特許第6069145号(P6069145)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6069145
(24)【登録日】2017年1月6日
(45)【発行日】2017年2月1日
(54)【発明の名称】高圧捻り成形機
(51)【国際特許分類】
   B21D 11/14 20060101AFI20170123BHJP
   B30B 1/32 20060101ALI20170123BHJP
   B30B 15/04 20060101ALI20170123BHJP
【FI】
   B21D11/14
   B30B1/32 B
   B30B15/04 A
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-188999(P2013-188999)
(22)【出願日】2013年9月12日
(65)【公開番号】特開2015-54341(P2015-54341A)
(43)【公開日】2015年3月23日
【審査請求日】2015年12月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001704
【氏名又は名称】特許業務法人山内特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田渡 正史
【審査官】 細川 翔多
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−144208(JP,A)
【文献】 特開2006−346700(JP,A)
【文献】 特開2003−073787(JP,A)
【文献】 特開平06−198350(JP,A)
【文献】 特開平03−027836(JP,A)
【文献】 特開2002−336996(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 11/14
B21J 1/04
B30B 1/00−15/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
素材を挟む一対の金型と、
筒部と、該筒部内で摺動可能な摺動部とを有し、前記素材に圧縮応力を加える加圧シリンダと、
前記摺動部を回転させ、前記素材に剪断応力を加える回転手段と、
クラウンと、ベッドと、アップライトとを有するフレームと、
前記摺動部の摺動に追従して前記フレームに対して摺動し、該摺動部を回転可能に支持するスライドと、を備え、
前記一対の金型のうち一方の金型は、前記摺動部に対し固定されており、
前記筒部は、前記フレームに固定されるとともに、前記摺動部を回転可能に支持しており、
前記回転手段は、
前記摺動部の回転中心と同心に設けられ、該摺動部に設けられたメインギヤと、
前記メインギヤと噛み合うピニオンギヤと、
前記スライドに固定され、前記ピニオンギヤを回転させるモータと、を備える
ことを特徴とする高圧捻り成形機。
【請求項2】
前記スライドの傾きを制限するスライドガイドを備える
ことを特徴とする請求項記載の高圧捻り成形機。
【請求項3】
前記ピニオンギヤは、前記メインギヤの周囲に等角度間隔で複数設けられている
ことを特徴とする請求項1または2記載の高圧捻り成形機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高圧捻り成形機に関する。さらに詳しくは、高圧捻り法により素材を結晶微細化するための高圧捻り成形機に関する。
【背景技術】
【0002】
結晶微細化とは、金属のような多結晶体に物理的な力や加熱処理を施して結晶粒を分断、細分化することである。結晶粒を微細化することによって、強度や延性などの力学的特性を向上できる。結晶微細化を行う方法として強ひずみ加工法がある。強ひずみ加工法とは、通常の塑性加工では与えることのできない非常に大きなひずみを付与することにより、結晶粒を物理的に分断、細分化する方法である。
【0003】
