(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
舞台の袖に奥行き方向に延びるギャラリーを移動するとともに、上記ギャラリーから、このギャラリーの手摺を乗り越えて、上記舞台の間口方向に延びる照明ブリッジに移動するための移動式渡り橋において、
上記ギャラリーを支える吊り材と上記手摺との間に配置されるとともに、上記ギャラリーに沿って配置され水平方向に延びる一以上のレールを走行する一以上の走行手段と、これら走行手段に取り付けられる支持部材と、この支持部材に支えられる床板と、この床板に連結されて上記照明ブリッジ側に延びる架設板と、上記床板に連結されて上記ギャラリーから上記床板に上がるための階段とを備えることを特徴とする移動式渡り橋。
【背景技術】
【0002】
演劇やコンサートに利用される多目的ホールや、テレビ局のスタジオの中には、例えば、特許文献1,2に開示のように、出演者を照らしたり、地明かりをつくったりするための照明器具を、舞台の間口方向に延びる照明ブリッジに取り付け、この照明ブリッジをバトンで吊っているものがある。この照明ブリッジには、作業者が乗込んで照明器具の角度調節をできる作業スペースが設けられている。
【0003】
また、舞台の袖の上部には、ギャラリーと称されて、舞台の奥行き方向に延びる作業者通行用の廊下が吊り材で吊り下げられており、作業者は、照明器具の角度調節の際、このギャラリーから照明ブリッジに移動して作業する。ギャラリーには、このギャラリーを通行する作業者の安全に配慮して、手摺が設けられている。そこで、照明ブリッジの吊り下げ位置が固定されている場合には、ギャラリーと照明ブリッジとを行き来する乗り込み位置が変わらないので、この部分にあたる手摺の一部を開閉式にし、ギャラリーと照明ブリッジとの行き来を可能にすることが一般的である。
【0004】
しかし、照明ブリッジを異なるバトンに吊り替えて、照明ブリッジの吊り下げ位置を演目等に合わせて変更する場合には、照明ブリッジの吊り下げ位置に応じて乗込み位置が変わるので、手摺の開閉部を変える必要があるものの、このようにすることは困難である。そこで、照明ブリッジの吊り替えがある多目的ホールでは、作業者がギャラリーの手摺を乗り越えて照明ブリッジに移動するための渡り橋を移動式にした移動式渡り橋が利用されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の移動式渡り橋は、例えば、
図5に示すように、ギャラリーを走行する台車8と、この台車8に起立する複数の支柱28と、これらの支柱28で支えられる床板3と、この床板3に連結される架設板9と、ギャラリーから床板3に上がるための階段5とを備えており、架設板9がギャラリーの手摺g1を越えて照明ブリッジ側に延びるようになっている。この架設板9は、台車8の車輪80からはみ出した、つまり、オーバーハングした位置に設けられているので、移動式渡り橋を固定せずに作業者が架設板9に乗ると、転倒の危険がある。
【0007】
このため、
図5に示す移動式渡り橋では、ギャラリーの床g2をグレーチングにして、当該グレーチングに台車8に取り付けた金具81を引っ掛けて車輪80の浮き上がりを防止するとともに、支柱28に取り付けた上下二対の挟持片29a,29bでギャラリーの手摺g1を挟み、対となる挟持片29a,29bの一方から他方にかけてストッパ29cを挿通して支柱28が手摺g1から離れることを防止して、移動式渡り橋の転倒を防いでいる。
【0008】
しかしながら、上記移動式渡り橋では、当該移動式渡り橋の転倒を防ぐための固定作業が必須となり、作業負荷が大きい。また、この移動式渡り橋の転倒防止は、作業者の固定作業によって実現されるが、作業者に頼らず、移動式渡り橋を転倒しない構造にすることが望まれる。また、上記移動式渡り橋では、ギャラリーの床g2をグレーチング等、金具81を引っ掛けられる構成にしなければならず、ギャラリーの床構造が限定される。さらに、上記移動式渡り橋では、ギャラリーを支える吊り材よりも内側を移動するようになっているので、照明ブリッジの位置によっては、吊り材が邪魔になって架設板を照明ブリッジに延ばせない場合がある。
【0009】
