(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
仕上げ剤は、糸条が撚糸、編組、製編、撚り合わせおよび巻付などの変換工程中に優れた加工特性を示すことを可能にする。現在使用されている仕上げ剤は、リング撚糸、二重撚糸、編組および製編中にアラミド糸条表面の完全なまたは少なくとも極めて実質的なフィブリル化を防ぐので、フィブリル化のレベルはヤシ油およびポリグリコールなどの脂肪酸エステルに基づく標準的な油性アラミド仕上げ剤と比べて極めて低い。これによって、改善された品質、少ない毛羽、および改善された連続性を示す布強化材が得られる。
【0010】
驚くべきことに、低いフィラメント間結束性の別の利点が、MRG−およびOCF−市場(強化冷却ホースおよび光ファイバーケーブル)で知られているような、撚り合わせおよび線状強化材で観察された。フィラメント間結束性が低い場合、撚り合わせ中の光ファイバーコアまたはゴムホースの良好な被覆が実行可能である。本発明の別の特徴は、アルキルリン酸エステル仕上げ剤を含むアラミド糸条が、米国特許第8031996号に開示されているような一方向アラミドテープを製造するのに特に適していることである。フィラメント間結束性が低いために、マトリックス適用中に容易な糸条延展性が達成され、糸束の優れた樹脂湿潤および含浸が、米国特許第8031996号に記載されているような熱可塑性または硬化性マトリックス材で達成される。ループ破断強度により証明される布強化材の強度も大いに改善される。
【0011】
本明細書の文脈中で、布強化材は、布地から成る強化材を含み、「布地」という用語は、ハンドブックTextile Terms and Definitions(The Textile Institute編、88頁)に定義される一般的意味を有し、厚さに対する実質的な表面積、および集合体に本来の結束性を付与するのに十分な機械的強度を有する繊維および/または糸条から製造された集合体を意味する。布地は、糸条がインターロック様式で配置された構造、例えば、組紐、織布または編布構造であり得る。布地はまた、糸条が非インターロック構造に配置されている構造、例えば、螺旋巻または線状配置であり得る。
【0012】
布強化材は、長さ方向の糸条の強度からその強化特性を得る。アラミド糸条の長さ方向の圧力または荷重などの応力に対して構造を強化するために連続アラミド糸条が使用される。そのため、本発明の布強化材は、連続糸条に基づく。当業者の技術常識の一部であるように、連続糸条は複数の連続フィラメントを含む長い連続長の糸条である。連続糸条は、布の製造に直接使用するのに適しており、それによると、糸条は撚糸および編組などのその後の変換工程後に連続長フィラメントを含むマルチフィラメント糸条のままである。アラミド糸条は、通常アラミドの硫酸などの溶媒中の溶液を紡糸口金に供給し、水を用いた凝固工程、洗浄工程および延伸工程後に、アラミド糸条を形成することにより製造されている。この方法はしばしば、溶液紡糸として示される。
【0013】
対照的に、ステープルファイバーは、標準長が典型的には40〜60mmの短繊維である。これは、連続糸条を所定の長さの断片に切り分けることにより形成される。ステープルファイバーは、それ自体として、例えば、充填材として使用され得る。しかしながら、これを、羊毛紡績と比較し得る非溶媒紡績法により糸条に変換することもできる。こうして形成した糸条は、連続長のフィラメントを用いた連続糸条ではない。これは繊維の短い断片から構築されているので、強化用途のための長さ方向の十分な強度を有さない。そのため、これは布強化材ではなく、他の布用途、特に、耐火または耐穿孔特性、例えば、防火衣類(手袋およびスーツ)に使用される。
【0014】
ステープルファイバーから紡績された糸条の引張強さが小さいことに加えて、ステープルファイバーから紡績された糸条は、インターロック短繊維のために広げることができない。そのため、本発明で使用される特定の仕上げ剤が付与された連続糸条の驚くほど優れた延展性は、同じアルキルリン酸エステル仕上げ剤を含むステープルファイバーから紡績した糸条には全く当てはまらない。
【0015】
ついでに、
特開平10-212664号が、それぞれ18〜22個の炭素原子および8〜12個の炭素原子を有する短鎖と長鎖アルキルリン酸エステルの両方を含有する、ポリオレフィン、ポリアクリレートまたはポリエステルステープルファイバーのための紡績仕上げ剤を開示していることが注目される。この参考文献は、本発明との関連性を有さないステープルファイバーに関する。さらに、長鎖アルキル基のために、大量の乳化剤、界面活性剤および/または安定剤を使用することなくこのような仕上げ剤を使用して水溶液または分散液を製造することはできない。
