特許第6069644号(P6069644)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6069644
(24)【登録日】2017年1月13日
(45)【発行日】2017年2月1日
(54)【発明の名称】車体前部構造
(51)【国際特許分類】
   B62D 25/20 20060101AFI20170123BHJP
【FI】
   B62D25/20 D
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-51663(P2012-51663)
(22)【出願日】2012年3月8日
(65)【公開番号】特開2013-184587(P2013-184587A)
(43)【公開日】2013年9月19日
【審査請求日】2015年3月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115200
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 修之
(72)【発明者】
【氏名】先田 款
【審査官】 川村 健一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−067268(JP,A)
【文献】 特公昭55−000263(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 17/00 − 25/08
B62D 25/14 − 29/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
客室を構成するフロア面よりも下方側において車体前後方向へ延びるように配置されたサイドメンバと、
前記フロア面よりも上方側で客室内に乗車した乗員のつま先側の高さに配置され、客室前壁の外面から前方に突出するハット型の断面形状を有する車幅方向に延びたアッパリインフォースとを有し、
前記サイドメンバの前端は、前記アッパリインフォースの前端と車両前後方向に略同じ位置又は車両後方側に位置し、
前記サイドメンバにおいて車両前端側に到来する部位に、車両前方から後方への衝撃の作用に伴い他の部位よりも車両後方側に向けて圧縮変形しやすい圧縮変形領域が設けられており、
車両前方から後方への衝撃の作用に伴う前記サイドメンバの変位量が、前記アッパリインフォースの変位量よりも相対的に大きくなることを特徴とする車両前部構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨格構成部材として車両前後方向に延びるサイドメンバを備えた車体を構成する車体前部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、下記特許文献1に開示されているような車体前部構造が、キャブオーバー型と称されるタイプの車両等において採用されている。この車体前部構造は、前後方向水平に延びるフロントサイドメンバにアッパメンバを設けることにより構成されている。この車体前部構造においては、ダッシュパネル上部が客室側に侵入することを防止すべく、アッパメンバに形成された傾斜部の前端と、その直下のフロントサイドメンバとを上下方向に架けわたす連結部材を設けている。これにより、衝突等により車体前部に衝撃が作用した場合に、アッパメンバの位置がサイドメンバの変形後の位置よりも車両後方側にならないような変形モードによって変形するように変形態様をコントロールしようとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4069833号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した従来技術の車体前部構造は、アッパメンバを備えた車両において採用できるに過ぎず、アッパメンバを備えていない車両においては適用できないという問題がある。また、従来技術の車体前部構造は、衝突等による衝撃が車体前方から後方に向けて作用した際に、アッパメンバとフロントサイドメンバとが共に変形し、ダッシュパネル全体が客室側に後退してくるため、乗員の下肢へのダメージを回避できないという問題がある。
【0005】
そこで、本発明は、車両前部が変形するような衝撃を受けたとしても、乗員の下肢に与えるダメージを最小限に抑制可能でありつつ、構成がシンプルな車両前部構造の提供を目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決すべく提供される本発明の車両前部構造は、客室を構成するフロア面よりも下方側において車体前後方向へ延びるように配置されたサイドメンバと、前記フロア面よりも上方側で客室内に乗車した乗員のつま先側の高さに配置され、客室前壁の外面から前方に突出するハット型の断面形状を有する車幅方向に延びたアッパリインフォースとを有し、前記サイドメンバの前端は、前記アッパリインフォースの前端と車両前後方向に略同じ位置又は車両後方側に位置し、前記サイドメンバにおいて車両前端側に到来する部位に、車両前方から後方への衝撃の作用に伴い他の部位よりも車両後方側に向けて圧縮変形しやすい圧縮変形領域が設けられており、車両前方から後方への衝撃の作用に伴う前記サイドメンバの変位量が、前記アッパリインフォースの変位量よりも相対的に大きくなることを特徴とするものである。
