【文献】
Toru Ujihara, et al.,Materials Science Forum,2015年 5月,Vol.717-720,P.351-354
【文献】
K. Kamei, et al.,Materials Science Forum,2012年 5月14日,Vol.717-720,P.45-48
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ケイ素(Si)および炭素(C)を含む反応雰囲気下でSiC種結晶の結晶成長面にSiC単結晶を結晶成長させ、前記SiC種結晶における貫通刃状転位上にSiCからなるステップを進展させる結晶成長工程を備え、
前記SiC種結晶として4H−SiCまたは6H−SiCを用い、
前記結晶成長面は(0001)面であり、
前記結晶成長工程において、前記ステップの進展方向が、以下の(1)〜(3)から選ばれる少なくとも2方向になるように、前記ステップの進展方向に対する前記SiC種結晶の向きを変更して、繰り返し前記ステップを進展させる、SiC単結晶の製造方法。
(1):[−1−120]方向に対する交差角が−30°以内かつ+30°未満である方向、または、[11−20]方向に対する交差角が−30°以内かつ+30°未満である方向、
(2):[−2110]方向に対する交差角が−30°以内かつ+30°未満である方向、または、[2−1−10]方向に対する交差角が−30°以内かつ+30°未満である方向、
(3):[−12−10]方向に対する交差角が−30°以内かつ+30°未満となる方向、または、[1−210]方向に対する交差角が−30°以内かつ+30°未満となる方向。
ケイ素(Si)および炭素(C)を含む反応雰囲気下でSiC種結晶の結晶成長面にSiC単結晶を結晶成長させ、前記SiC種結晶における貫通刃状転位上にSiCからなるステップを進展させる結晶成長工程を備え、
前記SiC種結晶として4H−SiCまたは6H−SiCを用い、
前記結晶成長面は(0001)面であり、
前記結晶成長工程における前記ステップの進展方向は、以下の(1)〜(3)から選ばれる少なくとも1方向であり、
前記結晶成長工程において、
前記ステップは、前記SiC種結晶の(0001)結晶成長面上に250個/cm以上の線密度で1mm以上の長さにわたって存在する、SiC単結晶の製造方法。
(1):[−1−120]方向に対する交差角が−30°以内かつ+30°未満である方向、または、[11−20]方向に対する交差角が−30°以内かつ+30°未満である方向、
(2):[−2110]方向に対する交差角が−30°以内かつ+30°未満である方向、または、[2−1−10]方向に対する交差角が−30°以内かつ+30°未満である方向、
(3):[−12−10]方向に対する交差角が−30°以内かつ+30°未満となる方向、または、[1−210]方向に対する交差角が−30°以内かつ+30°未満となる方向。
前記結晶成長工程において、前記SiC種結晶における貫通刃状転位上に複数の前記ステップを進展させる請求項1〜請求項3の何れか一項に記載のSiC単結晶の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記した事情に鑑みてなされたものであり、比較的少ない工数かつ比較的短時間で、貫通刃状転位の少ないSiC単結晶を製造し得る方法、および、貫通刃状転位の少ないSiC単結晶を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の発明者等は、鋭意研究の結果、特定の条件でSiC種結晶を成長させることで、貫通刃状転位の少ないSiC単結晶が得られることを見出した。
【0009】
すなわち、上記課題を解決する本発明のSiC単結晶の製造方法は、ケイ素(Si)および炭素(C)を含む反応雰囲気下でSiC種結晶の結晶成長面にSiC単結晶を結晶成長させ、前記SiC種結晶における貫通刃状転位上にSiCからなるステップを進展させる結晶成長工程を備え、前記SiC種結晶として4H−SiCまたは6H−SiCを用い、前記結晶成長面は(0001)面であり、前記結晶成長工程における前記ステップの進展方向は、以下の(1)〜(3)から選ばれる少なくとも1方向であるSiC単結晶の製造方法。
(1):[−1−120]方向に対する交差角が−30°以内かつ+30°未満である方向、または、[11−20]方向に対する交差角が−30°以内かつ+30°未満である方向、
(2):[−2110]方向に対する交差角が−30°以内かつ+30°未満である方向、または、[2−1−10]方向に対する交差角が−30°以内かつ+30°未満である方向、
(3):[−12−10]方向に対する交差角が−30°以内かつ+30°未満となる方向、または、[1−210]方向に対する交差角が−30°以内かつ+30°未満となる方向。
