特許第6069435号(P6069435)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6069435
(24)【登録日】2017年1月6日
(45)【発行日】2017年2月1日
(54)【発明の名称】樹脂組成物、およびそのフィルム
(51)【国際特許分類】
   C08L 51/06 20060101AFI20170123BHJP
   C08L 51/04 20060101ALI20170123BHJP
   C08L 33/00 20060101ALI20170123BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20170123BHJP
   C08F 265/06 20060101ALI20170123BHJP
【FI】
   C08L51/06
   C08L51/04
   C08L33/00
   C08J5/18CEY
   C08F265/06
【請求項の数】17
【全頁数】58
(21)【出願番号】特願2015-162141(P2015-162141)
(22)【出願日】2015年8月19日
(62)【分割の表示】特願2014-531016(P2014-531016)の分割
【原出願日】2013年6月26日
(65)【公開番号】特開2015-214713(P2015-214713A)
(43)【公開日】2015年12月3日
【審査請求日】2016年4月13日
(31)【優先権主張番号】特願2013-80009(P2013-80009)
(32)【優先日】2013年4月5日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】北山 史延
(72)【発明者】
【氏名】舞鶴 展祥
(72)【発明者】
【氏名】羽田野 恵介
【審査官】 中村 英司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−203348(JP,A)
【文献】 特開平06−057157(JP,A)
【文献】 特開平11−293116(JP,A)
【文献】 特開2006−308682(JP,A)
【文献】 特開2009−293021(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/119730(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 51/00
C08F265/00
C08J 5/18
C08L 33/00
G02B 1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の樹脂(A)および重合体(B)を含有する樹脂組成物を成形してなるフィルム。
(A)アクリル系樹脂。
(B)(メタ)アクリル系架橋重合体層、
脂環式構造、複素環式構造または芳香族基を有する(メタ)アクリレートを構成単位に有する重合体層、並びに、
(メタ)アクリル系硬質重合体層、アクリル酸またはメタクリル酸の骨格を有する硬質重合体層、無置換及び/又は置換無水マレイン酸類の骨格を有する硬質重合体層、シアン化ビニルの骨格を有する硬質重合体層からなる群より選択される硬質重合体層、
を有する、多層構造重合体。
【請求項2】
前記脂環式構造、複素環式構造または芳香族基を有する(メタ)アクリレートが下記式(4)で表される(メタ)アクリレート系単量体である、請求項1に記載のフィルム。
【化1】
(式中、Rは、水素原子またはメチル基を表す。R10は、置換もしくは無置換の炭素数1〜24の芳香族基、または、置換もしくは無置換の炭素数1〜24の脂環式基であり、単素環式構造または複素環式構造を有する。lは1〜4の整数、mは0〜1の整数、nは0〜10の整数を示す。)
【請求項3】
前記式(4)で表される(メタ)アクリレート系単量体が、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル、及び(メタ)アクリル酸フェノキシエチルからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項2に記載のフィルム。
【請求項4】
前記樹脂(A)のガラス転移温度が100℃以上である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のフィルム。
【請求項5】
前記脂環式構造、複素環式構造または芳香族基を有する(メタ)アクリレートを構成単位に有する重合体層が、脂環式構造、複素環式構造または芳香族基を有する(メタ)アクリレートを1〜100重量%、これと共重合可能な単量体を99〜0重量%、および多官能性単量体0〜2.0重量部(脂環式構造、複素環式構造または芳香族基を有する(メタ)アクリレートおよびこれと共重合可能な単量体の総量100重量部に対して)を重合してなる重合体層である、請求項1〜4のいずれか一項に記載のフィルム。
【請求項6】
前記(メタ)アクリル系硬質重合体層が、(メタ)アクリル酸メチル1〜100重量%、これと共重合可能な単量体99〜0重量%および多官能性単量体0〜2.0重量部((メタ)アクリル酸メチルおよびこれと共重合可能な単量体の総量100重量部に対して)重合してなる重合体層である、請求項1〜5のいずれか一項に記載のフィルム。
【請求項7】
前記(メタ)アクリル系架橋重合体層が、アクリル酸アルキルエステル50〜100重量%、これと共重合可能な単量体50〜0重量%、および多官能性単量体0.05〜10重量部(アクリル酸アルキルエステルおよびこれと共重合可能な単量体の総量100重量部に対して)を重合してなる重合体層である、請求項1〜6のいずれか一項に記載のフィルム。
【請求項8】
前記重合体(B)の(メタ)アクリル系架橋重合体層までの体積平均粒子径が20〜450nmである、請求項1〜7のいずれか一項に記載のフィルム。
【請求項9】
前記重合体(B)が含有する(メタ)アクリル系架橋重合体層の含有量が、前記樹脂組成物100重量部において1〜60重量部である、請求項1〜8のいずれか一項に記載のフィルム。
【請求項10】
前記樹脂(A)が環構造を有するアクリル系樹脂である、請求項1〜9のいずれか一項に記載のフィルム。
【請求項11】
前記樹脂(A)が、下記一般式(1)で表される単位と、下記一般式(2)で表される単位とを有するグルタルイミドアクリル系樹脂(E)、ラクトン環含有アクリル系重合体、環状酸無水物繰り返し単位を含有するアクリル系重合体、並びに、水酸基および/またはカルボキシル基を含有するアクリル系重合体、からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1〜10のいずれか一項に記載のフィルム。
【化2】
(式中、RおよびRは、それぞれ独立して、水素または炭素数1〜8のアルキル基であり、Rは、水素、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、または、芳香環を含む炭素数5〜15の置換基である。)
【化3】
(式中、RおよびRは、それぞれ独立して、水素または炭素数1〜8のアルキル基であり、Rは、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、または、芳香環を含む炭素数5〜15の置換基である。)
【請求項12】
前記グルタルイミドアクリル系樹脂(E)が下記一般式(3)で表される単位を含まない、請求項11に記載のフィルム。
【化4】
(式中、Rは、水素または炭素数1〜8のアルキル基であり、Rは、炭素数6〜10のアリール基である。)
【請求項13】
溶融押出法により成形される、請求項1〜12のいずれか一項に記載のフィルム。
【請求項14】
配向複屈折が−1.7×10−4から1.7×10−4、光弾性定数が−4×10−12から4×10−12Pa−1、ヘイズが2.0%以下である、請求項1〜13のいずれか一項に記載のフィルム。
【請求項15】
フィルムの厚みが10〜500μmである、請求項1〜14のいずれか一項に記載のフィルム。
【請求項16】
請求項1〜15のいずれかに記載のフィルムを延伸してなる、延伸フィルム。
【請求項17】
フィルムの厚みが10〜500μmである、請求項16に記載の延伸フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物、およびそのフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
各種の光学関連機器で用いられるフィルム状、板状、レンズ状等の光学部材(例えば、液晶表示装置で用いられるフィルムや基板、プリズムシート等;光ディスク装置の信号読み取り用レンズ系中のレンズ、プロジェクションスクリーン用フレネルレンズ、レンチキュラーレンズ等)を構成する材料として、光透過性の樹脂が汎用されており、このような樹脂は一般に「光学樹脂」あるいは「光学ポリマー」と呼ばれている。
【0003】
光学樹脂で光学部材を構成する場合に考慮しなければならない重要な光学的特性の1つに複屈折性がある。即ち、光学樹脂が大きな複屈折性を持つことは、多くの場合好ましくない。特に、上記の例示した用途(液晶表示装置、光ディスク装置、プロジェクションスクリーン等)においては、複屈折性を持つフィルム、レンズ等が光路中に存在すると、像質や信号読み取り性能に悪影響を及ぼすため、複屈折性をできるだけ小さく抑えた光学樹脂で構成された光学部材の使用が望まれる。また、カメラ用のレンズ、眼鏡レンズ等においても、複屈折性は小さい方が望ましいことも言うまでもないことである。
【0004】
ところで、当技術分野において良く知られているように、光学ポリマーが示す複屈折には、その主因がポリマー主鎖の配向にある「配向複屈折」と、応力に起因する「光弾性複屈折」がある。配向複屈折及び光弾性複屈折の符号は、ポリマーの化学構造に由来し、それぞれのポリマーに固有の性質である。
【0005】
即ち、配向複屈折は、一般に鎖状のポリマーの主鎖(ポリマー鎖)が配向することにより発現する複屈折であり、この主鎖の配向は、例えばポリマーフィルム製造時の押出成形や延伸のプロセス、あるいは、各種形状の光学部材の製造時に多用されている射出成形のプロセスなど、材料の流動を伴うプロセスで生じ、それが光学部材に固定されて残る。ここで、ポリマー鎖の配向方向に対して、平行方向に屈折率が大きくなる場合は「配向複屈折は正」、直交する方向に屈折率が大きくなる場合は「配向複屈折は負」と表現する。
【0006】
一方、光弾性複屈折は、ポリマーの弾性的な変形(歪み)に伴って引き起こされる複屈折である。ポリマーを用いた光学部材においては、例えばそのポリマーのガラス転移温度付近からそれ以下の温度に冷却された際に生じる体積収縮により、弾性的な変形(歪み)が材料中に生じて残存し、それが光弾性複屈折の原因となる。また、例えば光学部材が通常温度(ガラス転移温度以下)で使用される機器に固定した状態で受ける外力によっても、材料は弾性的に変形し、それが光弾性複屈折を引き起こす。ここで、引張応力がかかっている方向(ポリマー鎖の配向方向)に対して、平行方向に屈折率が大きくなる場合は「光弾性複屈折は正」、直行する方向に屈折率が大きくなる場合は「光弾性複屈折は負」と表現する。
【0007】
これまで、上記複屈折を抑制する報告は種々検討されている。
【0008】
たとえば、特許文献1には、配向複屈折の符号がお互いに逆で、且つ完全に相溶する2種類の高分子樹脂をブレンドすることにより、非複屈折性の光学樹脂材料が開示されている。しかしながら、該特許記載の2種類の高分子樹脂を均一に混合させ、全体的にムラ無く低配向複屈折を示す実用的な高分子樹脂を得ることは困難であり、凝集した高分子樹脂が異物欠陥の原因になりうる。また、それらブレンドされた高分子樹脂が固有に持っている屈折率の違いから、屈折率の不均一性による光散乱が生じ、透明性に優れた光学材料を得ることが出来ない。また、光弾性複屈折についての記載はないが、実施例のポリマー組成では光弾性複屈折がかなり大きくなることが予想される。さらには機械的強度、特には耐衝撃性が必ずしも十分ではなく、割れ等の課題が発生するなど、実用上問題がある。
【0009】
特許文献2には、透明な高分子樹脂からなるマトリックスに、前記高分子樹脂材料が有する配向複屈折性を打ち消す傾向の配向複屈折性を示す低分子物質を添加することにより、非複屈折性の光学樹脂材料を得る方法が開示されている。この低分子物質は分子量が5000以下であり、得られた成形体の透明性に関しては良好であるが、光弾性複屈折や機械的強度の改善に関しては記載されていない。また、耐熱性を落とす場合もある。
【0010】
特許文献3には、透明な高分子樹脂に、前記高分子樹脂が外力により配向するのに伴ってこの結合鎖の配向方向と同じ方向に配向し、かつ、複屈折性を有する微細な無機物質を配合することにより、低配向複屈折の光学樹脂材料を得る方法が開示されている。この方法においても配向複屈折は低くできるが、光弾性複屈折や機械的強度の改善に関しては記載されていない。
【0011】
特許文献4には、2元系以上の共重合系を含む3成分以上の複合成分系を持つ光学材料について、それら複合成分系の成分の組み合わせ及び成分比(組成比)を、該光学材料が配向複屈折性と光弾性複屈折性の双方が同時に相殺されるように選択することにより、配向複屈折と光弾性複屈折が小さい非複屈折性光学樹脂材料を得る方法が開示されている。この方法では従来実現できなかった配向複屈折、光弾性複屈折の両方を同時に極めて小さくできる。ただし、配向複屈折、光弾性複屈折を同時に相殺できるようにするためには組成がある程度限定されるため、ガラス転移温度が100℃未満と低くなり、また機械的強度も低くなるなどの課題がある。また、溶融押出によるフィルム成形など、高温で滞留するような成形条件において、ポリマーが分解するなどの課題も想定される。
【0012】
また、近年、アクリル系樹脂フィルムは複屈折性が比較的低い樹脂フィルムとして、光学フィルムへの展開が期待されている。ディスプレイ、特にはモバイルディスプレイなどの軽量化、薄膜化が急速に進んでおり、このような電子デバイスに使用される光学フィルムに対してもさらなる薄膜化が求められる。そのため、アクリル系樹脂フィルムの原反フィルムに対して、たとえば2軸延伸をすることで、薄膜化するとともに、機械的強度を上げるということが検討されている。しかし、2軸延伸後も機械的強度が十分ではない場合もあり、フィルム搬送性、実使用時の耐割れ性、フィルム製造時のトリミング工程、またはフィルムを張り合わせたデバイスの打ち抜き工程における、割れ、微細なクラックの発生が問題となるケースがある。
【0013】
そこで、例えば、特許文献5には、ガラス転移温度が120℃以上のアクリル系樹脂と、アクリル系ゴム状重合体に、ビニル基重合性単量体をグラフト重合させて得られたグラフト共重合体(「コア/シェル」型の耐衝撃性改良剤、以下コアシェルポリマーとも記載する)の組み合わせにより、高い耐熱性を有しながら、フィルムとしての機械的強度、とりわけ耐折り曲げ性に優れた樹脂組成物、並びに光学フィルムを得る方法が提示されている。ただし、実施例には配向複屈折、光弾性複屈折のデータがなく、複屈折の改良効果は不明である。特に光弾性複屈折の改善に関しては記載されていない。また、グラフト共重合体は機械的強度改善のために添加されていることは記載されているが、グラフト共重合体の説明に複屈折への影響に関しては全く記載されておらず、また実施例にも配向複屈折、光弾性複屈折に関する記載がないことから、グラフト共重合体に複屈折を調整させる機能も持たせるという技術思想は存在しないことは明らかである。
【0014】
特許文献6には、アクリル系樹脂(A)、及びアクリル系ゴム(B)を含む樹脂組成物を成形してなる光学フィルムであって、前記アクリル系樹脂(A)が、メタクリレート単量体由来の繰り返し単位、ビニル芳香族単量体由来の繰り返し単位、芳香族基を有するメタクリレート単量体由来の繰り返し単位、環状酸無水物繰り返し単位を含有する耐熱アクリル系樹脂(A−1)であることを特徴とする光学フィルムに関して開示されている。当該文献では、高い耐熱性、及び優れたトリミング性を有し、かつ、延伸時においても光学特性に優れる光学フィルムであることが記載されている。ただし、トリミング性の改善に関しては記載があるが、フィルムの折り曲げ時の耐割れ性など、トリミング性以外の機械的強度に関しては記載がなく、当該文献だけでは機械的強度が実用上問題ないレベルかどうかは不明である。また、100%延伸時(2倍延伸時)の複屈折(配向複屈折)が実施例にて高いままであり、配向複屈折と光弾性係数(光弾性複屈折)の両方がともに小さい実施例はなく、複屈折の改善は十分ではない。さらに、当該文献のアクリル系ゴム(B)は実施例より、いわゆるグラフト共重合体(コアシェルポリマー)であり、ヘイズ等の透明性を維持しながら機械的強度を改善することを目的に添加されていることは記載されているが、複屈折への影響に関しては全く考慮されていない。たとえば、実施例と比較例を比較した場合、アクリル系ゴム(B)を添加することで、アクリル樹脂(A)のみの比較例に対して配向複屈折は逆に大きくなっており、また光弾性係数(光弾性複屈折)はアクリル樹脂(A)のみの比較例に対して変わっていない。また、耐熱アクリル系樹脂の光弾性定数は負であり、またアクリル系ゴム(B)も組成から光弾性定数は負と推定されることより、アクリル系ゴム(B)は配向複屈折、光弾性複屈折を悪化はさせても、調整する技術思想は当該文献にはないことは明らかである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】米国特許第4373065号公報
【特許文献2】特許第3696649号公報
【特許文献3】特許第3648201号公報
【特許文献4】特許第4624845号公報
【特許文献5】特開2009−203348号公報
【特許文献5】特許第5142938号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、異物欠陥が少なく、機械的強度を有する上、配向複屈折および光弾性複屈折の両方が共に非常に小さく、高い透明性を有し、延伸した場合においても高い透明性を有する成形体を与えうる樹脂材料を提供することを目的とする。
【0017】
本発明は、配向複屈折と光弾性複屈折の両方ともに非常に小さく、透明性に優れ、機械的強度を有し、延伸した場合においても透明性が高いフィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記事情に鑑み本発明者らが鋭意検討を重ねたところ、特許文献1に示されるような2種以上からなるポリマーアロイフィルムを延伸すると、混合されたポリマー同士の相溶性が悪い場合、原反フィルムではヘイズが低くても、延伸後ではヘイズが高くなり、透明性が大幅に低下することを見出した。詳細なメカニズムは目下検討中であるが、溶融押出成形時にはスクリュー混練等により、ある程度相溶性がずれているポリマー同士であってもある程度分散させることが可能であり、透明性は確保されやすい。しかし、延伸工程では、フィルムのガラス転移温度より高い温度雰囲気下でフィルムにテンションをかけて延伸させるが、せん断が無い状態、且つ、ある程度ポリマーが動くことができるため、相溶性が悪い場合にはポリマーの相分離、凝集が生じ、透明性が悪化すると考えられる。また、特許文献2〜4に記載の光学フィルムについても、フィルムを延伸する場合に延伸フィルムの透明性に関する検討が行われていない。そのため、マトリックス樹脂と低分子物質等との相溶性がずれていれば、延伸により低分子物質等が凝集して透明性が悪化するおそれがある。また、延伸時にはフィルムは高温条件下に晒されるため、低分子有機化合物がフィルム表面にブリードアウトするおそれもある。一方、特許文献5〜6に示されるようなアクリル系樹脂フィルムでは、フィルムを延伸した場合での光学的特性が十分ではない。
【0019】
そこで、さらなる検討を進めた結果、2層以上の硬質重合体層の少なくとも1層を、他の樹脂の光弾性定数と異符号である光弾性定数を有する硬質重合体層にした、多層構造重合体、および、他の樹脂を配合することによって、光学的特性および透明性に優れた延伸フィルムを製造できることに成功し、本発明を完成するに至った。
【0020】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1] 樹脂(A)および多層構造重合体(B)を含有し、前記多層構造重合体(B)は架橋重合体層および硬質重合体層を有し、
前記硬質重合体層が、異なる硬質重合体層を少なくとも2層有し、少なくとも1層が、前記樹脂(A)の光弾性定数と異符号の光弾性定数を有する硬質重合体層(C)である、樹脂組成物。
【0021】
[2] 前記樹脂(A)がアクリル系樹脂である、[1]記載の樹脂組成物。
【0022】
[3] 前記硬質重合体層(C)が、脂環式構造、複素環式構造または芳香族基を有するビニル系単量体を構造単位に含む硬質重合体層である、[1]または[2]に記載の樹脂組成物。
【0023】
[4] 前記異なる硬質重合体層のもう一方の硬質重合体層(D)が、(メタ)アクリル系硬質重合体層である、[1]〜[3]のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【0024】
[5] 前記脂環式構造、複素環式構造または芳香族基を有するビニル系単量体が、(メタ)アクリル系単量体である、[3]〜[4]のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【0025】
[6] 前記架橋重合体層は軟質の架橋重合体層である、[1]〜[5]のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【0026】
[7] 光弾性定数が−4×10−12から4×10−12Pa−1である、[1]〜[6]のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【0027】
[8] 配向複屈折が−1.7×10−4から1.7×10−4である、[1]〜[7]のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【0028】
[9] 前記多層構造重合体(B)が、多段重合で得られる(メタ)アクリル系ゴム含有グラフト共重合体であって、前記多段重合の少なくとも2段が、(メタ)アクリル系ゴム含有重合体粒子の存在下における、脂環式構造、複素環式構造または芳香族基を有するビニル系単量体およびこれと共重合可能な単量体を含有する単量体混合物(c)の重合、および、(メタ)アクリル系アルキルエステルを含有する単量体混合物(d)の重合である、[1]〜[8]のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【0029】
[10] 前記脂環式構造、複素環式構造または芳香族基を有するビニル系単量体が、下記式(4)で表される単量体である、[3]〜[9]のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【0030】
【化1】
【0031】
(式中、Rは、水素原子、または、置換もしくは無置換で直鎖状もしくは分岐状の炭素数1〜12のアルキル基を表す。R10は、置換もしくは無置換の炭素数1〜24の芳香族基、または、置換もしくは無置換の炭素数1〜24の脂環式基であり、単素環式構造または複素環式構造を有する。lは1〜4の整数、mは0〜1の整数、nは0〜10の整数を示す。)
[11] 前記式(4)で表される単量体が、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル、及び(メタ)アクリル酸フェノキシエチルからなる群より選択される少なくとも1種である、[10]に記載の樹脂組成物。
