特許第6069701号(P6069701)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6069701
(24)【登録日】2017年1月13日
(45)【発行日】2017年2月1日
(54)【発明の名称】摩耗測定装置及びその方法
(51)【国際特許分類】
   G01B 11/02 20060101AFI20170123BHJP
【FI】
   G01B11/02 H
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-29768(P2013-29768)
(22)【出願日】2013年2月19日
(65)【公開番号】特開2014-159972(P2014-159972A)
(43)【公開日】2014年9月4日
【審査請求日】2015年12月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100078499
【弁理士】
【氏名又は名称】光石 俊郎
(74)【代理人】
【識別番号】230112449
【弁護士】
【氏名又は名称】光石 春平
(74)【代理人】
【識別番号】100102945
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 康幸
(74)【代理人】
【識別番号】100120673
【弁理士】
【氏名又は名称】松元 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100182224
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 哲三
(72)【発明者】
【氏名】庭川 誠
(72)【発明者】
【氏名】田林 精二
(72)【発明者】
【氏名】渡部 勇介
【審査官】 神谷 健一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−248411(JP,A)
【文献】 特開2009−244023(JP,A)
【文献】 特開2010−127746(JP,A)
【文献】 実開昭59−135410(JP,U)
【文献】 特開2006−284535(JP,A)
【文献】 特開2008−039696(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第00791498(EP,A1)
【文献】 欧州特許出願公開第01787854(EP,A1)
【文献】 米国特許第05930904(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 5/00−5/42
B60M 1/00− 7/00
G01B 11/00−11/30
G06T 1/00− 1/40
G06T 3/00−5/50
G06T 9/00−9/40
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電車屋根上に設置した摩耗測定用カメラで、パンタグラフに接触するトロリ線の下面を撮影し、撮影された前記トロリ線の下面の画像を画像処理して、前記トロリ線の摩耗幅を測定する摩耗測定方法において、
色彩の異なる帯状の領域を隣接して複数配置してなる縞模様状であって、前記領域間の境界となる直線が少なくとも相互に平行な平行直線と、前記領域間の境界となる直線が前記平行直線に対して傾斜した少なくとも2本の傾斜直線とを含むマーカを前記パンタグラフの1箇所に取り付ける一方、
前記マーカを撮影して前記領域を横断するように走査するパンタグラフ撮影用カメラを前記電車屋根上に設置し、
前記パンタグラフ撮影用カメラで取得された画像を画像処理することにより、前記領域を横断するように走査した軌跡である撮影ラインと前記平行直線及び前記傾斜直線との複数の交点間の線分のうち少なくとも三つの長さの比を求め、該三つの長さの比に基づいて前記撮影ラインに対する前記マーカの傾きとして前記パンタグラフ全体の傾斜角度を求め、
