(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
[積層シートの構成]
図1は、積層シートの拡大断面図である。
図1に示すように、本実施形態の積層シート1は、少なくとも基材層2と易シール層3とを有する。
【0020】
[基材層の構成]
基材層2としては、アイソタクチックペンタッド分率が85%以上99%以下、好ましくは、88%以上99%以下の高結晶性のプロピレン系単独重合体もしくはプロピレン系ランダム共重合体(以下、ポリプロピレン系樹脂という場合がある。)を使用する。
アイソタクチックペンタッド分率が上記範囲内であれば、結晶性に優れ、引張特性や、耐衝撃性に優れるシートを形成できるとともに、透明性とのバランスも良好である。その一方、アイソタクチックペンタッド分率が上記範囲に満たないと、引張弾性率などが低下する場合があり、また、アイソタクチックペンタッド分率が上記範囲を超えると、急冷工程での内部ヘイズが悪くなり、透明な積層シートとしての使用が困難になる場合があるため好ましくない。
【0021】
ここで、アイソタクチックペンタッド分率とは、A. ZambelliらによってMacromolecules, 6, 925 (1973)に発表された方法、すなわち、
13C−NMRにより測定されるポリプロピレン分子鎖中のペンタッド分率をいうものとする。換言すれば、アイソタクチックペンタッド分率はプロピレンモノマー単位が5個連続してメソ結合した連鎖の分率である。ピークの帰属に関しては、Macromolecules, 8, 687 (1975)に記載の方法に基づいて行うことができる。具体的には、
13C−NMRスペクトルのメチル炭素領域の全吸収ピーク中のmmmmピークの強度分率としてアイソタクチックペンタッド単位を測定すればよい。
【0022】
本実施形態で使用するポリプロピレン系樹脂のメルトフローレート(MFR)は、0.5g/10分以上10g/10分以下とするが、好ましくは0.5g/10分以上7g/10分以下であり、より好ましくは2g/10分以上5g/10分以下である。MFRが上記範囲に満たないと、積層シート成形時に流動不良となって厚み変動を起こす場合があり、また、MFRが上記範囲を超えると、溶融張力が不足して、粘度が低くなって積層シート成形時のドローダウンが発生しやすくなり、押出成形性が不良となる。
なお、上記メルトフローレート(MFR)は、JIS K7210に準拠した方法で測定することができる。
【0023】
また、本実施形態におけるポリプロピレン系樹脂の融点は、150℃以上とするが、好ましくは155℃以上、より好ましくは160℃以上である。ポリプロピレン系樹脂の融点を上記範囲内としたのは、融点が上記範囲に満たないと、ヒートシールする際に、易シール層が融解する前に基材層が融解してしまい、ヒートシールすることができない場合がある。
【0024】
また、本実施形態におけるポリプロピレン系樹脂の含有率は、基材層を構成する樹脂組成物全体の80質量%以上である。
含有率が上記範囲に満たないと、耐熱性、剛性が十分でない場合があり、好ましくない。
【0025】
また、基材層2の厚みは、90μm以上1990μm以下であり、好ましくは、140μm以上1490μm以下である。基材層2の厚みを上記範囲内にすることにより、例えば、積層シート1を成形して立体形状を有する蓋体としたときに、良好な透明性を有するとともに、耐寒衝撃性、耐熱性、剛性等の諸物性においても優れた性能を兼ね備える。基材層2の厚みが上限値を超えると、容器と蓋体とをヒートシールする際に、シールバーの熱が易シール層3に届くまでに基材層2が多くの熱量を受けてしまい、溶融してダメージを受けやすくなる。また、基材層2の厚みが下限値未満では、薄すぎて蓋体としての強度が保てなくなるためである。
なお、ポリプロピレン系樹脂は、融点が高いプロピレンのホモポリマーやプロピレン系ランダム共重合体を使用することが、基材層がダメージを受けにくくなるため好ましい。
【0026】
[易シール層の構成]
易シール層3としては、メタロセン触媒を用いて重合された、融点が100℃以上120℃以下のプロピレン系ランダム共重合体(以下、メタロセン系ランダムポリプロピレンという場合がある。)を使用する。