【0010】
このような工程を備える本発明の製造方法によると、後述するように貫通刃状転位を変換することができ、貫通刃状転位の非常に少ないSiC単結晶を得ることができる。また、本発明の製造方法によると、上述したRAF法のように結晶成長→種結晶切り出しの工程を数多く繰り返す必要はないため、RAF法に比べて非常に少ない工数および非常に短い時間で貫通刃状転位の少ないSiC単結晶を得ることが可能である。
【0011】
本発明のSiC単結晶の製造方法によると、SiC種結晶に含まれる複数の貫通刃状転位のなかの少なくとも一部を基底面転位に変換することができ、その結果、貫通刃状転位の低減したSiC単結晶を得ることができる。また、上述したRAF法のように結晶成長→切り出し→結晶成長を数多く繰り返す工程を必要としないため、貫通刃状転位の低減したSiC単結晶を比較的容易に得ることができる。
【0012】
本発明のSiC単結晶の製造方法は、下記の[1]〜[4]の何れかを備えるのが好ましく、[1]〜[4]の複数を備えるのがより好ましい。
[1]前記結晶成長工程における前記ステップの進展方向は、上記(1)〜(3)から選ばれる少なくとも2方向である。
[2]前記(1)〜(3)の方向は、各々以下の方向である。
(1):[−1−120]方向に対する交差角が±15°以内となる方向、または、[11−20]方向に対する交差角が±15°以内となる方向、
(2):[−2110]方向に対する交差角が±15°以内となる方向、または、[2−1−10]方向に対する交差角が±15°以内となる方向、
(3):[−12−10]方向に対する交差角が±15°以内となる方向、または、[1−210]方向に対する交差角が±15°以内となる方向。
[3]前記結晶成長工程において、前記SiC種結晶における貫通刃状転位上に複数の前記ステップを進展させる。
[4]前記結晶成長工程において、前記マクロステップは、前記SiC種結晶の(0001)結晶成長面上に250個/cm以上の線密度で1mm以上の長さにわたって存在する。
【0013】
本発明のSiC単結晶の製造方法が上記[1]〜[4]の何れかを備える場合には、貫通刃状転位の基底面転位への変換を、より頻度高く生じさせることができる。
【0014】
上記課題を解決する本発明のSiC単結晶は、貫通刃状転位を含む第1の層と、前記第1の層に連続して形成され、前記貫通刃状転位が変換した基底転位を含む第2の層と、前記第2の層に連続して形成され、前記第1の層に比べて基底転位の少ない第3の層と、を含むものである。本発明のSiC単結晶は、上述した本発明のSiC単結晶の製造方法で製造することが可能である。
【0015】
なお、本発明のSiC単結晶において、第3の層に含まれる貫通刃状転位は非常に少ない。このため、本発明のSiC単結晶における第3の層は、貫通刃状転位の低減したSiC単結晶として利用できる。例えば、本発明のSiC単結晶から第3の層を切り出して、貫通刃状転位の少ないSiC単結晶として使用しても良い。また、本発明のSiC単結晶には、後述するように、貫通刃状転位が積層欠陥に変換されてなる湾曲形状の欠陥は存在するが、SiC単結晶を直線的に貫通する欠陥は大きく低減される。このため、用途によっては、本発明のSiC単結晶をそのまま利用することもできる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の製造方法によると、貫通刃状転位の少ないSiC単結晶を比較的短時間かつ少ない工数で製造することができる。また、本発明のSiC単結晶は、貫通刃状転位の少ない第3の層を持つ。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明のSiC単結晶成長方法は、液相成長法を用いても良いし気相成長法を用いても良い。気相成長法に関しては、化学気相蒸着(CVD:Chemical Vapor Deposition)法や、物理気相成長(PVD:Physical Vapor Deposition)法等の一般的な方法を用いることができる。一例として、シランガスおよび炭化水素系ガスを原料ガスとして用いたCVD法を挙げることができる。或いは、SiC粉末を原料とし2000℃以上の高温で原料を昇華させ、SiとCとからなる蒸気を低温にした種結晶上で過飽和にして、SiC単結晶を析出させるPVD法(昇華法とも呼ばれる)を挙げることもできる。
【0019】