【0016】
米国特許出願公開第2002/153504号は、長鎖アルキル基(16〜22個の炭素原子)とポリヒドロキシアルキル基(少なくとも3個のヒドロキシ基を含む)の混合リン酸エステルを開示している。これらの仕上げ剤も、本発明に関連しないステープルファイバーに適用されている。
Research Disclosure 219、第1号、1982年7月1日、「アラミドステープル糸条のための加工仕上げ剤」は、アルキルリン酸のモノ−およびジエステルの混合物である仕上げ剤を備えたm−アラミドステープルファイバーを記載している。この文献は、どのように仕上げ剤をステープルファイバーに適用するのか記載していない。
【0017】
欧州特許第1808526号は、アルキルリン酸のモノ−およびジエステルの混合物である仕上げ剤を備えた短アラミド繊維を記載している。この仕上げ剤は、乾燥アラミド糸条に適用され、その後この糸条がクリンプされ切断される。この参考文献は、短繊維が優れた変換性、結束性および帯電防止性、ならびに小さな接着性を有することを示している。短繊維をゴムおよび金属ローラ上の延伸工程に供することは、アラミド溶液を紡糸してフィラメントを形成し、これをさらに加工して連続糸条を形成することとは極めて異なる方法である。そのため、これら3つの文献の開示は、本発明に関連しない。
【0018】
加工特性の改善とは別に、脂肪酸エステルに対する、布強化材用途における本発明のアルキルリン酸エステルのさらなる利点は、既に非常に低い投与レベル(アラミドの重量基準で0.4重量%未満)で生じる優れた帯電防止性、および特に、広範囲のtpm範囲(150℃でZ60〜Z200)で冷却ホースに適用可能な高温での撚糸についての増加したループ引掛け強さである。Z60〜Z200という用語は、Z方向(撚り方向による、糸はS撚りまたはZ撚りとして知られる)に60〜200tpm(1メートル当たりの糸撚り数)を意味する。
【0019】
本明細書に記載される仕上げ剤の帯電防止特性が優れているために、例えば、アラミドの重量基準で0.05〜0.95重量%の範囲の少ない塗布量を適用することが可能である。別の実施形態では、0.10〜0.50重量%の仕上げ剤が使用される。
本発明で使用されるアルキルリン酸エステルにおいて、R1は分岐または直鎖状C
1〜C
15アルキルであり、R2はH、Li、Na、KもしくはNH
4、または分岐もしくは直鎖状C
1〜C
15アルキルである。
【0020】
水への溶解度を増加させるために、R1および/またはR2が独立に、分岐または直鎖状C
3〜C
15アルキル基、より好ましくは分岐または直鎖状C
4〜C
14、C
6〜C
14、C
8〜C
14、C
6〜C
12、C
8〜C
12またはC
8〜C
10アルキル基から選択されることが好ましい。R1および/またはR2が選択されたC
4、C
6、C
8、C
10またはC
12アルキルであるアルキルリン酸エステルが非常に有用である。これらのアルキル基は分岐鎖であっても直鎖であってもよいが、直鎖アルキル基が通常好ましい。R1とR2の両基がアルキルであり得る。R1がアルキル基であり、R2がH、アルカリ金属またはアンモニウムであることも可能である。モノ−およびジアルキルリン酸エステルの混合物を適用することが非常に有用である。特に有用なアルキルリン酸エステルは、直鎖C
6またはC
12アルキル基を有する。これは、モノ−C
6もしくはC
12アルキルエステルまたはジアルキルC
6もしくはC
12エステル、または直鎖モノ−およびジ−C
6もしくはC
12アルキル基の組み合わせであり得る。直鎖C
12アルキルモノエステル、直鎖C
12アルキルジエステルおよびこれらの組み合わせの使用が好ましい。次いで、Mは好ましくはアルカリ金属、最も好ましくはK(カリウム)であり、モノドデシルリン酸エステルジカリウムとジドデシルリン酸エステルカリウムの混合物、すなわち、C
12アルキルについて、
【0022】
本発明で使用される全てのリン酸エステルで、MはLi、Na、KまたはNH
4であり、Li、NaおよびKはアルカリ金属である。M基としてKが最も好ましい。
6〜15個の炭素原子を有するアルキルアルコールが、しばしば少量の低級および高級アルキルアルコールを有する混合物として商業的に入手可能であることをさらに理解すべきである。このような出発材料を、アルキルリン酸エステルを製造するために使用することができ、その場合、アルキルリン酸エステルも低級および高級アルキル基を有するアルキルリン酸エステルの混合物からなる。しかしながら、C15よりも高級なアルキル基を有するアルキルリン酸エステルは得られない。
