特許第6069006号(P6069006)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6069006
(24)【登録日】2017年1月6日
(45)【発行日】2017年1月25日
(54)【発明の名称】高い親水性を有するシリコーン印象材
(51)【国際特許分類】
   A61K 6/10 20060101AFI20170116BHJP
【FI】
   A61K6/10
【請求項の数】6
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2013-24948(P2013-24948)
(22)【出願日】2013年2月12日
(65)【公開番号】特開2013-177387(P2013-177387A)
(43)【公開日】2013年9月9日
【審査請求日】2016年1月6日
(31)【優先権主張番号】特願2012-26787(P2012-26787)
(32)【優先日】2012年2月10日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390011143
【氏名又は名称】株式会社松風
(74)【代理人】
【識別番号】100091443
【弁理士】
【氏名又は名称】西浦 ▲嗣▼晴
(74)【代理人】
【識別番号】100173657
【弁理士】
【氏名又は名称】瀬沼 宗一郎
(72)【発明者】
【氏名】下曽山 俊
(72)【発明者】
【氏名】北村 敏夫
【審査官】 石井 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭63−146805(JP,A)
【文献】 特開平10−072307(JP,A)
【文献】 特開平11−335223(JP,A)
【文献】 特開平05−271545(JP,A)
【文献】 特表2009−539758(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 6/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成分(1)1分子内に少なくとも2個の不飽和基を有するオルガノポリシロキサン類、
成分(2)1分子内に少なくとも2個のSiH基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン類、
成分(3)充填材、及び
成分(4)白金触媒
を含むシリコーン印象材であって、
親水化材として、
成分(a)ソルビタン脂肪酸エステル系界面活性剤、及び
成分(b)ポリエーテル変性シリコーンからなる非イオン系界面活性剤
を含むことを特徴とする高い親水性を有するシリコーン印象材。
【請求項2】
シリコーン印象材全体に対して、
前記成分(1)1分子内に少なくとも2個の不飽和基を有するオルガノポリシロキサン類の含有量が20〜70重量%、
前記成分(2)1分子内に少なくとも2個のSiH基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン類の含有量が3〜15重量%、
前記成分(3)充填材の含有量が20〜70重量%、
前記成分(4)白金触媒の含有量が0.01〜0.5重量%、
前記成分(a)ソルビタン脂肪酸エステル系界面活性剤の含有量が0.25〜6重量%、
前記成分(b)ポリエーテル変性シリコーンからなる非イオン系界面活性剤の含有量が0.25〜15重量%
である請求項1に記載の高い親水性を有するシリコーン印象材。
【請求項3】
前記成分(a)ソルビタン脂肪酸エステル系界面活性剤の、HLBが6.0〜10.0である請求項1または2に記載の高い親水性を有するシリコーン印象材。
【請求項4】
前記成分(b)ポリエーテル変性シリコーンからなる非イオン性界面活性剤が一般式[1]
【化1】
(式中、各Rは任意に置換されたアルキル基またはアリール基を示し、それぞれ互いに同じでも良く、異なっていても良い。nは1以上の整数である。Rは、n=1の場合には、エーテル結合を含む主鎖からなりアルコキシ基を有する置換基である。Rは、n≧2の場合には、任意に置換されたアルキル基、アリール基またはエーテル結合を含む主鎖からなりアルコキシ基を有する置換基を示す。ただし、n≧2の場合には、Rの少なくとも1つ以上は、エーテル結合を含む主鎖からなりアルコキシ基を有する置換基である。n≧2の場合のモノマー単位中のR及びRの組み合わせは、モノマー単位ごとに同じでも良く、モノマー単位ごとに異なっていても良い。)
で示される化合物である請求項1または2に記載の高い親水性を有するシリコーン印象材。
【請求項5】
前記成分(b)ポリエーテル変性シリコーンのHLBが5.0〜18.0である請求項1または2に記載の高い親水性を有するシリコーン印象材。
【請求項6】
前記成分(a)ソルビタン脂肪酸エステル系界面活性剤の含有量と、前記成分(b)ポリエーテル変性シリコーンからなる非イオン系界面活性剤の含有量との比が、1:1乃至1:2の範囲である請求項1または2に記載の高い親水性を有するシリコーン印象材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い親水性を有するシリコーン印象材、より詳細には高い親水性を有する付加反応型シリコーン印象材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
口腔内の種々の治療の際には、口腔内の状況を採得するために、古くから印象材が用いられている。印象材は特に、歯質が、う蝕等により欠損した場合、その他の口腔疾患により口腔内環境の適正化を行う必要がある場合、また近年需要の増加をみせているインプラント治療や審美治療を行う場合など、様々な歯科治療の場面で歯科補綴物を作製する為に必須の材料である。
【0003】
口腔内の状況を採取する際に使用される印象材は、一般的にペースト状の粘性体であり、種々の硬化機構により硬化して、ゴム質の弾性体に変化する。臨床現場では、印象を採得したい部位に、ペースト状の印象材を圧接し、一定時間保持した後、印象材がゴム質の弾性体になったことを確認して口腔内より硬化した印象材を取り出している。
【0004】
これまで様々なタイプの印象材が開発されてきたが、今日ではアルジネート印象材、寒天印象材、シリコーン印象材などが主流となっている。
【0005】
アルジネート印象材は、アルジネート粉末と水とを混ぜ合わせることで硬化する粉末タイプが一般的であったが、近年ではより保存安定性に優れるペースト−ペーストタイプの利用も増加している。日本では特に寒天印象材と併用されることが多く、保険治療の一般的な印象用材料として知られている。
