特許第6068503号(P6068503)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6068503
(24)【登録日】2017年1月6日
(45)【発行日】2017年1月25日
(54)【発明の名称】ヒストトリプシ治療用変換器
(51)【国際特許分類】
   A61B 17/00 20060101AFI20170116BHJP
   A61N 7/00 20060101ALI20170116BHJP
【FI】
   A61B17/00 700
   A61N7/00
【請求項の数】16
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2014-551393(P2014-551393)
(86)(22)【出願日】2013年1月7日
(65)【公表番号】特表2015-506226(P2015-506226A)
(43)【公表日】2015年3月2日
(86)【国際出願番号】US2013020555
(87)【国際公開番号】WO2013103975
(87)【国際公開日】20130711
【審査請求日】2015年12月10日
(31)【優先権主張番号】61/583,925
(32)【優先日】2012年1月6日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】512034863
【氏名又は名称】ヒストソニックス,インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100075270
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100101373
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 茂雄
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100117640
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 達己
(72)【発明者】
【氏名】ベルトリーナ,ジェームズ・エイ
(72)【発明者】
【氏名】ラキック,アレクサンドラ
【審査官】 木村 立人
(56)【参考文献】
【文献】 特開平4−303440(JP,A)
【文献】 特表平7−504339(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/028603(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 17/00
A61N 7/00 ― 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の会陰ウィンドウを通して前立腺を治療するための超音波治療システムにおいて、
前記患者の会陰に隣接して位置決めされるとともに前記前立腺に焦点を当てるときに前記会陰ウィンドウの骨によって最小限にしかブロックされない超音波パルスを生成するようにサイズ設定および構成された超音波治療用変換器であって、前記超音波治療用変換器の外周部に沿ってまたはその近くに配設された開口部を含む、超音波治療用変換器と、
前記超音波治療用変換器の前記開口部に配設された経直腸式撮像用変換器と
を備える超音波治療システム。
【請求項2】
請求項1に記載の超音波治療システムにおいて、前記治療用変換器は、直径が80mmから180mmの範囲にあり、焦点距離が70mmから150mmの範囲にあり、F値が1.2未満である、超音波治療システム。
【請求項3】
請求項1に記載の超音波治療システムにおいて、前記超音波治療用変換器の前記開口部が、丸形、半円形、正方形、矩形、三角形、および平板形からなる群から選択された形状を有する、超音波治療システム。
【請求項4】
請求項1に記載の超音波治療システムにおいて、前記超音波治療用変換器の前記開口部が、前記経直腸式撮像用変換器に干渉することなく、前記超音波パルスの治療焦点を前記前立腺の全領域に位置決めする前記超音波治療用変換器の動きに対応するように構成されている、超音波治療システム。
【請求項5】
請求項1に記載の超音波治療システムにおいて、前記超音波治療用変換器が、「ハート形」の変換器を備え、前記会陰の後方部分に設置されるように適合された広幅の端部と、前記会陰の前方部分に設置されるように適合された細い端部とを有し、前記超音波治療用変換器の前記開口部が、前記超音波治療用変換器の前記広幅の端部に配設される、超音波治療システム。
【請求項6】
請求項1に記載の超音波治療システムにおいて、前記超音波治療用変換器が単一の超音波変換器素子を備える、超音波治療システム。
【請求項7】
請求項1に記載の超音波治療システムにおいて、前記超音波治療用変換器が複数の超音波変換器素子を備える、超音波治療システム。
【請求項8】
請求項7に記載の超音波治療システムにおいて、前記複数の超音波変換器素子が丸形である、超音波治療システム。
【請求項9】
請求項7に記載の超音波治療システムにおいて、前記複数の超音波変換器素子が六角形である、超音波治療システム。
【請求項10】
請求項1に記載の超音波治療システムにおいて、前記経直腸式撮像用変換器が、遠位セクションと、前記遠位セクションに隣接する中間セクションとを備え、前記遠位セクションの第1の直径が前記中間セクションの第2の直径よりも大きい、超音波治療システム。
【請求項11】
請求項10に記載の超音波治療システムにおいて、前記経直腸式撮像用変換器がさらに、前記中間セクションに隣接する近位セクションを備え、前記近位セクションの第3の直径が前記中間セクションの第2の直径よりも大きい、超音波治療システム。
【請求項12】
請求項10に記載の超音波治療システムにおいて、前記第1の直径が20mm以下である、超音波治療システム。
【請求項13】
請求項10に記載の超音波治療システムにおいて、前記第2の直径が12mm以下である、超音波治療システム。
【請求項14】
請求項10に記載の超音波治療システムにおいて、前記第1の直径が15mmから20mmの範囲にあり、前記第2の直径が6mmから12mmの範囲にある、超音波治療システム。
【請求項15】
請求項11に記載の超音波治療システムにおいて、前記第1の直径および前記第3の直径が15mmから20mmの範囲にあり、前記第2の直径が6mmから12mmの範囲にある、超音波治療システム。
【請求項16】
請求項1に記載の超音波治療システムにおいて、前記超音波治療用変換器が、前記超音波治療用変換器の焦点ゾーンで前記前立腺内にキャビテーションマイクロ気泡を形成するヒストトリプシ治療パルスを送達して表面組織または介在する組織にダメージを与えることなしに前立腺組織を機械的に分断するように構成されている、超音波治療システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
[0001]本願は、米国特許法第119条の下で、2012年1月6日出願の「Histotripsy Therapy Transducer」と題する米国仮特許出願第61/583,925号の利益を主張するものであり、その出願は本明細書に全体が記載されたものとして参照により引用する。
参照による引用
