特許第6069388号(P6069388)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6069388近距離無線通信に使用するアンテナ、電子機器および製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6069388
(24)【登録日】2017年1月6日
(45)【発行日】2017年2月1日
(54)【発明の名称】近距離無線通信に使用するアンテナ、電子機器および製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01Q 7/00 20060101AFI20170123BHJP
   H01Q 7/06 20060101ALI20170123BHJP
   H01Q 1/38 20060101ALI20170123BHJP
   G06K 7/10 20060101ALI20170123BHJP
【FI】
   H01Q7/00
   H01Q7/06
   H01Q1/38
   G06K7/10 232
【請求項の数】13
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-44505(P2015-44505)
(22)【出願日】2015年3月6日
(65)【公開番号】特開2016-165044(P2016-165044A)
(43)【公開日】2016年9月8日
【審査請求日】2015年9月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】505205731
【氏名又は名称】レノボ・シンガポール・プライベート・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100106699
【弁理士】
【氏名又は名称】渡部 弘道
(74)【代理人】
【識別番号】100077584
【弁理士】
【氏名又は名称】守谷 一雄
(72)【発明者】
【氏名】堀越 秀人
(72)【発明者】
【氏名】北村 昌宏
(72)【発明者】
【氏名】土井 俊央
【審査官】 岩井 一央
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2015/0035717(US,A1)
【文献】 特開2007−013662(JP,A)
【文献】 特開2003−022912(JP,A)
【文献】 特開2005−033461(JP,A)
【文献】 特開2013−115628(JP,A)
【文献】 特開2011−002947(JP,A)
【文献】 特許第5655991(JP,B2)
【文献】 特許第5590274(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01Q 1/00−25/04
G06K 7/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属の筐体を備える携帯式コンピュータであって、
前記筐体に実装したキーボード・ユニットと、
前記筐体を部分的に切除した領域に設けたアンテナ配置部と、
複数の第1のコイル辺を配置した第1のコイル面と、前記第1のコイル辺とともにループ状のコイルを形成するように前記第1のコイル面に対向する第2のコイル面に前記第1のコイル辺よりも広い間隔で配置した複数の第2のコイル辺とを含み前記アンテナ配置部に配置した近距離無線通信用のアンテナとを有し、
前記第1のコイル辺を前記第2のコイル辺より非接触ICカードのアクセス面に近い位置に配置した携帯式コンピュータ。
【請求項2】
前記アンテナ配置部をタッチパッドに設けた請求項1に記載の携帯式コンピュータ。
【請求項3】
前記アンテナ配置部を前記タッチパッドの非検出領域に設けた請求項2に記載の携帯式コンピュータ。
【請求項4】
前記アンテナ配置部を前記タッチパッドの前記キーボード・ユニット側に存在する傾斜部の裏側に設けた請求項2に記載の携帯式コンピュータ。
【請求項5】
前記タッチパッドが機械式スイッチを動作させる可動プレートを含み、前記アンテナを前記可動プレートの下側に形成したリセス部に取り付けた請求項2に記載の携帯式コンピュータ。
【請求項6】
前記アンテナ配置部を前記タッチパッドと前記キーボード・ユニットの間に存在するマウス・ボタンの裏側に設けた請求項2に記載の携帯式コンピュータ。
【請求項7】
前記アンテナ配置部を前記キーボード・ユニットに設けた請求項1に記載の携帯式コンピュータ。
【請求項8】
金属の筐体を備える携帯式コンピュータであって、
前記筐体に実装したキーボード・ユニットと、
タッチパッドと、
前記筐体を部分的に切除した領域に設けたアンテナ配置部と、
