【実施例1】
【0026】
a)まず、搬送用部材を使用する搬送装置の全体の構成について説明する。
図1に示す様に、本実施例1では、半導体製造装置の一部を構成する装置として、搬送装置1が用いられており、搬送装置1によって搬送される被搬送体(被吸着体)は、円盤状の誘電体であり、弾性を有するシリコン製のウェハ(半導体ウェハ)3である。
【0027】
前記搬送装置1は、制御部5と、(セラミック部材からなる静電チャックである)搬送用部材7と、アーム機構9と、移動機構11と、吸着電極駆動部13とを備えている。
このうち、制御部5は、アーム機構9、移動機構11、吸着電極駆動部13の各部の動作を制御する電子制御装置(例えばマイクロコンピュータ)である。つまり、この制御部5は、コンピュータプログラムに基づいてCPUが動作することによって実現される。
【0028】
アーム機構9は、搬送用部材7と移動機構11との間を連結する機構であり、搬送用部材7を移動機構11に対して相対的に移動させ、搬送装置1の外部に対して半導体ウェハ3の受け渡しを行う。
【0029】
移動機構11は、搬送用部材7及びアーム機構9を搭載し、搬送装置1の外部に対して相対的に移動可能に構成された機構であり、搬送用部材7に保持された半導体ウェハ3の移動を行う。
【0030】
吸着電極駆動部13は、後述する一対の吸着電極K1、K2(
図3参照)に対して、半導体ウェハ3を保持する静電力を発生させるための電圧を印加する回路である(即ち、一対の電極が異なる極性の電位となるように電圧を印加する)。
【0031】
b)次に、本実施例の要部である搬送用部材7について説明する。
図2に示す様に、本実施例の搬送用部材7は、半導体ウェハ3を載置し吸着して搬送するセラミック部材であり、略U字形状のセラミック基板15と、該セラミック基板15上に島状に分散して設けられた円盤形状の4個の吸着電極部17、19、21、23と、前記セラミック基板15上に設けられた直方体形状の3個のスペーサ25、27、29と、前記セラミック基板15の基端側(同図左側)に設けられた一対の給電部31、33と、前記セラミック基板15の(給電部31、33より)基端側に設けられた一対の固定穴35、37とを備えている。
【0032】
以下、各構成について説明する。
前記セラミック基板15は、複数のセラミック層15a、15b、15c、15d(
図4参照)が積層一体化された平板状の基板であり、電気絶縁性を有する例えば酸化アルミニウム(アルミナ:Al
2O
3)等のセラミックからなる。
【0033】
このセラミック基板15は、略台形の基部41を有しており、その基部41から、左右対称(
図2では上下方向)に、長方形の第1アーム部43及び第2アーム部45が、平行に先端側(同図右側)に向かって突出している。
【0034】
前記吸着電極部17、19は、半導体ウェハ3に対向する様に、第1アーム部43の表面に、長手方向に沿って、その中央部分に2個配置されており、同様に、吸着電極部21、23は、半導体ウェハ3に対向する様に、第2アーム部45の表面に、長手方向に沿って、その中央部分に2個配置されている。なお、第1アーム部43と第2アーム部45とにおける各吸着電極部17〜23の配置は、同図の上下方向において同じ位置である。
【0035】
この吸着電極部17〜23は、
図3に拡大して示すように、セラミック基板15の表面から島状に突出するように形成されている。つまり、吸着電極部17〜23は、セラミック基板15の一方の側(表面側:同図上方)から、僅かに(例えば0.5mm)円盤状(円柱状)に突出したものであり、この(セラミックからなる)突出した部分49の内部に、表面と平行に上述した(左右対称の形状の)一対の吸着電極K1、K2が配置されている。
【0036】
なお、突出した部分49のセラミック材料は、セラミック基板15と同じであり、突出した吸着電極部17〜23の厚み方向における吸着電極K1、K2の位置は、例えばほぼ中央である。
【0037】
前記スペーサ25〜29は、
図2に示す様に、平面形状が長方形である。そのうち、第2スペーサ27は、第1アーム部43の先端部分にて、同図の上下方向に伸びるように配置され、同様に、第3スペーサ29は、第2アーム部45の先端部分にて、同図の上下方向に伸びるように配置されている。また、第1スペーサ25は、基部41の右側部分(即ちU字の根元部分)にて、同図の上下方向に伸びるように配置されている。
【0038】
このスペーサ25〜29は、
