【実施例】
【0058】
先ず、実施例、比較例における融解熱量、透気度(ガーレー秒)及び平均流量径の測定方法について述べる。
【0059】
[融解熱量の測定方法]
熱流束示差走査熱量計(島津製作所社製;熱流束示差走査熱量計DSC−50)を用い、以下に示す方法により行われる。
【0060】
サンプル10〜20mgを、室温から245℃まで50℃/分で加熱し、その後10℃/分で365℃まで加熱する(第一ステップ)。次に、350℃まで−10℃/分の速度で冷却し、350℃で5分間保持する。さらに350℃から330℃まで−10℃/分の速度で冷却、330℃から305℃まで−1℃/分の速度で冷却する(第二ステップ)。次に−50℃/分の速度で305℃から245℃まで冷却した後、10℃/分の速度で245℃から365℃まで加熱する(第三ステップ)。なお、サンプリングタイムは0.5秒/回である。第一ステップの吸熱量は303〜353℃の区間、第二ステップの発熱量は318〜309℃の区間、第三ステップの吸熱量は296〜343℃の区間(又は吸熱カーブの終端を基点として47℃の区間)を積分して求め、この第三ステップにおける吸熱量を融解熱量とする。
【0061】
[透気度(ガーレー秒)の測定方法]
JIS P 8117(紙及び板紙の透気度試験方法)に規定のガーレー透気度試験機と同一構造の王研式透気度測定装置(旭精工社製)を用いて測定した。測定結果は、ガーレー秒で表す。
【0062】
[平均流量径の測定方法]
細孔分布測定器(パームポロメータ CFP−1500A:Porous Materials,Inc社製)により、液体として、GALWICK(プロピレン,1,1,2,3,3,3酸化ヘキサフッ酸;Porous Materials,Inc社製)を用いて測定した。具体的には、次のようにして求められる。先ず、膜に加えられる差圧と膜を透過する空気流量との関係を、膜が乾燥している場合と膜が液体で濡れている場合について測定し、得られたグラフをそれぞれ乾き曲線及び濡れ曲線とする。乾き曲線の流量を1/2とした曲線と、濡れ曲線との交点における差圧をP(Pa)とする。次の式により、平均流量径を求める。
平均流量径d(μm)=cγ/P
ここで、cは定数で2860であり、γは液体の表面張力(dynes/cm)である。
【0063】
比較例1
[ディスパージョン1の調整]
融解熱量が54J/gのPTFEディスパージョン34JR(三井デュポンフロロケミカル社製)、MFAラテックス(低融点のPFAのラテックス;固形分55質量%;ソルベイソレクシス社製)及びPFAディスパージョン920HP(固形分60質量%;三井デュポンフロロケミカル社製)を用いて、MFA/(PTFE+MFA+PFA)(体積比)及びPFA/(PTFE+MFA+PFA)(体積比)が各2%であるフッ素樹脂ディスパージョンを調整し、さらに分子量200万のポリエチレンオキサイドを濃度3mg/ml、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステルトリエタノールアミン(スライドシャフトと箔との摩擦によるスクラッチキズを防止するための減摩剤;花王社製、20T)を10mg/mlとなるように添加してフッ素樹脂ディスパージョン1を調整した。
【0064】
[試験体の作製]
厚さ50μmのアルミ箔をガラス平板の上に皺がないように広げて固定し、フッ素樹脂ディスパージョン1を滴下した後、日本ベアリング社製のステンレス鋼製のスライドシャフト(商品名:ステンレスファインシャフトSNSF型、外径20mm)を滑らすようにしてフッ素樹脂ディスパージョン1をアルミ箔一面に均一になるように伸ばした(キャスティング)。
【0065】
