【文献】
西名 慶晃 他,高精度赤外線サーモグラフィを活用した各種測定技術(温度・応力・疲労・亀裂)とその応用,JFE技報,JFEホールディングス株式会社,2011年 2月,No.27,第9-14頁,URL,http://www.jfe-steel.co.jp/research/giho/027/pdf/027-04-2.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
鋼構造物等の金属材料で形成された橋梁や高架等の実構造物は、高い応力に繰り返し曝されるため、疲労損傷を受けて、き裂に進展し、疲労き裂を生じることがある。金属材料に疲労き裂が生じた場合、疲労破壊を防ぐため、疲労き裂の進展を抑制して金属材料の寿命の延長を図る必要がある。金属材料の疲労き裂面内にフレッティング酸化物等の異物が生じることで、くさび効果によって金属材料の疲労き裂進展速度が低下することが広く知られており、微細粒を含有するペースト(以下、微細粒ペーストと略する。)を疲労き裂面内に進入させて、くさび効果により金属材料の疲労き裂の進展を抑制する技術が開発されている。
【0003】
例えば、非特許文献1には、予め疲労損傷が予想される部分に、粒径10〜20μm程度のアルミナ粒子をサラダ油とシリコングリースと混合させてペースト状にした微細粒ペーストを塗布することによって、金属材料の疲労き裂の進展が遅延し、疲労寿命が増加する効果が得られる結果が開示されている。
【0004】
一方で、金属材料の疲労き裂進展抑制効果を評価するためには、金属材料の疲労き裂進展速度を計測したり、金属材料の寿命を評価したりする必要がある。
【0005】
例えば、特許文献1には、ガスタービンなどの部品で疲労損傷を受ける部品について、き裂進展速度を高精度に評価する方法が開示されている。特許文献1では、電子後方散乱回折像(EBSP: Electron Back-Scattering (diffraction) Pattern )法によって得られた情報から金属材料のき裂進展速度を高精度に評価し、余寿命を評価している。
【0006】
また、特許文献2には、ボイラ管やガスタービンエンジンの動翼など経年劣化による疲労破壊やクリープ破壊が生じる恐れのある部品の破壊寿命を予測する方法が開示されている。特許文献2では、検査対象とする領域から切片を切り出して、EBSP法を適用し、その情報から破壊寿命を予測している。
【0007】
また、特許文献3には、ボイラ材料としての特に高強度フェライト鋼のクリープ環境下での余寿命評価の手法が開示されている。特許文献3では、使用中の機器から試料を切り出し、結晶方位顕微鏡で得られる結晶の回折パターンの情報から推定寿命消費率を検出している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ここで、橋梁や高架等の実構造物に生じる疲労き裂に対して、微細粒ペーストを疲労き裂面内に進入させて、くさび効果により疲労き裂の進展を抑制する技術を適用した場合、その技術を適用したことによる疲労き裂進展抑制効果を評価するためには、実構造物の試料を切り取ることができないため、実構造物のある場所でその場計測(in situ 計測)することが必要となる。
【0011】
しかしながら、特許文献1は、EBSP法はSEM(電子走査顕微鏡)を用いて試料に電子線を照射しなければならないため、特許文献2は、EBSP法はSEM(電子走査顕微鏡)を用いて試料に電子線を照射しなければならないため、特許文献3は、結晶方位を観察する際に電子顕微鏡を用いなければならないため、橋梁や高架等の実構造物に対してはin situ 計測が困難であるという問題がある。
