(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6068935
(24)【登録日】2017年1月6日
(45)【発行日】2017年1月25日
(54)【発明の名称】Ni基鋳造合金及びそれを用いた蒸気タービン鋳造部材
(51)【国際特許分類】
C22C 19/05 20060101AFI20170116BHJP
F01D 25/00 20060101ALI20170116BHJP
F01D 25/24 20060101ALI20170116BHJP
F01D 25/26 20060101ALI20170116BHJP
【FI】
C22C19/05 F
F01D25/00 L
F01D25/24 N
F01D25/26 F
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-245469(P2012-245469)
(22)【出願日】2012年11月7日
(65)【公開番号】特開2014-95101(P2014-95101A)
(43)【公開日】2014年5月22日
【審査請求日】2015年7月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】514030104
【氏名又は名称】三菱日立パワーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】鴨志田 宏紀
(72)【発明者】
【氏名】今野 晋也
(72)【発明者】
【氏名】村田 健一
【審査官】
相澤 啓祐
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−280858(JP,A)
【文献】
特表2004−529778(JP,A)
【文献】
特開2009−097052(JP,A)
【文献】
国際公開第2010/038680(WO,A1)
【文献】
特開2012−117379(JP,A)
【文献】
国際公開第2009/102028(WO,A1)
【文献】
特開2011−052303(JP,A)
【文献】
特開昭58−210142(JP,A)
【文献】
特開昭63−145740(JP,A)
【文献】
特開昭63−050440(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 19/00−19/05
F01D 13/00−15/12
F01D 23/00−25/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、Cを0.001%〜0.1%、Crを15%〜23%、Moを0%〜11.5%、Wを3%〜18%、Feを0%〜5%、Coを0%〜10%、Tiを0%〜0.4%、Alを0%〜0.4%、並びにNb及びTaを0.5%≦Nb+Ta≦4.15%含み、7%≦Mo+1/2W≦13%を満たし、残部が不可避の不純物及びNiからなる組成を有するNi基鋳造合金。
【請求項2】
請求項1に記載のNi基鋳造合金を用いた、最肉厚部の厚さが50mm以上の蒸気タービン鋳造部材。
【請求項3】
請求項1に記載のNi基鋳造合金を用いた、部材重量が1トン以上の蒸気タービン鋳造部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Ni基鋳造合金及びそれを用いた蒸気タービン鋳造部材に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今、石炭火力発電プラントの高効率化を目指して、蒸気温度が700℃以上である火力発電プラント(A−USC、Advanced-Ultra Super Critical)の開発が進められている。これまでの蒸気タービンの高温部材には、鉄をベースとした9Cr系、12Cr系の耐熱フェライト鋼等が用いられている。しかしながら、耐熱フェライト鋼は、使用環境として蒸気温度650℃が限界であるといわれており、700℃級蒸気タービンへの適用は難しいとされている。そこで700℃級の蒸気タービン高温部材として、Ni基合金の適用が検討されている。Ni基合金については、Crのほかに、AlやTiといった元素を添加し、適切な熱処理(時効熱処理)を施すことで、高温で安定な金属間化合物を析出させる合金(析出強化)が多く、優れた高温強度特性を示す。高温強度に寄与するAlやTi、Nbといった元素は、偏析しやすいという問題があるが、例えばロータシャフト等の素材では、最適な合金設計により、VIM(Vacuum-Induction Melting)+ESR(Electroslag Remelting)、VIM+VAR(Vacuum-Arc Remelting)といったダブルメルトプロセス、もしくはVIM+ESR+VARのトリプルメルトプロセスを用いた溶解方法でインゴットを作製し、鍛造によって均質な部材を得ることができる。
