(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6069141
(24)【登録日】2017年1月6日
(45)【発行日】2017年2月1日
(54)【発明の名称】ガスレーザ発振器及びそれを用いたレーザ加工装置
(51)【国際特許分類】
H01S 3/03 20060101AFI20170123BHJP
H01S 3/00 20060101ALI20170123BHJP
【FI】
H01S3/03 L
H01S3/00 B
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-187464(P2013-187464)
(22)【出願日】2013年9月10日
(65)【公開番号】特開2014-209532(P2014-209532A)
(43)【公開日】2014年11月6日
【審査請求日】2016年3月22日
(31)【優先権主張番号】特願2013-61224(P2013-61224)
(32)【優先日】2013年3月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000233332
【氏名又は名称】ビアメカニクス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】大谷 宣嘉
(72)【発明者】
【氏名】山村 英穂
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 英之
【審査官】
島田 英昭
(56)【参考文献】
【文献】
特開平08−293637(JP,A)
【文献】
特開昭58−215609(JP,A)
【文献】
特開昭55−088342(JP,A)
【文献】
特開2008−219031(JP,A)
【文献】
特開平08−139390(JP,A)
【文献】
特開平08−148742(JP,A)
【文献】
特開2002−094147(JP,A)
【文献】
特表平08−505007(JP,A)
【文献】
特開昭58−193503(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S3/00−3/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスが封入された容器内で一組の電極が複数の電極間隔支持部材で連結され、前記一組の電極により導波路が形成されるガスレーザ発振器において、前記電極間隔支持部材が、前記一組の電極のうちの少なくとも一方に固定される絶縁性部材と、前記一組の電極間の間隔を維持するために一端が前記絶縁性部材に固定されるとともに前記電極の長手方向に可撓性を有する金属製連結部材とを含み、前記電極間隔支持部材が前記一組の電極の熱膨張による長手方向の伸びの差を吸収できるようにしたことを特徴とするガスレーザ発振器。
【請求項2】
請求項1に記載のガスレーザ発振器において、前記金属製連結部材は、金属板から成り、その厚み方向が前記電極の長手方向となるように配置されていることを特徴とするガスレーザ発振器。
【請求項3】
請求項2に記載のガスレーザ発振器において、前記金属板はその厚み方向に複数枚重ねられていることを特徴とするガスレーザ発振器。
【請求項4】
請求項2又は3に記載のガスレーザ発振器において、前記絶縁性部材はセラミックから成り、前記金属板はステンレスから成ることを特徴とするガスレーザ発振器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリント基板のような被加工物に穴明け等を行うためのレーザビームを発生するためのガスレーザ発振器及びそれを用いたレーザ加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスレーザ発振器においては、高周波で励起したプラズマ放電を伴い、その際、発生した熱は熱伝導により電極に伝わる。電極の温度が上昇すると、電極は熱膨張する。
【0003】
従来、例えば特許文献1に開示されたガスレーザ発振器においては、一組の電極が複数の絶縁部材で連結されている。一組の電極のそれぞれには冷却パイプが埋め込まれ、その中に冷媒を流すことにより、一組の電極の温度上昇が抑えられるようになっているが、電極の熱膨張による長手方向の伸びの差については何も考慮されていない。
【0004】
ガスレーザ発振器においては、電極に熱膨張による長手方向の伸びの差が発生すると、電極間に形成される導波路の形状が変化し、レーザビームの出力及びビーム位置の安定性が損なわれる結果となる。
【0005】
これを防ぐために、電極の熱膨張によるビーム位置変動を予め見込んでおき、熱膨張でビームが正規位置に来るようにする方法がある。しかしながら、この方法では、ビーム出力の開始時、熱膨張のための時間をいつも確保する必要がある。
すなわち、加工の終了したプリント基板を移動させ、次のプリント基板が加工位置に来るまで、ビーム出力を停止させなければならない。この期間においても電極の冷却は起こり、このままだとビームが正規位置とずれているので、次のプリント基板の加工を開始するためには、ビームが正規位置に来るまで熱膨張のための時間を確保する必要がある。従って、上記の方法では、装置の稼働効率が悪くなる。
【0006】
さらに、上記の方法では、冷媒の温度管理のための複雑な制御が必要であるとともに、電極102と103を冷却するための冷媒の温度との関係で、電極の熱膨張によるビーム位置変動がいつも見込み通りになるとは限らず、ビーム位置の安定性を確保できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−94147号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明は、ガスレーザ発振器において、一組の電極の熱膨張による長手方向の伸びの差による導波路の曲がり変形を抑制することにより、レーザビームの出力及びビーム位置の安定性を向上させることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、請求項1に記載のガスレーザ発振器においては、ガスが封入された容器内で一組の電極が複数の電極間隔支持部材で連結され、前記一組の電極により導波路が形成されるガスレーザ発振器において、前記電極間隔支持部材
が、前記一組の電極のうちの少なくとも一方に固定される絶縁性部材と、前記一組の電極間の間隔を維持するために一端が前記絶縁性部材に固定されるとともに前記電極の長手方向に可撓性を有する金属製連結部材とを含み、前記電極間隔支持部材が前記一組の電極の熱膨張による長手方向の伸びの差を吸収できるようにしたことを特徴とする。