【0023】
一実施形態では、アラミド糸条上に存在する仕上げ剤は、アルキル基が15個より多い炭素原子を有するアルキルリン酸エステルを含まない。本明細書の文脈中で、これは、アルキル基が15個より多い炭素原子を有するアルキルリン酸エステルが、乾燥固形分重量基準で1重量%超の量で仕上げ剤中にも糸条上にも存在しないことを意味する。より好ましくは、アルキル基が15個より多い炭素原子を有するアルキルリン酸エステルが、検出可能な量で仕上げ剤中にも糸条上にも存在しない。本発明で使用される仕上げ剤は、好ましくは上記モノ−またはジアルキルリン酸エステルを含む水溶液または分散液から得られ、該溶液はアルコキシ含有安定剤、乳化剤、界面活性剤などを含まない(乾燥固形分重量基準で1重量%未満、好ましくは検出不可能)。他の安定剤、乳化剤、界面活性剤などが少量でしか存在しない、好ましくは存在しないまたは実質的に全く存在しないことがさらに好ましい。編組、編成、螺旋巻または製織(円織など)中のフィブリル形成を防ぐために、これが特に重要である。これは、15個より多い炭素原子を有さないアルキル基を有するリン酸エステルを使用することを要する。高級アルキル基を有するリン酸エステルは、このような補助化合物を使用することなく、あるいは極めて低濃度および/または高い作業温度を適用することなく、水溶液または分散液に使用することができない。仕上げ剤は、加工中にループ引っ掛け強さの低下およびフィブリル化の増加をもたらす、メトキシ化またはエトキシ化リン酸エステルなどのアルキルエーテルを含む化合物を含有しない。
【0024】
モノ−アルキルリン酸エステルは、二量体、式:
【化3】
(式中、R1およびMは前に示した意味を有する)
を有するジアルキルピロリン酸エステルとして(部分的に、最大で約30重量%)存在し得る。
【0025】
仕上げ剤は、0〜20重量%(より好ましくは0〜10重量%)の式:
【化4】
(式中、R
1、R
2およびR
3は独立に、分岐または直鎖状C
1〜C
15アルキル基である)
のトリアルキルリン酸エステルをさらに含有し得る。好ましくはR
3がR
1および/またはR
2と同じであり、最も好ましくは全ての基R
1、R
2およびR
3が同じである。好ましい基R
1、R
2およびR
3はR1の好ましい実施形態について上に示されているものである。
【0026】
例えば、非常に有用な組成物は、30〜70重量%のリン酸のモノ−アルキルエステル、25〜65重量%のリン酸のジアルキルエステル、0〜30重量%のピロリン酸のジアルキルエステル、および0〜10重量%のリン酸のトリアルキルエステル(合計100重量%に対する)の混合物であり、アルキルエステルは上に記載される通りである。このような組成物の例には、例えば、Lurol A−45(Goulston)、Synthesin ARA(登録商標)(Boehme)、Leomin PN(登録商標)(Clariant)、Stantex ARA(登録商標)(Pulcra Chemicals)およびLakeland PA800K(登録商標)(Lakeland)などの商業的に入手可能な製品がある。Lakelandの製品LDP80およびLDP161も有用であることが分かった。これらの製品を
31P−NMRを使用して分析し、対応する組成(モノ−、ジ−、トリ−およびピロリン酸エステルの混合物)を計算し、表1に示した。
【0028】
一実施形態では、仕上げ剤は、乾燥固形分重量に基づいて計算される、10重量%未満のアルコキシ基を有する化合物を含む。アルコキシ基の存在は、糸条の加工性および得られた糸条の特性に有害な影響を及ぼす。仕上げ剤が5重量%未満、より具体的には3重量%未満、さらにより具体的には2重量%未満のアルコキシ基を含有する化合物を含むことが好ましい。
【0029】
一実施形態では、アラミド糸条上に存在する仕上げ剤は、アルコキシ基を有する化合物を含まない。本明細書の文脈中、これは、アルコキシ基を有する化合物が、乾燥固形分重量基準で1重量%超の量で仕上げ剤中にも糸条上にも存在しないことを意味する。より好ましくは、アルコキシ基を有する化合物が、検出可能な量で仕上げ剤中にも糸条上にも存在しない。
【0030】
一実施形態では、仕上げ剤は、10重量%未満のアルキルエーテル、例えば、メトキシ化またはエトキシ化リン酸エステルを含む。アルキルエーテルの存在が、糸条の加工性および得られた糸条の特性に有害な影響を及ぼすことが分かった。仕上げ剤が5重量%未満、より具体的には3重量%未満、さらにより具体的には2重量%未満のアルキルエーテルを含むことが好ましい。
