特許第6069019号(P6069019)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6069019
(24)【登録日】2017年1月6日
(45)【発行日】2017年1月25日
(54)【発明の名称】糸条冷却装置
(51)【国際特許分類】
   D01D 5/092 20060101AFI20170116BHJP
【FI】
   D01D5/092 103
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-29636(P2013-29636)
(22)【出願日】2013年2月19日
(65)【公開番号】特開2014-159649(P2014-159649A)
(43)【公開日】2014年9月4日
【審査請求日】2015年10月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】502455511
【氏名又は名称】TMTマシナリー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】特許業務法人梶・須原特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川本 和弘
(72)【発明者】
【氏名】松井 正宏
【審査官】 斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】 特公昭53−009293(JP,B2)
【文献】 特開2002−309431(JP,A)
【文献】 特開2007−063690(JP,A)
【文献】 特表平07−501588(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01D 1/00 − 13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
紡糸ビームから下向きに紡出される複数の糸条を冷却する糸条冷却装置であって、
その内部を前記複数の糸条が上下に通過する紡糸筒を有し、
前記紡糸筒は、
気体が通過する複数の開口を有する第1筒体と、
前記第1筒体の内側に設置され、前記紡糸筒内に流入する気体の流れを内向きに整流する筒状の整流体と、を備え、
前記紡糸筒は、その上端側に、これよりも下側の部分と比べて、前記気体の流速が遅くなる低速部を有し、
前記整流体の、前記低速部に位置する第1部分は、前記紡糸筒の外側から内側に向かう前記気体の流れを、斜め上向きに整流し、
前記第1筒体の内側に設置され、前記第1筒体よりも前記気体の通過抵抗が小さい第2筒体をさらに有することを特徴とする糸条冷却装置。
【請求項2】
前記整流体は、前記第1筒体と前記第2筒体の間に配置されていることを特徴とする請求項に記載の糸条冷却装置。
【請求項3】
前記第2筒体の上端側部分における前記気体の通過抵抗が、それよりも下側の部分と比べて大きいことを特徴とする請求項1又は2に記載の糸条冷却装置。
【請求項4】
紡糸ビームから下向きに紡出される複数の糸条を冷却する糸条冷却装置であって、
その内部を前記複数の糸条が上下に通過する紡糸筒を有し、
前記紡糸筒は、
気体が通過する複数の開口を有する第1筒体と、
前記第1筒体の内側に設置され、前記紡糸筒内に流入する気体の流れを内向きに整流する筒状の整流体と、を備え、
前記紡糸筒は、その上端側に、これよりも下側の部分と比べて、前記気体の流速が遅くなる低速部を有し、
前記整流体の、前記低速部に位置する第1部分は、前記紡糸筒の外側から内側に向かう前記気体の流れを、斜め上向きに整流し、
前記第1筒体の上端側部分における前記気体の通過抵抗が、それよりも下側の部分と比べて大きいことを特徴とする糸条冷却装置。
【請求項5】
前記整流体の、前記第1部分よりも下側に位置する第2部分は、前記気体の流れを、前記糸条の走行方向と直交する方向に整流することを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の糸条冷却装置。
【請求項6】
前記整流体が、金属材料で形成されていることを特徴とする請求項1〜の何れかに記載の糸条冷却装置。
