特許第6069264号(P6069264)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6069264
(24)【登録日】2017年1月6日
(45)【発行日】2017年2月1日
(54)【発明の名称】ミシンの回転釜
(51)【国際特許分類】
   D05B 57/14 20060101AFI20170123BHJP
【FI】
   D05B57/14 Z
【請求項の数】2
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-149780(P2014-149780)
(22)【出願日】2014年7月23日
(65)【公開番号】特開2016-22254(P2016-22254A)
(43)【公開日】2016年2月8日
【審査請求日】2016年3月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000143787
【氏名又は名称】株式会社佐文工業所
(74)【代理人】
【識別番号】100080089
【弁理士】
【氏名又は名称】牛木 護
(74)【代理人】
【識別番号】100161665
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 知之
(74)【代理人】
【識別番号】100188994
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 裕介
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 智洋
【審査官】 山本 杏子
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭56−094671(JP,U)
【文献】 特公昭46−025304(JP,B1)
【文献】 実開昭58−035368(JP,U)
【文献】 実開昭60−176786(JP,U)
【文献】 実開平06−041683(JP,U)
【文献】 実公昭49−017546(JP,Y1)
【文献】 特開昭56−031789(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D05B 1/00−97/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外釜内に内釜を収納し、前記外釜の内周部に軌溝を形成すると共に、前記軌溝に嵌合する軌条を前記内釜の外周部に形成し、前記軌条の端部に糸分け部を設けたミシンの回転釜において、前記軌条の外周面に軌条側糸切断溝を形成し、前記軌溝に軌溝側糸切断溝を設けたことを特徴とするミシンの回転釜。
【請求項2】
前記軌条側糸切断溝及び前記軌溝側糸切断溝をそれぞれ複数形成したことを特徴とする請求項1記載のミシンの回転釜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミシンにおける回転釜に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の回転釜として、外釜内に内釜を収納すると共に、前記内釜内にボビンケースを収納し、前記外釜の内周部に軌溝を形成すると共に、前記軌溝に嵌合する軌条を前記内釜の外周部に形成し、前記軌条の端部に糸分け部を設けたもの(例えば特許文献1及び特許文献2)が知られている。
【0003】
前記外釜は、ミシン針の上昇行程時に生じる上糸のたるみを掬いとる外釜剣先を有し、固定された内釜の周囲を回転し、布地を刺通するミシン針が下死点から上昇し始めて上糸にたるみが生じると、外釜剣先が上糸のたるみを掬いとって捕捉する。捕捉された上糸は糸分け部(内釜剣先とも称される)において内釜の正面側の上糸と背面側の上糸に分けられ、背面側の上糸は外釜の回転に伴って、内釜の底部の背面と接しながら移動する。やがて上糸は糸抜け部から外れて釜から抜けて図示しない下糸と絡んで縫目を形成する。
【0004】
上記のような構造の全回転釜は縫製中に前記外釜剣先により捕捉された上糸がそれの特性即ち、上糸の摩擦係数の違いや、伸縮性の多様化等によるタイミングのズレ等のため、糸分け部が上糸を捕捉出来なかった場合等に、上糸が摺動面即ち、軌条と軌溝の間に侵入し、いわゆる糸噛みが発生し外釜の回転不能或いは内釜の破壊等により縫製不能となる。
