(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6069709
(24)【登録日】2017年1月13日
(45)【発行日】2017年2月1日
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ用トレッド
(51)【国際特許分類】
B60C 11/03 20060101AFI20170123BHJP
B60C 11/00 20060101ALI20170123BHJP
【FI】
B60C11/03 300E
B60C11/00 E
B60C11/00 F
B60C11/00 D
【請求項の数】8
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-549039(P2013-549039)
(86)(22)【出願日】2011年12月16日
(86)【国際出願番号】JP2011079186
(87)【国際公開番号】WO2013088570
(87)【国際公開日】20130620
【審査請求日】2014年12月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】514326694
【氏名又は名称】コンパニー ゼネラール デ エタブリッスマン ミシュラン
(73)【特許権者】
【識別番号】508032479
【氏名又は名称】ミシュラン ルシェルシュ エ テクニーク ソシエテ アノニム
(74)【代理人】
【識別番号】100092093
【弁理士】
【氏名又は名称】辻居 幸一
(74)【代理人】
【識別番号】100082005
【弁理士】
【氏名又は名称】熊倉 禎男
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100103609
【弁理士】
【氏名又は名称】井野 砂里
(74)【代理人】
【識別番号】100095898
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 満
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【弁理士】
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100128428
【弁理士】
【氏名又は名称】田巻 文孝
(72)【発明者】
【氏名】金子 秀一
【審査官】
細井 龍史
(56)【参考文献】
【文献】
特開平08−175116(JP,A)
【文献】
特開2006−076529(JP,A)
【文献】
特開平09−193618(JP,A)
【文献】
特開2010−105509(JP,A)
【文献】
特開平07−047814(JP,A)
【文献】
特開2010−047072(JP,A)
【文献】
特開平2−249707(JP,A)
【文献】
特表2007−509805(JP,A)
【文献】
国際公開第2011/089107(WO,A1)
【文献】
特表2007−528312(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 11/00−11/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤ転動時に路面と接触する接地面(2)を有する、少なくとも1つのゴム組成物により形成された空気入りタイヤ用トレッド(1)であって、
このトレッド(1)上に形成された少なくとも1本の主溝(3)と、複数の副溝(4)と、これらの主溝(3)及び副溝(4)によって区切られた接地要素であるブロック(5)と、を有し、
このブロック(5)は、主溝(3)及び/又は副溝(4)に面した複数の側壁部(5a)を有し、
前記ブロック(5)の複数の側壁部のうち、少なくとも1つの側壁部は補強層(6)を有し、
前記補強層(6)は、0.5mm未満の平均厚さを有すると共に、前記側壁部の50%以上の領域にわたって主溝(3)及び/又は副溝(4)に面するように前記側壁部の表面に露出するように設けられ、
前記補強層(6)は、前記ブロック(5)の接地面(2)において、そのエッジから前記補強層(6)の前記平均厚さだけ内方の位置まで延びる第1領域を除く第2領域には露出せず、また、前記ブロック(5)において前記第2領域の内側の部分には設けられておらず、