【0003】
それに対して、例えば、蒸気タービンケーシングや蒸気タービンバルブ部材等は、大型であることに加え、形状が複雑であること等から、大型の鋳型を用いて鋳造で製造される。ところが、形状が複雑であるがため、上記のような溶解法が適用できない。さらに大型の鋳型を用いた鋳造法では雰囲気制御が難しく、活性な元素であるAlやTiが酸化したり成分の制御が難しかったりする等し、得られた部材の材料特性に悪影響を及ぼす欠陥・スペックアウトの原因となる。
【0004】
よって、同じNi基合金でも、鋳造で製造される大型部材では、析出強化ではなく、Al等の活性な元素が少ない固溶強化で強化した合金の適用を検討している。その候補材として、Alloy625(特許文献1及び特許文献2)がある。本発明者らは、Alloy625を用いて、ケーシング等の肉厚部材を想定した肉厚試験体を試作したところ、良好な製造性(マクロ的な欠陥は発生せず)を有すること、高温強度(クリープ特性)を有することを確認できた。しかし、その試作材を破壊調査したところ、組織は粗大であり、また、ミクロ偏析が大きいことがわかった。特にミクロ偏析については、デンドライトコア部とデンドライト境界部において、合金成分のバラつきが大きく、場所によっては所定の濃度を満たしていない場所も見られた。バラつきが起こっている範囲において硬さを測定したところ、硬さの高いところと低いところが見られており、強度的に不均質になっていることが推定される。このことは、例えば、蒸気タービン部材のような、長期的に信頼性の求められる材料にとって、悪影響を及ぼす可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第3046108号
【特許文献2】米国特許第3160500号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ミクロ偏析による強度のバラつきは、溶湯が凝固する際に起こる合金成分の分配によって発生し、合金成分のうち、固溶強化元素の濃度ムラに起因する。よって、本発明は、鋳造で大型品を製造する際に、凝固速度が遅くなりミクロ偏析が大きくなっても、場所による強度のバラつきが最小限となるような組成を有するNi基合金を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のNi基鋳造合金は、質量%で、Cを0.001%〜0.1%、Crを15%〜23%、Moを0%〜11.5%、Wを3%〜18%、Feを
0%〜5
%、Coを
0%〜10
%、Tiを
0%〜0.4
%、Alを
0%〜0.4
%、並びにNb及びTaを0.5%≦Nb+Ta≦4.15%含み、7%≦Mo+1/2W≦13%を満たし、残部が不可避の不純物及びNiからなる組成を有することを特徴とする。また、この成分の合金を用いて、蒸気タービンの大型鋳造部材を製造することができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によって、大型の鋳造部材を製造しても、ミクロ偏析による強度のバラつきを抑制でき、均質な強度特性を有するNi基鋳造合金を提供することができる。上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の特徴を説明するためのグラフである。
【
図2】実施例及び比較例における各合金の硬さ測定結果を示すグラフである。
【
図3】合金11及び合金14についての金属間化合物の析出挙動の計算シミュレーション結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に係るNi基鋳造合金の化学組成は、質量%で、Cを0.001%〜0.1%、Crを15%〜23%、Moを0%〜11.5%、Wを3%〜18%、Feを5%以下、Coを10%以下、Tiを0.4%以下、Alを0.4%以下、並びにNb及びTaを0.5%≦Nb+Ta≦4.15%含み、残部が不可避の不純物及びNiからなり、MoとWの化学組成について、7%≦Mo+1/2W≦13%を満たすような組成であることを特徴とする。この合金を用いた部材としては、蒸気タービンのケーシングやバルブ、及びそれらの部品のような大型の鋳造品が挙げられる。