【0012】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、橋梁や高架等の実構造物においてin situ 計測による微細粒ペーストの疲労き裂進展遅延効果を評価することが可能である疲労き裂進展遅延効果の評価方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解決するために、本発明に係る疲労き裂進展抑制効果の評価方法は、微細粒ペーストを適用する前に、実構造物のき裂の先端近傍に生じる熱弾性温度変動の振幅を測定する初期振幅検出工程と、前記実構造物のき裂に微細粒ペーストを適用して、前記微細粒ペーストがき裂の内部に進入する所定の負荷を前記実構造物のき裂に加える微細粒ペースト適用工程と、前記微細粒ペースト適用工程で微細粒ペーストを適用した後に、前記実構造物のき裂の先端近傍に生じる熱弾性温度変動の振幅を測定する適用後振幅検出工程と、前記初期振幅検出工程で得られた振幅と前記適用後振幅検出工程で得られた振幅の大きさの比を減衰比として算出して、得られた減衰比に基づいて、微細粒ペーストによる疲労き裂進展抑制効果を評価する微細粒ペースト効果確認工程と、を備えることを特徴とする。
【0014】
これによると、橋梁や高架等などで大型車の交通量が多く、試験期間内に微細粒ペーストによる疲労き裂進展抑制効果が上限に達することが予想される場合に、微細粒ペーストを適用してから、き裂の内部に微細粒ペーストが進入して予測した疲労き裂進展抑制効果が上限に達する時間が経過した後に、実構造物のき裂の先端近傍に生じる熱弾性温度変動の振幅を測定し、微細粒ペーストを適用する前に測定した実構造物のき裂の先端近傍に生じる熱弾性温度変動の振幅(初期振幅)と比較して、減衰比を算出する。そして、得られた減衰比に基づいて、微細粒ペーストを適用した後の振幅が微細粒ペーストを適用する前の振幅より小さくなっている、即ち、減衰比が1.0以下であることが確認できれば、微細粒ペーストによる疲労き裂進展抑制効果が得られていることが評価できる。以上により、橋梁や高架等の実構造物において、熱弾性温度変動の振幅をin situ 計測により計測して、微細粒ペーストの疲労き裂進展遅延効果の評価を容易に行うことができる。
【0015】
また、本発明に係る疲労き裂進展抑制効果の評価方法は、微細粒ペーストを適用する前に、実構造物のき裂の先端近傍に生じる熱弾性温度変動の振幅を測定する初期振幅検出工程と、前記実構造物のき裂に微細粒ペーストを適用して、前記微細粒ペーストがき裂の内部に進入する所定の負荷を前記実構造物のき裂に加え
つつ、前記実構造物のき裂の先端近傍に生じる熱弾性温度変動の振幅を、所定の時間間隔毎に測定する適用中振幅検出工程と、
前記適用中振幅検出工程で得られた振幅に対する前記初期振幅検出工程で得られた振幅
の比である減衰比を前記所定の時間間隔毎に算出し、前記所定の時間間隔経過前の前記減衰比を前記所定の時間間隔経過後の前記減速比から減算して前記所定の時間間隔で割った値を減衰速度として算出して、得られた減衰速度に基づいて、微細粒ペーストによる疲労き裂進展抑制効果を評価する微細粒ペースト効果確認工程と、を備えることを特徴とする。
【0016】
これによると、橋梁や高架等などで大型車の交通量が少なく、試験期間内に微細粒ペーストによる疲労き裂進展抑制効果が上限に達することが予想されない場合に、微細粒ペーストを適用する前から、所定の時間間隔毎に、実構造物のき裂の先端近傍に生じる熱弾性温度変動の振幅を測定し、その振幅から減衰比の減少勾配を減衰速度として算出する。
ここで、減衰比は、適用中振幅検出工程で得られた振幅に対する初期振幅検出工程で得られた振幅の比である。減衰速度は、所定の時間間隔経過前の減衰比を所定の時間間隔経過後の減速比から減算して所定の時間間隔で割った値である。そして、得られた減衰速度に基づいて、時間が経過するにつれて減少勾配
の傾きが
