特許第6069113号(P6069113)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6069113サンプリング波形測定装置およびサンプリング波形測定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6069113
(24)【登録日】2017年1月6日
(45)【発行日】2017年2月1日
(54)【発明の名称】サンプリング波形測定装置およびサンプリング波形測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01R 13/34 20060101AFI20170123BHJP
   G01J 11/00 20060101ALI20170123BHJP
【FI】
   G01R13/34 B
   G01R13/34 A
   G01J11/00
【請求項の数】10
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2013-129925(P2013-129925)
(22)【出願日】2013年6月20日
(65)【公開番号】特開2015-4584(P2015-4584A)
(43)【公開日】2015年1月8日
【審査請求日】2015年7月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000572
【氏名又は名称】アンリツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079337
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 誠志
(72)【発明者】
【氏名】森 隆
【審査官】 越川 康弘
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−133866(JP,A)
【文献】 特開昭63−083677(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 13/34
G01J 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定信号をサンプリング周波数(fs)でサンプリングするサンプリング部(21)と、
前記サンプリング部でサンプリングされた被測定信号をデジタルのサンプル値の信号列に変換するA/D変換部(22)と、
当該装置の動作初期時に、所定個数の前記サンプル値の信号列から前記被測定信号の繰返し周波数またはビットレートと前記サンプリング周波数の整数倍との間のビート周波数(fb)、または、該ビート周波数の前記サンプリング周波数に対する相対値(fb/fs)を算出して、初期ビート周波数(fbまたはfb/fs)として出力するビート周波数演算部(23)と、
記初期ビート周波数を設定値として受け、該初期ビート周波数を初期周波数とする正弦波を出力する数値制御発振器(26)、該数値制御発振器から出力される正弦波と前記サンプル値の信号列とを乗算する乗算器(27)、該乗算器の出力信号の低周波成分を出力する低域通過フィルタ(28)、該低域通過フィルタが出力する前記低周波成分の位相を出力する位相検波器(29)および該位相検波器が出力する位相(φ)に所定の帰還係数(k)を乗算し、該乗算結果(k・φ)により、前記数値制御発振器が出力する正弦波の周波数を帰還制御する帰還手段(30)とからなる位相ロックループ部(25)と、
前記数値制御発振器が出力する正弦波の周波数と前記位相検波器が出力する位相(φ)から、前記サンプル値それぞれの時間軸値を算出する時間軸算出部(40)とを備え、
前記時間軸算出部で算出された時間軸値と前記サンプル値から前記被測定信号の波形を得ることを特徴とするサンプリング波形測定装置。
【請求項2】
前記ビート周波数演算部が、前記サンプル値の前記初期ビート周波数の成分の位相を初期位相(φ)として出力し、
該初期位相に応じて前記位相ロックループ部の前記数値制御発振器が出力する正弦波の位相の初期値が設定されることを特徴とする請求項1記載のサンプリング波形測定装置。
【請求項3】
前記ビート周波数演算部が、前記サンプル値の前記初期ビート周波数の成分の振幅を初期振幅(a)として出力し、
該初期振幅に応じて前記位相ロックループ部の前記低域通過フィルタの振幅の初期値が設定されることを特徴とする請求項1または請求項2記載のサンプリング波形測定装置。
【請求項4】
前記位相検波器が出力する位相に対する前記帰還係数(k)および前記低域通過フィルタの遮断周波数の少なくとも一方を可変することで、前記位相ロックループ部の閉ループ帯域を可変する閉ループ帯域可変手段(33)を有していることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のサンプリング波形測定装置。
【請求項5】
前記位相ロックループ部の前記低域通過フィルタが出力する前記低周波成分の振幅が所定値以下になった場合または前記位相検波器が出力する前記位相が所定範囲を超えた場合に、前記位相ロックループ部の同期外れが発生したことを前記ビート周波数演算部に通知して、新たな前記初期ビート周波数を算出させる同期外れ検出手段(34)を有し、
前記同期外れ検出手段からの通知を受けた前記ビート周波数演算部が新たに算出した前記初期ビート周波数を前記位相ロックループ部に設定し直し、前記位相ロックループ部の同期を回復させることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のサンプリング波形測定装置。
【請求項6】
前記時間軸算出部で算出された複数の時間軸値から、所定の時間軸値範囲内に前記時間軸値が存在しない欠落領域の有無を検出し、該欠落領域が検出された場合に、前記サンプリング部に対して前記サンプリング周波数の変更を指示するとともに前記ビート周波数演算部に対して新たな前記初期ビート周波数の算出を指示する欠落検出手段(35)を有し、
前記欠落検出手段からの指示によって前記ビート周波数演算部が新たに算出した前記初期ビート周波数を前記位相ロックループ部に設定し直し、前記時間軸値の欠落状態から復帰させることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のサンプリング波形測定装置。
【請求項7】
前記ビート周波数演算部は、
前記所定個数の前記サンプル値を離散フーリエ変換して離散スペクトルを算出し、該離散スペクトルの強度が最大となる周波数、または、該周波数の前記サンプリング周波数に対する相対値を、前記初期ビート周波数として検出することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のサンプリング波形測定装置。
【請求項8】
前記ビート周波数演算部は、
前記所定個数の前記サンプル値を離散フーリエ変換して離散スペクトルを算出し、該離散スペクトルの強度が極大となる複数の極大周波数を、前記被測定信号の繰返し周波数またはビットレートと、前記サンプリング周波数の整数倍との間で生じる基本ビート周波数の候補値として検出し、該候補値のうち、前記被測定信号の繰返し周波数またはビットレートの整数倍と、前記サンプリング周波数の整数倍との間で生じる高調波ビート周波数と前記極大周波数との誤差が最も小さくなる候補値、または、該候補値の前記サンプリング周波数に対する相対値を、前記初期ビート周波数と決定して出力することを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載のサンプリング波形測定装置。