前記補強層(6)が、天然樹脂又は熱可塑性樹脂を基にした、200MPa以上のモジュラスを有する材料で作られ、
前記モジュラスは、-10℃における材料の動的せん断複素弾性率であることを特徴とする空気入りタイヤ用トレッド(1)。
【請求項2】
前記補強層(6)が、前記ブロック(5)におけるタイヤ回転方向に面した少なくとも2つの側壁部に設けられている請求項1に記載の空気入りタイヤ用トレッド(1)。
【請求項3】
前記ブロック(5)は更に少なくとも1つの細い切れ込み(7)を有し、
前記細い切れ込みの2つの壁面部がそれぞれ第2の補強層(8)を有し、
前記第2の補強層(8)は、0.5mm未満の平均厚さを有すると共に、前記細い切れ込み(7)の各壁面部の50%以上の領域にわたって細い切れ込み(7)に面するように前記細い切れ込み(7)の壁面部の表面に露出するように設けられ、
前記第2の補強層(8)は、前記ブロック(5)の接地面(2)において、そのエッジから前記第2の補強層(8)の前記平均厚さだけ内方の位置まで延びる第1領域を除く第2領域には露出せず、また、前記ブロック(5)において前記第2領域の内側の部分には設けられていない請求項1または請求項2に記載の空気入りタイヤ用トレッド(1)。
【請求項4】
前記補強層(6)及び/又は前記第2の補強層(8)の平均厚さが0.3mm以下である請求項1及至3の何れか1項に記載の空気入りタイヤ用トレッド(1)。
【請求項5】
前記補強層(6)及び/又は前記第2の補強層(8)の平均厚さが0.2mm以下である請求項4に記載の空気入りタイヤ用トレッド(1)。
【請求項6】
前記補強層(6)は、主溝(3)または副溝(4)の底面のタイヤ径方向高さに対するタイヤ径方向外側1.6mmの高さ位置から、接地要素(5)の接地面のタイヤ径方向高さ位置までの領域内で前記ブロック(5)の側壁部に形成されている請求項1及至5の何れか1項に記載の空気入りタイヤ用トレッド(1)。
【請求項7】
前記第2の補強層(8)は、前記細い切れ込み(7)の底部のタイヤ径方向高さに対するタイヤ径方向外側1.6mmの高さ位置から、接地要素(5)の接地面のタイヤ径方向高さ位置までの領域内で前記細い切れ込み(7)の壁面部に形成されている請求項3記載の空気入りタイヤ用トレッド(1)。
【請求項8】
請求項1及至7の何れか1項に記載のトレッド(1)を有することを特徴とする空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤ用トレッドに関し、詳しくは、ブロックに設けた補強層により雪上性能及び氷上性能を向上させた空気入りタイヤ用トレッド、及びそのようなトレッドを有する空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
スタッドレスタイヤとも呼ばれる冬用タイヤは、雪や氷で覆われた冬の路面を走行することの出来るタイヤとしてよく知られている。冬用タイヤは、一般的に、接地面に開口する複数の細い切れ込み、いわゆるサイプを設け、いわゆるエッジ効果と、水膜を除去する効果と共に、冬用でないタイヤと比較して柔らかいコンパウンドを使用する事により、冬の路面との密着性を向上させている。
【0003】
路面との摩擦力を発生させるメカニズムは現実には雪と氷とで異なり、氷上性能を向上させるために好ましい、柔らかいコンパウンドの使用と、接地要素であるブロックに多数の細い切れ込みを設ける組み合わせは、結果としてブロック剛性を低下させてしまい、雪上性能の向上を妨げてしまうことが知られている。
【0004】
良好な氷上性能及び雪上性能を同時に得るための手段として、ブロックの側壁に補強層を導入することが効果的であることは知られており、特許文献1の
図3には、3本の細い切れ込みと1本の副溝が設けられたブロックの、横方向溝及び副溝に面したブロックの側壁に、JIS A硬度が80から95度のゴムを用いた補強層を設けることにより、雪上性能と氷上性能を両立するようにした技術が開示されている。
また、特許文献2の
図2には、ガラス転移点温度が-60℃以上のゴム成分を30重量%以上含むジエン系ゴム100重量部に、カーボンブラック及びシリカから選ばれる少なくとも1種を50重量部以上配合した組成にすると共に、脆化温度を-30℃以下にしたゴムを用いた補強層を、ブロックの側壁に設けることにより、雪上性能と氷上性能を両立するようにした技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−047814号公報