【0031】
一実施形態では、仕上げ剤は、アルキルエーテルを含む化合物をさらに含有しない。本明細書の文脈中、これは、アルキルエーテルが、乾燥固形分重量基準で1重量%超の量で仕上げ剤中にも糸条上にも存在しないことを意味する。より好ましくは、アルキルエーテルが、検出可能な量で存在しない。
【0032】
布は、当技術分野で知られている様式で編組、製編、螺旋巻、変換または(例えば円)製織され、加工アラミド糸条を含む。アラミド糸条は、連続マルチフィラメント糸条だけを含み、ステープル糸条、スライバー、パルプ、延伸破断糸条またはショートカット糸条を含まない。フィラメントの紡糸直後または後処理中に紡糸仕上げ剤を適用することができる。仕上げ剤の適用は、浸漬、スリット塗布装置、キスロールまたは噴霧などの、既知の方法および装置によって行うことができる。糸条を一般的に、浴中で、またはキスロールもしくはスリット塗布装置により仕上げ剤と接触させる。典型的な糸条速度は10〜700m/分、より好ましくは25〜500m/分である。布は、好ましくは加工された連続アラミド糸条を含有するだけであるが、さらに他の非アラミド糸条を含有してもよい。
【0033】
アラミド糸条は、好ましくはパラ−アラミド糸、例えば、PPTAとして知られており、Twaron(登録商標)もしくはKevlar(登録商標)として商業的に入手可能なポリ(p−フェニレンテレフタルアミド)、または3,4’−ジアミノジフェニルエーテル単位を含有するポリ(p−フェニレンテレフタルアミド)(Technora(登録商標))として商業的に入手可能な糸条を与える。または例えば、Rusar(登録商標)という名称で知られている糸条を与える5(6)−アミノ−2−(p−アミノフェニル)ベンゾイミダゾール(DAPBI)単位を含有するアラミドである。Technora(登録商標)およびRusar(登録商標)では、3,4’−ジアミノジフェニルエーテルおよびDAPBIモノマーが、パラ−フェニレンジアミン(PPD)およびTDC(テレフタロイルジクロリド)モノマーの重合中にPPDモノマーの一部に取って代わっている。
【0034】
本発明のアラミド糸条は、高い破断強度および初期弾性率ならびに低い破断伸びなどの優れた機械特性、また上記有利な用途およびさらなる加工特性で注目に値する。本発明の糸条の個々のフィラメントの横断面は、任意であり、例えば、三角形もしくは平坦、または特に楕円形もしくは円形であり得る。
【0035】
米国特許第5478648号の混合エトキシ化仕上げ剤などの先行技術の仕上げ剤を使用すると、アラミド糸条は高いフィラメント間結束性を有する。高いフィラメント間結束性は、混合、撚糸、編組、製織または折り畳みなどによる布シート材料の製造に糸条を使用するために必須であると常に考えられ、小さいフィラメント間結束性を有する糸条についてはより多くのフィブリル化が予想され得るので、仕上げ剤がフィラメント間結束性を増加させる能力のために選択された。フィラメント間結束性を増加させる仕上げ剤を使用するというこの常識に反して、本発明のアラミド糸条の仕上げ剤は、典型的には小さいフィラメント間結束性をもたらし、一見してこのような糸条は、編組、製編、製織および螺旋巻を適用する用途に使用するのに不適当であるように思われる。驚くべきことに、本仕上げ剤は小さいフィラメント間結束性をもたらすが、それにもかかわらずフィブリル形成に関しての改善が観察された。フィラメント間結束性を増加させるためのアルコキシ化化合物を含まない(すなわち、1重量%未満、好ましくは0重量%)、本発明で請求される仕上げ剤で処理された糸条は、フィブリル化がほぼ完全にないようにみえたが、帯電防止性はなお米国特許第5478648号のものと同じくらい優れている。
【0036】
例えば、撚糸および巻付の過程での、例えば、米国特許第5478648号に開示されている仕上げ剤と比較した本紡績仕上げ剤の摩耗は非常に少なく、擦り落ちた材料は塵埃の形態となり、これは容易に除去可能で、離脱要素上に粘着性の蓄積を形成しないことも分かった。従来のシステムと比べると、約86〜98%の改善が観察された。
【0037】
標準的な脂肪酸エステル系仕上げ剤と比べて、0.4重量%のLeomin PN(登録商標)(モノドデシルリン酸エステルジカリウムおよびジドデシルリン酸エステルカリウムの混合物)の仕上げ剤を備えると、高い糸張力および高い乾燥温度下でのTwaron(登録商標)高弾性率糸の製造中、糸条のフィブリル化が顕著に抑制された。高弾性率糸を170℃で1.06〜2.65秒間、203mN/tex(2.03cN/dtex)の張力で乾燥させ、その後190℃で1.06〜2.65秒間、193mN/tex(1.93cN/dtex)の張力で乾燥させ、その後250℃〜400℃で1.06〜1.33秒間、158〜203mN/tex(1.58〜2.03cN/dtex)の張力で乾燥させ、次いで、118mN/tex(1.18cN/dtex)の張力で、キスロールを用いて水を適用することにより冷却させた。
