特許第6068922号(P6068922)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 公益財団法人微生物化学研究会の特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6068922
(24)【登録日】2017年1月6日
(45)【発行日】2017年1月25日
(54)【発明の名称】E−カドヘリン結合剤
(51)【国際特許分類】
   C12N 9/02 20060101AFI20170116BHJP
   C07K 14/705 20060101ALN20170116BHJP
   A61K 38/00 20060101ALN20170116BHJP
   A61P 35/00 20060101ALN20170116BHJP
   A61P 43/00 20060101ALN20170116BHJP
【FI】
   C12N9/02
   !C07K14/705ZNA
   !A61K37/02
   !A61P35/00
   !A61P43/00 111
【請求項の数】1
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2012-233432(P2012-233432)
(22)【出願日】2012年10月23日
(65)【公開番号】特開2014-84288(P2014-84288A)
(43)【公開日】2014年5月12日
【審査請求日】2015年4月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000173913
【氏名又は名称】公益財団法人微生物化学研究会
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100107733
【弁理士】
【氏名又は名称】流 良広
(74)【代理人】
【識別番号】100115347
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 奈緒子
(72)【発明者】
【氏名】川田 学
(72)【発明者】
【氏名】坂本 修一
【審査官】 長谷川 茜
(56)【参考文献】
【文献】 LEE MN.et al.,Mol.Cell.Biol.,2009 Jul,29(14),p.3991-4001
【文献】 CHIANG G.G.et al.,Trends Mol.Med.,2007 Oct,13(10),p.433-442
【文献】 GUIGON C.J.et al.,Carcinogenesis,2010 Jul,31(7),p.1284-1291
【文献】 ZHENG QY.et al.,Biochem.Biophys.Res.Commun.,2012 Mar 23,419(4),p.741-747
【文献】 DU ZX.et al.,Endocrinology,2007 Sep,148(9),p.4352-4361
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00−15/90
C07K 1/00−19/00
UniProt/GeneSeq
PubMed
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/BIOSIS(STN)
DWPI(Thomson Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
GAPDHタンパク質、及びその類似体タンパク質の少なくともいずれかを含み、
前記類似体タンパク質が、下記(a)から(e)に記載のタンパク質から選択される少なくともいずれかであり、E−カドヘリンとの結合性を有することを特徴とするE−カドヘリン結合剤。
(a)配列番号1に記載のタンパク質との配列同一性が95%以上であるタンパク質
(b)配列番号2に記載のタンパク質との配列同一性が95%以上であるタンパク質
(c)前記GAPDHタンパク質を含む融合タンパク質
(d)前記(a)のタンパク質を含む融合タンパク質
(e)前記(b)のタンパク質を含む融合タンパク質
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、E−カドヘリン結合剤、タンパク質合成阻害剤、がん細胞増殖抑制剤、及び抗がん剤に関する。
【背景技術】
【0002】
がんの組織は、がん細胞だけでなく間質と呼ばれる周辺の正常組織が混在する形で成り立っている。前記間質は、血管や細胞外基質、繊維芽様細胞(単に「間質細胞」と称することもある)など様々な因子で構成されており、がんの増殖に密接に関わっていることが明らかになりつつある。前記間質の中でも、特に間質細胞は、接着や分泌因子を介してがん細胞の増殖を正にも負にも制御することが知られている(例えば、非特許文献1参照)。このような状況下、より有用である新たな抗がん剤の探索が行われており、その速やかな提供が強く求められている。
【0003】
ハウスキーピング遺伝子として公知の物質であるNADP依存性グリセルアルデヒド3リン酸デヒドロゲナーゼ(glyceraldehyde−3−phosphate dehydrogenase, EC 1.2.1.13;以下、「GAPDH」と称することがある)は、解糖系の酵素であり、無機リン酸及びニコチンアミドアデノシンジヌクレオチドの存在下において、グリセルアルデヒド3リン酸のリン酸化を触媒する。
これまでに、細胞外に分泌された前記GAPDHには、細胞の形態を変化させる活性があること(例えば、非特許文献2参照)、酸化ストレスによって細胞内の前記GAPDHが凝集し、核内へと移行することで細胞増殖を阻害すること(例えば、非特許文献3参照)が報告されている。しかしながら、細胞外に存在する前記GAPDHが、がん細胞の増殖を抑制することは、知られていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Kawada, M., Inoue, H., Masuda, T., and Ikeda, D. Insulin−like growth factor−I secreted from prostate stromal cells mediates tumor−stromal cell interactions of the prostate cancer. Cancer Res.66, 4419−4425 (2006).
【非特許文献2】Yamaji, R., Chatani, E., Harada, N., Sugimoto, K., Inui, H., and Nakano, Y. Glyceraldehyde−3−phosphate dehydrogenase in the extracellular space inhibits cell spreading. Biochim. Biophys. Acta1726, 261−271 (2005).
