特許第6069306号(P6069306)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6069306
(24)【登録日】2017年1月6日
(45)【発行日】2017年2月1日
(54)【発明の名称】内燃機関
(51)【国際特許分類】
   F02B 75/28 20060101AFI20170123BHJP
   F02B 75/24 20060101ALI20170123BHJP
   F02B 75/32 20060101ALI20170123BHJP
   F02M 53/04 20060101ALI20170123BHJP
   F02M 61/14 20060101ALI20170123BHJP
【FI】
   F02B75/28 A
   F02B75/28 D
   F02B75/28 E
   F02B75/24
   F02B75/32 D
   F02M53/04 A
   F02M61/14 310D
   F02M61/14 310L
【請求項の数】14
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-511952(P2014-511952)
(86)(22)【出願日】2012年5月24日
(65)【公表番号】特表2014-515453(P2014-515453A)
(43)【公表日】2014年6月30日
(86)【国際出願番号】GB2012051161
(87)【国際公開番号】WO2012160376
(87)【国際公開日】20121129
【審査請求日】2015年4月8日
(31)【優先権主張番号】1108766.5
(32)【優先日】2011年5月24日
(33)【優先権主張国】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】513295397
【氏名又は名称】コックス パワートレイン リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 強
(72)【発明者】
【氏名】バックセー, クリスチャン
【審査官】 瀬戸 康平
(56)【参考文献】
【文献】 英国特許出願公告第00520243(GB,A)
【文献】 英国特許出願公告第00476386(GB,A)
【文献】 特表2010−529353(JP,A)
【文献】 英国特許出願公告第00565150(GB,A)
【文献】 独国特許出願公開第02744686(DE,A1)
【文献】 国際公開第93/022551(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01B 7/02
F02B 75/28
DWPI(Thomson Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのシリンダと、
前記シリンダ内の対向する往復動ピストンの対であって、それらの間に燃焼室を形成するピストンの対と、
少なくとも一部が前記シリンダ内に配置された少なくとも1つの燃料噴射器であって、前記燃料噴射器が、前記燃焼室内に配置されるノズルであってそれを通じて燃料が前記燃焼室内に放出されるノズルを有する、少なくとも1つの燃料噴射器と、
を含み、
前記燃料噴射器の前記ノズルは、前記噴射器のハウジングの端面から外側に向かって、前記シリンダの軸線の方向に突出して、前記燃焼室内に直接露出し、
前記ノズルは、その周縁部の周りに、一連の孔であってそこから前記燃焼室内に略放射状に前記燃料が放出される一連の孔を有する、内燃機関。
【請求項2】
少なくとも1つのシリンダと、
前記シリンダ内の対向する往復動ピストンの対であって、それらの間に燃焼室を形成するピストンの対と、
少なくとも一部が前記シリンダ内に配置された少なくとも1つの燃料噴射器であって、前記燃料噴射器が、前記燃焼室内に配置されるノズルであってそれを通じて燃料が前記燃焼室内に放出されるノズルを有する、少なくとも1つの燃料噴射器と、
を含み、
前記ノズルが前記燃焼室内に直接露出し、
前記燃料噴射器が、前記シリンダの一端において固定されており、かつその端部から、前記シリンダ内に、前記シリンダの中心軸線に沿ってまたは前記シリンダの前記中心軸線と平行して突出し、前記燃焼室の容積がその最小であるときに、前記噴射器のノズルを前記燃焼室内の固定位置に配置する、内燃機関。
【請求項3】
前記噴射器が、当該噴射器が突出する前記シリンダの端部に最も近接する前記ピストンを貫通し、このピストンが前記噴射器のハウジングに沿って往復運動するように構成されている、請求項に記載の内燃機関。
【請求項4】
少なくとも1つのシリンダと、
前記シリンダ内の対向する往復動ピストンの対であって、それらの間に燃焼室を形成するピストンの対と、