【0038】
アルキルリン酸エステル仕上げ剤は、100〜150GPaの範囲の弾性率を有する高弾性率Twaron(登録商標)糸製造を可能にするのに非常に適していると考えられる。標準的な脂肪酸エステル系ならびにエトキシ化およびプロポキシ化系仕上げ剤と比べたアルキルリン酸エステル仕上げ剤の耐高温性および高温でのフィブリル化の抑制により、最高で400℃の高い乾燥温度が可能になる。
【0039】
適用分野は、産業用および冷却ホースならびに可撓性パイプなどの機械的ゴム製品を強化するための本発明の布への撚糸または無撚加工アラミド糸条の使用である。可撓フローラインなどの繊維強化産業用ホースおよび可撓性パイプは、石油およびガス産業に頻繁に使用される一方で、自動車用途での繊維強化ホースの典型的な例には、冷却ホース、燃料ホースおよびターボチャージャホースがある。アラミドを要する強化産業用ホースには、例えば、高電圧領域で作動する油圧ホース、または化学溶剤に耐え得る塗装吹き付けホース、または性能を犠牲にすることなく何回も折り畳みおよび展開する必要があるレイフラットホースがある。
【0040】
アラミド繊維は、典型的には海洋石油およびガス製造に使用される油圧アンビリカルケーブルの部品である高圧熱可塑性ホースを強化するために油圧アンビリカルケーブルに使用される。さらに、アラミド強化材は、Anti Bird Caging(ABC Tape/Fabric)保護として海底石油およびガス産業用の可撓管に頻繁に使用される。ABC保護は、内部鋼層の外向き座屈を防ぐ。アラミド強化材は、典型的には撚糸のテープまたは幅狭リボン/布地としてポリマーマトリックスに埋め込まれた平行糸から成る。他の線状アラミド強化プラスチックまたは複合材料、例えば、一方向性のもの、ロッドおよびビードワイヤは、アルキルリン酸エステル仕上げ剤の使用により、製造中に改善された加工特性から便益を得る。フィブリル化が少ないことにより、アラミド糸条を複合製品に変換する間の製造機械上のフィブリルおよび毛羽の蓄積が防がれる。アラミド繊維強化プラスチック(AFRP)(アラミド繊維強化ポリマーとも呼ばれる)は、アラミド繊維で強化されたポリマーマトリックスで作られた複合材料である。ポリマーは通常、エポキシ、ビニルエステルまたはポリエステル熱硬化性樹脂である。AFRPは、航空宇宙、自動車、船舶および建築産業で使用することができる。AFRPはまた、コンクリート構造を強化するために使用することもできる。AFRPコンクリート強化要素は、より軽く、より組立が容易で、鋼の腐食により引き起こされる劣化のないより耐久性がある構造を提供する。
【0041】
別の適用分野は、光ファイバーケーブルおよび電力ケーブルの線状または螺旋状強化材のための本発明の布における高弾性率アラミド糸の使用である。光ファイバーケーブルは、典型的にはアラミド強化材を特定の撚りの長さで光コアの周りに撚り合わせることにより強化される。アラミド繊維の高い強度および弾性率により、ケーブル内の光ガラス繊維がガラス繊維の破損をもたらす外力にさらされるのが防がれる。通常、光ガラス繊維はケーブル内の薄い熱可塑性中空管中に位置する(いわゆる、中心コアルースチューブ構造)、または熱可塑性層が光ファイバー上に押し出される(タイトバッファ構造)。一般的に、内部ケーブルは、特にタイトバッファ構造について、強化アラミド繊維で完全に被覆される。アラミド繊維の別の重要な特性は、その優れた耐熱性である。光ファイバーケーブルの製造中、風化から保護するために、熱可塑性ジャケットが内部ケーブルの周りに押し出される。ジャケットと管との間に位置するアラミド繊維が絶縁層を形成し、押出中の両部品の溶融融合を防ぐ。溶融融合の結果として、光信号の伝送が妨害されるおそれがある。溶融融合はまた、タイトバッファケーブルの場合にケーブルのコネクタ化を不可能にするだろう。溶融融合が望まれない場合にはそれを防ぐために、ケーブル強度またはケーブル弾性率の観点から求められるよりも多くの強化材料がこのケーブルに絶縁体として使用される。
【実施例】
【0042】
実験:
ループ引掛け強さ(LBT)およびループ破断強度(LBS)