メタロセン系ランダムポリプロピレンは、メタロセン触媒を用いて製造したエチレン−α−オレフィン共重合体のことである。このようなメタロセン系エチレン−α−オレフィン共重合体(b)は、エチレンを主成分とするとともに、好ましくは炭素数3〜18、より好ましくは炭素数4〜12、特に好ましくは炭素数6〜10のα−オレフィン、より具体的には、プロピレン、ブテン−1、ペンテン−1、ヘキセン−1、オクテン−1、ヘプテン−2、4−メチル−ペンテン−1、4−メチル−ヘキセン−1、4,4−ジメチルペンテン−1等をコモノマーとして用い、公知のメタロセン系触媒を用いて製造することができる。
【0027】
メタロセン系触媒は、通常、シクロペンタジエニル骨格を有する配位子を少なくとも1個有する周期律表第IVB族の遷移金属化合物からなるメタロセン触媒成分(A)、および有機アルミニウムオキシ化合物触媒成分および/又はイオン性化合物触媒成分(B)、必要に応じて微粒子状単体(C)、有機アルミニウム化合物触媒成分(D)、イオン化イオン性化合物触媒成分(E)とから形成される。
また、メタロセン系触媒を用いた(共)重合の方法としては、気相法、スラリー法、高圧イオン重合法、溶液法等を挙げることができる。
なお、メタロセン系エチレン−α−オレフィン共重合体は、GPC法(Gel Permeation Chromatography)により求めた分子量分布(Mw/Mn)が、1.5〜4.0と狭い分布を有するという特徴がある。
【0028】
本実施形態で使用するメタロセン系エチレン−α−オレフィン共重合体(b)の密度は、880〜925kg/m
3であり、900〜920kg/m
3であるのが好ましい。
密度が上記範囲にあれば、柔軟性、および結晶性が良好である一方、密度が上記範囲に満たないと低結晶成分のブリードが発生しやすくなる場合があり、また、密度が上記範囲を超えると、シートの耐衝撃性が不足してしまう場合がある。
なお、メタロセン系エチレン−α−オレフィン共重合体(b)の密度は、JIS K7112(23℃)に準拠して測定すればよい。
【0029】
本実施形態で使用するメタロセン系ランダムポリプロピレンの融点は、100℃以上120℃以下である。融点が上記範囲内にあれば、基材層2を構成するプロピレン系樹脂の融点との差を大きくすることができるため、基材層2の厚みが大きくても、ヒートシール時に、易シール層3が融解する前に基材層2が融解してしまうことがない。
【0030】
また、易シール層3の厚みは、10μm以上1000μm以下であり、好ましくは、30μm以上100μm以下である。易シール層3の厚みを上記範囲内にすることにより、例えば、積層シート1を成形して蓋体に使用する場合に、容器側にイージーピール層のような層を備えていなくてもシールすることが可能になる。また、凝集破壊を促す凝集破壊層のような中間層を備えていなくても、軽い力でスムーズに蓋体を容器から剥がすことができる。易シール層3の厚みが下限値未満では、シールの安定性が悪くなり、剥離し易くなる。また、易シール層3の厚みが上限値を超えると、シールバーの熱がシール層に届くまでに基材層が多くの熱量を受けてしまい、溶融してダメージを受けやすくなる。
[易シール層の防曇処理]
本実施形態の積層シート1は、易シール層3の表面の少なくとも一部が、防曇性成分によりコーティングされている。
この防曇処理として、WO02/32984に記載の方法を使用できる。
防曇処理として、防曇剤を含むバインダー樹脂からなるコート剤を塗布してもよい。例えば、共押出して作られた、基材層2と易シール層3からなる積層シート1の、易シール層3表面に、防曇剤を含むバインダー樹脂からなるコート剤を塗布する。このようなコート剤を塗布することにより、防曇処理した積層シートを熱成形しても、防曇性能が低下することを抑制できる。
【0031】
防曇剤は、特に限定されないが、ショ糖、ショ糖系脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、脂肪酸3級アミド、高級アルコール脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル等を、単独又は2種以上を混合して使用することができる。この中ではショ糖や脂肪酸エステル等が好ましい。
【0032】