【0032】
[12] 前記単量体混合物(c)が、脂環式構造、複素環式構造または芳香族基を有するビニル系単量体を1〜100重量%、これと共重合可能な単量体を99〜0重量%および多官能性単量体を0〜2.0重量部(脂環式構造、複素環式構造または芳香族基を有するビニル系単量体およびこれと共重合可能な単量体の総量100重量部に対して)含む、[9]〜[11]のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【0033】
[13] 前記単量体混合物(d)が、(メタ)アクリル酸メチルを1〜100重量%、これと共重合可能な単量体を99〜0重量%、および多官能性単量体を0〜2.0重量部((メタ)アクリル酸メチルおよびこれと共重合可能な単量体の総量100重量部に対して)含む、[9]〜[12]のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【0034】
[14] 前記(メタ)アクリル系ゴム含有重合体粒子は、
アクリル酸アルキルエステル50〜100重量%、これと共重合可能な単量体50〜0重量%、および多官能性単量体0.05〜10重量部(アクリル酸アルキルエステルおよびこれと共重合可能な単量体の総量100重量部に対して)を重合してなるゴム部を有する、[9]〜[13]のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【0035】
[15] 前記多層構造重合体(B)が、
(B−1)アクリル酸アルキルエステル50〜100重量%、これと共重合可能な単量体50〜0重量%、および多官能性単量体0.05〜10重量部(アクリル酸アルキルエステルおよびこれと共重合可能な単量体の総量100重量部に対して)からなる単量体混合物を重合して(メタ)アクリル系ゴム含有重合体粒子を得、
(B−2)前記(メタ)アクリル系ゴム含有重合体粒子の存在下に、脂環式構造、複素環式構造または芳香族基を有するビニル系単量体1〜100重量%、これと共重合可能な単量体99〜0重量%、および多官能性単量体を0〜2.0重量部(脂環式構造、複素環式構造または芳香族基を有するビニル系単量体および共重合可能な単量体の総量100重量部)からなる単量体混合物を重合して重合体層(C)を形成し、
(B−3)前記(B−2)で得た重合体の存在下に、(メタ)アクリル酸アルキルエステル1〜100重量%、これと共重合可能な単量体99〜0重量%、および多官能性単量体を0〜2.0重量部((メタ)アクリル酸アルキルエステルおよびこれと共重合可能な単量体の総量100重量部)からなる単量体混合物を重合して重合体層(D)を形成し、得られる、
[1]〜[14]のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【0036】
[16] 前記(メタ)アクリル系ゴム含有グラフト共重合体の(メタ)アクリル系ゴム部までの体積平均粒子径が20〜450nmである、[9]〜[15]のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【0037】
[17] 前記多層構造重合体(B)が含有する(メタ)アクリル系ゴムの含有量が、樹脂組成物100重量部において1〜60重量部である、[9]〜[16]のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【0038】
[18] さらに、複屈折性を有する無機微粒子を含有する、[1]〜[17]のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【0039】
[19] さらに、複屈折性を有する低分子化合物を含有する、[1]〜[18]のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【0040】
[20] 前記樹脂(A)が環構造を有するアクリル系樹脂である、[1]〜[19]のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【0041】
[21] 前記樹脂(A)が、下記一般式(1)で表される単位と、下記一般式(2)で表される単位とを有するグルタルイミドアクリル系樹脂(E)、ラクトン環含有アクリル系重合体、スチレン単量体およびそれと共重合可能な単量体を重合して得られるスチレン系重合体の芳香族環を部分水素添加して得られる部分水添スチレン系重合体、環状酸無水物繰り返し単位を含有するアクリル系重合体、並びに、水酸基および/またはカルボキシル基を含有するアクリル系重合体、からなる群より選択される少なくとも1種である、[1]〜[20]のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【0042】
【化2】
【0043】
(式中、RおよびRは、それぞれ独立して、水素または炭素数1〜8のアルキル基であり、Rは、水素、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、または、芳香環を含む炭素数5〜15の置換基である。)
【0044】
【化3】
【0045】
(式中、RおよびRは、それぞれ独立して、水素または炭素数1〜8のアルキル基であり、Rは、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、または、芳香環を含む炭素数5〜15の置換基である。)
[22] 前記グルタルイミドアクリル系樹脂(E)が下記一般式(3)で表される単位を含まない、[21]に記載の樹脂組成物。
【0046】
【化4】
【0047】
(式中、Rは、水素または炭素数1〜8のアルキル基であり、Rは、炭素数6〜10のアリール基である。)
[23] 前記樹脂(A)のガラス転移温度が100℃以上である、[1]〜[22]のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【0048】
[24] [1]〜[23]のいずれか一項に記載の樹脂組成物の成形体。
【0049】
[25] [1]〜[23]のいずれか一項に記載の樹脂組成物からなるフィルム。
【0050】
[26] 溶融押出法により成形される、[25]に記載のフィルム。
【0051】
[27] 配向複屈折が−1.7×10−4から1.7×10−4、光弾性定数が−4.0×10−12から4.0×10−12Pa−1、引張破断点伸度が10%以上、ヘイズが2.0%以下である、[25]または[26]に記載のフィルム。
【0052】
[28] フィルムの厚みが10〜500μmである、[25]〜[27]のいずれか一項に記載のフィルム。
【0053】
[29] [25]〜[28]のいずれか一項に記載のフィルムを延伸してなる、延伸フィルム。
【0054】
[30] フィルムの厚みが10〜500μmである、[29]に記載の延伸フィルム。
【0055】
[31] 次の樹脂(A)および重合体(B)を含有する樹脂組成物。
(A)アクリル系樹脂。
(B)(メタ)アクリル系架橋重合体層、脂環式構造、複素環式構造または芳香族基を有する(メタ)アクリレートを構成単位に有する重合体層、および、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを構成単位に有する重合体層を有する、多層構造重合体。
【0056】
[32] 次の樹脂(A)および重合体(B)を含有する樹脂組成物。
(A)アクリル系樹脂。
(B)多段重合で得られる(メタ)アクリル系ゴム含有グラフト共重合体であって、(メタ)アクリル系ゴム含有重合体粒子の存在下において、脂環式構造、複素環式構造または芳香族基を有する(メタ)アクリレート系単量体およびこれと共重合可能な単量体を含有する単量体混合物(c)の重合、および、(メタ)アクリル酸アルキルエステルおよびこれと共重合可能な単量体を含有する単量体混合物(d)の重合により得られる、重合体。
【0057】
[33] 前記脂環式構造、複素環式構造または芳香族基を有する(メタ)アクリレートが下記式(4)で表される(メタ)アクリレート系単量体である、[31]〜[32]のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【0058】
【化5】
【0059】
(式中、Rは、置換もしくは無置換の炭素数1のアルキル基を表す。R10は、置換もしくは無置換の炭素数1〜24の芳香族基、または、置換もしくは無置換の炭素数1〜24の脂環式基であり、単素環式構造または複素環式構造を有する。lは1〜4の整数、mは0〜1の整数、nは0〜10の整数を示す。)
[34] 前記式(4)で表される(メタ)アクリレート系単量体が、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル、及び(メタ)アクリル酸フェノキシエチルからなる群より選択される少なくとも1種である、[33]に記載の樹脂組成物。
【0060】
[35] 前記樹脂(A)のガラス転移温度が100℃以上である、[31]〜[34]のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【0061】
[36] 前記単量体混合物(c)が、脂環式構造、複素環式構造または芳香族基を有する(メタ)アクリレートを1〜100重量%、これと共重合可能な単量体を99〜0重量%、および多官能性単量体0〜2.0重量部(脂環式構造、複素環式構造または芳香族基を有する(メタ)アクリレートおよびこれと共重合可能な単量体の総量100重量部に対して)含有する、[32]〜[35]のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【0062】
[37] 前記(メタ)アクリル系ゴム含有重合体粒子は、アクリル酸アルキルエステル50〜100重量%、これと共重合可能な単量体50〜0重量%、および多官能性単量体0.05〜10重量部(アクリル酸アルキルエステルおよびこれと共重合可能な単量体の総量100重量部に対して)を重合してなるゴム部を有する、[32]〜[36]のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【0063】
[38] 前記重合体(B)が、(B−1)アクリル酸アルキルエステル50〜100重量%、これと共重合可能な単量体50〜0重量%、および多官能性単量体0.05〜10重量部(アクリル酸アルキルエステルおよびこれと共重合可能な単量体の総量100重量部に対して)からなる単量体混合物を重合して(メタ)アクリル系ゴム含有重合体粒子を得、
(B−2)前記(メタ)アクリル系ゴム含有重合体粒子の存在下に、脂環式構造、複素環式構造または芳香族基を有する(メタ)アクリレート1〜100重量%、これと共重合可能な単量体99〜0重量%および多官能性単量体0〜2.0重量部(脂環式構造、複素環式構造または芳香族基を有する(メタ)アクリレートおよび共重合可能な単量体の総量100重量部に対して)からなる単量体混合物を重合して重合体層(C)を形成し、
(B−3)前記(B−2)で得た重合体の存在下に、(メタ)アクリル酸アルキルエステル1〜100重量%、これと共重合可能な単量体99〜0重量%および多官能性単量体0〜2.0重量部((メタ)アクリル酸アルキルエステルおよびこれと共重合可能な単量体の総量100重量部に対して)からなる単量体混合物を重合して重合体層(D)を形成し、得られる、[32]〜[37]のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【0064】
[39] 前記(メタ)アクリル系ゴム含有グラフト共重合体の(メタ)アクリル系ゴム部までの体積平均粒子径が20〜450nmである、[32]〜[37]のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【0065】
[40] 前記重合体(B)が含有する(メタ)アクリル系ゴムの含有量が、樹脂組成物100重量部において1〜60重量部である、[32]〜[38]のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【0066】
[41] 前記樹脂(A)が環構造を有するアクリル系樹脂である、[31]〜[38]のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【0067】
[42] 前記樹脂(A)が、下記一般式(1)で表される単位と、下記一般式(2)で表される単位とを有するグルタルイミドアクリル系樹脂(E)、ラクトン環含有アクリル系重合体、スチレン単量体およびそれと共重合可能な単量体を重合して得られるスチレン系重合体の芳香族環を部分水素添加して得られる部分水添スチレン系重合体、環状酸無水物繰り返し単位を含有するアクリル系重合体、並びに、水酸基および/またはカルボキシル基を含有するアクリル系重合体、からなる群より選択される少なくとも1種である、[31]〜[40]のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【0068】
【化6】
【0069】
(式中、RおよびRは、それぞれ独立して、水素または炭素数1〜8のアルキル基であり、Rは、水素、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、または、芳香環を含む炭素数5〜15の置換基である。)
【0070】
【化7】
【0071】
(式中、RおよびRは、それぞれ独立して、水素または炭素数1〜8のアルキル基であり、Rは、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、または、芳香環を含む炭素数5〜15の置換基である。)
[43] 前記グルタルイミドアクリル系樹脂(E)が下記一般式(3)で表される単位を含まない、[42]に記載の樹脂組成物。
【0072】
【化8】
【0073】
(式中、Rは、水素または炭素数1〜8のアルキル基であり、Rは、炭素数6〜10のアリール基である。)
[44] [31]〜[43]のいずれか一項に記載の樹脂組成物を成形してなる成形体。
【0074】
[45] [31]〜[43]のいずれか一項に記載の樹脂組成物を成形してなるフィルム。
【0075】
[46] 溶融押出法により成形される、[45]に記載のフィルム。
【0076】
[47] 配向複屈折が−1.7×10−4から1.7×10−4、光弾性定数が−4×10−12から4×10−12Pa−1、ヘイズが2.0%以下である、[45]または[46]に記載のフィルム。
【0077】
[48] フィルムの厚みが10〜500μmである、[45]〜[47]のいずれか一項に記載のフィルム。
【0078】
[49] [45]〜[48]のいずれかに記載のフィルムを延伸してなる、延伸フィルム
[50] フィルムの厚みが10〜500μmである、[49]に記載の延伸フィルム。
【0079】
[51] 樹脂(A)および重合体(B)を含有する樹脂組成物を成形してなり、
配向複屈折が−1.7×10−4から1.7×10−4、光弾性定数が−4×10−12から4×10−12Pa−1、2倍に2軸延伸した場合のヘイズが2.0%以下である、フィルム。
【0080】
[52] 前記樹脂(A)がアクリル系樹脂である、[51]に記載のフィルム。
【0081】
[53] 前記樹脂(A)の光弾性定数と重合体(B)の光弾性定数とが異符号である、[51]〜[52]のいずれか一項に記載のフィルム。
【0082】
[54] 前記重合体(B)が架橋構造を有する、[51]〜[53]のいずれか一項に記載のフィルム。
【0083】
[55] 前記重合体(B)が硬質層を有する、[51]〜[54]のいずれか一項に記載のフィルム。
【0084】
[56] 前記重合体(B)が多層構造重合体である、[51]〜[55]のいずれか一項に記載のフィルム。
【0085】
[57] 前記重合体(B)が硬質層を含む多層構造重合体である、[51]〜[56]のいずれか一項に記載のフィルム。
【0086】
[58] 前記重合体(B)が架橋重合体層および硬質重合体層を有する、[51]〜[57]のいずれか一項に記載のフィルム。
【0087】
[59] 前記重合体(B)が異なる硬質重合体層を少なくとも2層有し、少なくとも1層が樹脂(A)の光弾性定数と異符号である光弾性定数を有する硬質重合体層(C)である、[51]〜[58]のいずれか一項に記載のフィルム。
【0088】
[60] 前記重合体(B)が(メタ)アクリル系架橋重合体層を有する、[51]〜[59]のいずれか一項に記載のフィルム。
【0089】
[61] 前記重合体(B)が、脂環式構造、複素環式構造または芳香族基を有するビニル系単量体を構造単位に含む硬質重合体層(C)、および、(メタ)アクリル系硬質重合体層(D)を有する、[51]〜[60]のいずれか一項に記載のフィルム。
【0090】
[62] 前記脂環式構造、複素環式構造または芳香族基を有するビニル系単量体が、(メタ)アクリル系単量体である、[61]に記載のフィルム。
【0091】
[63] 前記脂環式構造、複素環式構造または芳香族基を有するビニル系単量体が、下記式(4)で表されるビニル系単量体である、[61]〜[62]のいずれか一項に記載のフィルム。
【0092】
【化9】
【0093】
(式中、Rは、水素原子、または、置換もしくは無置換で直鎖状もしくは分岐状の炭素数1〜12のアルキル基を表す。R10は、置換もしくは無置換の炭素数1〜24の芳香族基、または、置換もしくは無置換の炭素数1〜24の脂環式基であり、単素環式構造または複素環式構造を有する。lは1〜4の整数、mは0〜1の整数、nは0〜10の整数を示す。)
[64] 前記式(4)で表されるビニル系単量体が(メタ)アクリレート系単量体である、[63]に記載のフィルム。
【0094】
[65] 前記式(4)で表されるビニル系単量体が、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル、及び(メタ)アクリル酸フェノキシエチルからなる群より選択される少なくとも1種である、[64]に記載のフィルム。
【0095】
[66] 前記硬質重合体層(C)は、脂環式構造、複素環式構造または芳香族基を有するビニル系単量体を1〜100重量%、これと共重合可能な単量体を99〜0重量%および多官能性単量体0〜2.0重量部(脂環式構造、複素環式構造または芳香族基を有するビニル系単量体およびこれと共重合可能な単量体の総量100重量部に対して)を重合してなる、[59]〜[65]のいずれか一項に記載のフィルム。
【0096】
[67] 前記重合体(B)が、(メタ)アクリル酸メチル1〜100重量%、これと共重合可能な単量体99〜0重量%および多官能性単量体0〜2.0重量部((メタ)アクリル酸メチルおよびこれと共重合可能な単量体の総量100重量部に対して)重合してなる(メタ)アクリル系硬質重合体層を有する、[51]〜[66]のいずれか一項に記載のフィルム。
【0097】
[68] 前記重合体(B)が、アクリル酸アルキルエステル50〜100重量%、これと共重合可能な単量体50〜0重量%、および多官能性単量体0.05〜10重量部(アクリル酸アルキルエステルおよびこれと共重合可能な単量体の総量100重量部に対して)を重合してなる架橋重合体層を有する、[51]〜[67]のいずれか一項に記載のフィルム。
【0098】
[69] 前記重合体(B)は、硬質の外層を有し、前記外層が前記脂環式構造、複素環式構造または芳香族基を有するビニル系単量体を構成単位に有する硬質重合体層(C)、および前記(メタ)アクリル系硬質重合体層(D)を有する、[61]〜[68]のいずれか一項に記載のフィルム。
【0099】
[70] 前記重合体(B)は、前記硬質の外層の内側に、(メタ)アクリル系架橋重合体層を有する軟質層が隣接している、[69]に記載のフィルム。
【0100】
[71] 前記重合体(B)は、軟質の内層および硬質の外層を有し、前記内層が前記(メタ)アクリル系架橋重合体層を有し、前記外層が前記脂環式構造、複素環式構造または芳香族基を有するビニル系単量体を構成単位に有する硬質重合体層(C)、および前記(メタ)アクリル系硬質重合体層(D)を有する、[61]〜[70]のいずれか一項に記載のフィルム。
【0101】
[72] 前記重合体(B)は、硬質の内層、軟質の中間層および硬質の外層を有し、前記内層が少なくとも一種の硬質重合体層からなり、前記中間層が(メタ)アクリル系架橋重合体の軟質重合体層を有し、前記外層が前記脂環式構造、複素環式構造または芳香族基を有するビニル系単量体を構成単位に有する硬質重合体層(C)、および前記(メタ)アクリル系硬質重合体層(D)を有する、[61]〜[68]のいずれか一項に記載のフィルム。
【0102】
[73] 前記重合体(B)が、さらに軟質の最内層を有する、[72]に記載のフィルム。
【0103】
[74] 前記重合体(B)の(メタ)アクリル系架橋重合体層までの体積平均粒子径が20〜450nmである、[60]〜[73]のいずれか一項に記載のフィルム。
【0104】
[75] 前記重合体(B)が含有する(メタ)アクリル系架橋重合体の含有量が、前記樹脂組成物100重量部において1〜60重量部である、[60]〜[74]のいずれか一項に記載のフィルム。
【0105】
[76] 前記樹脂組成物がさらに複屈折性を有する無機微粒子を含有する、[51]〜[75]のいずれか一項に記載のフィルム。
【0106】
[77] 前記樹脂組成物がさらに複屈折性を有する低分子化合物を含有する、[51]〜[76]のいずれか一項に記載のフィルム。
【0107】
[78] 引張破断点伸度が10%以上である、[51]〜[77]のいずれか一項に記載のフィルム。
【0108】
[79] 引張破断点伸度が10%以上、配向複屈折が−1.7×10−4から1.7×10−4、光弾性定数が−4×10−12から4×10−12Pa−1、2倍に2軸延伸した場合のヘイズが2.0%以下である、フィルム。
【0109】
[80] 2倍に2軸延伸した場合の引張破断点伸度が40%以上である、[51]〜[79]のいずれか一項に記載のフィルム。
【0110】
[81] フィルムの厚みが10〜500μmである、[51]〜[80]のいずれか一項に記載のフィルム。
【0111】
[82] ガラス転移温度が100℃以上である、[51]〜[81]のいずれか一項に記載のフィルム。
【0112】
[83] アクリル系樹脂フィルムである、[51]〜[82]のいずれか一項に記載のフィルム。
【0113】
[84] [51]〜[83]のいずれか一項に記載のフィルムを延伸してなる、延伸フィルム。
【0114】
[85] [51]〜[83]のいずれか一項に記載のフィルムまたは[84]に記載の延伸フィルムからなる、光学フィルム。
【0115】
[86] [51]〜[83]のいずれか一項に記載のフィルムまたは[84]に記載の延伸フィルムを基材に積層してなる積層品。
【0116】
[87] 前記脂環式構造、複素環式構造または芳香族基を有する(メタ)アクリレートを構成単位に有する重合体層が、脂環式構造、複素環式構造または芳香族基を有する(メタ)アクリレートを1〜100重量%、これと共重合可能な単量体を99〜0重量%、および多官能性単量体0〜2.0重量部(脂環式構造、複素環式構造または芳香族基を有する(メタ)アクリレートおよびこれと共重合可能な単量体の総量100重量部に対して)からなる単量体混合物を重合して得られる、[31]および[33]−[35]のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【0117】