【非特許文献3】Nakajima, H., Amano, W., Kubo, T., Fufuhara, A., Ihara, H., Azuma, Y., Tajima, H., Inui, T., Sawa, A., and Takeuchi, T. Glyceraldehyde−3−phosphate dehydrogenenase aggregate formation participates in oxidative stress−induced cell death. J. Biol. Chem.284, 34331−34341(2009).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記従来技術に鑑みて行われたものであり、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、様々ながん細胞に対して抗がん作用を有する抗がん剤、前記抗がん剤に用いることができるがん細胞増殖抑制剤、前記がん細胞増殖抑制剤に用いることができるタンパク質合成阻害剤、並びに、前記がん細胞増殖抑制剤及び前記タンパク質合成阻害剤に用いることができるE−カドヘリン結合剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記目的を達成すべく鋭意検討を行った結果、ハウスキーピング遺伝子として有名なGAPDHが、がん細胞の増殖を抑制することを知見し、本発明の完成に至った。
【0007】
本発明は、本発明者らによる前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> GAPDHタンパク質、及びその類似体タンパク質の少なくともいずれかを含み、
前記類似体タンパク質が、下記(a)から(e)に記載のタンパク質から選択される少なくともいずれかであることを特徴とするE−カドヘリン結合剤である。
(a)配列番号1に記載のタンパク質との配列相同性が70%以上であるタンパク質
(b)配列番号2に記載のタンパク質との配列相同性が70%以上であるタンパク質
(c)前記GAPDHタンパク質を含む融合タンパク質
(d)前記(a)のタンパク質を含む融合タンパク質
(e)前記(b)のタンパク質を含む融合タンパク質
<2> 前記<1>に記載のE−カドヘリン結合剤を含むことを特徴とするタンパク質合成阻害剤である。
<3> 前記<1>に記載のE−カドヘリン結合剤、及び前記<2>に記載のタンパク質合成阻害剤の少なくともいずれかを含むことを特徴とするがん細胞増殖抑制剤である。
<4> 前記<3>に記載のがん細胞増殖抑制剤を含むことを特徴とする抗がん剤である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、前記目的を達成することができ、様々ながん細胞に対して抗がん作用を有する抗がん剤、前記抗がん剤に用いることができるがん細胞増殖抑制剤、前記がん細胞増殖抑制剤に用いることができるタンパク質合成阻害剤、並びに、前記がん細胞増殖抑制剤及び前記タンパク質合成阻害剤に用いることができるE−カドヘリン結合剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1A図1Aは、試験例1における(1)ウサギ筋肉から精製したGAPDHによる胃がん細胞MKN−7の増殖抑制効果を示すグラフである。
図1B図1Bは、試験例1における(2)ヒト赤血球から精製したGAPDHによる胃がん細胞MKN−7の増殖抑制効果を示すグラフである。
図1C図1Cは、試験例1における(3)リコンビナントのヒトGAPDHによる胃がん細胞MKN−7の増殖抑制効果を示すグラフである。
図2A図2Aは、試験例2−1における(2)ヒト赤血球から精製したGAPDHによる各がん細胞株(DU−145、MKN−28、DMS114、DMS273)の増殖抑制効果を示すグラフである。
図2B図2Bは、試験例2−1における(2)ヒト赤血球から精製したGAPDHによる各がん細胞株(HCC2998、BxPC−3、Capan−1、MCF−7)の増殖抑制効果を示すグラフである。
図2C図2Cは、試験例2−2における(2)ヒト赤血球から精製したGAPDHによる各正常間質細胞(NHLF、PrSC、Hs738、Hs371、PS)の増殖に与える影響を測定した結果を示すグラフである。
図3図3は、試験例3におけるGAPDHによるタンパク質合成の阻害を調べた結果を示す図である。
図4A図4Aは、試験例4−1における免疫蛍光染色の結果を示す図である。
図4B図4Bは、試験例4−2における免疫蛍光染色の結果を示す図である。
図5A図5Aは、試験例5−1における免疫蛍光染色の結果を示す図である。
図5B図5Bは、試験例5−2における免疫沈降物について、ウエスタンブロットを行った結果を示す図である。
図5C図5Cは、試験例5−3における免疫蛍光染色の結果を示す図である。
図5D図5Dは、試験例5−4におけるウエスタンブロットを行った結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(E−カドヘリン結合剤)
本発明のE−カドヘリン結合剤は、GAPDHタンパク質、及びその類似体タンパク質の少なくともいずれかを含み、必要に応じて、更にその他の成分を含有する。
本発明のE−カドヘリン結合剤は、後述する試験例で示されるように、前記E−カドヘリン結合剤に含まれる前記GAPDHタンパク質、又はその類似体タンパク質と、E−カドヘリンとが結合する。
前記E−カドヘリンは、細胞表面に存在するタンパク質であり、細胞間の接着に関与することが知られている。
【0011】
<GAPDHタンパク質>
前記GAPDHタンパク質の由来としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ヒト、ウサギなどが挙げられる。
前記ヒト由来のGAPDHタンパク質のアミノ酸配列は、配列番号1に示される通りである。また、前記ウサギ由来のGAPDHタンパク質のアミノ酸配列は、配列番号2に示される通りである。
【0012】
