(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6068618
(24)【登録日】2017年1月6日
(45)【発行日】2017年1月25日
(54)【発明の名称】膣内部支持具及び膣内部支持具セット
(51)【国際特許分類】
A61F 6/08 20060101AFI20170116BHJP
【FI】
A61F6/08
【請求項の数】10
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-509607(P2015-509607)
(86)(22)【出願日】2013年4月5日
(86)【国際出願番号】JP2013002379
(87)【国際公開番号】WO2014162364
(87)【国際公開日】20141009
【審査請求日】2015年6月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100186015
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 靖之
(74)【代理人】
【識別番号】100149249
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 達也
(72)【発明者】
【氏名】本田 圭
【審査官】
佐藤 智弥
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2012/006670(WO,A1)
【文献】
国際公開第2010/114577(WO,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2009/0266367(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2013/0025604(US,A1)
【文献】
米国特許第5934279(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 6/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
骨盤臓器脱を治療するための膣内に挿入された状態で膨張収縮可能な膣内部支持具において、
流体を通過させる開放状態と流体の通過を遮断する遮断状態との間で切り換え動作可能な開閉部と、
前記開閉部を介した流体の流入によって膨張可能であると共に、前記開閉部を介した流体の流出によって収縮可能である袋部と、
前記袋部の膣入口側端部から膣奥側端部まで該袋部の外表面の少なくとも一部に沿って延び、前記袋部を膣内に案内する挿入ガイド部と、
前記袋部の口部と一体的に設けられ、前記開閉部を取り囲むリング状の押圧部とを備え、
前記開閉部は、前記袋部への流体の流入を許容するが、前記袋部からの流体の流出は遮断し、且つ前記リング状の押圧部を径方向内側に圧迫することによって、前記袋部からの流体の流出を許容する逆止弁を有する
ことを特徴とする膣内部支持具。
【請求項2】
前記挿入ガイド部は、前記袋部の膣前壁方向への膨張を促進させる、請求項1に記載の膣内部支持具。
【請求項3】
前記挿入ガイド部は、膣入口側から膣奥側に向って、膣前壁方向に湾曲している、請求項1又は2に記載の膣内部支持具。
【請求項4】
前記挿入ガイド部は、前記袋部の膣奥側端部を覆う、覆い部を有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の膣内部支持具。
【請求項5】
前記挿入ガイド部は、軸を介して互いに回動可能な2つの部材によって形成されている、請求項1〜4のいずれか一項に記載の膣内部支持具。
【請求項6】
前記挿入ガイド部は、該挿入ガイド部の膣奥側の端部に、子宮頸部に適合可能な窪み部を有する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の膣内部支持具。
【請求項7】
前記挿入ガイド部は、該挿入ガイド部の膣入口側の端部に、膣前壁を介して恥骨組織に係止するための係止片を有する、請求項1〜6のいずれか一項に記載の膣内部支持具。
【請求項8】
前記挿入ガイド部は、前記袋部を膨出させ、該膨出した袋部を膣後壁に適合させる開口を有する、請求項1〜7のいずれか一項に記載の膣内部支持具。
【請求項9】