[0002]本明細書で言及する公報および特許出願は全て、個別の各公報または特許出願が参照により引用されることが明確に個別に示されているものとして、同じ範囲にわたって本明細書に参照により引用される。
【0002】
[0003]本開示は、概して、治療用の超音波を組織に印加することに関する。より詳細には、本開示は、ヒストトリプシ(Histotripsy)治療を組織に行うのによく適した変換器の設計に関する。
【背景技術】
【0003】
[0004]ヒストトリプシとは、強力集束音響エネルギーを印加して細胞組織をホモジナイズするものである。ヒストトリプシの強力集束超音波は、ターゲット組織内に音響キャビテーションを誘発するようにパルス化される。音響キャビテーションは、加圧から希薄化への急速な循環によりキャビテーションマイクロ気泡が形成されるときに起こり、そのマイクロ気泡が振動し崩壊して、極めて大きいエネルギーがストレスおよび圧力として激しく放出される。その結果生じる「気泡クラウド(bubble cloud)」が組織を完全にホモジナイズする。
【0004】
[0005]外部の集束超音波変換器から組織の層を通して効果的な気泡クラウドを生成するためには、変換器によって生じる圧力は非常に高くなければならない。高い圧力は組織による減衰および非線形性を克服するのに必要である。水と比較すると、平均的な組織は1MHzで音波を0.8db/cm減衰させる。様々な組織における異なる減衰により非線形性が生じる。ターゲット焦点において組織をホモジナイズするのに十分なエネルギーを有する気泡クラウドを生成するためには、変換器は、減衰させる軟組織の層を通して非常に高い圧力のパルスを送達することが可能でなければならない。一部の臨床上の適用例では、ホモジナイズのターゲットになる組織は、介在する組織内の深いところにあり、音響の経路は、音響エネルギーの伝達を完全にブロックする、骨または撮像用探触子などの手術器具によって妨げられることがある。これが起きるときは、高エネルギーの(energetic)気泡クラウドを開始および持続させるのに必要な圧力では十分ではない。「Lesion Generation Through Bone Using Histotripsy Therapy Without Aberration Correction」と題する米国特許出願第13/570,708号の教示によれば、ヒストトリプシ音響パルスの骨による収差は、パルス強度を上昇させることによって補償することができる。それにも関わらず、骨によるエネルギーのブロックまたは器具によるブロックは、治療用変換器の効率を低下させ、補償するためにエネルギーレベルを上昇させると、ターゲットの焦点において組織および皮膚表面とターゲット組織との間に介在する組織に望ましくない加熱が起きるおそれがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
[0006]以下で説明する解決策は、強力集束超音波治療(HIFU)システムの治療用変換器の設計および設計方法にも適用される。HIFUでは、目標の焦点にある組織を加熱することが目的である。しかし、デューティサイクルが、したがって、送達されるエネルギー量がヒストトリプシよりもずっと高いので、骨によるブロックが非常に大きい問題である。骨と軟組織との境界面でHIFU音響パルスがブロックされると、骨および隣接する軟組織に熱傷を引き起こすおそれがある。
【0006】
[0007]University of Michigan(U of M)の科学者らが行うイヌの研究では、ヒストトリプシは前立腺組織をホモジナイズするのに効果的であると示されている。それらの研究では、ヒストトリプシ治療用変換器は前立腺をターゲットにするように腹部を通して焦点を当てた。前立腺が恥骨の下にあって変換器からの音響エネルギーが完全にブロックされるので、経腹壁式アプローチはヒトには機能しない。前立腺の非侵襲性ヒストトリプシ治療のためのより大きい開口部が会陰ウィンドウ(perineal window)を通して設けられている。会陰ウィンドウにより、それを通して治療するためにより大きい開口径が設けられるが、音エネルギーはターゲットからの距離と共に低下する。変換器からのその距離は、イヌの経腹壁式アプローチと比較して経会陰式アプローチでは著しく遠い。会陰ウィンドウは、後方の尾骨、前方の恥骨弓、および側方の腸骨など、骨盤の底部にある骨がフレームになっている。
【0007】
[0008]さらに、ヒストトリプシは、音響の伝達に干渉することがある直腸内への撮像用探触子の設置による超音波撮像によってガイドされ、可能性のある変換器のサイズ(直径)を物理的に制限し、治療用変換器の位置を前方に押しやって前方の骨盤の骨による音響のブロックをさらに大きくする。骨盤の骨および撮像用探触子は、音波をブロックするので、音の転送に利用できるウィンドウを画定する際の制限因子である。十分な音エネルギーがこの開口を通って前立腺にキャビテーションを起こすためには、サイズ、形状、および向きについて変換器を最適化させる必要がある。そのために、本出願人らは、設計方法を開発し特別仕様の変換器を設計している。それらを以下で詳細に説明する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
[0009]患者の会陰ウィンドウを通して前立腺を治療するための超音波治療システムにおいて、患者の会陰に隣接して位置決めされるとともに前立腺に焦点を当てるときに会陰ウィンドウの骨によって最小限にしかブロックされない超音波パルスを生成するようにサイズ設定および構成された超音波治療用変換器であって、超音波治療用変換器の外周部に沿ってまたはその近くに配設された開口部を含む、超音波治療用変換器と、超音波治療用変換器の開口部に配設された経直腸式撮像用変換器とを備える、超音波治療システムが提供される。
【0009】
[00010]一部の実施形態では、治療用変換器は、直径が80mmから180mmの範囲にあり、焦点距離が70mmから150mmの範囲にあり、F値が1.2未満である。
[00011]一実施形態では、超音波治療用変換器の開口部は、丸形の、半円形、正方形、矩形、三角形、および平板形からなる群から選択された形状を有する。
【0010】
[00012]別の実施形態では、超音波治療用変換器の開口部は、経直腸式撮像用変換器に干渉することなく、超音波パルスの治療焦点を前立腺の全領域に位置決めするように超音波治療用変換器の動きに対応するように構成されている。
【0011】
[00013]別の実施形態では、超音波治療用変換器は、「ハート形」の変換器を備え、前記会陰の後方部分に設置されるように適合された広幅の端部と、会陰の前方部分に設置されるように適合された細い端部とを有し、超音波治療用変換器の開口部が、超音波治療用変換器の広幅の端部に配設される。
【0012】
[00014]一実施形態では、超音波治療用変換器は単一の超音波変換器素子を備える。
[00015]別の実施形態では、超音波治療用変換器は複数の超音波変換器素子を備える。一部の実施形態では、複数の超音波変換器素子は丸形のである。別の実施形態では、複数の超音波変換器素子は六角形である。
【0013】
[00016]一実施形態では、経直腸式撮像用変換器は、遠位セクションと、遠位セクションの最も近くにある(隣接する)中間セクションとを備え、遠位セクションの第1の直径が中間セクションの第2の直径よりも大きい。別の実施形態では、経直腸式撮像用変換器はさらに、中間セクションの最も近くに(隣接する)近位セクションを備え、近位セクションの第3の直径が中間セクションの第2の直径よりも大きい。