【0006】
寒天印象材は、熱可塑性のゲルを高温で保持することでゾル状態とし、温度が低下するに従いゲル化することで硬化する機構の印象材である。日本では特にアルジネート印象材と併用されることが多く、保険治療の一般的な印象材料として知られている。
【0007】
シリコーン印象材は、ベースペーストとキャタリストペーストの2種から成り、互いを練り合わせることで硬化反応が進行し、ゴム質弾性体となる。シリコーン印象材は、その硬化機構により、縮合型と付加型に大別される。近年では、寸法精度の高さや、組成的な人体への安全性の観点から付加型が主流となっている。
【0008】
付加型シリコーン印象材は、硬化後の寸法変化がほとんどなく、室温程度の環境であれば寸法変化はほとんど考慮に入れる必要がない。この点で、アルジネート印象材や寒天印象材よりも優れている。しかしながらシリコーン印象材に使用されるシロキサンポリマーは、一般的に疎水性を示すため、アルジネート印象材や寒天印象材と比較して湿潤組織になじみくいという欠点がある。通常、口腔内は湿潤環境にあり、印象採得部位を完全に乾燥させることは困難である。そもそも、口腔内組織を完全に乾燥させた場合、それは既に本来の口腔内の状態からかけ離れており、印象採得に適した状態とは言えない。また、口腔内から取り出した印象材には、石こう模型材を注入するが、付加型シリコーン印象材は、石こう模型材とのなじみもアルジネート印象材、寒天印象材に比べて劣る。
【0009】
このような欠点を解決すべく、以下の特許文献1乃至5に示されるように、界面活性剤の添加、親水性を示す材料との複合、親水基を持つシロキサンポリマーの合成など、シリコーン印象材に親水性を付加する種々の試みがなされてきた。
【0010】
特開昭63−130510号公報(特許文献1)には、従来のシリコーン印象材の一例が示されている。この公報には、ビニルポリジメチルシロキサン、ヒドロポリジメチルシロキサン、シリカ充填剤、環状ビニルシロキサン、塩化白金酸錯体、黒色白金、可塑剤とからなる歯科印象材料に、ポリオール脂肪酸エステルおよびエトキシル化エステル系列から選ばれる界面活性剤を含ませることにより、親水性を高めることが開示されている。
【0011】
特許第4090536号公報(特許文献2)には、1分子中に脂肪族不飽和炭化水素基を少なくとも2個有するオルガノポリシロキサンと、1分子中にケイ素原子に直結した水素原子を少なくとも3個有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンと、シリコーン可溶性白金化合物と、無機充填材とで構成されている付加重合型シリコーン印象材に、特定の微粉末シリカと、非イオン系界面活性剤と、メチルフェニルポリシロキサンとをそれぞれ特定量加えることによって、弾性歪が大きく永久歪が小さく弾力性に富み、しかも印象採得時にタレやちぎれが生じることなく、水との濡れ性に優れた歯科印象用シリコーン印象材が得られることが開示されている。
【0012】
特開昭62−252706号公報(特許文献3)には、疎水性シリコーン部分と少なくとも1個の親水性ポリエーテル部分とを有するシリコーン・ポリエーテル化合物を含有することで、湿潤組織に対する親水性を発現するオルガノポリシロキサン組成物が得られることが開示されている。
【0013】
特表2011−506612号公報(特許文献4)には、硬化性オルガノポリシロキサンポリマーと、オルガノポリシロキサンポリマーを架橋することができる架橋剤化合物と、架橋反応を触媒する触媒と、界面活性剤と、F−含有化合物とを含む歯科用印象材が、硬化前及び硬化後の双方にて親水性を発現することが開示されている。
【0014】
特許第4154576号公報(特許文献5)には、ジフェニルシロキサン単位を5mol%以上又はメチルフェニルシロキサン単位を10mol%以上含む硬化性オルガノポリシロキサンを使用するベースポリマーを、ポリエーテルと組み合わせることにより、JIS R3257に基づく接触角が70°以下、特に65°以下である高親水性硬化物が得られることが開示されている。特許文献5にはさらに、得られた高親水性硬化物が、長期保存後でも組成物或いは硬化物からのポリエーテルの分離が抑えられ、水性塗料の濡れのばらつきや印象のばらつきが抑えられて硬化性に優れていることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開昭63−130510号公報
【特許文献2】特許第4090536号公報
【特許文献3】特開昭62−252706号公報
【特許文献4】特表2011−506612号公報
【特許文献5】特許第4154576号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかしながら特許文献1の印象材では、硬化前に高い親水性を示しているものの、石こう模型の再現性が劣り、更に親水化剤が歯科用印象材としての物性に悪影響を与えてしまっている。そのため、歯科印象材としての望ましい物性を維持できない、あるいは保存安定性が悪いという欠点がある。
【0017】
特許文献2の印象材では、硬化前に高い親水性を示すものの、硬化後の親水性が高くなく、石こうを注入する際に細部まで再現性が得られにくいという問題がある。
【0018】
特許文献3の印象材では、硬化後は充分な親水性が得られるものの、硬化前は充分な親水性が得られず、印象採得時に細部まで再現性が得られにくいという問題がある。
【0019】
特許文献4の印象材では、親水性の発現する速度が遅く、口腔内の湿潤組織と馴染むのに時間がかかるという問題がある。
【0020】
特許文献5の印象材では、親水性を発現する速度が遅く、口腔内の湿潤組織と馴染むのに時間がかかるという問題がある。
【0021】
特許文献1乃至5に示す従来の歯科用印象材では、硬化前における口腔内で高い親水性を即座に発現し、かつ、硬化後に石膏を流すときに高い親水性を示すものはない。そのため従来の歯科用印象材では、細部の再現性の高い口腔内の印象を素早く得ることができなかった。
【0022】
本発明の目的は、硬化前及び硬化後に高い親水性を示し、且つ、湿潤組織に対して瞬時に親水性を発現し、歯科用印象材としても好ましい特性を維持し、保存安定性にも優れる付加反応型シリコーン印象材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0023】