前記GAPDHは、市販品を用いてもよいし、細胞等を用いて製造したものを用いてもよい。
前記市販品としては、例えば、ウサギ筋肉から精製したGAPDH(Sigma社製)、ヒト赤血球から精製したGAPDH(Sigma社製)、リコンビナントのヒトGAPDH(Abnova社製)などが挙げられる。
前記細胞等を用いてGAPDHを製造する方法としては、例えば、GAPDHを発現している細胞のmRNAを採取し、前記mRNAから前記GAPDHのcDNAを合成し、前記cDNAを発現ベクターに挿入し、前記発現ベクターで細胞等を形質転換し、前記細胞等を培養し、前記培養により得られた培養物からGAPDHを回収する方法が挙げられる。
前記GAPDHを発現している細胞としては、例えば、ヒト胃由来の正常間質細胞Hs738などが挙げられる。
前記発現ベクターとしては、例えば、pET−17bベクター(Novagen)などが挙げられる。
前記培養する細胞等としては、例えば、大腸菌などが挙げられる。
【0013】
<GAPDHタンパク質の類似体タンパク質>
前記GAPDHタンパク質の類似タンパク質とは、下記(a)から(e)に記載のタンパク質から選択される少なくともいずれかである。
(a)配列番号1に記載のタンパク質との配列相同性が70%以上であるタンパク質
(b)配列番号2に記載のタンパク質との配列相同性が70%以上であるタンパク質
(c)前記GAPDHタンパク質を含む融合タンパク質
(d)前記(a)のタンパク質を含む融合タンパク質
(e)前記(b)のタンパク質を含む融合タンパク質
【0014】
前記配列番号1に記載のタンパク質は、ヒト由来のGAPDHタンパク質であり、前記配列番号2に記載のタンパク質は、ウサギ由来のGAPDHタンパク質である。
前記(a)及び(b)における配列相同性としては、70%以上であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、80%以上が好ましく、90%以上がより好ましく、95%以上が特に好ましい。
本発明における前記配列相同性は、DNASIS(株式会社日立ソリューションズ製)により測定することができる。
【0015】
前記(a)及び(b)のタンパク質としては、前記配列相同性が70%以上であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記配列番号1に記載のタンパク質又は前記配列番号2に記載のタンパク質において、1個若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入若しくは付加されたタンパク質が挙げられる。前記数個とは、例えば、2個から10個が挙げられる。
前記アミノ酸の置換、欠失、挿入若しくは付加の位置としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記(a)及び(b)のタンパク質の製造方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記GAPDHタンパク質をコードするDNAに、site−directed mutagenesis法により変異を導入し、該DNAを含む発現ベクターで前記細胞等を形質転換し、前記細胞等を培養し、前記培養により得られた培養物から回収する方法が挙げられる。
【0016】
前記(c)から(e)における融合タンパク質とは、前記GAPDHタンパク質、前記(a)のタンパク質、又は前記(b)のタンパク質と、ペプチド等とを融合させたタンパク質である。
前記ペプチド等としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、FLAGタグ(アミノ酸配列:DYKDDDDK、配列番号6)、Hisタグ、Mycタグ、GSTタグなどが挙げられる。
【0017】
前記(c)から(e)における融合タンパク質の製造方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記GAPDHタンパク質、前記(a)のタンパク質、又は前記(b)のタンパク質に融合させるペプチド等をコードするDNAを含む発現ベクターに、前記GAPDHタンパク質、前記(a)のタンパク質、又は前記(b)のタンパク質をコードするDNAを挿入し、前記発現ベクターで前記細胞等を形質転換し、前記細胞等を培養し、前記培養により得られた培養物から回収する方法が挙げられる。
【0018】
前記E−カドヘリン結合剤における前記GAPDHタンパク質、及びその類似体タンパク質は、前記GAPDHの通常の酵素活性を有していてもよいし、有していなくてもよい。
前記E−カドヘリン結合剤における前記GAPDHタンパク質、及びその類似体タンパク質の少なくともいずれかの含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記E−カドヘリン結合剤は、前記GAPDHタンパク質そのものであってもよいし、前記GAPDHタンパク質の類似体タンパク質そのものであってもよいし、前記GAPDHタンパク質、及びその類似体タンパク質からなるものであってもよい。
【0019】
<その他の成分>
前記その他の成分としては、特に制限はなく、例えば、薬理学的に許容され得る担体の中から目的に応じて適宜選択することができ、例えば、添加剤、補助剤、水などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0020】
前記添加剤又は前記補助剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、殺菌剤、保存剤、粘結剤、増粘剤、固着剤、結合剤、着色剤、安定化剤、pH調整剤、緩衝剤、等張化剤、溶剤、酸化防止剤、紫外線防止剤、結晶析出防止剤、消泡剤、物性向上剤、防腐剤などが挙げられる。
【0021】
前記殺菌剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化セチルピリジニウム等のカチオン性界面活性剤などが挙げられる。
【0022】
