特許第6069078号(P6069078)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6069078防水通音膜およびその製造方法、ならびに防水通音部材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6069078
(24)【登録日】2017年1月6日
(45)【発行日】2017年1月25日
(54)【発明の名称】防水通音膜およびその製造方法、ならびに防水通音部材
(51)【国際特許分類】
   H04R 1/00 20060101AFI20170116BHJP
   H04R 1/02 20060101ALI20170116BHJP
   H04R 1/08 20060101ALI20170116BHJP
【FI】
   H04R1/00 321
   H04R1/00 311
   H04R1/02 102Z
   H04R1/08
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-84506(P2013-84506)
(22)【出願日】2013年4月15日
(65)【公開番号】特開2014-207590(P2014-207590A)
(43)【公開日】2014年10月30日
【審査請求日】2016年1月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(72)【発明者】
【氏名】阿部 悠一
(72)【発明者】
【氏名】輕部 勇希
【審査官】 大石 剛
(56)【参考文献】
【文献】 特表2003−503991(JP,A)
【文献】 特開2007−081881(JP,A)
【文献】 特開2004−083811(JP,A)
【文献】 特開2009−111993(JP,A)
【文献】 特開2012−195928(JP,A)
【文献】 特開2012−001591(JP,A)
【文献】 特開2010−058026(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 1/00
H04R 1/02
H04R 1/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
単層のポリテトラフルオロエチレン多孔質膜からなる通音領域を有し、
前記多孔質膜の面密度が10〜40g/m2であり、
前記多孔質膜の厚さ方向の通気度が9〜30秒/100mLであり、
前記多孔質膜の焼成度が85〜100である、防水通音膜。
ただし、前記通気度は、JIS L1096に規定されている通気性測定法のB法(ガーレー法)により与えられる値であり、前記焼成度は、ポリテトラフルオロエチレン未焼成体の融解熱をΔH1、ポリテトラフルオロエチレン焼成体の融解熱をΔH2、前記ポリテトラフルオロエチレン多孔質膜の融解熱をΔH3としたときに、{(ΔH1−ΔH3)/(ΔH1−ΔH2)}×100で与えられる値である。
【請求項2】
前記多孔質膜の焼成度が85〜95である、請求項1に記載の防水通音膜。
【請求項3】
前記ポリテトラフルオロエチレン多孔質膜は、JIS K7113に準拠して測定した引張強度が13N以上であって前記多孔質膜の厚さ方向に垂直な面内方向において最大となる第1方向と、前記厚さ方向および前記第1方向に垂直であり、JIS K7113に準拠して測定した引張強度が5N以上である第2方向と、を有する、請求項1または2に記載の防水通音膜。
【請求項4】
前記通音領域を囲むように、前記多孔質膜の表面に配置された粘着層をさらに含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の防水通音膜。
【請求項5】
開口を有する筐体部と、
前記開口を塞ぐように前記筐体部に取り付けられた、請求項1〜4のいずれか1項に記載の防水通音膜と、を備える防水通音部材。
【請求項6】
単層のポリテトラフルオロエチレン多孔質膜からなる通音領域を有する防水通音膜の製造方法であって、