負になっている、即ち、減衰速度が0以下であることが確認できれば、微細粒ペーストによる疲労き裂進展抑制効果が得られていること評価できる。以上により、橋梁や高架等の実構造物において、熱弾性温度変動の振幅をin situ 計測により計測して、微細粒ペーストの疲労き裂進展遅延効果の評価を容易に行うことができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の疲労き裂進展抑制効果の評価方法は、橋梁や高架等の実構造物においてin situ 計測による微細粒ペーストの疲労き裂進展遅延効果を評価することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しつつ、本発明に係る疲労き裂進展抑制効果の評価方法を実施するための形態について、具体的な一例に即して説明する。
【0020】
尚、以下に説明するものは、例示したものにすぎず、本発明に係る疲労き裂進展抑制効果の評価方法の適用限界を示すものではない。すなわち、本発明に係る疲労き裂進展抑制効果の評価方法は、下記の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいてさまざまな変更が可能なものである。
【0021】
まず、疲労き裂進展抑制効果の評価方法の対象となる実構造物について、予め、本発明に係る疲労き裂進展抑制効果の評価方法において評価の対象となる実構造物と同じ金属材料を用いた試料と、疲労試験機を用いて、微細粒ペーストの適用前と適用後の疲労き裂進展抑制効果の過程を調査する。
【0022】
疲労試験機は、試料のき裂部位に対して、負荷を加えることができる試験機が用いられる。また、微細粒ペーストは、本発明に係る疲労き裂進展抑制効果の評価方法において用いられる微細粒ペーストと同じ微細粒ペーストを用いる。
【0023】
本実施形態に係る疲労き裂進展抑制効果の評価方法において、予め調査した微細粒ペーストの適用前と適用後の疲労き裂進展抑制効果の過程の一例を、
図3に示す。
図3は、微細粒ペーストによる疲労き裂進展抑制効果が発現する過程を熱弾性温度変動の振幅の変化として捉えたグラフである。
【0024】
き裂の先端近傍に生じる熱弾性温度変動の振幅は、例えば、赤外線サーモグラフィを用いて、弾性変形の際に生じる試料のき裂の先端近傍に生じる微小な温度変動の振幅として計測する。即ち、計測されたき裂の先端近傍に生じる熱弾性温度変動の振幅をもとに、き裂に作用している応力の変動の振幅を計測することができる。赤外線サーモグラフィは、試料表面から放射される赤外線エネルギ分布を赤外線センサにより計測し、これを温度分布に換算・画像化して表示する装置である。従って、赤外線サーモグラフィを用いることにより、in situ 計測により、熱弾性温度変動の振幅を計測することができる。
【0025】
図3の横軸は、疲労試験機を用いて試験を行った回数、即ち、負荷を繰返し加えた数(繰返し数)である。橋梁や高架を実構造物の対象とした場合、加える負荷は、通過する大型車の1台あたりのき裂部位に加わると想定される重量であり、通過する繰返し数は、大型車の通過台数(交通量)に相当する。
図3の縦軸は、微細粒ペーストを適用する後に疲労試験機を用いて試験を行った際の実構造物の熱弾性温度変動の振幅(ペーストありの時の振幅)/微細粒ペーストを適用する前の実構造物の熱弾性温度変動の振幅(ペーストなしの時の振幅)の比、即ち、微細粒ペーストの適用前後の振幅比である。
【0026】
図3に示すように、繰返し数が約1500回までは、微細粒ペーストの適用前後の振幅比の勾配が小さくなり、徐々に疲労き裂の進展が遅くなることがわかる。一方、繰返し数が約1500回以降は、微細粒ペーストの適用前後の振幅比の勾配がほぼ一定で、疲労き裂の進展が抑制された状態で安定する結果が得られている。即ち、
図3の結果から、疲労試験機を用いた試験が約1500回繰返されると、微細粒ペーストがき裂の内部に進入して、くさび効果により疲労き裂進展抑制の効果が得られていることがわかる。従って、