前記パンタグラフの上面にならって傾斜する前記トロリ線の傾斜角度である前記パンタグラフ全体の傾斜角度に応じて前記摩耗幅を補正して本来の摩耗幅を求めることを特徴とする摩耗測定方法。
【請求項2】
前記トロリ線の傾斜角度として、前記パンタグラフの全体の傾斜角度に前記トロリ線の偏位位置の前記パンタグラフ形状の傾斜角度を加えた傾斜角度を用いることを特徴とする請求項1記載の摩耗測定方法。
【請求項3】
パンタグラフに接触するトロリ線の下面を撮影する摩耗測定用カメラを電車屋根上に設置し、前記摩耗測定用カメラで撮影された前記トロリ線の下面の画像を画像処理して、前記トロリ線の摩耗幅を測定する画像処理部を備えた摩耗測定装置において、
色彩の異なる帯状の領域を隣接して複数配置してなる縞模様状であって、前記領域間の境界となる直線が少なくとも相互に平行な平行直線と、前記領域間の境界となる直線が前記平行直線に対して傾斜した少なくとも2本の傾斜直線とを含むマーカを前記パンタグラフの1箇所に取り付ける一方、
前記マーカを撮影して前記領域を横断するように走査するパンタグラフ撮影用カメラを前記電車屋根上に設置し、
前記パンタグラフ撮影用カメラで取得された画像を画像処理することにより、前記領域を横断するように走査した軌跡である撮影ラインと前記平行直線及び前記傾斜直線との複数の交点間の線分のうち少なくとも三つの長さの比を求め、該三つの長さの比に基づいて前記撮影ラインに対する前記マーカの傾きとして前記パンタグラフ全体の傾斜角度を求め角度測定部を前記画像処理部に設け、
前記画像処理部は、前記パンタグラフの上面にならって傾斜する前記トロリ線の傾斜角度である前記パンタグラフ全体の傾斜角度に応じて前記摩耗幅を補正して本来の摩耗幅を求める補正計算部を備えることを特徴とする摩耗測定装置。
【請求項4】
前記摩耗測定用カメラで撮影された前記トロリ線の画像から前記トロリ線の偏位位置を計測する偏位計測部を前記画像処理部に設け、
前記トロリ線の偏位位置に対応する前記パンタグラフ上面形状を記憶したパンタグラフ上面形状記憶部を前記摩耗測定装置に設け、
前記パンタグラフ上面形状記憶部に記憶された前記パンタグラフ上面形状に基づき、前記偏位計測部で計測された前記トロリ線の偏位位置の前記パンタグラフ形状の傾斜角を算出する偏位位置のパンタグラフ形状の傾斜角度算出部を前記画像処理部に設け、
前記補正計算部は、前記トロリ線の傾斜角度として、前記パンタグラフ全体の傾斜角度算出部で算出された前記パンタグラフの全体の傾斜角度に前記偏位位置のパンタグラフ形状の傾斜角度算出部で算出された前記トロリ線の偏位位置の前記パンタグラフ形状の傾斜角度を加えた傾斜角度を用いることを特徴とする請求項3記載の摩耗測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩耗測定装置及びその方法に関する。詳しくは、電車の屋根上からトロリ線の下面の幅を撮影し、この画像を処理することでトロリ線の摩耗を測定する架線検測分野に属する。特にパンタグラフの傾斜角度を考慮して摩耗測定値を得ることに特徴がある。なお「偏位」と「変位」は、下記の意味とする。即ち、偏位とは、「鉄道専門用語で、パンタグラフがトロリ線に接触する位置でパンタグラフの中央からの距離」であり、変位とは、「一般的な物理量で、元の位置からの移動量」である。
【背景技術】
【0002】
現在の摩耗測定技術について説明する。
図1に示すように、電車1の屋根上に設置した摩耗測定用カメラ2でトロリ線3の下面を撮影する。トロリ線3は、電車1の走行するレール4に沿って架線されており、摩耗測定用カメラ2は、トロリ線3を見上げるように上向きに設置されている。電車1の屋根には、トロリ線3に接触するパンタグラフ5も設置されている。
【0003】
