特許第6069270号(P6069270)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6069270
(24)【登録日】2017年1月6日
(45)【発行日】2017年2月1日
(54)【発明の名称】クラッチドラムコンプリートの製造方法
(51)【国際特許分類】
   F16D 13/60 20060101AFI20170123BHJP
   B23K 11/14 20060101ALI20170123BHJP
   B23K 11/11 20060101ALI20170123BHJP
   B23K 11/00 20060101ALI20170123BHJP
【FI】
   F16D13/60 T
   B23K11/14
   B23K11/11 540
   B23K11/00 570
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-174236(P2014-174236)
(22)【出願日】2014年8月28日
(65)【公開番号】特開2016-50588(P2016-50588A)
(43)【公開日】2016年4月11日
【審査請求日】2014年8月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】514218953
【氏名又は名称】株式会社一戸
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】特許業務法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】向井田 秀則
(72)【発明者】
【氏名】越後 修二
【審査官】 渡邊 義之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−279718(JP,A)
【文献】 特開平5−26265(JP,A)
【文献】 特開2009−262164(JP,A)
【文献】 特開昭62−13826(JP,A)
【文献】 特開2004−337954(JP,A)
【文献】 特開2005−103546(JP,A)
【文献】 特開2012−20330(JP,A)
【文献】 特開平10−118722(JP,A)
【文献】 特開昭62−13825(JP,A)
【文献】 特開平7−119754(JP,A)
【文献】 米国特許第04353705(US,A)
【文献】 米国特許第03610385(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 11/00− 23/14
B23K 11/00− 11/11
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クラッチ装置を介してエンジンの動力が伝達されるクラッチドラムと、このクラッチドラムの側面部に端面部が接合される動力伝達部材と、を有するクラッチドラムコンプリートの製造方法であって、
前記動力伝達部材は、外周部から径方向外側に伸びる多数の歯部が形成されたギヤ部材であり、
前記クラッチドラムは、前記側面部の中心部に形成された貫通穴と、
この貫通穴の内周部に形成された凹部と、を有し、
前記動力伝達部材は、前記端面部に形成され前記貫通穴に挿通されるボス部と、
このボス部の外周部に形成され前記凹部に食い込ませて係合させる前記歯部の基端部の形状に合致する係合凸部と、を有し、
前記凹部は、前記係合凸部に適合する形状からなり、
前記凹部と前記係合凸部とを嵌合させる嵌合工程と、
この嵌合工程によって前記凹部と前記係合凸部とを嵌合させた後、前記側面部および前記端面部のうち少なくとも一方に形成された凸状溶着部を前記側面部と前記端面部との間に挟んだ状態で、電気抵抗溶接によって当該側面部と当該端面部とを電極で押圧しながら当該凸状溶着部を溶接して、当該溶接した凸状溶着部からなる溶着接合部を介して当該側面部と当該端面部とを溶着接合する工程と、を含むこと、
を特徴とするクラッチドラムコンプリートの製造方法。
【請求項2】
前記貫通穴および前記凹部の内周部に、バーリング加工によってフランジ部が形成されていること、
を特徴とする請求項1に記載のクラッチドラムコンプリートの製造方法。