前記保存剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、パラオキシ安息香酸エステル類、クロロブタノール、クレゾールなどが挙げられる。
【0023】
前記粘結剤、前記増粘剤、又は前記固着剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、デンプン、デキストリン、セルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルデンプン、プルラン、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸アンモニウム、アルギン酸プロピレングリコールエステル、グアーガム、ローカストビーンガム、アラビアゴム、キサンタンガム、ゼラチン、カゼイン、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレングリコール、エチレン・プロピレンブロックポリマー、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリビニルピロリドンなどが挙げられる。
【0024】
前記結合剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、水、エタノール、プロパノール、単シロップ、ブドウ糖液、デンプン液、ゼラチン液、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルスターチ、メチルセルロース、エチルセルロース、シェラック、リン酸カルシウム、ポリビニルピロリドンなどが挙げられる。
【0025】
前記着色剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、酸化チタン、酸化鉄などが挙げられる。
【0026】
前記安定化剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、トラガント、アラビアゴム、ゼラチン、ピロ亜硫酸ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、チオグリコール酸、チオ乳酸などが挙げられる。
【0027】
前記pH調整剤、又は前記緩衝剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、クエン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、リン酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0028】
前記等張化剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、塩化ナトリウム、ブドウ糖などが挙げられる。
【0029】
前記E−カドヘリン結合剤における前記その他の成分の含有量としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0030】
前記E−カドヘリン結合剤は、1種単独で使用してもよいし、他の成分を有効成分とする医薬や薬剤と併せて使用してもよい。また、前記E−カドヘリン結合剤は、他の成分を有効成分とする医薬や薬剤中に配合された状態で使用してもよい。
【0031】
<用途>
前記E−カドヘリン結合剤は、後述する本発明のタンパク質合成阻害剤、がん細胞増殖抑制剤、抗がん剤などに好適に利用可能である。
【0032】
(タンパク質合成阻害剤)
本発明のタンパク質合成阻害剤は、本発明の前記E−カドヘリン結合剤を少なくとも含み、必要に応じて、更にその他の成分を含有する。
【0033】
<E−カドヘリン結合剤の含有量>
前記タンパク質合成阻害剤における前記E−カドヘリン結合剤の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。また、前記タンパク質合成阻害剤は、前記E−カドヘリン結合剤そのものであってもよい。
【0034】
<その他の成分>
前記その他の成分としては、特に制限はなく、例えば、前記E−カドヘリン結合剤におけるその他の成分と同様のものなどが挙げられる。
前記タンパク質合成阻害剤における前記その他の成分の含有量としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0035】
前記タンパク質合成阻害剤は、1種単独で使用してもよいし、他の成分を有効成分とする医薬や薬剤と併せて使用してもよい。また、前記タンパク質合成阻害剤は、他の成分を有効成分とする医薬や薬剤中に配合された状態で使用してもよい。
【0036】
<用途>
前記タンパク質合成阻害剤は、後述する本発明のがん細胞増殖抑制剤、抗がん剤などに好適に利用可能である。
【0037】
(がん細胞増殖抑制剤)
本発明のがん細胞増殖抑制剤は、本発明の前記E−カドヘリン結合剤、及び前記タンパク質合成阻害剤の少なくともいずれかを少なくとも含み、必要に応じて、更にその他の成分を含有する。
【0038】
<E−カドヘリン結合剤、及びタンパク質合成阻害剤の少なくともいずれかの含有量>
前記がん細胞増殖抑制剤における前記E−カドヘリン結合剤、及び前記タンパク質合成阻害剤の少なくともいずれかの含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。また、前記タンパク質合成阻害剤は、前記E−カドヘリン結合剤そのものであってもよいし、前記タンパク質合成阻害剤そのものであってもよいし、前記E−カドヘリン結合剤及び前記タンパク質合成阻害剤からなるものであってもよい。
【0039】
<その他の成分>
前記その他の成分としては、特に制限はなく、例えば、前記E−カドヘリン結合剤におけるその他の成分と同様のものなどが挙げられる。
前記がん細胞増殖抑制剤における前記その他の成分の含有量としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0040】
前記がん細胞増殖抑制剤は、1種単独で使用してもよいし、他の成分を有効成分とする医薬や薬剤と併せて使用してもよい。また、前記がん細胞増殖抑制剤は、他の成分を有効成分とする医薬や薬剤中に配合された状態で使用してもよい。