代表的な強ひずみ加工法としては、高圧捻り法(HPT: High Pressure Torsion)、繰返し押出し加工法(ECAP: Equal Channel Angular Pressing)、繰返し重ね圧延法(ARB: Accumulative Roll Bonding)、多軸鍛造法(MDF: Multi Directional Forging)などが知られている。このうち高圧捻り法は、素材に圧縮応力を加えながら、捻り変形によって剪断応力を加える方法である(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−247734号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に、高圧捻り法により素材を結晶微細化するための高圧捻り成形機は、素材を挟む一対の金型を有しており、一方の金型側に加圧力を付与する加圧シリンダが設けられ、他方の金型を回転させる構造となっている。回転側の金型はスラストベアリングを介してフレームに設けられ、加圧シリンダによる加圧力を受けた状態で回転できるよう構成されている。しかし、スラストベアリングは大きな加圧力に耐えることができない。したがって、従来の高圧捻り成形機は小型のものであり、加圧力が数百トン以上の大型の成形機は存在しなかった。
【0006】
本発明は上記事情に鑑み、素材に高い加圧力を付与できる高圧捻り成形機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1発明の高圧捻り成形機は、素材を挟む一対の金型と、筒部と、該筒部内で摺動可能な摺動部とを有し、前記素材に圧縮応力を加える加圧シリンダと、前記摺動部を回転させ、前記素材に剪断応力を加える回転手段と、クラウンと、ベッドと、アップライトとを有するフレームと、前記摺動部の摺動に追従して前記フレームに対して摺動し、該摺動部を回転可能に支持するスライドと、を備え、前記一対の金型のうち一方の金型は、前記摺動部に対し固定されており、前記筒部は、前記フレームに固定されるとともに、前記摺動部を回転可能に支持しており、前記回転手段は、前記摺動部の回転中心と同心に設けられ、該摺動部に設けられたメインギヤと、前記メインギヤと噛み合うピニオンギヤと、前記スライドに固定され、前記ピニオンギヤを回転させるモータと、を備えることを特徴とする。
第2発明の高圧捻り成形機は、第1発明において、前記スライドの傾きを制限するスライドガイドを備えることを特徴とする。
第3発明の高圧捻り成形機は、第1または第2発明において、前記ピニオンギヤは、前記メインギヤの周囲に等角度間隔で複数設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
第1発明によれば、回転手段により摺動部を回転せることで、一方の金型を回転できるため、金型を支持するスラストベアリングが不要であり、素材に高い加圧力を付与できる。また、筒部がフレームに固定され回転しないので、加圧シリンダの全体を回転させる場合に比べて回転側の重量を減らすことができる。さらに、モータの駆動により摺動部を回転せることで、一方の金型を回転できる。回転手段が簡易な構造であるので、全体をコンパクトにできる。
第2発明によれば、スライドが傾かないよう制限されているので、金型に偏心負荷が作用しても、金型の傾きが制限されるため、偏心負荷性能がよい。
第3発明によれば、ピニオンギヤがメインギヤの周囲に等角度間隔で設けられているので、摺動部の軸心がズレることを防止できる。そのため、金型がズレることを防止でき、加工精度がよい。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施形態に係る高圧捻り成形機の部分縦断面図である。
図2図1におけるII-II線矢視断面図である。
図3】同高圧捻り成形機の加圧状態の部分縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
図1に示すように、本発明の一実施形態に係る高圧捻り成形機Aは、クラウン1と、ベッド2と、それらの間に立設する4本のアップライト3とから構成されるフレームfを有している。クラウン1にはラム形の加圧シリンダ4が設けられている。加圧シリンダ4は、シリンダチューブ41と、シリンダチューブ41内で摺動可能なラム42とを有する。シリンダチューブ41はラム42を回転可能に支持している。シリンダチューブ41がクラウン1に固定されている。なお、シリンダチューブ41およびラム42が、それぞれ特許請求の範囲に記載の「筒部」および「摺動部」に相当する。また、加圧シリンダ4としては、油圧シリンダのほか種々のシリンダを用いることができる。