そこで、本発明の目的は、構造的に転倒が防止されて作業負荷を軽減するとともに、ギャラリーの床構造を限定せず、架設板と吊り材との干渉を避けることが可能な移動式渡り橋を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための手段は、舞台の袖に奥行き方向に延びるギャラリーを移動するとともに、上記ギャラリーから、このギャラリーの手摺を乗り越えて、上記舞台の間口方向に延びる照明ブリッジに移動するための移動式渡り橋において、上記ギャラリーを支える吊り材と上記手摺との間に配置されるとともに、上記ギャラリーに沿って配置され水平方向に延びる一以上のレールを走行する一以上の走行手段と、これら走行手段に取り付けられる支持部材と、この支持部材に支えられる床板と、この床板に連結されて上記照明ブリッジ側に延びる架設板と、上記床板に連結されて上記ギャラリーから上記床板に上がるための階段とを備えることである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の移動式渡り橋によれば、構造的に転倒が防止されて作業負荷を軽減するとともに、ギャラリーの床構造を限定せず、架設板と吊り材との干渉を避けることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明の一実施の形態に係る移動式渡り橋について、図面を参照しながら説明する。いくつかの図面を通して付された同じ符号は、同じ部品か対応する部品を示す。
【0014】
図1,2に示すように、本実施の形態に係る移動式渡り橋Aは、舞台の袖に奥行き方向に延びるギャラリーGを移動するとともに、上記ギャラリーGから、このギャラリーGの手摺g1を乗り越えて、上記舞台の間口方向に延びる照明ブリッジBに移動するためのものである。そして、移動式渡り橋Aは、上記ギャラリーGを支える吊り材Pと上記手摺g1との間に配置されるとともに、上記ギャラリーGに沿って配置され水平方向に延びる一以上のレールR1,R2を走行する一以上の走行手段1A,1Bと、これら走行手段1A,1Bに取り付けられる支持部材2と、この支持部材2に支えられる床板3と、この床板3に連結されて上記照明ブリッジB側に延びる架設板4と、上記床板3に連結されて上記ギャラリーGから上記床板3に上がるための階段5とを備えている。
【0015】
また、移動式渡り橋Aは、本実施の形態において、演劇や、コンサートが催される多目的ホールに利用されている。この多目的ホールの構成は、周知であるので詳細に図示しないが、客席と、出演者が演目を披露する舞台とを備えている。客席から見える舞台の左右方向(
図1中左右方向)の幅が舞台の間口であり、客席から見た奥行き(
図2中左右)が舞台の奥行きであり、客席から見えない舞台の上手若しくは下手にあるスペースが舞台の袖である。なお、本発明に係る移動式渡り橋Aは、多目的ホール以外に利用されるとしてもよく、例えば、テレビ局のスタジオ等に利用されるとしてもよい。
【0016】
舞台の上側に配置される構造体には、舞台の間口方向に延びるとともに、奥行き方向に複数並んで配置されるバトン6がワイヤロープWで略水平に吊り下げられている。バトン6は、それぞれ、上下させることができ、照明器具Lや、幕、書割等を保持している。また、上記構造体には、鉛直方向に延びる吊り材Pが、舞台の袖に奥行き方向に複数並んで吊り下げられており、この吊り材PでギャラリーGを支えている。つまり、当該ギャラリーGは、舞台の袖に奥行き方向に延びており、作業者が通行するための廊下として利用される。
【0017】
また、一般的に、ギャラリーGは、舞台の床面から9〜10mの高所に設けられており、ギャラリーGには、作業者の安全に配慮して、転落防止用の柵状の手摺g1が長手方向に沿って設けられている。そして、吊り材Pは、ギャラリーGの手摺g1よりも内側に延びて、ギャラリーGの床g2を吊っており、ギャラリーGにおける吊り材Pと手摺g1との間を移動式渡り橋Aが移動できるようになっている。
【0018】
本実施の形態において、二本のバトン6(一方のバトン6のみを図示し、他方のバトン6を図示せず)を利用して照明ブリッジBが吊り下げられており、当該照明ブリッジBには、複数の照明器具Lが取り付けられている。照明ブリッジBは、バトン6に沿って延びる、すなわち、舞台の間口方向に延びる床板b1と、この床板b1の長手に沿って両側に起立する柵状の手摺b2とを備えている。そして、作業者は、床板b1上を通行するとともに、この床板b1上で照明器具Lの角度調節をすることができる。また、本実施の形態の照明ブリッジBは、図示しない異なるバトン6に付け替えることができ、これにより、照明ブリッジBの位置を舞台の手前や奥方向に移動することができる。
【0019】
