(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記フレキシブルフェンスの内方部分の前記トレッド部の路面と接触する面の垂線に対する平均傾斜角度は60度より大きい請求項1に記載の空気入りタイヤ用トレッド。
前記主溝の底面にはさらに摩耗限度を示すウエアインジケータが形成され、前記主溝の底面からの所定の高さD1は、ウエアインジケータの高さをTWIとしたとき、D1≦TWI+1mmなる関係を満たすように設定される請求項1及至3の何れか1項に記載の空気入りタイヤ用トレッド。
前記フレキシブルフェンスの外方部分の前記トレッド部の路面と接触する面の垂線に対する平均傾斜角度は30度より小さい請求項1及至4の何れか1項に記載の空気入りタイヤ用トレッド。
前記トレッド部は規定の回転方向を有し、前記フレキシブルフェンスの内方部分は、前記トレッド部の既定の回転方向の前側から後ろ側に向けて、前記主溝の底面に対するタイヤ半径方向の高さが高くなるよう形成される請求項1及至5の何れか1項に記載の空気入りタイヤ用トレッド。
前記フレキシブルフェンスの外方部分は、前記トレッド部の既定の回転方向の前側から後ろ側に向けて、前記主溝の底面に対するタイヤ半径方向の高さが高くなるよう形成される請求項6に記載の空気入りタイヤ用トレッド。
前記フレキシブルフェンスの外方部分の前記トレッド部の路面と接触する面の垂線に対する平均傾斜角度は0度である請求項1及至6の何れか1項に記載の空気入りタイヤ用トレッド。
前記主溝の底面にはさらに前記主溝に開口する開口部を有する複数の凹部が形成され、前記複数のフレキシブルフェンスの内方部分は、前記主溝の底面の複数の凹部にそれぞれ接続され且つ前記凹部の開口部を通って前記主溝内で延びるように形成される請求項1及至8の何れか1項に記載の空気入りタイヤ用トレッド。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2に開示された技術では、トレッドの摩耗により溝深さが小さくなっていくに従い、フレキシブルフェンスも摩耗によりその高さが低くなり、この高さの減少度合いが大きい程、水圧を受けても倒れづらくなり、その分、排水性能が低下するという問題点がある。このような排水性能の低下は、気柱共鳴音を低減させることによる騒音の低下と排水性能を両立させるという、フレキシブルフェンスの本来の役割に反するものである。
【0008】
そこで本発明は、上述した従来技術が抱える問題点を解決するためになされたものであり、気柱共鳴音を低減しつつ、摩耗末期まで安定した排水性能を得ることが出来る空気入りタイヤ用トレッドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明は、底面及び対向する2つの壁面を有し、且つ、深さD及び幅Wを有する少なくとも一本の主溝が形成された、タイヤ転動時に路面と接触するトレッド部と、フレキシブルフェンスであって、厚さEを有し、主溝の断面積の少なくとも70%を遮るように且つ主溝の底面から壁面と隙間を有するようにタイヤの半径方向外側方向に主溝内で延び、タイヤ転動時、トレッド踏面内の主溝内に少なくとも1つ存在するような間隔で配置された複数のフレキシブルフェンスと、を有する空気入りタイヤ用トレッドであって、複数のフレキシブルフェンスは、主溝の底面に接続する端縁部を有する内方部分と、主溝の底面からの所定の高さD1より半径方向外側の外方部分と、を有し、フレキシブルフェンスは、主溝の延びる方向に平行、且つ、トレッド部の路面と接触する面に垂直な面における断面視において、内方部分の、トレッド部の路面と接触する面の垂線に対する平均傾斜角度が、外方部分の、トレッド部の路面と接触する面の垂線に対する平均傾斜角度より大きいことを特徴としている。
【0010】
このように構成された本発明においては、まず、主溝内に形成され、主溝の底面からタイヤ半径外側方向に延びると共に主溝の断面積の少なくとも70%を遮断するフレキシブルフェンスにより、路面との間で形成される主溝の気柱の長さを、フレキシブルフェンスを形成しない場合に対して変更して、気柱共鳴音のピークを人間の耳に届きやすい周波数帯から外すことが容易になり、その結果、気柱共鳴音による騒音が改善される。
【0011】
さらに、本発明においては、フレキシブルフェンスが主溝の底面に接続する端部を有する内方部分と、主溝の底面からの所定の高さD1(但しD1はDより小さい)よりタイヤ半径方向外方の外方部分とを有し、内方部分のトレッド部の路面と接触する面の垂線に対する平均傾斜角度が、外方部分のトレッド部の路面と接触する面の垂線に対する平均傾斜角度より大きくなるよう構成しているので、主溝内に入り込んだ水の水圧によりフレキシブルフェンスを倒れ易くすることが出来、これにより、主溝の排水性を確保することができる。
また、主溝の排水性をトレッド部の摩耗末期まで確保することができる。即ち、フレキシブルフェンスの外方部分より平均傾斜角度の大きい内方部分は、水圧によって、より倒れ込み易くすることが出来るので、トレッド部の摩耗が進行してフレキシブルフェンスの高さが低くなっても、倒れ込みやすさを確保できる。その結果、摩耗末期まで排水性を確保することができるのである。
