特許第6068094号(P6068094)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6068094
(24)【登録日】2017年1月6日
(45)【発行日】2017年1月25日
(54)【発明の名称】手袋
(51)【国際特許分類】
   A41D 19/00 20060101AFI20170116BHJP
   A41D 19/015 20060101ALI20170116BHJP
【FI】
   A41D19/00 P
   A41D19/015 140
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-240080(P2012-240080)
(22)【出願日】2012年10月31日
(65)【公開番号】特開2014-88643(P2014-88643A)
(43)【公開日】2014年5月15日
【審査請求日】2015年10月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】591161900
【氏名又は名称】ショーワグローブ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076820
【弁理士】
【氏名又は名称】伊丹 健次
(74)【代理人】
【識別番号】100150326
【弁理士】
【氏名又は名称】樋口 知久
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 亮
(72)【発明者】
【氏名】上月 光大
【審査官】 ▲高▼辻 将人
(56)【参考文献】
【文献】 特表2009−525411(JP,A)
【文献】 特開2011−032590(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41D19/00−19/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維製手袋の表面に合成ゴムまたは樹脂の被覆層が形成された手袋であって、合成ゴムまたは樹脂の固形分100重量部に対し、二酸化チタン、二酸化ケイ素、二酸化ジルコニウムから選択される少なくとも1種であるクラック防止剤を1.0重量部以上含む合成ゴムまたは樹脂のラテックスを用い、凝固剤として有機酸系凝固剤を用い、酸凝固法により繊維製手袋の表面に合成ゴムまたは樹脂の被覆層が形成され、該被覆層の厚みが300μm以下であり、かつ、該被覆層にクラックが形成されておらず、European Standard EN374−3の方法に準じた硫酸の透過試験において、硫酸透過時間が5分以上であることを特徴とする手袋。
【請求項2】
European Standard EN374−3の方法に準じた硫酸の透過試験において、硫酸透過時間が20分以上であることを特徴とする請求項1記載の手袋。
【請求項3】
European Standard EN374−3の方法に準じた硫酸の透過試験において、硫酸透過時間が30分以上であることを特徴とする請求項1記載の手袋。
【請求項4】
被覆層の厚みが200μm以上300μm以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の手袋。
【請求項5】
合成ゴムまたは樹脂の被覆層が繊維製手袋の全面に形成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の手袋
【請求項6】
