特許第6068907号(P6068907)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6068907ケイ素およびアルカリ金属ケイ酸塩の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6068907
(24)【登録日】2017年1月6日
(45)【発行日】2017年1月25日
(54)【発明の名称】ケイ素およびアルカリ金属ケイ酸塩の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/023 20060101AFI20170116BHJP
   C01B 33/32 20060101ALI20170116BHJP
【FI】
   C01B33/023
   C01B33/32
【請求項の数】8
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2012-219096(P2012-219096)
(22)【出願日】2012年10月1日
(65)【公開番号】特開2014-70005(P2014-70005A)
(43)【公開日】2014年4月21日
【審査請求日】2015年5月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】899000035
【氏名又は名称】株式会社 東北テクノアーチ
(73)【特許権者】
【識別番号】000004307
【氏名又は名称】日本曹達株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109508
【弁理士】
【氏名又は名称】菊間 忠之
(72)【発明者】
【氏名】山根 久典
(72)【発明者】
【氏名】森戸 春彦
【審査官】 廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2007−520407(JP,A)
【文献】 特開2010−083732(JP,A)
【文献】 特開2011−032158(JP,A)
【文献】 特表2008−502575(JP,A)
【文献】 特開2004−051453(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/00−33/193
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカ3モル対して5モル以上の金属ナトリウムシリカに650〜900℃にて接触させてケイ化ナトリウムケイ酸ナトリウムとの混合物を得る工程、および
得られた混合物からケイ化ナトリウム由来のケイ素を分離する工程を含む
分離されたケイ素およびケイ酸ナトリウムのそれぞれを製造する方法。
【請求項2】
前記のケイ素を分離する工程が、
ケイ化ナトリウムケイ酸ナトリウムとの混合物を加熱して融解させ、
該融液を冷却してケイ化ナトリウムを晶析させ、
晶析したケイ化ナトリウムの結晶を分級し、
分級されたケイ化ナトリウムを加熱して金属ナトリウムを蒸発させてケイ素を晶析させることを含む、請求項に記載の製造方法。
【請求項3】
前記のケイ素を分離する工程が、
ケイ化ナトリウムケイ酸ナトリウムとの混合物を液化した金属ナトリウムに溶解させ、
該溶液を冷却してケイ化ナトリウムを晶析させ、
晶析したケイ化ナトリウムの結晶を分級し、
分級されたケイ化ナトリウムを加熱して金属ナトリウムを蒸発させて除去することを含む、請求項に記載の製造方法。
【請求項4】
ケイ化ナトリウムの晶析を金属ナトリウムの融点以上の温度にて行う、請求項2または3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記のケイ素を分離する工程が、
ケイ化ナトリウムケイ酸ナトリウムとの混合物を加熱して金属ナトリウムを蒸発させてケイ素を晶析させ、
晶析したケイ素の結晶を分級することを含む、請求項に記載の製造方法。
【請求項6】
ケイ素の晶析を、700〜900℃にて行う、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
シリカ3モルに対して5モル以上の金属ナトリウムをシリカに接触させ650〜900℃にて加熱して、
シリカと金属ナトリウムからケイ化ナトリウムケイ酸ナトリウムを生成させる反応と、
ケイ化ナトリウムからケイ素を晶析させる反応とを、同時並行して行い、
晶析したケイ素の結晶を分級することを含む、分離されたケイ素およびケイ酸ナトリウムそれぞれを製造する方法。
【請求項8】
シリカに接触させるナトリウムの量がシリカ1モルに対して2〜8モルである、請求項1〜7のいずれかひとつに記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケイ素(シリコン:Si)およびアルカリ金属ケイ酸塩を製造する方法に関する。より詳細に、本発明は、二酸化ケイ素(シリカ:SiO2)から、工業用原料として有用なケイ素およびアルカリケイ酸塩を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ケイ素は、鉄鋼、アルミ金属、フュームシリカ等の工業製品に大量に消費される。また。高純度シリコンは、半導体材料や太陽電池材料として利用されている。