ここで、主溝の底面からの所定の高さD1は、仮に、フレキシブルフェンス全体の平均傾斜角度を、本発明で規定している外方部分の平均傾斜角度と同じ角度に設定して設けたと仮定した場合(フレキシブルフェンスが、トレッド部の路面と接触する面に垂直な角度で延びるよう設けられているような従来技術のものも含む)、摩耗によりフレキシブルフェンスの高さが減少したとき、主溝内に入り込んだ水の水圧によって、摩耗して高さが減少したフレキシブルフェンスが倒れこむことが難しくなる高さのことを言う(例えば、
図10参照)。従って、内方部分のトレッド部の路面と接触する面の垂線に対する平均傾斜角度を、外方部分のトレッド部の路面と接触する面の垂線に対する平均傾斜角度より大きくなるよう構成することにより、摩耗末期まで、主溝の排水性を確保することが出来るのである(例えば、
図5参照)。ここで、この所定の高さD1は、フレキシブルフェンス4の厚さEや、その材質、フレキシブルフェンス4の設けられる主溝3の溝幅Wや溝深さDが変わることにより変化し、適宜設定される。
【0012】
ここで、「溝」とは、通常の使用条件下で相互に接触することのない二つの対向する面(壁面)を、他の面(底面)により接続して構成された、幅及び深さを持つ空間のことをいう。
【0013】
また、「主溝」とは、流体の排出を主に受け持つ、トレッドに形成される種々の溝の中で比較的広い幅を持つ溝のことを言う。主溝は、多くの場合、直線状、ジグザグ状又は波上にタイヤ周方向に延びる溝を意味するが、タイヤ回転方向に対して角度を持って延びる、流体の排水を主に受け持つ比較的広い幅を持つ溝も含まれる。
【0014】
また、「トレッド踏面」とは、タイヤを下記の産業規格で定められている適用リムに装着すると共に、定格内圧を充填し、定格荷重を負荷した際に路面と接触するトレッドの表面領域のことをいう。
【0015】
また、「規格」とは、タイヤが生産または使用される地域に有効な産業規格によって定められるものである。例えば、産業規格は、欧州ではETRTO(The European Tyre and Rim Technical Organization)の“STANDARDS MANUAL”であり、米国ではTRA(THE TIRE AND RIM ASSOCIATION INC.)の“YEAR BOOK”であり、日本では日本自動車タイヤ協会(JATMA)の“JATMA YEAR BOOK”である。また、「適用リム」とは、タイヤのサイズに応じてこれら規格に規定されたリムをいい、「定格内圧」とは、これらの規格において、負荷能力に対応して規定される空気圧をいい、「定格荷重」とは、これらの規格において、タイヤに負荷することが許容される最大の質量をいう。
【0016】
また、「平均傾斜角度」とは、対象部分、即ち、フレキシブルフェンスの内方部分又は外方部分において、それぞれ、それらが有する二つの端点を結ぶ直線の、トレッドの路面と接触する面の垂線に対する角度のことを言う。この二つの端点を結ぶ直線が、トレッドの路面と接触する面の垂線に対して、平行な場合はこの平均傾斜角度は0度となり、垂直な場合はこの平均傾斜角度は90度となる。
【0017】
本発明において、好ましくは、フレキシブルフェンスの内方部分のトレッド部の路面と接触する面の垂線に対する平均傾斜角度は60度より大である。
このように構成された本発明においては、気柱共鳴音の低減を図りながら、排水性を確保し、その排水性をトレッド部の摩耗末期まで、より確実に確保することが出来る。即ち、フレキシブルフェンスの内方部分の平均傾斜角度を60度よりも小さくすると、トレッド部の摩耗によりフレキシブルフェンスの高さが低くなった際、フレキシブルフェンスの水圧による倒れ込みやすさを十分に確保することが難しくなり、トレッド部の摩耗進行と共に排水性が低下してしまう恐れがある。従って、フレキシブルフェンスの内方部分の平均傾斜角度を60度より大きくすれば、気柱共鳴音の低減を図りながら、排水性を確保し、その排水性をトレッド部の摩耗末期まで確保することが出来る。
【0018】
本発明において、好ましくは、フレキシブルフェンスの主溝の底面からの所定の高さD1は主溝の溝深さDの50%未満である。
このように構成された本発明においては、気柱共鳴音の低減を図りながら、排水性を確保し、その排水性をトレッド部の摩耗末期まで、より確実に確保することが出来る。即ち、主溝の底面からの所定高さD1を主溝の溝深さDの50%よりも大きくすると、摩耗末期での排水性の確保は可能なものの、外方部分を含むフレキシブルフェンス全体での、主溝内の空気の流れを遮ることによる気柱共鳴音の低減効果が得にくくなり、気柱共鳴音の低減効果とトレッド部の摩耗末期における排水性の確保の効果の両立が難しくなる恐れがある。
また、主溝の底面からの所定高さD1を主溝の溝深さDの50%よりも大きくすると、内方部分の平均傾斜角度を外方部分の平均傾斜角度より大きくするように構成していることに起因して、主溝が延びる方向にフレキシブルフェンスの長さが長くなり、フレキシブルフェンスの製造時に金型からの離形が難しくなるので、そのようなタイヤの生産性を低下させる恐れがある。
従って、主溝の底面からの所定高さD1を主溝の溝深さDの50%未満とすれば、生産性を確保しつつ、気柱共鳴音の低減の効果と、摩耗末期までの排水性の確保の効果との両立を、より確実に確保することが出来る。
【0019】
本発明において、好ましくは、主溝の底面からの所定の高さD1は、主溝の底面に形成された摩耗限度を示すウエアインジケータの高さをTWIとしたとき、D1≦TWI+1mmなる関係を満たすように設定される。