少なくとも一部が前記シリンダ内に配置された少なくとも1つの燃料噴射器であって、前記燃料噴射器が、前記燃焼室内に配置されるノズルであってそれを通じて燃料が前記燃焼室内に放出されるノズルを有する、少なくとも1つの燃料噴射器と、
を含み、
前記ノズルが前記燃焼室内に直接露出し、
前記シリンダの軸線に垂直な平面内における動きを可能にするが、前記シリンダの軸線の方向における動きを制限するカップリング内に、前記噴射器が保持されている、内燃機関。
【請求項5】
少なくとも1つのシリンダと、
前記シリンダ内の対向する往復動ピストンの対であって、それらの間に燃焼室を形成するピストンの対と、
少なくとも一部が前記シリンダ内に配置された少なくとも1つの燃料噴射器であって、前記燃料噴射器が、前記燃焼室内に配置されるノズルであってそれを通じて燃料が前記燃焼室内に放出されるノズルを有する、少なくとも1つの燃料噴射器と、
前記シリンダの一端に配置されたクランクシャフトと、
を含み、
前記ノズルが前記燃焼室内に直接露出し、
前記ピストンの往復運動が前記クランクシャフトを駆動し、前記燃料噴射器が前記クランクシャフトから最も遠い外側ピストンと対応付けられている、内燃機関。
【請求項6】
前記対向する前記ピストンの往復運動を前記クランクシャフトの回転運動に変換するために前記ピストンを前記クランクシャフトに連結するドライブリンクをさらに含む、請求項に記載の内燃機関。
【請求項7】
前記ドライブリンクが複数のスコッチヨーク機構を含む、請求項に記載の内燃機関。
【請求項8】
少なくとも1つのスコッチヨークであって、それを介して内側ピストンがクランクシャフトを駆動する、少なくとも1つのスコッチヨークと、前記シリンダの各側に1つずつ設けられた少なくとも2つのスコッチヨークであって、それを介して前記外側ピストンが前記クランクシャフトを駆動する少なくとも2つのスコッチヨークとを含む、請求項に記載の内燃機関。
【請求項9】
前記スコッチヨークの対が、前記シリンダの両側の各々の連結部材によって前記外側ピストンに連結されており、前記連結部材が前記シリンダの外部にある、請求項に記載の内燃機関。
【請求項10】
少なくとも1つのシリンダと、
前記シリンダ内の対向する往復動ピストンの対であって、それらの間に燃焼室を形成するピストンの対と、
前記シリンダの中心軸線上にまたは前記シリンダの前記中心軸線と平行して配置され、燃料を前記燃焼室内に噴射するように構成されている少なくとも1つの燃料噴射器と、
を含み、
前記ピストンが各々のドライブリンクを介して前記シリンダの一端に配置されたクランクシャフトを駆動し、前記クランクシャフトから最も遠い前記ピストンの前記ドライブリンクが、前記シリンダの外部にある、内燃機関。
【請求項11】
前記クランクシャフトから最も遠い前記ピストンが一対のスコッチヨークを介して前記クランクシャフトを駆動し、かかる一対のスコッチヨークは、前記シリンダの両側に1つずつ設けられていて、前記外部のドライブリンクによって前記クランクシャフトから最も遠い前記ピストンに連結された、請求項10に記載の内燃機関。
【請求項12】
前記外部のドライブリンクが、前記シリンダの両側の1つまたは複数のドライブロッドを含む、請求項11に記載の内燃機関。
【請求項13】
少なくとも2つの同軸上に対向するシリンダと、
前記シリンダ内の対向する往復動ピストンの対であって、それらの間に燃焼室を形成するピストンの対と、
少なくとも一部が各シリンダ内に配置された燃料噴射器であって、前記燃料噴射器が、前記燃焼室内に配置されるノズルであってそれを通じて燃料が前記燃焼室内に放出されるノズルを有する、燃料噴射器と、
を含み、
前記ノズルが前記燃焼室内に直接露出し、
各シリンダが対向ピストンの対を有し、前記ピストンの全てが、前記2つのシリンダ間に配置された1つのクランクシャフトを駆動する、内燃機関。
【請求項14】
同軸上に対向するシリンダの2つの対を含み、前記シリンダの対が水平対向4気筒構成において互いに隣接して配置され、各シリンダが対向ピストンの対を有し、前記ピストンの全てが、各対の前記2つのシリンダ間に配置された1つのクランクシャフトを駆動する、請求項13に記載の内燃機関。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は内燃機関に関する。特にこれは、対向ピストン構成を有する内燃機関に関する。
【背景技術】
【0002】