【請求項9】
前記A/D変換部から出力されるサンプル値の信号列に対して、前記被測定信号のビットレートの周波数成分を発生させる非線形処理を行なう非線形処理部(32)を設け、
前記ビート周波数演算部および前記位相ロックループ部の前記乗算器に対して、前記サンプル値の代わりに前記非線形処理部の出力を与えることを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載のサンプリング波形測定装置。
【請求項10】
被測定信号をサンプリング周波数(fs)でサンプリングし、該サンプリングした被測定信号をデジタルのサンプル値の信号列に変換する段階と、
動作初期時に、所定個数の前記サンプル値の信号列から前記被測定信号の繰返し周波数またはビットレートと前記サンプリング周波数の整数倍との間のビート周波数(fb)、または、該ビート周波数の前記サンプリング周波数に対する相対値(fb/fs)を算出して、初期ビート周波数(fbまたはfb/fs)として出力する段階と、
前記初期ビート周波数を設定値とし、該初期ビート周波数を初期周波数とする正弦波を発生させ、該正弦波と前記サンプル値の信号列とを乗算し、該乗算結果から低周波成分を抽出し、該抽出した低周波成分の位相(φ)を検出し、該検出した位相に所定の帰還係数(k)を乗算し、該乗算結果(k・φ)により、前記正弦波の周波数を帰還制御する位相ロックループの段階と、
前記正弦波の周波数と前記検出した位相(φ)から、前記サンプル値それぞれの時間軸値を算出する段階とを含み、
前記算出した時間軸値と前記サンプル値から前記被測定信号の波形を得ることを特徴とするサンプリング波形測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高速な被測定信号の波形を測定する技術に関し、特に被測定信号のビットレートと非同期にサンプリングして得られたサンプル値の信号列から同期した被測定信号の波形を得ることができるソフトウエア同期法を用いた波形測定技術において、連続したサンプル値に対して連続して同期をかけることができるようにするための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
高速な被測定信号の波形を測定する方法として、等価サンプリング法による波形測定が広く用いられている。
【0003】
等価サンプリング方式は、図13の(a)のような一定周期で同じ波形が繰り返される被測定信号Sinに対し、図13の(b)のように、被測定信号Sinの波形の繰り返し周期の整数倍に対してして時間差Δtをもつ周期のサンプリング用パルスPs(i)を与える方式で、これによって得られるサンプル値y(i)のエンベロープが、図13の(c)の破線で示すように、被測定信号Sinの時間軸が拡大された波形となり、低速のA/D変換器でエンベロープ波形を測定することが出来る。また、被測定信号Sinが、一定のビットレートで変調された変調信号の場合にはそのアイパターンを測定することができる。
【0004】
ここで、被測定信号の繰返し周波数またはビットレートをfin、サンプリング用パルスの繰返し周波数(サンプリング周波数)をfs とすると、時間差Δtは次式で表される。
【0005】
Δt=1/fs −N/fin ……(1′)
ここで、Nは整数である。
【0006】
この等価サンプリング方式では、被測定信号の繰返し周波数またはビットレート(以下ビットレートと略す)と同期してサンプリングする必要があるため、被測定信号のビットレートと同期したトリガ信号を別途入力するか、あるいはビットレートに対応したクロック信号を被測定信号から抽出するクロック再生回路が必要であった。
【0007】
しかし、長距離伝送後の信号を測定する場合にはトリガ信号を用意することが困難であり、またクロック再生回路は広範囲のビットレートに対応することが難しいという問題があった。
【0008】
この問題を解決する技術として、被測定信号のビットレートと非同期でサンプリングされた信号から同期した被測定信号の波形(アイパターン)が得られるソフトウエア同期法が提案されている。
【0009】
図14に、従来のソフトウエア同期方式を用いたサンプリング波形測定装置の構成を示す。
【0010】
この装置では、被測定信号Sinはサンプリング部11に入力され、被測定信号Sinのビットレートと非同期の一定のサンプリング周波数fs でサンプリングされる。
【0011】
サンプリング部11でサンプリングされた被測定信号Sin(i)はA/D変換部12でデジタルのサンプル値y(i)に変換される。
【0012】
図15の(a)に示すように、被測定信号Sinにはビットレートfinとその高調波(2fin、3fin、…)の周波数成分があり、同図(b)のようにサンプリング用パルスPs(i)には、サンプリング周波数fs とその高調波(2fs 、3fs 、…)の周波数成分があり、それらを同図(c)のように周波数軸上に重ねると、被測定信号のビットレートとサンプリング周波数の高調波との間のビート(基本ビート周波数fb )と、被測定信号のビットレートの高調波とサンプリング周波数の高調波との間のビート(高調波ビート周波数2fb 、3fb 、…)が生じる。
【0013】
図15(c)より、基本ビート周波数fb は次式で表される。
fb =fin−Nfs ……(2′)
【0014】
また、式(1′)と式(2′)より、
fb=fin・fs ・Δt=fin/S ……(3′)
となる。ここで、Sはサンプリング周期をΔtで除した値であり、サンプリングによる時間軸拡大の倍率を表している。式(3′)より、基本ビート周波数fb はサンプル値y(i)の繰返し周波数に等しいことが分かる。
【0015】
したがって、サンプル値y(i)の信号列には、同図の(d)のように、各ビート成分が含まれることになる。また、ビットレートとサンプリング周波数の関係により、同図の(e)のように、ビート周波数がfs /2で折り返される場合もある。
【0016】
このサンプル値の信号列から基本ビート周波数fb と位相を検出することができれば、サンプル値が被測定信号の周期内のどの時間位置でサンプリングされたものかを特定することができる。
【0017】
具体的には、式(3′)より、時間差Δtは、
Δt=fb /(fin・fs ) ……(4′)
より求められ、サンプル値y(i)に対応する時間軸値X(i)は、
X(i)={i・Δt+(π+φ)/(2πfin)}mod(1/fin)
……(5′)
より求めることができる。ここで、X(i)は秒単位の時間軸値であり、φは基本ビート周波数成分の位相である。
【0018】
式(5′)の右辺第1項のi・Δtは、i番目のサンプリング時刻を秒単位の時刻に変換する演算である。また、式(5′)の右辺第2項のφ/(2πfin)の項は、ラジアン単位の位相φを秒単位の時刻に変換する演算であり、φが変わっても表示される波形の位相(例えばアイ開口の位置)を一定に保つためのものである。また、式(5′)の右辺第2項のπ/(2πfin)の項は、波形の横軸方向の表示位置(例えばアイ開口の位置)を決めるオフセット値であり、この値に限られるものではない。mod は剰余演算であり、式(5′)のmod(1/fin)の演算によって時間軸値X(i)は被測定信号の1ビット周期で折り返され、被測定信号のビット周期内の時間位置に変換される。
【0019】
したがって、横軸を時間軸値X(i)、縦軸をサンプル値y(i)として2次元平面上に特定個数の点をプロットすると、同期のとれた被測定信号の波形(アイパターン)が得られる。