ポリテトラフルオロエチレン未焼成体を、327℃以上の温度で第1方向に延伸し、次いで前記第1方向と直交する第2方向に延伸してポリテトラフルオロエチレン多孔質膜を得る工程(a)と、
前記通音領域を囲むように前記多孔質膜の表面に粘着層を配置する工程(b)と、を含み、
前記工程(a)において、
前記多孔質膜の焼成度が85〜100となるように、前記温度を定めると共に、
前記多孔質膜の面密度が10〜40g/m2、厚さ方向の通気度が9〜30秒/100mlとなるように、前記第1方向への延伸倍率及び前記第2方向への延伸倍率を定める、
防水通音膜の製造方法。
ただし、前記焼成度は、ポリテトラフルオロエチレン未焼成体の融解熱をΔH1、ポリテトラフルオロエチレン焼成体の融解熱をΔH2、前記ポリテトラフルオロエチレン多孔質膜の融解熱をΔH3としたときに、{(ΔH1−ΔH3)/(ΔH1−ΔH2)}×100で与えられる値であり、前記通気度は、JIS L1096に規定されている通気性測定法のB法(ガーレー法)により与えられる値である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防水通音膜およびその製造方法、ならびに防水通音部材に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話、デジタルビデオカメラ等の電子機器では、音響装置が筐体に収容されている。これらの筐体は、音の通過を許容するための開口を有する。水が筐体内に入り込むことを防ぐために、この開口に音の通過を許容しつつ水の通過を阻止する防水通音膜を取り付けることが行われている。特許文献1では、防水通音膜としてポリテトラフルオロエチレン(PTFE)多孔質膜が挙げられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−044731号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
筐体にPTFE多孔質膜が取り付けられた電子機器を水中で繰り返し用いると、PTFE多孔質膜が水圧により不可逆に変形し、PTFE多孔質膜による防水性に影響が及ぶことがある。本発明者の検討によると、このような変形は、1回のみ水圧を加えて測定される耐水圧が高いPTFE多孔質膜を用いたときにも観察される。PTFE多孔質膜の変形を抑えるためには、PTFE多孔質膜の強度を高めればよい。しかし、PTFE多孔質膜の通音性を維持しつつ、繰り返し水圧を加えたときのPTFE多孔質膜による防水性を向上させることは容易でない。例えば、単にPTFE多孔質膜の面密度を高めて強度の向上を図ったのでは、膜の通音性が低下する。
【0005】
このような事情に鑑み、本発明は、防水通音膜を改良することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、
単層のポリテトラフルオロエチレン多孔質膜からなる通音領域を有し、
前記多孔質膜の面密度が10〜40g/m2であり、
前記多孔質膜の厚さ方向の通気度が9〜30秒/100mLであり、
前記多孔質膜の焼成度が85〜100である、防水通音膜を提供する。
ただし、前記通気度は、JIS L1096に規定されている通気性測定法のB法(ガーレー法)により与えられる値であり、前記焼成度は、ポリテトラフルオロエチレン未焼成体の融解熱をΔH1、ポリテトラフルオロエチレン焼成体の融解熱をΔH2、前記ポリテトラフルオロエチレン多孔質膜の融解熱をΔH3としたときに、{(ΔH1−ΔH3)/(ΔH1−ΔH2)}×100で与えられる値である。
【0007】
また、本発明は、
開口を有する筐体部と、
前記開口を塞ぐように前記筐体部に取り付けられた、上記の防水通音膜と、を備える防水通音部材を提供する。
【0008】
また、本発明は、
単層のポリテトラフルオロエチレン多孔質膜からなる通音領域を有する防水通音膜の製造方法であって、
ポリテトラフルオロエチレン未焼成体を、327℃以上の温度で第1方向に延伸し、次いで前記第1方向と直交する第2方向に延伸してポリテトラフルオロエチレン多孔質膜を得る工程(a)と、
前記通音領域を囲むように前記多孔質膜の表面に粘着層を配置する工程(b)と、を含み、