国際公開第2008/149061号パンフレット(Cox Powertrain)は2気筒2ストローク直噴式内燃機関について記載している。2つのシリンダは水平に対向し、各シリンダ内には対向する往復動ピストンがあり、それらの間に燃焼室が形成される。ピストンは2つのシリンダの間の中央クランクシャフトを駆動する。各シリンダ内の内側ピストン(すなわちクランクシャフトにより近いピストン)が一対の並列のスコッチヨーク機構を介してクランクシャフトを駆動する。各シリンダの外側ピストンが、内側ピストンの2つのスコッチヨーク機構の間に入れ子状になっている第3のスコッチヨークを介して、クランクシャフトを、内側ピストンの中心を通るドライブロッドによって駆動する。ドライブロッドは中空管状形態を有し、ドライブロッド内に収容される燃料噴射器によって燃料が燃焼室に噴射される。ドライブロッドの壁は一連の周方向に離間した孔を有し、それを通じて、側方に外側に向かって燃焼室内に燃料が放出される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、概して、シリンダ内の2つの対向する往復動ピストン間に形成された燃焼室内に燃料を直接噴射するために各シリンダ内に配置された燃料噴射器を有する対向ピストン式内燃機関に関する。本発明は、国際公開第2008/149061号パンフレットに記載されているエンジンの構成を発展させたものであり、この先行エンジンの利点、すなわち、重量に対して高いパワー出力の比率を有する非常にコンパクトかつ効率的なエンジンという利点を有するとともに、さらに一層の利点をもたらす実施形態を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
第1の態様では、本発明は、少なくとも1つのシリンダと、シリンダ内の対向する往復動ピストンの対であって、それらの間に燃焼室を形成するピストンの対と、少なくとも一部がシリンダ内に配置された少なくとも1つの燃料噴射器と、を含み、燃料噴射器が、燃焼室内に配置されるノズルであってそれを通じて燃料が燃焼室内に放出されるノズルを有し、ノズルは燃焼室内に直接露出する、内燃機関を提供する。
【0005】
噴射のときに噴射器のノズルを直接燃焼室に露出させる(すなわちノズルを燃焼室内に物理的に配置する)ことによって、噴射器が中央ドライブロッド内に収容される上記の先行技術の配置とは対照的に、壁の孔を通じて燃料を噴射する必要がなくなる。これにより、よりシンプルな構造、燃料噴射、空気運動および燃焼特性の向上につながり、より多くの従来の噴射器を使用することが可能になる。
【0006】
特に、噴射器を1つのみ用いる場合、噴射器は、好ましくは、シリンダ/ピストンの中心軸線にまたはその近傍にある。噴射器ノズルは、通常、噴射器の一端(シリンダ内に突出する端部)にある。
【0007】
本発明の概念は、圧縮点火(CIおよびHCCI)エンジン、さらにスパーク点火(SI)エンジンやスパークアシスト式点火エンジンにも適用可能である。CIの実施形態においては、燃料は、通常、2つのピストンが最も近づき燃焼室容積が最小となるエンジンサイクルの時点またはその近傍において燃焼室に噴射される。噴射器のノズルは、サイクルのこの時点において燃焼室内に位置するように配置される。HCCIおよびSIの別例では、噴射がサイクル内のかなり早い段階となる傾向があり、場合により吸気ポートの開口と同じ程度に早くなる。
【0008】
燃料噴射器のノズルは、好ましくは、噴射器のハウジングの端面から外側に向かってシリンダ軸線の方向に突出する。ノズルはその周縁部の周りに一連の孔を有してもよく、そこから燃焼室内に略放射状に燃料が放出される。好ましくは、ノズル内に、孔への燃料の加圧供給を制御するよう作動可能な弁(例えば針弁)がある。燃料の供給は従来の手法で制御することができる。
【0009】
いくつかの実施形態では、燃料噴射器は、シリンダの一端の、固定された構造部品に通常は固定されており、その端部から、シリンダの中心軸線に沿ってまたはシリンダの中心軸線と平行してシリンダ内に突出し、エンジンサイクル全体を通じて燃焼室内である固定位置に噴射器ノズルを配置する。この場合、噴射器が突出するシリンダの端部に最も近接するピストンを噴射器が貫通し、このピストンは噴射器のハウジングに沿って往復運動するように構成されている。
【0010】
別の配置では、燃料噴射器はピストンの1つとともに動く。それは、ピストンに固定してピストンの全行程を通じてそれとともに動くようにしてもよく、またはその代わりに、その行程の一部のみピストンとともに動かしてもよい。
【0011】
通常、ピストンの運動がシリンダの一端に配置されたクランクシャフトを駆動する。シリンダのクランクシャフト端に最も近いピストンは「内側ピストン」と称され、クランクシャフトから最も遠いピストンは「外側ピストン」と称される。この燃料噴射器または各燃料噴射器を外側ピストンまたは内側ピストンのいずれかと対応させてもよい。
【0012】
特に、噴射器が固定されており、対応する(例えば外側)ピストンが噴射器ハウジングに沿って往復運動する場合、噴射器は冷却されることが好ましい。例えば、噴射器ハウジングの内部への冷却液(例えば、エンジンオイル、エンジン冷却液、海水などの原水冷却、または燃料)の供給によって冷却を提供することができる。
