【実施例】
【0050】
『効果の実証試験(i)』
以下に説明する実施例1〜5及び比較例A〜Dの発泡断熱材を用いて、本発明の効果の実証試験(i)を行った。なお本試験では、ポリプロピレンにプライムポリマー社のプライムポリプロ(登録商標)を使用した。また、このポリプロピレンと合わせて、ポリプロピレン(55〜65wt%)及びポリエチレン(30〜40wt%)、ポリスチレン(1〜5wt%)から成るR-PO(再利用ポリオレフィン)を使用した。
【0051】
また更に、紙粉には平均粒径30〜200μmの粉体を使用した。また防カビ剤には、下記[化1]に示すピリチオン系のビス(2-ピリジンチオ-1-オキシド)亜鉛(以下、ZPT)、及び[化2]に示すイミダゾール系のメチル-ベンゾイミダゾール-2-イルカルバマート(以下、BCM)、及び[化3]に示すイミダゾール系の2-(1,3-チアゾール-4-イル)-1H-ベンゾイミダゾール(以下、TBZ)を使用した。また、水酸化カルシウムには、ホタテ貝殻焼成カルシウムを使用した。
【化1】
【化2】
【化3】
【0052】
次に、本試験において防カビ性の有無を調べる方法を説明する。本試験では、JIS規格(JIS Z 2911
2010)に基づいた手法を参考に、より短期間で結果が得られる以下の方法を採用した。
【0053】
[1]作業空間をエタノール溶液で殺菌する。[2]滅菌した深さ90mmのシャーレにポテト・デキストロース寒天培地(PDA培地)を希釈したものを入れて固める。[3]シャーレよりも一回り小さいサイズにカットしたプラスチックネットをPDA培地上に敷く。[4]試験体をシャーレ内のプラスチックネット上に導入する。[5]シャーレ内に導入した試験体に、調整した胞子懸濁液を1〜2ml程度ピペットか霧吹きを用いて試験体前面に塗布接種し、シャーレに蓋をする。[6]蓋をしたシャーレを温度29℃、湿度95%の恒温温湿槽へ導入し、1週間毎にカビの発生の有無を確認する(測定には京都電子製のQTM-D3迅速熱伝導率測定計を使用)。[7]下記基準に基いて試験結果の評価を行う。
【表1】
【0054】
なお本試験では、カビとして、Aspergillus niger van Tieghem(クロコウジカビ)、Penicillium funiculosum Thom(アオカビ)、Rhizopus oryzae Went et Prinsen-Geerligs、Gliocladium virens Miller,Giddens&Foster(グリオクラディウム)、Chaetomium globosum Kunze ex Fries、Penicillium glabrum、Penicillium citrinum、Mucor sp.、糸状菌、Alternaria alternate(ススカビ)を準備した。
【0055】
「実施例1」
実施例1の発泡断熱材について説明する。この実施例1では、材料に紙粉(35重量部)、デンプン(65重量部)、ポリプロピレン(52重量部)、R-PO(23重量部)、ZPT(0.2重量部)、BCM(0.2重量部)、水(20重量部)を使用し、これらの材料を混練したものを水発泡で押出成形して発泡成形体を作製した。その結果、優れた成形性および防カビ性を有していることを確認できた。
【0056】
「実施例2」
実施例2では、上記実施例1の配合量の内、ZPTの配合量を0.1重量部、BCMの配合量を0.3重量部に変えて発泡成形体を作製した。その結果、実施例1と同様に優れた成形性および防カビ性を有していることを確認できた。
【0057】
「実施例3」
実施例3では、防カビ剤にTBZを使用すると共に、防カビ剤の配合量を、ZPT(0.1重量部)、BCM(0.2重量部)、TBZ(0.2重量部)として発泡成形体を作製した。なお、その他の条件は実施例1に合わせている。その結果、実施例1と同様の優れた成形性および防カビ性を有していることを確認できた。
【0058】
「実施例4」
実施例4では、上記実施例3の配合量の内、ZPTの配合量を0.25重量部、BCMの配合量を0.1重量部、TBZの配合量を0.1重量部に変えて発泡成形体を作製した。その結果、実施例3と同様の優れた成形性および防カビ性を有していることを確認できた。
【0059】
「実施例5」
実施例5では、
図1に示すようにボード状に作製した発泡成形体1の片面に、防カビ剤(有機窒素硫黄系化合物)を塗布したPET不織布から成るシート材2を、発泡成形体1の幅方向の両側に余剰部21・21を残した状態で貼着して構成した。これは、