二酸化炭素の排出量削減や、省エネルギー化、さらにはシリコン系太陽光発電の普及拡大のため、より低いエネルギー消費で且つより低いコストでケイ素を製造することができる新たな方法が求められている(非特許文献1)。
シリカからケイ素を製造する方法として、carbothermal還元法、aluminothermal還元法などが知られている。
carbothermal還元法は、例えば、カーボン電極を使用したアーク炉で黒鉛(C)と石英(SiO2)の混合物を1700℃以上の高温に加熱する工程を有する方法である。carbothermal還元法では反応生成物の一酸化炭素をガス相として容易にケイ素から分離できる。carbothermal還元法によって得られるケイ素は、純度が約99%で、金属シリコンと呼ばれている(非特許文献2)。また、金属シリコンをシーメンス法などによって精製して高純度なケイ素を製造することができる。シーメンス法は金属シリコンと塩素とのガス化反応を利用した精製法である。得られた高純度なケイ素は、半導体材料や太陽電池材料として利用されている。
【0003】
aluminothermal還元法は、金属アルミニウム(Al)による還元反応を利用するケイ素の製造法である。上述のcarbothermal還元法は1700℃以下の反応条件ではシリカの還元が進まない。これに対して、aluminothermal還元法は、原理的には低い温度においてもシリカを還元できるはずであるが、実際には非特許文献3で提示されているようにaluminothermal還元法における最適温度は1600−1700℃である。また、Alによる還元反応の生成物であるAl23(融点2050℃)とケイ素(融点1414℃)とを分離するために、CaO−SiO2−Al23系フラックスが利用されている。aluminothermal還元法では、1モルのケイ素を得るために、1モルのシリカ原料に加え、CaO−SiO2−Al23系フラックスを作製するための0.58モルのシリカ原料を別に要する。このようにaluminothermal還元法は、Siの分離・回収の効率が低い。
【0004】
ケイ酸ソーダ(メタケイ酸ナトリウム、Na2SiO3またはNa2SiO3・nH2O)に代表されるアルカリケイ酸塩は、洗剤やクリーナー、パルプや紙、土壌安定化剤、TiO2、耐火材、セラミック結合剤、水処理剤、ゼオライトなどの様々な工業製品の製造に利用されている(非特許文献2または非特許文献4)。
【0005】
ケイ酸ソーダを製造する方法として、熔融法(乾式法)、湿式法などがある(非特許文献5)。熔融法は、例えば、ケイ砂とソーダ灰(Na2CO3)とを高温(約1300℃)で熔融して一旦ガラスにし、そのガラスを水および加圧水蒸気に投入して溶解する工程を有する方法である。湿式法は、例えば、ケイ砂またはケイ酸白土と苛性ソーダ(NaOH)とを高圧オートクレーブに入れて反応させ、溶解させる工程を有する方法である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Yasuda, K. & Okabe, T. H., Solar-grade silicon production by metallothermic reduction. JOM 62, 94-101 (2010).
【非特許文献2】Zulehner, W., Elvers, B., Hawkins, S., Russey,W. & Schulz, G. (eds) Ullmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry 5th edn Vol. A23 706-748 (VCH, Weinheim, 1993).
【非特許文献3】Dietl, J. & Holm, C., New aspects in aluminothermic reduction of SiO2. E.C. Photovoltaic Sol. Energy Conf., 7th, (Comm. Eur. Communities, EUR 10939), 762-730 (1987).
【非特許文献4】Soluble silicate. Screening information data set (SIDS) for high volume chemicals, OECD Initial Assessment,1344-09-8.
【非特許文献5】内田文生,「水ガラス(ケイ酸ソーダ水溶液)って何?.」 セラミックス 46, 894-985 (2011).
【非特許文献6】Barker, M. G. & Leung, T. K. Sodium-ceramic interaction. “Energy and ceramics” Procc. 4th Inter. Meet. Moder. Ceram. Technol. (ed. P. Vincenzini) 870-878 (Elsevier Sci. Pul. Co. Amsterdam, 1980).
【非特許文献7】Ortega, J. Ariza, M. A. & Munuera, M. L. Reaction between vitreous silica and liquid sodium. An. Quim. 84, 357-360 (1988).
【非特許文献8】Yamada, K. & Komiyama, H. Photovoltaic Engineering. 101-106 (Nikkei BP, Tokyo, Japan, 2002). (山田興一, 小宮山宏, p. 101-106 太陽光発電工学 (2002))
