【実施例】
【0027】
実施例1−SSQ系樹脂の性能評価
いくつかのSSQ系樹脂(試験番号1〜5)を、実施例2〜6において以下に提供される説明に従って調製した。試験番号1〜5における各SSQ系樹脂の処方の説明、SSQ系コーティングを形成するために樹脂を塗布及び硬化することに関連したパラメータ、及び形成されたコーティングの光硬化特性が、表1に提供されている。SSQ系樹脂中に存在する成分のそれぞれを説明するために用いられる短縮命名法は、以下の特定の略語の使用を含む。T(PEO)と記載される成分は、(PEO)SiX
3(式中、PEOはポリエチレンオキシドであり、Xは、クロライド基、メトキシ基、又は他の同様の基などの加水分解性部分である)の加水分解生成物を表す。PhSi(OMe)
3及びMeSi(OMe)
3の加水分解生成物は、それぞれ、T(Ph)成分及びT(Me)成分(式中、Phはフェニル基を表し、Meはメチル基を表す)で表される−(PhSiO
3/2)−及び−(MeSiO
3/2)−である。同様に、T(CHEp)成分は、(CHEp)Si(OMe)
3(式中、CHEpはエポキシシクロヘキシルエチル基である)の加水分解生成物であり、T(Ep)成分は、(Ep)Si(OMe)
3(式中、Epはグリシドオキシプロピル基である)の加水分解生成物である。成分はメタクリルオキシプロピル基(MA)を更に含んでもよい。最後に、成分T(H)は、トリクロロシラン、トリメトキシシラン、又は同様のものの加水分解生成物である。
【0028】
【表1】
【0029】
試験番号1〜5のSSQ系樹脂のそれぞれは、所定量のT(H)成分と共に、T(Ep)成分、(MA)成分、及びT(CHEp)成分の少なくとも1つを種々の割合で含む。あるいは、T(Ph)成分、T(Me)成分、及びT(PEO)成分の少なくとも1つもまた、処方中に存在していてもよい。例えば、試験番号1で形成された樹脂は、次式による4つの成分を有するとして記載されている:T(Ph)
0.07T(H)
0.45T(Me)
0.36T(Ep)
0.12。この実施例のT(Ph)成分、T(H)成分、T(Me)成分、及びT(Ep)成分と共に用いられている下付き文字である0.07、0.45、0.36、及び0.12は、それぞれ、SSQ系樹脂全体に存在する当該成分のモル分率を示す。処方中に存在するT(H)成分の量は、約0.40〜約0.90の範囲のモル分率であり得る。処方中に存在するT(Ep)成分、(MA)成分、及びT(CHEp)成分の量は、0.00〜約0.40の範囲のモル分率であり得、残部は、とりわけ、T(Ph)成分、T(PEO)成分、及びT(Me)成分によって占められる。
【0030】
SSQ樹脂中の種々の成分の比は、Si−29核磁気共鳴(NMR)、又は当業者に既知である任意の他の技術を用いて決定され得る。例えば、
図1には、T(H)基及びT(CHEp)基を含むSSQ系樹脂について得たNMRスペクトルが示されており、T(H):T(CHEp)に関する比である約26:74は、各成分に対応するピーク面積の比較から決定される。
【0031】
樹脂の処方に応じて、所定量の光開始剤、例えば、光ラジカル発生剤(PRG)、光酸発生剤(PAG)、あるいはこれらの組み合わせ又は混合物などが、樹脂溶液を形成するためにSSQ系樹脂が溶媒中に分散又は溶解されるときに、該SSQ系樹脂に添加され、かつこれと混合されることができる。使用することができる溶媒のいくつかの例としては、とりわけ、イソブタノール(i−BuOH)、プロピレングリコール1−モノブチルエーテル(PGBE)及びプロピレングリコールメチルエチルアセテート(PGMEA)が挙げられる。樹脂溶液に添加される光開始剤の量は、樹脂溶液の0.5重量%〜約3.5重量%の範囲内であり得る。あるいは、PAG光開始剤の量は約0.85重量%であり、PRG開始剤の量は約3重量%程度である。PAG及びPRG溶媒の1つの具体例は、それぞれ、p−イソプロピルフェニル)(p−メチルフェニル)ヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ホウ酸及びアミノケトン(即ち、Ciba Special Chemicals,Switzerlandから入手可能なIrgacure(登録商標)379)である。
