特許第6069187号(P6069187)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6069187ヒドロクロロフルオロアルカン類の脱フッ化水素方法及びそれにより得られる生成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6069187
(24)【登録日】2017年1月6日
(45)【発行日】2017年2月1日
(54)【発明の名称】ヒドロクロロフルオロアルカン類の脱フッ化水素方法及びそれにより得られる生成物
(51)【国際特許分類】
   C07C 17/25 20060101AFI20170123BHJP
   C07C 21/18 20060101ALI20170123BHJP
   B01J 27/125 20060101ALI20170123BHJP
   B01J 27/138 20060101ALI20170123BHJP
   B01J 37/26 20060101ALI20170123BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20170123BHJP
【FI】
   C07C17/25ZAB
   C07C21/18
   B01J27/125 Z
   B01J27/138 Z
   B01J37/26
   !C07B61/00 300
【請求項の数】5
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2013-501843(P2013-501843)
(86)(22)【出願日】2011年3月31日
(65)【公表番号】特表2013-525275(P2013-525275A)
(43)【公表日】2013年6月20日
(86)【国際出願番号】EP2011054979
(87)【国際公開番号】WO2011121057
(87)【国際公開日】20111006
【審査請求日】2014年2月26日
(31)【優先権主張番号】61/320,421
(32)【優先日】2010年4月2日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】591001248
【氏名又は名称】ソルヴェイ(ソシエテ アノニム)
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(72)【発明者】
【氏名】ヨハネス・アイヒャー
(72)【発明者】
【氏名】エルカン・ユンフェレン
(72)【発明者】
【氏名】エアハルト・ケムニッツ
【審査官】 土橋 敬介
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/060868(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/055146(WO,A1)
【文献】 特開2008−110980(JP,A)
【文献】 特表2012−509857(JP,A)
【文献】 HASZELDINE R N,REACTIONS OF FLUOROCARBON RADICALS. PART XV. SYNTHESIS AND HYDRATION OF 1:1:1-TRIFLUOROBUT-2-YNE,JOURNAL OF THE CHEMICAL SOCIETY,1954年,P1261-1264
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07B
C07C
B01J
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
AlF3−δ、MgAl2+3x−δおよびMgZr2+4y−δからなる群から選択される有効量の触媒活性金属化合物との50℃超の温度での反応にヒドロクロロフルオロアルカン類を付すことによって、少なくとも1つの塩素原子と、少なくとも1つのフッ素原子と、前記塩素原子およびフッ素原子を担持する1つまたは複数の炭素原子に隣接する1つまたは複数の炭素原子上の少なくとも1つの水素原子と、を含む前記ヒドロクロロフルオロアルカン類を選択的に脱フッ化水素するための方法において、式中xおよびyが互いに独立して0〜0.33の範囲内の値を有し、δが0〜0.1の範囲内の値を有し、
前記触媒活性金属化合物が、
a)任意選択的に担持体上に、前駆物質を提供するステップであって、前記前駆物質が式AlF3−δ−d、MgAl2+3x−δ−dまたはMgZrF2+4y−δ−dを有する構造を含むステップと;
b)前記前駆物質をフッ素化剤と反応させて、前記触媒活性金属化合物を生成するステップと;
によって得られ、式中、Bは配位的に結合された基であり;Lが有機溶媒であり;xとyが互いに独立して0〜0.33の範囲内の値を有し;dが0〜3の範囲内の任意の整数であり;eが0〜1の範囲内の値を有し、δが0〜0.1の範囲内の値を有し、ただしフッ素原子の数を表わす添字が正であり、
前記塩素原子およびフッ素原子が異なる炭素原子に位置しており、
但し、前記ヒドロクロロフルオロアルカン類がCF−CHCl−CHFではない、方法。
【請求項2】
Bがアルコシド、エノレートまたはカルボン酸基である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
Lが、アルコール類、エーテル類、ケトン類、アルカン類および芳香族を含む群から選択される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記フッ素化剤が、フッ化水素、フルオロクロロアルカン類およびヒドロクロロフルオロアルカン類からなる群から選択される、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記ヒドロクロロフルオロアルカン類が、少なくとも1つの構造要素Iaを少なくとも1つの構造要素Ibと組合せた形で含む化合物から選択される、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【化1】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、全ての目的で全内容が参照により本明細書に援用される2010年4月2日出願の米国仮特許出願第61/320421号に対する優先権を主張するものである。
