特許第6069219号(P6069219)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6069219ブレーキディスクおよびブレーキディスクの表面の処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6069219
(24)【登録日】2017年1月6日
(45)【発行日】2017年2月1日
(54)【発明の名称】ブレーキディスクおよびブレーキディスクの表面の処理方法
(51)【国際特許分類】
   F16D 65/12 20060101AFI20170123BHJP
   B23D 1/08 20060101ALI20170123BHJP
【FI】
   F16D65/12 S
   F16D65/12 R
   B23D1/08
【請求項の数】8
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-546629(P2013-546629)
(86)(22)【出願日】2011年11月8日
(65)【公表番号】特表2014-503056(P2014-503056A)
(43)【公表日】2014年2月6日
(86)【国際出願番号】EP2011069619
(87)【国際公開番号】WO2012089386
(87)【国際公開日】20120705
【審査請求日】2013年8月26日
(31)【優先権主張番号】102010064350.5
(32)【優先日】2010年12月29日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】501125231
【氏名又は名称】ローベルト ボッシュ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100172340
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 始
(74)【代理人】
【識別番号】100177839
【弁理士】
【氏名又は名称】大場 玲児
(72)【発明者】
【氏名】マルティン・シェプフ
(72)【発明者】
【氏名】ベルント・シェーファー
【審査官】 佐々木 佳祐
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第02255024(US,A)
【文献】 特開2000−205312(JP,A)
【文献】 特表2004−513311(JP,A)
【文献】 特開昭56−107817(JP,A)
【文献】 特開昭57−041101(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 49/00−71/04
B23D 1/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面(3)上での被膜の付着力を高めるために構造化された前記表面(3)を有するブレーキディスクにおいて、
前記表面(3)の構造化部(9a,9b)が少なくとも1つの凹部(9)を有し、その幅は該凹部の深さ(10)が増すとともに増大しており、
前記被膜の厚さが前記少なくとも1つの凹部(9)の深さ(10)よりも大きく、
前記少なくとも1つの凹部(9)が、スパイラル状の構造を有していることを特徴とする、ブレーキディスク。
【請求項2】
前記少なくとも1つの凹部(9,10)が、あり溝形状の横断面プロファイルを有していることを特徴とする、請求項1に記載のブレーキディスク。
【請求項3】
前記被膜と前記ブレーキディスク(3)との間に形状拘束的結合を生じさせる前記少なくとも1つの凹部が、前記ブレーキディスク(3)の、被膜をコーティングした該ブレーキディスクが後でブレーキライニングと接触する領域に、設けられていることを特徴とする、請求項1または2に記載のブレーキディスク。
【請求項4】
表面(3)上での被膜の付着力を高めるための、ブレーキディスクの表面の処理方法において、前記表面(3)に、深さ(10)が増すにつれて幅が増大し、スパイラル状の構造を有する少なくとも1つの凹部(9)を形成させ、
前記被膜の厚さが前記少なくとも1つの凹部(9)の深さ(10)よりも大きくなるように前記被膜を形成させることを特徴とする方法。
【請求項5】
前記少なくとも1つの凹部(9)を材料切削加工によって生成させることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記少なくとも1つの凹部(9)を複数回のステップで生成させ、第1のステップ(21,32)で前記凹部の第1の側面(9a)に第1のアンダーカット(9a,42)を生成させ、第2のステップ(22,31)で前記凹部の反対側の側面(9b)に第2のアンダーカット(9b,43)を生成させることを特徴とする、請求項4または5に記載の方法。
