特許第6069221号(P6069221)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6069221ポリテトラフルオロエチレン製多孔質樹脂膜、ポリテトラフルオロエチレン製多孔質樹脂膜複合体、及び分離膜エレメント
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6069221
(24)【登録日】2017年1月6日
(45)【発行日】2017年2月1日
(54)【発明の名称】ポリテトラフルオロエチレン製多孔質樹脂膜、ポリテトラフルオロエチレン製多孔質樹脂膜複合体、及び分離膜エレメント
(51)【国際特許分類】
   B01D 71/36 20060101AFI20170123BHJP
   B01D 69/12 20060101ALI20170123BHJP
   B01D 69/02 20060101ALI20170123BHJP
   C08J 9/00 20060101ALI20170123BHJP
【FI】
   B01D71/36
   B01D69/12
   B01D69/02
   C08J9/00 ACEW
【請求項の数】6
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2013-548234(P2013-548234)
(86)(22)【出願日】2012年12月4日
(86)【国際出願番号】JP2012081324
(87)【国際公開番号】WO2013084858
(87)【国際公開日】20130613
【審査請求日】2015年7月17日
(31)【優先権主張番号】特願2011-265669(P2011-265669)
(32)【優先日】2011年12月5日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】599109906
【氏名又は名称】住友電工ファインポリマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078813
【弁理士】
【氏名又は名称】上代 哲司
(74)【代理人】
【識別番号】100094477
【弁理士】
【氏名又は名称】神野 直美
(72)【発明者】
【氏名】林 文弘
(72)【発明者】
【氏名】大矢 彩
(72)【発明者】
【氏名】宇野 敦史
【審査官】 岡田 三恵
(56)【参考文献】
【文献】 特開平03−179038(JP,A)
【文献】 国際公開第1995/029950(WO,A1)
【文献】 特開2009−061363(JP,A)
【文献】 特開2000−079332(JP,A)
【文献】 特開2008−055407(JP,A)
【文献】 特開平03−258532(JP,A)
【文献】 特開平04−031443(JP,A)
【文献】 特開昭62−079806(JP,A)
【文献】 特開2009−179802(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 71/36
B01D 69/02
B01D 69/12
C08J 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
融解熱量が異なる複数種類のポリテトラフルオロエチレンのそれぞれについて、当該ポリテトラフルオロエチレンを主体としたフッ素樹脂を製膜した後、
前記フッ素樹脂の融点以上に加熱することにより焼結して複数種類の無孔質フッ素樹脂膜を作製し、
前記複数種類の無孔質樹脂膜を、その作製に使用したポリテトラフルオロエチレンの融解熱量の大きさの順に重ねて貼り合せた後、
延伸して平均流量孔径が50nm以下である多孔質樹脂膜を作製する
ポリテトラフルオロエチレン製多孔質樹脂膜の製造方法
【請求項2】
複数種類のポリテトラフルオロエチレンの融解熱量の差が10J/g以上である請求項1に記載のポリテトラフルオロエチレン製多孔質樹脂膜の製造方法
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のポリテトラフルオロエチレン製多孔質樹脂膜の製造方法によりポリテトラフルオロエチレン製多孔質樹脂膜を作製し
前記ポリテトラフルオロエチレン製多孔質樹脂膜と多孔質支持体とを貼り合わせる
ポリテトラフルオロエチレン製多孔質樹脂膜複合体の製造方法
【請求項4】
平滑な箔上に、ポリテトラフルオロエチレンを主体とするフッ素樹脂粉末を分散媒中に分散したフッ素樹脂ディスパージョンをキャスティングした後、前記分散媒を乾燥し、さらにフッ素樹脂の融点以上に加熱して焼結し、無孔質フッ素樹脂膜を形成する工程1、
前記無孔質フッ素樹脂膜上に、前記ポリテトラフルオロエチレンより融解熱量が小さいポリテトラフルオロエチレンを主体とするフッ素樹脂粉末を分散媒中に分散したフッ素樹脂ディスパージョンをキャスティングした後、前記分散媒を乾燥し、さらにフッ素樹脂の融点以上に加熱して焼結し、無孔質フッ素樹脂膜を形成する工程2、
必要により工程2を繰返した後、最外層の無孔質フッ素樹脂膜上に、多孔質支持体を貼り合せる工程3、
工程3の後、前記平滑な箔を剥離して多層の無孔質フッ素樹脂膜を有する複合体を得る工程4、及び、
工程4の後、前記複合体を延伸する工程5、
を有するポリテトラフルオロエチレン製多孔質樹脂膜複合体の製造方法。
【請求項5】
前記平滑な箔が、金属箔であることを特徴とする請求項4に記載のポリテトラフルオロエチレン製多孔質樹脂膜複合体の製造方法。
【請求項6】
請求項3に記載のポリテトラフルオロエチレン製多孔質樹脂膜複合体の製造方法によりポリテトラフルオロエチレン製多孔質樹脂膜複合体を作製し、
ポリテトラフルオロエチレン製多孔質樹脂膜複合体を構成するポリテトラフルオロエチレン製多孔質樹脂膜の孔の孔径が大きい側が、流れの上流側となるように前記ポリテトラフルオロエチレン製多孔質樹脂膜複合体を分離膜として配置することを特徴とする分離膜エレメントの製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリテトラフルオロエチレン(以下、「PTFE」と言う。)を主体とするフッ素樹脂からなるPTFE製多孔質膜、及び、その多孔質膜を構成要素とする多孔質の複合体であって、微細粒子の濾過のためのフィルターとして用いられるPTFE製多孔質樹脂膜複合体に関する。本発明は、又、このPTFE製多孔質樹脂膜複合体をフィルターとして用いる分離膜エレメントに関する。
