1ライニング材の部分12aの硬化作業を行った状態では、第1ライニング材の部分12bは、全く硬化していないか一部が硬化している半硬化の状態である。
【0049】
以上の硬化作業により第1ライニング材の部分12aの硬化作業が完了する。第1ライニング材12がインナーフィルムを備えるタイプの場合には硬化作業後にインナーフィルムを剥離する。
【0050】
<工程(C)>
図6は工程(C)において第2ライニング材22の導入動作を示す説明図である。工程(C)では、未硬化状態の管状の第2ライニング材22を下水道本管74内に導入し、下水道本管74内の内面に沿うように密着させると共に、その端部は第1ライニング材12のうち下水道本管74内面に密着した部分12b(
図2参照)と重なった状態として重複部分を形成する。
【0051】
下水道本管74を被覆する第2ライニング材22は管状に形成されたライニング材である。第2ライニング材22はその外径が下水道本管74の内径にほぼ一致するように形成されたものを使用する。第2ライニング材22の下水道本管74内への導入は、従来から用いられている反転方式や引き込み方式で行うことができる。
図6では引き込み方式を示しており、ロープ等の牽引材94によって未硬化状態の第2ライニング材22を下水道本管74内に引き込んで導入する。
【0052】
一方、反転方式は、下水道本管74の一端から未硬化状態の第2ライニング材を同端部から供給される圧搾空気により順次反転させつつ膨張させて下水道本管74の内面に押圧し、他端までこの作業を行うものである。
【0053】
そして、第2ライニング材22を下水道本管74内に導入にした後、第2ライニング材22を下水道本管74の内面に密着させる作業を行う。この密着作業は、
図7に示されているように、導入された第2ライニング材22の両端に密閉部材86を設け、これにより形成された第2ライニング材22の密閉空間に圧搾空気を供給することにより行うことができる。
【0054】
第2ライニング材22の長さは、補修対象の下水道本管74の全長以上であり、余剰部分が生じる場合には下記硬化作業後に切断して管口処理する。下水道本管74に密着させる作業を行った後、第2ライニング材22はその端部が、第1ライニング材12の下水道本管74の内面に密着され且つ上記工程(B)では硬化されなかった部分12b(
図2参照)と重なる重複部分となる。すなわち、この重複部分は第1ライニング材12が外側、第2ライニング材22が内側となって重ねられている。
【0055】
第2ライニング材22が上記したアウターフィルムを有する場合、アウターフィルムは剥離せずにそのまま下水道本管74内面に密着させてもよいし、第1ライニング材12と重複する部分について剥離した後に密着させてもよい。剥離しない場合には、第1ライニング材12と第2ライニング材22の重複部分においては、これらの間にアウターフィルムが介在している状態である。アウターフィルムが介在していても硬化後の樹脂はアウターフィルムと密着状態となるので重複部分において両者は一体的に硬化形成されたものとなる。この場合、アウターフィルムは硬化後の樹脂と密着性の良好なものを使用することが好ましく、その例としてはポリウレタン系のフィルムが挙げられる。一方、第1ライニング材12と重複する部分を剥離した場合には、重複部分における第1ライニング材12と第2ライニング材22の境界がなくなり、硬化後の両ライニング材の機械的強度及び止水性が更に向上する。なお、アウターフィルムを剥離する場合には、上記重複する部分のうち少なくとも一部を剥離すればよい。好ましくは、第1ライニング材の部分12bの面積の30%以上に相当する第2ライニング材22の対応部分が剥離されていることが有利である。
【0056】
以上のようにして工程(C)が完了する。
【0057】
<工程(D)>
図7は工程(D)の説明図であり、
図8は
図7の要部拡大図である。工程(D)では、第1ライニング材12のうち下水道本管74内面に密着した部分12b(
図2参照)及び第2ライニング材22を硬化する作業を行う。
【0058】
第2ライニング材22が光硬化性の場合には光照射装置92を使用して第2ライニング材22の内側から光照射を行う。
図7に示されているように、光照射装置92としては複数のランプ93が列をなすように連結されたランプトレインを使用することができる。牽引材96で光照射装置92を牽引して走行させながら第2ライニング材22に対して光照射を行う。
【0059】
第2ライニング材22が熱硬化性の場合には上述した密閉空間内に加熱媒体を供給することにより加熱を行う。加熱媒体としては蒸気や熱水等を用いることができ、加熱温度は通常60〜85℃である。