【請求項3】
前記歯部に前記凸状溶着部が形成されていること、
を特徴とする請求項1または請求項2に記載のクラッチドラムコンプリートの製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クラッチドラムコンプリートの製造方法に係り、特に、電気抵抗溶接によってクラッチドラムの側面部と動力伝達部材の端面部とを接合するクラッチドラムコンプリートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
チェンソーを駆動するスプロケットと遠心クラッチのクラッチドラムとを接合して製作されるクラッチドラムコンプリートは、エンジンが発生する駆動トルクや負荷が急激に変動して過酷な使用条件にさらされるため、十分な接合強度を確保することが必要である。このため、クラッチドラムコンプリートを構成するスプロケットとクラッチドラムとの接合方法として、銅ロー付けや電気抵抗溶接による種々の接合方法が知られている(例えば、特許文献1,2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公平07−003252号公報(段落0002〜0011、図2,4,8参照)
【特許文献2】特許第3799044号公報(請求項1、段落0015、図3参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の銅ロー付けによる接合方法では、高温の炉中で処理をすることから被駆動軸が脱炭や拡散し焼き戻しされ、クラッチドラムの素材組織が軟化し脆くなるため、さらに熱処理や研磨工程を必要とし加工工数が増大するという問題があった。
【0005】
特許文献2に記載の電気抵抗溶接による接合方法では、第1の金属部品(スプロケット)に形成した突起部を第2の金属部品に形成した切り欠き部に嵌合させた状態で、当該突起部を切り欠き部に溶かし潰して食い込ませるため、突起部や切り欠き部の加工工数が増大するという問題があった。
【0006】
本発明は、このような背景に鑑みてなされたものであり、高性能、軽量化、製造工数を削減してコスト低減に寄与するとともに十分な接合強度を確保することができるクラッチドラムコンプリートの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため、本発明は、クラッチ装置を介してエンジンの動力が伝達されるクラッチドラムと、このクラッチドラムの側面部に端面部が接合される動力伝達部材と、を有するクラッチドラムコンプリートの製造方法であって、前記動力伝達部材は、外周部から径方向外側に伸びる多数の歯部が形成されたギヤ部材であり、前記クラッチドラムは、前記側面部の中心部に形成された貫通穴と、この貫通穴の内周部に形成された凹部と、を有し、前記動力伝達部材は、前記端面部に形成され前記貫通穴に挿通されるボス部と、このボス部の外周部に形成され前記凹部に食い込ませて係合させる前記歯部の基端部の形状に合致する係合凸部と、を有し、前記凹部は、前記係合凸部に適合する形状からなり、前記凹部と前記係合凸部とを嵌合させる嵌合工程と、この嵌合工程によって前記凹部と前記係合凸部とを嵌合させた後、前記側面部および前記端面部のうち少なくとも一方に形成された凸状溶着部を前記側面部と前記端面部との間に挟んだ状態で、電気抵抗溶接によって当該側面部と当該端面部とを電極で押圧しながら当該凸状溶着部を溶接して、当該溶接した凸状溶着部からなる溶着接合部を介して当該側面部と当該端面部とを溶着接合する工程と、を含むこと、を特徴とする。
【0008】
本発明に係るクラッチドラムコンプリートの製造方法は、前記側面部および前記端面部のうち少なくとも一方に形成された凸状溶着部を電気抵抗溶接によって押圧しながら溶着して、凸状溶着部を溶接して形成された溶着接合部を介して前記クラッチドラムの側面部と前記動力伝達部材の端面部とを溶着接合する。そして、クラッチドラムの側面部と動力伝達部材の端面部との間に溶着接合部が密着して介在されることで、十分な接合強度を確保することができる。
【0009】
このため、本発明に係るクラッチドラムコンプリートの製造方法は、エンジンによる駆動トルクや負荷が急激に変動して過酷な使用条件にさらされるクラッチドラムと動力伝達部材との接合手段として好適に適用することができる。