【0032】
本開示の一態様によると、樹脂溶液を形成するために溶媒中に分散又は溶解されるSSQ系樹脂の量は、約10重量%以上である(試験番号1〜4)。あるいは、溶媒中のSSQ系樹脂の重量パーセントは、約20重量%以下であってもよい(試験番号5)。コーティング可能な樹脂溶液を形成するために光開始剤が樹脂溶液に加えられた後、このコーティング可能な樹脂溶液を使用して、スピンコーティング、スプレーコーティング、又は当業者に既知の任意の他の技術によって、ウエハなどの基板上に被膜又はコーティングを形成することができる。スピンコーティング装置の一例は、CT62スピンコーター(Karl Suss,Germany)である。望ましい場合には、コーティング可能な樹脂溶液は、コーティングとして基板に塗布される前に、0.2マイクロメートルのTeflon(登録商標)ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)フィルタを通して濾過されてもよい。
【0033】
試験番号1〜5では、コーティング可能な樹脂溶液は、標準的な片面10.2cm(4インチ)研磨低抵抗ウエハ又は両面研磨FTIR(フーリエ変換赤外分光法)ウエハ上に、スピンコーターを使用し、初期速度2000rpm及び加速度5000rpmで20秒の期間にわたってコーティングされた。基板は、約120℃にて約60秒以上にわたってプリベークされた後、広帯域紫外線照射に曝露されてもよい(試験番号1〜5の紫外線線量は表1にJ/m
2で示されている)。コーティングの塗布後のウエハは、硬化に影響を及ぼすために、約120℃にて約60秒にわたってポストベークされてもよい。その後、この硬化ウエハを、水溶液、例えば、TMAH水溶液(0.24N)に60秒間浸漬する。表1に記載されるように、120−10J−120の硬化条件(試験番号2、3、及び5)は、SSQ系コーティングを、プリベーク温度120℃、紫外線線量10J/m
2、及びポストベーク温度120℃に曝露することを指している。
【0034】
光硬化後にTMAH水溶液に曝露されると失われる、塗布されたコーティング又は被膜の厚さは、硬化ウエハをTMAH溶液に浸漬する前と後の被膜厚さを、エリプソメータ(J.A.Woollam Co.,Lincoln,Nebraska,USA)を使用して測定することによって決定される。測定及び記録される厚さの値は、単一測定値、又は、所望の場合には、多重測定値の、即ち、9回の測定値の平均を含んでもよい。
【0035】
更に表1を参照すると、本開示のSSQ系樹脂を使用して調製されたコーティング又は被膜は、TMAH水溶液に曝露されると、約0.25%〜約26.5%の範囲内の被膜損失を示す。メタクリルオキシプロピル基(MA)をその成分の1つとして含むSSQ系樹脂を使用して調製されたコーティング(試験番号2)は、テトラメチル水酸化アンモニウム(TMAH)水溶液に曝露されると、最大量の被膜損失を示す。MAを成分として含まないコーティング(試験番号1、3〜5)は、実質的により少ない被膜損失を示す。あるいは、これらコーティングは、TMAH水溶液に曝露されると、約1%未満の被膜損失を示す。
【0036】
本開示の教示に従って調製されたSSQ系コーティング又は被膜は、硬化過程を通して優れた熱安定性を示す。例えば、表2に記載されるように、試験番号5のSSQ樹脂から得たSSQ系コーティングを、不活性窒素雰囲気下及び温度勾配10℃/分で、熱重量分析(TGA)を用いて評価した。0.86重量%の光酸発生剤(PAG)の存在下で120−10−120の硬化条件に曝露された後のこのSSQ系コーティングの重量差は、2.2%である。
【0037】
【表2】
【0038】
T(H)
