【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、この問題は患者の組織の抗菌処置で使用するためのキトサンを提供することによって解決される。また、この問題は、患者の組織の抗菌処置で使用するためのキトサンを含む医薬組成物を提供することによっても解決される。
【0009】
この問題はさらに、微生物感染を治療する方法を提供することによって解決され、該方法は、患者に有効量のキトサンを投与する工程を含む。この問題は、キトサンを含む水溶液を提供することによってさらに解決される。
【0010】
従って、キトサンの抗菌特性が利用される。
【0011】
本発明によれば、この問題は、患者の組織の上皮細胞増殖促進処置で使用するためのキトサンまたはキトサンを含む医薬組成物を提供することによってさらに解決される。この問題は、上皮細胞の増殖を促進する方法を提供することによってさらに解決され、該方法は、患者に有効量のキトサンまたはキトサンを含む医薬組成物を投与する工程を含む。従って、キトサンの上皮細胞増殖促進特性が利用される。上皮細胞は好ましくは、ヒト上皮細胞である。上皮細胞は好ましくは、ケラチノサイトである。
【0012】
有利には、本発明によるキトサンおよび医薬組成物は、抗菌処置および上皮細胞増殖促進処置を同時に提供することができる。これは様々な種類の創傷の治療において特に有利である。一部の適した種類の創傷は、以下の本発明の好ましい実施形態の考察にさらに列挙されている。
【0013】
この問題はまた、キトサンからなる組織ドレッシング材料を提供することによって、かつ、キトサンを含む組成物である組織ドレッシング材料を提供することによって解決される。本発明による組織ドレッシング材料の一つの達成可能な利点は、キトサンの抗菌特性のおかげで、さらなる抗菌剤または抗生物質を組織ドレッシング材料に添加せずに、それが多様な微生物を本質的に含まない状態を保つことができる点である。特に、本発明による組織ドレッシング材料は、さらなる抗菌剤または抗生物質を組織ドレッシング材料に添加せずに、適切な衛生要件に従って滅菌状態を保つことができる。
【0014】
組織ドレッシング材料は、好ましくは創傷を手当てするために使用される。有利には、組織ドレッシング材料は、本発明による抗菌剤および/または上皮細胞促進処置に使用す
ることができる。
【0015】
本発明の状況において、患者はヒトまたは動物であり得る。
【0016】
本発明の好ましい実施形態
単独でまたは組み合わせて適用することのできる本発明の好ましい特徴は、従属請求項および以下の説明において考察される。
【0017】
本発明の一部の実施形態では、キトサンまたはキトサン含有組成物は、患者にインビボで適用することができる。あるいは、それはエクスビボで上皮細胞含有細胞培養に適用することができる。
【0018】
好ましい処置は、次のうちの少なくとも1つまたはその組合せのための処置である。その処置とは、微生物感染の危険を防止すること、既存の微生物感染の微生物負荷を減少させること、微生物感染の拡大を防止または低下させること、である。本発明によるキトサンまたは医薬組成物は、処置される組織の内部および外部から微生物感染を保護する障壁として働くことができる。
【0019】
抗菌処置は、好ましくは抗細菌処置であり、キトサンの抗生物質特性を利用する。好ましい適用には、院内感染が含まれる。好ましい適用には、多剤耐性細菌株での感染が含まれる。感染は、好ましくは、次のうちの少なくとも1つまたはその組合せである。その感染とは、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)(MRSA)感染、オキサシリン耐性黄色ブドウ球菌(ORSA)感染、多剤耐性クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)感染、ペニシリン耐性肺炎球菌(Streptococcus pneumonia)感染、多剤耐性(multidrug−resistent)緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)感染、多剤耐性アシネトバクター・バウマンニ(Acinetobacter baumannii)感染、バンコマイシン耐性(vancomycin−resistent)腸球菌(Enterococcus)感染、である。適した細菌としては、グラム陽性菌、グラム陰性菌および芽胞形成菌が挙げられる。適した細菌としては、例えば、黄色ブドウ球菌、連鎖球菌(Streptococci)(A群)、化膿連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)、ボレリア・ブルグドルフェリ(Borellia burgdorferi)、炭疽菌(Bacillus anthracis)、ブタ丹毒菌(Erysopelothrix rhusiopathiae)、バルトネラ・ヘンセラ菌(Bartonella henselae)、塹壕熱菌(Bartonella quintana)、コリネバクテリウム・ミヌティシマム(Corynebacterium minutissimum)、表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)、腸内細菌科(Enterobacteriaceae)(大腸菌(E.coli)、クレブシエラ(Klebsiella)、インフルエンザ菌(Haemophilius influenzae)、パスツレラ・マルトシダ(Pasteurella multocida)、野兎病菌(Franciscella tularensis)、緑膿菌が挙げられる。しかし、抗菌処置は、抗真菌処置(例えば皮膚糸状菌などの足白癬病に関与する真菌に対する)、またはそれに対する処置でもあり得る。適した真菌および酵母としては、例えば、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、ケカビ属(Mucor)(ムコール・プシルス(Mucor pusillus)、ムコール・プランベウス(Mucor
