【実施例】
【0044】
以下に図面等を示しつつ本発明の実施例についてさらに詳しく説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものでなく、様々な細部の形態が可能とされることは言うまでもない。
【0045】
本発明の製造方法を実施するために、
図1に示す反応容器4、
図5に示す反応容器7、
図8に示す反応容器12、およびルツボ3を用意した。
【0046】
反応容器4、7または12は、たとえばステンレス鋼製(SUS316)、ニッケル製、耐熱合金製などのパイプを加工したもので構成される。反応容器4または12は、パイプの一方の口がキャップの溶接により密封されており、もう一方の口がキャップの圧着もしくは溶接によって密封可能になっている。反応容器7はパイプの両方の口がステンレス製のキャップの圧着もしくは溶接によって密封可能になっている。そして反応容器7の上部側面に管が反応容器7の内部と連通可能に接続されている。管にはバルブ10が設置されていてバルブ10を閉じることによって反応容器7を密閉できるようになっている。
反応容器4は、例えば、内径が10.7mm、長さが約100mmである。反応容器7は、例えば内径が10.7mm、長さが約200 mmである。反応容器12は、例えば、内径が10.7mm、長さが約300mmである。
【0047】
ルツボ3は、窒化ホウ素(BN)、アルミナ(Al
2O
3)、またはマグネシア(MgO)を用いてなるものである。るつぼの具体例としては、焼結BNルツボ(昭和電工株式会社製)、多結晶焼結アルミナ製ルツボ(日本ファインセラミックス株式会社製)、または多結晶焼結マグネシア製ルツボ(タテホ化学工業株式会社)などが挙げられる。ルツボ3は反応容器4、7または12の内部に収納可能になっている。BNルツボまたはAl
2O
3ルツボは、内径が約6.5mm、深さが18mmである。BNの純度は99.5%、アルミナの純度は99.9%、マグネシアの純度は99.99%である。
【0048】
<実施例1>
高純度アルゴンガス雰囲気(O
2およびH
2O濃度が共に1ppm未満)のグローブボックス内で、0.1472g(6.4mmol)の金属ナトリウム(日本曹達株式会社製、純度99.95%)と0.0480g(0.8mmol)のSiO
2(和光純薬工業社製、特級)とを秤量し、内径約6.5mm、深さ18mmの多結晶BN製ルツボ3(昭和電工株式会社製、純度99.5%)に入れた。ナトリウム(Na)とシリカ(SiO
2)とのモル比(Na/SiO
2)は8/1であった。
【0049】
次に、反応容器4(ステンレス鋼SUS316製管、内径10.7mm、長さ約100mm)の中にルツボ3を配置し、アルゴン雰囲気中で反応容器4をステンレス鋼製キャップで密封した。この反応容器4を電気炉5に収め加熱し、2時間掛けて900℃まで温度を上げ、この温度で12時間維持した。
その後、ルツボ3を炉内で室温まで冷却(炉冷)した。反応容器4をグローブボックス内で切断し、ルツボ3を取り出した。アルゴン雰囲気下で、ルツボ3から塊状生成物を取り出した。該生成物を光学顕微鏡で観察した。その結果、
図2に示すように、銀色の金属ナトリウムの基質の中に、黒色で柱状の単結晶(サイズは約0.5mm×約0.2mm×約0.2mm)が含まれていた。
【0050】
高純度アルゴンガス雰囲気下で前記塊状生成物を液体アンモニアに投入して金属ナトリウムを溶解させた。
図3に示すような灰色の粉末と黒色で金属光沢を持つ柱状単結晶との混合物が得られた。
【0051】
なお、ルツボ3から塊状生成物を取り出さずに、
図5に示すような装置にルツボ3を収納し、真空ポンプ11を用いて約10
4Paに減圧して、次いで電気炉8で500℃に加熱し12時間維持して金属ナトリウムを蒸発させることによっても
図3に示すような灰色の粉末と黒色で金属光沢を持つ柱状単結晶との混合物が得られた。
【0052】
該混合物から柱状単結晶を拾い出した。柱状単結晶について株式会社リガク製の「Rapid−II」(X線源:MoKα)を用いて測定し、X線回折ピークを得た。
構造解析の結果、柱状単結晶は、単斜晶系(空間群C2/c)で、格子定数が、a=1.21518(11)nm、b=0.65458(5)nm、c=1.11290(8)nm、β=118.846(3)°で、b軸方向に伸長していることが判った。
この原子座標パラメータは、Witteら(Z. Anorg. Allg. Chem. 327, 260-273 (2008))やGoebelら(Z. Kristallogr. NCS 223, 187-188 (2008))が先にNaSi単結晶で報告した値と一致した(解析の信頼度:R1=0.0459、S=1.208 全測定データによる解析)。
【0053】
前記混合物の粉末X線回折ピーク((株式会社リガク製、製品名「RINT」、X線源:CuKα)は、
図6に示すようにNa
2SiO
3とNaSiの格子定数でほぼ説明することができたが、NaSiについてはb軸方向に伸長した結晶粒を反映した(10−1)や(100)面の優先配向が認められた。
【0054】
次に、混合物試料から拾い出した柱状単結晶数本をルツボ3に入れた。その後反応容器7に収め、電気炉8を用いて、Ar雰囲気下、約1気圧、850℃で12時間加熱した。その結果、
図4に示すような、やや褐色を帯びた柱状固体が得られた。
この柱状固体のX線回折写真を撮影した。その結果、
図7に示すようなデバイシェラーリングが観察された。Siの格子定数(立方晶系、空間群Fd−3m、a=0.543nm、(J. Appl. Phys. 56, 314-320 (1984)))によって、回折反射が指数づけすることができ、この柱状固体が多結晶シリコンであることが示された。