前記リング状の押圧部は、前記挿入ガイド部の膣入口側の端部に連設されている、請求項1〜8のいずれか一項に記載の膣内部支持具。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の膣内部支持具と、
前記膣内部支持具を膨張させるための流体注入デバイスと
を備える膣内部支持具セットであって、前記流体注入デバイスは、
前記膣内部支持具に接続し、前記開閉部に連通する注入口を有する注入部と、
前記注入部の注入口に送る流体の量を調整可能な調整操作部と、
前記調整操作部によって調整された量の流体を、前記注入部の注入口に圧送させる注入操作部と
を備えることを特徴とする膣内部支持具セット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨盤臓器脱の治療に用いられる、膣内に挿入された状態で膨張収縮可能な膣内部支持具に関し、特に、膣内への挿入を容易化すると共に、患者の膣内に保持させようとするものである。
また、本発明は、
そのような膣内部支持具と、前記膣内部支持具を膨張させるための流体注入デバイス
とを備える膣内部支持具セットに関し、特に、流体の注入操作を容易化しようとするものである。
【0002】
近年、高齢化に伴い、骨盤臓器脱の患者数が増加している。骨盤臓器脱とは、骨盤の中にある子宮、膀胱、直腸などの臓器が下垂し、重症例では、体外に脱出してしまう病気であり、強い不快感、排尿障害、排便困難、脱出部の痛みなどの症状を及ぼす。加齢に伴い、経膣出産者の44%が発症し、国内の潜在患者数は350万人に上るとの報告もある。
【0003】
骨盤臓器脱の軽症患者には、骨盤底筋体操、ホルモン補充療法などの治療法や、クッションを用いた対処療法などが有効である。骨盤臓器脱の中等症患者及び重症患者には、症状や患者の希望により、メッシュ挿入術や外科的固定術といった手術療法の他、低侵襲な非手術療法として、ペッサリーを用いた治療が行われている。ペッサリーは、通常、弾性変形可能なリング体からなり、医師によって患者の膣内に挿入、配置されることによって、子宮頸部、膣前壁、及び膣後壁などの下垂を支えて骨盤臓器脱を抑制する。
【0004】
最も一般的なペッサリーであるリングペッサリーでは、円形のリング体を楕円形に変形させた状態で膣内に挿入される。この挿入されたリング体が楕円形から円形に復元しつつ、この復元した円形のリング体の径方向が、膣入口から膣奥に向う方向に対して略垂直となる状態で、リング体の一部が、膣前壁における恥骨由来の固い組織(以下、「恥骨組織」という)の子宮頸部側近傍領域に押し当てられ、当該領域において、膣前壁を介して恥骨組織に係止されることにより、膣内に保持される。より具体的には、膣前壁を体内(尿道)側に押し込むと、周囲の柔らかい膣壁部分は押し込み変形可能であるのに対し、深部に恥骨組織が存在する領域では、恥骨組織に至る深度以上の押し込み変形は難しい。このため膣前壁における、深部に恥骨組織が存在する領域よりも少し膣奥側の領域(すなわち、前述した膣前壁における恥骨組織の子宮頸部側近傍領域)にペッサリーを押し当てると、押し込み変形可能な領域と、押し込み変形困難な領域とによって凹部が形成され、この凹部にペッサリーが係止する。この状態でペッサリーに対して膣奥から膣入口に向う方向へ力が加わった場合、ペッサリーには、恥骨組織から膣前壁を介して、膣入口から膣奥に向う方向への抗力が働くため、ペッサリーの離脱が抑制される。
【0005】
このようなペッサリーは、体内に長期間に配置したままにすると異臭を生じたり、圧迫箇所から出血を生じたりするため、定期的に、体内から除去し、洗浄したものを再度挿入、配置し、又は新品を挿入、配置する必要がある。しかしながら、ペッサリーは、リング体の外径が膣入口よりもかなり大きく、脱着が容易ではない。このため、ペッサリーに代るものとして、膣内で膨張収縮可能な膣内部支持具が提案されている。
【0006】
例えば、特許文献1に記載される膣内部支持具は、膨張可能な中空の略ドーナツ形状の膨張部と、当該膨張部を収容する環状の凹部が形成されたガイド部とを備え、ガイド部の内部には、膨張部の内部空間に一端が連通すると共に他端に逆止弁が設けられた空気導入経路が形成されている。そして、空気注入デバイスによって前記逆止弁を介して膨張部に空気を導入することで、膨張部を膨張させて、膣内部支持具を膣内に保持するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第6470890号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載されるような膣内部支持具では、膣内部支持具全体が大きく、剛直であることから、膣内への挿入が必ずしも容易であるとは言えなかった。そのため、膣内部支持具の挿入や再設置に手間を要することがあった。また、膣内部支持具を膣内に保持する目的で、膨張部が膣内部支持具の周囲に設けられているが、空気の導入により膨張部全体が均一に膨張または収縮する機構となっているため、膣内部形状に合わせた形状変化が必ずしも達成されるとは言えなかった。そのため、膣内への保持が不十分であることや、骨盤臓器脱の抑制効果が十分に得られないこと、および圧迫箇所を生じ出血やびらんなどの障害が発生することがあった。