【背景技術】
【0002】
PTFEを主体とするフッ素樹脂からなる膜を延伸することにより、微細で均一な孔径の貫通孔を有し、かつ気孔率も高い多孔質の樹脂膜を製造することができる。又、この樹脂膜は、PTFEを主体とするので耐薬品性、耐熱性に優れる。そこで、このPTFE製多孔質樹脂膜は、微細な粒子を濾過するための濾過膜(フィルター)、特に50nm以下の微細孔径を有する微細濾過膜として用いられている。
【0003】
この濾過膜には、微細で均一な孔径の貫通孔を有することが求められる。さらに、優れたろ過処理効率(ろ過性、処理速度)を得るために、薄いこと、高い気孔率(貫通孔の占める体積の割合)を有すること、機械的強度に優れること、ミクロボイドやクラック等の欠陥がないこと等が望まれている。
【0004】
特許文献1には、PTFE等のフッ素樹脂からなり、ミクロボイドやクラック等の欠陥がない(無孔質の)膜として「平滑なフィルム上に、フッ素樹脂粉末を分散媒中に分散したフッ素樹脂ディスパージョンを塗布した後、該分散媒の乾燥、フッ素樹脂の焼結を行い、前記平滑なフィルムが除去可能に形成されたフッ素樹脂膜、又は前記平滑なフィルムを除去して形成されたフッ素樹脂膜であって、膜厚が20μm以下で、かつ、前記平滑なフィルムを除去した後のガーレー秒が300秒以上であることを特徴とするフッ素樹脂膜」が開示されている。さらに、このフッ素樹脂膜と多孔質の基体とを組合せたフッ素樹脂複合体を延伸することにより、多孔質フッ素樹脂膜を多孔質の基体上に有する多孔質フッ素樹脂膜複合体が得られること、そしてこの多孔質フッ素樹脂膜複合体は、微細で均一な孔径を有するとともに、ミクロボイドやクラック等の欠陥がなくかつ機械的強度等に優れること、この複合体をフィルターとして用いた場合、優れたろ過処理効率(ろ過性、処理速度)が得られることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−40425号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、このような微細孔径50nm以下の多孔質フッ素樹脂膜複合体をフィルターとして用いて濾過を行うと、実際には処理液(濾過処理される液)中の微粒子には、大小様々な微粒子が存在し堆積が生じるため、この微粒子により、複合体を構成する多孔質フッ素樹脂膜の孔の目詰まりが生じ、処理速度が比較的早く低下する問題があった。そこで、このような目詰まりが生じにくいフィルターとして、例えば上流側の孔径は大きく、下流側に向かって孔径が小さくなるような孔径傾斜のある多孔質フッ素樹脂複合体の開発が望まれている。
【0007】
本発明は、耐薬品性、耐熱性、機械的強度に優れるPTFEを主体としたフッ素樹脂製の膜をその構成要素とする多孔質の樹脂膜複合体であって、特に孔径50nm以下の微細で均一な径の貫通孔を有し、かつ優れたろ過処理効率が得られるとともに、フィルターとして使用した場合でも目詰まりが生じにくいPTFE製多孔質樹脂膜複合体、及びこの複合体を構成するPTFE製多孔質樹脂膜、並びにその製造方法を提供することを課題とする。
【0008】
又、濾過における大きな処理速度を得るために、フィルターには高い気孔率が望まれるが、PTFEの膜を延伸して製造される従来のPTFE製多孔質樹脂膜は、その微細孔の孔径が小さい場合は高い気孔率を得ることが困難であった。すなわち、PTFEの膜を延伸して多孔質PTFE膜を製造する場合、気孔率及び孔径は、延伸前に行われるアニールの条件(時間)、PTFEの分子量、延伸の程度等により調整することができるが、これらによる調整では、気孔率を大きくすれば孔径が大きくなる関係にあり、より小さな孔径を有するとともに高い気孔率である多孔質樹脂膜(フィルター)の製造は困難であった。
【0009】
本発明は、PTFEを主体とするフッ素樹脂膜を延伸する方法であって、従来のPTFE製多孔質樹脂膜と比べて、孔径が同じ場合でも気孔率が高いPTFE製多孔質樹脂膜を製造できるPTFE製多孔質樹脂膜複合体の製造方法を提供することも課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、前記課題を解決するために鋭意研究した結果、融解熱量が異なる複数種類のPTFEのそれぞれについて、当該PTFEを主体としたフッ素樹脂を製膜した後、融点以上に加熱・焼結して無孔質樹脂膜を作製し、作製された複数種類の無孔質樹脂膜を、その作製に使用したPTFEの融解熱量の大きさの順に重ねて貼り合せた後、延伸する方法により、その孔の孔径が厚さ方向により異なるPTFE製多孔質樹脂膜が作製できることを見出した。又、この融解熱量が異なるPTFEの無孔質の焼結膜を、複数枚積層した後延伸して多孔質化する方法を採用することにより、層間の孔径の落差を小さくすることができ、孔径が50nm以下の微細でありかつ薄膜であっても、孔径の寸法が厚さ方向に傾斜的に分布している多孔質樹脂膜が作製できることを見出した。そして、微細粒子の濾過のためのフィルターとして、その孔の孔径が厚さ方向により異なるPTFE製多孔質樹脂膜を用い、上流側に比較的大きな孔径を有する面を配置することにより、処理液中の比較的大きな粒子による目詰まりを抑制できることを見出した。
【0011】
本発明者は、さらに、このPTFE製多孔質樹脂膜を多孔質の支持体上に貼り合せてPTFE製多孔質樹脂膜複合体とすることにより、優れた処理速度を有し、目詰まりが生じにくいとともに、機械的強度も優れるフィルターが得られることを見出した。本発明者は、さらに又、この製造方法により、微細な孔径を有しながらも気孔率が高いPTFE製多孔質樹脂膜を作製できることを見出した。すなわち、前記の課題は、以下の各請求項に示す構成からなる発明により達成される。
【0012】