前記工程(a)において、
前記多孔質膜の焼成度が85〜100となるように、前記温度を定めると共に、
前記多孔質膜の面密度が10〜40g/m2、厚さ方向の通気度が9〜30秒/100mlとなるように、前記第1方向への延伸倍率及び前記第2方向への延伸倍率を定める、
防水通音膜の製造方法を提供する。
ただし、前記焼成度は、ポリテトラフルオロエチレン未焼成体の融解熱をΔH1、ポリテトラフルオロエチレン焼成体の融解熱をΔH2、前記ポリテトラフルオロエチレン多孔質膜の融解熱をΔH3としたときに、{(ΔH1−ΔH3)/(ΔH1−ΔH2)}×100で与えられる値であり、前記通気度は、JIS L1096に規定されている通気性測定法のB法(ガーレー法)により与えられる値である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の防水通音膜は、音を良好に通過させる通音性と、繰り返し水圧がかかっても変形し難い耐水性とを兼ね備えている。本発明の防水通音膜は、水中での使用が想定される、音響装置が収容されている電子機器に、好適に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の防水通音膜の一例を模式的に示す断面図である。
図2】本発明の防水通音膜の一例を模式的に示す斜視図である。
図3】本発明の防水通音部材の一例を模式的に示す拡大断面図である。
図4】本発明の防水通音膜が適用された電子機器の一例を模式的に示す拡大断面図である。
図5】実施例で用いた、防水通音膜の評価方法を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付の図面を参照しつつ本発明の実施形態について説明する。
【0012】
図1は本実施形態の防水通音膜10の断面図であり、図2は防水通音膜10の斜視図である。防水通音膜10は、音の通過を許容する通音領域13cと、通音領域13cを囲む周縁領域13pとを有している。通音領域13cは、単層のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)多孔質膜11により構成されている。周縁領域13pは、PTFE多孔質膜11と粘着層12とを備えている。粘着層は、粘着剤のみにより構成されていてもよいが、両面テープであってもよい。
【0013】
PTFE多孔質膜11の面密度は、10〜40g/m2である。PTFE多孔質膜11の厚さ方向の通気度は、JIS L1096に規定されている通気性測定法のB法(ガーレー法)により与えられる値にして、9〜30秒/100mLである。PTFE多孔質膜11の焼成度は、85〜100である。面密度、通気度および焼成度の範囲が上記のように設定されているため、防水通音膜10では、通音領域13cにおける変形が抑制されつつ、通音領域13cを通過する際の音の損失が抑制される。PTFE多孔質膜11の面密度は、好ましくは15〜35g/m2である。PTFE多孔質膜11の通気度は、好ましくは12〜28秒/100mLである。PTFE多孔質膜11の焼成度は、好ましくは88〜100である。焼成度は、PTFE多孔質膜11の処理温度、例えば延伸温度、によって制御できる。焼成度は、高温に曝されたときの膜の微多孔構造にも影響を受ける。このため、焼成度は、延伸倍率にも左右される。
【0014】
通音性を確保する観点からは、面密度は小さく、通気度は大きいほうが望ましい。しかし、防水性との両立のためには、面密度および通気度は上記範囲にあることが好ましい。
【0015】
焼成度は85〜95の範囲内としてもよい。防水性向上の観点からは焼成度は高ければ高いほうがよい。他方、高い焼成度を達成するために延伸温度を高く設定することは製造コスト削減の観点からは避けたほうがよい。本発明者の検討によると(後述する実施例)、85以上の焼成度があれば実用的な防水性は実現できる。したがって、防水通音膜の量産を考慮すると、焼成度は85〜95程度が適切である。
【0016】