複数の第1のコイル辺を配置した第1のコイル面と、前記第1のコイル辺とともにループ状のコイルを形成するように前記第1のコイル面に対向する第2のコイル面に前記第1のコイル辺よりも広い間隔で配置した複数の第2のコイル辺とを含み前記アンテナ配置部に配置した近距離無線通信用のアンテナとを有し、
前記アンテナ配置部を前記タッチパッドの非検出領域で前記キーボード・ユニット側に存在する傾斜部の裏側に設けた携帯式コンピュータ。
【請求項9】
金属の筐体を備える携帯式コンピュータであって、
前記筐体に実装したキーボード・ユニットと、
タッチパッドと、
前記筐体を部分的に切除した領域に設けたアンテナ配置部と、
複数の第1のコイル辺を配置した第1のコイル面と、前記第1のコイル辺とともにループ状のコイルを形成するように前記第1のコイル面に対向する第2のコイル面に前記第1のコイル辺よりも広い間隔で配置した複数の第2のコイル辺とを含み前記アンテナ配置部に配置した近距離無線通信用のアンテナとを有し、
前記アンテナ配置部を前記タッチパッドと前記キーボード・ユニットの間に存在するマウス・ボタンの裏側に設けた携帯式コンピュータ。
【請求項10】
電子機器に実装する近距離無線通信用のアンテナであって、
第1のコイル面と、
前記第1のコイル面に対向する位置に配置した第2のコイル面と、
前記第1のコイル面に配置した複数の第1のコイル辺と、該第1のコイル辺とともにループ状のコイルを形成するように前記複数の第1のコイル辺よりも広い間隔で前記第2のコイル面に配置した複数の第2のコイル辺とを含むアンテナ・コイルとを有し、
前記第1のコイル面を前記電子機器に設けた非接触ICカードのアクセス面に近い位置に配置するアンテナ。
【請求項11】
前記アンテナ・コイルが矩形状で、長手方向のコイル辺に平行な折り返し線で折り返して形成した請求項10に記載のアンテナ。
【請求項12】
前記第2のコイル辺の前記折り返し線に平行な部分の断面積が前記第1のコイル辺の前記折り返し線に平行な部分の断面積より大きい請求項11に記載のアンテナ。
【請求項13】
請求項10から請求項12のいずれかに記載したアンテナを実装する電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、近距離無線通信(NFC)に利用するアンテナに関し、さらには金属筐体を備える電子機器への組み込みに適したアンテナに関する。
【背景技術】
【0002】
非接触ICカードまたは非接触ICタグなどを使った無線通信技術としてRFID(Radio Frequency Identification:無線固体識別)が知られている。NFC(Near Field Communication)は、非接触ICカードを利用する点でRFIDと概念的に類似するが、RFIDには数メートル程度の通信が可能なものもある一方でNFCはアンテナ同士を2センチメートルから4センチメートル程度以下まで接近させて通信を行い、かつ用途が異なることもあってRFIDとは別に、NFCフォーラムという標準化団体が技術仕様を策定しISO/IEC14443、ISO/IEC18092として規定した。
【0003】
近年のスマートフォンやタブレット端末には、NFCモジュールを搭載するものが登場するようになってきた。NFCには、リーダ・ライタが電源をもたない非接触ICカードや非接触ICタグと通信を行う受動通信と、電源を備えた2つの機器が交互にイニシエータとターゲットになって通信する能動通信が定義されている。NFC規格は、非接触ICカードの役割を代替するカード・エミュレーション機能、NFCタグを読み取るためのリーダ・ライタ機能、およびNFCデバイス同士で通信する機器間通信(P2P)機能の3つの機能を規定する。
【0004】
リーダ・ライタ機能では、Topaz(登録商標)、Felica(登録商標)、Mifare UL(登録商標)、Mifare-DESFire(登録商標)などのタイプ1からタイプ4までの4種類の非接触ICカードを読み取ることができるようになっている。リーダ・ライタが電源のない非接触ICカードと通信するためには、リーダ・ライタに接続したNFCアンテナが、非接触式ICカードのNFCアンテナと効率よく鎖交する方向にできるだけ多くの磁束を発させる必要がある。
【0005】
特許文献1は、ループ・コイルが形成された基板とループ・コイルの中を貫通する磁性体シートで形成されたRFID用のアンテナを開示する。特許文献2は、無線端末に搭載するRFID用のアンテナを開示する。同文献は、無線端末の筐体の通信主面に平行な金属体にコイル軸が平行になるようにループ状アンテナを設けることを記載している。特許文献3は、無線端末に搭載するRFID用のアンテナを開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−229133号公報
