(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
Δ4デサチュラーゼをコードする外因性ポリヌクレオチドにさらに含み、ポリヌクレオチドが、細胞中における前記ポリヌクレオチドの発現を誘導できる1つまたは複数のプロモーターに作動可能に連結され、組換え細胞はDHAを合成する、請求項1に記載の細胞。
前記細胞中における前記脂肪酸中におけるARA、EPA、DPAおよびDHAの総計が、前記細胞中における全脂肪酸の少なくとも15%を含み、前記細胞中における全脂肪酸の少なくとも3%がDHAであり、かつC20:1のレベルが1%未満である、請求項3に記載の細胞。
ω3デサチュラーゼをコードする外因性ポリヌクレオチドにさらに含み、ポリヌクレオチドが、細胞中における前記ポリヌクレオチドの発現を誘導できる1つまたは複数のプロモーターに作動可能に連結されている、請求項1から4のいずれか一項に記載の細胞。
i)前記細胞が、野生型細胞と比較した場合、オレイン酸をエイコセン酸(C20:1)に変換する低下した能力を有し、および/または前記オレイン酸の5%未満が前記細胞中においてエイコセン酸に変換される、
ii)前記細胞が、前記外因性ポリヌクレオチドを欠く対応する細胞と比較して、GLAからSDAおよび/またはARAからEPAの増加した変換率を含む、および
iii)ALAからEPA、DPAまたはDHAの変換の効率が、少なくとも17.3%である、
の内の1つまたは複数の特徴を有する、請求項1から5のいずれか一項に記載の細胞。
前記デサチュラーゼの内の1種もしくは複数種または全てが、対応するアシル−PC基質よりも大きなアシル−CoA基質に対する活性を有する、請求項1から7のいずれか一項に記載の細胞。
a)でΔ4デサチュラーゼおよび/またはω3デサチュラーゼをコードする外因性ポリヌクレオチドを細胞にさらに導入することを含み、ポリヌクレオチドが、細胞中における前記ポリヌクレオチドの発現を誘導できる1つまたは複数のプロモーターに作動可能に連結する、請求項9に記載の方法。
不飽和脂肪酸を含有する油の製造方法であって、請求項1から8のいずれか一項に記載の細胞、請求項12に記載のトランスジェニック植物、および/または請求項13に記載の種子から油を抽出するステップを含む方法。
【発明の概要】
【0011】
従って、特に油料種子植物の種子の中における、組換え細胞中におけるLC−PUFAのより効率的な産生の必要性が残っている。
【0012】
本発明の概要
本発明者らは、初めて、組換え細胞中においてEPAをDPAに効率的に変換するΔ5エロンガーゼを同定した。
【0013】
従って、本発明は、Δ5エロンガーゼ活性を有する脂肪酸エロンガーゼをコードする外因性ポリヌクレオチドを含む組換え細胞、好ましくは植物細胞、より好ましくは植物種子細胞をさらに提供するものであって、細胞中において、好ましくは植物細胞中においてエロンガーゼが外因性ポリヌクレオチドから発現される場合、エロンガーゼは、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%または少なくとも75%の効率でDPAを産生するEPAに対する活性を有する。
【0014】
一実施形態において、エロンガーゼは、配列番号6において提供される配列、その生物学的に活性な断片または配列番号6と少なくとも47%同一であるアミノ酸配列を有するアミノ酸を含む。
【0015】
他の一実施形態において、細胞は、
i)Δ8デサチュラーゼおよび/またはΔ6デサチュラーゼ、
ii)Δ9エロンガーゼおよび/またはΔ6エロンガーゼ、
iii)Δ5デサチュラーゼ、ならびに
iv)場合によって、Δ4デサチュラーゼおよび/またはω3デサチュラーゼ
をコードする外因性ポリヌクレオチドをさらに含み、各ポリヌクレオチドは、細胞中における前記ポリヌクレオチドの発現を誘導(direct)できる1つまたは複数のプロモーターに作動可能に連結する。
【0016】
本発明者らは、新規な性質(property)を有するω3デサチュラーゼをも同定した。ω3デサチュラーゼは、EPA、下流の脂肪酸DPAおよびDHAならびに他のω3VLC−PUFAを生成するように設計された組換え経路において有用である。
【0017】
従って、本発明は、ω3デサチュラーゼ活性を有する脂肪酸デサチュラーゼをコードする外因性ポリヌクレオチドを含む組換え細胞、好ましくは植物細胞、より好ましくは植物種子細胞を提供するものであって、デサチュラーゼが細胞中における外因性ポリヌクレオチドから発現される場合、デサチュラーゼは、ARAからEPA、DGLAからETA、GLAからSDAの内の少なくとも1つ、ARAからEPAおよびDGLAからETAの両方、ARAからEPAおよびGLAからSDAの両方、またはこれらの3つ全てを不飽和化することができる。
【0018】
デサチュラーゼは、好ましくはフロントエンドデサチュラーゼである。
【0019】
他の一実施形態において、デサチュラーゼは、そのアシル鎖中に少なくとも3個の炭素−炭素二重結合を有するC20脂肪酸(好ましくは、ARA)に対するΔ17デサチュラーゼ活性を有する。
【0020】
他の一実施形態において、デサチュラーゼは、そのアシル鎖中に3個の炭素−炭素二重結合を有するC18脂肪酸(好ましくは、GLA)に対するΔ15デサチュラーゼ活性を有する。
【0021】
デサチュラーゼは、好ましくは、対応するアシル−PC基質よりもアシル−CoA基質に対して、より大きな活性を有する。
【0022】
一実施形態において、アシル−CoA基質はARA−CoAであり、アシル−PC基質は、PCのsn−2位でARAを含む。
【0023】
さらに他の一実施形態において、細胞は植物細胞であり、デサチュラーゼは、細胞中において外因性ポリヌクレオチドから発現される場合、少なくとも40%の効率でEPAを産生する、ARAに対する活性を有する。
【0024】
特定の一実施形態において、デサチュラーゼは、配列番号15、17もしくは20において提供される配列、その生物学的に活性な断片、または配列番号15と少なくとも35%同一である、配列番号17と少なくとも60%同一であるおよび/もしくは配列番号20と少なくとも60%同一であるアミノ酸配列を有するアミノ酸を含む。
【0025】
さらに、本発明者らは、植物中および/または酵母中における対応するω6脂肪酸基質に対するよりもω3脂肪酸基質に対して、より大きな変換効率を有するΔ6デサチュラーゼをコードする遺伝子を同定した。このΔ6デサチュラーゼは、Δ8デサチュラーゼ活性をも示す。植物中における組換えLC−PUFA経路におけるこのΔ6デサチュラーゼまたはω3不飽和化脂肪酸基質に対する高特異性を有する他のデサチュラーゼの使用は、ω3不飽和化脂肪酸基質に対する選好性のないデサチュラーゼの使用と比較してEPA、DPAおよびDHAのレベルを増加させる。
【0026】
従って、本発明は、Δ6デサチュラーゼ活性を有する脂肪酸デサチュラーゼをコードする外因性ポリヌクレオチドを含む組換え細胞、好ましくは植物細胞、より好ましくは植物種子細胞をさらに提供するものであって、デサチュラーゼは、以下の
i)好ましくは植物細胞中における、脂肪酸基質としてのLAよりもALAに対して、より大きなΔ6デサチュラーゼ活性、
ii)好ましくは植物細胞中における、脂肪酸基質としてPCのsn−2位に接合したALAに対するよりも脂肪酸基質としてのALA−CoAに対して、より大きなΔ6デサチュラーゼ活性、および
iii)好ましくは植物細胞中における、ETrAに対するΔ8デサチュラーゼ活性
の内の少なくとも2つ、好ましくは3つ全てを有することをさらに特徴とする。
【0027】
本発明は、Δ6デサチュラーゼ活性を有する脂肪酸デサチュラーゼをコードする外因性ポリヌクレオチドを含む組換え細胞、好ましくは植物細胞、より好ましくは植物種子細胞をさらに提供するものであって、デサチュラーゼは、対応するω6基質に対するよりもω3基質に対して、より大きな活性を有し、デサチュラーゼが細胞中において外因性ポリヌクレオチドから発現される場合に、デサチュラーゼが、少なくとも5%、少なくとも7.5%もしくは少なくとも10%の効率で、または酵母細胞中において発現される場合に少なくとも35%の効率でSDAを産生する、ALAに対する活性を有する。
【0028】
一実施形態において、デサチュラーゼは、好ましくは植物細胞中において、脂肪酸基質としてのLAよりもALAに対して、より大きなΔ6デサチュラーゼ活性を有する。
【0029】
好ましくは、Δ6デサチュラーゼは、好ましくは植物細胞中において、LAと比較して基質としてのALAに対する少なくとも約2倍大きなΔ6デサチュラーゼ活性、少なくとも3倍大きな活性、少なくとも4倍大きな活性または少なくとも5倍大きな活性を有する。
【0030】
他の一実施形態において、Δ6デサチュラーゼは、好ましくは植物細胞中において、脂肪酸基質としての、PCのsn−2位に接合したALAに対するよりも、脂肪酸基質としてのALA−CoAに対して、より大きな活性を有する。
【0031】
好ましくは、Δ6デサチュラーゼは、好ましくは植物細胞中において、脂肪酸基質としての、PCのsn−2位に接合したALAに対するよりも、脂肪酸基質としてのALA−CoAに対する少なくとも約5倍大きなΔ6デサチュラーゼ活性または少なくとも10倍大きな活性を有する。
【0032】
Δ6デサチュラーゼは、好ましくはフロントエンドデサチュラーゼである。
【0033】
さらに他の一実施形態において、本発明による細胞は、
i)Δ6エロンガーゼ、
ii)Δ5デサチュラーゼ、
iii)Δ5エロンガーゼ、ならびに
iv)場合によって、Δ4デサチュラーゼおよび/またはω3デサチュラーゼ
をコードする外因性ポリヌクレオチドをさらに含み、各ポリヌクレオチドは、細胞中における前記ポリヌクレオチドの発現を誘導できる1つまたは複数のプロモーターに作動可能に連結する。
【0034】
本発明の細胞中におけるΔ6デサチュラーゼは、好ましくは、ETAに対する検出可能なΔ5デサチュラーゼ活性を有さない。
【0035】
Δ6デサチュラーゼは、好ましくは、配列番号10において提供される配列、その生物学的に活性な断片または配列番号10と少なくとも77%同一であるアミノ酸配列を有するアミノ酸を含む。
【0036】
他の一実施形態において、Δ6デサチュラーゼは、配列番号8において提供される配列、その生物学的に活性な断片または配列番号8と少なくとも67%同一であるアミノ酸配列を有するアミノ酸を含み、Δ8デサチュラーゼ活性を有する。
【0037】
本発明者らは、Δ9エロンガーゼ、Δ8デサチュラーゼおよびΔ5デサチュラーゼを発現する組換え細胞が、より効率的に脂肪酸基質をEPA、DPAおよびDHAに変換することができることをも見出した。
【0038】
従って、本発明は、
i)Δ9エロンガーゼ、
ii)Δ8デサチュラーゼ、
iii)Δ5デサチュラーゼ、
iv)場合によって、Δ5エロンガーゼ、および
v)Δ5エロンガーゼが存在する場合、場合によって、Δ4デサチュラーゼ
をコードする外因性ポリヌクレオチドを含む組換え細胞、好ましくは植物細胞、より好ましくは植物種子細胞をさらに提供するものであって、各ポリヌクレオチドは、細胞中における前記ポリヌクレオチドの発現を誘導できる1つまたは複数のプロモーターに作動可能に連結し、細胞中における全脂肪酸の少なくとも15%、少なくとも20%または少なくとも25%は、それらのアシル鎖中に少なくとも20個の炭素および少なくとも3個の炭素−炭素二重結合を含む。
【0039】
一実施形態において、本発明の細胞中における脂肪酸中におけるARA、EPA、DPAおよびDHAの総計は、細胞中における全脂肪酸の少なくとも15%、少なくとも20%または少なくとも25%を含む。
【0040】
更なる一実施形態において、本発明による細胞は、野生型植物と比較した場合、オレイン酸をエイコセン酸(C20:1)に変換する低下した能力を有し、および/またはオレイン酸の5%未満が細胞中においてエイコセン酸に変換される。
【0041】
特定の一実施形態において、細胞中における全脂肪酸は、1%未満のC20:1を有する。
【0042】
更なる一実施形態において、本発明による細胞は、野生型細胞と比較した場合、低下した内因性Δ15デサチュラーゼ活性を有し、および/またはLAの10%未満が細胞中においてALAに変換される。
【0043】
特定の一実施形態において、内因性Δ15デサチュラーゼは、好ましくはアシル基がLAである場合、対応するアシル−CoA基質に対するよりもアシル−PC基質に対して、より大きな活性を有する。
【0044】
更なる一実施形態において、本発明の細胞は、外因性ポリヌクレオチドを欠く対応する細胞と比較して、GLAからSDAおよび/またはARAからEPAの増加した変換率(conversion)をさらに含む。
【0045】
一実施形態において、本発明の細胞中における脂肪酸中におけるDHAの量は、細胞中における全脂肪酸の少なくとも3%、少なくとも5%または少なくとも10%である。
【0046】
他の一実施形態において、本発明の細胞中におけるLAからARAおよび/またはALAからEPAの変換の効率は、少なくとも80%または少なくとも90%である。
【0047】
一実施形態において、Δ9エロンガーゼは、配列番号22において提供される配列、その生物学的に活性な断片または配列番号22と少なくとも80%同一であるアミノ酸配列を有するアミノ酸を含む。
【0048】
更なる一実施形態において、Δ8デサチュラーゼは、配列番号24において提供される配列、その生物学的に活性な断片または配列番号24と少なくとも80%同一であるアミノ酸配列を有するアミノ酸を含む。
【0049】
さらに他の一実施形態において、Δ5デサチュラーゼは、配列番号26もしくは配列番号13において提供される配列、その生物学的に活性な断片または配列番号26および/もしくは配列番号13と少なくとも80%同一であるアミノ酸配列を有するアミノ酸を含む。
【0050】
本発明者らは、Δ6−デサチュラーゼ、Δ6エロンガーゼ、Δ5デサチュラーゼ、Δ5エロンガーゼおよびΔ4デサチュラーゼを発現する遺伝子のセット、または特にデサチュラーゼがアシル−CoA基質に対して活性である遺伝子の同様のセットを、実質的なレベルのEPA、DPAおよびDHAを合成するために使用することができることを示す結果を得た。
【0051】
従って、本発明は、
i)Δ6エロンガーゼおよび/またはΔ9エロンガーゼ、
ii)Δ6デサチュラーゼおよび/またはΔ8デサチュラーゼ、
iii)Δ5デサチュラーゼ、
iv)Δ5エロンガーゼ、
v)Δ4デサチュラーゼ、ならびに
vi)場合によって、ジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼ
をコードする外因性ポリヌクレオチドを含む組換え細胞、好ましくは植物細胞、より好ましくは植物種子細胞をさらに提供するものであって、各ポリヌクレオチドは、細胞中における前記ポリヌクレオチドの発現を誘導できる1つまたは複数のプロモーターに作動可能に連結し、
a)ALAからEPA、DPAまたはDHAの変換の効率が、少なくとも17.3%または少なくとも23%である性質、
b)ALAからDPAまたはDHAの変換の効率が、少なくとも15.4%または少なくとも21%である性質、
c)ALAからDHAの変換の効率が、少なくとも9.5%または少なくとも10.8%である性質、および
d)EPAからDHAの変換の効率が、少なくとも45%または少なくとも50%である性質
の内の1つもしくは複数または全てを特徴とし、好ましくはさらに、細胞中における全脂肪酸の少なくとも4%がDHAであることを特徴とする。
【0052】
好ましくは、細胞中におけるトリアシルグリセロール中に組み込まれた全脂肪酸の少なくとも6%、少なくとも11%または少なくとも15%が、DHAである。
【0053】
一実施形態において、DHAは、細胞中におけるSDA、ETA、EPA、DPAおよびDHAの合計の20〜65%、好ましくは40〜65%を構成する。
【0054】
好ましくは、細胞中におけるω3脂肪酸の0.1〜25%はSDAであり、0.1〜10%はETAであり、0.1〜60%はEPAであり、0.1〜50%はDPAであり、および30〜95%はDHAであり、より好ましくは、細胞中におけるω3脂肪酸の0.1〜25%はSDAであり、0.1〜10%はETAであり、0.1〜50%はEPAであり、0.1〜50%はDPAであり、および40〜95%はDHAである。
【0055】
Δ4デサチュラーゼは、好ましくは、配列番号73において提供される配列、その生物学的に活性な断片または配列番号73と少なくとも80%同一であるアミノ酸配列を有するアミノ酸を含む。
【0056】
他の一態様において、本発明は、
i)Δ6エロンガーゼおよび/またはΔ9エロンガーゼ、
ii)Δ6デサチュラーゼおよび/またはΔ8デサチュラーゼ、
iii)Δ5デサチュラーゼ、
iv)Δ5エロンガーゼ、ならびに
v)場合によって、ジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼ
をコードする外因性ポリヌクレオチドを含む組換え細胞、好ましくは植物細胞、より好ましくは植物種子細胞を提供するものであって、各ポリヌクレオチドは、細胞中における前記ポリヌクレオチドの発現を誘導できる1つまたは複数のプロモーターに作動可能に連結し、
a)ALAからEPAまたはDPAの変換の効率が少なくとも17.3%または少なくとも23%である性質、および
b)ALAからDPAの変換の効率が少なくとも15.4%または少なくとも21%である性質
の内の1つもしくは複数または全てを特徴とし、好ましくはさらに、細胞中における全脂肪酸の少なくとも4%がDPAであることを特徴とする。
【0057】
好ましくは、細胞中におけるトリアシルグリセロール中に組み込まれた全脂肪酸の少なくとも6%、少なくとも11%または少なくとも15%が、DPAである。
【0058】
DPAは、好ましくは、細胞中におけるSDA、ETA、EPAおよびDPAの合計の20〜65%、より好ましくは40〜65%を構成する。
【0059】
好ましくは、細胞中におけるω3脂肪酸の0.1〜35%はSDAであり、0.1〜15%はETAであり、0.1〜60%はEPAであり、および30〜75%はDPAであり、より好ましくは、細胞中におけるω3脂肪酸の0.1〜35%はSDAであり、0.1〜15%はETAであり、0.1〜50%はEPAであり、および40〜75%はDPAである。
【0060】
一実施形態において、Δ6エロンガーゼは、配列番号4において提供される配列、その生物学的に活性な断片または配列番号4と少なくとも55%同一であるアミノ酸配列を有するアミノ酸を含む。
【0061】
他の一実施形態において、Δ6デサチュラーゼは、配列番号8において提供される配列、その生物学的に活性な断片または配列番号8と少なくとも67%同一であるアミノ酸配列を有するアミノ酸を含む。
【0062】
一実施形態において、Δ5デサチュラーゼは、配列番号26において提供される配列、その生物学的に活性な断片または配列番号26と少なくとも80%同一であるアミノ酸配列を有するアミノ酸を含む。
【0063】
さらに他の一実施形態において、Δ5エロンガーゼは、配列番号6において提供される配列、その生物学的に活性な断片または配列番号6と少なくとも47%同一であるアミノ酸配列を有するアミノ酸を含む。
【0064】
一実施形態において、ジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼは、配列番号75もしくは配列番号108において提供される配列、その生物学的に活性な断片または配列番号75および/もしくは配列番号108と少なくとも80%同一であるアミノ酸配列を有するアミノ酸を含む。
【0065】
上記の酵素の内の任意の2種、3種、4種または全ての組合せは、本発明に明らかに包含される。
【0066】
さらに他の一実施形態において、本発明の細胞、好ましくは植物細胞、より好ましくは植物種子細胞は、
i)Δ17デサチュラーゼ、
ii)Δ15デサチュラーゼ、および/または
iii)Δ12デサチュラーゼ
をコードする外因性ポリヌクレオチドをさらに含み、各ポリヌクレオチドは、細胞中における前記ポリヌクレオチドの発現を誘導できる1つまたは複数のプロモーターに作動可能に連結する。
【0067】
更なる一実施形態において、本発明の細胞中において外因性ポリヌクレオチドから発現したデサチュラーゼの内の1種もしくは複数種または全ては、対応するアシル−PC基質よりもアシル−CoA基質に対して、より大きな活性を有する。特定の一実施形態において、Δ6デサチュラーゼおよびΔ5デサチュラーゼ、Δ5デサチュラーゼおよびΔ4デサチュラーゼ、Δ6デサチュラーゼおよびΔ4デサチュラーゼ、もしくはΔ6デサチュラーゼ、Δ5デサチュラーゼおよびΔ4デサチュラーゼの内の3種全て、またはこれらの組合せの各々の他に、Δ17デサチュラーゼ、Δ15デサチュラーゼおよび/もしくはΔ12デサチュラーゼのいずれかは、対応するアシル−PC基質よりもそれらのアシル−CoA基質に対して、より大きな活性を有する。本実施形態において、細胞中において外因性ポリヌクレオチドから発現された他のデサチュラーゼは、対応するアシル−PC基質よりもアシル−CoA基質に対して、より大きな活性を有することができるか、または有することができない。理解されるように、各酵素に対する好ましいアシル−CoA基質は異なる。
【0068】
本発明は、Δ6エロンガーゼおよびΔ9エロンガーゼ活性を有する脂肪酸エロンガーゼをコードする外因性ポリヌクレオチドを含む組換え細胞、好ましくは植物細胞、より好ましくは植物種子細胞をさらに提供するものであって、エロンガーゼは、Δ9エロンガーゼ活性より大きなΔ6エロンガーゼ活性を有する。
【0069】
一実施形態において、エロンガーゼは、少なくとも50%もしくは少なくとも60%であるETAを産生するSDAにおける変換の効率を有し、および/または少なくとも6%もしくは少なくとも9%であるETrAを産生するALAにおける変換効率を有する。
【0070】
好ましくは、エロンガーゼは、Δ9エロンガーゼ活性より少なくとも約6.5倍大きなΔ6エロンガーゼ活性を有する。
【0071】
さらに他の一実施形態において、エロンガーゼは、検出可能なΔ5エロンガーゼ活性を有さない。
【0072】
エロンガーゼは、好ましくは、配列番号4において提供される配列、その生物学的に活性な断片または配列番号4と少なくとも55%同一であるアミノ酸配列を有するアミノ酸を含む。
【0073】
さらに他の一実施形態において、細胞は、
i)Δ8デサチュラーゼおよび/またはΔ6デサチュラーゼ、
ii)Δ5デサチュラーゼ、
iii)Δ5エロンガーゼ、ならびに
iv)場合によって、Δ4デサチュラーゼおよび/またはω3デサチュラーゼ
をコードする外因性ポリヌクレオチドをさらに含み、各ポリヌクレオチドは、細胞中における前記ポリヌクレオチドの発現を誘導できる1つまたは複数のプロモーターに作動可能に連結する。
【0074】
本発明は、Δ5デサチュラーゼ活性を有する脂肪酸デサチュラーゼをコードする外因性ポリヌクレオチドを含む組換え細胞、好ましくは植物細胞、より好ましくは植物種子細胞をさらに提供するものであって、デサチュラーゼは、配列番号13において提供される配列、その生物学的に活性な断片または配列番号13と少なくとも53%同一であるアミノ酸配列を有するアミノ酸を含む。
【0075】
本発明は、Δ9エロンガーゼ活性を有する脂肪酸エロンガーゼをコードする外因性ポリヌクレオチドを含む組換え細胞、好ましくは植物細胞、より好ましくは植物種子細胞をさらに提供するものであって、エロンガーゼは、配列番号28、94および96のいずれか1つにおいて提供される配列、その生物学的に活性な断片、配列番号28と少なくとも81%同一であるアミノ酸配列、または配列番号94および/もしくは配列番号96と少なくとも50%同一であるアミノ酸配列を有するアミノ酸を含む。
【0076】
一実施形態において、Δ9エロンガーゼは、配列番号94もしくは配列番号96において提供される配列、その生物学的に活性な断片、または配列番号94および/もしくは配列番号96と少なくとも50%同一であるアミノ酸配列を有するアミノ酸を含み、エロンガーゼは、対応するω3基質よりもω6基質に対して、より大きな活性を有する。より好ましくは、Δ9エロンガーゼは、対応するω3基質(例えば、ALA)よりも少なくとも2倍、より好ましくは少なくとも4倍大きなω6基質(例えば、LA)に対する活性を有する。
【0077】
他の一態様において、本発明は、ジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼをコードする外因性ポリヌクレオチドを含む組換え細胞を提供するものであって、ジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼは、配列番号108において提供される配列、その生物学的に活性な断片または配列番号108と少なくとも54%同一であるアミノ酸配列を有するアミノ酸を含む。
【0078】
本発明による細胞の一実施形態において、デサチュラーゼおよび/もしくはエロンガーゼまたは多数のデサチュラーゼおよび/もしくはエロンガーゼは、微細藻類から精製できる。好ましい微細藻類は、パブロバ属種(Pavlova spp)、ピラミモナス属種(Pyramimonas spp)およびミクロモナス属種(Micromonas spp)である。
【0079】
好ましい一実施形態において、本発明による細胞は、真核細胞である。例えば、細胞は、植物細胞、哺乳動物細胞、昆虫細胞、真菌細胞または酵母細胞であってよい。細胞は、組織培養における細胞、in vitroにおける細胞および/または単離された細胞であってよい。
【0080】
一実施形態において、細胞は、植物中のものおよび/または成熟植物種子細胞である。植物は、野外(field)にあるものであってよいか、もしくは植物の部分として採取されてよく、または種子は、採取された種子であってよい。
【0081】
特定の一実施形態において、植物または植物の種子は、それぞれ油料種子植物または油料種子である。
【0082】
当業者である対象者(skilled addressee)が理解するように、定義されたエロンガーゼおよび/またはデサチュラーゼのより多くのものの内の1種を同一細胞中において共発現させることができる。
【0083】
更なる一実施形態において、本発明の細胞は、長鎖多価不飽和脂肪酸(LC−PUFA)を合成することができ、細胞は、前記LC−PUFAを合成することができない細胞に由来する。
【0084】
本発明者らは、サイレンシングサプレッサーの共発現は、特に最初に形質転換された植物からリペイトされた(repated)世代にわたって、植物細胞中における脂肪酸生合成酵素のレベルを増強し得ることをも見出した。従って、好ましい一実施形態において、本発明の細胞、好ましくは植物細胞、より好ましくは植物貯蔵器官細胞または種子細胞は、サイレンシングサプレッサーをコードする外因性ポリヌクレオチドを含む。
【0085】
好ましくは、サイレンシングサプレッサーをコードする外因性ポリヌクレオチドは、植物貯蔵器官特異的プロモーターに作動可能に連結する。一実施形態において、植物貯蔵器官特異的プロモーターは、種子特異的プロモーター、または発育中の種子中において選好的に発現される子葉(cotyledon)特異的プロモーターもしくは内乳(endosperm)特異的プロモーターである。
【0086】
本発明は、1種または複数種の長鎖多価不飽和脂肪酸(LC−PUFA)を合成できる細胞、好ましくは植物細胞、より好ましくは植物種子細胞を得る方法であって、
a)脂肪酸ω3デサチュラーゼ活性をコードする外因性ポリヌクレオチドを細胞、好ましくは前記LC−PUFAを合成することができない細胞中に導入するステップであり、ポリヌクレオチドが、細胞中における前記ポリヌクレオチドの発現を誘導できるプロモーターに作動可能に連結する、ステップ、
b)細胞中において外因性ポリヌクレオチドを発現させるステップ、
c)細胞の脂肪酸組成を分析するステップ、ならびに
d)ARAからEPA、DGLAからETA、GLAからSDAの内の少なくとも1つ、ARAからEPAおよびDGLAからETAの両方、ARAからEPAおよびGLAからSDAの両方、またはこれらの3つ全てを不飽和化し得る細胞を選択するステップ
を含む方法をさらに提供する。
【0087】
一実施形態において、選択される細胞は、本発明による細胞である。特に、細胞は、本明細書において記載される通りのデサチュラーゼおよびエロンガーゼの組合せをさらに含むことができる。
【0088】
本発明は、1種または複数種の長鎖多価不飽和脂肪酸(LC−PUFA)を合成できる細胞、好ましくは植物細胞、より好ましくは植物種子細胞を得る方法であって、
a)脂肪酸Δ5エロンガーゼをコードする外因性ポリヌクレオチドを細胞、好ましくは前記LC−PUFAを合成することができない細胞中に導入するステップであり、ポリヌクレオチドが、細胞中における前記ポリヌクレオチドの発現を誘導できるプロモーターに作動可能に連結する、ステップ、
b)細胞中において外因性ポリヌクレオチドを発現させるステップ、
c)細胞の脂肪酸組成を分析するステップ、および
d)細胞を選択するステップであり、Δ5エロンガーゼが、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%または少なくとも75%の効率でDPAを産生するEPAに対する活性を有する、ステップ
を含む方法をさらに提供する。
【0089】
本発明の方法の一実施形態において、選択される細胞は、本発明による細胞である。特に、細胞は、本明細書において記載される通りのデサチュラーゼおよびエロンガーゼの組合せをさらに含むことができる。
【0090】
本発明は、1種または複数種の長鎖多価不飽和脂肪酸(LC−PUFA)を合成できる細胞、好ましくは植物細胞、より好ましくは植物種子細胞を得る方法をさらに提供するものであって、方法は、
a)脂肪酸Δ6デサチュラーゼをコードする外因性ポリヌクレオチドを細胞、好ましくは前記LC−PUFAを合成することができない細胞中に導入するステップであり、ポリヌクレオチドが、細胞中における前記ポリヌクレオチドの発現を誘導できるプロモーターに作動可能に連結する、ステップ、
b)細胞中において外因性ポリヌクレオチドを発現させるステップ、
c)細胞の脂肪酸組成を分析するステップ、ならびに
d)以下の
i)好ましくは植物細胞中における、脂肪酸基質としてのLAよりもALAに対して、より大きなΔ6デサチュラーゼ活性、
ii)好ましくは植物細胞中における、脂肪酸基質としてPCのsn−2位に接合したALAに対するよりも脂肪酸基質としてのALA−CoAに対して、より大きなΔ6デサチュラーゼ活性、および
iii)好ましくは植物細胞中における、ALAに対するΔ6デサチュラーゼ活性およびETrAに対するΔ8デサチュラーゼ
の内の少なくとも2つ、好ましくは3つ全てを有する細胞を選択するステップ
を含む。
【0091】
本発明は、1種または複数種の長鎖多価不飽和脂肪酸(LC−PUFA)を合成できる細胞、好ましくは植物細胞、より好ましくは植物種子細胞を得る方法であって、
a)脂肪酸Δ6デサチュラーゼをコードする外因性ポリヌクレオチドを細胞、好ましくは前記LC−PUFAを合成することができない細胞中に導入するステップであり、ポリヌクレオチドが、細胞中における前記ポリヌクレオチドの発現を誘導できるプロモーターに作動可能に連結する、ステップ、
b)細胞中において外因性ポリヌクレオチドを発現させるステップ、
c)細胞の脂肪酸組成を分析するステップ、ならびに
d)対応するω6基質よりもω3基質に対して、より大きな活性を有するΔ6デサチュラーゼ活性を有し、酵母細胞中において発現される場合、少なくとも5%、少なくとも7.5%または少なくとも10%または少なくとも35%の効率でSDAを産生するALAに対する活性を有する細胞を選択するステップ
を含む方法をさらに提供する。
【0092】
一実施形態において、選択される細胞は、本発明による細胞である。特に、細胞は、本明細書において記載される通りのデサチュラーゼおよびエロンガーゼの組合せをさらに含むことができる。
【0093】
本発明は、1種または複数種の長鎖多価不飽和脂肪酸(LC−PUFA)を合成できる細胞、好ましくは植物細胞、より好ましくは植物種子細胞を得る方法であって、
a)
i)Δ9エロンガーゼ、
ii)Δ8デサチュラーゼ、
iii)Δ5デサチュラーゼ、
iv)場合によって、Δ5エロンガーゼ、および
v)Δ5エロンガーゼが存在する場合、場合によって、Δ4デサチュラーゼ
をコードする外因性ポリヌクレオチドを細胞、好ましくは前記LC−PUFAを合成することができない細胞中に導入するステップであり、各ポリヌクレオチドが、細胞中における前記ポリヌクレオチドの発現を誘導できる1つまたは複数のプロモーターに作動可能に連結する、ステップ
b)細胞中において外因性ポリヌクレオチドを発現させるステップ、
c)細胞の脂肪酸組成を分析するステップ、ならびに
d)細胞を選択するステップであり、全脂肪酸の少なくとも15%、少なくとも20%または少なくとも25%が、それらのアシル鎖中に少なくとも20個の炭素および少なくとも3個の炭素−炭素二重結合を含む、ステップ
を含む方法をさらに提供する。
【0094】
一実施形態において、選択される細胞は、本発明による細胞である。
【0095】
本発明は、1種または複数種の長鎖多価不飽和脂肪酸(LC−PUFA)を合成できる細胞、好ましくは植物細胞、より好ましくは植物種子細胞を得る方法であって、
a)
i)Δ6エロンガーゼおよび/またはΔ9エロンガーゼ、
ii)Δ6デサチュラーゼおよび/またはΔ8デサチュラーゼ、
iii)Δ5デサチュラーゼ、
iv)Δ5エロンガーゼ、
v)Δ4デサチュラーゼ、ならびに
vi)場合によって、ジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼ
をコードする外因性ポリヌクレオチドを細胞、好ましくは前記LC−PUFAを合成することができない細胞中に導入するステップであり、各ポリヌクレオチドが、細胞中における前記ポリヌクレオチドの発現を誘導できる1つまたは複数のプロモーターに作動可能に連結する、ステップ、
b)細胞中において外因性ポリヌクレオチドを発現させるステップ、
c)細胞の脂肪酸組成を分析するステップ、ならびに
d)
1)ALAからEPA、DPAまたはDHAの変換の効率が少なくとも17.3%または少なくとも23%である性質、
2)ALAからDPAまたはDHAの変換の効率が少なくとも15.4%または少なくとも21%である性質、
3)ALAからDHAの変換の効率が少なくとも9.5%または少なくとも10.8%である性質、および
4)EPAからDHAの変換の効率が少なくとも45%または少なくとも50%である性質
の内の1つもしくは複数または全てを特徴とし、好ましくはさらに、細胞中における全脂肪酸の少なくとも4%がDHAであることを特徴とする細胞を選択するステップ
を含む方法をさらに提供する。
【0096】
更なる一態様において、本発明は、1種または複数種の長鎖多価不飽和脂肪酸(LC−PUFA)を合成できる細胞、好ましくは植物細胞、より好ましくは植物種子細胞を得る方法であって、
a)
i)Δ6エロンガーゼおよび/またはΔ9エロンガーゼ、
ii)Δ6デサチュラーゼおよび/またはΔ8デサチュラーゼ、
iii)Δ5デサチュラーゼ、
iv)Δ5エロンガーゼ、ならびに
v)場合によって、ジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼ
をコードする外因性ポリヌクレオチドを細胞、好ましくは前記LC−PUFAを合成することができない細胞中に導入するステップであり、各ポリヌクレオチドが、細胞中における前記ポリヌクレオチドの発現を誘導できる1つまたは複数のプロモーターに作動可能に連結する、ステップ、
b)細胞中において外因性ポリヌクレオチドを発現させるステップ、
c)細胞の脂肪酸組成を分析するステップ、ならびに
d)
a)ALAからEPAまたはDPAの変換の効率が少なくとも17.3%または少なくとも23%である性質、および
b)ALAからDPAの変換の効率が少なくとも15.4%または少なくとも21%である性質
の内の1つもしくは複数または全てを特徴とし、好ましくはさらに、細胞中における全脂肪酸の少なくとも4%がDPAであることを特徴とする細胞を選択するステップ
を含む方法を提供する。
【0097】
本発明による方法の一実施形態において、外因性ポリヌクレオチドは、細胞のゲノム中に安定して組み込まれる(integrated)ようになる。
【0098】
他の一実施形態において、方法は、ステップa)の細胞から形質転換植物を再生させるステップをさらに含む。
【0099】
更なる一実施形態において、外因性ポリヌクレオチドまたは複数の外因性ポリヌクレオチド(polynucleotide(s)(複数可))は、細胞中において一過性に発現される。
【0100】
一実施形態において、細胞は、植物中における葉細胞である。
【0101】
本発明は、脂肪酸不飽和化に関与する核酸分子を選択する方法であって、
i)プロモーターに作動可能に連結する核酸分子を得るステップであり、核酸分子が、脂肪酸デサチュラーゼであり得るポリペプチドをコードする、ステップ、
ii)プロモーターが活性である細胞中に核酸分子を導入するステップ、
iii)細胞中において核酸分子を発現させるステップ、
iv)細胞の脂肪酸組成を分析するステップ、ならびに
v)ポリペプチドがω3デサチュラーゼ活性を有し、かつARAからEPA、DGLAからETA、GLAからSDAの内の少なくとも1つ、ARAからEPAおよびDGLAからETAの両方、ARAからEPAおよびGLAからSDAの両方、またはこれらの3つ全てを不飽和化することができることに基づいて、脂肪酸不飽和化に関与する核酸分子を選択するステップ
を含む方法をさらに提供する。
【0102】
方法の一実施形態において、ポリペプチドのアミノ酸配列は、配列番号15と少なくとも35%同一であり、配列番号17と少なくとも60%同一であり、および/または配列番号20と少なくとも60%同一である。
【0103】
本発明は、脂肪酸伸長に関与する核酸分子を選択する方法であって、
i)プロモーターに作動可能に連結する核酸分子を得るステップであり、核酸分子が、脂肪酸エロンガーゼであり得るポリペプチドをコードする、ステップ、
ii)プロモーターが活性である細胞中に核酸分子を導入するステップ、
iii)細胞中において核酸分子を発現させるステップ、
iv)細胞の脂肪酸組成を分析するステップ、および
v)ポリペプチドがΔ5エロンガーゼ活性を有し、かつ少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%または少なくとも75%であるDPAを産生するEPAにおける変換の効率を有することに基づいて、脂肪酸伸長に関与する核酸分子を選択するステップ
を含む方法をさらに提供する。
【0104】
一実施形態において、ポリペプチドのアミノ酸配列は、配列番号6と少なくとも47%同一である。
【0105】
本発明は、脂肪酸不飽和化に関与する核酸分子を選択する方法であって、
i)プロモーターに作動可能に連結する核酸分子を得るステップであり、核酸分子が、脂肪酸デサチュラーゼであり得るポリペプチドをコードする、ステップ、
ii)プロモーターが活性である細胞中に核酸分子を導入するステップ、
iii)細胞中において核酸分子を発現させるステップ、
iv)細胞の脂肪酸組成を分析するステップ、ならびに
v)ポリペプチドがΔ6デサチュラーゼ活性を有し、かつ以下の
a)好ましくは植物細胞中における、脂肪酸基質としてのLAによりもALAに対して、より大きなΔ6デサチュラーゼ活性、
b)好ましくは植物細胞中における、脂肪酸基質としてPCのsn−2位に接合したALAに対するよりも脂肪酸基質としてのALA−CoAに対して、より大きなΔ6デサチュラーゼ活性、および
c)好ましくは植物細胞中における、ALAに対するΔ8デサチュラーゼ活性
の内の少なくとも2つ、好ましくは3つ全てを有することに基づいて、脂肪酸不飽和化に関与する核酸分子を選択するステップ
を含む方法をさらに提供する。
【0106】
方法の一実施形態において、ポリペプチドのアミノ酸配列は、配列番号10と少なくとも77%同一であり、および/または配列番号8と少なくとも67%同一である。
【0107】
本発明は、脂肪酸不飽和化に関与する核酸分子を選択する方法であって、
i)プロモーターに作動可能に連結する核酸分子を得るステップであり、核酸分子が、脂肪酸デサチュラーゼであり得るポリペプチドをコードする、ステップ、
ii)プロモーターが活性である細胞中に核酸分子を導入するステップ、
iii)細胞中において核酸分子を発現させるステップ、
iv)細胞の脂肪酸組成を分析するステップ、および
v)ポリペプチドがΔ6デサチュラーゼ活性およびΔ8デサチュラーゼ活性の両方を有することに基づいて、脂肪酸不飽和化に関与する核酸分子を選択するステップ
を含む方法をさらに提供する。
【0108】
一実施形態において、ポリペプチドのアミノ酸配列は、配列番号8と少なくとも67%同一である。
【0109】
更なる一実施形態において、本発明の方法のステップ(v)は、アシル−CoA基質に対して活性なデサチュラーゼまたはフロントエンドデサチュラーゼをコードする核酸分子を選択することを含む。
【0110】
本発明は、組換え細胞を産生するため、組換え細胞中において少なくとも2種の脂肪酸デサチュラーゼおよび2種の脂肪酸エロンガーゼの組合せを発現させるため、ならびに/または組換え細胞中においてLC−PUFAを産生するために使用される場合における、本明細書において定義される通りの外因性ポリヌクレオチドの組合せをさらに提供する。
【0111】
本発明は、実質的に精製されたおよび/または組換えの脂肪酸Δ5エロンガーゼをさらに提供するものであって、エロンガーゼは、細胞中において外因性ポリヌクレオチドから発現される場合、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%または少なくとも75%の効率でDPAを産生するEPAに対する活性を有する。
【0112】
一実施形態において、Δ5エロンガーゼは、本明細書において定義される通りの性質の内のいずれか1つまたは複数を特徴とする。
【0113】
本発明は、細胞中において外因性ポリヌクレオチドから発現される場合、ARAからEPA、DGLAからETA、GLAからSDAの内の少なくとも1つ、ARAからEPAおよびDGLAからETAの両方、ARAからEPAおよびGLAからSDAの両方、またはこれらの3つ全てを不飽和化することができる実質的に精製されたおよび/または組換えの脂肪酸ω3デサチュラーゼをさらに提供する。
【0114】
一実施形態において、本発明のω3デサチュラーゼは、本明細書において定義される通りの性質のいずれか1つまたは複数を特徴とする。
【0115】
本発明は、以下の
i)好ましくは植物細胞中における、脂肪酸基質としてのLAよりもALAに対して、より大きなΔ6デサチュラーゼ活性、
ii)好ましくは植物細胞中における、脂肪酸基質としてPCのsn−2位に接合したALAに対するよりも脂肪酸基質としてのALA−CoAに対して、より大きなΔ6デサチュラーゼ活性、および
iii)好ましくは植物細胞中における、ETrAに対するΔ8デサチュラーゼ活性
の内の少なくとも2つ、好ましくは3つ全てを有することをさらに特徴とする、実質的に精製されたおよび/または組換えの脂肪酸Δ6デサチュラーゼをさらに提供する。
【0116】
本発明は、対応するω6基質よりもω3基質に対して、より大きな活性を有し、細胞中において外因性ポリヌクレオチドから発現される場合に少なくとも5%、少なくとも7.5%もしくは少なくとも10%の効率で、または酵母細胞中において発現される場合に少なくとも35%の効率でSDAを産生するALAに対する活性を有する、実質的に精製されたおよび/または組換えの脂肪酸Δ6デサチュラーゼをさらに提供する。
【0117】
一実施形態において、本発明のΔ6デサチュラーゼは、本明細書において定義される通りの性質のいずれか1つまたは複数を特徴とする。
【0118】
本発明は、Δ9エロンガーゼ活性より大きなΔ6エロンガーゼ活性を有する、実質的に精製されたおよび/または組換えの脂肪酸Δ6エロンガーゼおよびΔ9エロンガーゼをさらに提供する。
【0119】
一実施形態において、本発明のΔ6エロンガーゼおよびΔ9エロンガーゼは、本明細書において定義される通りの性質のいずれか1つまたは複数を特徴とする。
【0120】
本発明は、配列番号13において提供される配列、その生物学的に活性な断片または配列番号13と少なくとも53%同一であるアミノ酸配列を有するアミノ酸を含む実質的に精製されたおよび/または組換えの脂肪酸Δ5デサチュラーゼをさらに提供する。
【0121】
本発明は、配列番号28、94および96のいずれか1つにおいて提供される配列、その生物学的に活性な断片、配列番号28と少なくとも81%同一であるアミノ酸配列、または配列番号94および/もしくは配列番号96と少なくとも50%同一であるアミノ酸配列を有するアミノ酸を含む実質的に精製されたおよび/または組換えの脂肪酸Δ9エロンガーゼをさらに提供する。
【0122】
一実施形態において、Δ9エロンガーゼは、配列番号94もしくは配列番号96において提供される配列、その生物学的に活性な断片、または配列番号94および/もしくは配列番号96と少なくとも50%同一であるアミノ酸配列を有するアミノ酸を含み、エロンガーゼは、対応するω3基質よりもω6基質に対して、より大きな活性を有する。
【0123】
他の一態様において、本発明は、配列番号108において提供される配列、その生物学的に活性な断片または配列番号108と少なくとも54%同一であるアミノ酸配列を有するアミノ酸を含む実質的に精製されたおよび/または組換えジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼを提供する。
【0124】
一実施形態において、本発明によるデサチュラーゼまたはエロンガーゼは、微細藻類から精製できる。好ましい微細藻類は、パブロバ属種、ピラミモナス属種およびミクロモナス属種である。
【0125】
本発明は、
i)配列番号3、5、7、9、11、12、14、16、18、19、27、29、93、95、107もしくは125から129のいずれか1つから選択されるヌクレオチドの配列、
ii)本発明によるデサチュラーゼもしくはエロンガーゼをコードするヌクレオチドの配列、
iii)配列番号3、5、7、9、11、12、14、16、18、19、27、29、93、95、107もしくは125から129において記載される配列の内の1つまたは複数と少なくとも50%同一であるヌクレオチドの配列、および/または
iv)ストリンジェントな条件下でi)からiii)のいずれか1つにハイブリダイズする配列
を含む単離されたおよび/または外因性ポリヌクレオチドをさらに提供する。
【0126】
一実施形態において、単離されたおよび/または外因性ポリヌクレオチドは、配列番号3および/または配列番号126と少なくとも57%同一であるヌクレオチドの配列を含み、かつΔ6エロンガーゼをコードする。
【0127】
他の一実施形態において、単離されたおよび/または外因性ポリヌクレオチドは、配列番号14、配列番号16、配列番号18および/または配列番号19と少なくとも50%同一であるヌクレオチドの配列を含み、かつω3デサチュラーゼをコードする。
【0128】
他の一実施形態において、単離されたおよび/または外因性ポリヌクレオチドは、配列番号5および/または配列番号128と少なくとも50%同一であるヌクレオチドの配列を含み、かつΔ5エロンガーゼをコードする。
【0129】
一実施形態において、単離されたおよび/または外因性ポリヌクレオチドは、配列番号7、配列番号9、配列番号11および/または配列番号125と少なくとも75%同一であるヌクレオチドの配列を含み、かつΔ6デサチュラーゼをコードする。
【0130】
さらに他の一実施形態において、単離されたおよび/または外因性ポリヌクレオチドは、配列番号12と少なくとも60%同一であるヌクレオチドの配列を含み、かつΔ5デサチュラーゼをコードする。
【0131】
他の一実施形態において、単離されたおよび/または外因性ポリヌクレオチドは、配列番号27、配列番号29、配列番号93および/または配列番号96と少なくとも50%同一であるヌクレオチドの配列を含み、かつΔ9エロンガーゼをコードする。
【0132】
さらに他の一実施形態において、単離されたおよび/または外因性ポリヌクレオチドは、配列番号107と少なくとも60%同一であるヌクレオチドの配列を含み、かつジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼをコードする。
【0133】
特定の一実施形態において、単離されたおよび/または外因性ポリヌクレオチドは、配列番号3、5、7、9、11、12、14、16、18、19、27、29、93、95、107または125から129において記載される配列の内の1つと少なくとも80%または少なくとも90%または少なくとも95%または少なくとも99%同一である。
【0134】
本発明は、植物細胞のゲノム中に組み込むためのおよび/または組み込まれたDNA構築物をさらに提供するものであって、構築物は、植物細胞中における脂肪酸合成をモジュレートするタンパク質をコードする少なくとも3つのオープンリーディングフレームのクラスターを含み、好ましくは、各タンパク質は脂肪酸デサチュラーゼまたは脂肪酸エロンガーゼであり、同じ転写方向を有する各オープンリーディングフレームは、少なくとも750bp、少なくとも1,000bpまたは少なくとも1,250bpにより分離され、オープンリーディングフレームの内の少なくとも2つは、異なる転写方向を有し、各オープンリーディングフレームは、植物細胞中において活性なプロモーターに作動可能に連結し、各プロモーターは、独立して同一または異なってよい。
【0135】
好ましくは、プロモーターの内の少なくとも2つは、DNA構築物中にあり、異なる。
【0136】
1つもしくは複数のまたは各々のオープンリーディングフレームは、好ましくは、異種5’リーダー配列に作動可能に連結し、その各々は、独立して同一または異なってよく、各異種5’リーダー配列は、特定のオープンリーディングフレームに対する天然に存在する5’リーダー配列と比較して転写効率を増強する。
【0137】
本発明のDNA構築物において、異種5’リーダー配列は、好ましくは、タバコモザイクウイルス(TMV)5’リーダー配列である。
【0138】
本発明によるDNA構築物において、タンパク質は、好ましくは、エロンガーゼおよび/またはデサチュラーゼであり、より好ましくは、本明細書に記載される通りの組合せである。