【0005】
これを防止するため、前記軌条には先端部の糸分け部から約30度離間した位置から2乃至5箇所の軌条側糸切断溝(カット溝)を設け(例えば特許文献3)、上糸が摺動面に侵入した場合、上糸を軌条側糸切断溝で切断し、前記外釜が回転不能になることを防止しているが、条件によっては軌条側糸切断溝で上糸を切断することができず、糸噛みが発生する場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−300883号公報
【特許文献2】特開2001−204982号公報
【特許文献3】実開平6−41683号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は上述した問題点に鑑み、軌条と軌溝の間に侵入した上糸を確実に切断することができるミシンの回転釜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、請求項1に係る発明は、外釜内に内釜を収納し、前記外釜の内周部に軌溝を形成すると共に、前記軌溝に嵌合する軌条を前記内釜の外周部に形成し、前記軌条の端部に糸分け部を設けたミシンの回転釜において、前記軌条の外周面に軌条側糸切断溝を形成し、前記軌溝に軌溝側糸切断溝を設けたことを特徴とする。
【0009】
また、請求項2に係る発明は、前記軌条側糸切断溝及び前記軌溝側糸切断溝をそれぞれ複数形成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の請求項1の構成によれば、軌条側糸切断溝に嵌った上糸及び軌条側糸切断溝以外の箇所の上糸を軌溝側糸切断溝が切断することにより、軌条と軌溝の間に侵入した上糸を切断することができる。
【0011】
また、本発明の請求項2の構成によれば、複数の軌溝側糸切断溝により上糸を徐々に細らせるようにして切断し、また、軌条側糸切断溝以外の箇所の上糸を軌溝側糸切断溝により隣の軌条側糸切断溝に送り、軌条側糸切断溝においてその上糸を切断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施例1を示す回転釜の縦断面図である。
図2】同上、回転釜の内釜押え周りの断面図である。
図3】同上、内釜の側面図である。
図4】同上、糸分け部の拡大側面図である。
図5】同上、図4のA−A線矢視図である。
図6】同上、外釜の要部の断面図である。
図7】同上、内釜押えを回転釜の基端側から見た側面図である。
図8】同上、内釜押えの断面図である。
図9】同上、軌溝側糸切溝の斜視図である。
図10】同上、回転釜の側面図である。
図11】同上、回転釜の平面図である。
図12】同上、内釜の斜視図である。
図13】同上、ボビンケースとボビンの斜視図である。
図14】本発明の実施例2を示す外釜の要部の断面図である。
図15】本発明の実施例3を示す外釜の要部の断面図である。
図16】同上、軌溝側糸切溝の斜視図である。
図17】本発明の実施例4を示す回転釜の断面図である。
図18】同上、要部の拡大断面図である。
図19】同上、一部を断面にした内釜の平面図である。
図20】同上、回転釜の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明における好適な実施の形態について、添付図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を限定するものではない。また、以下に説明される構成の全てが、本発明の必須要件であるとは限らない。各実施例では、従来とは異なる新規な回転釜を採用することにより、従来にない回転釜が得られ、その回転釜について記述する。
【0014】
以下、図面を参照して、本発明の回転釜の実施例1について説明する。
【実施例1】
【0015】
図1図13に示すように、本実施例の回転釜1は、全回転式の垂直回転釜であって、回転駆動される外釜2に内釜3を回転自在に収納し、前記外釜2は釜形形状をしており、その外釜2の基端側には連結固定部4が設けられ、この連結固定部4には、回転駆動軸(図示せず)が固定的に嵌合される軸孔5が形成されている。また、前記外釜2の先端側には外周壁部6に囲まれると共に前記内釜3を収納する収納凹部7が形成されており、前記外周壁部6の内周面には、前記内釜3の外周部に形成された軌条8と嵌合する軌溝9が形成されている。また、外釜2において、前記連結固定部4の先端側に底面部10を設け、この底面部10に前記外周壁部6の基端側が固定され、前記底面部10には外釜2の中心軸方向に開口する開口部10Aが設けられている。さらに、外釜2には外釜剣先11が設けられている。尚、以下の説明では、図2及び図6の状態で上,下を上側,下側として説明する。