【特許文献2】特開2012−134605号公報
【特許文献3】特許第4978756号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
スマートフォンやタブレット端末に加えて、ノートブック型パーソナル・コンピュータ(ノートPC)がリーダ・ライタとして機能できるようにNFCアンテナを搭載するようになってきた。ノートPCに搭載するNFCアンテナは、非接触ICカードがタッチ操作でアクセスする面(アクセス面)との間に金属があると磁束を適切に交換することができない。近年のノートPCは筐体が金属で形成されているため、NFCアンテナの配置場所は限られている。図4は、金属筐体のノートPCに対するNFCアンテナの実装例を説明するための図である。
【0008】
図4(A)に示すようにノートPC10は、LCD13を搭載するディスプレイ筐体11と、表面にキーボード17やタッチパッド19を搭載し、内部にシステム・デバイスを実装する回路基板を収納するシステム筐体15が開閉できるように結合されている。ディスプレイ筐体11およびシステム筐体15は、全体的に金属で形成しているが、キーボード17やタッチパッド19を搭載する領域は、部分的に切除している。
【0009】
ノートPC10の使用状態では、開かれたディスプレイ筐体11に非接触ICカードのアクセス面を設けるとタッチ操作がし難いため、操作上はNFCアンテナをシステム筐体15に設けることが望ましい。NFCアンテナを設けるためにディスプレイ筐体11の一部を切除することは、コストの増加につながるとともに、意匠的にも好ましくないため、これまでは、ループ・コイル状のNFCアンテナ21を、タッチパッド19の下部に配置した回路基板に形成していた。このときタッチパッド19の表面が非接触ICカードのアクセス面になる。
【0010】
図4(B)は、NFCアンテナ21がタッチパッド19の表面に形成する磁界と、非接触ICカードのNFCアンテナ51がNFCをするときの磁束の様子を示している。NFCアンテナ21に高周波電流が流れると、アンテナ開口22を通過する交番磁界が形成され、周囲の空間に透磁率に応じた交番磁束が流れてNFCアンテナ51と鎖交する。これとは逆に、NFCアンテナ51の交番磁束がコイル開口22を通過してNFCアンテナ21と鎖交すると、NFCアンテナ21に高周波電圧を誘起してインピーダンスに応じた高周波電流が流れる。NFCアンテナ21はアクセス面のアンテナ開口22を投影した領域で、上向きまたは下向きの磁束を放射するため、NFCアンテナ51との電磁結合度が強くなっており良好なNFCが可能になる。
【0011】
しかし、NFCアンテナ21をタッチパッド19の下部に配置するためには、タッチパッド19の誤動作を防ぐためにさまざまな対策が必要になる。まず、NFCアンテナ21は、一例として13.56MHzの高周波電流に共振するように構成しているが、磁束の高周波成分がタッチパッド19の回路にノイズを発生させないようにするために、ローパス・フィルターを挿入する必要がある。その上で、タッチパッド19のスキャニング周波数を、NFCの影響を受けない値にチューニングする必要がある。
【0012】
さらに、タッチパッド19の上に非接触ICカードが長時間放置されると、タッチパッド19のファームウェアが自動的にキャリブレーションを実行して、動作が不安定になるといった問題にも対処する必要がある。タッチパッド19の下部以外の場所にNFCアンテナを設ける場合でもできるだけ小型であることが望ましい。良好なNFCを実現するためには、非接触ICカードとの間での磁束交換を効率的に行うようにアクセス面の近辺での磁束分布を作る必要がある。本発明の目的は、NFCアンテナに関するこのような諸問題を解決することにある。
【0013】
そこで、本発明の目的は、金属筐体を備える小型の電子機器に搭載し易いNFCアンテナを提供することにある。さらに本発明の目的は、小型で通信性能に優れたNFCアンテナを提供することにある。さらに本発明の目的は、他のデバイスに対する磁束の影響が少ないNFCアンテナを提供することにある。さらに本発明の目的は、携帯式コンピュータの筐体の改造をしないで実装できるNFCアンテナを提供することにある。さらに本発明の目的はそのようなNFCアンテナを実装した電子機器、携帯式コンピュータおよびNFCアンテナの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の第1の態様は、金属の筐体を備える携帯式コンピュータを提供する。携帯式コンピュータは、筐体に実装したキーボード・ユニットと、筐体を部分的に切除した領域に設けたアンテナ配置部と、複数の第1のコイル辺を配置した第1のコイル面と、第1のコイル辺とともにループ状のコイルを形成するように第1のコイル面に対向する第2のコイル面に第1のコイル辺よりも広い間隔で配置した複数の第2のコイル辺とを含み前記アンテナ配置部に配置したアンテナとを有する。