【0010】
また、本発明に係るクラッチドラムコンプリートの製造方法は、前記側面部および前記端面部のうち少なくとも一方に凸状溶着部を形成するという簡易な加工形態を採用し、切り欠き部を形成したり、切り欠き部に突起部を溶融嵌合させたりしなくても十分な接合強度を確保することができるため、加工工数および製造工程を効果的に抑制することができる。
【0011】
このようにして、本発明に係るクラッチドラムコンプリートの製造方法は、製造工数を削減してコスト低減に寄与とともに十分な接合強度を確保することができる。
【0013】
また本発明において、凹部は、例えば、動力伝達部材の軸心部の形状に適合するように形成して前記凹部と前記係合凸部とを係合させた状態で、前記側面部と前記端面部とを接合することで、クラッチドラムコンプリートに対して、より強固な廻り止め機能を付加することも可能となる。
このため、エンジンの駆動トルクが高いより過酷な使用条件であっても好適に適用することができる。
【0014】
本発明の請求項2に係る発明は、請求項1に記載のクラッチドラムコンプリートの製造方法であって、前記貫通穴および前記凹部の内周部に、ギヤ形状のバーリング加工によってフランジ部が形成されていること、を特徴とする。
【0015】
かかる構成によれば、前記貫通穴の内周部は、ギヤ形状のバーリング加工によって軸方向に沿って延びるフランジ部を形成することで、前記貫通穴の内周部の剛性を向上させることができるため、回転方向のトルクをさらに効果的に伝達することができる。
【0016】
このため、本発明は、エンジンの駆動トルクが高いより過酷な使用条件であってもより好適に適用することができる。また、ギヤ形状のバーリング加工によってフランジ部を形成し剛性を向上させることで、クラッチドラムの板厚を薄くして軽量化を図るとともに、かつ切削加工で製作する場合よりも製造工数を削減することができる。
【0017】
本発明の請求項3に係る発明は、請求項1または請求項2に記載のクラッチドラムコンプリートの製造方法であって、前記歯部に前記凸状溶着部が形成されていること、を特徴とする。
【0018】
かかる構成によれば、ギヤ部材の歯部を係合凸部として利用することで、加工工数の増加を効果的に抑制することができる。
【0021】
なお、本明細書において、スプロケットや歯車等の多数の歯部が形成された動力伝達部材を総称して「ギヤ部材」という。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係るクラッチドラムコンプリートの製造方法は、製造工数を削減してコスト低減に寄与するとともに十分な接合強度を確保することができる。このため、エンジンによる駆動トルクや負荷が急激に変動して過酷な使用条件にさらされるチェンソー等のクラッチドラムコンプリートに好適に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の実施形態に係るクラッチドラムコンプリートの使用例を示す斜視図である。
図2】本発明の実施形態に係るクラッチドラムコンプリートを構成するクラッチドラムを示し、(a)は(b)のI−I線正面断面図、(b)は右側面図である。
図3】本発明の実施形態に係るクラッチドラムコンプリートを構成するスプロケットを示し、(a)は(b)のII−II線正面断面図、(b)は右側面図である。
図4】本発明の実施形態に係るクラッチドラムコンプリートの構成を示す図であり、(a)は分解斜視図、(b)は組み合わせた状態を示す正面断面図である。
図5】本発明の実施形態に係るクラッチドラムコンプリートの製造方法を示す断面図であり、(a)はスプロケットを一方の電極に装着した状態、(b)はスプロケットにクラッチドラムをセットして他方の電極で挟んだ状態、(c)は電気抵抗溶接によって凸状溶着部を溶接した状態を示す。
図6】本発明の第1変形例に係るクラッチドラムコンプリートのスプロケットを示し、(a)は(b)のIII−III線正面断面図、(b)は右側面図である。
図7】本発明の第1変形例に係るクラッチドラムコンプリートのクラッチドラムを示し、(a)は(b)のIV−IV線正面断面図、(b)は右側面図である。