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2011−32158号公報
【特許文献2】特開2010−83732号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ケイ素の製造法であるcarbothermal還元法およびaluminothermal還元法は、いずれも、還元反応を高温の条件で行わなければならない。また、アルカリケイ酸塩の製造方法である溶融法および湿式法においては、高温または高圧にする必要がある。
【0009】
ところで、シリカとNaとを650℃に加熱すると、式(1)に示される反応が進行して、ケイ素とケイ酸ソーダが得られることが、非特許文献6に報告されている。また、ガラス質シリカと液体ナトリウムとを250℃〜600℃の温度にて反応させると(Na2SiO2nが生成し、680℃以上の温度にて反応させると少量のSiが生成することが、非特許文献7に報告されている。
4Na + 3SiO2 → 2Na2SiO3 + Si (1)
このようなNaを利用した方法によれば、低い温度でかつ常圧に近い圧力下でケイ素およびアルカリ金属ケイ酸塩を製造できる可能性がある。
【0010】
そこで、本発明者らは、非特許文献6または非特許文献7を参考にして、シリカと液体ナトリウムとを650℃および850℃にて反応させてみた。その結果、褐色の粉末が得られた。該粉末は、粉末XRD法による分析および形態組織観察によって、メタケイ酸ナトリウムNa2SiO3(斜方晶系、空間群Cmc21、a=1.048nm、b=0.607nm、c=0.482nm、(Acta Crystallogr. 22, 37-43 (1967))粉末とケイ素(立方晶系、空間群Fd−3m、a=0.543nm、(J. Appl. Phys. 56, 314-320 (1984))粉末との混合物であることがわかった。また、650℃の条件で得られた粉末に比べ850℃の条件で得られた粉末は、ケイ素由来のXRDピークの幅が若干狭くなっていた。しかし、どちらの粉末も、ケイ素由来のXRDピークがブロードで、Siの結晶子サイズがあまり大きくないかまたはSiの結晶性があまり高くないことを示唆していた。Na2SiO3粉末とSi粉末とは粒径がほぼ同じなので篩分けや遠心分離などの分級操作によって両者を分離することができない。
【0011】
Na2SiO3粉末とSi粉末の混合物を、吸引ろ過フィルタ上で水洗すると、Na2SiO3粉末が水に溶解し、フィルタ上にケイ素粉末だけが残るはずである。ところが650℃の条件で得られた粉末からのケイ素粉末の収率は原料シリカに対して1mol%未満、850℃の条件で得られた粉末からのケイ素粉末の収率は原料シリカに対して3mol%程度であった。理論収率33mol%よりも遙かに低い値であった。
この原因は次のように推定される。Na2SiO3粉末を水に溶解させると苛性ソーダ(NaOH)が生成する。この苛性ソーダはケイ素粉末と式(2)で表される反応を起こし、ケイ素粉末がメタケイ酸ナトリウムとして水とともに流出してしまったからである。
2NaOH + Si + H2O → Na2SiO3 + 2H2 (2)
【0012】
本発明の課題は、シリカから、ケイ素およびアルカリケイ酸塩を、より低い温度で且つ常圧に近い圧力で効率的に製造することができる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決するために検討した結果、下記の形態の製造方法を発明した。
〔1〕 シリカにアルカリ金属を接触させてアルカリ金属ケイ化物とアルカリ金属ケイ酸塩との混合物を得る工程、および
得られた混合物からケイ素を分離する工程を含むケイ素およびアルカリ金属ケイ酸塩の製造方法。
〔2〕 シリカとアルカリ金属との接触をアルカリ金属の融点以上の温度にて行う、〔1〕に記載の製造方法。
〔3〕 シリカとアルカリ金属との接触を650〜900℃にて行う、〔1〕に記載の製造方法。
【0014】
〔4〕 混合物からケイ素を分離する工程が、
アルカリ金属ケイ化物とアルカリ金属ケイ酸塩との混合物を加熱して融解させ、
該融液を冷却してアルカリ金属ケイ化物を晶析させ、
晶析したアルカリ金属ケイ化物の結晶を分級し、
分級されたアルカリ金属ケイ化物を加熱してアルカリ金属を蒸発させてケイ素を晶析させることを含む、〔1〕〜〔3〕のいずれかひとつに記載の製造方法。
〔5〕 アルカリ金属ケイ化物の晶析を、アルカリ金属ケイ化物の融点付近の温度にて行う、〔4〕に記載の製造方法。
【0015】
〔6〕 混合物からケイ素を分離する工程が、
アルカリ金属ケイ化物とアルカリ金属ケイ酸塩との混合物を液体アルカリ金属に溶解させ、
該溶液を冷却してアルカリ金属ケイ化物を晶析させ、
晶析したアルカリ金属ケイ化物の結晶を分級し、
分級されたアルカリ金属ケイ化物を加熱してアルカリ金属を蒸発させて除去することを含む、〔1〕〜〔3〕のいずれかひとつに記載の製造方法。
〔7〕 アルカリ金属ケイ化物の晶析を、アルカリ金属の融点以上の温度にて行う、〔6〕に記載の製造方法。
【0016】
〔8〕 混合物からケイ素を分離する工程が、
混合物を加熱してアルカリ金属を蒸発させてケイ素を晶析させ、
晶析したケイ素の結晶を分級することを含む、〔1〕〜〔3〕のいずれかひとつに記載の製造方法。