有機酸系凝固剤が、酢酸、蟻酸、プロピオン酸、クエン酸、シュウ酸から選ばれる少なくとも1種の凝固剤と、水、メタノール、エタノールから選ばれる少なくとも1種の溶媒とからなる請求項1〜のいずれか1項に記載の手袋。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は耐薬品性手袋に関し、更に詳しくは、合成ゴムまたは樹脂からなる被覆層にクラックが形成されず耐薬品透過性に優れた耐薬品性の手袋に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、天然ゴム、合成ゴム(NBR系、SBR系、クロロプレン系、シリコーン系)などが繊維製手袋上に被覆層が形成された、いわゆるサポート手袋が作業用手袋として使用されている(例えば引用文献1) 。中でも、繊維製手袋を合成ゴムで被覆したサポート手袋は防水性、作業性、耐薬品性等に優れており、家事、食品工業や電子部品製造業などの種々の工業などで幅広く使用されている。近年では、硫酸などの危険性の高い薬品に対して優れた耐透過性を有するハイスペックな手袋を求める声が高まっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012−77416号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、合成ゴムを被覆する方法としては、ラテックスを塩によってゲル化させる、いわゆる塩凝固法が一般的であるが、従来の塩凝固法により合成ゴムを繊維製手袋上に被覆すると、合成ゴムからなる被膜にクラックが発生することがある。また、ラテックスから手形を引き上げる際に、漿液が指先部から流出し被膜に穴が開く場合があり、均一な被膜を形成するのが困難である。
【0005】
さらに、十分な耐薬品性を付与するために厚い被膜を形成する必要があり、そのためには硝酸カルシウム等の凝集力が強い凝固剤を高濃度で使用することが考えられるが、繊維製手袋をこのような凝固剤に浸漬する場合は、繊維製手袋が一部溶解するなどの問題が発生する。
このような問題を解決するには、低濃度の凝固剤を用い、被覆工程を複数回繰り返して薄い被膜を複数層積層することにより、必要な厚みを得ることが考えられる。しかしながら、このような被膜は層間剥離が生じやすく、また、膜厚が均一な被膜を形成しにくいという問題がある。
【0006】
本発明は、上記従来の耐薬品性手袋の問題を解決し、被膜にクラックが形成されず、複数層積層した場合でも被膜が剥離しにくく、膜厚が均一なサポートタイプの耐薬品透過性に優れた耐薬品性手袋を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、被膜に形成されるクラックについて検討した結果、クラックには容易に目視できる程度の大きなクラック(以下、溝クラックと称す)と、引き伸ばして初めて目視できるような小さなクラック(以下、ささくれクラックと称す)の2種類のがあることを知見した。
【0008】
本発明者らはかかるクラックの発生を防止するべく鋭意研究の結果、合成ゴムまたは樹脂のラテックスに所定量のクラック防止剤を配合し、さらに凝固剤として有機酸系凝固剤を使用することにより、クラックの発生、特に溝クラックの発生が抑えられるとともに、膜厚も均一で、耐薬品透過性に優れた耐薬品性の手袋が得られることを見い出した。
【0009】
本発明の特徴は、繊維製手袋の表面に合成ゴムまたは樹脂の被覆層が形成された手袋であって、合成ゴムまたは樹脂の固形分100重量部に対し、二酸化チタン、二酸化ケイ素、二酸化ジルコニウムから選択される少なくとも1種であるクラック防止剤を1.0重量部以上含む合成ゴムまたは樹脂のラテックスを用い、凝固剤として有機酸系凝固剤を用い、酸凝固法により繊維製手袋の表面に合成ゴムまたは樹脂の被覆層が形成され、該被覆層の厚みが300μm以下であり、かつ、該被覆層にクラックが形成されておらず、European Standard EN374−3の方法に準じた硫酸の透過試験において、硫酸透過時間が5分以上である手袋である。
【0010】
本発明の他の特徴は、European Standard EN374−3の方法に準じた硫酸の透過試験において、硫酸透過時間が20分以上である上記手袋である。
【0011】
本発明の他の特徴は、European Standard EN374−3の方法に準じた硫酸の透過試験において、硫酸透過時間が30分以上である上記手袋である。
【0012】
本発明の他の特徴は、被覆層の厚みが200μm以上300μm以下である上記手袋である。
【0013】
本発明の更に他の特徴は、合成ゴムまたは樹脂の被覆層が繊維製手袋の全面に形成されている上記手袋である。
