【実施例】
【0039】
以下、実施例及び比較例により本発明をさらに説明するが、本発明は下記例に何ら制限されるものではない。
【0040】
<試験例1>
有効成分であるアゾジカルボンアミドの分解物の真菌に対する除菌の効力を評価した。
【0041】
[真菌を接種したPDA培地の作製]
以下の手順でクロカワカビを接種させたPDA培地を作製した。
1.PDA(ポテトデキストロース寒天)10mLを用いて、試験管にPDA斜面培地を作製した。
2.上記1.で作製したPDA斜面培地上にクロカワカビ(Cladosporium cladosporioides)の胞子を接種し、25℃で4日間、クロカワカビを培養した。
3.上記2.で作製したクロカワカビの斜面培地に生理食塩水9mL、PDB(ポテトデキストロース培地)1mLを加え、白金耳を用いて培地表面からクロカワカビをかきおとし、胞子液を作製した。
4.上記3.の胞子液を濾過し、濾液を生理食塩水で10000倍に希釈した。
5.上記4.で作製した溶液100μLを、φ85mmの滅菌シャーレ((株)アテクト製 商品名:フルステリ深型シャーレ滅菌済みφ90×20)にPDA12mLを用いて作製したPDA培地に接種し、「真菌を接種したPDA培地」を作製した。
【0042】
[検体の処理]
1.30cm×30cm×30cmの容器に、上記で作製した、真菌を接種したPDA培地と粉末状のアゾジカルボンアミド5gを入れたφ9cmの金属シャーレを設置した。
2.アゾジカルボンアミドに直接火を近づけて着火し、十分に発泡して煙の発生が確認された後、90分間、容器を密閉した(以下、加熱処理(実施例1)とする)。
3.また、5g/900cm
2となるようにアゾジカルボンアミドを水中に分散させて、上記作製の培地に均一に塗布したものを作製した(以下、非加熱処理(比較例1)とする)。
4.さらに、アゾジカルボンアミドを塗布しない上記作製の培地を用意した(以下、未処理(参考例)とする)。
5.加熱処理(実施例1)、非加熱処理(比較例1)、未処理(参考例)の3つの培地を25℃で4日間、静置してクロカワカビを培養した。
【0043】
[評価]
除菌効果を以下の評価基準で評価した。その結果を、表1に示す。
(評価基準)
◎:コロニー形成が全く見られない
○:コロニー形成がほとんど見られない
△:コロニー形成が一部分に見られる
×:コロニー形成が全体的に見られる
【0044】
【表1】
【0045】
以上の結果より、アゾジカルボンアミドを加熱することにより発生したアゾジカルボンアミドの分解物が良好な除菌効果を有することが分かった。
【0046】
<試験例2>
加水発熱システムを用いて、アゾジカルボンアミドを加熱し、アゾジカルボンアミドの分解物を発生させ、真菌に対する除菌の効力を評価した。
【0047】
[実施例2]
[製剤の作製]
表2に記載の配合処方において、各成分を混合し、造粒、乾燥し、顆粒状の製剤7を作製した。製剤7の1粒あたりの粒径は約3mm、長さは約5mmである。
【0048】
【表2】
【0049】
有効成分としては以下のものを使用した。
有効成分:アゾジカルボンアミド(商品名:ユニフォームAZ ウルトラ♯1067−1(大塚化学株式会社製))
【0050】
[自己発熱装置の作製]
加水発熱システムにより、製剤7を加熱するため、
図1に示されるような自己発熱装置1を以下のように作製した。
直径53mm、高さ63mm、深さ40mmの有底円筒状の外容器2の底部から側部にかけて加水発熱物質8(酸化カルシウム)65gを収容した。外容器2は、底部に複数の通水孔を有し、通水孔は通水性を有する不織布シート3によって塞いだ。また、外容器2の内部は、仕切部材4により2つの空間に区画した。仕切部材4は、円筒状で底部が略中空半球状を呈しており、その側壁を外容器2の周壁と同心状に配置した。加水発熱物質8は、外容器2の周壁、仕切部材4及び不織布シート3とで形成される空間に充填し、仕切部材4の内部に、上記作製した製剤7を5g(アゾジカルボンアミド4.9g)収容した。また、外容器2の上部開放面には、仕切部材4の上部開放面に相当する領域に0.8cm