plumbeus)、ムコール・ラセモサス(Mucor racemosus)、ムコール・ヒエマリス(Mucor hiemalis))、スポロトリクス属(Sporothrix)、ヒストプラズマ属(Histoplasma)、コクシジオイデス属(Coccidioides)、白癬菌属(Trichophyton)、ミクロスポルム
属(Microsporum)、エピデルモフィトン属(Epidermophyton)、ケラトミセス(Keratomyces)、クリプトコッカス、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)、カンジダ・デュブリエンシス(Candida dubliensis)、マラセジア・フルフル(Malassezia furfur)が挙げられる。同様に、有利には、本発明による組織ドレッシング材料は、キトサンの存在によって、その他の抗菌剤または抗生物質を組織ドレッシング材料に添加せずに上記の微生物を本質的に含まない状態を保つことができる。
【0020】
処置は、好ましくは局所に限定される(locally confirmed)処置である。本発明の状況において「局所に限定される」とは、キトサンまたはキトサン含有組成物の活性が、それが適用されるこの組織およびそれが適用される組織に隣接する組織に本質的に制限されることを意味する。好ましくは、キトサンまたはキトサン含有組成物が同様に活性な、隣接する組織は、キトサンまたはキトサン含有組成物が適用される組織から10mm(ミリメートル)よりも小さく、より好ましくは5mmよりも小さく広がる。隣接する組織におけるこのような活性は、例えば、適用後の、適用部位から隣接組織へのキトサンまたはキトサン含有組成物の有効成分の輸送(例えば、拡散、毛管力、浸透輸送、キャビテーションによる)の結果であり得る。局所に限定される処置により、本質的に局所の活性のみを実現するために、キトサンまたはキトサン含有組成物が適用され従って活性が生じる部位を十分に制御することができることを利用することができる。有利には、全身作用、すなわちこのような活性が必要とされない、かつ/または望ましくない、患者の身体領域における医学的作用を回避することができる。従って、本発明は副作用を低減することができ、患者の迅速な回復に寄与することができる。
【0021】
好ましい局所に限定される処置は、キトサンまたはキトサン含有組成物の外用である。しかし、内部処置も可能である。キトサンまたはキトサン含有組成物は、例えば患者の身体の明確に定義された部位に注入されるか、吸入されるかまたは嚥下されることができる。好ましくは、キトサンまたはキトサン含有組成物は、処置する組織に接触して、または処置する組織の周囲組織に接触して適用される。
【0022】
本発明の好ましい実施形態では、処置は、局所に限定される(topically confirmed)処置である。本発明の状況において「局所に限定される」とは、適用が、患者の組織の表面、例えば患者の皮膚の一部分で行われる「局所に限定される」処置をさす。本発明のこの実施形態により、キトサンまたはキトサン含有組成物の活性を、このような表面(例えば皮膚)および表面の直下の部位、好ましくは表面の10mm未満、より好ましくは5mm未満下に制限することができることを有利に達成することができる。好ましい表面としては、健康な生体表面、感染表面、および創傷が挙げられる。これらの表面は、例えば直接適用により、例えば液滴、水洗、噴霧またはエアゾール吸入などにより局所に到達可能であり得る。表面には、動脈内(i.a.)外部表面、外科的に生成された表面、および鼻腔表面、喉頭腔および肺胞を含む肺腔が含まれ得る。
【0023】
本発明による処置は、持続的予防および/または急性期治療のためのものであり得る。
【0024】
好ましくは、キトサンまたはキトサン含有組成物のキトサン成分は、キトサンまたはキトサン成分の濃度が、作用部位、例えば処置する組織において体積あたり1重量%よりも高い、より好ましくは0.1重量%よりも高い、より好ましくは0.01重量%よりも高い場合、処置する微生物感染に特異的な薬剤活性を示す。他方では、キトサンまたはキトサン含有組成物のキトサン成分は、キトサンまたはキトサン成分の濃度が体積あたり0.001重量%未満、より好ましくは0.01重量%未満、より好ましくは0.1重量%未満である場合、好ましくは処置する微生物感染に対して特異的薬剤活性を示さない。従って、十分に高濃度のキトサンまたはキトサン成分が維持される、処置する組織などの作用
部位に薬剤活性が局所に限定されることを実現することができる。
【0025】
好ましくは、キトサンまたはキトサン含有医薬組成物のキトサン成分は、作用部位、例えば処置する組織におけるキトサンまたはキトサン成分の濃度が100μM/Lよりも高い(マイクロモル/リットル)、より好ましくは10μM/Lよりも高い、より好ましくは1μM/Lよりも高い場合に、処置する微生物感染に特異的な薬剤活性を示す。他方では、キトサンまたはキトサン含有医薬組成物のキトサン成分は、キトサンまたはキトサン成分の濃度が0.1μM/L未満、より好ましくは1μM/L未満、より好ましくは10μM/L未満である場合に、好ましくは、処置する微生物感染に特異的な薬剤活性を示さない。
【0026】
