(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6068617
(24)【登録日】2017年1月6日
(45)【発行日】2017年1月25日
(54)【発明の名称】エチレン及び酢酸の製造工程
(51)【国際特許分類】
C07C 5/48 20060101AFI20170116BHJP
C07C 11/04 20060101ALI20170116BHJP
C07C 51/215 20060101ALI20170116BHJP
C07C 53/08 20060101ALI20170116BHJP
B01J 27/057 20060101ALI20170116BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20170116BHJP
【FI】
C07C5/48
C07C11/04
C07C51/215
C07C53/08
B01J27/057 Z
!C07B61/00 300
【請求項の数】9
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-503206(P2015-503206)
(86)(22)【出願日】2013年2月12日
(65)【公表番号】特表2015-516952(P2015-516952A)
(43)【公表日】2015年6月18日
(86)【国際出願番号】US2013025728
(87)【国際公開番号】WO2013148006
(87)【国際公開日】20131003
【審査請求日】2016年1月29日
(31)【優先権主張番号】61/616,572
(32)【優先日】2012年3月28日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】590002035
【氏名又は名称】ローム アンド ハース カンパニー
【氏名又は名称原語表記】ROHM AND HAAS COMPANY
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100111903
【弁理士】
【氏名又は名称】永坂 友康
(74)【代理人】
【識別番号】100102990
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 良博
(72)【発明者】
【氏名】スコット・ハン
(72)【発明者】
【氏名】クリストファー・ディー・フリック
(72)【発明者】
【氏名】ダニエル・ジェイ・マーテナック
【審査官】
斉藤 貴子
(56)【参考文献】
【文献】
特表2003−511344(JP,A)
【文献】
特表2001−505129(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2008/0132723(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2010/0256432(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2012/0016171(US,A1)
【文献】
特開平07−053414(JP,A)
【文献】
特表2007−529294(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2011/0245571(US,A1)
【文献】
特開平01−085945(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 5/48
C07C 11/04
C07C 51/21,51/215
C07C 53/08
C07B 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素の存在下、450℃以下の温度で、気相において触媒によりエタンをエチレン及び酢酸に変換することを含む方法であって、触媒が、MoVaNbbTecZdOnという実験式を有し、ZがPdであって、a=0.01〜1.0未満、b=0.01〜1.0未満、c=0.01〜1.0未満、d=0.0より大きくかつ1.0未満であり、nがその他の元素の酸化状態により決定される、該方法。
【請求項2】
変換を、1〜30絶対気圧の圧力において実行する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