【0011】
本発明者らは、当初、大型鋳造部材用のNi基合金として、Alloy625に着目して大型の鋳造材(重量2トン)を作製した。その結果、フレッケル欠陥等のマクロ的な欠陥は発生せずに鋳造することができた。しかし、結晶粒が粗大であり、中には、70mmを超えるような大きな結晶粒も見られた。さらに、走査型電子顕微鏡(SEM)及びエネルギー分散型X線分析装置(EDX)により組織観察、組成分析を行ったところ、デンドライトコアとデンドライト境界で、化学組成が異なっていることがわかった。すなわち、デンドライト境界については、MoやNbがミルシート値(全体組成)より高く、反対に、デンドライト境界では低くなっていることがわかった。これらは、凝固過程中における分配係数の差によるものである。MoやNbは、凝固過程において、液相に分配する傾向にあり、最終凝固部であるデンドライト境界部に濃縮する。よって、デンドライト境界部に合金成分が濃化して、デンドライト境界では強度が高くなり(硬さが高くなる)、デンドライトコアで強度が低くなる(硬さが低くなる)。
図1には、本発明における考え方の一例を示す。縦軸は、固溶強化元素(Mo、W)の組成変動を示しており、各凝固温度時点における(Mo+1/2W)の値と、凝固開始点におけるその値との差(Δ(Mo+1/2W))であり、横軸は、凝固開始温度からの差ΔTであり、
図1では、横軸は固相率0.35となる温度までプロットしている。従来のAlloy625では、凝固が開始してから液相側にMoが濃化することによってΔ(Mo+1/2W)が増加しており、デンドライト境界に固溶強化元素が濃縮することがわかる。そこで、Δ(Mo+1/2W)の濃度変化が小さくなるようにすることで、デンドライトコアからデンドライト境界まで均一に固溶強化元素を分布させることを検討した結果、Moと置き換えが可能なWを添加していくと、Δ(Mo+1/2W)の値が0に近づいていくことを見出した。このような材料設計により、デンドライトコア部とデンドライト境界部の合金成分の濃度差をできるだけ低減することで、機械的特性を均質とすることができる。
【0012】
以下に、本発明の合金における各成分の組成範囲について説明する。
(C)
Cは、MCやM23C6、M6Cといった炭化物を析出させる元素であり、粒内のみならず粒界にも析出することで、粒界強化に寄与することができる。その効果は、0.001%以上、好ましくは0.005%以上から見られるが、0.1%を超えると、粗大且つ大量に炭化物が析出し、脆化の原因となる。したがって、0.001%以上、特に0.005%以上、0.1%以下が好ましく、より好ましくは0.02%以上、0.08%以下である。
【0013】
(Cr)
Crは、表面にCr
2O
3の皮膜を形成する。Cr
2O
3は不動態膜となり、耐酸化性、耐食性に優れた皮膜となる。本発明では、蒸気タービンの高温部材に適用されるため、このような特性を発現させるために15%以上必要となる。しかし、Crはあまり多く含むと、σ相を析出させ、材料の靭性を悪化させる。よって、この観点から、23%以下とすることが望ましい。
【0014】
(Mo)
Moは、Niの母相中に固溶して母相の強化に寄与する。Moは、凝固時に液相に分配するため、後述のWの配合量との調整が必要となる。Moの好ましい範囲は、0%〜11.5%である。
【0015】
(W)
Wも、Niの母相中に固溶して、母相の強化に寄与する。凝固時には、固相に分配するため、Moとの配合量のバランスが重要となる。Wの好ましい範囲は、3%〜18%である。
【0016】
(Mo+1/2W)
前述のように、MoやWは母相中に固溶して、母相を強化する効果を有するが、凝固時の分配の特性は反対の効果を有する。よって、MoとWについては、前述のMo及びWのそれぞれの範囲に加えて、以下の式で表わされる範囲内で複合添加することが望ましい。
7%≦Mo+1/2W≦13%
Mo+1/2Wの値が、7%以下であると、固溶強化の効果が十分得られない。Mo+1/2Wの値が増加するにしたがって、母相中の相安定性が低くなり、σ相といった脆化相が析出しやすくなる。10を超えると特に顕著となるため、その際は、同じくσ相生成元素であるCrを20%以下に低減することが望ましい。さらに、Mo+1/2Wの値が13%を超えると、著しく相安定性が低下するため、上限は13%とする。このようにMoとWを複合添加することによって、蒸気タービンケーシングや蒸気タービンバルブといった大型の鋳造材について、均質な強度を有する大型鋳造部材を製造することができる。