上記課題を解決するために、発明者らは鋭意研究、検討の結果、ソルビタン脂肪酸エステルとポリエーテル変性シリコーンは、互いの物性に悪影響を与えないことを見いだした。また、ソルビタン脂肪酸エステルとポリエーテル変性シリコーンは、歯科用印象材の特性及び保存安定性に悪影響を与えないことを見いだした。この知見に基づき、発明者らは、シロキサンポリマーを含まない親水化材としてソルビタン脂肪酸エステル系界面活性剤を用いる場合に、シロキサンポリマーを含む親水化材としてポリエーテル変性シリコーンからなる非イオン系界面活性剤を併用する研究を行った。その結果、得られたシリコーン印象材が、硬化前には即時親水性を示し、硬化後は高い親水性を示し、しかも歯科用印象材としての好ましい特性を有し、保存安定性に優れるという性質を示すことを見いだした。本発明は上記知見に基づくものである。
【0024】
本発明は、
成分(1)1分子内に少なくとも2個の不飽和基を有するオルガノポリシロキサン類、
成分(2)1分子内に少なくとも2個のSiH基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン類、
成分(3)充填材、及び
成分(4)白金触媒
を含むシリコーン印象材を改良の対象とする。
【0025】
本発明のシリコーン印象材は、親水化材として、
成分(a)ソルビタン脂肪酸エステル系界面活性剤、及び
成分(b)ポリエーテル変性シリコーンからなる非イオン系界面活性剤
を含んでいる。本発明のシリコーン印象材は、硬化前には即時親水性を示し、硬化後は高い親水性を示し、しかも歯科用印象材としての好ましい特性を有し、保存安定性に優れるという性質を示す。
【0026】
具体的なシリコーン印象材では、
シリコーン印象材全体に対して、
成分(1)1分子内に少なくとも2個の不飽和基を有するオルガノポリシロキサン類の含有量が20〜70重量%、
成分(2)1分子内に少なくとも2個のSiH基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン類の含有量が3〜15重量%、
成分(3)充填材の含有量が20〜70重量%、
成分(4)白金触媒の含有量が0.01〜0.5重量%、
成分(a)ソルビタン脂肪酸エステル系界面活性剤の含有量が0.25〜6重量%、
成分(b)ポリエーテル変性シリコーンからなる非イオン系界面活性剤の含有量が0.25重量〜15重量%
とすることができる。このような成分量でシリコーン印象材を構成すると、硬化前の即時親水性、硬化後の高い親水性、歯科用印象材としての好ましい特性、保存安定性をより高めることができる。なお本発明のシリコーン印象材は、上記数値範囲外のものとすることもできるのは勿論であり、上記数値範囲外の本発明のシリコーン印象材も、硬化前の即時親水性、硬化後の高い親水性、歯科用印象材としての好ましい特性、保存安定性を示す。
【0027】
成分(a)ソルビタン脂肪酸エステル系界面活性剤のHLBは、6.0〜10.0であることが好ましい。本明細書において「HLB」とは、親水性と疎水性の強さのバランスを数値で表したものであり、HLB=(親水部の式量の総和/全体の分子量)×100÷5の計算式で与えられる。この計算式によれば、親水基を全く持たないものはHLB=0、親水基のみのものはHLB=20となるので、HLBの範囲は0〜20となる。このHLB値は数値が小さいほど疎水性が強く、大きいほど親水性が強いことを意味する。ソルビタン脂肪酸エステル系界面活性剤のHLBを、6.0〜10.0とすると、親水性が低くなることがなく、また、初期の永久ひずみ及び弾性ひずみを小さくすることができる。特に、成分(a)ソルビタン脂肪酸エステル系界面活性剤の、HLBが7.0〜10.0の場合には、さらに親水性が高くなるという利点がある。さらにソルビタン脂肪酸エステル系界面活性剤の含有量を、2〜4重量%の範囲とすると、硬化前、硬化後共に水滴滴下直後からより速やかに親水性を発現し、永久ひずみがより小さく、弾性ひずみがより大きく、保存安定性もより良好なシリコーン印象材とすることができるという利点が得られる。
【0028】
成分(b)ポリエーテル変性シリコーンからなる非イオン性界面活性剤は、下記一般式[1]
【化1】
【0029】
で示される化合物(式中、各Rは任意に置換されたアルキル基またはアリール基を示し、それぞれ互いに同じでも良く、異なっていても良い。nは1以上の整数である。Rは、n=1の場合には、エーテル結合を含む主鎖からなりアルコキシ基を有する置換基である。Rは、n≧2の場合には、任意に置換されたアルキル基、アリール基またはエーテル結合を含む主鎖からなりアルコキシ基を有する置換基を示す。ただし、n≧2の場合には、Rの少なくとも1つ以上は、エーテル結合を含む主鎖からなりアルコキシ基を有する置換基である。n≧2の場合のモノマー単位中のR及びRの組み合わせは、モノマー単位ごとに同じでも良く、モノマー単位ごとに異なっていても良い。)であることが好ましい。このような成分(b)ポリエーテル変性シリコーンからなる非イオン性界面活性剤を用いると、他のポリエーテル変性シリコーンからなる非イオン性界面活性剤を用いた場合に比べて、高い親水性を維持することができる。
【0030】
また、nは、n≦100の範囲であることが好ましい。nが100より大きくなると、親水性を発現しにくくなったり、硬化後の物性に悪影響を与えることがある。
【0031】
また、成分(b)ポリエーテル変性シリコーンのHLBは、5.0〜18.0であることが好ましい。HLBが5.0〜18.0のポリエーテル変性シリコーンとすると、親水性の低下を十分に抑えることができる。HLBが5.0より小さいと、HLBが5.0〜18.0の範囲にある場合に比べて親水性が劣る。特に、成分(b)ポリエーテル変性シリコーンのHLBが10.0〜18.0であれば、HLBが10.0〜18.0の範囲外の場合に比べて、高い親水性を発現するという利点がある。
【0032】
成分(3)充填材は、最大粒径が50μmを超えていない充填剤であるのが好ましい。これは最大粒径が50μmを超えると、弾性ひずみの低下、永久ひずみの増大及び/または引き裂き強度の低下という問題が生じる可能性があるからである。
【0033】