【0013】
ピストンの1つが噴射器ハウジング上で往復運動する場合、噴射器ハウジングの外側表面は、好ましくは、滑動面を提供し、それに沿ってピストンは摺動することができる。燃焼ガスの漏れおよび燃焼室への潤滑油の移入を制限するためにピストンと噴射器ハウジングの滑動面との間にシールシステム、例えば、1つまたは複数のシールリングが設けられる。
【0014】
噴射器は任意の適切なカップリングによってエンジン構造の外側部分に固定してもよい。場合よっては、噴射器がシリンダの中心線と平行に自己調心すること、および噴射器が対応付けられたピストンの公差および熱ひずみを吸収することを可能にする、カップリングを使用することが望ましい場合がある。例えば、オルダム継ぎ手を使用してもよい(このタイプのカップリングは、噴射器がその軸線に垂直な平面内において動くことを可能にして所望のアライメントを可能にする一方でその軸線に沿った動きを妨げる)。
【0015】
ピストンがクランクシャフトを駆動する場合、対向するピストンの往復運動をクランクシャフトの回転運動に変換するために任意の適切なドライブリンクを使用してもよい。しかしながら、好適な実施形態では、スコッチヨーク機構が使用される。スコッチヨーク機構が使用される場合、最低限、少なくとも1つのスコッチヨークであって、それを介して内側ピストン(すなわち、クランクシャフトに最も近いピストン)がクランクシャフトを駆動する少なくとも1つのスコッチヨークと、少なくとも1つのスコッチヨークであって、それを介して外側ピストンがクランクシャフトを駆動する少なくとも1つのスコッチヨークと、を有している必要がある。しかしながら、シリンダを貫通する中央ドライブロッドの必要をなくす一方で望ましくない不均衡な力が外側ピストンにかかることを避けるため、シリンダの両側の各々の連結部材によって外側ピストンに連結されている、シリンダの両側に1つずつ設けられた一対のスコッチヨークを介して、外側ピストンがクランクシャフトを駆動することがより好ましい。連結部材は、例えば、シリンダの周縁部にあるまたはシリンダの周縁部の近傍にある、シリンダ内のロッドまたはスリーブ部であってもよい。より好ましくは、連結部材はシリンダの外部にある。それらは、例えば、1つまたは複数のドライブロッドを含んでもよい。
【0016】
第2の態様では、本発明は、少なくとも1つのシリンダと、シリンダ内の対向する往復動ピストンの対であって、それらの間に燃焼室を形成するピストンの対と、シリンダの中心軸線上にまたはシリンダの中心軸線と平行して配置された、燃料を燃焼室内に噴射するように構成された少なくとも1つの燃料噴射器と、を含み、ピストンは、シリンダの一端に配置されたクランクシャフトを、各々のドライブリンクを介して駆動し、クランクシャフトから最も遠いピストン(「外側」ピストン)のドライブリンクはシリンダの外部にある、内燃機関を提供する。
【0017】
シリンダの外部に外側ピストンのためのリンクを提供することによって、任意のドライブロッドを内部シリンダに通す必要がなくなる。燃焼室を通る1つまたは複数のドライブロッドがないことにより、より簡単明瞭な従来の燃焼室の設計、内側ピストンのより簡便な冷却、クランクケースへのブローバイ経路の排除およびドライブロッドへの熱損失の排除も可能になる。外部リンクの使用は、また、支障なく噴射器をピストンに対して中心に(またはピストンの中心の近傍に)配置できることを意味する。
【0018】
上記の第1の態様の実施形態と同様に、対向するピストンの往復運動をクランクシャフトの回転運動に変換するために任意の適切なドライブリンクを使用してもよいが、スコッチヨーク機構が好適である。例えば、外側ピストンは、外部ドライブリンクによって外側ピストンに連結された、シリンダの両側に1つずつ設けられた一対のスコッチヨークを介してクランクシャフトを駆動してもよい。外部ドライブリンクは、シリンダの両側への連結部材、例えば、1つまたは複数のドライブロッドを含んでもよい。
【0019】
単気筒構成は可能ではあるが、本発明の第1の態様および/または第2の態様の実施形態による好適なエンジンは、例えば、2つのシリンダ、4つのシリンダ、6つのシリンダ、8つのシリンダまたはそれを超える複数のシリンダを含む。
【0020】