図8】本発明の第1変形例に係るクラッチドラムコンプリートの構成を示す図であり、(a)は分解斜視図、(b)は組み合わせた状態を示す正面断面図である。
図9】本発明の実施形態に係るクラッチドラムコンプリートの第2変形例を示す図であり、(a)は分解斜視図、(b)は組み合わせた状態を示す正面断面図である。
図10】本発明の実施形態に係るクラッチドラムコンプリートのスプロケットの変形例を示し、(a)は(b)のV−V線正面断面図、(b)は右側面図である。
図11】本発明の実施形態に係るクラッチドラムコンプリートの第3変形例を示す図であり、(a)は分解斜視図、(b)は組み合わせた状態を示す正面断面図である。
図12】本発明の第3変形例に係るクラッチドラムコンプリートの製造方法を示す断面図であり、(a)はスプロケットを一方のかしめ治具に装着した状態、(b)はスプロケットにクラッチドラムをセットして他方のかしめ治具で挟んだ状態、(c)は凸状部をかしめた状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の実施形態に係るクラッチドラムコンプリート1の製造方法について、適宜図1から図5を参照しながら詳細に説明する。
クラッチドラムコンプリート1は、図1に示すように、クラッチドラム2と、このクラッチドラム2に一体として接合して回転駆動させる動力伝達部材であるスプロケット3(図2参照)と、を備えている。クラッチドラムコンプリート1は、チェンソー等に搭載される完成部品(搭載部品)であり、エンジン(不図示)から伝動軸11を介して伝達された駆動力を遠心クラッチ等のクラッチ装置12を介してクラッチドラム2からスプロケット3に伝達してチェン13を回転駆動させる装置である。
【0025】
本発明の実施形態に係るクラッチドラムコンプリート1の製造方法は、図5に示すように、クラッチドラム2の側面部21とスプロケット3の端面部31を溶着接合してクラッチドラムコンプリート1を製造する。
【0026】
なお、本実施形態では、動力伝達部材として多数の歯部34が形成されたギヤ部材であるスプロケット3を一例として説明するが、これに限定されるものではなく、ギヤ部材は平歯車等の歯車であってもよく、また動力伝達部材はギヤ部材でなくてもよく、ベルト等の環状伝達部材を介して動力が伝達されるプーリ等であっても同様に適用することができる。
【0027】
<クラッチドラム>
クラッチドラム2は、クラッチシュー等(不図示)のクラッチ装置11(図1参照)を構成する部材であり、図2に示すように、例えばプレス成形等によって有底のカップ形状をなして形成され、底部を構成する側面部21と、側面部21から連続して直交する軸方向に延びて形成された胴部を構成する円環状のドラム部22と、を備えている。
クラッチドラム2は、ドラム部22の内周部には図示しないエンジンの伝動軸11に装着されたクラッチシュー(不図示)が押し付けられて駆動力が伝達される。
【0028】
側面部21は、中心部(軸心部)に形成された貫通穴23と、この貫通穴23の内周部に形成された凹部24と、貫通穴23の内周部にバーリング加工によって形成されたフランジ部23aと、を備えている。
貫通穴23と凹部24は、例えば、プレス成形(ピアス加工)によって同時に打ち抜いて加工することができる。
【0029】
凹部24は、スプロケット3に形成された歯部34の基端部に適合するように、略台形形状をなして構成され、円周方向に沿って8等配に8箇所が配設されている。貫通穴23の内周部には、全周に渡り凹部24も含めてフランジ部23aが形成されている(図2(b)参照)。フランジ部23aは、軸方向に沿って延びるように形成され、貫通穴23と凹部24を形成するピアス加工の後、プレス成形によるバーリング加工によって成形することができる。貫通穴23の内周部および凹部24にフランジ部23aを形成することで、凹部24の剛性をより向上させて駆動トルクを確実に伝達することができる。
【0030】
図2(b)に二点鎖線(仮想線)で示したのは、スプロケット3の歯部34の形状であり、スプロケット3の歯部34の基端部の形状に対して凹部24の形状が適合して、凹部24にスプロケット3の歯部の根本部(基部)が嵌入されるようになっている(図5(b)参照)。
【0031】