【0016】
本発明の更に他の特徴は、有機酸系凝固剤が、酢酸、蟻酸、プロピオン酸、クエン酸、シュウ酸から選ばれる少なくとも1種の凝固剤と、水、メタノール、エタノールから選ばれる少なくとも1種の溶媒とからなる上記手袋である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、被覆層にクラックが形成されていないので耐薬品透過性に優れており、例えば、European Standard EN374−3の方法に準じた硫酸の透過試験において、硫酸透過時間が5分以上、好ましくは10分以上、更に好ましくは20分以上、特に好ましくは30分以上の耐薬品透過性を有する手袋が提供される。
本発明の手袋は、合成ゴム又は樹脂の固形分100重量部に対してクラック防止剤を1.0重量部以上添加するとともに、凝固剤として有機酸系凝固剤を使用し、酸凝固により合成ゴムまたは樹脂を繊維製手袋上に被覆層が形成されていることにより、クラックの発生を防ぎ、被膜を複数層形成しても層間剥離がなく、膜厚さが均一で、耐薬品透過性に優れている。
本発明の手袋は、特に溝クラックの形成が効果的に防止される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施例1で得られた手袋の表面の顕微鏡写真(200倍)である。
図2】実施例2で得られた手袋の表面の顕微鏡写真(200倍)である。
図3】比較例1で得られた手袋の表面の顕微鏡写真(200倍)である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の手袋は、繊維製手袋の表面に合成ゴムまたは樹脂の被覆層が形成された手袋であって、該被覆層にはクラックが形成されていないことを特徴とする。従って、本発明の手袋は耐薬品透過性に優れており、例えば、European Standard EN374−3の方法に準じた硫酸の透過試験において、硫酸透過時間が5分以上の優れた耐薬品透過性を有する。
【0020】
本発明の手袋は、合成ゴムまたは樹脂の固形分100重量部に対し、クラック防止剤を1.0重量部以上含むラテックスを用い、凝固剤として有機酸系凝固剤を用い、酸凝固法により繊維製手袋上に合成ゴムまたは樹脂の被覆層を形成することにより得られる。
【0021】
本発明において、繊維製手袋には各種繊維のものが適用でき、綿、ポリアミド(ナイロン)、ポリエステル、ポリウレタン、高強度延伸ポリエチレン、例えば、ダイニーマ(登録商標)、アラミド、例えば、ケブラー(登録商標)等、既知のフィラメント糸または紡績糸を単独で、または複合してシームレスで編まれてなる手袋や編布、織布、不織布の縫製による手袋などが使用できる。
【0022】
合成ゴムまたは樹脂としては、ニトリルブタジエンゴム(NBR )、クロロプレンゴム(CR)、アクリル樹脂、スチレンブタジエンゴム(SBR )、イソプレンゴム(IR)、ブチルゴム(IIR )、ポリウレタン樹脂(PU) などが例示できる。これらは一般的には水系分散ラテックスであるが、溶剤系溶液や溶剤系分散液でも使用できる。
【0023】
本発明で使用されるクラック防止剤は4価の元素を有する酸化物であり、好ましくは、二酸化チタン(TiO2)、二酸化ケイ素(SiO2)、二酸化ジルコニウム(ZrO2)等が挙げられ、これらは単独で又は組み合わせて用いられる。クラック防止剤は、合成ゴム又は樹脂の固形分100重量部に対して1.0重量部以上使用される。1.0重量部未満では十分なクラック防止効果が得られない。クラック防止剤の上限は特にないが、十分に効果が得られる点から概ね10重量部以下が好ましく、コンパウンドの安定性から5重量部以下がより好ましく、コストの点から2重量部以下が好ましい。
【0024】
クラック防止剤の種類、形状、粒径は特に限定されないが、粒径については、ゴム配合系等に凝集物を発生させない点から20μm以下が好ましく、10μm以下がより好ましい。また種類や形状については、クラック防止剤が二酸化チタンである場合は結晶構造がルチル型のものが好ましく、二酸化ケイ素である場合は一定の結晶構造を持たない非晶質シリカのうち湿式法で製造されたものが好ましい。