この箔を、80℃で1時間乾燥、250℃で1時間加熱、340℃で1時間加熱の順で各工程を経た後、自然冷却し、アルミ箔上に固定されたフッ素樹脂膜(PTFEを主体とする無孔質フッ素樹脂膜)を形成させた。フッ素樹脂膜が形成される前後のアルミ箔の単位面積当たりの重量差とフッ素樹脂の真比重(2.25g/cm
3)より算出したフッ素樹脂膜の平均厚さは約3μmであった。
【0066】
次に、PFAディスパージョン920HPを蒸留水で4倍の容積に薄めたPFAディスパージョンに、さらに分子量200万のポリエチレンオキサイドを濃度3mg/ml、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステルトリエタノールアミン(花王社製20T)を10mg/mlとなるように添加し、4倍希釈のPFAディスパージョンAを調整した。
【0067】
アルミ箔上に固定されたフッ素樹脂膜をガラス平板の上に皺がないように広げて固定し、PFAディスパージョンAを滴下した後、前記と同じ日本ベアリング社製のステンレス鋼製のスライドシャフトを滑らすようにしてPFAディスパージョンAをアルミ箔一面に均一になるように伸ばしながら、水分が乾燥しない間に、孔径0.45μm、厚さ80μmの延伸PTFE多孔質体(住友電工ファインポリマー社製;商品名:ボアフロンFP−045−80)(IPA−BP:150kPa、気孔率:70%、ガーレー秒:9.1秒)を被せた。
【0068】
その後、80℃で1時間乾燥、250℃で1時間加熱、320℃で1時間加熱、317.5℃で12時間加熱の各工程(アニール工程)をこの順序で経た後、自然冷却して、延伸PTFE多孔質体上に、PTFEよりも融点の低い熱可塑性のPFAにより、PTFEを主体とする無孔質フッ素樹脂膜が接着され、さらにその上にアルミ箔が固定された複合体を得た。次いで、アルミ箔を塩酸によって溶解除去して、試験体1(無孔質PTFE膜の積層体)を得た。
【0069】
この試験体1のガーレー秒は5000秒以上でPTFE膜側から室温でエタノールを接触させてみたが浸透するような穴はなく、この試験体1は、エタノールが浸透しない無孔質PTFE膜(PTFEを主体とする無孔質フッ素樹脂膜)を含む積層体であることが示された。
【0070】
[延伸]
次に、この試験体1を、引張試験機を用いて温度60℃、チャック間55mm、ストローク165mm(延伸率200%)で幅方向に延伸した後、さらに同じ引張試験機で温度25℃、チャック間55mm、ストローク88mm(延伸率60%)で幅方向と直交する方向へ延伸しPTFE製多孔質樹脂膜複合体1を得た。このPTFE製多孔質樹脂膜複合体1のガーレー秒は18秒であった。平均流量孔径は0.061μmであった。得られたPTFE製多孔質樹脂膜複合体1の断面のSEM写真を
図1に示す。
図1(a)は1万倍のSEM写真であり、図中、11はPTFE製多孔質樹脂膜であり、12は多孔質支持体である。又、
図1(b)は、PTFE製多孔質樹脂膜11の断面の3万倍のSEM写真である。
【0071】
比較例2
[ディスパージョン2の調整]
融解熱量が36J/gの変性PTFEディスパージョン(FT−IRで−CF
3の吸収有り:HFP変性タイプ)、MFAラテックス及びPFAディスパージョン920HPとを用いて、MFA/(PTFE+MFA+PFA)(体積比)及びPFA/(PTFE+MFA+PFA)(体積比)が各2%であるフッ素樹脂ディスパージョンを調整し、さらに分子量200万のポリエチレンオキサイドを濃度3mg/ml、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステルトリエタノールアミン(花王社製、20T)を10mg/mlとなるように添加してフッ素樹脂ディスパージョン2を調整した。
【0072】
[試験体の作製]