【請求項7】
前記低速部の上下方向の長さが、10mm以上50mm以下であることを特徴とする請求項1〜の何れかに記載の糸条冷却装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紡糸ビームから紡出される糸条を冷却する糸条冷却装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な溶融紡糸法においては、紡糸ビームの口金から紡出された溶融ポリマーの糸条に対して、口金の直下に配置された糸条冷却装置において糸条の周囲から冷却用の気体を吹き付けることで、ポリマーを固化させる。上記の糸条冷却装置として様々な構成のものが提案されているが、その中でも、円筒状の紡糸筒内を通過する複数の糸条に対して、紡糸筒の周囲から気体を吹き付けて冷却する形式のものがある。
【0003】
上記の紡糸筒において、さらに、紡糸筒内に流れ込む気体の流れを積極的に整流する構成を備えたものが知られている。例えば、特許文献1の紡糸筒は、複数の孔が形成された筒体と、この筒体の内側に配置された整流筒を有する。筒体を通過した冷却用の気体は、筒体の内側の整流筒によって紡糸筒の中心に向けて整流される。これにより、紡糸筒内に流れ込む気流の乱れが抑制され、紡糸筒を通過する複数の糸条が均一に冷却される。
【0004】
また、糸条を構成する単糸が細い場合は、単糸切れ等の問題が生じやすい。そこで、特許文献2の紡糸筒は、紡糸筒の外側から吹き付けられた気体を、斜め上向きに吹き出すように構成されている。これにより、極細繊維の単糸を急冷して単糸切れ等を抑制できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開昭47−33217号公報
【特許文献2】特公昭62−50566号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2では、紡糸筒内に流れ込む気体の流れが斜め上向きに整流されることから、紡出された極細繊維の単糸の冷却開始(固化開始)を早めて単糸切れ等を抑制することは可能ではある。しかし、紡糸筒内で気体が上向きに吹き出されると、その吹き出された気体の流速によっては、紡糸筒の上方に位置する紡糸ビームの口金付近まで気流が舞い上がることもあり得る。その場合、溶融ポリマーが紡出される口金が冷やされる、あるいは、口金付近の雰囲気が乱されて糸揺れが生じるなどして、糸品質が低下する虞がある。
【0007】
本発明の目的は、単糸切れを防止しつつ、高品質の糸条を生産することを可能とする、糸条冷却装置を提供することである。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0008】
第1の発明の糸条冷却装置は、紡糸ビームから下向きに紡出される複数の糸条を冷却する糸条冷却装置であって、その内部を前記複数の糸条が上下に通過する紡糸筒を有し、前記紡糸筒は、気体が通過する複数の開口を有する第1筒体と、前記第1筒体の内側に設置され、前記紡糸筒内に流入する気体の流れを内向きに整流する筒状の整流体と、を備え、前記紡糸筒は、その上端側に、これよりも下側の部分と比べて、前記気体の流速が遅くなる低速部を有し、前記整流体の、前記低速部に位置する第1部分は、前記紡糸筒の外側から内側に向かう前記気体の流れを、斜め上向きに整流することを特徴とするものである。
【0009】
本発明では、外側から紡糸筒内の糸走行空間に流入する気体の流速が、第1筒体によって周方向に均一化される。さらに、第1筒体の内側の整流体によって、気体の流れの向きが内向きに整流される。これにより、複数の糸条を均一に冷却することが可能となる。これに加えて、本発明では、紡糸筒の上端側に、これよりも下側の部分と比べて、紡糸筒内へ流入する気体の流速が遅くなる低速部が設けられている。また、低速部に位置する、整流体の第1部分は、外側から内側に向かう気体の流れを斜め上向きに整流する。これにより、紡糸筒の低速部から流れ込んだ気体は、低い流速で斜め上向きに流れる。従って、斜め上向きの気体の流れによって糸条の冷却開始(固化開始)を早めることができる。その一方で、この斜め上向きの流れは流速が低いことから、気体の流れによって口金が冷やされたり、口金付近の雰囲気が乱されたりすることを抑制できる。