【請求項7】
複数個の凹部(5,9)を1つの工具(4)で同時に生成させることを特徴とする、請求項4から6までのいずれか一つに記載の方法。
【請求項8】
複数個のカッティングエッジ(37a,37b,38a,38b)を備えた、1つの工具を、ブレーキディスク(1,3)の回転速度(2)に整合した送り速度(41)でブレーキディスクに沿って移動させることで、前記工具(4,30)の第1のカッティングエッジ(6,38b)で前記凹部(9)の前記第1の側面(9a)に第1のアンダーカット(9a,42)を生成させ、同時に前記工具(4,30)の第2のカッティングエッジ(7,37b)で前記凹部(9)の反対側の側面に第2のアンダーカット(9b,43)を生成させることを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレーキディスクおよび特にブレーキディスクの表面の処理方法であって、表面上での被膜の付着力を高めるために表面を粗くし、このため表面に少なくとも1つの凹部を形成させ、その幅は凹部の深さが増すとともに増大し、このアンダーカットによりブレーキディスクと被膜との間に形状拘束的結合を生成させるようにした、前記ブレーキディスクおよび特にブレーキディスクの表面の処理方法に関するものである。
さらに本発明は、表面に、特にブレーキディスクの表面に少なくとも1つの凹部を生成させるための切削工具であって、前記凹部の深さが増すにつれてその幅が増大するように少なくとも1つの凹部を表面に生成させるようにした前記切削工具にも関わる。このため、切削工具は少なくとも2つのカッティングエッジを有し、両カッティングエッジが工作物表面の垂直線に対し傾斜角を有し、両カッティングエッジが直交方向に同時に1つの共通の面を形成する。
【背景技術】
【0002】
技術水準から、火炎溶射またはプラズマ溶射のようなサーマルコーティングプロセスのために、コーティングの前に表面を活性化させることが知られている。この活性化は、通常のケースでは表面を粗くすることから成り、このために、圧力を加えた研磨粒子を用いて、特に特殊鋼玉のようなエッジの鋭い粒子を用いて表面が処理される。このステップはビームカットプロセスとも呼ばれる。
【0003】
このビームカットプロセスの欠点は、生成させた表面特性が正確に再現可能ではなく、これに伴って被膜の付着性に大きな変動があり、大量生産には不向きなことである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、プロセスパラメータの変動を可能な限り少なくして、活性化した表面に表面被膜を被着させるために、正確に再現可能な表面活性化を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題は、本発明によれば、独立請求項の構成によって解決される。有利な他の構成は従属項から明らかである。
【0006】
本発明は、本発明による表面活性化を有する工作物、特にブレーキディスクと、表面活性化方法と、工作物表面上で表面活性化を行なうための工具、特に切削工具とから構成される。
【0007】
本発明による表面を備えた工作物、特にブレーキディスクは、表面上での被膜の付着性を高めるために構造化部を有し、表面の構造化部は少なくとも1つの凹部を有し、その幅は凹部の深さが増すとともに増大する。これにより、次に被着される被膜と工作物との間に形状拘束的結合を生じさせることが可能であり、形状拘束的結合は正確な再現性を有する。
【0008】
有利には、少なくとも1つの凹部はあり溝形状の横断面プロファイルを有し、これによって形状拘束性が生じる。
【0009】
さらに、少なくとも1つの凹部が、1個または複数個の同心円の形状の構造を有し、または、レコードの溝のようなスパイラル状の凹部の構造を有しているのが有利である。これにより、材料切削加工によって、特に旋削プロセスによって表面活性化を行なうことが可能になり、この場合表面活性化は非常に迅速且つ低コストで実施することができる。
【0010】
有利には、被着される被膜の厚さは少なくとも1つの凹部の深さよりも大きく、その結果コーティングプロセス後に凹部はコーティング材で完全に充填されて、1つの完全に平坦な表面が生じる。
【0011】
さらに、被膜が耐摩耗性の高い材料から成るのが有利であり、表面は、特にブレーキディスクの表面は非常に耐摩耗性が高くなる。特に有利には、ブレーキディスクの、被膜をコーティングした該ブレーキディスクが後でブレーキライニングと接触する領域で、被膜とブレーキディスクとの間に形状拘束的結合を生じさせる少なくとも1つの凹部を用いて表面活性化が実施される。