【0002】
本発明は、ヒドロクロロフルオロアルカン類を脱フッ化水素するための方法、それにより得られる新規ヒドロクロロフルオロアルケン類ならびにヒドロフルオロアルカン類およびヒドロフルオロアルケン類の製造におけるその方法の使用に関する。
【背景技術】
【0003】
(特許文献1)は、金属フッ化物触媒上でのハロゲン含有アルケン類の調製のための方法を開示している。ヒドロクロロフルオロアルカン類も同様に、適切な出発物質として言及されているが、これらの場合においては、脱塩化水素が観察される。塩素原子は、フッ素原子に比べてより優れた離脱基であることから、脱塩化水素が可能であるかぎり、脱フッ化水素は通常発生せず、このことが、ヒドロクロロフルオロアルケン類の入手可能性に一定の制限をもたらしている。
【0004】
不飽和ヒドロクロロフルオロアルケン類は文献中に記載されており、例えば表面の清浄用組成物中で、あるいはヒドロフルオロカーボンの製造における有用な中間体として使用されてきた。
【0005】
(特許文献2)は、表4中および明細書中で、この群の多くの化合物を開示し、一般的な用語でそれらの製造方法を説明している。開示されている全ての方法は、各々1つずつ削減された水素原子数および塩素原子数を伴う所望の生成物を得るためにヒドロクロロフルオロアルカンが脱塩化水素されるという共通の特徴を有している。一般に、互いに隣り合う炭素原子において少なくとも1つの塩素原子と1つの水素原子とを有するヒドロクロロフルオロアルカン類の脱ハロゲン化水素は脱塩化水素を介して進行し、塩素原子数と水素原子数が1だけ削減されているそれぞれの不飽和生成物を生成する。
【0006】
ヒドロクロロフルオロアルケン類が、モントリオール議定書の規定により近い将来制限される可能性があるという事実にも関わらず、このタイプの新しい化合物ならびにそれらの製造のための容易かつ安全な方法に対するニーズが、なおも存在している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2009/010472号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2007/053673号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、本発明の目的は、ヒドロクロロフルオロアルケン類の製造方法および本発明に係る方法において得られる可能性のある一部の新規のヒドロクロロフルオロアルケン類を提供することにあった。
【0009】
この目的は、特許請求項1による方法により達成される。
【課題を解決するための手段】
【0010】
したがって、本発明の一態様によると、AlF3−δ、MgAl2+3x−δおよびMgZr2+4y−δ、からなる群から選択される有効量の触媒活性金属化合物との50℃超の温度での反応に前記ヒドロクロロフルオロアルカン類を付すことによって、塩素原子とフッ素原子を担持する1つまたは複数の炭素原子に近接する1つまたは複数の炭素原子において少なくとも1つの塩素原子と少なくとも1つのフッ素原子と少なくとも1つの水素原子とを含むヒドロクロロフルオロアルカン類を選択的に脱フッ化水素するための方法において、式中xおよびyが互いに独立して0〜0.33の範囲内の値を有し、δが0〜0.1の範囲内の値を有する、方法が提供されている。本発明の好ましい実施形態は、従属請求項および以下の詳細な説明において示されている。
【0011】
新規のヒドロクロロフルオロアルケン類は、独立請求項7および請求項7に従属する請求項中のその好ましい実施形態ならびに以下の詳細な説明において示されている。
【0012】
したがって、本発明は、ヒドロクロロフルオロアルカン類の選択的脱フッ化水素方法において、前記ヒドロクロロフルオロアルカン類が、塩素およびフッ素原子を担持する1つまたは複数の炭素原子に近接する1つまたは複数の炭素原子において少なくとも1つの塩素原子と少なくとも1つのフッ素原子と少なくとも1つの水素原子とを含む方法に関する。
【0013】
ヒドロクロロフルオロアルカン類は、その構造に関してはさらなる制約条件を受けない。すなわち、前述の前提条件を満たすこの部類を代表するあらゆる生成物が、本発明に係る方法における使用に適している。
【0014】
一般に、塩素およびフッ素置換基は、分子内の同じまたは異なる炭素原子に位置設定されてよい。塩素およびフッ素置換基が異なる炭素原子に存在するならば、それに近接する炭素原子にある水素原子は、少なくとも1つの塩素およびフッ素置換基がこのような水素置換基を担持する1つの炭素原子により分離された異なる炭素原子に付着されている場合には、異なる炭素原子または同じ炭素原子に付着されうると考えられる。この場合、分子内に1つの水素置換基で充分である。
【0015】
脱ハロゲン化水素反応においては、ハロゲン化水素が分割されて、水素およびハロゲンが近接するまたは隣接する炭素原子から発生することから、この構造的特徴が必要である。
【0016】
本発明に係る方法のためのエダクト(educt)として適切である好ましいヒドロクロロフルオロアルカン類は、少なくとも1つの構造要素Iaと少なくとも1つの構造要素Ibまたは少なくとも1つの構造要素IIのいずれかを含む:
【化1】
【0017】
以上の式中に示されていない置換基は、好ましくはC〜C−アルキル基から選択され、この基はハロゲン、詳細には塩素またはフッ素によって置換されてよい。
【0018】
ヒドロクロロフルオロアルカン類の特に好ましい基は、以下の式IIIを有する:
【化2】
式中、R〜Rは同じものまたは異なるものであり、互いに独立して水素原子、フッ素原子C〜C−アルキル、C〜C−フルオロアルキルまたはC〜C−ヒドロフルオロアルキル基を表わす。
【0019】
1〜6個の炭素原子そして好ましくは1〜4個の炭素原子を有するヒドロクロロフルオロアルカン類が、好ましい基材である。3−クロロ−1,1,1,3−テトラフルオロブタンが、特に好ましい基材である。
【0020】