【0010】
第2の発明の糸条冷却装置は、前記第1の発明において、前記整流体の、前記第1部分よりも下側に位置する第2部分は、前記気体の流れを、前記糸条の走行方向と直交する方向に整流することを特徴とするものである。
【0011】
冷却用の気体が糸条に対して直角的に当たる場合に、糸条の冷却効率は最も高くなる。本発明では、低速部よりも下側における気体の流れが、糸条の走行方向と直交する方向に整流されることから、糸条の冷却効率が高くなり、糸条を確実にかつ効率的に冷却することができる。
【0012】
第3の発明の糸条冷却装置は、前記第1又は第2の発明において、前記第1筒体の内側に設置され、前記第1筒体よりも前記気体の通過抵抗が小さい第2筒体をさらに有することを特徴とするものである。
【0013】
本発明では、第1筒体の内側に、第1筒体よりも気体の通過抵抗が小さい第2筒体が設置されているため、紡糸筒内の糸走行空間に流れ込む気体の流速が、周方向に一層均一化される。
【0014】
第4の発明の糸条冷却装置は、前記第3の発明において、前記整流体は、前記第1筒体と前記第2筒体の間に配置されていることを特徴とするものである。
【0015】
本発明では、整流体が第1筒体と第2筒体によって挟まれている。つまり、整流体が第1筒体と第2筒体とによって保護された構成となっており、清掃等のために紡糸筒を取り外したりする際に、整流体が破損することが防止される。また、整流体の内側に第2筒体が位置しているため、整流体に溶融ポリマーが直接付着しにくい。従って、ポリマーの付着による整流機能の低下を抑制できる。また、溶融ポリマーが付着した場合でもその付着量は少なく、清掃作業が容易である。尚、本発明では、整流体の内側に第2筒体が配置されているため、第1筒体を通過した気体が、整流体で整流された後に、さらに第2筒体を通過することになる。しかし、第2筒体における気体の通過抵抗は第1筒体と比べて小さいため、整流体で整流された気体の流れが、第2筒体を通過する際に大きく乱れることはない。
【0016】
第5の発明の糸条冷却装置は、前記第1〜第4の何れかの発明において、前記整流体が、金属材料で形成されていることを特徴とするものである。
【0017】
整流体が金属材料で形成されていると、整流体の耐久性が高くなる。従って、整流体に溶融ポリマーが付着するなどして整流機能が低下しても、取り外して清掃することにより繰り返し使用できる。
【0018】
尚、第1筒体の上端側部分における気体の通過抵抗を局所的に大きくすることによって低速部を実現してもよい(第6の発明)。あるいは、第2筒体の上端側部分における気体の通過抵抗を局所的に大きくすることによって低速部を実現してもよい(第7の発明)。
【0019】
低速部の上下方向の長さは、10mm以上50mm以下であることが好ましい(第8の発明)。低速部が短すぎると、口金から吐出された直後の糸条の冷却が不十分となり、低速部の存在意義(冷却開始(固化開始)を早める効果)が薄れる。また、低速部が長すぎると、紡糸筒内に流入する気体の量が少なくなり、糸条の冷却不足となる虞がある。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本実施形態に係る溶融紡糸装置の概略構成図である。
図2図1の糸条冷却装置のII-II線断面図である。
図3図1の糸条冷却装置の拡大図である。
図4】整流体の一部拡大斜視図である。
図5】変更形態に係る糸条冷却装置の断面図である。
図6】別の変更形態に係る糸条冷却装置の断面図である。
図7】別の変更形態の整流体を示す図である。
図8】別の変更形態に係る糸条冷却装置の断面図である。