[88] 前記(メタ)アクリル系架橋重合体層は、アクリル酸アルキルエステル50〜100重量%、これと共重合可能な単量体50〜0重量%、および多官能性単量体0.05〜10重量部(アクリル酸アルキルエステルおよびこれと共重合可能な単量体の総量100重量部に対して)を重合して得られる、[31]、[33]−[35]および[87]のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【0118】
[89] 前記多層構造重合体(B)が、(B−1)アクリル酸アルキルエステル50〜100重量%、これと共重合可能な単量体50〜0重量%、および多官能性単量体0.05〜10重量部(アクリル酸アルキルエステルおよびこれと共重合可能な単量体の総量100重量部に対して)からなる単量体混合物を重合して(メタ)アクリル系架橋重合体層を得、
(B−2)前記(メタ)アクリル系架橋重合体層の存在下に、脂環式構造、複素環式構造または芳香族基を有する(メタ)アクリレート1〜100重量%、これと共重合可能な単量体99〜0重量%および多官能性単量体0〜2.0重量部(脂環式構造、複素環式構造または芳香族基を有する(メタ)アクリレートおよび共重合可能な単量体の総量100重量部に対して)からなる単量体混合物を重合して脂環式構造、複素環式構造または芳香族基を有する(メタ)アクリレートを構成単位に有する重合体層を形成し、
(B−3)前記(B−2)で得た重合体の存在下に、(メタ)アクリル酸アルキルエステル1〜100重量%、これと共重合可能な単量体99〜0重量%および多官能性単量体0〜2.0重量部((メタ)アクリル酸アルキルエステルおよびこれと共重合可能な単量体の総量100重量部に対して)からなる単量体混合物を重合して(メタ)アクリル酸アルキルエステルを構成単位に有する重合体層を形成し、得られる、[31]、[33]−[35]および[87]−[88]のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【0119】
[90] 前記多層構造重合体の前記(メタ)アクリル系架橋重合体層までの体積平均粒子径が20〜450nmである、[31]、[33]−[35]および[87]−[89]のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【0120】
[91] 前記多層構造重合体が含有する前記(メタ)アクリル系架橋重合体層の含有量が、樹脂組成物100重量部において1〜60重量部である、[31]、[33]−[35]および[87]−[90]のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【発明の効果】
【0121】
本発明の樹脂組成物によれば、異物欠陥が少なく、機械的強度を有し、配向複屈折および光弾性複屈折の両方がともに非常に小さく、高い透明性を有し、かつ、延伸した場合においても高い透明性が維持された成形品を提供でき、光学部材に好適である。
【0122】
本発明のフィルムは、配向複屈折と光弾性複屈折の両方ともに非常に小さく、優れた透明性、および機械的強度を有し、かつ、延伸した場合においても高い透明性を有し、光学フィルムに好適である。
【発明を実施するための形態】
【0123】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明するが、本発明はこれら実施形態に限定されない。
【0124】
本発明の樹脂組成物は、必須成分として、樹脂(A)、および、多層構造重合体(B)を含有する。
【0125】
(樹脂(A))
本発明において、樹脂(A)とは、一般に透明性を有している樹脂であれば使用可能である。具体的には、ビスフェノールAポリカーボネートに代表されるポリカーボネート樹脂、ポリスチレン、スチレン-アクリロニトリル共重合体、スチレン-無水マレイン酸樹脂、スチレン-マレイミド樹脂、スチレン-(メタ)アクリル酸樹脂、スチレン系熱可塑エラストマー等の芳香族ビニル系樹脂及びその水素添加物、非晶性ポリオレフィン、結晶相を微細化した透明なポリオレフィン、エチレン-メタクリル酸メチル樹脂等のポリオレフィ
ン系樹脂、ポリメタクリル酸メチル、スチレン-メタクリル酸メチル樹脂等のアクリル系
樹脂、およびそのイミド環化、ラクトン環化、メタクリル酸変性等により改質された耐熱性のアクリル系樹脂、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレートあるいはシクロヘキサンジメチレン基やイソフタル酸等で部分変性されたポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアリレート等の非晶ポリエステル樹脂あるいは結晶相を微細化した透明なポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリアミド樹脂、トリアセチルセルロース樹脂等のセルロース系樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂等の透明性を有する熱可塑性樹脂が幅広く例示される。実使用を考えた場合、得られた成形体の全光線透過率が85%以上、好ましくは90%、より好ましくは92%以上になるように樹脂を選定することが好ましい。
【0126】
上記樹脂のなかでも、アクリル系樹脂は、優れた光学特性、耐熱性、成形加工性などの面で特に好ましい。アクリル系樹脂は、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを含むビニル系単量体を重合してなる樹脂であればよいが、メタクリル酸メチル30〜100重量%およびこれと共重合可能なモノマー70〜0重量%を重合して得られるアクリル系樹脂がより好ましい。
【0127】
メタクリル酸メチルと共重合可能な他のビニル単量体としては、例えばアルキル残基の炭素数1〜10である(メタ)アクリル酸エステル(ただしメタクリル酸メチルを除く)が好ましい。メタクリル酸メチルと共重合可能な他のビニル単量体としては、具体的には、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸エポキシシクロヘキシルメチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸ジシクロペンタニル、2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレート、2,2,2−トリクロロエチルメタクリレート、メタクリル酸イソボロニル等のメタクリル酸エステル類;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸グリシジル、アクリル酸エポキシシクロヘキシルメチル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシプロピル等のアクリル酸エステル類:、メタクリル酸、アクリル酸などのカルボン酸類およびそのエステル類;アクリロニトニル、メタクリロニトリルなどのビニルシアン類;スチレン、α−メチルスチレン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレン等のビニルアレーン類;マレイン酸、フマール酸およびそれらのエステル等;塩化ビニル、臭化ビニル、クロロプレンなどのハロゲン化ビニル類:、酢酸ビニル;エチレン、プロピレン、ブチレン、ブタジエン、イソブチレンなどのアルケン類;ハロゲン化アルケン類;アリルメタクリレート、ジアリルフタレート、トリアリルシアヌレート、モノエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、ジビニルベンゼンなどの多官能性モノマーが挙げられる。これらのビニル系単量体は単独でまたは2種類以上を併用して使用することができる。
【0128】
アクリル系樹脂中、メタクリル酸メチルは、好ましくは30〜100重量%、より好ましくは50〜99.9重量%、さらに好ましくは50〜98重量%含有され、メタクリル酸メチルと共重合可能なモノマーは、好ましくは70〜0重量%、より好ましくは50〜0.1重量%、さらに好ましくは50〜2重量%含有される。メタクリル酸メチルの含有量が30重量%未満ではアクリル系樹脂特有の光学特性、外観性、耐候性、耐熱性が低下してしまう傾向がある。また、加工性、外観性の観点から、多官能性モノマーは使用しないことが望ましい。
【0129】
本発明に用いられる樹脂(A)のガラス転移温度は使用する条件、用途に応じて設定することができる。好ましくはガラス転移温度が100℃以上、より好ましくは110℃以上、さらに好ましくは115℃以上、最も好ましくは120℃以上である。
【0130】
ガラス転移温度が120℃以上のアクリル系樹脂として、具体的には、グルタルイミド構造、環状酸無水物(例えば無水グルタル酸)構造、(メタ)アクリル酸単位またはラクトン構造を分子中に含むアクリル系樹脂が挙げられる。例えば、グルタルイミドアクリル系樹脂、無水グルタル酸アクリル系樹脂、ラクトン環化アクリル系樹脂、水酸基および/またはカルボキシル基を含有するアクリル系樹脂、メタクリル系樹脂等が挙げられる。また、ガラス転移温度が120℃以上のその他樹脂としては、例えば、スチレン単量体およびそれと共重合可能な単量体を重合して得られるスチレン系重合体の芳香族環を部分水素添加して得られる部分水添スチレン系重合体、環状酸無水物繰り返し単位を含有する重合体、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等も使用できる。なかでも、以下に記載するグルタルイミドアクリル系樹脂(E)を用いると得られるフィルムの耐熱性が向上し、且つ、延伸時の光学特性にも優れるため特に好ましい。
【0131】
(グルタルイミドアクリル系樹脂(E))
グルタルイミドアクリル系樹脂(E)は、ガラス転移温度が120℃以上であり、下記一般式(1)で表される単位と、下記一般式(2)で表される単位とを含むものである。
【0132】
【化10】
【0133】
上記一般式(1)中、RおよびRは、それぞれ独立して、水素または炭素数1〜8のアルキル基であり、Rは、水素、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、または、芳香環を含む炭素数5〜15の置換基である。上記一般式(1)で表される単位を、以下、「グルタルイミド単位」ともいう。
【0134】
上記一般式(1)において、好ましくは、RおよびRはそれぞれ独立して水素またはメチル基であり、Rは、水素、メチル基、ブチル基、シクロヘキシル基であり、より好ましくは、Rはメチル基であり、Rは水素であり、Rはメチル基である。
【0135】
グルタルイミドアクリル系樹脂(E)は、グルタルイミド単位として、単一の種類のみを含んでいてもよいし、上記一般式(1)におけるR、R、およびRのいずれか又は全てが異なる複数の種類を含んでいてもよい。
【0136】
グルタルイミド単位は、後述の一般式(2)で表される(メタ)アクリル酸エステル単位をイミド化することにより形成することができる。また、無水マレイン酸等の酸無水物、当該酸無水物と炭素数1〜20の直鎖または分岐のアルコールとのハーフエステル、または、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸(例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、クロトン酸、フマル酸、シトラコン酸)をイミド化することによっても、上記グルタルイミド単位を形成することができる。
【0137】
グルタルイミドアクリル系樹脂(E)において、グルタルイミド単位の含有量は特に限定されず、例えば、Rの構造等を考慮して適宜決定することができる。しかしながら、グルタルイミド単位の含有量は、グルタルイミドアクリル系樹脂(E)全量のうち1.0重量%以上が好ましく、3.0重量%〜90重量%がより好ましく、5.0重量%〜60重量%がさらに好ましい。グルタルイミド単位の含有量が上記範囲より少ないと、得られるグルタルイミドアクリル系樹脂(E)の耐熱性が不足したり、透明性が損なわれたりする傾向がある。逆に上記範囲よりも多いと、不必要に耐熱性および溶融粘度が高くなり、成形加工性が悪くなったり、フィルム加工時の機械的強度が極端に低くなったり、透明性が損なわれたりする傾向がある。
【0138】
グルタルイミド単位の含有量は以下の方法により算出される。
【0139】
H−NMR BRUKER AvanceIII(400MHz)を用いて、樹脂のH−NMR測定を行い、樹脂中のグルタルイミド単位またはエステル単位などの各モノマー単位それぞれの含有量(mol%)を求め、当該含有量(mol%)を、各モノマー単位の分子量を使用して含有量(重量%)に換算する。
【0140】
例えば、上記一般式(1)においてRがメチル基であるグルタルイミド単位とメチルメタクリレート単位からなる樹脂の場合、3.5から3.8ppm付近に現れるメタクリル酸メチルのO−CHプロトン由来のピークの面積aと、3.0から3.3ppm付近に現れるグルタルイミドのN−CHプロトン由来のピークの面積bから、以下の計算式によりグルタルイミド単位の含有量(重量%)を求めることができる。
[メチルメタクリレート単位の含有量A(mol%)]=100×a/(a+b)
[グルタルイミド単位の含有量B(mol%)]=100×b/(a+b)
[グルタルイミド単位の含有量(重量%)]=100×(b×(グルタルイミド単位の分子量))/(a×(メチルメタクリレート単位の分子量)+b×(グルタルイミド単位の分子量))
なお、モノマー単位として上記以外の単位を含む場合においても、樹脂中の各モノマー単位の含有量(mol%)と分子量から、同様にグルタルイミド単位の含有量(重量%)を求めることができる。
【0141】
本発明の樹脂組成物を例えば偏光子保護フィルムに使用する場合、グルタルイミド単位の含有量は、複屈折を抑制しやすいため20重量%以下が好ましく、15重量%以下がより好ましく、10重量%以下がさらに好ましい。
【0142】
【化11】
【0143】
上記一般式(2)中、RおよびRは、それぞれ独立して、水素または炭素数1〜8のアルキル基であり、Rは、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、または芳香環を含む炭素数5〜15の置換基である。上記一般式(2)で表される単位を、以下、「(メタ)アクリル酸エステル単位」ともいう。なお、本願において「(メタ)アクリル」とは、「メタクリルまたはアクリル」を指すものとする。
【0144】
上記一般式(2)において、好ましくは、RおよびRはそれぞれ独立して水素またはメチル基であり、Rは水素またはメチル基であり、より好ましくは、Rは水素であり、Rはメチル基であり、Rはメチル基である。
【0145】
グルタルイミドアクリル系樹脂(E)は、(メタ)アクリル酸エステル単位として、単一の種類のみを含んでいてもよいし、上記一般式(2)におけるR、RおよびRのいずれか又は全てが異なる複数の種類を含んでいてもよい。
【0146】
グルタルイミドアクリル系樹脂(E)は、必要に応じて、下記一般式(3)で表される単位(以下、「芳香族ビニル単位」ともいう)をさらに含んでいてもよい。
【0147】
【化12】
【0148】
上記一般式(3)中、Rは、水素または炭素数1〜8のアルキル基であり、Rは、炭素数6〜10のアリール基である。
【0149】
上記一般式(3)で表される芳香族ビニル単位としては特に限定されないが、スチレン単位、α−メチルスチレン単位が挙げられ、スチレン単位が好ましい。
【0150】
グルタルイミドアクリル系樹脂(E)は、芳香族ビニル単位として、単一の種類のみを含んでいてもよいし、RおよびRのいずれか又は双方が異なる複数の単位を含んでいてもよい。
【0151】
グルタルイミドアクリル系樹脂(E)において、芳香族ビニル単位の含有量は特に限定されないが、グルタルイミドアクリル系樹脂(E)全量のうち0〜50重量%が好ましく、0〜20重量%がより好ましく、0〜15重量%が特に好ましい。芳香族ビニル単位の含有量が上記範囲より多いと、グルタルイミドアクリル系樹脂(E)の十分な耐熱性を得ることができない。
【0152】
しかし本発明では、耐折り曲げ性および透明性の向上、フィッシュアイの低減、さらに耐溶剤性または耐候性の向上といった観点から、グルタルイミドアクリル系樹脂(E)は芳香族ビニル単位を含まないことが好ましい。
【0153】
グルタルイミドアクリル系樹脂(E)には、必要に応じ、グルタルイミド単位、(メタ)アクリル酸エステル単位、および芳香族ビニル単位以外のその他の単位がさらに含まれていてもよい。
【0154】
その他の単位としては、例えば、アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド系単位、グルタル無水物単位、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル系単位、マレイミド、N−メチルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド系単位等が挙げられる。
【0155】
これらのその他の単位は、グルタルイミドアクリル系樹脂(E)中に、ランダム共重合により含まれていてもよいし、グラフト共重合により含まれていてもよい。
【0156】
これらのその他の単位は、その単位を構成する単量体を、グルタルイミドアクリル系樹脂(E)、及び/又は、樹脂(E)を製造する際の原料となる樹脂に対し共重合することで導入したものでもよい。また、前記のイミド化反応を行う際に、これらその他の単位が副生して樹脂(E)に含まれることとなったものでもよい。
【0157】
グルタルイミドアクリル系樹脂(E)の重量平均分子量は特に限定されないが、1×10〜5×10の範囲にあることが好ましい。上記範囲内であれば、成形加工性が低下したり、フィルム加工時の機械的強度が不足したりすることがない。一方、重量平均分子量が上記範囲よりも小さいと、フィルムにした場合の機械的強度が不足する傾向がある。また、上記範囲よりも大きいと、溶融押出時の粘度が高く、成形加工性が低下し、成形品の生産性が低下する傾向がある。
【0158】
グルタルイミドアクリル系樹脂(E)のガラス転移温度は、フィルムが良好な耐熱性を発揮するよう、120℃以上である。好ましくは125℃以上である。ガラス転移温度が上記範囲よりも低いと、フィルムが十分な耐熱性を発揮することができない。
【0159】
次に、グルタルイミドアクリル系樹脂(E)の製造方法の一例を説明する。
【0160】
まず、(メタ)アクリル酸エステルを重合することにより、(メタ)アクリル酸エステル重合体を製造する。グルタルイミドアクリル系樹脂(E)が芳香族ビニル単位を含む場合には、(メタ)アクリル酸エステルと芳香族ビニルとを共重合させ、(メタ)アクリル酸エステル−芳香族ビニル共重合体を製造する。
【0161】
この工程において、上記(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシルを用いることが好ましく、メタクリル酸メチルを用いることがより好ましい。
【0162】
(メタ)アクリル酸エステルは、単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。複数種の(メタ)アクリル酸エステルを用いることにより、最終的に得られるグルタルイミドアクリル系樹脂(E)に複数種の(メタ)アクリル酸エステル単位を含ませることができる。
【0163】
上記(メタ)アクリル酸エステル重合体または上記(メタ)アクリル酸エステル−芳香族ビニル共重合体の構造は、続くイミド化反応が可能なものであれば、特に限定されない。具体的には、線状ポリマー、ブロックポリマー、コアシェルポリマー、分岐ポリマー、ラダーポリマー、架橋ポリマー等が挙げられる。
【0164】
ブロックポリマーの場合、A−B型、A−B−C型、A−B−A型、およびこれら以外のタイプのブロックポリマーのいずれであってもよい。コアシェルポリマーの場合、一層のコアおよび一層のシェルのみからなるものであってもよいし、コアとシェルのいずれか一方又は双方が多層からなるものであってもよい。
【0165】
次に、上記(メタ)アクリル酸エステル重合体または上記(メタ)アクリル酸エステル−芳香族ビニル共重合体に、イミド化剤を反応させることで、イミド化反応を行う。これにより、グルタルイミドアクリル系樹脂(E)を製造することができる。
【0166】
上記イミド化剤は特に限定されず、上記一般式(1)で表されるグルタルイミド単位を生成できるものであればよい。具体的には、アンモニア又は一級アミンを用いることができる。上記一級アミンとしては、例えば、メチルアミン、エチルアミン、n−プロピルアミン、i−プロピルアミン、n−ブチルアミン、i−ブチルアミン、tert−ブチルアミン、n−ヘキシルアミン等の脂肪族炭化水素基含有一級アミン、アニリン、ベンジルアミン、トルイジン、トリクロロアニリン等の芳香族炭化水素基含有一級アミン、シクロヘキシルアミン等の脂環式炭化水素基含有一級アミンが挙げられる。
【0167】
上記イミド化剤としては、尿素、1,3−ジメチル尿素、1,3−ジエチル尿素、1,3−ジプロピル尿素等の、加熱によりアンモニア又は一級アミンを発生する尿素系化合物を用いることもできる。
【0168】
上記イミド化剤のうち、コスト、物性の面から、アンモニア、メチルアミン、シクロヘキシルアミンを用いることが好ましく、メチルアミンを用いることが特に好ましい。
【0169】
このイミド化の工程においては、上記イミド化剤に加えて、必要に応じて、閉環促進剤を添加してもよい。
【0170】
このイミド化の工程では、上記イミド化剤の添加割合を調整することにより、得られるグルタルイミドアクリル系樹脂(E)におけるグルタルイミド単位の含有量を調整することができる。
【0171】
上記イミド化反応を実施するための方法は特に限定されず、従来公知の方法を用いることができる。例えば、押出機、又は、バッチ式反応槽(圧力容器)を用いることでイミド化反応を進行させることができる。
【0172】
上記押出機としては特に限定されず、各種押出機を使用できるが、例えば、単軸押出機、二軸押出機または多軸押出機等を用いることができる。
【0173】
中でも、二軸押出機を用いることが好ましい。二軸押出機によれば、原料ポリマーとイミド化剤(閉環促進剤を用いる場合は、イミド化剤および閉環促進剤)との混合を促進することができる。
【0174】
二軸押出機としては、例えば、非噛合い型同方向回転式、噛合い型同方向回転式、非噛合い型異方向回転式、および噛合い型異方向回転式等が挙げられる。中でも、噛合い型同方向回転式が好ましい。噛合い型同方向回転式の二軸押出機は、高速回転可能であるため、原料ポリマーとイミド化剤(閉環促進剤を用いる場合は、イミド化剤および閉環促進剤)との混合を、より一層促進することができる。
【0175】
上記例示した押出機は単独で用いてもよいし、複数を直列に連結して用いてもよい。
【0176】
グルタルイミドアクリル系樹脂(E)を製造するにあたっては、上記イミド化工程に加えて、エステル化剤で処理するエステル化工程を含むことができる。このエステル化工程によって、イミド化工程にて副生した、樹脂中に含まれるカルボキシル基を、エステル基に変換することができる。これにより、グルタルイミドアクリル系樹脂(E)の酸価を所望の範囲内に調整することができる。
【0177】
