(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6068638
(24)【登録日】2017年1月6日
(45)【発行日】2017年1月25日
(54)【発明の名称】シクロアルカンの酸化触媒並びにアルコール及びケトンの製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 27/16 20060101AFI20170116BHJP
B01J 29/89 20060101ALI20170116BHJP
C07C 35/08 20060101ALI20170116BHJP
C07C 49/403 20060101ALI20170116BHJP
C07C 29/48 20060101ALI20170116BHJP
C07C 45/28 20060101ALI20170116BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20170116BHJP
【FI】
C07C27/16
B01J29/89 Z
C07C35/08
C07C49/403 A
C07C29/48
C07C45/28
!C07B61/00 300
【請求項の数】9
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-523363(P2015-523363)
(86)(22)【出願日】2012年7月26日
(65)【公表番号】特表2015-528805(P2015-528805A)
(43)【公表日】2015年10月1日
(86)【国際出願番号】CN2012079172
(87)【国際公開番号】WO2014015491
(87)【国際公開日】20140130
【審査請求日】2015年6月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】508079739
【氏名又は名称】ローディア オペレーションズ
(73)【特許権者】
【識別番号】514077888
【氏名又は名称】エコール ノルマル シュペリウール ドゥ リヨン
(73)【特許権者】
【識別番号】515019412
【氏名又は名称】イースト チャイナ ノーマル ユニヴァーシティ
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】デカンポ, フロリアン
(72)【発明者】
【氏名】チョウ, ウェンチュアン
(72)【発明者】
【氏名】ウー, ポン
(72)【発明者】
【氏名】シュエ, カイ
(72)【発明者】
【氏名】リウ, ユエミン
(72)【発明者】
【氏名】ホー, ミンユアン
【審査官】
黒川 美陶
(56)【参考文献】
【文献】
特表2008−510002(JP,A)
【文献】
中国特許出願公開第102079695(CN,A)
【文献】
中国特許出願公開第101733164(CN,A)
【文献】
特開2002−102709(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 1/00−409/44
C07B 31/00− 63/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シクロアルカンを酸化して対応するアルコールとケトンとを含む生成物混合物を生成するための方法であって、前記方法は、触媒有効量の結晶性MWW型チタノシリケート触媒の存在下、シクロアルカンをヒドロペルオキシドと接触させることを含む、方法。
【請求項2】
ヒドロペルオキシドが、tert−ブチルヒドロペルオキシド、tert−アミルヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、エチルベンゼンヒドロペルオキシド、シクロヘキシルヒドロペルオキシド、メチルシクロヘキシルヒドロペルオキシド、テトラリンヒドロペルオキシド、イソブチルベンゼンヒドロペルオキシド、及びエチルナフタレンヒドロペルオキシドからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ヒドロペルオキシドが反応開始時に反応媒体に添加される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記ヒドロペルオキシドが、シクロアルカンと酸素又は酸素生成剤との反応によってin situで生成される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