2の開口部を7個形成した蓋部材5を被せ、更に蓋部材5の開口部は通気孔を有する熱溶融樹脂フィルム6によって塞ぎ、実施例2の自己発熱装置1を作製した。
【0051】
[実施例3]
酸化カルシウムを37gとしたことを除いて、実施例2と同様に自己発熱装置1を作製した。
【0052】
[真菌を接種したPDA培地の作製]
以下の手順でクロカワカビを接種させたPDA培地を作製した。
1.PDA(ポテトデキストロース寒天)10mLを用いて、試験管にPDA斜面培地を作製した。
2.上記1.で作製したPDA斜面培地上にクロカワカビ(Cladosporium cladosporioides)の胞子を接種し、25℃で4日間、クロカワカビを培養した。
3.上記2.で作製したクロカワカビの斜面培地に生理食塩水9mL、PDB(ポテトデキストロース培地)1mLを加え、白金耳を用いて培地表面からクロカワカビをかきおとし、胞子液を作製した。
4.上記3.の胞子液を濾過し、濾液を生理食塩水で10000倍に希釈した。
5.上記4.で作製した溶液100μLを、φ85mmの滅菌シャーレ((株)アテクト製 商品名:フルステリ深型シャーレ滅菌済みφ90×20)にPDA12mLを用いて作製したPDA培地に接種し、「真菌を接種したPDA培地」を作製した。
【0053】
[試験方法]
図2に示す4.4m
3(1.6m(縦)×1.25m(横)×2.2m(高さ))の密閉空間の浴室11に、実施例2及び実施例3のいずれかの自己発熱装置1を1つ設置するとともに、浴室11の天井部13、壁部14及び床面部15ごとに(
図2に黒丸(●)で示す箇所)、上記で作製した培地を設置した。なお、コントロール(未処理)として、上記培地を浴室外に静置した。なお、浴室11の温度と湿度は表3に示すとおりである。
自己発熱装置1の設置場所は浴室11の中央部とし、22mLの水(加水発熱反応用液)Wを入れた容器9に浸けることにより、加水発熱反応を開始させ、製剤7を加熱した。
加熱を開始した後は、浴室11を無換気状態とし、90分間密閉した。その後、30分間換気を行った。
その後、培地を回収して、25℃で4日間、静置してクロカワカビを培養した。
【0054】
[評価]
PDA斜面培地上のクロカワカビの菌数(コロニー数)を数え、浴室の天井部、壁部及び床面部ごとの菌数(コロニー数)の平均値を算出した。また、下記の式で表される除菌率を算出した。
除菌率(%)={1−検体処理後の培地の菌数(コロニー数)/検体未処理の培地の菌数(コロニー数)}×100
以上の試験を計2回行い、算出した菌数(コロニー数)及び除菌率を表3に示す(表3中の菌数及び除菌率は、計2回行った試験で算出した値の平均値である)。
【0055】
【表3】
【0056】
表3に示す通り、本発明の除菌剤を加水発熱システムによって揮散させたところ、浴室11の天井部13、壁部14及び床面部15のいずれにおいても、良好な除菌効果が見られた。
【0057】
本発明を実施するにあたり、有効な処方例は表4のとおりである。
【0058】
【表4】
【0059】
<試験例3>
本試験では、試験例2における実施例2で使用した熱源(自己発熱装置1)の温度を1秒毎に計測することでアゾジカルボンアミドの加熱温度を測定し、温度が100℃以上、200℃以上、300℃以上、及び350℃以上となる時間をそれぞれ計測した。また、100℃以上となる温度の総和、200℃以上となる温度の総和、300℃以上となる温度の総和、及び350℃以上となる温度の総和をそれぞれ求めた。
