【実施例1】
【0018】
本発明の第1の実施例に係る摩耗測定装置の概略図を
図1に示す。
本実施例の特徴は、
図3に示すように、パンタグラフ5全体の傾斜角度θ
1≒トロリ線3の下面角度であることを利用し、パンタグラフ全体の傾斜角度を用いてトロリ線摩耗幅を補正することである。
本実施例の摩耗測定装置は、
図1に示すように、電車1の屋根上に設置した1台のパンタグラフ撮影用カメラ6及び1台の
摩耗測定用カメラ(以下、摩耗計測用カメラ
と言う)2と、電車1内に設置した画像処理部10で構成する。
【0019】
電車1の屋根上には、パンタグラフ5が設置されると共にこのパンタグラフ5のすり板5aには1箇所に
図6に示すようなマーカ8が取り付けられている。マーカ8は、特許文献3の[請求項1]と[0020]段に記述されるように、色彩の異なる帯状の領域を隣接して複数配置してなる縞模様状であって、この領域間の境界となる直線が少なくとも相互に平行な平行直線と、この領域間の境界となる直線が前記平行直線に対して傾斜した少なくとも2本の傾斜直線とを含む形状であり、以下、台形マーカ8という。
【0020】
パンタグラフ撮影用カメラ6は、パンタグラフ5の1箇所に取り付けられた台形マーカ8を撮影するものであり、斜め上向きに設置されている。パンタグラフ撮影用カメラ6は、特許文献3の[請求項1]と[0020]段に記述されるように、台形マーカ8の前記領域を横断するように走査するラインセンサが使用される。
【0021】
摩耗計測用カメラ2は、トロリ線3の摩耗面を真下から撮影することができるよう、垂直上向きに設置されている。
画像処理部10は、
図12に示すように、角度測定部11、摩耗計測部12、処理メモリ13、パンタグラフ全体の傾斜角度算出部14、トロリ線の摩耗幅の補正計算部15とから構成される。
【0022】
角度測定部11は、パンタグラフ撮影用カメラ6により取得された台形マーカ8についての画像が入力され、この画像を画像処理して、台形マーカ8のマーカ角度を算出して処理メモリ13へ出力する。
【0023】
角度測定部11における画像処理として、台形マーカ8のマーカ角度は、特許文献3、特に[請求項1]と[0020]段に記述されるように、ラインセンサであるパンタグラフ撮影用カメラ6が台形マーカ8の前記領域を横断するように走査した軌跡である撮影ラインと台形マーカ8に含まれる前記平行直線及び前記傾斜直線との複数の交点間の線分のうち少なくとも三つの長さの比を求め、該三つの長さの比に基づいて前記撮影ラインの台形マーカ8に対する傾きを求めることにより行う。
【0024】
摩耗計測部12は、摩耗計測用カメラ2により取得されたトロリ線5についての画像(摩耗データ)が入力され、この画像を画像処理してトロリ線の摩耗幅W
imageを算出し処理メモリ13へ出力する。トロリ線摩耗幅は、例えば、特許文献5で求めることができる。
処理メモリ13は、角度測定部11、摩耗計測部12、パンタグラフ全体の傾斜角度算出部14、トロリ線の摩耗幅の補正計算部15で使用されるデータを演算時に一時的に保管するメモリである。
【0025】
パンタグラフ全体の傾斜角度算出部14は、
図6(a)に示すように、角度測定部11で算出された台形マーカ8のマーカ角度をパンタグラフ5の全体の傾斜(ローリング)角度θ
1として算出する。
トロリ線の摩耗幅の補正計算部15は、摩耗計測部12で計測され処理メモリ13に記憶されていたトロリ線摩耗幅W
imageに、パンタグラフ全体の傾斜角度算出部14で求めたパンタグラフ5の全体の傾斜(ローリング)角度θ
1に基づき、1/cosθ
1を乗じて本来の摩耗幅Wを算出する。
【0026】
図7(b)に示すように、パンタグラフの傾斜角度θ
1≒トロリ線3の傾斜角度であり、摩耗計測部12で計測されたトロリ線摩耗幅W
imageは、本来の摩耗幅Wにcosθ
1を乗じた値であるためである。
【0027】
本実施例の動作手順について
図8のフローチャートを用いて説明する。
先ず、パンタグラフ撮影用カメラ6により、パンタグラフ5の1箇所に取り付けられた台形マーカ8を撮影し、パンタグラフ撮影用カメラ6により取得された台形マーカ8についての画像を角度測定部11に入力して、これらの画像を画像処理して、台形マーカ8の傾斜角度(角度データ)を測定し、処理メモリ13に出力する(ステップS1)。
【0028】
次に、角度測定部11で算出され処理メモリ13に記憶されていた台形マーカ8の傾斜角度をパンタグラフ5の全体の傾斜(ローリング)角度θ
1として算出する(ステップS2)。
そして、摩耗計測部12で計測され処理メモリ13に記憶されていたトロリ線摩耗幅W