【0060】
以上の硬化作業により、第1ライニング材の部分12b及び第2ライニング材22の全体を硬化させる。これにより、第1ライニング材の部分12bと第2ライニング材22との重複部分は密着状態で硬化形成される。
【0061】
ところで、硬化前のライニング材の硬化性樹脂組成物は通常粘性を有する流動性のある組成物であるため、上記第1ライニング材12と第2ライニング材22との重複部分は、第2ライニング材22の上記密閉空間内に圧縮空気を供給して下水道本管74内面に密着させる過程でその圧力により重複部分の樹脂組成物が他の部分へと流動し、重複部分の厚さとその他の部分の厚さはほぼ均一となる。
【0062】
第1ライニング材12と第2ライニング材22の硬化性樹脂組成物には通常、重合性樹脂、重合性単量体及び重合開始剤が含まれる。重合性樹脂としては不飽和ポリエステル樹脂やビニルエステル樹脂を使用することができる。重合性単量体としてはスチレンやビニルトルエン等を使用することができる。開始剤としては光硬化性樹脂組成物の場合にはアゾ化合物等の光開始剤を、熱硬化性樹脂組成物の場合には有機過酸化物等の熱開始剤を使用することができる。
【0063】
上記した第1ライニング材12と第2ライニング材22に含まれる硬化性樹脂組成物には同種の重合性樹脂が用いられていることが好ましい。同種の重合性樹脂を使用することにより、第1ライニング材と第2ライニング材は硬化後において材質的にも一体化する。本発明において、同種の重合性樹脂とは、例えば、不飽和ポリエステル樹脂同士、ビニルエステル樹脂同士等のことをいう。
【0064】
以上説明した工程(A)〜(D)によってマンホール72及び下水道本管74の接続部を含むマンホール72及び下水道本管74の内面領域が一体的に硬化形成されたライニング材12,22で被覆される。第1ライニング材12はマンホール72と下水道本管74との境界部に跨って連続して被覆され、第2ライニング材22は下水道本管74のほぼ全域に亘りその内面を被覆しており、第1ライニング材12の下水道本管74側端部と第2ライニング材22のマンホール72側端部とが互いに重なる重複部分を有していることにより、両ライニング材は一体的に硬化形成されている。
【0065】
したがって、マンホール72と下水道本管74との接続部に隙間が生じていても、硬化形成されたライニング材12,22によって地下水や土砂の流入が阻止される。これにより、地下水や土砂の流入を起因とする地下空洞の形成及び地面陥没を未然に防止することが可能である。また、本実施の形態では、マンホール72内面の全領域及び下水道本管74内面の全領域がライニング材12、22で被覆されているので、下水道システム全体の抜本的な補修効果が得られている。
【0066】
なお、第1ライニング材12と第2ライニング材22は、上述した例に示した構造だけでなく、
図9に示すような構造としてもよい。すなわち、
図9に示した例では、事前に下水道本管74の端部分の内壁の一部を内側から切削する等して除去し、その除去した部分に第1ライニング材12の部分12aを密着させ、次いでその内側に第2ライニング材22を硬化形成している。これにより、第1ライニング材12と第2ライニング材22との重複部分において段差が生じず、第2ライニング材22による管状被覆層が良好に形成される。
【0067】
<その他>
本発明の下水道システムの補修構造は、一体的に硬化形成されたライニング材12,22に耐震構造が施されていることが好ましい。地震や地盤沈下などの地盤変動によってライニング材内部に生じる歪みに対応することができ、長期に渡り安定した補修効果を得ることが可能となる。
【0068】
耐震構造の形成は、上記工程(D)の後、(E)下水道本管74内面を被覆するライニング材12,22の内側からその全周に亘り溝状の目地を形成し、ライニング材12,22の内側からその目地をその全周に亘って筒状被覆体で密着被覆することにより行うことができる。
【0069】
図10は耐震構造を形成するのに使用する筒状被覆体の分解斜視図であり、
図11は筒状被覆体を設置した断面図である。
【0070】
図11に示すように、先ずマンホール72と下水道本管74との接続部近傍において、第2ライニング材22の内面22aの全周に亘って、溝状の目地40を切削等により形成し、目地40をその全周に亘って覆うように
図10に示す筒状被覆体48で密着被覆する。目地40の形成位置は、下水道本管74の端部から通常50〜80cmであり、誘導目地40の深さは、硬化形成した第2ライニング材22の内面から下水道本管74の一部まで達している。