【0020】
この処理を行なうために、ソフトウエア同期部13は、特定個数のサンプル値y(i)を用いて以下の処理を実行する。
【0021】
即ち、連続して取得された複数のサンプル値y(i)を離散フーリエ変換部14により離散フーリエ変換して離散スペクトルPiを求め、補間処理部15に出力する。補間処理部15は離散スペクトルPiを補間した補間値P(f)をビート周波数検出部16に出力する。
【0022】
ビート周波数検出部16は、スペクトルの極大値が高調波ビート周波数またはその折り返しと一致し、補間値P(f)が極大となる基本ビート周波数fb を検出して、位相検波部17および時間軸算出部18に出力する。
【0023】
位相検波部17は基本ビート周波数fb の成分におけるy(i)の位相φを検出する。
【0024】
時間軸検出部18は、次式(1)よりUI(ユニットインターバル)単位の時間軸値x(i)を求める。
【0025】
x(i)=[(i・fb /fs )+(π+φ)/2π]mod 1 ……(1)
ここで、記号mod は剰余演算を表す。
【0026】
式(1)は、前式(5′)の秒単位の時間軸値X(i)を1/finで除算してUI単位の時間軸値x(i)に変換したものである。サンプル値y(i)の離散フーリエ変換を行なう際に、サンプリング周波数を1に規格化することにより、基本ビート周波数はサンプリング周波数fs に対する相対周波数fb /fs として求まる。式(1)には、被測定信号のビットレートfinが含まれておらず、基本ビート周波数fb はサンプリング周波数fs に対する相対周波数で表されているため、サンプリング周波数fs およびビットレートfinが未知であっても、UI単位の時間軸値x(i)を求めることが出来る。
【0027】
このようにして得られた時間軸x(i)は、サンプル値y(i)とともに波形表示部19に出力される。波形表示部19は、縦軸をサンプル値y(i)、横軸を時間軸値x(i)として2次元平面上に特定個数の点をプロットすることで、被測定信号の波形を描画する。
【0028】
以上により、サンプリング周波数fs およびビットレートfinが未知であっても、同期のとれた被測定信号の波形(アイパターン)が得られ、その時間軸値はUI単位となる。
【0029】
上記のようなソフトウエア同期法を用いたサンプリング波形測定装置の例は、例えば特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0030】
【特許文献1】特開2010−133866号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0031】
上記した従来のソフトウエア同期法は、特定個数のサンプル値y(i)に対して得られたビート周波数と位相の情報からサンプル値毎の時間軸値を生成するという同期処理を行なうものであり、連続したサンプル値に対して継続的に同期処理をかけることはできなかった。このため、連続したサンプル値に対しては、特定個数のサンプル値毎に同期処理を繰返し行なうことになり、各同期処理の間で時間軸が僅かに不連続になるという問題があった。
【0032】
また、被測定信号のタイミングジッタに追従可能な周波数帯域を任意に設定できないため、指定された周波数帯域でのタイミングジッタの評価ができないという問題もあった。
【0033】
本発明は、上記問題を解決し、連続したサンプル値に対して継続的に同期をかけることができ、被測定信号のタイミングジッタに追従可能な周波数帯域を任意に設定できるサンプリング波形測定装置および方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0034】
前記目的を達成するために、本発明の請求項1のサンプリング波形測定装置は、
被測定信号をサンプリング周波数(fs)でサンプリングするサンプリング部(21)と、
前記サンプリング部でサンプリングされた被測定信号をデジタルのサンプル値の信号列に変換するA/D変換部(22)と、
当該装置の動作初期時に、所定個数の前記サンプル値の信号列から前記被測定信号の繰返し周波数またはビットレートと前記サンプリング周波数の整数倍との間のビート周波数(fb)、または、該ビート周波数の前記サンプリング周波数に対する相対値(fb/fs)を算出して、初期ビート周波数(fbまたはfb/fs)として出力するビート周波数演算部(23)と、
記初期ビート周波数を設定値として受け、該初期ビート周波数を初期周波数とする正弦波を出力する数値制御発振器(26)、該数値制御発振器から出力される正弦波と前記サンプル値の信号列とを乗算する乗算器(27)、該乗算器の出力信号の低周波成分を出力する低域通過フィルタ(28)、該低域通過フィルタが出力する前記低周波成分の位相を出力する位相検波器(29)および該位相検波器が出力する位相(φ)に所定の帰還係数(k)を乗算し、該乗算結果(k・φ)により、前記数値制御発振器が出力する正弦波の周波数を帰還制御する帰還手段(30)とからなる位相ロックループ部(25)と、
前記数値制御発振器が出力する正弦波の周波数と前記位相検波器が出力する位相(φ)から、前記サンプル値それぞれの時間軸値を算出する時間軸算出部(40)とを備え、
前記時間軸算出部で算出された時間軸値と前記サンプル値から前記被測定信号の波形を得ることを特徴としている。
【0036】
また、本発明の請求項のサンプリング波形測定装置は、請求項1記載のサンプリング波形測定装置において、
前記ビート周波数演算部が、前記サンプル値の前記初期ビート周波数の成分の位相を初期位相(φ)として出力し、
該初期位相に応じて前記位相ロックループ部の前記数値制御発振器が出力する正弦波の位相の初期値が設定されることを特徴とする。
【0037】
また、本発明の請求項のサンプリング波形測定装置は、請求項1または請求項2記載のサンプリング波形測定装置において、
前記ビート周波数演算部が、前記サンプル値の前記初期ビート周波数の成分の振幅を初期振幅(a)として出力し、
該初期振幅に応じて前記位相ロックループ部の前記低域通過フィルタの振幅の初期値が設定されることを特徴とする。
【0038】
また、本発明の請求項のサンプリング波形測定装置は、請求項1〜のいずれかに記載のサンプリング波形測定装置において、
前記位相検波器が出力する位相に対する前記帰還係数(k)および前記低域通過フィルタの遮断周波数の少なくとも一方を可変することで、前記位相ロックループ部の閉ループ帯域を可変する閉ループ帯域可変手段(33)を有していることを特徴とする。
【0039】
また、本発明の請求項のサンプリング波形測定装置は、請求項1〜のいずれかに記載のサンプリング波形測定装置において、
前記位相ロックループ部の前記低域通過フィルタが出力する前記低周波成分の振幅が所定値以下になった場合または前記位相検波器が出力する前記位相が所定範囲を超えた場合に、前記位相ロックループ部の同期外れが発生したことを前記ビート周波数演算部に通知して、新たな前記初期ビート周波数を算出させる同期外れ検出手段(34)を有し、
前記同期外れ検出手段からの通知を受けた前記ビート周波数演算部が新たに算出した前記初期ビート周波数を前記位相ロックループ部に設定し直し、前記位相ロックループ部の同期を回復させることを特徴とする。
【0040】
また、本発明の請求項のサンプリング波形測定装置は、請求項1〜のいずれかに記載のサンプリング波形測定装置において、
前記時間軸算出部で算出された複数の時間軸値から、所定の時間軸値範囲内に前記時間軸値が存在しない欠落領域の有無を検出し、該欠落領域が検出された場合に、前記サンプリング部に対して前記サンプリング周波数の変更を指示するとともに前記ビート周波数演算部に対して新たな前記初期ビート周波数の算出を指示する欠落検出手段(35)を有し、