焼成度は、PTFE未焼成体の融解熱をΔH1、PTFE焼成体の融解熱をΔH2、PTFE多孔質膜11の融解熱をΔH3としたときに、{(ΔH1−ΔH3)/(ΔH1−ΔH2)}×100で与えられる値である。焼成度は、具体的には、示差走査熱量計(DSC)を用い、後述の実施例における[焼成度]の項目に記載の手順で吸熱ピークの面積を求めることにより測定することができる。PTFE焼成体(完全焼成体、焼成度100)のDSCによる吸熱ピークは、320〜330℃に頂部を有し、PTFE未焼成体(完全未焼成体、焼成度0)のDSCによる吸熱ピークは、330〜350℃に頂部を有する。これらの吸熱ピークよりも、焼成度が100未満のPTFE不完全焼成体の吸熱ピークはブロードな形状となり、例えば320〜330℃および330〜350℃に2つのピークを有し、また例えば320〜330℃に存在する1つのピークおよび330〜350℃に存在する1つのショルダーを有する。融解熱ΔH3を測定するためにPTFE多孔質膜を400℃程度まで加熱すると、PTFE多孔質膜は完全焼成体となる。融解熱ΔH2はこの完全焼成体について再度融解熱を測定することにより算出できる。ただし、PTFE未焼成体を焼成して得た焼成体の融解熱を測定することによっても算出できる。
【0017】
本実施形態のPTFE多孔質膜11は、この膜11の厚さ方向に垂直な面内方向であり、JIS K7113に準拠して測定した引張強度が13N以上、例えば14N以上23N以下、であって面内方向において最大となる第1方向と、厚さ方向および第1方向に垂直であり、JIS K7113に準拠して測定した引張強度が5N以上、例えば5.2N以上15N以下、である第2方向と、を有している。二軸延伸により多孔化されたPTFE多孔質膜は、通常、ノードとフィブリルとにより構成された多孔構造を有し、フィブリルが発達して延びる方向の引張強度が最大となる。本実施形態のPTFE多孔質膜11は、面内方向の最大強度のみならず、最大強度が得られる方向と直交する方向における強度も高いため、高い通気度と高い耐水圧との両立に適している。後述する製造方法により得たPTFE多孔質膜では、第1方向は第1延伸工程における延伸方向(長手方向)に、第2方向は第2延伸工程における延伸方向(幅方向)にそれぞれ対応して現れる。
【0018】
本実施形態の防水通音膜10は、防水通音膜10を相手材(筐体等)に接着するための粘着層12として両面テープを備えている。両面テープは、PTFE多孔質膜11の周縁部11pの表面11fに貼り付けられている。両面テープ等の粘着層は、通音領域13cを囲むようにPTFE多孔質膜11の表面に配置される。なお、粘着層12は、裏面11bに形成されていてもよく、表面11fおよび裏面11bの両方に形成されていてもよい。
【0019】
PTFE多孔質膜11の表面11fおよび/または裏面11bは、撥水処理または撥油処理が施されていてもよい。撥水処理または撥油処理は、例えば、表面11fおよび/または裏面11bに、PTFEよりも表面張力が低い材料を含浸させることにより実施できる。
【0020】
PTFE多孔質膜11は、顔料、染料等の着色剤を含有していてもよい。染料としては、アゾ系染料、油溶性染料等が挙げられる。好ましい着色剤の一例は、カーボンブラックである。
【0021】
図3に、防水通音膜10が配置された防水通音部材20を示す。防水通音部材20は、開口22を有する筐体部21と、開口22を塞ぐように筐体部21に取り付けられた、防水通音膜10と、を備えている。防水通音膜10は、粘着層12の粘着力により筐体部21に固定されている。なお、粘着層12を省略して、熱ラミネート等により、PTFE多孔質膜11を筐体部21に直接固定することもできる。この場合、防水通音膜10は、周縁領域13pにおいても単層のPTFE多孔質膜11により構成されている。
【0022】
PTFE多孔質膜11を備える防水通音膜が適用された電子機器の例として、図4に携帯電話30を示す。なお、携帯電話30中の防水通音膜110は、PTFE多孔質膜11の裏面11bにも粘着層12として両面テープが貼り付けられている点を除いて、防水通音膜10と同様である。
【0023】