【0139】
さらに他の一実施形態において、本発明によるDNA構築物は、タンパク質に翻訳される3または4つのオープンリーディングフレームだけを有する。
【0140】
本発明は、本発明によるポリヌクレオチドおよび/または本発明によるDNA構築物を含むベクターをさらに提供する。
【0141】
好ましくは、ポリヌクレオチドは、プロモーターに作動可能に連結する。
【0142】
本発明は、本発明によるデサチュラーゼまたはエロンガーゼを産生する方法であって、細胞または無細胞発現系中において本発明のポリヌクレオチド、本発明のDNA構築物および/または本発明のベクターを発現させることを含む方法をさらに提供する。
【0143】
本発明者らはまた、驚くべきことに、異なる外因性ポリヌクレオチドを含む少なくとも3種の独立した染色体外転移核酸を真核細胞中に一過性にトランフェクトする(tranfected)ことができ、各外因性ポリヌクレオチドの活性を細胞中において共に検出することができることをも見出した。従って、他の一態様において、本発明は、
少なくとも3種の異なる外因性ポリヌクレオチドで真核細胞を一過性にトランスフェクトする方法であって、
i)少なくとも
a)第1の外因性ポリヌクレオチドを含む染色体外転移核酸を含む第1の細菌、
b)第2の外因性ポリヌクレオチドを含む染色体外転移核酸を含む第2の細菌、および
c)第3の外因性ポリヌクレオチドを含む染色体外転移核酸を含む第3の細菌
を得るステップ、ならびに
ii)ステップi)の細菌を細胞に接触させるステップ
を含み、染色体外転移核酸の各々を細菌から細胞に転移させて一過性にトランスフェクトされた細胞を産生し、外因性ポリヌクレオチドの各々が細胞中において活性なプロモーターを含み、各プロモーターが独立して同一または異なってよく、外因性ポリヌクレオチドの内の少なくとも1つがサイレンシングサプレッサーをコードする、方法をさらに提供する。
【0144】
ステップii)は、細菌の内の1種または複数種と逐次的にまたは同時に行うことが可能である。例えば、細胞に第1の細菌を接触させ、次いで第2の細菌等を接触させることができる。他の一例において、好ましくは細菌の混合物として、各細菌を同時に細胞に接触させる。異なる細菌の濃度は、互いに対して異なってよく、または同じもしくは同様であってよい。細菌は、例えば株のライブラリーからの多くの分離菌を含むプールされた分離菌であってよい。
【0145】
一実施形態において、方法は、細胞を得るステップと、次いで細胞に異なる外因性ポリヌクレオチドを含む染色体外転移核酸を各々含む1種または複数種の更なる細菌を接触させるステップとをさらに含む。例えば、一実施形態において、方法は、細胞を得るステップと、次いで細胞に第4の外因性ポリヌクレオチドを含む染色体外転移核酸を含む第4の細菌を接触させるステップとを含む。更なる一実施形態において、方法は、細胞を得るステップと、次いで細胞に第5の外因性ポリヌクレオチドを含む染色体外転移核酸を含む第5の細菌を接触させるステップとを含む。更なる一実施形態において、方法は、細胞を得るステップと、次いで細胞に第6の外因性ポリヌクレオチドを含む染色体外転移核酸を含む第6の細菌を接触させるステップとを含む。更なる一実施形態において、方法は、細胞を得るステップと、次いで細胞に第7の外因性ポリヌクレオチドを含む染色体外転移核酸を含む第7の細菌を接触させるステップとを含む。さらに他の更なる一実施形態において、方法は、細胞を得るステップと、次いで細胞に第8の外因性ポリヌクレオチドを含む染色体外転移核酸を含む第8の細菌を接触させるステップとを含む。
【0146】
好ましくは、異なる外因性ポリヌクレオチドは、異なるRNA分子および/またはポリペプチドをコードする。
【0147】
一実施形態において、各外因性ポリヌクレオチドは、酵素経路の部分を形成する酵素をコードするか、またはかかる酵素の候補物質である。
【0148】
上記の態様は、特に、大きなおよび/もしくは複雑な生物学的経路を形成するポリヌクレオチドならびに/またはポリペプチドを研究するのに有用である。従って、好ましい一実施形態において、各外因性ポリヌクレオチドは、脂肪酸合成、脂肪酸修飾、ジアシルグリセロール構築(assembly)、トリアシルグリセロール構築もしくはそれらの内の2つ以上の組合せに関与する酵素をコードするか、またはかかる酵素の候補物質である。
【0149】
一実施形態において、細菌の内の1種または複数種は、原形質体の形態である。本発明に有用な細菌の例としては、アグロバクテリウム(Agrobacterium)属種(sp.)、リゾビウム(Rhizobium)属種、シノリゾビウム・メリロティ(Sinorhizobium meliloti)、メゾリゾビウム・ロティ(Mezorhizobium loti)、シゲラ・フレクスネリ(Shigella flexneri)、サルモネラ・チフィムリウム(Salmonella typhimurium)、サルモネラ・コレレスイス(Salmonella choleraesuis)、リステリア・モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes)、エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)、エルシニア・シュードツベルクローシス(Yersinia pseudotuberculosis)およびエルシニア・エンテロコリチカ(Yersinia enterocolitica)が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0150】
本発明に有用な染色体外転移核酸の例としては、P−DNA、アグロバクテリウム属種T−DNAまたはそれらの組合せが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0151】
好ましくは、上記の態様の細胞は、植物細胞または哺乳動物細胞である。一実施形態において、細胞は、組織または器官の部分である。他の一実施形態において、細胞は植物細胞であり、組織または器官は、葉、茎、根、分裂組織(meristem)、カルスまたは胚珠(ovule)である。
【0152】
本発明者らはまた、プロモーターが種子特異的プロモーターである場合、葉細胞中における外因性ポリヌクレオチドの発現が、リーフィコチレドン2(leafy cotyledon 2)、フスカ3(fusca3)またはアブシジン酸センスティブ3(abscisic acid-senstive3)等の種子特異的転写因子の共発現によって増強され得ることをも決定した。リーフィコチレドン2タンパク質の例としては、WO01/70777に記載されているものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。従って、好ましい一実施形態において、植物細胞は、植物の葉細胞であり、プロモーターの内の少なくとも1つは、種子特異的プロモーターであり、外因性ポリヌクレオチドの内の少なくとも1つは、リーフィコチレドン2等の種子特異的転写をコードする。
【0153】
一実施形態において、外因性ポリヌクレオチドのいずれもウイルス遺伝子ではない。一実施形態において、外因性ポリヌクレオチドの内の1種または複数種は、定義された核酸配列のマルティマーまたは部分的マルティマーとしてではなく、単一コピーとして染色体外転移核酸中に存在するだけである。更なる一実施形態において、染色体外転移核酸の内の少なくとも1種は、細胞中において機能的な複製開始点を含まず、好ましくはウイルスの複製開始点を含まず、より好ましくはFBNYVの複製開始点を含まない。更なる一実施形態において、外因性ポリヌクレオチドのいずれも、WO2007/137788において記載されているものや、Marillonnetら(2005)によって記載されているもの等のウイルスレプリカーゼまたはウイルス移行タンパク質をコードしない。
【0154】
また、所望の活性について一過性にトランスフェクトされた細胞をスクリーニングする方法であって、本発明の少なくとも3種の外因性ポリヌクレオチドを真核細胞に一過性にトランスフェクトする方法を実施するステップと、所望の活性について細胞を試験するステップとを含む方法も提供される。
【0155】
本発明者らは、より多くのその6種の異なる遺伝子による細胞、特に植物細胞の形質転換が、異なる染色体外転移核酸を通じて遺伝子を提供して増強され得ることをも確認した。従って、他の一態様において、本発明は、
少なくとも6種の異なる外因性ポリヌクレオチドで真核細胞を形質転換する方法であって、
i)少なくとも
a)3種、4種、5種または6種の異なる外因性ポリヌクレオチドを含む第1の染色体外転移核酸を含む第1の細菌、および
b)3種、4種、5種または6種の異なる外因性ポリヌクレオチドを含む第1と異なる第2の染色体外転移核酸を含む第2の細菌
を得るステップ、
ii)ステップi)の細菌を細胞に接触させるステップ、ならびに
iii)場合によって、第1および第2の染色体外転移核酸の外因性ポリヌクレオチドで安定して形質転換された細胞を選択するステップ
を含み、第1および第2の染色体外転移核酸の外因性ポリヌクレオチドの各々を細菌から細胞に転移させて形質転換細胞を産生し、外因性ポリヌクレオチドの各々が、細胞またはそれに由来し得る細胞中において活性なプロモーターを含み、各プロモーターが、独立して同一または異なってよい、方法を提供する。
【0156】
ステップi)a)およびi)b)は、2種の細菌と逐次的にまたは同時に行われ得る。例えば、細胞に、第1の細菌を接触させ、次いで第2の細菌を接触させることができる。第2の細菌と接触させた細胞は、子孫細胞であり得るか、または第1の細菌と接触させた細胞に由来し得る。他の一例において、細胞に細菌の両方を同時に接触させる。
【0157】
一実施形態において、i)第1の染色体外転移核酸は、3から6種だけ、3から5種だけ、3から4種だけ、4から6種だけ、4から5種だけ、または5から6種だけの異なる外因性ポリヌクレオチドを有し、ii)第2の染色体外転移核酸は、3から6種だけ、3から5種だけ、3から4種だけ、4から6種だけ、4から5種だけ、または5から6種だけの異なる外因性ポリヌクレオチドを有する。
【0158】
好ましくは、外因性ポリヌクレオチドの各々はポリペプチドをコードし、ポリペプチドの各々が異なる。
【0159】
更なる一実施形態において、
i)第1の染色体外転移核酸は、Δ6デサチュラーゼ、Δ12デサチュラーゼおよびΔ15デサチュラーゼから成る群から選択されるポリペプチドを独立してコードする2種の外因性ポリヌクレオチドを含み、ならびに
ii)第2の染色体外転移核酸は、群からの第3の酵素であるポリペプチドをコードする外因性ポリヌクレオチドを含む。
【0160】
好ましくは、細胞は植物細胞であり、方法は、安定形質転換細胞から形質転換植物を生成するステップをさらに含む。
【0161】
また、本発明の少なくとも3種の外因性ポリヌクレオチドで真核細胞を一過性にトランスフェクトする方法方法(method method)、または本発明の少なくとも6種の異なる外因性ポリヌクレオチドで真核細胞を形質転換する方法によって産生された細胞も提供される。
【0162】
なお更なる一態様において、本発明は、
少なくとも6種の異なる外因性ポリヌクレオチドで安定形質転換植物を産生する方法であって、
i)3種、4種、5種または6種の異なる外因性ポリヌクレオチドを含む第1の外因性ゲノム領域を含む第1の安定形質転換植物を得るステップ、
ii)3種、4種、5種または6種の異なる外因性ポリヌクレオチドを含む第1と異なる第2の外因性ゲノム領域を含み、第1と性的に適合性のある種の第2の安定形質転換植物を得るステップ、
iii)第1の安定形質転換植物を第2の安定形質転換植物と交配するステップ、ならびに
iv)ステップiii)から産生された植物または第1および第2のゲノム領域を含むその子孫を選択することによって安定形質転換植物を産生するステップ
を含み、
外因性ポリヌクレオチドの各々が、植物中において活性なプロモーターを含み、各プロモーターが、独立して同一または異なってよい、方法を提供する。
【0163】
好ましい一実施形態において、本発明のDNA構築物について上記で概説したように、第1および/または第2の外因性ゲノム領域の外因性ポリヌクレオチドが整列させられ(orientated)、間隔を置いて配置される。
【0164】
第1および第2の外因性ゲノム領域の中でいずれか1つのプロモーター配列が複数回存在し得るか、もしくは1回だけ使用され得、または第1および第2の外因性ゲノム領域中において1種もしくは複数種のプロモーターが複数回使用され得、かつ1種もしくは複数種の他のプロモーターが1回だけ使用される。各植物プロモーターは、植物の組織または器官中において、例えば葉または種子中において、他の組織または器官と比較して独立して選好的に活性であってよい。このことは、植物器官または組織中における導入タンパク質コード領域の全ての同時発現または重複発現を可能にすることができる。代替の一実施形態において、1種または複数種のプロモーターは植物中において構成的に発現され、1種または複数種の他のプロモーターは植物器官または組織において選好的に発現される。
【0165】
一実施形態において、ステップi)は、
a)3種、4種、5種または6種の異なる外因性ポリヌクレオチドを含む第1の染色体外転移核酸を含む第1の細菌を植物細胞に接触させるステップ、
b)ステップa)の植物細胞から安定形質転換植物を生成するステップ、および場合によって、
c)ステップb)の安定形質転換植物から子孫植物を産生すること
によって第1の安定形質転換植物を産生するステップを含み、
ならびに/またはステップii)は、
d)3種、4種、5種または6種の異なる外因性ポリヌクレオチドを含む第2の染色体外転移核酸を含む第2の細菌を植物細胞に接触させるステップ、
e)ステップd)の植物細胞から安定形質転換植物を生成するステップ、および場合によって
f)ステップe)の安定形質転換植物から子孫植物を産生すること
によって第2の安定形質転換植物を産生するステップを含む。
【0166】
他の一態様において、本発明は、少なくとも6種の異なる外因性ポリヌクレオチドで安定形質転換植物を産生する方法であって、
i)3種、4種、5種または6種の異なる外因性ポリヌクレオチドを含む第1の外因性ゲノム領域を含む第1の安定形質転換植物または植物部分を得るステップ、
ii)第1の安定形質転換植物の細胞または植物部分に3種、4種、5種または6種の異なる外因性ポリヌクレオチドを含む染色体外転移核酸を含む細菌を接触させるステップ、
iii)細胞から植物を産生するステップ、および
iv)場合によって、少なくとも6種の異なる外因性ポリヌクレオチドを含むステップiii)から産生された植物を選択するステップ
を含む方法を提供する。
【0167】
当業者である対象者であれば認識するように、上記の態様の「ステップi)の細菌を細胞に接触させる」ステップに関して、これは、細菌から細胞に転移すべき染色体外転移核酸に対して適切な条件下で、適切な時間、予め決定される。
【0168】
更なる一態様において、本発明は、少なくとも、
a)第1の外因性ポリヌクレオチドを含む第1の染色体外転移核酸、
b)第2の外因性ポリヌクレオチドを含む第2の染色体外転移核酸、および
c)第3の外因性ポリヌクレオチドを含む第3の染色体外転移核酸
を含む真核細胞を提供する。
【0169】
一実施形態において、細胞は、さらに、異なる外因性ポリヌクレオチドを含む染色体外転移核酸を各々含む1種または複数種の更なる細菌。
【0170】
また、3種、4種、5種または6種の異なる外因性ポリヌクレオチドを含む第1の外因性ゲノム領域と3種、4種、5種または6種の異なる外因性ポリヌクレオチドを含む第2の外因性ゲノム領域とを含む植物もしくはその子孫または種子も提供される。外因性ゲノム領域(複数可)の外因性ポリヌクレオチドは、好ましくは、DNA構築物について上記で記載したように整列させられ、間隔を置いて配置される。
【0171】
本発明は、本発明による細胞を含むトランスジェニック非ヒト生物をさらに提供する。一実施形態において、生物の各細胞は、本発明による細胞である。
【0172】
好ましくは、トランスジェニック非ヒト生物は、トランスジェニック植物であり、より好ましくは、以下で列挙される油を産生するためのトランスジェニック油料種子植物である。更なる一実施形態において、トランスジェニック植物は、植物が表現型的に正常である植物貯蔵器官特異的プロモーターに作動可能に連結したサイレンシングサプレッサーをコードする少なくとも1種の更なる外因性ポリヌクレオチドを含む。
【0173】
本発明は、本発明による細胞を含んでいるか、または本発明のトランスジェニック植物から得られた種子をさらに提供する。
【0174】
本発明は、本発明による細胞、本発明のトランスジェニック非ヒト生物もしくは本発明の種子によって産生された、または本発明による細胞、本発明のトランスジェニック非ヒト生物もしくは本発明の種子から得られた油をさらに提供する。
【0175】
一実施形態において、油は、油料種子からの油の抽出によって得られる。
【0176】
一実施形態において、油は、キャノーラ油(ブラッシカ・ナパス(Brassica napus)、ブラッシカ・ラパ(Brassica rapa)属種(ssp.))、カラシ油(ブラッシカ・ユンケア(Brassica juncea))、他のブラッシカ油、ヒマワリ油(ヘリアンサス・アナス(Helianthus annus))、アマニ油(リナム・ウシタチシマム(Linum usitatissimum))、ダイズ油(グリシン・マックス(Glycine max))、サフラワー油(カーサマス・ティンクトリアス(Carthamus tinctorius))、トウモロコシ油(ゼア・マイス(Zea mays))、タバコ油(ニコチアナ・タバカム(Nicotiana tabacum))、落花生油(アラキス・ヒポゲア(Arachis hypogaea))、パーム油、綿実油(ゴシピウム・ヒルスツム(Gossypium hirsutum))、ヤシ油(ココス・ヌシフェラ(Cocos nucifera))、アボカド油(ペルセア・アメリカナ(Persea americana))、オリーブ油(オレア・エウロパエア(Olea europaea))、カシュー油(アナカルジウム・オクシデンタレ(Anacardium occidentale))、マカダミア油(マカダミア・インテルグリフォリア(Macadamia intergrifolia))、扁桃(almond)油(プルヌス・アミグダルス(Prunus amygdalus))またはアラビドプシス(Arabidopsis)種子油(アラビドプシス・サリアナ(Arabidopsis thaliana))である。
【0177】
本発明は、本発明による細胞、本発明のトランスジェニック非ヒト生物もしくは本発明の種子によって産生された、または本発明による細胞、本発明のトランスジェニック非ヒト生物もしくは本発明の種子から得られた脂肪酸をさらに提供する。
【0178】
本発明は、不飽和脂肪酸を含有する油の産生方法であって、本発明による細胞、本発明のトランスジェニック非ヒト生物または本発明の種子から油を抽出するステップを含む方法をさらに提供する。
【0179】
本発明は、本発明による細胞、本発明によるデサチュラーゼもしくはエロンガーゼ、本発明によるポリヌクレオチド、本発明によるDNA構築物、本発明のベクター、本発明による油または本発明の脂肪酸を含む組成物をさらに提供する。
【0180】
本発明は、本発明による細胞、本発明によるトランスジェニック非ヒト生物、本発明による種子、本発明による油および/または本発明の脂肪酸を含む飼料、化粧品または化学物質をさらに提供する。
【0181】
本発明は、デサチュラーゼ反応を実施する方法であって、CoAにエステル化された多価不飽和脂肪酸に本発明のデサチュラーゼを接触させるステップを含む方法をさらに提供する。
【0182】
本発明は、本発明のデサチュラーゼまたはエロンガーゼを特異的に結合する実質的に精製された抗体またはその断片をさらに提供する。
【0183】
本発明は、PUFAから利益を受ける状態を治療または予防する方法であって、本発明による細胞、本発明によるデサチュラーゼもしくはエロンガーゼ、本発明によるポリヌクレオチド、本発明によるDNA構築物、本発明のベクター、本発明によるトランスジェニック非ヒト生物、本発明による種子、本発明による油または本発明の脂肪酸および/または本発明の飼料を対象に投与するステップを含む方法をさらに提供する。
【0184】
一実施形態において、状態は、不整脈、血管形成、炎症、喘息、乾癬、骨粗鬆症、腎結石、エイズ、多発性硬化症、関節リウマチ、クローン病、統合失調症、癌、胎児性アルコール症候群、注意欠陥多動性障害、嚢胞性線維症、フェニルケトン尿症、単極性うつ病、攻撃的敵意、アドレノロイコジストフィー(adrenoleukodystophy)、冠性心疾患、高血圧、糖尿病、肥満、アルツハイマー病、慢性閉塞性肺疾患、潰瘍性大腸炎、血管形成術後の再狭窄、湿疹、高血圧症、血小板凝集、胃腸出血、子宮内膜症、月経前症候群、筋痛性脳脊髄炎、ウイルス感染後の慢性疲労または眼疾患である。
【0185】
本発明は、PUFAから利益を受ける状態を治療または予防するための医薬品の製造のための、本発明による細胞、本発明によるデサチュラーゼもしくはエロンガーゼ、本発明によるポリヌクレオチド、本発明によるDNA構築物、本発明のベクター、本発明によるトランスジェニック非ヒト生物、本発明による種子、本発明による油または本発明の脂肪酸および/または本発明の飼料の使用をさらに提供する。
【0186】
本発明者らは、驚くべきことに、植物の発育を著しくもたらす(effecting)ことなく植物細胞中における導入遺伝子の発現のレベルを増強するように植物貯蔵器官中においてサイレンシングサプレッサーを選好的に発現させることができることを見出した。
【0187】
従って、本発明は、
i)植物貯蔵器官特異的プロモーターに作動可能に連結したサイレンシングサプレッサーをコードする第1の外因性ポリヌクレオチド、および
ii)植物貯蔵器官中における遺伝子転写を誘導するプロモーターに作動可能に連結したRNA分子をコードする第2の外因性ポリヌクレオチド
を含む植物細胞を提供する。
【0188】
好ましくは、植物貯蔵器官特異的プロモーターは、種子特異的プロモーター、例えば、子葉特異的プロモーターまたは内乳特異的プロモーターである。
【0189】
一実施形態において、サイレンシングサプレッサーは、ウイルスサプレッサータンパク質、例えば、限定されないが、P1、P19、V2、P38、P15、Pe−PoおよびRPV−P0である。
【0190】
典型的には、ウイルスサプレッサータンパク質が植物中において構成的に発現される場合、植物は表現型的に異常であるが、サイレンシングサプレッサーが貯蔵器官中において特異的に発現される場合、植物は表現型的に正常である。かかるウイルスサプレッサータンパク質の例としては、P1、P19およびP15が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0191】
更なる一実施形態において、ウイルスサプレッサータンパク質は、マイクロRNA蓄積および/またはマイクロRNA誘導切断を減少させる。
【0192】
限定されないが、アンチセンスポリヌクレオチド、触媒ポリヌクレオチド、dsRNAおよび/またはマイクロRNA等のRNA分子は、それ自体で機能的であり得る。別の場合、RNA分子は、所望の機能を有するポリペプチド、例えば、限定されないが、脂肪酸合成もしくは修飾に関与する酵素、例えば穀類グルテニンもしくはグリアジン等の種子貯蔵タンパク質、炭水化物(carbohydrate)合成もしくは修飾、二次代謝に関与する酵素、または医薬をコードすることができる。医薬タンパク質の例としては、抗体ならびに抗体関連分子およびそれらの断片、例えば癌に対する免疫保護を提供し得る抗原性ポリペプチド、感染因子、サイトカイン、例えば、顆粒状マクロファージコロニー刺激因子、インターフェロンα、ヒト血清アルブミンおよびエリスロポエチンが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0193】
更なる一実施形態において、細胞は、少なくとも1種、少なくとも2種、少なくとも3種、少なくとも4種または少なくとも5種以上の更なる異なる外因性ポリヌクレオチドを含み、各々は、RNA分子をコードし、貯蔵器官中における遺伝子転写を誘導するプロモーターに作動可能に連結する。各外因性ポリヌクレオチドは、同じプロモーター、異なるプロモーターまたはそれらの組合せに作動可能に連結することができる。
【0194】
一実施形態において、外因性ポリヌクレオチドは、DNAである。
【0195】
更なる一実施形態において、細胞は、種子等の植物貯蔵器官中にある。
【0196】
好ましい一実施形態において、RNAモレケウル(moleceule)は、第1の外因性ポリヌクレオチドを欠くアイソジェニックな細胞と比較して増加したレベルで存在する。好ましくは、レベルは、少なくとも10%、少なくとも20%、より好ましくは少なくとも30%増加する。
【0197】
他の一実施形態において、少なくとも更なる外因性ポリヌクレオチドの内によってコードされる少なくとも1種のRNA分子は、第1の外因性ポリヌクレオチドを欠くアイソジェニックな細胞と比較して増加したレベルで存在する。
【0198】
また、上記の態様の細胞を含むトランスジェニック植物も提供される。一実施形態において、植物の各細胞は、上記の態様において定義された通りである。特に好ましい一実施形態において、前記細胞を欠く植物と比較した場合、植物は表現型的に正常である。
【0199】
さらに他の一態様において、上記の態様の細胞を含むおよび/または上記で定義されたトランスジェニック植物から得られる植物貯蔵器官が提供される。
【0200】
一実施形態において、植物貯蔵器官は種子である。
【0201】
更なる一態様において、
その貯蔵器官中におけるRNA分子の増加したレベルを有する表現型的に正常な植物を得る方法であって、
a)
i)植物貯蔵器官特異的プロモーターに作動可能に連結したサイレンシングサプレッサーをコードする第1の外因性ポリヌクレオチド、ならびに
ii)植物貯蔵器官中における遺伝子転写を誘導するプロモーターに作動可能に連結したRNA分子をコードする第2の外因性ポリヌクレオチド
を植物細胞中に導入するステップ、
b)ステップa)の細胞から形質転換植物を再生させるステップ、
c)形質転換植物を、形質転換植物が貯蔵器官を産生するまで成長させるステップ、
d)貯蔵器官中におけるRNA分子のレベルを決定するステップ、および
e)表現型的に正常な植物を選択するステップ
を含み、RNA分子が、第1の外因性ポリヌクレオチドを欠く対応する貯蔵器官と比較して貯蔵器官中において増加したレベルで存在する、方法が提供される。
【0202】
その上更なる一態様において、
その貯蔵器官中におけるRNA分子の安定化された発現を有する表現型的に正常な植物を得る方法であって、
a)
i)植物貯蔵器官特異的プロモーターに作動可能に連結したサイレンシングサプレッサーをコードする第1の外因性ポリヌクレオチド、および
ii)植物貯蔵器官中における遺伝子転写を誘導するプロモーターに作動可能に連結したRNA分子をコードする第2の外因性ポリヌクレオチド
を植物細胞中に導入するステップ、
b)ステップa)の細胞から形質転換植物を再生させるステップ、
c)ステップb)の植物に由来する貯蔵器官を含む第3世代の子孫植物を産生するステップ、および
d)第3世代の子孫植物を選択するステップ
を含み、RNA分子が、植物の前世代の貯蔵器官中におけるレベルの少なくとも90%のレベルで貯蔵器官中に存在する、方法が提供される。
【0203】
好ましくは、上記の態様の外因性ポリヌクレオチドは、細胞のゲノム中に安定して組み込まれる。
【0204】
さらに他の一態様において、本発明は、
トランスジェニック植物の貯蔵器官中におけるRNA分子の発現を安定化させる方法であって、
i)植物貯蔵器官特異的プロモーターに作動可能に連結したサイレンシングサプレッサーをコードする第1の外因性ポリヌクレオチドを発現させるステップ、および
ii)植物貯蔵器官中における遺伝子転写を誘導するプロモーターに作動可能に連結したRNA分子をコードする第2の外因性ポリヌクレオチドを発現させるステップ
を含み、トランスジェニック植物が、外因性ポリヌクレオチドで形質転換された親植物から得られた少なくとも第3世代の子孫植物であり、RNA分子が、植物の前世代の貯蔵器官中におけるレベルの少なくとも90%のレベルで植物の貯蔵器官中に存在する、方法が提供される。
【0205】
一実施形態において、植物を野外において成長させる。
【0206】
明らかであるように、本発明の一態様の好ましい特性および特徴は、本発明の多くの他の態様に適用可能である。
【0207】
本明細書にわたって、「含む(comprise)」という語、または「含む(comprises)」もしくは「含む(comprising)」等の変形物は、所定の要素、整数もしくはステップ、または要素、整数もしくはステップの群の包含を意味すると理解されるが、他のいずれの要素、整数もしくはステップ、または要素、整数もしくはステップの群の除外を意味するものではないことが理解される。
【0208】
本発明を、以下の非限定的な実施例によって、および添付の図面を参照して以下に記載する。
【発明を実施するための形態】
【0210】
配列表のキー
配列番号1−ミクロモナスCS−0170Δ6−エロンガーゼをコードするオープンリーディングフレーム。
配列番号2−ミクロモナスCS−0170Δ6−エロンガーゼ。
配列番号3−ピラミモナスCS−0140Δ6−エロンガーゼ/Δ9−エロンガーゼをコードするオープンリーディングフレーム。
配列番号4−ピラミモナスCS−0140Δ6−エロンガーゼ/Δ9−エロンガーゼ。
配列番号5−ピラミモナスCS−0140Δ5−エロンガーゼをコードするオープンリーディングフレーム。
配列番号6−ピラミモナスCS−0140Δ5−エロンガーゼ。
配列番号7−ミクロモナスCCMP1545Δ6−デサチュラーゼ/Δ8−デサチュラーゼをコードするオープンリーディングフレーム。
配列番号8−ミクロモナスCCMP1545Δ6−デサチュラーゼ/Δ8−デサチュラーゼ。
配列番号9−オストレオコッカス・ルシマリヌスΔ6−デサチュラーゼをコードするオープンリーディングフレーム。
配列番号10−オストレオコッカス・ルシマリヌスΔ6−デサチュラーゼ。
配列番号11−植物中におけるオストレオコッカス・ルシマリヌスΔ6−デサチュラーゼの発現に対するコドン最適化オープンリーディングフレーム。
配列番号12−ピラミモナスCS−0140Δ5−デサチュラーゼをコードするオープンリーディングフレーム。
配列番号13−ピラミモナスCS−0140Δ5−デサチュラーゼ。
配列番号14−ミクロモナスCS−0170ω3−デサチュラーゼをコードする部分的オープンリーディングフレーム。
配列番号15−部分的ミクロモナスCS−0170ω3−デサチュラーゼ。
配列番号16−ミクロモナスRCC299ω3−デサチュラーゼをコードするオープンリーディングフレーム。
配列番号17−ミクロモナスRCC299ω3−デサチュラーゼ。
配列番号18−植物中におけるミクロモナスRCC299ω3−デサチュラーゼの発現に対するコドン最適化オープンリーディングフレーム。
配列番号19−ミクロモナスCCMP1545ω3−デサチュラーゼをコードするオープンリーディングフレーム。
配列番号20−ミクロモナスCCMP1545ω3−デサチュラーゼ。
配列番号21−イソクリシス・ガルバナΔ9−エロンガーゼをコードするオープンリーディングフレーム。
配列番号22−イソクリシス・ガルバナΔ9−エロンガーゼ。
配列番号23−パブロバ・サリナΔ8−デサチュラーゼをコードするオープンリーディングフレーム。
配列番号24−パブロバ・サリナΔ8−デサチュラーゼ。
配列番号25−パブロバ・サリナΔ5−デサチュラーゼをコードするオープンリーディングフレーム。
配列番号26−パブロバ・サリナΔ5−デサチュラーゼ。
配列番号27−エミリアニア・ハクスレイ(Emiliania huxleyi)CCMP1516Δ9エロンガーゼをコードするオープンリーディングフレーム。
配列番号28−エミリアニア・ハクスレイCCMP1516Δ9エロンガーゼ。
配列番号29−植物中におけるエミリアニア・ハクスレイΔ9エロンガーゼの発現に対するコドン最適化オープンリーディングフレーム。
配列番号30−オストレオコッカス・タウリΔ6−デサチュラーゼ。
配列番号31−エロンガーゼコンセンサスドメイン1。
配列番号32−エロンガーゼコンセンサスドメイン2。
配列番号33−エロンガーゼコンセンサスドメイン3。
配列番号34−エロンガーゼコンセンサスドメイン4。
配列番号35−エロンガーゼコンセンサスドメイン5。
配列番号36−エロンガーゼコンセンサスドメイン6。
配列番号37−デサチュラーゼコンセンサスドメイン1。
配列番号38−デサチュラーゼコンセンサスドメイン2。
配列番号39−デサチュラーゼコンセンサスドメイン3。
配列番号40−デサチュラーゼコンセンサスドメイン4。
配列番号41〜71および78〜92−オリゴヌクレオチドプライマー。
配列番号72−パブロバ・サリナΔ4−デサチュラーゼをコードするオープンリーディングフレーム。
配列番号73−パブロバ・サリナΔ4−デサチュラーゼ。
配列番号74−アラビドプシス・サリアナジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼ1をコードするオープンリーディングフレーム。
配列番号75−アラビドプシス・サリアナジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼ1。
配列番号76−エロンガーゼコンセンサスドメイン7。
配列番号77−エロンガーゼコンセンサスドメイン8。
配列番号93−パブロバ・ピンギス(Pavlova pinguis)Δ9−エロンガーゼをコードするオープンリーディングフレーム。
配列番号94−パブロバ・ピンギスΔ9−エロンガーゼ。
配列番号95−パブロバ・サリナΔ9−エロンガーゼをコードするオープンリーディングフレーム。
配列番号96−パブロバ・サリナΔ9−エロンガーゼ。
配列番号97−P19ウイルスサプレッサー。
配列番号98−V2ウイルスサプレッサー。
配列番号99−P38ウイルスサプレッサー。
配列番号100−Pe−P0ウイルスサプレッサー。
配列番号101−RPV−P0ウイルスサプレッサー。
配列番号102−P19ウイルスサプレッサーをコードするオープンリーディングフレーム。
配列番号103−V2ウイルスサプレッサーをコードするオープンリーディングフレーム。
配列番号104−P38ウイルスサプレッサーをコードするオープンリーディングフレーム。
配列番号105−Pe−P0ウイルスサプレッサーをコードするオープンリーディングフレーム。
配列番号106−RPV−P0ウイルスサプレッサーをコードするオープンリーディングフレーム。
配列番号107−ミクロモナスCCMP1545ジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼ2をコードするコドン最適化オープンリーディングフレーム。
配列番号108−ミクロモナスCCMP1545ジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼ2。
配列番号109〜124−転移核酸境界配列。
配列番号125−植物中におけるミクロモナスCCMP1545Δ6デサチュラーゼ/Δ8デサチュラーゼの発現に対するコドン最適化オープンリーディングフレーム。
配列番号126−(3’末端で切断され、かつ機能的エロンガーゼをコードする)植物中におけるピラミモナスCS−0140Δ6エロンガーゼ/Δ9エロンガーゼの発現に対するコドン最適化オープンリーディングフレーム。
配列番号127−植物中におけるパブロバ・サリナΔ5デサチュラーゼの発現に対するコドン最適化オープンリーディングフレーム。
配列番号128−植物中におけるピラミモナスCS−0140Δ5エロンガーゼの発現に対するコドン最適化オープンリーディングフレーム。
配列番号129−植物中におけるパブロバ・サリナΔ4デサチュラーゼの発現に対するコドン最適化オープンリーディングフレーム。
【0211】
発明の詳細な説明
一般的技術および定義
特に具体的に定義されない限り、本明細書において用いられる全ての技術的および科学的な用語は、(例えば、細胞培養、分子遺伝学、脂肪酸合成、トランスジェニック植物、タンパク質化学および生化学における)当業者によって共通に理解されるものと同じ意味を有するように採用される。
【0212】
特に明記しない限り、本発明において利用される組換えタンパク質、細胞培養および免疫学的技術は、当業者に周知の標準的手法である。かかる技術は、J.Perbal、A Practical Guide to Molecular Cloning、John Wiley and Sons(1984)、J.Sambrookら、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、Cold Spring Harbour Laboratory Press(1989)、T.A.Brown(編)、Essential Molecular Biology:A Practical Approach、1および2巻、IRL Press(1991)、D.M.GloverおよびB.D.Hames(編)、DNA Cloning:A Practical Approach、1〜4巻、IRL Press(1995および1996)、F.M.Ausubelら(編)、Current Protocols in Molecular Biology、Greene Pub.Associates and Wiley−Interscience(1988,現在までの全ての改訂を含む)、Ed HarlowおよびDavid Lane(編)、Antibodies:A Laboratory Manual、Cold Spring Harbour Laboratory、(1988)、ならびにJ.E.Coliganら(編)、Current Protocols in Immunology、John Wiley & Sons(現在までの全ての改訂を含む)等の出典の文献にわたって記載され、説明される。
【0213】
選択された定義
本明細書において使用される「脂肪酸」という用語は、飽和または不飽和のいずれかの、しばしば長い脂肪族テイルを有するカルボン酸(または有機酸)を指す。典型的には、脂肪酸は、長さが少なくとも8個の炭素原子、より好ましくは長さが少なくとも12個の炭素の炭素−炭素結合鎖を有する。ほとんどの天然に存在する脂肪酸は、それらの生合成が2個の炭素原子を有するアセテートを含むので、偶数の炭素原子数を有する。脂肪酸は、遊離状態(非エステル化)またはエステル化形態、例えば、トリグリセリド、ジアシルグリセリド、モノアシルグリセリド、アシル−CoA(チオエステル)結合もしくは他の結合形態の部分であってよい。脂肪酸は、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルイノシトールまたはジホスファチジルグリセロールの形態等のリン脂質としてエステル化され得る。
【0214】
「飽和脂肪酸」は、鎖に沿っていずれの二重結合や他の官能基を含有しない。「飽和」という用語は、(カルボン酸[−COOH]基とは別の)全ての炭素ができるだけ多くの水素を含有するという点において、水素を指す。換言すれば、オメガ(ω)末端は3個の水素(CH3−)を含有し、鎖の中の各炭素は2個の水素(−CH2−)を含有する。
【0215】
「不飽和脂肪酸」は、1個または複数個のアルケン官能基が鎖に沿って存在し、各アルケンが鎖の単結合「−CH2−CH2−」部分を二重結合「−CH=CH−」部分(すなわち、他の炭素に二重結合した炭素)で置換することを除いて飽和脂肪酸と類似の形態である。二重結合のいずれかの側に結合する鎖中の2個の隣の炭素原子は、シス型またはトランス型立体配置において出現し得る。
【0216】
本明細書において使用される「一価不飽和脂肪酸」という用語は、その炭素鎖中において少なくとも12個の炭素原子と鎖中において1個だけのアルケン基(炭素−炭素二重結合)とを含む脂肪酸を指す。本明細書において使用される「多価不飽和脂肪酸」または「PUFA」という用語は、その炭素鎖中において少なくとも12個の炭素原子と少なくとも2個のアルケン基(炭素−炭素二重結合)とを含む脂肪酸を指す。
【0217】
本明細書において使用される「長鎖多価不飽和脂肪酸」および「LC−PUFA」という用語は、その炭素鎖中において少なくとも20個の炭素原子と少なくとも2個の炭素−炭素二重結合とを含む脂肪酸を指し、故にVLC−PUFAを包含する。本明細書において使用される「超長鎖多価不飽和脂肪酸」および「VLC−PUFA」という用語は、その炭素鎖中において少なくとも22個の炭素原子と少なくとも3個の炭素−炭素二重結合とを含む脂肪酸を指す。通常、脂肪酸の炭素鎖中における炭素原子数は、非分枝炭素鎖を指す。炭素鎖が分枝状である場合、炭素原子数は側基中のものを除外する。一実施形態において、長鎖多価不飽和脂肪酸は、ω3脂肪酸であり、すなわち、脂肪酸のメチル末端から3番目の炭素−炭素結合中における不飽和化(炭素−炭素二重結合)を有する。他の一実施形態において、長鎖多価不飽和脂肪酸は、ω6脂肪酸であり、すなわち、脂肪酸のメチル末端から6番目の炭素−炭素結合中における不飽和化(炭素−炭素二重結合)を有する。更なる一実施形態において、長鎖多価不飽和脂肪酸は、アラキドン酸(ARA、20:4Δ5,8,11,14、ω6)、エイコサテトラエン酸(ETA、20:4Δ8,11,14,17、ω3)、エイコサペンタエン酸(EPA、20:5Δ5,8,11,14,17、ω3)、ドコサペンタエン酸(DPA、22:5Δ7,10,13,16,19、ω3)またはドコサヘキサエン酸(DHA、22:6Δ4,7,10,13,16,19、ω3)から成る群から選択される。LC−PUFAは、ジホモ−γ−リノール酸(DGLA)またはエイコサトリエン酸(ETrA、20:3Δ11,14,17、ω3)でもあり得る。本発明に従って産生されるLC−PUFAが、上記のいずれかまたは全ての混合物であり得、他のLC−PUFAまたはこれらのLC−PUFAのいずれかの誘導体を含み得ることは、直ちに明らかである。好ましい一実施形態において、ω3脂肪酸は、EPA、DPAおよび/もしくはDHAであり、好ましくはEPAおよび/もしくはDPAであるか、または好ましくはDPAおよび/もしくはDHAである。
【0218】
さらに、本明細書において使用される「長鎖多価不飽和脂肪酸」および「超長鎖多価不飽和脂肪酸」という用語は、遊離状態(非エステル化)またはエステル化形態、例えば、トリグリセリド、ジアシルグリセリド、モノアシルグリセリド、アシル−CoA結合もしくは他の結合形態の部分にある脂肪酸を指す。脂肪酸は、ホスファチジルコリン(PC)、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルイノシトールまたはジホスファチジルグリセロールの形態等のリン脂質としてエステル化され得る。従って、LC−PUFAは、細胞の脂質または細胞、組織もしくは生物から抽出された精製油もしくは脂質における形態の混合物として存在し得る。好ましい実施形態において、本発明は、挙げられたもの等の脂質の他の形態として存在する残部と共に、少なくともLC−PUFAを含む少なくとも75%または85%のトリアシルグリセロール、を含む油を提供する。油は、例えば、遊離脂肪酸を放出するための強塩基による加水分解によって、または分画、蒸留等によってさらに精製または処理され得る。
【0219】
本発明において使用され得るデサチュラーゼ、エロンガーゼおよびアシルトランスフェレアーゼ(transferease)タンパク質ならびにそれらをコードする遺伝子は、本技術分野において公知のもののいずれかまたはそれらの相同体もしくは誘導体である。かかる遺伝子およびコードされたタンパク質の大きさの例を表1において列挙する。LC−PUFA生合成に関与することが示されたデサチュラーゼ酵素は、いわゆる「フロントエンド」デサチュラーゼの群に全て属する。
【0221】
本明細書において使用される「フロントエンドデサチュラーゼ」という用語は、3つの高度に保存されたヒスチジンボックスを含む典型的な脂肪酸デサチュラーゼドメインと共にN末端チトクロムb5ドメインの存在によって構造的に特徴付けられる脂質のアシル鎖のカルボキシル基と既存の不飽和部との間に二重結合を導入する酵素のクラスのメンバーを指す(Napierら、1997)。
【0222】
本発明における使用のためのエロンガーゼまたはデサチュラーゼのいずれかの活性は、例えば酵母細胞または植物細胞等の細胞中における酵素をコードする遺伝子を発現させ、その細胞が、酵素が発現されない同等の細胞と比較してLC−PUFAを産生する増加した能力を有するかどうかを決定することによって試験され得る。
【0223】
一実施形態において、本発明における使用のためのデサチュラーゼおよび/またはエロンガーゼは、微細藻類から精製できる。
【0224】
ある種の酵素が「二機能性」であると本明細書において具体的に記載されるのに対して、かかる用語がないことは、特定の酵素が、具体的に定義されるもの以外の活性を有さないことを必ずしも意味するわけではない。
【0225】
デサチュラーゼ
本明細書において使用される「デサチュラーゼ」という用語は、典型的には、例えば脂肪酸CoAエステル等のエステル化形態の脂肪酸基質のアシル基に炭素−炭素二重結合を導入し得る酵素を指す。アシル基は、ホスファチジルコリン(PC)等のリン脂質に、またはアシル担体タンパク質(ACP)に、または好ましい一実施形態においてCoAにエステル化され得る。従って、デサチュラーゼは、一般に3つの群に分類され得る。一実施形態において、デサチュラーゼは、フロントエンドデサチュラーゼである。
【0226】
本明細書において使用される「Δ4デサチュラーゼ」は、脂肪酸基質のカルボキシル末端から4番目の位置において炭素−炭素二重結合を導入するデサチュラーゼ反応を行うタンパク質を指す。「Δ4デサチュラーゼ」は、少なくともDPAをDHAに変換させることができる。DHAをDPAから産生するための不飽和化ステップは、哺乳動物以外の生物中におけるΔ4デサチュラーゼによって触媒され、この酵素をコードしている遺伝子は、淡水原生生物種のユーグレナ・グラシリスおよび海洋種のスラウストキトリウム属種から単離されている(Qiuら、2001;Meyerら、2003)。一実施態様において、Δ4デサチュラーゼは、配列番号73において提供される配列、その生物学的に活性な断片または配列番号73と少なくとも80%同一であるアミノ酸配列を有するアミノ酸を含む。
【0227】
本明細書において使用される「Δ5デサチュラーゼ」は、脂肪酸基質のカルボキシル末端から5番目の位置において炭素−炭素二重結合を導入するデサチュラーゼ反応を行うタンパク質を指す。Δ5デサチュラーゼの例は、表1において列挙される。一実施形態において、Δ5デサチュラーゼは、配列番号26において提供される配列、その生物学的に活性な断片または配列番号26と少なくとも80%同一であるアミノ酸配列を有するアミノ酸を含む。他の一実施形態において、Δ5デサチュラーゼは、配列番号13において提供される配列、その生物学的に活性な断片または配列番号13と少なくとも53%同一であるアミノ酸配列を有するアミノ酸を含む。
【0228】
本明細書において使用される「Δ6デサチュラーゼ」は、脂肪酸基質のカルボキシル末端から6番目の位置において炭素−炭素二重結合を導入するデサチュラーゼ反応を行うタンパク質を指す。Δ6デサチュラーゼの例は、表1において列挙される。
【0229】
一実施形態において、Δ6デサチュラーゼは、以下のi)脂肪酸基質としてのリノール酸(LA、18:2Δ9,12、ω6)よりもα−リノレン酸(ALA、18:3Δ9,12,15、ω3)に対して、より大きなΔ6デサチュラーゼ活性、ii)脂肪酸基質としてPCのsn−2位に接合したALAに対するよりも脂肪酸基質としてのALA−CoAに対して、より大きなΔ6デサチュラーゼ活性、およびiii)ETrAに対するΔ8デサチュラーゼ活性の内の少なくとも2つ、好ましくは3つ全てを、好ましくは植物細胞中において有することをさらに特徴とする。
【0230】
他の一実施形態において、Δ6デサチュラーゼは、対応するω6基質よりもω3基質に対して、より大きな活性を有し、組換え細胞中における外因性ポリヌクレオチドから発現される場合に少なくとも5%、より好ましくは少なくとも7.5%もしくは最も好ましくは少なくとも10%の効率で、または酵母細胞中において発現される場合に少なくとも35%の効率でオクタデカテトラエン酸(ステアリドン酸、SDA、18:4Δ6,9,12,15、ω3)を産生するALAに対する活性を有する。一実施形態において、Δ6デサチュラーゼは、より大きな活性、例えば、脂肪酸基質としてのLAよりもALAに対する少なくとも約2倍大きなΔ6デサチュラーゼ活性を有する。他の一実施形態において、Δ6デサチュラーゼは、より大きな活性、例えば、脂肪酸基質としてPCのsn−2位に接合したALAに対するよりも脂肪酸基質としてのALA−CoAに対する少なくとも約5倍大きなΔ6デサチュラーゼ活性または少なくとも10倍大きな活性を有する。
【0231】
一実施形態において、Δ6デサチュラーゼは、ETAに対する検出可能なΔ5デサチュラーゼ活性を有さない。他の一実施形態において、Δ6デサチュラーゼは、配列番号10において提供される配列、その生物学的に活性な断片または配列番号10と少なくとも77%同一であるアミノ酸配列を有するアミノ酸を含む。他の一実施形態において、Δ6デサチュラーゼは、配列番号8において提供される配列、その生物学的に活性な断片または配列番号8と少なくとも67%同一であるアミノ酸配列を有するアミノ酸を含む。Δ6デサチュラーゼは、Δ8デサチュラーゼ活性をも有し得る。
【0232】
本明細書において使用される「Δ8デサチュラーゼ」は、脂肪酸基質のカルボキシル末端から8番目の位置において炭素−炭素二重結合を導入するデサチュラーゼ反応を行うタンパク質を指す。Δ8デサチュラーゼは、少なくともETrAをETAに変換することができる。Δ8デサチュラーゼの例は、表1において列挙される。一実施形態において、Δ8デサチュラーゼは、配列番号24において提供される配列、その生物学的に活性な断片または配列番号24と少なくとも80%同一であるアミノ酸配列を有するアミノ酸を含む。
【0233】