このように構成された本発明においては、気柱共鳴音の低減を図りながら、排水性を確保し、その排水性をトレッド部の摩耗末期まで、より確実に確保することが出来る。即ち、主溝の底面からの所定高さD1を、ウエアインジケータの高さTWI+1mmよりも大きくすると、摩耗末期での排水性の確保は可能なものの、外方部分を含むフレキシブルフェンス全体での、主溝内の空気の流れを遮ることによる気柱共鳴音の低減効果が得にくくなり、気柱共鳴音の低減効果とトレッド部の摩耗末期における排水性の確保の効果の両立が難しくなる恐れがある。
また、所定高さD1を、ウエアインジケータの高さTWI+1mmよりも大きくすると、内方部分の平均傾斜角度を外方部分の平均傾斜角度より大きくするように構成していることに起因して、フレキシブルフェンスの長さが長くなり、フレキシブルフェンスの製造時に金型からの離形が難しくなるので、そのようなタイヤの生産性を低下させる恐れがある。
従って、主溝の底面からの所定高さD1が主溝の底面に形成された摩耗限度を示すウエアインジケータの高さをTWIとしたときD1≦TWI+1mmなる関係を満たすようにすれば、生産性を確保しつつ、気柱共鳴音の低減を図りながら、排水性を確保し、その排水性をトレッド部の摩耗末期までより確実に確保することが出来る。
【0020】
ここで、「ウエアインジケータ」とは、スリップサイン等とも呼ばれる、主溝の底面の一部に溝深さを減じるように設けられた棚状部分のことを言う。ウエアインジケータはタイヤの摩耗使用限界(摩耗限界)を示すインジケータであり、トレッド部の摩耗が進行した際、その棚状部分の高さとトレッド部の高さが等しくなることで、主溝の一部が途切れて見えるようになる。一般にはこの棚状部分の主溝の底面からの高さTWIは、乗用車用タイヤ、ライトトラック用タイヤ及びトラックバス用タイヤでは1.6mmである。なお、ウエアインジケータは主溝以外の溝に設けられることもある。
【0021】
本発明において、好ましくは、フレキシブルフェンスの外方部分のトレッド部の路面と接触する面の垂線に対する平均傾斜角度は30度より小である。
このように構成された本発明においては、特に新品時、摩耗初期または摩耗中期にかけて、主溝の空気の流れをより確実に遮るようにすると共に、主溝内の水の水圧でフレキシブルフェンスの外方部分の倒れ込みやすさをより確実に確保することができるため、気柱共鳴音の低減を図りながら、排水性を確保し、その排水性をトレッド部の摩耗末期まで確保することが出来る。
【0022】
本発明において、好ましくは、トレッド部は規定の回転方向を有し、フレキシブルフェンスの内方部分は、トレッド部の既定の回転方向の前側から後ろ側に向けて、主溝の底面に対するタイヤ半径方向の高さが高くなるよう形成される。
このように構成された本発明においては、走行時、主溝内の流体の流れる方向とフレキシブルフェンスの内方部分の倒れ込む方向が同じ方向になるので、特にトレッド部の摩耗末期においてフレキシブルフェンスの内方部分の倒れ込みやすさをより確実に確保することができる。
【0023】
本発明において、好ましくは、フレキシブルフェンスの外方部分は、トレッド部の既定の回転方向の前側から後ろ側に向けて、主溝の底面に対するタイヤ半径方向の高さが高くなるよう形成される。
このように構成された本発明においては、主溝内の流体の流れる方向とフレキシブルフェンスの外方部分の倒れ込む方向が同じ方向になるので、フレキシブルフェンスの外側部分の倒れ込みやすさをより確実に確保することができる。
【0024】
本発明において、好ましくは、フレキシブルフェンスの外方部分のトレッド部の路面と接触する面の垂線に対する平均傾斜角度が0度である。
このように構成された本発明においては、平均傾斜角度が0度となるように形成されたフレキシブルフェンスの外方部分は、最も効果的に気柱共鳴音の発生を抑制することができるので、より確実に、気柱共鳴音の低減を図りながら、排水性を確保することが出来る。
【0025】
本発明において、好ましくは、主溝の底面には更に主溝に開口する開口部を有する複数の凹部が形成され、複数のフレキシブルフェンスの内方部分は、主溝の底面の複数の凹部にそれぞれ接続され且つ凹部の開口部を通って主溝内で延びるように形成される。
このように構成された本発明においては、フレキシブルフェンスの内方部分の接続部を主溝の底面よりも低くすることができるため、主溝内の流体の圧力によりフレキシブルフェンスが倒れ込んだ際の主溝の断面の開口割合をより大きくすることができ、その結果、より確実に、気柱共鳴音の低減を図りながら、排水性を確保し、その排水性をトレッド部の摩耗末期まで確保することが出来る。
【0026】
本発明において、好ましくは、フレキシブルフェンスの厚さEは0.3mm以上2.0mm以下である。
このように構成された本発明においては、気柱共鳴音の低減を図りながら、排水性を確保し、その排水性を摩耗末期まで確保することができる。即ち、フレキシブルフェンスの厚さを0.3mmよりも小さくすると、フレキシブルフェンスの寸法的な剛性の低下により、空気圧によってもフレキシブルフェンスが倒れ込んでしまい、気柱共鳴音の低減効果が減少する恐れがある。一方、フレキシブルフェンスの厚さを2.0mmよりも大きくすると、フレキシブルフェンスが主溝内に倒れ込んだ際の主溝の断面の開口割合が小さくなり、排水性が低下する恐れがある。
【発明の効果】
【0027】
本発明による空気入りタイヤトレッドによれば、気柱共鳴音を低減し、排水性能を維持しつつ、その排水性能をトレッド部の摩耗末期まで維持することが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の好ましい実施形態を図面を参照して説明する。