グルタルイミドアクリル系樹脂(E)の酸価は特に限定されないが、0.50mmol/g以下であることが好ましく、0.45mmol/g以下であることがより好ましい。下限は特に制限されないが、0mmol/g以上が好ましく、0.05mmol/g以上が好ましく、0.10mmol/g以上が特に好ましい。酸価が上記範囲内であれば、耐熱性、機械物性、および成形加工性のバランスに優れたグルタルイミドアクリル系樹脂(E)を得ることができる。一方、酸価が上記範囲より大きいと、フィルム成形のための溶融押出時に樹脂の発泡が起こりやすくなり、成形加工性が低下し、成形品の生産性が低下する傾向がある。なお、酸価は、例えば特開2005−23272号公報に記載の滴定法などにより算出することが可能である。
【0178】
上記エステル化剤としては特に限定されず、例えば、ジメチルカーボネート、2,2−ジメトキシプロパン、ジメチルスルホキシド、トリエチルオルトホルメート、トリメチルオルトアセテート、トリメチルオルトホルメート、ジフェニルカーボネート、ジメチルサルフェート、メチルトルエンスルホネート、メチルトリフルオロメチルスルホネート、メチルアセテート、メタノール、エタノール、メチルイソシアネート、p−クロロフェニルイソシアネート、ジメチルカルボジイミド、ジメチル−t−ブチルシリルクロライド、イソプロペニルアセテート、ジメチルウレア、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド、ジメチルジエトキシシラン、テトラ−N−ブトキシシラン、ジメチル(トリメチルシラン)フォスファイト、トリメチルフォスファイト、トリメチルフォスフェート、トリクレジルフォスフェート、ジアゾメタン、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、シクロヘキセンオキサイド、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、ベンジルグリシジルエーテルなどが挙げられる。これらの中でも、コスト、反応性などの観点から、ジメチルカーボネート、およびトリメチルオルトアセテートが好ましく、コストの観点から、ジメチルカーボネートが特に好ましい。
【0179】
上記エステル化剤の使用量は特に限定されないが、上記(メタ)アクリル酸エステル重合体または上記(メタ)アクリル酸エステル−芳香族ビニル共重合体100重量部に対して0〜12重量部であることが好ましく、0〜8重量部であることがより好ましい。エステル化剤の使用量が上記範囲内であれば、グルタルイミドアクリル系樹脂(E)の酸価を適切な範囲に調整できる。一方、上記範囲を外れると、未反応のエステル化剤が樹脂中に残存する可能性があり、当該樹脂を使って成形を行った際に、発泡または臭気発生の原因となることがある。
【0180】
上記エステル化剤に加え、触媒を併用することもできる。触媒の種類は特に限定されないが、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン等の脂肪族3級アミンが挙げられる。これらの中でもコスト、反応性などの観点からトリエチルアミンが好ましい。
【0181】
エステル化工程は、上記イミド化工程と同様、例えば、押出機、又は、バッチ式反応槽を用いることで進行させることができる。
【0182】
このエステル化工程は、エステル化剤を使用せずに、加熱処理のみによって実施することもできる。当該加熱処理は、押出機内で溶融樹脂を混練および分散することで達成できすることができる。エステル化工程として加熱処理のみを行なう場合、イミド化工程にて副生した樹脂中のカルボキシル基同士の脱水反応、および/または、樹脂中のカルボキシル基と樹脂中のアルキルエステル基との脱アルコール反応等により、前記カルボキシル基の一部または全部を酸無水物基とすることができる。この時、閉環促進剤(触媒)を使用することも可能である。
【0183】
エステル化剤を用いたエステル化工程においても、並行して、加熱処理による酸無水物基化を進行させることが可能である。イミド化工程およびエステル化工程ともに、使用する押出機には、大気圧以下に減圧可能なベント口を装着することが好ましい。このような機械によれば、未反応のイミド化剤、エステル化剤、メタノール等の副生物、または、モノマー類を除去することができる。
【0184】
グルタルイミドアクリル系樹脂(E)の製造には、押出機に代えて、例えば住友重機械(株)製のバイボラックのような横型二軸反応装置や、スーパーブレンドのような竪型二軸撹拌槽などの、高粘度対応の反応装置も好適に用いることができる。
【0185】
グルタルイミドアクリル系樹脂(E)をバッチ式反応槽(圧力容器)を用いて製造する場合、そのバッチ式反応槽(圧力容器)の構造は特に限定されない。具体的には、原料ポリマーを加熱により溶融させ、撹拌することができ、イミド化剤(閉環促進剤を用いる場合は、イミド化剤および閉環促進剤)を添加することができる構造を有していればよいが、撹拌効率が良好な構造を有するものであることが好ましい。このようなバッチ式反応槽によれば、反応の進行によりポリマー粘度が上昇し、撹拌が不十分となることを防止することができる。このような構造を有するバッチ式反応槽としては、例えば、住友重機械(株)製の撹拌槽マックスブレンド等が挙げられる。
【0186】
以上により、グルタルイミド単位の含有量が特定の数値に制御されたグルタルイミドアクリル系樹脂(E)を容易に製造することができる。
【0187】
本発明においては、樹脂(A)としては1種のみであってもよい、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0188】
(多層構造重合体(B))
本発明に用いられる多層構造重合体(B)は、複屈折を有する樹脂(A)に添加することで、複屈折が極めて小さい、光学的等方性の高い樹脂組成物とするために必須な成分である。光学的に等方にするためには、配向複屈折と光弾性複屈折をいかに小さくするかというのが重要である。そのため、ここではまず本発明の樹脂(A)、多層構造重合体(B)およびその硬質重合体層(C)、樹脂組成物、並びにフィルム(成形体)の「配向複屈折」および「光弾性複屈折」の考え方について説明する。
【0189】
配向複屈折に関する考え方
高吐出条件、フィルム引取条件、低温成形など、フィルム中でポリマーが配向するような成形条件以外の、通常の溶融押出成形にてフィルムを作成した場合、フィルム中のポリマーの配向はそれほど大きくない。実際にPMMAで代表されるアクリル系樹脂であれば、意図的な延伸工程がない溶融押出フィルム(以下、原反フィルム、原料フィルムとも呼ぶ)の複屈折はそれほど大きくなく、用途にもよるが実用上問題が無い場合もある。もちろん、ポリマーが配向するような成形条件や、原反フィルムを延伸工程させた場合には、フィルム中でポリマーが配向し、その結果複屈折が発生する。この場合の複屈折は、ポリマーが配向することによって発生する複屈折であるため、一般に配向複屈折と呼ばれる。以上、本発明の樹脂組成物をどのように成形するか、またフィルムの場合には延伸させるのか、ということによって、本発明の樹脂組成物から得られる成形体、特にはフィルムの配向複屈折を小さくするため、多層構造重合体(B)の配向複屈折や、多層構造重合体(B)の硬質重合体(C)が樹脂(A)の配向複屈折に対して異符号となるように設定することが好ましい。逆に、フィルム等の成形体中でポリマーがほとんど配向せず、複屈折が十分に小さい場合には、多層構造重合体(B)の配向複屈折に関してはそれほど考慮する必要が無く、樹脂設計上、特に制限を受けないことになる。
【0190】
ここで、本発明のいうところの「配向複屈折」の測定条件の定義づけをしておきたい。配向複屈折は、ポリマー鎖が配向することにより発現する複屈折であることは先に述べたとおりであるが、ポリマー鎖の配向度によってポリマーフィルム中の複屈折(配向複屈折)は変わる。よって、本発明では、「配向複屈折」を求める際には以下の条件で測定することと定義する。
【0191】
樹脂(A)、樹脂組成物、多層構造重合体(B)、および多層構造重合体(B)の硬質重合体層(C)はなんらかの成形体にして、その配向複屈折を測定する必要があり、本発明ではフィルムまたはシートとする。ここでは、溶融押出成形フィルムおよびプレス成形シートを挙げて説明する。
【0192】
なお、多層構造重合体(B)の硬質重合体層(C)の配向複屈折の符号は、硬質重合体層(C)の単量体成分を単独重合してなる重合体(単体)をフィルムまたはシートに成形して測定する。
【0193】
・フィルムでの「配向複屈折」の測定
膜厚125μmのフィルム(原反フィルム)から、25mm×90mmの試験片を切り出し(MD方向に長辺が来るように切り出す)、両短辺を保持してガラス転移温度+30℃にて2分保ち、2倍(100%に延伸とも言う)に長さ方向へ200mm/分の速度で一軸に延伸する(この際、両長辺は固定なし)。その後、得られたフィルムを23℃に冷却し、サンプル中央部分をサンプリングし、複屈折を測定する。
【0194】
・シートでの「配向複屈折」の測定
多層構造重合体(B)は少なくとも架橋構造を有するため、その構造によっては単独でフィルム化することは困難となる。そのため、多層構造重合体(B)はプレス成形シート(膜厚500μm)により配向複屈折を測定する。また、硬質重合体層(C)の単体も、その組成、分子量によっては単独でフィルム化することが困難な場合もある。よって、硬質重合体層(C)の単体等がフィルム化困難である場合にも、プレス成形シート(膜厚500μm)を作製し、「配向複屈折」を測定する。
【0195】
本発明においては、多層構造重合体(B)および多層構造重合体(B)の硬質重合体層(C)の「配向複屈折の符号」が、樹脂(A)に対して同符号か、異符号化かを、プレス成形シートによって確認することとする。
【0196】
具体的には、多層構造重合体(B)、または、硬質重合体層(C)の単体を190℃でプレスし、膜厚500μmのプレス成形シートを作製する。得られたプレス成形シートの中央部から、25mm×90mmの試験片を切り出し、両短辺を保持してガラス転移温度+30℃にて2分保ち、2倍(100%に延伸とも言う)に長さ方向へ200mm/分の速度で一軸に延伸する(この際、両長辺は固定なし)。その後、得られたフィルムを23℃に冷却し、サンプル中央部分をサンプリングし、複屈折を測定し、配向複屈折の符号を得る。
【0197】
上記の「配向複屈折」は、ポリマーの配向度に依存するため、延伸条件含め、種々のサンプル作成条件により影響を受けるため、上記のように評価条件を明示した。たとえば延伸温度はガラス転移温度に対して−30℃〜+30℃、+0℃〜+30℃がより好ましく、+5℃〜+30℃の温度範囲にするなど、適宜設定すればよい。ただし、各サンプル間での複屈折性の符号、相対的な大小関係を定量的に得るためには、延伸条件等の測定条件がほぼ同じところでの測定値を用いることが重要である。
【0198】
光弾性複屈折(光弾性定数)に関する考え方
先に説明したとおり、光弾性複屈折は成形体に応力が加わった場合に成形体中のポリマーの弾性的な変形(歪)に伴って引き起こされる複屈折である。光弾性定数は、以下式のとおり応力差Δσによって複屈折差Δnが生じた場合のΔσの係数γとして定義される。
【0199】
Δn=γΔσ
ここで、引張応力がかかっている方向(ポリマー鎖の配向方向)に対して、平行方向に屈折率が大きくなる場合は「光弾性複屈折は正」、直行する方向に屈折率が大きくなる場合は「光弾性複屈折は負」と表現する。
【0200】
実際には、そのポリマーに固有の「光弾性定数」を求めることで、その材料の光弾性複屈折の度合いを評価することができる。まずポリマー材料に応力を印加し、弾性的な歪みが生じた際の複屈折を測定する。得られた複屈折と応力との比例定数が光弾性定数である。この光弾性定数を比較することにより、ポリマーの応力印加時の複屈折性を評価することができる。
【0201】
配向複屈折の測定と同様、樹脂組成物などは、フィルムまたはシートに成形して、光弾性定数を測定する。ここでは、溶融押出成形フィルムとプレス成形シートとを挙げて説明する。
【0202】
・フィルムでの「光弾性定数」の測定
上記「配向複屈折」の項の記載同様、膜厚125μmのフィルム(原反フィルム)から、TD方向に15mm×90mmの短冊状に試験片を切断する(TD方向に長辺がくる
ように切り出す)。次に、23℃において、試験片の長辺の一方を固定し、他方は無荷重から4kgfまで0.5kgfずつ荷重をかけた状態で、各々の印加時の複屈折を測定し、得られた結果から、単位応力による複屈折の変化量を算出し、光弾性定数を算出する。
【0203】
・シートでの「光弾性定数」の測定
多層構造重合体(B)や、硬質重合体層(C)の単体のように、フィルム化することが困難である場合は、プレス成形シートで複屈折を測定し、光弾性定数を求める。
【0204】
本発明においては、多層構造重合体(B)、および、多層構造重合体(B)の硬質重合体層(C)の「光弾性複屈折の符号」が、樹脂(A)に対して同符号か、異符号かを、プレス成形シートによって確認することとする。
【0205】
具体的には、多層構造重合体(B)、または、硬質重合体層(C)の単体を190℃でプレスし、膜厚500μmのプレス成形シートを作製し、得られたプレス成形シートの中央部から、25mm×90mmの試験片を切り出す。
【0206】
測定条件は、上述の溶融押出フィルムでの測定と同じとする。
【0207】
比較するサンプル間の厚み差が大きい場合、サンプル中での応力のかかり方が変わってくる可能性があり、光弾性定数の厳密な比較が難しい場合がある。ただし、本発明で説明している膜厚125μmのフィルム、膜厚500μmのプレス成形シートに関しては、この程度の厚み差であれば、両サンプル間での応力のかかり方に大差はなく、光弾性定数の比較をすることが可能である。したがって、前記フィルムでも、プレス成形シートでも光弾性定数(複屈折)を測定するのに好適に使用できるが、フィルムを用いて測定することがより好ましい。本発明では、多層構造重合体(B)および硬質重合体層(C)の単体の光弾性定数の符号を確認する手段として、膜厚500μmのプレス成形シートを使用する。配向複屈折の測定についても同様である。
【0208】
光弾性複屈折はポリマー構造に固有の特性であることから、多層構造重合体(B)は、2層以上の硬質重合体層のうち、少なくとも1層の硬質重合体層(C)の光弾性定数を、樹脂(A)の光弾性定数に対して、異符号になるように設計される。多層構造重合体(B)の配合量に関しては、樹脂(A)の光弾性複屈折を打ち消すことができるだけの量の多層構造重合体(B)を添加すればよい。得られるポリマー(共重合体)の光弾性定数と、共重合に用いたモノマー種に対応するそれぞれのホモポリマーの光弾性定数との間には、加成性が成り立つことが知られている。このことから、多層構造重合体(B)が樹脂(A)に対して光弾性定数が異符号であり、且つ光弾性定数の絶対値が大きい場合は、樹脂(A)と多層構造重合体(B)を含有する樹脂組成物の光弾性複屈折を小さくするための多層構造重合体(B)の必要量は少なくてもよい。
【0209】
配向複屈折に関しては、先述のように、本発明の樹脂組成物からなる成形体、特にはフィルムにおいて、成形体中でポリマーの配向度がそれほど大きくなく、その成形体の配向複屈折が実用上問題が無い場合には、多層構造重合体(B)および/または硬質重合体層(C)の設計において配向複屈折を調整しなくてもよい。ただし、得られた成形体中の配向複屈折が実用上問題となる場合には、多層構造重合体(B)および/または硬質重合体層(C)の配向複屈折を、樹脂(A)の配向複屈折に対して異符号にすることが好ましい。
【0210】
以上が、本発明で提供する樹脂組成物およびフィルムにおいて、低複屈折化を実現するための重要な技術思想である。
【0211】
ここで、本発明の多層構造重合体(B)は重量平均分子量が5000を超える重合体であればよく、好ましくは10000以上、より好ましくは20000以上であることが好ましい。重量平均分子量が5000以下の場合、成形体の機械的特性、耐熱性、硬度などの物性低下や、高温成形加工時に成形体表面にブリードアウトし、成形体の外観を損なうおそれがある。
【0212】
多層構造重合体(B)は、架橋重合体層および硬質重合体層を有するが、分散性や、光学的等方性や、機械的強度の観点から、硬質重合体層が非架橋の硬質重合体層であることが好ましい。一般に多層構造重合体のことをグラフト共重合体、コアシェルポリマーとも表現されるが、本発明の多層構造重合体(B)はこれらも含むものである。
【0213】
本発明は、樹脂(A)と多層構造重合体(B)の硬質重合体層(C)との光弾性複屈折の符号を異符号とすることで、必要に応じて配向複屈折の符号も異符号とすることにより、複屈折が極めて小さい非複屈折性の樹脂組成物およびフィルムを製造することができる。一方、米国特許第4373065号公報記載のように、複屈折の異符号である2種類の非架橋のポリマーをブレンドすることでも非複屈折化が実現できるのではないかとも考えられる。しかしながら、複屈折が異符号であるということは、2種類のポリマーの構造がかなり異なることを意味しており、基本的には完全相溶しにくい。実際に、非架橋の2種類のポリマーをブレンドした場合、片方のポリマーが凝集してミクロンオーダーのドメイン、もしくは明らかに目で見えるほど大きな塊、さらには表面ムラとなり、透明性を悪化させたり、フィッシュアイなどの異物の原因となる。このため、2種類のポリマーが完全相溶しやすくするためには、複屈折制御と相溶性制御の2つの要因を考慮してポリマー設計をする必要があるため、ポリマーの設計自由度がかなり低くなる。ここで本発明の多層構造重合体(B)の特徴が発揮されることになる。多層構造重合体(B)は架橋重合体層と硬質重合体層とを有し、また多層構造重合体(B)1つ(1粒子)あたりの大きさをサブミクロンサイズの微細粒子となるように設計することができる。この場合、樹脂(A)に多層構造重合体(B)をブレンドした際、樹脂(A)中に、多層構造重合体(B)がサブミクロンサイズに分散する海島構造をとることができるため、数mm、数cmなど際限なく多層構造重合体(B)が凝集して、透明性を悪化させたり、フィッシュアイなどの異物の原因になりにくくすることができる。このように多層構造重合体(B)をあらかじめサブミクロンサイズに設計すると樹脂(A)中での分散性を制御できることから、完全に相溶性をあわさなくても多層構造重合体(B)が樹脂(A)中に分散できるため、複屈折制御に重きを置いたポリマー設計にするなど、樹脂(A)および多層構造重合体(B)ともにポリマーの設計自由度を高めることができる。ただし、フィルムを延伸した場合、その延伸条件によっては、樹脂(A)と多層構造重合体(B)が相分離せず、ヘイズなどの透明性が悪化しないとは言い切れないケースがある。先述のとおり、原反フィルムは通常、溶融押出成形などの混練状態の成形で得られるため問題はないが、さらに延伸する場合には、混練などのせん断がない状態でガラス転移温度以上の高温にさらされるため、樹脂(A)と多層構造重合体(B)との相溶性が悪い場合には透明性が悪化する(おそらく樹脂の相分離による凝集が生じ、これにより透明性が悪化すると考えている)。これを防ぐ手段として、鋭意検討した結果、多層構造重合体(B)が、樹脂(A)の複屈折を打ち消す効果がある硬質重合体層(C)と、樹脂(A)と相溶性が良好な硬質重合体層(D)とを有することにより、延伸後のフィルムでも、優れた透明性を維持しながら、非複屈折性を実現できることを明らかにした。複屈折をコントロールする硬質重合体層と、マトリックスと相溶性をあわせてマトリックス中での多層構造重合体(B)の分散性を向上させる硬質重合体層に、その期待する役割を分ける、これが2つ目の重要な技術思想となる。
【0214】
次に本発明の3つ目の重要な技術思想について説明する。本発明の樹脂組成物からなる成形体、特には光学フィルムにおいて、高い耐熱性、および機械的強度が必要とされるケースがある。特に、液晶ディスプレイ用の光学フィルムとして使用される場合には、実使用時はもちろん、フィルムコーティング工程等の製造工程で高温にさらされたりするため、高い耐熱性が必要となる。また、フィルム製造時はもちろん、フィルムにコーティングしたあとや、他の部材と張り合わせしたあとでの打ち抜き工程など、トリミング性や、耐割れ性などの機械的強度も必要となる。このような場合には、多層構造重合体(B)の架橋重合体層を「軟質」にした場合、この多層構造重合体(B)を樹脂(A)に添加することにより、機械的強度を飛躍的に向上させると同時に、高い耐熱性も同時に実現できる。その効果を発現するために、多層構造重合体(B)は、軟質の架橋重合体層、および硬質重合体層を有するグラフト共重合体(コアシェルポリマー)であることが好ましい。通常、機械的強度を向上させるために軟質のポリマーを添加することも方法として挙げられるが、この場合、マトリックス樹脂(ここでは樹脂(A))と軟質ポリマーが均質に混ざってしまい、得られる成形体の耐熱性を下げてしまうという欠点がある。一方、軟質の架橋重合体層と硬質重合体層とを有するグラフト共重合体(コアシェルポリマー)の場合、成形体中において、軟質の架橋重合体層が「島」、樹脂(A)と硬質重合体層とが「海」となる、不連続な海島構造をとるため、機械的強度を向上させ、かつ耐熱性をほとんど下げないという、優れた効果を出すことが可能である。また、通常、軟質の架橋重合体は、マトリックス(樹脂(A))とは別組成となるため、マトリックスに均一に分散することは困難であり、透明性などの光学特性の低下や、フィッシュアイ等の欠陥となる。しかしながら、軟質の架橋重合体層と硬質重合体層を併せ持つ多層構造重合体であれば、前述のようにマトリックス中に軟質の架橋重合体を均一に分散させることが可能となる。特に延伸されたフィルムの透明性を良好にするには、マトリックスと多層構造重合体(B)の硬質重合体層の相溶性を上げておくことが好ましい。
【0215】
本願において、「硬質」とは、重合体のガラス転移温度が20℃以上であることを意味する。重合体のガラス転移温度が20℃未満の場合、多層構造重合体(B)を配合した樹脂組成物、およびフィルムの耐熱性が低下したり、また多層構造重合体(B)を製造する際に樹脂(B)の粗大化や塊状化が起こり易くなったりなどの問題が発生する。重合体のガラス転移温度は、30℃以上であることが好ましく、50℃以上であることがより好ましい。
【0216】
1.架橋重合体層
まず、多層構造重合体(B)の架橋重合体層について説明する。
【0217】
架橋重合体層は、高い機械的強度がそれほど必要とされない場合には、前記架橋重合体層は「軟質」重合体層でも「硬質」重合体層でもどちらでも問われないが、軟質重合体層であることが好ましい。多層構造重合体(B)が軟質の架橋重合体層を有することにより、機械的強度を飛躍的に向上させると同時に、高い耐熱性も同時に実現することができる。
【0218】
本願において、「軟質」とは、重合体のガラス転移温度が20℃未満であることを意味する。軟質の架橋重合体層の衝撃吸収能力を高め、耐割れ性などの耐衝撃性改良効果を高める観点から、重合体のガラス転移温度が0℃未満であることがより好ましく、−20℃未満であることがさらに好ましい。
【0219】
本願における、「硬質」および「軟質」の重合体のガラス転移温度は、ポリマーハンドブック[Polymer Hand Book(J.Brandrup,Interscience 1989)]に記載されている値を使用してFoxの式を用いて算出した値を用いることとする(例えば、ポリメチルメタクリレートは105℃であり、ポリブチルアクリレートは−54℃である。)。
【0220】
「軟質」の架橋重合体層としては、重合体のガラス転移温度が20℃未満であれば良く、ゴム状重合体が好適に使用される。具体的には、ブタジエン系架橋重合体、(メタ)アクリル系架橋重合体、オルガノシロキサン系架橋重合体などが挙げられる。なかでも、樹脂組成物、およびフィルムの耐候性(耐光性)、透明性の面で、(メタ)アクリル系架橋重合体(「(メタ)アクリル系ゴム」と称することがある。)が特に好ましい。
【0221】