トロリ線3は、図7(a)に示すように、パンタグラフ5と接触して下面が平らに摩耗するため、トロリ線3の下面を撮影した画像を処理して摩耗幅を測定し、トロリ線の摩耗幅からトロリ線の残存直径に換算する。つまり、反射幅→摩耗幅→残存直径に換算する。図7(a)は、トロリ線3に傾斜がない状態の断面を示している。
【0004】
図7(a)に示すように、トロリ線3の下面がカメラ2に対して正対していれば、つまり、トロリ線3の下面が水平であれば、正確な摩耗測定値が得られる。このことは、図7(a)中において、垂直上向きの矢印で示す照明光aがトロリ線3の下面で反射して垂直下向きの矢印で示す反射光bとなることから明らかである。図7(a)中において、図中破線で示すcは摩耗限界である。
【0005】
なお、特許文献1,2に示すように車両の動揺(車両のローリング角度)を測定する技術があり、また、特許文献3の請求項1及び段落[0020]に示すように、パンタグラフに取り付けた一つのマーカを計測してパンタグラフの傾斜角度を測定する技術があるが、パンタグラフの傾斜角度からトロリ線摩耗測定値を補正する技術はなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012−192759
【特許文献2】特開2003−052101
【特許文献3】特許5097596
【特許文献4】US2007/0296949
【特許文献5】特開2010−127746
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図3(a)に示すように、トロリ線3がパンタグラフ5の左右端で接触する場合、左右端で部分的に押し下げられたパンタグラフ5は傾斜(ローリング)する。そのため、図3(b)に示すように、トロリ線3はパンタグラフ5の上面にならってトロリ線3の下面が水平方向から角度θ1で傾斜し、これを撮影した画像は、トロリ線3の摩耗幅が狭く見えて、実際の残存直径よりも太く算出される問題がある。
【0008】
詳しくは、パンタグラフ5は、直線形状のすり板5aの左右両側に下向きに湾曲したホーン5bをそれぞれ装着したものであり、図3(a)では、傾斜したすり板5aの左右端にトロリ線3が接触した場合を示している。図7(b)に示すように、トロリ線3の下面が水平方向から角度θ1で傾斜していると、撮影されるトロリ線3の下面は、本来の摩耗幅Wではなく、この本来の摩耗幅Wより小さな幅Wimageとして撮影されてしまう。
【0009】
また、図4(a)に示すように、すり板5aは水平であっても、湾曲したホーン5bにトロリ線3が接触していると、図4(b)に示すように、ホーン5bの上面にならってトロリ線3の下面が水平方向から角度θ2で傾斜する。
【0010】
更には、図5に示すように、すり板が弧形状のパンタグラフ50の場合にも(特許文献4)、図4(b)のようにパンタグラフ接触面にならってトロリ線下面が傾斜する。
これらの場合は、トロリ線下面を撮影したカメラ画像は、トロリ線の摩耗幅が狭く見えて実際の残存直径よりも太く算出される問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決する本発明の請求項1に係る摩耗測定方法は、電車屋根上に設置した摩耗測定用カメラで、パンタグラフに接触するトロリ線の下面を撮影し、撮影された前記トロリ線の下面の画像を画像処理して、前記トロリ線の摩耗幅を測定する摩耗測定方法において、色彩の異なる帯状の領域を隣接して複数配置してなる縞模様状であって、前記領域間の境界となる直線が少なくとも相互に平行な平行直線と、前記領域間の境界となる直線が前記平行直線に対して傾斜した少なくとも2本の傾斜直線とを含むマーカを前記パンタグラフの1箇所に取り付ける一方、前記マーカを撮影して前記領域を横断するように走査するパンタグラフ撮影用カメラを前記電車屋根上に設置し、前記パンタグラフ撮影用カメラで取得された画像を画像処理することにより、前記領域を横断するように走査した軌跡である撮影ラインと前記平行直線及び前記傾斜直線との複数の交点間の線分のうち少なくとも三つの長さの比を求め、該三つの長さの比に基づいて前記撮影ラインに対する前記マーカの傾きとして前記パンタグラフ全体の傾斜角度を求め、前記パンタグラフの上面にならって傾斜する前記トロリ線の傾斜角度である前記パンタグラフ全体の傾斜角度に応じて前記摩耗幅を補正して本来の摩耗幅を求めることを特徴とする。