【0009】
本発明は、前記の現状に鑑み開発されたもので、膣内への挿入が容易であると共に、患者の膣内
に保持させることができる膣内部支持具を提供することを目的とする。
また、本発明は、そのような膣内部支持具を膨張させるため
の流体の注入操作の容易な
膣内部支持具セットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の膣内部支持具は、骨盤臓器脱を治療するための膣内に挿入された状態で膨張収縮可能な膣内部支持具において、流体を通過させる開放状態と流体の通過を遮断する遮断状態との間で切り換え動作可能な開閉部と、前記開閉部を介した流体の流入によって膨張可能であると共に、前記開閉部を介した流体の流出によって収縮可能である袋部と、前記袋部の膣入口側端部から膣奥側端部まで該袋部の外表面の少なくとも一部に沿って延び、前記袋部を膣内に案内する挿入ガイド部と
、前記袋部の口部と一体的に設けられ、前記開閉部を取り囲むリング状の押圧部とを備え、前記開閉部は、前記袋部への流体の流入を許容するが、前記袋部からの流体の流出は遮断し、且つ前記リング状の押圧部を径方向内側に圧迫することによって、前記袋部からの流体の流出を許容する逆止弁を有することを特徴とする。
なお、流体とは、例えば、空気、その他の気体、液体又は粘性体などの流体を意味する。
【0011】
ここで、本発明の膣内部支持具は、前記袋部の膨張方向を膣前壁方向に促進させることが好ましい。
【0012】
また、本発明の膣内部支持具は、前記挿入ガイド部は、膣入口側から膣奥側に向って、膣前壁方向に湾曲していることが好ましい。
【0013】
また、本発明の膣内部支持具は、前記挿入ガイド部は、前記袋部の膣奥側端部を覆う、覆い部を有することが好ましい。
【0014】
また、本発明の膣内部支持具は、前記挿入ガイド部は、軸を介して互いに回動可能な2つの部材によって形成されていることが好ましい。
【0015】
また、本発明の膣内部支持具は、前記挿入ガイド部は、該挿入ガイド部の膣奥側の端部に、子宮頸部に適合可能な窪み部を有することが好ましい。
【0016】
また、本発明の膣内部支持具は、前記挿入ガイド部は、該挿入ガイド部の膣入口側の端部に、膣前壁を介して恥骨組織に係止するための係止片を有することが好ましい。
【0017】
また、本発明の膣内部支持具は、前記挿入ガイド部は、前記袋部を膨出させ、該膨出した袋部を膣後壁に適合させる開口を有することが好ましい。
【0019】
また、本発明の膣内部支持具は、前記リング状の押圧部は、前記挿入ガイド部の膣入口側の端部に連設されていることが好ましい。
【0020】
さらに、本発明の
膣内部支持具セットは、本発明の膣内部支持具と、前記膣内部支持具を膨張させるための流体注入デバイス
とを備え、前記流体注入デバイスは、前記膣内部支持具に接続し、前記開閉部に連通する注入口を有する注入部と、前記注入部の注入口に送る流体の量を調整可能な調整操作部と、前記調整操作部によって調整された量の流体を、前記注入部の注入口に圧送させる注入操作部とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る膣内部支持具によれば、袋部を適度に収縮させた状態で挿入ガイド部を膣壁に対して滑らせながら袋部と共に膣内に挿入することができ、膣内で開閉部を介して流入した流体で袋部を膨張させることによって、膣内部支持具を膣内に保持させることができる。したがって、本発明によれば、膣内への挿入が容易であると共に、患者の膣内に保持させることができる膣内部支持具を得ることができる。
また、本発明に係る膣内部支持具は、前記挿入ガイド部
を、前記袋部の膨張方向を膣前壁方向に促進させるもの
とした場合には、膣内
部支持具を膣内に挿入し、袋部に流体を開閉部を介して流入させて、袋部を膣前壁側に膨張させることにより、膣前壁を介して恥骨組織に袋部の一部を係止させることができるため、膣内