図3に示す例では、微細粒ペーストによる疲労き裂進展抑制効果が上限に達することが予想される所定の負荷が、1500回分の負荷であると推測できる。
【0027】
以上のように、
図3に示す疲労き裂進展抑制効果の発現過程の例では、1500回を越える交通量がある場合(即ち、橋梁や高架等などで大型車の交通量が多く、短期間(例えば数日内)に微細粒ペーストによる疲労き裂進展抑制効果が上限に達することが予想される場合)と、1500回より少ない交通量がある場合(即ち、橋梁や高架等などで大型車の交通量が少なく、短期間(例えば数日内)に微細粒ペーストによる疲労き裂進展抑制効果が上限に達することが予想されない場合)とで、微細粒ペーストによる疲労き裂進展抑制効果が発現する過程を熱弾性温度変動の振幅の変化が異なるため、これらの2つの場合に分けて、疲労き裂進展抑制効果の評価方法を変えることが望ましい。即ち、疲労き裂進展抑制効果の評価方法を実施する試験期間内にき裂部位に加わる負荷が、微細粒ペーストによる疲労き裂進展抑制効果が上限に達する所定の負荷を超えることが予想されるか否かによって、疲労き裂進展抑制効果の評価方法を変えることが望ましい。
【0028】
そこで、本実施形態では、橋梁や高架等などで大型車の交通量が多く、試験期間内に微細粒ペーストによる疲労き裂進展抑制効果が上限に達することが予想される場合は、第1の実施形態に係る疲労き裂進展抑制効果の評価方法による評価を行い、橋梁や高架等などで大型車の交通量が少なく、試験期間内に微細粒ペーストによる疲労き裂進展抑制効果が上限に達することが予想されない場合は、第2の実施形態に係る疲労き裂進展抑制効果の評価方法による評価を行う。尚、
図3の疲労き裂進展抑制効果の発現過程を示すグラフは、例示にすぎず、予め、対象となる橋梁や高架等の実構造物に対応して疲労き裂進展抑制効果の発現過程を解析し、微細粒ペーストによる疲労き裂進展抑制効果が上限に達することが予想される所定の負荷を推測する必要がある。
【0029】
[第一の実施形態]
第一の実施形態に係る疲労き裂進展抑制効果の評価方法について、
図1に基づいて説明する。第一の実施形態に係る疲労き裂進展抑制効果の評価方法は、上述した通り、橋梁や高架等などで大型車の交通量が多く、試験期間内に微細粒ペーストによる疲労き裂進展抑制効果が上限に達することが予想される場合に適用する。
図3の例では、試験期間内に1500回を超える負荷が加わる場合が該当する。
【0030】
図1に示すように、まず、橋梁や高架等の実構造物において、微細粒ペーストを適用する前に、実構造物のき裂の先端近傍に生じる熱弾性温度変動の振幅を測定する(S11:初期振幅検出工程)。熱弾性温度変動の振幅は、例えば、上述した赤外線サーモグラフィを用いて、in situ 計測により計測を行う。
【0031】
次に、実構造物のき裂に微細粒ペーストを適用して、微細粒ペーストがき裂の内部に進入する所定の負荷を実構造物のき裂に加える(S12〜13:微細粒ペースト適用工程)。この工程では、まず、実構造物のき裂に微細粒ペーストを塗布する(S12)。ここで、微細粒ペーストは、例えば、粒子として粒子径が100μm以下のアルミナ、鉄、シリカ、ジルコニア、炭化ケイ素、炭化ホウ素、ダイヤモンドを用い、この粒子と混合する液体としては粘度が5.0Pa・s未満の低揮発性や難燃性の油を用い、これら両者を混合したものを用いる。そして、微細粒ペーストが、き裂の内部に進入する所定の負荷を実構造物のき裂部位に加える(S13)。ここで、所定の負荷は、予め測定した疲労き裂進展抑制効果が上限に達する負荷、即ち、微細粒ペーストの適用前後の振幅比の勾配がほぼ一定となる負荷である。
図3に示す例では、所定の負荷は、繰返し数1500回(交通量でいうと1500台分)の負荷である。
【0032】
