(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6069752
(24)【登録日】2017年1月13日
(45)【発行日】2017年2月1日
(54)【発明の名称】低鉛黄銅合金
(51)【国際特許分類】
C22C 9/04 20060101AFI20170123BHJP
【FI】
C22C9/04
【請求項の数】1
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-155443(P2014-155443)
(22)【出願日】2014年7月30日
(65)【公開番号】特開2016-8354(P2016-8354A)
(43)【公開日】2016年1月18日
【審査請求日】2014年10月2日
(31)【優先権主張番号】201410282838.4
(32)【優先日】2014年6月23日
(33)【優先権主張国】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】514193421
【氏名又は名称】ジァンシ アウディ ブラスワーク インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100091683
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼川 俊雄
(74)【代理人】
【識別番号】100179316
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 寛奈
(72)【発明者】
【氏名】リ,ジァデ
【審査官】
川口 由紀子
(56)【参考文献】
【文献】
特開平11−001736(JP,A)
【文献】
特表2016−508186(JP,A)
【文献】
特開2007−211310(JP,A)
【文献】
国際公開第2006/016630(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 9/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
低鉛黄銅合金であって、該黄銅合金の全重量の62.5−63wt%の銅と、0.16−0.24wt%の鉛と、0.02wt%以下のアンチモンと、0.01wt%以下のマグネシウムと、0.2wt%以下の錫と、0.0005−0.0009wt%の硼素と、0.55−0.7wt%のアルミニウムと、0.05−0.15wt%の鉄と、0.15wt%以下のニッケルと、0.09−0.12wt%の砒素と、0.005wt%以下のジルコニウムと、0.01wt%以下の不可避不純物と、残量の亜鉛からなることを特徴とする低鉛黄銅合金。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低鉛黄銅合金に関するものである。
【背景技術】
【0002】
銅は優れた導電性と親環境性を有し、人体に有害な病菌はその表面で生存することができなく、銅材料の性能を改善するために、銅のなかに他の元素を追加し、例えば銅と亜鉛を含む黄銅にリードを加入し、これは黄銅の切削性能を大きく改善するが、リードはヒトの健康と生態学的バランスに対して破壊作用を有し、世界的な範囲内の趨勢もリードを含む合金の使用に対する制限がますます大きくなっている。
【0003】
また、環境問題がより顕著になるにつれ、使用環境がさらに悪くなり、黄銅製品の表面層の強度を下降させ、さらに、黄銅製のパイプの穿孔をもたらすようになるので、黄銅製品の使用寿命を大幅に削減し、応用上の問題を引き起こしてしまった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、上記の問題点を解決するために、高鉛含有黄銅の代わりになり、脱亜鉛腐食防止を達成しながら、鋳造性能、鍛造性、切削性、耐腐食性および機械的性質を並立することができる合金の配合方法を提供する必要がある。
【0005】
本発明の目的は、引張強度、伸び率、脱亜鉛防止性および切削性などの性能に優れた黄銅合金であって、高強度、耐摩耗性、耐浸食性が要求される切削加工品として適した黄銅合金を提供することにある。これにより、大量の鉛を含有した合金銅に安全に代わって、人類社会の発展につながる含鉛製品に対する制限の需要を十分に満足させることができる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した目的を達成するために、以下のような低鉛黄銅合金を提案する。
【0007】
低鉛黄銅合金(以下、発明物1と略称する)は、該黄銅合金の全重量の62.5−63wt%の銅と、0.16−0.24wt%のリードと、0.55−0.7wt%のアルミニウムと、残量の亜鉛とを含む。
【0008】
本発明物1はリードの含有量を0.24wt%以下にさげ、銅の含有量を62.5−63wt%に制御し、微量なアルミニウムを加えて、黄銅合金の切削性を向上させる。これと同時に、アルミニウムの合金表面上でのイオン化傾向が亜鉛より大きいので、優先的に腐食性ガス或いは溶液中の酸素と結合し、従って合金表面において緻密な気化アルミニウム保護膜を形成して、黄銅合金の苛酷な環境での耐腐食性と脱亜鉛防止性能を向上させる。さらに、アルミニウムは合金の鋳造の流動性を向上させることができ、合金の強さと硬さをすべて明らかに向上させ、よりよく上記の役割を発揮するために、アルミニウムの含有量を黄銅合金の全重量の0.55−0.7wt%に制御する。
【0009】
発明物1において、黄銅合金の全重量の0−0.02wt%のアンチモン、0−0.2wt%の錫、0−0.01wt%のマグネシウム及び0.09−0.12wt%の砒素から選択した一つ以上の元素をさらに含むことが好ましく、選択された元素は全て一定の程度で黄銅合金の切削性能を向上させ、且つアンチモンと錫の追加は合金の強さを明らかに向上させることができ、その塑性を改善させ、耐腐食性を増強させるようになる。微量の砒素は合金の脱亜鉛防止性能を向上させるが、高すぎなくてよく、高すぎる砒素は合金の熱間鍛造と和押出性を下げる。