【0015】
アンテナは、第1のコイル辺が放射する磁束と第2のコイル辺が放射する磁束の指向特性をコイル辺の間隔で調整して、通信が良好でかつ携帯式コンピュータに対するノイズの影響を軽減することができる。第1のコイル辺を第2のコイル辺より非接触ICカードのアクセス面に近い位置に配置することができる。第1のコイル辺はピッチが狭くかつコイル長が短いため、アクセス面の近辺に存在する非接触ICカードのNFCアンテナと効率よく鎖交する磁束を放射することができる。
【0016】
アンテナ配置部は、タッチパッドに設けることができる。このときアンテナ配置部をタッチパッドの非検出領域に設ければ、NFCアンテナがタッチパッドの動作に影響を与えないようにすることができる。非検出領域に設けるアンテナ配置部は、タッチパッドのキーボード・ユニット側に存在する傾斜部の裏側とすることができる。タッチパッドが機械式スイッチを動作させる可動プレートを含む場合は、アンテナを傾斜部の可動プレートの下側から取り付けることで、意匠的な問題を生じさせないようにすることができる。アンテナ配置部は、タッチパッドとキーボードの間に存在するマウス・ボタンの下やキーボード・ユニットに設けることもできる。
【0017】
本発明の第2の態様は、電子機器に実装する近距離無線通信のアンテナを提供する。アンテナは、第1のコイル面と、第1のコイル面に対向する位置に配置した第2のコイル面と、第1のコイル面に配置した複数の第1のコイル辺と、第1のコイル辺とともにループ状のコイルを形成するように第2のコイル面に第1のコイル辺よりも広い間隔で配置した複数の第2のコイル辺とを含むアンテナ・コイルを有する。
【0018】
第1のコイル面と第2のコイル面を絶縁基板の表面に定義したときに、アンテナは、絶縁基板の表面にアンテナ・コイルを形成した後に裏面が対向するように折り返すことで容易に形成することができる。第1のコイル面に対向する裏面と第2のコイル面に対向する裏面の間に磁性体シートを配置して鎖交する磁束の量を増加させることができる。このような指向特性を調整したアンテナは、小型で通信性能がよく、かつ、ノイズの影響を少なくすることができるため電子機器への実装に適している。
【0019】
アンテナ・コイルを矩形状として、アンテナを長手方向のコイル辺に平行な折り返し線で折り返して形成すると、アンテナを細長い形状にすることができるため、電子機器に実装し易くなる。第2のコイル辺の折り返し線に平行な部分の断面積を第1のコイル辺の折り返し線に平行な部分の断面積より大きくすれば電力損失を軽減することができる。
【0020】
本発明の第3の態様は、電子機器に実装する近距離無線通信用のアンテナを製造する方法を提供する。絶縁基板の表面に、折り返し線を中心に第1のコイル面と第2のコイル面を定義し、表面に第1のコイル面における少なくとも一部のコイル辺のピッチが第2のコイル面におけるコイル辺のピッチよりも狭くなるようにループ状のアンテナ・コイルのパターンを形成し、折り返し線で絶縁基板の裏面が対向するように折り返す。さらに第1のコイル面と第2のコイル面の間に磁性体シートを挿入することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明により、金属筐体を備える小型の電子機器に搭載し易いNFCアンテナを提供することができた。さらに本発明により、小型で通信性能に優れたNFCアンテナを提供することができた。さらに本発明により、他のデバイスに対する磁束の影響が少ないNFCアンテナを提供することができた。さらに本発明により、携帯式コンピュータの筐体の改造をしないで実装できるNFCアンテナを提供することができた。さらに本発明により、そのようなNFCアンテナを実装した電子機器、携帯式コンピュータおよびNFCアンテナの製造方法を提供することができた。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】NFCアンテナを実装するシステム筐体101の外形を示す平面図である。
図2】NFCアンテナ300の構造を説明するための図である。
図3】NFCアンテナ300の取り付け構造を説明するための図である。