【0016】
図12などに示すように、前記内釜3は、釜形形状をしており、その外周壁部31の外周面32には周方向に沿わせて前記軌条8が突出形成されている。そして、前記内釜3は、その軌条8を外釜2の軌溝9に嵌合させた状態で、外釜2に螺子止めされた内釜押え12によって脱落しないように外釜2内に収容されている。これにより、外釜2と内釜3とが回転自在に結合されている。
【0017】
図3に示すように、前記軌条8の一端部には糸分け部13が設けられると共に、その他端部には糸抜け部23が設けられている。尚、前記外釜2の回転方向Rの逆側(反回転方向側)に前記糸分け部13が設けられ、図3の側面視において、前記糸分け部13の先端13Aが基端より前記反回転方向側になるように斜めに形成されている。
【0018】
また、図3に示すように、前記軌条8の外周面8Gには、複数の軌条側糸切断溝14,14・・・が周方向に略等間隔で設けられている。また、図5に示すように、前記軌条側糸切断溝14は、軌条8の厚さ方向において斜設されており、具体的には、上側が一端側、下側が他端側になるように斜めに形成され、傾斜角度θは、30〜60度、好ましくは40〜50度である。尚、傾斜角度θは軌条側糸切断溝14の厚さ中心に対する角度である。
【0019】
また、軌条側糸切断溝14の一側面部15及び他側面部16は平行に形成され、それら一側面部15及び他側面部16の内端に底面部17が設けられ、軌条側糸切断溝14はその深さ寸法Wより周方向の長さ寸法Lが大きく形成されている。さらに、一側面部15及び他側面部16の上縁部15A,16A及び下縁部15B,16Bは、内釜3の略半径方向に形成されている。実際には、上縁部16A及び下縁部15Bを内釜3の半径方向に形成し、上縁部16A及び下縁部15Bに対して上縁部15A及び下縁部16Bを平行に形成している。尚、上縁部15A,16A及び下縁部15B,16Bは、軌条8の上面部8Uと下面部8Sに位置する。
【0020】
また、糸分け部13は、軌条8の厚さ方向において、斜め下面部13Sと斜め上面部13Uとの先端を湾曲面部13Wにより連結しており、斜め下面部13Sの角度θ1は前記傾斜角度θより15度程度小さく、斜め上面部13Uは斜め下面部13Sより角度が小さい。
【0021】
さらに、図2に示すように、前記軌溝9の一側面部18及び他側面部19は平行に形成され、それら一側面部18と他側面部19の外端に底面部20が設けられている。そして、一側面部18及び他側面部19は外釜2の内周面と略直交して設けられ、底面部20は外釜2の内周面と平行に設けられている。
【0022】
図2に示すように、内釜押え12は、外釜2の外周面32に固定する筒状部21と、この筒状部21の上部に設けた内鍔部22とを一体に有し、この内鍔部22の下面により前記一側面部18を構成している。また、内釜押え12の取付箇所に対応して、前記外釜2には、前記他側面部19と底面部20が形成され、外釜2に内釜押え12を固定することにより、図2に示すように、軌溝9が形成される。尚、軌条8及び軌溝9は内釜3の内周部及び外釜2の外周部の3分の2以上に渡って形成されている。
【0023】
さらに、図2図6及び図7などに示すように、前記軌溝9には、一側面部18と他側面部19にそれぞれ軌溝側糸切断溝24が設けられ、この軌溝側糸切断溝24は、等間隔を置いて複数形成されている。また、軌溝側糸切断溝24は、一側面部18と他側面部19に、前側縁部25と後側縁部25Aとを有し、前側縁部25と後側縁部25Aとは内端24Nにおいて鋭角的に交差する。尚、図面においては、前側縁部25と後側縁部25Aは45度をなす。また、後側縁部25Aは外釜2の半径方向をなす。さらに、図2及び図9に示すように、軌溝側糸切断溝24の内端24Nは、軌条側糸切断溝14の底面部17より外側に位置する。
【0024】
