(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6068394
(24)【登録日】2017年1月6日
(45)【発行日】2017年1月25日
(54)【発明の名称】エア流量を制御可能なエアパージシステム
(51)【国際特許分類】
H02K 5/10 20060101AFI20170116BHJP
【FI】
H02K5/10 A
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-128568(P2014-128568)
(22)【出願日】2014年6月23日
(65)【公開番号】特開2016-10204(P2016-10204A)
(43)【公開日】2016年1月18日
【審査請求日】2016年2月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100102819
【弁理士】
【氏名又は名称】島田 哲郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100154380
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100112357
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 繁樹
(74)【代理人】
【識別番号】100157211
【弁理士】
【氏名又は名称】前島 一夫
(72)【発明者】
【氏名】神谷 洋平
【審査官】
安池 一貴
(56)【参考文献】
【文献】
特開2013−236473(JP,A)
【文献】
特開2009−219313(JP,A)
【文献】
特開2013−230031(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 5/00−5/26
B23Q 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングと、該ハウジングの内部に回転可能に支持された出力軸と、前記ハウジングの端部に設けられ、前記出力軸の外周面の周囲空間に空気を供給するエアパージ装置とを有する電動機と、
前記電動機の動作情報を取得する情報取得部と、
前記情報取得部により取得された動作情報に応じて、前記エアパージ装置から供給される空気量を制御する空気制御部と、を備え、
前記空気制御部は、前記情報取得部により前記電動機の減速動作に対応した減速情報が取得されると、前記エアパージ装置から供給される空気量を増大させることを特徴とするエアパージシステム。
【請求項2】
請求項1に記載のエアパージシステムにおいて、
前記情報取得部は、前記電動機の回転数を検出する検出部を有し、
前記空気制御部は、前記検出部により前記電動機の減速動作が検出されると、前記エアパージ装置から供給される空気量を増大させることを特徴とするエアパージシステム。
【請求項3】
請求項1に記載のエアパージシステムにおいて、
前記情報取得部は、前記電動機の動作を指令する指令部を有し、
前記空気制御部は、前記指令部により前記電動機の減速動作が指令されると、前記エアパージ装置から供給される空気量を増大させることを特徴とするエアパージシステム。
【請求項4】
請求項1に記載のエアパージシステムにおいて、
前記情報取得部は、予め定められた前記電動機の動作を制御するための運転プログラムを参照して前記電動機の減速開始時点を予測する減速予測部を有し、
前記空気制御部は、前記減速予測部により予測された前記減速開始時点よりも所定時間前に、前記エアパージ装置から供給される空気量を増大させることを特徴とするエアパージシステム。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のエアパージシステムにおいて、
前記情報取得部は、前記電動機の停止動作、加速動作および一定回転動作にそれぞれ対応した停止情報、加速情報および一定回転情報をさらに取得し、
前記空気制御部は、前記情報取得部により前記減速情報が取得されると、前記停止情報、前記加速情報および前記一定回転情報が取得されたときよりも、前記エアパージ装置から供給される空気量を増大させることを特徴とするエアパージシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動機の出力軸の近傍に供給されるエア流量を制御可能なエアパージシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電動機の出力軸の近傍に圧縮エアを供給することで、電動機ハウジングの内部への異物の侵入を防止するようにした装置が知られている(例えば特許文献1参照)。