【特許文献2】特開2010−105509号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2に開示された技術では、雪上性能及び氷上性能の両立は最適ではなく、冬の路面走行時の安全性の観点から、雪上性能及び氷上性能をより高いレベルで両立させることが出来る空気入りタイヤへの要望がなされている。
【0007】
そこで本発明は、上述した従来技術が抱える問題点を解決するためになされたものであり、雪上性能及び氷上性能をより高いレベルで両立させることが出来る、接地要素の側壁部に補強層が設けられた空気入りタイヤ用トレッド及びそのようなトレッドを有する空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明は、タイヤ転動時に路面と接触する接地面を有する、少なくとも1つのゴム組成物により形成された空気入りタイヤ用トレッドであって、このトレッド上に形成された少なくとも1本の主溝と、複数の副溝と、これらの主溝及び副溝によって区切られた接地要素であるブロックと、を有し、このブロックは、主溝及び/又は副溝に面した複数の側壁部を有し、ブロックの複数の側壁部のうち、少なくとも1つの側壁部が補強層を有し、補強層は、0.5mm未満の平均厚さを有すると共に、側壁部の50%以上の領域にわたって主溝及び/又は副溝に面するように側壁部の表面に露出
するように設けられ、
補強層は、ブロックの接地面において、そのエッジから補強層の平均厚さだけ内方の位置まで延びる第1領域を除く第2領域には露出せず、また、ブロックにおいて第2領域の内側の部分には設けられておらず、補強層が、
天然樹脂又は熱可塑性樹脂を基にした、200MPa以上のモジュラスを有する材料で作られ
、モジュラスは、-10℃における材料の動的せん断複素弾性率であることを特徴としている
(図2及び図4参照)。
【0009】
ここで、「溝」とは、通常の使用条件下で相互に接触することのない2つの対向する面(壁面)を、他の面(底面)により接続して構成された、幅及び深さを持つ空間のことを言う。
また、「主溝」とは、流体の排水を主に受け持つ、トレッドに形成される種々の溝の中で比較的広い幅を持つ溝のことを言う。主溝は、多くの場合、直線状、ジグザグ状又は波状にタイヤ周方向に延びる溝を意味するが、タイヤ回転方向に対して角度を持って延びる、流体の排水を主に受け持つ比較的広い幅を持つ溝も含まれる。
また、「主溝」以外の溝を「副溝」と呼ぶ。
【0010】
また、「ブロックの側壁部」とは、接地要素であるブロックを構成する面のうち、溝に面した横壁の部分のことを言う。接地要素であるブロックがトレッドの幅方向最外側部に位置する場合、トレッドの外側方向に面する横壁も含まれる。
また、このブロックの側壁部と転動時に路面と接触する接地部(接地面)との交差部を「エッジ」と呼ぶ。
【0011】
また、「材料のモジュラス」とは、-10℃における材料の動的せん断複素弾性率(dynamic shear modulus:G*)のことを言う。当業者には周知の動的性質である、G'で表される貯蔵弾性率及びG''で表される損失弾性率は、粘性分析器(viscoanalyzer: Metravib VB4000)によって、生の組成物から成形された試験片もしくは加硫後の組成物と共に結合された試験片を用いて測定される。試験片は、規格ASTM D 5992-96(2006年9月に公開された、当初1996年に承認されたバージョン)の
図X2.1(円形の方式 a circular method)に記載のものが使用される。試験片の直径''d''は10mm(故に試験片は78.5mm
2の円形断面を有する)であり、ゴムコンパウンドのそれぞれの部分の厚さ''L''は2mmであり、(ASTM規格の段落X2.4に記載されている、規格ISO 2856が推奨する比率''d/L''の2とは対照的に)比率''d/L''は5とされる。試験では、10Hzの周波数において単純な交互正弦波のせん断荷重を受ける加硫ゴム組成物の試験片の応答を記録する。試験中に課される最大せん断応力は0.7MPaである。測定は、ゴム材料のガラス転移点温度(Tg)より低い温度であるTminから、100℃付近の最大温度Tmaxまでの間で、1分間に1.5℃の割合で変化させて行われる。試験片は、試験片内の良好な温度均一性を得るために、試験開始前にTminにて約20分安定化される。得られる結果は、規定された温度での貯蔵弾性率(G')および損失弾性率(G'')である。複素弾性率G*は、貯蔵弾性率及び損失弾性率の絶対値より、下記式にて定義される:
【0012】
上記のように構成された本発明においては、ブロックの側壁部のうち、補強層が設けられた側壁部において、その側壁部の50%以上の領域にわたるよう補強層を設けているので、雪上のように路面の摩擦係数が接地要素を変形させるのに十分高い路面を走行する際、局所的に高いエッジ圧力を得ることが出来る。従って、ブロックのエッジを雪に食い込ませることが可能となり、その結果、雪上性能を改善することが出来る。このような効果は、200MPa以上の材料のモジュラスを有する
天然樹脂又は熱可塑性樹脂を基にした材料で作られている補強層により、より顕著となる。
【0013】
さらに、本発明においては、ブロックの側壁部に設けられた補強層の平均厚さを0.5mm未満としているので、氷上のように路面の摩擦係数が接地要素を変形させるのに不十分な路面を走行する際、エッジ効果を発揮させつつもブロック全体としての接地圧をより均一に保つことが出来る。従って、ブロックの側壁部に補強層を設けても、ブロック全体で均一に路面に接することが可能となり、その結果、氷上性能をより確実に維持することが出来る。即ち、補強層の平均厚さを0.5mm以上とすると、氷上のように路面の摩擦係数が接地要素を変形させるのに不十分な路面を走行する際、接地要素の微小な変形により、補強層に多くの荷重がかかってしまい、局所的に接地圧力を上げてしまうので、氷上性能を低下させる恐れがある。
【0014】
本発明において、好ましくは、補強層が、ブロックにおけるタイヤ回転方向に面した少なくとも2つの側壁部に設けられている。
このように構成された本発明においては、雪上において加速時、減速時共に、補強層の設けられたブロック側壁部による局所的に高いエッジ圧力を得ることが出来、その結果、氷上性能の維持を図りながら、より雪上性能を向上させることが出来る。
【0015】
本発明において、好ましくは、前記ブロックは更に少なくとも1つの細い切れ込みを有し、細い切れ込みの2つの壁面部がそれぞれ第2の補強層を有し、第2の補強層は、0.5mm未満の平均厚さを有すると共に、細い切れ込みの各壁面部の50%以上の領域にわたって細い切れ込みに面するように細い切れ込みの壁面部の表面に露出
するように設けられ、
第2の補強層は、ブロックの接地面において、そのエッジから第2の補強層の平均厚さだけ内方の位置まで延びる第1領域を除く第2領域には露出せず、また、ブロックにおいて第2領域の内側の部分には設けられていない(図3参照)。
ここで、「細い切れ込み」とは、いわゆるサイプなどとも呼ばれる、ナイフの刃のようなものにより形成された切れ込みのことを言い、この細い切れ込みのトレッド表面での幅は、主に副溝に対して相対的に小さく、概ね2mm以下である。この細い切れ込みと、接地要素であるブロックの接地面との交差部も「エッジ」と呼ぶ。
このように構成された本発明においては、細い切れ込み部に設けられた第2の補強層により、細い切れ込みのエッジにおいても局所的に高いエッジ圧力を発生させることが出来、その結果、より確実に、氷上性能の維持を図りながら、より雪上性能を向上させることができる。
【0016】
本発明において、好ましくは、補強層及び/又は第2の補強層の平均厚さは0.3mm以下であり、より好ましくは0.2mm以下である。
このように構成された本発明においては、雪上では補強層の効果による高いエッジ圧力を発生させつつ、氷上でのブロック全体としての接地圧力をより均一にすることが出来、その結果、より確実に、氷上性能の維持を図りながら、雪上性能を向上させることが出来る。
【0017】
本発明において、好ましくは、補強層は、主溝または副溝の底面のタイヤ径方向高さに対するタイヤ径方向外側1.6mmの高さ位置から、接地要素の接地面のタイヤ径方向高さ位置までの領域内でブロックの側壁部に形成されている。
このように構成された本発明においては、氷上性能を維持しつつ雪上性能を向上させるような補強層のブロック側壁部での位置決め及び範囲設定の自由度を高めることが出来、これにより、より効果的に、氷上性能の維持を図りながら、雪上性能を向上させることが出来る。