変換を、150℃〜450℃の温度で実行する、請求項1〜2のいずれか一項に記載の方法。
【請求項4】
該方法の生成物の少なくとも一部を、酢酸ビニルの製造に使用する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
酢酸に対するエチレンのモル比が2未満である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
未反応エタンを精製し再利用する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
生成物の酢酸を濃縮する、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
変換を、固定床及び/又は流動床反応器の一つ又は複数を含む反応器系で実行する、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
系が一つより多い反応器を含み、該反応器の一つが触媒再生モードにある、請求項8に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2012年3月28日に出願された仮出願第61/616,572号の優先権を主張し、その内容は、参照により本明細書において援用される。
【0002】
発明の背景
本発明は、酸素の存在下でエタンをエチレン及び酢酸に脱水素化する低温向けの工程に関するものであり、具体的には、良好な変換と良好な選択性を特徴とする触媒を用いた工程に関するものである。
【背景技術】
【0003】
エチレンへのエタンの低温酸化脱水素化は、E.M.ソースタインソン(Thorsteinson)、T.P.ウィルソン(Wilson)、F.G.ヤング(Young)、及びP.H.カサイ(Kasai)による「The Oxidative Dehydrogenation of Ethane over Catalyst Containing Mixed Oxide of Molybdenum and Vanadium」、Journal of Catalysis 52,pp.116−132(1978)の発表以来、周知である。この論文には、モリブデン及びバナジウムを、別の遷移金属酸化物(Ti、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Nb、Ta、又はCe)と共に含有する混合酸化物触媒が開示されている。これらの触媒は、200℃という低温で、エタンからエチレンへ酸化脱水素化する活性を有する。
【0004】
エチレンへのエタンの酸化脱水素化の有効性は通常、主に二つのパラメータ:エタンの変換、及びエチレンへの選択性(効率)により決定される。本明細書で使用する場合、これらの項は、以下の:
【0005】
【数1】
【0006】
【数2】
として決定され、
ここで:[]=成分の相対モル数であり、酢酸の生成は無視できる。当技術分野におけるこれらの項は、様々に計算されるが、どれをとっても、数値は実質的に同一である。
【0007】
特定の反応条件下では、相当量の酢酸が、副産物として形成される可能性があり、エチレン及び酢酸への反応の有効性は、以下の方程式:
【0008】
【数3】
【0009】
【数4】
によって計算される。
【0010】
エチレン及び酢酸へのエタンの触媒工程を応用する一つは、工業用酢酸ビニルモノマー(VAM)を合成するフロントエンド工程としてのものであろう。エチレンとの酢酸の反応(アセトキシル化)は、現在、酢酸ビニルへの主要経路である。現状の酢酸ビニル工程技術は、成熟しているので、大幅な改良を達成することは、ますます困難となっている。原材料のコスト削減は、VAMの製造コスト削減につながる可能性がある。エタン及び酸素を出発原材料として使用することにより、現在使用しているエチレン及び酢酸に勝る、原料物質コストの大幅な節約になる可能性がある。
【0011】
エタンと酸素を触媒上で反応させて、エチレン及び酢酸を含む生成物流を選択的に副生成させる工程を有することが望ましい可能性があり、この生成物流は、VAM生成に使用できる可能性がある。
【発明の概要】
【0012】
本開示の工程はそうした工程であり、酸素の存在下、450℃以下の温度で、気相において触媒によりエタンをエチレン及び酢酸に変換することを含み、ここで触媒は、MoV
aNb
bTe
cZ
dO