本明細書において使用される「ω3デサチュラーゼ」は、脂肪酸基質のメチル末端から3番目の位置において炭素−炭素二重結合を導入するデサチュラーゼ反応を行うタンパク質を指す。ω3デサチュラーゼの例としては、Pereiraら(2004a)、Horiguchiら(1998)、Berberichら(1998)およびSpychallaら(1997)によって記載されているものが挙げられる。
【0234】
一実施形態において、ω3デサチュラーゼは、少なくとも、ARAからEPA、dGLAからETA、γ−リノレン酸(GLA、18:3Δ6,9,12、ω6)からSDAの内の1つ、ARAからEPAおよびdGLAからETAの両方、ARAからEPAおよびGLAからSDAの両方、またはこれらの3つ全ての変換を行うことができる。
【0235】
一実施形態において、ω3デサチュラーゼは、少なくとも3個の炭素−炭素二重結合を有するC20脂肪酸、好ましくはARAに対するΔ17デサチュラーゼ活性を有する。他の一実施形態において、ω3デサチュラーゼは、3個の炭素−炭素二重結合を有するC18脂肪酸、好ましくはGLAに対するΔ15デサチュラーゼ活性を有する。
【0236】
本明細書において使用される「Δ15デサチュラーゼ」は、脂肪酸基質のカルボキシル末端から15番目の位置において炭素−炭素二重結合を導入するデサチュラーゼ反応を行うタンパク質を指す。
【0237】
本明細書において使用される「Δ17デサチュラーゼ」は、脂肪酸基質のカルボキシル末端から17番目の位置において炭素−炭素二重結合を導入するデサチュラーゼ反応を行うタンパク質を指す。
【0238】
他の一実施形態において、ω3デサチュラーゼは、対応するアシル−PC基質よりもアシル−CoA基質、例えばARA−CoAに対して、より大きな活性を有する。本明細書において使用される「対応するアシル−PC基質」は、ホスファチジルコリン(PC)のsn−2位においてエステル化された脂肪酸であって、アシル−CoA基質中におけるものと同じである、脂肪酸を指す。一実施形態において、活性は少なくとも2倍大きい。
【0239】
更なる一実施形態において、ω3デサチュラーゼは、配列番号15、17もしくは20において提供される配列、その生物学的に活性な断片、または配列番号15と少なくとも35%同一である、配列番号17と少なくとも60%同一であるおよび/もしくは配列番号20と少なくとも60%同一であるアミノ酸配列を有するアミノ酸を含む。
【0240】
その上更なる一実施形態において、本発明における使用のためのデサチュラーゼは、対応するアシル−PC基質よりもアシル−CoA基質に対して、より大きな活性を有する。上記で概説されるように、「対応するアシル−PC基質」は、ホスファチジルコリン(PC)のsn−2位においてエステル化された脂肪酸であって、アシル−CoA基質中におけるものと同じである、脂肪酸を指す。一実施形態において、活性は少なくとも2倍大きい。一実施形態において、デサチュラーゼは、Δ5またはΔ6デサチュラーゼであり、それらの例は、限定されないが、表2において列挙されるものが提供される。
【0242】
エロンガーゼ
生化学的証拠は、脂肪酸伸長が4つのステップ(縮合(condensation)、還元(reduction)、脱水(dehydration)および第2の還元)から成ることを示唆する。本発明の文脈において、「エロンガーゼ」は、適切な生理学的条件下で、伸長複合体の他のメンバーの存在下で縮合ステップを触媒するポリペプチドを指す。細胞における伸長タンパク質複合体の縮合成分(「エロンガーゼ」)だけの異種または相同的発現が、それぞれのアシル鎖の伸長に必要とされることが示されてきた。従って、導入されたエロンガーゼは、思い通りの(successful)アシル伸長を行うためにトランスジェニック宿主から還元および脱水活性を成功裏に補充することが可能である。鎖長と脂肪酸基質の不飽和化度とに対する伸長反応の特異性は、縮合成分にあると考えられる。この成分は、伸長反応において律速であるとも考えられる。
【0243】
本明細書において使用される「Δ5エロンガーゼ」は、少なくともEPAをDPAに変換することができる。Δ5エロンガーゼの例としては、WO2005/103253において開示されるものが挙げられる。一実施形態において、Δ5エロンガーゼは、少なくとも60%、より好ましくは少なくとも65%、より好ましくは少なくとも70%または最も好ましくは少なくとも75%の効率でDPAを産生するEPAに対する活性を有する。更なる一実施形態において、Δ5エロンガーゼは、配列番号6において提供されるアミノ酸配列、その生物学的に活性な断片または配列番号6と少なくとも47%同一であるアミノ酸配列を含む。
【0244】
本明細書において使用される「Δ6エロンガーゼ」は、少なくともSDAをETAに変換することができる。Δ6エロンガーゼの例としては、表1において列挙されるものが挙げられる。一実施形態において、エロンガーゼは、配列番号4において提供される配列、その生物学的に活性な断片または配列番号4と少なくとも55%同一であるアミノ酸配列を有するアミノ酸を含む。
【0245】
本明細書において使用される「Δ9エロンガーゼ」は、少なくともALAをETrAに変換することができる。Δ9エロンガーゼの例としては、表1において列挙されるものが挙げられる。一実施形態において、Δ9エロンガーゼは、配列番号22において提供される配列、その生物学的に活性な断片または配列番号22と少なくとも80%同一であるアミノ酸配列を有するアミノ酸を含む。他の一実施形態において、Δ9エロンガーゼは、配列番号28において提供される配列、その生物学的に活性な断片または配列番号28と少なくとも81%同一であるアミノ酸配列を有するアミノ酸を含む。他の一実施形態において、Δ9エロンガーゼは、配列番号94において提供される配列、その生物学的に活性な断片または配列番号94と少なくとも50%同一であるアミノ酸配列を有するアミノ酸を含む。他の一実施形態において、Δ9エロンガーゼは、配列番号96において提供される配列、その生物学的に活性な断片または配列番号96と少なくとも50%同一であるアミノ酸配列を有するアミノ酸を含む。更なる一実施形態において、Δ9エロンガーゼは、配列番号94もしくは配列番号96において提供される配列、その生物学的に活性な断片単独、または配列番号94および/もしくは配列番号96と少なくとも50%同一であるアミノ酸配列を有するアミノ酸を含み、対応するω3基質よりもω6基質に対して、より大きな活性を有する。
【0246】
本明細書において使用される「対応するω3基質よりもω6基質に対して、より大きな活性を有する」という用語は、ω3デサチュラーゼの作用によって異なる基質に対する酵素における相対活性を指す。好ましくは、ω6基質はLAであり、ω3基質はALAである。
【0247】
本明細書において使用される「Δ6エロンガーゼおよびΔ9エロンガーゼ活性を有するエロンガーゼ」は、少なくとも(i)SDAをETAに変換すること、および(ii)ALAをETrAに変換することが可能であり、かつΔ9エロンガーゼ活性よりも大きなΔ6エロンガーゼ活性を有する。一実施形態において、エロンガーゼは、少なくとも50%、より好ましくは少なくとも60%であるETAを産生するSDAにおける変換の効率および/または少なくとも6%以上、好ましくは少なくとも9%であるETrAを産生するALAにおける変換の効率を有する。他の一実施形態において、エロンガーゼは、Δ9エロンガーゼ活性より少なくとも約6.5倍大きなΔ6エロンガーゼ活性を有する。更なる一実施形態において、エロンガーゼは、検出可能なΔ5エロンガーゼ活性を有さない。その上更なる一実施形態において、エロンガーゼは、配列番号4において提供される配列、その生物学的に活性な断片または配列番号4と少なくとも55%同一であるアミノ酸配列を有するアミノ酸を含む。
【0248】
他の酵素
本明細書において使用される「ジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼ」(EC2.3.1.20、DGAT)という用語は、脂肪アシル基をアシル−CoAからジアシルグリセロール基質へ転移してトリアシルグリセロールを産生するタンパク質を指す。従って、「ジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼ活性」という用語は、トリアシルグリセロールを産生するためのジアシルグリセロールへのアシル−CoAの転移を指す。それぞれDGAT1、DGAT2およびDGAT3と呼ばれるDGATの3つの公知の型がある。DGAT1ポリペプチドは、典型的には10の膜貫通ドメインを有し、DGAT2は、典型的には2つの膜貫通ドメインを有するが、一方でDGAT3は、典型的には可溶である。DGAT1ポリペプチドの例としては、アスペルギルス・フミガーツス(Aspergillus fumigatus)(受託番号XP_755172)、アラビドプシス・サリアナ(CAB44774)、リシヌス・コムニス(Ricinus communis)(AAR11479)、ベニシア・フォルジー(Vernicia fordii)(ABC94472)、ベルノニア・ガラメンシス(Vernonia galamensis)(ABV21945、ABV21946)、エウオニムス・アラツス(Euonymus alatus)(AAV31083)、シノラブディス・エレガンス(AAF82410)、ラッツス・ノルベギクス(NP_445889)、ホモ・サピエンス(NP_036211)、ならびにそれらの変異体および/または突然変異体に由来するDGAT1遺伝子によってコードされたポリペプチドが挙げられる。DGAT2ポリペプチドの例としては、アラビドプシス・サリアナ(受託番号NP_566952)、リシヌス・コムニス(AAY16324)、ベルニシア・フォルジー(ABC94474)、モルティエレラ・ラマニアナ(Mortierella ramanniana)(AAK84179)、ホモ・サピエンス(Q96PD7、Q58HT5)、ボス・タウルス(Bos taurus)(Q70VD8)、ムス・ムスクルス(AAK84175)、ミクロモナスCCMP1545、ならびにそれらの変異体および/または突然変異体に由来するDGAT2遺伝子によってコードされたポリペプチドが挙げられる。DGAT3ポリペプチドの例としては、落花生(アラキス・ヒポゲア、Sahaら、2006)、ならびにその変異体および/または突然変異体に由来するDGAT3遺伝子によってコードされたポリペプチドが挙げられる。
【0249】
ポリペプチド/ペプチド
本発明はまた、精製されてよいまたは組換えであってよいポリペプチドをも提供する。「実質的に精製されたポリペプチド」または「精製されたポリペプチド」は、それが産生されるかまたはそのネイティブ状態にある細胞中においてそれが会合する脂質、核酸、他のペプチドおよび他の混入分子から一般に分離されているポリペプチドを意味する。好ましくは、実質的に精製されたポリペプチドは、それが産生されるかまたはそれが天然に会合する細胞中における他の成分を少なくとも60%、より好ましくは少なくとも75%、より好ましくは少なくとも90%含まない。
【0250】
ポリペプチドの文脈における「組換え」という用語は、ポリペプチドが天然に産生される場合におけるそのネイティブ状態と比較して改変した量または改変した速度で細胞によってまたは無細胞発現系中において産生された場合のポリペプチドを指す。一実施形態において、細胞は、ポリペプチドを天然に産生しない細胞である。しかし、細胞は、産生すべきポリペプチドの改変した量を引き起こす非内因性遺伝子を含む細胞であってよい。本発明の組換えポリペプチドとしては、ポリペプチドが産生される細胞、組織、器官もしくは生物または無細胞発現系中におけるポリペプチド、すなわち、ポリペプチドが産生されたトランスジェニック(組換え)細胞の他の成分から精製または分離されていないポリペプチド、および少なくとも一部の他の成分から続いて離れて精製される、かかる細胞または無細胞系中において産生されたポリペプチドが挙げられる。
【0251】
一般に、「ポリペプチド」および「タンパク質」という用語は、交換可能に使用される。
【0252】
ポリペプチドまたはポリペプチドのクラスは、そのアミノ酸配列の参照アミノ酸配列に対する同一性の程度(%同一性)によって、または一方の参照アミノ酸配列への他方に対するより大きな%同一性を有することによって定義され得る。参照アミノ酸配列に対するポリペプチドの%同一性は、典型的には、ギャップクリエーションペナルティ=5およびギャップエクステンションペナルティ=0.3のパラメータでGAP分析に(NeedlemanおよびWunsch、1970、GCGプログラム)よって決定される。問い合わせ配列は、長さが少なくとも15のアミノ酸であり、GAP分析は、少なくとも15のアミノ酸の領域にわたって2つの配列をアラインメントする。より好ましくは、問い合わせ配列は、長さが少なくとも50のアミノ酸であり、GAP分析は、少なくとも50のアミノ酸の領域にわたって2つの配列をアラインメントする。より好ましくは、問い合わせ配列は、長さが少なくとも100のアミノ酸であり、GAP分析は、少なくとも100のアミノ酸の領域にわたって2つの配列をアラインメントする。さらにより好ましくは、問い合わせ配列は、長さが少なくとも250のアミノ酸であり、GAP分析は、少なくとも250のアミノ酸の領域にわたって2つの配列をアラインメントする。さらにより好ましくは、GAP分析は、それらの全ての長さにわたって2つの配列をアラインメントする。ポリペプチドまたはポリペプチドのクラスは、参照ポリペプチドと同じ酵素活性もしくは参照ポリペプチドと異なる活性を有してよいか、または参照ポリペプチドの活性を欠いてよい。好ましくは、ポリペプチドは、参照ポリペプチドの活性の少なくとも10%の酵素活性を有する。
【0253】
本明細書において使用される「生物学的に活性な」断片は、例えばデサチュラーゼおよび/もしくはエロンガーゼ活性または他の酵素活性を有する完全長参照ポリペプチドの定義された活性を維持する本発明のポリペプチドの部分である。本明細書において使用される生物学的に活性な断片は、完全長ポリペプチドを除外する。生物学的に活性な断片は、定義された活性を維持する限り、あらゆる大きさの部分であり得る。好ましくは、生物学的に活性な断片は、完全長タンパク質の活性の少なくとも10%を維持する。
【0254】
定義されたポリペプチドまたは酵素に関して、本明細書において提供されるものより高い%同一性の値が好ましい実施形態を包含することはいうまでもない。従って、適用可能である場合、最小の%同一性の値に鑑みて、ポリペプチド/酵素は、関連の指定配列番号と少なくとも60%、より好ましくは少なくとも65%、より好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも75%、より好ましくは少なくとも76%、より好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも91%、より好ましくは少なくとも92%、より好ましくは少なくとも93%、より好ましくは少なくとも94%、より好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくとも96%、より好ましくは少なくとも97%、より好ましくは少なくとも98%、より好ましくは少なくとも99%、より好ましくは少なくとも99.1%、より好ましくは少なくとも99.2%、より好ましくは少なくとも99.3%、より好ましくは少なくとも99.4%、より好ましくは少なくとも99.5%、より好ましくは少なくとも99.6%、より好ましくは少なくとも99.7%、より好ましくは少なくとも99.8%、よりいっそう好ましくは少なくとも99.9%同一であるアミノ酸配列を含むことが好ましい。
【0255】
一実施形態において、本発明の実質的に精製されたおよび/または組換えΔ6デスチュラーゼ(desturase)は、受託番号EEH58637.1またはXP_001421073.1において提供される配列を含まない。他の一実施形態において、本発明の実質的に精製されたおよび/または組換えω3デスチュラーゼは、受託番号XP_002505536.1において提供される配列を含まない。他の一実施形態において、本発明の実質的に精製されたおよび/または組換えDGATは、受託番号EEH54819.1において提供される配列を含まない。
【0256】
適切なヌクレオチド変化を本明細書において定義される核酸中に導入することによって、または所望のポリペプチドのin vitro合成によって、本明細書において定義されたもののポリペプチドのアミノ酸配列突然変異体を調製することができる。かかる突然変異体は、例えば、アミノ酸配列の中における残基の欠失、挿入または置換を含む。最終ペプチド産物が所望の特徴を有するならば、欠失、挿入および置換の組合せを行って最終構築物に達することができる。
【0257】
突然変異(改変)ペプチドは、本技術分野において公知のあらゆる技術を使用して調製され得る。例えば、本発明のポリヌクレオチドをin vitro突然変異誘発に供することができる。かかるin vitro突然変異誘発技術は、ポリヌクレオチドを適切なベクター中にサブクローニングすること、ベクターをE.coli XL−1red(Stratagene)等の「ミューテーター」株に形質転換すること、および形質転換細菌を適切な数の世代に増殖させることを含む。他の一例において、Harayama(1998)によって概括的に記載されているように、本発明のポリヌクレオチドは、DNAシャフリング技術に供される。突然変異/改変DNAから誘導された産物を、本明細書において記載される技術を使用してスクリーニングして、それらがデサチュラーゼおよび/またはエロンガーゼ活性を有するかどうかを決定することは容易にできる。
【0258】
アミノ酸配列突然変異体を設計する場合、突然変異部位の位置およびその突然変異の性質は、修飾すべき特徴(複数可)に依存する。突然変異の部位は、例えば、(1)最初に保存アミノ酸選択物で置換し、次いで達成される結果に応じてより多くのラジカル選択物で置換することによって、(2)標的残基を欠失させることによって、または(3)位置した部位に隣接して他の残基を挿入することによって、個別にまたは連続して修飾され得る。
【0259】
アミノ酸配列欠失は、一般に、約1から15残基、より好ましくは約1〜10残基、および典型的には約1〜5の連続した残基の範囲に及ぶ。
【0260】
置換突然変異体は、除去されたポリペプチド分子中における少なくとも1つのアミノ酸残基と、その場所に挿入された異なる残基とを有する。置換的突然変異誘発について最も大きな対象となる部位としては、活性部位(複数可)として同定された部位が挙げられる。対象となる他の部位は、様々な株または種から得られた特定の残基が同一である部位である。これらの位置は、生物学的活性にとって重要であり得る。これらの部位、とりわけ、少なくとも3つの他の同じく保存された部位の配列の中に含まれる部位は、好ましくは、相対的に保存的な方法で置換される。かかる保存的置換を表3において「例示的置換」という見出しの下で示す。
【0261】
好ましい一実施形態において、突然変異体/変異体ポリペプチドは、天然に存在するポリペプチドと比較した場合、1つもしくは2つもしくは3つもしくは4つだけまたは以下の保存アミノ酸変化を有する。保存アミノ酸変化の詳細は、表3において提供される。当業者であれば認識するように、かかる軽微な変化は、組換え細胞中において発現させる場合、ポリペプチドの活性を改変しないように合理的に予測され得る。
【0263】
また、例えば、ビオチン化、ベンジル化、グリコシル化、アセチル化、リン酸化、アミド化、公知の保護/ブロック基による誘導体化、タンパク分解性切断、抗体分子または他の細胞リガンドへの連結等によって、合成中または合成後に差別的に修飾される本明細書において定義されるポリペプチドも、本発明の範囲内に含まれる。これらの修飾は、本発明のポリペプチドの安定性および/または生物活性を増大させる役目をすることができる。
【0264】
ポリペプチドは、天然ポリペプチドの産生および回収、組換えポリペプチドの産生および回収、ならびにポリペプチドの化学合成を含む様々な方法で産生され得る。一実施形態において、組換えポリペプチドは、ポリペプチドを産生するために有効な条件下でポリペプチドを発現することができる細胞を培養することによって産生される。組換えポリペプチドを、続いて細胞から分泌させ、回収することができ、または細胞から抽出して、回収することができ、好ましくは、混入分子から離れて精製する。それを、化学的にまたは酵素的にさらに修飾してよく、またはしなくてもよい。培養するために好ましい細胞は、本明細書において定義される組換え細胞である。有効な培養条件としては、ポリペプチド産生を可能にする、有効な培地、バイオリアクター、温度、pHおよび酸素条件が挙げられるが、これらに限定されるものではない。有効な培地は、細胞が培養されて本明細書において定義されるポリペプチドを産生するあらゆる培地を指す。かかる培地は、典型的には、同化可能な炭素、窒素およびリン酸塩源を有する水性培地、ならびに適切な塩、無機質、金属および他の栄養素、例えばビタミンを含む。本明細書において定義される細胞は、慣用の発酵バイオリアクター、振盪フラスコ、試験管、マイクロタイター皿およびペトリ皿において培養され得る。培養は、組換え細胞に適切な温度、pHおよび酸素含有率で実施され得る。かかる培養条件は、当業者の専門知識の範囲内である。ポリペプチドを産生するためのより好ましい細胞は、植物中における、とりわけ植物における種子中における細胞である。
【0265】
本発明の目的ために、「抗体」という用語は、反対に規定されない限り、完全抗体の断片を含み、標的分析物、ならびに断片を含む化合物に対するそれらの結合活性を保持する。かかる断片としては、Fv、F(ab’)およびF(ab’)
2断片、ならびに一本鎖抗体(scFv)が挙げられる。本発明の抗体は、モノクローナルまたはポリクローナルであってよく、本技術分野における標準的手法を用いて産生され得る。
【0266】
ポリヌクレオチド
本発明はまた、例えば、遺伝子、単離されたポリヌクレオチドまたはキメラDNAであり得るポリヌクレオチドをも提供する。それは、二本鎖または一本鎖で、かつ本明細書において定義される特定の活性を行うために炭水化物、脂質、タンパク質または他の材料と組み合わせたゲノム由来もしくは合成由来のDNAまたはRNAであり得る。「ポリヌクレオチド」という用語は、本明細書において「核酸分子」という用語と交換可能に用いられる。「単離されたポリヌクレオチド」は、天然の源から得られる場合、それがそのネイティブ状態において会合もしくは連結しているポリヌクレオチド配列から分離されたポリヌクレオチドを意味するか、または非天然に存在するポリヌクレオチドを意味する。好ましくは、単離されたポリヌクレオチドは、それが天然に会合する他の成分を少なくとも60%含まない、より好ましくは少なくとも75%含まない、より好ましくは少なくとも90%含まない。
【0267】
本明細書において使用される「遺伝子」という用語は、その最も広い文脈で解釈されるものとし、構造遺伝子の転写領域および、翻訳される場合、タンパク質コード領域を含み、かついずれの末端においても少なくとも約2kbの距離にわたる5’および3’両末端上のコード領域に隣接して位置し、遺伝子の発現に関与する配列を含むデオキシリボヌクレオチド配列を包含する。この点に関して、遺伝子は、所定の遺伝子と天然に会合するプロモーター、エンハンサー、終止および/またはポリアデニル化シグナル等の制御シグナルを含むか、または異種制御シグナルを含み、その場合、遺伝子は、「キメラ遺伝子」と称される。タンパク質コード領域の5’に位置し、mRNA上に存在する配列は、5’非翻訳配列と称される。タンパク質コード領域の3’または下流に位置し、mRNA上に存在する配列は、3’非翻訳配列と称される。「遺伝子」という用語は、cDNA形態およびゲノム形態の両方の遺伝子を包含する。遺伝子のゲノム形態またはクローンは、「イントロン」または「介在領域」または「介在配列」と称される非コード配列で中断され得るコード領域を含む。イントロンは、核RNA(hnRNA)中に転写される遺伝子のセグメントである。イントロンは、エンハンサー等の調節エレメントを含むことができる。イントロンは、核内転写産物または転写一次産物から除去または「スプライス」され、従ってイントロンは、メッセンジャーRNA(mRNA)転写産物中に存在しない。mRNAは、翻訳の間に新生ポリペプチド中におけるアミノ酸の配列または順序を規定するように機能する。「遺伝子」という用語は、本明細書において記載される本発明のタンパク質の全部または一部をコードする合成または融合分子および上記のいずれか1つに対して相補的なヌクレオチド配列を包含する。
【0268】
本明細書において使用される「キメラDNA」は、そのネイティブな位置におけるネイティブDNA分子でないあらゆるDNA分子を指し、本明細書において「DNA構築物」とも称される。典型的には、キメラDNAまたはキメラ遺伝子は、天然において一緒に見出されることのない調節配列および転写配列またはタンパク質コード配列を含む。従って、キメラDNAまたはキメラ遺伝子は、異なる源に由来する調節配列およびコード配列、または同じ源に由来するが、天然において見出されるものとは異なる方法で配置される調節配列およびコード配列を含むことができる。
【0269】
「内因性」という用語は、本明細書において使用されて、検査されている植物と同じ発育ステップにある未修飾植物において通常に存在するかまたは産生される物質を指す。「内因性遺伝子」は、生物のゲノム中におけるその天然の位置におけるネイティブ遺伝子を指す。本明細書において使用される「組換え核酸分子」、「組換えポリヌクレオチド」またはそれらの変形物は、組換えDNA技術によって構築または修飾された核酸分子を指す。「外来ポリヌクレオチド」または「外因性ポリヌクレオチド」または「異種ポリヌクレオチド」等の用語は、実験的操作によって細胞のゲノム中に導入されるあらゆる核酸を指す。外来または外因性遺伝子は、非ネイティブ生物中に挿入された遺伝子、ネイティブ宿主の中の新規な場所に導入されたネイティブ遺伝子、またはキメラ遺伝子であってよい。「導入遺伝子」は、形質転換手法によってゲノム中に導入された遺伝子である。用語「遺伝子修飾された」、「トランスジェニック」およびそれらの変形物は、形質転換または形質導入によって遺伝子を細胞中に導入し、細胞内の遺伝子を突然変異させ、これらの行為が実行された細胞もしくは生物またはそれらの子孫において遺伝子の調節を改変またはモジュレートすることを含む。本明細書において使用される「ゲノム領域」は、導入遺伝子または導入遺伝子の群(本明細書においてクラスターとも称される)が細胞またはその祖先中に挿入されたゲノムの中の位置を指す。かかる領域は、人の介入によって、例えば本明細書において記載される方法によって組み込まれたヌクレオチドを含むだけである。
【0270】
ポリヌクレオチドの文脈において「外因性」という用語は、そのネイティブ状態と比較して改変された量で細胞中に存在する場合のポリヌクレオチドを指す。一実施形態において、細胞は、ポリヌクレオチドを天然に含まない細胞である。しかし、細胞は、コードされたポリペプチドの改変された産生量をもたらす非内因性ポリヌクレオチドを含む細胞であってよい。本発明の外因性ポリヌクレオチドとしては、トランスジェニック(組換え)細胞またはそれが存在する無細胞発現系の他の成分から分離されなかったポリヌクレオチド、および少なくとも一部の他の成分から続いて離れて精製される、かかる細胞または無細胞系中において産生されたポリヌクレオチドが挙げられる。外因性ポリヌクレオチド(核酸)は、天然に存在するヌクレオチドの連続したストレッチであり得るか、または単一のポリヌクレオチドを形成するように接合した(天然に存在するおよび/もしくは合成の)異なる源に由来するヌクレオチドの2つ以上の連続したストレッチを含み得る。典型的には、かかるキメラポリヌクレオチドは、対象となる細胞中におけるオープンリーディングフレームの転写を行うことに適切なプロモーターに作動可能に連結した本発明のポリペプチドをコードする少なくとも1つのオープンリーディングフレームを含む。
【0271】
本明細書において使用される「異なる外因性ポリヌクレオチド」という用語またはその変形物は、各ポリヌクレオチドのヌクレオチド配列が、少なくとも1個、好ましくはより多くのヌクレオチドだけ異なることを意味する。ポリヌクレオチドは、細胞の中においてタンパク質に翻訳され得るかまたは翻訳され得ないRNAをコードする。一例において、各ポリヌクレオチドは、異なる活性を有するタンパク質をコードすることが好ましい。他の一例において、各外因性ポリヌクレオチドは、他の外因性ポリヌクロチド(polynuclotide)と95%未満、90%未満または80%未満同一である。好ましくは、外因性ポリヌクレオチドは、機能タンパク質/酵素をコードする。さらに、異なる外因性ポリヌクレオチドは、各ポリヌクレオチドが、例えば他の外因性ポリヌクレオチドと重複しない染色体外転移核酸の別の領域であるという点で重複しないことが好ましい。少なくとも、各外因性ポルヌクレオチド(polnucleotide)は、転写出発部位および転写終結部位、ならびに所定のプロモーターを有する。個々の外因性ポリヌクロエオチド(polynucloeotide)は、イントロンを含んでよいか、または含まなくてもよい。
【0272】
定義されたポリヌクレオチドに関して、上記で提供されるものより高い%同一性の値が好ましい実施形態を包含することはいうまでもない。従って、適用可能である場合、最小の%同一性の値に鑑みて、ポリヌクレオチドは、関連の指定配列番号と少なくとも60%、より好ましくは少なくとも65%、より好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも75%、より好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも91%、より好ましくは少なくとも92%、より好ましくは少なくとも93%、より好ましくは少なくとも94%、より好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくとも96%、より好ましくは少なくとも97%、より好ましくは少なくとも98%、より好ましくは少なくとも99%、より好ましくは少なくとも99.1%、より好ましくは少なくとも99.2%、より好ましくは少なくとも99.3%、より好ましくは少なくとも99.4%、より好ましくは少なくとも99.5%、より好ましくは少なくとも99.6%、より好ましくは少なくとも99.7%、より好ましくは少なくとも99.8%、よりいっそう好ましくは少なくとも99.9%同一であるポリヌクレオチド配列を含むことが好ましい。
【0273】
一実施形態において、本発明のΔ6デスチュラーゼをコードする単離されたおよび/または外因性ポリヌクレオチドは、それぞれ受託番号EEH58637.1またはXP_001421073.1において提供されるアミノ酸配列をコードすると予測されるミクロモナスまたはオストレオコッカス(Ostreococcus)ゲノムに由来する配列を含まない。他の一実施形態において、本発明のω3デスチュラーゼをコードする単離されたおよび/または外因性ポリヌクレオチドは、受託番号XP_002505536.1において提供されるアミノ酸配列をコードすると予測されるミクロモナスゲノムに由来する配列を含まない。他の一実施形態において、本発明のDGATをコードする単離されたおよび/または外因性ポリヌクレオチドは、受託番号EEH54819.1において提供されるアミノ酸配列をコードすると予測されるミクロモナスゲノムに由来する配列を含まない。
【0274】
本発明のポリヌクレオチドは、ストリンジェントな条件下で、本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドに選択的にハイブリダイズすることができる。本明細書において使用される場合、ストリンジェントな条件は、(1)ハイブリダイゼーションの間、変性剤、例えばホルムアミド、例えば0.1%(w/v)のウシ血清アルブミンを含む50%(v/v)のホルムアミド、0.1%のフィコール、0.1%のポリビニルピロリドン、750mMのNaClを含むpH6.5の50mMのリン酸ナトリウム緩衝液、75mMのクエン酸ナトリウムを42℃で用いる条件、または(2)0.2×SSCおよび0.1%のSDS中において42℃で50%のホルムアミド、5×SSC(0.75MのNaCl、0.075Mのクエン酸ナトリウム)、50mMのリン酸ナトリウム(pH6.8)、0.1%のピロリン酸ナトリウム、5×デンハルト溶液、音波破砕されたサケ精子DNA(50g/ml)、0.1%のSDSおよび10%の硫酸デキストランを用いる条件および/または(3)洗浄のために低イオン強度および高温を用いる条件、例えば、50℃で0.015MのNaCl/0.0015Mのクエン酸ナトリウム/0.1%のSDSを用いる条件である。
【0275】
本発明のポリヌクレオチドは、天然に存在する分子と比較した場合、ヌクレオチド残基の欠失、挿入または置換である1つまたは複数の突然変異を有することができる。参照配列と比較して突然変異を有するポリヌクレオチドは、天然に存在し得る(すなわち、天然の源から単離され得る)か、または(例えば、上記のように核酸上の部位特異的変異誘発もしくはDNAシャフリングを行うことによって)合成的であり得る。従って、本発明のポリヌクレオチドが、天然に存在する源に由来し得るか、または組換え型であり得ることは、明らかである。
【0276】
組換えベクター
本発明の一実施形態は、本明細書において定義される少なくとも1個のポリヌクレオチド分子を含む組換えベクターを含み、このポリヌクレオチド分子は、そのポリヌクレオチド分子を宿主細胞中に送達することができる任意のベクター中に挿入される。組換えベクターとしては、発現ベクターが挙げられる。組換えベクターは、異種ポリヌクレオチド配列、すなわち、好ましくはポリヌクレオチド分子(複数可)が由来する種以外の種に由来する本明細書において定義されるポリヌクレオチド分子に隣接して天然に見出されないポリヌクレオチド配列を含有する。ベクターは、RNAまたはDNAのいずれかであり得、原核性または真核性のいずれかであり得、典型的には、ウイルスに由来するウイルスベクターまたはプラスミドである。プラスミドベクターは、典型的には、原核細胞中における発現カセットの容易な選択、増幅および形質転換を提供する更なる核酸配列を含み、例えば、pUC由来ベクター、pSK由来ベクター、pGEM由来ベクター、pSP由来ベクター、pBS由来ベクターまたは1つもしくは複数のT−DNA領域を含有するバイナリーベクターである。更なる核酸配列は、ベクターの自律複製を提供する複製開始点、選択可能マーカー遺伝子(好ましくは、抗生物質または除草剤耐性をコードする)、核酸構築物中においてコードされる核酸配列または遺伝子を挿入するために多重部位を提供する固有の多重クローニング部位、ならびに原核および真核(とりわけ植物)細胞の形質転換を増強する配列を含む。組換えベクターは、本明細書において定義される1つより多いポリヌクレオチド、例えば、本発明の3、4、5または6つのポリヌクレオチドを組み合わせて含むことができ、各々は、対象となる細胞中において作動可能である発現制御配列に作動可能に連結する。本発明のかかる1つより多いポリヌクレオチド、例えば、3、4、5または6つのポリヌクレオチドは、好ましくは、単一の組換えベクター中において一緒に共有結合的に接合させ、次いで単一分子として細胞中に導入して本発明による組換え細胞を形成することができ、好ましくは、例えばトランスジェニック植物における、組換え細胞のゲノム中に組み込まれ得る。このことにより、こうして接合されたポリヌクレオチドは、組換え細胞または植物の子孫中における単一の遺伝子座として一緒に遺伝する。組換えベクターまたは植物は、2つ以上のかかる組換えベクターを含んでよく、各々は、多数のポリヌクレオチドを含有し、例えば、各組換えベクターは、3、4、5または6つのポリヌクレオチドを含む。
【0277】
本明細書において使用される「作動可能に連結した」は、2つ以上の核酸(例えば、DNA)セグメント間の機能的関係を指す。典型的には、それは、転写配列に対する転写調節エレメント(プロモーター)の機能的関係を指す。例えば、プロモーターは、それが適切な細胞中におけるコード配列の転写を刺激またはモジュレートする場合、そのコード配列、例えば、本明細書において定義されるポリヌクレオチドに作動可能に連結する。一般に、転写配列に作動可能に連結したプロモーター転写調節エレメントは、その転写配列に物理的に隣接しており、すなわち、それらはシス作用性である。しかし、一部の転写調節エレメント(例えばエンハンサー)は、それらが転写を増強するコード配列に物理的に隣接する必要も、近接して位置する必要もない。
【0278】
多重プロモーターが存在する場合、各プロモーターは、独立して同一または異なってよい。
【0279】
キメラDNA等の組換え分子は、(a)シグナルペプチド配列をコードして、本明細書において定義される発現したポリペプチドを、ポリペプチドを産生する細胞から分泌させることを可能にするか、または、例えば細胞中における小胞体(ER)中におけるポリペプチドの保持もしくはプラスチド中への転移のための発現したポリペプチドの局在化を提供する1つまたは複数の分泌シグナル、および/または(b)融合タンパク質としての核酸分子の発現につながる融合配列を含有することもできる。適切なシグナルセグメントの例としては、本明細書において定義されるポリペプチドの分泌または局在化を誘導できるあらゆるシグナルセグメントが挙げられる。好ましいシグナルセグメントとしては、ニコチアナ・ネクタリン(Nicotiana nectarin)シグナルペプチド(US5,939,288)、タバコエクステンシンシグナルまたはダイズオレオシン油体結合タンパク質シグナルが挙げられるが、これらに限定されるものではない。組換え分子は、本明細書において定義される核酸分子の核酸配列を囲むならびに/またはその核酸配列の中の介在配列および/もしくは非翻訳配列を含むこともできる。
【0280】
形質転換体の同定を容易にするために、核酸構築物は、望ましくは、選択可能もしくはスクリーニング可能マーカー遺伝子を外来もしくは外因性ポリヌクレオチドとしてまたは外来もしくは外因性ポリヌクレオチドに加えて含む。「マーカー遺伝子」は、そのマーカー遺伝子を発現している細胞に別の表現型を付与し、従ってそのマーカーを有さない細胞からかかる形質転換細胞を区別することを可能にする遺伝子を意味する。選択可能マーカー遺伝子は、選択因子(例えば、除草剤、抗生物質、放射線、熱、または非形質転換細胞に損傷を与える他の処理)に対する耐性に基づいて「選択」することを可能にする形質を付与する。スクリーニング可能マーカー遺伝子(またはレポーター遺伝子)は、観察または試験を通して、すなわち「スクリーニング」によって同定され得る形質(例えば、非形質転換細胞中に存在しないβ−グルクロニダーゼ、ルシフェラーゼ、GFPまたは他の酵素活性)を付与する。マーカー遺伝子および対象となるヌクレオチド配列を連結させる必要はない。マーカーの実際の選択物は、植物細胞等の選択された細胞との組合せにおいてそれが機能的(すなわち、選択的)である限り重要ではない。例えばUS4,399,216に記載されているように、非連結遺伝子の同時形質転換もまた植物の形質転換における効率的な方法であるので、マーカー遺伝子および対象となる外来または外因性ポリヌクレオチドを連結させる必要はない。
【0281】
細菌性選択可能マーカーの例は、抗生物質耐性、例えば、アンピシリン、エリスロマイシン、クロラムフェニコールまたはテトラサイクリン耐性、好ましくはカナマイシン耐性を付与するマーカーである。植物の形質転換体の選択のための例示的な選択可能マーカーとしては、ハイグロマイシンB耐性をコードするhyg遺伝子、カナマイシン、パロモマイシン、G418に対する耐性を付与するネオマイシンホスホトランスフェラーゼ(nptII)遺伝子、例えばEP256223に記載されている通りのグルタチオン由来除草剤に対する耐性を付与するラット肝臓由来のグルタチオン−S−トランスフェラーゼ遺伝子、例えばWO87/05327に記載されている通りの過剰発現の際にホスフィノトリシン等のグルタミンシンテターゼ阻害剤に耐性を付与するグルタミンシンテターゼ遺伝子、例えばEP275957に記載されている通りの選択因子ホスフィノトリシンに対する耐性を付与するストレプトマイセス・ヴィリドクロモゲネス(Streptomyces viridochromogenes)由来のアセチルトランスフェラーゼ遺伝子、例えばHincheeら(1988)によって記載されている通りのN−ホスホノメチルグリシンに対する抵抗性を付与する5−エノルシキメート−3−リン酸シンターゼ(EPSPS)をコードする遺伝子、例えばWO91/02071に記載されている通りのビアラホスに対する耐性を付与するbar遺伝子、ブロモキシニルに対する耐性を付与するニトリラーゼ遺伝子、例えばクレブシーラ・オザエナエ(Klebsiella ozaenae)に由来するbxn(Stalkerら、1988)、メトトレキサートに対する耐性を付与するジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)遺伝子(Thilletら、1988)、イミダゾリノン、スルフォニル尿素もしくは他のALS阻害化学物質に対する耐性を付与する突然変異体アセトラクテートシンターゼ遺伝子(ALS)(EP154,204)、5−メチルトリプトファンに対する耐性を付与する突然変異アントラニル酸シンターゼ遺伝子、または除草剤に対する耐性を付与するダラポンデハロゲナーゼ遺伝子が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0282】
好ましいスクリーニング可能マーカーとしては、様々な色素原基質が知られているβ−グルクロニダーゼ(GUS)酵素をコードするuidA遺伝子、色素原基質が知られている酵素をコードするβ−ガラクトシダーゼ遺伝子、カルシウム感受性バイオルミネセンス検出において用いられ得るエクオリン遺伝子(Prasherら、1985)、緑色蛍光タンパク質遺伝子(Niedzら、1995)またはその誘導体、バイオルミネセンス検出を可能にするルシフェラーゼ(luc)遺伝子(Owら、1986)および本技術分野において公知の他のものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。本明細書において使用される「リポーター分子」は、タンパク質産物を参照することによってプロモーター活性の決定を容易にする分析的に同定可能なシグナルを、その化学的性質によって提供する分子を意味する。
【0283】
好ましくは、核酸構築物は、植物細胞等の細胞のゲノム中に安定して組み込まれる。従って、核酸は、分子をゲノム中に組み込むことを可能にする適切なエレメントを含むことができるか、または構築物は、細胞の染色体中に組み込まれ得る適切なベクター中に配置される。
【0284】
発現
本明細書において使用される発現ベクターは、宿主細胞を形質転換することができ、かつ1個または複数個の特定されたポリヌクレオチド分子(複数可)の発現を生じさせることができるDNAまたはRNAベクターである。好ましくは、発現ベクターは、宿主細胞の中で複製することもできる。発現ベクターは、原核性または真核性であり得、典型的にはウイルスまたはプラスミドである。本発明の発現ベクターとしては、細菌、真菌、内寄生性生物(endoparasite)、節足動物(arthropod)、動物および植物細胞等、本発明の組換え細胞中において機能する(すなわち、遺伝子発現を誘導する)あらゆるベクターが挙げられる。本発明の特に好ましい発現ベクターは、酵母および/または植物細胞の遺伝子発現を誘導することができる。
【0285】
本発明の発現ベクターは、調節配列、例えば、転写制御配列、翻訳制御配列、複製開始点、および組換え細胞と適合性があり、かつ本発明のポリヌクレオチド分子の発現を制御する他の調節配列を含有する。特に、本発明のポリヌクレオチドまたはベクターは、転写制御配列を含む。転写制御配列は、転写の開始、伸長および終結を制御する配列である。特に重要な転写制御配列は、転写開始を制御するもの、例えば、プロモーター、エンハンサー、オペレーターおよびリプレッサー配列である。適切な転写制御配列としては、本発明の組換え細胞の内の少なくとも1つにおいて機能することができるあらゆる転写制御配列が挙げられる。使用される調節配列の選択は、対象となる植物および/または標的器官もしくは組織等の標的生物に依存する。かかる調節配列は、あらゆる真核生物、例えば植物、もしくは植物ウイルスから得られ得るか、または化学的に合成され得る。様々なかかる転写制御配列は、当業者に公知である。特に好ましい転写制御配列は、構成的にまたはステージおよび/もしくは組織特異的に植物またはその部分の使用に依存して植物中における転写を誘導する際に活性なプロモーターである。
【0286】
植物細胞の安定したトランスフェクションに適切な、またはトランスジェニック植物の樹立に適切な多くのベクターは、例えば、Pouwelsら、Cloning Vectors:A Laboratory Manual、1985、supp.1987;WeissbachおよびWeissbach、Methods for Plant Molecular Biology、Academic Press、1989;ならびにGelvinら、Plant Molecular Biology Manual、Kluwer Academic Publishers、1990に記載されている。典型的には、植物発現ベクターは、例えば、5’および3’調節配列の転写制御下の1つまたは複数のクローニングされた植物遺伝子、ならびに優性選択可能マーカーを含む。かかる植物発現ベクターは、プロモーター調節領域(例えば、誘導もしくは構成的、環境もしくは発生的調節、または細胞もしくは組織特異的発現を制御する調節領域)、転写開始出発部位、リボソーム結合部位、RNAプロセッシングシグナル、転写終結部位および/またはポリアデニル化シグナルをも含有し得る。
【0287】
植物細胞中において活性である多くの構成的プロモーターが記載されている。植物中における構成的発現に適切なプロモーターとしては、カリフラワーモザイクウイルス(CaMV)35Sプロモーター、ゴマノハグサモザイクウイルス(FMV)35S、サトウキビ桿状ウイルスプロモーター、ツユクサ黄色斑紋ウイルスプロモーター、リブロース−1,5−ビス−リン酸カルボキシラーゼの小サブユニットからの光誘導性プロモーター、イネサイトゾルトリオースリン酸イソメラーゼプロモーター、アラビドプシスのアデニンホスホリボシルトランスフェラーゼプロモーター、イネアクチン1遺伝子プロモーター、マンノピンシンターゼおよびオクトピンシンターゼプロモーター、Adhプロモーター、スクロースシンターゼプロモーター、R遺伝子複合体プロモーター、ならびにクロロフィルα/β結合タンパク質遺伝子プロモーターが挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらのプロモーターは、植物中において発現されるDNAベクターを作製するために使用されている(例えば、WO84/02913参照)。これらのプロモーターの全ては、様々な型の植物発現性組換えDNAベクターを作製するために使用されている。
【0288】
植物の源組織(例えば、葉、種子、根または茎)の発現の目的ために、本発明において利用されるプロモーターは、これらの特定の組織中において相対的に高い発現を有することが好ましい。この目的のために、組織もしくは細胞に特異的な発現、または組織もしくは細胞で増強された発現を伴う遺伝子に対する多くのプロモーターから選択することができる。文献に報告されているかかるプロモーターの例としては、エンドウ由来のクロロプラストグルタミンシンテターゼGS2プロモーター、コムギ由来のクロロプラストフルクトース−1,6−ビホスファターゼプロモーター、ジャガイモ由来の核光合成ST−LS1プロモーター、セリン/トレオニンキナーゼプロモーター、およびアラビドプシス・サリアナ由来のグルコアミラーゼ(CHS)プロモーターが挙げられる。また、イースタンカラマツ(ラリクス・ラリキナ(Larix laricina))由来のリブロース−1,5−ビスリン酸カルボキシラーゼプロモーター、マツ由来のCab遺伝子(Cab6)に対するプロモーター、コムギ由来のCab−1遺伝子に対するプロモーター、ホウレンソウ由来のCab−1遺伝子に対するプロモーター、イネ由来のCab1R遺伝子に対するプロモーター、ゼア・マイス由来のピルビン酸オルトリン酸ジキナーゼ(PPDK)プロモーター、タバコLhcb1*2遺伝子に対するプロモーター、アラビドプシス・サリアナSuc2スクロース−H
30共輸送体プロモーター、およびホウレンソウ由来のチラコイド膜タンパク質遺伝子(PsaD、PsaF、PsaE、PC、FNR、AtpC、AtpD、Cab、RbcS)に対するプロモーターも、光合成活性組織中において活性であることが報告されている。
【0289】
クロロフィルα/β結合タンパク質に対する他のプロモーター、例えば、シロガラシ(シナピス・アルバ(Sinapis alba))由来のLhcB遺伝子およびPsbP遺伝子に対するプロモーターを、本発明において利用することもできる。植物細胞中におけるRNA結合タンパク質遺伝子の発現には、(1)熱、(2)光(例えば、エンドウRbcS−3Aプロモーター、トウモロコシRbcSプロモーター)、(3)ホルモン、例えば、アブシジン酸、(4)損傷(例えば、WunI)、または(5)化学物質、例えば、ジャスモン酸メチル、サリチル酸、ステロイドホルモン、アルコール、Safeners(WO97/06269)によって調節されるプロモーターを含む、環境、ホルモン、化学および/または発育のシグナルに応答して調節される様々な植物遺伝子プロモーターも使用することができ、または(6)器官特異的プロモーターを用いることも有利であり得る。
【0290】
本明細書において使用される「植物貯蔵器官特異的プロモーター」という用語は、他の植物組織と比較した場合に植物の貯蔵器官中における遺伝子転写を選好的に誘導するプロモーターを指す。好ましくは、プロモーターは、貯蔵器官における対象となる遺伝子の発現を誘導するだけであり、ならびに/または植物の他の部分(例えば、葉)における対象となる遺伝子の発現は、ノーザンブロット分析および/もしくはRT−PCRによって検出され得ない。典型的には、プロモーターは、貯蔵器官の成長および発育の間、特に貯蔵器官中における貯蔵化合物の合成および蓄積期の間の遺伝子の発現を駆動する。かかるプロモーターは、植物貯蔵器官全体またはその部分だけ、例えば、双子葉植物の種子における種皮、胚もしくは子葉(複数可)、または単子葉植物の種子の内乳もしくはアリューロン(aleurone)層において遺伝子発現を駆動することができる。