〔9〕 ケイ素の晶析を、700〜900℃にて行う、〔8〕に記載の製造方法。
〔10〕 シリカにアルカリ金属を接触させてアルカリ金属ケイ化物とアルカリ金属ケイ酸塩との混合物を得る工程と 得られた混合物を加熱してアルカリ金属を蒸発させてケイ素を晶析させることとを、同時並行して行い、
晶析したケイ素の結晶を分級することを含む、ケイ素およびアルカリ金属ケイ酸塩の製造方法。
〔11〕 アルカリ金属がナトリウムである、〔1〕〜〔10〕のいずれかひとつに記載の製造方法。
〔12〕 ナトリウムの量がシリカ3モルに対して5モル以上である、〔11〕に記載の製造方法。
〔13〕 ナトリウムの量がシリカ1モルに対して2〜8モルである、〔11〕に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明の製造方法によると、低い温度で且つ常圧に近い圧力でケイ素を得ることができる。また、本発明の製造方法によると、シリカ原料に対して高い収率でケイ素を得ることができる。また、本発明の製造方法はケイ素またはアルカリ金属ケイ化物の晶析工程を有する。この晶析において、結晶を構成する物質だけが固相として析出し、不純物が液相に残る。その結果、本発明の製造方法で得られるケイ素は高純度である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施例1において使用した反応装置の概要を示す図である。
図2】実施例1において得られた生成物の光学顕微鏡写真の一例を示す図である。
図3】実施例1において金属ナトリウムを除去した後に得られた混合物の光学顕微鏡写真の一例を示す図である。
図4】実施例1において得られた混合物から拾い出した単結晶からナトリウムを蒸発させて得られた固体(ケイ素結晶)の光学顕微鏡写真の一例を示す図である。
図5】実施例1において使用した装置の概要を示す図である。
図6】実施例1において金属ナトリウムを除去した後に得られた混合物のX線回折ピークの一例を示す図である。
図7】実施例1において得られた混合物から拾い出した単結晶からナトリウムを蒸発させて得られた柱状固体(多結晶シリコン)のX線回折写真の一例を示す図である。
図8】実施例2において使用した反応装置の概要を示す図である。
図9図8に示した反応容器12内の温度分布を示す図である。
図10】(a)実施例2において得られた固体生成物のX線回折ピークの一例を示す図および(b)該固体生成物をフィルタ上で水洗した後に得られた粗粒粉のX線回折ピークの一例を示す図である。
図11】実施例2において得られた固体生成物の光学顕微鏡写真の一例を示す図である。
図12】実施例2において水洗後のフィルタ上に残った粗粒粉の光学顕微鏡写真の一例を示す図である。
図13】実施例2において使用したSiO2原料粉末の写真の一例を示す図である。
図14】実施例2において得られたSi粗粒粉の写真の一例を示す図である。
図15】実施例2において得られたSi粉末粒子の走査型電子顕微鏡写真の一例を示す図である。
図16】実施例2において得られたSi粉末粒子の走査型電子顕微鏡写真の一例を示す図である。
図17】実施例2において得られたSi粉末粒子の走査型電子顕微鏡写真の一例を示す図である。
図18】実施例2において得られたSi粉末粒子のエネルギー分散型X線スペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明に係るケイ素およびアルカリ金属ケイ酸塩の製造方法は、シリカにアルカリ金属を接触させてアルカリ金属ケイ化物とアルカリ金属ケイ酸塩との混合物を得る工程、および 得られた混合物からケイ素を分離する工程を含むものである。
【0020】
本発明の製造方法では、先ず、シリカにアルカリ金属を接触させてアルカリ金属ケイ化物とアルカリ金属ケイ酸塩との混合物を得る。シリカとアルカリ金属との接触によって、例えば、ナトリウムの場合、式(3)または式(4)で表わされる反応が進行する。
5Na + 3SiO2 → 2Na2SiO3 + NaSi (3)
5Na+ 3SiO2 → 2Na2SiO3 + Na +Si (4)
なお、アルカリ金属ケイ化物はアルカリ金属とケイ素とからなる金属間化合物であるが、本明細書では、便宜上、アルカリ金属とケイ素とが混じり合っているだけの場合も「アルカリ金属ケイ化物」と表記する。ナトリウム以外のアルカリ金属の場合にも上記と同様の反応は進み、アルカリ金属ケイ化物とアルカリ金属ケイ酸塩との混合物が得られる。
【0021】
本発明に用いられるアルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムなどが挙げられる。これらのうち、ナトリウムが好ましい。アルカリ金属は融液の状態でシリカと接触させられる。
【0022】
本発明に用いられるシリカは、SiO2を含むものであれば特に制限されない。シリカとして、高純度のものおよび低純度のもののいずれも用いることができる。本発明に用いられるシリカとしては、石英などの結晶性シリカ、シリカゲル、未焼成珪藻土などの非晶性シリカなどが挙げられる。またケイ砂、ケイ石、クリトバライト、コーサイト、スティショバイトなどのSiO2系鉱物などをシリカとして用いることができる。
【0023】