そして、微細粒ペースト適用工程S13で微細粒ペーストを適用した後に、即ち、微細粒ペースト適用工程S13で所定の負荷を加えて、微細粒ペーストがき裂の内部に進入した後に、実構造物のき裂の先端近傍に生じる熱弾性温度変動の振幅を測定する(S14:適用後振幅検出工程)。初期振幅検出工程S11と同様に、熱弾性温度変動の振幅は、例えば、上述した赤外線サーモグラフィを用いて、in situ 計測により計測を行う。
【0033】
最後に、初期振幅検出工程S11で得られた振幅と適用後振幅検出工程S14で得られた振幅の大きさの比を減衰比として算出して、得られた減衰比に基づいて、微細粒ペーストによる疲労き裂進展抑制効果を評価する(S15〜18:微細粒ペースト効果確認工程)。この工程では、まず、(適用後振幅検出工程S14で得られた振幅の大きさ)/(初期振幅検出工程S11で得られた振幅の大きさ)を減衰比として算出する(S15)。次に、算出された減衰比が1.0以下かどうか判断する(S16)。算出された減衰比が1.0以下である場合は(S16:YES)、微細粒ペーストを適用した後の振幅が微細粒ペーストを適用する前の振幅より小さくなっており、微細粒ペーストによる疲労き裂進展抑制効果が得られていることが評価できる(S17)。一方、算出された減衰比が1.0を超える場合は(S16:NO)、微細粒ペーストを適用した後の振幅が微細粒ペーストを適用する前の振幅より大きくなっており、微細粒ペーストによる疲労き裂進展抑制効果が得られていないことが評価できる(S18)。
【0034】
このように、第一の実施形態に係る疲労き裂進展抑制効果の評価方法によると、橋梁や高架等などで大型車の交通量が多く、試験期間内に微細粒ペーストによる疲労き裂進展抑制効果が上限に達することが予想される場合に、微細粒ペーストを適用してから、き裂の内部に微細粒ペーストが進入して予測した疲労き裂進展抑制効果が上限に達する時間が経過した後に、実構造物のき裂の先端近傍に生じる熱弾性温度変動の振幅を測定し、微細粒ペーストを適用する前に測定した実構造物のき裂の先端近傍に生じる熱弾性温度変動の振幅(初期振幅)と比較して、減衰比を算出する。そして、得られた減衰比に基づいて、微細粒ペーストを適用した後の振幅が微細粒ペーストを適用する前の振幅より小さくなっている、即ち、減衰比が1.0以下であることが確認できれば、微細粒ペーストによる疲労き裂進展抑制効果が得られていることが評価できる。以上により、橋梁や高架等の実構造物において、熱弾性温度変動の振幅をin situ 計測により計測して、微細粒ペーストの疲労き裂進展遅延効果の評価を容易に行うことができる。
【0035】
[第二の実施形態]
第二の実施形態に係る疲労き裂進展抑制効果の評価方法について、
図2に基づいて説明する。第二の実施形態係る疲労き裂進展抑制効果の評価方法は、上述した通り、橋梁や高架等などで大型車の交通量が少なく、試験期間内に微細粒ペーストによる疲労き裂進展抑制効果が上限に達することが予想されない場合に適用する。
図3の例では、試験期間内に1500回以下の負荷が加わる場合が該当する。
【0036】
図2に示すように、まず、橋梁や高架等の実構造物において、微細粒ペーストを適用する前に、実構造物のき裂の先端近傍に生じる熱弾性温度変動の振幅を測定する(S21:初期振幅検出工程)。熱弾性温度変動の振幅は、例えば、上述した赤外線サーモグラフィを用いて、in situ 計測により計測を行う。
【0037】
次に、実構造物のき裂に微細粒ペーストを適用して、微細粒ペーストがき裂の内部に進入する所定の負荷を前記実構造物のき裂に加えると共に、実構造物のき裂の先端近傍に生じる熱弾性温度変動の振幅を、所定の時間間隔毎に測定する(S22〜23:適用中振幅検出工程)。この工程では、まず、実構造物のき裂に微細粒ペーストを塗布する(S22)。ここで、微細粒ペーストは、例えば、粒子として粒子径が100μm以下のアルミナ、鉄、シリカ、ジルコニア、炭化ケイ素、炭化ホウ素、ダイヤモンドを用い、この粒子と混合する液体としては粘度が5.0Pa・s未満の低揮発性や難燃性の油を用い、これら両者を混合したものを用いる。そして、微細粒ペーストが、き裂の内部に進入する所定の負荷をき裂部位に加えつつ、所定の時間間隔毎に、実構造物のき裂の先端近傍に生じる熱弾性温度変動の振幅を測定する(S23)。ここで、所定の負荷は、予め測定した疲労き裂進展抑制効果が上限に達する負荷、即ち、微細粒ペーストの適用前後の振幅比の勾配がほぼ一定となる負荷である。