【0012】
上記課題を解決する本発明の請求項2に係る摩耗測定方法は、請求項1において、前記トロリ線の傾斜角度として、前記パンタグラフの全体の傾斜角度に前記トロリ線の偏位位置の前記パンタグラフ形状の傾斜角度を加えた傾斜角度を用いることを特徴とする。
【0013】
上記課題を解決する本発明の請求項3に係る摩耗測定装置は、パンタグラフに接触するトロリ線の下面を撮影する摩耗測定用カメラを電車屋根上に設置し、前記摩耗測定用カメラで撮影された前記トロリ線の下面の画像を画像処理して、前記トロリ線の摩耗幅を測定する画像処理部を備えた摩耗測定装置において、色彩の異なる帯状の領域を隣接して複数配置してなる縞模様状であって、前記領域間の境界となる直線が少なくとも相互に平行な平行直線と、前記領域間の境界となる直線が前記平行直線に対して傾斜した少なくとも2本の傾斜直線とを含むマーカを前記パンタグラフの1箇所に取り付ける一方、前記マーカを撮影して前記領域を横断するように走査するパンタグラフ撮影用カメラを前記電車屋根上に設置し、前記パンタグラフ撮影用カメラで取得された画像を画像処理することにより、前記領域を横断するように走査した軌跡である撮影ラインと前記平行直線及び前記傾斜直線との複数の交点間の線分のうち少なくとも三つの長さの比を求め、該三つの長さの比に基づいて前記撮影ラインに対する前記マーカの傾きとして前記パンタグラフ全体の傾斜角度を求め角度測定部を前記画像処理部に設け、前記画像処理部は、前記パンタグラフの上面にならって傾斜する前記トロリ線の傾斜角度である前記パンタグラフ全体の傾斜角度に応じて前記摩耗幅を補正して本来の摩耗幅を求める補正計算部を備えることを特徴とする。
【0014】
上記課題を解決する本発明の請求項4に係る摩耗測定装置は、請求項3において、前記摩耗測定用カメラで撮影された前記トロリ線の画像から前記トロリ線の偏位位置を計測する偏位計測部を前記画像処理部に設け、前記トロリ線の偏位位置に対応する前記パンタグラフ上面形状を記憶したパンタグラフ上面形状記憶部を前記摩耗測定装置に設け、前記パンタグラフ上面形状記憶部に記憶された前記パンタグラフ上面形状に基づき、前記偏位計測部で計測された前記トロリ線の偏位位置の前記パンタグラフ形状の傾斜角を算出する偏位位置のパンタグラフ形状の傾斜角度算出部を前記画像処理部に設け、前記補正計算部は、前記トロリ線の傾斜角度として、前記パンタグラフ全体の傾斜角度算出部で算出された前記パンタグラフの全体の傾斜角度に前記偏位位置のパンタグラフ形状の傾斜角度算出部で算出された前記トロリ線の偏位位置の前記パンタグラフ形状の傾斜角度を加えた傾斜角度を用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、パンタグラフの上面にならってトロリ線が傾斜する場合でも、パンタグラフの1箇所に取り付けられたマーカを画像処理することにより、パンタグラフ全体の傾斜角度又は、パンタグラフ全体の傾斜角度に偏位位置のパンタグラフ形状の傾斜角度を加えた傾斜角度により、トロリ線の摩耗幅を補正して本来のトロリ線の摩耗幅を求められるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の第1の実施例に係る摩耗測定装置の概略図である。
図2】本発明の第2の実施例に係る摩耗測定装置の概略図である。
図3図3(a)は傾斜したすり板にトロリ線が接触したパンタグラフの正面図、図3(b)は同図(a)中の破線部で囲んだ部分Aの拡大図である。