前記欠落検出手段からの指示によって前記ビート周波数演算部が新たに算出した前記初期ビート周波数を前記位相ロックループ部に設定し直し、前記時間軸値の欠落状態から復帰させることを特徴とする。
【0041】
また、本発明の請求項のサンプリング波形測定装置は、請求項1〜のいずれかに記載のサンプリング波形測定装置において、
前記ビート周波数演算部は、
前記所定個数の前記サンプル値を離散フーリエ変換して離散スペクトルを算出し、該離散スペクトルの強度が最大となる周波数、または、該周波数の前記サンプリング周波数に対する相対値を、前記初期ビート周波数として検出することを特徴とする。
【0042】
また、本発明の請求項のサンプリング波形測定装置は、請求項1〜のいずれかに記載のサンプリング波形測定装置において、
前記ビート周波数演算部は、
前記所定個数の前記サンプル値を離散フーリエ変換して離散スペクトルを算出し、該離散スペクトルの強度が極大となる複数の極大周波数を、前記被測定信号の繰返し周波数またはビットレートと前記サンプリング周波数の整数倍との間で生じる基本ビート周波数の候補値として検出し、該候補値のうち、前記被測定信号の繰返し周波数またはビットレートの整数倍と前記サンプリング周波数の整数倍との間で生じる高調波ビート周波数と前記極大周波数との誤差が最も小さくなる候補値、または、該候補値の前記サンプリング周波数に対する相対値を、前記初期ビート周波数と決定して出力することを特徴とする。
また、本発明の請求項9のサンプリング波形測定装置は、請求項1〜8のいずれかに記載のサンプリング波形測定装置において、
前記A/D変換部から出力されるサンプル値の信号列に対して、前記被測定信号のビットレートの周波数成分を発生させる非線形処理を行なう非線形処理部(32)を設け、
前記ビート周波数演算部および前記位相ロックループ部の前記乗算器に対して、前記サンプル値の代わりに前記非線形処理部の出力を与えることを特徴とする。
【0043】
また、本発明の請求項10のサンプリング波形測定方法は、
被測定信号をサンプリング周波数(fs)でサンプリングし、該サンプリングした被測定信号をデジタルのサンプル値の信号列に変換する段階と、
動作初期時に、所定個数の前記サンプル値の信号列から前記被測定信号の繰返し周波数またはビットレートと前記サンプリング周波数の整数倍との間のビート周波数(fb)、または、該ビート周波数の前記サンプリング周波数に対する相対値(fb/fs)を算出して、初期ビート周波数(fbまたはfb/fs)として出力する段階と、
前記初期ビート周波数を設定値とし、該初期ビート周波数を初期周波数とする正弦波を発生させ、該正弦波と前記サンプル値の信号列とを乗算し、該乗算結果から低周波成分を抽出し、該抽出した低周波成分の位相(φ)を検出し、該検出した位相に所定の帰還係数(k)を乗算し、該乗算結果(k・φ)により、前記正弦波の周波数を帰還制御する位相ロックループの段階と、
前記正弦波の周波数と前記検出した位相(φ)から、前記サンプル値それぞれの時間軸値を算出する段階とを含み、
前記算出した時間軸値と前記サンプル値から前記被測定信号の波形を得ることを特徴としている。
【発明の効果】
【0044】
このように、本発明のサンプリング波形測定装置では、ソフトウエア同期処理で得られたビート周波数を初期周波数とする正弦波を発生してサンプル値に乗算し、その乗算結果の低周波成分に対して位相検波を行い、検出した位相で正弦波の周波数に帰還制御をかけることで、被測定信号に対する同期を維持している。
【0045】
このため、ソフトウエア同期処理を繰り返すことなく、連続したサンプル値に対して継続的に同期処理をかけることができ、各ソフトウエア同期処理を繰り返すことによる時間軸の不連続を発生させずに済む。
【0046】
また、サンプル値に対して非線形処理を行い、ソフトウエア同期部と位相ロックループ部に与える構成では、被測定信号がNRZ形式で入力された場合でも対応できる。
【0047】
また、ソフトウエア同期部が、初期ビート周波数の成分の位相と振幅の少なくとも一方を算出する機能を有していて、その位相あるいは振幅を位相ロックループ部の数値制御発振器あるいは低域通過フィルタに初期設定する機能を有している場合には、位相ロックループの収束が速くなり、速やかに波形の取得を開始できる。
【0048】
また、位相ロックループ部の閉ループ帯域を可変する閉ループ帯域可変手段(33)を有している場合、所望の帯域におけるタイミングジッタの評価が容易に行なえる。
【0049】
また、位相ロックループ部の同期外れを検出する同期外れ検出手段(34)や、時間軸値の欠落の発生を検出する欠落検出手段(35)を有していれば、同期外れや時間軸値の欠落状態から容易に復帰させることができる。
【0050】
また、ソフトウエア同期部を、サンプル値または前記非線形処理部の出力を離散フーリエ変換して離散スペクトルを算出し、その離散スペクトルの強度が最大となる周波数を前記初期ビート周波数として検出する構成、あるいは、離散スペクトルの強度が極大となる複数の極大周波数を、被測定信号の繰返し周波数またはビットレートと前記サンプリング周波数の整数倍との間で生じる基本ビート周波数の候補値として検出し、それら候補値のうち、被測定信号の繰返し周波数またはビットレートの整数倍とサンプリング周波数の整数倍との間で生じる高調波ビート周波数と前記極大周波数との誤差が最も小さくなる候補値を、初期ビート周波数と決定して出力する構成であれば、精度は低くても高速に初期ビート周波数を求めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
図1】本発明の基本構成を示す図
図2図1の構成要素の回路例を示す図
図3】本発明の実施形態の構成例を示す図
図4】本発明の別の実施形態の構成例を示す図
図5】実施形態の要部の構成例を示す図
図6】実施形態の要部の構成例を示す図
図7】タイミングジッタを有するアイパターン波形の例を示す図
図8】閉ループ帯域可変手段を有する構成例を示す図
図9】同期外れ検出手段を有する構成例を示す図
図10】欠落検出手段を有する構成例を示す図
図11】実施形態の要部の別の構成例を示す図
図12】実施形態の要部の別の構成例を示す図
図13】等価サンプリング方式のサンプリング波形測定装置の動作例を示す図
図14】ソフトウエア同期処理を用いたサンプリング波形測定装置の構成例を示す図
図15】ソフトウエア同期処理を用いたサンプリング波形測定装置の動作説明図
【発明を実施するための形態】
【0052】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
図1は、本発明を適用したサンプリング波形測定装置20の基本構成を示している。
【0053】
このサンプリング波形測定装置20のサンプリング部21に入力される被測定信号Sinの繰り返し周波数またはビットレート(以下、これらを含めてビットレートと記す)を、finとする。
【0054】
サンプリング部21は、ビットレートfin と非同期の一定のサンプリング周波数fs で被測定信号Sinをサンプリングする。サンプリングされた被測定信号Sin(i)は、A/D変換部22でデジタルのサンプル値y(i)に変換される。ここでiは、サンプリングされた順番を示す整数である。
【0055】