nという実験式を有し、Zは少なくとも、W、Cr、Ta、Ti、Zr、Hf、Mn、Re、Fe、Ru、Co、Rh、Ni、Pd、Pt、Ag、Au、Zn、B、Al、Ga、In、Ge、Sn、Pb、P、Bi、Y、希土類元素、及びアルカリ土類元素から成る群から選択される少なくとも一つの元素であり、a=0.01〜1.0未満、b=0.01〜1.0未満、c=0.01〜1.0未満、d=0.0〜1.0未満であり、そしてnは、その他の元素の酸化状態により決定される。
【0013】
予想外なことに、この工程は、エチレンへの非常に高い選択性で運用することが可能である。
【0014】
発明の詳細な記述
本発明の工程は、酸素及び触媒の存在下で、エタンをエチレン及び酢酸に変換する。
【0015】
本明細書で使用する場合、「ある(a)」、「ある(an)」、「その(the)」、「少なくとも一つの(at least one)」、及び「一つ又は複数(one or more)」は、交換可能に使用される。「含む(comprises)」、「含む(includes)」という用語、及びそれらの変形は、本記載及び請求項においてこれらの用語が現れる箇所の意味を限定しているということではない。よって、例えば、「ある(a)」疎水性ポリマーの粒子を含む、ある(an)水性組成物は、この組成物が一つ又は複数の疎水性ポリマーの粒子を含んでいることを意味すると解釈することが可能である。
【0016】
また本明細書では、端点までの数値範囲の記述は、その範囲に包含されるあらゆる数を含む(例えば1〜5は、1、1.5、2、2.75、3、3.80、4、5、等を含む)。本発明の目的のためには、当業者も理解するであろうとおり、数値範囲は、その範囲に含まれるあらゆる可能な下位範囲を含み、且つ裏付けることを意図していることを理解すべきである。例えば、1〜100の範囲は、1.01〜100、1〜99.99、1.01〜99.99、40〜60、1〜55等を伝えていることが意図されている。また本明細書では、数値範囲及び/又は数値の記述は、本明細書中のそのような記述を含め、「約」という用語を含むと読みとることが可能である。そのような例では、「約」という用語は、本明細書に記述されているのと実質的に同一である数値範囲及び/又は数値をさす。
【0017】
本明細書で使用する場合、「メタ(meth)」という用語が使用されて、その後ろにアクリレート(acrylate)等の別の用語が続いていると、それは、アクリレート及びメタクリレート(methacrylate)の両方をさす。例えば、「(メタ)クリレート((meth)acrylate)」という用語は、アクリレート又はメタクリレートのいずれかをさし;「(メタ)クリル((meth)acrylic)」という用語は、アクリル又はメタクリル」をさし;そして「(メタ)クリル酸((meth)acrylic acid)」という用語は、アクリル酸又はメタクリル酸をさす。
【0018】
エタン源として使用する原料物質は、少なくとも3容積パーセントのエタンを含有するガス流であるのが有利である。エタン含有ガス流に制限はなく、例えば、天然ガス由来、又は化学工程若しくは石油工程で生じる副生成物流に由来することが可能である。エタン含有ガス流は、少量の水素、一酸化炭素、及びC
3〜C
4アルカン及びアルケンを、例えば、それぞれ5容積パーセント未満で含有することが可能である。エタン含有ガス流はまた、多量の、例えば、窒素、メタン、二酸化炭素、及び水蒸気の形態をとる水の、一つ又は複数を、それぞれ5容積パーセント超で含有することが可能である。
【0019】
酸素含有ガスは、分子状酸素を反応系に供給する。「酸素含有ガス」という用語は、本明細書で使用する場合、0.01%から100%までの酸素、例えば空気を含むあらゆるガスをさす。酸素含有ガスは純粋な酸素ガスであってもよいが、その一方で、空気等の酸素含有ガスを使用するのが通常、さらに経済的で実用的である。
【0020】
希釈ガスを、反応物質ガスを希釈する目的で使用してもよい。好適な希釈ガスには:一酸化炭素、二酸化炭素、窒素、アルゴン、ヘリウム、及びそれらの混合物の、一つ又は複数が挙げられるが、これらに限定されるものではない。初期供給ガス用に好適な、出発物質のモル比、(炭化水素):(酸素):(希釈ガス):(H
2O)、は、例えば、(1):(0.1〜10):(0〜20):(0.2〜70)であり、例えば、(1):(1〜5.0):(0〜10):(5〜40)を含むが、これらに限定されるものではない。希釈ガスを用いて、空間速度、酸素分圧、及び水蒸気分圧を調整してもよい。
【0021】