見方を変えると、成分(a)ソルビタン脂肪酸エステル系界面活性剤の含有量の比と、成分(b)ポリエーテル変性シリコーンからなる非イオン系界面活性剤の含有量の比が、1:1乃至1:2の範囲であることが好ましい。この範囲にすると、硬化前、硬化後共に水滴滴下直後から速やかに親水性を発現し、その後も高い親水性を示し続けた。また、初期の諸物性も、永久ひずみが小さく、弾性ひずみが大きく、硬化がシャープであるという望ましいものであり、保存安定性も良好なシリコーン印象材とすることができる。特に、成分(a)ソルビタン脂肪酸エステル系界面活性剤の含有量と、成分(b)ポリエーテル変性シリコーンからなる非イオン系界面活性剤の含有量との比を、1:1.5乃至1:1.8の範囲にすれば、親水性の低下、初期の諸物性の不良または親水性が速やかに発現しないという問題が生じることを防げる。
【0034】
本発明のより好ましい具体例は以下の数値範囲を満たすものである。
【0035】
成分(1)1分子内に少なくとも2個の不飽和基を有するオルガノポリシロキサン類の含有量が37.9〜50.9重量%、
成分(2)1分子内に少なくとも2個のSiH基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン類の含有量が8重量%、
成分(3)充填材の含有量が36重量%、
成分(4)白金触媒の含有量が0.1重量%、
成分(a)ソルビタン脂肪酸エステル系界面活性剤の含有量が0.25〜6重量%、
成分(b)ポリエーテル変性シリコーンからなる非イオン系界面活性剤の含有量が0.25〜12重量%である。この数値範囲を満たすシリコーン印象材は、上記効果に加えて、硬化前、硬化後にさらに高い即時親水性を発現するという効果が得られる。
【0036】
また上記数値範囲を使用する場合において、成分(1)1分子内に少なくとも2個の不飽和基を有するオルガノポリシロキサン類として、α−ωジビニルポリシロキサンを用い、成分(2)1分子内に少なくとも2個のSiH基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン類として、ジメチルハイドロジェンポリシロキサンを用いることができる。この場合、成分(a)ソルビタン脂肪酸エステル系界面活性剤としては、モノオレイン酸ソルビタン、ポリオキシエチレンソルビタンオレエート、ソルビタンラウレート、ソルビタンカプリレートまたはモノステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタンを用いることができる。更に成分(b)ポリエーテル変性シリコーンからなる非イオン系界面活性剤としては、側鎖型または末端型を用いるのが好ましい。これらの組み合わせを満たすシリコーン印象材では、上記効果に加えて、硬化前、硬化後の即時親水性がより優れるという効果が得られる。
【0037】
本発明の更に好ましい具体例は以下の数値範囲を満たすものである。
【0038】
成分(1)1分子内に少なくとも2個の不飽和基を有するオルガノポリシロキサン類の含有量が44.9〜50.9重量%、
成分(2)1分子内に少なくとも2個のSiH基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン類の含有量が8重量%、
成分(3)充填材の含有量が36重量%、
成分(4)白金触媒の含有量が0.1重量%、
成分(a)ソルビタン脂肪酸エステル系界面活性剤の含有量が2〜4重量%、
成分(b)ポリエーテル変性シリコーンからなる非イオン系界面活性剤の含有量が3〜7重量%である。この数値範囲を満たすシリコーン印象材は、上記効果に加えて、硬化前、硬化後の即時親水性と初期の諸物性に優れるという効果が得られる。
【0039】
また上記数値範囲を採用する場合において、成分(1)1分子内に少なくとも2個の不飽和基を有するオルガノポリシロキサン類として、α−ωジビニルポリシロキサンを用い、成分(2)1分子内に少なくとも2個のSiH基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン類として、ジメチルハイドロジェンポリシロキサンを用いる。そして成分(a)ソルビタン脂肪酸エステル系界面活性剤としては、モノステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタンまたはソルビタンラウレートを用い、成分(b)ポリエーテル変性シリコーンからなる非イオン系界面活性剤として、側鎖型を用いることができる。これらの組み合わせを満たすシリコーン印象材では、上記効果に加えて、硬化前、硬化後の即時親水性と初期の諸物性がより優れるという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1】実施例1及び比較例1〜3のシリコーン印象材の硬化前の接触角の経時変化を示すグラフである。
図2】実施例1及び比較例1〜3のシリコーン印象材の硬化後の接触角の経時変化を示すグラフである。
図3】実施例2〜5のシリコーン印象材の硬化前の接触角の経時変化を示すグラフである。
図4】実施例2〜5のシリコーン印象材の硬化後の接触角の経時変化を示すグラフである。
図5】実施例6〜9のシリコーン印象材の硬化前の接触角の経時変化を示すグラフである。
図6】実施例6〜9のシリコーン印象材の硬化後の接触角の経時変化を示すグラフである。
図7】実施例10のシリコーン印象材の硬化前の接触角の経時変化を示すグラフである。
図8】実施例10のシリコーン印象材の硬化後の接触角の経時変化を示すグラフである。
図9】実施例11〜13のシリコーン印象材の硬化前の接触角の経時変化を示すグラフである。
図10】実施例11〜13のシリコーン印象材の硬化後の接触角の経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0041】
本発明のシリコーン印象材に使用する成分(1)1分子内に少なくとも2個の不飽和基を有するオルガノポリシロキサン類とは、結合する有機基の少なくとも1つがエチレン性不飽和二重結合を有する基である有機基を少なくとも2つ有するオルガノポリシロキサンである。エチレン性不飽和二重結合を有する有機基は、オルガノポリシロキサンのモノマー単位のいずれかに位置し、オルガノポリシロキサンのポリマー鎖の末端モノマー単位上に、または末端モノマー単位の少なくとも付近に位置することが好ましい。さらに、エチレン性不飽和二重結合を有する有機基の少なくとも2つが、α、ω位すなわちポリマー鎖の末端に位置することが特に好ましい。このようなオルガノポリシロキサン類を用いると、三次元網目構造を形成し易く、高いゴム硬度を発現する。オルガノポリシロキサンは、一般式[2]で表される。
【化2】
【0042】
ここで、式中の各Rは任意に置換されたアルキル基、アリール基またはアルケニル基から選ばれ、それぞれ互いに同じでも良く、異なっていても良い。nは1以上の整数である。各モノマー単位中のRは、同じでも良く、異なっていても良い。またRは、モノマー単位ごとに同じでも良く、異なっていても良い。