さらに一層好ましくは、置換基R〜Rは、請求項7および以下の詳細な説明に係る新規のヒドロクロロフルオロアルケン類をそれぞれの出発材料から得ることができるような形で選択される。特に好ましいのは、RまたはRまたはRの少なくとも1つが水素である出発材料である。
【0021】
本発明に係る方法において使用することのできる出発材料は、当業者にとって公知であり、さまざまな供給源から入手可能である。例えば、3−クロロ−1,1,3,3−テトラフルオロブタン(ハロゲン化炭化水素のために使用される一般的に用いられる命名法システムにしたがってHCFC−364mfbとも呼ばれる)が、特に米国特許出願第7,074,434号明細書中で開示されており、他の適切な出発物質は他のところに記載されている。
【0022】
少なくとも3個の炭素原子を有するハロゲン化炭化水素の製造のためのさまざまな経路が、国際公開第2008/043720号パンフレット中に開示されており、さらなる詳細については、本明細書中でこれを参照する。
【0023】
本発明に係る方法において、以上で記述したヒドロクロロフルオロアルカン類は、MgF2−δ、AlF3−δ、MgAl2+3x−δおよびMgZr2+4y−δ、からなる群から選択される有効量の触媒活性金属化合物との好ましくは50℃超の温度での反応に付され、ここで式中xおよびyは互いに独立して0.01〜0.33の範囲内の値を有し、δは0〜0.1の範囲内の値を有する。
【0024】
意外なことに、この反応においてこれらの触媒として有効な金属化合物は、典型的には少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%という非常に優れた選択性で脱フッ化水素生成物を生成し、残分は脱塩化水素生成物である。
【0025】
出発材料に応じて、2つ以上の脱フッ化水素生成物および/または副産物としての2つ以上の脱塩化水素生成物が得られることがあり、この場合、選択性は、それぞれ脱フッ化水素および脱塩化水素生成物の総量に基づいて表現される。
【0026】
特に好ましくは、脱塩化水素生成物と対比して脱フッ化水素生成物に向かう選択性は、少なくとも95%、最も好ましくは98%超であり、100%であってもよい、すなわち、特定の場合においては、検出可能な脱塩化水素生成物が全くないこともある。
【0027】
それぞれのタイプの分子内で塩素原子は一般にフッ素原子よりも優れた離脱基であり、したがって当業者であれば全く異なる生成物スペクトルを予測したはずであることから、ヒドロクロロフルオロアルカン類が脱塩化水素ではなく脱フッ化水素を受けると思われることは、意外であり、かつ予想外であった。
【0028】
触媒活性金属化合物は、AlF3−δ、MgAl2+3x−δおよびMgZr2+4y−δからなる群から選択され、式中xおよびyは互いに独立して0.01〜0.33の範囲内の値を有し、δは0〜0.1の範囲内の値を有する。
【0029】
実施された広範な調査の間に、詳細には混合されたフッ化物についての選択性が、金属の組合せに対し非常に敏感であるということが発見された。ZrまたはAlを例えばV、Cr、NiまたはFeと置換すると、脱塩化水素に対比して脱フッ化水素に向かう選択性の一般に80%未満までの有意な減少ならびに、例えばMgFe0.12.3またはMgNi0.22.4の場合には脱フッ化水素に向かうおよそ40%という低い選択性がもたらされ、ここで生成物の残分は脱塩化水素生成物である。商業的には、このようなプロセスは、求められる反応混合物の精製に時間と費用がかかることから、不利である。
【0030】
MgF2−δは一般に、AlF3−δまたは混合フッ化物に比べて触媒活性化合物の前処理に対する一定の依存性を示すプロセスと選択性においてより低い転化率を生み出すものの、それでも、以下でより詳細に説明する通り、適切な前処理を用いて80%超の転化率で、フッ化水素化に向かう90%の選択性を達成することが可能である。混合フッ化物またはAlF3−δは一般に、大部分の場合において90%超の転化率と95%超の選択性をもたらすことから、これらの化合物は、本発明に係る方法において使用するのにきわめて適している。
【0031】
好ましくは、xまたはyは、0.01〜0.25の範囲内、より好ましくは0.05〜0.20の範囲内そしてさらに一層好ましくは0.07〜0.15の範囲内の値を有している。
【0032】
AlF3−δ、詳細には、高い比表面積を有するそれぞれの生成物が、特に好ましい。
【0033】
それぞれの生成物およびそれらの製造方法については、参照により本明細書に援用されている国際公開第2004/060806号パンフレットおよび欧州特許第1,666,411号明細書に記載されている。このような方法は、フッ素分解ゾルゲル法としても公知である。マグネシウムの混合フッ化物ならびにMgF2−δは、前記参考文献中に記載されているものと類似の要領で得ることができる。
【0034】
本発明の方法の好ましい一実施形態によると、触媒活性金属化合物は、
a)任意選択的に担持体上に前躯物質を提供するステップであって、前駆物質が式AlF3−δ−d、MgAl2+3x−δ−dまたはMgZrF2+4y−δ−dを有する構造を含むステップと;
b)前駆物質をフッ素化剤と反応させて触媒活性金属化合物を生成するステップと;
によって得ることができ、式中、Bは配位的に結合された基であり;Lは有機溶媒であり;xおよびyは互いに独立して0〜0.33の範囲内の値を有し;dは0〜3の範囲内の任意の整数であり;eは0〜1の範囲内の値を有し、δは0〜0.1の範囲内の値を有し、ただしフッ素原子の数を表わす添字が正である。
【0035】
Bは、好ましくはアルコキシド、エノレートまたはカルボン酸基であり、より好ましくは、式−O−C2c+1のアルコキシド基(式中cは1〜6、好ましくは1〜3の任意の整数である)であり;Lは溶媒、好ましくは、アルコール類、エーテル類、ケトン類、アルカン類および芳香族を含む群から選択される無水有機溶媒であり;dとeは好ましくは1以下である。
【0036】