なお、図示しないが、サンプリング部21は、サンプリング周波数fs のサンプリングパルスを発生するパルス発生器と、サンプリングパルスが入力された時に被測定信号Sinをサンプリングするサンプリングヘッドからなる。被測定信号Sinが電気信号でサンプリングパルスが電気パルスの場合、被測定信号Sinが光信号でサンプリングパルスが電気パルスの場合、被測定信号Sinが電気信号でサンプリングパルスが光パルスの場合、被測定信号Sinが光信号でサンプリングパルスが光パルスの場合があるが、本発明はいずれの場合でも適用可能である。
【0056】
例えば、被測定信号Sinが電気信号で、サンプリングパルスが電気パルスの場合、サンプリングヘッドは例えばサンプリングダイオードで構成される。サンプリングダイオードは、電気信号で電気信号を変調するものである。このサンプリングダイオードを用いてサンプリングパルス(電気信号)で被測定信号Sin(電気信号)を変調することにより、サンプリングパルスが入力された時に被測定信号Sinがサンプリングヘッドを通過し、サンプリングパルスが入力された時以外は被測定信号Sinがサンプリングヘッドを通過しないように構成することができる。以上より、サンプリングヘッドは、サンプリングパルスで被測定信号Sinをサンプリングすることが出来る。この構成の場合、サンプリングヘッドの出力はサンプリングされた電気信号である。
【0057】
また、被測定信号Sinが光信号で、サンプリングパルスが電気パルスの場合、サンプリングヘッドは、電界吸収型光変調器やLiNbO光変調器などの光強度変調器で構成される。これらの光強度変調器は、電気信号で光信号(の強度)を変調するものである。この光強度変調器を用いてサンプリングパルス(電気信号)で被測定信号Sin(光信号)を変調することにより、サンプリングパルスが入力された時に被測定信号Sinがサンプリングヘッドを通過し、サンプリングパルスが入力された時以外は被測定信号Sinがサンプリングヘッドを通過しないように構成することができる。以上より、サンプリングヘッドは、サンプリングパルスで被測定信号Sinをサンプリングすることが出来る。この構成の場合、サンプリングヘッドの出力はサンプリングされた光信号であるため、サンプリングヘッドの出力を受光器に入力して、サンプリングされた被測定信号に対応する電気信号に変換する。
【0058】
また、被測定信号Sinが光信号で、サンプリングパルスが光パルスの場合、サンプリングヘッドは光サンプリングゲートで構成される。光サンプリングゲートは非線形光学結晶を用いた和周波数生成、光ファイバや半導体光増幅器を用いた4光波混合または相互位相変調、電界吸収型光変調器を用いた相互吸収変調等のいずれかの技術によって実現することが出来る。これらの技術を用いた光サンプリングゲートは、光信号で光信号を変調するものである。この光サンプリングゲートを用いて、サンプリングパルス(光信号)で被測定信号Sin(光信号)を変調することにより、サンプリングパルスが入力された時に被測定信号Sinがサンプリングヘッドを通過し、サンプリングパルスが入力された時以外は被測定信号Sinがサンプリングヘッドを通過しないように構成することができる。以上より、サンプリングヘッドは、サンプリングパルスで被測定信号Sinをサンプリングすることが出来る。この構成の場合、サンプリングヘッドの出力はサンプリングされた光信号であるため、サンプリングヘッドの出力を受光器に入力して、サンプリングされた被測定信号に対応する電気信号に変換する。
【0059】
さらに、被測定信号Sinが電気信号で、サンプリングパルスが光パルスの場合、サンプリングヘッドは電気光学効果を用いたEOサンプリング法により実現することが出来る。EOサンプリング法を用いたサンプリングゲートは、光信号で電気信号を変調するものである。このサンプリングゲートを用いてサンプリングパルス(光信号)で被測定信号Sin(電気信号)を変調することにより、サンプリングパルスが入力された時に被測定信号Sinがサンプリングヘッドを通過し、サンプリングパルスが入力された時以外は被測定信号Sinがサンプリングヘッドを通過しないように構成することができる。以上より、サンプリングヘッドは、サンプリングパルスで被測定信号Sinをサンプリングすることが出来る。この構成の場合、サンプリングヘッドの出力はサンプリングされた電気信号である。
【0060】
本発明を適用したサンプリング波形測定装置では、後述するようにサンプリング周波数fs が未知であっても被測定信号の波形を測定することが出来るため、サンプリングパルスの繰返し周波数(サンプリング周波数)を正確に設定する必要が無い。このため、サンプリングパルスが光パルスの場合、サンプリングパルスを発生するパルス発生器として、繰返し周波数を正確に設定可能な高分解能周波数シンセサイザとそれに同期したパルス光源とを用いる必要は無く、出力パルスの繰返し周波数を正確に設定できないが簡単な構成のパッシブモード同期ファイバレーザを使用することも出来る。サンプリングパルスが電気パルスの場合も、サンプリングパルスを発生するパルス発生器として、繰返し周波数を正確に設定可能な高分解能周波数シンセサイザを用いる必要は無く、簡単な構成の発振器を使用することも出来る。これにより、安価で小型のサンプリング波形測定装置を実現することが出来る。
【0061】
ソフトウエア同期部23は、後述するように主にビート周波数を算出する機能を有する本発明のビート周波数演算部を構成するものであり、装置の動作初期時に、特定個数のサンプル値y(i)を用いてソフトウエア同期処理を行なう。
【0062】
このソフトウエア同期処理は、主にビットレートfinと、サンプリング周波数fs の整数倍との間のビート周波数(基本ビート周波数)fbを算出する。また、後述の位相ロックループ部25の処理開始時の収束を速くするために、サンプル値y(i)のビート周波数の成分の初期段階の位相φと振幅aとを算出する構成も採用できる。
【0063】
ソフトウエア同期部23により、少なくともビート周波数(基本ビート周波数)fbが算出されると、位相ロックループ部25による処理に移行する。
【0064】
位相ロックループ部25は、ソフトウエア同期部23から出力された基本ビート周波数fbを初期周波数として数値制御発振器26の動作を開始させる。数値制御発振器26は、正弦波Wsin=ej(2πfbt+φ0)を生成し、乗算器27に出力する。φは初期位相で例えばゼロあるいは後述するようにソフトウエア同期部23からの設定値であってもよい。
【0065】
乗算器27は正弦波Wsinとサンプル値y(i)の信号列との乗算を行い、その乗算結果yを低域通過フィルタ28に出力する。
【0066】
低域通過フィルタ28は、無限インパルス応答(IIR型)デジタルフィルタあるいは有限インパルス応答(FIR型)デジタルフィルタで構成され、乗算結果yからその低周波成分yfを抽出して、位相検波器29に出力する。なお、このデジタルフィルタの係数を変えることにより、遮断角周波数を変えることが可能である。
【0067】
図2は、低域通過フィルタ28として採用可能な1次IIR型デジタルフィルタの構成例を示すもので、z−1は1サンプル遅延、kfはフィルタ係数を表し、新たな入力値ymに(1―kf)を乗じた値と、1サンプル前の出力値z−1・yfに係数kfを乗じた値とを加算して、新たな出力値とする処理を順次繰り返すものである。
【0068】
位相検波器29は、低域通過フィルタ28の出力yfの位相φを求めるものであり、逆正接関数tan−1{Im(yf)/Re(yf)}や、それを4象限に拡張して−πから+πの範囲の位相を求める関数でも良い。また逆正接関数を近似した{Im(yf)/Re(yf)}でも良い。ここで、Re(yf)は低域通過フィルタ出力の実数部、Im(yf)は低域通過フィルタ出力の虚数部を表す。