本明細書で使用する場合、「混合金属酸化物触媒」は、一つより多い金属酸化物を含む触媒をさす。
【0022】
本発明の一実施形態によると、本発明に準拠した適切な触媒は、MoV
aNb
bTe
cZ
dO
nという実験式を有する一つ又は複数の混合金属酸化物触媒であり、ここでZは、W、Cr、Ta、Ti、Zr、Hf、Mn、Re、Fe、Ru、Co、Rh、Ni、Pd、Pt、Ag、Au、Zn、B、Al、Ga、In、Ge、Sn、Pb、P、Bi、Y、希土類元素、及びアルカリ土類元素から成る群から選択される少なくとも一つの元素であり、a=0.01〜1.0未満、b=0.01〜1.0未満、c=0.01〜1.0未満、d=0.0〜1.0未満であり、そしてnは、その他の元素の酸化状態により決定される。本発明の一実施形態では、ZはPdである。混合金属酸化物(MMO)触媒の調製は、米国特許第7,304,014号に記載されている。混合金属塩の前駆体スラリーはまず、従来の方法、及び米国特許第7,304,014号に記載の方法により調製し、それらの方法には、例えば、ローターリーエバポレーターによる蒸発、減圧乾燥、熱水法、共沈、固相合成、含浸、初期湿潤(incipient wetness)、ゾルゲル工程、及びそれらの組み合わせが挙げられているが、これらに限定されるものではない。前駆体スラリーを調製した後、これを、従来の乾燥方法によって乾燥させ、それらの乾燥方法には、例えば、オーブン中での乾燥、スプレー乾燥、及び凍結乾燥が挙げられるが、これらに限定されるものではない。乾燥させた前駆体をその後、か焼させて(calcinated)、当業者に周知の技術、及び上に記載の技術を用いて調製したMMO触媒が得られ、それらの技術には、例えば、流動か焼(flow calcinations)、静的か焼(static calcinations)、回転か焼(rotary calcinations)、及び流動床か焼(fluid−bed calcinations)が挙げられるが、これらに限定されるものではない。いくつかの場合には、調製したMMO触媒をさらに粉砕して、触媒活性を向上させる。
【0023】
修飾混合金属酸化物(促進されたもの又はそうでないもの)それ自体を、固体触媒として使用してもよい。触媒はまた、技術開示された技術に従って、一つ又は複数の好適な担体、例えば、シリカ、アルミナ、チタニア、アルミノケイ酸塩、珪藻土又はジルコニアと組み合わせてもよいが、これらに限定に限定されるものではない。さらにはこれを、反応器の大きさや系に応じて、技術開示された技術を用いて加工し、好適な形状、又は粒子サイズにしてもよい。
【0024】
代わりに、触媒の金属成分を、アルミナ、シリカ、シリカ−アルミナ、ジルコニア、チタニア等の物質に、従来の初期湿潤法により担持させる。一方法では、金属を含有する溶液を、乾燥担持体と接触させ、担持体を湿潤させるようにした後、得られた湿潤物質を、例えば室温〜200℃で乾燥させた後、上記のか焼を行う。別の方法では、金属イオンの溶液を、典型的には3:1(金属イオン溶液:支持体)超の容積比で担持体と接触させ、溶液を激しく攪拌して、金属イオンがイオン交換されて担持体上に担持されるようにする。金属含有担持体をその後、乾燥させ、上に詳述したとおりにか焼する。
【0025】
別個の実施形態によれば、触媒はまた、一つ又は複数の促進剤を用いて調製する。上の促進混合金属酸化物用の出発物質は、上記のものに限定はされない。例えば、酸化物、硝酸塩、ハロゲン化物又はオキシハロゲン化物、アルコキシド、アセチルアセトネート、及び有機金属化合物を含む広範な物質を使用してもよい。例えば、ヘプタモリブデン酸アンモニウムを、触媒中のモリブデン源として使用してもよい。しかし、MoO
3、MoO
2、MoCl
5、MoOCl
4、Mo(OC
2H
5)
5、モリブデンアセチルアセトネート、ホスホモリブデン酸、及びシリコモリブデン酸等の化合物もまた、ヘプタモリブデン酸アンモニウムの代わりに使用してもよい。同様に、メタバナジン酸アンモニウムを触媒中のバナジウム源として使用してもよい。しかし、V
2O
5、V
2O
3、VOCl
3、VCl
4、VO(OC
2H
5)
3、バナジウムアセチルアセトネート、及びバナジルアセチルアセトネート等の化合物もまた、メタバナジン酸アンモニウムの代わりに使用してもよい。テルル源には、テルル酸、TeCl
4、Te(OC
2H
5)
5、Te(OCH(CH
3)
2)
4、及びTeO
2が挙げられることもある。ニオブ源には、シュウ酸ニオブアンモニウム、Nb