前記MWW構造が、化学組成式:xTiO2.(1−x)SiO2(式中、xは0.0001〜0.5である)で表される、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記触媒が、周期律表のIB族、IVB族、VB族、VIB族、VIIB族、VIIIB族、及びVA族の元素からの1種以上のヘテロ原子を更に含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
反応温度が20〜200℃である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
反応媒体中で、純酸素、空気、酸素富化空気、低酸素空気、又は不活性ガスで希釈した酸素が使用される、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
反応媒体の総重量に対して1〜10重量%の範囲の前記触媒が使用される、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シクロアルカンを酸化して対応するアルコールとケトンとを含む生成物混合物を生成するための方法であって、触媒有効量の結晶性MWW型チタノシリケート触媒の存在下、シクロアルカンをヒドロペルオキシドと接触させることを含む方法に関する。ヒドロペルオキシドは、特にはtert−ブチルヒドロペルオキシド、tert−アミルヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、エチルベンゼンヒドロペルオキシド、シクロヘキシルヒドロペルオキシド、メチルシクロヘキシルヒドロペルオキシド、テトラリン
ヒドロペルオキシド、イソブチルベンゼンヒドロペルオキシド、及びエチルナフタレンヒドロペルオキシドとすることができる。
【背景技術】
【0002】
シクロヘキサンを酸化してシクロヘキサノンとシクロヘキサノールとを含む生成物混合物にするための方法として、様々な異なる方法がこれまでに用いられてきた。このような生成物の混合物は、一般的にはKA(ケトン/アルコール)混合物と呼ばれている。KA混合物は容易に酸化されてアジピン酸を生成することができ、これは特定の縮合ポリマーの、特にはポリアミドの製造方法における重要な反応物質である。これらの方法及び他の方法でアジピン酸が大量に消費される場合には、コスト効率のよいアジピン酸及びその前駆体の製造方法が必要とされる。
【0003】
不均一触媒法は分離が容易であるという利点を有しており、シクロヘキサンの酸化を触媒することが広く報告されている。多くの不均一触媒は、主にゼオライト系担体に包含されたあるいは内包された遷移金属又は貴金属を主体としている。
【0004】
国際公開第1994008032号パンフレットには、アルミニウム、ケイ素、及び/又はリン酸化物を含有する金属内包モレキュラーシーブが報告されており、これらがシクロヘキシルヒドロペルオキシドの分解に用いられている。記述されている格子金属は、元素周期律表のVB族(W等)、VIB族(Cr等)及びVIIB族(Co等)から選択されている。
【0005】
国際公開第2007005411号パンフレットには、約2重量%未満のアルミニウム又は結晶性リン酸塩を含む金担持多孔質結晶性ケイ酸塩を用いた、シクロヘキサンの酸化又はシクロアルヘキシルヒドロペルオキシドの触媒的分解が記載されている。結晶性ケイ酸塩は、BEA、FAU、MFI、MEL、MOR、MTW、MTT、MCM−22、MCM−41、MCM−48、NU−1の構造を有している。結晶性リン酸塩は、AFI、AEL、AFO、AFR、AFS、AFT、AFY、ATN、ATO、ATS、ATT、ATV、AWWの構造を有している。結晶性ケイ酸塩担体は、AFI、AEL、AFO、AFR、AFS、AFT、AFY、ATN、ATO、ATS、ATT、ATV、AWWの群から選択される構造を有する脱アルミ処理したゼオライトである。
【0006】
国際公開第2004071998号パンフレットには、シクロヘキサンのいわゆる直接酸化のための不均一触媒が記載されている。触媒は、任意選択的に周期律表の元素2、3、4、及び5族の1種以上のヘテロ原子を含んでいてもよい、金が結晶性ゼオライト系担体に担持されたものが記載されている。
【0007】
比較的低いシクロアルキルヒドロペルオキシド濃度で、シクロヘキサンの高い変換率とKAオイルへの高い選択率を得るための高い酸化能力を有する、触媒製造が低コストである不均一触媒が未だ必要とされている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
これは、変換率及び収率に関して上手く折り合いをつけつつ、高い酸化能力及びKAオイルへの高い選択率で、シクロアルカンからアルコールとケトンとの混合物を製造することが完全に可能なようである。このような結果は、触媒有効量の結晶性MWW型チタノシリケート触媒を使用することによって得ることができる。