なお、本実施形態においては、クラッチドラム2をプレス成形加工によって製作したが、これに限定されるものではなく、切削加工や鍛造成形で製作することもできる。
【0032】
<スプロケット>
スプロケット3は、図3(b)に示すように、外周部にチェン13(図1参照)に係合される多数の歯部34(本実施形態では8等配で8箇所)が形成されたギヤ部材である。
スプロケット3は、図3(a)に示すように、一方の端面部31(図の左の端面部)に形成された凸状溶着部32と、図示しない軸が嵌入される軸穴33と、を備えている。
【0033】
凸状溶着部32は、歯部34の先端部に形成され、歯部34の端面から軸方向に突出するように図示断面が直角三角形である略三角錐形状をなしている。凸状溶着部32は、電気抵抗溶接によって大電流が流れると、クラッチドラム2の側面部21とスプロケット3の端面部31との間に挟まれた状態で溶着されてクラッチドラム2の側面部21とスプロケット3の端面部31とを溶着接合する。
【0034】
また、スプロケット3の端面部31(図の左の端面部)には、軸方向に張り出したボス部31aが形成されている。このボス部31aをクラッチドラム2の貫通穴23に挿通した状態で(図5(b)参照)、クラッチドラム2の側面部21とスプロケット3の端面部31とが一体として接合される(図5(c)参照)。
【0035】
このため、ボス部31aの外周部は、クラッチドラム2の凹部23の台形形状に適合して嵌入できるように歯部34の根本部の形状に合致する台形形状の係合凸部31bが形成されている。
【0036】
続いて、クラッチドラムコンプリート1の製造方法について、主として図4図5を参照しながら説明する。
クラッチドラムコンプリート1の製造方法は、スプロケット3の端面部31に形成された凸状溶着部32をクラッチドラム2の側面部21とスプロケット3の端面部31との間に挟んだ状態で、いわゆるスポット溶接やプロジェクション溶接等の電気抵抗溶接によって、一方の電極81と他方の電極82との間に大電流を流して抵抗熱によりクラッチドラム2の側面部21とスプロケット3の端面部31とを溶着接合する。
一方の電極81は、図5(a)に示すように、スプロケット3を位置決めして載置する電極であり図の下方に配設され、セラミック材からなるガイド部材が上部にはめ込まれている。他方の電極82は、図5(b)に示すように、図の上方に配設されている。一方の電極81と他方の電極82で挟むようにして押圧しながら電気抵抗溶接をする。
【0037】
<位置決め工程>
具体的には、図5(a)に示すように、一方の電極81に凸状溶着部32が上に向くようにしてスプロケット3を載置した状態でスプロケット3のボス部31aとクラッチドラム2の貫通穴23とを軸心を合わせて位置決めする(図4参照)。
【0038】
<溶着接合工程>
図5(b)に示すように、クラッチドラム2を図の下方に移動させて、スプロケット3のボス部31aにクラッチドラム2の貫通穴23を嵌入する。このとき、スプロケット3の係合凸部31bにクラッチドラム2の凹部24が嵌合される。
スプロケット3の端面部31に形成された凸状溶着部32がクラッチドラム2の側面部21とスプロケット3の端面部31との間に挟まれた状態で電気抵抗溶接が行われる。
【0039】
溶着接合工程では、電気抵抗溶接によって、クラッチドラム2の側面部21とスプロケット3の端面部31とを一方の電極81と他方の電極82で外側から挟むようにして押圧しながらクラッチドラム2の側面部21とスプロケット3の端面部31とを溶着接合する。
【0040】
本発明の実施形態に係るクラッチドラムコンプリート1は、図5(c)に示すように、クラッチドラム2の側面部21とスプロケット3の端面部31とが溶着接合部320を介して強固に溶着接合されている。
溶着接合部320は、電気抵抗溶接によって凸状溶着部32が溶着され、この凸状溶着部32が溶着される際にクラッチドラム2の側面部21の表面とスプロケット3の端面部31の表面とが溶け込んで分子間レベルで混合された溶融混合部である。
【0041】
以上のように構成された本発明の実施形態に係るクラッチドラムコンプリート1の製造方法は、以下のような作用効果を奏する。
溶着接合部320は、電気抵抗溶接によって凸状溶融部32が溶融され、クラッチドラム2の側面部21の表面とスプロケット3の端面部31の表面とが押圧されながら溶融されて混合された溶融混合部であるから、高い接合強度を有する。