また、図8に示すように、軌溝側糸切断溝24は、外釜2の内周面及び内鍔部22の内周面22Fにおいて、前側縁部26と後側縁部26Aとを有し、これら前側縁部26と後側縁部26Aは鋭角的に交差する。尚、図面においては、前側縁部26と後側縁部26Aは45度をなす。また、後側縁部25Aは外釜2の上下方向(中心軸方向)をなす。そして、外釜2の内周面と一側面部18の交差角部27、外釜2の内周面と他側面部19の交差角部27において、前側縁部25,26同士が連続すると共に、後側縁部25A,26A同士が連続する。尚、軌条側糸切断溝14及び軌溝側糸切断溝24は幅より周方向に隣合う間隔が大きく設定されている。また、図2及び図8に示すように、前記内周面22Fには、軌溝側糸切断溝24のない平坦部29が形成され、この平坦部29は略円柱面状をなす。このように平坦部29を残すことにより、内周面22Fに鋭角的な部分がないため、内周面22Fにより糸が切断されることがない。
【0025】
また、内釜3には、外釜2に形成された外釜剣先11の移動軌跡上に位置させて、針落ち孔33が形成されている。針落ち孔33は、上下動する縫い針(図示せず)の先端を進入させるための孔であり、内釜3の外周壁部31をその外周面32から内周面まで貫通するように形成されている。
【0026】
さらに、内釜3には、針落ち孔33の近傍に位置させて、その先端面に回り止め溝34が形成されている。この回り止め溝34は、ミシンの側に設けられた内釜ストッパ(図示せず)と嵌合して、内釜3の回転を阻止するためのものである。
【0027】
前記内釜3は、ブリッジ形状に形成された板状の底面部36を基端側に有し、この底面部36の両側には開口部36A,36Aが設けられ、底面部36の両側が前記外周壁部31の基端側に連結されている。尚、前記底面部36は略一定幅の帯状をなす。また、底面部36の中央には、ボビン用の軸部たる略円柱状のスタッド37が立設され、このスタッド37は内釜3の中心軸を軸心としている。尚、内釜3の中心軸に対して偏心した位置にスタッド37を設けてもよい。前記スタッド37は、ボビン39を収納するボビンケース40を着脱自在に取り付けるためのものであり、前記ボビンケース40を着脱自在にするために、スタッド37はその先端部にスタッド溝37Aを周設している。また、内釜3の外周壁部31の先端側には、針落ち孔33の近傍に位置させて一対の回り止め突起38,38が形成されている。
【0028】
前記ボビンケース40は、下糸39Aを巻回保持するボビン39の中央部に設けられた装着孔39Bに嵌合可能な円筒状の筒体41を中央に有している。この筒体41は、内釜3のスタッド37を嵌合させることができる形状に形成されており、内釜3に対するボビンケース40の装着に際しては、内釜3のスタッド37をその筒体41に嵌合させる。
【0029】
前記ボビンケース40には、内釜3に対する固定構造(全体構造を図示せず)が設けられている。この固定構造は、ボビンケース40の天面に操作ノブ42を起立自在に有しており、この操作ノブ42を起立させることによって、中央部内部に設けられている固定爪43及び外周面に突出させて設けられているボビンストッパ44をスライド自在とする。操作ノブ42は、コイルバネ(図示せず)に付勢され、通常は非起立状態に維持されている。固定爪43は、ボビンケース40が内釜3に装着された状態で内釜3のスタッド37に形成されているスタッド溝37Aに噛み合い、ボビンケース40を内釜3に固定状態にする。このような固定爪43は、操作ノブ42を起立させることでスタッド溝37Aに対する噛み合いを解除する方向にスライド移動させられ、内釜3に対するボビンケース40の着脱を可能とする。また、ボビンストッパ44は、操作ノブ42を起立させることで引っ込み、操作ノブ42が非起立状態である通常状態では突出する。
【0030】
また、ボビンケース40には、その側壁から天面にかけてその軸方向に沿い案内用の溝部45が形成されている。この溝部45は、ボビンケース40を内釜3に装着する際、ボビンケース40の周方向を位置決めするためのものである。そして、前記回り止め突起38,38の配置間隔は、ボビンケース40の溝部45に嵌合可能な幅であり、これにより、これら一対の回り止め突起38,38が、ボビンケース40を内釜3に装着するに際してボビンケース40をその周方向に位置決めすることになる。
【0031】
尚、この例では、回り止め溝34をミシンの側に設けられた内釜ストッパと嵌合して、内釜3を回り止め状態にしている。
【0032】