【0011】
高圧捻り成形機Aは、素材Mを挟む一対の金型51、52、すなわち上型51と下型52とを備えている。加圧シリンダ4のラム42の先端部はスライド6の貫通孔61に挿し通されており、その先端面に上型51が固定されている。上型51はラム42に対して回転しないようにインロウ構造で取り付けられている。なお、上型51はラム42に直接固定されるほか、他の部材を介してラム42に対して間接的に固定されてもよい。
【0012】
一方、ベッド2の上面には下型52が固定されている。下型52はベッド2に対して回転しないようにインロウ構造で取り付けられている。上型51および下型52には、それぞれ素材Mを収容する凹状の収容部51a、52aが形成されている。加圧シリンダ4を伸長することで上型51が下降し、上型51に加圧力を付与することができる。これにより、収容部51a、52aに収容された素材Mに圧縮応力を加えることができる。
【0013】
スライド6の貫通孔61とラム42の先端部との間にはブッシュまたはラジアルベアリング等の回転支持部材が設けられている。ラム42は、その摺動方向と平行な中心軸周りにスライド6に対して回転可能に支持されている。また、スライド6はラム42の摺動に追従してフレームfに対して昇降するよう構成されている。ラム42とスライド6との間のクリアランスは最小限に構成されており、ラム42がスライド6に対して傾かないよう制限されている。
【0014】
図2に示すように、スライド6とアップライト3との間にはスライドガイド62が設けられている。スライドガイド62により、スライド6をアップライト3に沿って昇降可能とし、かつフレームfに対して回転しないよう制限している。また、スライドガイド62のクリアランスは最小限に構成されており、スライド6がフレームfに対して傾かないよう制限されている。
【0015】
以上のように、ラム42がスライド6に対して傾かないよう制限されており、スライド6がフレームfに対して傾かないよう制限されているので、加圧時に素材Mにより上型51に偏心負荷が作用しても、上型51の傾きが制限され、水平に維持できる。そのため、偏心負荷性能がよく、素材Mの加工精度がよくなる。
【0016】
図1にもどり説明する。クラウン1の左右両側には引戻シリンダ7が設けられている。引戻シリンダ7のピストンロッド先端にはスライド6が連結されている。加圧シリンダ4を伸長させスライド6を下降させた後、引戻シリンダ7を収縮させることで、スライド6を上昇させ加圧シリンダ4を収縮させることができる。
【0017】
高圧捻り成形機Aは、加圧シリンダ4のラム42をその中心軸周りに回転させる回転手段8を備えている。回転手段8は、メインギヤ81と、ピニオンギヤ82と、モータ83とからなる。メインギヤ81はラム42の外周に沿って設けられており、ラム42の軸心(回転中心)とメインギヤ81の中心とは同心となっている。また、メインギヤ81は、ラム42におけるスライド6より上方位置であって、加圧シリンダ4の最収縮状態においてもシリンダチューブ41より出ている位置に設けられている。
【0018】
モータ83はスライド6の上部に固定されており、その駆動軸にピニオンギヤ82が固定されている。ピニオンギヤ82はメインギヤ81と噛み合う位置に配置されている。そのため、モータ83の駆動によりピニオンギヤ82およびメインギヤ81を回転させ、ラム42をその中心軸周りに回転させることで、上型51を回転できる。なお、モータ83としては、油圧モータや電動モータのほか種々のモータを用いることができる。
【0019】
図2に示すように、本実施形態ではピニオンギヤ82が2つ設けられている。また、2つのピニオンギヤ82のそれぞれにモータ83が設けられている。2つのピニオンギヤ82、82は、メインギヤ81の周囲に等角度間隔(180°間隔)で設けられている。換言すれば、2つのピニオンギヤ82、82は、メインギヤ81の中心(ラム42の軸心)を中心として対称の位置に配置されている。
【0020】
メインギヤ81とピニオンギヤ82との間には、メインギヤ81を回転させる接線方向の力のほかに、互いに離間させる法線方向の力も加わる。この法線方向の力はラム42とスライド6とが相対的に水平方向にズレる要因となる。本実施形態では、2つのピニオンギヤ82、82がメインギヤ81の周囲に等角度間隔で設けられているので、法線方向の力が相殺され、接線方向の力のみ作用する。そのため、ラム42の軸心がズレることを防止できる。その結果、上型51が下型52に対して水平方向にズレることを防止でき、素材Mの加工精度がよくなる。