携帯電話30の筐体38内には、マイクロフォン33が収容されている。筐体38には、外部からの音声をマイクロフォン33に導く集音口39が設けられている。マイクロフォン33のパッケージ35内には、音声を電気信号に変換する集音部34が収容されている。パッケージ35は内部が空洞の直方体であり、パッケージ35の一つの面には、筐体38の集音口39から導入された音声を、マイクロフォン33の集音部34に導く集音口36が設けられている。それぞれの集音口36、39は、防水通音膜110により塞がれつつ、防水通音膜110を介して接合されている。マイクロフォン33は、パッケージ35の底面に設けられた端子(図示せず)によって、携帯電話30の回路基板31と電気的に接続されており、集音部34によって音声から変換された電気信号が、端子を介して回路基板31に出力される。携帯電話30では、集音口36、39を塞ぐように配置された防水通音膜110によって、集音口36、39からマイクロフォン33の集音部34への塵芥や水等の異物の侵入を防ぎながら、集音部34へ音声を通過させることができ、マイクロフォン33における雑音の発生やその故障を少なくしながら、マイクロフォン33の性能を確保できる。
【0024】
次に、上述のような、通音領域が単層のPTFE多孔質膜からなる防水通音膜の製造に適した製造方法の一例を説明する。
【0025】
この製造方法は、PTFE多孔質膜の製造方法として、ポリテトラフルオロエチレン未焼成体を得る成形工程と、ポリテトラフルオロエチレン未焼成体を加熱しながら延伸する第1延伸工程および第2延伸工程とを備える。
【0026】
成形工程では、PTFE微粉末に液状潤滑剤を加えた混合物を、押出法および圧延法の少なくとも1つの方法により押出または圧延して、所定方向に延びるシート状に成形してポリテトラフルオロエチレン未焼成体を得る。
【0027】
成形工程で用いるPTFE微粉末は、特に制限されるものではなく、種々の市販のものを使用できる。ただし、耐水性が高いPTFE多孔質膜を得る観点からは、成形工程において高分子量のPTFE微粉末を用いることが好ましい。好ましいPTFE微粉末としては、ポリフロンF−101HE(ダイキン工業社製)、フルオンCD−123(旭硝子社製)、テフロン6J(三井・デュポンフロロケミカル社製)等が例示される。
【0028】
成形工程で用いる液状潤滑剤は、PTFE微粉末を濡らすことができ、蒸発や抽出等の方法によって除去できるものであれば特に制限されるものではない。このような液状潤滑剤としては、炭化水素類の流動パラフィン、ナフサ、トルエン、キシレン等が挙げられ、他にもアルコール類、ケトン類、エステル類、フッ素系溶剤が例示される。また、これらの例の2種類以上の混合物を用いてもよい。潤滑剤の添加量は、シート状成形体の成形方法によって異なるが、通常、PTFE微粉末100重量部に対して約5〜50重量部である。
【0029】
具体的な一例では、液状潤滑剤で濡れたPTFE微粉末を、シリンダーにより圧縮し、ラム押出し機から押出してシート状に成形する。このシートを、対になったロール間で適当な厚み(通常は0.05〜0.50mm)に圧延する。その後、液状潤滑剤を、加熱法もしくは抽出法によって追い出す。このようにして、ポリテトラフルオロエチレン未焼成体を得る。
【0030】
第1延伸工程では、成形工程で得られたポリテトラフルオロエチレン未焼成体を、第1延伸温度で、ポリテトラフルオロエチレン未焼成体の厚さ方向に垂直な長手方向に第1延伸倍率で延伸して中間体を得る。
【0031】
第1延伸温度は、327℃(ポリテトラフルオロエチレンの融点)以上、例えば327〜400℃である。第1延伸温度をこの程度に高く設定することは、焼成度が85〜100であり、外力による変形の小さいPTFE多孔質膜を得る上で有利である。第1延伸温度は、好ましくは350〜390℃である。
【0032】
第1延伸倍率は、例えば、2〜10倍である。第1延伸倍率の上限を上記のように設定することは、PTFE多孔質膜の孔が過大となることに伴う防水通音膜の耐水性の低下(PTFE多孔質膜の孔からの水漏れ)を抑制できる点で有利である。また、第1延伸倍率が過度に低い場合には、低い第1延伸倍率により、または後述の第2延伸工程において採用し得る第2延伸倍率が小さい値に制限されることによりPTFE多孔質膜の面密度が過大となることがあるが、第1延伸倍率の下限を上記のように設定すると、そのような問題は生じ難い。第1延伸倍率は、好ましくは2.2〜7倍である。好ましい別例では、第1延伸倍率は2〜5倍である。