前記回り止め溝34の反対側には、前記外周壁部31の先端側を切り欠いた壁切欠き部分52が設けられており、この壁切欠き部分52は、内釜3の回転中心長手方向に形成された外周壁部31の縦縁部53,54の間に設けられ、これら縦縁部53,54において外周壁部31には一段低い低外周壁部31Aが形成されている。一方の縦縁部53は、前記底面部36の幅方向一側縁側に位置し、他方の縦縁部54は前記底面部36の幅方向一側の開口部36A側に位置し、縦縁部53,54の位置はスタッド37の中心に対して略90度の角度をなす。
【0033】
このような水平回転釜1を用いて縫製対象物である布地を縫製するには、ミシンの内釜ストッパを回り止め溝34に嵌合させて内釜3の回転を阻止した状態で、外釜2を回転方向Rに回転駆動する。これにより、縫い針の上下動に伴い生ずる上糸のループが外釜2に設けられた外釜剣先11で捕捉され、捕捉された上糸は前記糸分け部13において内釜3の正面側の上糸と背面側の上糸に分けられ、背面側の上糸は外釜2の回転に伴って、内釜3の底部の背面と接しながら移動する。やがて上糸は糸抜け部23から外れて釜から抜けて前記ボビン39から引き出される下糸39Aと絡み合い、被縫製物である布地が縫製される。尚、下糸供給手段たるボビン39を用いずに、下糸39Aを筒状に巻き回して糊などで接着して成形した糸巻体を下糸供給手段として用いてもよい。また、図示しない前記糸巻体は前記装着孔39Bを有する。
【0034】
ところで、通常は、糸分け部13が上糸を捕捉出来なかった場合等に、上糸は、摺動面即ち、軌条8と軌溝9の間に侵入し、軌条側糸切断溝14に捕捉され、外釜2の回転により軌条側糸切断溝14により切断される。
【0035】
しかし、軌条側糸切断溝14により上糸が切断されなかった場合、軌条側糸切断溝14に嵌った上糸は、外釜2の回転により、後側上縁部16Aと後側下縁部16Bに引っ掛かった状態となる。この状態で、その軌条側糸切断溝14を軌溝側糸切断溝24が通過する際、後側上縁部16Aと後側縁部25Aの間のせん断作用と、後側下縁部16Bと後側縁部25Aの間のせん断作用により上糸が切断される。尚、1箇所の軌溝側糸切断溝24の通過で切断されない場合も、複数の軌溝側糸切断溝24が通過することにより、確実に上糸が切断される。
【0036】
また、軌条側糸切断溝14の箇所以外で、軌条8と軌溝9との間に上糸が挟まって動かない場合は、軌溝側糸切断溝24が通過することにより、1箇所の通過で切断されたり、1箇所通過することにより上糸が少しずつ細るように切断され、複数箇所が通過することにより切断される。あるいは、軌溝側糸切断溝24が通過することにより、軌溝側糸切断溝24に連れられて上糸が移動し、軌条側糸切断溝14に上糸が嵌り、上述したようにして切断される。
【0037】
このように本実施例では、請求項1に対応して、外釜2内に内釜3を収納すると共に、内釜3内に下糸供給手段を収納し、外釜2の内周部に軌溝9を形成すると共に、軌溝9に嵌合する軌条8を内釜3の外周部に形成し、軌条8の端部に糸分け部13を設けたミシンの回転釜において、軌条8の外周面8Gに軌条側糸切断溝14を形成し、軌溝9に軌溝側糸切断溝24を設けたから、軌条側糸切断溝14に嵌った上糸及び軌条側糸切断溝14以外の箇所の上糸を軌溝側糸切断溝24が切断することにより、軌条8と軌溝9の間に侵入した上糸を切断することができる。
【0038】
このように本実施例では、請求項2に対応して、軌条側糸切断溝14及び軌溝側糸切断溝24をそれぞれ複数形成したから、複数の軌溝側糸切断溝24により上糸を徐々に細らせるようにして切断し、また、軌条側糸切断溝14以外の箇所の上糸を軌溝側糸切断溝24により隣の軌条側糸切断溝14に送り、軌条側糸切断溝14においてその上糸を切断することができる。
【0039】
また、実施例上の効果として、前記軌条側糸切断溝14は、軌条8の厚さ方向において斜設され、上縁部16Aが鋭角に形成されているから、その上縁部16Aに引っ掛かった上糸に対して、半径方向の後側縁部25Aが通過する際のせん断作用により、上糸を確実に切断することができる。また、軌条側糸切断溝14以外で軌条8と軌溝9との間に挟まった上糸を、半径方向の後側縁部25Aによりせん断したり、隣の軌条側糸切断溝14へと送ったりすることができる。さらに、軌溝側糸切断溝24の内端24Nは、軌条側糸切断溝14の底面部17より外側に位置するから、上縁部16A及び下縁部16Bに引っ掛かった上糸を、軌溝側糸切断溝24により切断することができる。また、軌溝側糸切断溝24は三角錐形状をなすから、加工が容易である。
【実施例2】
【0040】