【0291】
植物のシンク組織、例えば、ジャガイモ植物の塊茎、トマトの実、またはダイズ、キャノーラ、綿、ゼア・マイス、コムギ、イネおよびオオムギの種子における発現の目的のために、本発明において利用されるプロモーターは、これらの特定の組織において相対的に高い発現を有することが好ましい。塊茎特異的または塊茎で増強された発現を伴う遺伝子に対する多くのプロモーターが公知であり、それらとしては、クラスIパタチンプロモーター、ジャガイモ塊茎ADPGPP遺伝子に対するプロモーター、大サブユニットおよび小サブユニットの両方、スクロースシンターゼプロモーター、22kDタンパク質複合体およびプロテイナーゼ阻害剤を含む大塊茎タンパク質に対するプロモーター、顆粒結合デンプンシンターゼ遺伝子(GBSS)に対するプロモーター、ならびに他のクラスIおよびIIパタチンプロモーターが挙げられる。他のプロモーターを使用して、特定の組織(例えば、種子または果実)中においてタンパク質を発現させることもできる。β−コングリシニンに対するプロモーターまたは他の種子特異的プロモーター、例えば、ナピン、ゼイン、リニンおよびファゼオリンプロモーターを使用することができる。根特異的プロモーターを使用してもよい。かかるプロモーターの一例は、酸キチナーゼ遺伝子に対するプロモーターである。根組織中における発現は、同定されているCaMV35Sプロモーターの根特異的サブドメインを利用することによって達成することも可能である。
【0292】
特に好ましい一実施形態において、プロモーターは、脂肪酸および油生合成が行われる組織および器官中における発現を誘導する。かかるプロモーターは、種子中における油組成物を修飾するために適切な時点で種子発育において作用する。
【0293】
更なる特に好ましい一実施形態において、および本発明の幾つかの態様において、プロモーターは、植物貯蔵器官特異的プロモーターである。一実施形態において、植物貯蔵器官特異的プロモーターは、種子特異的プロモーターである。より好ましい一実施形態において、プロモーターは、種子の胚中における発現と比較して、または植物における他の器官、例えば葉と比較して、双子葉植物の子葉中における、または単子葉植物の内乳中における発現を選好的に誘導する。種子特異的発現のための好ましいプロモーターとしては、i)デサチュラーゼおよびエロンガーゼ等、種子中における脂肪酸生合成および蓄積に関与する酵素をコードする遺伝子に由来するプロモーター、ii)種子貯蔵タンパク質をコードする遺伝子に由来するプロモーター、ならびにiii)種子中における炭水化物生合成および蓄積に関与する酵素をコードする遺伝子に由来するプロモーターが挙げられる。適切である種子特異的プロモーターは、アブラナナピン遺伝子プロモーター(US5,608,152)、ビキア・ファバ(Vicia faba)USPプロモーター(Baumleinら、1991)、アラビドプシスオレオシンプロモーター(WO98/45461)、ファセオルス・ウルガリス(Phaseolus vulgaris)ファゼオリンプロモーター(US5,504,200)、ブラッシカBce4プロモーター(WO91/13980)またはレグミンB4プロモーター(Baumleinら、1992)、およびトウモロコシ、オオムギ、コムギ、ライムギ、イネ等の単子葉植物中において種子特異的発現を引き起こすプロモーターである。適切である顕著なプロモーターは、オオムギlpt2もしくはlpt1遺伝子プロモーター(WO95/15389およびWO95/23230)またはWO99/16890に記載されているプロモーター(オオムギホルデイン遺伝子、イネグルテリン遺伝子、イネオリジン遺伝子、イネプロラミン遺伝子、コムギグリアジン遺伝子、コムギグルテリン遺伝子、トウモロコシゼイン遺伝子、オートムギグルテリン遺伝子、モロコシカジリン遺伝子、ライムギセカリン遺伝子に由来するプロモーター)である。他のプロモーターとしては、Brounら(1998)、Potenzaら(2004)、US20070192902およびUS20030159173によって記載されているものが挙げられる。一実施形態において、種子特異的プロモーターは、子葉(複数可)または内乳等の種子の限定部分において選好的に発現される。子葉特異的プロモーターの例としては、FP1プロモーター(Ellerstromら、1996)、エンドウレグミンプロモーター(Perrinら、2000)およびインゲンマメフィトヘマグルトニン(phytohemagglutnin)プロモーター(Perrinら、2000)が挙げられるが、これらに限定されるものではない。内乳特異的プロモーターの例としては、トウモロコシzein−1プロモーター(Chikwambaら、2003)、イネグルテリン−1プロモーター(Yangら、2003)、オオムギD−ホルデインプロモーター(Horvathら、2000)およびコムギHMWグルテニンプロモーター(Alvarezら、2000)が挙げられるが、これらに限定されるものではない。更なる一実施形態において、種子特異的プロモーターは、胚において、および/または種子が発芽した後、発現されないか、または低レベルで発現されるだけである。
【0294】
他の一実施形態において、植物貯蔵器官特異的プロモーターは、塊茎特異的プロモーターである。例としては、ジャガイモパタチンB33、PAT21およびGBSSプロモーター、ならびにサツマイモスポラミンプロモーター(概説のために、Potenzaら(2004)参照)が挙げられるが、これらに限定されるものではない。好ましい一実施形態において、プロモーターは、塊茎の外層(表皮、樹皮)または胚と比較して、選好的に塊茎の髄中における発現を誘導する。
【0295】
他の一実施形態において、植物貯蔵器官特異的プロモーターは、果実特異的プロモーターである。例としては、トマトポリガラクツロナーゼ、E8およびPdsプロモーター、ならびにリンゴACCオキシダーゼプロモーター(概説のために、Potenzaら(2004)参照)が挙げられるが、これらに限定されるものではない。好ましい一実施形態において、プロモーターは、果実の表皮または果実の中の種子と比較して、果実の可食部、例えば果実の髄中における発現を選好的に誘導する。
【0296】
5’非翻訳リーダー配列は、本発明のポリヌクレオチドの異種遺伝子配列を発現するように選択されるプロモーターに由来することができ、または産生すべき酵素のコード領域に対して異種であってよく、および所望によりmRNAの翻訳を増加させるように特異的に修飾され得る。導入遺伝子の発現の最適化の概説については、Kozielら(1996)を参照すること。5’非翻訳領域を、植物ウイルスRNA(とりわけ、タバコモザイクウイルス、タバコエッチウイルス、トウモロコシ萎縮モザイクウイルス、アルファルファモザイクウイルス)から、適切な真核細胞遺伝子、植物遺伝子(コムギおよびトウモロコシクロロフィルa/b結合タンパク質遺伝子リーダー)から、または合成遺伝子配列から得ることもできる。本発明は、非翻訳領域が、プロモーター配列を伴う5’非翻訳配列に由来する場合の構築物に限定されない。リーダー配列は、無関係なプロモーターまたはコード配列に由来する場合もある。本発明の文脈において有用なリーダー配列は、トウモロコシHsp70リーダー(US5,362,865およびUS5,859,347)、ならびに実施例8において例示される通りのTMVオメガエレメントを含む。
【0297】
転写の終結は、キメラベクターにおける対象となるポリヌクレオチドに作動可能に連結した3’非翻訳DNA配列によって達成される。組換えDNA分子の3’非翻訳領域は、植物中においてRNAの3’末端にアデニレートヌクレオチドを付加させるように機能するポリアデニル化シグナルを含有する。3’非翻訳領域は、植物細胞中において発現される様々な遺伝子から得られ得る。一般に、この能力において、ノパリンシンターゼ3’非翻訳領域、エンドウ小サブユニットRubisco遺伝子由来の3’非翻訳領域、ダイズ7S種子貯蔵タンパク質遺伝子由来の3’非翻訳領域を用いることができる。アグロバクテリウム腫瘍誘導性(Ti)プラスミド遺伝子のポリアデニル化シグナルを含有する3’転写非翻訳領域も適切である。
【0298】
組換えDNA技術は、例えば、宿主細胞の中のポリヌクレオチド分子のコピー数、それらのポリヌクレオチド分子を転写する効率、得られた転写産物を翻訳する効率、および翻訳後修飾の効率を操作することによって、形質転換ポリヌクレオチド分子の発現を改善するために使用され得る。本明細書において定義されるポリヌクレオチド分子の発現を増大させるために有用な組換え技術としては、高コピー数プラスミドへのポリヌクレオチド分子の作動可能な連結、1つまたは複数の宿主細胞染色体中へのポリヌクレオチド分子の組込み、プラスミドへのベクター安定配列の付加、転写制御シグナル(例えば、プロモーター、オペレーター、エンハンサー)の置換または修飾、翻訳制御シグナル(例えば、リボソーム結合部位、シャイン−ダルガルノ配列)の置換または修飾、宿主細胞のコドン利用に対応するポリヌクレオチド分子の修飾、および転写産物を不安定にする配列の欠失が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0299】
転移核酸(Transfer Nucleic Acids)
本発明の転移核酸は、少なくとも1つ、好ましくは2つの境界配列および外因性ポリヌクレオチドを含む。転移核酸は、選択可能マーカーをコードすることができるか、またはコードすることができない。好ましくは、転移核酸は、細菌におけるバイナリーベクターの部分を形成し、バイナリーベクターは、細菌におけるベクターの複製を可能にするか、またはベクターを含有する細菌細胞の選択もしくは維持を可能にするエレメントをさらに含む。真核細胞への転移の際、バイナリーベクターの転移核酸成分は、真核細胞のゲノム中への組込みが可能である。
【0300】
本明細書において使用される「染色体外転移核酸」という用語は、アグロバクテリウム属種等の細菌から植物の葉細胞等の真核細胞に転移され得る核酸分子を指す。染色体外転移核酸は、レシピエント細胞のゲノム中においてその境界の中に含有されるヌクレオチド配列の後続の組込みによって転移され得るエレメントとして周知である遺伝エレメントである。この点で、転移核酸は、典型的には2つの「境界」配列によって隣接される(flanked)が、幾つかの例において、一方の末端における単一の境界を使用することができ、転移された核酸の第2の末端が、転移プロセスにおいてランダムに生成される。所望の外因性ポリヌクレオチドは、典型的には転移核酸の左境界様配列と右境界様配列との間に位置する。転移核酸の中に含有される所望のポリヌクレオチドは、その発現、すなわち、ポリヌクレオチドの転写および/または翻訳を容易にする様々な異なるプロモーターおよびターミネーター調節エレメントに作動可能に連結され得る。アグロバクテリウム属種(例えば、アグロバクテリウム・ツメファシエンスまたはアグロバクテリウム・リゾゲネス(Agrobacterium rhizogenes))に由来するT−DNAおよびその人工の変異体/突然変異体は、転移核酸のおそらく最高に特徴付けられた例である。他の一例は、植物に由来するT−DNA境界様配列を含むP−DNA(「植物DNA」)である。
【0301】
本明細書において使用される「T−DNA」は、例えば、アグロバクテリウム・ツメファシエンスTiプラスミドのT−DNAを指すか、またはアグロバクテリウム・リゾゲネスRiプラスミドもしくはT−DNA(転移DNA)として機能するその人工の変異体に由来するT−DNAを指す。T−DNAは、右および左境界配列の両方を含むT−DNA全体を含むことができるが、転移のためにシスにおいて必要とされる最小の配列、すなわち、右およびT−DNA境界配列を含むことだけ必要である。本発明のT−DNAは、(存在する場合)右および左境界配列の間のどこかで、それらに、部位特異的リコンビナーゼに対する標的部位によって隣接した外因性ポリヌクレオチドを挿入した。vir遺伝子等、植物細胞中へのT−DNAの転移のためにトランスにおいて必要とされる因子をコードする配列は、T−DNA中に挿入され得るか、またはT−DNAと同じレプリコン上に存在してよいか、または、好ましくは、アグロバクテリウム宿主中における適合性レプリコン上のトランスにおいて存在する。かかる「バイナリーベクター系」は、本技術分野において周知である。
【0302】
本明細書において使用される「P−DNA」は、植物ゲノムから単離された転移核酸またはその人工の変異体/突然変異体を指し、各末端または一方の末端だけにおいてT−DNA境界様配列を含む。境界様配列は、好ましくは、アグロバクテリウム・ツメファシエンスまたはアグロバクテリウム・リゾゲネス等のアグロバクテリウム属種由来のT−DNA境界配列と、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも90%または少なくとも95%であるが、100%未満の配列同一性を共有する。従って、P−DNAは、P−DNAの中に含有されたヌクレオチド配列を例えばアグロバクテリウムから他の細胞に転移するために、T−DNAの代わりに使用され得る。P−DNAは、転移させるべき外因性ポリヌクレオチドの挿入前に、クローニングを容易にするために修飾され得、好ましくは、いかなるタンパク質もコードするべきでない。P−DNAは、それが少なくとも右境界配列および好ましくは左境界配列も含有するという点で特徴付けられる。
【0303】
本明細書において使用される転移核酸の「境界」配列(複数可)は、選択された生物(例えば、植物もしくは細菌)から単離され得、またはその人工の変異体/突然変異体であり得る。境界配列は、それが連結する外因性ポリヌクレオチドの転移を促進し、かつ容易にし、レシピエント細胞ゲノム中におけるその組込みを容易にすることができる。
【0304】
一実施形態において、境界配列は、長さが5〜100bp、長さが10〜80bp、長さが15〜75bp、長さが15〜60bp、長さが15〜50bp、長さが15〜40bp、長さが15〜30bp、長さが16〜30bp、長さが20〜30bp、長さが21〜30bp、長さが22〜30bp、長さが23〜30bp、長さが24〜30bp、長さが25〜30bpまたは長さが26〜30bpの間である。
【0305】
アグロバクテリウム属種に由来するT−DNAに由来する境界配列は、本技術分野において周知であり、Lacroixら(2008)、TzfiraおよびCitovsky(2006)、ならびにGlevin(2003)において記載されているものが含まれる。P−DNAの境界配列は、任意の植物から、例えばジャガイモおよびコムギから単離され得る。一実施形態において、P−DNAは、核酸配列ANGATNTATN6GT(配列番号109)を有し、ここで「N」は、任意のヌクレオチド、例えば「A」、「G」、「C」または「T」によって表されるものである。本発明に有用な他の境界配列の例としては、
TGACAGGATATATTGGCGGGTAAAC(配列番号:110);TGGCAGGATATATTGTGGTGTAAAC(配列番号:111);TGGCAGGATATATACCGTTGTAATT(配列番号:112);CGGCAGGATATATTCAATTGTAATT(配列番号:113);TGGTAGGATATATACCGTTGTAATT(配列番号:114);TGGCAGGATATATGGTACTGTAATT(配列番号:115);YGRYAGGATATATWSNVBKGTAAWY(配列番号:116);CGGCAGGATATATCCTGATGTAAAT(配列番号:117);TGGCAGGAGTTATTCGAGGGTAAAC(配列番号:118);TGACAGGATATATCGTGATGTCAAC(配列番号:119);GGGAAGTACATATTGGCGGGTAAAC(配列番号:120);TTACAGGATATATTAATATGTATGA(配列番号:121);TAACATGATATATTCCCTTGTAAAT(配列番号:122);TGACAGGATATATGGTAATGTAAAC(配列番号:123);およびTGGCAGGATATATACCGATGTAAAC(配列番号:124)、
配列中、* Y = CまたはT;R = AまたはG;K = GまたはT;W = AまたはT;S = CまたはG;V = A、C、またはG;B = C、G、またはT
が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0306】
植物細胞に遺伝子を転移するために伝統的にアグロバクテリウム属種だけが使用されているが、アグロバクテリウム属種と類似の方法で作用する、同定/発育された多くの系が、現在存在する。最近、幾つかの非アグロバクテリウム属種が、遺伝子転移に対してコンピテントとなるように遺伝子修飾された(Chungら、2006;Broothaertsら、2005)。これらとしては、リゾビウム属種NGR234、シノリゾビウム・メリロティおよびメゾリゾビウム・ロティが挙げられる。細菌は、形質転換プロセスのために必要とされる機構を有する細菌、すなわち、アグロバクテリウムTiプラスミドおよび別々の小さいバイナリープラスミド上に存在するT−DNAセグメントによってコードされる病原性遺伝子のセットを細菌に提供することによって遺伝子転移に対してコンピテントとされる。この方法において操作される細菌は、異なる植物組織(葉ディスク、カルスおよび卵円形組織)、単子葉植物または双子葉植物、ならびに様々な異なる植物種(例えば、タバコ、イネ)を形質転換することができる。
【0307】
細菌から真核生物宿主への真核生物発現プラスミドの直接転移は、最初に、哺乳動物細胞およびプラスミド運搬エシェリヒア・コリの原形質体の融合によって数十年前に達成された(Schaffner、1980)。それ以来、4つのグループ(Sizemoreら、1995;Courvalinら、1995;Powellら、1996;Darjiら、1997)によって独立して発見された遺伝子を哺乳動物細胞中に送達することができる細菌の数は、着実に増加した(Weiss、2003)。
【0308】
S.フレクスネリの病原性プラスミド(pWR100)によって浸潤性(invasive)とされた弱毒化シゲラ・フレクスネリ、サルモネラ・チフィムリウムまたはE.コリは、宿主細胞の浸潤と代謝減衰による細胞内死との後で発現プラスミドを転移することができることを示した。かかる組換えシゲラまたはサルモネラの経鼻的または経口的のいずれかによる粘膜塗布は、発現プラスミドによってコードされた抗原に対する免疫応答を誘導した。その間、in vitroおよびin vivoで発現プラスミドを哺乳動物宿主細胞に転移することができることを示した細菌の一覧は、次いでより2倍になり、S.チフィ(S. typhi)、S.コレレスイス、リステリア・モノサイトゲネス、エルシニア・シュードツベルクローシスおよびY.エンテロコリチカについて文書に記録されている(Fennellyら、1999;Shiauら、2001;Dietrichら、1998、2001;Henseら、2001;Al−Maririら、2002)。
【0309】
一般に、(S.フレクスネリまたはL.モノサイトゲネス等の)宿主細胞のサイトゾルに入り、この細胞区画の中で溶解することができる全ての細菌は、DNAを転移することができると考えることができた。これは、細菌が生じるべきDNA転移のために溶解しなければならない場合、「不全性」(abortive)または「自殺的」(suicidal)浸潤として知られている(Grillot−Courvalinら、1999)。さらに、(S.チフィムリウム等の)食胞のままである細菌の多くでさえ、そうすることが可能でもあり得る。従って、浸潤性であるように操作されたE.コリの組換え実験室株は、ファゴソーム逃避が可能でないが、それでもそれらのプラスミドロードを感染哺乳動物細胞の核に送達することができた(Grillot−Courvalinら、1998)。さらに、最近、アグロバクテリウム・ツメファシエンスは、導入遺伝子を哺乳動物細胞中に導入することも示されている(Kunikら、2001)。
【0310】
染色体外転移エレメントを使用する転移プロセスは、典型的には、エレメントの多数のコピーをレシピエント細胞中に転移する。本明細書において使用される「一過性にトランスフェクトされた」という用語は、外因性ポリヌクレオチドの一部が細胞のゲノム中に安定して組み込まれるようになることができるにもかかわらず、細胞が安定した組込みのために選択されないことを意味する。その結果、転移核酸の多くは、細胞中において染色体外のままであり、例えば、レシピエント細胞中に転移される外因性ポリヌクレオチドのコピーの90%超がゲノム中に組み込まれない。
【0311】
一般に、本明細書において使用される「トランスフェクション」、「形質転換」という用語およびそれらの変形物は、交換可能に使用される。「トランスフェクトされた」または「形質転換された」細胞は、外因性ポリヌクレオチド(複数可)を導入するために操作することができたか、またはそれに由来する子孫細胞であり得る。
【0312】
組換え細胞
本発明は、本明細書において定義されるポリヌクレオチド、キメラDNAまたは組換えベクター等の1個または複数個の組換え分子で形質転換された宿主細胞である組換え細胞、好ましくは組換え植物細胞をも提供する。組換え細胞は、その任意の組合せ、例えば2つまたは3つの組換えベクター、あるいは組換えベクターおよび1つもしくは複数の更なるポリヌクレオチドまたはキメラDNAを含むことができる。本発明の適切な細胞としては、例えば本明細書において記載されるポリペプチドまたは酵素をコードする分子等、本発明のポリヌクレオチド、キメラDNAまたは組換えベクターで形質転換され得るあらゆる細胞が挙げられる。細胞は、好ましくは、それによりLC−PUFAを産生するために使用され得る細胞である。組換え細胞は、培養における細胞、in vitroにおける細胞、または例えば植物等の生物における細胞、または例えば種子もしくは葉等の器官における細胞であり得る。好ましくは、細胞は、植物中にあり、より好ましくは植物の種子中にある。
【0313】
ポリヌクレオチド(複数可)が導入される宿主細胞は、非形質転換細胞または少なくとも1個の核酸分子で既に形質転換された細胞のいずれかであり得る。かかる核酸分子は、LC−PUFA合成に関連があってよいか、または関連がなくてもよい。本発明の宿主細胞は、本明細書において定義されるタンパク質を内因的に(すなわち、天然に)産生することが可能であり得る(その場合、それに由来する組換え細胞がポリペプチドを産生する増強された能力を有する)か、または本発明の少なくとも1つのポリヌクレオチドで形質転換された後にだけかかるタンパク質を産生することが可能であり得る。一実施形態において、本発明の組換え細胞は、長鎖多価不飽和脂肪酸を合成する増強された能力を有する。本明細書において使用される「長鎖多価不飽和脂肪酸を合成する増強された能力を有する細胞」という用語は相対的な用語であり、ここで本発明の組換え細胞は、本発明のポリヌクレオチド(複数可)を欠く宿主細胞と比較され、組換え細胞がより多くの長鎖多価不飽和脂肪酸を産生するか、またはネイティブ細胞よりも(他の脂肪酸と比較して)EPA、DPAまたはDHA等のLC−PUFAの濃度が大きい。例えば他の脂肪酸、脂質、炭水化物、例えばデンプン、RNA分子、ポリペプチド、医薬または他の産物等の他の産物を合成する増強された能力を有する細胞は、対応する意味を有する。
【0314】
本発明の宿主細胞は、本明細書において記載される少なくとも1種のタンパク質を産生し得るあらゆる細胞であってよく、細菌、真菌(酵母を含む)、寄生生物、節足動物、動物および植物細胞が含まれる。細胞は、原核性または真核性であってよい。好ましい宿主細胞は、酵母および植物細胞である。好ましい一実施形態において、植物細胞は、種子細胞、特に種子の子葉または内乳中における細胞である。一実施形態において、細胞は、動物細胞または藻類細胞である。動物細胞は、例えば、非ヒト動物細胞、非ヒト脊椎動物細胞、非ヒト哺乳動物細胞、または魚類もしくは甲殻類等の水生動物、無脊椎動物、昆虫等の細胞等、動物のあらゆる型のものであってよい。節足動物細胞の非限定的な例としては、昆虫細胞、例えば、スポドプテラ・フルギペルダ(Spodoptera frugiperda)(Sf)細胞、例えば、Sf9、Sf21、トリコプルシア・ニ(Trichoplusia ni)細胞およびドロソフィラ(Drosophila)S2細胞が挙げられる。本発明の宿主細胞として有用な細菌細胞の一例は、(シネコシスティス属種としても公知である)シネココッカス(Synechococcus)属種、例えば、シネココッカス・エロンガタス(Synechococcus elongatus)である。
【0315】
細胞は、発酵プロセスに適切な生物のものであってよい。本明細書において使用される「発酵プロセス」という用語は、あらゆる発酵プロセスまたは発酵ステップを含むあらゆるプロセスを指す。発酵プロセスとしては、限定されないが、アルコール(例えば、エタノール、メタノール、ブタノール)、有機酸(例えば、クエン酸、酢酸、イタコン酸、乳酸、グルコン酸)、ケトン(例えば、アセトン)、アミノ酸(例えば、グルタミン酸)、ガス(例えば、H
2およびCO
2)、抗生物質(例えば、ペニシリンおよびテトラサイクリン)、酵素、ビタミン(例えば、リボフラビン、ベータカロチン)およびホルモンを産生するために使用される発酵プロセスが挙げられる。また、発酵プロセスとしては、摂取可能アルコール業(例えば、ビールおよびワイン)、乳業(例えば、発酵乳製品)、皮革業およびタバコ業において使用される発酵プロセスも挙げられる。好ましい発酵プロセスとしては、本技術分野において周知の通りのアルコール発酵プロセスが挙げられる。好ましい発酵プロセスは、本技術分野において周知の通りの嫌気性発酵プロセスである。適切な発酵細胞、典型的には微生物は、グルコースまたはマルトース等の糖を直接的または間接的に所望の発酵産物に発酵させること、すなわち変換させることが可能である。発酵微生物の例としては、真菌性生物(例えば、酵母)が挙げられる。本明細書において使用される「酵母」としては、サッカロミセス(Saccharomyces)属種、サッカロミセス・セレビジエ(Saccharomyces cerevisiae)、サッカロミセス・カールベルゲンシス(Saccharomyces carlbergensis)、カンジダ(Candida)属種、クルヴェロマイシス(Kluveromyces)属種、ピキア(Pichia)属種、ハンゼヌラ(Hansenula)属種、トリコデルマ(Trichoderma)属種、リポミセス・スターケイ(Lipomyces starkey)およびヤローウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)が挙げられる。好ましい酵母としては、サッカロミセス属種、特にサッカロミセス・セレビジエの株が挙げられる。
【0316】
トランスジェニック植物
本発明はまた、本発明の細胞を含む植物、例えば、本発明の1つまたは複数のポリヌクレオチドを含むトランスジェニック植物をも提供する。本明細書において名詞として使用される「植物」という用語は、全植物を指すが、形容詞として使用される場合は、例えば、植物器官(例えば、葉、茎、根、花)、単細胞(例えば、花粉)、種子、植物細胞等の、植物中に存在する、植物から得られた、植物に由来する、または植物に関連したあらゆる物質を指す。「植物部分」という用語は、植物構造、例えば、葉または茎、根、花器官または構造、花粉、種子、種子部分、例えば、胚、内乳、胚盤または種皮、植物組織、例えば、維管束組織、細胞および同じものの子孫が含まれる、植物DNAを含む全ての植物部分を指す。
【0317】
「トランスジェニック植物」、「遺伝子修飾された植物」またはそれらの変形物は、同じ種、変種または栽培品種の野生型植物においては見出されない遺伝子構築物(「導入遺伝子」)を含有する植物を指す。本発明の文脈において定義されるトランスジェニック植物としては、所望の植物または植物器官において本明細書において定義される少なくとも1種のポリペプチドを産生させるように組換え技術を用いて遺伝子修飾された植物およびそれらの子孫が挙げられる。トランスジェニック植物細胞およびトランスジェニック植物部分は、対応する意味を有する。本明細書において言及される「導入遺伝子」は、バイオテクノロジーの技術分野における通常の意味を有し、組換えDNAまたはRNA技術によって産生または改変された、本発明の細胞、好ましくは植物細胞中に導入された遺伝子配列を含む。導入遺伝子は、導入遺伝子が導入される植物細胞と同じ種、変種もしくは栽培品種のもの、または異なる種、変種もしくは栽培品種のものであってよい植物細胞に由来する、あるいは植物細胞以外の細胞に由来する遺伝子配列を含むことができる。典型的には、導入遺伝子は、人的操作によって、例えば形質転換等によって植物等の細胞中に導入されているが、当業者が認識しているようなあらゆる方法を使用することができる。
【0318】
「種子」および「穀粒」という用語は、本明細書において交換可能に使用される。「穀粒」は、成熟した穀粒、例えば、採取された穀粒またはなお植物にあるが採収の準備が整っている穀粒を指すが、文脈に従って、吸水または発芽の後の穀粒を指すこともできる。成熟した穀粒は、概して約18〜20%未満の水分含有率を有する。本明細書において使用される「発育中の種子」は、典型的には受精または開花後の植物の繁殖構造において見出される成熟前の種子を指すが、植物から単離された成熟前のかかる種子を指すこともできる。
【0319】
本明細書において使用される「植物貯蔵器官」という用語は、例えば、タンパク質、炭水化物、脂肪酸および/または油の形態で貯蔵エネルギーに特化した植物の部分を指す。植物貯蔵器官の例は、種子、果実、塊状根および塊茎である。本発明の好ましい植物貯蔵器官は、種子である。
【0320】
本明細書において使用される「表現型的に正常」という用語は、未修飾の植物または植物器官と比較した場合、成長し、繁殖する能力が著しく低下していない、遺伝子修飾された植物または植物器官、特に貯蔵器官、例えば、本発明の種子、塊茎もしくは果実を指す。一実施形態において、表現型的に正常な遺伝子修飾された植物または植物器官は、植物貯蔵器官特異的プロモーターに作動可能に連結したサイレンシングサプレッサーをコードする外因性ポリヌクレオチドを含み、ポリヌクレオチドを含まないアイソジェニック植物または器官と本質的に同じ成長または繁殖する能力を有する。好ましくは、生物量、成長率、発芽率、貯蔵器官の大きさ、種子の大きさおよび/または産生された生存種子の数は、同一の条件下で成長させた場合、外因性ポリヌクレオチドを欠く植物の生物量、成長率、発芽率、貯蔵器官の大きさ、種子の大きさおよび/または産生された生存種子の数の90%以上である。この用語は、野生型植物と異なり得るが、例えば芽生え葉のバレリーナ表現型等の商業的目的のための植物の有用性を生じさせない植物の特性を包含しない。
【0321】
本発明の実施によって提供されるか、本発明の実施における使用が検討される植物は、単子葉植物および双子葉植物の両方を含む。好ましい実施形態において、本発明の植物は、作物植物(例えば、穀菽、トウモロコシ、コムギ、ジャガイモ、タピオカ、イネ、モロコシ、キビ、キャッサバ、オオムギもしくはエンドウ)または他のマメ類である。植物は、食用の根、塊茎、葉、茎、花または果実の生産のために成長させ得る。植物は、野菜または観賞植物であってよい。本発明の植物は、トウモロコシ(ゼア・マイス)、キャノーラ(ブラッシカ・ナパス、ブラッシカ・ラパ種)、アマ(リナム・ウシタチシマム)、ムラサキウマゴヤシ(メジカゴ・サチバ(Medicago sativa))、イネ(オリザ・サチバ(Oryza sativa))、ライムギ(セカレ・ケラレ(Secale cerale))、モロコシ(ソルガム・ビコロール(Sorghum bicolour)、ソルガム・ブルガレ(Sorghum vulgare))、ヒマワリ(ヘリアンサス・アナス)、コムギ(トリチウム・アエスチブム(Tritium aestivum))、ダイズ(グリシン・マックス)、タバコ(ニコチアナ・タバカム)、ジャガイモ(ソラヌム・ツベロスム(Solanum tuberosum))、落花生(アラキス・ヒポゲア)、綿(ゴシピウム・ヒルスツム)、サツマイモ(ロプモエア・バタツス(Lopmoea batatus))、キャッサバ(マニホト・エスクレンタ(Manihot esculenta))、コーヒー(コフェア(Cofea)属種)、ココナッツ(ココス・ヌシフェラ)、パイナップル(アナナ・コモスス(Anana comosus))、柑橘類の樹木(シトラス(Citrus)属種)、ココア(テオブロマ・カカオ(Theobroma cacao))、茶(カメリア・セネンシス(Camellia senensis))、バナナ(ムサ属種)、アボカド(ペルセア・アメリカナ)、イチジク(フィクス・カシカ(Ficus casica))、グァバ(プシディウム・グアジャバ(Psidium guajava))、マンゴー(マンギフェラ・インディカ(Mangifer indica))、オリーブ(オレア・エウロパエア)、パパイア(カリカ・パパヤ(Carica papaya))、カシュー(アナカルジウム・オクシデンタレ)、マカダミア(マカダミア・インテルグリフォリア)、アーモンド(プルヌス・アミグダルス)、テンサイ(ベタ・ブルガリス(Beta vulgaris))、オートムギまたはオオムギであってよい。
【0322】
好ましい一実施形態において、植物は被子植物である。
【0323】
一実施形態において、植物は、油料種子植物、好ましくは油料種子作物植物である。本明細書において使用される「油料種子植物」は、植物の種子からの油の商業的生産のために使用される植物種である。油料種子植物は、アブラナ(例えば、キャノーラ)、トウモロコシ、ヒマワリ、ダイズ、モロコシ、アマ(アマニ)またはテンサイであってよい。さらに、油料種子植物は、他のブラッシカ、綿、落花生、ポピー、マスタード、トウゴマ、ゴマ、ベニバナまたはナッツを産生する植物であってよい。植物は、その果実(例えばオリーブ、アブラヤシまたはココナッツ)中において高レベルの油を産生することができる。本発明が適用され得る園芸植物は、レタス、エンダイブ、またはキャベツ、ブロッコリもしくはカリフラワーを含む野菜のアブラナ類である。本発明は、タバコ、ウリ科植物、ニンジン、イチゴ、トマトまたはコショウにおいて適用され得る。
【0324】
更なる好ましい一実施形態において、本発明のトランスジェニック植物を産生するために使用される非トランスジェニック植物は、とりわけ種子中において、i)20%未満、10%未満もしくは5%未満の18:2脂肪酸および/またはii)10%未満もしくは5%未満の18:3脂肪酸を有する油を産生する。
【0325】
好ましい一実施形態において、トランスジェニック植物は、その子孫が所望の表現型について分離しないように導入されたどの遺伝子(導入遺伝子)についてもホモ接合性である。トランスジェニック植物は、例えば雑種種子から成長したF1子孫の場合等、導入された導入遺伝子(複数可)についてヘテロ接合性、好ましくは導入遺伝子について一様にヘテロ接合性であってもよい。かかる植物は、本技術分野において周知の雑種強勢等の利点を提供することができる。
【0326】
関連のある場合、トランスジェニック植物は、限定されないが、Δ6デサチュラーゼ、Δ9エロンガーゼ、Δ8デサチュラーゼ、Δ6エロンガーゼ、Δ5デサチュラーゼ、ω3デサチュラーゼ、Δ4デサチュラーゼ、Δ5エロンガーゼ、ジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼ、Δ17デサチュラーゼ、Δ15デサチュラーゼおよび/またはΔ12デサチュラーゼ等のLC−PUFAの産生に関与する酵素をコードする更なる導入遺伝子を含むこともできる。これらの活性のより多くのものの内の1つを有するかかる酵素の例は、本技術分野において公知であり、本明細書およびWO05/103253(例えば、WO05/103253の表1参照)に記載されるものが含まれる。具体例において、トランスジェニック植物は、
a)Δ4デサチュラーゼ、Δ5デサチュラーゼ、Δ6デサチュラーゼ、Δ5エロンガーゼおよびΔ6エロンガーゼ、
b)Δ4デサチュラーゼ、Δ5デサチュラーゼ、Δ8デサチュラーゼ、Δ5エロンガーゼおよびΔ9エロンガーゼ、
c)Δ4デサチュラーゼ、Δ5デサチュラーゼ、Δ6デサチュラーゼ、Δ5エロンガーゼ、Δ6エロンガーゼおよびΔ15デサチュラーゼ、
d)Δ4デサチュラーゼ、Δ5デサチュラーゼ、Δ8デサチュラーゼ、Δ5エロンガーゼ、Δ9エロンガーゼおよびΔ15デサチュラーゼ、
e)Δ4デサチュラーゼ、Δ5デサチュラーゼ、Δ6デサチュラーゼ、Δ5エロンガーゼ、Δ6エロンガーゼおよびΔ17デサチュラーゼ、または
f)Δ4デサチュラーゼ、Δ5デサチュラーゼ、Δ8デサチュラーゼ、Δ5エロンガーゼ、Δ9エロンガーゼおよびΔ17デサチュラーゼ
をコードする外因性ポリヌクレオチドを少なくとも含む。
【0327】
植物の形質転換
トランスジェニック植物は、本技術分野において公知の技術、例えば、一般に、A.Slaterら、Plant Biotechnology−The Genetic Manipulation of Plants、Oxford University Press(2003)、ならびにP.ChristouおよびH.Klee、Handbook of Plant Biotechnology、John Wiley and Sons(2004)に記載されているものを使用して産生され得る。
【0328】
本明細書において使用される「安定して形質転換する」、「安定して形質転換された」という用語およびそれらの変形物は、外因性核酸分子が、それらの存在に対する積極的な選択の必要なしで細胞分裂の間に子孫細胞に転移されるような細胞のゲノム中への外因性核酸分子の組込みを指す。安定した形質転換体またはその子孫は、本技術分野において公知のあらゆる手段、例えば、染色体DNAにおけるサザンブロットまたはゲノムDNAのインサイチュハイブリダイゼーションによって選択され得る。
【0329】
一過性発現のために、または植物細胞ゲノム中におけるDNAの安定した組込みのために、全植物組織もしくは植物器官中における細胞、または組織培養物中における外植体(explants)にDNAを導入することができるので、アグロバクテリウム媒介転移は、遺伝子を植物細胞中に導入するための広く適用可能な系である。DNAを植物細胞中に導入するためのアグロバクテリウム媒介植物組込みベクターの使用は、本技術分野において周知である(例えば、US5177010、US5104310、US5004863またはUS5159135参照)。転移すべきDNAの領域は、境界配列によって限定され、介在性DNA(T−DNA)は、通常、植物ゲノム中に挿入される。さらに、T−DNAの組込みは、再配列をほとんどもたらさない相対的に厳密なプロセスである。アグロバクテリウム媒介形質転換が効率的であるそれらの植物の変種において、遺伝子転移の容易でかつ定義された性質のため、それは選択の方法である。好ましいアグロバクテリウム形質転換ベクターは、E.コリならびにアグロバクテリウムにおける複製が可能であり、記載されている通りの好都合な操作を可能にする(Kleeら、In:Plant DNA Infectious Agents、HohnおよびSchell(編)、Springer−Verlag、New York、179〜203頁(1985)。
【0330】
使用され得る加速法としては、例えば、マイクロプロジェクタイルボンバードメント(microprojectile bombardment)等が挙げられる。形質転換核酸分子を植物細胞に送達するための方法の一例は、マイクロプロジェクタイルボンバードメントである。この方法は、Yangら、Particle Bombardment Technology for Gene Transfer、Oxford Press、Oxford、England(1994)によって概説されている。非生物学的粒子(マイクロプロジェクタイル)に核酸をコーティングし、それらを推進力によって細胞に送達することができる。例示的粒子としては、タングステン、金、白金等より成るものが挙げられる。マイクロプロジェクタイルボンバードメントの特定の利点は、単子葉植物を繁殖可能に形質転換させる有効な手段であることに加えて、原形質体の単離も、アグロバクテリウム感染に対する感受性も必要としないことである。加速によってゼア・マイス細胞にDNAを送達するための方法の例示的な一実施形態は、DNAでコーティングした粒子を、スクリーン(例えば、ステンレス鋼またはNytexスクリーン)を通って、懸濁液中で培養されたトウモロコシ細胞で覆われたフィルター表面上へと推進させるために使用され得る微粒子銃α粒子送達系である。本発明と共に使用するために適切な粒子送達系は、Bio−Rad Laboratoriesから入手可能なヘリウム加速PDS−1000/He銃である。
【0331】
ボンバードメントのために、懸濁液中の細胞をフィルター上において濃縮させることができる。ボンバードメントに付される細胞を含有するフィルターを、マイクロプロジェクタイル停止用プレートの下に適切な距離で配置する。所望により、銃とボンバードメントに付される細胞との間に1つまたは複数のスクリーンも配置する。
【0332】
別の場合、未成熟胚または他の標的細胞を固体培養培地上に配置してよい。ボンバードメントに付される細胞を、マイクロプロジェクタイル停止用プレートの下に適切な距離で配置する。所望により、加速装置とボンバードメントに付される細胞との間に1つまたは複数のスクリーンも配置する。本明細書において記載される技術の使用により、マーカー遺伝子を一過性に発現する細胞の最高1000以上の増殖巣(foci)を得ることができる。ボンバードメントの48時間後に外因性遺伝子産物を発現する増殖巣中の細胞数は、多くの場合、1から10の範囲に及び、平均1から3の範囲に及ぶ。
【0333】
ボンバードメント形質転換において、最大数の安定した形質転換体を生成するようにボンバードメント前培養条件およびボンバードメントパラメータを最適化することができる。ボンバードメントの物理的パラメータおよび生物学的パラメータの両方が、この技術において重要である。物理的因子は、DNA/マイクロプロジェクタイル沈殿物の操作を含むもの、または、マクロプロジェクタイルもしくはマイクロプロジェクタイルのいずれかの飛行および速度に影響を及ぼすものである。生物学的因子としては、ボンバードメントの前および直後の細胞の操作に関与する全てのステップ、ボンバードメントに伴う外傷の緩和を助長するための標的細胞の浸透圧調整、およびまた、線形化DNAまたは無損傷超螺旋プラスミド等の形質転換DNAの性質が挙げられる。ボンバードメント前操作は、未成熟胚の成功した形質転換のためにとりわけ重要であると考えられる。
【0334】
他の一代替的実施形態では、プラスチドを安定して形質転換させることができる。高等植物におけるプラスチド形質転換について開示されている方法としては、選択可能なマーカーを含有するDNAの粒子銃送達、および相同組換えによるプラスチドゲノムへのDNAの標的化が挙げられる(US5,451,513、US5,545,818、US5,877,402、US5,932479およびWO99/05265)。
【0335】
従って、小規模な研究においてボンバードメントパラメータの様々な態様を調整して、それらの条件を十分に最適化することを望み得ると考えられる。特に、ギャップ距離、飛行距離、組織距離、およびヘリウム圧等の物理的パラメータの調整が特に望まれる可能性がある。レシピエント細胞の生理学的状態に影響を及ぼし、従って、形質転換および組込みの効率に影響を及ぼし得る条件を修飾することによって、外傷低減因子を最小にすることもできる。例えば、浸透圧状態、組織水和およびレシピエント細胞の継代培養段階または細胞周期を、最適な形質転換のために調整することができる。他のルーチンな調整の実行は、本開示に鑑みて当業者に公知である。
【0336】
植物原形質体の形質転換は、リン酸カルシウム沈殿、ポリエチレングリコール処理、エレクトロポレーションおよびこれらの処理の組合せに基づいた方法を使用して達成され得る。異なる植物変種に対するこれらの系の適用は、原形質体からその特定の植物系統を再生する能力に依存する。原形質体からの穀類の再生について例証となる方法が記載されている(Fujimuraら、1985;Toriyamaら、1986;Abdullahら、1986)。
【0337】
細胞形質転換の他の方法を使用することもでき、それらの方法としては、花粉中への直接のDNA転移によって、植物の生殖器官中へのDNAの直接注入によって、または未成熟胚の細胞中へのDNAの直接注入後の乾燥胚の再水和によって、植物中にDNAを導入することが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0338】
単一植物原形質体形質転換体からの、または様々な形質転換外植体からの、植物の再生、発育および培養は、本技術分野において周知である(Weissbachら、In:Methods for Plant Molecular Biology、Academic Press、San Diego、Calif.、(1988)。この再生および成長プロセスは、典型的には、形質転換細胞の選択のステップ、それらの個別に区別された細胞を、通常の胚発育期を経て根付き苗木期まで培養するステップを含む。トランスジェニック胚および種子は、同様に再生される。その後、得られたトランスジェニック根付き苗条を適切な植物成長培地(例えば、土壌)に植える。
【0339】
外来、外因性遺伝子を含有する植物の発育または再生は、本技術分野において周知である。好ましくは、再生植物を自家受粉させてホモ接合型トランスジェニック植物を提供する。それ以外の場合、再生植物から得られた花粉を、作物学的に重要な系列の種子から成長した植物に交配する。逆に、これらの重要な系列の植物からの花粉を使用して、再生植物に授粉する。所望の外因性核酸を含有する本発明のトランスジェニック植物は、当業者に周知の方法を使用して栽培される。
【0340】
主としてアグロバクテリウム・ツメファシエンスの使用による、双子葉植物を形質転換させるための方法およびトランスジェニック植物を得るための方法が、綿(US5,004,863、US5,159,135、US5,518,908)、ダイズ(US5,569,834、US5,416,011)、ブラッシカ(US5,463,174)、落花生(Chengら、1996)およびエンドウ(Grantら、1995)について公開されている。
【0341】
外因性核酸の導入によって遺伝的変異を植物中に導入するためのコムギおよびオオムギ等の穀物植物の形質転換方法、ならびに原形質体または未成熟植物胚からの植物の再生方法は、本技術分野において周知であり(例えば、CA2,092,588、AU61781/94、AU667939、US6,100,447、PCT/US97/10621、US5,589,617、US6,541,257参照)、他の方法は、特許明細書WO99/14314に記載されている。好ましくは、トランスジェニックコムギまたはオオムギ植物が、アグロバクテリウム・ツメファシエンス媒介形質転換手法によって産生される。所望の核酸構築物を担持するベクターを、組織培養植物もしくは外植体の再生可能なコムギ細胞、または適切な植物系(例えば、原形質体)中に導入することができる。
【0342】
再生可能コムギ細胞は、好ましくは、未成熟胚の胚盤(scutellum)、成熟胚の胚盤(embryo)、これらから誘導されたカルス、または分裂組織(meristematic tissue)に由来する。
【0343】
トランスジェニック細胞およびトランスジェニック植物において導入遺伝子の存在を確認するために、当業者に公知の方法を使用して、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)増幅またはサザンブロット分析を行うことができる。導入遺伝子の発現産物は、その産物の性質に依存して、ウエスタンブロットおよび酵素アッセイを含む様々な方法のいずれかで検出され得る。タンパク質発現を定量するためのおよび異なる植物組織中における複製を検出するための1つの特に有用な方法は、レポーター遺伝子(例えば、GUS)を使用することである。一旦トランスジェニック植物が得られると、それらを成長させて、所望の表現型を有する植物組織または部分を産生することができる。その植物組織または植物部分を採取してもよいし、および/またはその種子を回収してもよい。この種子は、所望の特徴を有する組織または部分を有する更なる植物を成長させるための源として役立つことができる。
【0344】
アグロバクテリウムまたは他の形質転換方法を使用して形成されたトランスジェニック植物は、典型的には、1つの染色体上に単一の遺伝子座を含有する。かかるトランスジェニック植物は、付加遺伝子(複数可)についてヘミ接合性であると称され得る。付加遺伝子(複数可)についてホモ接合性であるトランスジェニック植物、すなわち2つの付加遺伝子(染色体対の各染色体上の同じ遺伝子座に1つの遺伝子)を含有するトランスジェニック植物が、より好ましい。ホモ接合型トランスジェニック植物は、ヘミ接合型トランスジェニック植物を自家受精させ、産生した種子の一部を発芽させ、得られた植物を対象となる遺伝子について分析することによって得られ得る。
【0345】
2つの独立して分離した外因性遺伝子または遺伝子座を含有する2つの異なるトランスジェニック植物を交配させて(掛け合わせて)、両組の遺伝子または遺伝子座を含有する子孫を産生することもできることも理解される。適切なF1子孫の自殖は、両方の外因性遺伝子または遺伝子座についてホモ接合性である植物を産生することができる。栄養繁殖のように、親植物への戻し交配および非トランスジェニック植物との異系交配も検討される。異なる形質および作物のために一般的に用いられる他の育種方法の記載は、Fehr、In:Breeding Methods for Cultivar Development、Wilcox J.編、American Society of Agronomy、Madison Wis.(1987)において見出され得る。
【0346】
トランスジェニック非ヒト動物
「トランスジェニック非ヒト動物」は、同じ種または品種の野生型動物において見出されない遺伝子構築物(「導入遺伝子」)を含有する(ヒト以外の)動物を指す。この文脈において言及される「導入遺伝子」は、バイオテクノロジーの技術分野における通常の意味を有し、および組換えDNAまたはRNA技術によって産生または改変され、動物細胞中に導入された遺伝子配列を含む。導入遺伝子は、導入遺伝子が導入される細胞と同じまたは異なる種または品種のものであり得る動物細胞に由来する遺伝子配列を含むことができる。典型的には、導入遺伝子は、人的操作によって、例えば形質転換等によって動物中に導入されているが、当業者が認識している通りのあらゆる方法を使用することができる。