シリカに対するアルカリ金属の量は、アルカリ金属ケイ化物が生成するために必要な量、若しくはそれより過剰な量にすることが好ましい。式(3)で表わされる反応においては、シリカに対するナトリウムの量をナトリウムケイ化物が生成するために必要な量、若しくはそれより過剰な量にすることが好ましい。具体的には、シリカ3モルに対してナトリウムの量を5モル以上とするのが好ましく、シリカ1モルに対してナトリウムの量を2〜8モルとするのがより好ましい。ナトリウムの量が少なすぎると式(1)で表わされる反応が進行しやすくなる。式(1)で表わされる反応が進行した場合には、式(1)で表わされる反応をさせた後に液体ナトリウムを添加して、生成したケイ素(Si)を液体ナトリウム(Na)で抽出してナトリウムケイ化物(NaSiまたはNa+Si)を得てもよい。
【0024】
シリカとアルカリ金属との接触は、アルカリ金属の融点以上の温度にて、好ましくは650〜900℃にて行う。例えば、ナトリウムの融点は98℃である。
また、アルカリ金属とシリカとの接触は、不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。不活性ガスとしては、アルゴン、ヘリウム、窒素ガスなどが代表的なものとして挙げられる。不活性ガスの圧力は、1気圧(大気圧)前後が好ましい。
【0025】
上記のようにしてアルカリ金属ケイ化物とアルカリ金属ケイ酸塩との混合物が得られる。この反応において使用したアルカリ金属の量が多い場合には、アルカリ金属ケイ化物とアルカリ金属ケイ酸塩とアルカリ金属との混合物が得られる。また、シリカやアルカリ金属中に含まれる不純物金属元素の多くは、シリカとアルカリ金属が反応する過程で、金属酸化物、金属複合酸化物、金属ケイ化物などを形成するので、次の分離工程において取り除かれる。
【0026】
本発明の製造方法では、次に、アルカリ金属ケイ化物とアルカリ金属ケイ酸塩との混合物からケイ素を分離する。
ケイ素を分離する工程としては、次のようなものが挙げられる。
【0027】
〔ケイ素を分離する工程(1)〕
第一形態のケイ素分離工程は、アルカリ金属ケイ化物とアルカリ金属ケイ酸塩との混合物を加熱して融解させ、該融液を冷却してアルカリ金属ケイ化物を晶析させ、 晶析させたアルカリ金属ケイ化物の結晶を分級し、 分級されたアルカリ金属ケイ化物を加熱してアルカリ金属を蒸発させてケイ素を晶析させることを含むものである。
【0028】
アルカリ金属ケイ化物の融点はアルカリ金属ケイ酸塩の融点よりも低い。例えば、ケイ酸ナトリウムの融点は約1089℃である。ケイ化ナトリウム(NaSi)の融点は、約798℃である(特許文献1参照)。よって、アルカリ金属ケイ化物(ケイ化ナトリウムなど)とアルカリ金属ケイ酸塩(ケイ酸ナトリウムなど)との混合物を加熱すると先ずアルカリ金属ケイ化物(ケイ化ナトリウム)だけが融解する。アルカリ金属ケイ酸塩(固相)とアルカリ金属ケイ化物(液相)とからなる融液を後述する晶析工程に送ることができる。
また、アルカリ金属ケイ酸塩(固相)とアルカリ金属ケイ化物(液相)とからなる融液を固液分離して、アルカリ金属ケイ化物(液相)を主に含有する融液を得、これを後述する晶析工程に送ることができる。固液分離の手段としては、ろ過、デカンテーションなどが挙げられる。
さらに、アルカリ金属ケイ酸塩の融点以上の温度に加熱すると混合物はアルカリ金属ケイ酸塩(液相)とアルカリ金属ケイ化物(液相)とからなる融液になる。アルカリ金属ケイ酸塩(液相)とアルカリ金属ケイ化物(液相)との比重差を利用して、液相を分離して、アルカリ金属ケイ化物(液相)を主に含有する融液を得、これを後述する晶析工程に送ることができる。
【0029】
上記の融液を冷却するとアルカリ金属ケイ化物が晶析する(特許文献1参照)。晶析はアルカリ金属ケイ化物の結晶が大きく成長する条件にて行うことが好ましい。アルカリ金属ケイ化物の晶析は、アルカリ金属ケイ化物の融点付近の温度にて行うことが、大きな結晶を得るために好ましい。例えば、ケイ化ナトリウム(NaSi:融点798℃)の場合には、798℃付近の温度で、融液を冷却することによりケイ化ナトリウムの結晶成長を促すことができる。この晶析によって液相である融液に不純物が残り、固相であるアルカリ金属ケイ化物は高純度になる。晶析に用いられる装置は、回分式または連続式のいずれでもよい。連続式晶析装置としては、強制循環型晶析装置、多段晶析装置、D.T.B型晶析装置、D.P.型晶析装置、濡れ壁式晶析装置、オスロ型晶析装置、混合分級型晶析装置、ダブルクリスタライザー、冷媒直接触型晶析装置などが挙げられる。
【0030】
晶析によって得られたアルカリ金属ケイ化物の結晶を、分級する。分級方法としては、篩分け法、重力分級法、遠心力分級法などが挙げられる。晶析されたアルカリ金属ケイ化物の結晶は、その粒子径がアルカリ金属ケイ酸塩より大きいことが、分級効率の観点から、好ましい。この分級によってアルカリ金属ケイ化物とアルカリ金属ケイ酸塩とを分離できる。
【0031】
次いで、分級されたアルカリ金属ケイ化物を加熱してアルカリ金属を蒸発させる(特許文献2参照)。ケイ素の融点は約1414℃である。アルカリ金属の蒸発に伴ってケイ素が晶析する。晶析の際に不純物元素が偏析し、得られるケイ素結晶は高純度になる。ケイ素の晶析(アルカリ金属の蒸発)は、温度をできるだけ低くして、アルカリ金属の蒸発が促されるようにして行うのが好ましい。具体的には、好ましくは900℃以下の温度にて、より好ましくは700〜900℃の温度にて行う。窒素ガス雰囲気下にて900℃を超える温度でアルカリ金属の蒸発を行うとNa2SiN3などが副生しやすくなる。また、蒸発系内のアルカリ金属蒸気圧を、アルカリ金属ケイ化物の融液と平衡するアルカリ金属蒸気圧よりも低くすることが好ましい。アルカリ金属の蒸発は不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。不活性ガスとしては、アルゴン、ヘリウム、窒素ガスなどが挙げられる。不活性ガスの圧力は特に限定されない。不活性ガスの圧力を1気圧(大気圧)前後にすることもできるし、数Torr程度に減圧することもできる。