請求項1の発明は、融解熱量が異なる複数種類のPTFEのそれぞれについて、当該PTFEを主体としたフッ素樹脂を製膜した後、融点以上に加熱することにより焼結して複数種類の無孔質樹脂膜を作製し、
前記複数種類の無孔質樹脂膜を、その作製に使用したPTFEの融解熱量の大きさの順に重ねて貼り合せた後、延伸して作製された多孔質樹脂膜であって、
平均流量孔径が50nm以下であることを特徴とするPTFE製多孔質樹脂膜である。
【0013】
ここで、PTFEを主体としたフッ素樹脂とは、PTFE以外のフッ素樹脂が含まれていてもよいが、PTFEが50質量%以上、好ましくは80質量%以上含まれるフッ素樹脂を意味する。この発明のPTFE製多孔質樹脂膜を製造するためには、先ずこのPTFEを主体としたフッ素樹脂からなる薄い膜が作製(製膜)される。この製膜は、フッ素樹脂の粉体を膜状に成形して行うことができる。
【0014】
フッ素樹は、膜状に成形された後、そのフッ素樹脂の融点以上に加熱される。この加熱によりフッ素樹脂の粉体は焼結されて溶融し、無孔質のフッ素樹脂膜が作製される。無孔質フッ素樹脂膜とは、膜を貫通する孔がほとんどない膜を意味するが、具体的には、ガーレー秒が5000秒以上の膜が好ましい。
【0015】
この発明のPTFE製多孔質樹脂膜を製造する場合は、融解熱量が異なる2種類以上のPTFEを用い、それぞれのPTFEについて上記の操作を行い、2種類以上の無孔質のフッ素樹脂膜を作製する。融解熱量は、示差走査熱量計により測定された値である。
【0016】
この発明のPTFE製多孔質樹脂膜を製造する場合は、このようにして得られた複数種類の無孔質フッ素樹脂膜を、その作製に使用したPTFEの融解熱量の大きさの順に重ねて貼り合せる。この貼り合せにより、PTFEの融解熱量が、厚さ方向の一方から他方に向かって増大する、又は減少する、多層の無孔質フッ素樹脂膜が得られる。
【0017】
このようにして得られた多層の無孔質フッ素樹脂膜は、多孔質化するために延伸される。延伸は、一軸延伸、2軸延伸のいずれでもよいが、2軸延伸が好ましい。延伸によりフッ素樹脂膜に孔が形成されるが、延伸の大きさを増大するとともにその孔径が増大し、孔径の大きさを表す平均流量孔径も増大して行く。この延伸は所望の平均流量孔径が得られる程度まで行われる。この発明のPTFE製多孔質樹脂膜は、平均流量孔径が50nm以下であるので、その範囲を超えないように延伸が行われる。
【0018】
延伸の前には、PTFEの融点以上に昇温した後ゆっくりと結晶融点以下へ徐冷する方法、又はPTFEの融点よりもやや低い温度で一定時間加熱する方法により、アニールをすることが好ましい。アニールすることにより、延伸前のフッ素樹脂の結晶化度を飽和させることができ、その結果、高い気孔率が得られ、より孔径の再現性高く製造することが可能となる。アニールは、特開2007−077323号に記載の方法と同様の工程により行うことができる。アニールの進行度合いは融解熱量を測定することで確認することができる。
【0019】
この延伸により形成される孔の径は、PTFEの融解熱量により異なる。すなわちPTFEの融解熱量が大きい程大きな径の孔が形成される。延伸される無孔質フッ素樹脂膜は、融解熱量が厚さ方向の一方から他方に向かって増大する又は減少するように積層されたものなので、延伸後の孔径は、厚さ方向の一方から他方に向かって大きくなる又は小さくなる。又、互いに貼合わされている2層の界面の近傍には、孔径遷移層が形成され、その結果、界面の近傍で孔径の大きな落差が生ぜず、厚さ方向での孔径の変化は連続的、傾斜的になる。
【0020】
このようにして作製されたPTFE製多孔質樹脂膜は、厚さ方向の一方から他方に向かって孔径が連続的に増大又は減少し、かつ平均流量孔径が50nm以下であることを特徴とする。その結果、微細な粒子の濾過のためのフィルターとして用いることができる。そして、フィルターとして用いたとき、多孔質樹脂膜の孔径の大きい側を上流側になるように配置することにより、目詰まりを抑制することができる。又、このPTFE製多孔質樹脂膜は、従来のPTFE製多孔質樹脂膜と比べて、大きな孔を含んでいるので、同じ平均流量孔径の場合により高い気孔率である。
【0021】
ガーレー秒は気孔率、厚み、孔径に連動し、気孔率が高い程ガーレー秒は小さくなる。前記のように、請求項1に記載のPTFE製多孔質樹脂膜は、従来のPTFE製多孔質樹脂膜と比べて、平均流量孔径が同じ場合でもより高い気孔率とすることができるので、平均流量孔径が50nm以下の場合であっても、ガーレー秒70秒以下に相当する高い気孔率とすることができる。
【0022】
請求項2に記載の発明は、複数種類のPTFEの融解熱量の差が10J/g以上であることを特徴とする請求項1に記載のPTFE製多孔質樹脂膜である。複数種類のPTFEの融解熱量の差が大きい程、PTFE製多孔質樹脂膜の厚さ方向の孔径の差を大きくすることができる。その結果、フィルターとして用いたときの目詰まりを抑制する効果を大きくすることができる。又、同じ平均流量孔径の場合により高い気孔率とすることができる。そこで、複数種類のPTFEの融解熱量の差を10J/g以上とすることが好ましい。
【0023】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載のPTFE製多孔質樹脂膜、及びこのPTFE製多孔質樹脂膜と貼り合わされている多孔質支持体からなることを特徴とするPTFE製多孔質樹脂膜複合体である。
【0024】
本発明のPTFE製多孔質樹脂膜は、微細で均一な径の孔を有しかつボイド等の欠陥が少なく、高気孔率であるのでフィルターとして用いた場合、高い処理速度が得られる、目詰まりが生じにくい等の優れた特徴を有する。さらにこれを多孔質支持体に貼り合わすことにより、これらの優れた特徴を有するとともに、機械的強度にも優れたPTFE製多孔質樹脂膜複合体を作製することができる。又、このPTFE製多孔質樹脂膜複合体は、PTFE製多孔質樹脂膜のみの場合と比べて、その使用時や加工する際のハンドリングが容易である。従って、本発明のPTFE製多孔質樹脂膜複合体は、微細粒子を濾過するためのフィルターとして好適に用いられる。
【0025】
本発明のPTFE製多孔質樹脂膜複合体は、