2O
5、NbCl
5、ニオブ酸又はNb(OC
2H
5)
5が挙げられることもあり、より慣用的なシュウ酸ニオブだけではない。
【0026】
加えて、促進触媒用の促進剤組成物に関しては、ニッケル源に、酢酸ニッケル(II)四水和物、Ni(NO
3)
2、シュウ酸ニッケル(II)、NiO、Ni(OH)
2、NiCl
2、NiBr
2、ニッケル(II)アセチルアセトネート、硫酸ニッケル(II)、NiS、又はニッケル金属が挙げられることがある。パラジウム源には、Pd(NO
3)
2、酢酸パラジウム(II)、シュウ酸パラジウム、PdO、Pd(OH)
2、PdCl
2、パラジウムアセチルアセトネート、又はパラジウム金属が挙げられることがある。銀の源は、酢酸銀、銀アセチルアセトネート、安息香酸銀、臭化銀、炭酸銀、塩化銀、クエン酸銀水和物、フッ化銀、ヨウ化銀、乳酸銀、硝酸銀、亜硝酸銀、酸化銀、リン酸銀、又は含水無機酸、例えば硝酸中の銀の溶液であることもある。金の源には、テトラクロロ金酸アンモニウム、臭化金、塩化金、シアン化金、水酸化金、ヨウ化金、酸化金、トリクロロ金酸、及び硫化金が挙げられることもある。
【0027】
反応は、従来の反応器中で実行し、100ミリ秒超の時間等の従来の滞留時間で、触媒によりエタンを変換するのが有利である。反応器系は、固定床及び/又は流動床反応器の一つ又は複数を含んでいるのが有利である。本発明の一実施形態では、系は一つより多い反応器を含み、それらの反応器の一つは触媒再生モードにある。
【0028】
反応器へ供給するガスの組成は、当業者に既知のパラメータに従って、変えてもよい。工程の実行において使用される反応混合物は概して、1モルのエタン、純粋な酸素として又は空気の形態で0.01〜1.0モルの分子状酸素、そして水蒸気の形態で0〜4.0モルの水である。水又は水蒸気は、反応希釈物、そして反応用の熱調節物として使用する。その他のガスの、窒素、ヘリウム、二酸化炭素、及びメタン等を、反応希釈物、又は熱調節物として使用してもよい。
【0029】
反応過程において、変換される各モルのエタンについて1モルの水が形成される。反応で生じる水は、結果として幾分の酢酸を形成する。数気圧の下では、酢酸1モルあたり約1〜50モルのエチレンが形成される。
【0030】
反応混合物のガス成分には、エタン及び酸素、そしておそらく希釈物が含まれ、これらの成分を、均一に混合した後、反応ゾーンに導入する。成分は、反応ゾーンに導入する前に、個々に又は混合した後に予熱してもよく、反応ゾーンは、約200℃〜約450℃の温度を有するのが有利である。
【0031】
反応ゾーンは概して、約1〜30絶対気圧、好ましくは1〜20気圧の圧力;約150℃〜450℃、好ましくは約200℃〜約400℃の温度;約0.1〜約100秒、好ましくは約1〜10秒の、反応混合物と触媒との接触時間;そして約50〜500h
−1、そして好ましくは200〜300h
−1の1時間あたりのガス空間速度、を有する。
【0032】
1時間あたりのガス空間速度は、全反応器吸気ガス体積をリットルで測定することにより計算し、これは、1時間の期間にわたる全供給量を、反応器中の触媒のリットルで割り算し、0°Cで760mmHgでの体積として表現したものである。
【0034】
反応圧力は最初、ガス状反応物質、及び希釈物質を供給することによって得られ、反応が開始すると、その圧力は、反応器の排気流上に設置した好適な背圧コントローラーの使用により維持するのが好ましい。
【0035】
反応温度は、好適な熱伝達媒質中に浸した、壁を有する管状コンバーター内に触媒床を置くことにより提供されるのが好ましく、そのような媒質は、ダウケミカル社(Dow Chemical Company)から購入可能なDOWTHERMという商標の熱伝達流体、テトラリン、溶融塩混合物、又は所望の温度に加熱されたその他の好適な熱伝達物質等である。
【0036】
概して工程は、反応に用いる酸素をすべて、不活性の希釈物ともに供給して、一段で実行する。工程はまた、多段で実行することも可能である。非凝縮性の希釈物なしに運用することにより、生成したエチレンの単離が容易になることが望ましい。
【0037】
触媒性能を比較するのにかなり良好な基準は、エチレンへの選択性を、エタンの変換を同じにして比較することによって得られる。これは、使用可能な運用温度範囲にわたって、エチレンへの選択性とエタンの変換との間の関係を利用することによって、容易に遂行達成可能である。それゆえに、比較に使用しようとするエタンの変換での運用を実際に行う必要はなく、その理由は、当業者に既知の数学的方法に従って、2組のデータから所望のいかなる組の値にも内挿又は外挿することが可能だからである。