部支持具を患者の膣内に確実に保持することができる。
【0022】
また、本発明に係る
膣内部支持具セットによれば、膣内に挿入した膣内部支持具に流体注入デバイスの注入部を接続し、又は、流体注入デバイスの注入部を接続した膣内部支持具を膣内に挿入し、調整操作部によって調整された量の流体を、注入操作部によって注入部の注入口に圧送させることができる。したがって、本発明によれば、
膣内部支持具を膨張させるための流体の注入操作の容易な
膣内部支持具セットを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の一実施形態に係る膣内部支持具の斜視図であり、(a)は膨張した状態、(b)は収縮した状態をそれぞれ示す。
【
図2】
図1の膣内部支持具の縦断面図であり、(a)は膨張した状態、(b)は収縮した状態をそれぞれ示す。
【
図3】本発明の一実施形態に係る流体注入デバイスの斜視図である。
【
図4】
図1の膣内部支持具に
図3の流体注入デバイスを接続し、空気を注入している状態を示す縦断面図である。
【
図5】
図1の膣内部支持具を膣内に配置した状態を示す一部縦断面図であり、(a)は膨張前、(b)は膨張後の状態を示す。
【
図6】
図1の膣内部支持具の変形例を示す斜視図であり、挿入ガイド部を湾曲させた例を示す。
【
図7】
図1の膣内部支持具の他の変形例を示す斜視図であり、挿入ガイド部に覆い部を設けた例を示す。
【
図8】
図1の膣内部支持具のさらなる他の変形例を示す斜視図であり、(a)は挿入ガイド部の、膣入口側から膣奥側に向う方向と垂直な軸周りの回動変形前、(b)は回動変形後の状態をそれぞれ示す。
【
図9】
図1の膣内部支持具のさらなる他の変形例を示す斜視図であり、(a)は挿入ガイド部の、膣入口側から膣奥側に向う方向の軸周りの回動変形前、(b)は回動変形後の状態をそれぞれ示す。
【
図10】
図1の膣内部支持具のさらなる他の変形例を示す斜視図であり、挿入ガイド部に窪み部を設けた例を示す。
【
図11】
図1の膣内部支持具のさらなる他の変形例を示す斜視図であり、挿入ガイド部に係止片を設けた例を示す。
【
図12】
図1の膣内部支持具のさらなる他の変形例を示す斜視図であり、挿入ガイド部に開口を設けた例を示す。
【
図13】
図1の膣内部支持具のさらなる他の変形例を示す斜視図であり、挿入ガイド部に膨張抑制部を設けた例を示す。
【
図14】
図1の膣内部支持具のさらなる他の変形例を示す斜視図であり、挿入ガイド部を、蛇行する形状とした例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
まず、本発明の一実施形態に係る膣内部支持具について、
図1〜
図2を参照して例示説明する。
図1は、本例の膣内部支持具の斜視図であり、(a)は膨張した状態、(b)は収縮した状態をそれぞれ示す。
図2は、本例の膣内部支持具の縦断面図であり、(a)は膨張した状態、(b)は収縮した状態をそれぞれ示す。
【0025】
図1に示すように、本例の膣内部支持具1は、開閉部20と、リング体(押圧部)30と、袋部40と、挿入ガイド部50とからなる。開閉部20は、流体、本例では空気を通過させる開放状態と流体の通過を遮断する遮断状態との間で切り換え動作可能になっている。具体的には、
図2に示すように、開閉部20は、袋部40の内外に貫通する貫通孔21を有し、この貫通孔21の袋部40側の開口を、片持ち支持された逆止弁22で封止されている。したがって、開閉部20は、逆止弁22により、袋部40への空気の流入は許容され、袋部40からの空気の流出は遮断されている。
【0026】
リング体30は開閉部20を取り囲むように配置されており、リング体30を所定の周方向位置で内側に圧迫し、リング体30を弾性変形させることによって、逆止弁22を弾性変形させて貫通孔21を開放し、袋部40からの空気の流出を許容することができる。また、リング体30の袋部40と反対側の側面には、貫通孔21に連なる凹部31(接続部)が形成されており、凹部31の内周壁31aはアンダーカット形状になっている。当該凹部31(接続部)には、後述する流体注入デバイスの注入口が接続される。
【0027】
袋部40は、袋部40の膣入口側の端部に口部41を有し、口部41に連なる空気の収納空間Sを形成している。口部41は、リング体30に例えば接合などによって一体化されている。袋部40は、気密性の弾性材料からなり、開閉部20を介した空気の流入によって膨張可能であると共に、開閉部20を介した空気の流出によって収縮可能である。
