【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題は、本発明によれば、独立請求項の構成によって解決される。有利な他の構成は従属項から明らかである。
【0006】
本発明は、本発明による表面活性化を有する工作物、特にブレーキディスクと、表面活性化方法と、工作物表面上で表面活性化を行なうための工具、特に切削工具とから構成される。
【0007】
本発明による表面を備えた工作物、特にブレーキディスクは、表面上での被膜の付着性を高めるために構造化部を有し、表面の構造化部は少なくとも1つの凹部を有し、その幅は凹部の深さが増すとともに増大する。これにより、次に被着される被膜と工作物との間に形状拘束的結合を生じさせることが可能であり、形状拘束的結合は正確な再現性を有する。
【0008】
有利には、少なくとも1つの凹部はあり溝形状の横断面プロファイルを有し、これによって形状拘束性が生じる。
【0009】
さらに、少なくとも1つの凹部が、1個または複数個の同心円の形状の構造を有し、または、レコードの溝のようなスパイラル状の凹部の構造を有しているのが有利である。これにより、材料切削加工によって、特に旋削プロセスによって表面活性化を行なうことが可能になり、この場合表面活性化は非常に迅速且つ低コストで実施することができる。
【0010】
有利には、被着される被膜の厚さは少なくとも1つの凹部の深さよりも大きく、その結果コーティングプロセス後に凹部はコーティング材で完全に充填されて、1つの完全に平坦な表面が生じる。
【0011】
さらに、被膜が耐摩耗性の高い材料から成るのが有利であり、表面は、特にブレーキディスクの表面は非常に耐摩耗性が高くなる。特に有利には、ブレーキディスクの、被膜をコーティングした該ブレーキディスクが後でブレーキライニングと接触する領域で、被膜とブレーキディスクとの間に形状拘束的結合を生じさせる少なくとも1つの凹部を用いて表面活性化が実施される。
【0012】
本発明の範囲内で、表面上での被膜の付着力を高めるための表面の処理方法、特にブレーキディスクの表面の処理方法が設けられ、この場合表面に、深さが増すにつれて幅が増大する少なくとも1つの凹部を形成させる。これにより、本発明によれば、工作物表面と被膜と間での形状拘束性が可能になる。
【0013】
有利には、少なくとも1つの凹部を材料切削加工によって、特に旋削によって生成させる。
【0014】
有利には、少なくとも1つの凹部は複数回のステップで生成させる。材料表面への回転切削工具の切り込み後、第1のステップで凹部の第1の側面に第1のアンダーカットを生成させる。このため、旋削工具を第1の左側方向へ工作物に対し移動させて、第1のアンダーカットを生成させる。第2のステップで凹部の反対側の側面に第2のアンダーカットを生成させる。このため、切削工具を第1の方向とは逆方向の第2の右側方向へ移動させる。このステップによって他のアンダーカットが生成される。切削工具を中央位置へ移動させて工作物から離間させた後に2つのアンダーカットが残り、これらのアンダーカットは協働して1つの凹部を生成し、該凹部の幅は深さが増すとともに増大し、あり溝状のプロファイルを有している。互いに逆方向に設けられる2つのアンダーカットにより、後に被着される被膜との形状拘束性が生じ、該形状拘束性が被膜を工作物と分離不能に固定させる。
【0015】
有利には、複数個の凹部を1つの工具で同時に生成させる。このため、互いに並設される櫛状の同種の複数のカッティングエッジを備えた1つの切削工具が使用される。これによって、1回の作業ステップで互いに隣接し合う同種の多数の凹部が生成されることで多重利用が得られ、これにより表面活性化を迅速に、よって低コストに実施することができる。
【0016】
さらに、いわゆる標準チップを備えた1つの切削工具を使用するならば有利である。というのは、これによって工具の低コストの製造と保守とが達成され、よって迅速な表面活性化を実施することもできるからである。このため、工作物に対し整合させた工具の送り速度を工作物の回転速度に対し次のように整合させた、すなわち工具の第1のカッティングエッジで凹部の第1の側面に第1のアンダーカットが生成され、同時に工具の第2のカッティングエッジで凹部の反対側の側面に第2のアンダーカットが生成されるように整合させた、複数個のカッティングエッジを備えた、特に2つのカッティングエッジを備えた工具が設けられている。この場合、両アンダーカットは送り速度を整合させたために、これらアンダーカットが協働して1つの共通の凹部を形成するように配置されている。その際、凹部の横断面プロファイルの幅は深さが増すとともに増大し、同様にあり溝状の横断面プロファイルを形成させる。この場合、第1のアンダーカットと第2のアンドーカットとは同時に生成され、送り速度によって工作物表面にわたってスパイラル状に、レコードの音溝のように生成される。
【0017】