【0038】
本発明の一実施形態では工程は、エタンの変換10%超において、エチレンへの選択性が80%超であるように運用される。別の実施形態では、工程は、エタンの変換10%超において、エチレンへの選択性が90%超であるように運用される。本発明の一実施形態では、エタンの変換、少なくとも10%に対して、エチレンへの選択性は75%超であり、酢酸への選択性は15%超である。本発明の一実施形態では、酢酸に対するエチレンの比は、生成物流中で2未満である。
【0039】
所望の生成物への高選択性は概して、非常に有利である。高いエチレン選択性により、工程上の顕著な利点、例えば以下が得られる:
1)高いエチレン選択性により、未変換のエタンが経済的に再利用される。COxガス生成が減少することに起因して、単離業務は軽減され、消滅再利用(extinction recycle)工程において、未反応のエタンはすべて、最終的に変換される。このように、高いエチレン選択性は、得られる収量であり、エタン変換が最終的に100%となるとおりである。
2)より高いグレードのエチレン生成物は、それがもし余分にあれば、プラントでのその他の化学工程用に使用することが可能であり、原材料化学商品として販売することが可能である。純度グレードが高いほど、概して高価である。
3)下流の酢酸ビニルモノマー工程での要求に対し、余分な酢酸は、すぐに利用できることがしばしばである。このように、酢酸の量を、エチレン生産量に見合うように調整することが容易である。これにより、VAMの生成率と空時収量を増加させることが可能である。
4)エチレン及び/又は酢酸への高い選択性により、COxガスの形成が減少する。CO及びCO
2副生成物の形成が、所望のエチレン及び酢酸生成物の過酸化の結果であることは、よく知られている。COxガスのそのような形成により、貴重な供給炭素が消費される。所望の生成物への高い選択性により、この廃棄物生成が削減される。
【0040】
本発明の具体的な実施形態
以下の実施例は、本発明を例示するために与えられるものであり、その範囲を限定するものと解釈されるべきではない。
【実施例】
【0041】
触媒の調製
本研究に使用される触媒は、ロームアンドハース社(Rohm and Haas Company)に委譲された米国特許第7,304,014号に記載の手順に従って調製される。
【0042】
調製1−非促進Mo/V/Te/Nb混合金属酸化物触媒の調製
公称組成、Mo
1.0V
0.3Te
0.23Nb
0.17O
xの触媒を、以下のように、硝酸の存在中で調製し、メタノールを用いて処理する:ヘプタモリブデン酸アンモニウム四水和物(1.0MのMo)、メタバナジン酸アンモニウム(0.3MのV)、及びテルル酸(0.23MのTe)を含む水溶液200mLを、70℃の水中に、対応する塩を溶解させて形成し、2000mLのロトバップフラスコに加える。その後、シュウ酸ニオブアンモニウム(0.17MのNb)、シュウ酸(0.155M)、及び硝酸(0.24M)の水溶液200mLを、そこに加える。温水浴付きのロータリーエバポレーターを通じ、50℃、28mmHgで水を除去した後、固体物質をさらに、真空オーブン中、25℃で一晩、乾燥させた後、か焼させる。か焼は、固体物質を空気雰囲気に置くことによって達成し、その後、それらを275℃に10℃/分で加熱し、それらを1時間保持し;その後、雰囲気をアルゴンに変え、物質を275℃から600℃に2℃/分で加熱し、物質をアルゴン雰囲気下、600℃で2時間、保持する。触媒は、このようにして得られ、これをFreezer/Mill(Model 6750、Spex CertiPrep社、ニュージャージー州、メアチェン)を用いて粉砕し、その後、メタノールを用いてソックスレー装置中で5時間、抽出する。固体を真空オーブン中で乾燥させ、ふるいにかけて14〜20メッシュの顆粒にし、反応器の評価用とする。得られた触媒を実施例1
(参考例)、2
(参考例)、4、及び5で使用する。
【0043】
調製2−Pd促進Mo/V/Te/Nb混合金属酸化物触媒の調製
公称組成、Mo
1.0V
0.3Te
0.23Nb
0.17Pd
0.01O