アラミド糸条用に修正したASTM D3217−01に記載されている方法を適用することによって、ループ引掛け強さおよび強度を測定した。アラミド糸条用に修正した以下の手順を使用して、ループまたは結び目構成における製造した布繊維の引掛け強度についての標準的試験法を適用した。
【0043】
チューブおよびホースへの最終的な適用にとって最も代表的であるので、アラミド糸条を測定前に撚糸した。糸条をこの測定前に撚糸し、それによって挿入されるべき撚り量を式:
【数1】
(式中、YT=1メートル当たりの糸撚り数(tpm)であり、LD=線密度(tex)である)
を用いて計算する。撚糸を45±5℃の通風オーブン中で3時間、撚糸ボビン上で予備乾燥させ、その後、標準的試験雰囲気(温度20±2℃;相対湿度65±2%)下で少なくとも16時間空気調和させた。試験を150℃で行い、その際試験中にこの温度を達成するために特別なオーブンチューブをクランプ間に配置する。150℃で30秒間のアラミド糸条の予熱を要する。
【0044】
1実験試料当たりの測定数を少なくともn=5とする(クランプ破断は含めない)。ループ引っ掛け強さをmN/texで示し、ループ破断強度をNで示す。
2つの有効なクランプ点の間で測定した引張試験機のゲージ長は500±1mmである。引張試験機の引張速度は、250±10mm/分である(通常速度は、1分当たりゲージ長の50%である)。
力についての測定範囲は、その範囲の10%と90%との間となる試験中に及ぼされる最大の力が得られるように設定する。空気圧クランプについての空気圧は、クランプ内でずれも標本破壊も生じないように設定する。試験試料を採取する前にボビンの外層から約50mの糸条を取り出し、処分する。
【0045】
試験試料を、撚糸ボビンの中心部分の材料から少なくとも5mおよびフランジから5cm、不規則な間隔で採取する。材料を接線方向に引き上げられるように、材料を含むボビンをホルダーに入れる。各試料は、1つの撚糸ボビンから採取された糸の2つの断片からなる。1つの断片の両端を上側クランプの顎に載せ、ループの長さをゲージ長の半分にほぼ等しくし、クランプを閉じる。ループをクランプに載せる際に、糸の断片の撚りの変化がないようにする。
【0046】
フィブリル化指数(摩擦ピン試験)
アラミド糸条を6段階の張力レベルで、静止ガラスロッド上で過度の摩擦を受けさせることによって、フィブリル化指数(FI)を測定する。形成されたフィブリルを、真空を用いてフィルタに回収し、秤量する。これらの6段階の異なる張力での試験中に生成したフィブリルの総量に基づいて、フィブリル化指数を計算する。典型的には、6つのスプールを同時に装填し、6段階の異なる初張力で運転し、その際全てのスプールを全て6段階の異なる初張力で運転する(2000mの6段階の異なる張力設定で合計6回の運転、合計72km、1初張力当たりのフィブリル化平均量(mg)が得られる)。フィブリル化指数(FI、任意単位)は、所与の試験条件での摩擦ピン試験中に生成したフィブリル化の総量についての尺度であり、平均フィブリル化(mg)を設定初張力F1に対してプロットした(6つの点:6、9、12、15、18、21cN)摩擦ピン試験応答曲線下の面積を表す。
試験条件
試験長=1張力設定当たり2000m
速度=200±0.2m/分
初張力(F1)=6、9、12、15、18、21cN(それぞれ±1cN)
全巻き角=130°
摩擦ピン=ガラス
ピン直径=4mm
測定変数
初張力F1(cN)
後張力F2(cN)
フィブリル化(mg)
温度を20±2℃(室温)に設定
空気相対湿度(%)を65±2%RHに設定
【0047】
試験装置を
図1に模式的に示す。
図中、
1はピンク色のセラミックディスクテンショナ(Repal DD30)であり、
2はバイパスローラー(Barmag、セラミックコーティング)であり、
3は摩擦ピン(ガラス、ピン直径=4mm)であり、
4は張力計(F1初張力)であり、
5は張力計(F2後張力)であり、
6は赤外線カウンタ(インラインFraytec IIカウンタ)であり、
7は真空計(真空掃除機と接続)であり、
8はフィルタホルダー(30mm直径、メッシュサイズ65μm)である。
【0048】
フィラメント結束性を測定するための切断試験
無撚糸条試料60cm長をテーブルの上方に垂直に吊る。その上端部をクランプに固定する。試料の固定していない下端部に、糸条試料の張力が1cN/dtexとなるような分銅を取り付ける。その後、無撚糸条試料を吊り下げ点の40cm下で切断する。次に、試料の残りの吊り下げられている上半分の、糸条を切断した点のおそらくは広がった、新たに形成された端部の長さおよび最大幅を測定する。上記張力下で切断された結果として糸条が垂直および水平に開いた程度が、フィラメントの結束性の程度を示す。試験を3回繰り返し、垂直幅ならびに水平開き長さ(cm)の両方を、広がり値を含めて報告している。この試験設定で可能な最大垂直開き長さ値は40cmである。