【0010】
上述の発明物において、黄銅合金の全重量の0.0005−0.0009wt%の硼素、0.05−0.15wt%の鉄、0−0.15wt%のニッケル及び0−0.005wt%のジルコニウムから選択した一つ以上の元素をさらに含むことがさらに好ましく、そのうち硼素は黄銅合金の耐蝕性能を向上させ且つ脱亜鉛を防止する。鉄は黄銅合金の強靭性を強化する。ニッケルは黄銅合金の錆びを抑制するだけでなく、同時に合金の金属間化合物を形成して基質に均一に析出させることができ、合金の耐摩耗性と強さを向上させる。ジルコニウムは結晶粒を細化することができて、黄銅合金の鋳造性を向上させる。
【0011】
低鉛黄銅合金(以下、発明物2と略称する)は、銅合金の全重量の62.5−63wt%の銅と、0.16−0.24wt%のリードと、黄銅合金の全重量の0.55−0.7wt%のアルミニウム、0−0.02wt%のアンチモン、0−0.2wt%の錫及び0−0.01wt%のマグネシウムから選択した二つ以上の元素と、残量の亜鉛とを含む。そのうち、アルミニウム、アンチモン、錫及びマグネシウムを追加する理由は発明物1と同じ、具体的には追加するとき実際の必要に応じて決定する。
【0012】
発明物2において、黄銅合金の全重量の0.09−0.12wt%の砒素、0.0005−0.0009wt%の硼素、0.05−0.15wt%の鉄、0−0.15wt%のニッケル及び0−0.005wt%のジルコニウムから選択した二つ以上の元素をさらに含むことがさらに好ましい。そのうち、砒素、硼素、鉄、ニッケル及びジルコニウムを追加する理由は発明物1と同じ、具体的には追加するとき実際の必要に応じて決定する。
【0013】
低鉛黄銅合金(以下、発明物3と略称する)、黄銅合金の全重量の62.5−63wt%の銅と、0.16−0.24wt%のリードと、0−0.02wt%のアンチモンと、0−0.01wt%のマグネシウムと、0−0.2wt%の錫と、0.0005−0.0009wt%の硼素と、0.55−0.7wt%のアルミニウムと、0.05−0.15wt%の鉄と、0−0.15wt%のニッケルと、0.09−0.12wt%の砒素と、0−0.005wt%のジルコニウムと、0−0.01wt%の不純物と、残量の亜鉛とを含む。そのうち、アンチモン、マグネシウム、錫、硼素、アルミニウム、鉄、ニッケル、砒素及びジルコニウムを追加する理由は発明物1と同じ、且つ発明物3において同時に上記元素を追加するのは、よりよく特定の製品性能のニーズを満たすことができるようにするためである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の技術態様をより明確に説明するために、以下に実施例を通じて本発明の技術を説明する。
【0015】
本発明の範囲は、上記の典型的な実施例に限定されない。(当業者および本公開内容を知る技術者が連想することができる)ここで説明する本発明の特徴の変更や追加修正、およびここで説明する本発明の原理の他の応用は、本発明の範囲に含まれるとみなされるべきである。
【0016】
本発明の数値の説明における「以上」と「以下」は、いずれも数値自身を含むものとする。
【0017】
本明細書で言う脱亜鉛腐食防止性能テストは、鋳造状態の形式でAS−2345−2006標準に基づいて行われたものであって、1000C.Cの脱イオン水に12.8gの塩化銅を加入して測定物をその中に24時間放置して脱亜鉛深さを測定する。
【0018】
◎は、脱亜鉛深さが300μmよりも小さいことを表し、○は、脱亜鉛深さが300μmと400μmの間にあることを表し、×は、脱亜鉛深さが400μmよりも大きいことを表す。
【0019】
本明細書で言う切削性能テストは、鋳造状態の形式で同じカッターを採用して同じ切削速度と同じ供給量で行われており、切削速度は、25m/min(メートル/分)であり、供給量は、0.2mm/r(ミリメートル/毎ブレード数)であり、切削深さは、0.5mmであり、テストバーの直径は、20mmであり、C36000合金材料を基準として切削抵抗を測定することにより、相対切削率を求めた。
【0020】
相対切削率=C36000合金材料の切削抵抗/試料の切削抵抗。
【0021】
◎は、相対切削率が85%よりも大きいことを表し、○は、相対切削率が70%よりも大きいことを表す。
【0022】
本明細書で言う引張強度と伸び率のテストは、いずれも鋳造状態の形式で室温で引張試験を行う。伸び率、すなわち試料の引張破断後の標点距離の部分の総変形ΔLと元標点距離の長さLの比率のパーセントは、δ=ΔL/L×100%である。対比試料は、同じ状態かつ同じ規格の含鉛黄銅、すなわちC36000合金である。
【0023】
本明細書で言う合金元素が水において溶出する性能に対するテストはGB/T5750−2006「生活飲み水標準検査方法」に従って行い、GB5749−2006「生活飲み水衛生標準」に従って判定した。
【0024】
上記したC36000合金材料の実測成分の配分率は、次のとおりであり、単位は、重量パーセント(wt%)である。
【実施例1】
【0026】
表2は、15種類の低鉛黄銅合金の配分率であり、各グループの単位は、重量パーセント(wt%)である。
【0027】
【0028】
上記グループの合金について、鋳造状態の形式で室温で切削性能、脱亜鉛腐食防止性能、引張強度及び伸び率のテストを実施しており、対比試料はC36000合金である。
【0029】
引張強度、伸び率、切削性能および脱亜鉛腐食防止性能の実験の結果は、以下の通りである。
【0030】
【表2】
【0031】
上記のグループの合金が水において溶出する性能に対してテストし、実験結果は以下の通りである(各数値の単位は全てmg/Lである)。
【0032】
【表3】
【0033】
本発明は、実施形態によって上述したように開示されたが、当該実施形態に限定されるものではない。本発明が属する技術の当業者なら、本発明の技術思想を離脱しない範囲で、多様な変更、及び修正が可能であることが分かる。従って、本発明の技術的範囲は、特許請求範囲によって決める。