国際公開第2004/060806号パンフレットによると、前駆物質は好ましくは、Mz+(式中、Bは好ましくはアルコキシドである)を反応させることによって得られる。金属Mがアルミニウムである場合、Bは、より好ましくは、2〜4当量、好ましくは約3当量の(好ましくは無水の)HFと共に、有機溶媒L中に溶解または懸濁させられたプロポキシドである。HFは、好ましくは有機溶媒L’中に溶解させられ、ここでL’は溶媒Lのいずれかであり得、かつ同様にL’はLと等しいものまたは異なるものであり得;その後余剰の溶媒を真空下において350℃以下、好ましくは200℃以下、さらに一層好ましくは100℃以下の温度で除去するステップが続く。こうして得られる生成物は、以上で定義された前駆物質である。
【0037】
前駆物質の調製は、好ましくはアルコール類、エーテル類、ケトン類、アルカン類、石油エーテル、蟻酸、酢酸またはプロピオン酸からなる群から選択される水を含まない溶媒中で好ましくは実施される。c=1〜6、特に1〜3として式C2c+1OHのアルコール類が好ましい。
【0038】
こうして得られた前駆物質は、第2のステップで、適切なフッ素化剤を用いてさらにフッ素化(または「活性化」)される。好ましいフッ素化剤は気体であり、高温で使用される。一例として、ここでは、気体HFに加えて、ヒドロフルオロカーボン類またはヒドロフルオロクロロカーボン類、特にCHClF、CHまたは3−クロロ−1,1,1,3−テトラフルオロブタンに言及してよい。ステップb)での温度は一般に最高350℃、好ましくは50℃から300℃までの範囲内、より好ましくは75℃から250℃までの範囲内である。フッ素化剤は好ましくは、窒素またはアルゴンなどの不活性ガスと混和され、こうして最高95体積%の不活性ガスを使用することができる。
【0039】
本発明に係る方法で使用される適切な触媒活性金属化合物は、適切な前駆物質を選択することによって上述の通りに調製され得る。
【0040】
以下の詳細な説明は、特に好適であるフッ化アルミニウムを基準にして本発明に係る方法のさまざまな態様を示している。しかしながら、本発明に係る方法は、請求項1および以上の説明中で定義されている任意の触媒活性金属化合物を用いて実施可能である。したがって、このような場合、以下に記載される実施形態において、フッ化アルミニウムを、他の触媒活性化合物のいずれかと置換してもよい。
【0041】
好ましい実施形態においては、金属フッ化物は本質的にフッ化アルミニウムで構成されている。「本質的に」という用語は、好ましくは、他の非晶質金属フッ化物の含有量が3重量%以下、さらに一層好ましくは2重量%以下であることを意味している。
【0042】
国際公開第2004/060806号パンフレットは、出発材料としてMz+(z−δ)−dが使用され、溶媒と配位されていない別の実施形態を開示している。
【0043】
別の実施形態においては、所望される場合、フッ化アルミニウムを、亜鉛、錫、銅、クロム、バナジウム、鉄またはマグネシウムの金属フッ化物でドープすることができるが、ドープされていない材料が好ましい。
【0044】
比表面積が大きい金属フッ化物の調製についての詳細および実施例が、この目的で参照により本明細書に援用されている国際公開第2004/060806号パンフレットに示されている。
【0045】
非晶質フッ化アルミニウムが、好ましい金属フッ化物である。本発明の方法は、優れた収量および優れた選択性で脱フッ化水素生成物を生成する。
【0046】
国際公開第2004/060806号パンフレットおよび欧州特許第1,666,411号明細書に係る方法によって得られた以上の好ましい実施形態に記載したフッ化アルミニウムは一般に、Nを用いたBET方法にしたがって測定された場合(詳細については、米国特許出願公開第2006/052649A1号明細書の[0092]を参照のこと)、好ましくは100〜300m/gの範囲内の非常に高い比表面積を有する。特に好ましくは、こうして得られたフッ化アルミニウムの比表面積は180〜280m/gの範囲内にある。
【0047】
その上、こうして得られたフッ化アルミニウムは一般に、公知の方法にしたがってX線粉末回析法によって判定できるようにX線非晶質である。
【0048】
フッ化アルミニウムは同様に、より低い比表面積を有することもできる。この場合、5〜200m/g、詳細には10〜150m/gの範囲内の比表面積を有する生成物で、優れた結果が得られた。
【0049】
以上に記載した金属フッ化物は、一般に強ルイス酸であり、本質的にClを含まない。「X線非晶質」または非晶質という用語は、固形物すなわち非晶質金属フッ化物の微結晶性ドメインが、50nm以下、好ましくは20〜50nmの範囲内のサイズを一般に有することを意味している。好ましくは、非晶質金属フッ化物は、好ましくは部分的に凝集してより大きい粒子を形成することがある非常に小さい固体粒子の形で存在する。
【0050】
好ましくは上述の通り高い比表面積を伴う、担持体上に担持された非晶質AlF(以下HS−ALFと呼ぶ)は、本発明の方法において使用するためにきわめて適している。
【0051】
好ましくは、適切に整形された形状を有し、触媒合成条件下および触媒を使用する反応条件下で化学的かつ熱的に安定しており、機械的に安定し、触媒の性能を劣化させず、触媒反応と干渉せず、かつHS−AlFの定着を可能にする担持体が選択される。これらの要件を満たす任意の担持体を使用することができる。例えば、アルミニウムまたは遷移金属の酸化物、フッ化物および酸フッ化物が非常に適している。通常、これらは、結晶形態で存在する。活性炭も同様に利用できる。好ましい実施形態においては、酸化アルミニウムまたはフッ化アルミニウムが担持体として使用される。さらに好ましい実施形態においては酸化アルミニウムが使用され、さらに一層好ましい実施形態においては、γ−Alが担持体として使用される。この場合、担持されたフッ化金属は、γ−Al上の高い比表面積の金属フッ化物である。
【0052】
非常に好ましくは、担持された非晶質金属フッ化物触媒は、担持体上のHS−AIF、例えばγ−Al上のHS−AlFである。所望される場合、フッ化アルミニウムは、1つ以上の他の金属フッ化物、例えば亜鉛、錫、銅、鉄、クロム、バナジウムまたはマグネシウムのフッ化物でドープされ得るが、ドープされない生成物が一般に好適である。このようなドープされた担持触媒は、加水分解可能な金属化合物例えば金属アルコキシドを加水分解可能なアルミニウム化合物に添加することによって調製可能である。
