【実施例】
【0067】
<実施例1>パーキンソン病患者とパーキンソン症候群患者との鑑別可能性の検討
健常者、パーキンソン病患者およびパーキンソン症候群患者から採取された血液試料中におけるイサチンの濃度を測定して比較することにより、パーキンソン病患者とパーキンソン症候群患者との鑑別が可能であるか否かについて検討した。
【0068】
(1)健常者、パーキンソン病患者およびパーキンソン症候群患者から採取された血液試料中におけるイサチンの濃度の測定
[1−1]健常者から採取された血液試料中におけるイサチンの濃度の測定
健常者の血液試料は、神経内科専門医が本研究の趣旨を説明して提供の同意を得られた、65歳から105歳の健常者58名(男性21名、女性37名)から採取されたものである。前記健常者から採取された血液試料から血清を分離し、分離した血清2.0mLに3.0mLの精製水、5.5Mの塩酸水溶液0.4mLおよび内標物質として5−メチルイサチンを加え、沸騰水浴中、10分間湯浴して加温した。加温後室温下で冷却し、酢酸エチル10mLを加えて3,000rpm、10分間遠心後、上清を回収し、窒素雰囲気下にて酢酸エチルを蒸発乾固した。得られた残渣をメタノールと精製水の混液(0.3:1)に溶解し、シリカ系固相抽出カートリッジ(Bond Elut Certify II:アジレント・テクノロジー社)を用いて濃縮精製した後、これに含まれるイサチンの濃度をHPLC−UVにて測定し、それらの平均値と標準偏差を算出して、これをコントロールとした。HPLC−UVによる測定条件は次のとおりである。
【0069】
HPLC−UVによるイサチン濃度の測定条件
装置:EICOM ENO−10(エイコム社)
EICOM NOD−10(エイコム社)
カラム:Eicompak SC5−ODS(3.0×150mm:エイコム社)
移動相:25%(v/v)
移動相流量:0.5mL/分
カラム温度:25℃
測定波長240nm
【0070】
[1−2]パーキンソン病患者から採取された血液試料中におけるイサチンの濃度の測定
パーキンソン病(Parkinson’s disease;PD)患者の血液試料は、神経内科を受診したパーキンソン病患者のうち、パーキンソン病治療薬として用いられているMAO−B阻害薬を使用しておらず、かつ神経内科専門医が本研究の趣旨を説明して提供の同意を得られた、52歳から89歳の早期パーキンソン病患者(Hoehn−Yahrの重症度分類のStage IおよびStage II、ならびに生活機能障害のI度に相当するパーキンソン病患者;PD−E)55名(男性22名、女性33名)および57歳から87歳の晩期パーキンソン病患者(Hoehn−Yahrの重症度分類のStageIIIおよびStageIV、ならびに生活機能障害のII度に相当するパーキンソン病患者;PD−D)30名(男性14名、女性16名)から採取されたものである。前記早期パーキンソン病患者と晩期パーキンソン病患者から採取された血液試料から血清をそれぞれ分離し、本実施例(1)[1−1]と同様の手法によりそれぞれのイサチンの濃度の平均値と標準偏差を算出した。
【0071】
[1−3]Hoehn−Yahrの重症度分類のStage I〜IVに該当するパーキンソン病患者からそれぞれ採取された血液試料中におけるイサチンの濃度の測定
本実施例1[1−2]と同様の手法により、神経内科を受診したパーキンソン病患者のうち、パーキンソン病治療薬として用いられているMAO−B阻害薬を使用しておらず、かつ神経内科専門医が本研究の趣旨を説明して提供の同意を得られた、54歳から86歳のHoehn−Yahrの重症度分類のStage I(重症度1)に該当するパーキンソン病患者(PD−I)11名(男性4名、女性7名)、52歳から89歳の同重症度分類のStage II(重症度2)に該当するパーキンソン病患者(PD−II)44名(男性18名、女性26名)、52歳から87歳の同重症度分類のStage III(重症度3)に該当するパーキンソン病患者(PD−III)26名(男性12名、女性14名)および63歳から87歳の同重症度分類のStageIV(重症度4)に該当するパーキンソン病患者(PD−IV)4名(男性2名、女性2名)から採取された血液試料から血清をそれぞれ分離し、本実施例(1)[1−1]と同様の手法によりそれぞれのイサチンの濃度の平均値と標準偏差を算出した。