0.85T(CHEp)
0.15組成を有して調製された試験番号5のSSQ系樹脂を使用して、厚さの異なるいくつかの被膜をキャストした(試験番号6及び7)。これら被膜の機械的、光学的、化学的、及び電気的特性は、当該技術分野において既知の任意の技術によって試験することができる。異なる基本的な被膜特性の例としては、表3に試験番号6及び7に関して示されるように、硬度、弾性率、応力、破壊電圧、反射率、誘電率、被膜収縮、及び透過性が挙げられるが、これらに限定されない。これら被膜の一方(試験番号6)は、他方の被膜(試験番号7)の厚さの約1/3である厚さを示した。これら被膜と関連する特性の全ては、破壊電圧及び被膜収縮以外は比較的一定に保たれた。他方の被膜(試験番号7)よりも厚さが薄い被膜(試験番号6)は、より大きな破壊電圧及び被膜収縮百分率を示した。本開示の光硬化されかつ現像されたSSQ系コーティングは、誘電率約3.0を示す。
【0039】
【表3】
【0040】
実施例2−T(Ph)
0.07T(H)
0.45T(Me)
0.36T(Ep)
0.12樹脂の調製
この実施例は、試験番号1で記載されるSSQ系樹脂を調製するために用いられる方法を示す。合計で500グラムのプロピレングリコールメチルエチルアセテート(PGMEA)、14.80グラムのPhSiCl
3、53.80グラムのMeSiCl
3、及び77.20グラムのHSiCl
3を、3リットルの三つ口フラスコの中に一緒に加えた。PGMEA(800g)及び水(40g)の溶液を1時間にわたってフラスコに加え、樹脂溶液を形成した。樹脂溶液を23℃にて1時間にわたって更に加水分解させた。次に、樹脂溶液を脱イオン化された(DI)水で3回洗浄し(3×100グラム)、留去して15重量%のPGMEA溶液とした。合計で28.35グラムの3−グリシドオキシプロピルトリメトキシシラン及び数滴の白金触媒をこの溶液に加えた。この混合物を50℃にて2時間にわたって攪拌した。次に、活性炭(5重量%)をこの溶液に加え、混合物を50℃で2時間にわたって攪拌し続けた後、0.2マイクロメートルのPTFEフィルタに通して濾過した。濾過溶液をPGMEAで希釈して10重量%の樹脂溶液を形成し、SSQ系コーティングを形成する際に使用するためにHDPE瓶の中で保管した。SSQ系樹脂(試験番号1)の重量平均分子量(M
w)及び多分散性(PDI)をゲル透過クロマトグラフィーを用いて測定し、それぞれ約19,500及び2.97であった。
【0041】
実施例3−T(H)
0.55(MA)
0.30T(PEO)
0.15樹脂の調製
この実施例は、試験番号2で記載されるSSQ系樹脂を調製するために用いられる方法を示す。合計で100グラムのエチルアセテート、28.84グラムのPEO−SiCl
3、37.25グラムの(MA)Si(OMe)
3、及び37.25グラムのHSiCl
3を、3リットルの三つ口フラスコの中に一緒に加えた。エチルアセテート(300g)及び水(27g)の溶液を1時間にわたってフラスコに加え、樹脂溶液を形成した。樹脂溶液を1時間にわたって更に加水分解させた。次に、樹脂溶液を脱イオン化された(DI)水で洗浄し、最終的にロータリーエバポレーターを用いて溶媒をイソブタノールと交換させた。換言すれば、樹脂溶液中の溶媒を減圧留去し、i−ブタノールを加え、10重量%のSSQ系樹脂を有する樹脂溶液を形成した。次に、樹脂溶液を0.2マイクロメートルのPTFEフィルタに通して濾過し、SSQ系コーティングを形成する際に使用するために高密度ポリエチレン(HDPE)瓶の中で保管した。SSQ系樹脂(試験番号2)の重量平均分子量(M
w)及び多分散性(PDI)をゲル透過クロマトグラフィーを用いて測定し、それぞれ約9,530及び2.02であった。
【0042】
実施例4−T(H)
0.75T(CHEp)
0.25樹脂の調製
この実施例は、試験番号3で記載されるSSQ系樹脂を調製するために用いられる方法を示す。トルエン及びビニルシクロヘキセンオキシド中に分散又は溶解された12.5重量%の量の水素シルセスキオキサン(M