バインダー樹脂は、特に限定されないが、アクリル系接着剤が好ましく、ポリアクリル酸エステル等の共重合体を用いることができる。ここで、ポリアクリル酸エステルを構成するアクリル酸エステルとしては、アクリル酸のメチルエステル、エチルエステル、ブチルエステル、オクチルエステル、2−エチルヘキシルエステル等を用いることができる。これらのアクリル酸エステルを、メタクリル酸エステル、スチレン、アクリロニトリル、塩化ビニル、酢酸ビニル等と共重合させたポリマーを用いることができる。また、上記アクリル酸エステルを、アクリル酸、アクリルアミド、メチロールアクリルアミド、ヒドロキシジアルキルメタクリレート等の種々の官能性モノマーと共重合させたポリマーを用いることができる。
【0033】
易シール層3の表面の少なくとも一部に、防曇剤およびバインダー樹脂を含むコート剤によりコーティングすると、防曇剤のみのコーティングと比べて、塗膜強度を高めることができるとともに、コーティング表面のべたつきを抑えることができる。しかも、バインダー樹脂を用いているから、コーティング表面のべたつきをより一層低下させることができるとともに、防曇処理した積層シートを熱成形して得られる成形体においても、効果的に防曇性を発揮させることができる。
【0034】
コーティングは、好ましくは、積層シート1に、上記防曇剤およびバインダー樹脂を固形分量としてそれぞれ4mg/m
2以上400mg/m
2以下の範囲内となるように塗布、乾燥して形成する。
ここで、積層シート1表面のバインダー樹脂の単位面積当たり重量が4mg/m
2未満であると、コーティングの強度が低下する可能性がある。一方、400mg/m
2を超えると防曇効果が低下する可能性がある。
また、積層シート1表面の防曇剤の単位面積当たり重量が4mg/m
2未満であると、十分な防曇効果が得られない可能性がある。一方、400mg/m
2を超えると、コーティングの強度が低下する可能性があるとともに、コーティング表面のべたつきが発生することがある。
【0035】
本実施形態の積層シート1全体の厚みは、100μm以上2000μm以下であり、好ましくは、150μm以上1800μm以下である。積層シート1全体の厚みを上記範囲内にすることにより、例えば、積層シート1を成形して立体形状を有する蓋体としたときに、優れたシール性を有する。また、良好な透明性を有するとともに、耐寒衝撃性、耐熱性、剛性等の諸物性においても優れた性能を兼ね備える。
本実施形態の積層シート1は、透明性を有しており、透明度が全ヘイズ60%以下であることが好ましい。このような透明性を有することで、積層シート1を成形して蓋体などの成形体としたときに、容器内の内容物を確認できる。
【0036】
[積層シートの製造方法]
本実施形態における積層シート1は、例えば、
図2に示すような製造装置10により、前述した基材層2となる特定のポリプロピレン系樹脂と、易シール層3となる特定のプロピレン系ランダム共重合体とを多層共押出法でシート状に成形し、これを急冷することによって製造することができる。
【0037】
図2に示す製造装置10は、図示しない単軸押出機、又は多軸押出機などの既存の押出機を備えて構成されており、押出機の先端にはシート成形用のTダイ11が設けられている。これにより、前述した基材層2となる特定のポリプロピレン系樹脂と、易シール層3となる特定のプロピレン系ランダム共重合体とが、シート状物1aとしてTダイ11から共押出される。
なお、上記ポリプロピレン系樹脂やプロピレン系ランダム共重合体の原料は、ペレット状、粉末状、顆粒状など任意の形態で供給することができる。
【0038】
さらに、
図2に示す製造装置10は、第一冷却ロール21、第二冷却ロール22、第三冷却ロール23、第四冷却ロール24、エンドレスベルト25、冷却水吹き付けノズル26、水槽27、吸水ロール28、および剥離ロール29を備えている。
【0039】
第一冷却ロール21の表面には、ニトリル−ブタジエンゴム(NBR)等の弾性材21aが被覆されている。この弾性材21aは、硬度(JIS K 6301Aに準拠した方法で測定)が80度以下、厚さが10mm程度であるのが好ましい。
なお、第一冷却ロール21、第三冷却ロール23、第四冷却ロール24の少なくとも一つは、その回転軸が、図示しない回転駆動手段と連結されている。
【0040】