請求項1又は請求項2に記載のPTFE製多孔質樹脂膜を製造する過程の途中で作製される多層のPTFE製無孔質樹脂膜、すなわち融解熱量が異なる複数種類のPTFEのそれぞれについて、当該PTFEを主体としたフッ素樹脂を製膜した後、融点以上に加熱することにより焼結して複数種類の無孔質樹脂膜を作製し、前記複数種類の無孔質樹脂膜を、その作製に使用したPTFEの融解熱量の大きさの順に重ねて貼り合せて作製された多層のPTFE製無孔質樹脂膜を、多孔質支持体に貼り合わして無孔質樹脂膜複合体を作製した後、この無孔質樹脂膜複合体を延伸することにより得られる。延伸により、無孔質樹脂膜複合体を構成する多層のPTFE製無孔質樹脂膜も延伸され、PTFE製多孔質樹脂膜となる。この延伸は、PTFE製の多層の無孔質樹脂膜を多孔質支持体と組合せずそのまま延伸する場合より、はるかにハンドリングが容易である。すなわち、樹脂の薄膜のみでは、延伸する際のハンドリングが困難であるが、多孔質支持体と組合せた複合体とすることによりハンドリングが容易となる。
【0026】
多孔質支持体は、本発明の複合体に機械的強度を付与するものであり、一方複合体がフィルターとして用いられたときに、フィルターとしての特性、例えば処理能力、処理速度等を阻害しないことが望まれる。そこで、多孔質支持体としては、機械的強度や耐薬品性、耐熱性に優れるPTFE製の多孔質体が好ましく用いられ、かつ、その孔径がそれと組合されるPTFE製多孔質樹脂膜の孔径より大きく、又気孔率が高いことが望まれる。具体的には、PTFE膜を延伸して、100nm以上好ましくは200nm以上の孔を形成して製造されたPTFE製多孔質体であって、充分な機械的強度を付与する厚さを有するものが好ましく用いられる。
【0027】
PTFE製の複層の無孔質樹脂膜と多孔質支持体との貼り合せは、融解熱量が小さいPTFEより得られた無孔質樹脂の層が、多孔質の支持体側になるように行う方法が好ましい。ただし、融解熱量が大きいPTFEより得られた無孔質樹脂の層が、多孔質の支持体側になるように行う方法、2枚の多孔質の支持体間にPTFE製の複層の無孔質樹脂膜を挟持して貼り合せる方法、等も採用することができる。貼り合せは、PTFEよりも融点の低い熱可塑性の樹脂、例えば、パーフルオロアルコキシフッ素樹脂(PFA)を接着剤として用いて行ってもよい。
【0028】
請求項4に記載の発明は、
平滑な箔上に、PTFEを主体とするフッ素樹脂粉末を分散媒中に分散したフッ素樹脂ディスパージョンをキャスティングした後、前記分散媒を乾燥し、さらにフッ素樹脂の融点以上に加熱して焼結し、無孔質フッ素樹脂膜を形成する工程1、
前記無孔質フッ素樹脂膜上に、前記PTFEとは融解熱量が異なるPTFEを主体とするフッ素樹脂粉末を分散媒中に分散したフッ素樹脂ディスパージョンをキャスティングした後、前記分散媒を乾燥し、さらにフッ素樹脂の融点以上に加熱して焼結し、無孔質フッ素樹脂膜を形成する工程2、
必要により工程2を繰返した後、最外層の無孔質フッ素樹脂膜上に、多孔質支持体を貼り合せる工程3、
工程3の後、前記平滑な箔を剥離して多層の無孔質フッ素樹脂膜を有する複合体を得る工程4、及び、
工程4の後、前記複合体を延伸する工程5、
を有することを特徴とするPTFE製多孔質樹脂膜複合体の製造方法である。
【0029】
工程1は、平滑な箔上に、フッ素樹脂ディスパージョンをキャスティングした後、乾燥、焼結して、平滑な箔上に貼り合わされた無孔質フッ素樹脂膜を形成する工程である。この方法によれば、無孔質フッ素樹脂膜中のボイド等の欠陥の生成を大きく抑制できる。又、このキャスティング法を用いると、膜は配向がなく等方的で均質となり、延伸において収縮・変形することもなく、均質な多孔質フッ素樹脂膜を得ることができる。
【0030】
工程2は、工程1と同様な操作を、平滑な箔上で行う代わりに、工程1で得られた無孔質フッ素樹脂膜上で行う工程である。ただし、フッ素樹脂ディスパージョンを構成するPTFEは、工程1におけるPTFEとは融解熱量が異なるものである。
【0031】
この工程2は、必要により2回以上繰返される。この場合、それぞれの工程で用いられるPTFEの融解熱量は互いに異なっており、工程1、工程2を繰返す毎に、融解熱量を増大させる、又は減少させるようにして行われる。工程2を行うことにより又は工程2を繰返すことにより、平滑な箔上に複層の無孔質フッ素樹脂膜が形成された積層体が作製される。
【0032】
工程3は、このようにして作製され、平滑な箔上に複層の無孔質フッ素樹脂膜が形成された積層体の最外層の無孔質フッ素樹脂膜上に、多孔質支持体を貼り合せる工程である。多孔質支持体としては、前記のように、PTFEを延伸して作製されたPTFE製多孔質体が好ましく用いられる。この貼り合せは、前記のように、PTFEよりも融点の低い熱可塑性の樹脂、例えば、PFAを接着剤として用いて行ってもよい。
【0033】
このようにして本発明のフッ素樹脂の膜を形成した後、この膜上を覆っている平滑な箔を除去する工程4が行われる。除去の方法は特に限定されないが、平滑な箔が金属箔の場合は、酸等により溶解除去する方法が例示される。
【0034】
平滑な箔の除去により、多孔質支持体上に、互いに融解熱量の異なるPTFEより形成された複層の無孔質樹脂膜を有する複合体(積層体)が得られる。工程5は、この積層体を延伸する工程であり、延伸は前記と同様にして行われる。又、前記のように、延伸前にアニールをすることにより、延伸前のフッ素樹脂の結晶化度を飽和させることができ、その結果、高い気孔率が得られ、より孔径の再現性を高くして製造することが可能となるので好ましい。
【0035】
請求項5に記載の発明は、前記平滑な箔が、金属箔であることを特徴とする請求項4に記載のPTFE製多孔質樹脂膜複合体の製造方法である。平滑な箔としては、柔軟性を有し、膜の形成後、酸等による溶解除去が容易な金属箔が好ましい。金属箔の中でもアルミ箔は、柔軟性及び溶解除去の容易さの点でさらには入手の容易さの点で特に好適である。
【0036】