図4】NFCアンテナの従来の取り付け方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1は、本実施の形態にかかるノートPCのシステム筐体101の平面図である。ほぼ全体的に金属で形成したシステム筐体101は、内部にプロセッサ、システム・メモリ、およびハードディスク・ドライブなどのシステム・デバイスを収納し、上面には金属部分を切り欠いて、キーボード・ユニット103、左ボタン251、中央ボタン253、および右ボタン255およびタッチパッド200を実装している。
【0024】
キーボート・ユニット101は、Gキー、HキーおよびBキーの間に配置されたポインティング・スティック105を含んでいる。ポインティング・スティック105は、ディスプレイに表示するポインタを移動させたり、ポインタの位置に表示するオブジェクトに対する入力をしたりする。
【0025】
キーボード・ユニット103の手前側には、キーボードを操作する際に掌を載せるパームレスト101bを設けている。パームレスト101bは全体が平坦に形成されているが、キーボード・ユニット103の手前側(ユーザ側)に、キーボード・ユニット103側に下降する傾斜部101aを含む。傾斜部101aは、キーボード・ユニット103の手前側に配置された最下列のキーを親指で押下する際に親指を立てなくても円滑に操作できるようにキー操作時の親指の運動範囲を確保する役割を果たす。
【0026】
スペース・キーの手前側にはポインティング・スティック105と組になって使用する機械式の左ボタン251、中央ボタン253、および右ボタン255を配置している。左ボタン251、中央ボタン253、および右ボタン255は、それぞれ、机上で操作する独立したマウスの左ボタン、ホイール、および右ボタンに対応する。中央ボタンは、ポインティング・スティック105と同時に操作することで画面のスクロールまたは拡大表示をする。左ボタン251、中央ボタン253、および右ボタン255を以後、機械式のマウス・ボタンということにする。
【0027】
機械式のマウス・ボタンに隣接して、手前側にタッチパッド200を配置している。タッチパッド200は、ホーム・ポジションに両手を置いてキーボードを操作している間にユーザの手が誤って触れて意図しないポインタの移動が行われないようにするために、キーボードのほぼ中央に配置している。タッチパッド200の周囲はパームレスト101bが囲んでいる。
【0028】
タッチパッド200は、ユーザがアクセスできる領域を平坦部201と傾斜部203で構成している。平坦部201は、タッチセンサが指の接近または接触を検出する検出領域を構成し、傾斜部203は指の接近または接触を検出しない非検出領域を構成する。平坦部201の表面は、パームレスト101bの平坦な表面とほぼ同一の平面上に存在する。傾斜部203は非検出領域とすることで、機械式のマウス・ボタンを操作する際に、ユーザが親指の触覚で平坦部201との境界を認識でき、誤って検出領域に触れないようにすることを目的にして設けている。
【0029】
タッチパッド200は、一例として米国のSynaptics社が開発した、クリック・パッド(登録商標)を採用することができる。クリック・パッド(登録商標)では、1つの機械的なスイッチをタッチパッドの内部に組み込み、タッチパッドの表面に機械式のマウス・ボタンに対応する領域を定義する。そしてユーザがいずれかの定義された領域を押下したときにタッチセンサが検出した押下位置の座標と機械的なスイッチの動作信号の組み合わせでマウス・ボタンのクリック操作をエミュレートする。このように機械式のマウス・ボタンのクリック操作をエミュレートするためにタッチパッドの表面に定義した領域を、以後、擬似ボタンという。
【0030】
タッチパッド200は、タッチパッド200のポインタ移動機能と併用することを目的にした擬似ボタン205a、205bを有する。擬似ボタン205a、205bは、それぞれ従来のノートPCに実装していた機械式のマウス・ボタンの左ボタンおよび右ボタンに対応する。タッチパッド200は、左ボタン251、中央ボタン253、および右ボタン255も擬似ボタンとして組み込んで、機械式のマウス・ボタンを一切使用しないようにしてもよい。なお、本発明は、擬似ボタンを含まない、従来のタッチパッドに適用することもできる。その場合、ポインティング・スティック105を実装する場合は、同時に機械式のマウス・ボタンも実装する。
【0031】
図2は、NFCアンテナ300の構造を説明するための図である。図2(A)は組立前のアンテナ・パターンを示す平面図で、図2(B)は図2(A)のアンテナ・パターンを折り返し線307で折り返して組み立てた状態を示す拡大した断面図である。図2(A)に示すように絶縁基板301の表面には、折り返し線307を境界にして第1のコイル面301aと第2のコイル面301bを定義している。
【0032】