図4に一部を示すように、セラミック基板15の一方の側(表面16側:同図上方)において、吸着電極部17〜23の高さΔH1より僅かに(ΔH2:例えば0.5mm)高くなるように直方体状(四角柱状)に突出したものであり、その材料は、セラミック基板15と同じである。なお、吸着電極部17〜23の高さΔH1は、基板の表面16からの高さである。
【0039】
ここで、上述した搬送用部材7の外形形状と内部構造との関係について説明する。
図4に示すように、セラミック基板15の内部には、給電部31、33と吸着電極部17、19、21、23の吸着電極K1、K2とを電気的に接続するために、例えばタングステン(W)を主成分とする導電材材料を用いた導電パターン47が形成されている。この導電パターン47は、セラミック基板15の第3セラミック層15cと第4セラミック層15dとの間に配置されている。
【0040】
更に、第3セラミック層15cの上には、第1セラミック層15aと第2セラミック層15bが積層されているが、この第1セラミック層15aと第2セラミック層15bとの一部が(表面側より)削られていることにより、前記スペーサ25〜29や吸着電極部17〜23が、基板表面16より上方に突出するように構成されている。
【0041】
また、吸着電極部17〜23のうち、第1セラミック層15aと第2セラミック層15bとの間には、吸着電極K1、K2が形成されており、吸着電極K1、K2は、ビア51によって、導電パターン47と接続されている。
【0042】
この導電パターン47は、給電口53に嵌め込まれた金属製(導電性)の給電部材55に接続されており、この給電口53及び給電部材55によって給電部31、33が構成されている。
【0043】
なお、導電パターン47としては、前記
図2に示す様に、吸着電極部17〜23における一方の電極である4個の吸着電極K1と第1給電部31とを接続する第1導電パターン47aと、吸着電極部17〜23における他方の電極である4個の吸着電極K2と第2給電部33とを接続する第2導電パターン47bとが形成されている。
【0044】
c)次に、搬送用部材7によって半導体ウェハ3を湾曲させて吸着する構成について説明する。
本実施例では、吸着電極部17〜23及びスペーサ25〜29の高さ及び配置に特徴があり、吸着電極K1、K2の静電力によって半導体ウェハ3を吸着したときに、吸着電極部17〜23とスペーサ25〜29によって、半導体ウェハ3の中央部分が凹むように、吸着電極部17〜23及びスペーサ25〜29の高さ及びそれらの配置が設定されている。
【0045】
つまり、上述した様に、吸着電極部17〜23の高さ(ΔH1)より、各スペーサ25〜29の高さが僅かに(ΔH2)高いように設定されている。なお、4個の吸着電極部217〜23同士の高さは同じであり、3個のスペーサ25〜29同士の高さも同じである。
【0046】
しかも、
図5(a)に示す様に、セラミック基板15をその表面と平行な方向で見た場合、即ち、セラミック基板15の厚み方向(又は基板表面)に対して垂直の方向から見た場合、吸着電極部17〜23は、半導体ウェハ3がスペーサ25〜29によって支持される少なくとも2箇所の支持位置(ここでは、左のスペーサ25と右のスペーサ27、29)の間に配置されている。なお、支持位置とは、スペーサ25〜29が半導体ウェハ3に接触して支持される位置である。
【0047】
つまり、前記
図2に示す様に、吸着電極部17〜23(従って吸着電極K1、K2)が含まれる平面領域より外側、即ち、吸着電極部17〜23の外周部分を結んだ四角形の平面領域より外側に、スペーサ25〜29が配置されている。
【0048】
従って、
図5(a)に示す様に、搬送用部材7の上に半導体ウェハ3が載置される場合には、半導体ウェハ3は、吸着電極部17〜23より高い3個のスペーサ25〜29の上に載置されることになり、吸着電極部17〜23には接触しない。
【0049】
次に、
図5(b)に示す様に、吸着電極部17〜23によって(即ち、吸着電極K1、K2への通電によって)、半導体ウェハ3が吸着される場合には、半導体ウェハ3の中央部分は、吸着電極K1、K2の静電力によって、同図下方に(吸引されて)移動する(凹む)が、半導体ウェハ3の外周側(同図左右側)は、各吸着電極部17〜23より高いスペーサ25〜29に規制されて、それより下方には移動しない。
【0050】
よって、同図に示す様に、吸着電極部17〜23によって、半導体ウェハ3が吸着されて、半導体ウェハ3が吸着電極部17〜23の上部に接触した場合には、半導体ウェハ3は下方に凸の湾曲した状態(凹んだ状態)となる。
【0051】
その後、吸着電極K1、K2への通電がオフされて、半導体ウェハ3の吸着が解除される場合には、半導体ウェハ3は、自身の弾性によって、