【0012】
本発明の範囲内で、表面上での被膜の付着力を高めるための表面の処理方法、特にブレーキディスクの表面の処理方法が設けられ、この場合表面に、深さが増すにつれて幅が増大する少なくとも1つの凹部を形成させる。これにより、本発明によれば、工作物表面と被膜と間での形状拘束性が可能になる。
【0013】
有利には、少なくとも1つの凹部を材料切削加工によって、特に旋削によって生成させる。
【0014】
有利には、少なくとも1つの凹部は複数回のステップで生成させる。材料表面への回転切削工具の切り込み後、第1のステップで凹部の第1の側面に第1のアンダーカットを生成させる。このため、旋削工具を第1の左側方向へ工作物に対し移動させて、第1のアンダーカットを生成させる。第2のステップで凹部の反対側の側面に第2のアンダーカットを生成させる。このため、切削工具を第1の方向とは逆方向の第2の右側方向へ移動させる。このステップによって他のアンダーカットが生成される。切削工具を中央位置へ移動させて工作物から離間させた後に2つのアンダーカットが残り、これらのアンダーカットは協働して1つの凹部を生成し、該凹部の幅は深さが増すとともに増大し、あり溝状のプロファイルを有している。互いに逆方向に設けられる2つのアンダーカットにより、後に被着される被膜との形状拘束性が生じ、該形状拘束性が被膜を工作物と分離不能に固定させる。
【0015】
有利には、複数個の凹部を1つの工具で同時に生成させる。このため、互いに並設される櫛状の同種の複数のカッティングエッジを備えた1つの切削工具が使用される。これによって、1回の作業ステップで互いに隣接し合う同種の多数の凹部が生成されることで多重利用が得られ、これにより表面活性化を迅速に、よって低コストに実施することができる。
【0016】
さらに、いわゆる標準チップを備えた1つの切削工具を使用するならば有利である。というのは、これによって工具の低コストの製造と保守とが達成され、よって迅速な表面活性化を実施することもできるからである。このため、工作物に対し整合させた工具の送り速度を工作物の回転速度に対し次のように整合させた、すなわち工具の第1のカッティングエッジで凹部の第1の側面に第1のアンダーカットが生成され、同時に工具の第2のカッティングエッジで凹部の反対側の側面に第2のアンダーカットが生成されるように整合させた、複数個のカッティングエッジを備えた、特に2つのカッティングエッジを備えた工具が設けられている。この場合、両アンダーカットは送り速度を整合させたために、これらアンダーカットが協働して1つの共通の凹部を形成するように配置されている。その際、凹部の横断面プロファイルの幅は深さが増すとともに増大し、同様にあり溝状の横断面プロファイルを形成させる。この場合、第1のアンダーカットと第2のアンドーカットとは同時に生成され、送り速度によって工作物表面にわたってスパイラル状に、レコードの音溝のように生成される。
【0017】
さらに、本発明によれば、表面に、特にブレーキディスクの表面に少なくとも1つの凹部を生成させるための切削工具が設けられている。切削工具は、少なくとも1つの凹部を表面に形成させるように構成され、この場合少なくとも1つの凹部の幅は深さが増すとともに増大する。これは、有利には、少なくとも2つのカッティングエッジを有する1つの切削工具を用いて生成させることができ、この場合第1のカッティングエッジは工作物の表面の垂直線に対し傾斜角を有して、少なくとも1つの凹部の第1の部分を生成させ、第2のカッティングエッジは工作物の表面の垂直線に対し第1のカッティングエッジの傾斜角とは逆方向の傾斜角を有して、少なくとも1つの凹部の第2の部分を生成させ、両カッティングエッジは1つの共通の平面を形成させる。
【0018】
有利には、切削工具の少なくとも2つのカッティングエッジは工具中心軸線に対し角度を成して傾斜しており、その結果これらカッティングエッジは互いに接近しあっている。しかし、切削工具のどのような実施態様を考慮に入れるかに応じて、カッティングエッジの両延長軸線の交点が工作物の内側にあってもよく、或いは、工具の工作物とは逆の側にあってもよい。これら2つの実施態様が本発明を形成している。なお、工具中心軸線は工作物の表面の垂直線に対し平行に位置するものと理解すべきである。
【0019】
有利には、少なくとも2つのカッティングエッジはあり溝状に配置され、その結果両側部カッティングエッジの共通の交点は切削工具の工作物とは逆の側にある。これによってカッティングエッジは互いに離間して向き合い、従って凹部のプロファイルに類似し且つこれとは異なり単により幅狭に形成された、実質的に歯状のプロファイルが生じる。