【0032】
〔ケイ素を分離する工程(2)〕
第二形態のケイ素分離工程は、アルカリ金属ケイ化物とアルカリ金属ケイ酸塩との混合物を液体アルカリ金属に溶解させ、 該溶液を冷却してアルカリ金属ケイ化物を晶析させ、 晶析したアルカリ金属ケイ化物の結晶を分級し、 分級されたアルカリ金属ケイ化物を加熱してアルカリ金属を蒸発させて除去することを含むものである。
【0033】
第二形態のケイ素分離工程においては、上述のとおりに、シリカとアルカリ金属との接触において得られるアルカリ金属ケイ化物とアルカリ金属ケイ酸塩との混合物を液体アルカリ金属に溶解させてもよいし、シリカとアルカリ金属との接触において使用するアルカリ金属の量を多くすることによってアルカリ金属ケイ化物とアルカリ金属ケイ酸塩とが液体アルカリ金属に溶解したものを直接に得てもよい。
【0034】
次いで、該溶液を冷却してアルカリ金属ケイ化物を晶析させる。溶液からのアルカリ金属ケイ化物の晶析は、アルカリ金属の融点以上の温度にて行うことが好ましい。例えば、アルカリ金属としてナトリウムを用いた場合には、アルカリ金属ケイ化物の晶析は、約200℃〜約680℃にて行うことが、大きな結晶を得るために好ましい。また、この温度領域で温度差を設定し、アルカリ金属溶液中でのケイ化ナトリウムの溶解再析出によっても結晶粒を成長させることができる。
【0035】
晶析の後、液体アンモニアを添加すると溶媒としての液体アルカリ金属が液体アンモニウムに溶解し、液体アルカリ金属を系外に分離除去することができる。また、大気圧付近若しくは減圧下にて加熱することによってアルカリ金属を蒸発させて系外に除去することができる。除去されたアルカリ金属は公知の方法によって回収して、再利用することができる。
【0036】
次いで、第一形態と同じ方法で、晶析されたアルカリ金属ケイ化物を分級し、次いで分級された結晶を加熱してアルカリ金属の蒸発除去を行う。第一形態と同様に、このアルカリ金属の蒸発に伴ってケイ素が晶析する。
【0037】
〔ケイ素を分離する工程(3)〕
第三形態のケイ素分離工程は、アルカリ金属ケイ化物とアルカリ金属ケイ酸塩との混合物を加熱してアルカリ金属を蒸発させてケイ素を晶析させ、 晶析したケイ素の結晶を分級することを含むものである。アルカリ金属の蒸発は第一形態におけるものと同じようにして行うことができる。
【0038】
なお、シリカにアルカリ金属を接触させてアルカリ金属ケイ化物とアルカリ金属ケイ酸塩との混合物を得る工程と 得られた混合物を加熱してアルカリ金属を蒸発させてケイ素を晶析させることとを、同時並行しておこない、その後、晶析したケイ素の結晶を分級することもできる。
【0039】
晶析によって得られたケイ素の結晶を、分級する。分級方法としては、篩分け法、重力分級法、遠心力分級法などが挙げられる。晶析されたケイ素の結晶は、その粒子径がアルカリ金属ケイ酸塩より大きいことが、分級効率の観点から、好ましい。この分級によって、ケイ素の結晶とアルカリ金属ケイ酸塩とが分離される。
【0040】
本発明の製造方法では、上記のケイ素分離工程(1)〜(3)における分級操作を、アルカリ金属ケイ酸塩の水洗に置き換えることができる。アルカリ金属ケイ化物またはケイ素の晶析によって得られる大きなサイズの結晶は表面積が小さいので、アルカリ金属ケイ酸塩を水に溶解させたときに副生するアルカリ金属水酸化物との反応速度が遅くなるので、従来技術に比べて、ケイ素の流出量を抑えることができる。
【0041】
また上記分離工程で蒸発されたアルカリ金属は、その蒸気を凝結させて回収し、シリカと接触させるアルカリ金属として再利用することができる。
【0042】
ケイ素分離工程において、ケイ素を分離した後に残った、アルカリ金属ケイ酸塩の粉末または水溶液は、洗剤、洗浄剤、パルプ、紙、土壌安定化剤、TiO2の製造副原料、耐火材、セラミック結合剤、水処理剤、ゼオライトなど、様々な工業製品の原料として利用することができる。
【0043】
また、アルカリ金属ケイ酸塩の水溶液を精製し、それと塩酸とを反応させることにより、シリカを合成することができる(非特許文献8参照)。このようにして得られるシリカを本発明におけるシリカ原料として利用することができる。
【実施例】
【0044】
以下に図面等を示しつつ本発明の実施例についてさらに詳しく説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものでなく、様々な細部の形態が可能とされることは言うまでもない。
【0045】
本発明の製造方法を実施するために、図1に示す反応容器4、図5に示す反応容器7、図8に示す反応容器12、およびルツボ3を用意した。
【0046】
反応容器4、7または12は、たとえばステンレス鋼製(SUS316)、ニッケル製、耐熱合金製などのパイプを加工したもので構成される。反応容器4または12は、パイプの一方の口がキャップの溶接により密封されており、もう一方の口がキャップの圧着もしくは溶接によって密封可能になっている。反応容器7はパイプの両方の口がステンレス製のキャップの圧着もしくは溶接によって密封可能になっている。そして反応容器7の上部側面に管が反応容器7の内部と連通可能に接続されている。管にはバルブ10が設置されていてバルブ10を閉じることによって反応容器7を密閉できるようになっている。