第二冷却ロール22は、その表面粗さ(JIS B 0601「表面粗さ−定義および表示」に基づく表面粗さ:Rmax)が、好ましくは2.0μm以下、より好ましくは1.0μm以下の鏡面とされた金属製ロール(鏡面冷却ロール)であり、その内部には、表面の温度調節を可能にするために、図示しない水冷式等の冷却手段が内蔵されている。第二冷却ロール22の表面粗さ(Rmax)が、2.0μmを超えると、得られる積層シート1の光沢度や、透明性が低下するおそれがある。
このような第二冷却ロール22は、ステンレス等からなる金属製のエンドレスベルト25を介して第一冷却ロール21との間に、Tダイ11から共押出されたシート状物1aを挟むように配置されている。
【0041】
エンドレスベルト25は、Tダイ11から共押出されたシート状物1aと接する面の表面粗さ(Rmax)が、好ましくは1.0μm以下の鏡面とされており、第一冷却ロール21、第三冷却ロール23、第四冷却ロール24に回動自在に巻装されている。
このとき、第三冷却ロール23、第四冷却ロール24は、金属製ロールとすることができ、その内部に図示しない水冷式等の冷却手段を内蔵させることにより、エンドレスベルト25の温度調節が可能となるようにすることができる。
【0042】
また、冷却水吹き付けノズル26は、第二冷却ロール22の下面側に設けられており、これによって、エンドレスベルト25の裏面に冷却水が吹き付けられる。このように、冷却水吹き付けノズル26から冷却水を吹き付けることで、エンドレスベルト25を急冷するとともに、第一冷却ロール21、第二冷却ロール22により面状圧接されたシート状物1aをも急冷することができる。
【0043】
水槽27は、上面が開口した箱状に形成され、第二冷却ロール22の下面全体を覆うように設けられている。この水槽27により、エンドレスベルト25の裏面に吹き付けられた冷却水を回収するとともに、回収した水を水槽27の下面に形成された排出口27aより排出する。
【0044】
吸水ロール28は、第二冷却ロール22における第三冷却ロール23側の側面部に、エンドレスベルト25に接するように設置されており、エンドレスベルト25の裏面に付着した余分な冷却水を除去するためのものである。
【0045】
剥離ロール29は、シート状物1aを第三冷却ロール23、およびエンドレスベルト25にガイドするように配置されるとともに、冷却終了後のシート状物1a(積層シート1)をエンドレスベルト25から剥離するものである。
なお、剥離ロール29は、シート状物1a(積層シート1)を第三冷却ロール23側に圧接するように配置してもよいが、図示するように第三冷却ロール23に対して離間して配置し、シート状物1a(積層シート1)を圧接しないようにするのが好ましい。
【0046】
このように構成された製造装置により、積層シート1は次のようにして製造される。
まず、シート状物1aと直接接触し、これを冷却する第二冷却ロール22、およびエンドレスベルト25の表面温度が露点以上、50℃以下、好ましくは30℃以下に保たれるように、予め各冷却ロール(第二冷却ロール22,第三冷却ロール23,第四冷却ロール24)の温度制御を行う。
ここで、第二冷却ロール22、およびエンドレスベルト25の表面温度が露点以下では、表面に結露が生じ均一な製膜が困難になる可能性がある。一方、表面温度が50℃より高いと、得られる積層シート1の透明性が低くなるとともに、α晶が多くなり、熱成形しにくいものとなる可能性がある。
【0047】
次に、押出機のTダイ11よりシート状物1aを共押出し、第一冷却ロール21上でエンドレスベルト25と、第二冷却ロール22との間に挟み込む。この状態で、シート状物1aを第一冷却ロール21、第二冷却ロール22で面状圧接するとともに急冷する。
この際、第一冷却ロール21の表面に被覆されている弾性材21aが圧縮されて弾性変形するが、シート状物1aは、弾性材21aが弾性変形している部分、すなわち、第一冷却ロール21の中心角度θ1に対応する円弧部分で、第一冷却ロール21、第二冷却ロール22により面状圧接される。
なお、このときの面圧は、0.1〜20MPaであるのが好ましい。
【0048】
続いて、第二冷却ロール22と、エンドレスベルト25との間に挟まれたシート状物1aは、第二冷却ロール22の略下半周に対応する円弧部分において、第二冷却ロール22と、エンドレスベルト25とにより面状圧接されるとともに、冷却水吹き付けノズル26によるエンドレスベルト25の裏面側への冷却水の吹き付けにより、さらに急冷される。