【0043】
n≦100であることが好ましい。nが100よりも大きくなると、粘度が高くなり操作性に悪影響をあたえてしまう場合がある。
【0044】
なお、本明細書におけるRは、非置換または置換の一価炭化水素基を表し、直鎖状であるか、または炭素原子の数が3を超える場合には、直鎖状、分枝鎖または環状である。一般に、Rは硬化反応を妨げないすべての種類の置換基を備え得る。
【0045】
本明細書の内容において使用される「妨げる」という用語は、硬化反応に対する置換基の不利な影響に関する。
【0046】
本明細書の内容において使用される「不利な」という用語は、硬化製品の意図される使用に対してマイナスに影響する特性の変化に関する。
【0047】
成分(1)1分子内に少なくとも2個の不飽和基を有するオルガノポリシロキサン類の分量は、シリコーン印象材全体に対して、20〜70重量%の範囲内であることが好ましい。
【0048】
成分(2)1分子内に少なくとも2個のSiH基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン類とは、上記(1)成分の不飽和炭化水素を含有するオルガノポリシロキサンとヒドロシリル化付加反応によりシリコーン印象材を硬化させる架橋材として作用するものであり、一般式[3]から成る化合物である。
【化3】
【0049】
式中、各Rは任意に置換されたアルキル基またはアリール基を示し、それぞれ互いに同じでも良く、異なっていても良い。nは2以上の整数である。n=2の場合には、Rは水素基である。n≧3の場合には、各Rは任意に置換されたアルキル基、アリール基、水素基から選ばれる。ただし、Rの少なくとも2つ以上は、水素基である。n≧2の場合のモノマー単位中のR及びRの組み合わせは、モノマー単位ごとに同じでも良く、異なっていても良い。
【0050】
オルガノハイドロジェンポリシロキサンの分子構造は直鎖状、環状、分岐上、三次元網目構造のいずれであっても良い。
【0051】
シリコーン印象材全体における、成分(2)1分子内に少なくとも2個のSiH基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン類中のSiH基の含有量は、成分(1)1分子内に少なくとも2個の不飽和基を有するオルガノポリシロキサン類中のアルケニル基1molに対して2〜4molの範囲であることが好ましい。成分(2)1分子内に少なくとも2個のSiH基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン類の含有量が上記範囲の下限未満となると、得られるシリコーン印象材が充分に硬化しない場合があり、一方、上記範囲の上限を超えると、得られるシリコーン印象材成物が非常に硬質となり、表面に多数のクラックを生じる恐れがある。
【0052】
なお成分(2)1分子内に少なくとも2個のSiH基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン類のシリコーン印象材全体に対する分量は、3〜15重量%の範囲内であることが好ましい。
【0053】
成分(3)充填材とは、シリコーン印象材の硬化前の作業性や硬化後の物性を向上させるものであり、石英、クリストバライト、珪藻土、溶融石英、ガラス繊維、二酸化チタン、ヒュームドシリカなどが挙げられる。この(3)充填材の含有量はシリコーン印象材全体に対し、20〜70重量%の範囲内であることが好ましい。本成分の含有量が上記範囲の下限未満となると硬化体の強度が低くなってしまう場合やオイルの分離を生じてしまう場合があり、一方、上記範囲の上限を超えるとシリコーン印象材の硬化前の粘度が高くなりすぎて操作性、流動性が悪くなってしまう場合がある。
【0054】
成分(3)充填剤は、例えば熱分解法または沈降ケイ酸およびシリカアルミニウム混合酸化物などの強化充填剤を併用して用いることができる。上記の充填剤は、例えば、ヘキサメチルジシラザンなどのオルガノシランもしくはシロキサンで処理することによって、またはヒドロキシル基をアルコキシ基にエーテル化することによって、疎水化することができる。充填剤は、最大粒径が50μmを超えないものであることが好ましい。充填剤の最大粒径が50μmを超えると、弾性ひずみの低下、永久ひずみの増大及び/または引き裂き強度の低下を生じることがある。
【0055】
成分(4)白金触媒とは、ヒドロシリル化触媒であり、成分(1)1分子内に少なくとも2個の不飽和基を有するオルガノポリシロキサン類中のアルケニル基と、成分(2)1分子内に少なくとも2個のSiH基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン類中のSiH基とのヒドロシリル化付加反応を促進するための触媒である。本明細書における白金触媒とは、白金黒、塩化第2白金、塩化白金酸、塩化白金酸と1価アルコールとの反応物、塩化白金酸とオレフィン類との錯体、白金ビスアセトアセテート等の白金触媒の他に、パラジウム系触媒、ロジウム系触媒などの白金族金属触媒を含むものである。なお、この白金触媒の含有量はシリコーン印象材全体に対し、0.01〜0.5重量%の範囲内であることが好ましい。
【0056】
成分(a)ソルビタン脂肪酸エステル系界面活性剤とは、シリコーン印象材の親水性を向上させるための親水化剤であり、下記一般式[4]または[5]からなる化合物である。
【化4】
【化5】
【0057】
式中のRは非置換または置換一価炭化水素基を表し、直鎖状であるか、または炭素原子の数が3を超える場合には、直鎖状、分枝鎖または環状である。Rは、硬化反応を妨げないすべての種類の置換基とすることができる。
【0058】
成分(a)ソルビタン脂肪酸エステル系界面活性剤としては、モノオレイン酸ソルビタン、ポリオキシエチレンソルビタンオレエート、ソルビタンラウレート、ソルビタンカプリレートまたはモノステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタンなどが挙げられる。
【0059】
この成分(a)ソルビタン脂肪酸エステル系界面活性剤は、HLBが6.0〜10.0の範囲であることが好ましい。HLBが6.0よりも小さいと、HLBが6.0〜10.0の範囲にある場合に比べて即時親水性が劣る。また、HLBが10.0よりも大きいと、永久ひずみがやや大きく、弾性ひずみもやや大きくなるため、初期の諸物性として好ましくない。HLBは、7.0〜10.0の範囲であれば特に好ましい。(a)ソルビタン脂肪酸エステル系界面活性剤のHLBをこの範囲とすると、硬化前、硬化後共に水滴滴下直後から速やかに非常に高い親水性を示すシリコーン印象材とすることができる。