【0014】
[00017]一部の実施形態では、第1の直径は20mm以下である。別の実施形態では、第2の直径は12mm以下である。代替の実施形態では、第1の直径は15mmから20mmの範囲にあり、第2の直径は6mmから12mmの範囲にある。一実施形態では、第1の直径および第3の直径は15mmから20mmの範囲にあり、第2の直径は6mmから12mmの範囲にある。
【0015】
[00018]一部の実施形態では、超音波治療用変換器は、超音波治療用変換器の焦点ゾーンで前立腺内にキャビテーションマイクロ気泡を形成するヒストトリプシ治療パルスを送達して表面組織または介在する組織にダメージを与えることなしに前立腺組織を機械的に分断するように構成されている。
【0016】
[00019]ヒストトリプシ治療によって患者の会陰ウィンドウを通して前立腺を治療する方法において、超音波治療用変換器を患者の会陰に隣接するように位置決めするステップと、経直腸式撮像用探触子を患者の直腸内に位置決めするステップであって、経直腸式撮像用探触子が超音波治療用変換器の開口部によって受容される、位置決めするステップと、撮像用探触子からの干渉なしに撮像用探触子に対する超音波治療用変換器の直線位置、パン位置、またはチルト位置を調節するステップと、撮像用探触子による前立腺の超音波画像を獲得するステップと、前立腺を治療するために前立腺に焦点を当てるときに会陰ウィンドウの骨によって最小限にしかブロックされないヒストトリプシパルスを生成するステップとを含む方法も提供される。
【0017】
[00020]一部の実施形態では、ヒストトリプシパルスを生成するステップは、デューティサイクルが5%未満で短い(<20μ秒)高圧(ピーク負圧>10MPa)衝撃波超音波パルスを生成するステップを含む。
【0018】
[00021]本発明の新規の特性は、詳細には以下の特許請求の範囲に記載されている。本発明のそれらの特性および利点は、本発明の原理を利用した例示の実施形態を示す以下の詳細な説明および添付の図面を参照することによってより良く理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】[00022]前立腺に向けられた治療用変換器および患者の直腸内に位置決めされた撮像用探触子のCTスキャンの図である。
図2】[00023]治療用変換器の概略図である。
図3】[00024]外側に前立腺から会陰ウィンドウを通って投影した変換器の形状の3D映像の図である。
図4】[00025]変換器の設計の一実施形態の図である。
図5】[00026]撮像用探触子のための切り抜き部を有する別の変換器の設計の図である。
図6】[00027]図6Aは複数の素子を有する治療用変換器の一構成を例示する図である。図6Bは複数の素子を有する治療用変換器の一構成を例示する図である。図6Cは複数の素子を有する治療用変換器の一構成を例示する図である。
図7】[00028]治療用変換器の別の実施形態の図である。
図8】[00029]撮像用探触子のための切り抜き部を有する治療用変換器の一実施形態を例示する図である。
図9】[00030]治療用変換器の別の実施形態を示す図である。
図10】[00031]図10Aは治療用変換器の別の実施形態を示す図である。図10Bは治療用変換器の別の実施形態を示す図である。図10Cは治療用変換器の別の実施形態を示す図である。
図11】[00032]図11Aは3つの異なる深さにおける前立腺内の4つのターゲットを例示する図である。図11Bは3つの異なる深さにおける前立腺内の4つのターゲットを例示する図である。
図12】[00033]前立腺モデル内の12箇所の位置からの音響上の伝達ブロックの概要を示す表である。
図13】[00034]治療用変換器の別の実施形態を示す図である。
図14】[00035]撮像用探触子の実施形態を2つ例示する図である。
図15】[00036]治療用変換器の実施形態を3つ示す図である。
図16】[00037]様々な検体の個別の7点に関してブロック率の結果を示す図である。
図17A】[00038]移動機構を用いて撮像用変換器に対して治療用変換器をどのように移動できるかを例示する図である。
図17B】移動機構を用いて撮像用変換器に対して治療用変換器をどのように移動できるかを例示する図である。
図17C】移動機構を用いて撮像用変換器に対して治療用変換器をどのように移動できるかを例示する図である。
図17D】移動機構を用いて撮像用変換器に対して治療用変換器をどのように移動できるかを例示する図である。
図17E】移動機構を用いて撮像用変換器に対して治療用変換器をどのように移動できるかを例示する図である。
図17F】移動機構を用いて撮像用変換器に対して治療用変換器をどのように移動できるかを例示する図である。
図17G】移動機構を用いて撮像用変換器に対して治療用変換器をどのように移動できるかを例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[00039]ヒストトリプシ治療は、男性患者の前立腺組織の治療によく適している。ヒストトリプシによる前立腺の治療は、会陰ウィンドウを含む前立腺の特定の解剖学的構造のためにヒストトリプシ変換器の設計を最適化することによって改善することができる。会陰ウィンドウを通した前立腺の非侵襲性治療のための最適の治療用変換器を設計するために、一連の死体のCTスキャンから、経直腸式超音波撮像用探触子が適位置にある骨盤の骨(尾骨、恥骨弓、腸骨、および仙骨)をモデリングした。次いで、会陰ウィンドウを前立腺から治療用変換器の位置に向かって逆投影した。この方法は、前立腺のどの面に集束したときにも最小限にしかブロックされないヒストトリプシパルスを生成できる最適な形状の変換器を設計するために用いた。
【0021】
[00040]逆投影モデリングからの重要な教訓は、経直腸式撮像用探触子が変換器を前方に押しやり、その結果前方の骨盤の骨による音響上のブロックがひどくなったという、経直腸式撮像用探触子による干渉である。設計に関して考慮すべき他の点は治療用変換器のF値であった。F値は、焦点距離を口径(有効直径)で除算した値として定義される。焦点距離は、前立腺全体を治療するのに十分に長くすべきであり、口径は、焦点に有効なエネルギーを送達するのに十分に大きくすべきである。焦点の手前の組織が加熱される可能性が指数関数的にF値に比例することに留意することが重要である。その結果、設計の主要な目的は、最低限のF値を念頭に置いて、骨および撮像用探触子による音響上のブロックがF値を効果的に下げる治療用変換器を設計することである。
【0022】
[00041]最適の前立腺ヒストトリプシ治療用変換器を判定するために様々な実験を行った。超音波治療用変換器100および経直腸式撮像用探触子102による男性の死体検体5体のCTスキャンを得た。その研究の特定の目標は、撮像用探触子の設置の影響、前立腺の平均的な体積、会陰ウィンドウの平均的な形状および最小の形状、治療用変換器から前立腺の頂点までの距離、ならびに治療用変換器から膀胱頚部までの距離を判定することである。
【0023】