なお、このときの面圧は、0.01〜0.5MPaであるのが好ましく、冷却水の温度は、0〜30℃であるのが好ましい。また、吹き付けられた冷却水は、水槽27に回収されるとともに、回収された水は排出口27aより排出される。
【0049】
このようにして、第二冷却ロール22と、エンドレスベルト25との間で、シート状物1aに対して面状圧接と、冷却がなされた後、エンドレスベルト25に密着したシート状物1aは、エンドレスベルト25の回動とともに、第三冷却ロール23上に移動される。そして、剥離ロール29によりガイドされたシート状物1aは、第三冷却ロール23の略上半周に対応する円弧部分で急冷される。
なお、エンドレスベルト25の裏面に付着した水は、第二冷却ロール22から第三冷却ロール23への移動途中に設けられている吸水ロール28により除去される。
【0050】
第三冷却ロール23上で冷却されたシート状物1a、すなわち、シート状物1aを急冷してなる積層シート1は、剥離ロール29によりエンドレスベルト25から剥離され、図示しない巻取りロールにより所定の速度で巻き取られる。
【0051】
以上の工程により、本実施形態における積層シート1を製造することができる。本実施形態における積層シート1は、優れたシール性を有する。また、良好な透明性を有するとともに、耐寒衝撃性、耐熱性、剛性等の諸物性においても優れた性能を兼ね備える。
【0052】
以上のような本実施形態の積層シート1は、熱成形品用シートとして主に用いることができる。そのなかでも、熱成形容器用シートとして、特に、透明性が求められる用途、例えば、食品容器の蓋体等に好適に用いることができる。
【0053】
[包装体の構成]
図3は、本実施形態の包装体を示す断面図である。
図3に示すように、本実施形態の包装体50は、蓋体40と容器30とから構成されている。本実施形態の包装体50では、蓋体40に本実施形態の積層シート1を用いて成形された成形体を用いている。
【0054】
[容器の構成]
図3に示すように、容器30は、基材層31と、表面層32と、から構成される。
容器30の基材層31は、基本的には熱成形可能な素材であれば特に限定されないが、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリエチレンナフタレート等が例示される。これらの素材は単独で使用しても、組み合わせて使用してもよい。好ましくはポリプロピレンを用いる。ポリプロピレンとして、ホモポリプロピレン、プロピレンとエチレン、プロピレンとエチレンとブテンとのブロックコポリマーランダムコポリマー等が例示される。
また、ポリプロピレンとポリスチレン、ゴム変性ポリスチレン等のポリマーアロイを用いて合成、成形性を改善させることができる。
さらに、容器30の基材層31は、樹脂に各種添加剤を含むことができる。例えば、剛性を向上させるために、無機フィラーを含む。
【0055】
また、容器30の基材層31は、必要に応じて、一層だけから構成されるだけでなく、複数の層を積層して構成してもよい。例えば、エチレンビニルアルコール共重合体、ポリアミド等のガスバリア性樹脂層、接着性樹脂層等を含むこともできる。
容器30の表面層32は、耐油性、耐薬品性、耐熱性を踏まえて、ポリプロピレン樹脂もしくはポリエチレン樹脂から構成されるのが好ましい。
また、容器30は、基材層と、表面層と、から構成される積層シートを、
図3に示すフランジ30aを有する所望の形状に成形することにより得られる。成形方法としては、真空成形法や圧空成形法等が挙げられる。
【0056】
[蓋体の構成]
図3に示すように、蓋体40は、基材層41と、易シール層42と、から構成される。
蓋体40は、上記本実施形態の積層シート1を用いて成形される。したがって、蓋体40の基材層41は、前述した積層シート1の基材層2、蓋体40の易シール層42は、前述した積層シート1の易シール層3から構成されている。
また、蓋体40は、本実施形態の積層シートを、
図3に示すフランジ40aを有する所望の形状に成形することにより得られる。成形方法としては、真空成形法や圧空成形法等が挙げられる。