図4図4(a)は湾曲したホーンにトロリ線が接触したパンタグラフの正面図、図4(b)は同図(a)中の破線部で囲んだ部分Bの拡大図である。
図5】特許文献4に開示されるすり板が弧形状のパンタグラフの斜視図である。
図6図6(a)は1箇所にマーカが設置されたパンタグラフの正面図、図6(b)は同図(a)中の破線部で囲んだ部分Cの拡大図である。
図7図7(a)は傾斜していないトロリ線の断面図、図7(b)は傾斜したトロリ線の断面図である。
図8】本発明の第1の実施例に係る摩耗測定方法を示すフローチャートである。
図9】本発明の第2の実施例に係る摩耗測定方法を示すフローチャートである。
図10】本発明の第1の実施例に係る摩耗測定装置の機能構成を示すブロック図である。
図11】本発明の第2の実施例に係る摩耗測定装置の機能構成を示すブロック図である。
図12図12(a)はパンタグラフ上面形状の一例を示す正面図、図12(b)はパンタグラフ上面形状の他の例を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明について、図面に示す実施例を参照して詳細に説明する。
【実施例1】
【0018】
本発明の第1の実施例に係る摩耗測定装置の概略図を図1に示す。
本実施例の特徴は、図3に示すように、パンタグラフ5全体の傾斜角度θ1≒トロリ線3の下面角度であることを利用し、パンタグラフ全体の傾斜角度を用いてトロリ線摩耗幅を補正することである。
本実施例の摩耗測定装置は、図1に示すように、電車1の屋根上に設置した1台のパンタグラフ撮影用カメラ6及び1台の摩耗測定用カメラ(以下、摩耗計測用カメラと言う)2と、電車1内に設置した画像処理部10で構成する。
【0019】
電車1の屋根上には、パンタグラフ5が設置されると共にこのパンタグラフ5のすり板5aには1箇所に図6に示すようなマーカ8が取り付けられている。マーカ8は、特許文献3の[請求項1]と[0020]段に記述されるように、色彩の異なる帯状の領域を隣接して複数配置してなる縞模様状であって、この領域間の境界となる直線が少なくとも相互に平行な平行直線と、この領域間の境界となる直線が前記平行直線に対して傾斜した少なくとも2本の傾斜直線とを含む形状であり、以下、台形マーカ8という。
【0020】
パンタグラフ撮影用カメラ6は、パンタグラフ5の1箇所に取り付けられた台形マーカ8を撮影するものであり、斜め上向きに設置されている。パンタグラフ撮影用カメラ6は、特許文献3の[請求項1]と[0020]段に記述されるように、台形マーカ8の前記領域を横断するように走査するラインセンサが使用される。
【0021】
摩耗計測用カメラ2は、トロリ線3の摩耗面を真下から撮影することができるよう、垂直上向きに設置されている。
画像処理部10は、図12に示すように、角度測定部11、摩耗計測部12、処理メモリ13、パンタグラフ全体の傾斜角度算出部14、トロリ線の摩耗幅の補正計算部15とから構成される。
【0022】
角度測定部11は、パンタグラフ撮影用カメラ6により取得された台形マーカ8についての画像が入力され、この画像を画像処理して、台形マーカ8のマーカ角度を算出して処理メモリ13へ出力する。
【0023】
角度測定部11における画像処理として、台形マーカ8のマーカ角度は、特許文献3、特に[請求項1]と[0020]段に記述されるように、ラインセンサであるパンタグラフ撮影用カメラ6が台形マーカ8の前記領域を横断するように走査した軌跡である撮影ラインと台形マーカ8に含まれる前記平行直線及び前記傾斜直線との複数の交点間の線分のうち少なくとも三つの長さの比を求め、該三つの長さの比に基づいて前記撮影ラインの台形マーカ8に対する傾きを求めることにより行う。
【0024】
摩耗計測部12は、摩耗計測用カメラ2により取得されたトロリ線5についての画像(摩耗データ)が入力され、この画像を画像処理してトロリ線の摩耗幅Wimageを算出し処理メモリ13へ出力する。トロリ線摩耗幅は、例えば、特許文献5で求めることができる。