【0010】
また請求項2に記載のガスレーザ発振器においては、請求項1に記載のガスレーザ発振器において、
前記金属製連結部材は、金属板から成り、その厚み方向が前記電極の長手方向となるように配置されていることを特徴とする。
【0011】
また請求項3に記載のガスレーザ発振器においては、請求項2に記載のガスレーザ発振器において、
前記金属板はその厚み方向に複数枚重ねられていることを特徴とする。
【0012】
また請求項4に記載のガスレーザ発振器においては、
請求項2又は3に記載のガスレーザ発振器において、
前記絶縁性部材はセラミックから成り、前記金属板はステンレスから成ることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ガスレーザ発振器において、一組の電極の熱膨張の伸びの差による導波路の曲がり変形を抑制することにより、レーザビームの出力及びビーム位置の安定性を向上させ、そのガスレーザ発振器を用いたレーザ加工装置の加工品質を安定させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施例となるガスレーザ発振器の部分的斜視図である。
【
図2】本発明の一実施例となるガスレーザ発振器の簡略な断面図である。
【
図3】
図1と2における電極間隔支持部材付近の断面図である。
【
図4】電極間隔支持部材の動作を説明するための図である。
【
図5】本発明による効果を説明するための図である。
【
図6】従来技術での現象を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0017】
本発明の一実施例について説明する。
図1は本発明の一実施例となるガスレーザ発振器の部分的斜視図、
図2は本発明の一実施例となるガスレーザ発振器の簡略な断面図、
図3は
図1と2における電極間隔支持部材付近の断面図である。
【0018】
図1と2において、ガスレーザ発振器101は、対向して配置された一組の電極102と103、これら電極102と103の両端に配置された一組の反射鏡104と105、及び媒質ガスが封入され前記部品を収容する気密容器106とを含む。
図示を省略するが、電極102と103のそれぞれには冷却パイプが埋め込まれ、その中に冷媒を流すことにより、プラズマ放電で発熱した電極102と103が冷却されるようになっている。
【0019】
電極102と103の短手方向の両端側面には、電極102と103の間隔を一定に保つための電極間隔支持部材109が、長手方向に複数取付けられている。電極102はその長手方向の両端部に位置する電極支持部107と108によって気密容器106に支持されており、電極102と103で形成される導波路110が気密容器106内に構成されている。
【0020】
電極間隔支持部材109は、
図1と3に示すように、それぞれ電極102、103にネジ205で固定されるブロック201、202と、これらブロック201、202の側面同士を連結する連結板203、204とから構成される。
【0021】
ブロック201と202は例えばセラミックの如き絶縁材から成り、それぞれ電極102、103にねじ205で固定されている。また連結板203と204は例えばステンレスの如き金属板で、それぞれブロック201と202にねじ206で固定されている。
連結板203、204は、その厚み方向が電極102、103の長手方向となるように配置され、電極102と103の間隔を維持するための剛性を持つと同時に、電極102、103の長手方向には可撓性を有する。
【0022】
ガスレーザ発振器101を作動させると、電極102と103の間にプラズマ放電が励起され、この際に発生する熱は電極102と103に伝わり、電極102と103は熱膨張による伸びを起こす。
【0023】
従来技術においては、電極102と103の熱膨張による伸びの差があっても、何も考慮されていないために、
図6に示すように、電極102と103が曲がって、これらによって形成される導波路110も曲がる。曲がり変形を起こした導波路110はレーザビームに対する損失を増し、レーザ出力が低下してしまう。
なお、
図6は曲がり変形を誇張して描いてあるが、実際は、このような大きな変形がある訳ではない。
【0024】
また曲がり変形後の導波路端の向きは、曲がり変形前の導波路端の向きと異なる向きとなり、反射鏡104と105にて反射されたレーザビームが導波路110へと再度導入される際の損失を増し、結果としてレーザ出力及びレーザビームの位置安定性を損なわれる。
【0025】
これに対し、本発明の上記実施例によれば、電極102と103が熱膨張の伸びの差を起こしても、
図4に示すように、電極間隔支持部材109の連結板203、204がその板厚方向、すなわち電極102、103の長手方向に撓むことで、電極102と103の熱膨張の伸びの差を吸収する。
【0026】
これにより、電極102と103の熱膨張による長手方向の伸びの差があっても、
図5に示すように、電極102と103で形成される導波路の曲がり変形は抑制されるので、導波路端の向きは変化しにくくなり、レーザ出力及びレーザビームの位置安定性を損なうことを防ぐことができる。
なお、連結板203、204が撓むことで、理論上、電極102と103の間隔が狭められることになるが、その値は、電極102と103の長手方向の熱膨張に対して著しく小さく、導波路110への影響は無視できる。
【0027】
この実施例によれば、電極102と103の熱膨張の大小にかかわらず、あるいは電極102と103を冷却するための冷媒の温度と関係なく、電極102と103で形成される導波路の曲がり変形は抑制される。
従って、ビーム出力の開始時、熱膨張のための時間を確保する必要はなく、装置の稼働効率が良くなるとともに、冷媒の温度管理のための複雑な制御が不要になる。
【0028】
なお、以上の本発明の一実施例において、例えば、ブロック201と202は、いずれも絶縁材から成っているが、一方だけ絶縁体でない金属であっても良く、この場合でも電極102と103間の絶縁は保たれる。一方が金属となれば、両方にセラミックの如き絶縁材を使う場合より、コストが低くなる。
また、連結板203と204は、それぞれ一枚の金属板としたが、電極の長手方向に可撓性を持たせられるのであれば、複数枚の金属板をその厚み方向に重ねたものとしても良い。この方が、電極102と103の間隔を維持するための剛性が高くなる利点がある。
【符号の説明】
【0029】
101:ガスレーザ発振器
102、103:電極
104、105:反射鏡
106:気密容器
109:電極間隔支持部材
110:導波路
201、202:ブロック
203、204:連結板