複数のシリンダが使用される場合、力の均衡、エンジンの全体の形状およびサイズ等の点において種々の利点を提供しうる種々の構成が可能である。例示的な構成には、同軸対向シリンダの対(例えば、「水平対向2気筒」、「水平対向4気筒」等)、シリンダの全てが並んだ「直列」型、2つの直列するシリンダバンクが並列する「U」型(例えば「スクエア4」)、「V」型および「W」型(すなわち「V」を構成するシリンダバンクが2つ隣接する)およびラジアル型を含む(が、それらに限定されない)。型に応じて、複数のシリンダは単一のクランクシャフトまたは複数のクランクシャフトを駆動してもよい。通常、「水平」型、「直列」型、「V」型およびラジアル型が1つのクランクシャフトを有する一方で、「U」型および「W」型はシリンダの各バンクに1つの、2つのクランクシャフトを有する。本発明のいくつかの実施形態では、ベベルギヤボックスを介して共通の出力軸を駆動する逆回転するクランクシャフトを備えた2つのエンジンユニットを使用することが可能である(それぞれが1つまたは複数のシリンダを備える)。この配置はトルクの反動による影響が均衡するという利点を有する。
【0021】
ここで、本発明の実施形態を例として添付の図面を参照して記載する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の一実施形態による水平対向4気筒エンジン構成の断面図である。
図2図1の線z−zに沿った図1のエンジンの断面図である。
図3図1に示される最も下の対向シリンダ対の中心線に沿った図1のエンジンの断面図である。
図4図1のエンジンの等角図である。
図5】クランクシャフトと、スコッチヨークと、ピストンと、ドライブロッドと、燃料噴射器と、を含む、図1のエンジンの(組み立てられた形態の)主要構成要素の簡略平面図である。
図6図5に示される主要構成要素の簡略等角図である。
図7a】図の左下に示されるシリンダの最小燃焼室容積(以下では利便性のため「上死点」または「TDC」と呼ばれる。この専門用語(TDC)が使用される理由は、当業者であれば、そこが、より慣例的に配置されたエンジンの動作サイクル内の類似箇所であると理解するからである)のサイクルの時点から開始する、クランクシャフトの1回の全回転(one complete revolution)中の0°、30°、60°、90°、120°、150°、180°、210°、240°、272°、300°、330°、360°のそれぞれにおける図1のエンジンのスナップショットを示す。
図7b】同上。
図7c】同上。
図7d】同上。
図7e】同上。
図7f】同上。
図7g】同上。
図7h】同上。
図7i】同上。
図7j】同上。
図7k】同上。
図7l】同上。
図7m】同上。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明を例示するためにここで使用する実施形態は2ストローク、直噴式、4気筒エンジンである。エンジンは2つの水平に対向するシリンダの対を備えて構成されている。シリンダの1つの対が、もう一方の対に並んで配置されており、「水平対向4気筒」構成を形成する。図4に最も良く示されると思われるように、この構成は、いくつかの用途において、例えば、船舶用船外エンジンとしての使用において、エンジンに有利な低背高の全体的な筐体を提供する。本発明の実施形態によるエンジンは、他の海洋用途ならびに陸上用車両および航空機用の推進ユニットまたは発電ユニットとしても使用することができる。
【0024】
より詳細には、まず図1〜3を見ると、エンジン10は、軸線z−z(図1を参照)を中心とした回転用に取り付けられた中央クランクシャフト14の周りに配置された4つのシリンダ12を含む。図1の下の、1つがクランクシャフトのいずれかの側にある2つのシリンダは1つの対向するシリンダの対であり、図1の上の方の別の2つのシリンダは対向するシリンダのもう一方の対である。
【0025】
各シリンダ内には内側ピストン16および外側ピストン18の2つのピストンがある。各シリンダ内の2つのピストンは互いに対向し、この例では180度の位相ずれで反対方向に往復運動する。
【0026】
各ピストンはクラウン20、22と、クラウンから垂下するスカート24、26とを有し、2つのピストンのクラウンは互いに面している。この例では、外側ピストンのクラウン26はほぼ平坦である一方で、内側ピストンのクラウン24は略涙滴形状の断面を有する環状のへこみを有する。上死点において、ピストンクラウンが互いに最も接近する(およびほぼ接触しそうな)とき、対向するクラウン24、26は燃料が中に噴射されるトロイダル燃焼室28を画定する。
【0027】
以下にさらにより詳細に説明するように、ピストンが、それらが互いから最も遠く離れて配置され、それらのサイクル内の、シリンダ内における最大収容容積(「下死点」)を画定する位置にある場合、図1の左上のシリンダおよび右下のシリンダに見られるように、ピストンクラウンはシリンダの内側端部および外側端部それぞれに向かって十分に遠くに後退し、吸気ポート30および排気ポート32を露出させる。サイクルの圧縮行程においてピストン16、18が互いの方に動くと、ピストンスカートがポートをカバーして閉じ、内側ピストン16のスカート24が吸気ポート30を閉じて、外側ピストン18のスカート26が排気ポート32を閉じる。図1および図2において最も良くわかるように、排気ポート32は、吸気ポートよりも長い軸方向の長さ(すなわち、シリンダの長手方向の軸線の方向における寸法)を有するため、排気ポートは吸気ポートよりも早く開き、吸気ポートよりも長く開いたままとなり、シリンダの掃気を助ける。