厚さ50μmのアルミ箔をガラス平板の上に皺がないように広げて固定し、フッ素樹脂ディスパージョン2を滴下した後、日本ベアリング社製のステンレス鋼製のスライドシャフト(商品名:ステンレスファインシャフトSNSF型、外径20mm)を滑らすようにしてフッ素樹脂ディスパージョン2をアルミ箔一面に均一になるように伸ばした。
【0073】
この箔を、80℃で1時間乾燥、250℃で1時間加熱、340℃で1時間加熱の各工程をこの順で経た後、自然冷却し、アルミ箔上に固定されたフッ素樹脂膜(PTFEを主体とする無孔質フッ素樹脂膜)を形成させた。フッ素樹脂膜が形成される前後のアルミ箔の単位面積当たりの重量差とフッ素樹脂の真比重(2.25g/cm
3)より算出したフッ素樹脂膜の平均厚さは約3μmであった。
【0074】
アルミ箔上に固定されたフッ素樹脂膜をガラス平板の上に皺がないように広げて固定し、比較例1の場合と同様にして調整された4倍希釈のPFAディスパージョンAを滴下した。その後、前記と同じ日本ベアリング社製のステンレス鋼製のスライドシャフトを滑らすようにしてPFAディスパージョンAをアルミ箔一面に均一になるように伸ばしながら、水分が乾燥しない間に、孔径0.45μm、厚さ80μmの延伸PTFE多孔質体(住友電工ファインポリマー社製、商品名:ボアフロンFP−045−80)(IPA−BP:150kPa、気孔率:70%、ガーレー秒:9.1秒)を被せた。その後、80℃で1時間乾燥、250℃で1時間加熱、320℃で1時間加熱、317.5℃で12時間加熱の各工程をこの順で経た後、自然冷却して、延伸PTFE多孔質体上に、PTFEよりも融点の低い熱可塑性のPFAにより、PTFEを主体とする無孔質フッ素樹脂膜が接着され、さらにその上にアルミ箔が固定された複合体を得た。次いで、アルミ箔を塩酸によって溶解除去して、試験体2(無孔質PTFE膜の積層体)を得た。
【0075】
この試験体2のガーレー秒は5000秒以上でPTFE膜側から室温でイソプロパノールを接触させてみたが浸透するような穴はなく、この試験体は、イソプロパノールが浸透しない無孔質PTFE膜(PTFEを主体とする無孔質フッ素樹脂膜)を含む積層体であることが示された。
【0076】
[延伸]
次に、この試験体2を、比較例1と同じ条件で、幅方向及び幅方向と直交する方向へ延伸しPTFE製多孔質樹脂膜複合体2を得た。このPTFE製多孔質樹脂膜複合体2のガーレー秒は80秒であった。平均流量孔径は0.028μmであった。得られたPTFE製多孔質樹脂膜複合体2の断面のSEM写真を
図2に示す。
図2(a)は1万倍のSEM写真であり、図中、21はPTFE製多孔質樹脂膜であり、22は多孔質支持体である。又、
図2(b)は、のPTFE製多孔質樹脂膜21の断面の3万倍のSEM写真である。
【0077】
実施例
[試験体の作製]
厚さ50μmのアルミ箔をガラス平板の上に皺がないように広げて固定し、比較例1と同じフッ素樹脂ディスパージョン1の調整品を滴下した後、日本ベアリング社製のステンレス鋼製のスライドシャフト(商品名:ステンレスファインシャフトSNSF型、外径20mm)を滑らすようにしてフッ素樹脂ディスパージョン1をアルミ箔一面に均一になるように伸ばした。
【0078】
この箔を、80℃で1時間乾燥、250℃で1時間加熱、340℃で1時間加熱の各工程を経た後、自然冷却し、アルミ箔上に固定されたフッ素樹脂膜(PTFEを主体とする無孔質フッ素樹脂膜)を形成させた。フッ素樹脂膜が形成される前後のアルミ箔の単位面積当たりの重量差とフッ素樹脂の真比重(2.25g/cm
3)より算出したフッ素樹脂膜の平均厚さは約3μmであった。
【0079】
アルミ箔上に固定されたフッ素樹脂膜をガラス平板の上に皺がないように広げて固定し、比較例2と同じフッ素樹脂ディスパージョン2の調整品を滴下した後、日本ベアリング社製のステンレス鋼製のスライドシャフト(商品名:ステンレスファインシャフトSNSF型、外径20mm)を滑らすようにしてフッ素樹脂ディスパージョン2をアルミ箔一面に均一になるように伸ばした。