【0072】
[1−4]レビー小体型認知症患者、大脳皮質基底核変性症患者/進行性核上性麻痺患者、および多系統萎縮症患者から採取された血液試料中におけるイサチンの濃度の測定
レビー小体型認知症(Dementia with Lewy Bodies;DLB)患者、大脳皮質基底核変性症(Corticobasal Degeneration;CBD)患者/進行性核上性麻痺(Progressive Supranuclear Palsy;PSP)患者、および多系統萎縮症(Multiple System Atrophy;MSA)患者の血液試料は、パーキンソン病患者の血液試料と同様、神経内科を受診したレビー小体型認知症患者、大脳皮質基底核変性症患者/進行性核上性麻痺患者、および多系統萎縮症患者のうち、一部のパーキンソン症候群の治療薬として用いられているMAO−B阻害薬を使用しておらず、かつ神経内科専門医が本研究の趣旨を説明して提供の同意を得られた、70歳から85歳のレビー小体型認知症患者18名(男性7名、女性11名)、63歳から93歳の大脳皮質基底核変性症患者/進行性核上性麻痺患者7名(男性2名、女性5名)、および57歳から87歳の多系統萎縮症患者5名(男性2名、女性3名)から採取されたものである。前記レビー小体型認知症患者、大脳皮質基底核変性症患者/進行性核上性麻痺患者、および多系統萎縮症患者から採取された血液試料から血清をそれぞれ分離し、本実施例(1)[1−1]と同様の手法によりそれぞれのイサチンの濃度の平均値と標準偏差を算出した。また、本実施例(1)[1−2]のデータまたは[1−3]のデータに基づいて、早期パーキンソン病患者と晩期パーキンソン病患者とを合わせたパーキンソン病患者トータル(Hoehn−Yahrの重症度分類のStageI〜IVに相当するパーキンソン病患者、または生活機能障害のI度およびII度に相当するパーキンソン病患者;PD−all)におけるイサチンの濃度の平均値と標準偏差を算出した。
【0073】
ここで、血液試料が採取されたパーキンソン病患者、レビー小体型認知症患者、大脳皮質基底核変性症患者および進行性核上性麻痺患者、ならびに多系統萎縮症患者の、それぞれの症状、検査項目および検査所見を下記の表2に示す。
【0074】
[表2]
【0075】
[1−5]本態性振戦患者から採取された血液試料中におけるイサチンの濃度の測定
本態性振戦(Essential Tremor)患者の血液試料は、パーキンソン病患者の血液試料と同様、神経内科を受診した本態性振戦患者のうち、一部のパーキンソン症候群の治療薬として用いられているMAO−B阻害薬を使用しておらず、かつ神経内科専門医が本研究の趣旨を説明して提供の同意を得られた46歳から84歳の本態性振戦患者11名(男性3名、女性8名)から採取されたものである。前記本態性振戦患者から採取された血液試料から血清を分離し、本実施例(1)[1−1]と同様の手法によりイサチンの濃度の平均値と標準偏差を算出した。
【0076】
[1−6]脳血管障害性パーキンソニズム患者から採取された血液試料中におけるイサチンの濃度の測定
脳血管障害性パーキンソニズム(Vascular Parkinsonism)患者の血液試料は、パーキンソン病患者の血液試料と同様、神経内科を受診した脳血管障害性パーキンソニズム患者のうち、一部のパーキンソン症候群の治療薬として用いられているMAO−B阻害薬を使用しておらず、かつ神経内科専門医が本研究の趣旨を説明して提供の同意を得られた58歳から87歳の脳血管障害性パーキンソニズム患者8名(男性6名、女性2名)から採取されたものである。前記脳血管障害性パーキンソニズム患者から採取された血液試料から血清を分離し、本実施例(1)[1−1]と同様の手法によりイサチンの濃度の平均値と標準偏差を算出した。
【0077】
[1−7]アルツハイマー病患者から採取された血液試料中におけるイサチンの濃度の測定