【0028】
挿入ガイド部50は、袋部40の膣入口側端部から膣奥側端部まで袋部40の外表面の一部に沿って延びる楕円長皿形状をなしている。挿入ガイド部50の膣入口側の端部は、リング体30の袋部40側の側面に一体化されている。また、挿入ガイド部50の膣入口側の端部には、膣内部支持具1を膣内から取り出す際に指を掛けるための凹み部Wが形成されている。挿入ガイド部50は、挿入ガイド部50の膣入口側の端部が一体化されたリング体30を膣奥側に向って押圧することによって、挿入ガイド部50を膣内に挿入することができ、且つ挿入時に痛みを感じさせない程度の弾性を有する弾性体によって形成されている。また、挿入ガイド部50は、袋部40の膨張時に、挿入ガイド部50によって袋部40を押圧し、袋部40の膣前壁方向への膨張を促進させることができる程度の弾性を有する弾性体によって形成されていることが好ましい。挿入ガイド部50の好ましい素材としては、例えば、エラストマー、軟質又は硬質の合成樹脂などが挙げられる。
【0029】
次に、本発明の一実施形態に係る流体注入デバイスについて、
図3〜
図4を参照して例示説明する。
図3は、本例の流体注入デバイスの斜視図である。
図4は、前掲
図1の膣内部支持具に本例の流体注入デバイスを接続し、空気を注入している状態を示す縦断面図である。
【0030】
図3に示すように、流体注入デバイス2は、注入部60と、調整操作部70と、注入操作部80とを備える。注入部60は、膣内に挿入可能な突出部Pの先端領域に設けられ、前掲
図2を用いて説明した膣内部支持具1の凹部31(接続部)に接続可能である。また、注入部60は、開閉部20に連通する注入口61を有する。具体的には、
図4に示すように、注入口61は、先端部の外周壁に環状突起61aが形成されており、環状突起61aは、膣内部支持具1の凹部31におけるアンダーカット形状の内周壁31aに係止可能になっている。
【0031】
注入口61は、注入部60の先端面60aを、膣内部支持具1のリング体30の袋部40とは反対側の側面に当接させることによって、膣内部支持具1の凹部31に係止させることができる。また、注入口61は、
図3に示したボタンBを押すことによって、注入部60の先端面60aから引き込まれ、膣内部支持具1の凹部31との係止が解除されるようになっている。
【0032】
また、
図3に示したように、突出部Pの基端領域は、調整操作部70に向って略L字形状に折れ曲っており、この折れ曲り部を、膣内部支持具1の膣内への挿入時に手のひらで保持する把持部Hとして用いることができるようになっている。
【0033】
また、調整操作部70は、注入部60の注入口61に送る流体の量を、摘み71を操作することによって調整できるようになっている。注入操作部80は、調整操作部70によって調整された量の流体を、注入操作部80を押すことによって、注入部60の注入口61に圧送させることができるようになっている。
【0034】
以上説明した本発明の一実施形態に係る膣内部支持具及び本発明の一実施形態に係る流体注入デバイスの構成によれば、例えば医師の診察により決定された、所望の量の空気が注入されるように調整操作部70の摘み71を操作することにより、注入部60の注入口61に送る空気の量を調整しておくことができる。そして、膣内部支持具1を、袋部40を適度に収縮させた状態にしておき、その膣内部支持具1の凹部31(接続部)に注入部60を接続し、膣内部支持具1のリング体30を、突出部Pの先端領域で押しながら突出部Pの先端領域と共に、
図5(a)に示すように膣内へ挿入することができる。その際、挿入ガイド部50を膣壁に対して滑らせながら袋部40と共に膣内に挿入することができるため、膣内部支持具1の挿入を大幅に容易化することができる。
【0035】
膣内部支持具1が膣内に挿入された状態で、流体注入デバイス2の注入操作部80を押し込めば、調整操作部70によって調整された量の空気を、注入部60の注入口61に圧送することができ、
図4に示したように、開閉部20の逆止弁22を開き、空気を袋部40に流入させ、袋部40を膨張させることができる。その際、膣内部支持具1は、膣後壁側に配置された挿入ガイド部50によって、袋部40の膣後壁方向への膨張を抑制する一方で、袋部40の膣前壁方向への膨張を促進させる(袋部40の膨張方向を、膣入口側から膣奥側に向う方向と垂直な方向に対して、非対称に制御する)ことができる。