【0033】
第2延伸工程では、中間体を、第2延伸温度で、上記の厚さ方向および長手方向に垂直な幅方向に第2延伸倍率で延伸する。
【0034】
第2延伸温度は、例えば、40〜400℃である。第2延伸倍率は、例えば、3〜20倍である。第2延伸温度および第2延伸倍率をこの範囲とすることは、高い耐水性を有する多孔質膜を得ることと、延伸時における中間体の破断を防止することとを両立させる観点から有利である。第2延伸温度は、好ましくは100〜300℃である。第2延伸倍率は、好ましくは4〜10倍である。本実施形態では、PTFE多孔質膜の面密度が10〜40g/m2、厚さ方向の通気度が9〜30秒/100mLとなるように、第1延伸倍率および第2延伸倍率を定める。
【0035】
上述の例では、成形工程と、第1延伸工程と、第2延伸工程とによりPTFE多孔質膜を製造するが、撥水処理または撥油処理が施されたPTFE多孔質膜を得るべき場合には、第2延伸工程の後に撥水処理または撥油処理を実施すればよい。撥水処理または撥油処理用の材料(処理剤)は、例えば、撥水剤または撥油剤を溶剤と配合することにより得られる。このような撥水剤または撥油剤の具体例としては、パーフルオロアルキルアクリレート、パーフルオロアルキルメタクリレート等が挙げられる。
【0036】
また、着色されたPTFE多孔質膜を得るべき場合には、染料または顔料を溶剤に溶かして得た溶液を、キスコーター等を用いてPTFE多孔質膜に塗布し、乾燥させればよい。また、成形工程における混合物にカーボンを含ませることにより、黒色のPTFE多孔質膜を得ることもできる。
【0037】
また、粘着層を設ける場合には、通音領域を囲むようにPTFE多孔質膜の表面に粘着層を配置すればよい。
【実施例】
【0038】
(実施例1)
PTFEファインパウダー(F101HE、ダイキン工業社製)100重量部に対して、液状潤滑剤(n-ドデカン、ジャパンエナジー社製)20重量部を均一に混合した。得られた混合物を、シリンダーで圧縮し、その後ラム押出してシートを得た。得られたシートを、液状潤滑剤を含んだ状態で、金属製圧延ロール間に通して厚さ0.2mmに圧縮し、150℃での加熱により乾燥させて液状潤滑剤を除去した。これにより、未焼成のシート状成形体を得た。このシート状成形体を370℃で長手方向に2.5倍の倍率で延伸し、次いで、150℃で幅方向に6倍の倍率で延伸した。このようにしてPTFE多孔質膜E1を得た。
【0039】
(実施例2)
シート状成形体を長手方向に延伸する際に、長手方向に3倍に延伸したこと以外は、実施例1と同様の手順により、PTFE多孔質膜E2を得た。
【0040】
(実施例3)
シート状成形体を長手方向に延伸する際に、長手方向に5倍に延伸したこと以外は、実施例1と同様の手順により、PTFE多孔質膜E3を得た。
【0041】
(比較例1)
250℃で長手方向に8倍に延伸したこと、150℃で幅方向に45倍に延伸したこと以外は実施例1と同様にしてPTFE多孔質膜を得た。このPTFE多孔質膜を2枚準備し、2枚のPTFE多孔質膜を、それらの長手方向が一致するように積層した。得られた積層体を、400℃の炉の中で、3分間加熱した。このようにして積層されたPTFE多孔質膜C1を得た。
【0042】
(比較例2)
2枚のPTFE多孔質膜のそれぞれを得る際に、幅方向に10倍に延伸したこと以外は比較例1と同様の手順により、積層されたPTFE多孔質膜C2を得た。
【0043】
(比較例3)
長手方向に1.8倍に延伸したこと以外は実施例1と同様の手順により、PTFE多孔質膜C3を得た。
【0044】
PTFE多孔質膜E1〜E3、C1〜C3につき、次のようにして面密度、通気度、耐水圧、繰り返し耐水圧、音の損失、引張強度および焼成度を調べた。
【0045】
[面密度]
PTFE多孔質膜の面密度は、φ47mmのポンチで多孔質膜を打ち抜いた後、打ち抜いた部分の質量を測定し、1m2あたりの質量に換算して求めた。