以下、ギャラリーGの手摺g1と吊り材Pとの間に配置され、作業者がギャラリーGから照明ブリッジBに乗り込むための移動式渡り橋Aの各構成について、詳細に説明する。移動式渡り橋Aは、ギャラリーGに沿って配置される上下二本のレールR1,R2を走行する二つの走行手段1A,1Bと、これらの走行手段1A,1Bが取り付けられる支持部材2と、この支持部材2に連結される床板3と、この床板3の照明ブリッジB側に搖動可能に連結される架設板4と、床板3の進行方向の両側に連結される階段5,5とを備えて宙吊りとなっている。また、図示しないが、本実施の形態に係る移動式渡り橋Aは、移動式渡り橋Aの移動を規制するストッパを備えており、移動式渡り橋Aを任意の位置で停車させることができるようになっている。
【0020】
二本のレールR1,R2は、共に、吊り材Pの手摺g1側に固定されている。上側のレールR1は、本実施の形態において、
図3に示すように、H鋼(H形鋼)からなり、水平方向に延びる中央片r10と、この中央片r10の
図3中左右両端から上下に延びる左右一対のフランジr11,r12とを備えて断面H形となっている。そして、
図3中左側のフランジr11が吊り材Pに固定されている。
【0021】
また、この上側のレールR1を走行する走行手段1Aは、レールR1の
図3中右側に配置され進行方向に延びる台座10と、この台座10の進行方向の両端部からレールR1に向けて水平方向に延びる一対の横軸11(
図3中、一方の横軸11のみを図示し、他方の横軸11を図示せず)と、これら横軸11に回転自在に保持されて中央片r10の上面に当接する一対の車輪12(
図3中、一方の車輪12のみを図示し、他方の車輪12を図示せず)とを備えている。そして、台座10が支持部材2に連結されている。また、移動式渡り橋Aの走行時において、車輪12は、フランジr11,r12で脱輪を阻止されながら、水平方向に沿う軸(横軸11)回りに縦回転する。
【0022】
他方、下側のレールR2は、本実施の形態において、
図4に示すように、シーチャンネル(溝形鋼)からなり、水平方向に延びる中央片r20と、この中央片r20の
図4中左右両端から下側に延びる一対のフランジ片r21,r22とを備えて断面コ字状となっている。そして、中央片r20がブラケットp1を介して吊り材Pに固定されるとともに、
図4中左側のフランジ片r21が吊り材Pに固定されている。
【0023】
また、この下側のレールR2を走行する走行手段1Bは、レールR2の下側に配置され進行方向に延びる台座13と、この台座13の進行方向の両端部から上側に鉛直方向に延びる一対の縦軸14(
図4中、一方の縦軸14のみを図示し、他方の縦軸14を図示せず)と、これら縦軸14に回転自在に保持されて
図4中左側のフランジ片r21に当接する一対の車輪15(
図4中、一方の車輪15のみを図示し、他方の車輪15を図示せず)とを備えている。そして、台座13は、連結片16を介して支持部材2に連結されている。また、移動式渡り橋Aの走行時において、車輪15は、フランジ片r21,r22で脱輪を阻止されながら、鉛直方向に沿う軸(縦軸14)回りに横回転する。
【0024】
もどって、上記両走行手段1A,1Bが取り付けられる支持部材2は、
図1,2に示すように、吊り材P側に配置される一方側支持体20と、手摺g1側に配置される他方側支持体21と、一方側支持体20と他方側支持体21との間に架設される複数の横材22と、一方側支持体20と他方側支持体21の間に固定される床板3を下支えする斜材23と、作業者が床板3から落下することを防ぐ手摺24とを備えて構成されている。
【0025】
そして、一方側支持体20は、矩形枠状に形成されており、上部に走行手段1Aの台座10が連結され、下部に走行手段1Bの連結片16が連結され、内側に上記手摺24が取り付けられている。他方、他方側支持体21は、
図2に示すように、一対の脚部21a,21bを備えて門型に形成されており、これら脚部21a,21bの間が、床板3から照明ブリッジBに移動するための出入口となる。なお、
図2中、一対の脚部21a,21aの間に手摺24が見えるが、この手摺24は、一方側支持体20に取り付けられているものである。また、一方側支持体20と他方側支持体21との間が、階段5から床板3に上がるための出入口となる。このため、横材22は、当該出入口を通る作業者の邪魔にならないように配慮され、高い位置に設けられている。
【0026】
床板3は、本実施の形態において、矩形板状に形成されており、ギャラリーGの手摺g1よりも高い位置に配置されている。そして、床板3の手摺g1側端部に、架設板4が搖動可能に取り付けられており、進行方向の両側に階段5が取り付けられている。また、本実施の形態において、ギャラリーGと照明ブリッジBが離れているので、架設板4が搖動可能に連結されて開閉式とされるとともに、架設板4の両側に折り畳み可能な手摺40が設けられている。そして、架設板4の自由端には、ワイヤ41が取り付けられており、支持部材2に取り付けられる図示しないハンドルを回転すると、ワイヤ41が巻き取られたり、繰り出されたりして、架設板4を開閉できる。なお、架設板4は、開閉式となっていなくてもよく、照明ブリッジBに向けて延びたまま床板3に固定されるとしてもよい。