アルツハイマー病(Alzheimer’s Disease;AD)患者の血液試料は、パーキンソン病患者の血液試料と同様、神経内科を受診したアルツハイマー病患者のうち、一部のパーキンソン症候群の治療薬として用いられているMAO−B阻害薬を使用しておらず、かつ神経内科専門医が本研究の趣旨を説明して提供の同意を得られた63歳から82歳のアルツハイマー病患者53名(男性11名、女性42名)から採取されたものである。前記アルツハイマー病患者から採取された血液試料から血清を分離し、本実施例(1)[1−1]と同様の手法によりイサチンの濃度の平均値と標準偏差を算出した。
【0078】
(2)試験結果
[2−1]健常者およびパーキンソン病患者から採取された血液試料中におけるイサチンの濃度の比較
健常者(Control)、早期パーキンソン病患者(PD−E)および晩期パーキンソン病患者(PD−D)から採取された血液試料中におけるイサチンの濃度の、それぞれの平均値と標準偏差の比較を、下記の表3および
図2に示す。
図2中、「***」印はControlに対してP<0.001で有意差があることを示している。表3および
図2に示すように、健常者(Control)、早期パーキンソン病患者(PD−E)および晩期パーキンソン病患者(PD−D)から採取された血液試料中におけるイサチンの濃度の平均値と標準偏差は、それぞれ0.298±0.16(n=58)、0.116±0.08(n=55)および0.109±0.10(n=30)であり、早期パーキンソン病患者(PD−E)および晩期パーキンソン病患者(PD−D)の血液試料中におけるイサチンの濃度は、健常者(Control)の血液試料中におけるイサチンの濃度と比較して有意に低値であることが明らかとなった。
【0079】
[表3]
【0080】
[2−2]健常者およびHoehn−Yahrの重症度分類のStage I〜IVに該当するパーキンソン病患者から採取された血液試料中におけるイサチンの濃度の比較
健常者(Control)、Hoehn−Yahrの重症度分類のStageI(重症度1)に該当するパーキンソン病患者(PD−I)、StageII(重症度2)に該当するパーキンソン病患者(PD−II)、StageIII(重症度3)に該当するパーキンソン病患者(PD−III)およびStageIV(重症度4)に該当するパーキンソン病患者(PD−IV)から採取された血液試料中におけるイサチンの濃度の、それぞれの平均値と標準偏差の比較を、下記の表4および
図3に示す。
図3中、「***」印はControlに対してP<0.001で有意差があることを示している。表4および
図3に示すように、健常者(Control)、Hoehn−Yahrの重症度分類のStageIに該当するパーキンソン病患者(PD−I)、StageIIに該当するパーキンソン病患者(PD−II)、StageIIIに該当するパーキンソン病患者(PD−III)およびStageIVに該当するパーキンソン病患者(PD−IV)から採取された血液試料中におけるイサチンの濃度の平均値と標準偏差は、それぞれ0.298±0.16(n=58)、0.115±0.09(n=11)、0.117±0.08(n=44)、0.115±0.10(n=26)および0.075±0.02(n=4)であり、Hoehn−Yahrの重症度分類のStage I〜IVに該当するパーキンソン病患者(PD−I〜IV)の血液試料中におけるイサチンの濃度は健常者(Control)の血液試料中におけるイサチンの濃度と比較して有意に低値であること、およびHoehn−Yahrの重症度分類のStage I〜IVに該当するパーキンソン病患者の、それぞれの血液試料中におけるイサチンの濃度を互いに比較した場合、それぞれのStage(重症度)の間には有意差がないということが明らかとなった。
【0081】
[表4]
【0082】
[2−3]健常者、パーキンソン病患者およびレビー小体型認知症患者から採取された血液試料中におけるイサチンの濃度の比較
健常者(Control)、早期パーキンソン病患者と晩期パーキンソン病患者とを合わせたパーキンソン病患者(PD−all)、ならびにレビー小体型認知症患者(DLB)から採取された血液試料中におけるイサチンの濃度の、それぞれの平均値と標準偏差の比較を、下記の表5および
図4に示す。