図5(a)に示す様に、その中央部分は、吸着電極部17〜23から離脱して上昇し、スペーサ25〜29のみによって保持された(即ち下方より支持された)状態となる。
【0052】
d)ここで、本実施例の搬送用部材の製造方法について簡単に説明する。
図6(a)に示すように、始めに、各セラミック層15a〜15dの元となる各グリーンシート61(61a、61b、61c、61d)を用意する。このグリーンシート61は、周知のように、例えばアルミナからなるセラミック材料粉末に、有機バインダ、可塑剤、溶剤などを混合してシート状に形成したものである。
【0053】
次に、各セラミック層15a〜15dに応じて、各グリーンシート61a〜61dを加工する。
具体的には、各グリーンシート61a〜61dを正方形に切断した後に、後加工(スクリーン印刷、切削加工、熱圧着など)における位置合わせに適したガイド孔(図示せず)を、各グリーンシート61a〜61dの外周付近にパンチング加工する。また、必要に応じて、各グリーンシート61a〜61dの所定箇所に、導電体ペースト63、65をスクリーン印刷する。更に、必要に応じて、ビア51を形成する位置に、ビア孔67をパンチング加工し、そのビア孔67に導電体ペースト68を穴埋めする。
【0054】
次に、上述した加工を行った各グリーンシート61a〜61dを積層し、熱圧着によって接合して、グリーンシート積層体69を形成する。
次に、
図6(b)に示す様に、グリーンシート積層体69に対して切削加工を行う。具体的には、スペーサ25〜29や吸着電極部17〜23となる部分以外のグリーンシート積層体69の表面を切削して、スペーサ用の凸部71や吸着電極用の凸部73を形成する。
【0055】
次に、グリーンシート積層体69を、大気中で例えば250℃で10時間曝することにより、脱脂を行う。
次に、
図6(c)に示す様に、グリーンシート積層体69を一体焼成する。具体的には、1400〜1600℃の還元雰囲気にて、グリーンシート積層体69を焼成し、焼成体75を得る。なお、この際に、スペーサ25〜29が形成される。
【0056】
次に、
図6(d)に示す様に、焼成体75の表面を研磨する。具体的には、吸着電極用の凸部73の表面(上部)を研磨して、その高さを(高さΔH1となるように)低くする。これによって、吸着電極部17〜23が形成される。なお、スペーサ用の凸部71の上部を、若干研磨して、スペーサ25〜29を形成してもよい。
【0057】
その後、給電口53に給電部材55を装着する。
これによって、本実施例の搬送用部材7が得られる。
e)次に、本実施例の効果を説明する。
【0058】
本実施例では、搬送用部材7のセラミック基板15には、複数のスペーサ25〜29と複数の吸着電極部17〜23とが設けられており、スペーサ25〜29の高さは吸着電極部17〜23の高さ(ΔH1)より若干(ΔH2)高く設定され、しかも、吸着電極部17〜23は、スペーサ25〜29の少なくとも2箇所の支持位置の間(
図2に示す左右のスペーサ25〜29の間)に配置されている。
【0059】
従って、搬送用部材7の上に(誘電体で且つ弾性体である)半導体ウェハ3を載置した場合、即ち、スペーサ25〜29上に半導体ウェハ3が載置された場合には、半導体ウェハ3は、スペーサ25〜29によって基材表面より離隔された状態となる。即ち、半導体ウェハ3は、スペーサ25〜29の少なくとも2箇所の支持位置にて支持されて基材表面より離れた状態で保持される。
【0060】
この状態で、吸着電極K1、K2に電力(電圧)が印加されると、吸着電極K1、K2によって発生した静電力によって、半導体ウェハ3が吸引されるので、半導体ウェハ3が基板表面側に湾曲する。すなわち、半導体ウェハ3の両側が支持された状態で、その間の部分が吸着電極K1、K2によって引き寄せられるので、半導体ウェハ3の中央部分が湾曲して吸着電極部17〜23に接触する。
【0061】
よって、この状態では、半導体ウェハ3が確実に吸着されているので、半導体ウェハ3を搬送用部材7に載置した状態で、搬送装置1によって、速やかに移動させることができる。
【0062】
そして、吸着電極K1、K2への電力の印加を停止した場合には、半導体ウェハ3は自身の弾性力(復元力)によって、速やかに吸着電極部17〜23から離脱するので、搬送用部材7から半導体ウェハ3を容易に且つ速やかに分離(デチャック)することができる。
【0063】
また、本実施例では、複数の吸着電極部17〜23を、セラミック基板15の表面より部分的に島状に突出させて設けている。
よって、残留応力を低減できるとともに、リンキングを減らすことができるので、残留吸着力を大きく低減できる。