【0021】
なお、ピニオンギヤ82を3つ以上設けてもよい。この場合であっても、複数のピニオンギヤ82をメインギヤ81の周囲に等角度間隔で設ければ、上型51が下型52に対して水平方向にズレることを防止できる。
【0022】
つぎに、高圧捻り成形機Aによる素材Mの結晶微細化処理を説明する。
まず、図1に示すように、加圧シリンダ4を引き戻した状態で下型52の収容部52aに素材Mを置く。一般に、素材Mは円盤状または円柱状をしている。素材Mの中心に孔を開けてドーナツ状または円筒状とすることで、剪断応力を均等に作用させる場合もある。
【0023】
つぎに、図3に示すように、加圧シリンダ4を伸長して、素材Mを上型51と下型52とで挟んで圧縮応力を加える。この状態でモータ83を駆動し、ラム42とともに上型51を回転させることで、素材Mを捻り変形させ剪断応力を加える。ここで、ラム42はスライド6に対して回転可能であり、スライド6はスライドガイド62により回転が制限されているため、ラム42を回転させてもスライド6が回転することはない。また、スライド6はラム42に追従して昇降するのみであり、加圧シリンダ4による加圧力は加わらない。したがって、スライド6により加圧力を支持する必要はない。
【0024】
以上より、素材Mに圧縮応力を加えながら剪断応力を加えることができ、高圧捻り法による結晶微細化ができる。なお、上型51の回転速度や回転回数は適宜調整すればよいが、例えば、1rpmで10〜20回転させる。
【0025】
素材Mの結晶微細化の終了後、引戻シリンダ7により加圧シリンダ4を収縮させ、素材Mを取り出す。
【0026】
以上のように、回転手段8によりラム42自体を回転せることで上型51を回転できるため、上型51を回転可能に支持するスラストベアリングが不要である。そのため、高出力の加圧シリンダ4を採用でき、素材Mに高い加圧力を付与できる。したがって、加圧力が数百トン以上の大型の成形機とすることができる。なお、本発明は大型の成形機のみならず、小型の成形機にも適用できる。
【0027】
また、回転手段8が簡易な構造であるので、高圧捻り成形機Aの全体をコンパクトにできる。しかも、複数のモータ83を備えるので、小型のモータ83で高い剪断応力を加えることができる。
【0028】
さらに、シリンダチューブ41がフレームfに固定され回転しないので、加圧シリンダ4の全体を回転させる場合に比べて回転側の重量を減らすことができる。
【0029】
(その他の実施形態)
上記実施形態の高圧捻り成形機Aにおけるラム形の加圧シリンダ4を、ピストン形の加圧シリンダ4に代えてもよい。加圧シリンダ4のピストンロッドが特許請求の範囲に記載の「摺動部」に相当する。この場合、回転手段8のメインギヤ81は加圧シリンダ4のピストンロッドに設けられる。ピストンロッドの軸心とメインギヤ81の中心とは同心とする。ピストン形の加圧シリンダ4を用いても、上記実施形態と同様の効果を奏することができる。なお、ピストン形の加圧シリンダ4は自力で上昇可能であるので引戻シリンダ7を設ける必要はない。
【0030】
また、上記実施形態の高圧捻り成形機Aにおいて、回転手段8をスライド6の下方に設けてもよい。すなわち、ラム42の先端部をスライド6の下方に突出するよう構成し、その突出部にメインギヤ81を設ける。そして、ピニオンギヤ82およびモータ83をスライド6の下部に設ける。このような構成でも、上記実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0031】
さらに、上型51をフレームfに固定し、下型52に加圧シリンダ4および回転手段8を設けてもよい。また、一対の金型51、52を水平に配置し、一方の金型51(52)を水平方向にスライドさせるように構成してもよい。
【符号の説明】
【0032】
1 クラウン
2 ベッド
3 アップライト
4 加圧シリンダ
41 シリンダチューブ
42 ラム
51 上型
52 下型
6 スライド
61 貫通孔
62 スライドガイド
7 引戻シリンダ
8 回転手段
81 メインギヤ
82 ピニオンギヤ
83 モータ
図1
図2
図3