先ず、
図1及至
図3により、本発明の第1実施形態による空気入りタイヤ用トレッドを説明する。
図1は、本発明の第1実施形態による空気入りタイヤ用トレッドを模式的に示す図であり、
図2は、
図1のII−II線に沿って見た空気入りタイヤ用トレッドの拡大断面図であり、
図3は、
図1のIII−III線に沿って見た空気入りタイヤ用トレッドの拡大断面図である。
先ず、
図1に示すように、符号1は、本実施形態による空気入りタイヤ1を示し、この空気入りタイヤ1はトレッド部2を有し、トレッド部2には、XX‘にて示すタイヤ周方向に延びる幅Wの二本の主溝3が形成されている。主溝3は、3つの面、即ち、対向する壁面31,32及び底面33を有し、この底面33には主溝の溝深さを減じるように設けられた棚状のウエアインジケータ6(
図3参照)が形成されている。なお、この例におけるタイヤサイズは225/55R16であり、トレッド部2のタイヤ回転方向は規定されていない。本実施形態においては、主溝3の溝幅Wは14.5mmである。
この図上には、タイヤが定格内圧に充填され、定格荷重が負荷された際のトレッド踏面5及びその際のトレッド踏面長さLが図示されている。なお”ETRTO STANDARD MANUAL 2011“によれば、当該サイズの適用リムは7J、定格内圧は250kPa、定格荷重は690kgであり、本実施形態においては、踏面長さLは143mmである。
【0030】
ここで、タイヤ転動中に、トレッド踏面5を通過する各主溝3は、路面との間に気柱を形成し、主溝3の共振周波数は、そのようにして形成された気柱の長さに依存する。本実施形態では、気柱の長さを変化させて気柱共鳴音の周波数を変化させるために、
図1及至
図3に示すように、主溝3内に幅lのフレキシブルフェンス4が設けられている。
図1に示すように、同一の主溝3内に形成される各フレキシブルフェンス4の設置間隔Pは、タイヤ転動中に、少なくとも一つのフレキシブルフェンスが、各主溝3の踏面5内に常に存在するように、踏面長さLよりも短い間隔になるように設けられている。また、主溝3に設けられたウエアインジケータ6は、タイヤの摩耗限度を示すような高さを有する棚状に形成されている。本実施形態においては、フレキシブルフェンス4の幅lは13.5mmである。
【0031】
次に、
図2及び
図3に示すように、このフレキシブルフェンス4は、主溝3の底面33との接続部(端縁部)411を有し、この接続部411から所定の角度で延びる内方部分41と、主溝3の底面33からの高さD1(所定の高さD1)より半径方向外方で所定の角度で延びる外方部分42とで構成されている。
図3に示すように、フレキシブルフェンス4は、ほぼ全体的に、タイヤ半径方向(タイヤ回転軸に対して垂直方向)外方に向けて延びるように設けられている。また、
図2に示すように、フレキシブルフェンス4の両側の側面部43は、上述した主溝3の底面33との接続部411を除き、その全体が、主溝3の対向する壁面31,32と所定の隙間を有するよう設けられている。
【0032】
図1に示すように、各フレキシブルフェンス4は、主溝3が延びる方向に対し、その幅lの方向が垂直に延びるよう形成されている。
図2及び
図3に示すように、各フレキシブルフェンス4の内方部分41及び外方部分42は、上述した幅lと、厚さEとを有している。
また、
図2に示すように、フレキシブルフェンス4は、主溝3の長手方向から見て(正面視)長方形状に形成され、
図2及び
図3に示すように、主溝3の深さDよりやや低い高さhを有している。
【0033】
このフレキシブルフェンス4は、主溝3の断面積の少なくとも70%を遮断するよう形成され、主溝3内を流れる主に水のような液体による水圧により倒れこむように形成されている。本実施形態において、主溝3の深さDは8.0mm、フレキシブルフェンス4の高さhは7.0mm、フレキシブルフェンス4の厚さEは0.6mmであり、フレキシブルフェンス4は主溝3の断面積の約87%を遮断している。また、ウエアインジケータ6の高さTWIは1.6mmである。
なお、例えば、本実施形態のタイヤの例において、フレキシブルフェンス4を、主溝3の断面積の少なくとも70%を遮断するように、およそ5.6mm以上の高さhを有する形状のものとしてもよい。なお、本実施形態の例に限らず、主溝3の溝幅W及び溝深さDが変われば、このフレキシブルフェンス4の高さhもそれに応じて変更して、主溝3の断面積の少なくとも70%を遮断するようにすればよい。
【0034】
次に、フレキシブルフェンス4の内方部分41及び外方部分42について、詳細に説明する。
先ず、フレキシブルフェンス4の内方部分41は、
図3に示すような、主溝3の延びる方向に平行、且つ、トレッド部2の路面と接触する面5に垂直な面における断面視において、主溝3の底面33との接続部(第1端点)411と、この接続部411から主溝3内に向けて延び、フレキシブルフェンス4が主溝3の底面33からの高さD1(所定の高さD1)に到達する点(第2端点)412とを結ぶ直線が、トレッド部2の路面と接触する面の垂線Tに対して第1平均傾斜角度J1を有している。
また、フレキシブルフェンス4の外方部分42は、同様に
図3に示すような断面視において、上述してフレキシブルフェンス4の主溝3の底面33からの高さD1の第2端点412と、フレキシブルフェンス4の外方部分42のタイヤ半径方向における最も外側の端部(第3端点)422とを結ぶ直線が、トレッド部2の路面と接触する面の垂線Tの角度(0度とする)と同様の第2平均傾斜角度(J2)(0度)を有している。