図4中、「***」印はControlに対してP<0.001で有意差があることを示し、「###」印はPD−allに対してP<0.001で有意差があることを示している。表5および
図4に示すように、健常者(Control)、パーキンソン病患者(PD−all)およびレビー小体型認知症患者(DLB)から採取された血液試料中におけるイサチンの濃度の平均値と標準偏差は、それぞれ0.298±0.16(n=58)、0.114±0.08(n=85)および0.463±0.25(n=18)であり、パーキンソン病患者(PD−all)の血液試料中におけるイサチンの濃度は健常者(Control)の血液試料中におけるイサチンの濃度と比較して有意に低値であること、およびレビー小体型認知症患者(DLB)の血液試料中におけるイサチンの濃度は、健常者(Control)の血液試料中におけるイサチンの濃度およびパーキンソン病患者(PD−all)の血液試料中におけるイサチンの濃度のいずれと比較しても有意に高値であることが明らかとなった。
【0083】
[表5]
【0084】
[2−4]健常者、パーキンソン病患者および大脳皮質基底核変性症患者/進行性核上性麻痺患者から採取された血液試料中におけるイサチンの濃度の比較
健常者(Control)、パーキンソン病患者(PD−all)および大脳皮質基底核変性症患者/進行性核上性麻痺患者(CBD/PSP)から採取された血液試料中におけるイサチンの濃度の、それぞれの平均値と標準偏差の比較を、下記の表6および
図5に示す。
図5中、「***」印はControlに対してP<0.001で有意差があることを示し、「###」印はPD−allに対してP<0.001で有意差があることを示している。表6および
図5に示すように、健常者(Control)、パーキンソン病患者(PD−all)および大脳皮質基底核変性症患者/進行性核上性麻痺患者(CBD/PSP)から採取された血液試料中におけるイサチンの濃度の平均値と標準偏差は、それぞれ0.298±0.16(n=58)、0.114±0.08(n=85)および0.577±0.40(n=7)であり、パーキンソン病患者(PD−all)の血液試料中におけるイサチンの濃度は健常者(Control)の血液試料中におけるイサチンの濃度と比較して有意に低値であること、および大脳皮質基底核変性症患者/進行性核上性麻痺患者(CBD/PSP)の血液試料中におけるイサチンの濃度は、健常者(Control)の血液試料中におけるイサチンの濃度およびパーキンソン病患者(PD−all)の血液試料中におけるイサチンの濃度のいずれと比較しても有意に高値であることが明らかとなった。
【0085】
[表6]
【0086】
[2−5]健常者、パーキンソン病患者および多系統萎縮症患者から採取された血液試料中におけるイサチンの濃度の比較
健常者(Control)、パーキンソン病患者(PD−all)および多系統萎縮症患者(MSA)から採取された血液試料中におけるイサチンの濃度の、それぞれの平均値と標準偏差の比較を、下記の表7および
図6に示す。
図6中、「**」印はControlに対してP<0.01で有意差があることを示し、「***」印はControlに対してP<0.001で有意差があることを示し、「###」印はPD−allに対してP<0.001で有意差があることを示している。表7および
図6に示すように、健常者(Control)、パーキンソン病患者(PD−all)および多系統萎縮症患者(MSA)から採取された血液試料中におけるイサチンの濃度の平均値と標準偏差は、それぞれ0.298±0.16(n=58)、0.114±0.08(n=85)および0.753±1.04(n=5)であり、パーキンソン病患者(PD−all)の血液試料中におけるイサチンの濃度は健常者(Control)の血液試料中におけるイサチンの濃度と比較して有意に低値であること、および多系統萎縮症患者(MSA)の血液試料中におけるイサチンの濃度は、健常者(Control)の血液試料中におけるイサチンの濃度およびパーキンソン病患者(PD−all)の血液試料中におけるイサチンの濃度のいずれと比較しても有意に高値であることが明らかとなった。
【0087】
[表7]
【0088】