【0080】
この箔を、80℃で1時間乾燥、250℃で1時間加熱、340℃で1時間加熱の各工程を経た後、自然冷却し、アルミ箔上に固定されたフッ素樹脂膜(PTFEを主体とする無孔質フッ素樹脂膜)を形成させた。フッ素樹脂膜が形成される前後のアルミ箔の単位面積当たりの重量差とフッ素樹脂の真比重(2.25g/cm
3)より算出したフッ素樹脂膜の平均厚さは約6μmであった。
【0081】
アルミ箔上に固定されたフッ素樹脂膜をガラス平板の上に皺がないように広げて固定し、比較例1の場合と同様にして調整された4倍希釈のPFAディスパージョンAを滴下した。その後、前記と同じ日本ベアリング社製のステンレス鋼製のスライドシャフトを滑らすようにしてPFAディスパージョンAをアルミ箔一面に均一になるように伸ばしながら、水分が乾燥しない間に、孔径0.45μm、厚さ80μmの延伸PTFE多孔質体(住友電工ファインポリマー社製、商品名:ボアフロンFP−045−80)を被せた。その後、80℃で1時間乾燥、250℃で1時間加熱、320℃で1時間加熱、317.5℃で12時間加熱の各工程をこの順で経た後、自然冷却して、延伸PTFE多孔質体上に、PTFEよりも融点の低い熱可塑性のPFAにより、PTFEを主体とする無孔質フッ素樹脂膜が接着され、さらにその上にアルミ箔が固定された複合体を得た。次いで、アルミ箔を塩酸によって溶解除去して、試験体3(無孔質PTFE膜の積層体)を得た。
【0082】
この試験体3のガーレー秒は5000秒以上でPTFE膜側から室温でエタノールを接触させてみたが浸透するような穴はなく、この試験体3は、エタノールが浸透しない無孔質PTFE膜(PTFEを主体とする無孔質フッ素樹脂膜)を含む積層体であることが示された。
【0083】
[延伸]
次に、この試験体3を、比較例1と同じ条件で、幅方向及び幅方向と直交する方向へ延伸しPTFE製多孔質樹脂膜複合体3を得た。このPTFE製多孔質樹脂膜複合体3のガーレー秒は55秒であった。平均流量孔径は0.030μmであった。得られたPTFE製多孔質樹脂膜複合体3の断面のSEM写真を
図3に示す。
図3(a)は1万倍のSEM写真であり、図中、31はPTFE製多孔質樹脂膜であり、32は多孔質支持体である。又、
図3(b)は、PTFE製多孔質樹脂膜31の断面の3万倍のSEM写真である。図中、33は大孔径層、34は孔径遷移層、35は小孔径層である。
図3より明らかなように、多孔質支持体32側より、小孔径層35、孔径遷移層34、大孔径層33の順で形成されており、孔径が厚さ方向に連続的に増大している。
【0084】
比較例1と2の結果から、結晶化条件(アニール)と延伸条件を全く同一とした場合であっても、融解熱量が低いPTFEから得られたPTFE製多孔質樹脂膜(複合体)は孔径(平均流量孔径)が小さく、融解熱量が大きいPTFEから得られたPTFE製多孔質樹脂膜(複合体)は孔径(平均流量孔径)が大きくなることが示された。
【0085】
実施例では、比較例1と同条件で形成されたPTFE製多孔質樹脂膜と比較例2と同条件で形成されたPTFE製多孔質樹脂膜が貼り合わされているので、多孔質樹脂膜の厚さ方向で、孔径(平均流量孔径)が異なる(複層の)多孔質樹脂膜が、延伸PTFE多孔質体(多孔質支持体)上に形成されている。実施例で得られたPTFE製多孔質樹脂膜複合体の孔径(平均流量孔径)は、比較例1の場合よりはるかに小さく比較例2とほぼ同等であるが、比較例2よりも透気度(ガーレー秒)ははるかに小さい。すなわち、本発明のPTFE製多孔質樹脂膜複合体は、孔径(平均流量孔径)が従来の多孔質樹脂膜複合体と同等であっても、ガーレー秒が小さく、高い気孔率そして優れた処理効率が得られることが示されている。