図3に示す例では、所定の負荷は、繰返し数1500回(交通量でいうと1500台分)の負荷である。また、所定の時間間隔は、例えば、数時間であり、適宜設定することができる。
【0038】
最後に、初期振幅検出工程S21で得られた振幅と適用中振幅検出工程S23で得られた振幅から減少勾配を減衰速度として算出して、得られた減衰速度に基づいて、微細粒ペーストによる疲労き裂進展抑制効果を評価する(S24〜27:微細粒ペースト効果確認工程)。この工程では、まず、(適用中振幅検出工程S23で得られた振幅の大きさ)/(初期振幅検出工程S21で得られた振幅の大きさ)である減衰比を所定の時間間隔毎に算出し、
所定の時間間隔経過前に算出した減衰比
を所定の時間間隔経過後
に算出した減衰比
から減算し、所定の時間間隔で割った値を減衰速度として算出する(S24)。次に、算出された減衰速度が0.0以下かどうか判断する(S25)。算出された減衰速度が0.0以下である場合は(S25:YES)、微細粒ペーストを適用した後、時間が経過するにつれて減少勾配
の傾きが
負になっており、微細粒ペーストによる疲労き裂進展抑制効果が得られていることが評価できる(S26)。一方、算出された減衰速度が0.0を超える場合は(S25:NO)、微細粒ペーストを適用した後、時間が経過するにつれて減少勾配
の傾きが
負になっておらず、微細粒ペーストによる疲労き裂進展抑制効果が得られていないことが評価できる(S27)。
【0039】
このように、第二の実施形態に係る疲労き裂進展抑制効果の評価方法によると、橋梁や高架等などで大型車の交通量が少なく、試験期間内に微細粒ペーストによる疲労き裂進展抑制効果が上限に達することが予想されない場合に、微細粒ペーストを適用する前から、所定の時間間隔毎に、実構造物のき裂の先端近傍に生じる熱弾性温度変動の振幅を測定し、その振幅から減衰比の減少勾配を減衰速度として算出する。そして、得られた減衰速度に基づいて、時間が経過するにつれて減少勾配が緩やかになっている、即ち、減衰速度が0以下であることが確認できれば、微細粒ペーストによる疲労き裂進展抑制効果が得られていること評価できる。以上により、橋梁や高架等の実構造物において、熱弾性温度変動の振幅をin situ 計測により計測して、微細粒ペーストの疲労き裂進展遅延効果の評価を容易に行うことができる。
【0040】
以上、本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明は、前記実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいてさまざまな変更が可能なものである。
【0041】
上述した本実施形態に係る疲労き裂進展抑制効果の評価方法によると、第一の実施形態における微細粒ペースト適用工程S13及び第二の実施形態における適用中振幅検出工程S22においては、き裂部位に所定の負荷を加えて、微細粒ペーストがき裂の内部に進入したことを推測しているが、それに限らない。例えば、き裂部位に加わる単位時間当たりの負荷(交通量)があらかじめ予測できる場合には、き裂部位に加わる単位時間当たりの負荷に基づいて、所定の負荷が加わって疲労き裂進展抑制効果が上限に達する時間が予測できる。従って、第一の実施形態における微細粒ペースト適用工程S13及び第二の実施形態における適用中振幅検出工程S22において、微細粒ペーストを適用してから予測した疲労き裂進展抑制効果が上限に達する時間が経過したことをもって、微細粒ペーストがき裂の内部に進入したことを推測しても良い。