imageに、パンタグラフ全体の傾斜角度算出部14で求めたパンタグラフ5の全体の傾斜角度θ
1に基づき、トロリ線の摩耗幅の補正計算部15により、1/cosθ
1を乗じて本来の摩耗幅Wを算出する(ステップS5)。
【0029】
引き続き、全ての計測点につき、摩耗補正が終了するまで、ステップS1、ステップS2、ステップS5を繰り返す(ステップS6)。
【0030】
以上、実施例に基づいて具体的に説明したように、本実施例によれば、従来の技術ではパンタグラフ5全体が傾斜すると、パンタグラフ5の上面にならって傾斜するトロリ線摩耗幅に誤差が生ずるのに比較し、パンタグラフ5の1箇所に取り付けられた台形マーカ8をパンタグラフ撮影用カメラ6により撮影し画像処理することにより、この誤差をパンタグラフ5全体の傾斜角に基づいて補正できるという効果を奏する。
【実施例2】
【0031】
本発明の第2の実施例に係る摩耗測定装置の概略図を
図2に示す。
本実施例の特徴は、
図6(b)に示すように、パンタグラフ全体の傾斜角度θ
1に偏位位置のパンタグラフ形状の傾斜角度θ
2を加算した傾斜角度がトロリ線下面の角度に略等しいことを利用し、トロリ線摩耗幅を補正することである。
【0032】
本実施例の摩耗測定装置は、
図2に示すように、電車1の屋根上に設置した1台のパンタグラフ撮影用カメラ6及び1台の偏位計測を兼ねた摩耗計測用カメラ2aと、電車1内に設置した画像処理部
20及びパンタグラフ上面形状記憶部40で構成する。
【0033】
電車1の屋根上には、パンタグラフ5が設置されると共にこのパンタグラフ5のすり板5aには1箇所に
図6に示すような台形マーカ8が取り付けられている。台形マーカ8の形状は、特許文献3の[請求項1]と[0020]段に記述されるように、色彩の異なる帯状の領域を隣接して複数配置してなる縞模様状であって、この領域間の境界となる直線が少なくとも相互に平行な平行直線と、この領域間の境界となる直線が前記平行直線に対して傾斜した少なくとも2本の傾斜直線とを含むものである。
【0034】
パンタグラフ撮影用カメラ6は、パンタグラフ5の1箇所に取り付けられた台形マーカ8を撮影するものであり、斜め上向きに設置されている。パンタグラフ撮影用カメラ6は、特許文献3の[請求項1]と[0020]段に記述されるように、台形マーカ8の前記領域を横断するように走査するラインセンサが使用される。
偏位計測を兼ねた摩耗計測用カメラ2aは、トロリ線3の摩耗面を真下から撮影してトロリ線3の偏位位置を計測できるよう、垂直上向きに設置されている。
【0035】
パンタグラフ上面形状記憶部40は、
図4(b)に示すように、トロリ線3の偏位位置に対応したパンタグラフ5の上面形状、つまり、その水平方向からの傾斜角度θ
2を記憶している。例えば、
図14(a)に示すように、直線状のすり板5a部分に接しているトロリ線3については傾斜角度が0として記憶され、ホーン5bに接しているトロリ線3については、その偏位位置おける傾斜角度として記憶されている。また、
図14(b)に示すように、すり板50aが弧形状のパンタグラフ50に対しては、偏位位置に応じてすり板50aからホーン50bへかけて連続的に変化する水平方向からの傾斜角度として記憶されている。
【0036】
画像処理部30は、角度測定部11、摩耗計測及び偏位計測部12a、処理メモリ13、パンタグラフ全体の傾斜角度算出部14、偏位位置のパンタグラフ形状の傾斜角度算出部16、トロリ線の摩耗幅の補正計算部17とから構成される。
角度測定部11は、パンタグラフ撮影用カメラ6により取得された台形マーカ8についての画像が入力され、この画像を画像処理して、台形マーカ8のマーカ角度を算出して処理メモリ13へ出力する。
【0037】
角度測定部11における画像処理として、台形マーカ8のマーカ角度は、特許文献3、特に[請求項1]と[0020]段に記述されるように、ラインセンサであるパンタグラフ撮影用カメラ6が台形マーカ8の前記領域を横断するように走査した軌跡である撮影ラインと台形マーカ8に含まれる前記平行直線及び前記傾斜直線との複数の交点間の線分のうち少なくとも三つの長さの比を求め、該三つの長さの比に基づいて前記撮影ラインの台形マーカ8に対する傾きを求めることにより行う。
【0038】
摩耗計測及び偏位計測部12aは、偏位計測を兼ねた摩耗計測用カメラ2aにより取得されたトロリ線5についての画像(摩耗データ)が入力され、この画像を画像処理してトロリ線の摩耗幅W