【0060】
この成分(a)ソルビタン脂肪酸エステル系界面活性剤の含有量は、シリコーン印象材全体に対して例えば0.1〜20重量%の範囲とすることができる。成分(a)ソルビタン脂肪酸エステル系界面活性剤の含有量が上記範囲の下限未満となると、湿潤組織に対して充分な親水性を発現しなくなる場合があり、一方、上記範囲の上限を超えるとシリコーン印象材の硬化性や保存安定性が悪くなる場合がある。成分(a)ソルビタン脂肪酸エステル系界面活性剤の含有量は、0.25〜6重量%の範囲であることが好ましくい。この範囲であれば、硬化がシャープであるとともに、硬化前及び硬化後において高い親水性を示し続けるシリコーン印象材とすることができる。特に成分(a)ソルビタン脂肪酸エステル系界面活性剤の含有量を0.25〜5重量%とすると、永久ひずみをより小さく、また弾性ひずみをより大きくすることができる。また成分(a)ソルビタン脂肪酸エステル系界面活性剤の含有量は、2〜4重量%の範囲内であれば特に好ましい。この範囲内であれば、硬化前、硬化後共に水滴滴下直後から速やかに親水性を発現し、永久ひずみが小さく、弾性ひずみが大きく、保存安定性も良好なシリコーン印象材とすることができる。
【0061】
成分(b)ポリエーテル変性シリコーンからなる非イオン系界面活性剤とは、例えば下記構造式[6]で示されるものとすることができる。
【化6】
【0062】
ここで式中、各Rは任意に置換されたアルキル基またはアリール基を示し、それぞれ互いに同じでも良く、異なっていても良い。nは1以上の整数である。Rは、n=1の場合には、エーテル結合を含む主鎖からなりアルコキシ基を有する置換基である。Rは、n≧2の場合には、任意に置換されたアルキル基、アリール基またはエーテル結合を含む主鎖からなりアルコキシ基を有する置換基を示す。ただし、n≧2の場合には、Rの少なくとも1つ以上は、エーテル結合を含む主鎖からなりアルコキシ基を有する置換基である。n≧2の場合のモノマー単位中のR及びRの組み合わせは、モノマー単位ごとに同じでも良く、モノマー単位ごとに異なっていても良い。このような成分(b)ポリエーテル変性シリコーンからなる非イオン性界面活性剤を用いると、他のポリエーテル変性シリコーンからなる非イオン性界面活性剤を用いた場合に比べて、高い親水性を維持することができる。
【0063】
の具体的な構造は、例えばRO(CO)(CO)で示されたものとすることができる。この構造であれば、高い親水性を維持することができる。
【0064】
ポリエーテル変性シリコーンの主鎖ポリシロキサンは、直鎖状だけではなく、分岐型及び下記構造式[7]の単位を用いることができる。
【化7】
【0065】
ここで構造式[7]中の、aは1又は2であり、bは0、1又は2であり、そしてa+bは1〜3であるシロキシル単位である。R及びRは任意に置換されたアルキル基またはアリール基で、互いに同じでも良く、異なっていても良い。また、成分(b)ポリエーテル変性シリコーンからなる非イオン系界面活性剤のHLBは、5.0〜18.0の範囲内にあることが好ましい。HLBが5.0より小さいと、HLBが5.0〜18.0の範囲にある場合に比べて親水性が劣る。また、HLBが10.0〜18.0の範囲内にあれば特に好ましい。HLBが10.0〜18.0の範囲内にあると、HLBが10.0〜18.0の範囲外の場合に比べて、高い親水性を発現する。
【0066】
成分(b)ポリエーテル変性シリコーンからなる非イオン系界面活性剤の含有量は、シリコーン印象材全体に対して、0.25〜15重量%であることが好ましい。この範囲であれば、硬化がシャープであるとともに、硬化前及び硬化後において高い親水性を示し続けるシリコーン印象材とすることができる。また成分(b)ポリエーテル変性シリコーンからなる非イオン系界面活性剤の含有量は、3〜10重量%の範囲内であれば特に好ましい。この範囲であれば、高い親水性を発現し、永久ひずみが小さく、弾性ひずみが大きく、保存安定性も良好なシリコーン印象材とすることができる。特に成分(b)ポリエーテル変性シリコーンからなる非イオン系界面活性剤の含有量を3〜7重量%とすると、永久ひずみをより小さく、また弾性ひずみをより大きくすることができる。
【実施例】
【0067】
次に本発明の実施例及び比較例について説明する。なお本発明は、下記の実施例に制限されるものではない。なお、以下に説明する実施例1乃至13及び比較例1乃至3においては、各表に示す組成のキャタリストペースト(キャタリスト)とベースペースト(ベース)とを1:1の割合で練り合わせてシリコーン印象材を調整した。
【0068】
表1に示す実施例1及び比較例1〜3の組成のオルガノポリシロキサン組成物即ちシリコーン印象材を調整し、硬化前の接触角、硬化後の接触角及び歯科用印象材の諸物性を測定した。
【0069】
各成分の詳細は以下の通りである。
【0070】
・α-ωジビニルポリシロキサン DMS-V35 Gelest inc.製 粘度 10〜110000 mPa・s
・ジメチルハイドロジェンポリシロキサン HMS-082 Gelest inc.製 有効水素量 10〜58 mol%
・充填材1 ヒューズレックス X TATSUMORI製 平均粒径 3μm
・充填材2 R812 日本アエロジル社製 比表面積 230〜290 m/g
・ソルビタン脂肪酸エステル ポエム O-80V 理研ビタミン(株)製 HLB 4.9
ニューコール 80 日本乳化剤(株) HLB 6.4
リケマール L-250A 理研ビタミン(株)製 HLB 7.4
レオドール TW-S106V 花王(株)製 HLB 9.6
リケマール C-250 理研ビタミン(株)製 HLB 10.6
・ポリオキシアルキレンエーテル エマルゲン 306P 花王(株) HLB 9.4
・ポリエーテル変性シリコーン(側鎖型) KF-945 信越化学工業(株)製 HLB 4.0
X-22-4515 信越化学工業(株)製 HLB 5.0
KF-615A 信越化学工業(株)製 HLB 10.0
KF-354L 信越化学工業(株)製 HLB 16.0
・ポリエーテル変性シリコーン(末端型) KF-6004 信越化学工業(株)製 HLB 5.0