図14は、本発明の実施例2を示し、上記実施例1と同一部分に同一符号を付し、その詳細な説明を省略して詳述する。この例では、軌溝側糸切断溝24を他側面部19にのみに設けており、上記実施例1と同様な作用・効果を奏し、また、図示しないが、軌溝側糸切断溝24を一側面部18にのみに設けてもよい。
【実施例3】
【0041】
図15及び図16は、本発明の実施例3を示し、上記各実施例と同一部分に同一符号を付し、その詳細な説明を省略して詳述する。この例の軌溝側糸切断溝24は、後側縁部25Aに対して、前側縁部25を平行に形成し、後側縁部26Aに対して、前側縁部26を平行に形成し、底部に斜め底面部28を備えており、上記実施例と同様に後側縁部26Aによる切断作用が得られる。
【0042】
このように本実施例では、上記各実施例と同様な作用・効果を奏し、また、図示しないが、軌溝側糸切断溝24を他側面部19にのみに設けたり、一側面部18と他側面部19の両方に設けたりしてもよい。また、軌溝側糸切断溝24は、底部に斜め底面部28を備え、周方向の長さが一定であるから、加工が容易となる。さらに、この例のように軌溝側糸切断溝24の形状は適宜選定可能である。
【実施例4】
【0043】
図17図20は、本発明の実施例4を示し、上記実施例と同一部分に同一符号を付し、その詳細な説明を省略して詳述する。同図は本発明を全回転式の水平回転釜に適用した例を示す。
【0044】
前記水平回転釜61は、外釜62、内釜63、ボビン(図示せず)等により構成されている。尚、図17の上下が水平回転釜61における上下である。また、この例では、ボビンケースを用いることなく、ボビン(図示せず)が内釜63に直接収納される。あるいは、前記糸巻体を内釜63に直接収納してもよい。また、この例では、軌溝側糸切断溝24の内端24Nは、軌条側糸切断溝14の底面部17より内側に位置する。
【0045】
外釜62には、内釜63を収納する収納室64と、垂直方向に延出された回転駆動軸(図示せず)に嵌合される嵌合軸65と、回転動作に伴って上糸のループ部分を引っ掛ける前記外釜剣先11と、前記軌溝9と、前記内釜押え12とを備える。
【0046】
また、内釜63の底面部36の中央には、ボビン支え66が立設され、下糸の巻回されたボビンはボビン支え66が挿通される状態で、内釜63内に収納され、ボビンはボビン支え66の上部に設けたボビン押え部材67によって内釜63からの飛び出しが防止される。尚、図中68は針である。
【0047】
そして、前記水平回転釜61の外釜62に回転力が伝達されることによって、外釜62が回転駆動される。一方、内釜63は、前記内釜止め凸部69が図示しないミシンの機体に形成される凹所に嵌り込んでおり、外釜62の回転による摩擦力による回転作用に抗して回転が防止される。この外釜62の回転と同期し、針68によって図示しない上糸が外釜剣先11の通過経路に供給される。外釜剣先11が供給される上糸を捕捉し、この上糸が糸分け部13に捕捉されて内釜63の正面側の上糸と背面側の上糸に分けられ、内釜63の周囲を1周することによって糸越しがなされ、縫い目が形成される。
【0048】
この際、軌条8と軌溝9の間に侵入した上糸を軌条側糸切断溝14と軌溝側糸切断溝24により切断することができる。尚、軌溝側糸切断溝24の配置や形状は上記実施例1〜3のものを適用できる。この例では、軌溝側糸切断溝24の内端24Nは、軌条側糸切断溝14の底面部17より外側に位置する。
【0049】
このように本実施例では、上記各実施例と同様な作用・効果を奏する。
【0050】
また、実施例上の効果として、水平回転釜61では他側面部19が下側となるから、少なくとも他側面部19に軌溝側糸切断溝24を設けることが好ましい。
【0051】
尚、本発明は、本実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形実施が可能である。例えば、軌条側糸切断溝及び軌溝側糸切断溝の形状や数などは適宜選定可能である。また、本発明は、実施例以外の各種のミシンの回転釜に適用可能である。
【符号の説明】
【0052】
1 回転釜
2 外釜
3 内釜
8 軌条
9 軌溝
11 外釜剣先
12 内釜押え
13 糸分け部
14 軌条側糸切断溝
24 軌溝側糸切断溝
61 回転釜
62 外釜
63 内釜
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図20