【0347】
トランスジェニック動物を産生するための技術は、本技術分野において周知である。この主題についての有用な一般的教科書は、Houdebine、Transgenic animals−Generation and Use(Harwood Academic、1997)である。細胞中へのポリヌクレオチド分子の形質転換は、その細胞中にポリヌクレオチド分子を挿入することができるあらゆる方法によって達成され得る。形質転換技術としては、トランスフェクション、エレクトロポレーション、マイクロインジェクション、リポフェクション、吸着および細胞融合が挙げられるが、これらに限定されるものではない。組換え細胞は、単細胞のままであり得るか、または組織、器官もしくは多細胞生物に成長し得る。形質転換ポリヌクレオチド分子は、染色体外のままであり得るか、または発現すべきそれらの能力が保持されるように形質転換(すなわち、組換え)細胞の染色体の中の1つもしくは複数の部位に組み込まれ得る。異種のDNAを、例えば受精した哺乳動物卵子に導入することができる。例えば、全能性または多能性幹細胞を、マイクロインジェクション、リン酸カルシウム媒介沈殿、リポソーム融合、レトロウイルス感染または他の手段によって形質転換させることができ、次いで、形質転換細胞を胚に導入し、次いで、その胚はトランスジェニック動物に発育する。非常に好ましい方法において、発育中の胚を、所望のDNAを含有するレトロウイルスに感染させ、その感染させた胚からトランスジェニック動物を産生させる。しかし、最も好ましい方法において、適切なDNAを、好ましくは単細胞期にある胚の前核または細胞質に同時注入し、それらの胚を成熟トランスジェニック動物へと発育させる。
【0348】
トランスジェニック動物を産生するために使用される他の方法は、標準法によって前核期卵子に核酸をマイクロインジェクションすることを含む。次いで、注入された卵子を培養した後、偽妊娠レシピエントの卵管中に転移する。
【0349】
トランスジェニック動物は、核転移技術によって産生することもできる。この方法を使用して、ドナー動物からの繊維芽細胞を、調節配列の制御下で、対象となる結合ドメインまたは結合パートナーに対するコード配列を組み込むプラスミドで安定してトランスフェクトする。次いで、安定したトランスフェクタントを除核卵母細胞に融合し、培養し、雌レシピエントに転移する。
【0350】
外因性RNAレベルおよび安定化した発現の増強
サイレンシングサプレッサー
転写後遺伝子サイレンシング(PTGS)は、分解のために細胞mRNAおよびウイルスmRNAの両方を標的とすることができるヌクレオチド配列特異的防御機構であり、PTGSは、外来(異種)または内因性DNAで安定してまたは一過性に形質転換された植物または真菌において出現し、導入された核酸との配列類似性を有するRNA分子の蓄積の減少をもたらす。
【0351】
対象となる導入遺伝子とのサイレンシングサプレッサーの共発現が、その導入遺伝子から転写された細胞中に存在するRNAのレベルを増加させることは、広く考慮されている。このことは、in vitroでの細胞について真であることを証明しているのに対して、著しい副作用が、多くの全植物共発現研究において観察されている。より具体的には、Malloryら(2002)、Chapmanら(2004)、Chenら(2004)、Dunoyerら(2004)、Zhangら(2006)、Lewseyら(2007)およびMengら(2008)において記載されているように、一般に構成的プロモーターの下でサイレンシングサプレッサーを発現する植物は、多くの場合、それらが商業的生産に有用でない程度まで表現型的に異常である。
【0352】
上記で概説されるように、本発明者らは、サイレンシングサプレッサーの発現をその植物もしくは部分の貯蔵器官に限定することによって、RNA分子レベルが増加し得る、および/または、RNA分子レベルが多くの世代にわたって安定化され得ることを見出した。本明細書において使用される「サイレンシングサプレッサー」は、特に最初に形質転換された植物から繰り返された世代にわたって、植物細胞中における異なる導入遺伝子に由来する発現産物のレベルを増強する植物細胞中において発現され得るあらゆるポリヌクレオチドまたはポリペプチドである。一実施形態において、サイレンシングサプレッサーは、ウイルスサイレンシングサプレッサーまたはその突然変異体である。多数のウイルスサイレンシングサプレッサーが本技術分野において公知であり、それらとしては、P19、V2、P38、Pe−PoおよびRPV−P0が挙げられるが、これらに限定されるものではない。一実施形態において、ウイルスサイレンシングサプレッサーは、配列番号97から101のいずれか1つにおいて提供される配列、その生物学的に活性な断片、または配列番号97から101のいずれか1つもしくは複数と少なくとも50%同一でありかつサイレンシングサプレッサーとしての活性を有するアミノ酸配列を有するアミノ酸を含む。
【0353】
本明細書において使用される「発現を安定化させる」、「安定して発現された」、「安定化された発現」という用語およびそれらの変形物は、サイレンシングサプレッサーをコードする外因性ポリヌクレオチドを欠くアイソジェニック植物と比較した場合、RNA分子のレベルが、繰り返された世代、例えば少なくとも3世代、少なくとも5世代または少なくとも10世代にわたって子孫植物において本質的に同じまたはより高いことを指す。しかし、この用語(複数可)は、繰り返された世代にわたって、前世代と比較した場合にRNA分子のレベルの多少の低下、例えば1世代につき10%以上の低下があるという可能性を排除しない。
【0354】
サプレッサーは、あらゆる源(例えば、植物、ウイルス、哺乳動物等)から選択され得る。サプレッサーは、例えば、
・ フロックハウスウイルスB2、
・ ポトス潜伏ウイルスP14、
・ ポトス潜伏ウイルスAC2、
・ アフリカキャッサバモザイクウイルスAC4、
・ ベンディ黄色葉脈モザイク病C2、
・ ベンディ黄色葉脈モザイク病C4、
・ ベンディ黄色葉脈モザイク病βC1、
・ トマトクロロシスウイルスp22、
・ トマトクロロシスウイルスCP、
・ トマトクロロシスウイルスCPm、
・ トマトゴールデンモザイクウイルスAL2、
・ トマト葉巻き病ジャワウイルスβC1、
・ トマト黄化葉巻ウイルスV2、
・ トマト黄化葉巻ウイルス−China C2
・ トマト黄化葉巻ChinaウイルスY10分離菌βC1、
・ トマト黄化葉巻Israeli分離菌V2、
・ リョクトウ黄斑モザイクウイルス−Vigna AC2、
・ ハイビスカスクロロシス輪点ウイルスCP、
・ カブクリンクルウイルスP38、
・ カブクリンクルウイルスCP、
・ カリフラワーモザイクウイルスP6、
・ ビート萎黄ウイルスp21、
・ 柑橘トリステザウイルスp20、
・ 柑橘トリステザウイルスp23、
・ 柑橘トリステザウイルスCP、
・ ササゲモザイクウイルスSCP、
・ サツマイモクロロシス矮化ウイルスp22
・ キュウリモザイクウイルス2b、
・ トマトアスパーミィウイルスHC−Pro
・ ビートカーリートップウイルスL2、
・ ムギ類萎縮ウイルス19K、
・ ムギ斑葉モザイクウイルスGammab、
・ ポア半潜伏ウイルス(poa semilatent virus)Gammab、
・ 落花生クランプペクルウイルスP15、
・ イネ萎縮ウイルスPns10、
・ キュルビット(cururbit)アブラムシ媒介萎黄ウイルスP0、
・ ビート西部萎黄ウイルスP0、
・ ジャガイモウイルスX P25、
・ キュウリ葉脈黄病ウイルスP1b、
・ プラムポックスウイルスHC−Pro、
・ サトウキビモザイクウイルスHC−Pro
・ ジャガイモウイルスY株HC−Pro、
・ タバコエッチウイルスP1/HC−Pro、
・ カブモザイクウイルスP1/HC−Pro、
・ コックスフットモットルウイルスP1、
・ コックスフットモットルウイルスNorwegian分離菌P1
・ イネ黄色斑紋ウイルスP1、
・ イネ黄色斑紋ウイルス−Nigerian分離菌P1、
・ イネオーハブランカウイルスNS3
・ イネ縞葉枯ウイルスNS3
・ アブラナ感染タバコモザイクウイルス126K、
・ アブラナ感染タバコモザイクウイルスp122、
・ タバコモザイクウイルスp122、
・ タバコモザイクウイルス126
・ タバコモザイクウイルス130K、
・ タバコ茎壊疽ウイルス16K、
・ トマトブッシースタントウイルスP19、
・ トマトスポッテドウイルトウイルスNSs、
・ リンゴクロロティックリーフスポットウイルスP50、
・ グレープバインウイルスA p10、
・ BYV p21のブドウ葉巻随伴ウイルス−2相同体、
ならびにそれらの変異体/突然変異体であり得る。上記の一覧は、サプレッサーを得ることができるウイルス、および各特定のウイルスに由来するサプレッサーのためのタンパク質(例えば、B2、P14等)またはコード領域の名称を提供する。
【0355】
サプレッサーのマルチコピーを使用することができる。異なるサプレッサーを一緒に(例えば、相前後して)使用することができる。
【0356】
RNA分子
本質的には、植物貯蔵器官中において発現させることが望ましいあらゆるRNA分子を、サイレンシングサプレッサーと共発現させることができる。RNA分子は、農業形質、耐虫性、耐病性、除草剤抵抗性、繁殖不能性、穀粒特性等に影響を及ぼし得る。コードされたポリペプチドは、油、デンプン、炭水化物、栄養素等の代謝に関与し得るか、またはタンパク質、ペプチド、脂肪酸、脂質、ロウ、油、デンプン、糖類、炭水化物、香料、臭気、トキシン、カロチノイド、ホルモン、ポリマー、フラボノイド、貯蔵タンパク質、フェノール酸、アルカロイド、リグニン、タンニン、セルロース、糖タンパク質、糖脂質等の合成を担うことができる。
【0357】
特定の一例において、植物は、植物、例えばブラッシカ、例えばアブラナもしくはヒマワリ、ベニバナ、アマ、綿、ダイズまたはトウモロコシにおける油産生のための酵素、植物、例えばジャガイモ、トウモロコシおよび穀類、例えばコムギオオムギまたはイネにおけるデンプン合成に関与する酵素、天然の医薬品、例えば医薬もしくは獣医学的産物を合成する酵素、またはそれら自身であるタンパク質の増加したレベルを産生した。
【0358】
本発明の方法における産生のために検討されるポリペプチトド(polypeptitde)の型としては、ヒトを含む哺乳動物に使用するための医薬タンパク質、例えばインスリン、プレプロインシュリン、プロインシュリン、グルカゴン、インターフェロン、例えばα−インターフェロンおよびγ−インターフェロン、血液凝固因子、例えばFactor VII、VIII、IX、X、XIおよびXII、生殖ホルモン、例えば黄体形成ホルモン、卵胞刺激ホルモン増殖因子、例えば上皮増殖因子、血小板由来増殖因子、顆粒球コロニー刺激因子、プロラクチン、オキシトシン、甲状腺刺激ホルモン、副腎皮質刺激ホルモン、カルシトニン、副甲状腺ホルモン、ソマトスタチン、エリスロポエチン(EPO)、酵素、例えばβ−グルコセレブロシダーゼ、ヘモグロビン、血清アルブミン、コラーゲン、成長ホルモン、ヒト血清アルブミン、ヒト分泌アルカリホスファターゼ、アプロチニン、α1−アンチトリプシン、IgG1(ホスホン酸エステル)、IgM(神経ペプチドハプテン)、SIgA/G(ストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)付着因子)、scFv−ブリョジン1イムノトキシン(CD40)、IgG(HSV)、LSC(HSV)等が挙げられる。
【0359】
さらに、本発明の方法は、例えば、骨形成タンパク質受容体−IB型、E16、STEAP1、MPF、Napi3b、Sema5b、PSCA、エンドセリンB型受容体、MSG783、STEAP2、TrpM4、CRIPTO、CD21、CD79b、FcRH2、HER2、NCA、MDP、IL20Rα、ブレビカン、EphB2R、ASLG659、PSCA、GEDA、B細胞活性化因子受容体、CD22、CD79a、CXCR5、HLA−DOB、P2X5、CD72、LY64、FcRH1、IRTA2、TENB2、CD20、VEGF_A、B、CもしくはDが含まれるVEGF、p53、EGFR、プロゲステロン受容体、カテプシンD、Bcl−2、Eカドヘリン、CEA、Lewis X、Ki67、PCNA、CD3、CD4、CD5、CD7、CD11c、CD11d、c−Myc、tau、PrPSCまたはAβを結合する抗体関連分子またはそれらの活性断片が含まれる特異的抗体の産生のために使用され得る。
【0360】
さらに、本発明の方法は、貯蔵器官の摂取によって送達することができるか、または送達することができない抗原の産生のために使用され得るが、その抗原の例としては、B型肝炎ウイルスエンベロープタンパク質、狂犬病ウイルス糖タンパク質、エシェリヒア・コリ熱不安定エンテルトキシン(entertoxin)、ノーウォークウイルスキャプシドタンパク質、糖尿病自己抗原、コレラトキシンBサブユニット、コレラトキシンBおよびA2サブユニット、ロタウイルスエンテルトキシンおよび腸内毒素原性E.コリフィムブリエ抗原融合物、ブタ伝染性胃腸炎ウイルス糖タンパク質S、ヒトライノウィルス15(HRV−14)およびヒト免疫不全症ウイルス型(HIV−1)エピトープ、ミンク腸炎ウイルスエピトープ、口蹄疫ウイルスVP1構造タンパク質、ヒトサイトメガロウイルス糖タンパク質B、齲蝕(S.ミュータンス)抗原、ならびに呼吸器合胞体ウイルス抗原が挙げられる。
【0361】
産生されたLC−PUFAのレベル
組換え細胞中において産生されたLC−PUFAまたはLC−PUFAの組合せのレベルは、重要である。レベルは、特定のLC−PUFAまたは関連のLC−PUFA(例えばω3LC−PUFAもしくはω6LC−PUFA)もしくはVLC−PUFAの群である全脂肪酸の組成(パーセント)として、あるいは本技術分野において公知の方法によって決定され得る他のものとして表すことができる。レベルは、LC−PUFAの含有率、例えば、組換え細胞を含む材料の乾燥重量におけるLC−PUFAの百分率等、例えば、LC−PUFAである種子の乾燥重量の百分率として表すこともできる。油料種子中において産生されるLC−PUFAが、LC−PUFA含有率に関して、油産生のために成長しない野菜または穀粒よりも著しく高い場合があり、その上、両方とも、同様のLC−PUFA組成を有することができ、両方とも、ヒトまたは動物の摂取のためのLC−PUFAの源として使用され得ることは、いうまでもない。
【0362】
LC−PUFAのレベルは、本技術分野において公知の方法のいずれかによって決定され得る。好ましい方法では、全脂質を細胞、組織または生物から抽出し、脂肪酸をメチルエステルに変換した後、ガスクロマトグラフィー(GC)によって分析する。かかる技術は、実施例1に記載される。クロマトグラムのピーク位置を用いて各特定の脂肪酸を同定することができ、各ピーク下の面積を積分してその量を決定することができる。本明細書において使用される場合、反対に記載されない限り、試料中における特定の脂肪酸の百分率は、クロマトグラムにおける脂肪酸についての全面積の百分率としてのその脂肪酸についてのピーク下の面積として決定される。これは、本質的に重量百分率(w/w)に相当する。脂肪酸の同一性は、GC−MSによって確認され得る。全脂質は、画分(例えば、TAG画分)を精製するための本技術分野において公知の技術によって分離され得る。例えば、薄層クロマトグラフィー(TLC)は、特にTAGの脂肪酸組成を決定するために、TAGを他の脂質画分(例えば、DAG、アシル−CoAまたはリン脂質)から分離するための分析規模で実施され得る。
【0363】
一実施形態において、細胞中における脂肪酸におけるARA、EPA、DPAおよびDHAの総計は、細胞中における全脂肪酸の少なくとも15%、より好ましくは少なくとも20%または少なくとも25%を含む。より好ましい一実施形態において、それらの脂肪酸の総計は、細胞中における全脂肪酸の少なくとも29%、少なくとも30%または少なくとも31%である。更なる一実施形態において、細胞中における全脂肪酸は、1%未満のC20:1を有する。他の一実施形態において、細胞中における脂肪酸におけるDHAの量は、細胞中における全脂肪酸の少なくとも3%、より好ましくは少なくとも4%、より好ましくは少なくとも5%もしくは少なくとも7%、または最も好ましくは少なくとも10%である。好ましい実施形態において、細胞中における抽出可能なTAGは、この段落において言及されるレベルの脂肪酸を含む。これらの特性の可能な各組合せも包含される。例えば、細胞中における脂肪酸におけるARA、EPA、DPAおよびDHAの総計は、細胞中における全脂肪酸の少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも29%、少なくとも30%または少なくとも31%を含むことができ、その内の細胞中における全脂肪酸の少なくとも3%、少なくとも4%、少なくとも5%、少なくとも7%または少なくとも10%はDHAであるが、C20:1のレベルは1%未満であり得る。
【0364】
これらの実施形態の各々において、組換え細胞は、例えば、原核生物もしくは真核生物、例えば酵母であり得る単細胞微生物等、発酵のために適切である生物の細胞、または植物細胞であってよい。好ましい一実施形態において、細胞は、被子植物(高等植物)の細胞である。さらに好ましい一実施形態において、細胞は、種子、例えば、油料種子または穀粒もしくは穀物中における細胞である。
【0365】
組換え細胞中におけるLC−PUFAの産生のレベルは、変換比として、すなわち、1種または複数種の基質PUFAまたはLC−PUFAの百分率として形成されるLC−PUFAの量としても表され得る。EPAに関して、例えば、これは、基質脂肪酸(ALA、SDA、ETAまたはETrA)のレベルに対するEPAのレベルの比として(全脂肪酸における百分率として)表され得る。
【0366】
一実施形態においては、ALAからEPAの変換のエフィセンシー(efficency)は、少なくとも80%またはより好ましくは90%である。他の一実施形態において、(EPA、DPAおよびDHAについての百分率の合計/ALAおよびALA由来の全てのΔ6不飽和化脂肪酸産物についての百分率の合計として計算される)ALAからEPA、DPAまたはDHAの変換の効率は、少なくとも17.3%または少なくとも23%である。他の一実施形態において、(DPAおよびDHAについての百分率の合計/ALAおよびALA由来の全てのΔ6不飽和化脂肪酸産物についての百分率の合計として計算される)ALAからDPAまたはDHAの変換の効率は、少なくとも15.4%または少なくとも21%である。他の一実施形態において、(DHAについての百分率/ALAおよびALA由来の全てのΔ6不飽和化脂肪酸産物についての百分率の合計として計算される)ALAからDHAの変換の効率は、少なくとも9.5%または少なくとも10.8%である。他の一実施形態において、(DHAについての百分率/EPAおよびEPA由来の全てのΔ5伸長脂肪酸産物についての百分率の合計として計算される)EPAからDHAの変換の効率は、少なくとも45%または少なくとも50%である。他の一実施形態において、(ETAおよびETA由来のΔ5不飽和化脂肪酸産物についての百分率の合計/SDAおよびSDA由来の全てのΔ6伸長脂肪酸産物についての百分率の合計として計算される)ETAを産生するSDAの変換の効率は、少なくとも50%、より好ましくは少なくとも60%である。他の一実施形態において、ETrAへのALAの変換の効率は、少なくとも6%、より好ましくは少なくとも9%である。他の一実施形態において、Δ5エロンガーゼステップによる(DPAおよびDHAについての百分率の合計/EPA、DPAおよびDHAについての百分率の合計として計算される)DPAへのEPAの変換のエフィセンシーは、少なくとも60%、より好ましくは少なくとも65%、より好ましくは少なくとも70%または最も好ましくは少なくとも75%である。
【0367】
外因的に産生されるかまたは提供される脂肪酸基質のレベルが最適であるように、遺伝子の導入のために使用される親細胞が選択される場合、組換え細胞中におけるLC−PUFAの含有率を最大にすることができる。LC−PUFAのレベルは、例えば多価不飽和脂肪酸の蓄積を好むと考えられるその細胞についての標準温度より僅かに低い温度で、最適条件下で細胞を成長させるかまたはインキュベートすることによって、最大にすることもできる。しかし、特に、今日までの証拠は、酵母または植物中において非相同的に発現される幾つかのデサチュラーゼが、幾つかのエロンガーゼと組み合わせて相対的に低い活性を有することを示唆する。これは、LC−PUFA合成における基質として脂肪酸のアシル−CoA形態を使用する能力を有するデサチュラーゼを提供することによって緩和され得、これは、植物細胞等の酵母以外の組換え細胞において有利であると考えられる。
【0368】
油の産生
本技術分野においてルーチン的に実践される技術を用いて、本発明の細胞、植物、種子等によって産生された油を抽出し、処理し、分析することができる。典型的には、植物種子を火にかけ、押圧し、抽出して、原油を産生し、次いでそれを脱ガムし、精製し、漂白し、消臭する。一般に、種子を破砕するための技術は、本技術分野において公知である。例えば、油料種子を、それらに水を噴霧することによって和らげて水分含有率を例えば8.5%に高め、0.23から0.27mmのギャップ設定の平滑ローラを使用して薄片にすることができる。種子の型に応じて、破砕の前に水を加えなくてもよい。加熱は、酵素を不活性化させ、更なる細胞破壊を容易にし、油滴を合体させ、タンパク質粒子を凝集させ、それらの全ては、抽出プロセスを容易にする。
【0369】
種子油の大部分は、スクリュープレスの通過によって放出される。次いで、スクリュープレスから噴出したケーキを、熱追跡カラムを用いて、例えばヘキサンで溶媒抽出する。別の場合、押圧操作によって産生した原油を、溝付きワイヤドレナージトップを有する沈降タンクを通過させて、押圧操作の間に油とともに発現される固体を除去することができる。浄化油を、加圧式濾過器(plate and frame filter)を通過させて、あらゆる残留固体微粒子を除去することができる。所望により、抽出プロセスから回収した油を浄化油と組み合わせて混合原油を産生することができる。
【0370】
一旦溶媒を原油から取り除くと、押圧部分および抽出部分を組み合わせ、通常の油処理手法(すなわち、脱ガム、苛性精製、漂白および脱臭)に供する。原油に濃リン酸を加えることによって脱ガムを実施して、非水和性リン脂質を水和可能形態に変換させ、存在する微量の金属をキレート化させることができる。その油からガム質を遠心分離によって分離する。十分な量の水酸化ナトリウム溶液の添加によってその油を精製して、脂肪酸の全てを滴定し、従って形成された石鹸を除去することができる。
【0371】
その油を真空下で260℃に加熱し、約0.1ml/分/100ml油の速度でその油中に蒸気をゆっくりと導入することによって、脱臭を行うことができる。散布の約30分後、その油を真空下で冷却させる。その油を典型的にはガラス容器に移し、アルゴンで洗浄した後、冷凍下で貯蔵する。油の量が限定されている場合、油を、例えばParr反応器中において真空下で配置し、それを消臭した同じ長さの時間、260℃に加熱することができる。この処理は、油の色を改善し、揮発性物質の大部分を除去する。
【0372】
飼料
本発明は、飼料として使用され得る組成物を含む。本発明の目的のために、「飼料」としては、身体中に取り込まれる場合、(a)組織に栄養分を与えるかもしくは組織を増大させる、またはエネルギーを供給する役目をする、および/あるいは(b)適切な栄養状態または代謝機能を維持する、回復させる、またはサポートする、(経腸および/もしくは非経口摂取を含む)ヒトまたは動物の摂取のためのあらゆる食品または調製物が挙げられる。本発明の飼料は、乳児および/または幼児のための栄養組成物を含む。
【0373】
本発明の飼料は、例えば、本発明の細胞、本発明の植物、本発明の植物部分、本発明の種子、本発明の抽出物、本発明の方法の産物、本発明の発酵プロセスの産物、または適切な担体(複数可)と共に組成物を含む。「担体」という用語は、栄養価を有してよいかまたは有さなくてもよいあらゆる成分を包含するようにその最も広い意味で用いられる。当業者である対象者が理解するように、担体は、それが飼料を摂取する生物に対する悪影響を及ぼさないように、飼料中における使用に適切でなければならない(または十分に低い濃度で使用されなければならない)。
【0374】
本発明の飼料は、方法の使用により直接的または間接的に産生された油、脂肪酸エステルまたは脂肪酸、本明細書において開示される細胞または植物を含む。組成物は、固体形態または液体形態のいずれかであってよい。さらに、組成物は、特定の使用のために望まれる量の食用の多量栄養素、ビタミンおよび/または無機質を含むことができる。これらの成分の量は、組成物が、通常の個体による使用のために意図されるのか、または特殊化した必要を有する個体、例えば代謝障害等を罹患している個体による使用のために意図されるのかによって変化する。
【0375】
栄養価を有する適切な担体の例としては、多量栄養素、例えば食用脂肪、炭水化物およびタンパク質が挙げられるが、これらに限定されるものではない。かかる食用脂肪の例としては、ヤシ油、ルリヂサ油、真菌性油、ブラックカレント油、ダイズ油、ならびにモノ−およびジグリセリドが挙げられるが、これらに限定されるものではない。かかる炭水化物の例としては(限定されないが)、グルコース、食用のラクトースおよび加水分解された探索物が挙げられる。さらに、本発明の栄養的組成物において利用され得るタンパク質の例としては(限定されないが)、ダイズタンパク質、電気透析された乳漿、電気透析された脱脂乳、乳清、またはこれらのタンパク質の加水分解物が挙げられる。
【0376】
ビタミンおよび無機質に関して、以下のものを本発明の飼料組成物に加えることができる。カルシウム、リン、カリウム、ナトリウム、クロリド、マグネシウム、マンガン、鉄、銅、亜鉛、セレン、ヨウ素、ならびにビタミンA、E、D、C、およびB複合体。他のかかるビタミンおよび無機質を加えることもできる。
【0377】
本発明の飼料組成物において利用される成分は、半精製または精製されたものに由来し得る。半精製または精製されたものは、天然材料の精製によってまたはデノボ合成によって調製された材料を意味する。
【0378】
食事の補充が必要とされない場合でさえ、本発明の飼料組成物を食物に加えることもできる。例えば、組成物をあらゆる型の食物に加えることができ、その食物としては(限定されないが)、マーガリン、改質バター、チーズ、乳、ヨーグルト、チョコレート、キャンディ、スナック、サラダ油、料理油、料理脂肪、肉、魚および飲料が挙げられる。
【0379】
サッカロミセス属種は、ビールの醸造およびワイン製造の両方において使用され、特にパンを焼く際の薬剤としても使用される。酵母は、野菜の抽出物の主成分である。酵母は、動物飼料における添加剤としても使用される。本明細書において記載されるように、LC−PUFAを合成するために適合させた、遺伝子操作された酵母株を提供することができることは、明らかである。次いで、これらの酵母株を、食材、ならびにワインおよびビール製造において使用して、増強した脂肪酸含有率を有する産物を提供することができる。
【0380】
さらに、本発明によって産生された脂肪酸、または対象遺伝子を含有し、発現するように形質転換された宿主細胞を、動物の組織または乳脂肪酸組成をヒトまたは動物の摂取のためにより望ましいものに改変させるために動物性食品補助剤として使用することもできる。かかる動物の例としては、ヒツジ、ウシ、ウマ等が挙げられる。
【0381】
さらに、本発明の飼料を、ヒトまたは動物の摂取のための魚における脂肪酸のレベルを増加させるために水産養殖において使用することができる。
【0382】
本発明の好ましい飼料は、ヒトまたは他の動物のための食物または餌として直接使用することができる植物、種子および他の植物部分(例えば葉および茎)である。例えば、動物は、野外において成長させたかかる植物を直接食べることができるか、または制御された給餌においてより多くの測定量を動物に給餌することができる。本発明は、ヒトおよび他の動物におけるLC−PUFAレベルを増加させるための餌としてのかかる植物および植物部分の使用を含む。
【0383】
組成物
本発明は、本発明の方法を用いて産生された脂肪酸および/または得られた油の内の1種または複数種を含む組成物、特に医薬組成物をも包含する。
【0384】
医薬組成物は、標準的な、周知の、無毒性の薬学的に許容される担体、アジュバントまたはビヒクル、例えば、リン酸緩衝食塩水、水、エタノール、ポリオール、植物油、湿潤剤またはエマルジョン(例えば、油中水型エマルジョン)と組み合わせて、脂肪酸および/または油の内の1種または複数種を含むことができる。組成物は、液体形態または固体形態のいずれかであってよい。例えば、組成物は、錠剤、カプセル剤、摂取可能な液体もしくは粉剤、注射剤または局所用軟膏もしくはクリームの形態であってよい。例えば、分散液の場合、必要な粒径の維持によって、および界面活性剤の使用によって、適切な流動性を維持することができる。等張剤、例えば、糖、塩化ナトリウム等を含むことが望ましい場合もある。かかる不活性希釈剤の他に、組成物は、アジュバント、例えば、湿潤剤、乳化および懸濁化剤、甘味剤、着香剤および賦香剤を含むこともできる。
【0385】
懸濁剤は、活性化合物に加えて、懸濁化剤、例えば、エトキシル化イソステアリルアルコール、ポリオキシエチレンソルビトールおよびソルビタンエステル、微結晶性セルロース、アルミニウムメタヒドロキシド、ベントナイト、寒天およびトラガカントゴム、またはこれらの物質の混合物を含むことができる。
【0386】
錠剤およびカプセル剤等の固体剤形は、本技術分野において周知の技術を使用して調製され得る。例えば、本発明に従って産生された脂肪酸を、結合剤、例えば、アカシア、コーンスターチまたはゼラチン、崩壊剤、例えば、ジャガイモデンプンまたはアルギン酸、および潤滑剤、例えば、ステアリン酸またはステアリン酸マグネシウムと組み合わせて、従来の錠剤基剤、例えば、ラクトース、スクロースおよびコーンスターチによって錠剤にすることができる。カプセル剤は、抗酸化剤および関連の脂肪酸(複数可)と共にこれらの賦形剤をゼラチンカプセル中に組み込むことによって調製され得る。
【0387】
静脈内投与のために、本発明によって産生された脂肪酸またはそれらの誘導体を商業的製剤中に組み込むことができる。
【0388】
特定の脂肪酸の典型的な用量は、0.1mgから20g(1日当たり1回から5回(1日最高100g)服用)、好ましくは1日約10mgから約1、2、5または10gの範囲内(1回または多回投与において服用)である。本技術分野において知られているように、少なくとも約300mg/日の脂肪酸(とりわけ、LC−PUFA)が望ましい。しかし、あらゆる量の脂肪酸が対象にとって有益であることはいうまでもない。
【0389】
本発明の医薬組成物の可能な投与経路としては、例えば、腸内(例えば、経口および直腸)および非経口が挙げられる。例えば、液体調製物を経口的にまたは直腸に投与することができる。さらに、均質の混合物を水中に完全に分散させ、生理学的に許容し得る希釈剤、保存剤、緩衝液または噴射剤と無菌条件下で混合して、噴霧剤または吸入剤を形成することができる。
【0390】
患者に投与すべき組成物の用量は、当業者によって決定され得、様々な因子、例えば、患者の体重、患者の年齢、患者の全体的健康、患者の既往歴、患者の免疫状態等に依存する。
【0391】
さらに、本発明の組成物は、化粧品の目的のために利用され得る。それを、混合物が形成されるように、または本主題発明に従って産生された脂肪酸が化粧品組成物中における唯一の「活性」成分として使用され得るように、既存の化粧品組成物に加えることができる。
実施例
【実施例1】
【0392】
材料と方法
微細藻類の培養
CSIROのCollection of Living Microalgae(http://www.marine.csiro.au/microalgae)から得られたミクロモナスCS−0170およびピラミモナスCS−0140分離株を標準的な培養条件下で培養した。コレクションから得られたストック培養物を継代培養し、1対10希釈で1Lエルレンマイヤーフラスコに、続いて10Lポリカーボネートカルボイに連続的に植え継いでスケールアップした。培地は、GuillardおよびRyther(1962)のf培地の栄養素を半分に薄めた修正培地であるf/2であり、生育温度は20±1℃であった。他の培養条件として、100μmol.光子PAR.m−2.s−1の光強度、12:12時間の明:暗光周期および空気中1%CO
2、速度200mL.L
−1.min
−1の通気が挙げられた。
【0393】
微細藻類ゲノムDNAの単離
DNeasy Plant Miniキットシステム(QIAGEN、カタログ#69106)を添付の取扱説明書に記載の通り用いて、ミクロモナスCS−0170およびピラミモナスCS−0140からゲノムDNAを単離した。
【0394】
微細藻類トータルRNAの単離
次の方法を用いてミクロモナスCS−0170およびピラミモナスCS−0140細胞からトータルRNAを単離した。2g(湿重量)の細胞を乳鉢と乳棒を用いて液体窒素中で粉末化し、22mLの抽出バッファーが入ったビーカーを一定に攪拌しつつそこに徐々に振り入れた。そこに、5%不溶性ポリビニルピロリドン、90mM 2−メルカプトエタノールおよび10mMジチオスレイトールを添加し、Corex(商標)チューブに移す前に混合液をさらに10分間攪拌した。18.4mLの3M酢酸アンモニウムを加え、十分に混合した。次に試料を6000×g、20分間、4℃で遠心分離した。上清を新しいチューブに移し、0.1容量の3M NaAc(pH5.2)および0.5容量の冷イソプロパノールを加えることによって核酸を沈殿させた。−20℃で1時間インキュベーションした後、試料を6000×gで30分間、スイングローターで遠心分離した。ペレットを1mLの水に再懸濁し、フェノール/クロロホルムで抽出した。水層を新しいチューブに移し、0.1容量の3M NaAc(pH5.2)および2.5容量の氷冷エタノールを添加することによって核酸を再度沈殿させた。ペレットを水に再懸濁し、分光光度計により核酸濃度を決定した。
【0395】
ベクターおよび株
プラスミドpYES2および酵母株INVSC1はInvitrogenから、プラスミドベクターpGEMT−EasyはPromegaから、プラスミドベクターpBluescript II KS−はStratageneから入手した。アグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)株AGL1は、Lazoら(1991)により参照され、pOREバイナリーベクターシリーズはCoutuら(2007)により参照されている。
【0396】
PCR条件
他に特に断りがない限り、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によるDNA断片の増幅には標準的な条件を用いた。条件の最適化は、増幅サイクル数、プライマーのアニーリング温度、Mg
2+濃度および本技術分野で通常用いられている他のパラメータを変化させて行った。バッファーは、ポリメラーゼ供給元に指定された通りのものであった。通常、反応条件は次の通りである。94℃、2〜3分間の最初の変性の後、反応液を20〜40サイクルの変性/アニーリング/伸長(94℃、30〜60秒間の変性、40〜60℃、30秒間のプライマーアニーリングおよび30〜60秒間、70〜72℃のポリメラーゼ伸長)、続いて3分間、70〜72℃の更なる伸長ステップで処理した。
【0397】
逆転写PCR(RT−PCR)増幅は通常、Superscript III One−Step RT−PCRシステム(Invitrogen)を用いて、10pmolのフォワードプライマーと30pmolのリバースプライマー、最終濃度2.5mMとなるMgSO
4、400ngのトータルRNAならびにメーカーの取扱説明書に従ったバッファーおよびヌクレオチド成分を用いた25μL容量で行った。通常の温度形態は、逆転写を行わせるための1サイクルの45℃30分間、その後1サイクルの94℃2分間、続いて40サイクルの94℃30秒間、52℃30秒間、70℃1分間、次に1サイクルの72℃2分間、その後反応液を5℃で冷却であった。
【0398】
5’および3’−RACE
部分長遺伝子断片に対応する全長cDNAを得るため、5’−および3’−RACE(Rapid Amplification of cDNA Ends)法によりcDNAの5’および/または3’末端を得た。実施例に記されている遺伝子特異的フォワードプライマーおよび全3’−RACE反応に共通のオリゴdTリバースプライマー、5’−ATTTAGGTGACACTATAGTTTTTTTTTTTTTTTTTTV−3’(配列番号41)(配列中、VはA、GまたはCのいずれかを表す)を用いて、cDNAの3’末端を単離した。Superscript III One−Step RT−PCRシステム(Invitrogen)を用いて、10pmolフォワードプライマーと30pmolリバースプライマー、最終濃度2.5mMとなるMgSO
4、cDNA合成の鋳型として400ngのトータルRNAならびに供給元に指定された通りのバッファーおよびヌクレオチド成分を用いた25μL容量でRT−PCR増幅を行った。サイクル条件は通常、逆転写のための1サイクルの45℃30分間、その後1サイクルの94℃2分間、続いて40サイクルの94℃30秒間、52℃30秒間、70℃1分間、そして1サイクルの72℃2分間、その後5℃で冷却であった。反応液中に生じた増幅産物をpGEM−T Easyにライゲーションし、大腸菌(E.coli)にクローニングし、標準的な手法により配列解析した。
【0399】
他に特に断りがない限り、2μgのトータルRNAをcDNA合成の鋳型として用いた修正ターミナルトランスフェラーゼ法によってcDNAの5’末端を単離した。10pmolの遺伝子特異的リバースプライマーをトータルRNAおよび10.8μLの水に加え、その後混合液を65℃で5分間加熱し、2分間氷上で冷却した。続いて次の成分を添加した。すなわち、4μLのSuperscript III first−strand cDNAバッファー(Invitrogen)、1μLの0.1Mジチオスレイトール、1μLのRNAseOUT(Invitrogen)および1μLのSuperscript III逆転写酵素であった。次に混合液を55℃で60分間インキュベートし、70℃で15分間さらにインキュベーションすることにより反応を止めた。短時間氷上で冷却した後、反応液を次に2ユニットのRNAseHで37℃、20分間処理した。続いてQIAQUICK PCR精製キット(QIAGEN、カタログ#28106)を用いてcDNAを精製した。次に、10ユニットのTdT(NEB)、5μLのNEBバッファー#4、5μLの2.5mM CoCl
2、0.5μLの10mM dATPを用いて、25μLの溶出液を合計50μLでAテール付加した。37℃で30分間反応を行い、続いて70℃、10分間で酵素を不活性化した。次に、5μLのAテール付加cDNA、10pmolの遺伝子特異的リバースプライマー、30pmolの修飾オリゴdTプライマー、5’−ATTTAGGTGACACTATAGTTTTTTTTTTTTTTTTTTV−3’(配列番号41)(配列中、VはA、GまたはCのいずれかを表す)ならびに添付のマニュアルに記載されている通りのバッファーおよびヌクレオチド成分を含む反応混合液において、2.5ユニットのTaq DNAポリメラーゼ(NEB)を用いてPCR反応を行った。サイクル条件は通常、1サイクルの94℃2分間;5サイクルの94℃20秒間、54℃1分間、72℃1分間;30サイクルの94℃20秒間、60℃30秒間、72℃1分間;1サイクルの72℃5分間;4℃で維持であった。ゲル電気泳動の後に予想したサイズ範囲にはっきりとした産物バンドが見られない場合、その領域のゲルを切り出し、DNA産物をゲルから精製した。溶出液を1:20希釈した試料の1μLをPCR第二ラウンドの鋳型として用いた。反応液に生じた増幅産物をpGEM−T Easyにライゲーションし、配列解析した。
【0400】
酵母の培養および前駆脂肪酸の摂取
熱ショックにより酵母にプラスミドを導入し、2%ラフィノースを唯一の炭素源として含む酵母最少培地(YMM)プレート上で形質転換体を選抜した。クローン接種培養は、2%ラフィノースを唯一の炭素源として含む液体YMMにおいて確立した。これらから、YMM+1%NP−40において初期OD600が約0.3となるよう試験培養物を接種した。培養物を30℃で振盪(約60rpm)しつつ、OD600がほぼ1.0になるまで培養した。この時点で、ガラクトースを最終濃度2%になるよう添加し、前駆脂肪酸を最終濃度0.5mMになるよう添加した。遠心分離により回収する前に、培養物を20℃で振盪しつつさらに48時間インキュベートした。細胞ペレットを1%NP−40、0.5%NP−40、そして水で洗浄し、取り込まれなかったあらゆる脂肪酸を細胞表面から除去した。
【0401】
一過性発現システムにおける植物細胞での遺伝子発現
Voinnetら(2003)によって本質的に記載されている通り、一過性発現システムにおいて植物細胞で遺伝子発現が行われた。35Sプロモーター等、強力な構成プロモーターによって発現するコード領域を有するプラスミドを、アグロバクテリウム・ツメファシエンス株AGL1に導入した。p19ウイルスサイレンシングサプレッサー発現のためのキメラ遺伝子35S:p19をAGL1へ別個に導入した。組換え細胞は、28℃で50mg/mLカナマイシンおよび50mg/mLリファンピシン添加LB培地において定常期なるよう培養した。次に、細菌を5000g、15分間室温で遠心分離することによってペレット化し、その後OD600=1.0になるよう10mM MES、pH5.7、10mM MgCl
2および100uMアセトシリンゴンを含む浸潤バッファーに再懸濁した。次に細胞を28℃で振盪しつつ3時間インキュベートし、その後等容量の35S:p19および対象の試験キメラ遺伝子(複数可)を含むアグロバクテリウム培養物を混合し、続いて葉組織に浸潤(infiltration)した。浸潤後、通常植物体をさらに5日間生育し、その後脂肪酸のGC分析のためにリーフディスクを採取した。
【0402】
葉組織に外因性脂肪酸を供給した場合、適切な脂肪酸を2M水酸化アンモニウム溶液中で20分間60℃加熱することによって脂肪酸を調製し、その後溶液を同様に60℃で蒸発させた。その結果生じた塩を次に0.1Mリン酸バッファー(pH7.2)に再懸濁し、最終濃度0.5μg/mLとした。アグロバクテリウム浸潤の4日後に脂肪酸塩を葉に注入し、脂肪酸組成を分析するために摂取後様々な時点、例えば外因性脂肪酸の添加2〜48時間後にリーフディスクを採取した。外因性脂肪酸が省略された対照、あるいは浸潤に用いたアグロバクテリウム株が対象遺伝子を含まない対照が含まれた。
【0403】
脂肪酸のガスクロマトグラフィー(GC)分析
脂肪酸の調製
ニコチアナ・ベンサミアナ(Nicotiana benthamiana)の葉試料その他の非種子組織等、試料が大量の水を含む場合、BlighおよびDyer(1959)によって記載された方法を用いて総脂質を抽出し、その後メチル化した。テフロンで裏打ちされたねじ蓋を取り付けたガラス製試験管においてMeOH−CHCl
3−HCl(10:1:1、v/v/v)で90〜100℃、2時間加熱することにより、遠心分離した酵母ペレット、アラビドプシス(Arabidopsis)種子、ニコチアナ・ベンサミアナの総脂質または他の総脂質試料をエステル転移反応して脂肪酸メチルエステル(FAME)を生成した。FAMEをヘキサン−ジクロロメタン(4:1、v/v)に抽出し、GCおよびGC−MSにより分析した。
【0404】
キャピラリーガス液体クロマトグラフィー(GC)
Equity(商標)−1融合シリカキャピラリーカラム(15m×0.1mm i.d.、0.1μmフィルム厚)、FID、スプリット/スプリットレスインジェクターならびにAgilent Technologies 7683Seriesオートサンプラーおよびインジェクターを備えたAgilent Technologies 6890N GC(パロアルト、カリフォルニア州、米国)を用いて、ガスクロマトグラフィー(GC)によりFAMEを分析した。ヘリウムをキャリアーガスとして用いた。オーブン温度120℃で試料をスプリットレスモードで注入した。注入後、オーブン温度を10℃.min
−1で270℃に上げ、最後に5℃.min
−1で310℃に上げた。Agilent Technologies ChemStationソフトウエア(Rev B.03.01(317)、\パロアルト、カリフォルニア州、米国)を用いてピークを定量化した。
【0405】
ガスクロマトグラフィー質量分析(GC−MS)
オンカラム注入セットを装着したFinnigan GCQ Plus GC−MSイオントラップにおいて4℃でGC−MSを行った。AS2000オートサンプラーを用いて、HP−5 Ultra 2結合相カラム(50m×0.32mm i.d.×0.17μmフィルム厚)に取り付けた保持ギャップに試料を注入した。初期温度45℃を1分間維持し、続いて、30℃.min
−1で140℃に、次に3℃.min
−1で310℃とし、そこで12分間維持した温度プログラミングを行った。ヘリウムをキャリアーガスとして用いた。質量分析器の操作条件は、電子衝突エネルギー70eV、放出電流250μamp、トランスファライン310℃、ソース温度240℃、走査速度0.8scans.s
−1および質量範囲40〜650ダルトンであった。質量スペクトルを得て、Xcalibur(商標)ソフトウエアを用いて処理した。
【0406】
酵母の培養および前駆脂肪酸の摂取
熱ショックにより酵母にプラスミドを導入し、2%ラフィノースを唯一の炭素源として含む酵母最少培地(YMM)プレートで形質転換体を選抜した。2%ラフィノースを唯一の炭素源として含む液体YMMでクローン接種培養を確立した。これらから、YMM+1%NP−40において初期OD
600が約0.3となるよう試験培養物を接種した。培養物を30℃で振盪(約60rpm)しつつ、OD
600がほぼ1.0になるまで培養した。この時点で、ガラクトースを最終濃度2%になるよう添加し、前駆脂肪酸を最終濃度0.5mMになるよう添加した。遠心分離により回収する前に、培養物を20℃で振盪しつつさらに48時間インキュベートした。細胞ペレットを1%NP−40、0.5%NP−40、そして水で洗浄して、取り込まれなかったあらゆる脂肪酸を細胞表面から除去した。
【実施例2】
【0407】
微細藻類のΔ6−エロンガーゼをコードするcDNAの単離および特性評価
ミクロモナスCS−0170Δ6−エロンガーゼの遺伝子断片の単離
CSIROのLiving Collection of MicroalgaeのミクロモナスCS−0170株(国際公開第2005/103253号パンフレット)を、高い天然レベルでΔ5−およびΔ6−伸長を有する微細藻類株として同定した(表4)。
【0408】
【表4】
【0409】
保存配列を同定する試みにおいて、GenBank受託番号AAV67800、ABC18314、CAD58540、CAL55414、AAV67797、XP_001416454、AAW70157、AAV67799、ABC18313、AAY15135から得られたエロンガーゼのアミノ酸配列を、ClustalWアルゴリズムを用いて整列させた。様々な程度の同一性を有する多くの相同性領域の中で、共通アミノ酸配列ブロックKXXXXXDT(配列番号31)およびMYXYY(配列番号32)(配列中、各Xはそれぞれ任意のアミノ酸である)を選択し、これらはAAY15135のそれぞれアミノ酸位置144〜151および204〜208と対応する。これら2種のブロックの配列に基づき、ディジェネレートプライマー、5’−AAGWWCIKSGARYISYTCGACAC−3’(配列番号42)および5’−AIIMIRTARTASGTGTACAT−3’(配列番号43)(配列中、I=イノシン、W=AまたはT、R=AまたはG、Y=CまたはT、K=GまたはT、M=AまたはC、S=CまたはG)を合成した。Superscript III One−Step RT−PCRシステム(Invitrogen)を用いて、20pmolの各プライマー、最終濃度2.5mMとなるMgSO
4、200ngのミクロモナスCS−0170トータルRNAならびに記載されているバッファーおよびヌクレオチド成分を用いた50μL容量で、RT−PCR増幅を行った。サイクル条件は、最初に逆転写のための48℃30分間、次に1サイクルの94℃2分間、続いて5サイクルの94℃30秒間、40℃30秒間、70℃30秒間、次に40サイクルの94℃30秒間、45℃30秒間、70℃30秒間、そして72℃2分間であった。209bpの増幅産物を生成し、pGEM−T Easyにライゲーションして配列解析した。
【0410】
ミクロモナスCS−0170Δ6−エロンガーゼをコードする全長cDNAの単離
5’−および3’−RACEにより209bp断片を延長するためのプライマーを設計した。遺伝子特異的フォワードプライマー、5’−GAACAACGACTGCATCGACGC−3’(配列番号44)および200ngのミクロモナスCS−0170トータルRNAを用いて、実施例1に記載されている通りに遺伝子の3’末端を単離した。454bp増幅産物を生成し、pGEM−T Easyにライゲーションして配列解析した。GeneRacerキット(Invitrogen、カタログ#L1500−01)を用いて、添付のマニュアルに記載されている通りに55℃で1時間逆転写インキュベーションして5’−アダプター付加cDNAを生成し、遺伝子の5’末端を単離した。GeneRacer5’プライマー、5’−CGACTGGAGCACGAGGACACTGA−3’(配列番号45)および遺伝子特異的リバースプライマー、5’−TTGCGCAGCACCATAAAGACGGT−3’(配列番号46)は、10pmolの各プライマー、1μlのGeneRacer cDNA鋳型ならびにメーカーの記載通りのバッファーおよびヌクレオチド成分を用いた50μL容量で、PFU Ultra II Fusion DNAポリメラーゼを用いたPCR増幅に用いた(Stratagene、カタログ#600670)。サイクル条件は、1サイクルの94℃2分間;35サイクルの94℃20秒間、55℃30秒間、72℃30秒間;次に72℃2分間、その後4℃で冷却であった。次にこの産物を1:10希釈し、その1μlを、GeneRacer5’ネステッドプライマー、5’−GGACACTGACATGGACTGAAGGAGTA−3’(配列番号47)および遺伝子特異的リバースプライマー、5’−TTGCGCAGCACCATAAAGACGGT−3’(配列番号46)を用いた、第一ラウンドの増幅と同じPCR条件による第二ラウンドのPCRの鋳型として用いた。522bp増幅産物を生成し、pGEM−T Easyにライゲーションして配列解析した。