【0069】
位相検波器29から出力される位相φは、帰還手段30の帰還係数乗算器30aで係数kが掛けられて、その結果k・φが減算器30bで初期ビート周波数fbから減じられて、数値制御発振器26の周波数制御端子に入力されて、負帰還の位相ロックループが形成される。ここで、数値制御発振器26の周波数fb はfb−k・φとなる。
【0070】
この位相検波器29から出力される位相φとビート周波数fb は時間軸算出部40に入力される。時間軸算出部40は、位相φとビート周波数fb から、サンプル値y(i)毎の時間軸(横軸)値X(i)またはx(i)を求め、波形表示部41に出力する。
【0071】
波形表示部41は、縦軸をサンプル値y(i)、横軸を時間軸値x(i)として2次元平面上に複数の点をプロットすることで、被測定信号Sinの波形を描画する。プロットされた点が所定の残光時間で消える残光表示にすることもできる。
【0072】
波形表示の代わりに、被測定信号の波形品質を表す数値(Qファクタなど)を算出する機能を設けることも可能であり、信号品質モニタに応用することもできる。また、波形とQファクタなどの品質を表す数値を同時に表示することもできる。
【0073】
以上の処理を式で表すと以下のようになる。
φ=∠F[y(i)・Wsin,a
=∠F[y,a] ……(2)
fb =fb−k・φ ……(3)
X(i)=[i・fb/(fs・fin)+(π+φ)/(2πfin)]mod(1/fin)
……(4)
ここで、F[y,a]は低域通過フィルタ28を表す関数、yは低域通過フィルタ28の入力、aは低域通過フィルタ28の振幅初期値、mod は剰余演算を表す。また、時間軸値X(i)は、秒単位の時間軸値である。
【0074】
式(4)は、前式(5′)と同様にサンプル値y(i)に対応する時間軸値X(i)を求める式である。式(4)の右辺第1項のi・fb/(fs・fin)はi・Δtに等しく、i番目のサンプリング時刻を秒単位の時刻に変換する演算である。また、式(4)の右辺第2項のφ/(2πfin)の項は、ラジアン単位の位相φを秒単位の時刻に変換する演算であり、φが変わっても表示される波形の位相(例えばアイ開口の位置)を一定に保つためのものである。式(4)のmod(1/fin)の演算により、時間軸値X(i)が被測定信号の1ビット周期で折り返され、被測定信号のビット周期内の時間位置に変換される。なお、mod(1/fin)をmod(m/fin)に変更して(mは1以上の整数)、mビット周期分の波形を表示するようにしても良い。
【0075】
また、前記式(2)〜(4)で、ビート周波数fb を、サンプリング周波数に対する相対値fb /fs で表し、次式(5)〜(7)のようにUI単位の時間軸値x(i)を算出すれば、サンプリング周波数fs およびビットレートfinが未知であっても、横軸がUI単位の波形を求めることが出来る。
【0076】
φ=∠F[y(i)・Wsin,a] ……(5)
fb /fs =fb/fs −k′・φ ……(6)
x(i)=[(i・fb/fs)+(π+φ)/(2π)]mod 1 ……(7)
【0077】
つまり、式(7)は式(4)の秒単位の時間軸値X(i)を1/finで除算してUI単位の時間軸値x(i)に変換したものである。サンプリング周波数を1に規格化することにより、ビート周波数はサンプリング周波数fs に対する相対周波数fb /fs として求まる。式(5)〜式(7)には、被測定信号のビットレートfinが含まれておらず、ビート周波数は全てサンプリング周波数fs に対する相対周波数で表されているため、サンプリング周波数fs およびビットレートfinが未知であっても、UI単位の時間軸値x(i)を求めることが出来る。
【0078】
なお、式(7)の右辺第1項の(i・fb/fs)は、i番目のサンプリング時刻をUI単位の時刻に変換する演算である。また、式(7)の右辺第2項のφ/2πの項は、ラジアン単位の位相φをUI単位の時刻に変換する演算であり、φが変わっても表示される波形の位相(例えばアイ開口の位置)を一定に保つためのものである。式(7)のmod 1の演算によって、時間軸値x(i)は1UIで折り返され、被測定信号の1UI内の時間位置に変換される。なお、mod 1をmod mに変更して(mは1以上の整数)、m UI分の波形を表示するようにしても良い。
【0079】
以上により、サンプリング周波数fs およびビットレートfinが未知であっても、式(1)式のソフトウエア同期法と同様に同期のとれた被測定信号の波形(アイパターン)が得られ、その時間軸値はUI単位となる。
【0080】
上記式(4)、(7)の右辺第2項分子(π+φ)の定数πは、波形の横軸方向の表示位置(例えばアイ開口の位置)を決める位相であり、この値に限られるものではなく、例えばつまみを回して可変できるようにしても良い。
【0081】
このように、上記基本構成のサンプリング波形測定装置20では、ソフトウエア同期処理で得られたビート周波数を、位相ロックループ部25の数値制御発振器26に設定し、これを初期周波数とする正弦波Wsinを発生してサンプル値y(i)に乗算し、その乗算結果の低周波成分に対して位相検波を行い、検出した位相で正弦波の周波数に負帰還をかけることで位相ロックループを形成し、サンプル値y(i)のビート周波数成分に正弦波Wsin を同期させ、被測定信号に対する同期を維持している。
【0082】
このため、ソフトウエア同期処理を繰り返すことなく、連続したサンプル値に対して継続的に位相ロックループを動作させて同期を保つことができ、各ソフトウエア同期処理を繰り返すことによる時間軸の不連続を発生させずに済む。
【0083】
前記図1の基本構成に対して図3に示すサンプリング波形測定装置20では、位相ロックループ部25の処理に移行する前に、ソフトウエア同期部23において、ビート周波数fbの成分におけるサンプル値y(i)の位相φ(位相ロックループ処理開始時の位相)を算出し、これを数値制御発振器26の正弦波の初期位相として設定することで、位相ロックループ処理の開始時にビート周波数fbの成分におけるサンプル値y(i)の位相と数値制御発振器26の正弦波の位相を一致させて、位相ロックループの収束を速くしている。
【0084】
また、同様に、位相ロックループ処理に移行する前に、ソフトウエア同期部23において、ビート周波数fbの成分におけるサンプル値y(i)の振幅aを算出し、これを低域通過フィルタ28の初期振幅として設定することで、位相ロックループ処理の開始時に乗算結果yの低周波成分と低域通過フィルタ28の出力を一致させて、位相ロックループの収束を速くしている。
【0085】
このように、ソフトウエア同期部23において、ビート周波数fb とともに初期位相φと初期振幅aとを算出して位相ロックループ部25に設定して位相ロックループ処理を開始することで、ループの収束が極めて速くなる。
【0086】
なお、上記図1の基本構成ならびに図3の実施形態は、被測定信号Sinが例えばRZ(Return to Zero)変調信号のようにビットレートの周波数成分を持つ場合を想定していたが、被測定信号Sinが、NRZ(Non Return to Zero)変調信号のようなビットレートの周波数成分を持たない変調信号の場合には、図4に示すサンプリング波形測定装置20のように、A/D変換部22から出力されるサンプル値y(i)の信号列に対して非線形処理を行なう非線形処理部32を設け、ソフトウエア同期部23および位相ロックループ部25の乗算器27に対して、サンプル値y(i)の代わりに非線形処理部32の出力y(i)′を与える。