【0009】
したがって、本発明は、シクロアルカンを酸化して対応するアルコールとケトンとを含む生成物混合物を生成するための方法であって、触媒有効量の結晶性MWW型チタノシリケート触媒の存在下、シクロアルカンをヒドロペルオキシドと接触させることを含む方法に関する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
シクロアルカン
シクロアルカンとは、3〜約10個の炭素原子、より一般的には約5〜約8個の炭素原子を有する飽和環状炭化水素のことを示す場合がある。シクロアルカンの非限定例としては、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、及びシクロオクタンが挙げられる。
【0011】
ヒドロペルオキシド
本発明で使用可能なヒドロペルオキシド化合物の具体例は、式(I)で表すことができる。
R−O−O−H (I)
(式中、Rは3〜15個の炭素原子を有する炭化水素基とすることができ、主にアルキル基又はアリール基である)
【0012】
ヒドロペルオキシドは、好ましくはtert−ブチルヒドロペルオキシド、tert−アミルヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、エチルベンゼンヒドロペルオキシド、シクロヘキシルヒドロペルオキシド、メチルシクロヘキシルヒドロペルオキシド、テトラリン(すなわちテトラヒドロナフタレン)ヒドロペルオキシド、イソブチルベンゼンヒドロペルオキシド、及びエチルナフタレンヒドロペルオキシドからなる群から選択される。
【0013】
より好ましくは、ヒドロペルオキシドはtert−ブチルヒドロペルオキシド又はシクロヘキシルヒドロペルオキシドなどのアルキルヒドロペルオキシドである。
【0014】
これらのヒドロペルオキシドは、これらのうちの2種以上が組み合わされて使用されてもよい。
【0015】
本発明に関係するヒドロペルオキシドは、in situで、特にはシクロアルカンの酸素又は酸素生成剤との反応によって生成してもよく、あるいは、特には反応開始時又は反応中に反応媒体に添加してもよい。
【0016】
本発明のある実施形態では、反応媒体は、シクロアルカンと、反応総重量に対して2〜40重量%のヒドロペルオキシド、より好ましくは5〜20重量%のヒドロペルオキシドを含有する。
【0017】
結晶性MWW型チタノシリケート触媒
本発明の結晶性MWW型チタノシリケート触媒は、W.Meier,D.H.Meier,D.H.Olxon and Ch.Baerlocher,Atlas of Zeolite Structure Types,4
th Edition,Elsevier(1996)(以下、単に「Atlas」と呼ぶ)中でゼオライトを定義している国際ゼオライト学会(以下、単に「IZA]と呼ぶ)に従って定義されている。MWW構造は、モレキュラーシーブの1つの既知の構造であり、10個の酸素原子を含む環構造からなる空孔を有し、スーパーケージ(0.7×0.7×1.8nm)を有することを特徴としている。この構造は、上述のAtlas刊行後のIZAに承認されている。
【0018】
結晶性MWW型チタノシリケート触媒は、特には特開昭63−297210号公報、米国特許第6759540号明細書、及びPeng Wu et al.“Journal of Catalysis”214(2003)317−326に記載されている。
【0019】
本発明の触媒は、例えば、MCM−56のような完全に及び部分的に脱アルミ処理されたMWW型層状構造又は空孔が拡張された構造(MCM−36等)などの、本来のTi−MWW型層状前駆体から変形された複数の可能な形状をとることができる。
【0020】
この触媒はMWW構造をとることができ、以下の化学組成式で表すことができる。
xTiO
2.(1−x)SiO
2
(式中、xは0.0001〜0.5であり、より好ましくは、xの値は0.01〜0.13である)
【0021】
本発明の触媒は、最終的には、周期律表の元素IB族、IVB族、VB族、VIB族、VIIB族、VIIIB族、VA族の1種以上のヘテロ原子、例えばアルミニウム、ホウ素、バナジウム、クロム、ガリウム、鉄、ビスマス、銅、金、及び銀などを更に含んでいてもよい。金属は骨格中にあってもよいし、骨格外にあってもよい。
【0022】
通常、ゲルは、MWW鋳型剤のモル数、SiO
2のモル数、及びTiO
2のモル数、について定義される添加剤のモル比が、TiO
2:SiO
2=0.5〜5:100、及び、MWW鋳型剤:SiO