本発明によるキトサンまたはキトサン含有組成物は、好ましくは処置する組織の表面に適用される。処置する組織は、好ましくは一次元で(一般に奥行次元)10mm未満、より好ましくは5mm未満の厚さである。この実施形態では、本発明によるキトサンまたはキトサン含有組成物を、このような組織の表面に適用することができ、好ましくは拡散により、組織において十分な濃度のキトサンまたはキトサン成分を実現して活性を示すことができることが利用される。
【0027】
好ましく処置される組織としては、慢性創傷、手術後創傷、傷口、擦過創、火傷、剃刀負け、褥瘡、潰瘍組織、潰瘍性となりやすいウイルスに起因する創傷、皮膚病に罹患した組織、例えば足白癬病、糖尿病性足病変および乾癬、虫刺され、挫瘡、特に尋常性挫瘡に罹患した組織、紅斑性狼瘡、特に頬部発疹に罹患した組織、粘膜組織、腫瘍組織、扁桃腺、生殖器部の組織および体腔もしくは身体開口部の組織が挙げられる。本発明はまた、外科手術が患者に行われる場合に役立ち得る。創傷組織を処置する場合、キトサンまたはキトサン含有組成物は、創傷の中または創傷の上に適用され得る。
【0028】
好ましいキトサンは、天然キトサンである。本発明の状況において、用語「天然キトサン」とは、ポリ(N−アセチル−D−グルコサミン−コ−D−グルコサミン)共重合体またはポリ(D−グルコサミン)ホモポリマーである、定義済みの化学物質であるキトサンをさす。あらゆる架橋されたかまたは別の方法で化学修飾されたキトサンが、天然キトサンとは異なる特性を有するキトサン誘導体とみなされる。本発明の状況において、用語「天然キトサン」には、キトサン塩基と、溶解されたかまたは溶解されていないキトサン塩の形態のキトサンの両方が含まれる。本発明の状況において、「キトサン」と呼ばれる場合、一般に、これは天然キトサンのあらゆる形態、塩または塩基であるか、あるいは架橋された、かつ/または別の方法で修飾されたポリ(N−アセチル−D−グルコサミン−コ−D−グルコサミン)共重合体またはポリ(D−グルコサミン)ホモポリマーのあらゆる誘導体であり得る。
【0029】
好ましくは、キトサンのアセチル化度(DA)は、40%以下、好ましくは20%以下、好ましくは10%以下である。好ましくは、キトサンは脱アセチル化されている。本発明の状況において、用語「脱アセチル化キトサン」とは、キトサンのDAが2.5%未満であることを意味する。そのように低いDAは、キトサンの抗菌活性に寄与し得る。本発明による好ましいキトサンまたはキトサン含有組成物において、脱アセチル化キトサンの、または脱アセチル化天然キトサンのDAは、2%以下、好ましくは1.5%以下、より好ましくは1%以下、より好ましくは0.5%以下である。有利には、そのような極めて低いアセチル化度は、本発明の抗菌特性をさらに改良することができる。また、キトサンのリゾチームによる(lysozymal)生分解またはその溶解は、制限されるかまたは妨げられ得る。
【0030】
DAは、例えば、Lavertu et al.,「A validated
1H
NMR method for the determination of the degree of deacetylation of chitosan」,J.Pharm.Biomed.Anal.2003,32,1149に開示される
1H NMR分光法を用いて得ることができる。本発明の状況において「脱アセチル化天然キトサン」とは、天然であり、上記定義に従って脱アセチル化されてもいるキトサンをさす。
【0031】
好ましいキトサンは、少なくとも2つの脱アセチル化工程を伴う方法により調製することができる。2つの脱アセチル化工程は、少なくとも脱アセチル化の副生成物、例えば酢酸塩などが少なくとも部分的に除去される洗浄工程で区切られる(従って単一の脱アセチル化工程と区別される)。好ましくは、少なくとも1つの、より好ましくは全ての脱アセチル化工程が、加水分解工程である。加水分解工程は、キトサンと水酸化ナトリウムなどの水酸化物の溶液との混合を伴い得る。好ましくは、加水分解工程の間、キトサンは室温よりも高い温度、例えば100℃に曝露される。好ましくは、各々の脱アセチル化工程の終わりに、キトサンを、例えば水で洗浄する。さらに、最後の脱アセチル化工程の少なくとも終わりに、好ましくは各々の脱アセチル化工程の終わりに、キトサンを乾燥させる。
【0032】
本発明のある種の実施形態では、2つの脱アセチル化工程の間にアセチル化工程を実施する。好ましいアセチル化工程は、キトサンまたは酸性キトサン溶液を有機溶媒と混合し、それに続いて室温にてカルボン酸無水物で処置することを伴い得る。好ましくは、アセチル化工程の終わりに、アセチル化キトサンを洗浄および乾燥させる。
【0033】
好ましくは、キトサンは、特定のpHで一方のキトサン画分が不溶性であるがもう一方が可溶性であるという意味で、特定のpHでの溶解度に関して2つの画分で存在する。従って、このpHで不溶性画分は、固体またはゲル様の形態、好ましくはヒドロゲルの形態をとることができ、従って可溶性画分を保持するリザーバまたはマトリックスとして働くことができ、その可溶性画分はリザーバまたはマトリックスから目的の組織または患者の血液の中に拡散することができることを有利に実現することができる。
【0034】
好ましくは、キトサンの10%よりも大きい画分は、少なくとも6.5のpHで、より好ましくは少なくとも6.5〜8.5の間のどのpHでも不溶性の形態で存在する。より好ましくは、該画分は、キトサンの20%よりも大きく、より好ましくは50%よりも大きく含む。より好ましくは、該画分はまた、6.3のpHで、より好ましくは少なくとも6.3〜8.5の間のどのpHでも不溶性である。本発明のこの実施形態において、有利には、キトサンまたはキトサン含有組成物は、固体またはゲル、好ましくはヒドロゲルの形態をとることができる。