【0041】
<用途>
前記がん細胞増殖抑制剤は、後述する試験例で示すように、胃がん細胞、前立腺がん細胞、肺がん細胞、大腸がん細胞、膵がん細胞、乳がん細胞などの様々ながん細胞の増殖を抑制することができ、また、がん細胞を選択的に抑制することができるので、後述する本発明の抗がん剤などに好適に利用可能である。
【0042】
(抗がん剤)
本発明の抗がん剤は、本発明の前記がん細胞増殖抑制剤を少なくとも含み、必要に応じて、更にその他の成分を含有する。
【0043】
<がん細胞増殖抑制剤の含有量>
前記抗がん剤における前記がん細胞増殖抑制剤の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。また、前記抗がん剤は、前記がん細胞増殖抑制剤そのものであってもよい。
【0044】
<その他の成分>
前記その他の成分としては、特に制限はなく、例えば、前記E−カドヘリン結合剤におけるその他の成分と同様のものなどが挙げられる。
前記抗がん剤における前記その他の成分の含有量としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0045】
前記抗がん剤は、1種単独で使用してもよいし、他の成分を有効成分とする医薬や薬剤と併せて使用してもよい。また、前記抗がん剤は、他の成分を有効成分とする医薬や薬剤中に配合された状態で使用してもよい。
【0046】
<用途>
前記抗がん剤は、優れた抗がん作用を有し、様々ながん細胞の増殖を選択的に抑制することができ、安全性が高いため、胃がん、前立腺がん、肺がん、大腸がん、膵がん、乳がんなどの幅広いがんの予防剤又は治療剤として好適に利用可能である。
【0047】
(E−カドヘリン結合剤、タンパク質合成阻害剤、がん細胞増殖抑制剤、及び抗がん剤の剤型、投与)
<剤型>
前記E−カドヘリン結合剤、前記タンパク質合成阻害剤、前記がん細胞増殖抑制剤、及び前記抗がん剤の剤型としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、固形剤、半固形剤、液剤などが挙げられる。
【0048】
−固形剤−
前記固形剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、内用剤として用いられる場合、例えば、錠剤、チュアブル錠、発泡錠、口腔内崩壊錠、トローチ剤、ドロップ剤、硬カプセル剤、軟カプセル剤、顆粒剤、散剤、丸剤、ドライシロップ剤、浸剤などが挙げられる。
前記固形剤が、外用剤として用いられる場合、例えば、坐剤、パップ剤、プラスター剤などが挙げられる。
【0049】
−半固形剤−
前記半固形剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、内用剤として用いられる場合、例えば、舐剤、チューインガム剤、ホイップ剤、ゼリー剤などが挙げられる。
前記半固形剤が、外用剤として用いられる場合、例えば、軟膏剤、クリーム剤、ムース剤、インヘラー剤、ナザールジェル剤などが挙げられる。
【0050】
−液剤−
前記液剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、内用剤として用いられる場合、例えば、シロップ剤、ドリンク剤、懸濁剤、酒精剤などが挙げられる。
前記液剤が、外用剤として用いられる場合、例えば、液剤、点眼剤、エアゾール剤、噴霧剤などが挙げられる。
【0051】
<投与>
前記E−カドヘリン結合剤、前記タンパク質合成阻害剤、前記がん細胞増殖抑制剤、及び前記抗がん剤の投与方法、投与量、投与時期、及び投与対象としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記投与方法としては、例えば、局所投与法、経腸投与法、非経口投与法などが挙げられる。
前記投与量としては、例えば、投与対象個体の年齢、体重、体質、症状、他の成分を有効成分とする医薬や薬剤の投与の有無など、様々な要因を考慮して適宜選択することができる。
前記投与対象となる動物種としては、例えば、ヒト、サル、ブタ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコ、マウス、ラット、トリなどが挙げられるが、これらの中でもヒトに好適に用いられる。
【実施例】
【0052】
以下に本発明の試験例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの試験例に何ら限定されるものではない。
【0053】
(試験例1:胃がん細胞MKN−7の増殖抑制)
GAPDHとして、(1)ウサギ筋肉から精製したGAPDH(Sigma社製)、(2)ヒト赤血球から精製したGAPDH(Sigma社製)、(3)リコンビナントのヒトGAPDH(Abnova社製、P4547)を用いて、ヒト胃がん細胞MKN−7(理研セルバンク)の増殖に与える各GAPDHの影響を調べた。
なお、前記(1)ウサギ筋肉から精製したGAPDHのアミノ酸配列は、配列番号2で示されるものであり、前記(2)ヒト赤血球から精製したGAPDHのアミノ酸配列は、配列番号1で示されるものであり、前記(3)リコンビナントのヒトGAPDHのアミノ酸配列は、配列番号1で示されるものである。
【0054】
−細胞増殖試験−
前記ヒト胃がん細胞MKN−7を、1%透析血清、5μg/mL インスリン、5μg/mL トランスフェリン、1.4μM ヒドロコルチゾンを含むDMEMで5×10個/mLに分散させ、96ウェルプレートに0.1mL/ウェルずつ撒き、前記各GAPDHを各濃度で加え、37℃、5% COで3日間培養した。
前記3日間培養した後の細胞数をMTT法(3−(4,5−dimethylthiazol−2−yl)−2,5−diphenyltetrazolium bromide;Sigma社製)により測定した。