【0028】
各シリンダ12に対応付けられるのは燃料噴射器34である。燃料噴射器34は一端に噴射器ノズル38を備えた円筒状のハウジング36を有する。従来の手法で、燃料が圧力下において噴射器ハウジングを通じてノズルに供給される。ノズル38は噴射器ハウジング36の端面から突出し、その周縁部の周りに等しく間隔をおいて配置された一連の孔を有し、それを通じて燃料が略径方向に噴射される。ノズルは針弁(図示せず)によって開閉される。針弁が開くと、燃料が孔を通じて圧力下で噴射される。針弁の開閉は従来の手法で制御することができる。使用時、噴射器ハウジングはクーラント流体の供給によって冷却されてもよい。クーラント流体は、例えば、燃料自体であってもエンジンクーラントであってもよい(しかし、場合よってはこれを必要としなくてもよい)。
【0029】
燃料噴射器34はシリンダ12の中心軸線に沿って取り付けられている。この例では、噴射器34の外側端部はシリンダの外側端部(すなわち、クランクシャフト14と逆側のシリンダの端部)の構成要素40に固定されている。噴射器34が外側ピストンクラウン22の中心開口部42を貫いて延び、噴射器の内側端部(そこからノズル38が突出する)がシリンダ12内の中心に配置される。より具体的には、図1の左下のシリンダおよび右上のシリンダならびに図2の左側のシリンダにおいて見られるように、ピストン16、18が上死点にある場合、燃料噴射器34のノズル38は直接トロイダル燃焼室28内にあり、燃料をノズル38から燃焼室28内に側方に噴射することができる。
【0030】
ここで記載される中心噴射器配置では、噴射器34は所定の位置に固定されており、エンジン10の動作中、外側ピストン18は噴射器ハウジング36の外側に沿って移動する。ピストン18が噴射器ハウジング36に沿って前後に往復運動するときに、シリンダ内部からの加圧ガスの漏洩を防止または少なくとも最小にするために、および燃焼室へのオイルの移入を防止するために、ピストンクラウン22と噴射器ハウジング36との間のシールを維持するため、外側ピストンクラウン22の開口部42の周縁部の周りに適切なシール44が設けられる。
【0031】
噴射器ハウジングの外部表面がピストン18との摺接を可能にするように構成されることを除いては、燃料噴射器34自体は従来の構造のものとすることができる。通常、燃料スプレーは、噴射器のノズルの周りにおいて離間し、かつ単一弁配置(例えば、針が係合して弁を閉じる針および弁座を含む針弁配置)によって制御される複数の放射状の噴流の形態をとる。燃料噴射器は、例えば、外側ハウジングであってピストンがそれに沿って摺動する外側ハウジングを提供するスリーブ内に収容された従来の噴射器であってもよい。この配置では、従来の噴射器のノズルはスリーブの一端から突出する。噴射器はスリーブ内においてクーラントによって囲まれてもよいが、これはいくつかの実施形態では必要としなくてもよい。あるいは、その外側において滑動面、および、任意選択で、内部冷却を提供する本体を有する特注の噴射器を使用してもよいが、この場合、内部構成要素はなお従来のものであってもよい。
【0032】
この例では、ピストン16、18はクランクシャフト14上の各々の偏心輪58に取り付けられた4つのスコッチヨーク配置50、52、54、56を通じてクランクシャフト14を駆動する。ピストン16、18とスコッチヨーク50、52、54、56との間の連結部、特に、外側ピストン18のものが図5および図6において最も良く示される。この例では、以下により詳細に説明されるように、スコッチヨークの数を最小限にし、したがって、クランクシャフトに必要な長さを最小化してよりコンパクトな設計を提供するために、スコッチヨークが複数のピストンによって共有されている。
【0033】
以下および本明細書中の別の場所で使用される方向/相対的な位置(「上」、「下」、「左」、「右」等)は描かれた構成要素の相対的な位置を意味し、空間内におけるエンジンの任意の特定の向きまたはエンジン構成要素上の位置を意味するものと解釈すべきではない。
【0034】
図5を見ると、図の中央に垂直方向に延びるクランクシャフト14に連結された4つのスコッチヨーク50、52、54、56を見ることができる。
【0035】