本実施形態において、主溝3の底面33からの高さD1(所定高さD1)は、主溝3の溝深さDの50%未満かつウエアインジケータの高さTWIに対してD1≦TWI+1mmなる関係を満たす2.2mmであり、フレキシブルフェンス4の内方部分41の第1平均傾斜角度J1は65度である。
ここで、主溝3の底面33からの高さD1は、フレキシブルフェンス4が内方部分41を持たずに外方部分42が主溝3の底面33まで延びていたと仮定した時、摩耗によりフレキシブルフェンス4の高さが減じた際に、フレキシブルフェンス4が主溝3内を通過する主に水のような液体の発生する水圧によって倒れこむことが難しくなる高さである。言い換えると、主溝の底面からの所定の高さD1は、仮に、フレキシブルフェンス全体の平均傾斜角度を、本実施形態で規定している外方部分42の
第2平均傾斜角度J2と同じ角度に設定して設けたと仮定した場合(フレキシブルフェンスが、トレッド部の路面と接触する面に垂直な角度(トレッド部2の路面と接触する面の垂線Tと平行な角度)で延びるよう設けられているような従来技術のものも含む)、摩耗によりフレキシブルフェンスの高さが減少したとき、主溝内に入り込んだ水の水圧によって、摩耗して高さが減少したフレキシブルフェンスが倒れこむことが難しくなる高さのことを言う(例えば、後述する
図10参照)。この高さD1は、フレキシブルフェンス4の厚さEや、その材質、フレキシブルフェンス4の設けられる主溝3の溝幅Wや溝深さD等に応じて変更すべき高さであり、空気入りタイヤ用トレッドの設計時に適宜設定される。
【0035】
本実施形態では、フレキシブルフェンス4は、空気入りタイヤ1のトレッド部2と同じ材料で構成されている。なお、フレキシブルフェンス4を、トレッド部2と異なる材料で構成するようにしても良い。
【0036】
次に、本発明の第1実施形態による空気入りタイヤ用トレッドの主な作用効果を説明する。
本実施形態において、このフレキシブルフェンス4は、外方部分42と、外方部分42の平均傾斜角度J2よりも大きい平均傾斜角度J1を有する内方部分41とで構成されている。従って、摩耗が進行してフレキシブルフェンス4の高さが減少した場合でも、内方部分41の平均傾斜角度J1が大きいこと、即ち、フレキシブルフェンス4をあらかじめ倒しこんでおくこと、と同様の効果が得られるため、摩耗が進行したとき、フレキシブルフェンス4が主溝3内を通過する主に水のような液体の発生する水圧によって十分倒れこむことができ、気柱共鳴音を低減しながら、主溝3の排水性を摩耗末期までより確実に確保することができるものである。
【0037】
次に、
図4及び
図5により、本発明の第1実施形態による空気入りタイヤ用トレッドの、濡れた路面を走行中の状態を説明する。
図4は、
図3と同様に示す、
図1のIII−III線に沿って見た空気入りタイヤ用トレッドの濡れた路面を走行中の状態を示す拡大断面図であり、
図5は、
図3と同様に示す、
図1のIII−III線に沿って見た空気入りタイヤ用トレッドの拡大断面図であり、この
図5では、トレッド部の溝深さが約75%摩耗した状態で濡れた路面を走行中の状態を模式的に示す。
【0038】
先ず、
図4に示すように、上述した内方部分41および外方部分42を有するフレキシブルフェンス4は、特にタイヤ新品時や摩耗初期において、濡れた路面を走行する際、主溝3内を通過する主に水のような液体の発生する水圧によって倒れこみ、或いは、曲げられ、結果としてその高さがh'まで減少し、その高さの減少により、主溝3の主要部分が開放され、排水性が確保される。
【0039】
次に、
図5に示すように、トレッド部2が摩耗して、その高さが上述した高さD1まで減少している場合、フレキシブルフェンス4も同様の高さD1までその高さが減少するが、そのような高さが減少した状態であっても、フレキシブルフェンス4の外方部分42よりも大きな平均傾斜角度J1を有する内方部分41は、主溝3内を通過する主に水のような液体の発生する水圧によって倒れこみ、或いは、曲げられることが容易となる。その結果として、水圧を受けたとき、フレキシブルフェンス4の高さがh'まで減少し、その高さの減少により、主溝3の主要部分を開放することが可能となり、トレッド部2の摩耗末期まで排水性が確保される。
【0040】
このようなフレキシブルフェンスは、例えば国際公開WO2010/146180号公報に公開されているような方法で形成することができる。
【0041】
次に、
図6により、本発明の第2実施形態による空気入りタイヤ用トレッドを説明する。
図6は、
図1のIII−III線に相当する位置に沿って見た、本発明の第2実施形態による空気入りタイヤ用トレッドの拡大断面図である。本実施形態のフレキシブルフェンス4の形状及び寸法などの基本構成は、上述した第1実施形態と同様であり、ここでは、主に、上述した第1実施形態と異なる構成について主に説明する。
図6に示すように、空気入りタイヤ1のトレッド部2には溝深さDの主溝3が形成され、本実施形態では、第1実施形態と同様に、フレキシブルフェンス4は、主溝3の底面33に接続する端部(第1端点)411を有する内方部分41と、主溝3の底面からの高さD1(所定の高さD1)の点(第2端点)よりタイヤ半径方向外方の外方部分42とで構成されている。また、本実施形態によるフレキシブルフェンス4の内方部分41は、その第1端点411と第2端点412とを結ぶ直線が、トレッド部2の路面と接触する面の垂線Tに対して平均傾斜角度J1を有するように設けられている。一方、フレキシブルフェンス4の外方部分42は、その第2端点412と第3端点422とを結ぶ直線が、トレッド部2の路面と接触する面の垂線Tに対して傾斜して延び、本実施形態では、