【0042】
また、クラッチドラム2の側面部21とスプロケット3の端面部31との間に溶着接合部320が密着して介在されることで、凸状溶融部32の体積を適宜設定して十分な接合面積を確保することができる。
【0043】
したがって、クラッチドラムコンプリート1の製造方法は、チェンソー等のように、エンジンによる駆動トルクや負荷が急激に変動して過酷な使用条件にさらされるチェンソー等のクラッチドラム2とスプロケット3との接合手段として好適に適用することができる。
【0044】
また、スプロケット3の端面部31に凸状溶融部32を形成するという簡易な加工形態を採用しているため、加工工数および製造工程を効果的に抑制することができる。
【0045】
なお、本実施形態においては、クラッチドラム2をプレス成形等によって成形し、スプロケット3の端面部32に凸状溶融部32を形成したが、これに限定されるものではなく、スプロケット3の端面部32に形成せずにクラッチドラム2の側面21に凸状溶融部を形成してもよいし、スプロケット3の端面部32とクラッチドラム2の側面21の両方に凸状溶融部を形成してもよい。
【0046】
また、本実施形態においては、スプロケット3のボス部31aにクラッチドラム2の貫通穴23を嵌入し、スプロケット3の係合凸部31bとクラッチドラム2の凹部24が嵌合され、クラッチドラム2の内周部および凹部24にはフランジ部23aが形成されているため、より高い廻り止め機能を付加することができるが、これに限定されるものではなく、クラッチドラム2や動力伝達部材に作用する駆動トルク等の使用条件に応じて適宜設計変更することが望ましい。以下、本発明の実施形態に係るクラッチドラムコンプリート1の変形例1から変形例3について説明する。
【0047】
本発明の実施形態に係るクラッチドラムコンプリート1の変形例1について、主として図6から図8を参照しながら説明する。変形例1に係るクラッチドラムコンプリート1Aは、前記した実施形態におけるクラッチドラムコンプリート1がスプロケット3の端面部31に凸状溶着部32を形成しているのに対し、スプロケット3Aには凸状溶着部を設けずにクラッチドラム2Aの側面部21Aに半球形の凸状溶着部21aを形成している点、およびクラッチドラム2Aの貫通穴23Aおよび凹部24にフランジ部を設けていない点で前記した実施形態と相違する。
【0048】
変形例1に係るクラッチドラムコンプリート1Aの説明においては、主として前記したクラッチドラムコンプリート1との相違点について説明し、クラッチドラムコンプリート1と同様の構成については同じ符号を付して重複する説明は省略する。
【0049】
クラッチドラムコンプリート1Aのクラッチドラム2Aは、図6に示すように、側面部21Aの中心部(軸心部)に形成された貫通穴23Aと、この貫通穴23Aよりも径方向外側に形成された半球形の凸状溶着部21aと、貫通穴23Aの内周部に形成された凹部24と、を備えている。
【0050】
半球形の凸状溶着部21aは、スプロケット3Aの端面部31Aの方向に張り出した突起であり、軸方向の内周部側はへこみ形状をなして形成されている。凸状溶着部21aは、前記した実施形態におけるスプロケット3の端面部31に設けられた凸状溶着部32に相当し同様の作用効果を奏するため、重複する説明は省略する。
【0051】
スプロケット3Aは、図7(a)に示すように、端面部31Aにボス部31aが形成されているが、歯部34の端面先端部には凸状溶着部は形成されていないため平面をなしている。このため、図8(b)に示すように、スプロケット3Aの歯部34の端面先端部がクラッチドラム2Aの側面部21Aに形成された半球形の凸状溶着部21aに当接した状態で、電気抵抗溶接によって半球形の凸状溶着部21aが溶着されて溶着接合部(不図示)を形成することで、スプロケット3Aの側面部31Aがクラッチドラム2Aの側面部21Aに溶着接合される。
なお、半球形の凸状溶着部21aが溶着されて形成される溶着接合部(不図示)は、図5(c)に示す溶着接合部320と同様の構成であるので詳細な説明は省略する。
【0052】