特許文献1記載の装置では、ハウジングの端面にエアパージ装置が取り付けられ、エアパージ装置の外部から供給された圧縮エアを、エアパージ装置内の流路を介して電動機の出力軸の外周面に向けて吹き出す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013−236473号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、電動機の出力軸の周囲における遠心力や圧力は、電動機の回転状態に応じて変化し、これによりハウジング内への異物の侵入のしやすさが変化する。しかしながら、上記特許文献1記載の装置は、電動機の回転状態に拘わらず圧縮エアを供給するため、圧縮エアの供給量が過剰または不足するおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明によるエアパージシステムは、ハウジングと、ハウジングの内部に回転可能に支持された出力軸と、ハウジングの端部に設けられ、出力軸の外周面の周囲空間に空気を供給するエアパージ装置とを有する電動機と、電動機の動作情報を取得する情報取得部と、情報取得部により取得された動作情報に応じて、エアパージ装置から供給される空気量を制御する空気制御部とを備える。そして、空気制御部は、情報取得部により電動機の減速動作に対応した減速情報が取得されると、エアパージ装置から供給される空気量を増大させる。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、電動機の減速時に、エアパージ装置から供給される空気量を増大させるので、出力軸の近傍に圧縮エアを過不足なく供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明の実施形態に係るエアパージシステムの全体構成を示す図。
【
図2】本発明の実施形態に係るエアパージシステムによる動作の一例を示す図。
【
図3】本発明の実施形態に係るエアパージシステムによる動作の他の例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、
図1〜
図3を参照して本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明の実施形態に係るエアパージシステム100の概略構成を示す図である。このエアパージシステム100は電動機101を含む。電動機101は、例えば工作機械の主軸駆動用に用いられる三相誘導電動機である。
【0009】
図1に示すように、電動機101は、ロータ1と、ステータ2と、ハウジング3と、エアパージ装置4とを有する。なお、以下では、図示のように電動機101の回転軸線L0に沿った方向を便宜上、前後方向と定義する。
【0010】
ロータ1は、軸線L0を中心に回転するロータコア11と、ロータコア11と一体に設けられ、ロータコア11の前端面および後端面からそれぞれ軸線L0に沿って前方および後方に延在する出力軸12,13とを有する。出力軸12の前端部には、フリンジャー14が設けられ、出力軸13の後端部にはエンコーダ15が設けられている。なお、図示は省略するが、出力軸12の前端部には、減速機を介さずに工作機械の主軸が取り付けられる。
【0011】
ステータ2は、複数枚の電磁鋼板を積層してなる筒状のステータコア21と、ステータコア21の内周面に巻回された巻線22とを有する。ステータコア21はロータコア11の外周面との間に隙間を空けて配置され、ロータコア11は、巻線22への供給電流によって発生した回転磁界により、出力軸12,13と一体に回転する。
【0012】
ハウジング3は、スタータコア21の前端部に設けられたフロントハウジング31と、ステータコア21の後端部に設けられたリアハウジング32とを有する。リアハウジング32の外周面には端子箱33が設けられている。フロントハウジング31の内周面と出力軸12の外周面との間およびリアハウジング32の内周面と出力軸13の外周面との間にはそれぞれベアリング34,35が設けられ、出力軸12,13は、ベアリング34,35を介してハウジング3から回転可能に支持されている。
【0013】
エアパージ装置4は、電動機101内への異物の侵入を防止ためのものである。すなわち、工作機械の電動機101は、洗浄水や切削油などが飛散する状況で使用されるため、洗浄水や切削油などの異物が出力軸12とハウジング3(フロントハウジング31)との間の隙間を介して電動機101内へ侵入するおそれがある。とくに、減速機を介さずに電動機101の出力軸12に主軸を直結すると、電動機101が加工エリアに接近し、電動機101内へ異物が侵入しやすい。これを防ぐために、例えば出力軸12とハウジング3との間にオイルシール等のシール材を設けると、ロータ1の高速回転によりシール材が摩耗するおそれがある。
【0014】