【0035】
好ましくは、キトサンの0.1%よりも大きい画分は、6.5のpHで可溶性の形態で存在する。より好ましくは、該画分は、キトサンの1%よりも大きく、より好ましくは5%よりも大きく、より好ましくは10%よりも大きく含む。より好ましくは、該画分はまた、7.0のpHで、より好ましくは7.5のpHでも同様に可溶性である。本発明のこの実施形態で、キトサンの前記部分が処置する組織に容易に拡散することができることは、有利に達成可能である。
【0036】
用語「可溶性」および「溶解する」は、キトサンを含む文脈で、水性環境での溶解度に起因して分子量が減少することのない(すなわちポリマー鎖長が減少することのない)キトサンの質量減少のプロセスをさすことを意味する。これは、キトサンの重合に起因する分子量減少のプロセスである「分解」と区別されるものである。
【0037】
一般に、特定のキトサンが可溶性であるpHは、その鎖長、および従ってその分子量によって決まる。さらに、一般に、本発明による組成物のキトサンまたはキトサン成分は、
分子量の分布を含有する。好ましくは、キトサンの10%よりも大きい画分の分子量は、10kD(キロダルトン)以上である。より好ましくは、該画分は、キトサンの20%よりも大きく、より好ましくは50%よりも大きく含む。
【0038】
好ましくは、キトサンの0.1%よりも大きい画分の分子量は、10kD未満である。より好ましくは、該画分は、キトサンの1%よりも大きく、より好ましくは5%よりも大きく、より好ましくは10%よりも大きく含む。より好ましくは、この画分の平均分子量は、1kDよりも大きい。
【0039】
好ましくは、キトサンは、キトサンに加えてその他の成分を含む組成物の部分である。しかし、キトサンは、好ましくは組成物の主成分である。本発明の状況において、キトサンまたはキトサンの種類(例えば一般的なキトサン、脱アセチル化キトサン、天然キトサンまたは脱アセチル化天然キトサン)に関して「主成分」という表現は、それぞれの種類のキトサンが、組成物の少なくとも50重量%を構成することを意味する。従って、例えばキトサンまたはキトサン含有組成物材料が組織に適用される固体またはゲル様のフィルムとして提供される場合、このフィルムは、少なくとも50重量%のそれぞれの種類のキトサンで構成されていることが必要とされる。液体のキトサン含有組成物の場合、水性混合物中の水以外の構成成分に関して「主成分」という表現は、水以外の全ての構成成分の組合せの少なくとも50重量%がそれぞれの種類のキトサンでなければならないことを意味する。
【0040】
好ましい組成物は、アルコールを含まない。このことは、組成物がそれを適用する組織に対して低刺激性であるという有利な点を有する。より好ましくは、組成物は、アルコールまたは任意のその他の有機可溶化剤もしくは安定剤を含まない。より好ましくは、キトサン含有組成物は、一般に、アルコールに加えて、エステル、アルカン、ハロゲン化溶媒、アミンおよびアミドを含む有機溶媒を含まない。しかし、それはしばしば有機酸を含有し得る。有機酸は本発明の状況において有機溶媒とみなされない。好ましくは、組成物材料は、さらなる防腐剤を含まない。それは無菌の薬剤、抗酸化剤および界面活性剤を含まないことが好ましく、それによって毒性反応またはアレルギー反応の危険を低下させる。
【0041】
一部の実施形態では、キトサン含有組成物は、少なくとも1つのキトサン以外の薬学活性成分および/または生物活性成分を含む。適した生物活性成分は、例えば、タンパク質、ペプチドまたはその誘導体、核酸またはその誘導体、薬物、例えば抗生物質または抗炎症剤などとして活性のある低分子量化合物、または自然免疫系のアゴニストもしくはアンタゴニスト、または細胞の少なくとも1つのサブタイプの増殖を刺激または分化させるための刺激もしくは分化増殖因子、または創面から抽出される特定の成分に対する親和性をもつ樹脂、あるいは、溶解もしくは分散した、光吸収性、蛍光性またはリン光もしくは光反射性粒子などの装飾的機能をもつ化合物もしくはポリマーであり得る。あるいは、またはそれに加えて、キトサン含有組成物は、生体細胞を含むことができる。
【0042】
本発明の1つの好ましい実施形態では、キトサン含有組成物は、適用部位でのpHを視覚的に示すためのpH感受性色素を含む。pHは、適用部位の組織の状態を示すための代用物として使用することができる。本発明の好ましい実施形態では、組成物は、特にそれが固体、ゲル様または以下でより詳細に説明される固化形態の場合に、透明である。有利には、組成物の外用において、このことは、処置する組織を、特にそれが創傷組織である場合に医師が検査することをより簡単にすることができる。一部の実施形態では、キトサンまたはキトサン含有組成物は、透明な固体フィルムである。他では、組成物は組織に適用すると、透明なフィルムを生じる分散液、懸濁液または溶液などの混合物である。また、組成物がpH感受性色素を含む場合、色素の色は、キトサン含有組成物の透明度によって判断することができる。
【0043】
好ましい組成物は、液体である。一般に、適用後、少なくとも一画分の液体組成物は固化する、すなわち、組成物は固体またはゲル、例えばヒドロゲルに変わる。本発明の一部の実施形態では、適用時に液体組成物中に存在した溶媒の除去、好ましくは蒸発が、固化を引き起こすか、または少なくともその一因となる。その上にまたはあるいは、固化は、組成物のポリマー成分の化学的または物理的な架橋などのその他の要因により引き起こされるか、またはそれが一因となる。
【0044】