【0060】
まず、実施例2の自己発熱装置1から製剤7を除いた自己発熱装置1(熱源)について発熱を開始させ、それぞれ発熱温度の推移を計測した。具体的には、
図1の自己発熱装置1において製剤7を除いた上で、仕切部材4の底部Xの中心部に温度プローブ(K型熱電対(新熱工業株式会社製:シース熱電対φ0.3mm(MAX600℃)))を接触させた。温度プローブは線状であるため、ガラス管の中を通し、先端を折り曲げ、ガラス管の端でプローブを押さえつけることで垂直に缶底に密着、固定させた。この状態で発熱を開始させ、発熱温度を、グラフテック株式会社製MT100を用いて1秒毎に経時的に測定、記録した。この試験は、計3回(検体1〜3)行った。
次に、得られた温度のデータに基づいて、温度が100℃以上、200℃以上、300℃以上、及び350℃以上となる時間をそれぞれ計測した。その結果を表5に示す。また、100℃以上となる温度の総和、200℃以上となる温度の総和、300℃以上となる温度の総和、及び350℃以上となる温度の総和をそれぞれ求めた。その結果を表6に示す。
【0061】
【表5】
【0062】
【表6】
【0063】
表5の結果からわかるように、温度が100℃以上となる時間は平均して900秒以上となり、温度が200℃以上となる時間は平均して350秒以上となり、温度が300℃以上となる時間は平均して200秒以上となり、温度が350℃以上となる時間は平均して150秒以上となった。
また、表6の結果から分かるように、100℃以上となる温度の総和は平均して200,000℃・s以上となり、200℃以上となる温度の総和は平均して120,000℃・s以上となり、300℃以上となる温度の総和は平均して80,000℃・s以上となり、350℃以上となる温度の総和は平均して60,000℃・s以上となることがわかった。
【0064】
<試験例4>
有効成分であるアゾジカルボンアミドの分解物において、浮遊物と落下物の除菌効果をそれぞれ評価した。
【0065】
(試験例4−1)
本試験では、有効成分であるアゾジカルボンアミドの分解物のうち、浮遊物の除菌効果を評価した。
[アゾジカルボンアミドの分解物のガス成分の採取]
以下の手順でアゾジカルボンアミドの分解物を採取した。
1.試験例2で作製した実施例2の自己発熱装置1を200Lテドラーバッグ内に設置し、22mLの水(加水発熱反応用液)Wを入れた容器9に浸けることにより、上記テドラーバッグ内で加水発熱反応を開始させ、製剤7を加熱し、燻煙させた。
2.加熱を開始してから、一定時間おきに(加熱開始直後、5分後、15分後、30分後、60分後、90分後)に上記テドラーバッグから、PTFE製0.22μmフィルター(Millex−FG(登録商標),MILLIPORE)を使用して固体成分を除去しつつ、ガラス製シリンジで気体を抜き取り、アゾジカルボンアミドの分解物の浮遊物を採取した。
【0066】
[真菌を接種した試験板の作製]
以下の手順でクロカワカビを接種させたPDA培地を作製した。
1.PDA(ポテトデキストロース寒天)10mLを用いて、試験管にPDA斜面培地を作製した。
2.上記1.で作製したPDA斜面培地上にクロカワカビ(Cladosporium cladosporioides)の胞子を接種し、25℃で4日間、クロカワカビを培養した。
3.上記2.で作製したクロカワカビの斜面培地に生理食塩水9mL、PDB(ポテトデキストロース培地)1mLを加え、白金耳を用いて培地表面からクロカワカビをかきおとし、胞子液を作製した。
4.上記3.の胞子液を濾過し、濾液100μLを、2枚の試験板(FRP、5cm×5cm)の表面1cm
2あたりに4μLずつ均等に25カ所に分けて滴下し、室温で30分間乾燥固定させた。
【0067】
[試験方法]