【0049】
本発明を以下の限定されない実施例により説明する。
実施例1
Leomin PN(登録商標)(75重量%;Clariant製)を温脱塩水(60℃)中10%溶液に希釈することにより、Leomin PN(登録商標)をベースとする仕上げ剤ストック溶液(10重量%)を製造した。最終紡糸仕上げ剤溶液(1.5重量%)を得るために、Leomin PN(登録商標)ストック溶液を温脱塩水(40℃)にさらに希釈し、15分間撹拌し、その後、糸条に適用する用意をした。線密度1716dtexおよびフィラメントカウント1000の未加工Twaron(登録商標)マルチフィラメント糸条(19.4%の1つの単一PPTAバッチからのもの、紡糸直後の最終水分含量6%)を0.2〜0.4および0.6重量%のLeomin PN(登録商標)の投与レベルで、およびスリット適用装置を使用して350m/分の紡糸速度で、Leomin PN(登録商標)仕上げ剤によりインラインで処理した。その後、基準試料を、0.6および0.8重量%のLeomin OR(登録商標)仕上げ剤(脂肪酸ポリグリコールエステルからなる、Clariant製)により正確に同じ紡糸条件下で仕上げした。ループ破断強度を150℃で1つの撚りレベル(Z80)において測定し、測定値の結果を表2に示す。
【0050】
【表2】
【0051】
表3は、フィブリル化指数(FI)によってフィブリル化結果を示している。摩擦ピン試験を無撚Twaron(登録商標)糸条で実行した。
【0052】
【表3】
【0053】
表4は、Leomin PNの3つの仕上げ剤レベルおよびLeomin OR(登録商標)の2つの仕上げ剤レベルによる無撚糸条のフィラメント結束性(切断試験)を示している。
【0054】
【表4】
【0055】
実施例2
Synthesin ARA(登録商標)(56重量%;Boehme製)を温脱塩水(40℃)中10%溶液に希釈することにより、Synthesin ARA(登録商標)をベースとする仕上げ剤ストック溶液(10重量%)を製造した。最終紡糸仕上げ剤溶液(1.5重量%)を得るために、Synthesin ARA(登録商標)ストック溶液を温脱塩水(40℃)にさらに希釈し、15分間攪拌し、その後、糸条に適用する用意をした。1700dtexおよびフィラメントカウント1000の未加工Twaron(登録商標)マルチフィラメント糸条を単一紡糸試験で製造し(18.95%の1つの単一PPTAバッチからのもの、紡糸直後の最終水分含量10%)、0.26重量%のSynthesin ARA(登録商標)の投与レベルで、およびスリット適用装置を使用して350m/分の紡糸速度で、Synthesin ARA(登録商標)仕上げ剤によりインラインで処理した。その後、基準試料を、0.55重量%のLeomin OR(登録商標)仕上げ剤(脂肪酸ポリグリコールエステルからなる、Clariant製)により正確に同じ紡糸条件下で仕上げした。ループ破断強度を上記試験にしたがって150℃で異なる撚りレベルにおいて測定し、フィブリル化を上記摩擦ピン試験にしたがって測定した。表5で、Leomin OR(登録商標)(先行技術)およびSynthesin ARA(登録商標)(発明)の試験結果をZ撚りの関数として示し、先行技術に対する本発明の相対的な増加を要約した。全ての場合で、絶対ループ引っ掛け強さ値の増加が観察された。
【0056】
【表5】
【0057】
表6で、フィブリル化結果をフィブリル化指数(FI)で報告した。摩擦ピン試験を無撚Twaron(登録商標)糸条で実行した。
【0058】
【表6】
【0059】
実施例3
Lurol A45(登録商標)の仕上げ剤ストック溶液(3重量%)を製造し、糸条に適用した。線密度1716dtexおよびフィラメントカウント1000の未加工Twaron(登録商標)マルチフィラメント糸条(19.4%の1つの単一PPTAバッチからのもの、紡糸直後の最終水分含量6%)を0.2〜0.4および0.6重量%のLurol A45(登録商標)の投与レベルで、およびスリット適用装置を使用して400m/分の紡糸速度で、Lurol A45(登録商標)仕上げ剤によりインラインで処理した。その後、基準試料を、0.8重量%のLeomin OR(登録商標)仕上げ剤(脂肪酸ポリグリコールエステルからなる、Clariant製)により正確に同じ紡糸条件下で仕上げした。ループ破断強度を1つの撚りレベル(Z80)および150℃で測定した(結果を表7に示す)。