【0018】
本発明において、好ましくは、第2の補強層は、細い切れ込みの底部のタイヤ径方向高さに対するタイヤ径方向外側1.6mmの高さ位置から、接地要素の接地面のタイヤ径方向高さ位置までの領域内で細い切れ込みの壁面部に形成されている。
このように構成された本発明においては、氷上性能の維持しつつ雪上性能を向上させるような第2の補強層の細い切れ込み壁面部での位置決め及び範囲設定の自由度を高めることが出来、これにより、より効果的に、氷上性能の維持を図りながら、雪上性能を向上させることが出来る。
【発明の効果】
【0019】
本発明による空気入りタイヤ用トレッド及びそのようなトレッドを有する空気入りタイヤによれば、氷上性能を維持しつつ、雪上性能を向上させることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の第1実施形態による空気入りタイヤ用トレッドを模式的に示す図である。
【
図2】
図1のII-II線に沿って見た空気入りタイヤ用トレッドの接地要素(ブロック)の拡大断面図である。
【
図3】本発明の第2実施形態による空気入りタイヤ用トレッドの接地要素(ブロック)の拡大断面図である。
【
図4】本発明の第3実施形態による空気入りタイヤ用トレッドの接地要素(ブロック)の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の好ましい実施形態を図面を参照して説明する。
先ず、
図1及至
図2により、本発明の第1実施形態による空気入りタイヤ用トレッドを説明する。
図1は、本発明の第1実施形態による空気入りタイヤ用トレッドを模式的に示す図であり、
図2は、本発明の第1実施形態による空気入りタイヤ用トレッドの接地要素であるブロックを模式的に示す拡大断面図である。
【0022】
先ず、
図1に示すように、符号1は、本発明の第1実施形態による空気入りタイヤ用トレッド1を示す。なお、この例におけるタイヤサイズは205/55R16であり、このトレッド1は、タイヤ回転方向が規定されていないものである。
このトレッド1には、主溝3及び副溝4によって区画された、タイヤ転動時に路面と接触する接地面2を有する接地要素(ブロック)5が形成されている。各接地要素5の、タイヤ回転方向に面したブロックの側壁部、つまり、副溝4に面した2つの側壁部5aには、それぞれ、接地面2に一部を露出する形で補強層6が形成されている。本実施形態においては、補強層6を含むブロック5の長さ(タイヤ回転方向の寸法)は30mm、幅(タイヤ幅方向の寸法)は20mmである。
【0023】
次に、各補強層6は、各ブロック側壁部5aの領域の50%以上の範囲にわたって形成されている。各ブロック側壁部5aの領域とは、ブロック5の各副溝4に面したそれぞれの部分の領域である。各ブロック側壁部5aにおける、補強層6以外の部分は、ブロック5自体の材料で形成される。本実施形態では、各補強層6は、
図1に示すように、各ブロック5の幅方向長さとほぼ同じ幅方向寸法を有し、且つ、
図2に示すように、高さ方向には、ほぼ副溝4の底面4aから接地要素5の接地面2までにわたって形成されている。
ここで、本実施形態においては、主溝3及び副溝4の深さは8mmであり、補強層6は、ブロック5の高さ方向にほぼ8mmの高さ寸法を有している。このように、本実施形態では、各補強層6は、各ブロック側壁部5aの領域のほぼ100%にわたって形成されている。
補強層6の平均厚さは0.5mm未満であり、好ましくは0.3mm以下であり、より好ましくは0.2mm以下である。本実施形態における補強層6の平均厚さは、0.15mmであり、ほぼ一定の厚さを有している。補強層6の厚さは、側壁部5aの副溝4に面した表面に垂直な方向の厚さであり、平均厚さは、補強層6における、副溝4の底面4a側から接地要素5の接地面2側までの間で測定される平均値、即ち、補強層6のほぼ全面での平均値である。
【0024】
補強層6は、200MPa以上の材料のモジュラスを有している。本実施形態においては、補強層6を形成している材料は天然樹脂を基にした材料であり、300MPaの材料のモジュラスを有している。なお、接地要素5自体の材料のモジュラスは10MPa以下である。
【0025】