【0020】
さらに、切削工具はあり溝状に配置される同種の多数のカッターエッジを有しているのが有利であり、これによって複数個の同種の凹部を1回の作業工程で生成させることができ、多重利用が得られる。
【0021】
この場合、特に有利には、あり溝状に配置される同種の多数のカッターエッジが均等な間隔で1つのライン上に配置され、その結果櫛状の工具形状が生じる。その際切削工具は一体に形成されていてよい。
【0022】
さらに、本発明によれば、凹部を生成するために工具を次のように機能させるのが有利であり、すなわち切削工具を工作物に垂直に切り込ませた後、工作物表面に対し平行に第1の運動を実施させるのが有利であり、これによって凹部の第1の側面を形成する第1のアンダーカットが生成される。次の、同様に工作物表面に対し平行に行われる工作物に対する切削工具の逆方向の運動により、第2のアンダーカットが生成され、該第2のアンダーカットのプロファイルは第1のアンダーカットに対し左右反転して形成され、凹部の第2の側面を形成する。互いに左右反転して形成され、凹部の両側面を形成するアンダーカットにより、あり溝状の横断面を備えた1つの凹部が生成され、よってこの工具を用いて、後に被着される被膜を表面と形状拘束的に、分離不能に結合させる表面活性化が実施される。
【0023】
さらに、切削工具は工作物内に1個の同心円または複数個の同心円の形状で少なくとも1つの凹部を生成させるのが有利である。このため、あり溝状の横断面をもった複数個の凹部を旋削方式により工作物の表面に構造化させる。
【0024】
さらに、少なくとも2つのカッティングエッジが互いに鋭角で配置されているのが、すなわち互いに接近し合うように配置されているのが有利である。このことは、両カッティングエッジの両延長軸線の交点が工具の前方にあり、すなわち工作物の内部にあることを意味している。
【0025】
特に有利には、少なくとも2つのカッティングエッジは、1つの共通の工具ホールダ上に固定されている2つのチップから成っている。この場合、2つの標準スローアウェイチップを使用できるならばコスト上特に好ましく、これによって、特別仕様が必要ないので、特に低コストの工具を提供することができる。これは、2つの標準スローアウェイチップを固定した1つのチップホールダによって達成される。この場合、両チップは少なくとも鋭角を成している。両チップは切削工具に次のように固定され、すなわちそれぞれ鋭角のコーナー部を通るそれぞれの対称軸線が互いに接近し合うように固定され、その結果鏡対称な両長手軸線は工具の外側で交わる。その際の交点は、工具の切削作動の場合、工作物の内側にある。この場合、第1のチップによって少なくとも1つの凹部の第1の半部分が旋削され、この第1の半部分は、有利には、切削深さが増すにつれて先細りになっているアンダーカットから成っている。これと同時に第2のチップは、有利には、他のアンダーカットを水平方向にずらして工作物に切削し、その際工具は回転している工作物に対し送り速度で移動し、その結果工作物が整数回回転した後の第2のチップの先端は、工作物の整数回の回転前に第1のチップの先端が少なくとも1つの凹部の第1の半部分を切削した位置に略正確に位置している。第2のチップの先端も工作物にアンダーカットを切削し、その際この第2のアンダーカットも同様に切削深さが増すにつれて先細りになっているが、両チップ軸線が互いに逆方向に接近し合う配向により、第1のアンダーカットとは左右反転して配置されている。両アンダーカットは略正確に互いに重なりあうように延在しているが、互いにわずかにずれているために、両アンダーカットの組み合わせは、深さが増すにつれて先細りになっている両アンダーカットに起因して、深さが増すにつれて幅が増大するような少なくとも1つの凹部を生じさせ、これによってあり溝形状の凹部の横断面プロファイルが生じる。この場合、少なくとも2つのカッティングエッジのうち第1のカッティングエッジが少なくとも1つの凹部の第1の半部分を表面に生成させ、これと同時に少なくとも2つのカッティングエッジのうち第2のカッティングエッジが少なくとも1つの凹部の第2の半部分を表面に生成させると特に有利である。この場合、少なくとも1つの凹部の第2の半部分は少なくとも1つの凹部の第1の半部分を次のように補完し、すなわち少なくとも1つのあり溝状の凹部が生じるように補完する。その際、表面全体に表面を覆うようにしてただ1つのスパイラル状の凹部を備えさせてよい。この凹部はレコードの音溝のように形成され、1回の作業工程で生成させることができる。
【0026】