【0060】
【表7】
【0061】
表8で、フィブリル化結果をフィブリル化指数(FI)で示した。摩擦ピン試験を無撚Twaron(登録商標)糸条で実行した。
【0062】
【表8】
【0063】
表9は、Lurol A45(登録商標)およびLeomin OR(登録商標)による無撚糸条のフィラメント結束性を示している。
【0064】
【表9】
【0065】
実施例4
Lakeland LDP80(登録商標)の仕上げ剤ストック溶液(2重量%)を製造し、糸条に適用した。線密度1716dtexおよびフィラメントカウント1000の未加工Twaron(登録商標)マルチフィラメント糸条(19.45%の1つの単一PPTAバッチからのもの、紡糸直後の最終水分含量6%)を0.2および0.4重量%(LDP80基準)の投与レベルで、およびスリット適用装置を使用して400m/分の紡糸速度で、Lakeland LDP80(登録商標)仕上げ剤によりインラインで処理した。その後、基準試料を、0.8重量%のLeomin OR(登録商標)仕上げ剤(脂肪酸ポリグリコールエステルからなる、Clariant製)により正確に同じ紡糸条件下で仕上げした。ループ破断強度を1つの撚りレベル(Z80)および150℃で測定し、表10に報告した。
【0066】
【表10】
【0067】
表11で、フィブリル化結果をフィブリル化指数(FI)で示した。摩擦ピン試験を無撚Twaron(登録商標)糸条で実行した。
【0068】
【表11】
【0069】
表12は、Lakeland LDP80およびLeomin OR(登録商標)による無撚糸条のフィラメント結束性を示している。
【0070】
【表12】
【0071】
実施例5
Lakeland LDP161(登録商標)の仕上げ剤ストック溶液(2重量%)を製造し、糸条に適用した。線密度1716dtexおよびフィラメントカウント1000の未加工Twaron(登録商標)マルチフィラメント糸条(19.45%の1つの単一PPTAバッチからのもの、紡糸直後の最終水分含量6%)を0.2および0.4重量%(LDP161基準)の投与レベルで、およびスリット適用装置を使用して400m/分の紡糸速度で、Lakeland LDP161(登録商標)仕上げ剤によりインラインで処理した。その後、基準試料を、Leomin OR(登録商標)仕上げ剤(脂肪酸ポリグリコールエステルからなる、Clariant製)により正確に同じ紡糸条件下で仕上げした。ループ破断強度を1つの撚りレベル(Z80)および150℃で測定し、表13に報告した。
【0072】
【表13】
【0073】
表14で、フィブリル化結果をフィブリル化指数(FI)で報告した。摩擦ピン試験を無撚Twaron(登録商標)糸条で実行した。
【0074】
【表14】
【0075】
表15は、Lakeland LDP161(登録商標)およびLeomin OR(登録商標)による無撚糸条のフィラメント結束性を示している。
【0076】
【表15】
【0077】
実施例6
Stantex ARA(登録商標)(56重量%;Pulca製)を温脱塩水(40℃)中10%溶液に希釈することにより、Stantex ARA(登録商標)をベースとする仕上げ剤ストック溶液(10重量%)を製造した。最終紡糸仕上げ剤溶液(2.8重量%)を得るために、Stantex ARA(登録商標)ストック溶液を温脱塩水(40℃)にさらに希釈し、15分間攪拌し、その後、糸条に適用 する用意をした。1610dtexおよびフィラメントカウント1000の高弾性率Twaron(登録商標)D2200マルチフィラメント糸条を単一紡糸試験で製造し、スリット適用装置を使用して0.30および0.4重量%の投与レベルでStantex ARA(登録商標)仕上げ剤によりインラインで処理した。その後、基準試料を、0.80重量%のBreox 50A50(登録商標)仕上げ剤(ランダムエトキシ化およびプロピル化ブタノールからなる、Ilco−Chemie、BASF製)により正確に同じ紡糸条件下で仕上げした。フィブリル化を上記摩擦ピン試験にしたがって測定した。表16で、フィブリル化結果をフィブリル化指数(FI)で0.3重量%Stantex ARA(登録商標)仕上げ剤について報告した。摩擦ピン試験を無撚Twaron(登録商標)糸条で実行した。
【0078】
【表16】
【0079】
表17で、フィブリル化結果をフィブリル化指数(FI)で0.4重量%Stantex ARA(登録商標)仕上げ剤について報告した。摩擦ピン試験を無撚Twaron(登録商標)糸条で実行した。
【0080】
【表17】