【0053】
好ましくは、担持触媒中のコーティングされた金属フッ化物、特にAlFの合計量は、3重量%以上、より好ましくは4重量%以上である。好ましくは、担持触媒中のフッ化アルミニウムの含有量は、30重量%以下、より好ましくは20重量%以下である。一部の利用分野において、含有量は、10重量%以下であり得る。優れた結果を示す範囲は、4〜20重量%である。4〜8重量%の範囲も同様に優れた結果を提供する。
【0054】
欧州特許第1666411号明細書から、非晶質高比表面積フッ化アルミニウムのルイス酸性度が、酸化物によるフッ化物の部分的置換の時点で低下することがわかっている。したがって、酸フッ化物の形成を回避しなければならない場合、熱による前処理によって担持体の吸着水および/または固有OH基を削減することで、ルイス酸性度すなわち定着したHS−Alすなわち最終的触媒の触媒性能は保たれる。したがって、担持体、例えばg−Alは、コーティング手順の前に加熱されることが好ましい。加熱は好ましくは48時間以下の時間、好ましくは12時間以下の時間、有利には、担持体の望ましくない変態を結果としてもたらさない温度で実施される。例えば、γ−Alからα−Alへの変態(これはX線粉末回析により判定可能である)は回避される。例えば、γ−Alを400℃〜900℃の温度まで加熱することができる。好ましくは、それは600℃以上の温度に加熱される。好ましくは、それは、空気中で900℃以下の温度に加熱され、その後水分を排除した状態で室温まで冷却される。
【0055】
コーティング手順は、触媒担持体上に触媒コーティングを調製するために主として公知である要領で実施可能である。2つの具体的変形形態が好まれる。両方の変形形態が、前駆物質でコーティングされた担持体を形成するステップと活性化を行なうステップとを含んでいる。
【0056】
変形形態a):第1の好ましい変形形態によると、担持体には、アルミニウム化合物Alz+が含浸される;Bとzは以上で示された意味を有する。含浸の後、好ましくは溶媒中で適用されるHFとのゾルゲル反応が実施されて前駆物質が得られる。
【0057】
詳細には、担持体、好ましくは熱で前処理されたγ−Alが、好ましくは撹拌下で、適切な有機アルミニウム化合物、好ましくはアルミニウムアルコキシド、より好ましくはアルミニウムイソプロポキシドまたはメトキシドの無水有機溶媒、好ましくはアルコール中の溶液に対し提供される。ドープされた担持触媒を生成しなければならない場合、1つまたは複数の金属それぞれの適切な有機金属化合物が添加される。好ましくは撹拌下での担持体とアルミニウム化合物の間の接触は、所望の含浸度を達成するのに充分な時間継続される。例えば、アルミニウム化合物の添加後、接触を10分以上、好ましくは20分以上続けることができる。所望される場合には、接触を非常に長い時間、例えば6時間超まで延長することができる。接触が長くなればなるほど、アルミニウム化合物または前駆物質は担持体内に深く進入すると考えられている。好ましくは、担持体とアルミニウム化合物の接触は、6時間以下、さらに一層好ましくは2時間以下である。多くの場合、20分から45分が非常に適切である。
【0058】
その後、Alz+はHFと反応させられて、それを前駆物質へと変換させる。有機溶媒中、好ましくはC〜Cアルコールまたはジエチルエーテル中の無水フッ化水素の溶液が、好ましくは連続的撹拌下で、担持体とアルミニウム化合物Alz+の系に対して添加される。HFの量は、HF:Alのモル比が好ましくは2以上となるように選択される。好ましくは、それは4以下である。非常に好ましくは、HF:Alのモル比は3±0,1である。
【0059】
好ましくは、系内の(HS−AlF相へと転化させられる)アルミニウム化合物出発材料の合計量は、3重量%以上、より好ましくは4重量%以上という最終的触媒のAlF含有量に対応するように調整される。好ましくは、担持触媒中のフッ化アルミニウムの含有量は、触媒の重量に基づき30重量%以下、より好ましくは20重量%以下であり、さらには10重量%以下の場合もある。担持触媒中のHS−AlF相の含有量が好ましくは4〜20重量%となるように量が調整される場合が多い。4〜8重量%のHS−AlFを伴う担持触媒が生成されることが多い。
【0060】
変形形態b):第2の好ましい変形形態によると、好ましくは溶液の形をした有機金属化合物、好ましくはアルミニウム化合物が最初にゾルゲルタイプの反応において、好ましくは撹拌下で適量のHF溶液と反応させられ、その後それぞれの担持体が添加され、ここで、使用される材料およびその相対量は、特に変形形態a)に関して上述した通りである。
【0061】
前駆物質を形成するためのアルミニウム化合物とHFの反応が起こった後、それが第1の変形形態にしたがった担体の含浸後であれ、あるいは第2の変形形態にしたがった担体との接触前であれ、余剰の溶媒が除去される。好ましくは、これは穏やかに、好ましくは真空下で実施される。除去は、有利には、暖めたりまたは加熱することにより支援される。好ましくは温度は25℃以上、より好ましくは30℃以上である。好ましくは、温度は、200℃以下、より好ましくは150℃以下である。好ましい範囲は、40〜90℃である。a)またはb)の両方の手順および後続する溶媒除去により担持触媒が提供される。
【0062】
前駆物質はすでに触媒活性を有する。触媒活性は、後続する高温での気体フッ素化剤、例えば1つ以上のヒドロクロロフルオロカーボン類またはヒドロフルオロカーボン類、特に1〜4個の炭素原子またはHFでのフッ素化反応により前駆物質が活性化された場合、大幅に増強され得る。フッ素化剤は好ましくは、例えば窒素またはアルゴンなどの不活性ガスと混和され、こうして10〜95体積%の不活性ガスを使用することが可能である。
【0063】
好ましい要領で、活性化は、
A1)CCl、CHClFまたはCHまたはCHFまたはCHFまたは3−クロロ−1,1,1,3−テトラフルオロブタンあるいは、
A2)気体HF;を適用し、次に任意選択的に、
B)不活性ガス好ましくは窒素または希ガス、例えばアルゴンでフラッシングし、