有利には、切削工具は工作物に1個または複数個のスパイラル状の凹部を生成させる。このため、送り速度を工作物の回転速度に整合させ、1個または複数個のスパイラル状の凹部はレコードのスパイラル状の音溝のように1回の作業工程で生成させる。
【0027】
さらに、切削工具によって生成される凹部が微細構造であるように、特に微細構造が10μmないし1000μmの範囲の深さを有するように、切削工具が構成されているのが有利である。
【0028】
有利には、微細構造がアンダーカット部分を備えたあり溝状の幾何学的形態であることにより、被着される層の付着性が改善される。その際のプロセス時間を短縮するため、適宜幅広の工具を用いて構造全体を1回で生成させるのが有利である。この場合、特にたとえば構造間隔または構造深さの点で一層のフレキシビリティを提供するため、個々の構造を単一工具で連続的に形成することができる。当業者にとっては、本発明の範囲内で多数の組み合わせ、横断面プロファイルの組み合わせがあること、製造プロセスを個々のプロセスに分解できることは明らかである。従来のサンドブラストによる表面活性化に比べて、この方法はその加工性により大量生産に適している。この方法は、サンドブラストに比べて不良品コストが低減されているばかりでなく、工具側または機械側にブラストチップのような重大な摩耗現象が生じないので、コストの点でさらに有利である。鋳造部品に対してこの方法を適用すると、鋳肌の除去のために、或いはブレーキディスクの精密な成形のために、補助的にこの操作を実施できる旋削プロセスを使用するのが通常であるので、更なる利点が得られる。従ってプロセスチェーン全体が簡潔になり、コストの点で更なる利点が生じる。ブレーキディスクの平面に対し微細構造旋削方式を適用することは例示的に説明したものであり、この方法は原理的にはすべての旋削プロセスに適している。また、旋削プロセスの代わりに、非回転面に対してフライス加工、リーマ仕上げ、形削り、または平削りを用いて比肩しうる構造を生成してもよい。
【0029】
特に有利には、所定のアンダーカットを生成するため、ホールダと、可能な限り小さなカッティングエッジ半径をもった2つの標準スローアウェイチップとから成る工具を使用する。これによってあり溝状の微細構造を生成させることが可能になり、該あり溝状の微細構造は同心構造として生成されるのではなく、スパイラル状に延在している。この微細構造は、アンダーカット部分を備えたあり溝状の幾何学的形状により、被着される被膜の付着力を改善させ、この場合標準スローアウェイチップを使用できるので、工具コストが非常に少ないという大きな利点がある。最初にマイクロカッター相互の位置調整をすることだけがコストを高めると見なされる。
【0030】
あり溝状の横断面プロファイルの代わりに、深さが増すとともに横断面プロファイルの幅を増大させるが、詳細には正確なあり溝プロファイルとはずれているような簡単な構造を形成させてもよい。この変形実施態様の利点は、構成が簡潔であること、或いは、2つのスローアウェイチップを設ける必要がないことであるが、生じるアンダーカットの数量が少ないのが欠点である。
【0031】
本発明の他の構成、適用可能性、利点は、図面に図示した本発明のいくつかの実施例に関わる以下の説明から明らかである。なお、説明または図示した構成はすべてそれ自体でまたは任意の組み合わせで本発明の対象を成すものであり、それを要約した特許請求の範囲の記載または特許請求の範囲の従属関係に左右されるものではなく、また説明の言い回し或いは図面の図示に左右されるものではない。
【0032】
次に、本発明のいくつかの実施例を図面を用いて説明する。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】典型的な工作物、たとえばブレーキディスクを示す図である。
図2】本発明による第1の工具の1実施例を示す図である。
図3】本発明による第1の工具の使用態様を示す図である。
図4】本発明による加工に従って活性化させた表面を示す図である。
図5】本発明による他の工具の1実施例を示す図である。
図6】本発明による前記他の工具の使用態様を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
図1は、たとえばブレーキディスクとして実施可能な工作物1を示している。この種の工作物1は回転軸線2を有し、該回転軸線のまわりに旋削方式の範囲内で工作物1が回転する。さらに、本発明による工具および方法を用いて構造化される面3が設けられ、この面に、その後たとえば火炎溶射法またはプラズマ溶射法により被着される被膜の付着力を高めるための微細構造が形成される。
【0035】