本発明の達成可能な利点は、組成物の適用後にキトサンの濃度がその他の成分の、特に溶媒の除去によって、好ましくは蒸発により、増加し得ることである。そのような除去は、好ましくは自発的に、つまりさらなる化学物質または熱を加えるなどの濃縮プロセスを開始させるために任意のさらなる方策を必要とせずに起こる。言い換えれば、この材料は自己濃縮性である。好ましくは、自己濃縮プロセスを促進するために、キトサン材料またはキトサン含有組成物は、適用時に非吸湿性であるという点で選択される。
【0045】
好ましくは、キトサン含有組成物は、水性混合物、例えば分散液または懸濁液、より好ましくは溶液である、すなわち、それはそれぞれ混合媒体または溶媒として水を含む。さらに、本発明の一部の実施形態では、それは共溶媒、例えばイソプロパノールなどのアルコールを含むことができる。このことは、組成物の(画分)の急速な固化が必要とされる場合に、溶媒の蒸発がより速いという点で有利であり得る。前に考察されるその他の実施形態は、一般に組織への刺激を回避するためにアルコールを含まない、好ましくは有機溶媒を含まない。
【0046】
溶質またはより一般には混合物媒体に一旦とどまる組成物の構成成分は、組成物の固化により除去され、好ましくは天然キトサンの塩またはキトサン誘導体の塩などのキトサン塩を含み、より好ましくはそれからなる。好ましい塩は、塩酸などの無機酸、または2個〜12個の炭素原子および1〜5の間の第一pKa値を有する一塩基または多塩基有機酸、例えば酢酸、クエン酸、乳酸、リンゴ酸、コハク酸、マンデル酸、シュウ酸、酒石酸、アスコルビン酸などの群から選択される有機酸中の天然キトサンなどのキトサンの溶解から誘導されるものである。
【0047】
好ましくは、キトサン、より好ましくは天然キトサンは、液体組成物の水以外の主成分である。好ましくは、水以外の混合物の構成成分の少なくとも70重量%が、キトサン、好ましくは天然キトサンである。特に好ましい混合物は、本質的にキトサン、好ましくは天然キトサン、および水のみからなる。好ましい混合物は酸性である。
【0048】
液体組成物中のキトサンの濃度は、好ましくは15重量%未満、より好ましくは10重量%未満、より好ましくは7.5重量%未満、より好ましくは5重量%未満、より好ましくは2.5重量%未満、より好ましくは1重量%未満である。液体組成物中のキトサンの濃度は、好ましくは、0.1重量%よりも大きい、より好ましくは0.25重量%よりも大きい、より好ましくは0.5重量%よりも大きい、より好ましくは1重量%よりも大きい。
【0049】
適用には、液体のキトサン含有組成物を、好ましくは組織の上に噴霧し、混合媒体または溶媒をその後に蒸発させて固体またはゲル様のフィルムを形成させる。一般に、フィルムは0.1μm〜50μmの厚さ、好ましくは1μm〜25μmの間である。それは、創傷などの処置する組織、および、好ましくは、周囲組織の一部も同様に被覆するのに十分な表面積を有する。従って、キトサン含有組成物は、好ましくは、キトサン含有組成物を患者の組織に噴霧するための噴霧装置中に、または噴霧装置と組み合わせて提供される。好ましい噴霧装置は、キトサン含有組成物を貯蔵するための容器を含む。それはまた、キ
トサン含有組成物を排出するための加圧ガスを含むこともできる。組成物は、キトサン含有組成物の組織への適用の直前または適用中に混合される、2以上の液体成分で提供することができる。この場合、噴霧装置は数個の容器からなり得、かつ/または数個の噴霧装置が提供され得、その各々が液体成分の1つを含有する。あるいは、液体のキトサン含有組成物は、組織の上にブラシで塗るか、またはスポンジ、スパチュラ、ピペット、またはガーゼを用いて適用することができる。従って、組成物は、好ましくは、キトサン含有組成物またはキトサン含有組成物の少なくとも1つの構成成分を組織に適用するためのスポンジ、ブラシ、スパチュラ、ピペットまたはガーゼと組み合わせて提供される。
【0050】
あるいは、本発明によるキトサンまたは組成物は、固体またはゲル様の形態で、例えばヒドロゲルとして提供される。好ましくは、キトサンまたは組成物は、フィルムの形態を有する。フィルムは、広範な面積の組織、例えば皮膚の処置に特に有利である。好ましくは、フィルムは、処置する組織、例えば創傷などと、好ましくは一部の周囲組織も同様に被覆するために十分な表面積を有する。好ましいフィルムは、滑らかな表面を有し、好ましくは平均粗さR
aは1μm(マイクロメートル)以下、より好ましくは0.3μm以下、より好ましくは0.1μm以下である。有利には、滑らかな表面は、それが適用される組織への機械的定着(mechanical anchoring)の形成を減らすことができ、それにより、使用後のキトサンまたは組成物の除去を促進する。好ましいフィルムは、厚さが10mm未満、より好ましくは1mm未満である。一般に、フィルムの乾燥時の厚さは、0.5μm〜500μmの間、好ましくは5μm〜100μmの間、より好ましくは10μm〜50μmの間、より好ましくは20μm〜30μmの間である。あるいは、固体もしくはゲル様のキトサンまたはキトサン含有組成物は、繊維または管の形状を有し得る。典型的な繊維または管は、厚さが10μm〜10mm(ミリメートル)の間、長さが1mm〜100cm(センチメートル)の間である。
【0051】
好ましくは、固体もしくはゲル様の組成物の少なくとも70重量%、より好ましくは少なくとも90重量%、より好ましくは少なくとも95重量%が、キトサン、好ましくは天然キトサンである。
【0052】