図2に示すように、シート材2の余剰部21・21を根太N・N等に打ち付けることで、発泡断熱材を根太N・N間に取り付け易くするためである。
【0060】
また実施例5では、上記発泡成形体1とシート材2の貼着に用いた酢酸ビニル系接着剤にも、防カビ剤として有機窒素硫黄系化合物を混合している。そして、上記構成から成る発泡断熱材について試験を行ったところ、優れた成形性および防カビ性を有していることを確認できた。
【0061】
なお、実施例としての説明を省くが、上記有機窒素硫黄系化合物に、トリアゾール系化合物と亜鉛含有アルミノケイ酸塩の混合物や、イソチアゾリン系錯塩と亜鉛含有アルミノケイ酸塩の混合物を用いた場合も同様の効果が確認された。
【0062】
「比較例A」
比較例Aでは、実施例1〜5の主材料を変えずに、防カビ剤のみを水酸化カルシウム(0.3重量部)に変えて発泡成形体を作製した。その結果、成形性は良好であったものの、防カビ性については、試験体の1/3を超える範囲で菌糸の発育が確認された。
【0063】
「比較例B」
比較例Bでは、比較例Aにおいて防カビ剤として使用した水酸化カルシウムの配合量を5重量部に変えて発泡成形体を作製した。その結果、成形性が悪化すると共に、防カビ性についても充分な効果が発揮されず、部分的に菌糸の発育が確認された。
【0064】
「比較例C」
比較例Cでは、実施例1〜5の主材料を変えずに、防カビ剤をピリチオン系のZH防カビ剤(0.5重量部)のみに変えて発泡成形体を作製した。その結果、成形性は良好であったものの、防カビ性については、部分的に菌糸の発育が確認された。
【0065】
「比較例D」
比較例Dでは、実施例1〜5の主材料を変えずに、防カビ剤をイミダゾール系のBM防カビ剤(0.5重量部)のみに変えて発泡成形体を作製した。その結果、成形性は良好であったものの、防カビ性については、部分的に菌糸の発育が確認された。
【0066】
[実証試験(i)の総括]
上記試験結果の内容をまとめたものを以下の[表2]に示す。この[表2]を見ても分かるように、本発明の構成を採用することによって、発泡成形体の成形性を損なわずに、防カビ性に優れた発泡断熱材を作製することが可能となる。
【表2】
【0067】
『効果の実証試験(ii)』
以下に説明する実施例1〜5及び比較例Aの発泡断熱材を用いて、本発明の効果の実証試験(ii)を行った。なお本試験では、セルロース系材料として用いる紙粉、親水性の天然高分子として用いるデンプン、及びポリオレフィン系樹脂として用いるポリプロピレン樹脂やR-POに試験(i)と同様のものを採用した。
【0068】
また防虫剤には、ピレスロイド系の防虫剤として、下記[化4]に示す2-(4-エトキシフェニル)-2-メチルプロビル-3-フェノキシベンジルエーテル(一般名:エトフェンプロックス)、及び[化5]に示す4-エトキシフェニル[3-(4-フルオロ-3-フェノキシフェニル)プロビル]ジメチルシラン(一般名:シラフルオフェン)を使用した。
【化4】
【化5】
【0069】
また、上記ピレスロイド系防虫剤には、水中での分散性に優れたエトフェンプロックス水和剤(エトフェンプロックス20%、有機溶剤等32%、非晶質シリカ等の鉱物質微粉48%)、及びシラフルオフェン水和剤(シラフルオフェン20%、有機溶剤・鉱物質微粉80%)を使用した。
【0070】
そしてまた、本試験では、ネオニコチノイド系防虫剤として、下記[化6]に示す1-(6-クロロ-3-ピリジルメチル)-N-ニトロイミダゾリジン-2-イリデンアミン(一般名:イミダクロプリド)、及び下記[化7]に示す(E)-1-(2-クロロ-1,3-チアゾール-5-イルメチル)-3-メチル-2-ニトログアニジン(一般名:クロチアニジン)、及び下記[化8]に示す(E)-N
1-[(6-クロロ-3-ピリジル)メチル]-N
2-シアノ-N
1-メチルアセトアミジン(一般名:アセタミプリド)を粉末状にしたものを使用した。
【化6】
【化7】
【化8】
【0071】
次に、本試験において防虫性の有無を調べる方法を説明する。本試験では、上記防虫剤を添加して作製した発泡成形体(下記実施例及び比較例)を、長さ10cm×幅3cm×厚さ2cmに切断し試験体とした。そして、この試験体を野外の土壌面上に3ヶ月放置し、特にダンゴムシに対する食害状況を観察した。なお評価基準は、食害がなかったものを“◎”、若干食害があったものを“○”、貫通するまで食害があったものを“×”とする。
【0072】