【0007】
本発明の車両前部構造においては、サイドメンバの車両前端側の位置に圧縮変形領域が設けられている。また、圧縮変形領域は、サイドメンバをなす他の部位よりも圧縮変形しやすい領域とされている。このような構成とすることにより、衝突等による衝撃が作用した際に、サイドメンバをアッパリインフォース(構造部材)よりも相対的に大きく変位させることが可能となる。従って、車両前部構造が変形するような衝撃を受けたとしても、乗員の足に対してつま先側がかかと側よりも車両後方側に押し曲げられるような過大な荷重(モーメント)が作用することを抑制し、乗員の下肢に与えるダメージを低減することが可能となる。
【0008】
また、本発明の車体前部構造を構成する構造部材は、上述した従来技術の車体前部構造におけるアッパメンバあるいはこれに相当する部材に限定されるものではなく、他の部材であっても良い。そのため、本発明の車体前部構造においては、必ずしもアッパメンバあるいはこれに相当する部材を設ける必要がない。また、本発明の車体前部構造においては、上述した従来技術のものに用いられている連結部材に相当する部材を必要としない。そのため、本発明の車体前部構造を採用することにより、車両構成を簡素化し、車両重量の軽量化、及び燃費特性の向上に資することが可能となる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、車両前部が変形するような衝撃を受けたとしても、乗員の下肢に与えるダメージを最小限に抑制可能でありつつ、構成がシンプルな車両前部構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態に係る車両前部構造を採用した車両の要部を示す斜視図である。
図2】(a)は図1に示す車両前部構造を示す断面図、(b)は(a)に示す車両前部構造が衝突等の衝撃により圧縮変形した状態を示す断面図である。
図3】(a)は変形例に係る車両前部構造を示す断面図、(b)は(a)に示す車両前部構造が衝突等の衝撃により圧縮変形した状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態に係る車両前部構造10について、図面を参照しつつ詳細に説明する。図1に示すように、本実施形態の車体前部構造10は、フルキャブ型、あるいはキャブオーバー型等と称されるタイプの自動車の前方部分をなす構造である。車体前部構造10は、客室12の底部側に乗員の下肢が配置される客室足下空間20を有する。
【0012】
図2(a)に示すように、客室足下空間20の車両前方側には客室前壁30が設けられている。客室前壁30は、客室12の前方側において立設された壁面である。具体的には、ダッシュパネル、あるいはこれに相当する壁面が客室前壁30に該当する。図2(a)に示すように、客室前壁30は、客室12の床面をなすフロアパネル40側の部分をなす下壁部32と、これよりも上方側の部分をなす上壁部34とに大別される。
【0013】
また、下壁部32は、上方に向かうに連れて車両前方側に向かうように傾斜した前傾部38を有する。これにより、客室前壁30は、下壁部32において、車両前方側に向けて膨出した形状とされている。従って、図2(a)に示すように、乗員は、自身の足を下壁部32の前傾部38に沿って配置することができる。
【0014】
上壁部34は、下壁部32に対して上方に繋がる壁面である。上壁部34は、下壁部32の上端から、客室12の前方に設けられたフロントウィンドー14の下端側において車幅方向に延びるように設けられたカウル、あるいはこれに相当する部材に至る部分を構成している。
【0015】
また、図2(a)に示すように、客室足下空間20の下方側にはフロアパネル40が設けられている。また、図1及び図2に示すように、フロアパネル40の下方には、車両前後方向に延びる一対のサイドメンバ50,50が、車幅方向に間隔を開けて配置されている。すなわち、サイドメンバ50,50は、客室12内に乗車した乗員のかかと側の高さに配置されている。
【0016】
サイドメンバ50,50の先端側(車両前端側)には、車両前方から後方への衝撃の作用に伴い他の部位よりも車両後方側に向けて圧縮変形しやすい圧縮変形領域52,52が設けられている。圧縮変形領域52,52の大きさは、適宜設定することが可能であるが、本実施形態においては、図2(a)に示すように客室前壁30をなす下壁部32とフロアパネル40との接合端42,42あるいはこの近傍を基準として、これよりも車両前方側に突出した部分を圧縮変形領域52,52としている。言い換えれば、客室前壁30において、乗員の足が配置されるであろう下壁部32の前傾部38の下方側に圧縮変形領域52,52が形成されている。
【0017】
圧縮変形領域52,52は、種々の方策により形成することが可能であるが、本実施形態においては他の部位よりも板厚を薄くすることにより形成されている。圧縮変形領域52,52は、衝突等に伴って車両前方部に作用する過剰に大きな衝撃を、圧縮変形することにより吸収することを目的として設けられている。