[00042]本開示は、減衰の影響を補償するために変換器の出力変調以外に補正機能を加えることなしに、収差を起こす肋骨または骨を通した、損傷を発生させるヒストトリプシ治療の使用を説明する。図1の超音波治療用変換器100は、ヒストトリプシ治療を組織に送達するためにヒストトリプシパルスを生成するように構成することができる。ヒストトリプシは、制御されたキャビテーション気泡クラウドを使用して、機械的な組織の分別を誘発する。ヒストトリプシ気泡クラウドは、熱の影響を最小限に抑えながら、デューティサイクルが低い、典型的には5%未満の、短い(<20μ秒)高圧(ピーク負圧>10MPa)衝撃超音波パルスを用いて定義されるヒストトリプシ変換器によって、ヒストトリプシエネルギーを組織に送達させることによって生成することができる。キャビテーションする気泡クラウドの高いエコー発生性に基づいて、従来のどの超音波撮像システムを用いても、治療をリアルタイムで容易にモニタリングして、キャビテーション気泡クラウドが発生しているかどうかを操作者が確認することもできる。
【0024】
[00043]ヒストトリプシ治療による組織の分別の影響は、キャビテーション気泡クラウドが開始されるある一定の閾値レベルを、焦点圧力が超えるときに起きる。その閾値の仕組みに基づいて、圧力の主なビームがその形状を維持し気泡クラウド開始閾値を超える場合は、肋骨または骨を通して正確な損傷を発生させるようにヒストトリプシ治療を制御することができ、骨が通気することによる二次的なローブは、閾値より低いままであり、したがって、キャビテーション気泡クラウドを開始させない。
【0025】
[00044]やはり図1を参照すると、超音波治療用変換器100が会陰に位置決めされ、経直腸式撮像用探触子102が直腸に挿入され、次いで、それらはCT走査機に設置される。5体の死体検体のCTスキャンのデータにより、前立腺の体積内の位置から骨盤の骨および会陰ウィンドウを超えて治療用変換器上の位置に至る距離および角度が提供された。角度および距離の測定を行って、変換器から前立腺の膀胱頚部(変換器表面から最も遠いターゲット)までのアクセスのし易さを判定した。治療用変換器に関する最適の外径(OD)および焦点距離を検体ごとに判定した。F値=OD/焦点距離を検体ごとに計算し、表1に示すように平均値を判定した。
【0026】
[00045]表1−平均寸法およびF値を含む死体検体データ(mm)
【0027】
【表1】
【0028】
[00046]表1のデータに基づくと、一実施形態では、会陰ウィンドウを通した前立腺治療のために構成され最適化された丸形の治療用変換器の場合は、前立腺ヒストトリプシ超音波治療用変換器の最適の外径(OD)は105mm、焦点距離は120mmとすることが可能である。その実験結果によれば、一部の実施形態では、超音波治療用変換器は、外径が約90mmから125mmの範囲、焦点距離が100mmから140mmの範囲、F値が1.00から1.4の範囲にあることが可能である。別の実施形態では、治療用変換器は、外径が約75mmから150mmの範囲、焦点距離が80mmから160mmの範囲、F値が0.5から1.5の範囲にあることが可能である。
【0029】
[00047]ヒストトリプシ治療用変換器の作動可能な距離は、表面が平板形の場合は変換器の焦点から変換器表面上の最も近い点までの距離である。作動可能な距離LWは、ピタゴラスの定理の計算を用いて計算される。
【0030】
[00048]LW=作動可能な距離
[00049]Lf=焦点距離
[00050]LOD=全径
[00051]
【0031】
【数1】
【0032】
[00052]上記で説明した焦点距離およびODを用いると、
【0033】
【数2】
【0034】
[00053]図2に、上記で説明したパラメータを例示する焦点距離FL、焦点FS、作動距離WD、ODを有する、試料である変換器200の概略を例示する。
[00054]それらの測定値および計算値に基づくと、焦点距離を変換器の直径で除算したものと定義される最適の変換器のF値は、1.14に等しい。理想的には、F値は、焦点の手前の部分の加熱および意図しない組織のダメージを避けるように1.0以下とすることができる。直腸撮像用探触子の位置が丸形の治療用変換器の最適の位置に干渉することが確認された。本出願人は、実験によって、F値が高いと焦点の手前の部分が加熱され組織がダメージを受けるリスクを実質的に上昇させることを確認している。本開示の治療用変換器は、焦点の手前の部分を加熱することなく効率的に組織をホモジナイズするのにF値が十分に低くパルス列が効果的になるように設計されている。
【0035】
[00055]別の実験では、第2の一連の死体検体2体を、治療用変換器の位置への干渉が少なくなる、より短い模型の撮像用探触子で撮像した。上記に示した第1の実験では、撮像用探触子は長さが30cmであった。第2の一連の実験では、15cmおよび20cmの撮像用探触子を評価した。F値=OD/焦点距離を検体ごとに計算し、表2に示すように平均値を判定した。
【0036】
[00056]表2
【0037】
【表2】
【0038】
[00057]そのデータセットによるデータに基づくと、ODは120mmから190mmの範囲(平均すると約155mm)にあることが可能であり、焦点距離は、前立腺治療のために設計した丸形の治療用変換器の場合は約95mmから110mmの範囲にあることが可能である。この実施形態では、上記の等式を用いたそのシリーズの死体検体の測定値に基づいた最適の治療用変換器の設計の場合は、F値=0.70であり作動可能な距離は78.3mmである。
【0039】
[00058]上記の各一連の死体検体の実験の結果は大きく異なる。その結果によれば、最初の実験では、撮像用探触子は、超音波治療用変換器の最適の位置決めに干渉してその位置を上に(前方に)押しやった。その結果、骨盤の骨が治療用変換器と干渉し、治療用変換器のF値が上昇した。それらの実験によれば、治療用変換器との撮像用変換器の干渉を最小限に抑えると、治療用変換器のF値を低くするのを助けることができる。
【0040】
[00059]追加の実験において、前立腺の治療によく適したヒストトリプシ治療用変換器の最適の形状を判定するために、死体検体実験からのデータを3Dにモデリングした。
[00060]死体の研究によるDICOMファイルを、SolidWorks(3Dモデリングのための機械工学的ソフトウェアツール)に転送した。前立腺上の膀胱頚部点(治療用変換器から最も遠い点)から骨盤の骨のウィンドウを通した逆投影から理想的な変換器の形状を判定した。前立腺および撮像用探触子のモデルを、再構築した骨盤内に正確に位置決めした。前立腺の膀胱頚部のベース部から骨盤の骨を通して撮像用探触子の周りで、3Dモデル上に投影を行った。図3に、外側に前立腺から会陰ウィンドウを通して投影したときの3D映像304を例示する。3D映像に関して直腸撮像用探触子302の相互作用も示す。
【0041】
[00061]3Dモデリングに基づくと、それらの投影に基づく治療用変換器の、場合によっては有利な形状の一つは概して三角形である。変換器は、経直腸式撮像用探触子、または撮像用探触子を収容するように底部の近くに開口部または切り抜き部を有するより大きい三角形の変換器の上に設置することもできる。3Dモデリングに基づいて、一実施形態では、表3に示すように、膀胱頚部から10cm、11cm、12cm、および13cmの場合の、三角形の頂点から直腸撮像用探触子の表面までの測定値を得た。
【0042】
[00062]表3
【0043】
【表3】
【0044】