「実施例1」
実施例1の発泡成形体について説明する。実施例1では、材料に紙粉(35重量部)、デンプン(65重量部)、ポリプロピレン(52重量部)、R-PO(23重量部)、エトフェンプロックス(0.08重量部)、水(20重量部)を使用し、これらの材料を混練したものを水発泡で押出成形して発泡成形体を作製した。その結果、若干食害があったものの良好な成形性および防虫性を有していることを確認できた。なお、上記エトフェンプロックスの配合量は、水和剤中の薬剤のみの量を表している。
【0073】
「実施例2」
実施例2では、上記実施例1の防虫剤をシラフルオフェン(0.08重量部)に変えて発泡成形体を作製した。その結果、実施例1と同様に良好な成形性および防虫性を有していることが確認できた。なお、上記シラフルオフェンの配合量は、水和剤中の薬剤のみの量を表している。
【0074】
「実施例3」
実施例3では、上記実施例1の防虫剤を粉末状のイミダクロプリド(0.04重量部)に変えて発泡成形体を作製した。その結果、実施例1及び2と同様に良好な成形性および防虫性を有していることが確認できた。
【0075】
「実施例4」
実施例4では、上記実施例1の防虫剤を粉末状のクロチアニジン(0.04重量部)に変えて発泡成形体を作製した。その結果、試験体に食害はみられず実施例1〜3と同様の良好な成形性、及び上記実施例1〜3以上の防虫性を有していることが確認できた。
【0076】
「実施例5」
実施例5では、上記実施例1の防虫剤を粉末状のアセタミプリド(0.04重量部)に変えて発泡成形体を作製した。その結果、上記実施例1〜3と同様に良好な成形性および防虫性を有していることが確認できた。
【0077】
「比較例A」
比較例Aでは、防虫剤を使用せずに発泡成形体を作製した(その他の配合比は実施例1と同様)。その結果、成形性は良好であったものの、防虫性については充分な効果が認められず、試験体に貫通するレベルの食害がみられた。
【0078】
「比較例B」
比較例Bでは、上記実施例1の防虫剤(エトフェンプロックス)の配合量を、0.025重合部に変えて発泡成形体を作製した。その結果、成形性は良好であったものの、防虫性については充分な効果が認められず、試験体に貫通するレベルの食害がみられた。
【0079】
「比較例C」
比較例Cでは、上記実施例3の防虫剤(イミダクロプリド)の配合量を、0.025重量部に変えて発泡成形体を作製した。その結果、成形性は良好であったものの、防虫性については充分な効果が認められず、試験体が貫通するレベルの食害がみられた。
【0080】
[実証試験(ii)の総括]
上記試験結果の内容をまとめたものを以下の[表3]に示す。この[表3]を見ても分かるように、本発明の構成を採用することによって、発泡成形体の成形性を損なわずに、防虫性に優れた発泡断熱材を作製することが可能となる。
【表3】
【0081】
『効果の実証試験(iii)』
以下に説明する実施例1の発泡断熱材を用いて、本発明の効果の実証試験(iii)を行った。なお本試験では、セルロース系材料として用いる紙粉、親水性の天然高分子として用いるデンプン、及びポリオレフィン系樹脂として用いるポリプロピレン樹脂やR-POに試験(i)と同様のものを採用した。また防鼠剤には、カプサイシンの一種であるN-ノナノイルバニリルアミド(NVA)をマイクロカプセル化したものを使用した。
【0082】
次に、本試験において防鼠性の有無を調べる方法を説明する。本試験では、上記防鼠剤を添加して作製した発泡成形体(下記実施例)を、長さ10cm×幅3cm×厚さ2cmに切断し試験体とした。そして、この試験体を鼠が入っているケースに放置して食害状況を観察した。
【0083】
「実施例1」
実施例1の発泡成形体について説明する。実施例1では、材料に紙粉(35重量部)、デンプン(65重量部)、ポリプロピレン(52重量部)、R-PO(23重量部)、カプサイシン(0.5重量部)、水(20重量部)を使用し、これらの材料を混練したものを水発泡で押出成形して発泡成形体を作製した。そして試験の結果、若干食害があったものの良好な成形性および防鼠性を有していることを確認できた。
【0084】
本発明は、概ね上記のように構成されるが、「特許請求の範囲」の記載内において種々の変更が可能であって、例えば、発泡成形体の用途は、建築用断熱材に限らず発泡樹脂材料が使用される包装用の緩衝材やベルメットの衝撃吸収部材、救命胴衣等の浮力材に使用することもでき、何れのものも本発明の技術的範囲に属する。