本実施形態における蓋体40は、上記本実施形態の積層シート1を用いて成形されているので、優れたシール性を有する。また、良好な透明性を有するとともに、耐寒衝撃性、耐熱性、剛性等の諸物性においても優れた性能を兼ね備える。
【0057】
[容器と蓋体とのシール方法]
容器30と蓋体40とをシールして密封する際には、容器30のフランジ30aと、蓋体40のフランジ40aとを重ね合わせ、重ねたフランジ30a,40aをシールバーで蓋体側からヒートシールして密着させることにより密閉される。
シール温度は170℃〜220℃が好ましく、180℃〜200℃が特に好ましい。シール温度が170℃未満ではシール時間が長くなりすぎるため、実用の生産性が得られない。また、220℃を超えると基材層が溶融し、エッジ切れを起こすため好ましくない。
シール圧力としては、1MPa以上5MPa以下、シール時間は0.5秒以上5秒以下が好ましく、シール圧力が2MPa以上4MPa以下、シール時間は1秒以上3秒以下が特に好ましい。1MPa未満では十分なシール強度が得られないおそれがある。また、5MPaを超えるとエッジ切れを起こしてしまうおそれがある。
上記ヒートシール条件でヒートシールすることにより、高密封性を有する包装体とすることができる。
【0058】
[実施形態の変形]
なお、以上説明した態様は、本発明の一態様を示したものであって、本発明は、前記した実施形態に限定されるものではなく、本発明の構成を備え、目的および効果を達成できる範囲内での変形や改良が、本発明の内容に含まれるものであることはいうまでもない。また、本発明を実施する際における具体的な構造および形状などは、本発明の目的および効果を達成できる範囲内において、他の構造や形状などとしても問題はない。本発明は前記した各実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形や改良は、本発明に含まれるものである。
例えば、本実施形態では、容器30を基材層と表面層とで構成された例を挙げて説明したが、本実施形態の積層シート1を使用しない場合には、容器30を基材層が1層のみから構成された単層構造を採用してもよい。
【実施例】
【0059】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
なお、実施例および比較例に示した物性の測定方法および評価方法は以下の通りである。
【0060】
(1)シール性
◎:蓋体フランジと容器フランジを、ヒートシール部の外観を悪化させず、イージーピール可能にヒートシール可能な適正温度範囲が広い。
△:シール時に蓋が破れたり、熱板に付着してシール不良現象を起こす場合がある。
○:上記△に記載した不良現象はおきないが、適正温度範囲が上記◎より狭い。
×:蓋体が破れるか、熱板に付着して、ヒートシールできない。
【0061】
(2)イージーピール性
10人の試験者が、蓋体と容器が密封された試験サンプルについて、蓋体を容器から手で剥がして、軽い力でスムーズに剥がせるか否か判断した。
◎:10人の試験者のうち8人以上が、軽い力でスムーズに蓋体を容器から剥がせる(イージーピール)と判断し、残りの試験者もイージーピールでない(×である)とは判断しなかった。
×:10人の試験者全員がイージーピールでないと判断した。
○:10人の試験者のうち4〜7人がイージーピールと判断し、残りの試験者も、イージーピールでない(×である)とは判断しなかった。
【0062】
(3)密封性
容器中に水を入れ、その上から蓋をし、蓋体のフランジと容器のフランジをヒートシールして接着した。その容器を、蓋体がほぼ垂直に立つように傾けて、水のこぼれ有無を目視で確認した。
◎:水のこぼれなし
×:水がフランジ間から漏れた。
△:水がフランジ間から少し漏れた。
○:水がフランジ間から滲む程度(上記△より、フランジは濡れていない)
【0063】
(4)耐熱性
カレーを容器内に入れて、その上から蓋をし、蓋体のフランジと容器のフランジをヒートシールして接着した後、一度容器を回転させて、蓋体にカレーを付着させた。それを、電子レンジにかけて加熱した後、取り出して、容器の変形有無を目視で確認した。
◎:蓋体の変形なし。×:蓋体の変形あり。
【0064】
(5)防曇性
容器中に水を入れ、その上から蓋をし、蓋体のフランジと容器のフランジをヒートシールして接着した。その容器を4℃に保持された冷蔵庫内に入れて24時間静置した後、常温に戻して、蓋体内面への水滴の付着有無を目視で確認した。