処理メモリ13は、角度測定部11、摩耗計測部12、パンタグラフ全体の傾斜角度算出部14、トロリ線の摩耗幅の補正計算部15で使用されるデータを演算時に一時的に保管するメモリである。
【0025】
パンタグラフ全体の傾斜角度算出部14は、図6(a)に示すように、角度測定部11で算出された台形マーカ8のマーカ角度をパンタグラフ5の全体の傾斜(ローリング)角度θ1として算出する。
トロリ線の摩耗幅の補正計算部15は、摩耗計測部12で計測され処理メモリ13に記憶されていたトロリ線摩耗幅Wimageに、パンタグラフ全体の傾斜角度算出部14で求めたパンタグラフ5の全体の傾斜(ローリング)角度θ1に基づき、1/cosθ1を乗じて本来の摩耗幅Wを算出する。
【0026】
図7(b)に示すように、パンタグラフの傾斜角度θ1≒トロリ線3の傾斜角度であり、摩耗計測部12で計測されたトロリ線摩耗幅Wimageは、本来の摩耗幅Wにcosθ1を乗じた値であるためである。
【0027】
本実施例の動作手順について図8のフローチャートを用いて説明する。
先ず、パンタグラフ撮影用カメラ6により、パンタグラフ5の1箇所に取り付けられた台形マーカ8を撮影し、パンタグラフ撮影用カメラ6により取得された台形マーカ8についての画像を角度測定部11に入力して、これらの画像を画像処理して、台形マーカ8の傾斜角度(角度データ)を測定し、処理メモリ13に出力する(ステップS1)。
【0028】
次に、角度測定部11で算出され処理メモリ13に記憶されていた台形マーカ8の傾斜角度をパンタグラフ5の全体の傾斜(ローリング)角度θ1として算出する(ステップS2)。
そして、摩耗計測部12で計測され処理メモリ13に記憶されていたトロリ線摩耗幅Wimageに、パンタグラフ全体の傾斜角度算出部14で求めたパンタグラフ5の全体の傾斜角度θ1に基づき、トロリ線の摩耗幅の補正計算部15により、1/cosθ1を乗じて本来の摩耗幅Wを算出する(ステップS5)。
【0029】
引き続き、全ての計測点につき、摩耗補正が終了するまで、ステップS1、ステップS2、ステップS5を繰り返す(ステップS6)。
【0030】
以上、実施例に基づいて具体的に説明したように、本実施例によれば、従来の技術ではパンタグラフ5全体が傾斜すると、パンタグラフ5の上面にならって傾斜するトロリ線摩耗幅に誤差が生ずるのに比較し、パンタグラフ5の1箇所に取り付けられた台形マーカ8をパンタグラフ撮影用カメラ6により撮影し画像処理することにより、この誤差をパンタグラフ5全体の傾斜角に基づいて補正できるという効果を奏する。
【実施例2】
【0031】
本発明の第2の実施例に係る摩耗測定装置の概略図を図2に示す。
本実施例の特徴は、図6(b)に示すように、パンタグラフ全体の傾斜角度θ1に偏位位置のパンタグラフ形状の傾斜角度θ2を加算した傾斜角度がトロリ線下面の角度に略等しいことを利用し、トロリ線摩耗幅を補正することである。
【0032】
本実施例の摩耗測定装置は、図2に示すように、電車1の屋根上に設置した1台のパンタグラフ撮影用カメラ6及び1台の偏位計測を兼ねた摩耗計測用カメラ2aと、電車1内に設置した画像処理部0及びパンタグラフ上面形状記憶部40で構成する。
【0033】
電車1の屋根上には、パンタグラフ5が設置されると共にこのパンタグラフ5のすり板5aには1箇所に図6に示すような台形マーカ8が取り付けられている。台形マーカ8の形状は、特許文献3の[請求項1]と[0020]段に記述されるように、色彩の異なる帯状の領域を隣接して複数配置してなる縞模様状であって、この領域間の境界となる直線が少なくとも相互に平行な平行直線と、この領域間の境界となる直線が前記平行直線に対して傾斜した少なくとも2本の傾斜直線とを含むものである。
【0034】