【0025】
本発明の合成ゴムまたは樹脂のラテックスには、必要に応じ、加硫促進剤、硫黄、界面活性剤、老化防止剤、pH調整剤、可塑剤、充填剤等を、1種又は2種以上配合することができる。
【0026】
二酸化チタン及び二酸化ケイ素は充填剤として公知であり、例えば特開2011−32590号公報や特開2011−231448号公報にもラテックスに配合できることが記載されている。二酸化チタンは隠蔽性や他の充填剤をより細かく粉砕して凝集を防止する目的で使用され、また二酸化ケイ素はタレ防止や表面改質、滑り止め性を向上させる目的で使用される。
【0027】
これに対し、本発明におけるこれらの使用目的はクラック防止剤としてであり、単に二酸化チタンや二酸化ケイ素を用いるだけでは本発明のクラック防止効果を得ることができず、凝固剤として有機酸系凝固剤を用い、酸凝固法により合成ゴム又は樹脂を繊維製手袋上に被覆層を形成する必要があり、クラック防止剤と有機酸系凝固剤との相乗効果により本発明の目的とするクラック防止効果が得られる。
【0028】
本発明において凝固剤として使用される有機酸は、酸凝固法により合成ゴムまたは樹脂を凝集できるかぎり特に限定されないが、酢酸、蟻酸、プロピオン酸、クエン酸、シュウ酸等が例示できる。また、これらの有機酸を溶解する溶媒も特に限定されず、通常は水、メタノール、エタノール等が使用されるが、揮発しやすく乾燥させやすい点でメタノールが好ましい。
有機酸と溶媒との割合は、溶媒100重量部に対して有機酸が2〜6重量部であることが好ましい。有機酸が2重量部未満では溝クラックが発生し、一方、6重量部を超えると繊維製手袋から被膜が剥離しやすくなる傾向がある。
【0029】
溶媒が水である場合、凝固剤のpHは2〜2.7が好ましく、2.2〜2.6がより好ましい。pHが2未満では繊維手袋と被覆層との間で剥離しやすくなる傾向があり、一方、2.6を超えると十分な凝固が得らなくなる傾向がある。
溶媒が水でない場合には、溶媒を同じ重量の水に置き換えた場合に、pHが上記の範囲になるようにするのが好ましい。
【0030】
酸凝固法を用いて、繊維製手袋の表面に上記の合成ゴムまたは樹脂の被覆層を形成する方法は特に限定されないが、繊維製手袋を手型に被せ、この手型を有機酸系凝固剤に浸漬してから引き上げて乾燥させ、その後、該手型を合成ゴムまたは樹脂のラテックスに浸漬し一定時間後に引き上げ、乾燥させる方法が例示できる。使用する手型は特に限定されず、金属製、セラミック製、木製、プラスチック製のものなどが使用できる。
【0031】
合成ゴムまたは樹脂のラテックスに浸漬する時間は10〜50秒が好ましく、10〜30秒程度がより好ましい。浸漬時間が10秒未満では膜が薄くなり破れやすくなる傾向が生じ、一方、50秒を超えると膜厚は十分であるにも拘らず耐薬品透過性が劣化する傾向が生じる。長時間の浸漬により形成された被膜の断面を観察すれば、多数の小孔が形成されていることから、この小孔が耐薬品透過性に悪影響を与えていると推察される。なお、小孔が形成される機構は不明である。
なお、被膜層の厚みは好ましくは150μm以上、より好ましくは200μm以上、さらに好ましくは200〜300μmであるが、1回の被覆により得られる被覆層が薄い場合には、被覆工程を複数回繰り返して複数層積層させ所望の厚みの被覆層とすることもできる。
本発明において、被覆層は薬品と接触し易い指先や掌部に部分的に形成してもよいが、より高い安全性のためには手袋の全面に形成するのが好ましい。
【0032】
合成ゴムまたは樹脂の被覆層を形成した後、加熱硬化を行う。加熱硬化の条件は定法でよいが、具体的には100〜150℃で0.15〜1時間が好ましく、より好ましくは120〜140℃で0.25〜0.5時間加熱することにより行う。しかしながら、いきなり上記の条件で加熱すれば手袋に含まれる水分が被膜内で急速に気化して手袋の品質に悪影響を与え、所謂ブリスター現象が発生することがあるため、高温で加熱硬化する前に、60〜90℃で0.5〜1時間、好ましくは60〜80℃で0.5〜0.75時間加熱して、被膜の含水量を低くしておくのが好ましい。