2=10〜500:100、に含まれるモル比を有する。水:SiO
2のモル比は、典型的には約500〜10000:100であり、溶媒が使用される場合、溶媒:SiO
2のモル比は0〜5000:100の範囲とすることができる。
【0023】
本発明の触媒は、反応媒体の総重量に対して、1〜10重量%、好ましくは1〜7重量%に含まれる範囲で使用することができる。
【0024】
反応のパラメーター
本発明の実施に際し、触媒は触媒と反応物が密接に接触するように配された触媒床の中へ配合されることにより、シクロヘキサンなどのシクロアルカンと接触することができる。あるいは、触媒は当該技術分野で公知の技術を用いて反応混合物と共にスラリー化することもできる。本発明の方法は、バッチ式と連続式のいずれのシクロアルカンの酸化にも好適である。これらの方法は、通常の技術を有する者に明白であろう多様な条件で実施可能である。
【0025】
本発明の方法に好適な反応温度は、典型的に約20〜約200℃、好ましくは約50〜約200℃、より好ましくは約70〜約140℃の範囲である。
【0026】
反応圧力は、多くの場合約0.1MPa(1bar)〜約20MPa(200bar)であるが、これらの値は必ずしも厳密ではない。シクロアルカンの反応器滞留時間は、通常反応温度に反比例の関係し、典型的には30〜1440分の間に含まれる。純酸素、空気、酸素富化空気、低酸素空気、又は不活性ガスで希釈した酸素を反応媒体中で使用することができる。
【0027】
反応媒体中で溶媒を最終的に用いることもできる。好ましくは、溶媒は極性のプロトン性溶媒又は非プロトン性溶媒の群から選択され、好ましくはアセトニトリル又は酢酸である。
【0028】
酸化された化合物を得るための結晶性MWW型チタノシリケート触媒は、一般的に繰り返し使用するたびにその活性が低下する傾向を有しており、繰り返し使用後の触媒は最初の活性を示すことができない。そのような場合、回収した触媒を再生又は再活性化することができる。回収した触媒は、従来の公知の方法で再生することができる。より具体的には、例えば空気中で触媒を焼成することによって、触媒が最初の活性を有するように触媒を再生することができる。
【0029】
反応終了後、目的化合物を蒸留などの当該技術分野で周知の方法によって最終的に精製することができる。
【0030】
以下の実施例は例示の目的のみに示されており、本発明を限定するものとしてみなすべきではない。
【実施例】
【0031】
実施例1:Ti−MWWゼオライトの合成
Ti−MWWは、Prof.Wuのグループの報告(Wu P.,J.Phys.Chem.B 2002,106,748−753)に従って、2工程で合成した。最初に、Ti含有MWWを、ヒュームドシリカ(Cab−o−sil M7D)、オルトチタン酸テトラブチル、ホウ酸、ピペリジン(PI)、及び蒸留水から合成した。次に、Ti含有前駆体を2MのHNO
3水溶液と共に還流して骨格外Ti種及び骨格ホウ素の一部を除去した。固体生成物を濾過し、洗浄し、乾燥し、最後に550℃で10時間焼成した。
【0032】
実施例2:シクロヘキサンの酸化についてのTi−MWWと他の触媒の触媒性能の比較
t−ブチルヒドロペルオキシド(TBHP)を用いたシクロヘキサンの酸化(80℃で1時間、シクロヘキサン中に0.10gの触媒と6.0重量%のTBHP)を触媒するために、遷移金属内包ゼオライトを使用した。結果は表1に示されている。
【表1】
【0033】
触媒なしでは、TBHPの変換率及びKAの収率は1%未満のようである。Al
3+ゼオライトを用いたベータは、高いTBHP変換率(92.4%)を示したが、KA選択率は低かった。Al
3+なしの、純粋なシリカベータゼオライトは、TBHP変換率及びKA選択率がほとんどなかった。ゼオライトに遷移金属(Cu
2+、Fe
3+、Cr
3+、Co
2+)を内包させた後では、遷移金属なしと比較してKAオイルに対する選択率及びKA収率がすべて向上した。これらのすべての触媒は、最初の実験後の活性部位の漏洩の問題を有しているが、Ti−MWWゼオライト触媒を用いた場合のみで最も良好な変換率、選択率、及び収率の結果が得られた。
【0034】
また、酸化剤としてTBHPを用いたシクロヘキサンの酸化におけるゼオライトの触媒活性は、有効細孔径とは直接相関がないようである。モレキュラーシーブ自体の構造及びモレキュラーシーブ中のチタンの配位数とより相関がある。ここではTi−MWWがKAオイルに対する最も良好な選択率(90.1%)及び最も高いKAオイル収率(9.64%)を示した。細孔径の制限により、シクロヘキサンの酸化におけるTi−MWWの触媒活性は主にゼオライト表面のハーフケージで生じた。