[00063]死体のCTスキャンからDICOMファイルを用いてSolidWorksのCADソフトウェアで第2の3Dモデルを構築した。別の変換器の形状は、前立腺上の膀胱頚部点から再構築した骨盤ウィンドウ(pelvic window)を通した逆投影に基づいて判定した。経直腸式撮像用探触子および前立腺のモデルを、再構築した解剖学的構造に挿入した。会陰ウィンドウを通した投影および開口部の理想的な形状に基づいて、変換器の一実施形態は、経直腸式撮像用探触子を設置するための開口部または切り抜き部を底辺に有する複雑な三角形を備える。
【0045】
[00064]こうした複雑な三角形の超音波変換器の一例が図4に示されている。図示のように、変換器406は切り抜き部408を含むことができ、その切り抜き部408は、直腸撮像用探触子などの撮像用変換器を受容するようにサイズ設定および構成される。切り抜き部408は、変換器の外周部に沿ってまたはその近くに位置決めすることができる。図示の実施形態では、切り抜き部は変換器の広幅の端部に沿って位置決めされている。変換器は平板形の上面を含むこともでき、その上面は、変換器の細い端部410に沿って位置決めされ、1対の傾斜面412aおよび412bにつながっている。それらの傾斜面は、変換器の下方のほぼ中間において、傾斜面よりもさらに外側に角度が付けられた第2の傾斜面414aおよび414bにつながることができる。変換器はさらに、平板形の底面を含むことができ、その底面は、撮像用探触子のための開口部または切り抜き部408を含む。
【0046】
[00065]図5に、3Dモデリングに基づいた別の可能な変換器の形状を例示する。その形状は、会陰ウィンドウを通して前立腺にヒストトリプシ治療を伝達するのに適している。図5に示すように、変換器506は比較的三角形の形状を含むことができ、経直腸式撮像用探触子を収容する切り抜き部408を変換器の底部に向かって有する。底面が湾曲した三角形の形状を示すが、任意の形状の底面(例えば、平板形など)を使用できることを理解されたい。図5の例では、切り抜き部508は変換器の外周部の近くに配設された円形の形状を含む。
【0047】
[00066]上記で説明した複雑な形状を有する治療用変換器の作製には、現実的かつ経済的な因子を考慮に入れるべきである。現在市場で最も安く、最も一般的な超音波治療用変換器は、単純な丸形の形状である。それらの変換器は、典型的には、指定の口径および焦点距離を可能にするような形状の圧電性の材料から作製される。圧電性の構成素子は、多くの場合に、切断されてより小さい素子になって位相配列変換器を作り出す。位相配列変換器では、各素子が別個の増幅器駆動装置からの電気信号でパルス化され、それにより変換器の電子的な操縦が可能になる。ヒストトリプシ変換器に望ましい高い電圧を発生させるために、ヒストトリプシ治療システムの圧電性の変換器の素子はそれぞれ、発振LC整合ネットワークを通してインピーダンスの低いスイッチング増幅器と整合するように十分に高いインピーダンスを有しなければならない。インピーダンスの高い変換器素子は、典型的には、表面積が小さく、非侵襲性のヒストトリプシの用途のために必要な変換器の大きい表面には、口径(直径)が大きいこと、したがって、比較的多数の独立に駆動される素子が必要である。
【0048】
[00067]治療用変換器を複数の素子で作製する方法の一つは、複数の丸形のディスクを使用することである。こうした作製方法を用いると、上記で説明した死体検体の投影による独特の形状により細密に近づく設計を作り出すことができる。図6A図6Cに、3つの変換器の設計600a、600b、および600cをそれぞれ示す。それらは、撮像用探触子の切り抜き部または開口部を有する独特の三角形の形状に近づけるようにディスクから作製される。それらのディスクは最小の空間(例えば、ディスク間に1mmの空間)で切り離されている。変換器600aは12個の素子を備えることができ、変換器600bは24個の素子を備えることができ、変換器600cは30個の素子を備えることができる。変換器はそれぞれ、概して三角形または「ハート形」の設計を形成することができ、変換器の広幅の端部の外周部の近くに位置決めされた開口部または切り抜き部608をさらに含むことができる。本明細書で説明するように、「ハート形」の変換器は、概して、湾曲した細い端部と、その細い端部の反対側に広幅の端部を有し、切り抜き部または開口部の両側に湾曲した部分を2つ有することができる。表4に、上記で説明したモデリングに基づいた最適の寸法の治療用変換器を構築するのに必要な様々なサイズの素子の総数を記載する。
【0049】
[00068]表4
【0050】
【表4】
【0051】
[00069]丸形の素子の表面積の効率は約66%〜74%である。表面積の効率は、直腸撮像用探触子の配置に対応し骨盤の骨の干渉を最小限に抑える六角形の素子を複数用いることで改善することができる。各素子の表面積が836.2mm、外側の長さ(OL)が33.39mmである六角形の素子を12個使った構成は、表5で説明するように1mmの空間で素子を切り離すときには被覆効率が94%である。
【0052】
[00070]表5
【0053】
【表5】
【0054】
[00071]図7に、変換器の設計の効率を向上させるように複数の六角形の素子706から作製された、同様の形状の変換器700を例示する。特定の一実施形態では、変換器は、高さ約137mm、最も広い点で幅約118mmとすることができる。丸形の圧電素子は、典型的には、六角形の素子よりも容易に入手可能であり、その結果、丸形の素子から作製された変換器は、図7の変換器から形成された六角形より現実的かつ安価である。
【0055】
[00072]図8に、直腸撮像用探触子などの撮像用変換器802を受容する切り抜き部808を有する「ハート形」の設計の超音波治療用変換器800のさらに別の実施形態を例示する。図8の変換器は、実質的に三角形であるが、製造中に丸形の変換器素子の使用に対応するように、開口部808の近くに湾曲した上部分816および湾曲した下側部分818を有する。
【0056】
[00073]前立腺内の6箇所の位置から、円形の変換器(ディスク)に関するビームのブロックと比較して、上記で図4図8に示す形状の変換器に関するビームのブロック率を評価するために理論解析を行った。円形の変換器対特別仕様の形状の変換器(図4図8)のブロック率が表6および表7に示されている。
【0057】
[00074]表6
【0058】
【表6】
【0059】
[00075]表7
【0060】
【表7】
【0061】
[00076]変換器の位置決めステージ(直線、パン/チルト、およびゴニオメータ)の様々な組み合わせを用いて各変換器について音響信号のブロックを行った。皮膚表面に最も近い位置1、2、および3では、変換器にも位置決めする方法にもブロックはない。より深い位置4、5、および6について、ブロックは大きい。
【0062】
[00077]図17A図17Gに、超音波治療用変換器1700および超音波撮像用変換器1702を備えた超音波撮像システムの一実施形態を例示する。図17A図17Fは移動機構1726も示す。その移動機構1726は、撮像用探触子に対する治療用変換器の直線、パン、およびチルトの動きを制御するように構成することができる。これらの動きは、撮像用探触子に対する治療用変換器の焦点Fの位置を調節する。図17Aおよび図17B(側面図)には、撮像用変換器1702に対してそれぞれチルトダウンおよびチルトアップした治療用変換器1700が示されている。図17C図17D、および図17E(上面図)には、撮像用変換器1702に対してそれぞれ直線方向に後方の位置、中間の範囲の位置、および前方の位置に治療用変換器1700が示されている。図17Fおよび図17G(上面図)には、撮像用変換器1702に対してそれぞれ左および右にパンした治療用変換器1700が示されている。超音波撮像用変換器1700は、撮像用変換器を収容および受容するように変換器の外周部の近くに配設された切り欠きまたは開口部を含む、上記で説明した実施形態のうちのいずれかを含むことができる。