好ましくは式AlF3−δ/γ−Alのγ−Al上にルイス酸性度の高い担持HS−AlF触媒を提供することによって実施される。
【0064】
第1の変形形態においては、CHClFおよび3−クロロ−1,1,1,3−テトラフルオロブタンが好ましいフッ素化剤である。これらは、最高95%(v/v)の不活性ガス例えば窒素または希ガス好ましくはアルゴンと混和した状態で適用され得る。不活性ガスの含有量は、好ましくは75%(v/v)以上である。それは好ましくは90%(v/v)以下である。特に好ましくは、不活性ガス含有量は、83±2%(v/v)である。ステップA1)における温度は、好ましくは150℃以上、より好ましくは180℃以上である。好ましくは、温度は400℃以下である。
【0065】
フッ素化剤としてHFが使用される代替ステップにおいて、処理中の温度は、好ましくは、200℃以下であり;好ましくは、90℃以上である。75℃〜150℃の温度範囲が非常に好ましく、さらに一層好ましいのは110℃〜130℃の範囲である。HFは好ましくは、80%(v/v)以上の不活性ガス、例えば窒素または貴ガス、好ましくはアルゴンで希釈される。好ましくは、不活性ガス含有量は、97.5%(v/v)以下である。特に好ましい不活性ガス含有量は95±2%(v/v)の不活性ガスである。
【0066】
その後のステップにおいて、触媒から揮発性物質を除去するために、任意選択的にフラッシングが実施される。フラッシングステップを実施することが好ましい。フラッシングは、所望の精製度が達成された時点で停止可能である。フラッシングは、例えば最高10時間あるいはそれ以上の長時間にわたって実施することができる。好ましくは、フラッシングは、6時間以下の時間実施される。好ましくは、それは、1時間以上実施される。フラッシング中の温度は、好ましくは200℃以上である。好ましくは、それは300℃以下である。240℃〜260℃の温度範囲が非常に適している。これは、HFを用いて活性化が実施された場合、特に有利である。
【0067】
以上で説明した担持触媒の製造は、他の金属フッ化物にも同様に適用可能であり、特にドープされた系を結果としてもたらす異なる金属フッ化物の混合物にも適用可能であることに留意されたい。
【0068】
担持触媒は、粉末形態、ペレット、ビーズ、押出物および他の成形体の形態で調製可能である。例えば1〜10mmの範囲内の直径をもつビーズが、本発明に係る脱フッ化水素方法にきわめて適している。
【0069】
本発明の方法における脱フッ化水素反応は、非常に選択的にかつ高収量で行なわれる。脱フッ化水素が発生する温度は、それぞれの出発化合物に応じて異なる。一般に、反応温度は50℃以上、好ましくは150℃以上である。反応は、さらに低い温度で実施され得るものの、一部の場合において、反応速度が過度に低いとみなされることがある。一般に、反応は500℃以下、好ましくは450℃以下そして非常に好ましくは420℃以下の温度で実施される。反応温度が400℃以下の場合、触媒は長期にわたり非常に活性が高い。脱フッ化水素の結果は、例えば100℃超の温度で非常に優れている。触媒の長期性能は、それが400℃以下の温度で機能させられた場合に特に優れている。
【0070】
反応温度は、好ましくは150℃以上である。反応温度が200℃以上である場合、反応速度を加速させることができる。多くの場合、300℃〜400℃の範囲内で反応を実施することにより、高い転化率で高い反応速度が可能になる。高速反応および高い転化率は、脱フッ化水素温度が400℃以上であっても見られる。温度は、500℃以下であってもよい。
【0071】
脱フッ化水素における出発材料の構造に応じて、異性体が形成させられる場合があり、次に、求められる場合にはこれを蒸留によって分離することができる。例えば式CH−CFCl−CH−CFを有するHCFC−364の脱フッ化水素においては、3つの異性体、すなわち3−クロロ−1,1,1−トリフルオロブト−3−エンおよび3−クロロ−1,1,1−トリフルオロ−ブト−2−エンのE−およびZ−異性体が形成される。他の出発材料では、それぞれの異性体を得ることができる。
【0072】
一部の場合において、高い反応速度と高い選択性の間のバランスが、比較的低い反応温度での作業を有利にすることがある。
【0073】
例えば長い反応期間の後、または反応温度が過度に高く選択されたことで、触媒活性の低下が見られた場合、触媒を再生させることが可能である。酸化気体、例えば空気または酸素を高温で反応器内に通すことができる。以下に記載するように、ヒドロフルオロカーボン/窒素(または不活性ガス)混合物を反応器に通すことにより、触媒活性を延長させることができる。
【0074】
反応は、バッチ式または連続的に実施可能である。気相内で、特に連続して作業することが好ましい。
【0075】
所望される場合には、出発材料として使用されるハロゲン化炭化水素は、例えば窒素または希ガス例えばアルゴンなどの不活性ガスで脱フッ化水素反応の前に希釈可能である。この場合ハロゲン化炭化水素は好ましくは、不活性ガスとの気体混合物中に10体積%以上の量で存在する。好ましくは、それは、75体積%以下の量、より好ましくは50体積%以下の量、そして特に好ましくは35体積%以下の量で存在する。触媒の生産性は、一部の場合において、不活性ガス(例えば窒素)を用いた場合により高くなることが観察された。
【0076】
したがって、(2〜9):1、好ましくは(3〜6):1というN:ヒドロクロロフルオロアルカンのモル比で窒素と2〜5個の炭素原子を有するヒドロクロロフルオロアルカンとを含むかまたはこれらで構成されている混合物を、上述の通りに触媒上に通すことができる。(3〜5):1のN:ヒドロクロロフルオロアルカンのモル比で窒素と2〜5個の炭素原子を有するヒドロクロロフルオロアルカンとを含むかまたはこれらで構成されている混合物が、特に好ましい。特に好ましいのは、(2〜9):1、好ましくは(3〜6):1、より好ましくは(3〜5):1のモル比でNとCまたはCヒドロクロロフルオロアルカンとを含むかまたはこれらで構成されている混合物である。
【0077】
本発明の方法を用いて得られる一部のヒドロクロロフルオロアルケン類は、新規であり、本発明のさらなる態様を構成する。
【0078】
新規のヒドロクロロフルオロアルケン類は、式IV