好ましい固体もしくはゲル様のキトサンまたはキトサンを含む組成物は、少なくとも一部分は水溶性である。言い換えれば、患者の(patent’s)組織に適用されるために提供される時に、それは中性のpHの水に少なくとも一部分溶解し得る。キトサンは、例えばキトサン塩、例えば天然キトサンまたはキトサン誘導体の塩であり得る。本発明のこの実施形態の達成可能な利点は、キトサンまたはキトサン含有組成物が組織にうまく付着することである。従って、キトサンまたはキトサン含有組成物が尚早に組織から剥離することを避けることができる。本発明のこの実施形態は、有利には、キトサン塩が中性のpHの水性溶媒に可溶性であるという事実を利用する。従って、湿ったまたは事前に湿らせた組織は、キトサンまたはキトサン含有組成物の表面を液化することができ、組織との耐久性のある接触をもたらす。好ましい塩は、塩酸などの無機酸、または2個〜12個の炭素原子および1〜5の間の第一pKa値を有する一塩基または多塩基有機酸、例えば酢酸、クエン酸、乳酸、リンゴ酸、コハク酸、マンデル酸、シュウ酸、酒石酸、アスコルビン酸などの群から選択される有機酸中の天然キトサンなどのキトサンの溶解から生じるものである。本発明の代替実施形態では、キトサンは、キトサン塩基の形態で存在する。
【0053】
好ましくは、キトサン塩、より好ましくは天然キトサンの塩は、固体もしくはゲル様のキトサン含有組成物の主成分を構成する。より好ましくは、固体もしくはゲル様のキトサン含有組成物の少なくとも70重量%、より好ましくは少なくとも90重量%、より好ましくは少なくとも95重量%は、キトサン塩、好ましくは天然キトサンの塩である。
【0054】
液体キトサン含有キトサン含有組成物または固体もしくはゲル様の水溶性キトサンまた
はキトサン含有組成物を適用した後、かつ液体組成物の場合には固化の間または後に、それを好ましくは水不溶型、例えばキトサン塩基に変換させる。この変換は、例えば、空気と接触した際のキトサン含有組成物の構成成分の蒸発に起因して起こり得る。また、それはキトサンと体液および/または組織自体の相互作用の結果でもあり得る。例えば比較的高いpHの血液および/または血液中に存在するタンパク質とキトサンの接着が、変換を誘導し得る。あるいはまたはそれに加えて、変換は、変換媒体、例えばアルカリ水溶液を、キトサンまたはキトサン含有組成物に適用することにより実現することができる。有利には、変換後、キトサンまたはキトサン含有組成物は依然として有効であり、従って通常条件下で、例えば、組織を水道水(中性のpH)で洗浄するかまたは石鹸(アルカリ性)を適用する場合に、薬学的に活性であることを実現することができる。キトサンまたはキトサンを含む組成物は、キットとして、変換媒体と組み合わせて提供することができる。
【0055】
本発明の好ましい実施形態では、キトサンまたはキトサン含有組成物は、8.5よりも低い、好ましくは8よりも低い、特に好ましくは7〜7.5前後のpHを有する。好ましいpHは、6.3よりも高い、より好ましくは6.5よりも高い。本発明のこの実施形態の達成可能な利点は、キトサンの一方の画分は可溶性であって、他方は不溶性であり、可溶性画分のリザーバまたはマトリックスとしての機能を果たすことができることである。また、有利には、このpHは健康な組織のものに近く、その結果キトサン含有組成物を適用する組織の刺激または損傷が回避される。
【0056】
本発明のもう一つの好ましい実施形態では、キトサンまたはキトサン含有組成物は、6.3よりも低い、好ましくは6よりも低い、特に好ましくは5〜5.5前後のpHを有する。好ましいpHは3.0よりも高い、より好ましくは4.0よりも高い、より好ましくは4.5よりも高い。6.3のpHでキトサンは一般に水性媒体に可溶性であるので、この実施形態は、液体キトサン組成物に特に有利である。本発明のこの実施形態は、さらに、好ましくはキトサンまたはキトサン含有組成物の外用にあてはまる。本発明のこの実施形態の達成可能な利点は、pHが健康な皮膚の表面のものに近く、その結果キトサンまたはキトサン組成物が付着している組織の刺激または損傷が回避されることである。さらに、その後の変換によって、pHは6.3よりも高い、より好ましくは6.5よりも高く上昇し得るので、キトサンの一方の画分は可溶性のままであり得るが、一方は不溶性となり、可溶性画分のリザーバまたはマトリックスとしての機能を果たすことができる。
【0057】
本発明者らは、グリセロールが固体キトサンまたはキトサン含有組成物に存在することが、水溶性の状態から、製品が酸性液体溶媒にのみ可溶性である状態への変換を加速し得ることを見出した。例えば、キトサン塩としての天然キトサン塩の場合、変換は、約1ヶ月からほんの1週間に加速され得る。本発明を特定の理論に制限するものではないが、本発明者らは、この加速は、キトサン塩の結晶構造を破壊するグリセロールの作用に起因し得ると考える。有利には、より速い変換により、変換の有益な効果がより早期に始まることが可能となる。グリセロール含有量は、好ましくは、重量で固体組成物のキトサン塩含有量の少なくとも10重量%、より好ましくは少なくとも15重量%、より好ましくは少なくとも20重量%を構成する。グリセロールは、好ましくは10重量%よりも大きい、より好ましくは15重量%よりも大きい、より好ましくは20重量%よりも大きい濃度で存在する。グリセロールは、好ましくは60重量%未満、より好ましくは45重量%未満、より好ましくは30重量%未満の濃度で存在する。
【0058】
本発明によるキトサンまたはキトサンを含む組成物は、好ましくは、使用後に、例えば交換するために、または治療の終わりに、患者の組織から水不溶性の固体もしくはゲル様のキトサンまたはキトサン含有組成物の分離を促進するための分離溶媒と組み合わせたキットとして提供される。本発明の状況において、「分離溶媒」は、キトサンまたはキトサン含有組成物が固体もしくはゲル様の状態である場合に適用することのできる、好ましく