【0036】
すなわち、流体注入デバイス2によって空気を袋部40に一様に流入させた際の袋部40の膨張方向を、膣前壁側を膣後壁側よりも大きく膨張させるように制御することができる。そして、袋部40の膣前壁側を膣後壁側よりも大きく膨張させることにより、
図5(b)に示すように、袋部40の一部を、膣前壁における恥骨組織Cの子宮頸部N側近傍領域(すなわち、恥骨組織Cと子宮頸部Nとの間の領域のうち、子宮頸部Nよりも恥骨組織Cに近い領域)に押し込むことができる。その結果、袋部40の一部が、膣前壁を介して恥骨組織Cに係止されて、膣内部支持具1が膣内に確実に保持される。
また、ガイド部50が広範囲に膣後壁と接触するため、袋部40の膨張時の直腸の圧迫を緩和し、膣内部支持具1の使用に伴い生じる排便障害を軽減し、又は回避することができる。
【0037】
そして、流体注入デバイス2のボタンBを押して、流体注入デバイス2と膣内部支持具1との係止を解除し、流体注入デバイス2の突出部Pの先端領域を膣内から除去することにより、
図5に示すように、袋部40の一部を、膣前壁を介して恥骨組織Cに係止することができる。このように、袋部40の一部が膣前壁を介して恥骨組織Cに係止されていることにより、膣内部支持具1に膣奥側から膣入口側に向う方向に力が生じた場合であっても、膣入口側から膣奥側に向う方向の抗力を発生させることができる。したがって、膣内部支持具1を膣内に確実に保持すると共に、膣内部支持具1によって子宮頸部Nを下から支え、及び/または膣前壁の下垂を抑制し、及び/または膣後壁の下垂を抑制し、骨盤臓器脱を確実に抑制することが可能となる。
【0038】
さらに、膣内部支持具1を膣内から取り出す際には、患者は、指でリング体30を所定の周方向位置で内側に圧迫することにより膣内部支持具1を収縮させ、挿入ガイド部50の凹み部W又はリング体30に指を引っ掛けて引き出すことができる。
【0039】
なお、膣内部支持具1は、必ずしも前述した流体注入デバイス2を用いて膣内へ挿入する必要はなく、指でリング体30を膣奥側に向って押すことによって挿入することも可能である。その場合には、膣内部支持具1が膣内に挿入された状態で、前述した流体注入デバイス2の注入部60を膣内へ挿入し、注入口61を開閉部20に連通させて膣内部支持具1の袋部40を膨張させることができる。したがって、この場合には、流体注入デバイス2としては、前述したような、突出部Pを備える構成のものに限られず、例えば、注入口61と調整操作部70とをフレキシブルチューブで接続したような構成のものを採用することも可能である。
【0040】
また、前述した膣内部支持具1に代えて、様々な変形例を採用することができる。
【0041】
例えば、挿入ガイド部50は、
図1〜
図2に示した例では、膣入口側から膣奥側に向って延びる楕円長皿形状をなしているが、このような形状に限られず、例えば、
図6に示すように、膣入口側から膣奥側に向って、膣前壁方向に湾曲する楕円長皿形状とすることもできる。このような構造とすることにより、膣内部支持具1を膣奥まで挿入した際に、挿入ガイド部50の膣奥側部分が、膣入口側から膣奥側に向う方向よりも膣前壁方向に傾斜した状態となる。そのため、袋部40を膨張させる際に、前掲
図5(a)及び(b)に示した恥骨組織Cの子宮頸部N側近傍領域に向う方向への袋部40の膨張を促進させることができる。また、
図7に示すように、挿入ガイド部50に、袋部40の膣奥側端部全体を覆う、覆い部51を設けることもできる。この場合には、覆い部51の形状を予め調節しておくことによって、袋部40の膨張方向を膣前壁側へ制御することができる。なお、
図6及び
図7において、符号40を付した実線は膣内への挿入時の適度な収縮状態、二点鎖線は膣内への挿入後の膨張状態をそれぞれ示している。以下に参照する
図8〜
図14においても、袋部40の状態を同様に示す。
【0042】
また、
図8又は
図9に示すように、挿入ガイド部50を、軸を介して互いに回動可能な2つの部材によって形成することもできる。
図8に示す例では、挿入ガイド部50を、膣入口側から膣奥側に向う方向と垂直な軸52を介して互いに回動可能な2つの部材53,54によって形成している。したがって、膣内部支持具1が膣奥に到達した際に、
図8(b)の矢印で示すように、膣奥側の部材54が軸52の周りに膣後壁側から膣前壁側に向って回動するため、袋部40を膨張させる際に、袋部40の膣前壁方向への膨張を促進させることができる。また、膣入口から膣奥に至るまでの、膣内の挿入方向の角度の変化に合わせて挿入ガイド部50が変形可能となるため、膣内部支持具1の挿入時の違和感を軽減することができる。