図6に示すような平均傾斜角度J2を有するように設けられている。本実施形態においても、第1実施形態と同様に、内方部分41の平均傾斜角度J1が外方部分42の傾斜角度J2よりも大きくなるように設けられている。また、外方部分42の平均傾斜角度J2は、30度より小さく設定される。
具体的には、本実施形態における内方部分41の平均傾斜角度J1は69度であり、外方部分42の平均傾斜角度J2は20度であり、主溝3の底面33からの高さD1は主溝3の溝深さDの50%未満かつウエアインジケータの高さTWIに対してD1≦TWI+1mmなる関係を満たす2.6mmである。
また、
図6に示すように、本実施形態では、フレキシブルフェンス4の主溝3の底面33との接続部411は、製造時の型抜き性を良好にするようなごく短く垂直方向に延びる部分(取り付け部)が設けられている。
【0042】
次に、本発明の第2実施形態による空気入りタイヤ用トレッドの主な作用効果を説明する。本実施形態による空気入りタイヤの作用効果は、基本的に上述した第1実施形態と同様であり、ここでは、主に第2実施形態に特有の作用効果を説明する。
本実施形態では、フレキシブルフェンス4の外方部分42にもトレッド部2の路面と接触する面の垂線Tに対して傾斜する平均傾斜角度J2を持たせているので、摩耗初期からフレキシブルフェンス4の良好な倒れこみ性を確保することが可能となる。また、摩耗が進行してフレキシブルフェンス4の高さが減少した際でも、内方部分41の平均傾斜角度J1が大きいので、フレキシブルフェンス4をあらかじめ倒しこんでおく事と同様の効果が得られ、これにより、摩耗末期でも、フレキシブルフェンス4が、主溝3内を通過する主に水のような液体の発生する水圧によって十分倒れこむことができ、気柱共鳴音を低減しつつ、主溝3の排水性を摩耗末期までより確実に確保することができる。
また、外方部分42の平均傾斜角度J2は、30度より小さく設定されるので、特に、タイヤ新品時から摩耗初期または摩耗中期にかけて、主溝3の空気の流れを効果的に遮ることが出来る。また、そのようにして気柱共鳴音の発生を効果的に抑制すると共に、上述したように、主溝3内の水の水圧でフレキシブルフェンス4の倒れ込み易さも効果的に得ることが出来る。
【0043】
次に、
図7により、本発明の第3実施形態による空気入りタイヤ用トレッドを説明する。
図7は、
図1のIII−III線に相当する位置に沿って見た、本発明の第3実施形態による空気入りタイヤ用トレッドの拡大断面図である。本実施形態のフレキシブルフェンス4の形状及び寸法などの基本構成は、上述した第1及び第2実施形態と同様であり、ここでは、上述した第1及び第2実施形態と異なる構成について主に説明する。
図7に示すように、空気入りタイヤ1のトレッド部2には溝深さDの主溝3が形成され、本実施形態では、フレキシブルフェンス4は全体としてなだらかな曲線状(例えば、円弧状、放物線状、スプライン曲線等)となるように構成されている。本実施形態においても、このような曲線状とした場合でも、主溝3の底面33に接続する端部(第1端点)411を有する内方部分41と、主溝3の底面からの高さD1(所定の高さD1)の点(第2端点)よりタイヤ半径方向外方の外方部分42とで構成されている。
また、本実施形態によるフレキシブルフェンス4の内方部分41は、その第1端点411と第2端点412とを結ぶ直線が、トレッド部2の路面と接触する面の垂線Tに対して平均傾斜角度J1を有するように設けられている。また、フレキシブルフェンス4の外方部分42は、その第2端点412と第3端点422とを結ぶ直線が、トレッド部2の路面と接触する面の垂線Tに対して平均傾斜角度J2を有するように設けられている。本実施形態においても、上述した第1及び第2の実施形態と同様に、内方部分41の平均傾斜角度J1が外方部分42の傾斜角度J2よりも大きくなるように設けられている。また、第2実施形態と同様に、製造時の型抜き性を良好にするために、フレキシブルフェンス4の主溝3の底面33との接続部411にはごく短く垂直方向に延びる取り付け部が設けられている。
本実施形態における内方部分41の平均傾斜角度J1は62度であり、外方部分42の平均傾斜角度J2は23度であり、主溝3の底面33からの高さD1は主溝3の溝深さDの50%未満かつウエアインジケータの高さTWIに対してD1≦TWI+1mmなる関係を満たす2.5mmである。
【0044】
次に、本発明の第3実施形態による空気入りタイヤ用トレッドの主な作用効果を説明する。本実施形態による空気入りタイヤの作用効果は、基本的には上述した第1及び第2実施形態と同様であり、ここでは、主に第3実施形態に特有の作用効果を説明する。
本実施形態では、このようななだらかな曲線状に形成されたフレキシブルフェンスであっても、内方部分41の平均傾斜角度J1が外方部分42の平均傾斜角度J2よりも大きくなるように設定されているので、上述した第1及び第2の実施形態と同様に、摩耗初期からフレキシブルフェンス4の良好な倒れこみ性を確保することが可能となるばかりでなく、摩耗が進行してフレキシブルフェンス4の高さが減少した際でも、内方部分41の平均傾斜角度が大きいので、フレキシブルフェンス4をあらかじめ倒しこんでおく事と同様の効果が得られ、これにより、摩耗末期でも、フレキシブルフェンス4が、主溝3内を通過する主に水のような液体の発生する水圧によって十分倒れこむことができ、気柱共鳴音を低減しつつ、主溝3の排水性を摩耗末期までより確実に確保することができる。