【0017】
(Nb+Ta)
Nb及びTaは、周期律表において同じ族であり、合金中における役割が類似している。よって相互に置換が可能である。これらの元素は、γ’相やγ”相析出元素であり、高温強度を高める元素であるが、長時間の高温曝露によって、δ相が析出する。また、凝固時に液相に分配し、デンドライト境界に濃縮する傾向が強い。δ相は高温強度に寄与するが、析出しすぎると靭性が低下する。よって総量として、4.15%を上限とする。さらに、デンドライト境界に濃縮することも考慮すると、3.5%以下であることが望ましい。下限については、本合金系においては、0.5%以上でその効果が得られることを確認している。Taについては、希少元素であり、高価であることから、Nb単独添加でも問題はない。
【0018】
(Fe)
Feは、Niに比べて延性が高く、他の元素に比べて廉価であることから、材料素材自体の低コスト化に寄与できる。しかし、過剰に添加すると高温での特性が劣化することから、上限は5%とする。
【0019】
(Co)
Coは、Niと全率固溶する元素であり、安定的に固溶強化の効果が高い。しかし、Co元素は高価であるため、あまり含有量が高いとコスト増となる。したがって、10%以下であることが望ましい。あるいはCoを含まなくても問題はない。
【0020】
(Al、Ti)
Al及びTiは、γ”相に固溶し、強度向上に寄与する。しかし、これらの元素は、酸素に対して活性であるため、大型鋳造材を製造すると部材内部に酸化物を生成しやすい。これらは欠陥となりうるため、極力少ない方が好ましい。それぞれ、上限を0.4%とする。
【0021】
次に、本発明のNi基鋳造合金の適用例について説明する。本発明の合金は、肉厚の蒸気タービン鋳造部材、又は大型の鋳造部材に適用される。例えば、バルブとタービンケーシングをつなぐエルボと呼ばれる配管部材は、肉厚が50mm以上である。また、タービンケーシングやバルブケーシングは、大型且つ複雑形状の部材であり、重量は1トン以上で、肉厚も50mm以上となる。これらの部材は、鋳造で製造されるが、前述のように肉厚、大型部材であるため、凝固速度が遅くミクロ偏析が大きくなりがちである。これらの部材は、高温・高圧の蒸気が流れる部位であり、長時間にわたる高い信頼性が求められる。強度特性の観点からも、本発明の合金を適用することによって、均質な強度を有する部材を提供することができる。
【実施例】
【0022】
以下、実施例及び比較例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0023】
表1には、供試材の合金組成を示す。表1中の合金13は、Alloy625相当合金である。これらの組成を有するインゴットを、大型鋼塊製造性を模擬した試験装置にて溶解し、大型鋳造材と同レベルの結晶粒となるような粗大な組織を有する試験片を作製した。組織観察を行った後、デンドライトコア部及びデンドライト境界部の硬さを測定した。
図2には、硬さ測定の結果を示す。実施例の合金1〜10については、ほぼ均質な硬さが得られているが、比較例である合金13については、硬さに大きなバラつきがある。合金14についても、比較合金13ほどではないものの、バラつきが大きくなる傾向があり、一部に析出物が見られた。熱力学平衡計算を用いたシミュレーションによれば、Wが濃化した部分については、有害相(σ相)が析出する結果となっており、長時間の高温曝露で脆化する懸念がある。
図3には、実施例である合金11と比較例である合金14の金属間化合物の析出挙動の計算シミュレーション結果を示す。合金14では、σ相やα(bcc)相が析出する結果が得られており、長時間の使用に関して相安定性に懸念がある。それに対して、低Crの合金11については、δ相のみの析出となり有害相は析出しない。比較例である合金15についてはMo及びWが、合金16についてはNb及びTaといった合金成分が減った分、硬さが低下しており、従来合金(合金13)と比較して強度が低下していることが推定される。
【0024】
【表1】
【0025】
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。