[2−6]健常者、パーキンソン病患者および本態性振戦患者から採取された血液試料中におけるイサチンの濃度の比較
健常者(Control)、パーキンソン病患者(PD−all)および本態性振戦患者(Essential Tremor)から採取された血液試料中におけるイサチンの濃度の、それぞれの平均値と標準偏差の比較を、下記の表8および
図7に示す。
図7中、「***」印はControlに対してP<0.001で有意差があることを示し、「###」印はPD−allに対してP<0.001で有意差があることを示している。表8および
図7に示すように、健常者(Control)、パーキンソン病患者(PD−all)および本態性振戦患者(Essential Tremor)から採取された血液試料中におけるイサチンの濃度の平均値と標準偏差は、それぞれ0.298±0.16(n=58)、0.114±0.08(n=85)および0.294±0.24(n=11)であり、パーキンソン病患者(PD−all)の血液試料中におけるイサチンの濃度は健常者(Control)の血液試料中におけるイサチンの濃度と比較して有意に低値であること、および本態性振戦患者(Essential Tremor)の血液試料中におけるイサチンの濃度はパーキンソン病患者(PD−all)の血液試料中におけるイサチンの濃度と比較して有意に高値であり、かつ健常者(Control)の血液試料中におけるイサチンの濃度と比較して近似することが明らかとなった。
【0089】
[表8]
【0090】
[2−7]健常者、パーキンソン病患者および脳血管障害性パーキンソニズム患者から採取された血液試料中におけるイサチンの濃度の比較
健常者(Control)、パーキンソン病患者(PD−all)および脳血管障害性パーキンソニズム患者(Vascular Parkinsonism)から採取された血液試料中におけるイサチンの濃度の、それぞれの平均値と標準偏差の比較を、下記の表9および
図8に示す。
図8中、「***」印はControlに対してP<0.001で有意差があることを示し、「###」印はPD−allに対してP<0.001で有意差があることを示している。表9および
図8に示すように、健常者(Control)、パーキンソン病患者(PD−all)および脳血管障害性パーキンソニズム患者(Vascular Parkinsonism)から採取された血液試料中におけるイサチンの濃度の平均値と標準偏差は、それぞれ0.298±0.16(n=58)、0.114±0.08(n=85)および0.518±0.32(n=8)であり、パーキンソン病患者(PD−all)の血液試料中におけるイサチンの濃度は健常者(Control)の血液試料中におけるイサチンの濃度と比較して有意に低値であること、および脳血管障害性パーキンソニズム患者(Vascular Parkinsonism)の血液試料中におけるイサチンの濃度はパーキンソン病患者(PD−all)の血液試料中におけるイサチンの濃度と比較して有意に高値であり、かつ健常者(Control)の血液試料中におけるイサチンの濃度と比較して近似することが明らかとなった。
【0091】
[表9]
【0092】
[2−8]健常者、パーキンソン病患者およびアルツハイマー病患者から採取された血液試料中におけるイサチンの濃度の比較
健常者(Control)、パーキンソン病患者(PD−all)およびアルツハイマー病患者(AD)から採取された血液試料中におけるイサチンの濃度の、それぞれの平均値と標準偏差の比較を、下記の表10および
図9に示す。
図9中、「***」印はControlに対してP<0.001で有意差があることを示し、「###」印はPD−allに対してP<0.001で有意差があることを示している。表10および
図9に示すように、健常者(Control)、パーキンソン病患者(PD−all)およびアルツハイマー病患者(AD)から採取された血液試料中におけるイサチンの濃度の平均値と標準偏差は、それぞれ0.298±0.16(n=58)、0.114±0.08(n=85)および0.370±0.23(n=53)であり、パーキンソン病患者(PD−all)の血液試料中におけるイサチンの濃度は健常者(Control)の血液試料中におけるイサチンの濃度と比較して有意に低値であること、およびアルツハイマー病患者(AD)の血液試料中におけるイサチンの濃度はパーキンソン病患者(PD−all)の血液試料中におけるイサチンの濃度と比較して有意に高値であり、かつ健常者(Control)の血液試料中におけるイサチンの濃度と比較して近似することが明らかとなった。