1.2Lテドラーバッグ内に上記作製した2枚の試験板を設置し、一定時間おきに採取したアゾジカルボンアミドの分解物の浮遊物をそれぞれ注入した。
2.上記アゾジカルボンアミドの分解物のガス成分を注入してから90分後に、テドラーバッグから2枚の試験板を回収し、それぞれの試験板をGPLP培地10mLで洗い出した。
3.上記GPLP培地から100μLをPDA培地に播種し、25℃にて5日間保管した。
4.また、上記GPLP培地100μLに対し、900μLのGPLP培地で希釈し、希釈培地から100μLをPDA培地に播種し、25℃にて5日間保管した。
5.3および4の培地のうち、生育の認められた菌数(コロニー数)を数えることができる培地を選択し菌数を数え、3の培地の場合は100倍、4の培地の場合は1000倍して、試験板1枚あたりの菌数を算出した。
[評価]
アゾジカルボンアミドの分解物の浮遊物を注入する前の試験板の菌数(検体未処理の菌数)と、アゾジカルボンアミドの分解物の浮遊物を注入後保管した試験板(検体処理後の菌数)の平均値を算出し、下記の式で表される除菌率を算出した。
除菌率(%)={1−検体処理後の菌数/検体未処理の菌数}×100
上記算出した除菌率に基づき、除菌効果を以下の評価基準で評価した。その結果を表7に示す。
(評価基準)
◎:除菌率99%以上
○:除菌率90%以上99%未満
△:除菌率80%以上90%未満
×:除菌率80%未満
【0068】
【表7】
【0069】
表7に示す通り、加熱を開始してから30分後までに採取したアゾジカルボンアミドの分解物の浮遊物は除菌効果が高かったが、60分後以降に採取したアゾジカルボンアミドの分解物の浮遊物の除菌効果は低かった。上記結果から、少なくとも加熱開始直後から30分間に採取したアゾジカルボンアミドの分解物の浮遊物には、除菌活性を有する成分が含まれていることが示唆された。
【0070】
(試験例4−2)
本試験では、有効成分であるアゾジカルボンアミドの分解物のうち、落下物の除菌効果を評価した。
[試験方法]
試験例2で使用した
図2に示す4.4m
3(1.6m(縦)×1.25m(横)×2.2m(高さ))の密閉空間の浴室11の床面部15に、蓋を開けた状態の空のシャーレを3つ設置した(
図2の床面部15における黒丸(●)で示す箇所)。その後、浴室内で実施例2の自己発熱装置1を22mLの水(加水発熱反応用液)Wを入れた容器9に浸けることにより、加水発熱反応を開始させ、製剤7を加熱、燻煙させた。
加熱を開始した後は、浴室11を無換気状態とし、90分間密閉した。その後、設置したシャーレを回収したところ、すべてのシャーレ上には、アゾジカルボンアミドの分解物の落下物の存在を確認できた。当該落下物の存在するシャーレにPDA培地とクロカワカビの胞子液を注入して混釈し、25℃で4日間、静置してクロカワカビを培養した。以下、検体処理後の培地という。
また、コントロールとして、空のシャーレ3つにPDA培地とクロカワカビの胞子液をそれぞれ注入して混釈し、25℃で4日間、静置してクロカワカビを培養した。以下、検体未処理の培地という。
[評価]
上記の検体処理後の培地と検体未処理の培地のクロカワカビの菌数(コロニー数)をそれぞれ数え、平均値を求め、下記の式で表される除菌率を算出した。
除菌率(%)={1−検体処理後の培地の菌数(コロニー数)/検体未処理の培地の菌数(コロニー数)}×100
上記算出した除菌率に基づき、除菌効果を、試験例4−1と同様の評価基準で評価した。その結果を表8に示す。
【0071】
【表8】
【0072】
表8に示す通り、アゾジカルボンアミドの分解物のうち落下物も、ある程度の除菌効果を有することが分かった。一方、アゾジカルボンアミドの分解物の落下物は、試験例4−1におけるアゾジカルボンアミドの分解物の浮遊物と比較して、除菌効果が劣る結果となった。