【0043】
図9に示す例では、挿入ガイド部50を、膣入口側から膣奥側に向う方向の軸52’を介して互いに回動可能な2つの部材53’,54’によって形成している。したがって、膣内部支持具1を膣内に挿入する際に、
図9(a)に示す状態から、
図9(b)の矢印で示すように、2つの部材53’,54’を軸52’の周りに回動させて折畳むことができ、膣内部支持具1全体の外径寸法を減少させることができるため、膣内部支持具1の膣内への挿入をより容易にすることができる。
【0044】
また、
図10に示すように、挿入ガイド部50の膣奥側の端部に、子宮頸部に適合可能な窪み部55が形成されるように構成してもよい。このような構成とした場合には、膣内部支持具1を膣内に挿入する際に、窪み部55で、下垂している子宮頸部を押し込みながら、膣内部支持具1全体を膣内に挿入することができる。
【0045】
また、
図11に示すように、挿入ガイド部50の膣入口側の端部に、前掲
図5(a)及び(b)に示した恥骨組織Cに膣前壁を介して係止するための係止片56を形成することもできる。この場合には、袋部40の膨張時に、袋部40の膣前壁側領域で、膣前壁における恥骨組織Cの子宮頸部N側近傍領域を押し込み、係止片56及び膣前壁を介して恥骨組織Cに係止することができる。
【0046】
また、
図12に示すように、挿入ガイド部50に、袋部40を膨出させ、この膨出した袋部40を膣後壁に適合させる開口57を形成することによって、膣後壁の下垂を抑制し、直腸脱の治療効果を高めることができる。また、挿入ガイド部50に形成された開口57は、膣内部支持具1を膣内から取り出す際に、指を引っ掛けるための引っ掛け部として用いることもできる。
【0047】
また、
図13に示すように、挿入ガイド部50に、袋部40の膣前壁側領域の一部を覆う膨張抑制部58を設けることによって、袋部40の膨張時の形状を、患者の膣内形状により適合するように調節することや、前掲
図5(a)及び(b)に示した恥骨組織Cに、膣前壁を介して嵌合可能な嵌合凹部Vを形成することができる。
【0048】
さらに、
図14に示すように、挿入ガイド部50を、袋部40の膣入口側端部から膣奥側端部まで袋部40の外表面に沿って蛇行する形状とし、挿入ガイド部50の膣入口側の端部はリング体30に一体化させ、挿入ガイド部50の膣奥側の端部には袋部の膣奥側端部を保持する袋保持部59を設けることもできる。このような構成とすることで、挿入ガイド部50全体に、挿入方向に対する伸縮性を与えることができる。そのため、下垂している子宮頸部を膣内に押し込みながら膣内部支持具1を膣内に挿入する際に、押し込まれる力を調整し、挿入時の違和感を軽減することができる。また、膣内部支持具1を膣内から取り出す際に、蛇行したいずれかの部分に指を引っ掛けることができるため、引っ掛け部分を手探りする手間を軽減し、膣内部支持具の膣内からの取り出しを容易にすることができる。また、挿入ガイド部50の材料費を低減させることもできる。
【0049】
上述したところは、本発明の一実施形態を示したにすぎず、特許請求の範囲において、種々の変更を加えることができる。例えば、リング体30は、挿入ガイド部50の膣入口側の端部に連設されるものとして説明したが、必ずしもそのような構成に限られず、例えば、リング体30を袋部40の口部41に一体的に設け、挿入ガイド部50を袋部40の外表面に、例えば接着剤などによって接合することもできる。その場合には、膣内部支持具1を膣内へ挿入する際には、挿入ガイド部50の膣入口側の端部を指で膣奥側に向って押圧することにより、挿入ガイド部50で袋部40を膣内へ案内することができ、その結果、膣内部支持具1を膣内に挿入することができる。
【符号の説明】
【0050】
1 膣内部支持具
2 流体注入デバイス
20 開閉部
21 貫通孔
22 逆止弁
30 リング体(押圧部)
31 凹部
31a 内周壁
40 袋部
41 口部
50 挿入ガイド部
51 覆い部
52,52’ 軸
53,53’,54,54’ 部材(挿入ガイド部)
55 窪み部
56 係止片
57 開口
58 膨張抑制部
59 袋保持部
60 注入部
60a 先端面
61 注入口
61a 環状突起
70 調整操作部
71 摘み
80 注入操作部
S 収納空間
W 凹み部
P 突出部
H 把持部
C 恥骨組織
B ボタン
N 子宮頸部
V 嵌合凹部