【0093】
[表10]
【0094】
以上、[2−1]〜[2−8]の結果から、健常者、パーキンソン病を罹患している個体、あるいはパーキンソン症候群を罹患している個体より採取された血液試料中におけるイサチンの濃度を測定して算出された平均値と標準偏差をリファレンス値として、パーキンソン病またはパーキンソン症候群を罹患している被検者より採取された血液試料中におけるイサチンの濃度を測定して算出された平均値および標準偏差と、健常者、パーキンソン病を罹患している個体、あるいはパーキンソン症候群を罹患している個体より採取された血液試料中におけるイサチンの濃度を測定して算出された平均値と標準偏差とを比較した結果、パーキンソン病とパーキンソン症候群との鑑別が可能であることが示された。
【0095】
<実施例2>パーキンソン病の発症リスクの予測診断
被検者から採取された血液試料中におけるイサチンの濃度を測定し、後日その被検者がパーキンソン病を罹患するかどうかの診断をすることにより、あらかじめ被検者から採取された血液試料中におけるイサチンの濃度を測定することでパーキンソン病の発症リスクの予測が可能であるか否かについて検討した。
【0096】
(1)被験者から採取された血液試料中におけるイサチンの濃度の測定
神経内科を受診した患者のうち、神経内科専門医が本研究の趣旨を説明して提供の同意を得られた、2008年11月12日の初診日に正常と診断された70歳の女性1名から、2009年5月29日の初診日に脳梗塞(ラクナ梗塞)患者と診断された78歳の女性1名から、および2009年10月23日の初診日に脳梗塞(ラクナ梗塞)患者と診断された68歳の男性1名からそれぞれ採取された血液試料を被験者の血液試料とした。前記被験者の血液試料から血清を分離し、本実施例(1)[1−1]と同様の手法によりイサチンの濃度をHPLC−UVにて測定した。その結果を下記の表11に示す。
【0097】
[表11]
【0098】
(2)診断結果
表11中、「PD−E」は早期パーキンソン病患者と診断されたことを示し、「Yahr−I」および「Yahr−II」はそれぞれHoehn−Yahrの重症度分類のStage I(重症度1)とStage II(重症度2)に該当することを示す。表11に示すように、2008年11月12日に70歳女性患者から採取された血液試料中におけるイサチンの濃度の値は0.113μg/mL、2009年5月29日に78歳女性脳梗塞(ラクナ梗塞)患者から採取された血液試料中におけるイサチンの濃度の値は0.098μg/mL、2009年10月23日に68歳男性脳梗塞(ラクナ梗塞)患者から採取された血液試料中におけるイサチンの濃度の値は0.043μg/mLであった。
【0099】
以上の結果から、実施例1(1)[1−1]で算出された健常者(Control)における血液試料中におけるイサチンの濃度の平均値と標準偏差、および実施例1(1)[1−4]で算出されたパーキンソン病患者トータル(PD−all)における血液試料中におけるイサチンの濃度の平均値と標準偏差から、これら被験者3名の血液試料中におけるイサチンの濃度は、健常者(Control)の血液試料中におけるイサチンの濃度と比較して有意に低値であり、かつパーキンソン病患者トータル(PD−all)の血液試料中におけるイサチンの濃度と比較して概ね同等の値であることが明らかである。
【0100】
よって、パーキンソン病を罹患していない被検者、より詳細には血液試料の採取時にはパーキンソン病を罹患していない被検者について、当該被検者より採取された血液試料中におけるイサチンの濃度を測定して算出された平均値および標準偏差と、健常者あるいはパーキンソン病を罹患している個体より採取された血液試料中におけるイサチンの濃度を測定して算出された平均値と標準偏差をリファレンス値として比較した結果、パーキンソン病の発症のリスクを予測できることが示された。