さらに、本発明によれば、表面に、特にブレーキディスクの表面に少なくとも1つの凹部を生成させるための切削工具が設けられている。切削工具は、少なくとも1つの凹部を表面に形成させるように構成され、この場合少なくとも1つの凹部の幅は深さが増すとともに増大する。これは、有利には、少なくとも2つのカッティングエッジを有する1つの切削工具を用いて生成させることができ、この場合第1のカッティングエッジは工作物の表面の垂直線に対し傾斜角を有して、少なくとも1つの凹部の第1の部分を生成させ、第2のカッティングエッジは工作物の表面の垂直線に対し第1のカッティングエッジの傾斜角とは逆方向の傾斜角を有して、少なくとも1つの凹部の第2の部分を生成させ、両カッティングエッジは1つの共通の平面を形成させる。
【0018】
有利には、切削工具の少なくとも2つのカッティングエッジは工具中心軸線に対し角度を成して傾斜しており、その結果これらカッティングエッジは互いに接近しあっている。しかし、切削工具のどのような実施態様を考慮に入れるかに応じて、カッティングエッジの両延長軸線の交点が工作物の内側にあってもよく、或いは、工具の工作物とは逆の側にあってもよい。これら2つの実施態様が本発明を形成している。なお、工具中心軸線は工作物の表面の垂直線に対し平行に位置するものと理解すべきである。
【0019】
有利には、少なくとも2つのカッティングエッジはあり溝状に配置され、その結果両側部カッティングエッジの共通の交点は切削工具の工作物とは逆の側にある。これによってカッティングエッジは互いに離間して向き合い、従って凹部のプロファイルに類似し且つこれとは異なり単により幅狭に形成された、実質的に歯状のプロファイルが生じる。
【0020】
さらに、切削工具はあり溝状に配置される同種の多数のカッターエッジを有しているのが有利であり、これによって複数個の同種の凹部を1回の作業工程で生成させることができ、多重利用が得られる。
【0021】
この場合、特に有利には、あり溝状に配置される同種の多数のカッターエッジが均等な間隔で1つのライン上に配置され、その結果櫛状の工具形状が生じる。その際切削工具は一体に形成されていてよい。
【0022】
さらに、本発明によれば、凹部を生成するために工具を次のように機能させるのが有利であり、すなわち切削工具を工作物に垂直に切り込ませた後、工作物表面に対し平行に第1の運動を実施させるのが有利であり、これによって凹部の第1の側面を形成する第1のアンダーカットが生成される。次の、同様に工作物表面に対し平行に行われる工作物に対する切削工具の逆方向の運動により、第2のアンダーカットが生成され、該第2のアンダーカットのプロファイルは第1のアンダーカットに対し左右反転して形成され、凹部の第2の側面を形成する。互いに左右反転して形成され、凹部の両側面を形成するアンダーカットにより、あり溝状の横断面を備えた1つの凹部が生成され、よってこの工具を用いて、後に被着される被膜を表面と形状拘束的に、分離不能に結合させる表面活性化が実施される。
【0023】
さらに、切削工具は工作物内に1個の同心円または複数個の同心円の形状で少なくとも1つの凹部を生成させるのが有利である。このため、あり溝状の横断面をもった複数個の凹部を旋削方式により工作物の表面に構造化させる。
【0024】
さらに、少なくとも2つのカッティングエッジが互いに鋭角で配置されているのが、すなわち互いに接近し合うように配置されているのが有利である。このことは、両カッティングエッジの両延長軸線の交点が工具の前方にあり、すなわち工作物の内部にあることを意味している。
【0025】
特に有利には、少なくとも2つのカッティングエッジは、1つの共通の工具ホールダ上に固定されている2つのチップから成っている。この場合、2つの標準スローアウェイチップを使用できるならばコスト上特に好ましく、これによって、特別仕様が必要ないので、特に低コストの工具を提供することができる。これは、2つの標準スローアウェイチップを固定した1つのチップホールダによって達成される。この場合、両チップは少なくとも鋭角を成している。両チップは切削工具に次のように固定され、すなわちそれぞれ鋭角のコーナー部を通るそれぞれの対称軸線が互いに接近し合うように固定され、その結果鏡対称な両長手軸線は工具の外側で交わる。その際の交点は、工具の切削作動の場合、工作物の内側にある。この場合、第1のチップによって少なくとも1つの凹部の第1の半部分が旋削され、この第1の半部分は、有利には、切削深さが増すにつれて先細りになっているアンダーカットから成っている。これと同時に第2のチップは、有利には、他のアンダーカットを水平方向にずらして工作物に切削し、その際工具は回転している工作物に対し送り速度で移動し、その結果工作物が整数回回転した後の第2のチップの先端は、工作物の整数回の回転前に第1のチップの先端が少なくとも1つの凹部の第1の半部分を切削した位置に略正確に位置している。