【0071】
図10に示すように、筒状被覆体48は、所定の厚みを有する可撓性材料で形成された環状シート部材42と、環状シート部材42の内側から拡径するスリーブ44と、スリーブ44の拡径状態を固定する固定部材46とを有するものである。
【0072】
筒状被覆体48での耐震構造の形成作業を具体的に説明する。まず、目地40に必要に応じて密閉用部材を充填した後、筒状被覆体48の環状シート部材42を第2ライニング材22内に搬入し、目地40がカバーされるように位置させる。環状シート部材42はその外側面の両端縁部42a、42bに全周に亘って突起部43を有しており、スリーブ44を、両突起部43の間に目地40を位置させた状態の環状シート部材42の内側から拡径し、環状シート部材42を第2ライニング材22の内周面に押圧する。
【0073】
ここで、スリーブ44は、1枚の可撓性を有する板部材が環状となるように湾曲されて形成され、その端部同士が対向する部分44a、44b間に形成される隙間に挿入される楔形状を有する固定部材46とで構成されている。なお、
図10において挿入前の固定部材46は仮想線で、挿入後の固定部材46は実線で示している。スリーブ44を拡径するときは、スリーブ44の上記隙間に固定部材46をそのまま介在させることによりスリーブ44の拡径状態が維持される。
【0074】
本実施の形態では、スリーブ44は一枚の可撓性板部材が環状に湾曲されて形成された例を示しているが、これに限られず、複数枚、例えば3枚の板部材を周方向に並べて環状に形成する方法としてもよい。この場合には、形成される三か所の隙間にそれぞれ固定部材が挿入される。
【0075】
なお、目地40に必要に応じて充填する密閉用部材としては、合成樹脂等の充填材やゴムリングが挙げられる。また、目地40は、このような密閉用部材が存在しない状態であってもよい。スリーブ44の材質としては、例えばステンレスや樹脂(特に繊維強化プラスチック(FRP))等を用いることができ、環状シート部材42の材質としては例えばゴムやウレタン等が挙げられる。
【0076】
また、符号47で示した部材は当板部材であり、平板状の略長方形形状を有している。当板部材47は、端部44a、44bで形成される隙間において、その隙間から環状シート部材42がスリーブ44の内側にはみ出すのを防止等するものである。当板部材47は、スリーブ44と環状シート部材42との間に必要に応じて装着される。
【0077】
このような耐震構造を施すことで次のような効果が生じる。目地40が設けられた位置において第2ライニング材22が切断され且つ下水道本管74の厚さが薄くなっているので、その部分の強度は他の部分よりも弱められており、クラックは目地40が設けられた位置において第2ライニング材22及び下水道本管74の厚さ方向に発生する。このクラックは、第2ライニング材22及び下水道本管74に対してマンホールが動くことに起因して発生したものであるので、一旦、目地40の部位にクラックが発生すると、マンホール72側と第2ライニング材22及び下水道本管74側が切り離された状態となり、地震等の地殻変動にも、別々の動きが可能となるため、第2ライニング材22及び下水道本管74の他の部位でのクラックの発生は防止される。すなわち、目地40がクラックの発生を誘導したことになる。
【0078】
そして、目地40においてクラックが発生しても、筒状被覆体48が目地40と目地40付近のライニング材22の内周面22aを被覆している。すなわち、環状シート部材42がライニング材22内周面22aをシールして、クラックが発生したライニング材22及び下水道本管74を補修した状態となる。したがって、クラックを介してライニング材22内部の流水がライニング材22の外部に漏れ、或いはライニング材22の外部の地下水や土砂等が、ライニング材22内部に浸入することを防止することができる。そのため、地震などの地盤変動が発生しても、補修構造の下水流下機能を維持することが可能である。
【0079】
本発明の下水道システムの補修方法は、取付管78の内面及び取付管78と下水道本管74との接続部にも別途ライニング材を硬化形成し、上記一体的に硬化形成された第1ライニング材及び第2ライニング材と更に一体化された補修構造としてもよい。これにより、マンホール72や下水道本管74だけでなく、取付管78も著しく老朽化している場合に、下水道システム全体について更なる抜本的な補修構造が得られる。
【0080】
取付管78の内面をライニング材で被覆するには、上記工程(A)〜(D)を行った後(