図2(A)では、全体を1本の連続した導線とした矩形状のアンテナ・コイル303を、第1のコイル面301aと第2のコイル面301bにループ状の導体パターンとして形成している。パターンが交差する部分には絶縁層を介在する。アンテナ・コイル303は、第1のコイル面301aに存在する4本の第1のコイル辺303aと第2のコイル面301bに存在する4本の第2のコイル辺303bで構成している。なお、コイル辺の数は特に限定する必要はない。第1のコイル辺303aと第2のコイル辺303bで囲まれた中央部は、アンテナ・コイル303と鎖交する磁束が通過するコイル開口309に相当する。
【0033】
第1のコイル辺303aと第2のコイル辺303bは、それぞれ折り返し線307に平行な部分と垂直な部分を含む。折り返し線307に平行な部分は垂直な部分よりも長さを長くして、折り返したときに細長いNFCアンテナ300になるようにしている。第1のコイル辺303aは、第2のコイル辺303bよりも各コイル辺の中心間の間隔(ピッチ)が狭くなっている。本数が一定のときに第2のコイル辺303bのピッチは、図2(B)のように組み立てた状態でのNFCアンテナ300の幅Wを画定する。

【0034】
与えられた幅Wの範囲で、第2のコイル辺303bの折り返し線307に平行な部分の幅は、第1のコイル辺303aの平行な部分の幅よりも広くしている。パターンの厚さを一定としたときに、第2のコイル辺303bは第1のコイル辺303aに比べて幅が広い部分を含むだけ断面積を大きくすることができる。その結果、第2のコイル辺303bの電力損失を軽減することができる。なお、第1のコイル辺303aと第2のコイル辺303bの垂直な部分の幅およびピッチは、第1のコイル辺303aまたは第2のコイル辺303bの平行な部分の幅およびピッチと同じでもよい。
【0035】
絶縁基板301には、一例において、組立時に折り返しが容易なポリイミド・フィルムやポリエステル・フィルムなどのフレキシブル基板を採用している。パターンの形成方法は特に限定する必要はなく、絶縁基板301の全面に貼り付けた銅箔をエッチングしたり、レジストを形成した絶縁基板301に銅メッキしたりするなどのさまざまな方法を採用することができる。
【0036】
図2(B)は、アンテナ・コイル303のパターンを形成した絶縁基板301を裏面が対向するように折り返し線307で折り返した様子を示している。絶縁基板301の裏面には、フェライト粉末や金属粉末などの強磁性材料で形成した磁性体シート311を挟み込んでいる。アンテナ・コイル303の両端は、第2のコイル面301bに実装した共振回路305に接続している。共振回路303は、抵抗、コンデンサ、およびリアクトルで構成し、アンテナ・コイル303を一例として13.56MHzの高周波電流に共振させる。
【0037】
つぎに、NFCアンテナ300の特性を説明する。非接触ICカードのNFCアンテナ51は、タッチ操作をするときにアクセス面に対してほぼ平行になる。したがって、NFCアンテナ300は、その状態のNFCアンテナ51と効果的に鎖交する磁束を放射する必要がある。NFCアンテナ300に高周波電流を流したときに、アンテナ・コイル303が交番磁束を放射してタッチ操作をするNFCアンテナ51に誘起電圧を発生させる。
【0038】
磁性体シート311の中心を通り絶縁基板301の表面に平行な平面313の上側と下側を流れる磁束の総量はほぼ等しいが、第1のコイル辺303aのコイル長L1は第2のコイル辺303bのコイル長L2より短い。第1のコイル辺303aをアクセス面に近い位置に配置すると、第1のコイル辺303aが放射する磁束φ1は、短い空間を流れて磁性体シート311を出入りするためアクセス面に対して垂直方向の成分が大きくなる。
【0039】
したがって、第1のコイル辺303aが放射する磁束の分布は、タッチ操作をするNFCアンテナ51に対する鎖交特性を良好にする。他方で、NFCに寄与しない第2のコイル辺303bが放射する磁束φ2は、コイル長L2が長いため、第2のコイル面301bの近辺を水平方向に流れる成分が多くなる。したがって、第2のコイル辺303bが放射した磁束がNFCアンテナ300の下側に存在するデバイスに対して与える影響を軽減することができる。
【0040】
すなわちNFCアンテナの、全体を第2のコイル辺303bのピッチで製作した場合はNFCの性能が劣り、全体を第1のコイル辺303aのピッチで製作した場合は、アクセス面と反対方向に存在するデバイスに対して影響を与える。これに対してNFCアンテナ300は、アクセス面側と反対側のコイル辺のピッチに差を設けることで、NFCの性能維持とノイズ対策の両立を図ることができる。なお、磁束分布の調整に関しては、第2のコイル辺303bの折り返し線307に平行な部分の幅を、第1のコイル辺303aの折り返し線307に平行な部分の幅と同じにしてもよい。