このように形成された本実施形態においては、まず、接地要素5を構成するブロックの側壁部のうち、補強層6が設けられた側壁部5aにおいて、その50%以上の領域にわたって、副溝4に面するように設けられた補強層6により、雪上のように路面の摩擦係数が接地要素5を変形させるのに十分高い路面を走行する際、補強層6の効果により局所的に高いエッジ圧力を得ることが出来る。従って、接地要素5のエッジをより雪に食い込ませることが可能となり、これにより雪上性能を改善することが出来る。この効果は、補強層6が200MPa以上の材料のモジュラスを有することで、より顕著となる。
また、補強層6の平均厚さを0.5mm未満としているので、氷上のように路面の摩擦係数が接地要素5を変形させるのに不十分な路面を走行する際、エッジ効果を発揮させつつも接地要素5全体としての接地圧をより均一に保つことが可能となり、これにより氷上性能を維持することが出来る。
【0026】
一般的に、空気入りタイヤに使われる材料のモジュラスは通常0.1〜50MPaであり、高くても100MPa程度である。本実施形態のように補強層6に用いられる、200MPa以上のような相対的に高い材料モジュラスを有する材料としては、上述した天然樹脂を基にした材料(ゴム材料を含む)の他に、天然樹脂を基にした材料に繊維を混合または含浸させたもの、熱可塑性樹脂、及びそれらを積層または混合したもの等も使用することができ、接地要素5との接着性の向上もしくは更なる補強を目的として更に天然樹脂を基にした材料に含浸させた織布、不織布等と組み合わせて使用することもできる。
【0027】
なお、タイヤ回転方向が規定されているタイヤトレッドである場合などには、2つのブロック側壁部5aのうち、どちらか一方の側壁部5aに補強層6を設けるようにしても良い。
また、本実施形態においては副溝4の底面4aは補強層6によって覆われていないが、補強層6を設ける際の生産性の向上などを目的として、補強層6のタイヤ半径方向内方の縁部を延長して、補強層6が溝3、4の底面の一部又は全部を覆うように構成しても良い。
【0028】
また、本実施形態においては副溝4に面したブロックの側壁部5aのみに補強層6を設けているが、補強層6は、同様に、主溝3に面したブロックの側壁部にも設けることができる。これにより、補強層6による雪上性能向上効果を、氷上性能を維持しながらも横方向、すなわち操舵性能においても発揮させることができる。
【0029】
次に、
図3により、本発明の第2実施形態による空気入りタイヤ用トレッドを説明する。
図3は、本発明の第2実施形態による空気入りタイヤ用トレッドの接地要素を模式的に示す拡大断面図である。
【0030】
図3に示すように、第2実施形態のトレッド1には、上述した第1実施形態と同様に、主溝3及び副溝4によって区画された、タイヤ転動時に路面と接触する接地面2を有する接地要素(ブロック)5が形成されている。この第2実施形態による接地要素5には、接地面2に開口する2本の細い切れ込み7が形成されている。
接地要素5には、上述した第1実施形態と同様に、タイヤ回転方向に面したブロックの側壁部5aに補強層6が設けられ、また、細い切れ込み7にも、接地面2に一部を露出する形で補強層(第2の補強層)8が形成されている。なお、この第2実施形態における細い切れ込み及びその補強層8以外の構成は、上述した第1実施形態と同様であるので、ここでは、その説明を省略する。
図3に示すように、補強層8は、上述した第1実施形態の補強層6と同様に、0.5mm未満の平均厚さを有すると共に細い切れ込み7の2つの壁面部の50%以上の領域にわたって細い切れ込み7に面するよう形成され、用いられる材料も第1実施形態の補強層6と同様のものである。
【0031】
本実施形態では、このような細い切れ込み7及び補強層8の配置により、雪上のように路面の摩擦係数が接地要素5を変形させるのに十分高い路面を走行する際、補強層8の効果により、接地要素5のエッジのみならず細い切れ込み7のエッジにおいても局所的に高いエッジ圧力を得ることが出来る。従って、接地要素5及び細い切れ込み7のエッジをより雪に食い込ませることが可能となり、これにより、より効果的に雪上性能を改善することが出来る。
また、補強層8の平均厚さを0.5mm未満としているので、氷上のように路面の摩擦係数が接地要素5を変形させるのに不十分な路面を走行する際、エッジ効果を発揮させつつも接地要素5全体としての接地圧をより均一に保つことが可能となり、これにより氷上性能を維持することが出来る。