図2には、本発明による微細構造を生成させるための可能な工具4の1実施例が図示されている。工具4は片側に少なくとも2つのカッティングエッジ6,7を有し、これらカッティングエッジは、両カッティングエッジ6,7の延長軸線が工作物1とは逆の側で交差するように互いに逆方向に延在している。この場合、カッティングエッジプロファイル5が生じる。カッティングエッジプロファイルは歯形を想起させるので、以下では切歯5と記すことにする。少なくとも2つのカッティングエッジ6,7は切歯5の左側面または右側面を形成し、その結果工作物に生成される微細構造のあり溝形状が生じる。さらに、このような工具の効果を高めるため、複数個の切歯5を工具4の1つのラインに沿って配置し、その際切歯は有利には規則的な歯間隔8で配置される。
【0036】
図3には、図1に示した工作物1を加工するために図2に示した工具4を使用する1例が図示されている。この場合工作物1はたとえばブレーキディスクであり、切片として図示され、その被加工面3は図3において視線方向に垂直に位置決めされている。さらに工具4も同様に切片として図示されており、歯間隔8で配置されている切歯5は工作物1に対し位置決めされ、被構造化表面3に切り込まれる。この場合、各切歯5が少なくとも2つのカッティングエッジ6,7として図2から既知の左側サイドエッジおよび右側サイドエッジを有していることが見て取れる。1つの旋削方式により工作物1の表面3を微細構造化する場合、図3に図示した工作物1の一部分が下方へ移動し、且つ工作物1全体が図1に図示したような水平回転軸線2のまわりで回転を実施するように、工作物1は工具4に対し回転する。その際切歯5が表面3に切り込んで、工具4が切り込み方向20において工作物1側へ移動したときに表面3に規則的な間隔8で凹部9を生成させる。工具4が工作物1側へ送られて、カッティングエッジ6,7が所望の深さ10をもつ凹部を生成させると、工具4を第1の移動方向21に表面3に対し平行に移動させる。この第1の移動21の間に、凹部9の左側エッジに第1のアンダーカット9aが生じるように、第1のカッティングエッジ6が凹部9を拡幅させる。次に第2の移動方向22に工具を移動させる(工具4は同様に表面3に対し平行に移動するが、工作物1に対し逆方向へ移動する)。このとき切歯5の第2の側面7が凹部9の右側エッジに第2のアンダーカット9bを切削し、その結果凹部9は両側9aと9bにそれぞれ左右反転したアンダーカットを有するに至る。次に、工具4を再び方向21へいくぶん移動させ、その結果切歯5は凹部9内で中間位置を占めるので、切り込み方向20とは逆方向に工作物と接触せずに凹部9から取り出すことができる。この処置で生じる微細構造9を図4に拡大してもう一度図示した。
【0037】
図4でも、たとえばブレーキディスクである工作物1が切片で示されている。工作物は旋削方式により構造化される表面3を有し、図4では図3の場合と同様に前方へ向いている。この表面3に、歯間隔8で互いに分離されている凹部9を複数個形成した。凹部の深さ10は工具切り込み深さであり、10μmないし1000μmの範囲である。さらに、凹部9はそれぞれ2つのアンダーカット9a,9bから成り、それぞれ第1のアンダーカット9aを凹部9の左エッジに図示し、第2のアンダーカット9bをそれぞれ凹部9の右エッジに図示した。これら2つのアンダーカット9a,9bによってあり溝状形状の横断面プロファイルが得られ、このあり溝状形状の横断面は後で被着される被膜との形状拘束的結合を可能にする。
【0038】
図5には本発明による工具30の他の実施例が示されており、この実施例では、1つのチップホールダ30が2つの標準スローアウェイチップ31,32を受容している。両チップ31,32は固定ねじ35により切削工具30に固定されている。両チップ31,32は、それぞれ1つのコーナー部と少なくとも1つのカッティングエッジとが切削工具エッジ上方へ突出するように互いに並設されている。チップ31,32は、工具エッジ上方へ突出している先端が可能な限り小さな半径をもった可能な限り鋭い角度を有することで、可能限り小さな微細構造を、可能な限り浅い深さ10をもった凹部9,42,43の形状で生成できるように、選定されている。有利には菱形状の両チップ31,32はチップホールダ30に次のように固定され、すなわちチップ31,32の対称軸線33,34が長手方向において平行ではなく、互いに接近しあってチップホールダ30の外側で交差するように固定されている。有利にはチップホールダも対称に製造され、その結果両チップ長手軸線33,34の交点はチップホールダ中心軸線36上にある。この場合、両チップ中心軸線33,34の傾斜は次のような程度に選定せねばならず、すなわち両チップ31と32の両内側カッティングエッジ37bと38bも互いに接近しあってそれらの仮想延長線が工具の上方で交差する程度に選定しなければならない。