第2のチップの先端も工作物にアンダーカットを切削し、その際この第2のアンダーカットも同様に切削深さが増すにつれて先細りになっているが、両チップ軸線が互いに逆方向に接近し合う配向により、第1のアンダーカットとは左右反転して配置されている。両アンダーカットは略正確に互いに重なりあうように延在しているが、互いにわずかにずれているために、両アンダーカットの組み合わせは、深さが増すにつれて先細りになっている両アンダーカットに起因して、深さが増すにつれて幅が増大するような少なくとも1つの凹部を生じさせ、これによってあり溝形状の凹部の横断面プロファイルが生じる。この場合、少なくとも2つのカッティングエッジのうち第1のカッティングエッジが少なくとも1つの凹部の第1の半部分を表面に生成させ、これと同時に少なくとも2つのカッティングエッジのうち第2のカッティングエッジが少なくとも1つの凹部の第2の半部分を表面に生成させると特に有利である。この場合、少なくとも1つの凹部の第2の半部分は少なくとも1つの凹部の第1の半部分を次のように補完し、すなわち少なくとも1つのあり溝状の凹部が生じるように補完する。その際、表面全体に表面を覆うようにしてただ1つのスパイラル状の凹部を備えさせてよい。この凹部はレコードの音溝のように形成され、1回の作業工程で生成させることができる。
【0026】
有利には、切削工具は工作物に1個または複数個のスパイラル状の凹部を生成させる。このため、送り速度を工作物の回転速度に整合させ、1個または複数個のスパイラル状の凹部はレコードのスパイラル状の音溝のように1回の作業工程で生成させる。
【0027】
さらに、切削工具によって生成される凹部が微細構造であるように、特に微細構造が10μmないし1000μmの範囲の深さを有するように、切削工具が構成されているのが有利である。
【0028】
有利には、微細構造がアンダーカット部分を備えたあり溝状の幾何学的形態であることにより、被着される層の付着性が改善される。その際のプロセス時間を短縮するため、適宜幅広の工具を用いて構造全体を1回で生成させるのが有利である。この場合、特にたとえば構造間隔または構造深さの点で一層のフレキシビリティを提供するため、個々の構造を単一工具で連続的に形成することができる。当業者にとっては、本発明の範囲内で多数の組み合わせ、横断面プロファイルの組み合わせがあること、製造プロセスを個々のプロセスに分解できることは明らかである。従来のサンドブラストによる表面活性化に比べて、この方法はその加工性により大量生産に適している。この方法は、サンドブラストに比べて不良品コストが低減されているばかりでなく、工具側または機械側にブラストチップのような重大な摩耗現象が生じないので、コストの点でさらに有利である。鋳造部品に対してこの方法を適用すると、鋳肌の除去のために、或いはブレーキディスクの精密な成形のために、補助的にこの操作を実施できる旋削プロセスを使用するのが通常であるので、更なる利点が得られる。従ってプロセスチェーン全体が簡潔になり、コストの点で更なる利点が生じる。ブレーキディスクの平面に対し微細構造旋削方式を適用することは例示的に説明したものであり、この方法は原理的にはすべての旋削プロセスに適している。また、旋削プロセスの代わりに、非回転面に対してフライス加工、リーマ仕上げ、形削り、または平削りを用いて比肩しうる構造を生成してもよい。
【0029】
特に有利には、所定のアンダーカットを生成するため、ホールダと、可能な限り小さなカッティングエッジ半径をもった2つの標準スローアウェイチップとから成る工具を使用する。これによってあり溝状の微細構造を生成させることが可能になり、該あり溝状の微細構造は同心構造として生成されるのではなく、スパイラル状に延在している。この微細構造は、アンダーカット部分を備えたあり溝状の幾何学的形状により、被着される被膜の付着力を改善させ、この場合標準スローアウェイチップを使用できるので、工具コストが非常に少ないという大きな利点がある。最初にマイクロカッター相互の位置調整をすることだけがコストを高めると見なされる。
【0030】
あり溝状の横断面プロファイルの代わりに、深さが増すとともに横断面プロファイルの幅を増大させるが、詳細には正確なあり溝プロファイルとはずれているような簡単な構造を形成させてもよい。この変形実施態様の利点は、構成が簡潔であること、或いは、2つのスローアウェイチップを設ける必要がないことであるが、生じるアンダーカットの数量が少ないのが欠点である。
【0031】
本発明の他の構成、適用可能性、利点は、図面に図示した本発明のいくつかの実施例に関わる以下の説明から明らかである。なお、説明または図示した構成はすべてそれ自体でまたは任意の組み合わせで本発明の対象を成すものであり、それを要約した特許請求の範囲の記載または特許請求の範囲の従属関係に左右されるものではなく、また説明の言い回し或いは図面の図示に左右されるものではない。
【0032】
次に、本発明のいくつかの実施例を図面を用いて説明する。