前記MTT法は、MTT溶液(MTTを5mg/mLの濃度で含有するPBS)10μLを各ウェルに加え4時間培養し、産生されたフォルマザン産物を10mM HClを含む20%SDS溶液100μLを各ウェルに添加して溶解し、570nmの吸光度をラボシステムズ マルチスキャンMS(DSファーマバイオメディカル株式会社製)で測定することにより行った。結果を図1Aから図1Cに示す。図1Aは、前記(1)ウサギ筋肉から精製したGAPDHによる胃がん細胞MKN−7の増殖抑制効果を示し、図1Bは、前記(2)ヒト赤血球から精製したGAPDHによる胃がん細胞MKN−7の増殖抑制効果を示し、図1Cは、前記(3)リコンビナントのヒトGAPDHによる胃がん細胞MKN−7の増殖抑制効果を示す。
【0055】
図1Aから図1Cの結果から、前記(1)ウサギ筋肉から精製したGAPDH、前記(2)ヒト赤血球から精製したGAPDH、及び前記(3)リコンビナントのヒトGAPDHのいずれも、数U/mL〜数十U/mLの濃度で細胞の増殖を50%以上抑制することが示された。なお、図1Aから図1Cにおける値は、同様な結果が得られた3回の独立した実験の代表的なもの測定値の平均値±SDである。統計解析には、スチューデントのt検定を用いた。
【0056】
(試験例2−1:がん細胞の増殖抑制)
試験例1において、GAPDHとして、前記(2)ヒト赤血球から精製したGAPDHを用い、がん細胞として、以下の8種類のがん細胞を用いた以外は、試験例1と同様にして、細胞増殖試験を行った。結果を図2A及び図2Bに示す。
・ ヒト胃がん細胞MKN−28(理研セルバンク)
・ ヒト前立腺がん細胞DU−145(ATCC)
・ ヒト肺がん細胞DMS114(ATCC)
・ ヒト肺がん細胞DMS273(DSファーマバイオメディカル株式会社)
・ ヒト大腸がん細胞HCC2998(ATCC)
・ ヒト膵がん細胞BxPC−3(ATCC)
・ ヒト膵がん細胞Capan−1(ATCC)
・ ヒト乳がん細胞MCF−7(ATCC)
図2A及び図2Bの結果から、前記試験例1と異なるいずれのがん細胞株に対しても5U/mLで40%以上増殖を阻害することが示された。
【0057】
(試験例2−2:正常間質細胞の増殖に与える影響)
試験例1において、GAPDHとして、前記(2)ヒト赤血球から精製したGAPDHを用い、がん細胞に代えて以下の5種類の正常間質細胞を用いた以外は、試験例1と同様にして、細胞増殖試験を行った。結果を図2Cに示す。
・ ヒト正常肺繊維芽細胞NHLF(タカラバイオ株式会社)
・ ヒト正常前立腺間質細胞PrSC(タカラバイオ株式会社)
・ ヒト正常胃間質細胞Hs738(ATCC)
・ ヒト正常乳腺間質細胞Hs371(ATCC)
・ ヒト正常膵間質細胞(DSファーマバイオメディカル株式会社)
図2Cの結果から、GAPDHが5U/mLでも、いずれの正常間質細胞の増殖をほとんど阻害しなかった。そのため、GAPDHは、がん細胞の増殖を選択的に抑制することができると考えられる。なお、図2C中、「PS」は、前記ヒト正常膵間質細胞を表す。
【0058】
(試験例3:タンパク質合成阻害)
前記試験例1及び2の結果を受け、GAPDHによるがん細胞増殖抑制のメカニズムを調べるため、タンパク質合成の阻害について以下のようにして検討した。
前記ヒト胃がん細胞MKN−7を、1%透析血清、5μg/mL インスリン、5μg/mL トランスフェリン、1.4μM ヒドロコルチゾンを含むDMEMで5×10個/mLに分散させ、1mLずつ35mmディッシュに撒き、前記(2)ヒト赤血球から精製したGAPDHを5U/mLで加えて、37℃、5% COで1日間培養した。
Kawada, M., Masuda, T., Ishizuka, M., and Takeuchi, T. 15−Deoxyspergualin inhibits Akt kinase activation and phosphatidylcholine synthesis. J. Biol. Chem.277, 27765−27771 (2002).に記載の方法により、前記培養した細胞の溶解液を調製し、リン酸化型p70S6K(以下、「P−p70S6K」と称することがある)、p70S6K、リン酸化型P−S235/236 RPS6(以下、「P−S235/236 RPS6」と称することがある)、リン酸化型P−S240/244 RPS6(以下、P−S240/244 RPS6と称することがある)、及びRPS6に対する抗体(いずれもCell signaling社製)を用いてウエスタンブロットを行った。結果を図3に示す。前記図3中、「−」は、GAPDHを用いなかった場合(コントロール)を示し、「+」は、GAPDHを用いた場合を示す。
なお、前記p70S6Kは、タンパク質合成の指標であるp70S6キナーゼであり、前記RPS6は、前記p70S6Kの基質であるS6リボゾームタンパクであり、前記P−S235/236 RPS6及び前記P−S240/244 RPS6は、前記RPSのリン酸化型である。
図3の結果から、GAPDHを用いた場合には、タンパク質合成の指標であるp70S6Kのリン酸化型が減少し、またその基質であるRPS6のP−S235/236 RPS6及びP−S240/244 RPS6が減少することが分かった。これらの結果から、GAPDH処理によってタンパク質の合成が阻害されることが分かった。
【0059】
(試験例4−1:GAPDHの細胞への結合−1)
ヒト胃がん細胞MKN−7に、Green fluorescence protein(GFP)発現ベクターであるpEGFP−C1(BD Biosciences社製)を、Lipfectamine試薬(Invitrogen社製)を用いて遺伝子導入し、安定的にGFPを発現した細胞をクローニングした。
【0060】
前記クローニングした細胞を1%透析血清、5μg/mL インスリン、5μg/mL トランスフェリン、1.4μM ヒドロコルチゾンを含むDMEMで5×10個/mLに分散させ、2mLずつカバーグラスを敷いた6ウェルプレートに撒き、5U/mLの前記(2)ヒト赤血球から精製したGAPDHを加えて、37℃、5% COで1日間培養した。
なお、コントロールとして、GAPDHを加えなかった細胞についても同様に培養した。
【0061】