【0411】
3種の増幅産物のヌクレオチド配列を、全長配列であると予測される一配列に組み立てた。次に、ミクロモナス株CS−0170由来のゲノムDNAから、フォワードプライマー、5’−CAGGCGACGCGCGCCAGAGTCC−3’(配列番号48)、リバースプライマー、5’−TTATTAGTTACTTGGCCTTTACCTTC−3’(配列番号49)およびPFU Ultra II Fusion DNAポリメラーゼ(Stratagene)を用いて、5’UTRの短い領域を有する全長コード領域を増幅した。860bp増幅産物を生成し、pGEM−T Easyにライゲーションして配列解析した。遺伝子のオープンリーディングフレームの配列は、配列番号1の配列を有することが示された。
【0412】
この遺伝子にコードされた全長アミノ酸配列を配列番号2として示す。タンパク質配列のBLAST解析は、単離cDNAがΔ5−またはΔ6−エロンガーゼのいずれかをコードすることを明らかにした。これら2種類のエロンガーゼは、アミノ酸レベルで類似しており、どの活性がコードされているかアミノ酸配列だけでは明確ではなかった。BLASTPによるGenbankタンパク質配列データベースへの問い合わせ配列として用いた場合、ミクロモナスCS−0170エロンガーゼと他のエロンガーゼとの間の最大級の同一性は、オストレオコッカス・タウリ多価不飽和脂肪酸エロンガーゼ2の配列である受託番号CAL55414との65%であった。保存GNS1/SUR4ファミリードメイン(NCBI保存ドメインpfam01151)がこの配列中のアミノ酸49〜274に示されたが、これは通常、このタンパク質が長鎖脂肪酸の伸長システムに関与することを示す。
【0413】
元々のディジェネレートプライマーの設計に用いた配列等、ミクロモナスCS−0170エロンガーゼに類似した配列の複数アライメントに基づく配列相関樹を
図3に示す。
【0414】
酵母におけるミクロモナスCS−0170Δ6−エロンガーゼ機能特性評価
pGEM−T EasyのSalI/SphI断片内に含まれているこのクローンのタンパク質コード領域全体をpYES2のXhoI/SphI部位に挿入し、酵母における導入および機能特性評価のためのベクターpYES2+MicElo1を作製した。酵母株INVSC1の細胞をpYES2+MicElo1で形質転換し、ウラシルを含まない培地上で形質転換体を選抜した。pYES2+MicElo1を有する酵母細胞を培地で培養し、MicElo1遺伝子発現のためガラクトースによりGALプロモーターを誘導した。培地にALA、SDAまたはEPA(0.5mM)を添加して30℃で48時間さらに培養した後、総細胞脂質における脂肪酸を分析した。ALAを培地に添加した場合、酵母形質転換体の細胞脂質におけるETrAの存在は総脂肪酸の0.2%として検出され、これは低いが測定可能な0.4%変換効率を表した。同様に、SDAを培地に添加した場合、酵母形質転換体の細胞脂質におけるETAの存在は0.2%として検出され、これは0.4%の変換効率を表し、低レベルのΔ6−エロンガーゼ活性を示唆した。しかし、EPAを培地に添加した場合、酵母形質転換体の細胞脂質におけるDPAの存在は検出されず、これは酵母細胞におけるΔ5−エロンガーゼ活性の欠如を示唆した(表5)。
【0415】
【表5】
【0416】
ピラミモナスCS−0140Δ6−エロンガーゼの単離および特性評価
ピラミモナスCS−0140Δ6−エロンガーゼ遺伝子断片の単離
GenBank受託番号ABO94747、CAI58897、CAJ30869、CAL23339およびAAV67797から得られたエロンガーゼのアミノ酸配列のアライメントから、AAV67797のそれぞれアミノ酸位置143〜150および199〜205に対応する、共通アミノ酸配列ブロックKIYEFVDT(配列番号33)およびVHVCMYT(配列番号34)が同定された。これら2種のブロックの配列に基づいて、ディジェネレートプライマー、5’−AARATMTAYGAGTTYGTIGATAC−3’(配列番号50)および5’−TAIGTGTACATGCACACRTGWACCC−3’(配列番号51)(略語は上に同じ)を合成した。Superscript III One−Step RT−PCRシステムと100ngのピラミモナスCS−0140トータルRNAを用いてRT−PCR増幅を行った。191bp増幅産物を生成し、pGEM−T Easyにライゲーションして配列解析した。
【0417】
全長ピラミモナスCS−0140Δ6−エロンガーゼ遺伝子の単離
5’−および3’−RACEにより191bp断片を伸長するためのプライマーを設計した。実施例1に記載されている通り、遺伝子特異的フォワードプライマー、5’−TTCGTGGATACGTTCATCATGC−3’(配列番号52)を用いて、遺伝子の3’末端を単離した。945bp増幅産物を生成し、pGEM−T Easyにライゲーションして配列解析した。1μgのピラミモナスCS−0140トータルRNAから、GeneRacerキットを用いて添付のマニュアルに記載されている通り、55℃、1時間の逆転写インキュベーションを行い5’−アダプター付加cDNAを作製し、遺伝子の5’末端を単離した。GeneRacer5’プライマーおよび遺伝子特異的リバースプライマー、5’−AGTTGAGCGCCGCCGAGAAGTAC−3’(配列番号53)を、PFU Ultra II Fusion DNAポリメラーゼを用いたPCR増幅に用いた。次にこの産物を1:10に希釈し、その1μlを、GeneRacer5’ネステッドプライマー、5’−GGACACTGACATGGACTGAAGGAGTA−3’(配列番号47)および遺伝子特異的リバースプライマー、5’−ACCTGGTTGACGTTGCCCTTCA−3’(配列番号54)を用いた、第一ラウンドの増幅と同じPCR条件による第二ラウンドのPCRの鋳型として用いた。743bp増幅産物を生成し、pGEM−T Easyにライゲーションして配列解析した。次に、3種の部分配列を1本の予測全長配列に組み立てた。
【0418】
続いてRT−PCRにより、トータルRNAから、5’UTRの短い領域を有する全長コード領域を増幅した。フォワードプライマー、5’−GCTATGGAGTTCGCTCAGCCT−3’(配列番号55)およびリバースプライマー、5’−TTACTACTGCTTCTTGCTGGCCAGCT−3’(配列番号56)を100ngのピラミモナスCS−0140トータルRNAと共に用いた。生成した900bp増幅産物をpGEM−T Easyにライゲーションして配列解析した。増幅産物のオープンリーディングフレームのヌクレオチド配列に配列番号3を付与し、コードされているタンパク質のアミノ酸配列に配列番号4を付与する。
【0419】
BLAST解析は、配列番号4として示されている全長アミノ酸配列が他のΔ5−およびΔ6−エロンガーゼと類似性を有することを示した。ピラミモナスCS−0140エロンガーゼと他のタンパク質との間の最大級の同一性(BLASTX)は、オストレオコッカス・タウリ多価不飽和脂肪酸エロンガーゼ1であるAAV67797との54%であった。元々のディジェネレートプライマーの設計に用いた配列等、ピラミモナスCS−0140エロンガーゼと類似した配列の複数のアライメントに基づく配列相関樹を
図4に示す。保存GNS1/SUR4ファミリードメイン(NCBI保存ドメインpfam01151)はこの配列中のアミノ酸52〜297に示され、これは通常、このタンパク質が長鎖脂肪酸伸長システムに関与することを示す。
【0420】
酵母におけるピラミモナスCS−0140Δ6−エロンガーゼの機能特性評価
pGEM−T EasyのEcoRI断片内に含まれているこのクローンのタンパク質コード領域全体をpYES2のEcoRI部位に挿入し、酵母における導入および機能特性評価のためのベクターpYES2+Pyrco−Elo1を作製した。酵母株INVSC1の細胞をpYES2+Pyrco−Elo1で形質転換し、ウラシルを含まない培地上で形質転換体を選抜した。pYES2+Pyrco−Elo1を含む酵母細胞を培地で培養し、次にガラクトースによりPyrco−Elo1 cDNAを発現するよう誘導した。培地に脂肪酸を最終濃度0.5mMになるよう添加し、30℃で48時間さらに培養し、その後、総細胞脂質における脂肪酸を分析した。ALAを培地に添加した場合、酵母形質転換体の細胞脂質におけるETrAの存在は総脂肪酸の5.3%として検出され、これは9.3%の変換効率(Δ9−エロンガーゼ活性)を示した。SDAを培地に添加した場合、酵母形質転換体の細胞脂質におけるETAの存在は34.1%として検出され、これは65.6%の変換効率であり、高レベルのΔ6−エロンガーゼ活性を示した。しかし、EPAを培地に添加した場合、酵母形質転換体の細胞脂質にDPAの存在は検出されず(表5)、これはcDNAが、酵母細胞において多少のΔ9−エロンガーゼ活性を有するがΔ5−エロンガーゼ活性はないΔ6−エロンガーゼ活性をコードしたことを示した。
【0421】
2種のΔ6−エロンガーゼ遺伝子に対する上述のデータは、ピラミモナス由来の遺伝子が、ミクロモナス由来の遺伝子より一層活性のある酵素をコードすることを示した。この結果は予想外であった。ミクロモナスのゲノムDNAから増幅されたコード領域が突然変異を含む、あるいはコード領域が不完全であった可能性は除外されない。
【実施例3】
【0422】
微細藻類由来のΔ5−エロンガーゼをコードするcDNAの単離および特性評価
ピラミモナスCS−0140Δ5−エロンガーゼ遺伝子断片の単離
CSIROのLiving Collection of MicroalgaeにおけるピラミモナスCS−0140株を高い天然レベルのΔ5−およびΔ6−伸長を有する微細藻類株として同定した(表4)。
【0423】
GenBank受託番号AAV67798およびABO98084由来のエロンガーゼアミノ酸配列のアライメント作成を行った。多くのマッチング配列から、AAV67798のそれぞれアミノ酸位置136〜142および198〜202に対応する共通アミノ酸配列ブロックYLELLDT(配列番号35)およびMYSYY(配列番号36)が選択された。これら2種のブロックの配列に基づき、ディジェネレートプライマー、5’−ARTAYYTSGARYTRYTGGAYAC−3’(配列番号57)および5’−CATKARRTARTASGAGTACAT−3’(配列番号58)(略語は上に同じ)を合成した。実施例1に記載されている通り、Superscript III One−Step RT−PCRシステムを用いてRT−PCR増幅を行った。続いて、この反応液の0.5μlを、Taq DNAポリメラーゼ(NEB)および同一プライマーを用いた第二ラウンドのPCRにおける鋳型として用いた。200bp増幅産物を生成し、pGEM−T Easyにライゲーションして配列解析した。
【0424】
全長ピラミモナスCS−0140Δ5−エロンガーゼ遺伝子の単離
5’−および3’−RACEにより200bp断片を延長するためのプライマーを設計した。実施例1の通り、遺伝子特異的フォワードプライマー、5’−CATCATACCCTGTTGATCTGGTC−3’(配列番号59)およびオリゴdTリバースプライマーを用いて遺伝子の3’末端を単離した。408bp増幅産物を生成し、pGEM−T Easy(Promega)にライゲーションして配列解析した。1μgのピラミモナスCS−0140トータルRNAから、GeneRacerキットを用い、添付のマニュアルに記載の通り55℃で1時間逆転写インキュベーションして、5’アダプター付加cDNAを作製して遺伝子の5’末端を単離した。遺伝子特異的リバースプライマー、5’−CCAGATCAACAGGGTATGATGGT−3’(配列番号60)を、PFU Ultra II Fusion DNAポリメラーゼをメーカーの記載通りに用いたPCR増幅に用いた。次に、この産物を1:10希釈し、その1μlを、GeneRacer5’ネステッドプライマー、5’−GGACACTGACATGGACTGAAGGAGTA−3’(配列番号47)および遺伝子特異的リバースプライマー、5’−CGAAAGCTGGTCAAACTTCTTGCGCAT−3’(配列番号61)を用いた第二ラウンドのPCRにおける鋳型として用いた。514bp増幅産物を生成し、pGEM−T Easy(Promega)にライゲーションして配列解析した。3種の部分配列から全長配列を組み立てた。
【0425】
次に、RT−PCRにより、トータルRNAから5’UTRの短い領域を有する全長コード領域を増幅した。フォワードプライマー、5’−AACATGGCGTCTATTGCGATTCCGGCT−3’(配列番号62)およびリバースプライマー、5’−TTATTACTGCTTCTTGGCACCCTTGCT−3’(配列番号63)を、実施例1に記載されている通りRT−PCR増幅に用いた。810bp増幅産物を生成し、pGEM−T Easyにライゲーションして配列解析した。インサートのオープンリーディングフレームのヌクレオチド配列を配列番号5とし、cDNAにコードされた予測アミノ酸配列は配列番号6として表す。
【0426】
BLAST解析は、全長アミノ酸配列が他のΔ5−およびΔ6−エロンガーゼと相同性を有することを示した。BLASTP解析は、ピラミモナスCS−0140エロンガーゼとGenbankデータベースにおける他のタンパク質との間の最大級の同一性が、パブロバ・ビリジスC20エロンガーゼに対応する受託番号ABR67690との46%であること示した。元々のディジェネレートプライマーの設計に用いた配列等、ピラミモナスCS−0140エロンガーゼと類似した配列の複数のアライメントに基づく配列相関樹を
図5に示す。
【0427】
酵母におけるピラミモナスCS−0140Δ5−エロンガーゼの機能特性評価
pGEM−T EasyにおけるcDNAのEcoRI断片内に含まれているこのクローンのタンパク質コード領域全体をpYES2のEcoRI部位に挿入し、酵母における導入および機能特性評価のためのpYES2+Pyrco−Elo2を作製した。酵母株INVSC1の細胞をpYES2+Pyrco−Elo2で形質転換し、ウラシルを含まない培地上で形質転換体を選抜した。pYES2+Pyrco−Elo2を含む酵母細胞を培地で培養し、続いてガラクトースにより誘導してcDNAを発現させた。脂肪酸を培地に添加して30℃でさらに48時間培養した後、細胞脂質における脂肪酸を分析した。ALAを培地に添加した場合、酵母形質転換体の細胞脂質におけるETrAの存在は総脂肪酸の0.3%として検出され、これは0.5%変換効率(Δ9−エロンガーゼ活性)を示した。SDAを培地に添加した場合、酵母形質転換体の細胞脂質におけるETAの存在は0.7%として検出され、これは1.3%変換効率(Δ6−エロンガーゼ活性)を示した。EPAを培地に添加した場合、酵母形質転換体の細胞脂質におけるDPAの存在は1.8%として検出され、これは驚くほど高い75%の変換効率を示し、酵母細胞における強力なΔ5−エロンガーゼ活性を表した(表6)。
【0428】
本発明者らは、組換え細胞におけるこのようなEPAからDPAへの効率的な変換が、これまでに報告されたことがないことを確信する。この酵素の植物体における変換効率は、同様に高いであろうことが推測される。保存GNS1/SUR4ファミリードメイン(NCBI保存ドメインpfam01151)は、この配列中のアミノ酸50〜267に示され、これは通常、タンパク質が長鎖脂肪酸伸長システムに関与することを示唆する。
【0429】
【表6】
【実施例4】
【0430】
微細藻類由来のΔ6−デサチュラーゼをコードする遺伝子の単離および特性評価
全長ミクロモナスCCMP1545Δ6−デサチュラーゼ遺伝子の合成
オストレオコッカス・タウリΔ6−デサチュラーゼのアミノ酸配列であるGenbank受託番号AAW70159を問い合わせ配列として用いて、米国エネルギー省共同ゲノム研究所(US Department of Energy Joint Genome Institute)(http://www.jgi.doe.gov/)により作成されたミクロモナスCCMP1545選別タンパク質モデルゲノム配列を、BLASTPプログラムを用いて解析した。この解析は、ミクロモナスCCMP1545におけるAAW70159と相同性を有する予測タンパク質の存在を明らかにした。ミクロモナスCCMP1545の予測タンパク質配列を用いて、ブラッシカ・ナパス(Brassica napus)等、双子葉植物における発現に最も適したコドンに最適化されたヌクレオチド配列を設計し、合成した。タンパク質コード領域のヌクレオチド配列に配列番号7を付与した。プラスミド構築物はpGA4と命名した。アミノ酸配列を配列番号8として示す。
【0431】
ミクロモナスCCMP1545デサチュラーゼのアミノ酸配列である配列番号8をGenbankデータベースの他のタンパク質に対する問い合わせ配列として用いたBLASTP解析は、タンパク質がΔ6−デサチュラーゼと相同性を有することを示した。最大級の同一性は、オストレオコッカス・タウリのΔ6−デサチュラーゼ配列である受託番号AAW70159のアミノ酸配列との全長にわたる66%であった。ミクロモナスCCMP1545デサチュラーゼに類似した配列の複数アライメントに基づく配列相関樹を
図6に示す。このフロントエンドデサチュラーゼは、アミノ酸54〜104にチトクロムb5ドメイン(NCBI保存ドメインpfam00173)を、アミノ酸172〜428にΔ6−FADS−様保存ドメイン(NCBI保存ドメインcd03506)を含む。フロントエンドデサチュラーゼを暗示する3個のヒスチジンボックスは、配列中のそれぞれ190〜195、227〜232および401〜405に存在する。これらドメインの両方を含むタンパク質は通常、高度な不飽和脂肪酸の合成に必要とされるフロントエンドデサチュラーゼである。興味深いことに、このデサチュラーゼは、現在までに刊行発表された唯一の生化学的に確認された植物様アシルCoAデサチュラーゼであるAAW70159近傍にクラスター形成する。
【0432】
酵母細胞におけるミクロモナスCCMP1545Δ6−デサチュラーゼの機能特性評価
プラスミドpGA4から得られたKpnI−SacI断片内に含まれているミクロモナスデサチュラーゼのコード領域全体を酵母ベクターpYES2のKpnI−SacI部位に挿入し、酵母における導入および機能特性評価のためのpYES2+Micd6Dを作製した。酵母株INVSC1の細胞をpYES2+Micd6Dで形質転換し、ウラシルを含まない培地上で形質転換体を選抜した。pYES2+Micd6Dを含む酵母細胞を培地で培養し、次にガラクトースにより誘導した。0.5mM LA、ALA、ETrA、DGLAまたはETAを培地に添加し、30℃、48時間さらに培養した後、総細胞脂質における脂肪酸を分析した。LAを培地に添加した場合、酵母形質転換体の細胞脂質におけるGLAの存在は、総脂肪酸の3.9%として検出され、これは11.4%のΔ6−脱飽和変換効率を示した。ALAを培地に添加した場合、酵母形質転換体の細胞脂質におけるSDAの存在は総脂肪酸の13.9%として検出され、これは39.0%のΔ6−脱飽和変換効率を示した。すなわち、ω3脂肪酸基質の変換効率は、対応するω6脂肪酸基質の3.5倍高かった。ETrAを培地に添加した場合、酵母形質転換体の細胞脂質におけるETAの存在は総脂肪酸の0.21%として検出され、これは8.0%のΔ8−脱飽和変換効率を示した。しかし、DGLAかETAのいずれかを培地に添加した場合、それぞれARAまたはEPAの存在は検出されなかった。この結果は、Δ5−脱飽和活性が全くないことを示した(表7)。
【0433】
【表7】
【0434】
植物細胞におけるミクロモナスCCMP1545Δ6−デサチュラーゼの機能特性評価
本明細書において陽性対照試料として用いられているミクロモナスCCMP1545Δ6−デサチュラーゼ(Mic1545−d6D)およびエキウム・プランタギネウムΔ6−デサチュラーゼ(Echpl−d6D;Zhouら、2006)の酵素活性が、実施例1に記載されている増強ニコチアナ・ベンサミアナ一過性発現システムを用いて植物体で示された。T4DNAポリメラーゼ処理して末端を平滑化した後、35Sプロモーターを含むPstI断片をベクターpORE04のSfoI部位に挿入することによって、35S−pORE04と命名されたベクターを作製した(Coutuら、2007)。SwaI断片内に含まれるpGA4のコード領域全体を35S−pORE04のSmaI−EcoRV部位に挿入してpJP2064を作製することによって、遺伝的構築物35S:Mic1545−d6Dを構築した。
【0435】
これらキメラベクターをアグロバクテリウム・ツメファシエンス株AGL1に導入し、これらの培養物から得られた細胞を温室内のニコチアナ・ベンサミアナ植物体の葉組織に浸潤させた。浸潤後、植物体をさらに5日間生育させ、その後GC分析のためにリーフディスクを採取して、ニコチアナ・ベンサミアナにおいて両方の遺伝子がΔ6−デサチュラーゼとして機能することを明らかにした。
【0436】
エキウム・プランタギネウムΔ6−デサチュラーゼを形質転換した葉組織は、GLA(0.4%)およびSDA(1.2%)を含んでおり、それぞれ3.8%および4.4%の変換効率を示した。ミクロモナスCCMP1545Δ6−デサチュラーゼで形質転換した葉組織は、SDA(2.2%)を含んでおり、6.9%の変換効率を示したがGLAは検出されなかった。葉組織におけるGLAの不在は、植物体におけるω6基質LAと比べてω3基質ALAに対する非常に高い選択性、あるいは一部には、Δ6−脱飽和によって生成されたGLAの一部をSDAに変換し得る天然のニコチアナ・ベンサミアナω3デサチュラーゼ活性の存在に起因する可能性がある。このような効果は、ω3基質選択性を有するアシルPCΔ6−デサチュラーゼについて記載した以前の実験(Sayanovaら、2006)において可能性として注目されてきたが、このことが生じる範囲はその研究では定量化されていなかった。
【0437】
ミクロモナスΔ6−デサチュラーゼのオメガ−3基質選択性
ミクロモナスから単離されたΔ6−デサチュラーゼは、酵母と同様に植物体におけるω3基質に対して驚くほど高い選択性を有した。酵母細胞で発現した酵素は、対応するω6−脱飽和脂肪酸基質よりもω3−脱飽和脂肪酸基質に3.5倍高い活性を有することが観察された。観察されたω3基質に対する選択性は、O.タウリ酵素に対する選択性の欠如に関する報告(Domergueら、2005)に基づいた場合、全く驚くべきことであり予期せぬことであった。酵母または植物種子におけるO.タウリΔ6−デサチュラーゼの発現に関する報告は、LAおよびALAにおける同様の活性を示した。
【0438】
従って、植物体における組換えVLC−PUFA経路の一部としての他の脂肪酸デサチュラーゼおよびエロンガーゼと併用した、ω3−脱飽和脂肪酸基質に対してこのように高い特異性を有するこの遺伝子または他の遺伝子の使用は、ω3−脱飽和基質に対する選択性を持たないデサチュラーゼの使用と比べてEPA、DPAおよびDHAレベルを増加させることが予想された。このような増加は、真菌または酵母のΔ17−デサチュラーゼによって植物体においてはそのω3対応物質に効率的に変換されない、LAのGLAへの、そして続くω6PUFA DGLAおよびARAへの変換が低減した結果生じることが予想された。ω3脂肪酸基質に対して選択性を有するΔ6−デサチュラーゼが単離されたが(Sayanovaら、2003)、これはリン脂質結合アシル鎖に活性を持っていた。対照的に、ミクロモナスから得られたデサチュラーゼは、アシルCoA基質に活性を持つことが予想される。
【0439】
ミクロモナスCCMP1545Δ6−デサチュラーゼの二重Δ6/Δ8機能
検出可能なΔ8−デサチュラーゼ活性を持たないオストレオコッカス・ルシマリヌス酵素とは対照的に、ミクロモナスCCMP1545Δ6−デサチュラーゼが顕著なレベルのΔ8−デサチュラーゼ活性を提示し、従って顕著な二重活性を持っていたことを興味深く記す(後述)。二重デサチュラーゼ活性は、植物体における二重Δ6/Δ8−デサチュラーゼ経路の構築に、あるいはこのような経路の構築に用いられるエロンガーゼがΔ9−エロンガーゼおよびΔ6−エロンガーゼ活性の両方を有する場合、有用となることが予想される。このような遺伝子の使用は、ETrAをETAに変換し、その後EPAにΔ5−脱飽和させることにより、ETrA蓄積の抑制に有用となるであろう。
【0440】
全長オストレオコッカス・ルシマリヌスΔ6−デサチュラーゼ遺伝子の合成
オストレオコッカス・タウリΔ6−デサチュラーゼのヌクレオチド配列(受託番号AY746357)を問い合わせ配列として用いて、BLASTXにより非重複性タンパク質配列のGenBankデータベースを解析した。この解析により、受託番号XP_001421073のアミノ酸配列を有する部分長タンパク質をコードするオストレオコッカス・ルシマリヌス遺伝子を同定した。次に、XP_001421073をコードする領域の側方にあるゲノムDNA配列を調査して、推定される翻訳開始および終止コドンを同定して全長タンパク質コード領域を画定し、そのヌクレオチド配列に配列番号9を付与した。続いて、コード領域をタンパク質配列に翻訳して、配列番号10を付与した。このアミノ酸配列を用いて、配列番号11に示すヌクレオチド配列を有する、ブラッシカ・ナパスおよびその他の双子葉植物における発現に最も適したコドンに最適化されたヌクレオチド配列を設計および合成した。
【0441】
オストレオコッカス・ルシマリヌスデサチュラーゼアミノ酸配列をGenbankデータベース内の他のタンパク質への問い合わせ配列として用いたBLASTP解析は、配列番号10がΔ6−デサチュラーゼと相同性を有することを示した。全長配列にわたる最大級の同一性は、オストレオコッカス・タウリΔ6−デサチュラーゼ配列である受託番号AAW70159のアミノ酸配列との76%であった。オストレオコッカス・ルシマリヌスデサチュラーゼと類似した配列の複数のアライメントに基づく配列相関樹を
図7に示す。このフロントエンドデサチュラーゼは、チトクロムb5ドメイン(NCBI保存ドメインpfam00173)をアミノ酸55〜108に、Δ6−FADS様保存ドメイン(NCBI保存ドメインcd03506)をアミノ酸198〜444に含んでいた。フロントエンドデサチュラーゼを暗示する3個のヒスチジンボックスは、この配列内のアミノ酸207〜212、244〜249および417〜421に存在する。これらドメインの両方を含むタンパク質は通常、高度の不飽和脂肪酸の合成に必要とされるフロントエンドデサチュラーゼである。興味深いことに、このデサチュラーゼは、現在までに刊行発表された唯一の生化学的に確認された植物様アシルCoAデサチュラーゼであるAAW70159近傍にクラスター形成する。
【0442】
酵母細胞におけるオストレオコッカス・ルシマリヌスΔ6−デサチュラーゼの機能特性評価
pGEM−T EasyのNotI断片に含まれているオストレオコッカス遺伝子(配列番号11)のコード領域全体をpYES2のNotI部位挿入し、酵母における導入および機能特性評価のためのキメラベクターpYES2+Ostlud6Dを作製した。酵母株INVSC1の細胞をpYES2+Ostlud6Dで形質転換し、ウラシルを含まない培地上で形質転換体を選抜した。pYES2+Ostlud6Dを含む酵母細胞を培地で培養し、次にガラクトースにより誘導した。LA、ALA、SDAまたはEPAを培地にそれぞれ最終濃度0.5mMになるよう添加し、さらに48時間、30℃で培養した後、細胞脂質における脂肪酸を分析した。基質LAを培地に添加した場合、酵母形質転換体の細胞脂質における産物GLAの存在を総脂肪酸の2.1%として検出し、これは6.6%のΔ6−脱飽和変換効率を示した。基質ALAを培地に添加した場合、酵母形質転換体の細胞脂質における産物SDAの存在を総脂肪酸の13.8%として検出し、これは38.8%のΔ6−脱飽和変換効率を示した。しかし、ETrA、DGLAまたはETAの内いずれかを培地に添加した場合、それぞれETA、ARAまたはEPAの存在は検出されなかった。このことは、Δ5−またはΔ8−脱飽和活性が全くないことを示し(表7)、また、同じ長さと不飽和パターンを有する対応するω6脂肪酸と比べてω3脂肪酸基質に対する選択性を表した。
【0443】
デサチュラーゼのアシルCoA基質特異性
本実施例に記載のデサチュラーゼは、他のΔ6−デサチュラーゼよりも、以前単離されたオストレオコッカス・タウリ由来のΔ6−デサチュラーゼと密接に関連する(
図9)。デサチュラーゼファミリーの他のメンバーと共にこれら遺伝子の系統樹を作成した場合、この類似性はさらに強調される(
図10)。オストレオコッカス・タウリΔ6−デサチュラーゼは、アシルCoA基質に活性を有することが報告された(Domergueら、2005)。これらの観察に基づき、上述の遺伝子にコードされたΔ6−デサチュラーゼもまた、アシルPC基質よりむしろアシルCoA基質に活性を有するであろうことが予想された。興味深いことに、パブロバ・サリナΔ5−デサチュラーゼもO.タウリのΔ6−デサチュラーゼとクラスター形成し、Δ8−デサチュラーゼは別の分枝を形成した。
【0444】
M.プシラ(ミクロモナスCCMP1545)Δ6−デサチュラーゼがアシルCoA脂肪酸を基質として利用できるか、従ってΔ6−脱飽和アシルCoA脂肪酸を生成できるか否かを確立するため、デサチュラーゼ単独をコードする遺伝的構築物でS.セレビジエ(S.cerevisiae)を形質転換し、250μMの外因性18:3
Δ9,12,15の存在下で形質転換体細胞系を3回培養した。続いて、培養物から総脂質を抽出し、薄層クロマトグラフィー(TLC)により中性脂質(NL)、ホスファチジルコリン(PC)、ホスファチジルイノシトール(PI)、ホスファチジルセリン(PS)およびホスファチジルエタノールアミン(PE)クラスに分画し、その後各クラスからFAMEを生成してGCにより分析した。データを表8に示す。
【0445】
【表8】
【0446】
総脂質において、71%の18:3
Δ9,12,15がΔ6−脱飽和されて18:4
Δ6,9,12,15となった。総脂質抽出物と比較した場合、PC画分において産物の濃縮は検出されなかった。確かに、PC画分には実質的に総脂質より低い割合の18:4
Δ6,9,12,15が存在し(21.0%対29.4%)、これはデサチュラーゼが18:4
Δ6,9,12,15をアシルCoAチオエステルとして生成していたことを示した(Domergueら、2003)。
【0447】
形質転換により、M.プシラΔ6−デサチュラーゼをコードする遺伝子をアラビドプシス植物体にも導入した。SwaI断片内に含まれているM.プシラΔ6−デサチュラーゼのコード領域全体をLinin−pWVEC8のSmaI部位に挿入してlinP−mic1545−d6D−linTを作製することにより、遺伝的構築物Linin:Micpu−d6Dを作製した。この構築物のプロモーターは、アマ由来の種子特異的lininプロモーターである。この構築物は、A.サリアナ(A. thaliana)生態型コロンビア(Columbia)に形質転換し、形質転換植物のT2種子における脂肪酸組成をGCにより分析した(
図11)。
【0448】
酵母およびN.ベンサミアナの両方における生化学的研究により、M.プシラ由来のΔ6−デサチュラーゼがアシルCoAデサチュラーゼである証拠が提供された。その結果起こった伸長ステップの動態学的解析は、デサチュラーゼがアシルCoA産物を生成する能力を決定するための間接的な方法として、他の研究で用いられてきた。Δ6−脱飽和産物(SDA)を、アシルCoA代謝プールで起こる次のΔ6−伸長ステップに利用できるか否かは、Δ6−デサチュラーゼの基質特異性に左右される(Domergueら、2003、2005;Hoffmannら、2008)。E.プランタギネウムのアシルPCΔ6−デサチュラーゼを用いた場合に観察された顕著により低レベルの伸長とは対照的に、O.タウリおよびM.プシラ由来のΔ6−デサチュラーゼを用いた場合、同様のΔ6−伸長率が得られた(
図12a)。酵母脂質クラスにおけるΔ6−デサチュラーゼ産物SDAの分布を解析した場合、更なる証拠が観察された(表8)。総脂質画分と比べてPC画分における濃縮は観察されなかったが、仮にアシルPCデサチュラーゼによりSDAが生成された場合このような濃縮が予想されるであろう(Domergueら、2005)。N.ベンサミアナ葉における基質LAおよびALAの大部分はプラスチドに局在して脱飽和に利用できないため、相対的に低レベルのΔ6−脱飽和(
図12)が本願の研究に観察されることが予想された。しかし、FAME調製においてこれら脂肪酸もまた単離されるため、その存在は計算された総合的な変換効率を効果的に低下させる。従って、種子特異的変換効率は、同一遺伝子で非常により高いことが予想される。
【0449】
アシルCoAとアシルPCΔ6−デサチュラーゼの比較
植物細胞において、ミクロモナスCCMP1545Δ6−デサチュラーゼ、エキウム・プランタギネウムΔ6−デサチュラーゼおよびオストレオコッカス・タウリΔ6−デサチュラーゼ間で更なる比較を行った(Domergueら、2005)。実施例4に記載されている遺伝的構築物35S:Mic1545−d6Dおよび35S:Echpl−d6Dを、SwaI断片内に含まれているオストレオコッカス・タウリΔ6−デサチュラーゼのコード領域全体を35S−pORE04のSmaI−EcoRV部位に挿入することによりpJP3065を作製して構築した遺伝的構築物35S:Ostta−d6Dと比較した。
【0450】
E.プランタギネウムと、O.タウリおよびM.プシラのいずれかとの間のEPA経路の直接的な比較は、より効率的なΔ6−脱飽和およびそれに続くより効率的なΔ6−伸長の両方のために、アシルCoAデサチュラーゼ経路がより高レベルのEPAを生じたことを示した(
図12a)。E.プランタギネウムΔ6−デサチュラーゼは、ω3基質の14%の変換(18:3
Δ9,12,15から18:4
Δ6,9,12,15)およびω6基質の30%の変換(18:2
Δ9,12から18:3
Δ6,9,12)を触媒した。O.タウリΔ6−デサチュラーゼの使用は、24%のω3変換および40%のω6変換をもたらしたが、一方M.プシラΔ6−デサチュラーゼの使用は、27%のω3変換および15%のω6変換をもたらした。これら変換は、E.プランタギネウム経路において1.3%の20:4
Δ5,8,11,14および3.4%の20:5
Δ5,8,11,14,17を、O.タウリ経路において1.2%の20:4
Δ5,8,11,14および9.6%の20:5
Δ5,8,11,14,17を、そしてM.プシラ経路において0.6%の20:4
Δ5,8,11,14および10.7%の20:5
Δ5,8,11,14,17の生成をもたらした。
【0451】
E.プランタギネウムデサチュラーゼを用いた場合と比べて、O.タウリまたはM.プシラΔ6−デサチュラーゼのいずれかが基質18:4
Δ6,9,12,15を生じた場合、Δ6−伸長ははるかに高かった(
図12a)。M.プシラΔ6−デサチュラーゼが示したω3基質特異性に加えて、P.コルダタΔ6−エロンガーゼ(実施例2を参照)は、高度に特異的であり、ω3基質18:4
Δ6,9,12,15を18:3
Δ6,9,12よりも非常に高い割合で変換したことが証明された(M.プシラEPA経路においてそれぞれ89%および21%)。
【0452】
二重Δ6−デサチュラーゼ経路の使用
2種のΔ6−デサチュラーゼを含む経路を用いることによりΔ6−脱飽和を増加させる可能性を研究して比較を行った。先ず、E.プランタギネウムアシルPCデサチュラーゼとM.プシラアシルCoAデサチュラーゼの組合せは、M.プシラデサチュラーゼのみを含む経路で観察された効率を超えて変換効率を顕著に増加させることはなかった(
図12b)。E.プランタギネウムおよびO.タウリのΔ6−デサチュラーゼを組み合わせた場合、同様の結果が得られた。O.タウリとM.プシラ両方のデサチュラーゼを組み合わせた二重アシルCoAΔ6−デサチュラーゼ経路もまた、O.タウリまたはM.プシラ経路のいずれかと比べた場合にω3変換効率の増加を生じなかった(
図12c)。
【0453】
EPA生成経路における二重Δ6−デサチュラーゼの使用の効果も試験した。第一の試験は、E.プランタギネウム由来のアシルPCデサチュラーゼと、別個の実験における両方のアシルCoAデサチュラーゼとを組み合わせた。脂質関連デサチュラーゼの添加がアシルPC基質LAまたはALAのいずれかのそれぞれGLAまたはSDAへの変換を増加できるとの仮説を立てた。同様に、2種のアシルCoAデサチュラーゼの使用がEPAの蓄積を増加することができるかについても試験された。これら筋書きのいずれも正しくはないことが、N.ベンサミアナの一過性アッセイにおいて証明された。
【実施例5】
【0454】
微細藻類由来のΔ5−デサチュラーゼをコードする遺伝子の単離および特性評価
ピラミモナスCS−0140Δ5−デサチュラーゼ遺伝子断片の単離
GenBank受託番号ABL96295、ABP49078、XP_001421073、AAM09687、AAT85661、AAW70159およびAAX14505から得られたデサチュラーゼアミノ酸配列のアライメントは、ABL96295のそれぞれアミノ酸位置197〜206および368〜375に対応する共通アミノ酸配列ブロックWKNMHNKHHA(配列番号37)およびHHLFPSMP(配列番号38)を同定した。これら2ブロックの配列に基づき、CODEHOPプログラム(Roseら、1998)を用いて、ディジェネレートプライマー、5’−GGTGGAAGAACAAGCACAACrdncaycaygc−3’(配列番号64)および5’−GGGCATCGTGGGGwanarrtgrtg−3’(配列番号65)を設計した。10pmolの各プライマー、50ngのピラミモナスCS−0140ゲノムDNAならびに添付のマニュアルに記載されているバッファーおよびヌクレオチド成分を用いた20μL容量で、Taq DNAポリメラーゼ(NEB)を用いてタッチダウンPCR増幅を行った。サイクル条件は、1サイクルの94℃3分間;20サイクルの94℃1分間、70℃2分間(1サイクル毎に−1℃)、72℃1分間;20サイクルの94℃1分間、55℃1分間、72℃1分間;1サイクルの72℃5分間;4℃で維持であった。551bp増幅産物を生成し、pGEM−T Easy(Promega)にライゲーションして配列解析した。
【0455】
全長ピラミモナスCS−0140Δ5−デサチュラーゼ遺伝子の単離
5’−および3’−RACEにより551bp断片を伸長するためのプライマーを設計し、実施例1に記載されている通りに用いた。遺伝子特異的フォワードプライマー、5’−AGCGAGTACCTGCATTGGGT−3’(配列番号66)および実施例1の通りの改変型オリゴdTリバースプライマーを用いて、Δ5−デサチュラーゼをコードする遺伝子のcDNAの3’末端を単離した。477bp増幅産物を生成し、pGEM−T Easyにライゲーションして配列解析した。実施例1の通りの改変型ターミナルトランスフェラーゼ法により遺伝子の5’末端を単離した。遺伝子特異的リバースプライマーは、5’−ATAGTGCTTGGTGCGCAAGCTGTGCCT−3’(配列番号67)であった。2ラウンドのPCR増幅後、317bp増幅産物を生成し、pGEM−T Easy(Promega)にライゲーションして配列解析した。3種の部分配列を全長遺伝子の予測配列に組み立てた。
【0456】
次に、5’UTRの短い領域を有する全長タンパク質コード領域をゲノムDNAから増幅した。フォワードプライマー、5’−CACCATGGGAAAGGGAGGCAATGCT−3’(配列番号68)およびリバースプライマー、5’−TTACTAGTGCGCCTTGGAGTGAGAT−3’(配列番号69)を、4pmolの各プライマーおよび50ngのピラミモナスCS−0140ゲノムDNAならびにPFU Ultra II Fusionの添付マニュアルに記載されているバッファー組成物を用いた20μL容量で、PFU Ultra II Fusion DNAポリメラーゼ(Stratagene)によるPCR増幅に用いた。全長cDNAを表す1336bp増幅産物を生成し、pGEM−T Easyにライゲーションして配列解析した。cDNAのオープンリーディングフレームのヌクレオチド配列は配列番号12とする。
【0457】
BLAST解析は、配列番号13として示す遺伝子にコードされた全長アミノ酸配列が、公知のΔ5−またはΔ6−デサチュラーゼと類似性を有するタンパク質をコードすることを示した。これら2種類のデサチュラーゼはアミノ酸レベルで類似しており、どの活性がコードされているかアミノ酸配列のみからは不明確であった。後述の通り酵素活性の解析を行い、これによりコードされたタンパク質がΔ5−デサチュラーゼ活性を有することが示された。BLASTPによって決定した、ピラミモナスCS−0140デサチュラーゼとGenbankデータベースにおける他のデサチュラーゼとの間の最大級の同一性は、モノシガ・ブレビコリスMX1由来の未定義の酵素活性を有するタンパク質のアミノ酸配列である受託番号EDQ92231との52%であった。元々のディジェネレートプライマーの設計に用いた配列等、ピラミモナスCS−0140デサチュラーゼと類似した配列の複数アライメントに基づく配列相関樹を
図8に示す。このフロントエンドデサチュラーゼは、チトクロムb5ドメイン(NCBI保存ドメインpfam00173)をアミノ酸16〜67に、Δ6−FADS様保存ドメイン(NCBI保存ドメインcd03506)をアミノ酸159〜411に含む。フロントエンドデサチュラーゼを暗示する3個のヒスチジンボックスは、この配列のアミノ酸175〜180、212〜217および384〜388に存在する。これらドメインを含むタンパク質は通常、複数の不飽和脂肪酸の合成に必要とされるフロントエンドデサチュラーゼである。
【0458】
酵母におけるピラミモナスCS−0140Δ5−デサチュラーゼの機能特性評価
pGEM−T EasyのNotI断片内に含まれているこのクローンのコード領域全体をpYES2(Invitrogen)のNotI部位に挿入し、酵母における導入および機能特性評価のためのpYES2+Pyrco−des2を作製した。酵母株INVSC1(Invitrogen)の細胞をpYES2+Pyrco−des2で形質転換し、形質転換体をウラシルを含まない培地上で選抜した。pYES2+Pyrco−des2を含む酵母細胞を培地で培養し、次にガラクトースにより誘導した。培地に0.5mM LA、ALA、DGLAまたはETAを添加し、48時間、30℃でさらに培養した後、細胞脂質における脂肪酸を分析した。培地にDGLAを添加した場合、酵母形質転換体の細胞脂質において総脂肪酸の0.12%のARAが検出され、これは4.0%のΔ5−脱飽和変換効率を示した。培地にETAを添加した場合、酵母形質転換体の細胞脂質において総脂肪酸の0.26%のEPAが検出され、これは3.5%のΔ6−脱飽和変換効率を示した。しかし、培地にLAまたはALAのいずれかを添加した場合、それぞれGALまたはSDAは酵母形質転換体に生成されなかった。これは、タンパク質が酵母細胞でΔ6−脱飽和活性を全く持たないことを示した(表7)。
【0459】
植物細胞におけるピラミモナス・コルダタ(Pyramimonas cordata)Δ5−デサチュラーゼの発現
アラビドプシス・サリアナDGAT1(配列番号75によりコードされた配列番号74)と共に、ミクロモナスCCMP1545Δ6−デサチュラーゼ(配列番号7によりコードされた配列番号8)、ピラミモナスCS−0140Δ6−エロンガーゼ(配列番号3によりコードされた配列番号4)およびピラミモナスCS−0140Δ5−デサチュラーゼ(配列番号12によりコードされた配列番号13)の酵素活性は、実施例1に記載された増強ニコチアナ・ベンサミアナ一過性発現システムを用いて植物体において証明された。
【0460】
EcoRI断片に含まれているピラミモナスCS−0140Δ5−デサチュラーゼのコード領域全体を35S−pORE04(実施例4、上述)のEcoRI部位に挿入して35S:Pyrco−d5Dを作製することによって、構成的35Sプロモーターの制御下でΔ5−デサチュラーゼをコードする遺伝的構築物35S:Pyrco−d5Dを構築した。キメラベクター35S:Mic1545−d6D(実施例10)、35S:Pyrco−d6E(実施例10)および35S:Pyrco−d5Dを個々にアグロバクテリウム・ツメファシエンス株AGL1導入し、これらの培養物から得られたトランスジェニック細胞を混合し、混合物を温室内のニコチアナ・ベンサミアナ植物体の葉組織に浸潤した。植物体を浸潤後さらに5日間生育し、その後GC分析のためリーフディスクを採取して、これら遺伝子がニコチアナ・ベンサミアナにおけるEPA生成に機能することを明らかにした。これら遺伝子で形質転換した葉組織は、SDA(1.0%)、ETA(0.1%)、EPA(10.0%)を含んでいた。葉組織はまた、微量のGLA、ETAおよびARAも含んでいた。Δ5−デサチュラーゼの変換効率は98.8%として計算された。
【0461】
本実験は、微細藻類Δ5−デサチュラーゼが、植物細胞において少なくとも90%または少なくとも95%の効率でETAをEPAに変換できることを証明した。
【実施例6】
【0462】
微細藻類由来のω3−デサチュラーゼをコードする遺伝子の単離および特性評価
ミクロモナスCS−0170ω3−デサチュラーゼ遺伝子断片の単離
ミクロモナス等、微細藻類がω3デサチュラーゼをコードする遺伝子を有するか決定し、その場合はこのような遺伝子を同定する試みにおいて、ミクロモナス株RCC299のゲノム配列においてFAD3と相同性を示す遺伝子の探索を行った。しかし、この探索により候補遺伝子を同定することは全くできなかった。従って、本発明者らは、ω3デサチュラーゼがミクロモナスの他の種類のデサチュラーゼが代理となり得るか否か検討した。この仮説は、同じ株におけるΔ6デサチュラーゼが、フロントエンド型のアシルCoA依存型であるとの知見(実施例4)によって支持された。しかし、実験してみたところ、ミクロモナスRCC299ゲノムは、少なくとも30種の推定脂肪酸デサチュラーゼの遺伝子を含んでいると思われるが、実際にあるとすればそれらの内いずれがω3デサチュラーゼをコードし得るかについての情報はなかった。
【0463】
実験において、Genbank受託番号BAD91495、ABL63813、BAD11952およびAAR20444から得られたデサチュラーゼアミノ酸配列のアライメントは、BAD91495のそれぞれアミノ酸位置106〜113および296〜305に対応する共通アミノ酸配列ブロックWCIGHDCG(配列番号39)およびTFLQHHDEDM(配列番号40)を同定した。これら2ブロックの配列に基づき、CODEHOPプログラムを用いて、ディジェネレートプライマー、5’−TGTGGTGCATCGGCCAYGANKSNGG−3’(配列番号70)および5’−TGTCCTCGTCGTTGTGCTGNARRWANGT−3’(配列番号71)を設計した。10pmolの各プライマー、50ngのミクロモナスCS−0170ゲノムDNAならびに添付のマニュアルに記載されているバッファーおよびヌクレオチド成分を用いた20μL容量で、Taq DNAポリメラーゼ(NEB)を用いてタッチダウンPCR増幅を行った。サイクル条件は、1サイクルの94℃3分間;20サイクルの94℃1分間、70℃2分間(1サイクル毎に−1℃)、72℃1分間;35サイクルの94℃1分間、56℃1分間、72℃1分間;1サイクルの72℃5分間;4℃で維持であった。528bp増幅産物を生成し、pGEM−T Easy(Promega)にライゲーションして配列解析した。この増幅産物のヌクレオチド配列を配列番号14として示し、コードされた部分タンパク質配列を配列番号15として示す。
【0464】
全長ミクロモナスRCC299ω3−デサチュラーゼ遺伝子の合成
ディジェネレートPCRにより作製した528bp断片を完全ミクロモナスRCC299選別タンパク質モデルゲノム配列(米国エネルギー省共同ゲノム研究所、http://www.jgi.doe.gov/により作成)と比較した。BLAST解析により、ミクロモナスRCC299の第13染色体領域と配列番号14との間で高い相同性を有する領域が明らかになった。この2配列の近似した同一性に基づき、ミクロモナス株CS−0170およびRCC299は非常に密接に関連していると思われた(ミクロモナスRCC299のヌクレオチド配列は配列番号16として示す)。ミクロモナスRCC299予測タンパク質配列(配列番号17)を用いて、ブラッシカ・ナパスまたは他の双子葉植物における発現に最も適したコドンに最適化されたヌクレオチド配列を設計、合成した(配列番号18)。配列番号18のヌクレオチド164から始まるこの遺伝子のより短い型を酵母で試験したが、ω3デサチュラーゼ活性は検出されなかった。
【0465】
BLAST解析により、全長アミノ酸配列(配列番号17)がFAT−1、FAT−2およびω3デサチュラーゼと相同性を有することが示された。どの活性がコードされているか配列のみから推測することはできなかった。ミクロモナスCS−0170デサチュラーゼとGenbankデータベースにおける他のタンパク質との間のBLASTXによる最大級の同一性は、脂肪酸デサチュラーゼファミリーのブルギア・マレー(Brugia malayi)タンパク質であるXP_001899085.1との35%であった。このフロントエンドデサチュラーゼは、Δ12−FADS様保存ドメイン(NCBI保存ドメインcd03507)を含んでいた。これらドメインの両方を含むタンパク質は通常、ω3デサチュラーゼファミリー等、脂肪酸の合成に必要とされるフロントエンドデサチュラーゼである。
【0466】
植物体におけるミクロモナスRCC299ω3−デサチュラーゼの機能特性評価
本明細書で陽性対照試料として用いた、ミクロモナスRCC299(Mic299−ω3D、上述通り)およびフィトフトラ・インフェスタンスΔ17−デサチュラーゼ(Phyin−d17D、GenBank受託番号CAM55882)から単離された全長遺伝子によってコードされた推定ω3−デサチュラーゼの酵素としての機能を、上述の通り増強ニコチアナ・ベンサミアナ一過性発現システムを用いて植物体において試験した。