パンタグラフ撮影用カメラ6は、パンタグラフ5の1箇所に取り付けられた台形マーカ8を撮影するものであり、斜め上向きに設置されている。パンタグラフ撮影用カメラ6は、特許文献3の[請求項1]と[0020]段に記述されるように、台形マーカ8の前記領域を横断するように走査するラインセンサが使用される。
偏位計測を兼ねた摩耗計測用カメラ2aは、トロリ線3の摩耗面を真下から撮影してトロリ線3の偏位位置を計測できるよう、垂直上向きに設置されている。
【0035】
パンタグラフ上面形状記憶部40は、図4(b)に示すように、トロリ線3の偏位位置に対応したパンタグラフ5の上面形状、つまり、その水平方向からの傾斜角度θ2を記憶している。例えば、図14(a)に示すように、直線状のすり板5a部分に接しているトロリ線3については傾斜角度が0として記憶され、ホーン5bに接しているトロリ線3については、その偏位位置おける傾斜角度として記憶されている。また、図14(b)に示すように、すり板50aが弧形状のパンタグラフ50に対しては、偏位位置に応じてすり板50aからホーン50bへかけて連続的に変化する水平方向からの傾斜角度として記憶されている。
【0036】
画像処理部30は、角度測定部11、摩耗計測及び偏位計測部12a、処理メモリ13、パンタグラフ全体の傾斜角度算出部14、偏位位置のパンタグラフ形状の傾斜角度算出部16、トロリ線の摩耗幅の補正計算部17とから構成される。
角度測定部11は、パンタグラフ撮影用カメラ6により取得された台形マーカ8についての画像が入力され、この画像を画像処理して、台形マーカ8のマーカ角度を算出して処理メモリ13へ出力する。
【0037】
角度測定部11における画像処理として、台形マーカ8のマーカ角度は、特許文献3、特に[請求項1]と[0020]段に記述されるように、ラインセンサであるパンタグラフ撮影用カメラ6が台形マーカ8の前記領域を横断するように走査した軌跡である撮影ラインと台形マーカ8に含まれる前記平行直線及び前記傾斜直線との複数の交点間の線分のうち少なくとも三つの長さの比を求め、該三つの長さの比に基づいて前記撮影ラインの台形マーカ8に対する傾きを求めることにより行う。
【0038】
摩耗計測及び偏位計測部12aは、偏位計測を兼ねた摩耗計測用カメラ2aにより取得されたトロリ線5についての画像(摩耗データ)が入力され、この画像を画像処理してトロリ線の摩耗幅Wimageを算出し処理メモリ13へ出力すると共にトロリ線3の偏位位置(偏位データ)を処理メモリ13へ出力する。トロリ線摩耗幅と偏位は、例えば、特許文献5で求めることができる。
処理メモリ13は、摩耗計測及び偏位計測部12a、偏位位置のパンタグラフ形状の傾斜角度算出部16、トロリ線の摩耗幅の補正計算部17で使用されるデータを演算時に一時的に保管するメモリである。
【0039】
パンタグラフ全体の傾斜角度算出部14は、図6(a)に示すように、角度測定部11で算出された台形マーカ8のマーカ角度をパンタグラフ5の全体の傾斜(ローリング)角度θ1として算出する。
偏位位置のパンタグラフ形状の傾斜角度算出部16は、摩耗計測及び偏位計測部12aにより計測され処理メモリ13に記憶されていたトロリ線3の偏位位置に基づき、パンタグラフ上面形状記憶部40に記憶されているトロリ線3の偏位位置に対応したパンタグラフ形状の傾斜角度θ2を算出する。
【0040】
トロリ線の摩耗幅の補正計算部17は、摩耗計測及び偏位計測部12aで計測され処理メモリ13に記憶されていたトロリ線摩耗幅Wimageに、パンタグラフ全体の傾斜角度算出部14で求めたパンタグラフ5の全体の傾斜(ローリング)角度θ1及び摩耗計測及び偏位計測部12aにより計測され処理メモリ13に記憶されていたトロリ線3の偏位位置に対応したパンタグラフ上面形状記憶部40に記憶されているトロリ線3の偏位位置のパンタグラフ形状の傾斜角度θ2に基づき、1/ cos(θ12)を乗じて本来の摩耗幅Wを算出する。
【0041】