硬化前の接触角の測定は以下の通りに行う。直径1mmのモールド型にオルガノポリシロキサン組成物を気泡を巻き込まないように注意して流し込み、天面を水平に形成する。組成物が硬化する前に、水平に形成された天面に、予め準備しておいた5μLのイオン交換水を静かに滴下し、滴下直後から60秒間水滴と組成物の成す接触角を測定した。
【0071】
硬化後の接触角の測定は以下の通りに行う。直径1mmのモールド型にオルガノポリシロキサン組成物を気泡を巻き込まないように注意して流し込み、天面を水平に形成する。硬化開始から30分後に、完全硬化したオルガノポリシロキサン組成物の水平に形成された天面に、予め準備しておいた5μLのイオン交換水を静かに滴下し、滴下直後から60秒間水滴と組成物の成す接触角を測定した。
【0072】
操作時間の測定は、JIS T 6513:2005 歯科用ゴム質弾性印象材に準じて行った。
【0073】
永久ひずみの測定は、JIS T 6513:2005 歯科用ゴム質弾性印象材に準じて行った。
【0074】
弾性ひずみの測定は、JIS T 6513:2005 歯科用ゴム質弾性印象材に準じて行った。
【0075】
ゴム硬度の測定は以下の通りに行う。ガラス板と橋げたを用いて一定の厚みの試験体を作製し、練和開始から7分後、及び15分後に試験体の上面中央部のゴム硬度を測定した。
【0076】
保存安定性の測定は、実施例及び比較例の組成物を50℃の環境に3ヶ月間静置した後、歯科用印象材の諸物性を測定して評価した。
【表1】
【0077】
図1及び図2はそれぞれ、実施例1及び比較例1〜3の組成物の硬化前の接触角の経時変化及び硬化後の接触角の経時変化を示すグラフである。
【0078】
また表2及び表3はそれぞれ、実施例1及び比較例1〜3の組成物の初期の諸物性及び50℃の環境に3ヶ月間静置した後の諸物性を示す。
【表2】
【表3】
【0079】
実施例1では、硬化前、硬化後共に水滴滴下直後から速やかに親水性を発現し、その後も高い親水性を示し続けた。また、初期の諸物性も、永久ひずみが小さく、弾性ひずみが大きく、硬化がシャープであるという望ましいものであり、保存安定性も良好であった。
【0080】
比較例1では、水滴滴下後暫くすると徐々に親水性を発現し、硬化後では60秒後に実施例と同等まで到達したが、硬化前は実施例1よりも接触角が大きくなる結果であった。また、初期の諸物性としては望ましい物性を維持できておらず、保存安定性も悪いという結果であった。
【0081】
比較例2では、硬化前、硬化後共に比較例1よりは速やかな親水性の発現が確認されたものの、実施例1と同等の即時親水性は発現せず、60秒後までに充分に低い接触角にも到達しなかった。また、初期の諸物性としては望ましい物性を維持しており、保存安定性も良好であった。
【0082】
比較例3では、水滴滴下後暫くすると徐々に親水性を発現し、硬化後では60秒後に実施例と同等まで到達したが、硬化前は実施例1よりも接触角が大きくなる結果であった。また、初期の諸物性としては望ましい物性を維持しており、保存安定性も良好であった。
【0083】
表4に示す実施例2〜5のオルガノポリシロキサン組成物を調整し、硬化前の接触角、硬化後の接触角及び歯科用印象材の諸物性を測定した。表4に示す実施例2〜5では、実施例1に示す組成物のうち、ソルビタン脂肪酸エステルとしてのレオドールTW−S106V及びポリエーテル変性シリコーンの含有量を変更している。
【表4】
【0084】
図3及び図4はそれぞれ、実施例2〜5の組成物の硬化前の接触角の経時変化及び硬化後の接触角の経時変化を示すグラフである。
【0085】
また表5及び表6はそれぞれ、実施例2〜5の組成物の初期の諸物性及び50℃の環境に3ヶ月間静置した後の諸物性を示す。
【表5】
【表6】
【0086】
実施例2では、実施例1よりも親水性が低い結果となったものの、硬化前、硬化後共に比較例2よりも高い即時親水性を発現した。また、初期の諸物性も、永久ひずみが小さく、弾性ひずみが大きく、硬化がシャープであるという望ましいものであり、保存安定性も良好であった。
【0087】
実施例3では、硬化前、硬化後共に水滴滴下直後から速やかに親水性を発現し、その後も高い親水性を示し続けた。また、初期の諸物性も、永久ひずみが小さく、弾性ひずみが大きく、硬化がシャープであるという望ましいものであり、保存安定性も良好であった。
【0088】
実施例4では、実施例2よりもやや親水性で劣る結果であった。また、初期の諸物性は、永久ひずみが小さく、弾性ひずみが大きく、硬化がシャープであるという望ましいものであり、保存安定性も良好であった。
【0089】
実施例5では、硬化前、硬化後共に水滴滴下直後から速やかに親水性を発現し、その後も高い親水性を示し続けた。また、初期の諸物性としては永久ひずみがやや大きく、弾性ひずみもやや大きい結果であった。
【0090】
表7に示す実施例6〜9のオルガノポリシロキサン組成物を調整し、硬化前の接触角、硬化後の接触角及び歯科用印象材の諸物性を測定した。表7に示す実施例6〜9では、実施例1に示す組成物のうち、ソルビタン脂肪酸エステルの種類を変更している。
【表7】
【0091】
図5及び図6はそれぞれ、実施例6〜9の組成物の硬化前の接触角の経時変化及び硬化後の接触角の経時変化を示すグラフである。
【0092】
また表8及び表9はそれぞれ、実施例6〜9の組成物の初期の諸物性及び50℃の環境に3ヶ月間静置した後の諸物性を示す。
【表8】
【表9】
【0093】
実施例6〜8では、実施例8が最も親水性が高く、実施例6が最も親水性が低かったものの、比較例と比べると充分に高い親水性を示した。硬化前、硬化後共に水滴滴下直後から速やかに親水性を発現し、その後も高い親水性を示し続けた。また、初期の諸物性も、永久ひずみが小さく、弾性ひずみが大きく、硬化がシャープであるという望ましいものであり、保存安定性も良好であった。
【0094】
実施例9では、硬化前、硬化後共に水滴滴下直後から速やかに親水性を発現し、その後も高い親水性を示し続けた。また、初期の諸物性としては永久ひずみがやや大きく、弾性ひずみもやや大きい結果であった。
【0095】
表10に示す実施例10のオルガノポリシロキサン組成物を調整し、硬化前の接触角、硬化後の接触角及び歯科用印象材の諸物性を測定した。表10に示す実施例10では、実施例1に示す組成物のうち、ポリエーテル変性シリコーンを末端型に変更している。
【表10】
【0096】
図7及び図8はそれぞれ、実施例10の組成物の硬化前の接触角の経時変化及び硬化後の接触角の経時変化を示すグラフである。
【0097】
また表11及び表12はそれぞれ、実施例10の組成物の初期の諸物性及び50℃の環境に3ヶ月間静置した後の諸物性を示す。
【表11】