【0032】
なお、本実施形態においては細い切れ込み7の底面は補強層8によって覆われていないが、補強層8を設ける際の生産性の向上などを目的として、補強層8が細い切れ込み7の底面(底部)を覆うように構成しても良い。
【0033】
次に、
図4により、本発明の第3実施形態による空気入りタイヤ用トレッドを説明する。
図4は、本発明の第3実施形態による空気入りタイヤ用トレッドの接地要素を模式的に示す拡大断面図である。
【0034】
図4に示すように、第3実施形態のトレッド1は、上述した第1実施形態と同様に、主溝3及び副溝4によって区画された、タイヤ転動時に路面と接触する接地面2を有する接地要素(ブロック)5が形成されている。この第3実施形態による接地要素5には、第1実施形態と同様に、副溝4に面したブロックの側壁部5に補強層6が設けられている。この第3実施形態における補強層6は、副溝4の底面4aからタイヤ径方向外側に1.6mm離間した高さ位置から、接地要素5の接地面2の高さ位置までの領域内に形成されている。補強層6に用いられる材料、平均厚さは第1実施形態の補強層6と同様のものである。
この第3実施形態では、側壁部5aのほぼ70%の領域にわたって補強層6が設けられている。これらの補強層6は、上述した第1実施形態と同様に、各ブロック5の幅方向長さとほぼ同じ幅方向寸法を有する(図示せず)。なお、上述した第2実施形態における細い切れ込み7の補強層8も、この第3実施形態と同様に、細い切れ込み7の底部からタイヤ径方向外側に1.6mm離間した高さ位置から、接地要素5の接地面2の高さ位置までの領域内に形成するようにしても良い。
なお、上述した第1乃至第3実施形態において、補強層6及び補強層8の幅方向寸法を、それらが設けられるブロック5の側壁部の幅方向長さより短く構成しても良い。
【0035】
本実施形態においては、補強層6を接地要素5のブロックの側壁部に設置するための自由度を上げることが出来る。即ち、氷上性能を維持しつつ雪上性能を向上させるような補強層のブロック側壁部での位置決め及び範囲設定の最適化の自由度を高めることが出来る。従って、雪上のように路面の摩擦係数が接地要素5を変形させるのに十分高い路面を走行する際、補強層6の効果により接地要素5のエッジにおいて局所的に高いエッジ圧力を得ることが出来、かつ氷上のように路面の摩擦係数が接地要素5を変形させるのに不十分な路面を走行する際、エッジ効果を発揮させつつも接地要素5全体としての接地圧をより均一に保つことが可能な位置及び範囲に補強層6を設けることが可能となる。
【0036】
以上、本発明の特に好ましい実施形態について記述したが、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる。
【実施例】
【0037】
次に、本発明の効果を明確にするため、公知の形態の補強層を設けた従来例および本発明の実施例2(第2実施形態)に係る3種類の空気入りタイヤ用トレッドの接地要素(
図3参照)を、市販のコンピューターソフトウェアを使用したシミュレーション(有限要素法)用いて行った検証結果について説明する。
【0038】
従来例および実施例2に係る3種類の接地要素(ブロック)モデルのサイズは、いずれも、同一のゴム系材料で形成された短辺長さ20mm、長辺長さ30mm、高さ8mmの立方体とし、細い切れ込みを、それぞれ、接地要素(ブロック)の接地面に相当する面に開口する幅0.4mm、深さ7mmとした。各モデルには、表1に示すような材料のモジュラス及び/または平均厚みの異なる補強層が設けられている。
【0039】
このように設定した接地要素モデルを、適切な荷重を付加したうえで、雪上に相当する路面条件での接地要素に発生する最大接地圧力と、氷上に相当する路面条件での摩擦係数を求めた。上記各計算値は従来例を100とする指数で表され、数値の大きいほうが良好である。
【0040】
【表1】
【0041】
表1に示される如く、実施例1及至3による空気入りタイヤ用トレッドによれば、雪上性能を効果的に向上し、また氷上性能を維持しうるのが確認できる。
【符号の説明】
【0042】
1 空気入りタイヤ用トレッド
2 接地面
3 主溝
4 副溝
5 接地要素(ブロック)
5a 接地要素の側壁部
6 補強層
7 細い切れ込み(サイプ)
8 細い切れ込みの補強層