また、フレキシブルフェンス4を全体としてなだらかな曲線状である円弧状や放物線状等とすることで、そのようなフレキシブルフェンスを有する空気入りタイヤを製造する際の型抜き時にフレキシブルフェンス4にかかるストレスを減少させることが可能となり、生産性が向上する。
【0045】
次に、
図8により、本発明の第4実施形態による空気入りタイヤ用トレッドを説明する。
図8は、
図1のIII−III線に相当する位置に沿って見た、本発明の第4実施形態による空気入りタイヤ用トレッドの拡大断面図である。本実施形態のフレキシブルフェンス4の形状及び寸法などの基本構成は、上述した第1及至第3実施形態と同様であり、ここでは、上述した第1及至第3実施形態と異なる構成について主に説明する。
図8に示すように、空気入りタイヤ1のトレッド部2には溝深さDの主溝3が形成され、主溝3の底面33には、更に、底面33からの深さDrの凹部8が形成されている。この凹部8は、主溝3に開口する開口部81及び底部82を有する。本実施形態におけるフレキシブルフェンス4は、第1実施形態と同様の基本構成としながらも、その内方部分41の端部(第1端点)411が、凹部8の底部82に接続されており、フレキシブルフェンス4は凹部8の開口部81を通って主溝3内で延びるように構成されている。
フレキシブルフェンス4の内方部分41は、上述した第2の実施形態と同様に、トレッド部2の路面と接触する面の垂線Tに対する平均傾斜角度J1を有するように設けられ、フレキシブルフェンス4の外方部分42は、トレッド部2の路面と接触する面の垂線Tと同様の平均傾斜角度(0度)を有するように設けられ、内方部分41の平均傾斜角度J1が外方部分42の傾斜角度よりも大きくなるように設けられている。なお、フレキシブルフェンス4の構成は、上述した第1実施形態や第3実施形態のように構成しても良い。
本実施形態における内方部分41の平均傾斜角度J1は62度であり、主溝3の底面33からの高さD1は主溝3の溝深さDの50%未満かつウエアインジケータの高さTWIに対してD1≦TWI+1mmなる関係を満たす1.5mmであり、凹部6の主溝3の底面33からの深さDrは0.7mmである。
【0046】
次に、本発明の第4実施形態による空気入りタイヤ用トレッドの主な作用効果を説明する。本実施形態による空気入りタイヤの作用効果は、基本的には上述した第1及至第3実施形態と同様であり、ここでは、主に第4実施形態に特有の作用効果を説明する。
本実施形態のように主溝3の底面33に、主溝3の底面33に開口する開口部81を有する凹部8を設け、フレキシブルフェンス4を凹部8の底部82に接続し、凹部8の開口部81を通って主溝3内で延びるようにしている。このような構成により、トレッド部2の摩耗の進行と共にフレキシブルフェンス4の高さが減少したときでも、フレキシブルフェンス4の流体圧による倒れ込みの際、その接続端部411の近傍の大きくたわむ部分を主溝3の底面33により近づける事が出来る。従って、流体圧によるフレキシブルフェンス4の倒れ込みの際、主溝3内での水が流れる断面積をより確実に確保することが可能になるのみならず、内方部分41の平均傾斜角度が大きいので、トレッド部2の摩耗によりフレキシブルフェンス4の高さが減少した場合でも流体圧による良好な倒れこみを確保することが出来る。従って気柱共鳴音を低減しながら、主溝3の排水性を摩耗末期までより確実に確保することができる。
【0047】
次に、
図9により、本発明の第5実施形態による空気入りタイヤ用トレッドを説明する。
図9は、本発明の第5実施形態による空気入りタイヤ用トレッドを模式的に示す図である。本実施形態のフレキシブルフェンス4の形状及び寸法などの基本構成は、上述した第1及至第4実施形態と同様であり、ここでは、上述した第1及至第4実施形態と異なる構成について主に説明する。
図9に示すように、符号1は、本実施形態による空気入りタイヤ1を示し、この空気入りタイヤ1はトレッド部2を有し、トレッド部2には、XX‘にて示すタイヤ周方向に対して斜め方向に延びる幅Wの複数の主溝3が形成されている。主溝3は、3つの面、即ち、対向する壁面31,32及び底面33を有し、一部の主溝3の底面33は主溝の溝深さを減じるように設けられた棚状のウエアインジケータ6を有する。トレッド部2のタイヤ回転方向は矢印Rにより規定されている。
各主溝3には、幅lを有するフレキシブルフェンス4が主溝3の底面33から延びるように形成され、図示しないが、主溝3の延びる方向に平行且つトレッド部2の路面と接触する面に垂直な面における断面視で、上述した第1乃至第4の実施形態と同様に構成される(
図3、
図6〜8参照)。
本実施形態における、複数のフレキシブルフェンス4は、全て、その内方部分41が、上述したトレッド部2の規定の回転方向Rの反対方向、すなわち、規定の回転方向Rの回転方向前側から後ろ側に向けて、主溝3の底面33に対するタイヤ半径方向の高さが高くなるように形成されている(図示せず)。
なお、上述した第2及び第3の実施形態のように、フレキシブルフェンス4の外方部分42の平均傾斜角度J2を0度より大きく設定する場合も同様に、規定の回転方向Rの回転方向前側から後ろ側に向けて、外方部分42の主溝3の底面33に対するタイヤ半径方向の高さが高くなるように形成される。