ここでは、好適な「軟質」の架橋重合体層である、(メタ)アクリル系架橋重合体層に関して、詳細に説明する。
【0222】
(メタ)アクリル系架橋重合体層における(メタ)アクリル系架橋重合体は、(メタ)アクリル系の架橋重合体であれば特に限定されないが、耐割れ性などの耐衝撃性の観点から、アクリル酸アルキルエステル50〜100重量%、アクリル酸アルキルエステルと共重合可能なビニル単量体50〜0重量%、ならびに多官能性単量体0.05〜10重量部(アクリル酸アルキルエステルおよびこれと共重合可能なビニル単量体の総量100重量部に対して)を重合してなるものが好ましい。単量体成分を全部混合して1段で重合してなる層であってもよいし、単量体組成を変化させて2段以上で重合してなる層であってもよい。
【0223】
ここで用いられるアクリル酸アルキルエステルとしては、重合反応性やコストの点からアルキル基の炭素数が1〜12であるものが好ましく、直鎖状でも分岐状でもよい。その具体例としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸n−オクチル、アクリル酸β−ヒドロキシエチル、アクリル酸ジメチルアミノエチル、アクリル酸グリシジル、等があげられ、これらの単量体は1種または2種以上が併用されてもよい。アクリル酸アルキルエステルは、単官能性単量体全体(アクリル酸アルキルエステルおよびこれと共重合可能なビニル単量体の総量)に対し50〜100重量%が好ましく、60〜100重量%がより好ましく、70〜100重量%が最も好ましい。50重量%未満ではフィルムの耐割れ性が悪化する場合がある。
【0224】
アクリル酸アルキルエステルと共重合可能な単量体(以下、「共重合可能な単量体」と称することがある。)としては、例えば、メタクリル酸アルキルエステルがあげられ、重合性やコストの点よりアルキル基の炭素数1〜12であるものが好ましく、直鎖状でも分岐状でもよい。その具体例としては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ベンジル、アクリル酸オクチル、メタクリル酸β−ヒドロキシエチル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸グリシジル等があげられる。また、他の共重合可能な単量体としては、塩化ビニル、臭化ビニル等のハロゲン化ビニル、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル、蟻酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン等の芳香族ビニルおよびその誘導体、塩化ビニリデン、弗化ビニリデン等のハロゲン化ビニリデン、アクリル酸、アクリル酸ナトリウム、アクリル酸カルシウム等のアクリル酸およびその塩、メタクリル酸、メタクリル酸ナトリウム、メタクリル酸カルシウム等のメタクリル酸およびその塩等、メタクリルアミド等のメタクリルアミド類、アクリルアミド、N−メチロ−ルアクリルアミド等のアクリルアミド類があげられる。これらの単量体は2種以上が併用されてもよい。
【0225】
上述の単官能性単量体は、1分子あたり2個以上の非共役な反応性二重結合を有する多官能性単量体と共重合されるため、得られる重合体が架橋体(ゴム)となる。ここで用いられる多官能性単量体としては、アリルメタクリレ−ト、アリルアクリレ−ト、トリアリルシアヌレ−ト、トリアリルイソシアヌレ−ト、ジアリルフタレ−ト、ジアリルマレ−ト、ジビニルアジペ−ト、ジビニルベンゼンエチレングリコ−ルジメタクリレ−ト、エチレングリコ−ルジアクリレ−ト、ジエチレングリコ−ルジメタクリレ−ト、ジエチレングリコ−ルジアクリレ−ト、トリエチレングリコ−ルジメタクリレ−ト、トリエチレングリコ−ルジアクリレ−ト、トリメチロ−ルプロパントリメタクリレ−ト、トリメチロ−ルプロパントリアクリレ−ト、テトラメチロ−ルメタンテトラメタクリレ−ト、テトラメチロ−ルメタンテトラアクリレ−ト、ジプロピレングリコ−ルジメタクリレ−トおよびジプロピレングリコ−ルジアクリレ−ト等があげられ、これらは2種以上が併用されてもよい。
【0226】
単官能性単量体に対する多官能性単量体の添加量は、単官能性単量体の総量100重量部に対して、0.05〜10重量部が好ましく、0.1〜5重量部がより好ましい。多官能性単量体の添加量が0.05重量部未満では、架橋体を形成できない傾向があり、10重量部を超えても、フィルムの耐割れ性が低下する傾向がある。
【0227】
多層構造重合体(B)は、架橋重合体層を少なくとも1層有していればよいが、2層以上有していてもよい。架橋重合体層であれば、軟質でも硬質でもかまわないが、軟質の架橋重合体層を少なくとも1層有することが好ましく、さらに硬質の架橋重合体層を有していてもよい。ガラス転移温度が20℃以上になるものであれば特に制限はなく、具体的には、前記「軟質」の架橋重合体層の説明で記載したモノマーを適宜使用することが出来る。
【0228】
2.硬質重合体層
多層構造重合体(B)は、異なる硬質重合体層を少なくとも2層有し、(1)多層構造重合体(B)を樹脂(A)中に均一に分散させ、且つ、延伸後のフィルムの透明性も良好であるようにすること、および、(2)樹脂(A)が有している複屈折を打ち消して、本発明の樹脂組成物およびフィルムの光学的等方性を高めるよう作用する。
【0229】
(1)に関しては、硬質重合体層の少なくとも1層を、樹脂(A)と相溶しやすいポリマーになるように、適宜モノマーを選択し、重合することで達成することができる。
【0230】
(2)に関しては、延伸工程を経ないなど、フィルム等の成形体中の配向複屈折があまり大きくなく、実用上問題のない場合には、成形体の光弾性定数が極めて小さくなるように、硬質重合体層の少なくとも1層を、光弾性定数が樹脂(A)の光弾性定数に対して異符号にすることで達成することができる。また、延伸工程を経るなど、フィルム等の成形体中の配向複屈折が比較的大きく、実用上問題になる場合には、成形体の光弾性定数だけでなく、配向複屈折も極めて小さくなるように、硬質重合体層の光弾性定数および配向複屈折の両方を樹脂(A)に対して異符号にすることで達成することができる。これが本発明の、樹脂(A)に対して光弾性定数が異符号である硬質重合体層(C)となる。
【0231】
本発明の効果を示す多層構造重合体(B)は、種々の設計を行うことができる。
【0232】
樹脂(A)に多層構造重合体(B)が分散した本発明の樹脂組成物より得られる成形体やフィルムを成形する際にポリマー鎖の配向が生じたり、成形体やフィルムに応力が掛かることによりポリマー鎖に配向が生じる。これらポリマー鎖の配向が生じる状態下、樹脂(A)のポリマー鎖の配向と多層構造重合体(B)のポリマー鎖の配向が同方向に起こり、この時両者の光弾性定数(必要に応じ、配向複屈折も)の符号が異なることから複屈折が低い光学等方性の高い成形体やフィルムが得られると考えられる。
【0233】
樹脂(A)と符号が異なる光弾性定数(および、必要に応じて配向複屈折)を有する多層構造重合体(B)は、主として符合が異なる光弾性定数(および、必要に応じて配向複屈折)を示す層を自由に設計することができる。例えば、多層構造重合体(B)の架橋重合体層、硬質重合体層のいずれか、もしくは両方など、特に層を限定せずに設計することができる。
【0234】
多層構造重合体(B)の架橋重合体層を、樹脂(A)に対して符合が異なる光弾性定数(および、必要に応じて配向複屈折)の符号が異なる層とする場合、架橋重合体層は架橋構造により外力に対して変形し難く、ポリマー鎖の配向が起こり難く、樹脂(A)の光弾性定数(および、必要に応じて配向複屈折)を相殺する効果が小さい傾向となる。また、多層構造重合体(B)の架橋重合体層の架橋密度を低く設定する場合には、外力に対し変形し易くなり樹脂(A)の光弾性定数(および、必要に応じて配向複屈折)を相殺する効果が高まる。
【0235】
そのため、多層構造重合体(B)の硬質重合体層に、樹脂(A)に対して符号が異なる光弾性定数(および、必要に応じて配向複屈折)の符号が異なる層を有させることは、樹脂(A)のポリマー鎖の配向と多層構造重合体(B)の硬質重合体層のポリマー鎖の配向が同方向に起こり易くでき、効果的である。好ましくは架橋構造を有しない硬質重合体層であり、さらに好ましくは硬質重合体層が多層構造重合体(B)の外層であり、樹脂(A)と相互作用を生じやすくなる。
【0236】
特に好ましい態様は、硬質重合体層が、異なる硬質重合体層を少なくとも2層を有し、少なくとも1層を樹脂(A)に対して光弾性定数(および、必要に応じて配向複屈折)の符号が異なる層とし、他の少なくとも1層を樹脂(A)と相溶性が良好な層とすることである。前記他の少なくとも1層は、樹脂(A)に対して光弾性定数(および、必要に応じて配向複屈折)の符号が同符号でも異符号でも良い。
【0237】
本願では、多層構造重合体(B)に関して、架橋重合体層に対して、硬質重合体層がどの程度共有結合しているかを表すために、グラフト率というパラメーターを使う。
【0238】
多層構造重合体(B)のグラフト率とは、架橋重合体層の重量を100とした場合の、架橋重合体層に対して、グラフトされた硬質重合体層の重量比率を表す指標である。このグラフト率は10〜250%が好ましく、より好ましくは40〜230%、最も好ましくは60〜220%である。グラフト率が10%未満では、成形体中で多層構造重合体(B)が凝集しやすく、透明性が低下したり、異物原因となる恐れがある。また引張破断時の伸びが低下しフィルム切断時にクラックが発生しやすくなったりする傾向がある。250%以上では成形時、たとえばフィルム成形時の溶融粘度が高くなり、フィルムの成形性が低下する傾向がある。算出式は実施例の項にて説明する。
【0239】
2.1 樹脂(A)に対して光弾性定数が異符号である硬質重合体層(C)
多層構造重合体(B)の硬質重合体層(C)に使用され、樹脂(A)の光弾性複屈折を打ち消すのに適したモノマー種に関しては、樹脂(A)と硬質重合体層(C)との各々の光弾性定数が異符号となるように選択すればよい。
【0240】
ポリマーの光弾性定数を設定する上で、参考になる具体的なモノマーの例を以下に記すが、これらに限定されるわけではない。([ ]内は対応するホモポリマーの光弾性定数)
正の光弾性複屈折を示すモノマー:
ベンジルメタクリレート [48.4×10−12Pa−1
ジシクロペンタニルメタクリレート [6.7×10−12Pa−1
スチレン [10.1×10−12Pa−1
パラクロロスチレン [29.0×10−12Pa−1
負の光弾性複屈折を示すモノマー:
メチルメタクリレート [−4.3×10−12Pa−1
2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレート [−1.7×10−12Pa−1
2,2,2−トリクロロエチルメタクリレート [−10.2×10−12Pa−1
イソボルニルメタクリレート [−5.8×10−12Pa−1
共重合体ポリマーの光弾性定数は、共重合に用いたモノマー種に対応するそれぞれのホモポリマーの光弾性定数との間に加成性が成り立つことが知られている。例えば、メチルメタクリレート(MMA)とベンジルメタクリレート(BzMA)の2元共重合系については、poly−MMA/BzMA=92/8(wt%)にて光弾性複屈折がほぼゼロになることが報告されている。また、2種以上のポリマー混合(アロイ)についても同様であり、各ポリマーが有する光弾性定数との間に加成性が成り立つ。以上のことから、本発明の樹脂組成物、およびフィルムの光弾性複屈折が小さくなるように、樹脂(A)と硬質重合体層(C)の光弾性定数を異符号にし、且つその配合量(wt%)を調整することが必要である。
【0241】
また、共重合体ポリマーの配向複屈折は、共重合に用いたモノマー種に対応するそれぞれのホモポリマーの固有複屈折との間に加成性が成り立つことが知られている。また、2種以上のポリマー混合(アロイ)についても同様であり、各ポリマーが有する固有複屈折との間に加成性が成り立つ。多層構造重合体(B)の硬質重合体層(C)に使用され、樹脂(A)の配向複屈折を打ち消すのに適したモノマー種に関しては、樹脂(A)と硬質重合体層(C)の各々の配向複屈折が異符号となるように選択すればよい。ポリマーの配向複屈折を設定する上で、参考になる具体的なモノマー(そのモノマーからなるホモポリマーの固有複屈折)の例を以下に記すが、これらに限定されるわけではない。なお、固有複屈折とは、ポリマーが完全に一方向に配向した状態のときの複屈折(配向複屈折)である。
【0242】
正の固有複屈折を示すポリマー:
ポリベンジルメタクリレート [+0.002]
ポリフェニレンオキサイド [+0.210]
ビスフェノールAポリカーボネート [+0.106]
ポリビニルクロライド [+0.027]
ポリエチレンテレフタレート [+0.105]
ポリエチレン [+0.044]
負の固有複屈折を示すポリマー:
ポリメチルメタクリレート [−0.0043]
ポリスチレン [−0.100]
以上、一部のポリマーの光弾性定数、配向複屈折のデータを記載したが、ポリマーによっては配向複屈折は「正」、光弾性定数は「負」など、両方の複屈折が同じ符号であるとは限らない。次表に一部のホモポリマーの配向複屈折と光弾性複屈折(定数)の符号の例を示す。
【0243】
【表1】
【0244】
たとえば、poly(MMA/BzMA=82/18(wt%))付近の組成は配向複屈折がほぼゼロとなること、poly(MMA/BzMA=92/8(wt%))付近の組成は光弾性複屈折(定数)がほぼゼロとなることが知られている。このように、樹脂(A)がアクリル系樹脂の場合は、配向複屈折、光弾性定数の両方がともに負になることが多いため、多層構造重合体(B)の硬質重合体層(C)に、配向複屈折も光弾性複屈折の両方の符号が正であるベンジルメタクリレートを使用することで、光弾性複屈折も打ち消しながら、配向複屈折も打ち消すことができ、好適であることがわかる。
【0245】
硬質重合体層(C)は、樹脂(A)の光弾性定数と異符号の光弾性定数を有する架橋重合体の組成であれば適宜モノマーを選択して設計すればよいが、光学的等方性に優れる点から、特に好適に使用されうるモノマー(単量体)を挙げるとすれば、分子構造中に、脂環式構造、複素環式構造または芳香族基等の環構造を有するビニル系単量体が好ましく、中でも、脂環式構造、複素環式構造または芳香族基を有するビニル系単量体を構造単位に含むことがより好ましい。脂環式構造、複素環式構造または芳香族基を有するビニル系単量体の具体例を挙げると、例えば、脂環式構造を有する単量体としては(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、などが挙げられる。また、芳香族基を有する単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレン等のビニルアレーン類、または(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸フェノキシエチル等を挙げることができる。複素環式構造を有する単量体としては、ペンタメチルピペリジニル(メタ)アクリレート、テトラメチルピペリジニル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。脂環式構造を有するビニル系単量体においては、その環構造は、多環式構造が好ましく、縮合環式構造がより好ましい。
【0246】
脂環式構造、複素環式構造または芳香族基を有するビニル系単量体としては、下記式(4)で表される単量体であることが好ましい。
【0247】
【化13】
【0248】
上記式(4)中のRは、水素原子、または、置換もしくは無置換で直鎖状もしくは分岐状の炭素数1〜12のアルキル基を表す。R10は、置換もしくは無置換の炭素数1〜24の芳香族基、または、置換もしくは無置換の炭素数1〜24の脂環式基であり、単素環式構造または複素環式構造を有する。RおよびR10が有していてもよい置換基としては、例えば、ハロゲン、水酸基、カルボキシル基、アルコキシ基、カルボニル基(ケトン構造)、アミノ基、アミド基、エポキシ基、炭素−炭素間の二重結合、エステル基(カルボキシル基の誘導体)、メルカプト基、スルホニル基、スルホン基、及びニトロ基からなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。なかでも、ハロゲン、水酸基、カルボキシル基、アルコキシ基、及びニトロ基からなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。lは1〜4の整数を示し、好ましくは1または2である。mは0〜1の整数である。n=0〜10の整数を示し、好ましくは0〜2の整数を示し、より好ましくは0または1である。
【0249】
脂環式構造、複素環式構造または芳香族基を有するビニル系単量体は、脂環式構造、複素環式構造または芳香族基を有する(メタ)アクリレート系単量体であることが好ましい。具体的には、上記式(4)において、Rは、水素原子、もしくは、置換もしくは無置換で直鎖状または分岐状の炭素数1のアルキル基である、(メタ)アクリレート系単量体であることがより好ましい。
【0250】
上記式(4)において、R10は、置換もしくは無置換の炭素数1〜24の芳香族基、または、置換もしくは無置換の炭素数1〜24の脂環式基であり、単素環式構造を有する、(メタ)アクリレート系単量体であることがさらに好ましい。
【0251】
前記式(4)で表される(メタ)アクリレート系単量体のなかでも、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル、(メタ)アクリル酸フェノキシエチルが好ましい。
【0252】
前記式(4)で表される芳香族基を有する(メタ)アクリレート系単量体のなかでも、(メタ)アクリル酸ベンジルが光学的等方性、樹脂(A)との相溶性、成形性の面で最も好ましい。たとえば、樹脂(A)がアクリル系樹脂の場合、光弾性定数が負であるため、比較的大きな正の光弾性定数を有するメタクリル酸ベンジルを用いることで、メタクリル酸ベンジルの使用量が少なくて済み、また多層構造重合体(B)の使用量も少なくて済むなど、樹脂組成物の設計自由度が増えるなどのメリットがある。また、成形体の配向複屈折が大きく、実用上問題となるケースにおいても、アクリル系樹脂が配向複屈折/光弾性複屈折ともに負であるのに対して、メタクリル酸ベンジルは配向複屈折/光弾性複屈折ともに正であるため、光学樹脂材料、およびフィルムの光弾性複屈折を小さくしながら、同時に配向複屈折も小さくすることが可能である。
【0253】
本発明においては、メタクリル酸ベンジル、アクリル酸ベンジルのいずれでも好適に使用することができ、いずれか1種、もしくは併用して使用することができる。より高い耐熱性を求める用途に対しては、ガラス転移温度の観点からメタクリル酸ベンジルを使用したほうが好ましい。
【0254】
優れた光学的等方性を維持しながら、多層構造重合体(B)の分散性を良好にし、フィッシュアイ等の外観欠陥を低減させる観点から、硬質重合体層(C)は、脂環式構造、複素環式構造または芳香族基を有するビニル系単量体を1〜100重量%、これと共重合可能な単量体99〜0重量%および単官能性単量体の総量100重量部に対して、多官能性単量体0〜2.0重量部からなる単量体混合物(c)を重合してなるものが好ましい。単量体混合物(c)は全部混合して一段で重合してもよく、または単量体組成を変化させて2段以上で重合してもよい。
【0255】
脂環式構造、複素環式構造または芳香族基を有するビニル系単量体と共重合可能な単量体としては、メタクリル酸アルキルエステルが挙げられ、重合性やコストの点よりアルキル基の炭素数1〜12であるものが好ましく、直鎖状でも分岐状でもよい。その具体例としては、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸オクチル、メタクリル酸β−ヒドロキシエチル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸グリシジル等が挙げられる。また、アクリル酸アルキルエステルも好適に用いることができ、重合反応性やコストの点からアルキル基の炭素数が1〜12であるものが好ましく、直鎖状でも分岐状でもよい。その具体例としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、アクリル酸n−オクチル、アクリル酸β−ヒドロキシエチル、アクリル酸ジメチルアミノエチル、アクリル酸グリシジル、等があげられる。また、他の共重合可能な単量体としては、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、ジメチル無水マレイン酸、ジクロロ無水マレイン酸、ブロモ無水マレイン酸、ジブロモ無水マレイン酸、フェニル無水マレイン酸、ジフェニル無水マレイン酸等の無置換及び/又は置換無水マレイン酸類、アクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド等のアクリルアミド類、メタクリルアミド等のメタクリルアミド類、塩化ビニル、臭化ビニル等のハロゲン化ビニル、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル、蟻酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン等の芳香族ビニルおよびその誘導体、塩化ビニリデン、弗化ビニリデン等のハロゲン化ビニリデン、アクリル酸、アクリル酸ナトリウム、アクリル酸カルシウム等のアクリル酸およびその塩、メタクリル酸、メタクリル酸ナトリウム、メタクリル酸カルシウム等のメタクリル酸およびその塩、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸イソプロピル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸ノルマルブチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸ターシャリーブチル等の(ヒドロキシアルキル)アクリル酸エステル等があげられる。これらの単量体は単独、もしくは2種以上が併用されてもよい。なかでも、メタクリル酸アルキルエステル、アクリル酸アルキルエステルが好ましく、さらには樹脂(A)がアクリル系樹脂である場合は相溶性の点でメタクリル酸メチル、ジッパー解重合を抑制する点でアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、もしくはアクリル酸n−ブチルを用いるのが好ましい。多官能性単量体としては、上述の架橋重合体層に使用できる多官能性単量体が同様に使用できる。なお、樹脂(A)中での多層構造重合体(B)の分散性や、光学的等方性の観点から、多官能単量体の使用量は、単官能性単量体の総量100重量部に対して、0〜2.0重量部が好ましく、0〜1.0重量部がより好ましく、0〜0.5重量部が更に好ましく、0〜0.04重量部がなおさら好ましく、硬質重合体層(C)には、多官能性単量体は使用しないことが最も好ましい。
【0256】
脂環式構造、複素環式構造または芳香族基を有するビニル系単量体の使用量は、脂環式構造、複素環式構造または芳香族基を有するビニル系単量体およびこれと共重合可能な単量体の総量100重量%において1〜100重量%が好ましく、5〜70重量%がより好ましく、5〜50重量%が最も好ましい。
【0257】
多層構造重合体(B)は、硬質重合体層(C)を少なくとも1層有していればよく、2層以上有していてもよい。
【0258】
2.2 硬質重合体層(D)