【0063】
[00078]上記の表6および表7を参照すると、位置1は前立腺の正面部を治療するものと定義することができる(前立腺の正面部は図11Bの深さD1によって示すことができる)。これは、(図17Cに示すように)治療用変換器を後ろに平行移動させ、ほぼ「ゼロ」の位置にチルトおよびパンすることで実現することができる。位置2は、前立腺の中間の中心を治療するものと定義することができる。これは、(図17Dに示すように)治療用変換器を中間の範囲に平行移動させ、ほぼ「ゼロ」の位置にチルトおよびパンすることで実現することができる。位置3は前立腺の中間の底部を治療するものと定義することができる。これは、治療用変換器を「ゼロ」の位置に平行移動させ、(図17Aに示すように)チルトダウンし、ほぼ「ゼロ」の位置にパンすることで実現することができる。位置4は前立腺中間の上部を治療するものと定義することができる。これは、治療用変換器を「ゼロ」の位置に平行移動し、(図17Bに示すように)チルトアップし、ほぼ「ゼロ」の位置にパンすることで実現することができる。位置5は前立腺の中間の左/右を治療するものと定義することができる。これは、(図17F図17Gに示すように)左および右にパンすることで実現することができる。位置6は前立腺の背部を治療するものと定義することができる。これは、(図17Eに示すように)治療用変換器を前方に平行移動させ、ほぼ「ゼロ」の位置にチルトおよびパンすることで実現することができる。
【0064】
[00079]移動機構1726は、撮像用探触子に対する治療用変換器の直線およびパン/チルトの動きを制御するための自動化されたシステムまたは手動制御のシステムとすることができる。その機構には、例えば、治療用変換器を直線に前進および後退させ変換器の方向を上/下および左/右に操縦するように構成された歯車装置、モータ、ハードウェア、およびソフトウェアを含むことができる。多くの実施形態において、治療用変換器の切り抜き部または切り欠きにより、撮像用探触子による干渉なしにまたは撮像用探触子に接触することなしに、治療用変換器が移動することが可能になる。治療中には、6箇所の各位置を通して治療用変換器を制御することができ、前立腺全体を治療するために各位置にヒストトリプシ治療を適用することができる。
【0065】
[00080]変換器を位置決めするために2つのゴニオメータを用いるときに最良の結果が生じる。その結果は、まず位置4、5、および6に関してハート形の変換器の場合により良くなる。ハート形の変換器の最良の結果は1つの傾斜したゴニオメータおよび2つの直線のステージを用いるときに生じることがやはり留意されよう。こうした結果は、通常の位置の数センチメートル下方(後方)にゴニオメータの回転軸をずらすことによって得られる。この測定結果はさらに、撮像用探触子の周りの切り抜き部の重要性を示す。この構成の場合はブロックが最小になる。
【0066】
[00081]表8に、前立腺の6箇所の各位置に関して、円形の変換器と比較したときの送達される特別仕様の形状(三角形、ハート形など)の変換器の改善率を示す。
[00082]表8
【0067】
【表8】
【0068】
[00083]図8の特別仕様のハート形の変換器は、図9に示すように、丸形の変換器素子906を備える超音波治療用変換器900として複数の丸形の変換器素子を用いて作製することができる。図示のように、丸形の変換器素子は、変換器の広幅の端部に開口部または切り抜き部908を有するハート形の変換器を形成するように配置することができる。図9の素子が丸形で示されているが、一部の実施形態では、変換器素子は六角形とすることもできる。変換器のコストを削減し特別仕様の変換器を迅速に構築するために、変換器は小さい適切な形状の複数の素子を用いて構築することができる。一部の実施形態では、超音波治療用変換器の筐体が、変換器間の分離が最小限(例えば、約1mm以下)の直径3cmの円形ディスクの配置を支持することができる。ディスクは、音エネルギーをターゲットに集束させるために凹形とすることもでき、同じ影響を実現するために平板形とすることもできる。平板形のディスクは、凹形の集束ディスクよりもずっと安いという利点を有する。平板形のディスクが用いられるときは、モールド成形したプラスチック材から作製されたレンズを変換器素子上に設置することができる。
【0069】
[00084]F値(F値=焦点距離/口径(直径))および(前立腺の深いターゲット領域に到達するのに必要な)焦点距離を最適化するためには、変換器の口径または直径を最大にしなければならない。円形の変換器により、上記で説明した特別仕様の設計よりも口径が大きくなる。円形の変換器を最適に位置決めするために、円形の変換器の底部に切り抜き部を作って直腸撮像用探触子を収容した。その切り抜き部により、変換器をより後方に位置決めして、前方の骨盤の骨による音響の伝達のブロックを最小限に抑えることが可能になる。骨のブロックは丸形の変換器の口径を効果的に低減するが、その効率は、前立腺内の任意の所与のターゲットに関して最大にされ、ヒストトリプシが骨のブロックによる収差に対応することができる。
【0070】
[00085]別の実施形態では、円形の超音波治療用変換器1000を、図10A図10Cに示すように底部に直腸撮像用探触子のための切り抜き部1008を有するように設計した。図10Aは変換器の4分の3の図を示し、図10Bは変換器の側面図を示し、図10Cは変換器の概略図を示す。特定の一実施形態では、変換器は直径が約140mm、変換器の有効な直径が125mmとすることができる。焦点距離が約130mm、作動可能な距離が約11cmとすることができる。変換器は、切断および分割して表面積および入力インピーダンスの等しい別々の素子にされる、単一の圧電素子から作製することができる。例示の実施形態では、各素子の入力インピーダンスを実質的に増大させ各素子に入力する十分な電圧の発生を可能にするために36個の変換器素子で変換器を設計した。口径の幅125mm、焦点距離130mmの有効領域ODに基づくとF値は1.04である。切り抜き部を横切るすなわち垂直の寸法のF値は1.69である。
【0071】
[00086]上記に示した実験による死体検体からのコンピュータモデリングを用いて、前立腺の様々な領域の治療に関して骨による音響出力のブロック率を判定した。SolidWorksを用いて骨盤の骨、尾骨、撮像用探触子、変換器、変換器の焦点の円錐、および前立腺をモデリングした。前立腺の形状は解剖学的モデルに基づいた。骨盤の骨、直腸撮像用探触子、および前立腺は、それらの解剖学的な位置に設置し、変換器は、以下で定義する前立腺の点の上に焦点を合わせるように操作した。骨による音響の伝達のブロックは、変換器の正面縁部によって画定される平面上に変換器の焦点を逆投影することによってモデリングした。骨によってブロックされる投影はどれもその投影から左にずれる。実効面積を変換器の有効面によって除算して実効面積率を計算した。図11Aおよび図11Bに示すよう前立腺の3つの各深さD1(正面部)、D2(中間)、およびD3(背部)において、図10A図10Cの変換器の場合のブロック率を4つの地点L1、L2、L3、およびL4で判定した。図12は、前立腺モデル内の12箇所の位置からの音響の伝達のブロックを示す表である。予期される通り、ターゲットとなる、変換器から最も遠い地点は、円形の変換器のモデルにおいて最大35.1%のブロックを投影した。