は少なくとも一部分それを溶解および/または膨潤させることにより組織から製品の分離を促進することのできる液体である。好ましい分離溶媒は、製品の患者の組織への付着性を低下させることができる。従って、分離溶媒によって、キトサンまたはキトサン含有組成物の除去の間に組織が損傷することを回避することができ、特に、キトサンまたはキトサン含有組成物を除去する場合、キトサンまたは医薬組成物に付着しているその下の組織の一部が引き裂かれることを回避することができる。いくつかある事例の中でも、創傷組織は、機械的ストレスに対して非常に感受性が高い可能性があるので、キトサンまたはキトサン含有組成物が創傷ドレッシング材または創傷ドレッシング材の一部として創傷に適用される場合が大いに有利であり得る。従って、本発明で、再生組織の刺激または損傷を回避することができる。キトサンまたはキトサン含有組成物を分離溶媒とともにキットで提供することにより、患者は、分離溶媒を事前に適用せずにキトサンまたはキトサン含有組成物を組織から分離しようとする可能性が低いという意味で、コンプライアンスを大幅に改善することができる。本発明によるキットは、使用者が別の不適当なまたはおそらくは有害でさえある溶媒を適用することを防ぐこともできる。
【0059】
好ましくは、分離溶媒は、水性溶媒、例えば蒸留水、塩化ナトリウム水溶液などのイオン化合物の水溶液、酢酸/酢酸塩緩衝溶液などの緩衝溶液、またはグルコース水溶液などの非イオン化合物の水溶液である。有利には、水は溶媒として、多くの有機溶媒よりも皮膚に対して刺激が少ない。原則として本発明による水性分離溶媒は、水に加えて水以外の1以上の共溶媒、例えばイソプロパノールまたは別のアルコールなどの有機共溶媒を含み得るが、好ましい分離溶媒は、アルコール、エステル、アルカン、ハロゲン化溶媒、アミンおよびアミドを含む有機溶媒を含まない。しかし、それはしばしば有機酸を含有する。有機酸は、本発明の状況において有機溶媒とみなされない。
【0060】
分離溶媒は、好ましくは酸性である。本発明のこの実施形態は、キトサンの溶解度がpH依存性であり得るという事実を活用する。従って、有利には、分離溶媒のpHは、全てのキトサン画分が溶解する範囲から選択することができる。分離溶媒の好ましいpHは、6.5よりも低い、より好ましくは6.3よりも低い。より好ましくは、分離溶媒のpHは、6よりも低い、より好ましくは5.5よりも低い、より好ましくは5よりも低い。分離溶媒のpHは、好ましくは3.5よりも高い。従って、有利には高酸度の分離溶媒に起因する組織の刺激が回避され得る。より好ましくは、分離溶媒のpHは、4よりも高い、より好ましくは4.5よりも高い。好ましい分離溶媒は、界面活性剤、例えばTweenなどのポリソルベートを含む。あるいは、またはそれに加えて、それはポリエチレングリコールまたはポリプロピレングリコールエステルなどの置換もしくは非置換のポリアルキレン酸化物を含むことができる。このような添加剤の存在により、固体の、ゲル様のまたは固化した液体キトサンまたはキトサン含有組成物の分離を大幅に促進することができることが見出された。
【0061】
キット中に提供される分離溶媒の量は、キット中に提供されるキトサンの量の1重量あたり少なくとも5倍、より好ましくは1重量あたり少なくとも50倍である。十分な量の分離溶媒を提供することにより、キトサンまたはキトサン含有組成物のpHが特定の閾値に入ることを回避することができる。適用には、分離溶媒を噴霧するか、ブラシでこするか、あるいはスポンジ、スパチュラ、ピペットまたはガーゼを用いて塗布することができる。従って、好ましいキットは、分離溶媒を適用するためのスポンジ、ブラシ、スパチュラ、ピペットまたはガーゼを含有する。分離溶媒は、例えば密封瓶または使い捨てのピペット中に、あるいは分離溶媒を浸したガーゼ、スポンジまたはゲルを用いて提供することができる。また、それは噴霧装置中に提供され得る。好ましい噴霧装置は、分離溶媒を貯蔵するための容器を含む。また、それは分離溶媒を排出するための加圧ガスを含むことができる。
【0062】
本発明による好ましいキットは、固体もしくはゲル様のキトサンまたはキトサンを含む組成物と、キトサンを含む液体組成物の両方を含む。本発明による好ましい方法では、キトサン含有組成物の、最初に液体を、そしてその後に固体もしくはゲル様のキトサンを適用する。好ましくはこの方法では、固体またはゲル様の製品は、製品が固化する前に適用される。本発明者らは、液体製品が、固体またはゲル様の製品の目的組織への付着を促進することができることを見出した。これは、水溶性の固体もしくはゲル様のキトサンまたはキトサンを含む組成物について、そして水溶性の固体もしくはゲル様のキトサンまたはキトサン含有組成物を付着前に水で湿らせた代替法と比較すると、特にあてはまる。これは、後者の方法が、しばしば固体もしくはゲル様のキトサンまたはキトサン含有組成物の望ましくない変形を引き起こし、その変形は、固体もしくはゲル様のキトサンまたはキトサン含有組成物の付着のために、液体のキトサン含有組成物を適用することにより回避され得ることが見出されたためである。好ましくは、キット中の液体組成物は、本明細書に記載される好ましい液体のキトサン含有組成物の1つである。同様に、固体もしくはゲル様のキトサンまたはキトサンを含む組成物は、本明細書に記載される好ましい固体もしくはゲル様のキトサンまたはキトサン含有組成物の1つである。好ましくは、液体組成物および/または固体もしくはゲル様のキトサンまたはキトサン含有組成物と分離溶媒は、別々の容器中に提供される。
【0063】