液相成長法を用いる場合、原料溶液として、ケイ素元素および炭素元素を含む融液を用いる。この原料溶液(SiC溶液)に種結晶を接触させて、少なくとも種結晶近傍の溶液を過冷却状態にする。このことで、原料溶液のC濃度が種結晶近傍において過飽和状態になるようにし、種結晶上にSiC単結晶を成長(主としてエピタキシャル成長)させる。なお、成長前に、種結晶を原料溶液中のカーボン濃度が低い場所に浸漬することによって、結晶表面を溶解する工程(メルトバック工程)を行い、種結晶表面の清浄化を行うことができる。液相成長法では、熱平衡状態に近い環境で結晶成長が進行するため、積層欠陥などの欠陥の密度が低い良質なSiC単結晶を得ることが可能である。なお、原料溶液の材料は特に限定されず、一般的なものを使用することができる。例えば、原料溶液のSi源としては、SiまたはSi合金を用いることができる。具体的には、Siを主成分とし、Ti、Cr、Sc、Ni、Al、Co、Mn、Mg、Ge、As、P、N、O、B、Dy、Y、Nb、Nd、Feから選ばれる少なくとも一種を加えた合金融液等である。原料溶液のC源としては、黒鉛、グラッシーカーボン、SiC、メタン、エタン、プロパン、アセチレンなどの炭化水素ガス、および、下記に上げる元素Xの炭化物(X=Li、Be、B、Na、Mg、Al、Ca、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Br、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Ba、Hf、Ta、W、La、Ce、Sm、Eu、Ho、Yb、Th、U、Pu)から選ばれる少なくとも一種を用いることができる。なお、本発明の製造方法に用いるSiC種結晶としては、六方晶である4H−SiCまたは6H−SiCを用いることができる。
【0020】
何れの場合にも、SiC種結晶の結晶成長面において所定の方向にSiCからなるステップを進展させることで、刃状転位の少ないSiC単結晶が得られると考えられる。つまり、本発明の発明者等は、鋭意研究の結果、SiC単結晶を成長させる際に、貫通刃状転位のバーガースベクトルと同方向または逆方向にステップを進展させることで、貫通刃状転位を基底面転位に変換できることを見出した。その理由は定かではないが、以下のように考えられる。
【0021】
図1に示すように、SiC種結晶は(0001)面に対して略垂直な方向に延びる貫通刃状転位TEDを持つ。本発明のSiC単結晶の製造方法において、SiC種結晶としては六方晶である4H−SiCまたは6H―SiCを用いるため、4H−SiCまたは6H−SiCに形成されている貫通刃状転位(TED)のバーガースベクトルは、
図2に示すように、1/3<11−20>、つまり、1/3[−1−120]、1/3[11−20]、1/3[−2110]、1/3[2−1−10]、1/3[1−210]、1/3[−12−10]の何れかである。
【0022】
本発明の発明者等は、
図4に示すように、このSiC種結晶の結晶成長面、つまり、(0001)面上にステップを進展させ、かつ、ステップ進展方向を貫通刃状転位のバーガースベクトルと同方向または逆方向になるようにした。このような方向に向けて、ステップが貫通刃状転位上を進展することで、
図4に示すように、SiC種結晶に含まれる貫通刃状転位TEDを、(0001)面(つまり基底面)に対して略平行な方向に延びる基底面転位BPDに変換させることができた。このような現象が生じる理由は明らかではないが、ステップの高さが関係すると考えられる。つまり、貫通刃状転位TEDの成長方向と、SiC単結晶のステップ進展方向とは略直交する。このため、ステップを進展させる結晶成長面(0001)において、形成されているステップの高さが大きい場合には(つまり、ステップがマクロステップS
mであれば)、鏡像力(image force)によって、ステップ進展方向と同方向または逆方向のバーガースベクトルを有する貫通刃状転位TEDが曲げられ易く、基底面転位BPDに変換され易いと考えられる。
【0023】
ところで、(0001)面に対して略垂直な方向に延びる貫通刃状転位において、そのバーガースベクトルの方向は、転位線に対して垂直な方向である。このため、貫通刃状転位のバーガースベクトルは、種結晶の結晶構造に応じた数種類の方向から選ばれる一方向となる。換言すれば、4H−SiCまたは6H−SiCに形成されている貫通刃状転位(TED)は、
図2に示すように、[−1−120]方向、[11−20]方向、[−2110]方向、[2−1−10]方向、[1−210]方向、および[−12−10]方向の6方向の何れかにバーガースベクトルを向ける。ところで、[−1−120]方向と[11−20]方向とは逆方向である。また、[−2110]方向と[2−1−10]方向とは逆方向である。さらに、[1−210]方向と[−12−10]方向とは逆方向である。このため上述した6方向は、実質的には、(I)[−1−120]方向または[11−20]方向、(II)[−2110]方向または[2−1−10]方向、(III)[1−210]方向または[−12−10]方向の3対に分類される。したがって、4H−SiCまたは6H−SiCに形成されている貫通刃状転位(TED)のバーガースベクトルは、上記した(I)〜(III)の方向の何れかに一致する。そして、この(I)〜(III)の何れかの方向にステップを進展させることで、種結晶に存在する貫通刃状転位を基底面転位に変換し、ひいては貫通刃状転位のないSiC単結晶、または、一部にのみ貫通刃状転位の存在するSiC単結晶を得ることができる。