反応容器4は、例えば、内径が10.7mm、長さが約100mmである。反応容器7は、例えば内径が10.7mm、長さが約200 mmである。反応容器12は、例えば、内径が10.7mm、長さが約300mmである。
【0047】
ルツボ3は、窒化ホウ素(BN)、アルミナ(Al23)、またはマグネシア(MgO)を用いてなるものである。るつぼの具体例としては、焼結BNルツボ(昭和電工株式会社製)、多結晶焼結アルミナ製ルツボ(日本ファインセラミックス株式会社製)、または多結晶焼結マグネシア製ルツボ(タテホ化学工業株式会社)などが挙げられる。ルツボ3は反応容器4、7または12の内部に収納可能になっている。BNルツボまたはAl23ルツボは、内径が約6.5mm、深さが18mmである。BNの純度は99.5%、アルミナの純度は99.9%、マグネシアの純度は99.99%である。
【0048】
<実施例1>
高純度アルゴンガス雰囲気(O2およびH2O濃度が共に1ppm未満)のグローブボックス内で、0.1472g(6.4mmol)の金属ナトリウム(日本曹達株式会社製、純度99.95%)と0.0480g(0.8mmol)のSiO2(和光純薬工業社製、特級)とを秤量し、内径約6.5mm、深さ18mmの多結晶BN製ルツボ3(昭和電工株式会社製、純度99.5%)に入れた。ナトリウム(Na)とシリカ(SiO2)とのモル比(Na/SiO2)は8/1であった。
【0049】
次に、反応容器4(ステンレス鋼SUS316製管、内径10.7mm、長さ約100mm)の中にルツボ3を配置し、アルゴン雰囲気中で反応容器4をステンレス鋼製キャップで密封した。この反応容器4を電気炉5に収め加熱し、2時間掛けて900℃まで温度を上げ、この温度で12時間維持した。
その後、ルツボ3を炉内で室温まで冷却(炉冷)した。反応容器4をグローブボックス内で切断し、ルツボ3を取り出した。アルゴン雰囲気下で、ルツボ3から塊状生成物を取り出した。該生成物を光学顕微鏡で観察した。その結果、図2に示すように、銀色の金属ナトリウムの基質の中に、黒色で柱状の単結晶(サイズは約0.5mm×約0.2mm×約0.2mm)が含まれていた。
【0050】
高純度アルゴンガス雰囲気下で前記塊状生成物を液体アンモニアに投入して金属ナトリウムを溶解させた。図3に示すような灰色の粉末と黒色で金属光沢を持つ柱状単結晶との混合物が得られた。
【0051】
なお、ルツボ3から塊状生成物を取り出さずに、図5に示すような装置にルツボ3を収納し、真空ポンプ11を用いて約104Paに減圧して、次いで電気炉8で500℃に加熱し12時間維持して金属ナトリウムを蒸発させることによっても図3に示すような灰色の粉末と黒色で金属光沢を持つ柱状単結晶との混合物が得られた。
【0052】
該混合物から柱状単結晶を拾い出した。柱状単結晶について株式会社リガク製の「Rapid−II」(X線源:MoKα)を用いて測定し、X線回折ピークを得た。
構造解析の結果、柱状単結晶は、単斜晶系(空間群C2/c)で、格子定数が、a=1.21518(11)nm、b=0.65458(5)nm、c=1.11290(8)nm、β=118.846(3)°で、b軸方向に伸長していることが判った。
この原子座標パラメータは、Witteら(Z. Anorg. Allg. Chem. 327, 260-273 (2008))やGoebelら(Z. Kristallogr. NCS 223, 187-188 (2008))が先にNaSi単結晶で報告した値と一致した(解析の信頼度:R1=0.0459、S=1.208 全測定データによる解析)。
【0053】
前記混合物の粉末X線回折ピーク((株式会社リガク製、製品名「RINT」、X線源:CuKα)は、図6に示すようにNa2SiO3とNaSiの格子定数でほぼ説明することができたが、NaSiについてはb軸方向に伸長した結晶粒を反映した(10−1)や(100)面の優先配向が認められた。
【0054】
次に、混合物試料から拾い出した柱状単結晶数本をルツボ3に入れた。その後反応容器7に収め、電気炉8を用いて、Ar雰囲気下、約1気圧、850℃で12時間加熱した。その結果、図4に示すような、やや褐色を帯びた柱状固体が得られた。
この柱状固体のX線回折写真を撮影した。その結果、図7に示すようなデバイシェラーリングが観察された。Siの格子定数(立方晶系、空間群Fd−3m、a=0.543nm、(J. Appl. Phys. 56, 314-320 (1984)))によって、回折反射が指数づけすることができ、この柱状固体が多結晶シリコンであることが示された。
【0055】
<実施例2>
内径約6.5mm、深さ18mmの多結晶BN製ルツボ3(昭和電工株式会社製、純度99.5%)に、4mmolまたは8mmolのNa(日本曹達株式会社製、純度99.95%)と、1mmolのSiO2(和光純薬工業社製、特級)とを入れた。このルツボ3をステンレス鋼(SUS316)製の反応容器12の中に入れて支持棒13で支持し、次いでArガスで反応容器内を置換して封入した。電気炉14の高温部にルツボが位置するように反応容器12を設置し加熱した。ルツボ3の部分の温度を2時間掛けて830℃まで上げ、その温度を12時間維持した。反応容器12内の温度分布は図9に示すようになった。その後、ルツボ3を室温まで炉冷した。