加熱硬化後は脱型し、必要に応じて、水洗、乾燥して本発明の手袋が得られる。
【0033】
本発明の手袋は、必要に応じ、表面の被覆層を発泡させたり、溶解性微粒子を付着させた後溶解除去して凹部を形成する、等の方法により、滑り止め性を付与することもできる。
【0034】
上記の如くして得られる本発明の手袋は、被覆層にクラックが形成されていないため、耐薬品透過性に優れており、例えばEuropean Standard EN374−3の方法に準じた硫酸の透過試験において、硫酸透過時間が5分以上、好ましくは10分以上、更に好ましくは20分以上、特に好ましくは30分以上の耐薬品透過性を有する手袋を得ることが可能である。
【実施例】
【0035】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
【0036】
実施例1
酢酸5重量部、メタノール100重量部からなる凝固剤で満たされた浴槽に、繊維製手袋(13ゲージの編み機で編んだナイロン製のシームレス手袋)を被せたセラミック製手型を浸漬し、5秒後に引き上げた。
この凝固剤に浸漬された手袋を25℃で30秒間乾燥させてから、表1に示す、クラック防止剤としてTiO2 を有する、NBRラテックス配合液の浴槽に約15秒間浸漬し、浴槽から引き上げた後、25℃で7分間乾燥させ、次いで75℃で5分間乾燥させた。その後、乾燥した手袋を50℃の温水中で2分間リーチングし、温水中から引き上げて表面の水滴がなくなるまで乾燥させ、第1層の被膜を形成させた。
第1層の被膜が形成された手袋を、NBRラテックスをLx−551に、増粘剤A−7075の量を0.3重量部に変更した他は表1に示したものと同じラテックス配合液へ5秒間浸漬してから、第1層と同様に乾燥、リーチング、乾燥を再度繰り返して第2層の被膜を形成させた。
続いて、第2層の被膜が形成された手袋を、第2層と同じラテックス配合液の浴槽に約5秒間浸漬し、浴槽から引き上げた後、表面の水滴がなくなるまで乾燥させ、第3層の被膜を形成させた。
さらに、表2に示したNBRラテックス配合液をハンドミキサーで攪拌して、容量が元の容量の1.3倍になるまで発泡させた。このラテックス配合液の浴槽に第3層の被膜が形成された手袋の掌部を約5秒浸漬し、浴槽から引き上げた後、70℃で40分間乾燥させ、その後、手袋を手型から外して25℃の水に浸漬して1時間リーチングを行った。
リーチング後、脱水し、成形用手型に被せ替えて加熱硬化を行った。加熱硬化は当初70℃で60分間加熱した後、130℃で20分間加熱することで行った。加熱硬化後、成形用手型から離型することにより、本発明の手袋を得た。
得られた手袋(発泡層部分を除く)の表面の顕微鏡写真(200倍)を図1に示すが、クラックの発生は全く認められない。
【0037】
実施例2
酢酸5重量部、メタノール100重量部からなる凝固剤で満たされた浴槽に、繊維製手袋(13ゲージの編み機で編んだナイロン製のシームレス手袋)を被せたセラミック製手型を浸漬し、5秒後に引き上げた。
この凝固剤に浸漬された手袋を25℃で30秒間乾燥させてから、表1におけるクラック防止剤TiO2 の部数を1.0に変更したNBRラテックス配合液の浴槽に約15秒間浸漬し、浴槽から引き上げた後、25℃で7分間乾燥させ、次いで75℃で15分間乾燥させた。
さらに、表2に示したNBRラテックス配合液をハンドミキサーで攪拌して、容量が元の容量の1.3倍になるまで発泡させた。このラテックス配合液の浴槽に手袋の掌部を浸漬し、5秒後に引き上げて加熱硬化を行った。加熱硬化は当初70℃で60分間加熱した後、130℃で20分間加熱することで行った。
加熱硬化後、成形用手型から離型することにより、本発明の手袋を得た。
得られた手袋(発泡層部分を除く)の表面の顕微鏡写真(200倍)を図2に示すが、クラックの発生は全く認められない。
【0038】
実施例3
クラック防止剤をTiO2 からSiO2 に変更した以外は、実施例1と同様にして本発明の手袋を得た。
【0039】
実施例4、5
実施例2におけるNBRラテックス配合液への浸漬時間をそれぞれ10秒(実施例4)、30秒(実施例5)として第1層を形成し、表2に示したNBRラテックス配合液への浸漬を実施しなかった以外は、実施例2と同様にして本発明の手袋を得た。