【0467】
EcoRI断片内に含まれている配列番号18のタンパク質コード領域全体をベクター35S−pORE04(実施例4)のEcoRI部位にクローニングしてpJP2073と命名した遺伝的構築物を作製することにより、35S:Mic299−w3D構築物を構築した。EcoRI断片内のフィトフトラ・インフェスタンスΔ17デサチュラーゼのコード領域全体を35S−pORE04のEcoRI部位にクローニングしてpJP2074を作製することにより、35S:Phyin−d17D構築物を構築した。同様に、EcoRI断片内に含まれているアラビドプシス・サリアナDGAT1(AF051849)のコード領域全体を35S−pORE04のEcoRI部位にクローニングしてpJP2078を作製することにより、35S:Arath−DGAT1構築物を構築した。
【0468】
アグロバクテリウム・ツメファシエンス株AGL1を50mg/mLカナマイシンおよび50mg/mLリファンピシンを添加したLB培地において28℃で定常期になるまで培養した。次に、5000g、15分間室温で遠心分離することにより細菌をペレット化し、その後OD600=1.0になるよう10mM MES pH5.7、10mM MgCl
2および100μMアセトシリンゴンを含む浸潤バッファーに再懸濁した。続いて28℃で3時間振盪しつつ細胞をインキュベートし、その後35S:p19、35S:Arath−DGAT1および35S:Phyin−d17Dか35S:Mic299−w3Dのいずれかを含む等量のアグロバクテリウム細胞の培養物を、葉組織に浸潤する前に混合した。アラキドン酸塩を調製して、上述の通り形質転換葉組織に摂取させ、基質摂取の5時間後と24時間後の両方において分析のためリーフディスクを採取した。35S:Phyin−d17D構築物または別個に35S:Mic299−w3D構築物で浸潤した葉スポットはいずれも、それぞれ37%および50%効率のARA(20:4ω6)からEPA(20:5ω3)への変換を示し(
図13)、これはタンパク質がΔ17−デサチュラーゼ活性を有することを表した。
【0469】
論考:最初の微細藻類ω3−デサチュラーゼのΔ17−デサチュラーゼ活性による特性評価
本研究に記載されているミクロモナスRCC299ω3デサチュラーゼは、C20以上の長さの脂肪酸基質に対して活性を有する、記載された最初の微細藻類、すなわち植物様Δ17デサチュラーゼである。陸生植物が、FAD3型ではなくむしろフロントエンドデサチュラーゼ型のω3デサチュラーゼを有することは知られていない。従って、菌類よりも植物に関係のある微細藻類株が、フロントエンドデサチュラーゼ型のω3デサチュラーゼを保有することを見出したことは驚くべきことであった。
【0470】
他のデサチュラーゼとの相同性に基づき、上述の実験で対照遺伝子として用いた真菌フィトフトラ・インフェスタンスのデサチュラーゼがアシルPC基質に活性を有する一方、ミクロモナスRCC299のデサチュラーゼがアシルCoA基質に活性を有する可能性について検討した。他の真菌デサチュラーゼは、アシルPC基質に活性を有することが知られている。ミクロモナス遺伝子に関するこの結論は、その同一株由来のΔ6−デサチュラーゼ遺伝子との、観察された類似性と矛盾しない(実施例4)。この基質選択性は基質摂取実験によりさらに研究することができ、これによると、形質転換組織に摂取させたARA等の基質はアシルCoAプールに直ちに利用できるが、アシルPCプールには天然の植物(例えば、ニコチアナ・ベンサミアナ)アシルトランスフェラーゼによって変換された後でしか利用できない。
【0471】
ミクロモナスRCC299ω3デサチュラーゼ遺伝子は、特にARA等、ω6基質をω3産物に変換するその能力のため、EPAならびにその下流脂肪酸DPAおよびDHA、その他のω3VLC−PUFAを植物において生成するよう設計された組換え経路の構築に非常に有用となるであろう。同様に、アシルCoAプールで機能するΔ5−エロンガーゼ等、エロンガーゼと組み合わせた場合、アシルCoA基質における活性はこの有用性を高める。さらに、ミクロモナス株の脂肪酸プロファイルは、ミクロモナス酵素が、GLAまたはLA等、ω6C18脂肪酸をそれぞれSDAまたはALA等、それらのω3対応物質に変換する能力も有することを示した。GLAからSDAへの変換は、上述の通り基質ARAの基質摂取により酵母細胞か植物体のいずれかにおいて証明することができるが、一方LAからALAへの変換は、植物に内因性Δ15デサチュラーゼが存在するため酵母細胞においてより良く証明される。
【0472】
他のω3−デサチュラーゼの同定
配列番号17を問い合わせ配列として用いたBLASTPプログラムで、米国エネルギー省共同ゲノム研究所(http://www.jgi.doe.gov/)により作成されたミクロモナスCCMP1545選別タンパク質モデルゲノム配列を解析した。この解析により、ミクロモナスCCMP1545における配列番号17と相同性を有する遺伝子(EuGene.0000150179)の存在が明らかになった。オープンリーディングフレーム配列を配列番号19とし、タンパク質配列は配列番号20として示す。
【0473】
BLAST解析により、全長アミノ酸配列である配列番号20がFAT−1、FAT−2およびω3デサチュラーゼと相同性を有することが示された。ミクロモナスCCMP1545デサチュラーゼとGenbankデータベースにおける他のタンパク質との間の最大級の同一性(BLASTP)は、配列番号17との全長にわたって59%であった。このフロントエンドデサチュラーゼは、Δ12−FADS様保存ドメイン(NCBI保存ドメインcd03507)を含んでいた。これらドメインの両方を含むタンパク質は通常、ω3デサチュラーゼファミリー等、脂肪酸合成に必要とされるフロントエンドデサチュラーゼである。このタンパク質が、植物体においてΔ17−デサチュラーゼ活性を有するω3デサチュラーゼとしても機能するであろうことが推測された。
【実施例7】
【0474】
微細藻類由来のΔ9−エロンガーゼをコードするさらに別の遺伝子の単離および特性評価
エミリアニア・ハクスレイ(Emiliania huxleyi)CCMP1516Δ9−エロンガーゼの単離および特性評価
GenBank受託番号AF390174のアミノ酸配列を問い合わせ配列として用いたBLASTPプログラムにより、米国エネルギー省共同ゲノム研究所(http://www.jgi.doe.gov/)により作成されたエミリアニア・ハクスレイCCMP1516選別タンパク質モデルゲノム配列を解析した。この解析により、エミリアニア・ハクスレイCCMP1516におけるAF390174と相同性を有する推測遺伝子の存在が明らかになった。タンパク質配列は配列番号28として示し、コードするヌクレオチド配列は配列番号27として示す。BLAST解析により、全長アミノ酸配列がPUFAエロンガーゼと相同性を有することが示された。エミリアニア・ハクスレイCCMP1516エロンガーゼと他のタンパク質との間の最大級の同一性(BLASTP)は、AF390174との80%であった。保存GNS1/SUR4ファミリードメイン(NCBI保存ドメインpfam01151)がこの配列内に示され、これは通常、タンパク質が長鎖脂肪酸伸長システムに関与することを示唆した。
【0475】
エミリアニア・ハクスレイCCMP1516推測タンパク質配列を用いて、ブラッシカ・ナパス等、双子葉植物における発現に最も適したコドンに最適化されたヌクレオチド配列を設計、合成した(配列番号29)。プラスミド構築物を0835668_Emihu−d9E_pMAと命名した。
【0476】
P.ピンギスおよびP.サリナΔ9−エロンガーゼの単離および特性評価
P.ピンギスおよびP.サリナΔ9−エロンガーゼ内の可能性のある保存領域を同定するため、E.ハクスレイΔ9−エロンガーゼPLL00000665(TBestDBからE.ハクスレイエロンガーゼ配列を問い合わせ配列として用いたBLAST解析により得られたP.ルテリ(lutheri)EST配列)およびGenbank受託番号AAL37626(I.ガルバナΔ9−エロンガーゼ)から推定したエロンガーゼアミノ酸配列のアライメントを作成した。この操作により、Emihu−d9Eのそれぞれアミノ酸位置40〜48および170〜178に対応する、共通アミノ酸配列ブロックVDTRKGAYR(配列番号76)およびFIHTIMYTY(配列番号77)が明らかになった。これら2ブロックの配列に基づき、ディジェネレートプライマー、5’−TGGTGGACACAAGGAAGGGNGCNTAYMG−3’(配列番号78)および5’−GTAGGTGTACATGATGGTRTGDATRAA−3’(配列番号79)を合成し、P.ピンギスのRNAおよびP.サリナのcDNAライブラリー(Zhouら、2007)を用いたRT−PCRおよびPCR増幅を、Superscript III(商標)Platinum(商標登録)One−Step RT−PCRシステムまたはTaq DNAポリメラーゼ(NEB、イプスウィッチ、マサチューセッツ州、米国)を用いて行った。
【0477】
P.ピンギスからRT−PCRにより641塩基対の増幅産物を生成し、pGEM−T Easy(登録商標)にライゲーションして配列解析した。5’−および3’−RACEにより641塩基対の断片を伸長するためのプライマーを設計し、遺伝子特異的フォワードプライマー、5’−GTCCTTGCTCCAGGGCTTCCACCA−3’(配列番号80)およびオリゴdT−SP6リバースプライマー、5’−ATTTAGGTGACACTATAGTTTTTTTTTTTTTTTTTT−3’(配列番号81)を用いてRT−PCRにより遺伝子の3’末端を単離した。この産物を1:10希釈し、1.0μlをTaq DNAポリメラーゼ(NEB)ならびに遺伝子特異的フォワードプライマー、5’−TTCCAGAACGAGGGCATCTACGT−3’(配列番号82)および同じリバースプライマーを用いた第二ラウンドのPCRの鋳型として用いた。1079塩基対の増幅産物を生成し、pGEM−T(登録商標)Easyにライゲーションして配列解析した。遺伝子特異的リバースプライマー、5’−TTGGGTGATCTGCATGAGCGTGATG−3’(配列番号83)により作製し、ターミナルトランスフェラーゼによりAテール付加した1.0μgのP.ピンギスcDNAから、遺伝子の5’末端を単離した。次に、このcDNAをオリゴdT−SP6プライマーおよび遺伝子特異的プライマー、5’−CGAATACTTGAAGAGCTTGTTGGAGA−3’(配列番号84)を用いたPCR反応の鋳型として用いた。この産物を1:10希釈し、その1.0μlをオリゴdT−SP6プライマーおよび遺伝子特異的プライマー、5’−GGGCTACGAGCTGGCAGATGAAGCA−3’(配列番号85)を用いた第二ラウンドのPCRの鋳型として用いた。323塩基対の増幅産物を生成し、pGEM−T(登録商標)Easyにライゲーションして配列解析した。3種の部分配列から全長配列を組み立てた。フォワードプライマー、5’−GAAAAAATGGTTGCGCCACCCATCA−3’(配列番号86)およびリバースプライマー、5’−TCACTACTTCTTCTTCTTGCCCGCGGC−3’(配列番号87)を用いたRT−PCRにより、トータルRNAから5’UTRの短い領域を有する全長コード領域を増幅した。828塩基対の増幅産物であるPavpi−Elo1を生成し、pGEM−T(登録商標)Easyにライゲーションして配列解析した(配列番号93)。P.ピンギスΔ9−エロンガーゼの推定アミノ酸配列を配列番号94として示す。
【0478】
同様に、ディジェネレートプライマーを用いたPCRによりP.サリナから425塩基対の増幅産物を生成し、pGEM−T Easy(登録商標)にライゲーションして配列解析した。5’−および3’−RACEにより425塩基対の断片を伸長するためのプライマーを設計し、遺伝子特異的フォワードプライマー、5’−TTCCGGTACTCAGCGGTGGCG−3’(配列番号88)およびオリゴdT−SP6リバースプライマーを用いたRT−PCRにより遺伝子の3’末端を単離した。776塩基対の増幅産物を生成し、pGEM−T(登録商標)Easyにライゲーションして配列解析した。P.サリナcDNAライブラリーから、M13Rプライマー、5’−CAGGAAACAGCTATGAC−3’(配列番号89)および遺伝子特異的リバースプライマー、5’−ACGTAGATGCCCTCGTTCTG−3’(配列番号90)とPfuUltra II(登録商標)Fusion DNAポリメラーゼをメーカーに説明されている通りに用いたPCRにより、遺伝子の5’末端を単離した。710塩基対の増幅産物を生成し、pGEM−T(登録商標)Easyにライゲーションして配列解析した。3種の部分配列から全長配列を組み立てた。フォワードプライマー、5’−CACCGAATGGCGACTGAAGGGATGCC−3’(配列番号91)およびリバースプライマー、5’−CTACTCGGTTTTCATGCGGTTGCTGGA−3’(配列番号92)を用いたRT−PCRにより、トータルRNAから5’UTRの短い領域を有する全長コード領域を増幅した。846塩基対の増幅産物、Pavsa−Elo3を生成し、これをpGEM−T(登録商標)Easyにライゲーションして配列解析した(配列番号95)。P.サリナΔ9−エロンガーゼの推定アミノ酸配列を配列番号96として示す。
【0479】
植物細胞におけるΔ9−エロンガーゼの機能特性評価
それぞれプラスミド0835668_Emihu−d9E_pMA、pGEMT+Pavpi−d9EおよびpGEMT+Pavsa−d9Eから得られた、EcoRI断片内に含まれているエミリアニアエロンガーゼ(Emihu−d9E)、パブロバ・ピンギス(Pavlova pinguis)エロンガーゼ(Pavpi−d9E)およびパブロバ・サリナエロンガーゼ(Pavsa−d9E)のコード領域全体を35S−pORE04のEcoRI部位に挿入して、35S:Emihu−d9E(pJP3027と命名)、35S:Pavpi−d9E(pJP3103と命名)、35S:Pavsa−d9E(pJP3081と命名)および35S:Isoga−d9E(pJP2062と命名)を作製した。実施例1に記載されている増強ニコチアナ・ベンサミアナ一過性発現システムを用いて、本明細書では陽性対照試料として用いたIsoga−d9E(Qiら、2002)と共に、Emihu−d9E、Pavpi−d9EおよびPavsa−d9Eの酵素活性を植物で証明した。
【0480】
これらキメラベクターをアグロバクテリウム・ツメファシエンス株AGL1に導入し、これらの培養物から得られた細胞を温室内のニコチアナ・ベンサミアナ植物体の葉組織に浸潤した。浸潤後、植物体をさらに5日間育成し、その後GC分析のためリーフディスクを採取し、生成物脂肪酸の存在により、ニコチアナ・ベンサミアナ等、植物細胞において両方の遺伝子がΔ9−エロンガーゼとして機能することが明らかになった。
【0481】
エミリアニア・ハクスレイCCMP1516Δ9−エロンガーゼで形質転換した葉組織は、20:2
Δ11,14(6.6%)および20:3
Δ11,14,17(6.4%)を含み、これはLAおよびALAからの変換効率がそれぞれ39.9%および12.4%であることを示した。パブロバ・ピンギスΔ9−エロンガーゼで形質転換した葉組織は、20:2
Δ11,14(10.1%)および20:3
Δ11,14,17(6.6%)を含み、これはそれぞれ56.0%および13.3%の変換効率を示した。パブロバ・サリナΔ9−エロンガーゼで形質転換した葉組織は、20:2
Δ11,14(7.7%)および20:3
Δ11,14,17(4.6%)を含み、これはそれぞれ45.0%および9.2%の変換効率を示した。イソクリシス・ガルバナΔ9−エロンガーゼで形質転換した葉組織は、20:2
Δ11,14(9.2%)および20:3
Δ11,14,17(7.5%)を含み、これはそれぞれ48.9%および15.4%の変換効率を示した(表9)。
【0482】
【表9】
【0483】
N.ベンサミアナ葉における基質ALAの大部分がプラスチドに局在し、従ってプラスチド外の伸長に利用できないため、葉組織におけるω3基質ALAに対する明らかに高い選択性が予想された、また直接のメチル化においてプラスチドおよび細胞質ALAの両方が葉から単離されるため、ω3変換率が人為的に(artificially)減少した。E.ハクスレイおよびI.ガルバナΔ9−エロンガーゼは、ω3からω6への変換率0.31のN.ベンサミアナにおける同一の基質選択性を提示した。ω6プールにおける最も効率的な変換は、56.0%の基質が変換されるP.サリナΔ9−エロンガーゼで観察された。対照的に、13.3%のω3基質が0.24の比率で変換された。P.ピンギス酵素は、45.0%のω6変換であるが9.2%のみのω3変換に起因する、変換率0.20でω6基質に対して最も高い選択性を提示した。
【実施例8】
【0484】
ARAを産生するためのΔ9エロンガーゼを含む生合成経路の構築
トランスジェニックデルタ−9エロンガーゼ経路の構築
イソクリシス・ガルバナΔ9−エロンガーゼ(アミノ酸配列GenBank受託番号AF390174−オープンリーディングフレーム:配列番号21、アミノ酸配列:配列番号22)、パブロバ・サリナΔ8−デサチュラーゼ(受託番号ABL96296−オープンリーディングフレーム:配列番号23、アミノ酸配列:配列番号24)およびパブロバ・サリナΔ5−デサチュラーゼ(受託番号ABL96295−オープンリーディングフレーム:配列番号25、アミノ酸配列:配列番号26)を含むバイナリーベクターを、バイナリーベクターpJP101acqから構築した。遺伝子挿入なしのこのベクターの設計を概略的に
図14に示す。
【0485】
先ず、イソクリシス・ガルバナΔ9−エロンガーゼを含むpBluescriptクローンのSmaI−EcoRV断片をpJP101acqのSmaI部位にライゲーションして、pJP105を得た。パブロバ・サリナΔ5−デサチュラーゼを含むpBluescriptクローンのXhoI断片をpJP105のXhoI部位にライゲーションして、pJP106を得た。パブロバ・サリナΔ8−デサチュラーゼを含むpBluescriptクローンのNotI断片をpJP106のNotI部位にライゲーションして、
図15に概略的に示すpJP107を得た。
【0486】
設計において幾つかの点が重要となる。第一に、3遺伝子の内2遺伝子をT−DNAにおいて異なって、すなわちお互い離して転写させた。これは、いずれかの遺伝子からの転写が向かうことにより別の遺伝子の発現に干渉する可能性を防ぎ、従って両者の発現を最大化するため行われた。第二に、この場合はΔ8−デサチュラーゼをコードする遺伝的構築物における第三の遺伝子は、スペーサーを挿入することにより、Δ9−エロンガーゼをコードする同じ方向を向いた第二の遺伝子と離間させた。上流遺伝子の終止コドンと下流遺伝子の開始コドンとの間の少なくとも1.0kbの距離が、前者の転写が後者に干渉するリスク、あるいは遺伝子サイレンシングを引き起こす可能性を低減させるであろうと考えられた。第三に、3遺伝子それぞれの5’−UTRは、翻訳効率を高めることが知られているTMVリーダー配列を含むよう改変した。翻訳効率を高めることが知られている他のいかなる5’UTR配列をTMV配列の代わりに用いてもよかった。
【0487】
エレクトロポレーション法によりpJP107をアグロバクテリウム株AGLIに導入し、この形質転換株を用いて、Δ8−デサチュラーゼの潜在的な出発脂肪酸基質として高レベルのLAを有するfad3/fae1変異体であるアラビドプシス・サリアナ(Arabidopsis thaliana)生態型(ecotype)MC49に遺伝的構築物を導入した。植物の形質転換および分析は、フローラルディップ法(floral dipping method)を用いて行った(CloughおよびBent、1998)。処理植物(T0植物)から得られた種子(T1種子)をハイグロマイシン(20mg/L)選抜培地上に播種し、形質転換植物を選抜して土壌に移し、24株の確認されたT1トランスジェニック植物を確立した。これらT1植物の大部分は、導入した遺伝的構築物がヘテロ接合であることが予想された。24株のトランスジェニック植物から得られたT2種子を成熟時に回収し、脂肪酸組成を分析した。これらT2系統は、遺伝的構築物においてヘテロ接合の系統のみならず、遺伝的構築物がホモ接合である系統を含んでいた。ハイグロマイシン(20mg/mL)を含むMS培地上での選抜によりトランス遺伝子の存在を判断し、最高レベルのARAを含む6系統のT2植物をT2種子から確立した。例えば、FW−10と命名されたT1植物から得たT2種子を播種したところ、これは5.8%のARAを含み、後代のハイグロマイシン培地における感受性抵抗性の分離比は3:1を示し、これはFW−10が遺伝的構築物を単一の遺伝子座に含んでいたことを示唆した。FW−10由来のT3種子ロットの脂肪酸プロファイルを分析し、データを表10に示す。
【0488】
【表10】
【0489】
表10に要約した通り、非形質転換アラビドプシス(生態型MC49)の種子は、多量の前駆ω6基質LAを含んでいたが、ARAまたはΔ9エロンガーゼ経路に沿って生成されることが予想される中間脂肪酸を全く含んでいなかった。対照的に、pJP107構築物を含む形質転換植物FW10−23の種子は、LAから始まる3酵素ステップの産物である、21%のARA等、顕著なレベルの20:2n−6、20:3n−6および20:4n−6(ARA)を含んでいた。さらに、種子油における低レベルのALA(対照MC49では1.0%)は非常に効率的にEPAへと変換され、これは形質転換系FW10−23における1.3%レベルで存在していた。
【0490】
論考:変換効率および生化学的意義
pJP107構築物によりコードされた個々の酵素ステップの相対的効率は、FW−10−23における基質脂肪酸から生成物脂肪酸(続いて生成される誘導体を含む)への変換率を試験することにより評価することができる。ω6プールにおいて、イソクリシス・ガルバナΔ9エロンガーゼは、LAからEDAおよび続いて脱飽和される脂肪酸への45%の変換を示した。同一種子において、パブロバ・サリナΔ8−デサチュラーゼおよびΔ5−デサチュラーゼは、ω6脂肪酸からその関連産物へのそれぞれ90%および95%の変換効率を示した。それに対して、ω3プールにおいて、イソクリシス・ガルバナΔ9エロンガーゼは、ALAから伸長産物への基本的に100%の変換を示したが、一方パブロバ・サリナΔ8−デサチュラーゼおよびΔ5−デサチュラーゼはそれぞれ88%および90%の変換効率を示した。アラビドプシス・サリアナMC49バックグラウンドは低レベルのALAしか含まないにも関わらず、これら酵素ステップは1.3%EPAの合成をもたらした。最も劇的な結果において、種子油においてALAは検出されず、これはΔ9エロンガーゼによるALAからALAの伸長産物への基本的に100%の変換を示すことに留意した。
【0491】
FW−10−23で見出された一般的ではない中間脂肪酸のレベルが低く(ω3プールでは<0.4%)、様々なシーフードにおける食物連鎖で見出されたものと匹敵することに留意すると興味深い(表11)。非形質転換体MC49の種子油は低レベルのALAしか含まず、このことが観察された低レベルの例えば中間脂肪酸ETrAに寄与した可能性があるが、より高レベルのALAを有する遺伝的バックグラウンドに同一経路が集合した場合、その結果得られた種子油が依然として比較的低レベル(<3%)のETrAを有することが予測される。Δ9伸長した中間体の非常に効率的な脱飽和のため、このような低レベルのこれら中間体が存在する可能性がある。
【0492】
【表11】
【0493】
パブロバ・サリナΔ8−デサチュラーゼが、特にΔ9エロンガーゼおよびΔ5デサチュラーゼと同時発現した場合、報告された他のΔ8−デサチュラーゼよりもETrAからETAへの変換に大幅に効率的であることは、注目に値する。例えば、ダイズ胚においてユーグレナ・グラシリスΔ8−デサチュラーゼをユーグレナ・グラシリスまたはイソクリシス・ガルバナΔ9−エロンガーゼのいずれかと同時発現した場合、ω3およびω6基質の変換効率はそれぞれ64%および73%であったことが報告された。上述の実験で観察された各ステップの効率およびALAからEPAへの全体的な変換効率も、僅か3.0%のEPAと、続くETrA(4.6%)等、相当レベルの望ましくない中間体が観察されたQiら(2004)によって報告されたアラビドプシス葉における効率よりも高かった。
【0494】
エロンガーゼは、アシルCoAプールの基質のみとアクセスすることが知られている。Δ9−伸長産物がアシルCoAプールに間違いなく生成されたとしても、続くΔ8−デサチュラーゼおよびΔ5−デサチュラーゼステップが形質転換種子において非常に高効率で機能することが観察されたという事実は、両方のパブロバ・サリナデサチュラーゼが高効率でアシルCoA基質にアクセスすることができる強力な目安である。
【0495】
Δ9−エロンガーゼ経路を用いた高レベルのARAおよびEPAの生合成
個々のステップの効率に関するこれらのデータおよび観察から、改変されたΔ9−エロンガーゼ経路を用いて、アラビドプシス、キャノーラ、ダイズ,アマ種子またはワタ等、トランスジェニック植物において高レベルのARAおよびEPAならびに続くDPAおよびDHAを生成することが可能であることが推測された。3種の酵素機能の内いずれか1種、すなわちアシルCoAプールにおけるΔ9−伸長に利用できる基質LA量を増加させるアシルCoAΔ12−デサチュラーゼ機能をさらに追加することによって、第二に、EPAに直接変換するためにALAレベルを高めるようΔ15−デサチュラーゼを追加することによって、第三に、実施例6に記載されているデサチュラーゼ等、ARAをEPAに変換することのできるΔ17−デサチュラーゼを追加することによって、さらに高レベルが達成できるとさらに推測される。より好ましくは、アシルCoAΔ12−デサチュラーゼと、Δ15−デサチュラーゼまたはΔ17−デサチュラーゼのいずれかの両方の追加により、最大レベルが提供されるであろう。従って、アシルCoAプールにおける基質にアクセスすることのできる酵素の使用は、EPA、DHAおよびDHAへのより効率的な変換をもたらすことが予想される。
【0496】
アラビドプシス・サリアナMC49バックグラウンドが、低レベルのALA蓄積(1〜3%)をもたらすfad3変異体を含んでいることを考慮した場合、観察された1.3%のEPA合成は、注目すべき予期せぬことであった。この、または同様のΔ9−エロンガーゼ経路(Δ9−エロンガーゼ、Δ8−デサチュラーゼおよびΔ5−デサチュラーゼ)を高レベルのALAを含む植物に形質転換した場合、高レベルのEPAがもたらされるであろうことが予測された。例えば、ペルリア・フルテスケンス(Perilla frutescens)Δ15−デサチュラーゼまたは他のΔ15−デサチュラーゼ遺伝子を過剰発現するアラビドプシス系統にこの経路を形質転換することにより、種子油における総脂肪酸の少なくとも25%のEPAレベルがもたらされるであろうことが予測された。
【実施例9】
【0497】
植物細胞におけるPUFA経路遺伝子の発現
植物の安定的な形質転換の代替案の一つに、Kapilaら(1997)によって最初に導入された発現等、葉におけるトランス遺伝子の一過性発現がある。この技法によって、許容状態の葉細胞の核(Zipfelら、2006)を、T
DNA境界内に発現構築物を有するアグロバクテリウム培養物を背軸の空隙へと浸潤することによって形質転換した。葉におけるトランス遺伝子の発現が、宿主細胞のトランス遺伝子サイレンシング機構を抑制してより長期間にわたってトランス遺伝子の発現を延長するP19(Voinnetら、2003)やHC−Pro(JohansenおよびCarrington、2001; Kasschauら、2003)等、ウイルスサプレッサータンパク質の同時導入によって顕著に増強された。
【0498】
葉は、プラスチドのガラクト脂質、モノガラクトシルジアシルグリセロール(MGDG)およびジガラクトシルジアシルグリセロール(DGDG)の大量のプールに支配された複雑な脂質代謝を有する。ホスファチジルコリン(PC)、コエンザイムA(CoA)ならびにモノおよびジアシルグリセリド(MAG、DAG;OhlroggeおよびBrowse、1995)とエステル結合した脂肪酸等、脂肪酸のより少量のプールがプラスチド区画外に存在する。本実施例に用いられているLC−PUFA合成酵素は小胞体(ER;Napier、2007)に存在し、そこでPCおよびCoAとエステル結合した比較的少量の葉脂質プールとアクセスする。ERにおいて活性のある産物等、PC−CoA結合反応の代謝産物は、ジアシルグリセリド−O−アシルトランスフェラーゼ(DGAT;Bouvier−Naveら、2000)の過剰発現によりトリアシルグリセリド(TAG)に蓄積することができる。MAGまたはDAGと比べて、TAGに存在する脂肪酸は、より代謝的に不活性であり、脂質生合成経路またはプラスチドへの輸送に再度参加する可能性が低い。重要なことに、TAGは、標準的な薄層クロマトグラフィー(TLC)技法を用いて、葉プラスチドに存在するより豊富な脂質クラスから容易に分離することができる。従って、促進されたTAG蓄積およびTAG/脂質クラス精製の組合せは、葉ERにおけるLC−PUFA酵素反応をより完全に理解するのに有用となり得る。
【0499】
LC−PUFA生成のため、本実施例におけるデサチュラーゼおよびエロンガーゼをコードする遺伝子を用いてこのシステムを試験した。
【0500】
一過性発現のためのプラスミド構築物
カリフラワーモザイクウイルス(CaMV)35SプロモーターをSfoI部位にクローニングして35S−pORE04とした、Coutuら(2007)により記載されたpORE04バイナリーベクターの改変型に遺伝子のコード領域をクローニングすることにより、バイナリーベクターを調製した。I.ガルバナΔ9−エロンガーゼ遺伝子のコード領域(Genbank受託番号AAL37626)(配列番号21)をゲノムDNAから増幅し、35S−pORE04のEcoRI部位にクローニングした。植物発現コドン最適化型の3種のP.サリナデサチュラーゼ(Genbank受託番号ABL96296、ABL96295およびAAY15136−それぞれ国際公開第2005/103253号パンフレットに記載)をSwaIインサートとして35S−pORE04のEcoRV−SmaI部位にクローニングした。非最適化P.サリナΔ5−エロンガーゼ(Genbank受託番号AAY15135)をXhoI−XbaI断片として35S−pORE04のXhoI−NheI部位にクローニングした。CaMV35S駆動型のP19ウイルスサプレッサーは、Peter Waterhouse博士のご厚意により供与された。RT−PCRによりアラビドプシス・サリアナDGAT1遺伝子のコード領域(Genbank受託番号AAF19262)(配列番号74)を得て、BamHI−EcoRV断片として35S−pORE04の対応する部位にクローニングした。RNeasy miniキット(QIAGEN)を用いて、フィトフトラ・インフェスタンスからトータルRNAを単離して、Platinum Superscript III One−Step(QIAGEN)でRT−PCRを行った。P.インフェスタンスΔ17−デサチュラーゼのタンパク質コード領域(国際公開第2005/012316号パンフレット)を含む、その結果生じた増幅産物をpGEMT−Easy(Promega)にクローニングして配列解析した。次に、EcoRI断片を35S−pORE04にクローニングした。
【0501】
アグロバクテリウム浸潤およびN.ベンサミアナ育成条件
各バイナリーベクターを有するアグロバクテリウム・ツメファシエンス株AGL1を、28℃で適切な抗生物質を添加したLB培地において培養した。培養物を遠心分離し、2容量の浸潤バッファー(5mM MES、5mM MgSO
4、pH5.7、100μMアセトシリンゴン)に穏やかに再懸濁し、さらに3時間培養した。各培養液の吸光度を測定し、各アグロバクテリウム構築物がOD
600nm0.2に等しくなるよう、あるいは他に
図16に示されているように培養物の最終的な組合せを調製した。Voinnetら(2003)によって記載されているように、10:14の明:暗サイクルの23℃の植物育成室に収容しておいた1ヶ月齢のN.ベンサミアナ植物体の葉の裏面に細胞を浸潤した。油性マジックで浸潤領域を円で囲んだ。浸潤後、植物体を28℃で1時間置き、その後分析まで24℃の植物育成室に移した。他に断りがなければ、全N.ベンサミアナアグロ浸潤は、P19ウイルスサプレッサータンパク質を含む別々のバイナリー構築物の存在下で行った。
【0502】
脂質分析
本実施例において、メタノール/HCl/ジクロロメタン(DCM;容量で10/1/1)溶液を用いて80℃で2時間トランスメチル化して脂肪酸メチルエステル(FAME)を生成した後、葉組織の脂肪酸プロファイルまたは脂質クラス試料をGCおよびGC−MSにより分析した。GCおよびGC−MS分析の前に、FAMEをヘキサン:DCM(4:1、v/v)に抽出し、DCMにおいて再構成した。
【0503】
脂質クラス分析のため、BlighおよびDyer(1959)によって記載された方法を用いて、約50mg生重量の浸潤葉組織から総脂質を2回抽出した。プレコートしたシリカゲルプレート(シリカゲル60、Merck)上でヘキサン/ジエチルエーテル/酢酸(容量で70/30/1)を用いたTLCによって中性脂質を精製し、一方、1回目の展開方向はクロロホルム/メタノール/水(容量で65/25/4)、2回目の展開方向はクロロホルム/メタノール/NH
4OH/エチルプロピルアミン(容量で130/70/10/1)による二次元TLCを用いて、極性脂質を分画した(Khozinら、1997)。ヨウ素蒸気により脂質スポットを可視化し、バイアルに収集し、上述の通りGC分析のためトランスメチル化してFAMEを生成した。上述の通りGC分析により、また各脂肪酸のために注入した公知の外部標準量に従って評価された、脂肪酸存在の総量としてTAGを定量化した。
【0504】
非極性Equity(商標)−1融合シリカキャピラリーカラム(15m×0.1mm i.d.、0.1μmフィルム厚)、FID、スプリット/スプリットレスインジェクターならびにAgilent Technologies 7683 Seriesオートサンプラーおよびインジェクターを備え付けたAgilent Technologies 6890N GC(パロアルト、カリフォルニア州、米国)を用い、ヘリウムをキャリアーガスとして用いて、GCを行った。120℃のオーブン温度で試料をスプリットレスモードで注入し、注入後、10℃.min
−1で201℃にオーブン温度を上げ、最終的に270℃として20分間維持した。Agilent Technologies ChemStationソフトウエア(Rev B.03.01(317)、パロアルト、カリフォルニア州、米国)を用いてピークを定量化した。ピーク反応は、オクタン酸からDHA、また数種の他のLC−PUFAに及ぶ、均等な比率の31種の様々な脂肪酸メチルエステルを含む真正のNu−Check GLC standard−411(Nu−Check Prep Inc、ミネソタ州、米国)の脂肪酸に類似していた。ピーク間の僅かなピーク反応の変動は、各ピークのピーク面積に正規化係数を掛けることによって均衡を保った。総脂肪酸における各脂肪酸の比率を脂肪酸のそれぞれのピーク面積および全ピーク面積に基づいて算出した。
【0505】
45℃に設定したオンカラム注入器を取り付けたFinnigan GCQ Plus GC−MSイオントラップにおいてGC−MSを行って、生成した総新生脂肪酸の同一性を確認した。AS2000オートサンプラーを用いて、非極性HP−5 Ultra 2結合相カラム(50m×0.32mm i.d.×0.17μmフィルム厚)を取り付けた保持ギャップに試料を注入した。45℃の初期温度を1分間維持、続いて30℃.min
−1で140℃、その後3℃.min
−1で310℃に上げて12分間維持の温度プログラムを行った。ヘリウムをキャリアーガスとして用いた。質量分析器の操作条件は、電子衝突エネルギー70eV、放出電流250μamp、トランスファライン310℃、ソース温度240℃、走査速度0.8scans.s
−1および質量範囲40〜650ダルトンである。質量スペクトルを得て、Xcalibur(商標)ソフトウエアで処理した。
【0506】
一過性発現した脂肪酸エロンガーゼによるN.ベンサミアナ脂肪酸プロファイルの修飾
機能的トランスジェニック酵素の最大量の産生を得るために必要とされるアグロバクテリウム濃度を評価するため、N.ベンサミアナ葉に豊富であることが知られているCoA結合リノール酸(LA)およびALA基質に作用することが知られたイソクリシス・ガルバナΔ9−エロンガーゼ(IgA9elo;Qiら、2002)をコードする遺伝子を発現させた。この遺伝子をバイナリーベクターのカリフラワーモザイクウイルス(CaMV)35Sプロモーター下流に導入した後、宿主の媒介するトランス遺伝子サイレンシングを抑制するためのP19ウイルスサプレッサータンパク質の存在下、この構築物をN.ベンサミアナ葉にアグロ浸潤し、Δ9−伸長レベルを評価した。OD
600=0.2を有するアグロバクテリウム培養物によって得られたほぼ最大の遺伝子活性により、LAおよびALAの伸長産物である、それぞれEDAおよびETrAを検出した(
図16)。しかし、興味深いことに、非常に希釈した培養物濃度(OD
600=0.05ほどの低さ)のアグロ浸潤でも容易に検出できるレベルの酵素活性をもたらすことを記した。
【0507】
一過性DGAT発現のトリアシルグリセロール蓄積への効果
次に、N.ベンサミアナ葉におけるTAGプールのサイズが増加して、ERで作用する導入脂肪酸生合成酵素の生成物を得るためのより大きなシンクを提供することができるか調べた。葉は自然状態では低レベルのTAGしか生成しないため、葉のTAGプールを増加させる可能性のある手段として、Kennedy経路によりTAG生合成の最後のステップを触媒するアラビドプシス・サリアナDGAT1(AtDGAT1)遺伝子を含む構築物を試験した。上述の通りに、アグロ浸潤によって構築物をN.ベンサミアナ葉に導入した。TAGの存在を試験するため、1%ナイルブルー水溶液(BDH、プール、英国)の入った小型のペトリ皿に約1cm
2サイズの浸潤した葉の切片を浸し、3分間減圧浸潤し、水で手早くリンスし、1%酢酸で3分間インキュベートし、水中でマウントして観察した。Leica SP2レーザー走査型共焦点顕微鏡(Leica Microsystems、シドニー、オーストラリア)で488nmで励起することにより、570〜670nmの蛍光発光を集光した。同一葉の非形質転換領域を対照として用いた。ImageJソフトウエアを用いて各アッセイにおけるTAG蓄積の相対量を評価した。
【0508】
アラビドプシス・サリアナDGAT1(AtDGAT1)の一過性発現は、ナイルブルーで染色して共焦点顕微鏡により観察したところ、顕著により多量の脂肪体の生成をもたらした。他の葉脂質クラスから中性相TLC分離により総脂質をTAGに分画することにより、TAGの増加を定量化し、その後TAG量をTAG画分における総脂肪酸量として測定した。P19またはP19とAtDGAT1の同時の一過性発現は、それぞれTAGを46μg.g
−1生重量から206μg.g
−1生重量へと増加させ、これはDGAT1遺伝子の添加が、葉組織に蓄積したTAGレベルを上昇させたことを示した。従って、他に断りがない限り、この遺伝子は次の実験に含まれる。
【0509】
外因性脂肪酸基質の一過性発現遺伝子への有用性
次に、N.ベンサミアナに天然には存在しない外因性脂肪酸基質を葉に供給することができ、トランス遺伝子の媒介する変換に有用となり得るかを調べ、これにより個々の酵素ステップを個別に試験した。これを試験するため、N.ベンサミアナに天然には存在しない基質であるARAに作用するフィトフトラ・インフェスタンスΔ17−デサチュラーゼ(PiΔl7des)をコードする遺伝子をアグロ浸潤し、EPAを生成させた。PiΔl7des浸潤の4日後、アグロバクテリウム培養物を用いた葉の形質転換で行われたのと同様の仕方の注入により、葉にARAアンモニウム塩を摂取させた。続いて基質を葉に4時間代謝させ、その後葉組織から総脂質を抽出した。これら総脂質のGCおよびGC−MS分析は、体外から摂取させたARAの37%がΔ17−脱飽和によりEPAへと変換され、その効率は酵母ベースのアッセイで報告された効率に相当することを示した(国際公開第2005/012316号パンフレット)。
【0510】
別個のバイナリーベクターから5段階LC−PUFA経路の迅速な集合
N.ベンサミアナシステムが、単一トランス遺伝子の機能およびTAG蓄積促進の決定に有用なツールであることを確立し、システムを全LC−PUFA経路の集合に用いることのできる範囲を調べた。本研究において、2種の平行した直線的LC−PUFA経路、すなわちLAをDPA
ω6に変換するω6−経路およびALAをDHAに変換するω3−経路を生じる5種のLC−PUFA代謝酵素をコードする遺伝子を試験した(
図1)。用いた生合成遺伝子は、イソクリシス・ガルバナΔ9−エロンガーゼ(IgΔ9elo)、パブロバ・サリナΔ8−デサチュラーゼ(PsΔ8des)、P.サリナΔ5−デサチュラーゼ(PsΔ5des)、P.サリナΔ5−エロンガーゼ(PsΔ5elo)およびP.サリナΔ4−デサチュラーゼ(PsΔ4des;Qiら、2004;Robertら、2009;Zhouら、2007)であった。上述の通り、各遺伝子を別個に植物バイナリー発現ベクターのCaMV35Sプロモーター下流にクローニングし、それぞれOD
600nm=0.2濃度で存在するこれら構築物の混合物を、AtDGAT1およびP19と共にN.ベンサミアナ葉の背軸面にアグロ浸潤し、合計7種の個々の構築物を合計OD
600nm=1.4とした。
【0511】
浸潤5日後、リーフディスクをサンプリングし、新鮮な組織から直接脂肪酸メチルエステル(FAME)を生成して分析し、GC/MSにより同定した(表12)。経路の全酵素がω6またはω3PUFAのいずれかを基質として受容できること、そしてこれらのLAまたはALAへの連続作用がそれぞれLC−PUFA、ARAおよびDHAの合成をもたらすことは明らかであった。新規に生成されたLC−PUFA全体の比率、16.9%が同定され、これは9.8%ω6LC−PUFAおよび7.1%ω6LC−PUFAを含んでいた。これら新規に生成されたLC−PUFA、ARA、EPAおよびDHAの全ては栄養的に重要であると考えられ、これらは葉組織における総脂肪酸のそれぞれ3.6%、2.6%および1.1%を構成する。ω6およびω3経路の各ステップに関して酵素による変換効率を算出し、以前報告された効率と比較した(
図17)。ω6およびω3両方の5段階経路の最初の3ステップは、Qiら(Qiら、2004)によって記載された効率と比べて同様の効率であったが、一方経路の最後の2ステップの効率はRobertら(Robertら、2005)の用いた効率と同じであった。この一過的に発現した遺伝子と安定的に発現した遺伝子との比較は、経路を導入する両者の方法が同様の代謝フラックスまたは効率を生じることを示した。総脂肪酸プロファイルから計算したこれら変換効率は、プラスチドにおける大量のLAおよびALAプールの希釈効果のため、特にΔ9−伸長の第一のステップが過小評価された可能性がある。後述の通り脂質クラスを分画することにより、この問題を対処した。
【0512】
【表12】
【0513】
LC−PUFAの脂質クラス区分化
TAGリン脂質とプラスチドのガラクト脂質との間の新規合成LC−PUFAの区分化を評価するため、LC−PUFA経路遺伝子を一過的に発現するN.ベンサミアナの総脂質を上述の通り脂質クラス分画に付し、その脂肪酸プロファイルを決定した(表13)。N.ベンサミアナ葉脂質は、高等植物の葉に特有の脂質クラスおよび脂肪酸プロファイルを含む(Fraserら、2004;Moreauら、1998)。新規合成ω6およびω3LC−PUFAは、主に通常プラスチドの外に存在する脂質クラスに限定されるが、一方プラスチドの脂質は本質的にこれら脂肪酸を欠く。例えば、TAGおよびリン脂質(PC、PEおよびPA)(主要なプラスチド外の葉脂質)は、それぞれ最大20.4%および16.9%の新規合成ω6およびω3LC−PUFAを含んでいた。興味深いことに、全LC−PUFA経路、AtDGAT1およびP19を発現する葉は、37%のLC−PUFAで強化したTAGを生成した。特に興味深いことに、栄養的に重要な脂肪酸ARA、EPAおよびDHAは、それぞれ葉のTAGに7.2%、5.9%および3%の存在で蓄積した。分画化により、主要なプラスチド脂質クラス、MGDG、DGDGおよびPGが新規合成ω6およびω3LC−PUFAのそれぞれ1.1%および0.3%のみを含んでいたことが明らかになった。これらプラスチド脂質クラスは、葉における脂肪酸の最大プールを集合的に表すが、これらクラスはTAGと比べて少量のω6およびω3LC−PUFAしか含んでいなかった。興味深いことに、SQDG脂質クラスは、新規合成LC−PUFAを完全に欠いていた。
【0514】
プラスチド脂質に接近できない、TAGの脂肪酸のためのERに関連するLC−PUFA経路の各ステップにおける酵素の効率を脂質クラス分画も用いて算出した(
図17)。これら計算からプラスチド脂質クラスを取り除くことは、ALAからETrAへのΔ9−伸長ステップに最も劇的な効果を有し、これは変換効率を16%から55%へと増加させた。このステップの酵素による変換効率におけるこの3倍増加は、このER関連酵素には無効のプラスチドにおけるALAの大量のプールに起因する(表13)。
【0515】
【表13】
【0516】
論考
これら実験により、N.ベンサミアナまたは他の植物の葉における一連の経路遺伝子の一過性発現は安定的な形質転換植物における発現を模倣し、従って十分に適切であり、種子におけるLC−PUFA油脂生成のための経路の発現を予測できることが示された。一過性発現システムは、複数ステップの組換え経路において単一成分を容易に交換することのできる、経路全体の迅速で信頼のおける結果をもたらす互換性発現プラットフォームを提供した。LC−PUFA生合成の一過性の集合は、強力であり再現性があった。3回反復してアッセイを行い、通常5%未満の標準誤差を有する緊密なデータポイントを作成した。
【0517】
集合したLC−PUFA経路における第一のステップであるΔ9伸長は、安定的に形質転換した植物で以前に観察された通り(Fraserら、2004)、ALAよりもLAで高い率の伸長を示した。酵母における発現においてIgΔ9エロンガーゼがLAとALAで等しい選択性を有することを示したため、この差は酵素の脂肪酸基質選択性では説明することができない(Qiら、2002)。LAで観察されたより高い率の伸長が、葉のプラスチド外アシルCoAプール(エロンガーゼが作用する部位)にALAより多量のLAが存在することの反映である可能性がさらにある(Domergueら、2003;Fraserら、2004)。
【0518】
脂質クラス分析は、新規生成したLC−PUFAの全てがPCプールとTAGの両方においてほぼ等しい比率で存在すること示した。PCと比べてTAGで豊富ではないDTAおよびDPAを生成するΔ5−伸長である、経路における最後から2番目のステップの生成物はこの比率に僅かな変動があった。反対に、最後のΔ4脱飽和の生成物である、DPA
ω6およびDHAは、PCと比べてTAG選択的に蓄積した。これらの変動は、膜編集酵素またはAtDGAT1のこれら生成物に対する微妙な偏りを反映し得る。Δ5−伸長およびDGAT活性の両方がCoAプールに生じ、これら酵素間の基質に対する競合がこれらPCおよびTAGプールにおける脂肪酸の存在を変化させ得ることは、注目に値する。
【0519】
本研究から、幾つかの予測がなされる。第一に、一過性の葉に基づくアッセイは、単独あるいは複雑な組合せで脂肪酸酵素の評価に適切であることを示した。これは特に、本研究におけるLC−PUFA等、N.ベンサミアナの内因性脂肪酸プロファイルから容易に識別できる脂肪酸を生成する酵素に適切である。単離酵素およびLC−PUFAの油脂への迅速な集合に対する脂肪酸摂取アッセイの証明は、一過性葉アッセイがER関連脱飽和、伸長およびTAG集合に良く適していることを示した。第二に、LC−PUFA油脂は植物形質転換技術の現下の標的であるが、葉細胞は他の異種発現プラットフォームに対する一連の利点を提供する。葉細胞は、他の発現宿主では利用できない広範囲の代謝産物を提供し、現在これらは組換え経路を必要とする修飾の標的となり得る。さらに、植物は、RNA編集、翻訳後修飾およびオルガネラ局在等、真核生物トランス遺伝子をより忠実に処理する。
【0520】
最後に、N.ベンサミアナアッセイは、cDNAライブラリースクリーニングアッセイに適切となり得る。この示唆は、葉における単一の浸潤区画において7種の異なる遺伝子のほぼ最大の活性が検出されることに基づいており、これはこの構造において、バイナリー発現ベクター内にクローニングしたcDNAライブラリーが葉に系統的に浸潤できることを示す。計算は、OD
6000.2のP19を含む少なくとも7種の異なるクローンを単一スポットに発現させることができることを示唆する。あるいは、不完全または部分経路を形成する遺伝子を各浸潤に添加することができ、従ってプールしたライブラリークローンを新規ステップまたはフラックス改善のためルーチンで試験することができる。
【実施例10】
【0521】
植物細胞における効率的なDHA生合成
実施例1に記載されている増強ニコチアナ・ベンサミアナ一過性発現システムを用いて、アラビドプシス・サリアナDGAT1(配列番号75によりコードされた配列番号74)と共に、ミクロモナスCCMP1545Δ6−デサチュラーゼ(配列番号7によりコードされた配列番号8)、ピラミモナスCS−0140Δ6−エロンガーゼ(配列番号3によりコードされた配列番号4)、パブロバ・サリナΔ5−デサチュラーゼ(配列番号25によりコードされた配列番号26)、ピラミモナスCS−0140Δ5−エロンガーゼ(配列番号5によりコードされた配列番号6)およびパブロバ・サリナΔ4−デサチュラーゼ(配列番号72によりコードされた配列番号73)の酵素活性を植物体で示した。
【0522】