【0041】
磁性体シート311は、透磁率が大きいため所定の磁界に対して内部を流れる磁束の磁束密度が大きくなる。非接触ICカードのNFCアンテナ51が放射した磁束は、磁性体シート311の側面とコイル開口309を通過するように流れてNFCアンテナ300と鎖交する。NFCアンテナ51が放射した交番磁束が、コイル開口309を通過してアンテナ・コイル303と鎖交すると誘起電圧が発生する。磁性体シート311は、NFCアンテナ51が放射した磁束とNFCアンテナ300の鎖交数を増加して誘起電圧を上昇させる。
【0042】
図3はNFCアンテナ300の取り付け方法を説明する図である。図3(A)はタッチパッド200の平面図で、図3(B)はNFCアンテナ300を取り付けた状態のタッチパッド200の断面図である。図3(A)は、傾斜部203におけるアンテナ配置部211の平面的な位置を示している。図3(B)で、タッチパッド200は、積層されたカバー・プレート221、静電容量式のタッチセンサ223、可動プレート225、リーフ・スプリング227をベース・プレート229が支持する。
【0043】
カバー・プレート221の表面は平坦部201を構成し、タッチセンサ223が存在しない領域では、可動プレート225の表面が傾斜部203を構成している。カバー・プレート221および可動プレート225はABS樹脂のような合成樹脂で形成している。可動プレート225の傾斜部203の中には、NFCアンテナ300を収納するためのアンテナ配置部211を形成している。アンテナ配置部211は、NFCアンテナ300を取り付けたときに、擬似ボタン205a、205bの押下に伴う可動プレート225の上下方向への移動を妨げないように下からリセスして形成している。合成樹脂で形成した傾斜部203の表面およびその近辺が、非接触ICカードのアクセス面になる。NFCアンテナ300は第1のコイル辺303aが傾斜部203のアクセス面を向くように、一例において、アンテナ配置部211に両面テープで貼り付けて固定することができる。
【0044】
アンテナ配置部211の特徴は、NFCアンテナ300を取り付けるためにシステム筐体101を加工する必要がないこと、システム筐体101の外観に変化を与えないこと、およびシステム筐体を構成する部品の材料や配置などを変更する必要がないことを挙げることができる。また、アンテナ配置部211は、平坦部201に平行な平面に対する投影において、タッチセンサ223と重ならないためタッチセンサ223の動作に影響を与えることがない。さらに、ベース・プレート229の下側を流れる磁束は浅いところを通過するため、NFCアンテナ300によるノイズの影響を軽減することができる。
【0045】
NFCアンテナ300は、それぞれ表面にアンテナ・パターンを形成した2つの絶縁基板の裏面を、磁性体シートを挟んで貼り合わせてから内部をメッキしたスルーホール(ビア・ホール)で電気的に接続することで作成することもできる。ただし、本実施の形態のように絶縁基板301の平面上にパターンを形成したあとに折り返して製作すると、パターンの形成工程が1回でよくまたビア・ホールでの接続も不要になるため有利である。
【0046】
またNFCアンテナ300は、同一平面に形成したループ状のアンテナに比べて幅W(図2)を半分にして細長い形状にすることができるため、取り付け場所の自由度が増える。たとえば、傾斜部101aをキーボード・ユニット103の一部となる合成樹脂で形成してその下に取り付けることもできる。あるいは、キーの中で比較的長いスペース・キーの下に取り付けることもできる。また、機械式のマウス・ボタンの下に取り付けることもできる。
【0047】
これまで本発明について図面に示した特定の実施の形態をもって説明してきたが、本発明は図面に示した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の効果を奏する限り、これまで知られたいかなる構成であっても採用することができることはいうまでもないことである。
【符号の説明】
【0048】
100 ノートPC
101 システム筐体
101a システム筐体の傾斜部
101b システム筐体の平坦部
103 キーボード・ユニット
105 ポインティング・スティック
200 タッチパッド
201 タッチパッドの平坦部
203 タッチパッドの傾斜部
211 アンテナ配置部
251〜253 マウス・ボタン
300 NFCアンテナ
301 絶縁基板
301a 第1のコイル面
301b 第2のコイル面
303 アンテナ・コイル
303a 第1のコイル辺
303b 第2のコイル辺
305 共振回路
307 折り返し線
309 コイル開口
311 磁性体シート
図1
図2
図3
図4