【0027】
つづいて、階段5,5は、共に、一対の側板50,51と、これら側板50,51の間に段差をもって配置される複数の踏板52とで構成されており、床板3を介して支持部材2に支えられ、下端がギャラリーGの床g2を擦らないようになっている。なお、本実施の形態において、階段5には、手摺が設けられていないが、手摺を設けるとしてもよい。また、床板3の進行方向の両側に階段5を設けているが、一方側にのみ階段5を設けるとしてもよい。
【0028】
以下、本実施の形態に係る移動式渡り橋Aの作動について説明する。
【0029】
作業者が移動式渡り橋Aを押すと、車輪12が縦回転し、車輪15が横回転して移動式渡り橋AがレールR1,R2に沿って移動する。このとき、移動式渡り橋Aの荷重が、上側のレールR1を走行する走行手段1Aには、
図1中下向きにかかるので、このレールR1を走行する走行手段1Aの車輪12が同レールR1の中央片r10に押し付けられながら回転する。他方、移動式渡り橋Aの荷重は、下側のレールR2を走行する走行手段1Bには、
図1中左向きにかかるので、このレールR2を走行する走行手段1Bの車輪15が同レールR2のフランジ片r21に押し付けられながら回転する。さらに、走行手段1Aの車輪12は、一対のフランジr11,r12で脱輪を阻止され、走行手段1Bの車輪15は、一対のフランジ片r21,r22で脱輪を阻止されているので、移動式渡り橋Aは、構造的に転倒しないようになっている。
【0030】
また、移動式渡り橋Aは、ギャラリーGを支える吊り材Pと、ギャラリーGの手摺g1との間を走行するので、架設板4を照明ブリッジBに向けて延ばしたままギャラリーGを移動させたとしても、架設板4と吊り材Pが干渉しない。したがって、吊り材Pが移動式渡り橋Aの移動や設置の妨げにならない。
【0031】
以下、本実施の形態に係る移動式渡り橋Aの作用効果について説明する。
【0032】
本実施の形態において、レールR1,R2は、吊り材Pに固定されるとともに上下に二本並べて設けられており、上側のレールR1を走行する走行手段1Aが水平方向に沿う軸回りに回転する車輪12を備え、下側のレールR2を走行する走行手段1Bが鉛直方向に沿う軸回りに回転する車輪15を備えている。
【0033】
本実施の形態においては、各走行手段1A,1Bの
図1中右側に支持部材2が連結されており、移動式渡り橋Aの荷重が上側のレール1Aを走行する走行手段1Aに
図1中下向きにかかり、下側のレール1Bを走行する走行手段1Bに
図1中左向きにかかる。このため、上記構成によれば、車輪12,15の接地面に略垂直に荷重をかけることができるので、車輪12,15をレールR1,R2に設置させた状態で走行手段1A,1Bを走行させることができる。なお、レールR1,R2や走行手段1A,1Bの数や配置や構成は、上記の限りではなく、適宜変更することが可能である。
【0034】
また、本実施の形態において、移動式渡り橋Aは、ギャラリーGを支える吊り材Pと手摺g1との間に配置されるとともに、ギャラリーGに沿って配置され水平方向に延びる一以上のレールR1,R2を走行する一以上の走行手段1A,1Bと、これら走行手段1A,1Bに取り付けられる支持部材2と、この支持部材2に支えられる床板3と、この床板3に連結されて照明ブリッジB側に延びる架設板4と、上記床板3に連結されてギャラリーGから床板3に上がるための階段5とを備えている。
【0035】
上記構成によれば、移動式渡り橋Aは、レールR1,R2に吊り下げられているので、構造的に転倒の心配がなく、
図5に示すように、ギャラリーGの床g2に金具81を引っ掛けたり、挟持片29a,29bに手摺g1を挟んだりするなどの、転倒防止のための固定作業をする必要がない。このため作業者の作業負荷を軽減することができる。また、作業者に頼らず、構造的に移動式渡り橋Aの転倒を防止できるので、更に高い安全性を確保することができる。また、上記構成によれば、ギャラリーGの床g2に金具81を引っ掛ける必要もないので、ギャラリーGの床構造を限定することがない。
【0036】
さらに、上記構成によれば、移動式渡り橋Aは、ギャラリーGを支える吊り材Pと手摺g1との間を移動するので、架設板4と吊り材Pとの干渉を避けることができ、吊り材Pが移動式渡り橋Aの移動や、設置の妨げになることがない。
【0037】
以上、本発明の好ましい実施の形態を詳細に説明したが、特許請求の範囲から逸脱することなく改造、変形及び変更を行うことができることは理解すべきである。