請求項6に記載の発明は、請求項3に記載のPTFE製多孔質樹脂膜複合体を分離膜として用い、PTFE製多孔質樹脂膜複合体を構成するPTFE製多孔質樹脂膜の孔の孔径の大きい側が上流側となるように、PTFE製多孔質樹脂膜複合体を配置したことを特徴とする分離膜エレメントである。
【0037】
請求項3に記載のPTFE製多孔質樹脂膜複合体は、濾過膜(フィルター)として好適に用いられ、この複合体をフィルターとして用いる分離膜エレメントにより、微細粒子を含む処理液(濾過処理される原水)の濾過を効率よく行うことができる。この複合体を構成するPTFE製多孔質樹脂膜は、互いに融解熱量が異なるPTFEから得られる複層の無孔質樹脂膜を延伸したものであり、PTFE製多孔質樹脂膜の孔の孔径は、膜の厚さ方向で異なったものである。この複合体をフィルターとして使用する場合、孔径が大きい側を、処理液の流れの上流側となるように配置することにより、処理液中の比較的大きな粒子による目詰まりが小さくなり、処理速度の経時的低下を抑制することができるので好ましい。
【発明の効果】
【0038】
本発明のPTFE製多孔質樹脂膜は、耐薬品性、耐熱性、機械的強度に優れるPTFEを主体としたフッ素樹脂製の膜からなり、50nm以下の微細で均一な径の貫通孔を有し、フィルターとして使用した場合でも、目詰まりが生じにくいものである。又、従来のPTFE製多孔質樹脂膜と比べて、孔径が同じ場合でも高い気孔率を有し、従ってろ過処理効率についても優れている。
【0039】
このPTFE製多孔質樹脂膜と多孔質支持体を組合せた本発明のPTFE製多孔質樹脂膜複合体は、上記の優れた特性とともに、優れた機械的強度を有し使用の際のハンドリングも容易である。
【0040】
このようなPTFE製多孔質樹脂膜複合体は、本発明のPTFE製多孔質樹脂膜複合体の製造方法により製造することができる。
【0041】
本発明のPTFE製多孔質樹脂膜複合体を濾過膜(フィルター)として用いた本発明の分離膜エレメントは、50nm程度以下の径の微細な粒子を含有する処理液の濾過に用いられ、高い処理効率が得られ、かつ目詰まりによる処理効率の経時的低下も小さい。
【図面の簡単な説明】
【0042】
図1】比較例1で得られたPTFE製多孔質樹脂膜複合体のSEM写真である。
図2】比較例2で得られたPTFE製多孔質樹脂膜複合体のSEM写真である。
図3】実施例で得られたPTFE製多孔質樹脂膜複合体のSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
次に、本発明を実施するための具体的な形態を説明する。なお、本発明はここに述べる形態に限定されるものではない。
【0044】
本発明のPTFE製多孔質樹脂膜を作製するためには融解熱量が異なる複数種類のPTFEが用いられるが、融解熱量は、PTFEの分子量を調整する方法や、部分的にヘキサフルオロプロピレン(以下HFPと略す)やフルオロアルキルビニルエーテル(以下FVEと略す)等を重合してPTFEに変性を加える方法等によりコントロール可能である。分子量を低くすれば融解熱量は高く、逆に分子量を高くすると融解熱量は低くなり、また変性によっても融解熱量は低くなる。
【0045】
PTFEの分子量の調整は、通常は原料の重合条件の調整によって行うが、特開2007−077323号公報に記載のように原料や成形品に電離放射線を照射して調整してもよい。又、PTFEの変性は通常重合時に行われ、変性を加えることによって融解熱量を下げることができる。
【0046】
原料として用いられるPTFEとしては、融解熱量が17〜60J/gの範囲にあるものから選択することが好ましい。ここで、融解熱量の測定は、熱流束示差走査熱量計(例えば、島津製作所社製熱流束示差走査熱量計DSC−50)を用いて行うことができる。具体的には、次に示すような方法により測定される。
【0047】
サンプル10〜20mgを、室温から245℃まで50℃/分で加熱し、その後10℃/分で365℃まで加熱する(第一ステップ)。次に、350℃まで−10℃/分の速度で冷却し、350℃で5分間保持する。さらに350℃から330℃まで−10℃/分の速度で冷却、330℃から305℃まで−1℃/分の速度で冷却する(第二ステップ)。次に−50℃/分の速度で305℃から245℃まで冷却した後、10℃/分の速度で245℃から365℃まで加熱する(第三ステップ)。なお、サンプリングタイムは0.5秒/回である。第一ステップの吸熱量は303〜353℃の区間、第二ステップの発熱量は318〜309℃の区間、第三ステップの吸熱量は296〜343℃の区間(又は吸熱カーブの終端を基点として47℃の区間)を積分して求めるが、この第三ステップにおける吸熱量を融解熱量とする。
【0048】
PTFEを主体としたフッ素樹脂の製膜は、次に示す方法により行うことができる。
【0049】
(1)テトラフルオロエチレンの乳化重合で製造される粉体(PTFEファインパウダー)に押出助剤を加えた後、シート状、あるいはチューブ状にペースト押出成形し、必要に応じて圧延する方法。この方法により膜(成型品)の厚さを20μm程度まで薄くすることができる。融解熱量の異なる無孔質のPTFE膜が積層された構造を作るためには、このようにして得られた2種以上の膜(成型品)を積層し融点以上に加熱して一体化する方法、2種以上の膜(成型品)を一体化してペースト押出できる成形機を用いる方法等を採用することができる。
【0050】
(2)テトラフルオロエチレンの懸濁重合で製造される粉体(PTFEモールディングパウダー)を圧縮成型により円筒状に成形した後、融点以上にし、回転させながら切削によって20μm程度の薄いフィルムを作製する方法。融解熱量の異なる無孔質のPTFE膜が積層された構造を作るためには、このようにして得られた2種以上の膜(成型品)を積層し融点以上に加熱して一体化する方法等を採用することができる。
【0051】
(3)テトラフルオロエチレンの乳化重合等により製造される融解熱量の異なるPTFEディスパージョンを用い、請求項4に記載の方法により、融解熱量の異なる無孔質のPTFE膜が積層された構造の複数層からなる膜を作製することができる。この方法として、特許4371176号に記載の方法を利用すれば、各層の厚さを5μm以下とすることができ、濾過膜として用いた場合、濾過速度、処理効率をより高くすることができるので好ましい。