前記培養した細胞を、4%ホルムアルデヒドを含むPBSで固定した後、FBSで細胞をブロッキングし、1次抗体(抗GAPDH抗体(マウスIgG1、Santa Cruz社製))及び蛍光標識した2次抗体(Alexa 546抗マウスIgG1抗体、Molecular probes社製)で処理して免疫蛍光染色し、スライドグラスにマウントして蛍光顕微鏡(Leica DM IRB、Leica社製)で観察した。結果を図4Aに示す。
図4Aの結果から、前記MKN−7の細胞に発現するGFPの蛍光パターン(図4Aにおける「None」:GAPDHを用いていない)との比較から、外部から加えたGAPDHは細胞の表面、特に細胞と細胞が接着する面などに結合していると考えられた(図4Aにおける「GAPDH 5U/ml」)。
【0062】
(試験例4−2:GAPDHの細胞への結合−2)
細胞外から加えたGAPDHが細胞内に入るかどうかを、以下のようにして作製した(4)FLAGタグを融合したヒトGAPDH(アミノ酸配列は、配列番号5で示されるものである。)を用い、以下のようにして検討した。
【0063】
<(4)FLAGタグを融合したヒトGAPDHの作製>
Hs738細胞(ATCC)のmRNAを、RNeasyキット(Qiagen社製)を用いて調製し、cDNA合成キット(Promega社製)を用いてcDNAを合成した。
前記cDNA、下記配列番号3及び4で表されるプライマー、及びPfx DNAポリメラーゼ(Invitrogen社製)を用いてPCRを行った。
sense primer 1(制限酵素NheIサイトを含む):
5’−TATGCTAGCGACTACAAGGACGACGACGACAAGATGGGGAAGGTGAAGGTCGGAG−3’(配列番号3)
antisense primer 2(制限酵素XhoIサイトを含む):
5’−TATCTCGAGTTACTCCTTGGAGGCCATGTGGG−3’(配列番号4)
前記PCR産物を制限酵素NheI及びXhoIで処理し、pET−17bベクター(Novagen社製)に挿入し、N末にFLAGタグを融合したヒトGAPDHの発現ベクターを作製した。
前記作製した発現ベクターで大腸菌BL21(DE3)を形質変換し、1mM IPTG存在下で培養した後、遠心にて大腸菌を回収し、5倍量のbuffer A(20mM Tris−HCl(pH8.0)、0.5M NaCl、10% glycerol、1mM PMSF、0.1% NP−40、2mM メルカプトエタノール)を加えて超音波処理して大腸菌を破砕した。
前記大腸菌を破砕した液に、抗FLAG M2アガロース(Sigma社製)を1mL加えて、4℃で2時間撹拌した。次いで、アガロースのゲルをbuffer Aで遠心洗浄した後、3mLのelution buffer(20mM Tris−HCl(pH8.0)、0.5M NaCl、10% glycerol、1mM PMSF、0.1% NP−40、2mM メルカプトエタノール、80μg/mL FLAG peptide(Sigma社製))を加えて、4℃で30分間撹拌した後、遠心して上清を回収した。前記上清をPBS中にて4℃で一晩透析し、タンパク質量を定量後、(4)FLAGタグを融合したヒトGAPDHとした。
【0064】
<検討>
前記試験例4−1と同様にして、安定的にGFPを発現したヒト胃がん細胞MKN−7をクローニングした。
【0065】
前記クローニングした細胞を1%透析血清、5μg/mL インスリン、5μg/mL トランスフェリン、1.4μM ヒドロコルチゾンを含むDMEMで5×10個/mLに分散させ、2mLずつカバーグラスを敷いた6ウェルプレートに撒き、1μg/mLの前記(4)FLAGタグを融合したヒトGAPDHを加えて、37℃、5% COで1日間培養した。
【0066】
前記培養した細胞を、4%ホルムアルデヒドを含むPBSで固定した後、冷メタノールで更に固定して、細胞膜の透過性を上げた後、FBSで細胞をブロッキングし、1次抗体(抗FLAG M2抗体(マウスIgG1)、Sigma社製)及び蛍光標識した2次抗体(Alexa 546抗マウスIgG1抗体、Molecular probes社製)で処理して免疫蛍光染色し、スライドグラスにマウントして蛍光顕微鏡(Leica DM IRB、Leica社製)で観察した。結果を図4Bに示す。
図4Bの結果から、MKN−7の細胞内のGFPの蛍光とは重ならず、前記(4)FLAGタグを融合したヒトGAPDHは細胞内に取り込まれていないことが分かった。
【0067】
(試験例5−1:GAPDHとE−カドヘリンとの結合−1)
前記試験例4−1と同様にして、安定的にGFPを発現したヒト胃がん細胞MKN−7をクローニングした。
【0068】
前記クローニングした細胞を1%透析血清、5μg/mL インスリン、5μg/mL トランスフェリン、1.4μM ヒドロコルチゾンを含むDMEMで5×10個/mLに分散させ、2mLずつカバーグラスを敷いた6ウェルプレートに撒き、5U/mLの前記(2)ヒト赤血球から精製したGAPDHを加えて、37℃、5% COで1日間培養した。
【0069】
前記培養した細胞を、4%ホルムアルデヒドを含むPBSで固定した後、FBSで細胞をブロッキングし、1次抗体(抗GAPDH抗体(マウスIgG1、Santa Cruz社製))及び蛍光標識した2次抗体(Alexa 546抗マウスIgG1抗体、Molecular probes社製)による処理、又は、1次抗体(抗E−カドヘリン抗体(マウスIgG2a、Enzo Life Science社製))及び蛍光標識した2次抗体(Alexa 546抗マウスIgG2a抗体、Molecular probes社製)による処理によって免疫蛍光染色し、スライドグラスにマウントして蛍光顕微鏡(Leica DM IRB、Leica社製)で観察した。結果を図5Aに示す。
図5A中、左側は、1次抗体として、抗GAPDH抗体を用いた場合の結果を示し、右側は、1次抗体として、抗E−カドヘリン抗体を用いた場合の結果を示す。
図5Aの結果から、一部のE−カドヘリンとGAPDHの結合部位が類似している可能性が示された。
【0070】
(試験例5−2:GAPDHとE−カドヘリンとの結合−2)