【0087】
この非線形処理部32により、その出力y(i)′にビットレートの周波数成分が発生するため、前記同様に被測定信号Sinに同期をかけることが出来る。この場合、波形表示部41は、A/D変換部22から出力されたサンプル値y(i)を描画に用いる。
【0088】
なお、非線形処理部32が用いる非線形の関数としては、サンプル値y(i)の2乗y(i)、絶対値|y(i)|、絶対値の平方根√(|y(i)|)などが使用可能である。また、y(i)とその平均値Avとの差の2乗[y(i)−Av]、差の絶対値|y(i)−Av|、差の絶対値の平方根√(|y(i)−Av|)を用いてもよい。
【0089】
次に、前記実施形態の各要素の構成例について説明する。
図5は、ソフトウエア同期部23の構成例であり、前述した従来のソフトウエア同期部による基本ビート周波数の算出処理を行なう基本ビート周波数算出手段23a、数値制御発振器23b、乗算器23c、平均化手段23d、振幅検出手段23e、位相検出手段23fを含んでいる。
【0090】
ソフトウエア同期処理の初期段階に、基本ビート周波数算出手段23aにより従来のソフトウエア同期法を用いてサンプル値y(i)から基本ビート周波数fbを算出して数値制御発振器23bに入力する。なお、基本ビート周波数の算出および以下の説明ではサンプル値の代わりに非線形処理部32の出力y(i)′を用いることもできる。
【0091】
数値制御発振器23bは、周波数がfbで、位相ロックループ部25の処理へ移行する時点で零位相になる正弦波Wsin′=ej2π(fb0 /fs)(i−n)を生成する。ここで、nはソフトウエア同期処理の段階で使用するサンプル値y(i)のデータ点数である。
【0092】
そして、次式(8)のように、サンプル値y(i)と数値制御発振器23bが出力する正弦波Wsin′とを乗算器23cで乗算し、その結果を平均化し、その平均化出力yの振幅を式(9)のように初期振幅a、平均化出力yの位相を式(10)のように初期位相φとする。
【0093】
=(1/n)Σ{y(i)・Wsin′} ……(8)
=|y| ……(9)
φ=∠y ……(10)
ただし記号Σは、i=0〜n−1までの総和を表す
【0094】
なお、ここでは数値制御発振器23bの正弦波Wsin′の位相を位相ロックループ処理へ移行する時点で零位相になるようにして、位相ロックループ処理へ移行する時点の位相φを求めたが、数値制御発振器23bの正弦波の位相をこれ以外の位相に設定し、平均出力yの位相または初期位相φを位相ロックループ処理へ移行する時点の位相に変換してもよい。
【0095】
図6は、前記実施形態に用いる位相ロックループ部25の数値制御発振器26の構成例を示すもので、加算器26a、レジスタ26bおよび正弦波発生器(正弦波メモリテーブルまたは正弦波演算器のいずれでもよい)26cによって構成されている。
【0096】
この数値制御発振器26に対して、最初にソフトウエア同期部23で算出された初期位相φがレジスタ26bに設定される。そして、周波数の初期入力データとしての前記した相対周波数(fb /fs )に対応したデータ2πfb /fs と、レジスタ出力との加算結果(2πfb /fs +φ)が、レジスタ26bに入力されて、周波数fs のクロックに同期してレジスタ26bの記憶値がφから(2πfb /fs +φ)に更新される。以下これをクロック入力毎に繰り返すことにより、レジスタ26bから(2πfbi /fs +φ)が出力される。
【0097】
正弦波発生器26cは、レジスタ26bから出力される位相値を正弦値および余弦値に変換する正弦波メモリテーブルまたは位相値から正弦値および余弦値を算出する正弦波演算器で構成され、レジスタ出力に対して、Wsin =ej[2π(fb /fs)i+φ0]で表される正弦波を出力する。
【0098】
以上の説明は、ビート周波数fb が一定である場合について示したが、実際には後述のように、被測定信号Sinのビット周期の変動があり、この変動に追従するように、位相ロックループが動作するため、数値制御発振器26に入力されるビート周波数fb は、サンプリング毎に刻々と変化する。また、サンプリング周波数fs も完全に一定ではなく、僅かに変動する場合もある。
【0099】
これら変化するビート周波数をfb(i′)、サンプリング周波数をfs(i′)とすると、数値制御発振器26から出力される正弦波Wsin は、
Wsin =ej{2πΣ[fb(i′)/fs(i′)]+φ0}
となる。ここで、Σは、i′=1〜iまでの総和を表す。
【0100】
同様に、時間軸値x(i)は、
x(i)={Σ[fb(i′)/fs(i′)]+(π+φ)/(2π)}mod 1
となる。ここで、Σは、i′=1〜iまでの総和を表す。
【0101】
次に、被測定信号Sinのビット周期の変動(タイミングジッタと呼ばれる)と位相ロックループの動作について考察する。
【0102】
実際の被測定信号Sinのビット周期は完全に一定周期ではなく、僅かな変動が存在することがある。この変動はタイミングジッタと呼ばれている。図7に、タイミングジッタが小さい場合(a)と大きい場合(b)のアイパターンの例を示す。
【0103】
前記した位相ロックループ部25は、このタイミングジッタに追従するように数値制御発振器26の周波数を連続的に変更する。ここで、位相ロックループ部25の閉ループ帯域は、被測定信号Sinのタイミングジッタに追従可能な周波数帯域を表す。
【0104】
つまり、閉ループ帯域よりもタイミングジッタの周波数が十分低い場合は、位相ロックループ部25の動作がタイミングジッタにほぼ追従するので、測定波形にタイミングジッタがほとんど現れないのに対して、閉ループ帯域よりもタイミングジッタの周波数が十分高い場合は、位相ロックループ部25の動作がタイミングジッタにほとんど追従せず、測定波形にタイミングジッタがほぼそのまま現れる。
【0105】
また、閉ループ帯域とタイミングジッタの周波数が近い場合はタイミングジッタの振幅が若干小さくなった測定波形となる。タイミングジッタに複数の周波数成分が存在する場合は、それぞれの周波数成分について上記のように測定波形に反映される。
【0106】
よって、タイミングジッタの評価においては、閉ループ帯域を所定の値に設定することが望まれる。
【0107】
例えば、低域通過フィルタ28を、伝達関数、
(jω)=1/(1+jωτ) ……(11)
の1次フィルタとすると、位相ロックループ部25の閉ループ伝達関数は、
H(jω)=jω/(2πk+jω−ωτ) ……(12)
となる。ここで、τは、低域通過フィルタ28の時定数であり、遮断角周波数ωの逆数である。
【0108】
上記式(12)から、例えば図8のように閉ループ帯域可変手段33を設け、帰還手段30の帰還係数kまたは低域通過フィルタ28の遮断角周波数ωの少なくとも一方を可変することで、位相ロックループ部25の閉ループ帯域を変えて、タイミングジッタの評価を行なうことができる。
【0109】
ここで、閉ループ帯域可変手段33により、帰還係数kと低域通過フィルタ28の遮断角周波数ωの両方を可変する場合は、帰還係数kが低域通過フィルタ28の遮断角周波数ωに比例するように変えて、閉ループ周波数特性即ち時間応答特性の形状を相似形に保ちつつ閉ループ帯域を変えることも可能である。
【0110】
また、位相ロックループ部25によるループ処理が行なわれている最中に閉ループ帯域を変えることも可能であり、例えば波形を観測しながら図示しない操作部のつまみ等を回して閉ループ帯域を可変できるようにしても良い。
【0111】