【0046】
[通気度]
PTFE多孔質膜の通気度は、JIS L1096に規定されているB法(ガーレー試験法)に準拠して、ガーレー数(所定の圧力を加えた時に、体積100mLの空気が多孔質膜を透過するのに必要な時間)により求めた。
【0047】
[引張強度]
PTFE多孔質膜の引張強度は、JIS K7113に記載のダンベル2号の形状に多孔質膜を切り出した後、得られた試験片を引張試験機(エー・アンド・ディー社製、テンシロン万能試験機MODELテンRTC−1310A−PL)により、以下の条件で引張試験を行うことで求めた。引張強度は、PTFE多孔質膜の長手方向および幅方向のそれぞれに対して測定した。
チャック間距離:95mm
引張速度:200mm/分
測定温度:25℃
【0048】
引張強度は、引張試験によってPTFE多孔質膜が破断したときの最大負荷加重(N)を、PTFE多孔質膜の引張試験前の断面積(mm2)で除した値となる。なお、試験片の幅は6mmであり、試験片の厚さは、試験片ごとにダイヤルゲージにより測定した。また、表1に示す引張強度は、3回の測定の平均値である。
【0049】
[耐水圧]
耐水圧は、JIS L1092に記載されている耐水度試験機(B法:高水圧法)を用いて求めた。ただし、JIS L1092に規定の面積では膜が著しく変形するため、開口径が2mmまたは10mmのステンレスメッシュを膜の加圧面の反対側に設置し、変形を抑制した状態で耐水圧を測定した。
【0050】
[繰り返し耐水圧]
繰り返し耐水圧は、耐水圧試験と同じく、JIS L1092に記載されている耐水度試験機を用いて行った。具体的には、150kPaの水圧(深度15mの水圧に相当する)をPTFE多孔質膜に印加し、30分保持する試験を5回繰り返した。その後に水漏れの有無を観察し、良否判定を行った。良否の判定基準は次の通りである。
A:水漏れ無し
B:水漏れ有り
【0051】
なお、この試験において水漏れがないサンプルは、JIS C0920に定められたIPX8に相当する防水性を有すると考えることができる。
【0052】
[音の損失]
サンプルにおける音の損失は、以下のように評価した。
【0053】
最初に、図5に示すような、携帯電話の筐体を模した模擬筐体41(アクリル製、長さ70×幅50×高さ15mm)を準備した。この模擬筐体41は2つの部分41a、41bからなり、部分41aおよび41bは互いに嵌め合わせることができる。部分41aには、取付穴42(φ=13mm)が設けられている。部分41a、41bを互いに嵌め合わせることによって、模擬筐体41内に、取付穴42およびリード線44の導通口43以外の開口がない空間が形成される。
【0054】
これとは別に、各実施例および比較例において作製したPTFE多孔質膜(図5では、PTFE多孔質膜に符号211を付している)を、トムソン型を用いて直径16mmの円形に打ち抜いた。次に、打ち抜いたPTFE多孔質膜の双方の主面の周縁部に、外形16mm、内径13mmのリング状に打ち抜いた両面テープ212をそれぞれ貼り付けた。その後、一方の両面テープ212を介してPTFE多孔質膜を音源となるスピーカー45(スター精密社製、SCC−16A、φ=16mm)に貼り付けた。
【0055】
次に、PTFE多孔質膜を貼り付けたスピーカー45を、模擬筐体41の部分41aにおける取付穴42に、PTFE多孔質膜が取付穴42に面するとともにPTFE多孔質膜が取付穴42を塞ぐように、部分41bと嵌め合わせたときに内側となる面から固定した。スピーカー45の部分41aへの固定は、PTFE多孔質膜におけるスピーカー45側とは反対側の面に貼り付けられた両面テープ212により行い、その際に、両面テープ212が取付穴42にかからないようにするとともに、取付穴42がPTFE多孔質膜によって完全に塞がれるように注意した。
【0056】
次に、スピーカー45のリード線44を、導通口43を通して模擬筐体41の外部に導き出しながら、部分41aと41bとを嵌め合わせ、PTFE多孔質膜の音の損失を測定するための模擬筐体41を形成した。導通口43は、リード線44を導き出した後、パテで塞いだ。
【0057】