そこで、本実施形態では、フロントハウジング31の前端部にエアパージ装置4を設け、フロントハウジング31と出力軸12との間の隙間10、すなわち出力軸12の外周面の周囲空間に、エアパージ装置4からエアを供給することで、電動機101内への異物の混入を防ぐ。なお、電動機101の後端部はカバー36で覆われているため、リアハウジング32側からの異物の混入はない。したがって、本実施形態の電動機101は、フロントハウジング31の前端部のみにエアパージ装置4を有する。
【0015】
エアパージ装置4は、フロントハウジング31の前端部を径方向に貫通する貫通孔によって構成されたエア流路41を有する。フロントハウジング31の外周面におけるエア流路41の一端部には、エア流入口42が設けられ、フロントハウジング31の内周面におけるエア流路41の他端部には、エア流出口43が設けられている。エア流出口43は、ベアリング34の前方かつフリンジャー14の後方に位置し、出力軸12の外周面に面している。
【0016】
エア流入口42には、管路44を介してバルブ45が接続され、さらにバルブ45には、管路46を介してエアタンク47が接続されている。エアタンク47には、図示しないポンプの駆動によりエアが供給され、タンク47内に高圧の圧縮エアが蓄えられる。バルブ45は、電気信号により弁開度を変更可能な可変バルブであり、バルブ45の開度を調整することで、エア流出口43から吹き出される圧縮エアの供給量(
図2,3)を増減できる。
【0017】
電動機101の駆動は、電動機制御部5により制御され、バルブ45の開度は、エア供給制御部6により制御される。電動機制御部5は、予め定められた電動機運転プログラムPRに従い電動機101の駆動を制御する。電動機制御部5は、エンコーダ15からの信号により、電動機101の速度情報(電動機回転数)を取得するとともに、電動機回転数を時間微分することで、電動機101の加速度情報を取得する。
【0018】
エア供給制御部6は、電動機制御部5から出力された電動機101の速度情報および加速度情報に基づき、バルブ45の開度を制御する。
図2は、エンコーダ15からの信号により取得した電動機101の速度情報(電動機回転数N)および加速度情報(電動機加速度A)と、エア流出口43から吹き出されるエア供給量Gとの関係を示す図である。
【0019】
電動機101は、電動機制御部5により
図2に示すように回転が制御される。すなわち、電動機101は、時点t0〜t1で回転を停止し(N=N0)、時点t1〜t2で正の所定加速度A1で加速し、時点t2〜t3で一定回転数N1で回転し、時点t3〜t4で負の所定加速度A2(=−A1)で減速し、時点t4以降、再び回転を停止する(N=N0)。
【0020】
このとき、エア供給制御部6は、回転停止時(時点t0〜t1)において、エア供給量が予め定めた基準値G0となるようにバルブ45の開度を制御する。回転停止時は、出力軸12の近傍(隙間10等)は大気圧に保たれ、ハウジング3内に異物を吸い込む作用がない。この点を考慮して、予め基準値G0が決定される。
【0021】
一方、電動機101の加速時(時点t1〜t2)においては、電動機回転数が高くなるほど、出力軸12の周面に作用する遠心力が増大する。このため、出力軸12の近傍は負圧になるが、出力軸12の周囲の異物は遠心力により外部(径方向外側)へ排出されるため、加速時は停止時よりもハウジング3内に異物が侵入しにくい。また、ハウジング3内への異物の侵入は、遠心力が大きいほど抑制される。この点を考慮して、エア供給制御部6は、加速時において、エア供給量を基準値G0よりも減少させるとともに、電動機回転数の増加に伴いエア供給量を徐々に低減させるようにバルブ45の開度を制御する。
【0022】
電動機101の一定回転時(時点t2〜t3)においては、エア供給制御部6は、加速終了時のエア供給量G1を維持するようにバルブ45を制御する。したがって、一定回転時における電動機回転数が高いほど、エア供給量が低減される。このように電動機101の加速時(時点t1〜t2)および一定回転時(時点t2〜t3)におけるエア供給量を基準値G0よりも低減させることで、圧縮エアの無駄な消費を抑えることができる。
【0023】
電動機101の減速時(時点t3〜t4)においては、出力軸12の周面に作用する遠心力が減少する。このとき、電動機101の高回転後は出力軸12の近傍が負圧であるため、ハウジング3内に異物が吸い込まれるおそれがある。これを防止するため、減速時においては、エア供給量が基準値G0よりも大きな値(最大値G2)となるようにエア供給制御部6がバルブ45の開度を制御する。これによりハウジング3内への異物の侵入を確実に防止することができる。
【0024】