【0101】
<実施例3>パーキンソン病に対する薬剤の薬効評価
パーキンソン病患者において薬物治療前後に採取された血液試料中におけるイサチンの濃度を測定して比較することにより、パーキンソン病に対する薬剤の薬効評価が可能であるか否かについて検討した。
【0102】
(1)パーキンソン病患者において薬物治療前後に採取された血液試料中におけるイサチンの濃度の測定
神経内科を受診したパーキンソン病患者のうち、神経内科専門医が本研究の趣旨を説明して提供の同意を得られた薬物治療を受けていない52歳から83歳のパーキンソン病患者23名(男性4名、女性19名)から、薬物治療を受けていない段階(Non−treated)で採取された血液試料、および前記パーキンソン病患者に対してMAO−B阻害薬である塩酸セレギリン(エフピー:エフピー社)の投与を受けた段階(FP−treated)で採取された血液試料のそれぞれから血清を分離し、本実施例(1)[1−1]と同様の手法によりそれぞれのイサチンの濃度の平均値と標準偏差を算出した。その結果を
図10に示す。
【0103】
(2)評価結果
図10(B)中、「P<0.001」との記載は、FP−treatedがNon−treatedに対してP<0.001で有意差があることを示している。
図10(A)に示すように、パーキンソン病患者23名のいずれにおいても、MAO−B阻害薬である塩酸セレギリンの投与を受けた段階(FP−treated)で採取された血液試料中におけるイサチンの濃度は、薬物治療を受けていない段階(Non−treated)で採取された血液試料中におけるイサチンの濃度よりも高値であることが明らかとなり、パーキンソン病患者23名のいずれにおいても、MAO−B阻害薬である塩酸セレギリンの投与を受けた後において症状の改善が見られた。また、
図10(B)に示すように、パーキンソン病患者23名において、薬物治療を受けていない段階(Non−treated)およびMAO−B阻害薬である塩酸セレギリンの投与を受けた段階(FP−treated)で採取された血液試料中におけるイサチンの濃度の平均値と標準偏差は、それぞれ0.092±0.07(n=23)および0.414±0.33(n=23)であり、パーキンソン病患者においてMAO−B阻害薬である塩酸セレギリン(エフピー:エフピー社)の投与を受けた段階(FP−treated)の血液試料中におけるイサチンの濃度は、薬物治療を受けていない段階(Non−treated)の血液試料中におけるイサチンの濃度と比較して有意に高値であることが明らかとなった。さらに、実施例1(2)[2−1]〜[2−8]における健常者(Control)の血液試料中におけるイサチンの濃度(
図2〜
図9)との比較では、パーキンソン病患者においてMAO−B阻害薬である塩酸セレギリン(エフピー:エフピー社)の投与を受けた段階(FP−treated)の血液試料中におけるイサチンの濃度は、健常者(Control)の血液試料中におけるイサチンの濃度と比較して高値ないし近似する(同じまたは概ね同等の)値であることが明らかとなった。
【0104】
なお、イサチンの生成過程においては腸内細菌が重要な役割を持っていると考えられていること、パーキンソン病の腸管壁にα−シヌクレインが存在して病理学的に腸管内の病変を示唆する所見が得られていることなどから、本発明者らは、腸内病変をもつことが明らかであるパーキンソン病では腸内細菌叢の変化がおこり、イサチンの合成がうまくいかない可能性があるのではないかと考えている。そこで、本発明者らは、パーキンソン病の治療に有効な薬剤が腸内細菌叢の正常化をもたらすなどして、イサチンの生成を正常可するのではないかと考えている。
【0105】
以上の結果から、パーキンソン病を罹患し、かつ薬物治療を受けている被検者より採取された血液試料中におけるイサチンの濃度を測定して算出された平均値および標準偏差と、健常者あるいはパーキンソン病を罹患しているが前記薬物治療を受けていない個体より採取された血液試料中におけるイサチンの濃度を測定して算出された平均値と標準偏差をリファレンス値として比較した結果、パーキンソン病に対する薬剤の薬効を評価できることが示された。