imageを算出し処理メモリ13へ出力すると共にトロリ線3の偏位位置(偏位データ)を処理メモリ13へ出力する。トロリ線摩耗幅と偏位は、例えば、特許文献5で求めることができる。
処理メモリ13は、摩耗計測及び偏位計測部12a、偏位位置のパンタグラフ形状の傾斜角度算出部16、トロリ線の摩耗幅の補正計算部17で使用されるデータを演算時に一時的に保管するメモリである。
【0039】
パンタグラフ全体の傾斜角度算出部14は、
図6(a)に示すように、角度測定部11で算出された台形マーカ8のマーカ角度をパンタグラフ5の全体の傾斜(ローリング)角度θ
1として算出する。
偏位位置のパンタグラフ形状の傾斜角度算出部16は、摩耗計測及び偏位計測部12aにより計測され処理メモリ13に記憶されていたトロリ線3の偏位位置に基づき、パンタグラフ上面形状記憶部40に記憶されているトロリ線3の偏位位置に対応したパンタグラフ形状の傾斜角度θ
2を算出する。
【0040】
トロリ線の摩耗幅の補正計算部17は、摩耗計測及び偏位計測部12aで計測され処理メモリ13に記憶されていたトロリ線摩耗幅W
imageに、パンタグラフ全体の傾斜角度算出部14で求めたパンタグラフ5の全体の傾斜(ローリング)角度θ
1及び摩耗計測及び偏位計測部12aにより計測され処理メモリ13に記憶されていたトロリ線3の偏位位置に対応したパンタグラフ上面形状記憶部40に記憶されているトロリ線3の偏位位置のパンタグラフ形状の傾斜角度θ
2に基づき、1/ cos(θ
1+θ
2)を乗じて本来の摩耗幅Wを算出する。
【0041】
図7(b)において、θ
1をθ
1+θ
2に置き換えれば明らかように、パンタグラフ全体の傾斜角度θ
1に偏位位置のパンタグラフ形状の傾斜角度θ
2を加算した傾斜角度がトロリ線下面の角度に略等しい。そのため、摩耗計測及び偏位計測部12aで計測されたトロリ線摩耗幅W
imageは、本来の摩耗幅Wにcos(θ
1+θ
2)を乗じた値であるためである。
【0042】
本実施例の動作手順について
図9のフローチャートを用いて説明する。
先ず、パンタグラフ撮影用カメラ6により、パンタグラフ5の1箇所に取り付けられた台形マーカ8を撮影し、パンタグラフ撮影用カメラ6により取得された台形マーカ8についての画像を角度測定部11に入力して、これらの画像を画像処理して、台形マーカ8の傾斜角度(角度データ)を測定し、処理メモリ13に出力する(ステップS1)。
【0043】
次に、角度測定部11で算出され処理メモリ13に記憶されていた台形マーカ8の傾斜角度をパンタグラフ5の全体の傾斜(ローリング)角度θ
1として算出する(ステップS2)。
引き続き、偏位計測を兼ねた摩耗計測用カメラ2aにより、トロリ線3の摩耗面を真下から撮影してトロリ線3の偏位位置を計測し、摩耗計測及び偏位計測部12aにより、偏位計測を兼ねた摩耗計測用カメラ2aにより取得されたトロリ線5についての画像を画像処理してトロリ線3の偏位位置(偏位データ)を処理メモリ13へ入力する(ステップS3)。
【0044】
その後、摩耗計測及び偏位計測部12aにより算出され処理メモリ13に記憶されていたトロリ線3の偏位位置に基づき、偏位位置のパンタグラフ形状の傾斜角度算出部16により、パンタグラフ上面形状記憶部40に記憶されていたトロリ線3の偏位位置のパンタグラフ形状の傾斜角度θ
2を算出する(ステップS4)。
【0045】
そして、摩耗計測部12で計測され処理メモリ13に記憶されていたトロリ線摩耗幅W
imageに、パンタグラフ全体の傾斜角度算出部14で求めたパンタグラフ5の全体の傾斜角度θ
1及び偏位位置のパンタグラフ形状の傾斜角度算出部16により算出された偏位位置のパンタグラフ形状の傾斜角度θ
2に基づき、トロリ線の摩耗幅の補正計算部17により、1/ cos(θ
1+θ
2)を乗じて本来の摩耗幅Wを算出する(ステップS5)。
引き続き、全ての計測点につき、摩耗補正が終了するまで、ステップS1〜ステップS5を繰り返す(ステップS6)。
【0046】
以上、実施例に基づいて具体的に説明したように、本実施例によれば、従来の技術では、パンタグラフ5全体の傾斜角度及び偏位位置のパンタグラフ形状の傾斜角度により、パンタグラフ5の上面にならって下面が傾斜するトロリ線3の摩耗面を真下から撮影するカメラ2aからはトロリ線摩耗幅が狭く写り、摩耗計測値に誤差が生ずるのに比較し、パンタグラフ5の1箇所に取り付けられた台形マーカ8をパンタグラフ撮影用カメラ6により撮影し画像処理することにより、この誤差をパンタグラフ5全体の傾斜角にトロリ線の偏位位置におけるパンタグラフ形状の傾斜角度を加算した傾斜角度に基づいて補正できるという効果を奏する。