図9】別の変更形態に係る糸条冷却装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に、本発明の実施の形態について説明する。図1は、本実施形態に係る溶融紡糸装置の概略構成図である。尚、図1における上下方向を、本実施形態の上下方向と定義して、以下の説明を進める。本実施形態の溶融紡糸装置1は、紡糸ビーム2、糸条冷却装置3、給油装置4などを備えている。紡糸ビーム2は、複数のパックハウジング11を備えている。各パックハウジング11には、紡糸パック12が配置されており、紡糸パック12には、ポリエステル等の溶融ポリマーが貯留されている。紡糸パック12の下端部には口金13が設けられている。紡糸ビーム2は、紡糸パック12に貯留された溶融ポリマーを、口金13に形成された図示しない複数の貫通孔から複数の糸条Yとして下方に紡出する。尚、紡糸ビーム2の複数の口金13は、図1の紙面直交方向に沿って2列に千鳥状に配列されている。
【0022】
糸条冷却装置3は、紡糸ビーム2の下方に配置されており、紡糸ビーム2から紡出された複数の糸条Yを冷却して固化させる。給油装置4は、糸条冷却装置3の下方に配置されており、糸条冷却装置3により冷却された複数の糸条Yに油剤を付与する。給油装置4により油剤が付与された複数の糸条Yは、給油装置4の下方に配置された図示しない巻取装置によってそれぞれボビンに巻き取られる。
【0023】
次に、糸条冷却装置3の構成について説明する。図2は、図1の糸条冷却装置のII-II線断面図である。図3は、図1の糸条冷却装置の拡大図である。図1図3に示すように、糸条冷却装置3は、冷却箱20、複数の紡糸筒21等を備えている。
【0024】
冷却箱20の側壁にはダクト22が接続されており、ダクト22から冷却箱20内に糸条Yを冷却するための気体(例えば空気)が供給される。尚、冷却箱20とダクト22との接続部には、複数の孔が形成されたパンチング板23が設けられている。このパンチング板23により、ダクト22から冷却箱20内に流入する気体の流れが整流される。
【0025】
図2に示すように、冷却箱20内には、複数の紡糸筒21が、複数の口金13にそれぞれ対応して千鳥状に配置されている。図3に示すように、紡糸筒21は、筒体30と、筒状の整流体31と、筒状のフィルタ32とを有する。ダクト22から冷却箱20内に流れ込んだ糸条冷却用の気体は、筒体30、整流体31、フィルタ32の順に通過して、紡糸筒21内の糸走行空間を上下方向に通過する複数の糸条Yに対してその周囲から吹き付けられる。
【0026】
筒体30(第1筒体)は、複数の孔(開口)が形成されたパンチング板が円筒状に加工されてなる筒状部材である。紡糸筒21の外側から流入する気体が筒体30を通過する際に、その流速が周方向において均一化される。また、図3に示すように、筒体30の上端側部分21aは、それよりも下端側の部分21bよりも、開口率が小さくなっている。言い換えれば、筒体30の上端側部分21aにおける気体の通過抵抗が局所的に大きくなっている。尚、筒体30の開口率を部分的に変えるには、孔の数を変えてもよいし、1つの孔の大きさを変えてもよい。これにより、紡糸筒21の上端側部分21aは、それよりも下流側部分21bよりも、紡糸筒21を通過する気体の流速が遅くなる低速部となっている。尚、以下の説明では、紡糸筒21の上流側部分21aを「低速部21a」という場合もある。
【0027】
筒状の整流体31は、筒体30の内側に配置されている。図4は、整流体の一部拡大斜視図である。図3図4に示すように、整流体31は、上下方向に間隔をあけて配置された複数枚の環状プレート33(33a,33b)を有する。図4に示すように、複数枚の環状プレート33は、上下方向に延びる複数の支持部材34によって支持されている。尚、整流体31(環状プレート33)の材質は特に限定されるものではないが、金属材料等の耐久性の高い材料で形成されていると、整流体31に溶融ポリマーが付着するなどして整流機能が低下しても、取り外して清掃することにより繰り返し使用できる。
【0028】
外側の筒体30を通過してきた気体は、さらに、整流体31の複数枚の環状プレート33の間を通過することによって、内向き(半径方向内側)に整流される。また、図3図4に示すように、整流体31の、上端側に位置する第1部分31a(即ち、紡糸筒21の前記低速部21aに位置する部分)においては、環状プレート33aは、内側に向かうほど上に向くように、水平方向に対して斜め上向きに傾斜している。これに対して、整流体31の、前記第1部分31aよりも下側に位置する第2部分31bでは、環状プレート33bは水平方向と平行である。つまり、紡糸筒21の低速部21aに位置する、整流体31の第1部分31aでは、外側から内側に流れる気体が水平方向に対して斜め上向きに整流される。一方、紡糸筒21の低速部21a以外の部分に位置する、整流体31の第2部分31bでは、気体の流れは水平方向に整流される。