多層構造重合体(B)は、硬質重合体層として、樹脂(A)と光弾性定数と異符号の光弾性定数を有する硬質重合体層と異なる他の硬質重合体層(D)を少なくとも1層有し、他の硬質重合体層(D)としては特に限定されないが、硬質重合体層(D)は樹脂(A)と相溶しやすいポリマーになるように、適宜モノマーを選択し、重合することが好ましく、多層構造重合体(B)の樹脂(A)中への分散性を高める効果をもたらす。一般に相溶性をあわせるためには、ブレンドする樹脂に対して相溶性パラメーター(SP値)をあわせる、互いの溶融粘度をあわせる、互いに反応基を有しており溶融押出反応時に反応させる、互いに引きあう官能基を有する、方法などが知られており、選定した樹脂(A)に対して好適な方法により相溶性を確保し、多層構造重合体(B)を樹脂(A)中に分散させることができるのであれば、硬質重合体層(D)の組成に特に制限はない。なかでも、樹脂(A)と同一の単量体、組成で構成されることが好ましい。このように、使用することができる単量体については特に限定されないが、前記硬質重合体層(C)で挙げられる単量体を適宜使用することができる。たとえば、樹脂(A)がアクリル系樹脂の場合には、硬質重合体層(D)は(メタ)アクリル系硬質重合体層、アクリル酸、メタクリル酸の骨格を有する硬質重合体層、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、ジメチル無水マレイン酸、ジクロロ無水マレイン酸、ブロモ無水マレイン酸、ジブロモ無水マレイン酸、フェニル無水マレイン酸、ジフェニル無水マレイン酸などの無置換及び/又は置換無水マレイン酸類の骨格を有する硬質重合体層、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニルの骨格を有する硬質重合体層であることが好ましい。(メタ)アクリル系硬質重合体としては、(メタ)アクリル系アルキルエステルを含有する単量体混合物(d)の重合により得られるものがより好ましい。シアン化ビニルの骨格を有する硬質重合体層としては、アクリロニトリル−スチレン系硬質重合体層がより好ましい。単量体混合物(d)は、(メタ)アクリル系アルキルエステル1〜100重量%、これと共重合可能な単量体99〜0重量%および、単官能性単量体の総量100重量部に対して、多官能性単量体0〜2.0重量部からなることが好ましく、共重合可能な単量体には上述と同様の単量体を使用することができる。
【0259】
(メタ)アクリル系アルキルエステルの中でも、メタクリル酸アルキルエステルが好ましく、メタクリル酸メチルが更に好ましい。メタクリル酸メチルの使用量は、メタクリル酸メチル、およびこれと共重合可能な単量体の総量100重量%において1〜100重量%が好ましく、5〜99重量%がより好ましく、10〜95重量%が最も好ましい。本発明の目的を達するならば、硬質重合体層(D)はメタクリル酸メチルのみからなってもよい。メタクリル酸メチルと共重合可能な単量体としては、特にアクリル酸アルキルエステルが、これを共重合させて得られるアクリル系樹脂の耐熱分解性に優れ、成形加工時の流動性が高くなる傾向にあるため好ましい。なお、ここでの耐熱分解性とは、高温時でのアクリル系樹脂の分解のし難さを意味する。メタクリル酸メチルにアクリル酸アルキルエステルを共重合させる場合のアクリル酸アルキルエステルの使用量は、耐熱分解性の観点から、単量体混合物全体に対して、0.1重量%以上であることが好ましく、耐熱性の観点から15重量%以下であることが好ましい。0.2重量%以上14重量%以下であることがより好ましく、1重量%以上12重量%以下であることがさらに好ましい。アクリル酸アルキルエステルの中でも、アクリル酸メチル及びアクリル酸エチルが、少量のメタクリル酸メチルと共重合させるだけでも、前述の成形加工時の流動性に関して著しい改善効果が得られるため好ましい。多官能性単量体としては、上述した架橋重合体層で使用される多官能性単量体を同様にしようできるが、樹脂(A)への分散性、光学的等方性、機械的強度の観点から、使用量は、単官能単量体総量100重量部に対して0〜2.0重量部が好ましく、0〜1.0重量部がより好ましく、0〜0.5重量部がさらに好ましく、0〜0.04重量部がなおさら好ましい。特に、樹脂(A)中での多層構造重合体(B)の分散性や、光学的等方性の観点から、多官能性単量体は使用しないことが最も好ましい。
【0260】
多層構造重合体は、硬質重合体層(D)を少なくとも1層有していればよく、2層以上有していてもよい。
【0261】
多層構造重合体(B)は、多層構造中に硬質重合体層(C)と硬質重合体層(D)とを有すれば特に限定されないが、硬質の外層として、硬質重合体層(C)および硬質重合体層(D)を有することが好ましい。また、最外層に硬質重合体層(C)、もしくは硬質重合体層(D)のいずれかを有することが好ましい。多層構造重合体(B)は硬質の最外層に有することにより、樹脂(A)がアクリル系樹脂である場合により相溶しやすくなり、配向複屈折および光弾性定数をより小さくでき、さらに光学的等方性に優れるフィルムを得やすくなる。さらに、硬質重合体層(C)と硬質重合体層(D)はどちらが最外層でも本発明の効果を発揮することができるが、硬質重合体層(D)が最外層であることが、延伸後にも良好な透明性を得る点で最も好ましい。
【0262】
多層構造重合体(B)は、硬質重合体層(C)及び/又は硬質重合体層(D)の内側に、(メタ)アクリル系架橋重合体層が隣接していてもよい。
【0263】
多層構造重合体(B)は、架橋重合体層、硬質重合体層(C)、および硬質重合体層(D)を各々少なくとも1層有する多層構造重合体であれば特に問われない。多層構造重合体(B)の好ましい一形態を例示すれば、軟質の内層および硬質の外層を有し、上記内層に(メタ)アクリル系架橋重合体層を有し、上記外層に硬質重合体層(C)および硬質重合体層(D)を有する形態を挙げることができる。この形態は生産性の観点から好ましい。その他の好ましい一形態を例示すれば、多層構造重合体(B)が、硬質の内層、軟質の中間層および硬質の外層を有し、上記内層が少なくとも一種の硬質重合体層からなり、上記中間層が(メタ)アクリル系架橋重合体層を有し、上記外層が硬質重合体層(C)および硬質重合体層(D)を有する形態を挙げることができ、この形態はさらに軟質の最内層を有していてもよい。
【0264】
本発明においては、多層構造重合体(B)を適宜1種、または2種以上を組合せて使用することができる。
【0265】
本願における、軟質の内層、軟質の中間層および軟質の最内層(以下、軟質層)は、少なくとも1種の軟質重合体からなる内層、中間層および最内層のことをいう。
【0266】
一方、本願における、硬質の(最)外層および硬質の内層は、少なくとも1種の硬質重合体からなる(最)外層および内層のことをいう。
【0267】
多層構造重合体(B)が、例えば、硬質の内層、軟質の中間層および硬質の外層からなる多層構造体のように、最内層に硬質層を有する場合は、最内層の硬質重合体としては、硬度や耐割れ性バランスの観点から、メタクリル酸エステル40〜100重量%、アクリル酸エステル0〜60重量%、芳香族ビニル単量体0〜60重量%、多官能性単量体0〜10重量%、ならびにメタクリル酸エステル、アクリル酸エステル、および芳香族ビニル単量体と共重合可能なビニル単量体0〜20重量%からなる硬質重合体が好適に例示されうる。
【0268】
多層構造重合体(B)は、例えば、(メタ)アクリル系架橋重合体層を有する軟質の内層、および、硬質重合体層(C)および硬質重合体層(D)を有する硬質の外層からなる多層構造体である場合、軟質の内層を外層の硬質重合体層が完全に被覆した層構造が一般的であるが、軟質の内層と硬質の外層の重量比等によっては、層構造を形成するための硬質重合体量が不充分な場合もありうる。そのような場合は、完全な層構造である必要はなく、軟質の内層の一部を外部となる硬質重合体が被覆した構造、或いは軟質の内層の一部に外部となる硬質重合体がグラフト重合した構造も本発明の多層構造重合体(B)に含まれる。なお、その他形態の多層構造体についても同様のことが当てはまる。
【0269】
多層構造重合体(B)は、架橋重合体層までの体積平均粒子径は、20〜450nmが好ましく、20〜300nmがより好ましく、20〜150nmが更に好ましく、30〜80nmが最も好ましい。20nm未満では耐割れ性が悪化する場合がある。一方、450nmを超えると透明性が低下する場合がある。さらに、耐折り曲げ白化性の観点から、80nm未満にすることが好ましい。また、トリミング性の観点からは、20〜450nmが好ましく、50〜450nmがより好ましく、60〜450nmがより好ましく、100〜450nmが更に好ましい。なお、体積平均粒子径は、動的散乱法により、例えば、MICROTRAC UPA150(日機装株式会社製)を用いることにより測定することができる。ここで、多層構造重合体(B)の架橋重合体層までの体積平均粒子径とは、多層構造重合体(B)粒子の中心から架橋重合体層までの粒子の体積平均粒子径をいう。具体的には、多層構造重合体(B)が内層に(メタ)アクリル系架橋重合体層を有し、外層に硬質重合体層を有する場合、多層構造重合体(B)の粒子の中心から(メタ)アクリル系架橋重合体層までの粒子の体積平均粒子径を指す。多層構造重合体(B)が架橋重合体層を2層以上有する場合は、中心に対して最も外側に位置する架橋重合体層までの体積平均粒子径をいうものとする。
【0270】
多層構造重合体(B)中の架橋重合体の含有量は、多層構造重合体(B)を100重量%とした場合、10〜90重量%が好ましく、20〜80重量%がより好ましく、30〜60重量%がさらに好ましく、35〜55重量%が最も好ましい。10重量%未満では、得られる樹脂組成物の耐割れ性等の機械的強度が低くなる場合がある。一方、90重量%を上回ると、多層構造重合体(B)の分散性が損なわれ、成形体の表面の平滑性が得られず、フィッシュアイ等の外観不良が発生する傾向がある。また、硬質重合体の含有量が十分ではなく、配向時の複屈折や光弾性定数が大きくなるなど光学的等方性を保てなくなる傾向がある。
【0271】
多層構造重合体(B)の製造方法は特に限定されず、公知の乳化重合法、乳化−懸濁重合法、懸濁重合法、塊状重合法または溶液重合法が適用可能である。多層構造重合体(B)の重合については乳化重合法が特に好ましい。
【0272】
多層構造重合体(B)は、多段重合により得られるが、当該多段重合において、少なくとも、(メタ)アクリル系ゴム含有重合体粒子の存在下で、脂環式構造、複素環式構造または芳香族基を有する(メタ)アクリレート系単量体およびこれと共重合可能な単量体を含有する単量体混合物(c)の重合、および、(メタ)アクリル酸アルキルエステルおよびこれと共重合可能な単量体を含有する単量体混合物(d)の重合を行うことによって得られる、(メタ)アクリル系ゴム含有グラフト共重合体を好ましく使用できる。
【0273】
脂環式構造、複素環式構造または芳香族基を有する(メタ)アクリレート系単量体の含有量は、脂環式構造、複素環式構造または芳香族基を有する(メタ)アクリレート系単量体、およびこれと共重合可能な単量体の総量100重量%において1〜100重量%が好ましく、5〜70重量%がより好ましく、5〜50重量%が最も好ましい。ここでの単量体混合物の重合により、上述の脂環式構造、複素環式構造または芳香族基を有する(メタ)アクリレート系単量体を構成単位に有する硬質重合体層が形成される。脂環式構造、複素環式構造または芳香族基を有する(メタ)アクリレート系単量体と共重合可能な単量体は、上述の硬質重合体層(C)で使用される例示と同様であり、同様に好ましく使用できる。また、単量体混合物には多官能性単量体を含有させてもよい。多官能性単量体としては、上述の架橋重合体層で使用される例示を同様に使用することができ、その使用量は単官能性単量体の総量100重量部に対して0〜2.0重量部が好ましく、0〜1.0重量部以下がより好ましく、0〜0.5重量部がさらに好ましく、0〜0.04がなおさら好ましく、多官能性単量体を含ませないことが特に好ましい。また、芳香族基を有する(メタ)アクリレート系単量体として(メタ)アクリル酸ベンジルを使用する場合の好ましい含有量についても同様である。
【0274】
(メタ)アクリル系ゴム含有重合体粒子は、少なくとも(メタ)アクリル系ゴムを含有する多段重合体粒子であればよく、アクリル酸アルキルエステル50〜100重量%、アクリル酸アルキルエステルと共重合可能なビニル単量体50〜0重量%、ならびに多官能性単量体0.05〜10重量部(アクリル酸アルキルエステルおよびこれと共重合可能なビニル単量体の総量100重量部に対して)を重合してなるゴム((メタ)アクリル系架橋重合体)部を有することが好ましい。ゴム部は、単量体成分を全部混合して1段で重合してもよいし、単量体組成を変化させて2段以上で重合してもよい。
【0275】
(メタ)アクリル系ゴム含有重合体粒子は、多段重合における少なくとも1段の重合として(メタ)アクリル系架橋重合体(ゴム部)が形成されるものであれば特に限定されず、(メタ)アクリル系架橋重合体の重合段階の前および/または後に、硬質重合体の重合を行なっても良い。
【0276】
中でも、生産性の点から、多層構造重合体(B)が、(b−1)アクリル酸アルキルエステル50〜100重量%、これと共重合可能な単量体50〜0重量%、および多官能性単量体0.05〜10重量部(アクリル酸アルキルエステルおよびこれと共重合可能な単量体の総量100重量部に対して)からなる単量体混合物を重合して(メタ)アクリル系ゴム含有重合体粒子を得、
(b−2)上記(メタ)アクリル系ゴム含有重合体粒子の存在下に、脂環式構造、複素環式構造または芳香族基を有するビニル系単量体(好ましくは、環式構造、複素環式構造または芳香族基を有する(メタ)アクリレート系単量体)1〜100重量%、これと共重合可能な単量体99〜0重量%および多官能性単量体0〜2.0重量部(脂環式構造、複素環式構造または芳香族基を有するビニル系単量体およびこれと共重合可能な単量体の総量100重量部に対して)からなる単量体混合物を重合して重合体(C)を得、
(b−3)前記(b−2)で得た重合体の存在下に、(メタ)アクリル酸アルキルエステル1〜100重量%、これと共重合可能な単量体99〜0重量%および多官能性単量体0〜2.0重量部((メタ)アクリル酸アルキルエステルおよびこれと共重合可能な単量体の総量100重量部に対して)からなる単量体混合物を重合して重合体(D)を得てなる、(メタ)アクリル系ゴム含有グラフト共重合体として得られるものを使用するのが好ましい。ここで、(b−1)重合段階の単量体混合物、および/または(b−2)、および/または(b−3)重合段階の単量体混合物は、単量体成分を全部混合して1段で重合してもよいし、単量体組成を変化させて2段以上で重合してもよい。また、(b−1)における、アクリル酸アルキルエステル、これと共重合可能な単量体および多官能性単量体、並びにこれらの好ましい使用量は、上述の(メタ)アクリル酸架橋重合体における例示と同様である。
【0277】
なお、硬質重合体層(C)を形成する重合体、および/または硬質重合体層(D)を形成する重合体の一部には、多層構造重合体(B)の架橋重合体層と結合していない(グラフトしていない)ポリマー(フリーポリマーとも言う)も存在する場合があるが、このフリーポリマーも多層構造重合体(B)に含むものとする。
【0278】
多層構造重合体(B)を乳化重合により製造する場合には、公知の乳化剤を用いて通常の乳化重合により製造することができる。具体的には、例えばアルキルスルフォン酸ナトリウム、アルキルベンゼンスルフォン酸ナトリウム、ジオクチルスルフォコハク酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、脂肪酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸ナトリウムなどのリン酸エステル塩等の陰イオン性界面活性剤や、アルキルフェノール類、脂肪族アルコール類とプロピレンオキサイド、エチレンオキサイドとの反応生成物等の非イオン性界面活性剤等が示される。これらの界面活性剤は単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。更に要すれば、アルキルアミン塩等の陽イオン性界面活性剤を使用してもよい。このうち、得られた多層構造重合体(B)の熱安定性を向上させる観点から、特にはポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸ナトリウムなどのリン酸エステル塩(アルカリ金属、又はアルカリ土類金属)を用いて重合することが好ましい。
【0279】
乳化重合により得られる多層構造重合体ラテックスは、例えば、噴霧乾燥、凍結乾燥、あるいは塩化カルシウム、塩化マグネシウム等の塩、または塩酸、硫酸等の酸を凝固剤として添加することで凝固を行ない、適宜加熱処理等により凝固した樹脂分を水相より分離して、洗浄、乾燥を行なう、等の既知の方法により処理することで、粉末状の多層構造重合体が得られる。重合体ラテックスの凝固により多層構造重合体を得る場合には、凝固剤としては、酸や塩などの公知の凝固剤が使用できるが、得られた共重合体の成形時の熱安定性を向上させる観点からマグネシウム塩、特には硫酸マグネシウムを用いることが特に好ましい。
【0280】
多層構造重合体(B)は、樹脂組成物100重量部において架橋重合体層の含有量(例えば、架橋重合体層が(メタ)アクリル系架橋重合体層である場合は(メタ)アクリル系架橋重合体の含有量)が1〜60重量部含まれるように配合されることが好ましく、1〜30重量部がより好ましく、1〜25重量部がさらに好ましい。1重量部未満ではフィルムの耐割れ性、真空成形性が悪化したり、また光弾性定数が大きくなり、光学的等方性に劣ったりする場合がある。一方、60重量部を越えるとフィルムの耐熱性、表面硬度、透明性、耐折曲げ白化性が悪化する傾向がある。
【0281】
樹脂(A)と多層構造重合体(B)の配合比率については、前記配合条件を満たしていれば特に問題はなく、また、多層構造重合体(B)に含まれる架橋重合体の量にもよるが、樹脂(A)および多層構造重合体(B)の合計を100重量%とした場合、多層構造重合体(B)が1〜99重量%が好ましく、1〜80重量%がより好ましく、1〜60重量%がさらに好ましい。1重量%未満ではフィルムの耐割れ性、真空成形性が悪化したり、また光弾性定数が大きくなり、光学的等方性に劣ったりする場合がある。一方、99重量%を越えるとフィルムの耐熱性、表面硬度、透明性、耐折曲げ白化性が悪化する傾向がある。
【0282】
本発明の樹脂組成物は、配向複屈折を調整する意味合いで、特許第3648201号や特許第4336586号に記載の複屈折性を有する無機微粒子や、特許第3696649号に記載の屈折性を有する、分子量5000以下、好ましくは1000以下の低分子化合物を適宜配合してもよい。
【0283】
本発明の樹脂組成物は、光弾性定数が−4×10−12から4×10−12Pa−1であることが好ましく、−2×10−12から2×10−12Pa−1がより好ましく、−1×10−12から1×10−12Pa−1がさらに好ましく、−0.5×10-12〜0.5×10-12であることが最も好ましい。光弾性定数が上記範囲内であれば、高温高湿化などの環境化において成形体に応力がかかった際にも生じる複屈折が小さく、実用上問題ない成形体を得ることができる。
【0284】
本発明の樹脂組成物は、配向複屈折が−1.7×10−4から1.7×10−4であることが好ましく、−1.6×10−4から1.6×10−4であることがより好ましく、−1.5×10−4から1.5×10−4であることがさらに好ましく、−1×10−4から1×10−4がなおさら好ましく、−0.5×10−4から0.5×10−4が特に好ましく、−0.2×10−12Pa−1〜0.2×10−12Pa−1以下であることが最も好ましい。配向複屈折が上記範囲内であれば、成形加工時の複屈折が生じることなく、安定した光学特性を得ることができる。また液晶ディスプレイ等に使用される光学フィルムとしても非常に適している。
【0285】
本発明の樹脂組成物は、樹脂(A)および多層構造重合体(B)を各々少なくとも1種含有すればよいが、本発明の目的を満たす範囲であれば、1種以上の他の樹脂を特に制限なく添加することができる。他の樹脂としては、たとえば、樹脂(A)で挙げられた熱可塑性樹脂、コアシェルポリマー、グラフト共重合体などの多層構造重合体、ブロックポリマーなどの熱可塑性エラストマー、などが挙げられる。
【0286】
本発明の樹脂組成物は、必要に応じて、光安定剤、紫外線吸収剤、熱安定剤、艶消し剤、光拡散剤、着色剤、染料、顔料、帯電防止剤、熱線反射材、滑剤、可塑剤、紫外線吸収剤、安定剤、フィラー等の公知の添加剤、または、その他の樹脂を含有しても良い。
【0287】
本発明の樹脂組成物は、粒状のままで、または押出機によりペレット状としたのち、加熱しながら押出成形や射出成形、圧縮成形、ブロー成形、紡糸成形等により、用途に適した形状の成形品とすることができる。特にフィルムとして有用であり、例えば、通常の溶融押出法であるインフレーション法やTダイ押出法、あるいはカレンダー法、更には溶剤キャスト法等により良好に加工される。中でも、溶剤を使用しない溶融押出法を用いることが好ましい。溶融押出法によれば、製造コストや溶剤による地球環境や作業環境への負荷を低減することができる。
【0288】
必要に応じて、フィルムを成形する際、フィルム両面をロールまたは金属ベルトに同時に接触させる(挟み込む)ことにより、特にガラス転移温度付近の温度に加熱したロールまたは金属ベルトに同時に接触させることにより、表面性のより優れたフィルムを得ることも可能である。また、目的に応じて、フィルムの積層成形や、二軸延伸によるフィルムの改質も可能である。
【0289】
本発明の樹脂組成物はTダイ製膜を用いるような高温での成形条件下でも、紫外線吸収剤の飛散による成形機の汚染やフィルム欠陥を発生させることなく、フィルムを製造することができる。
【0290】
以下、本発明の樹脂組成物を用いた成形品の製造方法の一実施形態として、本発明の樹脂組成物を溶融押出法により成形してフィルムを製造する方法について詳細に説明する。
【0291】
なお、以下の説明では、溶融押出法で成形されたフィルムを、溶液流延法等の他の方法で成形されたフィルムと区別して、「溶融押出フィルム」と称する。
【0292】
本発明の樹脂組成物を溶融押出法によりフィルムに成形する場合、まず、本発明の樹脂組成物を、押出機に供給し、該樹脂組成物を加熱溶融させる。
【0293】
樹脂組成物は、押出機に供給する前に、予備乾燥することが好ましい。このような予備乾燥を行うことにより、押出機から押し出される樹脂の発泡を防ぐことができる。
【0294】
予備乾燥の方法は特に限定されるものではないが、例えば、原料(すなわち、本発明の樹脂組成物)をペレット等の形態にして、熱風乾燥機等を用いて行うことができる。
【0295】
また、本発明に係る非複屈折性樹脂材料を成形するための押出機は、好ましくは加熱溶融時に発生する揮発分を除去するための脱揮装置を一つ以上有しているものが好ましい。脱気装置を有する事により、樹脂の発泡や分解劣化反応によるフィルム外観の悪化を軽減することができる。
【0296】
更に、本発明に係る非複屈折性樹脂材料を成形するための溶融押出に際しては、押出機のシリンダに、樹脂材料の供給とともに、窒素やヘリウムなどの不活性ガスを供給する事が好ましい。不活性ガスの供給により、系中の酸素の濃度を低下させ、酸化劣化に伴う分解、架橋、黄変等の外観や品質の劣化を軽減することができる。
【0297】