次に、リード線44とマイク(Bruel & Kjar社製のType2669とType4192とを組み合わせたもの)とを通音性評価装置(Bruel & Kjar社製、3560−B−030)に接続し、スピーカー45から50mm離れた位置にマイクを配置した。
【0058】
このような状態でマイクが受音した音量と、PTFE多孔質膜を省略したこと以外は同様の状態でマイクが受音した音量とを測定し、これらの差から音の損失(dB)を評価した。測定に用いた音の周波数は1000Hzとした。音の損失が小さくなるほど、原音をよく再現していることとなる。損失が5dB以下であれば、通音性が高いといえる。
【0059】
[焼成度]
延伸前の未焼成のシート状成形体の融解熱ΔH1と、シート状成形体を完全に焼成させて得た焼成体の融解熱ΔH2と、PTFE多孔質膜の融解熱ΔH3とを測定した。融解熱ΔH1、ΔH2およびΔH3は示差走査熱量計(DSC:ブルカー・エイエックスエス株式会社製DSC 200 F3 Maia)を用いて測定した。融解熱は、融解熱曲線のベースラインと、吸熱カーブとにより囲まれた部分の面積に基づいて求めることができる。
【0060】
融解熱ΔH1の測定においては、まず、シート状成形体から15±5mgの試料を秤量した。次に、秤量した試料を、DSCのアルミニウムパンに仕込み、10℃/minの昇温速度で室温から400℃まで加熱した。PTFEの未焼成体であるシート状成形体の吸熱ピークのピーク位置は、330〜350℃に存在した。
【0061】
融解熱ΔH2の測定においては、融解熱ΔH1の測定時の加熱で得た焼成体を利用した。まず、得られた焼成体を、10℃/minの冷却速度で400℃から250℃まで冷却し、その後、10℃/minの昇温速度で400℃まで再加熱し、融解熱ΔH2を測定した。PTFEの各焼成体の吸熱ピークのピーク位置は、320〜340℃の範囲に存在した。
【0062】
融解熱ΔH3の測定においては、各実施例および比較例から得たPTFE多孔質膜から15±5mgの試料を秤量した。次に、秤量した試料を、DSCのアルミニウムパンに仕込み、10℃/minの昇温速度で室温から400℃まで加熱し、融解熱ΔH3を測定した。各PTFE多孔質膜の吸熱ピークのピーク位置は、320〜350℃の範囲に存在した。
【0063】
得られた融解熱ΔH1、ΔH2およびΔH3から焼成度Sを、下記式に基づいて算出した。
S={(ΔH1−ΔH3)/(ΔH1−ΔH2)}×100
【0064】
PTFE多孔質膜E1〜E3、C1〜C3につき、上記のようにして面密度、通気度、耐水圧、繰り返し耐水圧、音の損失、引張強度および焼成度を測定した結果を表1に示す。
【0065】
【表1】
【0066】
面密度が10〜40g/m2の範囲にあり、通気度が9〜30秒/100mLの範囲にあり、かつ焼成度が85〜100の範囲にある実施例1〜3では、繰り返し耐水圧はAと判定された。従って、実施例1〜3のPTFE多孔質膜E1〜E3は、水深15m程度の水圧がかかる筐体(電子機器)に配置されて繰り返し水圧が加えられても、変形による水漏れを生じさせ難いといえる。また、実施例1〜3では、音の損失は5dB以下であった。従って、PTFE多孔質膜E1〜E3は、通音性を要する筐体にも好適に使用できるといえる。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の防水通音膜は、水中での使用が想定される、音響装置が収容されている電子機器に、好適に使用できる。具体的には、携帯電話、デジタルビデオカメラ等に好適に使用できる。
【符号の説明】
【0068】
10,110 防水通音膜
11,211 PTFE多孔質膜
11b 裏面
11f 表面
11p 周縁部
12,212 粘着層(両面テープ)
13c 通音領域
13p 周縁領域
20 防水通音部材
21 筐体部
22 開口
30 携帯電話
31 回路基板
33 マイクロフォン
34 集音部
35 パッケージ
36 集音口
38 筐体
39 集音口
41 模擬筐体
41a,41b 部分
42 取付穴
43 導通口
44 リード線
45 スピーカー
図1
図2
図3
図4
図5