GAPDHとE−カドヘリンとが結合しているかについて、以下のようにして検討した。
【0071】
−細胞膜画分の調製−
ヒト胃がん細胞MKN−7細胞を、1%透析血清、5μg/mL インスリン、5μg/mL トランスフェリン、1.4μM ヒドロコルチゾンを含むDMEMで、37℃、5% COでコンフルエントになるくらいまで培養した後、ProteoExtractキット(Calbiochem社製)を用いて、細胞膜画分を調製した。
【0072】
前記調製した細胞膜画分と、(i)5U/mLの前記(2)ヒト赤血球から精製したGAPDH、又は(ii)5μg/mLの前記(4)FLAGタグを融合したヒトGAPDHとを、2時間室温で混ぜた。
次いで、前記細胞膜画分と、前記(i)(2)ヒト赤血球から精製したGAPDHとを混ぜたものに対しては、抗GAPDH抗体(マウスIgG1、Santa Cruz社製)とprotein Gアガロースの複合体(Santa Cruz社製)を加え、前記細胞膜画分と、前記(ii)前記(4)FLAGタグを融合したヒトGAPDHとを混ぜたものに対しては、抗FLAG M2アガロース(Sigma社製)を加え、1時間室温で混ぜ、免疫沈降した。
【0073】
前記免疫沈降物をPBSで4回遠心洗浄し、抗E−カドヘリン抗体(マウスIgG2a、Enzo Life Science社製)を用いて、ウエスタンブロットを行った結果を図5Bに示す。図5B中、上段は、前記(ii)前記(4)FLAGタグを融合したヒトGAPDHを用いた免疫沈降物についての結果を示し、下段は、前記(i)(2)ヒト赤血球から精製したGAPDHを用いた免疫沈降物についての結果を示す。なお、図5B中、「−」は、GAPDHを用いなかった場合(コントロール)を示し、「+」は、GAPDHを用いた場合を示す。
図5Bの結果から、GAPDHを用いた免疫沈降物中にE−カドヘリンが検出されることが分かった
【0074】
(試験例5−3:GAPDHとE−カドヘリンとの結合−3)
前記試験例4−1と同様にして、安定的にGFPを発現したヒト胃がん細胞MKN−7をクローニングした。
【0075】
前記クローニングした細胞を1%透析血清、5μg/mL インスリン、5μg/mL トランスフェリン、1.4μM ヒドロコルチゾンを含むDMEMで5×10個/mLに分散させ、2mLずつカバーグラスを敷いた6ウェルプレートに撒き、5U/mLの前記(2)ヒト赤血球から精製したGAPDHを加えて、37℃、5% COで1日間培養した。
【0076】
前記培養した細胞を、4%ホルムアルデヒドを含むPBSで固定した後、FBSでブロッキングし、抗GAPDH抗体(マウスIgG1、Santa Cruz社製)及びAlexa 350抗マウスIgG1抗体(Molecular probes社製)、続いて、抗E−カドヘリン抗体(マウスIgG2a、Enzo Life Science社製)及びAlexa 546抗マウスIgG2a抗体(Molecular probes社製)により、二重免疫蛍光染色し、スライドグラスにマウントして蛍光顕微鏡(Leica DM IRB、Leica社製)で観察した。結果を図5Cに示す。
図5C中、左側は、抗GAPDH抗体及びAlexa 350抗マウスIgG1抗体で免疫染色した結果を示し、中央は、抗E−カドヘリン抗体及びAlexa 546抗マウスIgG2a抗体で免疫染色した結果を示し、右側は、左側と中央とを重ね合わせた結果を示す。
図5Cの結果から、GAPDHの局在がE−カドヘリンと重なることが分かった。従って、GAPDHは細胞膜上のE−カドヘリンに結合することが示された。
【0077】
(試験例5−4:GAPDHとE−カドヘリンとの結合−4)
ヒトIgG1 Fc部分が融合したヒトリコンビナントE−カドヘリン(以下、「E−カドヘリン Fc Chimera」と称することがある。)(R&D Systems社製)を1.5μg/mLの濃度でPBSに溶かしたものを100μL/ウェルで96ウェルプレート(Nunc社製)に加え、37℃で1時間静置し、プレートをE−カドヘリン Fc Chimeraでコートした。
前記プレートをPBSで4回洗浄した後、1%BSAを含むPBSを100μL/ウェルで加えて、37℃で30分間静置し、ブロッキングした。前記ブロッキングしたプレートをPBSで4回洗浄した後、(2)ヒト赤血球から精製したGAPDH(Sigma社製)を0U/mL、2.5U/mL、5U/mLとなるようにPBSに溶かしたものを100μL/ウェルで加え、37℃で1時間静置した。
前記プレートをPBSで4回洗浄した後、各ウェルにウエスタンブロット用のSDSサンプルバッファーを加え、ウエスタンブロットによってウェルに結合したGAPDHを抗GAPDH抗体(Santa Cruz社製)によって検出した。結果を図5Dに示す。
図5Dの結果から、E−カドヘリン Fc Chimeraをコートしたプレート(図5中、「+」)からは、コートしなかったプレート(図5中、「−」)に比べて顕著にGAPDHが検出された。従って、E−カドヘリンと、GAPDHとが結合することが確かめられた。
【0078】
以上の試験例の結果から、GAPDHは、E−カドヘリンに結合することで細胞間の接着に影響をおよぼし、その結果としてタンパク質の合成阻害、そして細胞増殖の阻害に至ると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明のE−カドヘリン結合剤は、タンパク質合成阻害剤、がん細胞増殖抑制剤、抗がん剤などに好適に利用可能である。
本発明のタンパク質合成阻害剤は、がん細胞増殖抑制剤、抗がん剤などに好適に利用可能である。
本発明のがん細胞増殖抑制剤は、抗がん剤などに好適に利用可能である。
本発明の抗がん剤は、優れた抗がん作用を有し、様々ながん細胞の増殖を選択的に抑制することができ、安全性が高いため、胃がん、前立腺がん、肺がん、大腸がん、膵がん、乳がんなどの幅広いがんの予防剤又は治療剤として好適に利用可能である。
図1A
図1B
図1C
図2A
図2B
図2C
図3
図4A
図4B
図5A
図5B
図5C
図5D
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]