次に、押出機内で加熱溶融された樹脂組成物を、ギアポンプやフィルターを通して、Tダイに供給する。このとき、ギアポンプを用いれば、樹脂の押出量の均一性を向上させ、厚みムラを低減させることができる。一方、フィルターを用いれば、樹脂組成物中の異物を除去し、欠陥の無い外観に優れたフィルムを得ることができる。
【0298】
フィルターの種類としては、溶融ポリマーからの異物除去が可能なステンレス製のリーフディスクフィルターを使用するのが好ましく、フィルターエレメントとしてはファイバータイプ、パウダータイプ、あるいはそれらの複合タイプを使用するのが好ましい。フィルターはペレット化時、もしくはフィルム化時に使用する押出機等に好適に使用することができる。
【0299】
次に、Tダイに供給された樹脂組成物を、シート状の溶融樹脂として、Tダイから押し出す。そして、該シート状の溶融樹脂を2つの冷却ロールで挟み込んで冷却し、フィルムを成膜することが好ましい。
【0300】
上記シート状の溶融樹脂を挟み込む2つの冷却ロールの内、一方は、表面が平滑な剛体性の金属ロールであり、もう一方は、表面が平滑な弾性変形可能な金属製弾性外筒を備えたフレキシブルロールであることが好ましい。
【0301】
このような剛体性の金属ロールと金属製弾性外筒を備えたフレキシブルロールとで、上記シート状の溶融樹脂を挟み込んで冷却して成膜することにより、表面の微小な凹凸やダイライン等が矯正されて、表面が平滑で厚みムラが5μm以下であるフィルムを得ることができる。
【0302】
なお、本明細書において、「冷却ロール」とは、「タッチロール」および「冷却ロール」を包含する意味で用いられる。
【0303】
上記剛体性の金属ロールとフレキシブルロールとを用いる場合であっても、何れの冷却ロールも表面が金属であるため、成膜するフィルムが薄いと、冷却ロールの面同士が接触して、冷却ロールの外面に傷が付いたり、冷却ロールそのものが破損したりすることがある。
【0304】
そのため、上説したような2つの冷却ロールでシート状の溶融樹脂を挟み込んで成膜する場合、まず、該2つの冷却ロールで、シート状の溶融樹脂を挟み込んで冷却することで、フィルムが得られる。
【0305】
本発明の樹脂組成物を成形してなるフィルム(以下、「本発明のフィルム」と称することがある。)は、非常に靭性が高く柔軟性に富むため、強度向上のために延伸をする必要がなく、延伸工程を省略することによる生産性の向上、コスト面でのメリットがある。
【0306】
本発明のフィルムは、透明性が高く、高い強度を有した10μm以上の厚みを有することが可能である。本発明のフィルムの好ましい厚みは500μm以下が好ましく、300μm以下がより好ましく、200μm以下がさらに好ましい。また、10μm以上であることが好ましく、30μm以上であることがより好ましく、50μm以上であることがさらに好ましく、100μm以上であることが特に好ましい。
【0307】
本発明のフィルムは引張破断点伸度が10%以上であることが好ましく、20%以上であることがより好ましく、30%以上であることが更に好ましく、40%以上であることがなおさら好ましい。さらに、50%以上であることがより好ましく、60%以上であることが特に好ましく、90%以上であることが最も好ましい。また、本発明のフィルムを2倍に2軸延伸して得られる延伸フィルムが示す引張破断点伸度が、40%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましく、60%以上であることがさらに好ましく、90%以上であることがなおさら好ましい。上記範囲内の引張破断点伸度を示す本発明のフィルムは、当該フィルムをトムソン刃またはカッター刃で切り抜く時にクラックが発生しにくいこと(トリミング性)、および、当該フィルムをロールに巻き取る時、または、当該フィルムの表面に対しコーティング、蒸着、スパッタリング、保護フィルムの貼り合わせ等の後加工をする時に、破断しにくい。またフィルムを折り曲げたときの耐割れ性が高く、後加工工程のみならず、実際に製品として使用する際にも割れ等のトラブルがおこらない。この割れ性については特に引張破断点伸度が相関しており、引張破断点伸度が高いほど、耐割れ性に優れる。
【0308】
本発明のフィルムは、未延伸時のヘイズ値が2.0%であることが好ましく、1.0%以下であることがより好ましく、0.8%以下であることがさらに好ましく、0.5%以下であることが特に好ましい。また、未延伸時の全光線透過率が85%以上であることが好ましく、88%以上であることがより好ましい。上記範囲内であれば、フィルムの透明性を十分に高く、透明性が要求される光学用途、加飾用途、インテリアー用途、または、真空成形用途で好適に用いることができる。
【0309】
本発明のフィルムは、延伸後においても高い透明性を維持することができる。具体的には、本発明のフィルムを2倍に2軸延伸して得られる延伸フィルムが示すヘイズ値が2.0%であることが好ましく、1.0%以下であることがより好ましく、0.8%以下であることがさらに好ましく、0.5%以下であることが特に好ましい。また、本発明のフィルムを2倍に2軸延伸して得られる延伸フィルムが示す全光線透過率が85%以上であることが好ましく、88%以上であることがより好ましい。本発明のフィルムは、延伸後においても優れた透明性を有することができるため、透明性が要求される光学用途、加飾用途、インテリアー用途、または、真空成形用途に好適である。
【0310】
本発明のフィルムは、さらに、延伸による配向複屈折がほぼ発生せず、さらに光学的に等方である。具体的には、配向複屈折(本発明のフィルムを2倍延伸(1軸延伸)して得られる延伸フィルムが示す配向複屈折)が−1.7×10−4から1.7×10−4であることが好ましく、−1.6×10-4〜1.6×10-4であることがより好ましく、−1.5×10-4〜1.5×10-4であることがさらに好ましく、−1.0×10-4〜1.0×10-4であることがなおさら好ましく、−0.5×10-4〜0.5×10-4であることが特に好ましく、−0.2×10-4〜0.2×10-4であることが最も好ましい。配向複屈折が上記範囲内であれば、成形加工時の複屈折が生じることなく、安定した光学特性を得ることができる。また液晶ディスプレイ等に使用される光学フィルムとしても非常に適している。
【0311】
本発明のフィルムは、光弾性定数が−4×10−12Pa−1〜4×10−12Pa−1であることが好ましく、−2×10−12Pa−1〜2×10−12Pa−1であることがより好ましく、−1.5×10−12Pa−1〜1.5×10−12Pa−1であることがさらに好ましく、−0.5×10−12Pa−1〜0.5×10−12Pa−1であることがなおさら好ましく、−0.3×10−12Pa−1〜0.3×10−12Pa−1であることが最も好ましい。光弾性定数が上記範囲内であれば、本発明のフィルムおよび延伸フィルムは液晶表示装置に用いても、高温高湿化などの環境化において成形体に応力がかかった際にも生じる複屈折が小さく、位相差ムラが発生したり、表示画面周辺部のコントラストが低下したり、光漏れが発生したりすることがない。
【0312】
本発明のフィルムは、ガラス転移温度が100℃以上であることが好ましく、115℃以上であることがより好ましく、120℃以上であることがさらに好ましく、124℃以上であることが最も好ましい。ガラス転移温度が上記範囲内であれば、十分に耐熱性が優れたフィルムを得ることができる。また、本発明のフィルムは、真空成形等の2次成形時、高温での使用時等の熱による収縮も小さい。
【0313】
本発明のフィルムは未延伸状態のフィルムとして上述の効果を奏するものであり、未延伸フィルムとしても光学フィルムとして利用できるが、延伸した場合においても光学的等方性および高い透明性等の優れた光学特性を奏することができるため、さらに延伸することが好適である。延伸フィルムにすることにより、さらなる機械的強度の向上、膜厚精度の向上を図ることができる。また、適切な延伸条件を選択することにより、実質的に複屈折を生じさせることなく、かつ、ヘイズの増大を実質的に伴うことなく、厚みムラの小さなフィルムを容易に製造することができる。
【0314】
本発明のフィルムを延伸する場合、本発明の樹脂組成物を一旦、未延伸状態のフィルムに成形し、その後、一軸延伸または二軸延伸を行うことにより、延伸フィルム(一軸延伸フィルムまたは二軸延伸フィルム)を製造することができる。例えば、上記2つの冷却ロールで、シート状の溶融樹脂を挟み込んで冷却し、一旦、厚み150μmの未延伸状態のフィルムを取得する。その後、該フィルムを縦横二軸延伸により延伸させ、厚み40μmのフィルムを製造すればよい。
【0315】
本明細書では、説明の便宜上、本発明の樹脂組成物をフィルム状に成形した後、延伸を施す前のフィルム、すなわち未延伸状態のフィルムを「原料フィルム」と称する。
【0316】
原料フィルムを延伸する場合、原料フィルムを成形後、直ちに、該原料フィルムの延伸を連続的に行ってもよいし、原料フィルムを成形後、一旦、保管または移動させて、該原料フィルムの延伸を行ってもよい。
【0317】
なお、原料フィルムに成形後、直ちに該原料フィルムを延伸する場合、フィルムの製造工程において、原料フィルムの状態が非常に短時間(場合によっては、瞬間)にて延伸してもよく、一旦原料フィルムを製造したのち、時間を開けて延伸してもよい。
【0318】
本発明のフィルムを延伸する場合は、上記原料フィルムは延伸されるのに充分な程度のフィルム状を維持していればよく、完全なフィルムの状態である必要はない。
【0319】
原料フィルムを延伸する方法は、特に限定されるものではなく、従来公知の任意の延伸方法を用いればよい。具体的には、例えば、テンターを用いた横延伸、ロールを用いた縦延伸、及びこれらを逐次組み合わせた逐次二軸延伸等を用いることができる。
【0320】
また、縦と横とを同時に延伸する同時二軸延伸方法を用いたり、ロール縦延伸を行った後、テンターによる横延伸を行う方法を用いたりすることもできる。
【0321】
原料フィルムを延伸するとき、原料フィルムを一旦、延伸温度より0.5℃〜5℃、好ましくは1℃〜3℃高い温度まで予熱した後、延伸温度まで冷却して延伸することが好ましい。
【0322】
上記範囲内で予熱することにより、原料フィルムの厚みを精度よく保つことができ、また、延伸フィルムの厚み精度が低下したり、厚みムラが生じたりすることがない。また、原料フィルムがロールに貼り付いたり、自重で弛んだりすることがない。
【0323】
一方、原料フィルムの予熱温度が高すぎると、原料フィルムがロールに貼り付いたり、自重で弛んだりするといった弊害が発生する傾向にある。また、原料フィルムの予熱温度と延伸温度との差が小さいと、延伸前の原料フィルムの厚み精度を維持しにくくなったり、厚みムラが大きくなったり、厚み精度が低下したりする傾向がある。
【0324】
なお、本発明のフィルムがアクリル系樹脂フィルムの場合は、原料フィルムに成形後、延伸する際、ネッキング現象を利用して、厚み精度を改善することが困難である。したがって、本発明では、上記予熱温度の管理を行うことは、得られるフィルムの厚み精度を維持したり、改善したりするためには重要となる。
【0325】
原料フィルムを延伸するときの延伸温度は、特に限定されるものではなく、製造する延伸フィルムに要求される機械的強度、表面性、および厚み精度等に応じて、変更すればよい。
【0326】
一般的には、DSC法によって求めた原料フィルムのガラス転移温度をTgとした時に、(Tg−30℃)〜(Tg+30℃)の温度範囲とすることが好ましく、(Tg−20℃)〜(Tg+20℃)の温度範囲とすることがより好ましく、(Tg)〜(Tg+20℃)の温度範囲とすることがさらに好ましい。
【0327】
延伸温度が上記温度範囲内であれば、得られる延伸フィルムの厚みムラを低減し、さらに、伸び率、引裂伝播強度、および耐揉疲労等の力学的性質を良好なものとすることができる。また、フィルムがロールに粘着するといったトラブルの発生を防止することができる。
【0328】
一方、延伸温度が上記温度範囲よりも高くなると、得られる延伸フィルムの厚みムラが大きくなったり、伸び率、引裂伝播強度、および耐揉疲労等の力学的性質が十分に改善できなかったりする傾向がある。さらに、フィルムがロールに粘着するといったトラブルが発生しやすくなる傾向がある。
【0329】
また、延伸温度が上記温度範囲よりも低くなると、得られる延伸フィルムのヘイズが大きくなったり、極端な場合には、フィルムが裂けたり、割れたりするといった工程上の問題が発生したりする傾向がある。
【0330】
上記原料フィルムを延伸する場合、その延伸倍率もまた、特に限定されるものではなく、製造する延伸フィルムの機械的強度、表面性、および厚み精度等に応じて、決定すればよい。延伸温度にも依存するが、延伸倍率は、一般的には、1.1倍〜3倍の範囲で選択することが好ましく、1.3倍〜2.5倍の範囲で選択することがより好ましく、1.5倍〜2.3倍の範囲で選択することがさらに好ましい。
【0331】
延伸倍率が上記範囲内であれば、フィルムの伸び率、引裂伝播強度、および耐揉疲労等の力学的性質を大幅に改善することができる。それゆえ、厚みムラが5μm以下であり、複屈折が実質的にゼロであり、さらに、ヘイズが2.0%以下である延伸フィルムを製造することもできる。
【0332】
本発明のフィルムおよび延伸フィルムは優れた光学特性を有するため、光学フィルムとして使用することができる。この場合、特に偏光子保護フィルムとして使用する場合、光学異方性が小さいことが好ましい。特に、フィルムの面内方向(長さ方向、幅方向)の光学異方性だけでなく、厚み方向の光学異方性についても小さいことが好ましい。換言すれば、面内位相差、および、厚み方向位相差の絶対値がともに小さいことが好ましい。より具体的には、面内位相差は10nm以下であることが好ましく、6nm以下であることがより好ましく、5nm以下であることがより好ましく、3nm以下であることがさらに好ましい。また、厚み方向位相差の絶対値は50nm以下であることが好ましく、20nm以下であることがより好ましく、10nm以下であることがさらに好ましく、5nm以下であることが最も好ましい。このような位相差を有するフィルムは、液晶表示装置の偏光板が備える偏光子保護フィルムとして好適に使用することができる。一方、フィルムの面内位相差が10nmを超えたり、厚み方向位相差の絶対値が50nmを超えたりすると、液晶表示装置の偏光板が備える偏光子保護フィルムとして用いる場合、液晶表示装置においてコントラストが低下するなどの問題が発生する場合がある。
【0333】
面内位相差(Re)および厚み方向位相差(Rth)は、それぞれ、以下の式により算出することができる。3次元方向について完全光学等方である理想的なフィルムでは、面内位相差Re、厚み方向位相差Rthがともに0となる。
【0334】
Re=(nx−ny)×d
Rth=((nx+ny)/2−nz)×d
上記式中において、nx、ny、およびnzは、それぞれ、面内において伸張方向(ポリマー鎖の配向方向)をX軸、X軸に垂直な方向をY軸、フィルムの厚さ方向をZ軸とし、それぞれの軸方向の屈折率を表す。また、dはフィルムの厚さを表し、nx−nyは配向複屈折を表す。なお、溶融押出フィルムの場合は、MD方向がX軸、さらに延伸フィルムの場合は延伸方向がX軸となる。
【0335】
本発明の延伸フィルムの厚みは特に限定されないが、500μm以下であることが好ましく、300μm以下であることがさらに好ましく、200μm以下であることが特に好ましい。また、10μm以上であることが好ましく、30μm以上であることがより好ましく、50μm以上であることがさらに好ましく、100μm以上であることが特に好ましい。フィルムの厚みが上記範囲内であれば、当該フィルムを用いて真空成形を実施する際に変形しにくく、深絞り部での破断が発生しにくいという利点があり、さらに、光学特性が均一で、透明性が良好なフィルムを製造することができる。一方、フィルムの厚みが上記範囲を越えると、成形後のフィルムの冷却が不均一になり、光学的特性が不均一になる傾向がある。また、フィルムの厚みが上記範囲を下回ると、フィルムの取扱が困難になることがある。
【0336】
本発明のフィルムおよび延伸フィルムは、必要に応じて、公知の方法によりフィルム表面の光沢を低減させることができる。例えば、樹脂組成物に無機充填剤または架橋性高分子粒子を混練する方法等で実施することが可能である。また、得られるフィルムをエンボス加工により、フィルム表面の光沢を低減させることも可能である。
【0337】
本発明のフィルムおよび延伸フィルムは、必要に応じて、粘着剤等により別のフィルムをラミネートしたり、表面にハードコート層等のコーティング層を形成させたりして用いることができる。
【0338】
本発明のフィルムおよび延伸フィルムは、必要に応じて、表面処理が施されたものであってもよい。例えば、本発明のフィルムの表面にコーティング加工等の表面加工を施したり、本発明のフィルムの表面に別のフィルムをラミネートしたりして用いる場合、本発明のフィルムに表面処理を施すことが好ましい。このような表面処理を施すことにより、本発明のフィルムと、コーティング材またはラミネートされる別のフィルムとの間の密着性を向上させることができる。
【0339】
なお、本発明のフィルムおよび延伸フィルムに対する表面処理の目的は上記に限定されない。本発明のフィルムおよび延伸フィルムは、その用途に関係なく、表面処理が施されていてもよい。このような表面処理は特に限定されないが、例えば、コロナ処理、プラズマ処理、紫外線照射、アルカリ処理等を挙げることができる。中でも、コロナ処理が好ましい。
【0340】
本発明のフィルムおよび延伸フィルムは、光学的等方性、透明性等の光学特性に優れている。そのため、これらの光学特性を利用して、光学的等方フィルム、偏光子保護フィルムや透明導電フィルム等液晶表示装置周辺等の公知の光学的用途に特に好適に用いることができる。
【0341】
本発明のフィルムおよび延伸フィルムは、偏光子に貼り合わせて、偏光板として用いることができる。すなわち、本発明に係るフィルムおよび延伸フィルムは、偏光板の偏光子保護フィルムとして用いることができる。上記偏光子は、特に限定されるものではなく、従来公知の任意の偏光子を用いることができる。具体的には、例えば、延伸されたポリビニルアルコールにヨウ素を含有させて得た偏光子等を挙げることができる。
【0342】
本発明のフィルムおよび延伸フィルムは、上述の光学的用途としての利用だけでなく、その耐熱性、透明性、柔軟性等の性質を利用して、以下の各種用途にも使用することができる。具体的には、自動車内外装、パソコン内外装、携帯内外装、太陽電池内外装、太陽電池バックシート;カメラ、VTR、プロジェクター用の撮影レンズ、ファインダー、フィルター、プリズム、フレネルレンズなどの映像分野、CDプレイヤー、DVDプレイヤー、MDプレイヤーなどにおける光ディスク用ピックアップレンズなどのレンズ分野、CD、DVD、MDなどの光ディスク用の光記録分野、液晶用導光板、拡散板、バックシート、反射シート、偏光子保護フィルム、偏光フィルム透明樹脂シート,位相差フィルム,光拡散フィルム,プリズムシートなどの液晶ディスプレイ用フィルム、表面保護フィルムなどの情報機器分野、光ファイバ、光スイッチ、光コネクターなどの光通信分野、自動車ヘッドライト、テールランプレンズ、インナーレンズ、計器カバー、サンルーフなどの車両分野、眼鏡、コンタクトレンズ、内視鏡用レンズ、滅菌処理の必要な医療用品などの医療機器分野、道路標識、浴室設備、床材、道路透光板、ペアガラス用レンズ、採光窓、カーポート、照明用レンズ、照明カバー、建材用サイジングなどの建築・建材分野、電子レンジ調理容器(食器)、家電製品のハウジング、玩具、サングラス、文房具などに使用することができる。また、転写箔シートを使用した成形品の代替用途としても使用できる。
【0343】
本発明のフィルムおよび延伸フィルムは、金属、プラスチックなどに積層して用いることができる。フィルムまたは延伸フィルムの積層方法としては、積層成形や、鋼板などの金属板に接着剤を塗布した後、金属板にフィルムまたは延伸フィルムを載せて乾燥させ貼り合わせるウエットラミネ−トや、ドライラミネ−ト、エキストル−ジョンラミネ−ト、ホットメルトラミネ−トなどがあげられる。
【0344】
プラスチック部品にフィルムまたは延伸フィルムを積層する方法としては、フィルムを金型内に配置しておき、射出成形にて樹脂を充填するインサート成形またはラミネートインジェクションプレス成形や、フィルムを予備成形した後に金型内に配置し、射出成形にて樹脂を充填するインモールド成形などがあげられる。
【0345】
本発明のフィルムまたは延伸フィルムの積層品は、自動車内装材,自動車外装材などの塗装代替用途、窓枠、浴室設備、壁紙、床材などの建材用部材、日用雑貨品、家具や電気機器のハウジング、ファクシミリ、ノートパソコン、コピー機などのOA機器のハウジング、携帯電話、スマートフォン、タブレットなどの端末の液晶画面の前面板や、電気または電子装置の部品などに使用することができる。
【0346】
また、本発明の樹脂組成物はフィルム以外にも好適に使用することができる。たとえば、射出成形用途に使用した場合には、樹脂(A)に対する多層構造重合体(B)の分散性が良好であるために、得られた成形体の透明性などの光学特性が良好であり、また表面外観等も良好である。特に射出速度が速いなど、高せん断下での成形では、成形体中での樹脂の剥離がないなど、優れた成形材料となる。例えば、一般カメラ用レンズ,ビデオカメラ用レンズ,レーザーピックアップ用の対物レンズ,回折格子,ホログラム,及びコリメータレンズ,レーザープリンター用のfθレンズ,シリンドリカルレンズ,液晶プロジェクター用のコンデンサーレンズや投射レンズ,フレネルレンズ,眼鏡用レンズ等のレンズ、コンパクトディスク(CD,CD−ROM等)、ミニディスク(MD)、DVD用のディスク基板、液晶用導光板、液晶用フィルム、LCD用基板,液晶素子結合用接着剤等の液晶素子用部材、プロジェクター用スクリーン、光学フィルター、光ファイバー、光導波路、プリズム、照明用レンズ、自動車ヘッドライト、滅菌処理の必要な医療用品、電子レンジ調理容器、家電製品のハウジング、玩具またはレクリエーション品目などが挙げられる。
【実施例】
【0347】
以下、本発明を実施例にて具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。以下で「部」および「%」は、特記ない限り、「重量部」および「重量%」を意味する。
【0348】
(多層構造重合体の(メタ)アクリル系架橋重合体層までの体積平均粒子径)
多層構造重合体の(メタ)アクリル系架橋重合体層までの体積平均粒子径(アクリル系ゴム粒子の体積平均粒子径)は、アクリル系ゴム粒子ラテックスの状態で測定した。測定装置として、日機装株式会社製のMICROTRAC UPA150を用いて体積平均粒子径(μm)を測定した。
【0349】
(重合転化率)
まず、得られたスラリーの一部を採取・精秤し、それを熱風乾燥器中で120℃、1時間乾燥し、その乾燥後の重量を固形分量として精秤した。次に、乾燥前後の精秤結果の比率をスラリー中の固形成分比率として求めた。最後に、この固形成分比率を用いて、以下の計算式により重合転化率を算出した。なお、この数式1において、連鎖移動剤は仕込み単量体として取り扱った。
【0350】
重合転化率(%)
=〔(仕込み原料総重量×固形成分比率−水・単量体以外の原料総重量)/仕込み単量体重量〕×100
(グラフト率)
得られた多層構造重合体(B)2gをメチルエチルケトン50mlに溶解させ、遠心分離機(日立工機(株)製、CP60E)を用い、回転数30000rpmにて1時間遠心分離を行い、不溶分と可溶分とを分離した(遠心分離作業を合計3セット)。得られた不溶分を用いて、次式によりグラフト率を算出した。
【0351】
グラフト率(%)={(メチルエチルケトン不溶分の重量−架橋重合体層の重量)/架橋重合体層の重量}×100