【0052】
請求項4に記載の方法で用いられるフッ素樹脂ディスパージョンとは、PTFEを主体とするフッ素樹脂粉末を分散媒中に分散したものであり、前記のように、テトラフルオロエチレンの乳化重合により製造することができる。PTFEとともに分散媒中に分散してもよいフッ素樹脂としては、PFA等の熱可塑性フッ素樹脂粉末等を挙げることができる。
【0053】
分散媒としては、通常、水等の水性媒体が用いられる。フッ素樹脂ディスパージョン中のフッ素樹脂粉末の含有量は、20〜70重量%の範囲が好ましい。フッ素樹脂ディスパージョン中に、さらにノニオン性で分子量が1万以上の水溶性ポリマーを含有する場合、これらはフッ素樹脂ディスパージョンの分散に影響しないとともに水分乾燥時にゲル化して膜を形成し欠陥がさらに少ないフッ素樹脂薄膜が得られるので好ましい。ノニオン性で分子量が1万以上の水溶性ポリマーとしては、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルアルコール等を挙げることができる。
【0054】
フッ素樹脂ディスパージョンに用いるPTFEの分子量としては50万〜2000万であることが好ましく、50万〜1000万であればより好ましく、50万〜500万であればさらに好ましい。分子量が高すぎると気孔率が低下する傾向があり、分子量が低すぎると、ピンホールを生じる、延伸時に破れ易くなる等の傾向がある。
【0055】
請求項4に記載の方法で用いられる平滑な箔とは、フッ素樹脂ディスパージョンと接する側の表面に孔や凹凸が観測されない平滑なフィルムである。平滑な箔の厚さの範囲は特に限定されないが、基体上に塗布したフッ素樹脂ディスパージョン上に気泡が入らないように被せる操作が容易に行われるような柔軟性を有する厚さが望ましく、又、膜の形成後、平滑な箔の除去を行う場合は、除去が困難とならない厚さが望ましい。例えば、平滑な箔を溶解除去する場合は、容易に溶解除去される厚さが望まれる。
【0056】
請求項4に記載の方法におけるキャスティングの方法としては、平滑な箔上にフッ素樹脂ディスパージョンを単にコーティングする方法等が挙げられる。キャスティングの後、分散媒の乾燥が行われる。乾燥は、分散媒の沸点に近い温度又は沸点以上に加熱することにより行うことができる。乾燥によりPTFEを主体とするフッ素樹脂粉末からなる皮膜が形成されるが、この皮膜をフッ素樹脂の融点以上に加熱して焼結することにより無孔質のフッ素樹脂膜を得ることができる。乾燥と焼結の加熱を同一工程で行ってもよい。
【0057】
多層の無孔質フッ素樹脂膜を有する複合体の延伸は、従来の延伸PTFEを作製するときに用いられた装置を使用し、同様な条件で行うことができる。延伸温度は、フッ素樹脂の融点よりも低い200℃以下が好ましく、160℃以下であればより好ましく、100℃以下であればさらに好ましい。フッ素樹脂膜の形成に、キャスティング法を用いると、膜は配向がなく等方的で均質となり、延伸において収縮・変形することもなく、均質な多孔質フッ素樹脂膜を得ることができる。
【実施例】
【0058】
先ず、実施例、比較例における融解熱量、透気度(ガーレー秒)及び平均流量径の測定方法について述べる。
【0059】
[融解熱量の測定方法]
熱流束示差走査熱量計(島津製作所社製;熱流束示差走査熱量計DSC−50)を用い、以下に示す方法により行われる。
【0060】
サンプル10〜20mgを、室温から245℃まで50℃/分で加熱し、その後10℃/分で365℃まで加熱する(第一ステップ)。次に、350℃まで−10℃/分の速度で冷却し、350℃で5分間保持する。さらに350℃から330℃まで−10℃/分の速度で冷却、330℃から305℃まで−1℃/分の速度で冷却する(第二ステップ)。次に−50℃/分の速度で305℃から245℃まで冷却した後、10℃/分の速度で245℃から365℃まで加熱する(第三ステップ)。なお、サンプリングタイムは0.5秒/回である。第一ステップの吸熱量は303〜353℃の区間、第二ステップの発熱量は318〜309℃の区間、第三ステップの吸熱量は296〜343℃の区間(又は吸熱カーブの終端を基点として47℃の区間)を積分して求め、この第三ステップにおける吸熱量を融解熱量とする。
【0061】
[透気度(ガーレー秒)の測定方法]
JIS P 8117(紙及び板紙の透気度試験方法)に規定のガーレー透気度試験機と同一構造の王研式透気度測定装置(旭精工社製)を用いて測定した。測定結果は、ガーレー秒で表す。
【0062】
[平均流量径の測定方法]
細孔分布測定器(パームポロメータ CFP−1500A:Porous Materials,Inc社製)により、液体として、GALWICK(プロピレン,1,1,2,3,3,3酸化ヘキサフッ酸;Porous Materials,Inc社製)を用いて測定した。具体的には、次のようにして求められる。先ず、膜に加えられる差圧と膜を透過する空気流量との関係を、膜が乾燥している場合と膜が液体で濡れている場合について測定し、得られたグラフをそれぞれ乾き曲線及び濡れ曲線とする。乾き曲線の流量を1/2とした曲線と、濡れ曲線との交点における差圧をP(Pa)とする。次の式により、平均流量径を求める。
平均流量径d(μm)=cγ/P
ここで、cは定数で2860であり、γは液体の表面張力(dynes/cm)である。
【0063】
比較例1
[ディスパージョン1の調整]
融解熱量が54J/gのPTFEディスパージョン34JR(三井デュポンフロロケミカル社製)、MFAラテックス(低融点のPFAのラテックス;固形分55質量%;ソルベイソレクシス社製)及びPFAディスパージョン920HP(固形分60質量%;三井デュポンフロロケミカル社製)を用いて、MFA/(PTFE+MFA+PFA)(体積比)及びPFA/(PTFE+MFA+PFA)(体積比)が各2%であるフッ素樹脂ディスパージョンを調整し、さらに分子量200万のポリエチレンオキサイドを濃度3mg/ml、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステルトリエタノールアミン(スライドシャフトと箔との摩擦によるスクラッチキズを防止するための減摩剤;花王社製、20T)を10mg/mlとなるように添加してフッ素樹脂ディスパージョン1を調整した。