【0040】
実施例6
表1に示したNBRラテックス配合液への浸漬時間を1秒とし、凝固剤中の酢酸の量を3重量部とした以外は、実施例4と同様にして本発明の手袋を得た。
【0041】
比較例1
表1におけるクラック防止剤TiO2 の部数を0.5に変更するとともに、表2に示したNBRラテックス配合液への浸漬を実施しなかった以外は、実施例2と同様にして手袋を得た。
得られた手袋(発泡層部分を除く)の表面の顕微鏡写真(200倍)を図3に示すが、クラックの発生が認められ、繊維製手袋の繊維が露出している。
【0042】
比較例2
有機酸系凝固剤を塩凝固剤(硝酸カルシウム5重量部、メタノール100重量部)に変更した以外は、実施例1と同様にして手袋を得た。
【0043】
比較例3
表1に示したNBRラテックス配合液への浸漬時間を30秒とし第1層を形成した他は、実施例1と同様にして手袋を得た。
【0044】
上記実施例1〜6、比較例1〜3で得られた手袋について、クラックの発生の有無を目視で観察するとともに、クラック未発生部分の被膜の厚みを測定した。厚みの測定は中指先から12cmの甲部分の断面(3cm幅)をマイクロスコープにより観察し、最も被膜厚の小さい箇所を測定することにより行った。
【0045】
また、被膜についての耐薬品性を評価するため、European Standard EN374−3「gloves for chemical protection」の規定に基づいて、硫酸の透過試験を行った。試験は、被膜の外面側を硫酸(濃度:96%)に接した状態とし、反対面側に0.1MのKClを流し、KClのpHを測定することにより行った。
具体的には、得られたpHから水素イオン濃度を算出し、さらにこの水素イオン濃度から硫酸濃度を算出し、得られた硫酸濃度から1分あたりの硫酸透過量を算出し、得られた硫酸透過量を元に、1分あたりの硫酸透過量が1μg/cm2 を超えるまでの時間(分)を算出し、測定値とした。
【0046】
さらに、手袋を装着した際の作業性を評価するため、純曲げ試験及び官能試験を行った。
純曲げ試験は純曲げ試験機KES−FB2(カトーテック社製)を使用して、手袋甲部から切り取った5cm四方の試験片について、B値(gf・cm2 /cm)を測定することにより行った。このB値は数値が低いほど柔らかいことを示す。B値は0.001以上1.5以下が好ましく、0.1以上1.2以下がより好ましい。0.001未満は測定限界であり、1.5を超えると作業性が悪くなる。
官能試験は、10名の被試験者に手袋を装着させて硬いか柔らかいかを判断してもらい、柔らかいと答えた人が多い場合は作業性が良いと評価し、そうでない場合は作業性が悪いと評価した。
【0047】
結果を表3に示す。実施例1〜6の結果により、クラック防止剤としてTiO2 やSiO2 を1.0重量部以上配合したラテックスを用い、有機酸系凝固剤を用いることにより、被覆層にクラックが発生せず、耐硫酸透過性に優れた耐薬品性手袋が得られることがわかる。
また実施例2、4、5の結果より、クラック防止剤を含むラテックス配合液への浸漬時間が長い程膜厚は大きくなるがその分硬くなり、比較例3の結果より、膜厚が300μmを超えると作業性に影響することがわかる。
更に、比較例1に示すように、クラック防止剤が1重量部より少ない場合や、比較例2に示すように、塩凝固剤を用いた場合は、いずれもクラックが発生し、従って、耐硫酸透過性が低下することがわかる。
【0048】
【表1】
【0049】
【表2】
【0050】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0051】
叙上のとおり、本発明によれば、被覆層にクラックが形成されず、従って、耐薬品透過性に優れた耐薬品性手袋が提供される。
本発明の手袋は、クラック防止剤を所定量以上配合したラテックス配合液を用い、有機酸系凝固剤を用いた酸凝固法で、繊維製手袋の表面に被覆層を形成することにより、クラックが発生せず、膜厚が均一なサポートタイプの耐薬品性手袋を提供することができる。
図1
図2
図3