【0055】
<実施例2>
内径約6.5mm、深さ18mmの多結晶BN製ルツボ3(昭和電工株式会社製、純度99.5%)に、4mmolまたは8mmolのNa(日本曹達株式会社製、純度99.95%)と、1mmolのSiO
2(和光純薬工業社製、特級)とを入れた。このルツボ3をステンレス鋼(SUS316)製の反応容器12の中に入れて支持棒13で支持し、次いでArガスで反応容器内を置換して封入した。電気炉14の高温部にルツボが位置するように反応容器12を設置し加熱した。ルツボ3の部分の温度を2時間掛けて830℃まで上げ、その温度を12時間維持した。反応容器12内の温度分布は
図9に示すようになった。その後、ルツボ3を室温まで炉冷した。
【0056】
ルツボ3から固体を取り出し、該固体のX線回折パターンを測定した。
図10(a)に測定結果を示す。
前記固体は、メタケイ酸ナトリウムNa
2SiO
3(斜方晶系、空間群Cmc2
1、a=1.048nm、b=0.607nm、c=0.482nm(Acta Crystallogr. 22, 37-43 (1967))とSi(立方晶系、空間群Fd−3m、a=0.543nm(J. Appl. Phys. 56, 314-320 (1984))の2相からなり、非特許文献6の方法で作製された試料のX線回折パターンに比べ回折ピークの幅が狭く、生成物の結晶性がよいことが判った。
前記固体を光学顕微鏡で観察した。その観察像写真を
図11に示す。固体は、数十μmの大きさの粒状で、表面の一部がデンドライド状に成長した金属光沢のSi結晶粒が、白黄褐色のNa
2SiO
3微粉末中に分散している様子が観察された。ルツボ3内に生成した固体の総質量は4/3mmolのNaと1mmolのSiO
2を併せた91mgであった。余剰のNaは反応容器内の低温部(635〜680℃)に析出していた。なお、このNaを回収し、再び出発原料の一部として利用することができる。
【0057】
なお、蒸発した余剰のナトリウムは、以下のようにして回収することができる。上記と同様にNaとSiO
2を入れたルツボ3を反応容器12内に入れ830℃にされる部分(高温部)に支持した。SiO
2のみを入れたBNルツボを反応容器12内に入れ635〜800℃にされる部分(低温部)に支持した。この反応容器12を上記と同じように電気炉14に入れて
図9に示す温度分布になるように加熱した。高温部に支持したルツボ3からはメタケイ酸ナトリウム微粉末とケイ素結晶粒との混合物が上記と同じように得られた。低温部に支持したルツボからはケイ酸ナトリウムとケイ素との混合物が得られた。このケイ酸ナトリウムは、ルツボ3において蒸発したナトリウムが低温部に支持したルツボの中のシリカと反応して生成したものである。
【0058】
次に、ルツボ3に得られたSi結晶粒とNa
2SiO
3微粉末との混合物を、穴径0.2μmのメンブレンフィルタ上で水洗、吸引濾過を行った。Na
2SiO
3微粉末は水に溶解し流出した。Si結晶粒がフィルタ上に残った。
図12に示すように、フィルタ内には黄褐色の微細粉が捕集され、その上には粗粒Siが残されていた。
水洗の際のガス発生は、ほとんど認められなかった。フィルタ中およびフィルタ上の生成物の質量は、Si理論収量(1/3mmol、9.4mg)に近い約9mgであった。フィルタ上の粗粒粉体は、X線回折よりSiの単一相(立方晶系、空間群Fd−3m、a=0.543nm)であることが示された(
図10(b))。フィルタ上から集めたSi粗粒粉は約8mg(理論収率の約85%に相当する量)であった。
図13に原料に使用したSiO
2粉末60mgの写真、
図14に本発明の方法で得られたSi粗粒粉8mgの写真を示す。
【0059】
フィルタ上での水洗においても上記のような高収率となる理由は次のように推測できる。先ず、本発明の方法で得られたSi結晶は従来法に比べて結晶性が高い。また晶析によってSi結晶の粒径が大きくなっているので、水に接触する面積が小さい。Na
2SiO
3が水に溶解した際にNaOHが生成し、これがSiと反応してSiが水に溶解し流出するのであるが、高い結晶性と小さい接触面積のために、上記のようなSiの溶解反応が進行し難くなるからである。
なお、ルツボ3に得られたSi結晶粒とNa
2SiO
3微粉末との混合物を水を入れ、濾過せずに放置していると、Na
2SiO
3がまず溶解し、次いでH
2ガスの発生と伴にSi結晶が溶解していく様子が観察された。
【0060】
図15、
図16及び
図17に得られたSi粗粒粉の走査型電子顕微鏡(フィリップス社製、製品名「ESEM XL−30」)写真を示す。粒子は、その大きさが約50μm〜約100μmの範囲内にあり、比較的に緻密な面の上に結晶成長ステップが観察された(
図17)。また、数μm前後の細かな結晶粒が粗粒子表面に付着しているものが観察された。エネルギー分散型X線スペクトル分析装置(EDAX社製、製品名「NEW XL−30」)を用いて測定されたエネルギー分散型X線スペクトルにはSiの特性X線ピークのみが検出された(
図18)。X線回折ピークの結果と併せて、得られた粉末がSiであることが示された。結晶成長ステップを伴う粒子形態は、過剰に投入されたNaが溶媒(フラックス)としてSiを溶解した後、溶媒の蒸発で過飽和に達してSiの核生成と結晶成長が始まり、結晶粒が粗大化していった結果であると考えられる。微細結晶粒の付着は、Naの蒸発がさらに進んで液体の体積が減少し、相対的に表面積が急増することで蒸発速度が急上昇し、高過飽和状態がもたらされたことを示唆している。