【0064】
[試験体の作製]
厚さ50μmのアルミ箔をガラス平板の上に皺がないように広げて固定し、フッ素樹脂ディスパージョン1を滴下した後、日本ベアリング社製のステンレス鋼製のスライドシャフト(商品名:ステンレスファインシャフトSNSF型、外径20mm)を滑らすようにしてフッ素樹脂ディスパージョン1をアルミ箔一面に均一になるように伸ばした(キャスティング)。
【0065】
この箔を、80℃で1時間乾燥、250℃で1時間加熱、340℃で1時間加熱の順で各工程を経た後、自然冷却し、アルミ箔上に固定されたフッ素樹脂膜(PTFEを主体とする無孔質フッ素樹脂膜)を形成させた。フッ素樹脂膜が形成される前後のアルミ箔の単位面積当たりの重量差とフッ素樹脂の真比重(2.25g/cm)より算出したフッ素樹脂膜の平均厚さは約3μmであった。
【0066】
次に、PFAディスパージョン920HPを蒸留水で4倍の容積に薄めたPFAディスパージョンに、さらに分子量200万のポリエチレンオキサイドを濃度3mg/ml、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステルトリエタノールアミン(花王社製20T)を10mg/mlとなるように添加し、4倍希釈のPFAディスパージョンAを調整した。
【0067】
アルミ箔上に固定されたフッ素樹脂膜をガラス平板の上に皺がないように広げて固定し、PFAディスパージョンAを滴下した後、前記と同じ日本ベアリング社製のステンレス鋼製のスライドシャフトを滑らすようにしてPFAディスパージョンAをアルミ箔一面に均一になるように伸ばしながら、水分が乾燥しない間に、孔径0.45μm、厚さ80μmの延伸PTFE多孔質体(住友電工ファインポリマー社製;商品名:ボアフロンFP−045−80)(IPA−BP:150kPa、気孔率:70%、ガーレー秒:9.1秒)を被せた。
【0068】
その後、80℃で1時間乾燥、250℃で1時間加熱、320℃で1時間加熱、317.5℃で12時間加熱の各工程(アニール工程)をこの順序で経た後、自然冷却して、延伸PTFE多孔質体上に、PTFEよりも融点の低い熱可塑性のPFAにより、PTFEを主体とする無孔質フッ素樹脂膜が接着され、さらにその上にアルミ箔が固定された複合体を得た。次いで、アルミ箔を塩酸によって溶解除去して、試験体1(無孔質PTFE膜の積層体)を得た。
【0069】
この試験体1のガーレー秒は5000秒以上でPTFE膜側から室温でエタノールを接触させてみたが浸透するような穴はなく、この試験体1は、エタノールが浸透しない無孔質PTFE膜(PTFEを主体とする無孔質フッ素樹脂膜)を含む積層体であることが示された。
【0070】
[延伸]
次に、この試験体1を、引張試験機を用いて温度60℃、チャック間55mm、ストローク165mm(延伸率200%)で幅方向に延伸した後、さらに同じ引張試験機で温度25℃、チャック間55mm、ストローク88mm(延伸率60%)で幅方向と直交する方向へ延伸しPTFE製多孔質樹脂膜複合体1を得た。このPTFE製多孔質樹脂膜複合体1のガーレー秒は18秒であった。平均流量孔径は0.061μmであった。得られたPTFE製多孔質樹脂膜複合体1の断面のSEM写真を図1に示す。図1(a)は1万倍のSEM写真であり、図中、11はPTFE製多孔質樹脂膜であり、12は多孔質支持体である。又、図1(b)は、PTFE製多孔質樹脂膜11の断面の3万倍のSEM写真である。
【0071】
比較例2
[ディスパージョン2の調整]
融解熱量が36J/gの変性PTFEディスパージョン(FT−IRで−CFの吸収有り:HFP変性タイプ)、MFAラテックス及びPFAディスパージョン920HPとを用いて、MFA/(PTFE+MFA+PFA)(体積比)及びPFA/(PTFE+MFA+PFA)(体積比)が各2%であるフッ素樹脂ディスパージョンを調整し、さらに分子量200万のポリエチレンオキサイドを濃度3mg/ml、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステルトリエタノールアミン(花王社製、20T)を10mg/mlとなるように添加してフッ素樹脂ディスパージョン2を調整した。
【0072】
[試験体の作製]
厚さ50μmのアルミ箔をガラス平板の上に皺がないように広げて固定し、フッ素樹脂ディスパージョン2を滴下した後、日本ベアリング社製のステンレス鋼製のスライドシャフト(商品名:ステンレスファインシャフトSNSF型、外径20mm)を滑らすようにしてフッ素樹脂ディスパージョン2をアルミ箔一面に均一になるように伸ばした。
【0073】
この箔を、80℃で1時間乾燥、250℃で1時間加熱、340℃で1時間加熱の各工程をこの順で経た後、自然冷却し、アルミ箔上に固定されたフッ素樹脂膜(PTFEを主体とする無孔質フッ素樹脂膜)を形成させた。フッ素樹脂膜が形成される前後のアルミ箔の単位面積当たりの重量差とフッ素樹脂の真比重(2.25g/cm)より算出したフッ素樹脂膜の平均厚さは約3μmであった。
【0074】
アルミ箔上に固定されたフッ素樹脂膜をガラス平板の上に皺がないように広げて固定し、比較例1の場合と同様にして調整された4倍希釈のPFAディスパージョンAを滴下した。その後、前記と同じ日本ベアリング社製のステンレス鋼製のスライドシャフトを滑らすようにしてPFAディスパージョンAをアルミ箔一面に均一になるように伸ばしながら、水分が乾燥しない間に、孔径0.45μm、厚さ80μmの延伸PTFE多孔質体(住友電工ファインポリマー社製、商品名:ボアフロンFP−045−80)(IPA−BP:150kPa、気孔率:70%、ガーレー秒:9.1秒)を被せた。その後、80℃で1時間乾燥、250℃で1時間加熱、320℃で1時間加熱、317.5℃で12時間加熱の各工程をこの順で経た後、自然冷却して、延伸PTFE多孔質体上に、PTFEよりも融点の低い熱可塑性のPFAにより、PTFEを主体とする無孔質フッ素樹脂膜が接着され、さらにその上にアルミ箔が固定された複合体を得た。次いで、アルミ箔を塩酸によって溶解除去して、試験体2(無孔質PTFE膜の積層体)を得た。