なお、架橋重合体層の重量は、架橋重合体層を構成する単官能性単量体の仕込み重量である。
【0352】
(イミド化率)
イミド化率の算出は、IRを用いて下記の通り行った。生成物のペレットを塩化メチレンに溶解し、その溶液について、SensIR Tecnologies社製TravelIRを用いて、室温にてIRスペクトルを測定した。得られたIRスペクトルより、1720cm−1のエステルカルボニル基に帰属する吸収強度(Absester)と、1660cm−1のイミドカルボニル基に帰属する吸収強度(Absimide)との比からイミド化率(Im%(IR))を求めた。ここで、「イミド化率」とは、全カルボニル基中のイミドカルボニル基の占める割合をいう。
【0353】
(グルタルイミド単位の含有量)
H−NMR BRUKER AvanceIII(400MHz)を用いて、樹脂のH−NMR測定を行い、樹脂中のグルタルイミド単位またはエステル単位などの各モノマー単位それぞれの含有量(mol%)を求め、当該含有量(mol%)を、各モノマー単位の分子量を使用して含有量(重量%)に換算した。
【0354】
(酸価)
得られたグルタルイミドアクリル樹脂0.3gを37.5mlの塩化メチレンおよび37.5mlのメタノールの混合溶媒の中で溶解した。フェノールフタレインエタノール溶液を2滴加えた後に、0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液を5ml加えた。過剰の塩基を0.1N塩酸で滴定し、酸価を添加した塩基と中和に達するまでに使用した塩酸との間のミリ当量で示す差で算出した。
【0355】
(屈折率)
グルタルイミドアクリル樹脂の屈折率は、それぞれの組成物をシート状に加工し、JIS K7142に準じて、アタゴ社製アッベ屈折計2Tを用いて、ナトリウムD線波長における屈折率(nD)を測定した。
【0356】
(ガラス転移温度)
セイコーインスツルメンツ製の示差走査熱量分析装置(DSC)SSC−5200を用い、試料を一旦200℃まで25℃/分の速度で昇温した後10分間ホールドし、25℃/分の速度で50℃まで温度を下げる予備調整を経て、10℃/分の昇温速度で200℃まで昇温する間の測定を行い、得られたDSC曲線から積分値を求め(DDSC)、その極大点からガラス転移温度を求めた。
【0357】
(全光線透過率・ヘイズ値)
フィルムの全光線透過率、ヘイズ値は、(株)日本電色工業 NDH−300Aを用い、JIS K7105に記載の方法にて測定した。
【0358】
(膜厚)
フィルムの膜厚は、デジマティックインジケーター(株式会社ミツトヨ製)を用いて測定した。
【0359】
(一軸延伸フィルムの作製、および配向複屈折の測定)
実施例および比較例で得られた未延伸の膜厚125μmの原反フィルムから、25mm×90mmの試験片を切り出し(MD方向に長辺が来るように切り出す)、両短辺を保持してガラス転移温度+30℃にて2分保ち、2倍(100%に延伸とも言う)に長さ方向へ200mm/分の速度で一軸に延伸する(この際、両長辺は固定なし)。その後、得られたフィルムを23℃に冷却し、サンプル中央部分をサンプリングし、自動複屈折計(王子計測株式会社製 KOBRA−WR)を用いて、温度23±2℃、湿度50±5%において、波長590nm、入射角0°にて複屈折(配向複屈折)を測定した。同時に、面内位相差Re、厚み方向位相差Rth(入射角40°)も測定した。(面内位相差Re、厚み方向位相差Rthに関しては、その詳細を後述する)
なお、多層構造重合体(B)単体、および硬質重合体層(C)単体の配向複屈折の測定に関しては、多層構造重合体(B)単品、または硬質重合体層(C)単体を、190℃でプレスし、膜厚500μmのプレス成形シートを作製する。得られたプレス成形シートの中央部から、25mm×90mmの試験片を切り出し、上記記載と同様にして延伸し、測定した。
【0360】
また、樹脂(A)の配向複屈折の測定は、製造例で得られたグルタルイミドアクリル系樹脂のペレットを実施例1と同様にして溶融押出することにより得られた膜厚125μmのフィルムを使用し、上記記載と同様に測定した。
【0361】
(原反フィルムの配向複屈折)
実施例および比較例で得られた未延伸の原反フィルム(膜厚125μm)から40mm×40mmの試験片を切り出し、自動複屈折計(王子計測株式会社製 KOBRA−WR)を用いて、温度23±2℃、湿度50±5%において、波長590nm、入射角0°にて測定した。同時に、面内位相差Re、厚み方向位相差Rth(入射角40°)も測定した。(面内位相差Re、厚み方向位相差Rthに関しては、その詳細を後述する)
(面内位相差Reおよび厚み方向位相差Rth)
実施例および比較例で得られた未延伸の膜厚125μmのフィルム(原反フィルム)から、40mm×40mmの試験片を切り出した。この試験片の面内位相差Reを、自動複屈折計(王子計測株式会社製 KOBRA−WR)を用いて、温度23±2℃、湿度50±5%において、波長590nm、入射角0゜で測定した。
【0362】
デジマティックインジケーター(株式会社ミツトヨ製)を用いて測定した試験片の厚みd、アッベ屈折計(株式会社アタゴ製 3T)で測定した屈折率n、自動複屈折計で測定した波長590nmでの面内位相差Reおよび40°傾斜方向の位相差値から3次元屈折率nx、ny、nzを求め、厚み方向位相差 Rth=((nx+ny)/2−nz)×d を計算した。なお、測定値に、100(μm)/フィルム厚さ(μm)を掛けて、100μm厚換算値とし、表5に記載した。
【0363】
(光弾性定数)
実施例および比較例で得られた未延伸の膜厚125μmのフィルム(原反フィルム)からTD方向に15mm×90mmの短冊状に試験片を切断した(TD方向に長辺がくるように切り出す)。自動複屈折計(王子計測株式会社製 KOBRA−WR)を用いて、温度23±2℃、湿度50±5%において、波長590nm、入射角0°にて測定した。測定は、フィルムの長辺の一方を固定し、他方は無荷重から4kgfまで0.5kgfずつ荷重をかけた状態で複屈折を測定し、得られた結果から、単位応力による複屈折の変化量を算出した。
【0364】
なお、多層構造重合体(B)単体、および硬質重合体層(C)単体の光弾性定数の測定に関しては、多層構造重合体(B)単品、および硬質重合体層(C)単体を、190℃でプレスし、膜厚500μmのプレス成形シートを作製した。得られたプレス成形シートの中央部から、15mm×90mmの試験片を切り出し、上記記載と同様にして測定した。
【0365】
また、樹脂(A)の光弾性定数の測定は、製造例1で得られた樹脂(A1)のペレットを使用し実施例1と同様にして得られた、膜厚125μmのフィルムを使用し、上記記載と同様に測定した。
【0366】
(延伸フィルムの透明性)
本発明は、延伸しても透明性に優れるフィルムを提供することを目的の一つとしている。ここでは、以下に説明する2軸延伸フィルムの全光線透過率とヘイズを測定することにより、延伸フィルムの透明性の評価指標と定義する。本発明によれば、この評価で得られたヘイズが2.0%以下となる。
【0367】
(2軸延伸フィルムの作製、各種物性の測定)
未延伸の膜厚125μmの原反フィルムから、13cm×13cmの試験片を切り出し、4辺全て保持してガラス転移温度+20℃にて10分保ち、2倍(100%に延伸とも言う)に120mm/分の速度で、同時に2軸方向に延伸する。その後、得られたフィルムを23℃に冷却し、サンプル中央部分をサンプリングし、自動複屈折計(王子計測株式会社製 KOBRA−WR)を用いて、温度23±2℃、湿度50±5%において、波長590nm、入射角0°にて複屈折(配向複屈折)を測定した。同時に、面内位相差Re、厚み方向位相差Rth(入射角40°)も測定した。(面内位相差Re、厚み方向位相差Rthに関しては、その詳細を先述する)。また全光線透過率、ヘイズについても先述の方法で測定した。
【0368】
(異物評価)
実施例および比較例で得られた膜厚125μmのフィルムから1m分を切り出し、2
0μm以上の異物数をマイクロスコープ観察などでカウントし、合計して異物数とした。○:100個/m未満
×:100個/m以上
(機械的強度の評価)
機械的強度は、トリミング性評価と、耐割れ性の指標である引張破断点伸度(引張伸び:%)で評価した。
トリミング性評価:実施例および比較例で得られた膜厚125μmのフィルムを、カッターナイフを用いて切断し、次の評価をした。
○:切断面にクラック発生が認められない。
△:切断面にクラック発生が認められる。
×:切断面にクラック発生が著しく認められる。
引張破断点伸度:実施例および比較例で得られた膜厚125μmのフィルム、及び、上述の方法により作製した2軸延伸フィルムを用いた。引張試験はISO527−3(JIS K 7127)に準拠し、試験片はMD方向にて試験片タイプ5、試験速度は200mm/min、温度23±2℃、湿度50±5%で測定した。
【0369】
(熱安定性)
得られた樹脂組成物を、JIS K7199に準拠した条件下(ダイス温度260℃、剪断速度24sec−1、キャピラリーダイ径1mm、滞留時間1時間)にて溶融粘度を測定し、滞留時間10分時における溶融粘度に対する滞留時間1時間時における溶融粘度の下記計算式に表される溶融粘度低下率を算出し、熱安定性の指標とした。また、試験後のストランド中に、樹脂の熱分解に由来する発泡の有無も観察した。
溶融粘度低下率=
(滞留時間10分時における溶融粘度−滞留時間1時間時における溶融粘度)/(滞留時間10分時における溶融粘度) × 100 (%)
熱安定性および溶融粘度を以下の基準で評価した。
熱安定性:
○:溶融粘度低下率が20%未満で、ストランド中に発泡なし
×:溶融粘度低下率が20%以上で、ストランド中に発泡あり
溶融粘度:
○:溶融粘度が低く、問題なく押出可能である。
×:溶融粘度が高く、フィルターが破損し、ろ過精度がでない。
【0370】
(製造例1)
<グルタルイミドアクリル系樹脂(A1)の製造>
原料樹脂としてポリメタクリル酸メチル、イミド化剤としてモノメチルアミンを用いて、グルタルイミドアクリル系樹脂(A1)を製造した。
【0371】
この製造においては、押出反応機を2台直列に並べたタンデム型反応押出機を用いた。タンデム型反応押出機に関しては、第1押出機、第2押出機共に直径が75mm、L/D(押出機の長さLと直径Dの比)が74の噛合い型同方向二軸押出機を使用し、定重量フィーダー(クボタ(株)製)を用いて、第1押出機の原料供給口に原料樹脂を供給した。第1押出機、第2押出機における各ベントの減圧度は−0.095MPaとした。更に、直径38mm、長さ2mの配管で第1押出機と第2押出機を接続し、第1押出機の樹脂吐出口と第2押出機の原料供給口を接続する部品内圧力制御機構には定流圧力弁を用いた。第2押出機から吐出された樹脂(ストランド)は、冷却コンベアで冷却した後、ペレタイザでカッティングしペレットとした。ここで、第1押出機の樹脂吐出口と第2押出機の原料供給口を接続する部品内圧力調整、又は押出変動を見極めるために、第1押出機の吐出口、第1押出機と第2押出機間の接続部品の中央部、および、第2押出機の吐出口に樹脂圧力計を設けた。
【0372】
第1押出機において、原料樹脂としてポリメタクリル酸メチル樹脂(Mw:10.5万)を使用し、イミド化剤として、モノメチルアミンを用いてイミド樹脂中間体1を製造した。この際、押出機の最高温部の温度は280℃、スクリュー回転数は55rpm、原料樹脂供給量は150kg/時間、モノメチルアミンの添加量は原料樹脂100部に対して2.0部とした。定流圧力弁は第2押出機の原料供給口直前に設置し、第1押出機のモノメチルアミン圧入部圧力を8MPaになるように調整した。
【0373】
第2押出機において、リアベント及び真空ベントで残存しているイミド化剤及び副生成物を脱揮したのち、エステル化剤として炭酸ジメチルを添加しイミド樹脂中間体2を製造した。この際、押出機の各バレル温度は260℃、スクリュー回転数は55rpm、炭酸ジメチルの添加量は原料樹脂100部に対して3.2部とした。更に、ベントでエステル化剤を除去した後、ストランドダイから押し出し、水槽で冷却した後、ペレタイザでペレット化することで、グルタルイミドアクリル系樹脂(A1)を得た。
【0374】
得られたグルタルイミドアクリル系樹脂(A1)は、一般式(1)で表されるグルタミルイミド単位と、一般式(2)で表される(メタ)アクリル酸エステル単位が共重合したアクリル系樹脂(A)である。
【0375】
グルタルイミドアクリル系樹脂(A1)について、上記の方法に従って、イミド化率、グルタルイミド単位の含有量、酸価、ガラス転移温度、および、屈折率を測定した。その結果、イミド化率は13%、グルタルイミド単位の含有量は7重量%、酸価は0.4mmol/g、ガラス転移温度は130℃、屈折率は1.50であった。
【0376】
(製造例2)
<多層構造重合体(B1)の製造>
撹拌機付き8L重合装置に、以下の物質を仕込んだ。
脱イオン水 200部
ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸ナトリウム 0.05部
ソディウムホルムアルデヒドスルフォキシレ−ト 0.11部
エチレンジアミン四酢酸−2−ナトリウム 0.004部
硫酸第一鉄 0.001部
重合機内を窒素ガスで充分に置換し実質的に酸素のない状態とした後、内温を40℃にし、表2に示したアクリル系ゴム粒子(B−1)の原料混合物45.266部を135分かけて連続的に添加した。(B−1)追加開始から12分目、24分目、36分目にポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸ナトリウム(ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸(東邦化学工業株式会社製、商品名:フォスファノールRD−510Yのナトリウム塩)0.2部ずつ重合機に添加した。添加終了後、さらに0.5時間重合を継続し、アクリル系ゴム粒子((B−1)の重合物)を得た。重合転化率は99.4%であった。
【0377】
その後、内温を60℃にし、ソディウムホルムアルデヒドスルフォキシレ−ト0.2部を仕込んだ後、表2に示した硬質重合体層(B−2)の原料混合物55.254部を165分間かけて連続的に添加し、さらに1時間重合を継続し、グラフト共重合体ラテックスを得た。重合転化率は100.0%であった。得られたラテックスを硫酸マグネシウムで塩析、凝固し、水洗、乾燥を行い、白色粉末状の多層構造重合体(B1)を得た。
【0378】
多層構造重合体(B1)のゴム粒子(B−1の重合物)の平均粒子径は133nmであった。多層構造重合体(B1)のグラフト率は77%であった。
【0379】
(製造例3)
<多層構造重合体(B2)の製造>
攪拌機付き8L重合装置に、以下の物質を仕込んだ。
脱イオン水 200部
ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸ナトリウム 0.023部
ソディウムホルムアルデヒドスルフォキシレ−ト 0.11部
エチレンジアミン四酢酸−2−ナトリウム 0.004部
硫酸第一鉄 0.001部
重合機内を窒素ガスで充分に置換し実質的に酸素のない状態とした後、内温を40℃にし、表2に示したアクリル系ゴム粒子(B−1)の原料混合物35.208部を105分かけて連続的に添加した。(B−1)追加開始から12分目、37分目、62分目、87分目にポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸ナトリウム(ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸(東邦化学工業株式会社製、商品名:フォスファノールRD−510Yのナトリウム塩)を、各0.2部、0.2部、0.2部、0.127部ずつ重合機に添加した。添加終了後、さらに0.5時間重合を継続し、アクリル系ゴム粒子((B−1)の重合物)を得た。重合転化率は97.5%であった。
【0380】
その後、内温を60℃にし、ソディウムホルムアルデヒドスルフォキシレ−ト0.2部を仕込んだ後、表2に示した硬質重合体層(B−2)の原料混合物32.148部を96分間かけて連続的に添加し、さらに0.5時間重合継続した。このときの重合転化率は98.1%であった。
【0381】
その後、表2に示した硬質重合体層(B−3)の原料混合物33.156部を99分間かけて連続的に添加し、さらに1時間重合継続し、多層構造重合体ラテックスを得た。重合転化率は99.7%であった。得られたラテックスを硫酸マグネシウムで塩析、凝固し、水洗、乾燥を行い、白色粉末状の多層構造重合体(B2)を得た。
【0382】
多層構造重合体(B2)のゴム粒子(B−1の重合物)の平均粒子径は121nmであった。多層構造重合体(B2)のグラフト率は112%であった。
【0383】
(製造例4)
<多層構造重合体(B3)の製造>
撹拌機付き8L重合装置に、以下の物質を仕込んだ。
脱イオン水 200部
ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸ナトリウム 0.023部
ソディウムホルムアルデヒドスルフォキシレ−ト 0.11部
エチレンジアミン四酢酸−2−ナトリウム 0.004部
硫酸第一鉄 0.001部
重合機内を窒素ガスで充分に置換し実質的に酸素のない状態とした後、内温を40℃にし、表2に示したアクリル系ゴム粒子(B−1)の原料混合物35.208部を105分かけて連続的に添加した。(B−1)追加開始から12分目、37分目、62分目、87分目にポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸ナトリウム(ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸(東邦化学工業株式会社製、商品名:フォスファノールRD−510Yのナトリウム塩)を、各0.21部、0.21部、0.21部、0.137部ずつ重合機に添加した。添加終了後、さらに0.5時間重合を継続し、アクリル系ゴム粒子((B−1)の重合物)を得た。重合転化率は98.5%であった。
【0384】
その後、内温を60℃にし、ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸ナトリウム0.11部、ソディウムホルムアルデヒドスルフォキシレ−ト0.2部を仕込んだ後、表2に示した硬質重合体層(B−2)の原料混合物32.148部を96分間かけて連続的に添加し、さらに0.5時間重合継続した。このときの重合転化率は95.8%であった。
【0385】
その後、表2に示した硬質重合体層(B−3)の原料混合物33.156部を99分間かけて連続的に添加し、さらに1時間重合継続し、多層構造重合体ラテックスを得た。重合転化率は98.1%であった。得られたラテックスを硫酸マグネシウムで塩析、凝固し、水洗、乾燥を行い、白色粉末状の多層構造重合体(B3)を得た。
【0386】
多層構造重合体(B3)のゴム粒子(B−1の重合物)の平均粒子径は133nmであった。多層構造重合体(B3)のグラフト率は99%であった。
【0387】
(製造例5)
<多層構造重合体(B4)の製造>
撹拌機付き8L重合装置に、以下の物質を仕込んだ。
脱イオン水 200部
ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸ナトリウム 0.023部
ソディウムホルムアルデヒドスルフォキシレ−ト 0.11部
エチレンジアミン四酢酸−2−ナトリウム 0.004部
硫酸第一鉄 0.001部
重合機内を窒素ガスで充分に置換し実質的に酸素のない状態とした後、内温を40℃にし、表2に示したアクリル系ゴム粒子(B−1)の原料混合物35.208部を105分かけて連続的に添加した。(B−1)追加開始から12分目、37分目、62分目、87分目にポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸ナトリウム(ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸(東邦化学工業株式会社製、商品名:フォスファノールRD−510Yのナトリウム塩)を、各0.21部、0.21部、0.21部、0.137部ずつ重合機に添加した。添加終了後、さらに0.5時間重合を継続し、アクリル系ゴム粒子((B−1)の重合物)を得た。重合転化率は99.2%であった。
【0388】
その後、内温を60℃にし、ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸ナトリウム0.11部、ソディウムホルムアルデヒドスルフォキシレ−ト0.2部を仕込んだ後、表2に示した硬質重合体層(B−2)の原料混合物32.148部を96分間かけて連続的に添加し、さらに1時間重合継続した。このときの重合転化率は97.0%であった。
【0389】
その後、表2に示した硬質重合体層(B−3)の原料混合物33.156部を99分間かけて連続的に添加し、さらに1時間重合継続し、多層構造重合体ラテックスを得た。重合転化率は97.9%であった。得られたラテックスを硫酸マグネシウムで塩析、凝固し、水洗、乾燥を行い、白色粉末状の多層構造重合体(B4)を得た。
【0390】
多層構造重合体(B4)のゴム粒子(B−1の重合物)の平均粒子径は127nmであった。多層構造重合体(B4)のグラフト率は117%であった。
【0391】
【表2】
【0392】
【表3】
【0393】
【表4】
【0394】
(実施例1〜3、比較例1〜2)
直径40mmのフルフライトスクリューを用いた単軸押出機を用い、押出機の温度調整ゾーンの設定温度を255℃、スクリュー回転数を52rpmとし、表2に示すアクリル系樹脂(A)、および多層構造重合体(B)の混合物を、10kg/hrの割合で供給した。押出機出口に設けられたダイスからストランドとして出てきた樹脂を水槽で冷却し、ペレタイザでペレット化した。
【0395】
得られたペレットを、目開き5μmのリーフディスクフィルターを備えた、出口にTダイを接続した単軸押出機を用い、押出機の温度調整ゾーンの設定温度を260℃、スクリュー回転数を20rpmとし、ペレットを10kg/hrの割合で供給し、溶融押出することにより、表5に示す膜厚のフィルムを得た。これらフィルムについて各種物性を評価した。
【0396】
【表5】
【0397】
表5で示すように、実施例1〜3で得られたフィルムは、耐熱性が高く、透明性も高く、トリミング性などの耐割れ性にも優れる。またフィルムの複屈折も低く、延伸しても複屈折はほとんど発生しない。その上、光弾性定数も極めて小さい値であり、フィルムに応力がかかった際にも複屈折がほぼ発生しないなど、光学異方性が極めて小さいことがわかる。さらに、2軸延伸したフィルムの複屈折が小さいことはもちろん、ヘイズも非常に小さく、延伸後の透明性にも優れることがわかる。したがって、これら配向複屈折、および光弾性複屈折に基づく光弾性定数が十分に小さい樹脂組成物であるため、本発明の樹脂組成物は光学用途として適した材料といえる。本発明のフィルムは、光学フィルムに好適である。本発明のフィルムは延伸された場合でも光学的等方性、特に透明性に優れているため、液晶ディスプレイ等の光学フィルムに好適であり、本発明の樹脂組成物の成形品はレンズ等の光学部材として好適に用いることができる。さらには、本発明の光学フィルムは優れた機械的強度を有しているため、フィルム搬送性、実使用時の耐割れ性、製造時のフィルムのトリミング工程における微細なクラックの発生を低減することが可能である。さらに、高い耐熱性を有しているため、フィルムコーティング工程の硬化温度、乾燥速度を高めることができ、生産性を向上させることが可能である。