【0029】
フィルタ32における気体の通過抵抗は、筒体30における気体の通過抵抗と比べて、小さくなっている。フィルタ32の材質等は特に限定されないが、例えば、金網フィルタを使用することができる。あるいは、フィルタ32がパンチング板で構成されてもよい。この場合は、筒体30よりも開口率の大きいパンチング板を使用する。このように、筒体30に加えて、さらにその内側に、気体の通過抵抗が小さいフィルタ32が配置されていることで、紡糸筒21内の糸走行空間に流れ込む気体の流速が、周方向に一層均一化される。
【0030】
上述したように、紡糸筒21は、筒体30と、その内側に配置された整流体31を有する。そのため、まず、外側から紡糸筒21内に流入する気体の流速が、筒体30によって周方向に均一化される。さらに、その内側に位置する筒状の整流体31によって、気体の流れの向きが内向きに整流される。これにより、紡糸筒21を通過する複数の糸条Yを均一に冷却することが可能となり、糸斑等を抑制して糸品質を向上させることができる。
【0031】
これに加えて、紡糸筒21の上端側には、これよりも下側の部分と比べて、紡糸筒21内へ流入する気体の流速が遅くなる低速部21aが設けられている。さらに、低速部21aに位置する、整流体31の第1部分31aは、気体の流れを斜め上向きに整流する。そのため、紡糸筒21の低速部21aから流れ込んだ気体は、低い流速で斜め上向きに流れる。従って、この斜め上向きの気体の流れによって、口金13から紡出された糸条Yの冷却開始(固化開始)を早めることができる。特に、糸条Yの単糸繊度が1dtex以下である場合に、単糸の固化開始を早めることで、単糸切れを防止できる。その一方で、低い流速で斜め上向きに気体が吹き出されることから、上向きの気体の流れによって口金13が冷やされたり、口金13付近の雰囲気が乱されたりすることを抑制できる。
【0032】
一方で、整流体31の、低速部21aの第1部分31aよりも下側に位置する第2部分31bは、紡糸筒21に流れ込む気体を、糸条Yの走行方向と直交する水平方向に整流する。従って、糸条Yの冷却効率が高くなり、低速部21aを通過した複数の糸条Yを確実にかつ効率的に冷却することができる。
【0033】
また、本実施形態では、整流体31が、外側の筒体30と内側のフィルタ32の間に配置されている。つまり、整流体31が筒体30とフィルタ32とによって保護された構成となっている。従って、清掃等のために紡糸筒21を取り外したりする際に、整流体31が破損することが防止される。
【0034】
また、整流体31に溶融ポリマーが付着し、例えば、環状プレート33の間が溶融ポリマーで埋まったりすると、整流機能が低下する。この点、整流体31の内側にフィルタ32が位置しているため、整流体31に溶融ポリマーが直接付着しにくく、ポリマーの付着による整流機能の低下を抑制できる。また、溶融ポリマーが付着した場合でもその付着量は少なくなる。従って、整流体31を紡糸筒21から取り外して清掃可能な構成である場合は、清掃作業が容易になる、あるいは、清掃(取り外し)の頻度が少なくなる等の利点がある。
【0035】
尚、本実施形態のように、整流体31の内側にフィルタ32が配置されていると、筒体30を通過した気体が、整流体31で整流された後に、さらにフィルタ32を通過することになる。しかし、フィルタ32における気体の通過抵抗は、筒体30よりも小さいため、整流体31で整流された気体の流れが、フィルタ32を通過する際に大きく乱れることはない。
【0036】
以上説明した溶融紡糸装置1における寸法等の一例を示す。口金13の下面から紡糸筒21の上端位置までの距離は、特に限定されないが、好ましくは糸条Yの単糸繊度に応じて選定するのがよい。例えば、単糸繊度1dtex以下の場合は、上記距離は20〜60mmとするのがよい。
【0037】