これら内側の両カッティングエッジ37bと38bとが互いに平行に延びていれば、或いは、上方で互いに離間するように延びていれば、延長線はチップホールダ30の内側またはその下方で交わるので、図6に示したようにアンダーカット9a,9b,42,43を工作物1の表面3に生成させることは不可能である。切削工具の外側エッジ37aと38aも同様にカッティングエッジを有しているのが有利であり、というのは、有利なものとして説明した標準スローアウェイチップは通常どおり両側に周回するように延在するカッティングエッジ37a,37b,38a,38bを有し、これらのカッティングエッジが工作物1の表面3への工具30の容易な切り込みをも可能にするからである。
【0039】
図6には、図5で説明した工具30を、工作物1の表面3にあり溝状の凹部42,43を生成するために使用する例が示されている。なお、図を見やすくするためにチップホールダ30は図示していないが、その上方へ突出しているチップ31と32の一部が示されている。チップ31,32は送り運動41で工作物1に対し移動するので(図6では右側へ向く矢印で示唆されている)、この配向から先行刃32と後続刃31とが生じる。先行刃32は、その中心軸線34が送り方向とは逆方向に向き、且つ内側の先行刃38bも送り方向42に対し逆方向に傾斜する程度に傾斜するように位置決めされている。この先行刃32が工作物1と接触すると、この先行刃は、後の微細構造9の第1の部分を成す凹部42を生成させる。前述のように内側のカッティングエッジ38bが傾斜しているので、第1のアンダーカット42が生じる。この第1のアンダーカットは、凹部の左側に(すなわち送り方向とは反対の側に)形成されるが、凹部の深さ10が増すにつれて先細りになっている。工作物1の回転速度に整合している送り速度41によって、スパイラル状に延在する部分凹部42が生じる。送り速度41と回転速度と両カッティングエッジ先端部の間隔との正確な整合により、後続刃31が略正確に先行刃32bの凹部に切り込み、しかし送り方向にわずかにずれていることが可能であり、その結果先行刃32によって生成された微細構造9の第1の半部分42が次の第2の半部分43によって補完される。この場合、後続チップ31は先行チップ32bに対し逆方向に次のように傾斜しており、すなわちチップ31の長手方向における中心軸線33が送り方向に傾斜しているように、傾斜している。この場合も、内側の後続カッティングエッジ37bが同様に先行刃32bの方向に(すなわち送り方向41に)傾斜している程度に後続チップが傾斜していることが必要である。この第2の後続刃37bは切り込み43を生成させ、該切り込みは、前述のように後続チップ31が傾斜しているので、同様にアンダーカット43を生成させ、該アンダーカットは第1の凹部42に対し鏡対称に形成される。両凹部42と43は工作物1内にほとんど相前後して生成され、しかも互いに水平方向にわずかにずれているにすぎないので、両アンダーカット42と43が互いに補完しあってあり溝状の微細構造9が形成され、該微細構造の幅は深さ10が増すにつれて増大する。なお、微細構造9の第2の半部分43は微細構造の第1の半部分42と同時に生成されるが、両カッティングエッジの間隔と、回転速度と、これに整合している送り速度とのために、微細構造9の第2の半部分43は、工作物1が整数回回転した後に初めて、先行刃32が微細構造9の第1の半部分42を生成した同じ個所に補完される。この結果、表面3上に延在する微細構造9が生じ、該微細構造は、レコードの音溝のようにスパイラル状に延在し、スパイラル形状であるために規則的な間隔39で反復している。従って両アンダーカット42と43は同時に、しかし異なる位置に生成され、その結果両アンダーカット42と43は1か所に相次いで生成されるが、それにもかかわらず、スパイラル状に延在している構造のために、同時に並行して1回の作業工程で生成される。従って内側の両カッティングエッジ37bと38bは微細構造9の両側面を生成させ、その結果微細構造の拡開角度40は、内側の両カッティングエッジ37bと38b相互の傾斜角と同じ角度である。外側の両カッティングエッジ37aと38aは、工作物表面に、互いに移行しあって微細構造9の両半部分42と43を結合させるような複数の面を切り出す。この場合、外側の両カッティングエッジ37aと38aの相互の角度は補助的な意義がある。
【符号の説明】
【0040】
1 工作物
3 表面
5 凹部、切歯、カッティングエッジプロファイル
8 規則的な歯間隔
9 凹部
10 凹部の深さ
図1
図2
図3
図4
図5
図6