【0072】
[00087]別の実施形態では、図10の円形の変換器を、焦点距離を110mmに短縮し、口径を130mmに増大させ、切り抜き部を約15mmだけ小さくすることによって修正した。その新しい変換器の設計は、図13に超音波治療用変換器1300として示されている。やはり、超音波治療用変換器は複数の個別の変換器素子を備えることができ、この例では、36個の変換器素子を有する(図13に個別に数字を付した)。表9は、図10図13の2つの特別仕様の円形の変換器を比較する。こうした変化により、F値は主直径では1.04から0.85に、切り抜き部では1.69から1.12に低下した。図13の修正した変換器は最適に動作し、750KHzで駆動した。低周波パルスは、高周波パルスよりも組織の減衰が低い。図13の修正した特別仕様の治療用変換器は、個々の増幅器/整合ネットワーク回路によって駆動する、サイズが等しい36個の素子を有する。
【0073】
[00088]表9
【0074】
【表9】
【0075】
[00089]図13の変換器の設計における撮像用探触子の切り抜き部のサイズを縮小すると、撮像用探触子の設計の修正が必要になる。図14を参照すると、直腸撮像用探触子1402が2つ示されている。上の撮像用探触子は、切り抜き部を貫通する撮像用探触子の中間セクション1420を含む。その中間セクション1420は、より小さい変換器の切り抜き部に対応し撮像用変換器に対して治療用変換器がパンおよびチルトの動きが可能になるように遠位セクション1422および近位セクション1424に比べて直径が小さい。細い区分を肛門に位置決めすることができ、より太い撮像用変換器のセクションを前立腺の後方の直腸に位置決めすることができる。図14に示す下側の探触子は、細い部分のない標準的な撮像用探触子である。一部の実施形態では、近位セクションおよび遠位セクションは、15mmから20mmの範囲にある直径を有することができ、中間セクションは、6mmから12mmの範囲にある直径を有することができる。これは、典型的には一様の約18mmの直径を有する図14の下に示す標準的な探触子との比較である。
【0076】
[00090]円形の変換器の設計を、熱による損傷を生み出さないデューティサイクルの閾値を判定するシミュレーションで切除した組織の研究で検証した。効果的に送達されるときにヒストトリプシは焦点の組織にまたは皮膚表面と焦点との間の組織に熱傷を負わせないことに留意することが重要である。熱による損傷は、長期間にわたって組織の温度が43℃を超え変換器がヒストトリプシ以外の熱の影響を生み出すパラメータによって動作するときに起きる。熱による損傷は、高い温度で短い期間露出しても起こる。非熱的なデューティサイクル閾値は、F値が1.04と1.69の間の試験した変換器の場合はF値が0.85と1.12の間の試験した変換器の場合よりもずっと高いことが組織の研究により判定された。動物の研究によれば、F値の低い変換器はヒストトリプシのデューティサイクルの閾値がF値の高い変換器の約6倍高かった。
【0077】
[00091]骨盤の骨を通る音響上のウィンドウが前立腺を治療するのに適切であることを検証するために修正した設計を死体の研究で試験した。骨盤の骨による音響信号のブロックが振幅を増大させることによって克服する必要があり、こうした音響エネルギーの増大は熱傷のリスクを上昇させるおそれがあることを考慮することも重要であった。例えば、音エネルギーブロック率が高い、会陰の開口が小さい患者は、音エネルギーをあまりブロックしない会陰の開口が大きい患者よりも大きい音響エネルギーを必要とする。
【0078】
[00092]上記で説明した方法と同様にして5体の死体検体を試験した。撮像用探触子を直腸に設置し、それを使って、骨盤サイズおよび位置を判定するために前立腺を走査した。各検体について4つのデータセットを得た。それらのデータセットの1つは撮像用探触子がなく、3つは図15に示すように3つの異なる治療用変換器の模型を適位置に有する。模型は、F値の低い順に列挙した以下の変換器を表す。
【0079】
[00093]1.設計1(140mm直径、焦点距離=130mm)
[00094]2.新しい設計2(145mm直径、焦点距離=125mm)
[00095]3.新しい設計3(145mm直径、焦点距離=110mm)
[00096]より短い焦点距離の治療用変換器に関する懸念は、前立腺のうちの膀胱頚部の隣の遠い方の端部にエネルギーを集束できるか否かである。この一連の研究および過去の研究による死体のデータに基づくと、焦点距離110mmおよび対応する作業長さ83mmにより、患者の過半数の治療が可能になるはずである。この変換器の設計は、最も低いF値を有するので、最良の設計であると考えられ、前立腺の治療中の音響のビームのブロックの以下の分析の対象とする。
【0080】
[00097]全ての検体についてDICOM標準/フォーマットファイルを作成しディスクに保存した。次いで、それらのデータセットを加工しSolidWorks、つまり3Dソフトウェアツールにインポートした。CT画像をガイドとして用いて撮像用探触子を基準として、各検体の前立腺を骨盤の骨の内部に設置した。以下の測定を行った。
【0081】
[00098]前立腺の寸法;長さ、幅、および高さ
[00099]前立腺の最も遠い点と尾骨(皮膚)との距離
[000100]骨盤の骨の内部における前立腺の向き
[000101]撮像用探触子の外面と尾骨(皮膚)との距離
[000102]変換器の面から発出する音響信号がブロックされる率を判定するために、前立腺の体積を判定した後に、形状の分析を行うために7箇所の治療点を選択した。7箇所の治療点は、前立腺の背部、底部、中間の上部、中間の右、中間の中心、中間の左、および正面部であった。
【0082】
[000103]図16に示す表に示すように検体ごとの個々の7点についてのブロック率の結果である。前立腺の正面部の点にはどの検体にもブロックがなかったことに留意されたい。中間の中心および中間の底部の点に関しても、同じことが多かれ少なかれ言えた。中間の底部の点の結果は、骨のブロックが骨のウィンドウ(口径は「A」字のような形状である)の上側の部分に向かって悪くなりその点が変換器を下に傾けることによってターゲットになることによるものである。その他の点は全て、平均でブロック率がほぼ9%と15%の間であり、前立腺の「背部」の点(膀胱頚部との境目の地点)で最悪になる。それらのデータから、対象ごとに差が大きいことに留意することも興味深い。検体2はブロックの平均が2.9%(7点の平均値)であるが、検体5はブロックの平均が12.2%である。それらは、その試料からの2つの極端な値を表す。全ての点および全ての検体に関する全体の平均値は7.7%であった。これは、前に論じたブロック値20%をはるかに下回っており、したがって、残りのデータ(代替の変換器の設計の模型を用いて得た画像)の分析は不要と考えられた。
【0083】