【化3】
を有し、ここで、炭素原子数(N)、水素原子数(N)、塩素原子数(Ncl)そしてフッ素原子数(N)の間には、
≧4
≧N−1
>Ncl+2
という関係が存在し、R、R、RおよびRは互いに独立して水素原子、フッ素原子、C〜C−アルキル−、C〜C−ハロアルキルまたはC〜Cヒドロハロアルキル基を表わしている。
【0079】
本発明に係る新規の不飽和ヒドロクロロフルオロアルケン類は、2重結合を通して隣接する炭素原子に連結された炭素原子に付着した少なくとも1つの塩素原子を含む。
【0080】
さらに、新規のヒドロクロロフルオロアルケン類は少なくとも4個の炭素原子を含む。すなわち、置換基R、R、RおよびRのうち、フッ素または水素ではなく、すなわち少なくとも1つのアルキルまたはハロゲンアルキル置換基が存在する。
【0081】
好ましい化合物は、置換基Rが塩素を含まない基、好ましくはアルキル、フルオロアルキルまたはヒドロフルオロアルキルから選択されている化合物である。
【0082】
本発明に係る好ましいヒドロクロロフルオロアルケン類は、塩素置換基を担う炭素原子に隣接する両方の炭素原子において水素置換基が存在しているヒドロクロロフルオロアルケン類である。
【0083】
本発明に係るヒドロクロロフルオロアルケン類の特に好ましい群には、
【化4】
という構造要素Vが含まれ、ここで、nは0〜5、好ましくは0〜4そして特に好ましくは0〜3の整数を表わし、aは0、1または2であり、bは1、2または3である。
【0084】
上述の式中のnが2以上である場合には、aは異なる炭素原子において異なる値をとることがある。
【0085】
本発明に係る好ましいヒドロクロロフルオロアルケン類は、4、5または6個の炭素原子と少なくとも3個のフッ素原子を含む。分子内の炭素原子の価数を飽和させるための残りの原子は、塩素および水素から選択される。
【0086】
4個の炭素原子と1個の塩素原子を伴う本発明に係るヒドロクロロフルオロアルケン類は以下のものである:
2−クロロ−4,4,4−トリフルオロブト−1−エン、2−クロロ−3,4,4,4−テトラフルオトブト−1−エン、
2−クロロ−3,4,4−トリフルオロブト−1−エン、2−クロロ−1,4,4,4−テトラフルオトブト−1−エン、
2−クロロ−1,4,4−トリフルオロブト−1−エン、2−クロロ−1,3,4,4,4−ペンタフルオロブト−1−エン、
2−クロロ−1,3,4,4−テトラフルオトブト−1−エン、2−クロロ−1,3,4−トリフルオロブト−1−エン、
2−クロロ−1,1,4,4,4−ペンタフルオロブト−1−エン、2−クロロ−1,1,3,4,4,4−ヘキサフルオロブト−1−エン、
2−クロロ−1,1,4,4−テトラフルオトブト−1−エン、2−クロロ−1,1,3,4,4−ペンタフルオロブト−1−エン、
2−クロロ−1,1,4−トリフルオロブト−1−エン、2−クロロ−1,1,3,4−テトラフルオトブト−1−エン、
2−クロロ−1,1,3−トリフルオロブト−1−エン、特に好ましくは2−クロロ−4,4,4−トリフルオロブト−1−エンである(3−クロロ−1,1,1−トリフルオロブト−3−エンとも称される)。
【0087】
5個の炭素原子および1個の塩素原子を伴い、かつ好ましくは炭素原子1における置換基として唯一つの水素を伴うヒドロクロロフルオロアルケンの例は:
2−クロロ−3,4,4,5,5,5−ヘキサフルオロペント−1−エン、2−クロロ−3,4,4,5,5−ペンタフルオロペント−1−エン、2−クロロ−3,4,4,5−テトラフルオロペント−1−エン、2−クロロ−3,4,5,5,5−ペンタフルオロペント−1−エン、
2−クロロ−4,4,5,5,5−ペンタフルオロペント−1−エンおよび2−クロロ−4,4,5,5−テトラフルオロペント−1−エンである。
【0088】
フッ素原子数と水素原子数の間に求められる比に応じて、分子内に最高で1個の塩素原子しか存在しない場合、4個の炭素原子を伴う本発明に係るヒドロクロロフルオロアルケン類が少なくとも3個のフッ素原子、5個の炭素原子を伴うヒドロクロロフルオロアルケン類が少なくとも4個、そして6個の炭素原子を伴うものが少なくとも5個のフッ素原子を有するはずであるということは、当業者にとっては明白である。
【0089】
分子内の塩素原子の数は、最大で、フッ素原子の数から2を減じたものであり、このことは、例えば4個の炭素原子および3個のフッ素原子を伴う本発明に係るヒドロクロロフルオロアルケン類が1個の塩素原子しか含まず(式CClF)、最大でも分子が1個または2個の水素原子を含む場合に2個の塩素原子しか含まない(式CHClまたはCCl)という結果をもたらすということも同じく当業者にとっては明白である。塩素原子の数が増加するにつれてのオゾン層破壊の可能性および地球温暖化の可能性に関する公知の特性変化に起因して、塩素原子数が低い方にあるヒドロクロロフルオロアルケン類が一般に好適である。具体的には、4個の炭素原子を伴う本発明に係るヒドロクロロフルオロアルケン類は、好ましくは塩素原子を1個しか含まず、5個の炭素原子を伴うヒドロクロロフルオロアルケン類は、最大でも2個の塩素原子しか含まない。
【0090】
本発明に係る新規のヒドロクロロフルオロアルケン類は、そのままの状態で、例えば溶媒として利用され得る。これらは同様に、化学反応中の中間体として利用されてもよい。これらのヒドロクロロフルオロアルケン類は、塩素またはテトラクロロメタンを用いた塩素化プロセスおよび一般にフッ素化剤としてHFを用いたフッ素化反応による後続するフッ素による塩素の置換のための出発材料としてそれらを特に有用なものにしている有利な特性を有している。結果として得られる生成物、ヒドロフルオロアルカン類すなわち水素、フッ素および炭素原子のみを含む炭化水素は、大気のオゾン層に対しマイナスの影響を有ししたがってモントリオール議定書にしたがって段階的に廃止される可能性のある塩素化炭化水素に対する代用品として広く使用されてきている。このようにして得られたヒドロフルオロアルカン類は、脱フッ化水素によってヒドロフルオロアルケン類にさらに転化され得る。
【0091】