即ち、本実施形態では、フレキシブルフェンス4の内方部分41及び/又は外方部分42の平均傾斜角度J1,J2が、規定の回転方向Rの回転方向前側から後ろ側に向けて角度が付くように形成される。
なお、上述した第1実施形態において、
図1に例示した2つの主溝3では、このようなフレキシブルフェンス4の角度の向きが、一方の主溝3と他方の主溝3とで、互いに異なる向きに設定されており、タイヤ回転方向が規定されていないトレッド部2においても、所定の効果を発揮するようになっている。なお、
図1に例示するような主溝3を有する空気入りタイヤ用トレッドにおいても、タイヤ回転方向が規定される場合は、本実施形態のように、全てのフレキシブルフェンス4を、規定の回転方向Rの回転方向前側から後ろ側に向けて、内方部分41及び/又は外方部分42の主溝3の底面33に対するタイヤ半径方向の高さが高くなるように、即ち、同じ向きに傾斜するように形成するのが好ましい。
【0048】
次に、本発明の第5実施形態による空気入りタイヤ用トレッドの主な作用効果を説明する。本実施形態による空気入りタイヤの作用効果は、基本的には上述した第1及至第4実施形態と同様であり、ここでは、主に第5実施形態に特有の作用効果を説明する。
本実施形態では、トレッド部2が規定の回転方向Rを有し、各主溝3に設けられたフレキシブルフェンス4の内方部分41の主溝3の底面33からの高さが、規定の回転方向Rの反対方向、すなわち、規定の回転方向Rの回転方向前側から後ろ側へと高くなるように形成することで、主溝3の内部を流体が流れる方向と、予め設定したフレキシブルフェンス4の内方部分41及び/又は外方部分42の傾斜方向とを一致させて、フレキシブルフェンス4が倒れこむ方向を流体の流れる方向と一致させることが出来る。従って、トレッド部2の摩耗によりフレキシブルフェンス4の高さが減少した場合でも流体圧による良好な倒れこみを確保することが出来るので、気柱共鳴音を低減しながら、主溝3の排水性を摩耗末期までより確実に確保することができる。
【0049】
なお、上述した各実施形態の変形例として、上述した作用を有するものであれば、フレキシブルフェンス4の内方部分41及び/又は外方部分42を、更に異なる形状の部分に分割したり、例えば、
図3に示す直線上の内方部分41を曲線状にすると共に外方部分42を直線状に設定したり、幅lに沿った形状(断面形状)が水圧で倒れ込み且つ路面との間で適切な接地圧力を発生させるように波打つような形状のものに形成したり、フレキシブルフェンス4の主溝3の長手方向(正面視)から見た面に、例えばフレキシブルフェンス4の曲げにくさ(曲げ剛性)を調整するような多少の突起物を設けたり、正面視で角が丸められた長方形状や台形状などの他の形状のものに形成したりしてもよい。
【0050】
以上、本発明の特に好ましい実施形態について記述したが、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる。
【0051】
次に、
図10は従来技術によるフレキシブルフェンスが設けられた空気入りタイヤ用トレッドの拡大断面図であり、トレッド部の溝深さが約60%摩耗した状態で濡れた路面を走行中の状態を模式的に示す図である。この
図10のタイヤサイズは第1実施形態による空気入りタイヤ用トレッドと同じである。
この
図10に示す例では、フレキシブルフェンス104は、その端部141が、壁面131を有する主溝103の底面133に接続され、トレッド部102の路面と接触する面に垂直な角度で延びるよう設けられたものである。なお、符号106はウェアインジケータを示す。
図10に示すように、トレッド部の摩耗によりフレキシブルフェンスの高さはD1まで摩耗して減少しているが、この例のフレキシブルフェンス104では、上述した各実施形態のような内方部分と外方部分とを有する構成とされていないので、特に、接続端部141の近傍ではフレキシブルフェンス104が倒れにくくなり、摩耗末期において、フレキシブルフェンス104が、主溝103を通過する液体の流体圧で倒れこむことが難しくなっていることが理解できる。
【実施例】
【0052】
次に、本発明の効果を明確にするため、従来技術によるフレキシブルフェンスを設けている従来例および本発明の実施例1(第1実施形態)に係る空気入りタイヤ用トレッドを、市販のコンピューターソフトウェアを使用したシミュレーション(有限要素法)を用いて行った検証結果について説明する。
【0053】
従来例および実施例1に係る2種類の空気入りタイヤ用トレッドのモデルは、いずれも、同一のゴム系材料で形成された新品時溝深さ8.0mm、溝幅14.5mmの主溝が設けられ、厚さ0.6mmのフレキシブルフェンスを主溝の底面に接続するように形成し、新品時及び摩耗により残り溝深さが2.0mmまで減少した状態での、各フレキシブルフェンスを十分に主溝内に倒れこませるために必要な流体圧をそれぞれ計算した。計算された流体圧は従来例を100とする指数で表示され、数値の大きいほうが良好(倒れこみが容易)である。
【0054】
【表1】
【0055】
表1に示される如く、実施例品は、トレッド部の摩耗末期まで良好な排水性を有することが確認出来、上述した第1及至第5実施形態の空気入りタイヤ用トレッドの構成により、主溝の気柱共鳴音の低減と排水性との両立を効果的に得ることが出来ることが分かる。