[000104]本開示は、ヒストトリプシまたは任意の形態の治療用の超音波によるBPHまたは前立腺癌の治療のために骨の口径のサイズを判定することを目的として、砕石位においてヒトの死体の対象を撮像した今までに類を見ないものである。この研究は、5体の死体検体にBPHまたは前立腺癌の治療をするために位置決めされた、Histosonics社の(好ましくは再設計された)超音波撮像用探触子および治療用変換器を含んでいた。この研究からのデータは、BPHまたは癌に関する前立腺の治療中に予期されるべきブロックの量を推定した。そのデータを用いて、音響の伝達口径を低減し効果的にF値を増大させることになる、所与の予期される骨のブロックを使用するのに安全なヒストトリプシパラメータを判定した。
【0084】
[000105]本発明に関連するさらなる詳細については、材料および製造技術は当業者のレベル内で使用することができる。一般または論理的に用いられるさらなる機能に関して、同じことが本発明の方法に基づく態様に当てはまる。さらに、本発明の上述の変形形態の任意のどの特性も独立にまたは本明細書で説明した任意の1つまたは複数の特性と組み合わせて記載および請求できることが企図される。同様に、単数項目の言及は同じ項目が複数存在する可能性を含む。より具体的には、本明細書および添付の特許請求の範囲では、単数形「a」、「and」、「said」、および「the」は、別段の明確な記述がない限り、複数の指示対象を含む。特許請求の範囲が任意の要素を除外するように起草できることがさらに留意されよう。したがって、この記述は、特許請求の範囲の要素に関連した「solely」、「only」などの排他的用語の使用、または「negative(否定的な)」制限の使用に対する前提として機能するものである。本明細書で別段の定義がない限り、本明細書で用いる全ての技術用語および科学用語は、本発明が属する分野の当業者が共通に理解するのと同じ意味を有する。本発明の範囲は、本明細書によって限定されることはなく、使用される特許請求の範囲の用語の一般的な意味によってのみ限定される。
[形態1]
患者の会陰ウィンドウを通して前立腺を治療するための超音波治療システムにおいて、
前記患者の会陰に隣接して位置決めされるとともに前記前立腺に焦点を当てるときに前記会陰ウィンドウの骨によって最小限にしかブロックされない超音波パルスを生成するようにサイズ設定および構成された超音波治療用変換器であって、前記超音波治療用変換器の外周部に沿ってまたはその近くに配設された開口部を含む、超音波治療用変換器と、
前記超音波治療用変換器の前記開口部に配設された経直腸式撮像用変換器と
を備える超音波治療システム。
[形態2]
形態1に記載の超音波治療システムにおいて、前記治療用変換器は、直径が80mmから180mmの範囲にあり、焦点距離が70mmから150mmの範囲にあり、F値が1.2未満である、超音波治療システム。
[形態3]
形態1に記載の超音波治療システムにおいて、前記超音波治療用変換器の前記開口部が、丸形、半円形、正方形、矩形、三角形、および平板形からなる群から選択された形状を有する、超音波治療システム。
[形態4]
形態1に記載の超音波治療システムにおいて、前記超音波治療用変換器の前記開口部が、前記経直腸式撮像用変換器に干渉することなく、前記超音波パルスの治療焦点を前記前立腺の全領域に位置決めする前記超音波治療用変換器の動きに対応するように構成されている、超音波治療システム。
[形態5]
形態1に記載の超音波治療システムにおいて、前記超音波治療用変換器が、「ハート形」の変換器を備え、前記会陰の後方部分に設置されるように適合された広幅の端部と、前記会陰の前方部分に設置されるように適合された細い端部とを有し、前記超音波治療用変換器の前記開口部が、前記超音波治療用変換器の前記広幅の端部に配設される、超音波治療システム。
[形態6]
形態1に記載の超音波治療システムにおいて、前記超音波治療用変換器が単一の超音波変換器素子を備える、超音波治療システム。
[形態7]
形態1に記載の超音波治療システムにおいて、前記超音波治療用変換器が複数の超音波変換器素子を備える、超音波治療システム。
[形態8]
形態7に記載の超音波治療システムにおいて、前記複数の超音波変換器素子が丸形である、超音波治療システム。
[形態9]
形態7に記載の超音波治療システムにおいて、前記複数の超音波変換器素子が六角形である、超音波治療システム。
[形態10]
形態1に記載の超音波治療システムにおいて、前記経直腸式撮像用変換器が、遠位セクションと、前記遠位セクションに隣接する中間セクションとを備え、前記遠位セクションの第1の直径が前記中間セクションの第2の直径よりも大きい、超音波治療システム。
[形態11]
形態10に記載の超音波治療システムにおいて、前記経直腸式撮像用変換器がさらに、前記中間セクションに隣接する近位セクションを備え、前記近位セクションの第3の直径が前記中間セクションの第2の直径よりも大きい、超音波治療システム。
[形態12]
形態10に記載の超音波治療システムにおいて、前記第1の直径が20mm以下である、超音波治療システム。
[形態13]
形態10に記載の超音波治療システムにおいて、前記第2の直径が12mm以下である、超音波治療システム。
[形態14]
形態10に記載の超音波治療システムにおいて、前記第1の直径が15mmから20mmの範囲にあり、前記第2の直径が6mmから12mmの範囲にある、超音波治療システム。
[形態15]
形態11に記載の超音波治療システムにおいて、前記第1の直径および前記第3の直径が15mmから20mmの範囲にあり、前記第2の直径が6mmから12mmの範囲にある、超音波治療システム。
[形態16]
形態1に記載の超音波治療システムにおいて、前記超音波治療用変換器が、前記超音波治療用変換器の焦点ゾーンで前記前立腺内にキャビテーションマイクロ気泡を形成するヒストトリプシ治療パルスを送達して表面組織または介在する組織にダメージを与えることなしに前立腺組織を機械的に分断するように構成されている、超音波治療システム。
[形態17]
ヒストトリプシ治療によって患者の会陰ウィンドウを通して前立腺を治療する方法において、
超音波治療用変換器を前記患者の会陰に隣接するように位置決めするステップと、
経直腸式撮像用探触子を前記患者の直腸内に位置決めするステップであって、前記経直腸式撮像用探触子が前記超音波治療用変換器の開口部によって受容される、位置決めするステップと、
前記撮像用探触子からの干渉なしに、前記撮像用探触子に対する前記超音波治療用変換器の直線位置、パン位置、またはチルト位置を調節するステップと、
前記撮像用探触子による前記前立腺の超音波画像を獲得するステップと、
前記前立腺を治療するために前記前立腺に焦点を当てるときに前記会陰ウィンドウの骨によって最小限にしかブロックされないヒストトリプシパルスを生成するステップと
を含む方法。
[形態18]
形態17に記載の方法において、ヒストトリプシパルスを生成するステップが、デューティサイクルが5%未満で短い(<20μ秒)高圧(ピーク負圧>10MPa)衝撃超音波パルスを生成するステップを含む、方法。
図1
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図10A
図10B
図10C
図11A
図11B
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図17A
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図17G