続いて、本発明の実施形態に係るクラッチドラムコンプリート1の変形例2について、主として図9を参照しながら説明する。変形例1に係るクラッチドラムコンプリート1Bは、主として前記した実施形態におけるクラッチドラム2の内周部、およびスプロケット3のボス部31aの形態が相違する。
【0053】
クラッチドラムコンプリート1Bのクラッチドラム2Bは、図9に示すように、貫通穴23Bが円形に形成されている点で、凹部24が形成されたクラッチドラム2(図4参照)と相違する。そして、スプロケット3Bは、ボス部31aBが貫通穴23Bに適合する円環状の形状をなしている点で、ボス部31aの外周部に係合凸部31bが形成されたスプロケット3(図4参照)と相違する。
【0054】
クラッチドラムコンプリート1Bの製造方法は、クラッチドラムコンプリート1と同様であるので重複する説明は省略するが、同様に電気抵抗溶接によって凸状溶融部32が溶融され、クラッチドラム2Bの側面部21Bの表面とスプロケット3Bの端面部31Bの表面とが押圧されながら溶融されて混合された溶着接合部(不図示)が形成され、高い接合強度を有し、廻り止め機能をも発揮する。
【0055】
したがって、クラッチドラムコンプリート1Bの製造方法は、チェンソー等のように、エンジンによる駆動トルクや負荷が急激に変動して過酷な使用条件にさらされるチェン送等のクラッチドラム2Bとスプロケット3Bとの接合手段としても好適に適用することができる。
【0056】
以上、本発明の実施形態と変形例について説明したが、本発明は前記した実施形態等に限定されず、適宜変更して実施することが可能である。
例えば、前記した実施形態に係る凸状溶融部32(図3(a)参照)は、歯部34の端面から軸方向に突出するように図示断面が直角三角形である略三角錐形状をなして形成したが、これに限定されるものではなく、図10(a)に示すように、図示断面が不等辺三角形である略三角錐形状をなして形成してもよい。要するに、凸状溶融部の形状は、動力伝達部材の形状、加工のしやすさ、溶着接合部320(図5(c)参照)の形態等を考慮して適宜設定される。
【0057】
〈第3変形例〉
また、前記した実施形態に係るクラッチドラムコンプリート1の製造方法では、電気抵抗溶接によって側面部21と端面部31とを押圧しながら突起部32を溶融して、突起部32とクラッチドラム2の内周面とを溶着接合部320(図5(c)参照)を介して溶融接合したが、変形例3に係るクラッチドラムコンプリート1Cは、側面部21Cと端面部31Cとを溶着接合部320(図5(c)参照)によって溶融接合するのではなく、図11図12に示すように、単に凸状部である突起部32Caをかしめてクラッチドラム2Cとスプロケット3Cとを一体として回転可能に固定してもよい。
なお、図13図14に示すクラッチドラムコンプリート1Eおいて、前記した実施形態における第3変形例に係るクラッチドラムコンプリート1Cと同様の構成については同じ符号を付して詳細な説明は省略する。
【0058】
クラッチドラムコンプリート1Cは、図11に示すように、クラッチドラム2Cの側面部21Cに形成された略三角形の廻り止め止め穴21Caと、この廻り止め穴21Caに適合しスプロケット3の端面部に形成された凸状部である断面が略三角形の突起部32Caと、を備えている。
【0059】
クラッチドラムコンプリート1Cの製造方法は、突起部32Caをかしめてクラッチドラム2Cとスプロケット3Cとを一体として回転可能に固定することで、突起部32Caが廻り止め穴21Caに嵌合して係合されるため、クラッチドラムコンプリート1(図5(c)参照)と同様の廻り止め機能を付加することができる。
【符号の説明】
【0061】
1,1A,1B,1C クラッチドラムコンプリート
2,2A,2B,2C クラッチドラム
3,3A,3B,3C スプロケット(動力伝達部材)
12 クラッチ装置
21,21A,21B,21C 側面部
21a 凸状溶融部
21Ba 廻り止め穴
23,23A,23B,23C 貫通穴
23a フランジ部
24 凹部
31,31A,31B,31C 端面部
31a,31aB ボス部
31b 係合凸部
32,32C 凸状溶融部
32Ca 突起部(凸状部)
34 歯部
81,82 電極
320 溶着接合部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12