図5の上部の)第1のスコッチヨーク50は隣接するクランクシャフト14の一端に連結されている。(図5に見られるように)ドライブロッド60はこのヨーク50を2つの上側シリンダ12a、12bの外側ピストン18a、18bに連結している。図6で最も良くわかるように、外側ピストン18a、18bにつき2つのドライブロッド60があり、これらは、ピストン18a、18bにそれ自体が固定された連結プレート72a、72bの、隣接する角(図1のクランクシャフトの上端部の方の最も上の角)に固定されている。ドライブロッド60がプレート72a、72bの角からシリンダの外側に沿って(すなわち外部に)延びるように、連結プレート72a、72bはシリンダ12の外周を越えて延びている。
【0036】
第2のスコッチヨーク52が2つの上側シリンダ12aと12bとの間に配置され、各々のドライブロッド62によってこれら2つのシリンダの内側ピストン16a、16bに連結されている(図1に最も明確に示される)。ドライブロッド62は内側ピストン16a、16bの中心からそれらのスコッチヨーク52との連結部まで延びている。有利には、第2のスコッチヨーク52はドライブロッド64によって下側の外側ピストン18c、18dの対にも連結されている。上述のドライブロッド60と同様に、外側ピストン18c、18dの外側端部に固定された各々の連結プレート72c、72dの隣接する角(この場合、クランクシャフトの中間点に最も近い2つの角)から延びるこれらロッド64の2つがピストン毎にある。
【0037】
第3のスコッチヨーク54は2つの下側シリンダ12cと12dとの間に配置されており、各々のドライブロッド66によってこれら2つのシリンダの内側ピストン16a、16bに連結されている(同じく図1に最も明確に示される)。ドライブロッド66は内側ピストン16c、16dの中心からそれらのスコッチヨーク54との連結部まで延びている。第2のスコッチヨーク52と同様に、この第3のスコッチヨークはさらに、ドライブロッド68によって上側の外側ピストン18a、18bの対に連結されている。ピストン毎にこれらロッド68の2つがあり、それらは連結プレート72a、72bの残りの2つの隣接する角(ドライブロッド60が延びている角の逆側、すなわち、クランクシャフトの中間点に最も近い2つの角)から延びている。
【0038】
第4のスコッチヨーク56は図5のクランクシャフト14の下端部に示される。このヨーク56は各ピストン18c、18dの別のドライブロッド70の対によって下側の外側ピストン18c、18dの対に連結されている。これらロッドは、下側の外側ピストン18c、18dの対に固定された連結プレート72c、72dの各々の下側の角(すなわち、ドライブロッド64が連結されているものとは逆側の角)に連結されている。
【0039】
連結プレート72は、それらの、クランクシャフトの中間点に最も近い角に連結されたドライブロッドがピストンの運動中に互いを妨げることなく平行しておよび互いの横に並んで配置されるような形状にされている。
【0040】
したがって、上側の外側ピストン18a、18dのそれぞれは、ドライブロッド60の第1の対によって第1のスコッチヨーク50に、ドライブロッド68の第2の対によって第3のスコッチヨーク54に連結されている。下側の外側ピストン18c、18dのそれぞれは、ドライブロッド70の第1の対によって第4のスコッチヨーク56に、ドライブロッド64の第2の対によって第2のスコッチヨーク52に連結されている。上側の内側ピストン16a、16bは各々の中央ドライブロッド62によって第2のスコッチヨーク52に連結されており、下側の内側ピストン16c、16dは各々の中央ドライブロッド66によって第3のスコッチヨーク54に連結されている。
【0041】
言い換えると、第1のスコッチヨーク50は上側の外側ピストン18a、18bによって駆動され、第2のスコッチヨーク52は上側の内側ピストン16a、16bおよび下側の外側ピストン18c、18dによって駆動され、第3のスコッチヨーク54は下側の内側ピストン16c、16dおよび上側の外側ピストン18a、18bによって駆動され、第4のスコッチヨーク56は下側の外側ピストン18c、18dによって駆動される。
【0042】
上記のように、この、内側ピストンと外側ピストンとの間におけるスコッチヨークの共有は通常は必要なスコッチヨークの数を低減し、クランクシャフトの必要な長さが最小限になる。
【0043】
スコッチヨークによる、1つの対向するシリンダの対内の内側ピストンの、もう一方の対向するシリンダの対内の外側ピストンとの相互リンクは、また、シリンダの中心軸線に対して垂直な軸線を中心としたピストンの不要な回転に抵抗し、シリンダ内においてピストンが安定するのを助ける。この配置は、また、ヨークスライダを配置する機能を果たし、それらの配置するための(軌道または円筒状の滑動面などの)他の機構の必要がなくなる。
【0044】
エンジンの動作
図7は、クランクシャフトの1回の完全な回転におけるエンジンの動作を示す。具体的には、図7(a)〜7(m)は、30°刻みのピストン位置を示す。