ヒドロフルオロアルケン類への一つの例示的経路として、本発明のヒドロクロロフルオロアルケン類を第1ステップにおいて、例えばClまたはテトラクロロメタンと反応させて飽和ヒドロクロロフルオロアルカン類を得ることができ、その後これを、当業者にとって公知であり文献中に記載されている条件下でフッ化水素と反応させることでヒドロフルオロアルカン類に転化させることができる。最終ステップにおいては、所望される場合、ヒドロフルオロアルカン類を脱フッ化水素させてヒドロフルオロアルケン類を得ることができる。ここでもまた、それぞれのプロセスは、当業者にとって公知であり、文献中に記載されており、したがってここで詳述する必要はない。
【0092】
したがって、本発明の一つの好ましい態様は、ヒドロフルオロアルカン類またはヒドロフルオロアルケン類の製造のための、式(IV)および(V)の新規ヒドロクロロフルオロアルケン類の使用に関する。この態様において使用すべき好ましい化合物は、以上で記されており、特に、4個の炭素原子と1個の塩素原子を有する以上に例証されたもの、そして以上で示された5個の炭素原子と1個の塩素原子を有するものである。
【0093】
参照により本明細書に援用されているいずれかの特許、特許出願および公報の開示が、用語を不明瞭にする程度に本出願と矛盾する場合、本明細書が優先するものとする。
【実施例】
【0094】
触媒活性をもつ金属化合物を、Kemnitz、E.ら、「Amorphe Metallfluoride mit aussergowohnlich grosser spezifischer Oberflaeche」、Angew.Chem.2003、115(35)およびRuediger、S.およびKemnitz、E.、「The fluorolytic sol−gel method to metal fluorides−a versatile process opening up a variety of application fields、Dalton Trans.2008、pp.1117−1127に係るいわゆる無水フッ素分解ゾルゲル法にしたがって調製した。
【0095】
第1のステップでは、それぞれの金属有機前駆物質化合物をメタノール中でHFと反応させた。こうして、ゾルまたはゲル様の網状構造が得られた。その後、2時間減圧下で100℃で乾燥させることにより、揮発性物質を除去した。
【0096】
その後、結果として得たキセロゲルを、CHClF(S−22)または3−クロロ−1,1,1,3−テトラフルオロブタン(S−364)のいずれかを用いた気相フッ素化に付した。
【0097】
S−22でのフッ素化を以下に記載する通りに実施した:
S−22でのフッ素化に使用した反応器は、内径8mmの管状石英ガラス反応器であった。反応器内にそれぞれの金属化合物1,2gを充填し、結果として高さ3〜4cmの材料を得た。前駆物質の床を石英ウールのプラグを用いて、反応器内で固定した。表1に記した温度および時間で、反応器内に、窒素ガス(20ml/分)とS−22(5ml/分)の混合物を導入した。90%超の前駆物質の転化がひとたび完了した時点または、混合フッ化物については1時間そして使用されたフッ化アルミニウムについては30分間転化率の増加を全く測定できなかった場合に、フッ素化を停止した。反応の終りにおける前駆物質の転化率も、表1に示されている。
【0098】
さらに、触媒反応のためには、γ−Alおよびβ−Alの担持体上に15wt%のAlFを含む触媒を使用した。これらの触媒は、触媒反応の前にフッ素化に付されなかった。
【0099】
表1は、記された温度における時間単位のフッ素化実施時間を示す。
【0100】
【表1】
【0101】
上述の通りのS22を用いたフッ素化の後に得られた触媒活性化合物を、以下では接頭辞S22によって呼称する。
【0102】
3−クロロ−1,1,1,3−テトラフルオロブタン(S−364)の触媒脱フッ化水素を、以下の通りに実施した:
内径8mm、外径10mmの加熱可能な石英反応器に200mgのそれぞれの触媒活性化合物を充填し、これを石英ウールプラグにより反応器の中央に固定した。3−クロロ−1,1,1,3−テトラフルオロブタンと窒素(体積比1:4)の混合物の25ml/分の気体流を、200℃に維持した反応器内に導入した。反応器を通過させた後、気体流を炭酸水素ナトリウムの0.5モル溶液中に通して、反応中に生成された気体酸(HF、SiF)を中和した。その後、試料を採取し、これをそれぞれガスクロマトグラフィとGC−MS(この場合、GC−MSシステム内に噴射する前に気体流をトリクロロメタン中で凝縮させた)によって直接分析した。
【0103】
S−364での先行するフッ素化の結果を評価するために、反応器内に未処理の前駆物質を導入し、2時間、気体S−364(体積比1:4での窒素との混合物)の流れに付した。これら2時間の後、生成物を触媒とみなし、接頭辞S364で呼称した。
【0104】
最初の120分間転化率が着実に増大したという事実は、フッ素化が起こっていることの表れであった。
【0105】
S−364の脱フッ化水素は、3つの異性体すなわち(以下CTFBE1およびCTFBE2と呼ぶシスおよびトランス−3−クロロ.1,1,1−トリフルオロブト−2−エンならびに以下CTFBE3と呼ぶ3−クロロ−1,1,1−トリフルオロ−ブト−3−エンの混合物を生み出した。
【0106】
表2は、さまざまな触媒活性金属化合物を用いた脱フッ化水素の結果およびそれぞれの主要生成物を示している。
【0107】
【表2】
【0108】
表2中の1.0という選択性は、脱塩化水素生成物の完全な不在を意味し、一方の0.9という選択性は、10%の脱塩化水素を意味する。
【0109】
以上の実施例は、本発明に係る方法が、予期された脱塩化水素の代りに非常に選択性の高い脱フッ化水素を生み出すことを示している。
【0110】
S−22MgAl0.12.3中のAlがそれぞれの量のFe(III)で置換された場合、選択性は0.63に下降し、AlがCrで置換された場合、選択性は61%まで下降し、これは混合フッ化物中の金属の重要性を示している。
【0111】
全ての触媒は、主要生成物として、ほぼ同じ量で同じ異性体を生成している。
【0112】
触媒活性金属化合物の組成または反応時間を変更することによる本発明のさらなる実施形態が、当業者にとっては明白である。