SwaI断片内に含まれているpGA4の全コード領域を35S−pORE04(実施例4、上述)のSmaI−EcoRV部位に挿入してpJP2064を作製することによって、構成的35Sプロモーターの制御下でΔ6−デサチュラーゼをコードする遺伝的構築物35S:Mic1545−d6Dを構築した。SwaI断片内に含まれている0804673_Pyrco−elo1_pGA18の全コード領域を35S−pORE04のSmaI−EcoRV部位に挿入してpJP2060を作製することによって、Δ6−エロンガーゼをコードする遺伝的構築物35S:Pyrco−d6Eを構築した。SwaI断片内に含まれている0804674_Pavsa−d5D_pGA15の全コード領域を35S−pORE04のSmaI−EcoRV部位に挿入してpJP2067を作製することによって、Δ5−デサチュラーゼをコードする遺伝的構築物35S:Pavsa−d5Dを構築した。SwaI断片内に含まれている0804675_Pyrco−elo2_pGA4の全コード領域を35S−pORE04のSmaI−EcoRV部位に挿入してpJP2061を作製することによって、Δ5−エロンガーゼをコードする遺伝的構築物35S:Pyrco−d5Eを構築した。SwaI断片内に含まれている0804676_Pavsa−d4D_pGA15の全コード領域を35S−pORE04のSmaI−EcoRV部位に挿入してpJP2068を作製することによって、Δ4−デサチュラーゼをコードする遺伝的構築物35S:Pavsa−d4Dを構築した。BamHI−EcoRV断片内に含まれているpXZP513Eの全コード領域を35S−pORE04のBamHI−EcoRV部位に挿入してpJP2078を作製することによって、酵素DGAT1をコードする遺伝的構築物35S:Arath−DGAT1を構築した。
【0523】
これらキメラベクターを別個にアグロバクテリウム・ツメファシエンス株AGL1へと導入し、これらの培養物から得られたトランスジェニック細胞を混合し、混合物を温室内のニコチアナ・ベンサミアナ植物体の葉組織に浸潤させた。浸潤後、さらに5日間植物体を育成し、その後GC分析のためリーフディスクを採取し、これにより遺伝子がニコチアナ・ベンサミアナにおいてDHA生成に機能していることを明らかにした。これら遺伝子で形質転換した葉組織は、SDA(2.3%)、ETA(0.7%)、EPA(0.8%)、DPA(2.8%)およびDHA(4.4%)を含んでいた(表14)。葉組織は、微量のGLA、ETAおよびARAも含んでいた。変換効率は次の通りである。細胞で生成されたALAの17.4%がEPAに変換され(続いてDPAまたはDHAに変換されるEPAを含む);ALAの15.5%がDPAまたはDHAに変換され;細胞で生成されたALAの9.6%がDHAに変換され;一方、Δ6−脱飽和され、細胞で生成されたALAの40%が続いてDHAに変換された。本実験におけるトランス遺伝子の一過性発現のため、安定的に形質転換された細胞においては上述よりも高い効率が期待されるであろう。
【0524】
葉組織から抽出した総脂質をTLCにより分画して脂質クラスを分離し、FAMEによりTAGおよび極性脂質画分を脂肪酸組成のため分析した場合、TAGにおけるDHAレベルが総脂肪酸の割合として7%であり、極性脂質においてはDHAレベルが2.8%であることが観察された。極性脂質クラスにおいてより低レベルであったことは、極性脂質を好む葉における葉緑体脂質の相対的寄与率、およびトランス遺伝子の宿主細胞ゲノムへの安定的な挿入ではなくむしろ遺伝子の一過性発現に起因すると考えられる。
【0525】
【表14】
【0526】
本実験は、単離されたミクロモナスCCMP1545Δ6−デサチュラーゼが、ω6基質LAと比べてω3基質ALAに対し十分な選択性を有することを示した。実験は、適切な遺伝子の発現が葉において十分な割合のLC−PUFA、特にEPA、DPAおよびDHAの蓄積をもたらし得ることも示した。
【0527】
本実験は、様々な脂肪酸生合成経路を迅速に試験するため、また遺伝子の最適な組合せを選択するためのニコチアナ・ベンサミアナ一過性アッセイシステムの使用も示した。このシステムは、生合成経路全体の比較と同様に、相同的な機能を有する遺伝子の相対活性を迅速に比較するために用いることができる。
【0528】
論考:葉および種子組織における効率的なDHA合成
このデータに基づき、種子特異的プロモーターをこの組合せの遺伝子または同様のセットの発現に用いた場合、同一レベルまたはより高レベルのEPA、DPAおよびDHAが種子に生成されるであろうことが予測された。観察されたALAからEPAへの、そしてDPAおよびDHAへの効率的な脂肪酸フラックスは、効率的なエロンガーゼとアシルCoAデサチュラーゼの組合せ、従って主にアシルCoAプールに存在する脂肪酸に作用することに起因すると考えられた。さらに、トランスジェニック植物の葉と種子の両方における、または種子および葉以外の別の組織におけるEPA、DPA、DHAおよびその他のLC−PUFAの生成が、適切な組織特異性を有するプロモーターまたはプロモーターの組合せの使用によって達成できることが予測される。融合プロモーターは、両方の組織型における酵素の生成を促進することができるであろう。その結果生じた植物は、特に種子からの油脂抽出と、加工が最小限の原料(feedstock)の両方に有用となるであろう。
【実施例11】
【0529】
植物細胞におけるさらに効率的なDHA生合成
実施例1および実施例10に記載されている増強ニコチアナ・ベンサミアナ一過性発現システムを用いて、アラビドプシス・サリアナDGAT1(配列番号75によりコードされた配列番号74)と共に、ミクロモナスCCMP1545Δ6−デサチュラーゼ(配列番号7によりコードされた配列番号8)、ピラミモナスCS−0140Δ6−エロンガーゼ(配列番号3によりコードされた配列番号4)、パブロバ・サリナΔ5−デサチュラーゼ(配列番号25によりコードされた配列番号26)、ピラミモナスCS−0140Δ5−エロンガーゼ(配列番号5によりコードされた配列番号6)およびパブロバ・サリナΔ4−デサチュラーゼ(配列番号72によりコードされた配列番号73)の酵素活性を植物体において証明した。より若く健常なN.ベンサミアナ植物体を用いることによって、この実験を最適化した。
【0530】
実施例10に記載されているこれらキメラベクターを別個にアグロバクテリウム・ツメファシエンス株AGL1に導入し、これらの培養物から得られたトランスジェニック細胞を混合し、混合物を温室内のニコチアナ・ベンサミアナ植物体の葉組織に浸潤させた。浸潤後さらに5日間植物体を育成し、その後GC分析のためリーフディスクを採取し、これにより、これら遺伝子がニコチアナ・ベンサミアナにおけるDHA生成に機能していることを明らかにした(表15および16)。これら遺伝子で形質転換した葉組織は、SDA(2.0%)、ETA(0.4%)、EPA(0.7%)、DPA(4.3%)およびDHA(4.4%)を含んでいた。葉組織は、微量のGLA、ETAおよびARAも含んでいた。変換効率は、次の通りであった。細胞に生成されたALAの23.4%はEPAに変換され(続いてDPAまたはDHAに変換されるEPAを含む);ALAの21.6%はDPAまたはDHAに変換され;細胞に生成されたALAの10.9%はDHAに変換され;一方、細胞に生成され、D6−脱飽和されたALAの37.2%は次にDHAに変換された。本実験におけるトランス遺伝子の一過性発現のため、安定的に形質転換した細胞において上述よりも高い効率が予想されるであろう。
【0531】
葉組織から抽出した総脂質をTLCにより分画して脂質クラスを分離し、TAGおよび極性脂質画分を脂肪酸組成のためにFAMEにより分析した場合、TAGにおけるDHAレベルが総脂肪酸の割合として15.9%であり、極性脂質においてDHAレベルが4.4%であることが観察された。極性脂質クラスにおけるより低いレベルは、極性脂質を好む葉における葉緑体脂質の相対的寄与率と、トランス遺伝子の宿主細胞ゲノムへの安定的な挿入ではなくむしろ遺伝子の一過性発現に起因すると考えられた。
【0532】
【表15】
【0533】
【表16】
【0534】
論考:葉および種子組織におけるより効率的なDHA合成
この結果は、葉と種子組織との間のプラスチド外脂質合成メカニズムが実質的に保存されているため、種子TAG収量における同様の進歩のための道を拓くであろう(OhlroggeおよびBrowse、2004;Batesら、2007)。数種の要素がこの大幅な生成増加の原因となり得ると仮定される。1.ω3特異的アシルCoAΔ6−デサチュラーゼの使用は、ω3経路へのフラックスを増加させ、続く代謝ステップの平行なw6基質との競合を減少させ;2.高度に効率的なΔ5−エロンガーゼは、DHAへのΔ4−脱飽和に利用できるDPA量を明らかに増加させ;3.独立した転写ユニットの使用およびウイルスサプレッサータンパク質(P19)の使用による遺伝子サイレンシングの減少。
【0535】
AA(20:4
D5,8,11,I4)をEPAに変換するのに必要な、追加的なΔ17−デサチュラーゼ活性が必要とされず、従って代謝工学および調節上の課題を簡略化するため、Δ6−デサチュラーゼにより示された高度なω3選択性は、ω3LC−PUFA EPAおよびDHAを蓄積する陸生植物の設計を試行する場合、明らかに望ましい。
【0536】
上述の最適化されたステップに加えて、高度に効率的なP.コルダタΔ5−エロンガーゼの使用は、高DHAおよび低中間体含有量で有名な魚油であるマグロ油に酷似したTAG(油脂)画分の脂肪酸プロファイルをもたらした(
図18)。また、P.コルダタΔ5−エロンガーゼによって示されたN.ベンサミアナにおける活性は、予想された群を抜いて最も高効率のΔ5−伸長であり、この遺伝子の使用は、トランスジェニックDHA生成の他の試みにおいて見られたΔ5−伸長の大きな障害を効果的に克服する。
【0537】
最後に、最適な遺伝子の使用が明らかに必要とされるが、これらトランス遺伝子を導入した(すなわち、独立した発現カセットとして、遺伝子サイレンシングサプレッサーの存在下で)方法が、本研究で達成された高レベルのDHAに重要な役割を果たすであろうと考えられる。従って、LC−PUFA生成の代謝工学は、宿主ゲノムにランダムに挿入された相対的に大きな複数遺伝子構築物に非常に依存しており、この方法により多くのグループが良好な結果を得たが、全トランス遺伝子が等しい発現を示す事象を得ることが困難であるとの兆候がある(国際公開第2004/017467号パンフレット)。さらに、サイレンシング効果は世代にわたって効率を低減させることができる(Matzkeら、2001)。独立的に集合したユニットにおけるde novoセントロメア形成およびミニ染色体設計に関連する人工染色体等、代替的な形質転換アプローチが、最終的に成功した安定的なLC−PUFA代謝工学に必要とされ得る可能性がある(Yuら、2007)。
【実施例12】
【0538】
単一生物由来の遺伝子を用いたALAからDHAへの全経路のトランスジェニックによる集合
Δ9−エロンガーゼ、Δ8−デサチュラーゼ、Δ5−デサチュラーゼ、Δ5−エロンガーゼおよびΔ4−デサチュラーゼからなるP.サリナ由来の酵素をコードする遺伝子を用いて、ALAからDHAへの全経路を再構成し、N.ベンサミアナにおいて集合させた。アグロ浸潤5日後の全葉組織のGC分析は、0.7%DHAの生成を示した(表17)。これは、単一生物由来の遺伝子からなるALAからDHAへのトランスジェニック経路が報告された初めてのことである。
【0539】
【表17】
【実施例13】
【0540】
植物の発達種子におけるVSPの特異的発現
最初に、5種のウイルスサプレッサータンパク質(VSP)、すなわちP19、V2、P38、PePoおよびRPV−P0のタンパク質コード領域を、植物組織における強い構成的発現のための35Sプロモーターの制御下バイナリーベクターpART27(Gleave、1992)に挿入した。これらタンパク質は、次の通りVSPとして特徴付けられていた。P19は、21ヌクレオチド長のsiRNAと結合し、その後相同性RNAのアルゴノート誘導切断を誘導する、トマトブッシースタントウイルス(TBSV)由来のサプレッサータンパク質である(Voinnetら、2003)。トマトYellow Leaf Rollウイルス(TYLRV)由来のサプレッサータンパク質であるV2は、ssRNA基質から二本鎖RNA中間体を形成するのに必要と考えられるタンパク質(Beclinら、2002)である植物タンパク質SGS3と結合する(Glickら、2008)。P38は、カブクリンクルウイルス(TCV)由来のサプレッサータンパク質であり、siRNA生成に決定的なRNA依存的ポリメラーゼ活性(RdRP)を阻害し、ダイサータンパク質DCL4と結合する(DingおよびVoinnet、2007)。Polerovirus由来のPePoやRPV−P0等、P0タンパク質は、分解を促進するためのアルゴノートタンパク質を標的とする(Baumbergerら、2007;Bortolamiolら、2007)。サイレンシングサプレッサーとしてトランス遺伝子発現を増加させるためのこれらタンパク質の機能を確立するため、アグロバクテリウム内の5種の35S駆動VSP構築物は、ニコチアナ・ベンサミアナ葉に35S駆動GFP構築物と共に同時浸潤した。全事例において、VSPの存在はGFPの発現を増加させて拡大し、アグロバクテリウム株で接種後、特に4日後に増加レベルのGFP遺伝子活性を上昇させ、このアッセイ形式におけるサイレンシングサプレッサーとしてのタンパク質の機能を確認した。
【0541】
VSPの発現が種子特異的FP1プロモーター(Ellerstromら、1996)の制御下にあり、双子葉植物の発達種子の子葉にVSP発現を提供できるよう、5種のVSPコード領域をそれぞれpART27バックボーンベクターに基づくpXRZ393である第二のバイナリーベクターに挿入した。実施例1に記載されている方法に従い、構築物を用いて形質転換アラビドプシス植物を作出した。VSPをコードする各キメラ遺伝子の少なくとも20株の形質転換植物を得た。選択培地および土壌におけるその生長によって示される通り、植物体は生育可能で表現型は大部分が正常であり、生育可能な種子をつける稔性のある(fertile)成熟植物体へと正常に生長した。実生において変化して見える唯一の形態学的表現型は、P19、PePoおよびRPV−P0の発芽後の一部の種子から出現する子葉に見られた。P19を種子特異的にコードする構築物で形質転換した小植物は、野生型小植物に特有の下向きの湾曲がない、平坦な棍棒状の子葉を持っていた。PePoをコードする構築物で形質転換した小植物は、子葉が内側または凹形に湾曲して上を指す「バレリーナ」表現型を生成した。これら植物の本葉は正常に発達した。RPV−P0を発現する小植物は毛が密生(bushy)し、栄養生長を通じて毛が密生する生育習性を保つ傾向があった。V2およびP38の小植物は、目に見える顕著な表現型を示さなかった。
【0542】
子葉発達以外では、P19およびPoPe構築物で形質転換した小植物(plantlet)は正常に生育し、続く生長および発達において対照植物と区別できなかった。本実験でVSPを発現するプロモーター、FP1は、種子発達におけるアラビドプシスの発達子葉における限定的だが強い発現によって十分に特徴付けられた(Ellerstromら、1996)。出現した子葉表現型に基づき、発達種子におけるP19、PePoまたはRPV−P0のFP1駆動による発現が、正常な子葉発達に必要とされる低分子RNA生合成と重複することが示される。子葉発達におけるこれらVSP関連の変化は、トランスジェニック植物の全体的な発達に影響を与えず、続く植物体の正常な生長および発達は、発達種子以外の組織におけるFP1プロモーターからVSPのいかなる漏出性(leaky)発現も少量で、重要ではないことを示した。これは、植物組織における多くのVSPの構成的発現が非常に有害であった以前の研究とは対照的であった(Malloryら、2002;Chapmanら、2004;Chenら、2004;Dunoyerら、2004;Zhangら、2006;Lewseyら、2007:Mengら、2008)。
【0543】
VSP V2およびP38の表現型の欠如は、これらVSPが、発達における低分子RNA生合成または認識に影響しない仕方で低分子RNA代謝を標的とすることを反映し得る。各VSPの機能は、ニコチアナ・ベンサミアナにおけるGFPアッセイを用いて確認した。
【実施例14】
【0544】
VSP構築物で形質転換したT1種子を見出し、評価するための種子特異的視覚マーカーの開発
実施例13に記載されているデータは、種子およびその後代の植物が、顕著な悪影響を受けることなく種子特異的プロモーターによるVSPの発現に耐容性を示し得ることを表した。本発明者らは、上述の通り作出した形質転換植物がごく低レベルのVSPを発現しており、これによって種子が生存でき、致死量のVSPを発現している可能性のある形質転換種子を効果的に選抜し、従って用いられている条件下ではこれが回収されないか否かについても考慮した。
【0545】
T1種子におけるトランス遺伝子の発現をより正確に評価するため、形質転換および発現の視覚マーカーをトランスジェニック種子における使用のために開発した。他の双子葉種子に関するのと同様、アラビドプシス種子は、母方の種皮に囲まれた父方の胚および胚乳を含む。アグロバクテリウムの媒介するアラビドプシスの形質転換において、父方組織はT−DNAにより形質転換されるようになり、一方母方の組織は形質転換されないままである。形質転換した母方組織は、次世代のT2種子を作るまで得られない。有用なスクリーニングシステムを提供するため、緑色蛍光タンパク質(GFP)をコードする遺伝子を改変し、タンパク質の細胞外への力強い分泌を促進した。このようなGFP局在は、形質転換T1胚および胚乳で生成され、薄いが形質転換されていない種皮を通って分泌されたGFPを検出することによって、形質転換T1種子(Nishizawaら、2003)を視覚的に回収できることを示した(Fujiら、2007)。
【0546】
分泌GFPをコードするキメラ遺伝子を次の通り構築した。遺伝子は、一方は5’非翻訳領域(5’UTR)に、もう一方はGFPタンパク質コード領域に存在する、2個のイントロンを含んでいた。これらイントロンは、キメラ遺伝子の発現を増強するため(Chungら、2006)、また種子で検出されたいかなるGFPシグナルが、アグロバクテリウム細胞からの漏出性発現ではなくむしろ植物細胞における遺伝子発現のみから生じ得ることを確実にするために含まれている。細胞質に局在するであろうGFPタンパク質(Brosnanら、2007)をコードするイントロン中断型のヒト化GFP(Clontech)を、Nishizawaら(2003)の報告に従って、小胞体(ER)を経由したアポプラストへの分泌を促進できるよう改変した。アポプラス分泌のために改変されたGFP構築物は、インフレーム翻訳融合体としてGFPのN末端に付加されたコングリシニン分泌ペプチドおよびC末端に付加された4個のグリシン残基を含み、ERからの分泌を促進した。5’領域の遺伝子合成およびC末端へのグリシン付加のためのPCRによる配列改変により、キメラGFP遺伝子へのこれら付加を行った。この分泌GFPのコード領域を、カタラーゼ遺伝子由来のイントロンを5’UTRに有するFP1プロモーター下流に挿入した。全FP1−分泌GFP配列をpOREシリーズのバイナリーベクター内のnos3’ポリアデニル化シグナル上流に挿入した。分泌GFPをコードするキメラ遺伝子を含む構築物をpCW141と命名した。
【0547】
GFPタンパク質の発現および分泌を確認するため、分泌GFP配列をコードするがFP1プロモーターまたはpCW141の5’UTRを含まない遺伝子領域をpCaMV35S−OCS3’発現カセットにサブクローニングしてpCW228を作製し、アグロバクテリウムによる形質転換によってN.ベンサミアナ葉に導入した。共焦点顕微鏡(Leica)を用いて、遺伝子の発現およびGFPタンパク質の分泌を確認した。
【0548】
構築物が正確であることに基づき、実施例1に記載されている通り、アグロバクテリウム媒介法によってpCW141をアラビドプシスCol−0生態型の植物体に導入した。FP1が駆動する分泌GFP構築物であるpCW141で浸漬したアラビドプシス植物体から得られた種子を収集し、蛍光検出器を備える解剖顕微鏡(Leica MFZIII)を用いてGFP陽性種子をスクリーニングした。集団内のT1種子の大多数が非形質転換であったとしても、種子の蛍光緑色は容易に確認できた。これらGFP陽性種子を選抜し、選別培地上で培養して、T−DNAのキメラ遺伝子構築物と連結したカナマイシン抵抗性選択可能マーカー遺伝子の存在を確認した。さらに20個の陽性種子をプールし、GFPに対する抗体を用いたウエスタンブロッティングによりGFPタンパク質の発現を確認した。
【0549】
分泌GFPマーカーを用いたT1種子におけるVSP発現の選抜
それぞれ発達子葉特異的な発現のためのFP1プロモーターの制御下にある、VSP:P19、P38、V2およびP38をコードする4種のキメラ遺伝子のそれぞれを上述のGFP選抜ベクターpCW141に挿入し、それぞれpCW161、pCW162、pCW163およびpCW164を作製した。これらバイナリーベクターのそれぞれは、VSPおよび分泌GFPを発現するための連結キメラ遺伝子を有し、従って構築物で形質転換したトランスジェニック種子を選抜培地上で培養することなく、GFP表現型によって同定、選抜、解析することができた。形質転換体の大部分でVSPをコードする遺伝子が統合され、従ってGFPをコードする遺伝子と連結されるであろうことが予想された。
【0550】
実施例1の方法に従ってVSP−GFP構築物の組合せを含むアグロバクテリウムを接種したアラビドプシス植物体から得られた種子を収集し、上述の通りGFP蛍光に対してスクリーニングした。蛍光緑色の種子を手作業で収集し、選抜培地上で培養してこれらが選別可能マーカー遺伝子についても形質転換されているかを決定した。あらゆる事例において、GFP陽性種子は選抜培地で生長し、上述のGFP遺伝子なしのVSP遺伝子で形質転換した植物体と同じ子葉表現型を示した。選抜培地で生長できないGFP陽性種子が観察された事例はない。このような種子は、一部の形質転換事象が、発達種子においてVSP発現レベルが高すぎて致死を引き起こす細胞を生じた場合予想され得る。形質転換集団にこのような種子がないことは、FP1プロモーターから発現した場合、VSP発現が種子において耐用性を示したことを表す。このような悪影響がないことは、多くのVSPが構成的に発現した場合(Malloryら、2002;Chapmanら、2004;Chenら、2004;Dunoyerら、2004;Zhangら、2006;Lewseyら、2007:Mengら、2008)の悪影響の報告と対照的である。
【0551】
従って、GFP等、視覚的に検出可能なマーカーの使用は、VSP、デサチュラーゼ、エロンガーゼまたは他の脂肪酸修飾酵素をコードする遺伝子等、連結された遺伝子を取り込むトランスジェニック事象を同定、選抜および解析する強力で効率的な仕方を証明した。
【0552】
胚の後に(post-embryonically)VSPを発現する種子におけるGFP発現の定量化
蛍光顕微鏡およびデジタル画像解析を用いて、FP1プロモーターからVSPを発現するT1およびT2種子のGFP発現を定量化した。これら解析は、GFP発現が、発達子葉特異的プロモーターの制御下でVSPをコードする遺伝子の同時導入による影響を受けなかったことを明らかに示した。次世代にわたる、また独立した形質転換事象における、GFP−VSP構築物の性能の拡大研究が解析されるであろう。VSPの存在が、後代の種子におけるより安定したより高い平均レベルの発現をもたらすであろうことが予測される。
【実施例15】
【0553】
種子におけるVSPとLC−PUFA合成遺伝子との同時発現
VSPが種子におけるトランス遺伝子の性能を保護または増強できることを立証するため、単一遺伝子のみを有するベクターよりも宿主により抑制(サイレンシング)され易いと考えられる数種の発現ベクターを設計し、VSPの相対的な有効性を高めた。それぞれにおける遺伝子の同一構造を用いて、種子におけるDHA合成のための5種のデサチュラーゼまたはエロンガーゼ遺伝子をそれぞれ含む一連のベクターを構築した。これら構築物をサイレンシング(発現を抑制)し易くすると考えられる一因子は、同一プロモーター(FP1)を使用して各遺伝子を駆動することである。FP1プロモーターは比較的小さく、全体的なベクターサイズおよび各コード領域間の間隔を縮小するため、これを用いた。さらに、各遺伝子カセットは同じ方向性を有し、これはサイレンシングの可能性を高めるであろうと考えられている。3種のLC−PUFA経路遺伝子は、最適化された植物発現のためのコドンに最適化されたコード領域を有し(A−B−C)、一方2種(E−D)は微細藻類から得られた天然の配列であった。同じ一式の5遺伝子は、以前葉において発現して完全LC−PUFA生合成経路を集合させた(実施例11)。VSP P19をコードするさらなる遺伝子はシリーズの第一のベクターに含まれ、V2をコードする遺伝子は第二のベクターに含まれ、一方シリーズの第三のベクターはVSPを持たなかった。
【0554】
これらベクター、pJP3057(
図19)、pJP3059(
図20)および(
図21)を構築し、次の通り並行して形質転換した。先ず、クローニングベクター内に含まれているFP1プロモーターとnosターミネーターとの間に、デサチュラーゼもしくはエロンガーゼ遺伝子またはウイルスサプレッサー遺伝子をクローニングした。次に、プロモーター−遺伝子−ターミネーターカセットを同じ方向でバイナリーベクターバックボーンに順次クローニングした。pJP3057は全DHA経路を含んでいたが、一方pJP3059およびpJP3060は、それぞれFP1−P19−NOSまたはFP1−V2−NOSカセットの付加だけが異なっていた。構築ステップは次の通りである。先ず、ミクロモナス・プシラΔ6−デサチュラーゼを含むAscI−PacI断片をpJP2015のAscI−PacI部位にクローニングし、その後、このベクターから得られたプロモーター−遺伝子−ターミネーター全体のカセットを含むSwaI断片をpORE02のEcoRV部位にクローニングして、pJP3050を作製した。次に、ピラミモナス・コルダタΔ6−エロンガーゼを含むAscI−PacI断片をpJP2015TMV(TMVリーダーがプロモーターの下流、遺伝子の上流に存在する、pJP2015を僅かに改変した型)のAscI−PacI部位にクローニングし、その後このベクターから得られたプロモーター−遺伝子−ターミネーター全体のカセットを含むSwaI断片をpJP3050のT4DNAポリメラーゼで処理したSacI部位にクローニングして、pJP3051を作製した。次に、パブロバ・サリナΔ5−デサチュラーゼを含むAscI−PacI断片をpJP2015TMVのAscI−PacI部位にクローニングし、その後このベクターから得られたプロモーター−遺伝子−ターミネーター全体のカセットを含むSwaI断片をpJP3051のSmaI部位にクローニングして、pJP3052を作製した。次に、パブロバ・サリナΔ5−デサチュラーゼを含むAscI−PacI断片をpJP2015TMVのAscI−PacI部位にクローニングし、その後このベクターから得られたプロモーター−遺伝子−ターミネーター全体のカセットを含むSwaI断片をpORE02のSmaI部位にクローニングして、pJP3054を作製した。次に、ピラミモナス・コルダタΔ5−エロンガーゼを含むAscI−PacI断片をpJP20I5TMVのAscI−PacI部位にクローニングし、その後このベクターから得られたプロモーター−遺伝子−ターミネーター全体のカセットを含むSwaI断片をpJP3054のStuI部位にクローニングして、pJP3055を作製した。次に、パブロバ・サリナΔ4−デサチュラーゼを含むAscI−PacI断片をpJP2015TMVのAscI−PacI部位にクローニングし、その後このベクターから得られたプロモーター−遺伝子−ターミネーター全体のカセットを含むSwaI断片をpJP3056のSfoI部位にクローニングして、pJP3056を作製した。次に、pJP3056のPmeI−NotI断片をpJP3051のPmeI−NotI部位にクローニングして、ALAからDHAを生成するための5遺伝子を含むバイナリーベクターであるpJP3057を作製した。
【0555】
次に、P19ウイルスサプレッサーをコードするキメラ遺伝子を含むAscI−PacI断片をpJP2015TMVのAscI−PacI部位にクローニングし、その後このベクターから得られたプロモーター−遺伝子−ターミネーター全体のカセットを含むSwaI断片をpJP3057のZraI部位にクローニングし、pJP3059を作製した。同様に、V2ウイルスサプレッサーをコードするキメラ遺伝子を含むAscI−PacI断片をpJP2015TMVのAscI−PacI部位にクローニングし、その後このベクターから得られたプロモーター−遺伝子−ターミネーター全体のカセットを含むSwaI断片をpJP3057のZraI部位にクローニングして、pJP3060を作製した。
【0556】
3種の構築物全てをアラビドプシス(生態型コロンビア)に形質転換した。アラビドプシス植物体(Col−0生態型)を各構築物で形質転換し、pJP3057を用いてキャノーラを形質転換した。T1種子を収集し、除草剤含有培地で解析し、結果生じたT2種子の一般的な形態学的変化およびLC−PUFA合成を解析する。
【0557】
3種の構築物、pJP3057、pJP3059およびpJP3060で作出した形質転換植物(アラビドプシス・サリアナ、生態型コロンビア)を自家受精させ、T1種子を収集した。これらをカナマイシン含有培地に播種し、T1植物のヘテロ接合性/ホモ接合性を決定し、その結果各T1植物から生じたT2種子の一般的な形態学的変化およびLC−PUFA合成を解析した(表18)。
【0558】
pJP3057で形質転換した植物の代表的なT2種子は、種子油中の総脂肪酸にSDA(0.4%)、ETA(0.6%)、EPA(0.2%)、DPA(0.3%)およびDHA(2.4%)を含んでいた。T2植物の種子油は、GLA(1.4%)ならびに微量のETrAおよびARAも含んでいた。種子における変換効率は、次の通りであった。細胞において生成されたALAの18.4%がΔ6−脱飽和され;細胞において生成されたSDAの89.7%がΔ6−伸長され;細胞におけるETAの82.9%がΔ5−脱飽和され;細胞におけるEPAの93.1%がΔ5−伸長され;細胞におけるDPAの88.9%がΔ4−脱飽和されて、DHAを生成した(表18)。
【0559】
pJP3059で形質転換した植物の代表的なT2種子は、SDA(0.7%)、ETA(0.3%)、EPA(0.2%)、DPA(0.9%)およびDHA(1.3%)を含んでいた。種子油は、GLA(0.8%)ならびに微量のETrAおよびARAも含んでいた。変換効率は次の通りであった。細胞において生成されたALAの15.7%がΔ6−脱飽和され;細胞において生成されたSDAの79.4%がΔ6−伸長され;細胞におけるETAの88.9%がΔ5−脱飽和され;細胞におけるEPAの91.7%がΔ5−伸長され;細胞におけるDPAの59.1%がΔ4−脱飽和されて、DHAを生成した(表18)。
【0560】
【表18】
【0561】
pJP3060で形質転換した植物の代表的なT2種子は、SDA(0.6%)、ETA(0.7%)、EPA(0.3%)、DPA(0.2%)およびDHA(1.0%)を含んでいた。種子油は、微量のGLA、ETrAおよびARAも含んでいた。変換効率は次の通りであった。細胞において生成されたALAの13.3%がΔ6−脱飽和され;細胞において生成されたSDAの78.6%がΔ6−伸長され;細胞におけるETAの68.2%がΔ5−脱飽和され;細胞におけるEPAの80.0%がΔ5−伸長され;細胞におけるDPAの83.3%がΔ4−脱飽和されて、DHAを生成した(表18)。
【0562】
結果
構築物pJP3057における全遺伝子は、Δ6−デサチュラーゼを除き、高活性/高効率の変換を示した。天然の基質ALAがアシルPCデサチュラーゼにより生成され、より低度のΔ6−脱飽和をもたらし、アシルCoAプールにおいて作用することが知られているエロンガーゼによりトランスジェニックデサチュラーゼ基質ETAおよびDPAが生成されるため、このことは、Δ6−、Δ5−およびΔ4−デサチュラーゼがアシルCoA基質に作用する可能性があることを示した。さらに、高効率のΔ6−およびΔ5−エロンガーゼステップ(>80%効率)は、直前のデサチュラーゼ(それぞれΔ6−およびΔ5−デサチュラーゼ)がアシルCoA基質に作用することを示した。これら遺伝子の活性が、ホモ接合性が達成された場合トランスジェニック植物の次世代において増加するであろうこと、またその結果LC−PUFA産物のレベルが増加するであろうことはある程度予想された。
【0563】
構築物pJP3057およびpJP3059におけるサイレンシングサプレッサーの存在は、種子油における新生脂肪酸の全体レベルと経路の最終産物であるDHAレベルの両方を増加させた。
【0564】
論考
実施例13〜15に関して、導入された外因性核酸は植物により外来DNAまたはRNAとして検出され、宿主によるトランス遺伝子抑制メカニズムが原因の発現減少をもたらす可能性がある。これら抑制メカニズムは、低分子RNA集団の生合成によりトランス遺伝子を標的とすることができ、これら低分子RNAは、抑制装置を誘導してトランス遺伝子の発現を制限することができる(Matzkeら、2001)。トランス遺伝子の発現は、染色体挿入部位のメチル化等のDNAの直接的な修飾、RNAの転写後サイレンシング(HamiltonおよびBaulcombe、1999;Voinnetら、2003)またはタンパク質レベル(Brodersenら、2008)等、様々な方法で制限することができる。このような抑制メカニズムを誘発する外来DNAまたはRNAの特性は十分には理解されていない(Lindboら、1993;Lechtenbergら、2003)。しかし、宿主によるこのようなトランス遺伝子発現の抑制は、高度の発現、複数のトランス遺伝子および互いにまたは宿主ゲノムと類似した領域を有するトランス遺伝子を必要とする形質に対してより可能性がある(Schubertら、2004)。さらに、トランス遺伝子の性能は、恐らくトランス遺伝子のプロモーターおよびコード領域のDNAメチル化により、その後各世代で徐々に低下する(Haganら、2003)。
【0565】
本明細書において、胚形成後の種子特異的プロモーターから発現したウイルスサプレッサータンパク質(VSP)が、アラビドプシスの発達において耐容性を示すことが証明される。様々なVSPと、定量可能な形質であるGFPの同時発現は、VSP発現種子において組換え形質もまた耐容性を示したことを示唆した(実施例14)。VSPはトランス遺伝子抑制装置を構成する低分子RNA代謝を遮断することが知られているため、種子におけるVSPと組換え形質との同時発現が、何世代にもわたってこれら形質の高度で低下することのないレベルで機能することを保証するであろうことが示される。
【0566】
植物は胚形成後にP19やPePo等、VSP発現に耐容性を示すため、これは内因性発達シグナル、少なくとも低分子RNAを用いたシグナルはこの植物発達後期において少量または重要性が低いことを示唆した。本研究のために選択された4種のVSPは、低分子RNA生合成の異なる部分に作用し、従って異なる程度で機能する可能性がある。複数遺伝子のトランスジェニックカセットにおけるサイレンシング効果をVSP同時導入の使用により低減させることによって、トランスジェニック発現戦略における多くの変化を想定できる。先ず、調節配列またはコード領域間の配列繰り返しを避けるための要件を減らして、同じ発現カセットを繰り返し用いることができる。従ってこの特性は、同じプロモーター−ポリアデニル化シグナルを用いて、大型の複数遺伝子発現ベクターを構築させることができる。あるいは、サイレンシング効果が生じる見込みまたは程度が低下した状態で、あるいは植物の世代にわたる発現安定性が増加した状態で、単一遺伝子の複数コピーは発現レベルの増加に用いることができる。
【実施例16】
【0567】
種子特異的プロモーターを用いた植物の葉細胞における遺伝子の一過性発現
それぞれ種子特異的プロモーターの制御下にあるミクロモナスCCMP1545Δ6−デサチュラーゼ(配列番号7によりコードされた配列番号8)、ピラミモナスCS−0140Δ6−エロンガーゼ(配列番号3によりコードされた配列番号4)、パブロバ・サリナΔ5−デサチュラーゼ(配列番号25によりコードされた配列番号26)、ピラミモナスCS−0140Δ5−エロンガーゼ(配列番号5によりコードされた配列番号6)およびパブロバ・サリナΔ4−デサチュラーゼ(配列番号72によりコードされた配列番号73)遺伝子によってコードされたタンパク質の酵素活性が、次の通り増強ニコチアナ・ベンサミアナ一過性発現システムを用いた植物の葉組織で証明された。
【0568】
実施例15に記載され、それぞれ種子特異的な切断napinプロモーター、FP1の制御下にある5種のDHA生合成遺伝子を含むキメラベクターpJP3057をアグロバクテリウム・ツメファシエンス株AGL1に導入した。コドンに最適化されたアラビドプシス・サリアナLEAFY COTYLEDON2(Arath−LEC2)遺伝子を35S:pORE04のEcoRI部位にクローニングすることにより、35S:LEC2と命名されたキメラベクターを作製した。35S:LEC2構築物をアグロバクテリウム・ツメファシエンス株AGL1に別々に導入した。pJP3057か35S:LEC2のいずれかを含む別個のAGL1培養物から得られたトランスジェニック細胞を混合し、混合物をニコチアナ・ベンサミアナ植物体の葉組織に浸潤させた。浸潤後、植物体をさらに4日間育成し、その後葉脂質における総脂肪酸および分離した脂質画分のGC分析のためにリーフディスクを採取した。これにより、これら遺伝子がニコチアナ・ベンサミアナにおけるDHA生成に機能していることが明らかになった(表19)。これら遺伝子で形質転換した葉組織は、SDA(1.2%)、ETA(2.0%)、EPA(0.6%)、DPA(1.7%)およびDHA(2.5%)を含んでいた。葉組織は、GLA(2.4%)および微量の他の長鎖ω6脂肪酸も含んでいた。
【0569】
キメラベクターpJP3115およびpJP3116(実施例17)をアグロバクテリウム・ツメファシエンス株AGL1に導入した。pJP3115、pJP3116、35S:P19および35S:LEC2の内1種を含む4種の別個のAGL1培養物から得られたトランスジェニック細胞を混合し、混合物をニコチアナ・ベンサミアナ植物体の葉組織に浸潤させた。浸潤後、植物体をさらに4日間育成し、その後GC分析のためにリーフディスクを採取し、これにより、これら遺伝子がニコチアナ・ベンサミアナにおけるDHA生成に機能していることが明らかになった(表19)。これら遺伝子で形質転換した葉組織は、SDA(5.6%)、ETA(1.4%)、EPA(0.2%)、DPA(1.7%)およびDHA(2.4%)を含んでいた。葉組織は、微量の長鎖ω6脂肪酸も含んでいた。
【0570】
この実験により、二重構築物pJP3115およびpJP3116の組合せは、全8遺伝子を含む単一構築物と同様に効率的にDHA生成に機能していることを確認した。
【0571】
【表19】
【0572】
論考:種子特異的構築物の迅速な失敗および検証
それぞれ種子特異的プロモーター等、組織特異的プロモーターの制御下にある一揃いの遺伝子と組み合わせた転写因子、この場合はLEC2を用いた実験は、このような構築物は組織特異的プロモーターが正常に発現しない葉等、異種システムで試験でき、種子における発現を予測できることを示した。葉細胞で種子特異的プロモーターを一過的に発現する能力は、構築物設計の迅速な検証を可能にする。以前に脂肪種子モデル植物または作物への安定的な形質転換と、続く後代系統の作出、その後の表現型解析に依存した、種子特異的プロモーター、特にその複数遺伝子構築物の前後関係における有効性を決定する実験により、植物種子における構築物の有効性を決定することができる。N.ベンサミアナで得られた脂肪酸レベルが、実施例15に記載されているこの同一構築物による安定的なアラビドプシス形質転換で観察されたレベルと類似していたという事実は、このアッセイの適用における信頼性を増す。
【実施例17】
【0573】
DHA生合成のための二重構築物
ベクターpJP3115(
図22)を次の通り構築した。先ず、ベクターpJP101acq(
図14)のSbfI−ApaI断片をpORE03のPstI−ApaI部位にクローニングして、pJP3011を得た。次に、コドンに最適化されたミクロモナス・プシラΔ6−デサチュラーゼ(配列番号125)を含むSwaI断片をT4DNAポリメラーゼ処理したpJP3011におけるXhoI部位にクローニングして、pJP3108を得た。続いて、コドンに最適化されたパブロバ・サリナΔ5−デサチュラーゼ(配列番号127)を含むSwaI断片をT4DNAポリメラーゼ処理したpJP3108におけるNotI部位にクローニングして、pJP3109を得た。コドンに最適化されたピラミモナス・コルダタΔ6−エロンガーゼ(配列番号126)を含むSwaI断片をpJP3109におけるSmaI部位にクローニングして、pJP3110を得た。次に、pJP3110のBsiWI−AsiSI断片をpORE04のBsiWI−AsiSI部位にクローニングすることにより、BASTA抵抗性構築物からカナマイシン抵抗性構築物へと構築物を変換し、pJP3111を得た。切断napinプロモーターFP1およびクレピス・パレスチナ(Crepis palestina)Δ12−デサチュラーゼを含むNcoI(T4DNAポリメラーゼ処理)−SbfI断片をpJP3111におけるEcoRV−PstI部位にクローニングして、pJP3115を得た。
【0574】
ベクターpJP3116(
図23)を次の通り構築した。先ず、コドンに最適化されたピラミモナス・コルダタΔ5−エロンガーゼ(配列番号128)を含むSwaI断片をpJP3011におけるT4DNAポリメラーゼ処理したXhoI部位にクローニングして、pJP3112を得た。コドンに最適化されたパブロバ・サリナΔ4−デサチュラーゼ(配列番号129)を含むSwaI断片をpJP3112におけるSmaI部位にクローニングして、pJP3113を得た。次に、ペルリア・フルテスケンスΔ15−デサチュラーゼを含むNotI断片をpJP3113におけるNotI部位にクローニングして、pJP3114を得た。続いて、ハイグロマイシン耐性カセット(カリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーター、続いてバイナリーベクターpWVEC8から得られたCAT−1イントロン中断ハイグロマイシンBホスホトランスフェラーゼ遺伝子、そしてNOSターミネーターからなる)を含むXbaI−MluI断片をpJP3114のAvrII−MluI部位にクローニングすることによって、BASTA耐性構築物からハイグロマイシン耐性構築物へと構築物を変換して、pJP3116を得た。
【0575】
キメラベクターpJP3115およびpJP3116をアグロバクテリウム・ツメファシエンス株AGL1に個々に導入し、これらの培養物から得られたトランスジェニック細胞を35S:P19で形質転換したAGL1と混合し、混合物を温室内のニコチアナ・ベンサミアナ植物体の葉組織に浸潤させた。浸潤後、植物体をさらに5日間育成し、その後リーフディスクをGC分析のため採取し、これによってこれら遺伝子がニコチアナ・ベンサミアナにおけるDHA生成に機能していることが明らかになった(表20)。これら遺伝子で形質転換した葉組織は、SDA(5.6%)、ETA(1.4%)、EPA(0.2%)、DPA(1.7%)およびDHA(2.4%)を含んでいた。葉組織は、微量のGLA、ETAおよびARAも含んでいた。変換効率は次の通りであった。細胞におけるオレイン酸の98.9%がΔ12−脱飽和され(対照試料と有意差はない);細胞におけるLAの95.4%がΔ15−脱飽和され;細胞において生成されたALAの18.1%がΔ6−脱飽和され;細胞において生成されたSDAの50.4%がΔ6−伸長され;細胞におけるETAの75.4%がΔ5−脱飽和され;細胞におけるEPAの95.4%がΔ5−伸長され;細胞におけるDPAの58.5%がΔ4−脱飽和されて、DHAを生成した。
【0576】
両構築物を用いてキャノーラを形質転換した。T1種子を収集し、一般的な形態学的変化およびLC−PUFA合成レベルを解析する。
【0577】
【表20】
【0578】
論考
DHA生成のための全遺伝子を組み合わせて提供するため、pJP3115およびpJP3116を設計、すなわち2種の組換えベクターを互いに補い合わせて経路を構成した。pJP3115にコードされたΔ12−デサチュラーゼにより生成された脂肪酸をpJP3116にコードされたΔ15−デサチュラーゼによる基質として用い、pJP3116は続くΔ6−デサチュラーゼ、Δ6−エロンガーゼおよびΔ5−デサチュラーゼの遺伝子も含んでいた。次に、Δ5−デサチュラーゼの産物であるEPAはpJP3115にコードされたΔ5−エロンガーゼにより作用し、その産物は同じくpJP3115にコードされたΔ4−デサチュラーゼによりDHAに変換された。植物を安定的に形質転換するために別個に用いた2種の構築物にトランス遺伝子を分配し、続く選抜植物を交雑して全経路を構成する原理は、サイズ増加による形質転換効率の低下や遺伝子発現低下等、多くのトランス遺伝子を単一構築物に含むことに関連する問題の一部を回避した。スーパー形質転換による、あるいは2種のトランスジェニック系統の交雑によるこれら構築物の安定的形質転換の組合せは、DHA合成に必要とされる遺伝子の完全な相補物を含むトランスジェニック植物をもたらすであろう。
【0579】
遺伝子ペアが異なった様式で(互いに離れて)転写されるように、構築物pJP3115が反転フォーマットの、すなわち2遺伝子がある一方向に、2遺伝子が別の方向に発現する4遺伝子を含んでいたことも記す。構築物pJP107(実施例8)における3遺伝子の発現に用いた反転設計と比較して、このフォーマットにおける4番目の遺伝子の付加は遺伝子発現を妨げないことが結論された。
【0580】
興味深いことに、上述の他の実験と比べて相対的に低いΔ6−伸長効率(50.4%)は、恐らく前の3種の脱飽和ステップのための酵素をコードする遺伝子が全てFP1プロモーターから発現する一方、Δ6−エロンガーゼをコードする遺伝子がアラビドプシス・サリアナFAE1プロモーターによって駆動されるという事実に起因するであろうことを記す。これは、FP1プロモーターの後にFAE1プロモーターが活性化されるプロモーターのタイミングの差をもたらすと考えられた。Δ6−エロンガーゼがFP1プロモーターによって駆動される以前の実験と比べて、これはより高度のSDA蓄積をもたらし、SDAは続いてΔ6−エロンガーゼに作用される前にΔ6−エロンガーゼによって接近される代謝プールから除去された。
【実施例18】
【0581】
微細藻類DGAT2をコードする遺伝子の単離および特性評価
全長ミクロモナス・プシラDGAT2遺伝子の合成
米国エネルギー省共同ゲノム研究所(http://www.jgi.doe.gov/)によって作成されたミクロモナスCCMP1545選別タンパク質モデルゲノム配列は、オストレオコッカス・ルシマリヌス由来の推定アミノ酸配列であるGenbank受託番号XP_00141576を問い合わせ配列として用いて、BLASTPプログラムで解析した。この解析により、ミクロモナスCCMP1545におけるXP_00141576と相同性を有する予測タンパク質の存在が明らかになった。ミクロモナスCCMP1545予測タンパク質配列を用いて、ブラッシカ・ナパス等、双子葉植物における発現に最も適したコドンに最適化されたヌクレオチド配列を設計、合成した。タンパク質コード領域のヌクレオチド配列に配列番号107を付与する。プラスミド構築物は0928814_Mic1545−DGAT2_pMAと命名した。アミノ酸配列は配列番号108として示す。ミクロモナスCCMP1545デサチュラーゼアミノ酸配列である配列番号108をGenbankデータベースにおける他のタンパク質に対する問い合わせ配列として用いたBLASTP解析は、タンパク質がDGATと相同性を有することを示した。全長にわたる最大級の同一性は、ミクロモナスRCC299推定タンパク質の配列である受託番号XP_002503155のアミノ酸配列との53%であった。この遺伝子は、アミノ酸74〜334にジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼモチーフ(NCBI保存ドメインpfam03982)を含む。
【0582】
EcoRI断片内に含まれている0928814_Mic1545−DGAT2_pMAのコード領域全体を35S−pORE04(実施例4、上述)のEcoRI部位に挿入してpJP3128を作製することによって、構成的35Sプロモーターの制御下でDGAT2をコードする遺伝的構築物35S:Mic1545−DGAT2を作製した。このキメラベクターをアグロバクテリウム・ツメファシエンス株AGL1に導入し、これらの培養物から得られたトランスジェニック細胞を35S:P19 AGL1と混合し、混合物を温室内のニコチアナ・ベンサミアナ植物体の葉組織に浸潤した。浸潤後、植物体をさらに5日間育成し、その後リーフディスクを脂質分析のために採取し、これによってDGAT2をコードする遺伝子が、多価不飽和脂肪酸に選択的に形質転換した葉細胞における全TAGの増加に機能することが明らかになった(表21)。特に形質転換細胞のTAGにおける多価不飽和脂肪酸のレベルが少なくとも3倍増加した。
【0583】
当業者であれば、特定の実施形態に示されているように、概略的に説明されている本発明の精神または範囲から逸脱することなく、本発明に対して多くの変更および/または修正を施すことも可能であることを理解するであろう。従って本実施形態は、あらゆる点で具体例としてのものあって、限定するものではないことを考慮するべきである。
【0584】
本願は、その両方の内容が参照により本明細書に組み込まれる、2008年11月18日に出願された米国特許出願第61/199,669号および2009年7月9日に出願された米国特許出願第61/270,710号に基づく優先権を主張する。
【0585】
本明細書に記載および/または参照されているあらゆる刊行物は、その全体を本明細書に組み込まれる。
【0586】
本明細書に含まれている文書、活動、材料、装置、物品または同様のものに関するいかなる記載も、単に本発明にとっての前後関係(context)を提供するためのものである。本願の各請求項の優先日より前に存在したとして、これら事項のいずれかまたは全てが先行技術の基礎の一部を形成する、あるいは本発明の関連分野における通常の一般知識であったことを認めるものとして解釈するべきではない。
【0587】
【表21】
【0588】
(参考文献)