図7で示した作業を終えた後)、取付管用の管状のライニング材(取付管用ライニング材)を未硬化状態で取付管78内に導入してから取付管78の内面に沿うように取付管用ライニング材を密着させ、次いで加熱又は光照射により取付管用ライニング材を硬化させる。加熱及び光照射は取付管内面をライニング材で被覆するために従来から用いられている手法で行うことができる。これにより取付管78内面が取付管用ライニング材で被覆される。取付管用ライニング材は、上記第1ライニング材及び第2ライニング材と同様にライニング芯材に硬化性樹脂組成物が含浸されたものを使用することができる。
【0081】
次に、下水道本管74と取付管78との接続部でのライニング材硬化形成作業を行う。この補修を行うために、
図12に示す接続部補修材52を予め制作する。接続部補修材52は下水道本管用筒状部54と取付管用筒状部56とから構成され、何れの筒状体54,56も帯材を筒状に巻いて形成されるものである。帯材は上記のライニング材と同じように、ライニング芯材に硬化性樹脂組成物が含浸されたものが使用される。取付管用筒状部56は、下水道本管用筒状部54の中央部に形成された孔部54aを起端として外方に突き出し、下端に形成されたフランジ部56aが下水道本管用筒状部54の内周面に接着乃至縫着されることによって、下水道本管用筒状部54に取り付けられている。
【0082】
このように形成した接続部補修材52を、下水道本管74と取付管78の内面に硬化形成した第2ライニング材22及び取付管用ライニング材58(
図14に図示)の内面に固着するために、
図13で示す補修装置60が使用される。この補修装置60は、半径方向に膨張・収縮可能なゴム材よりなる第一筒状部62と、第一筒状部62の軸方向中間部で第一筒状部の半径方向外方にT字状またはト字状に突出した形状とされている膨張・収縮可能なゴム材よりなる第ニ筒状部64とを主体として構成されるものであり、第一筒状部62はその両端にて一対の側蓋66にて密閉され、第一筒状部62及び第二筒状部の内部に圧縮空気を出入り自在に送る空気などの流体導入管68が設けられ、更に補修装置60自体を移動可能とする走行手段69とを有している。
【0083】
第一筒状部62は、上記接続部補修材52の下水道本管用筒状部54をその外周部に巻きつけた状態に保持し、第ニ筒状部64は取付管用筒状部56をその外周部に巻きつけた状態に保持する構成となっている。
【0084】
下水道本管74と取付管78の接続部に上記接続部補修材52を硬化形成する作業について
図14により説明すると、先ず接続部補修材52を上記のように保持した補修装置60が下水道本管74の端部からワイヤー(図示せず)による牽引にて引き入れられ、所定の補修箇所まで移動させる。この時点では、第一筒状部62及び第ニ筒状部64は共に圧縮空気を送られていない状態にあり、特に第一筒状部62は半径方向に座屈した状態にあるので、第ニ筒状部64に遊嵌されている取付管用筒状部56は第2ライニング材22の内径の範囲内に後退しており、接続部補修材52を被装した補修装置60は支障なく下水道本管74内を走行することができる。
【0085】
補修箇所に到達後、第ニ筒状部64の軸線を取付管78の軸線に整合させ、次いで第一筒状部62及び第ニ筒状部64の内部に流体導入管68を介して圧縮空気を供給し、これらを膨張させて、下水道本管用筒状部54及び取付管用筒状部56をそれぞれ下水道本管74の第2ライニング材22及び取付管用ライニング材58の内面に圧着する。次いで、補修装置60内部に設けられた光照射手段又は加熱手段(図示せず)で光照射又は加熱することにより、下水道本管用筒状部54及び取付管用筒状部56の樹脂組成物を硬化させる。これにより、それぞれ第2ライニング材22及び取付管用ライニング材58の接続部近傍の内面領域に一体的に硬化形成されたライニング材が得られる。硬化形成後、第一筒状部62及び第ニ筒状部64内部の圧縮空気は放出される。なお、上記補修装置60の光照射手段はその内部に光照射ランプを設置することで構成でき、上記加熱手段としては、第一筒状部62及び第ニ筒状部64を膨張させるための流体として蒸気を使用したり、加熱用赤外線ランプ等を補修装置60の内部に設置する等して構成することができる。
【0086】
以上説明した本発明の補修方法によれば、下水道本管74と取付管78との接続部をも含む下水道システム全体について、一体的に硬化形成されたライニング材が形成された下水道システムの補修構造が得られる。
【0087】
なお、本発明は、上述の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変更が可能である。