【0056】
ルツボ3から固体を取り出し、該固体のX線回折パターンを測定した。図10(a)に測定結果を示す。
前記固体は、メタケイ酸ナトリウムNa2SiO3(斜方晶系、空間群Cmc21、a=1.048nm、b=0.607nm、c=0.482nm(Acta Crystallogr. 22, 37-43 (1967))とSi(立方晶系、空間群Fd−3m、a=0.543nm(J. Appl. Phys. 56, 314-320 (1984))の2相からなり、非特許文献6の方法で作製された試料のX線回折パターンに比べ回折ピークの幅が狭く、生成物の結晶性がよいことが判った。
前記固体を光学顕微鏡で観察した。その観察像写真を図11に示す。固体は、数十μmの大きさの粒状で、表面の一部がデンドライド状に成長した金属光沢のSi結晶粒が、白黄褐色のNa2SiO3微粉末中に分散している様子が観察された。ルツボ3内に生成した固体の総質量は4/3mmolのNaと1mmolのSiO2を併せた91mgであった。余剰のNaは反応容器内の低温部(635〜680℃)に析出していた。なお、このNaを回収し、再び出発原料の一部として利用することができる。
【0057】
なお、蒸発した余剰のナトリウムは、以下のようにして回収することができる。上記と同様にNaとSiO2を入れたルツボ3を反応容器12内に入れ830℃にされる部分(高温部)に支持した。SiO2のみを入れたBNルツボを反応容器12内に入れ635〜800℃にされる部分(低温部)に支持した。この反応容器12を上記と同じように電気炉14に入れて図9に示す温度分布になるように加熱した。高温部に支持したルツボ3からはメタケイ酸ナトリウム微粉末とケイ素結晶粒との混合物が上記と同じように得られた。低温部に支持したルツボからはケイ酸ナトリウムとケイ素との混合物が得られた。このケイ酸ナトリウムは、ルツボ3において蒸発したナトリウムが低温部に支持したルツボの中のシリカと反応して生成したものである。
【0058】
次に、ルツボ3に得られたSi結晶粒とNa2SiO3微粉末との混合物を、穴径0.2μmのメンブレンフィルタ上で水洗、吸引濾過を行った。Na2SiO3微粉末は水に溶解し流出した。Si結晶粒がフィルタ上に残った。図12に示すように、フィルタ内には黄褐色の微細粉が捕集され、その上には粗粒Siが残されていた。
水洗の際のガス発生は、ほとんど認められなかった。フィルタ中およびフィルタ上の生成物の質量は、Si理論収量(1/3mmol、9.4mg)に近い約9mgであった。フィルタ上の粗粒粉体は、X線回折よりSiの単一相(立方晶系、空間群Fd−3m、a=0.543nm)であることが示された(図10(b))。フィルタ上から集めたSi粗粒粉は約8mg(理論収率の約85%に相当する量)であった。図13に原料に使用したSiO2粉末60mgの写真、図14に本発明の方法で得られたSi粗粒粉8mgの写真を示す。
【0059】
フィルタ上での水洗においても上記のような高収率となる理由は次のように推測できる。先ず、本発明の方法で得られたSi結晶は従来法に比べて結晶性が高い。また晶析によってSi結晶の粒径が大きくなっているので、水に接触する面積が小さい。Na2SiO3が水に溶解した際にNaOHが生成し、これがSiと反応してSiが水に溶解し流出するのであるが、高い結晶性と小さい接触面積のために、上記のようなSiの溶解反応が進行し難くなるからである。
なお、ルツボ3に得られたSi結晶粒とNa2SiO3微粉末との混合物を水を入れ、濾過せずに放置していると、Na2SiO3がまず溶解し、次いでH2ガスの発生と伴にSi結晶が溶解していく様子が観察された。
【0060】
図15図16及び図17に得られたSi粗粒粉の走査型電子顕微鏡(フィリップス社製、製品名「ESEM XL−30」)写真を示す。粒子は、その大きさが約50μm〜約100μmの範囲内にあり、比較的に緻密な面の上に結晶成長ステップが観察された(図17)。また、数μm前後の細かな結晶粒が粗粒子表面に付着しているものが観察された。エネルギー分散型X線スペクトル分析装置(EDAX社製、製品名「NEW XL−30」)を用いて測定されたエネルギー分散型X線スペクトルにはSiの特性X線ピークのみが検出された(図18)。X線回折ピークの結果と併せて、得られた粉末がSiであることが示された。結晶成長ステップを伴う粒子形態は、過剰に投入されたNaが溶媒(フラックス)としてSiを溶解した後、溶媒の蒸発で過飽和に達してSiの核生成と結晶成長が始まり、結晶粒が粗大化していった結果であると考えられる。微細結晶粒の付着は、Naの蒸発がさらに進んで液体の体積が減少し、相対的に表面積が急増することで蒸発速度が急上昇し、高過飽和状態がもたらされたことを示唆している。
【符号の説明】
【0061】
1 金属ナトリウム
2 二酸化ケイ素(シリカ)
3 BNルツボ、Al23、またはMgO製ルツボ
4 反応容器
5 電気炉
6 試料
7 反応容器
8 電気炉
9 冷却ファン
10 真空バルブ
11 真空ポンプ
12 反応容器
13 ルツボ支持棒
14 電気炉
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
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