なお、低域通過フィルタ28は、上式(11)の1次フィルタに限られるものではなく、従来のアナログ位相ロックループ回路で用いられる以下の伝達関数で表されるものであってもよい。
【0112】
(jω)=(1+jωτ)/(1+jωτ) ……(13)
(jω)=(1+jωτ)/jωτ ……(14)
【0113】
上記、低域通過フィルタ28の特性と閉ループの特性の関係はアナログ位相ロックループ回路と同様であり、アナログ位相ロックループ回路の設計手法を利用することができる。
【0114】
上記実施形態のサンプリング波形測定装置20であっても、被測定信号Sinのビットレートが大きく変化し、位相ロックループ部25において同期外れが発生した場合は、同期のとれた波形を表示することが出来なくなる。
【0115】
これに対処するために、図9のように、同期外れ検出手段34を設け、この同期外れ検出手段34によって同期外れを検出した場合、これをソフトウエア同期部23に通知して、ソフトウエア同期処理に戻ることにより、自動的に位相ロックループの同期を回復し同期のとれた波形を得ることが出来る。
【0116】
ここで、同期外れ検出手段34の検出方法としては、位相検波器29の出力が所定の範囲を超えたことを検出する方法、低域通過フィルタ28の出力振幅(サンプリングされた被測定信号の振幅に対する低域通過フィルタの出力振幅)が所定の値以下になったことを検出する方法がある。
【0117】
また、被測定信号Sinのビットレートとサンプリング周波数が特定の関係にある場合、例えば整数比の関係に近い場合、波形の一部が欠落する場合がある。具体的には、1周期分の波形のうちの一部の時間軸値幅(例えば0.02UI)内に、算出される時間軸値が全く存在しない空白の部分(欠落領域)が生じる場合がある。
【0118】
この場合、図10のように、所定の時間軸値幅(例えば0.02UI)内に時間軸値が存在しない欠落領域の有無を検出する欠落検出手段35を設ける。
【0119】
この場合、欠落領域の有無の判定としては、時間軸算出部40で一定時間内に算出された複数M(例えば1000個)の時間軸値x(i)に対して、それらを小さい順または大きい順に並べ、その隣同士xj+1、xの間隔|xj+1−x|の最大値が、前記所定の時間軸値幅(例えば0.02UI)よりも大きい場合に欠落ありと判断する方法や、1周期(1UI)分の横軸を一定間隔で複数の領域(例えば0.02UIの欠落領域を検出するためには、0.01UI幅の100個の領域)に分割し、それら各領域内に入る時間軸値x(i)の個数のヒストグラムを作成し、ヒストグラムのサンプル数が0の区間が存在する場合に、欠落ありと判断する方法等を採用できる。なお、時間軸値x(i)の個数Mは、前記所定の時間軸値幅(UI単位)の逆数またはヒストグラムの領域の幅(UI単位)の逆数よりも十分大きくする。
【0120】
そして、この欠落検出手段35で欠落を検出した場合には、サンプリング部21に対してサンプリング周波数の変更(変更量は任意)を指示し、ソフトウエア同期部23によるソフトウエア同期処理に戻るように指示することで、同期を確立させることができる。
【0121】
なお、サンプリング周波数変更後も欠落が検出された場合は、再度サンプリング周波数の変更とソフトウエア同期処理を行い、欠落が検出されなくなるまで繰り返すことになるが、欠落が発生する確率は小さいので、数回程度サンプリング周波数を変更すると実用上欠落を回避することが可能である。
【0122】
上記した閉ループ帯域可変手段33、同期外れ検出手段34、欠落検出手段35は、任意の組合せで、図1の基本構成や図4の構成のサンプリング波形測定装置20にも適用可能である。
【0123】
また、ソフトウエア同期部23による処理は、上記方法に限られるものではなく、これまでに提案されている種々のソフトウエア同期法を用いることが可能である。
【0124】
また、本発明の構成では、位相ロックループ部25の処理で被測定信号Sinのビットレートに追従して時間軸値を出力するので、従来のソフトウエア同期法よりもソフトウエア同期処理でのビート周波数の精度が若干低くても良い。
【0125】
このため、例えば図11に示すように、サンプル値y(i)またはy(i)′を離散フーリエ変換部23gにより離散フーリエ変換処理して離散スペクトルPi を算出し、その離散スペクトルPi の最大値を最大値検出部23hで検出し、離散スペクトルPi が最大となる周波数を初期ビート周波数fbとして出力する構成としてもよい。
【0126】
また、離散スペクトルPi の最大値の振幅、位相を、振幅検出手段23e、位相検出手段23fによって算出し、それぞれ初期振幅aと初期位相φとしてもよい。
【0127】
また、被測定信号Sinの波形によっては、高調波ビート周波数の強度が基本ビート周波数の強度と比べて同程度または大きくなる場合もある。この場合、離散スペクトルの最大値を検出するだけでは基本ビート周波数fbを正しく検出できない。
【0128】
これに対処する場合には、図12のように、サンプル値y(i)またはy(i)′を離散フーリエ変換部23gにより離散フーリエ変換処理して離散スペクトルPi を算出し、その離散スペクトルPi の極大値を極大値検出部23iで検出し、離散スペクトルPi が極大となる複数の極大周波数を基本ビート周波数の候補値として検出する。
【0129】
そして、基本ビート周波数検出部23jにおいて、前記候補値のうちの一つを基本ビート周波数であると仮定し、高調波ビート周波数と前記極大周波数との誤差を計算し、誤差が最も小さくなる場合の候補値を初期ビート周波数と決定する。この場合、決定した初期ビート周波数における離散スペクトルの振幅、位相を、振幅検出手段23e、位相検出手段23fによって算出し、それぞれ初期振幅aと初期位相φとしてもよい。
【0130】
また、位相ロックループ部25の閉ループ帯域を狭くすると、位相ロックループ部25の処理においてロック可能な周波数範囲が狭くなる。このため、位相ロックループの閉ループ帯域に応じてソフトウエア同期の初期ビート周波数の精度を変えることができる。
【0131】
この初期ビート周波数の精度を変える方法として、ソフトウエア同期処理の離散フーリエ変換のデータ点数を変える方法や、従来のソフトウエア同期法を用いて精度を上げる方法があり、要求される必要十分な精度にすることにより、ソフトウエア同期処理に要する演算量を削減し、処理時間を低減することができる。
【0132】
また、前記した閉ループ帯域可変手段33が、位相ロックループ部25の処理開始時には位相ロックループの閉ループ帯域を広く設定し、その後連続的にもしくは段階的に閉ループ帯域を狭くして所望の閉ループ帯域に可変する制御を自動的に行なう構成とすれば、ソフトウエア同期部23において低い精度で検出した初期ビート周波数に対してもロックをかけつつ、最終的には狭い閉ループ帯域にすることができる。
【0133】
なお、上記した本発明の各構成要件は、CPUを使用してソフトウエアによる演算で実現するだけでなく、ハードウェア(FPGAやASICなどのデジタル回路)で実現することもできる。
【符号の説明】
【0134】
20……サンプリング波形測定装置、21……サンプリング部、22……A/D変換部、23……ソフトウエア同期部、25……位相ロックループ部、26……数値制御発振器、27……乗算器、28……低域通過フィルタ、29……位相検波器、30……帰還手段、33……閉ループ帯域可変手段、34……同期外れ検出手段、35……欠落検出手段、40……時間軸算出部、41……波形表示部
図1
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