紡糸筒21の低速部21aの上下方向長さは、10mm以上50mm以下であることが好ましい。低速部21aが短すぎると口金13から吐出された直後の糸条Yの冷却が不十分となり、低速部21aの存在意義(冷却開始(固化開始)を早める効果)が薄れる。また、低速部21aが長すぎると、紡糸筒21内に流入する気体の量が少なくなり、糸条Yの冷却不足となる虞がある。
【0038】
低速部21aにおける気体の吹き出し速度は、単糸繊度に応じて、0.1〜0.2m/sの範囲で決定することが好ましい。尚、低速部21a以外の部分21bにおける気体の吹き出し速度は、0.3〜0.6m/sとすることが好ましい。また、低速部21aにおける気体の吹き出し角度(水平方向内向きに対する傾斜角度)は、単糸繊度に応じて、5〜60度の範囲で決定することが好ましい。
【0039】
整流体31において、気体を所望の方向に向けて確実に整流するためには、各環状プレート33の径方向の長さは5mm以上とするのがよく、10mm以上とするのがより好ましい。
【0040】
次に、前記実施形態に種々の変更を加えた変更形態について説明する。但し、前記実施形態と同様の構成を有するものについては、同じ符号を付して適宜その説明を省略する。
【0041】
1]前記実施形態では、整流体31の第1部分31aと第2部分31bとで、気体の流れが整流される方向が異なっていた。しかし、図5に示すように、第2部分31bについても第1部分31aと同じように、気体の流れを斜め上向きに整流する構成であってもよい。
【0042】
あるいは、図6に示すように、整流体31が、紡糸筒21の低速部21aに対応する第1部分31aのみを有し、それより下側の第2部分31bが省略された構成であってもよい。特に、糸条Yが細い場合には、紡糸後の早い段階で固化がほぼ終わるため、それほど長い距離にわたって気体を吹き付ける必要がないことも多く、糸条Yが低速部21aを通過した後は、特段、冷却効率の向上を図る必要がない場合もある。このような場合には、整流体31の第2部分31bを省略することで、部品コストを削減できる。
【0043】
2]整流体31は、前記実施形態のような、複数枚の環状プレート33からなる構成には限られない。例えば、図7に示すように、断面六角形の流路を多数有する、ハニカム整流体であってもよい。また、実開昭47−33217号、特開2006−348457号公報に記載の波状の板を重ね合わせた構成の整流体であってもよい。
【0044】
3]紡糸筒21の上端側部分を低速部21aとするための構成は、前記実施形態の、筒体30の開口率を部分的に異ならせた構成には限られない。例えば、フィルタ32の構成を工夫して紡糸筒21の低速部21aを実現してもよい。具体的には、フィルタ32の上端側部分における気体の通過抵抗を、それよりも下側の部分における通過抵抗よりも大きい構成とする。例えば、フィルタ32の上端側部分において、それよりも下側の部分よりも目が細かくなっていてもよい。または、フィルタ32の上端側部分においては、それよりも下側の部分と比べて、多くのフィルタ32が積層された構成であってもよい。あるいは、紡糸筒21の上端側にのみフィルタ32が設けられた構成であってもよい。
【0045】
4]図8に示すように、整流体31が、フィルタ32よりも内側に配置されてもよい。この場合は、整流体31を通過した気体は、整流された状態でそのまま糸条Yに吹き付けられるため、流れの乱れが少なくなり、糸条Yがより均一に冷却される。
【0046】
5]図9に示すように、フィルタ32が省略されてもよい。この場合でも、筒体30によって気体の速度が周方向に均一化されるため、糸条Yを均一に冷却することが可能である。
【0047】
6]前記実施形態では、複数の紡糸筒21も千鳥状に配列されていたが(図2参照)、紡糸筒21の配置はこれには限られない。例えば、複数の紡糸筒21が一列に配列されていてもよい。
【符号の説明】
【0048】
1 溶融紡糸装置
2 紡糸ビーム
3 糸条冷却装置
21 紡糸筒
21a 低速部
30 筒体
31 整流体
31a 第1部分
31b 第2部分
32 フィルタ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9