【表12】
【0098】
実施例10では、硬化前、硬化後共に水滴滴下直後から速やかに親水性を発現したものの、60秒後の親水性は実施例1程は発現されなかった。また、初期の諸物性は永久ひずみが小さく、弾性ひずみが大きく、硬化がシャープであるという望ましいものであり、保存安定性も良好であった。
【0099】
表13に示す実施例11〜13のオルガノポリシロキサン組成物を調整し、硬化前の接触角、硬化後の接触角及び歯科用印象材の諸物性を測定した。表13に示す実施例11〜13では、実施例1に示す組成物のうち、ポリエーテル変性シリコーンの種類を変更している。
【表13】
【0100】
図9及び図10はそれぞれ、実施例11〜13の組成物の硬化前の接触角の経時変化及び硬化後の接触角の経時変化を示すグラフである。
【0101】
また表14及び表15はそれぞれ、実施例11〜13の組成物の初期の諸物性及び50℃の環境に3ヶ月間静置した後の諸物性を示す。
【表14】
【表15】
【0102】
実施例11〜13では、実施例13が最も親水性が高く、実施例11が最も親水性が低かったものの、比較例と比べると充分に高い親水性を示した。硬化前、硬化後共に水滴滴下直後から速やかに親水性を発現し、その後も高い親水性を示し続けた。また、初期の諸物性も、永久ひずみが小さく、弾性ひずみが大きく、硬化がシャープであるという望ましいものであり、保存安定性も良好であった。
【0103】
以上のように本発明に係るシリコーン印象材は、口腔内に圧接した直後に速やかに親水性を発現し、且つ、その値も充分に小さいため、実際の印象採特に置いて優れた親水性を有している。また、歯科用印象材とのして諸物性も望ましい値を示し、保存安定性にも優れていた。
【0104】
以下、特許請求の範囲には直接記載していないが、本願明細書に記載した発明の構成を列挙する。
【0105】
(i)
成分(a)ソルビタン脂肪酸エステル系界面活性剤のHLBが7.0〜10.0である高い親水性を有するシリコーン印象材。
【0106】
(ii)
成分(a)ソルビタン脂肪酸エステル系界面活性剤の含有量が、2〜4重量%の範囲である高い親水性を有するシリコーン印象材。
【0107】
(iii)
成分(b)ポリエーテル変性シリコーンのHLBが10.0〜18.0である高い親水性を有するシリコーン印象材。
【0108】
(iv)
成分(b)ポリエーテル変性シリコーンからなる非イオン系界面活性剤の含有量が、3〜7重量%の範囲である高い親水性を有するシリコーン印象材。
【0109】
(v)
成分(3)充填材は、最大粒径が50μmを超えていない充填剤である高い親水性を有するシリコーン印象材。
【0110】
(vi)
成分(a)ソルビタン脂肪酸エステル系界面活性剤の含有量の比と、成分(b)ポリエーテル変性シリコーンからなる非イオン系界面活性剤の含有量の比が、1:1.5乃至1:1.8の範囲である高い親水性を有するシリコーン印象材。
【0111】
(vii)
成分(1)1分子内に少なくとも2個の不飽和基を有するオルガノポリシロキサン類の含有量が37.9〜50.9重量%、
成分(2)1分子内に少なくとも2個のSiH基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン類の含有量が8重量%、
成分(3)充填材の含有量が36重量%、
成分(4)白金触媒の含有量が0.1重量%、
成分(a)ソルビタン脂肪酸エステル系界面活性剤の含有量が0.25〜5重量%、
成分(b)ポリエーテル変性シリコーンからなる非イオン系界面活性剤の含有量が0.25〜12重量%である高い親水性を有するシリコーン印象材。
【0112】
(viii)
成分(1)1分子内に少なくとも2個の不飽和基を有するオルガノポリシロキサン類は、α−ωジビニルポリシロキサンであり、
成分(2)1分子内に少なくとも2個のSiH基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン類は、ジメチルハイドロジェンポリシロキサンであり、
成分(a)ソルビタン脂肪酸エステル系界面活性剤は、モノオレイン酸ソルビタン、ポリオキシエチレンソルビタンオレエート、ソルビタンラウレート、ソルビタンカプリレートまたはモノステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタンであり、
成分(b)ポリエーテル変性シリコーンからなる非イオン系界面活性剤は、側鎖型または末端型である上記(vii)の高い親水性を有するシリコーン印象材。
【0113】
(ix)
成分(1)1分子内に少なくとも2個の不飽和基を有するオルガノポリシロキサン類の含有量が44.9〜50.9重量%、
成分(2)1分子内に少なくとも2個のSiH基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン類の含有量が8重量%、
成分(3)充填材の含有量が36重量%、
成分(4)白金触媒の含有量が0.1重量%、
成分(a)ソルビタン脂肪酸エステル系界面活性剤の含有量が2〜4重量%、
成分(b)ポリエーテル変性シリコーンからなる非イオン系界面活性剤の含有量が3〜7重量%である高い親水性を有するシリコーン印象材。
【0114】
(x)
成分(1)1分子内に少なくとも2個の不飽和基を有するオルガノポリシロキサン類は、α−ωジビニルポリシロキサンであり、
成分(2)1分子内に少なくとも2個のSiH基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン類は、ジメチルハイドロジェンポリシロキサンであり、
成分(a)ソルビタン脂肪酸エステル系界面活性剤は、モノステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタンまたはソルビタンラウレートであり、
成分(b)ポリエーテル変性シリコーンからなる非イオン系界面活性剤は、側鎖型である上記(ix)の高い親水性を有するシリコーン印象材。
【産業上の利用可能性】
【0115】
本発明によれば、シロキサンポリマーを含まない親水化材にソルビタン脂肪酸エステル系界面活性剤と、シロキサンポリマーを含む親水化材にポリエーテル変性シリコーンからなる非イオン系界面活性剤とを併用しているので、硬化前には即時親水性を示し、硬化後は高い親水性を示し、しかも歯科用印象材としての好ましい特性を有し、保存安定性に優れたシリコーン印象材を得ることができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10