◎:容器の中が視認できる。×:蓋体内面が曇って容器の中が見えない。
【0065】
実施例および比較例の蓋体で使用した樹脂を以下に示す。
樹脂A:ホモポリプロピレン(融点166℃、アイソタクチックペンタッド分率98%、MFR=3.0g/10分)
樹脂B:ホモポリプロピレン(融点162℃、アイソタクチックペンタッド分率92%、MFR=2.8g/10分)
樹脂C:メタロセン触媒を用いて重合されたプロピレン系ランダム共重合体(融点116℃、MFR=9.0g/10分)
樹脂D:プロピレン系ランダム共重合体(融点132℃、MFR=7.5g/10分)
樹脂E:プロピレン系ランダム共重合体(融点142℃、MFR=2.6g/10分)
なお、フランジ付き容器は、ホモポリプロピレン、フィラーポリプロピレン、ホモポリプロピレンの3層により構成されたものを使用した。
また、各実施例又は比較例の蓋体における、層の構成材料および膜厚を次の表1に示す。
【0066】
【表1】
【0067】
[実施例1]
容器の基材層として、ホモプロピレンポリマー、中間層として、フィラー含有プロピレンポリマー、および、表面層としてホモプロピレンポリマーを用いて、3層からなる容器用積層シートを多層共押出法で成形した。成形した容器用積層シートの基材層の厚さは150μm、中間層の厚さは300μm、表面層の厚さは50μmである。
得られた容器用積層シートを真空成形法により
図3に示す容器30の形状(フランジ外周が110mm×110mm、容器の高さが25mm)に成形した。
【0068】
また、蓋体の基材層として、樹脂A、および、易シール層として、樹脂Cを用いて、2層からなる蓋体用積層シートを多層共押出法で成形し、ベルト急冷法により透明化させた。成形した蓋体用積層シートの基材層の厚さは250μm、易シール層の厚さは50μmである。
得られた蓋体用積層シートの易シール層表面に、防曇剤成分としてショ糖を含むアクリル系バインダーを400mg/m
2となるようにコーティングして防曇処理した。その防曇処理済み蓋体用積層シートを、圧空成形法により
図3に示す蓋体40の形状に成形した。
【0069】
得られた容器および蓋体のそれぞれのフランジを重ね、重ねたフランジをヒートシールして密着させることにより包装体を得た。ヒートシール条件は、シール温度が190℃、シール圧力が0.3MPa、シール時間が1.5秒間である。得られた包装体について上記評価を行った。その結果を次の表2に示す。
【0070】
[実施例2−5、比較例1−3]
上記表1に示すように、蓋体を構成する樹脂の種類、各層の厚み、防曇処理の有無等を変更した以外は、上記実施例1と同様にして容器30および蓋体40を得た。
得られた容器30および蓋体40のそれぞれのフランジを重ね、重ねたフランジをヒートシールして密着させることにより包装体を得た。得られた包装体について実施例1と同様に評価を行った。その結果を次の表2に示す。
【0071】
[比較例4]
容器としてポリプロピレン単層容器を、蓋体として二軸延伸ポリスチレン単層蓋をそれぞれ用意した。用意した容器および蓋体の形状は、上記実施例1と同様に、
図3に示す容器30および蓋体40の形状であるが、容器には中間層および表面層を有しておらず、また、蓋体には易シール層を有していない。
次に、蓋体の内面を防曇処理した後、容器と蓋のそれぞれのフランジを重ね、重ねたフランジをシュリンクフィルムでラッピングして包装体とした。
得られた包装体について実施例1と同様に評価を行った。その結果を次の表2に示す。
【0072】
【表2】
【0073】
表2から明らかなように、比較例1〜3では、シール性、イージーピール性、密封性に劣る結果となった。比較例1〜3の包装体が上記評価特性を有するためには、容器にイージーピール層を有している必要があると推察される。
また、比較例4では、それぞれ単層の容器および単層の蓋体を重ね合わせ、それをシュリンクフィルムでラップしただけの構成であるため、シール性、および、イージーピール性については評価していない。比較例4では、密封性に劣り、また、耐熱性も劣る結果となった。
一方、実施例1〜4では、全ての項目において優れた評価が得られた。また、防曇処理を施していない実施例5では、防曇性以外の項目について優れた評価が得られた。