本発明によるキトサンまたはキトサンを含む医薬組成物は、組織ドレッシング材、好ましくは創傷ドレッシング材として適用することができる、あるいは、それは組織ドレッシング材または創傷ドレッシング材の一部を形成することができる。同様に、本発明による組織ドレッシング材料は、好ましくはその他の成分を含む組織ドレッシング材の一部である。本発明の好ましい実施形態では、キトサンまたはキトサン含有組成物は、キトサンまたは組成物で形成される第一の層、および少なくとも別の材料から形成されるもう一方の層を含む組織ドレッシング材の一部であり、このもう一方の層は支持体の働きをする。特に、支持体は、有利には組織ドレッシング材の組織からの尚早の分離を防ぐのに役立ち得る。支持体は、好ましくは組織と接触している面と反対の、組織ドレッシング材の面に位置する。好ましくは、支持体はキトサンまたはキトサン含有組成物に隣接している。キトサン塩基は一般にキトサン塩を含有する組織ドレッシング材料ほど十分に組織に付着しないので、本発明による支持体は、それぞれの種類のキトサン、好ましくは脱アセチル化天然キトサンが、組織ドレッシング材料にキトサン塩基の形態で提供される場合に特に有利である。支持体は、例えば織物、発泡体または有孔フィルムであり得る。支持体は、例えば綿などの天然材料または天然もしくは合成ポリマーであり得る。適したポリマーとしては、生分解性ポリマー、例えばポリエステル、ポリオルソエステル、ポリカーボネート、ポリ酸無水物、ポリウレタン、ポリホスファゼン、ポリリン酸エステル、多糖、ポリペプチド、ならびにこれらのポリマーに基づく誘導体、共重合体、およびブレンドが挙げられる。また、適したポリマーとしては、生体溶解性(biodissolvable)ポリマー、例えばポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリ−N−ビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、多糖、ポリペプチド、ならびにこれらのポリマーに基づく誘導体、共重合体、およびブレンドが挙げられる。さらに、支持体は、非生分解性/非生体溶解性ポリマー、例えばシリコーン、ポリウレタン、ポリエチレンテレフタラート、ポリテトラフルオロエチレン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリカーボネート、ポリメタクリレート、多糖、ポリペプチド、ならびにこれらのポリマーに基づく誘導体、共重合体、およびブレンドからなり得る。
【0064】
本発明による好ましい組織ドレッシング材は、キトサンまたはキトサン含有組成物で形成される第一の層、および別の材料から形成されるもう一方の層を含み、このもう一方の層は少なくとも部分的な防湿層の働きをする。言い換えればもう一方の層は、本発明による組織ドレッシング材で組織を処置している間の水の蒸発を防ぐかまたは少なくとも遅延
させることができる。これは、組織ドレッシング材が乾燥した創傷に適用される場合に特別な利点であり得る。もう一方の層は、好ましくは組織と接触している面と反対の組織ドレッシング材の層の面に位置する。好ましくは、もう一方の層は、キトサンまたはキトサン含有組成物に隣接している。本発明はまた、支持体層と、少なくとも部分的な防湿層の働きをする別の層の両方を有する組織ドレッシング材も包含する。当然、両方の機能、つまり支持体の機能と少なくとも部分的な防湿層の機能は、単一のその他の層で実現することもできる。もう一方の層は、例えばシリコーンまたは上に記載されるポリマーの群からの別のポリマーまたはポリマー組成物ででき得る。一般にもう一方の層は、10〜1000μmの間、好ましくは50〜500μmの間の厚さである。本発明の一部の実施形態では、もう一方の層は孔が開いている。穿孔の穴は、一般に直径が10〜1500μmの間、好ましくは50〜1000μmの間である。本発明の代替実施形態では、防湿層の代わりに、体液、例えば創傷滲出液を吸収することのできる層が提供される。適した材料は、例えば多糖系ヒドロゲルまたはセルロース誘導体を含む親水コロイド、またはポリウレタンフォームであり得る。これは、組織ドレッシング材が湿った創傷に適用される場合に特に有利であり得る。
【0065】
本発明の好ましい実施形態では、キトサンまたはキトサン含有組成物、好ましくは組織ドレッシング材は、それが容器の中に入っていて有効期間が過ぎていない限り、キトサンまたはキトサン含有組成物の、その液体もしくは水溶性の状態からその水不溶性の状態への変換を防ぐことのできる容器中で提供される。好ましくは、容器は防湿性であり、より好ましくはそれは本質的に気密性である。さらに、本発明の一部の実施形態では、キトサンまたはキトサン含有組成物は、患者の組織に接触して適用されることが意図されるその面で、剥離可能なカバーシートで覆われる。カバーシートは、防湿性、より好ましくは空気不透過性である。これは、キトサンまたはキトサン含有組成物のその水溶性の状態の液体から、患者の組織に適用される前のその水不溶性の状態への尚早の変換の防止に寄与し得る。
【0066】
好ましいキトサンまたはキトサン含有組成物は、1500重量%未満、より好ましくは100重量%未満、より好ましくは80重量%未満の水分取込み能を有する。その結果、有利には、創傷治癒に好ましい湿度を、創傷部位に適用される組織ドレッシング材の下で維持することができることが達成可能である。好ましくは、固体もしくはゲル様の形態のキトサンまたはキトサン含有組成物の水分取込み能は、25%よりも大きい、より好ましくは50%よりも大きい。有利には本発明のこの実施形態は、滲出液および毒素を吸収するのに適している。本発明の特に好ましい実施形態では、キトサンまたはキトサン含有組成物の水分取込み能は、65%〜75%の間である。
【0067】
本発明を、次の図面を用いてより詳細に説明する。