【0045】
0°ADCの図7(a)は、0°のクランクシャフト位置(ここでは図5の左下側シリンダ12cのTDCと定義する)におけるエンジンを示す。この位置において、左下の外側ピストン18cおよび左下の内側ピストン16cはそれらの最も接近する位置にある。例証的な直噴式エンジンでは、クランクシャフトの回転のおよそこの角度において、供給燃料が左下のシリンダ内に噴射され、燃焼が開始される。この時点において、左下のシリンダの排気ポート32および吸気ポート30は外側ピストンおよび内側ピストンそれぞれによって完全に閉じられる。
【0046】
30°ADCの図7(b)では、爆発行程の開始時、左下のシリンダの内側ピストンと外側ピストンは離れている。
【0047】
60°ADCの図7(c)では、左下のシリンダはその爆発行程を、2つのピストンの速度は等しいが反対向きの状態で継続する。
【0048】
90°ADCの図7(d)では、左下のシリンダはその爆発行程を継続する。
【0049】
120°ADCの図7(e)では、左下のシリンダの外側ピストンが排気ポート32を開いている一方で、吸気ポートは閉じたままである。この「ブローダウン」状態においては、燃焼室からの膨張ガスの運動エネルギの一部は、必要に応じ、例えば、次を圧縮するためのターボチャージャー(「パルス」ターボチャージング)によって、外部的に回収することができる。
【0050】
150°ADCの図7(f)では、左下のシリンダの内側ピストンは吸気ポート30を開いており、シリンダは単流掃気されている。
【0051】
180°ADCの図7(g)では、左下のシリンダの内側ピストンおよび外側ピストンが吸気ポート30および排気ポート32の両方を開いたままにし、単流掃気は継続される。ピストンは下死点にある。
【0052】
210°ADCの図7(h)では、左下のシリンダにおいて、ポート30、32の両セットが開いたままであり、単流掃気は継続される。
【0053】
240°ADCの図7(i)では、左下のシリンダにおいて、内側ピストンは吸気ポート30を閉じている一方で、排気ポート32は一部開いたままである。他の実施形態では、排気ポートは、入口ポートが開いた/閉じた後に開いてもよいおよび/または入口ポートが開く/閉じる前に閉じてもよい。また、いくつかの用途においては、例えば、スリーブバルブを使用してポートの開閉を制御することにより、ポートタイミングが非対称であることが望ましい場合がある。
【0054】
270°ADCの図7(j)では、左下のシリンダにおいて、外側ピストンは排気ポート32を閉じており、2つのピストンは互いの方に近づいており、それらの間の空気を圧縮している。
【0055】
300°ADCの図7(k)では、左下のシリンダにおいて、ピストンは圧縮行程を継続している。
【0056】
330°ADCの図7(l)では、左下のシリンダは圧縮行程の終了に近づいており、「スキッシュ」段階を開始している。これは、内側ピストンおよび外側ピストンの、外側の環状の対向面がそれらの間から空気を排出し始めるものである。
【0057】
360°ADCの図7(m)では、位置は図3(a)と同じである。左下のシリンダがTDC位置に達しており、そこでは、ピストンがそれらの最も接近する位置にある。「スキッシュ」段階は継続し、増大する「スモークリング」効果が、部分的に接線方向の吸気ポートに起因してすでに存在するシリンダ軸スワールに付加されることとなる。これらの複合的なガス運動は、燃焼室がトロイドに最もほぼ類似し、かつ最小容積のものであるTDCにおいて最も大きいものとなる。この時点で、複数の放射状の燃料噴射が中心の燃料噴射器から出て、利用可能な空気のほぼ全てに到達し、非常に効率的な燃焼になる。噴射はちょうど最小容積において開始する必要はなく、いくつかの実施形態では、噴射タイミングを速度および/または負荷に応じて変化させてもよい。
【0058】
特定の角度およびタイミングはクランクシャフトの幾何学的配置ならびにポートサイズおよび位置に依存する。上記は単に本発明の概念を示すことを意図するものである。
【0059】
当業者であれば、具体的に記載した実施形態の種々の変更形態が本発明から逸脱することなく可能であることを理解する。燃料噴射器は内側ピストンが噴射器上に擦動した状態でシリンダの内側端部から突出する場合がある。この場合、燃焼ボウルが外側ピストン内に形成される可能性がある。当業者は、また、本発明の実施形態が2ストロークであっても4ストロークであってもよく、圧縮点火であってもスパーク点火であってもよいことを理解する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7a
図7b
図7c
図7d
図7e
図7f
図7g
図7h
図7i
図7j
図7k
図7l
図7m