【0075】
この試験体2のガーレー秒は5000秒以上でPTFE膜側から室温でイソプロパノールを接触させてみたが浸透するような穴はなく、この試験体は、イソプロパノールが浸透しない無孔質PTFE膜(PTFEを主体とする無孔質フッ素樹脂膜)を含む積層体であることが示された。
【0076】
[延伸]
次に、この試験体2を、比較例1と同じ条件で、幅方向及び幅方向と直交する方向へ延伸しPTFE製多孔質樹脂膜複合体2を得た。このPTFE製多孔質樹脂膜複合体2のガーレー秒は80秒であった。平均流量孔径は0.028μmであった。得られたPTFE製多孔質樹脂膜複合体2の断面のSEM写真を図2に示す。図2(a)は1万倍のSEM写真であり、図中、21はPTFE製多孔質樹脂膜であり、22は多孔質支持体である。又、図2(b)は、のPTFE製多孔質樹脂膜21の断面の3万倍のSEM写真である。
【0077】
実施例
[試験体の作製]
厚さ50μmのアルミ箔をガラス平板の上に皺がないように広げて固定し、比較例1と同じフッ素樹脂ディスパージョン1の調整品を滴下した後、日本ベアリング社製のステンレス鋼製のスライドシャフト(商品名:ステンレスファインシャフトSNSF型、外径20mm)を滑らすようにしてフッ素樹脂ディスパージョン1をアルミ箔一面に均一になるように伸ばした。
【0078】
この箔を、80℃で1時間乾燥、250℃で1時間加熱、340℃で1時間加熱の各工程を経た後、自然冷却し、アルミ箔上に固定されたフッ素樹脂膜(PTFEを主体とする無孔質フッ素樹脂膜)を形成させた。フッ素樹脂膜が形成される前後のアルミ箔の単位面積当たりの重量差とフッ素樹脂の真比重(2.25g/cm)より算出したフッ素樹脂膜の平均厚さは約3μmであった。
【0079】
アルミ箔上に固定されたフッ素樹脂膜をガラス平板の上に皺がないように広げて固定し、比較例2と同じフッ素樹脂ディスパージョン2の調整品を滴下した後、日本ベアリング社製のステンレス鋼製のスライドシャフト(商品名:ステンレスファインシャフトSNSF型、外径20mm)を滑らすようにしてフッ素樹脂ディスパージョン2をアルミ箔一面に均一になるように伸ばした。
【0080】
この箔を、80℃で1時間乾燥、250℃で1時間加熱、340℃で1時間加熱の各工程を経た後、自然冷却し、アルミ箔上に固定されたフッ素樹脂膜(PTFEを主体とする無孔質フッ素樹脂膜)を形成させた。フッ素樹脂膜が形成される前後のアルミ箔の単位面積当たりの重量差とフッ素樹脂の真比重(2.25g/cm)より算出したフッ素樹脂膜の平均厚さは約6μmであった。
【0081】
アルミ箔上に固定されたフッ素樹脂膜をガラス平板の上に皺がないように広げて固定し、比較例1の場合と同様にして調整された4倍希釈のPFAディスパージョンAを滴下した。その後、前記と同じ日本ベアリング社製のステンレス鋼製のスライドシャフトを滑らすようにしてPFAディスパージョンAをアルミ箔一面に均一になるように伸ばしながら、水分が乾燥しない間に、孔径0.45μm、厚さ80μmの延伸PTFE多孔質体(住友電工ファインポリマー社製、商品名:ボアフロンFP−045−80)を被せた。その後、80℃で1時間乾燥、250℃で1時間加熱、320℃で1時間加熱、317.5℃で12時間加熱の各工程をこの順で経た後、自然冷却して、延伸PTFE多孔質体上に、PTFEよりも融点の低い熱可塑性のPFAにより、PTFEを主体とする無孔質フッ素樹脂膜が接着され、さらにその上にアルミ箔が固定された複合体を得た。次いで、アルミ箔を塩酸によって溶解除去して、試験体3(無孔質PTFE膜の積層体)を得た。
【0082】
この試験体3のガーレー秒は5000秒以上でPTFE膜側から室温でエタノールを接触させてみたが浸透するような穴はなく、この試験体3は、エタノールが浸透しない無孔質PTFE膜(PTFEを主体とする無孔質フッ素樹脂膜)を含む積層体であることが示された。
【0083】
[延伸]
次に、この試験体3を、比較例1と同じ条件で、幅方向及び幅方向と直交する方向へ延伸しPTFE製多孔質樹脂膜複合体3を得た。このPTFE製多孔質樹脂膜複合体3のガーレー秒は55秒であった。平均流量孔径は0.030μmであった。得られたPTFE製多孔質樹脂膜複合体3の断面のSEM写真を図3に示す。図3(a)は1万倍のSEM写真であり、図中、31はPTFE製多孔質樹脂膜であり、32は多孔質支持体である。又、図3(b)は、PTFE製多孔質樹脂膜31の断面の3万倍のSEM写真である。図中、33は大孔径層、34は孔径遷移層、35は小孔径層である。図3より明らかなように、多孔質支持体32側より、小孔径層35、孔径遷移層34、大孔径層33の順で形成されており、孔径が厚さ方向に連続的に増大している。
【0084】
比較例1と2の結果から、結晶化条件(アニール)と延伸条件を全く同一とした場合であっても、融解熱量が低いPTFEから得られたPTFE製多孔質樹脂膜(複合体)は孔径(平均流量孔径)が小さく、融解熱量が大きいPTFEから得られたPTFE製多孔質樹脂膜(複合体)は孔径(平均流量孔径)が大きくなることが示された。
【0085】
実施例では、比較例1と同条件で形成されたPTFE製多孔質樹脂膜と比較例2と同条件で形成されたPTFE製多孔質樹脂膜が貼り合わされているので、多孔質樹脂膜の厚さ方向で、孔径(平均流量孔径)が異なる(複層の)多孔質樹脂膜が、延伸PTFE多孔質体(多孔質支持体)上に形成されている。実施例で得られたPTFE製多孔質樹脂膜複合体の孔径(平均流量孔径)は、比較例1の場合よりはるかに小さく比較例2とほぼ同等であるが、比較例2よりも透気度(ガーレー秒)ははるかに小さい。すなわち、本発明のPTFE製多孔質樹脂膜複合体は、孔径(平均流量孔径)が従来の多孔質樹脂膜複合体と同等であっても、ガーレー秒が小さく、高い気孔率そして優れた処理効率が得られることが示されている。
【符号の説明】
【0086】
11、21、31 PTFE製多孔質樹脂膜
12、22、32 多孔質支持体
33 大孔径層
34 孔径遷移層
35 小孔径層
図1
図2
図3