図7(b)において、θ1をθ12に置き換えれば明らかように、パンタグラフ全体の傾斜角度θ1に偏位位置のパンタグラフ形状の傾斜角度θ2を加算した傾斜角度がトロリ線下面の角度に略等しい。そのため、摩耗計測及び偏位計測部12aで計測されたトロリ線摩耗幅Wimageは、本来の摩耗幅Wにcos(θ12)を乗じた値であるためである。
【0042】
本実施例の動作手順について図9のフローチャートを用いて説明する。
先ず、パンタグラフ撮影用カメラ6により、パンタグラフ5の1箇所に取り付けられた台形マーカ8を撮影し、パンタグラフ撮影用カメラ6により取得された台形マーカ8についての画像を角度測定部11に入力して、これらの画像を画像処理して、台形マーカ8の傾斜角度(角度データ)を測定し、処理メモリ13に出力する(ステップS1)。
【0043】
次に、角度測定部11で算出され処理メモリ13に記憶されていた台形マーカ8の傾斜角度をパンタグラフ5の全体の傾斜(ローリング)角度θ1として算出する(ステップS2)。
引き続き、偏位計測を兼ねた摩耗計測用カメラ2aにより、トロリ線3の摩耗面を真下から撮影してトロリ線3の偏位位置を計測し、摩耗計測及び偏位計測部12aにより、偏位計測を兼ねた摩耗計測用カメラ2aにより取得されたトロリ線5についての画像を画像処理してトロリ線3の偏位位置(偏位データ)を処理メモリ13へ入力する(ステップS3)。
【0044】
その後、摩耗計測及び偏位計測部12aにより算出され処理メモリ13に記憶されていたトロリ線3の偏位位置に基づき、偏位位置のパンタグラフ形状の傾斜角度算出部16により、パンタグラフ上面形状記憶部40に記憶されていたトロリ線3の偏位位置のパンタグラフ形状の傾斜角度θ2を算出する(ステップS4)。
【0045】
そして、摩耗計測部12で計測され処理メモリ13に記憶されていたトロリ線摩耗幅Wimageに、パンタグラフ全体の傾斜角度算出部14で求めたパンタグラフ5の全体の傾斜角度θ1及び偏位位置のパンタグラフ形状の傾斜角度算出部16により算出された偏位位置のパンタグラフ形状の傾斜角度θ2に基づき、トロリ線の摩耗幅の補正計算部17により、1/ cos(θ12)を乗じて本来の摩耗幅Wを算出する(ステップS5)。
引き続き、全ての計測点につき、摩耗補正が終了するまで、ステップS1〜ステップS5を繰り返す(ステップS6)。
【0046】
以上、実施例に基づいて具体的に説明したように、本実施例によれば、従来の技術では、パンタグラフ5全体の傾斜角度及び偏位位置のパンタグラフ形状の傾斜角度により、パンタグラフ5の上面にならって下面が傾斜するトロリ線3の摩耗面を真下から撮影するカメラ2aからはトロリ線摩耗幅が狭く写り、摩耗計測値に誤差が生ずるのに比較し、パンタグラフ5の1箇所に取り付けられた台形マーカ8をパンタグラフ撮影用カメラ6により撮影し画像処理することにより、この誤差をパンタグラフ5全体の傾斜角にトロリ線の偏位位置におけるパンタグラフ形状の傾斜角度を加算した傾斜角度に基づいて補正できるという効果を奏する。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は、電車の屋根上からトロリ線の下面の幅を撮影し、この画像を処理することでトロリ線の摩耗を測定する架線検測分野において、産業上広く利用可能なものである。
【符号の説明】
【0048】
1 電車
摩耗計測用カメラ(摩耗測定用カメラ
2a 偏位計測を兼ねた摩耗計測用カメラ(摩耗測定用カメラ)
3 トロリ線
4 レール
5,50 パンタグラフ
5a,50a すり板
5b,50b ホーン
6 パンタグラフ撮影用カメラ
8 台形マーカ
10,20 画像処理部
11 角度測定部
12 摩耗計測部
12a 摩耗計測及び偏位計測部
13 処理メモリ
14 パンタグラフ全体の傾斜角度算出部
15,17 トロリ線の摩耗幅の補正計算部
16 偏位位置のパンタグラフ形状の傾斜角度算出部
40 パンタグラフ上面形状記憶部
図1
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図12