xの触媒を、以下のように、硝酸の存在下で調製し、メタノールを用いて処理する:ヘプタモリブデン酸アンモニウム四水和物(1.0MのMo)、メタバナジン酸アンモニウム(0.3MのV)、及びテルル酸(0.23MのTe)を含む水溶液200mLを、70℃の水中に、対応する塩を溶解させて形成し、2000mLのロトバップフラスコに加える。その後、シュウ酸ニオブアンモニウム(0.17MのNb)、パラジウム硝酸塩水和物(0.0MのPd)、シュウ酸(0.155M)、及び硝酸(0.24M)の水溶液200mLをそこに加える。水を、温水浴付きのロータリーエバポレーターを通じ、50℃、28mmHgで除去した後、固体物質をさらに、真空オーブン中、25℃で一晩、乾燥させた後、か焼させる。(か焼は、固体物質を空気雰囲気に置くことによって達成し、その後、それらを275℃に10℃/分で加熱し、それらを1時間保持し;その後、雰囲気をアルゴンに変え、物質を275℃から600℃に2℃/分で加熱し、物質をアルゴン雰囲気下、600℃で2時間、保持する)。このようにして得られた触媒を、Freezer/Mill(Model 6750、Spex CertiPrep(商標)社製)を用いて粉砕した後、メタノールを用いてソックスレー装置中で5時間、抽出する。固体を真空オーブン中で乾燥させ、ふるいにかけて14〜20メッシュの顆粒にし、反応器評価用とする。得られた促進触媒を、実施例3〜6で使用する。
【0044】
実施例1
(参考例)、2(参考例)、実施例3〜6
エタンを、表1に記載の条件下で変換する。使用する触媒は、調製1及び2に記載のとおりである。触媒(4.0cc)を、石英チップを不活性希釈物として用いて1:1に希釈し、これを外径0.5インチのステンレス管(0.5 inch OD SS tube)に充填する。供給組成物の範囲は、25〜30%のエタン、8〜11%のO
2、及び20〜33%の水蒸気である。ガス及び液体生成物は、ガスクロマトグラフィーにより分析する。実施例1
(参考例)、2(参考例)、実施例3〜6の結果を表1に与えるが、ここでHAcは酢酸を表す。表1中、すべての百分率は、モルを基準にして計算している。
【0045】
【表1】
【0046】
Mo/V/Te/Nb触媒は、典型的な大気圧条件で実行した場合に、予想外に高いエチレン選択性を示す。実施例1
(参考例)及び4は、それらの結果を示しており:エチレン選択性は96%超である。
【0047】
表1のデータはまた、圧力上昇(そして、従って温度低下)がエチレン/HAc比に及ぼす影響を示している。実施例1
(参考例)、2(参考例)、実施例3及び実施例4〜6は、圧力がエチレン/HAc生成比の低下に及ぼす明瞭な影響を示している。
【0048】
最後に、所与の変換範囲に対して、最低のエチレン/HAc比は、Pd含有触媒(実施例3〜6)に対して観測されている。2未満という予想外に低い比が、実施例3で観測されている。
(態様)
(態様1)
酸素の存在下、450℃以下の温度で、気相において触媒によりエタンをエチレン及び酢酸に変換することを含む方法であって、触媒が、MoVaNbbTecZdOnという実験式を有し、Zが、W、Cr、Ta、Ti、Zr、Hf、Mn、Re、Fe、Ru、Co、Rh、Ni、Pd、Pt、Ag、Au、Zn、B、Al、Ga、In、Ge、Sn、Pb、P、Bi、Y、希土類元素、及びアルカリ土類元素からなる群から選択される少なくとも一つの元素であって、a=0.01〜1.0未満、b=0.01〜1.0未満、c=0.01〜1.0未満、d=0.0〜1.0未満であり、nがその他の元素の酸化状態により決定される、該方法。
(態様2)
変換を、1〜30絶対気圧の圧力において実行する、態様1に記載の方法。
(態様3)
変換を、150℃〜450℃の温度で実行する、態様1〜2のいずれか一項に記載の方法。
(態様4)
該方法の生成物の少なくとも一部を、酢酸ビニルの製造に使用する、態様1〜3のいずれか一項に記載の方法。
(態様5)
酢酸に対するエチレンの比が2未満である、態様1〜4のいずれか一項に記載の方法。
(態様6)
未反応エタンを精製し再利用する、態様1〜5のいずれか一項に記載の方法。
(態様7)
生成物の酢酸を濃縮する、態様1〜6のいずれか一項に記載の方法。
(態様8)
ZがPdであり、dが0より大きい、態様1〜7のいずれか一項に記載の方法。
(態様9)
変換を、固定床及び/又は流動床反応器の一つ又は複数を含む反応器系で実行する、態様1〜8のいずれか一項に記載の方法。
(態様10)
系が一つより多い反応器を含み、該反応器の一つが触媒再生モードにある、態様9に記載の方法。