w=2200)を収容している500mLのフラスコに、白金触媒を数滴加えた。この混合物を23℃にて2時間にわたって攪拌した。次に、活性炭(5重量%)をこの溶液に加え、混合物を23℃で1時間にわたって攪拌し続けた後、濾過した。次に濾過溶液を減圧留去に供し、溶媒をPGMEAと交換させ、10重量%の樹脂溶液を形成した。次に、樹脂溶液を0.2マイクロメートルのPTFEフィルタに通して濾過し、SSQ系コーティングを形成する際に使用するためにHDPE瓶の中で保管した。SSQ系樹脂(試験番号3)の重量平均分子量(M
w)及び多分散性(PDI)をゲル透過クロマトグラフィーを用いて測定し、それぞれ約8,900及び4.06であった。
【0043】
実施例5−T(H)
0.6T(CHEp)
0.3T(PEO)
0.10樹脂の調製
この実施例は、試験番号4で記載されるSSQ系樹脂を調製するために用いられる方法を示す。実施例4の方法と同様に、数滴の白金触媒を、トルエン中の水素シルセスキオキサン(Mw=2,200、トルエン中12.5重量%)、アリルモノ−メチルポリエチレングリコール、及びビニルシクロヘキセンオキシドを収容している500mLのフラスコに加えた。この混合物を80℃にて2時間にわたって攪拌した。次に、活性炭(5重量%)をこの溶液に加え、混合物を23℃で更に1時間にわたって攪拌した後、濾過した。次に濾過溶液を減圧留去に供し、溶媒をプロピレングリコール1−モノブチルエーテル(PGBE)と交換させ、10重量%の樹脂溶液を形成した。樹脂溶液を0.2マイクロメートルのPTFEフィルタに通して濾過し、SSQ系コーティングを形成する際に使用するためにHDPE瓶の中で保管した。SSQ系樹脂(試験番号4)の重量平均分子量(M
w)及び多分散性(PDI)をゲル透過クロマトグラフィーを用いて測定し、それぞれ約4,360及び3.04であった。
【0044】
実施例6−T(H)
0.85T(CHEp)
0.15樹脂の調製
この実施例は、試験番号5で記載されるSSQ系樹脂を調製するために用いられる方法を示す。実施例4及び5の方法と同様に、数滴の白金触媒を、トルエン中の水素シルセスキオキサン(153.2g、Mw=2200、トルエン中12.5重量%)及びビニルシクロヘキセンオキシド(9.31g)を収容している500mLのフラスコに加えた。この混合物を23℃にて2時間にわたって攪拌した。次に、活性炭(5重量%)をこの樹脂溶液に加え、混合物を23℃で更に1時間にわたって攪拌した後、濾過した。次に濾過溶液を減圧留去に供し、溶媒をPGMEAと交換させ、20重量%の樹脂溶液を形成した。この溶液を0.2マイクロメートルのPTFEフィルタに通して濾過し、SSQ系コーティングを形成する際に使用するためにHDPE瓶の中で保管した。SSQ系樹脂(試験番号5)の重量平均分子量(M
w)及び多分散性(PDI)をゲル透過クロマトグラフィーを用いて測定し、それぞれ約6,950及び4.43であった。
【0045】
当業者は、上述の測定値が、様々な異なる試験方法によって得ることができる標準的測定値であることを認識するであろう。これら実施例に記載されている試験方法は、必要な測定値のそれぞれを得るために利用可能な方法を1つだけ示している。
【0046】
本開示の種々の実施形態に関する上述の説明は、説明及び解説を目的として提示されている。これは、網羅的なものであること、又は本開示を開示された厳密な形態に限定することを意図していない。上記の教示を踏まえて、多くの改変又は変更が可能である。本明細書に記載の実施形態は、本開示の原理及びその実際的な用途の最良の説明を提供し、それによって当業者が本開示の教示を様々な実施形態で、また企図される特定の用途に適するように様々な修正を行って利用できるように、選択され説明された。このような変更及び変形は全て、公正に、法的に、かつ公平に与えられた範囲に従って解釈されたときの、添付の特許請求の範囲によって決定される本開示の範囲内にある。