【0018】
また、上述したフロアパネル40及びサイドメンバ50,50よりも上方側には、アッパリインフォース70(構造部材)が設けられている。アッパリインフォース70は、いわゆるハット型の断面形状を有する部材である。アッパリインフォース70は、客室前壁30の外面(客室12に対して外側の面)から前方に突出し、下壁部32及び上壁部34の境界部分近傍において、車幅方向に延びるように設けられている。アッパリインフォース70は、客室12内に乗車した乗員のつま先側の高さに設けられている。
【0019】
本実施形態の車両前部構造10は、衝突等に伴い、車両前方から後方に向かう方向に向けて過剰に大きな衝撃が作用した場合の挙動において特徴を有する。具体的には、車両前部に衝突等に伴う衝撃が作用すると、図2(b)に示すように、サイドメンバ50,50の圧縮変形領域52,52が軸方向(車両前後方向)に圧縮変形し、変位する。また、衝突等の衝撃により、アッパリインフォース70が車両後方側(客室12側)に向けて変位した状態になる。
【0020】
ここで、上述したように、サイドメンバ50,50の圧縮変形領域52,52は、他の部位よりも圧縮変形しやすく成形されていることから、図2(b)に示すように圧縮変形による変位量Aが大きい。これに対し、アッパリインフォース70の変位量Bは、サイドメンバ50,50の変位量Aに比べて小さい。そのため、衝突等に伴う衝撃が作用することにより車両前部構造10が圧縮変形したとしても、アッパリインフォース70が相対的にサイドメンバ50,50よりも車両前方側である相対的な位置関係が維持される。これにより、客室足下空間20に配置された乗員の足に対し、図2(b)において矢印Mで示すような無理なモーメントが作用することを抑制できる。従って、車両前部構造10によれば、乗員の下肢に与えるダメージを低減することが可能となる。
【0021】
また、車体前部構造10においては、従来技術のようにアッパリインフォース70とサイドメンバ50,50とを連結する連結部材等を必要としない。そのため、車体前部構造10を採用することにより車両構成の簡素化を図り、車両重量の軽量化、及び燃費特性の向上に資することが可能となる。
【0022】
本実施形態では、サイドメンバ50,50に対して上方側に位置し、客室足下空間20に配置された乗員のつま先側に位置する構造部材として、アッパリインフォース70を配置した例を示したが、本発明はこれに限定されるものではない。すなわち、アッパリインフォース70に代えて、他の構造部材を用いることも可能である。
【0023】
本実施形態では、サイドメンバ50,50の圧縮変形領域52,52を、他の部位よりも板厚を薄くすることにより構成した例を示したが、本発明はこれに限定されるものではない。具体的には、圧縮変形領域52,52に、サイドメンバ50,50の軸方向への圧縮変形を促進するための開口、サイドメンバ50,50の長手方向(車両前後方向)に対して交差する方向に延びるビード、切り欠き、あるいは溝等のように脆弱化させるための構成(脆弱化構成)を設けた構成としても良い。また、開口、ビード、切り欠き、あるいは溝等の脆弱化構成を複数種設けること、あるいは他の部分より板厚を薄くすることに加えて開口等の脆弱化構成を設けることとしても良い。
【0024】
本実施形態においては、客室前壁30の下壁部32の下端側に、上方に向かうに連れて車両前方側に向かうように傾斜した前傾部38を設けた例を示したが、本発明はこれに限定される訳ではない。具体的には、下壁部32は、図3(a)に示すようにフロアパネル40に対して略垂直なものとされても良い。このような構成とした場合についても、上述した通り、フロアパネル40の下方に配されるサイドメンバ50,50の先端部に圧縮変形領域52,52を設け、図3(b)に示すように車両前方から後方への衝撃の作用に伴うサイドメンバ50,50の変位量Aが、アッパリインフォース70の変位量Bよりも相対的に大きくなるようにしておくことにより、乗員の足首に無理なモーメントが作用することを抑制し、下肢を保護することが可能となる。
【0025】
本実施形態においては、車体前部構造10を、フルキャブ型、あるいはキャブオーバー型等と称されるタイプの自動車に適用した例を示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、他のタイプの自動車にも適用することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明は、客室内に乗車した乗員のつま先側の高さに設けられた構造部材と、かかと側の高さにおいて車体前後方向へ延びるように配置されたサイドメンバとを備えた車両全般に適用可能であり、特にフルキャブ型、あるいはキャブオーバー型等と称されるタイプの自動車において好適に利用可能である。
【符号の説明】
【0027】
10 車両前部構造
12 客室
14 フロントウィンドー
20 客室足下空間
30 客室前壁
40 フロアパネル
50 サイドメンバ
52 圧縮変形領域
70 アッパリインフォース
図1
図2
図3