このように本実施形態では、電動機101の回転に応じて出力軸12の外周面に作用する遠心力や出力軸12の周囲の圧力が変化することによりハウジング3内への異物の侵入のしやすさが変化する点を考慮し、電動機101の回転に応じてエア流出口43からのエア供給量を制御するようにした。すなわち、エア供給制御部6は、エンコーダ15からの信号により電動機101の減速動作が検出されると、バルブ45の開度を大きくし、エアパージ装置4から供給される空気量を増大させる。これによりハウジング3内への異物の侵入を阻止するためのエアを、エアパージ装置4から出力軸12の周囲空間に過不足なく供給することができ、エアパージ装置4からエア供給を効率的に行うことができる。
【0025】
換言すると、電動機101の停止時、加速時および一定回転時のエア供給量を、減速時のエア供給量G2よりも低減するので、電動機101の回転状態に拘わらずエアパージ装置4から所定量(例えば最大値G2)のエアを供給している場合に比べ、エア消費量を大幅に削減することができる。また、減速時のエア供給量を基準値G0よりも増大させるので、電動機101の回転状態に拘わらずエアパージ装置4から所定量(例えば基準値G0)のエアを供給している場合に比べ、減速時にハウジング3内への異物の侵入を確実に防止することができる。
【0026】
なお、上記実施形態では、エンコーダ15からの信号により電動機101の減速動作を検出し、減速動作が検出されると、エアパージ装置4から供給される空気量を増大させるようにしたが、電動機101の動作を指令する指令部により電動機101の減速動作が指令されると、エアパージ装置4から供給される空気量を増大させるようにしてもよい。すなわち、電動機101の現在の動作情報を取得する情報取得部は、エンコーダ15等の検出部だけでなく、電動機制御部5等の指令部であってもよい。電動機101の減速動作に対応した減速情報、停止動作に対応した停止情報、加速動作に対応した加速情報、および一定回転動作に対応した一定回転情報のうち、少なくとも減速情報を取得するのであれば、情報取得部の構成はいかなるものでもよい。速度検出値と加速度検出値の符号が互いに異なるとき、または速度指令と加速度指令の符号が互いに異なるときに、減速情報を取得してもよい。
【0027】
電動機制御部5あるいはエア供給制御部6が、電動機運転プログラムPRを参照して電動機101の減速開始時点を予測する減速予測部を有し、この減速開始時点を用いて、エア供給制御部6がエアパージ装置4から供給される空気量を増大させるようにしてもよい。すなわち、情報取得部として減速予測部を用いてもよい。
図3は、この場合の電動機回転数Nと電動機加速度Aとエア供給量Gとの関係を示す図である。
【0028】
図3では、電動機運転プログラムPRにより減速開始時点t3を予測し、この減速開始時点t3よりも所定時間Δt1前に、エアパージ装置4から供給される空気量を増大させる。これにより、エアパージ装置4からのエア供給量を遅滞なく増大させることができ、減速時の異物の侵入を確実に防止することができる。
【0029】
なお、
図3では、さらに電動機運転プログラムPRにより加速開始時点t1を予測し、この加速開始時点t1よりも所定時間Δt2後に、エアパージ装置4から供給される空気量を増大させている。これにより、電動機101の加速動作が開始された後に、エア供給量が低減するため、加速時の異物の侵入も確実に防止することができる。
【0030】
上記実施形態では、エア供給制御部6がバルブ45の開度を制御することで、電動機101の減速時のエア供給量を、停止時、加速時および一定回転時におけるエア供給量よりも増大させるようにしたが、少なくとも減速時のエア供給量を一定回転時におけるエア供給量よりも増大させるのであれば、空気制御部の構成はいかなるものでもよい。例えば、停止時、加速時および一定回転時のエア供給量を、それぞれ所定値(例えばG0)に制御してもよい。バルブ45を用いずに、ポンプの回転制御によりエア供給量を制御してもよい。
【0031】
以上の実施形態のエアパージシステム100は、工作機械に適用したが、本発明のエアパージシステム100は、工作機械以外にも同様に適用することができる。したがって、切削液だけでなくダスト等、他の異物の侵入を防止するために用いることもできる。
【0032】
以上の説明はあくまで一例であり、本発明の特徴を損なわない限り、上述した実施形態および変形例により本発明が限定されるものではない。上記実施形態および変形例の構成要素には、発明の同一性を維持しつつ置換可能かつ置換自明なものが含まれる。すなわち、本発明の技術的思想の範囲内で考えられる他の形態についても、本発明の範囲内に含まれる。また、上記実施形態と変形例の1つまたは複数を任意に組み合わせることも可能である。
【符号の説明】
【0033】
3 ハウジング
4 エアパージ装置
5 電動機制御部
6 エア供給制御部
15 エンコーダ
21 出力軸
101 エアパージシステム
101 電動機