【0024】
さらに、本発明の発明者等が鋭意研究した結果、貫通刃状転位の基底面転位への変換は、ステップの進展方向が上記(I)〜(III)の方向に完全に一致しない場合にも生じることを見出した。具体的には、ステップの進展方向が、上記した何れかのバーガースベクトルを中心とした略±30°の角度範囲内であれば、各バーガースベクトルと同方向または逆方向にステップを進展させ貫通刃状転位上を通過させた場合と同様に、貫通刃状転位の変換が生じる。
【0025】
つまり、
図2に示すように、SiC種結晶の(0001)面に対する任意の法線L
0をとり、この法線L
0を中心とする上記6つのバーガースベクトルをとる。そして、各バーガースベクトルに対する交差角が−30°以内かつ+30°未満となる方向に、ステップを進展させる。具体的には、(1)[−1−120]方向に対する交差角が−30°以内かつ+30°未満である方向、または、[11−20]方向に対する交差角が−30°以内かつ+30°未満である方向にステップを進展させれば、バーガースベクトルが[−1−120]方向である貫通刃状転位およびバーガースベクトルが[11−20]方向である貫通刃状転位を変換できる。また、(2)[−2110]方向に対する交差角が−30°以内かつ+30°未満である方向、または、[2−1−10]方向に対する交差角が−30°以内かつ+30°未満である方向にステップを進展させれば、バーガースベクトルが[−2110]方向である貫通刃状転位およびバーガースベクトルが[2−1−10]方向である貫通刃状転位を変換できる。また、(3)[−12−10]方向に対する交差角が−30°以内かつ+30°未満となる方向、または、[1−210]方向に対する交差角が−30°以内かつ+30°未満となる方向にステップを進展させれば、バーガースベクトルが[−12−10]方向である貫通刃状転位およびバーガースベクトルが[1−210]方向である貫通刃状転位を変換できる。
【0026】
なお、ここでいう+30°および−30°とは、(0001)面に対する任意の法線L
0を中心とする(0001)面上の角度を指す。より具体的には、[−1−120]から[−2110]に向けた円弧方向(
図2中時計回り方向)を+方向と呼び、その逆方向([−2110]から[−1−120]方向に向けた円弧方向;
図2中反時計回り方向)を−方向と呼ぶ。したがって、上記の(1)〜(3)は以下のように換言できる。
【0027】
(1)は[−1−120]方向を中心とし、[−2110]方向に30°未満かつ[1−210]方向に30°以内となる何れかの方向、または、[11−20]方向を中心とし、[2−1−10]方向に30°未満かつ[−12−10]方向に30°以内となる何れかの方向である。
【0028】
(2)は[−2110]方向を中心とし、[−12−10]方向に30°未満かつ[−1−120]方向に30°以内となる何れかの方向、または、[2−1−10]方向を中心とし、[1−210]方向に30°未満かつ[11−20]方向に30°以内となる何れかの方向である。
【0029】
(3)は[−12−10]方向を中心とし、[11−20]方向に30°未満かつ[−2110]方向に30°以内となる何れかの方向、または、[1−210]方向を中心とし、[−1−120]方向に30°未満かつ[2−1−10]方向に30°以内となる何れかの方向である。
【0030】
勿論、貫通刃状転位の変換頻度を高めるためには、上記(1)〜(3)のうち2以上の方向にステップを進展させるのが好ましい。具体的には、(1)〜(3)のうちの2方向にステップを進展させるのが好ましく、3方向全てにステップを進展させるのがより好ましい。つまり、SiC単結晶の結晶成長に伴うステップ進展をおこなう結晶成長工程は、異なる2方向以上の方向に向けて2回以上繰り返すのが好ましい。或いは、貫通刃状転位の変換頻度を高めるためには、ステップの進展方向を上述した貫通刃状転位のバーガースベクトルに近い方向にするのがより好ましい。具体的には、上記した(1)〜(3)のステップ進展方向の範囲を、以下のように狭めるのがより好ましい。(1):[−1−120]方向に対して±15°以内となる方向、または、[11−20]方向に対して±15°以内となる方向、(2):[−2110]方向に対して±15°以内となる方向、または、[2−1−10]方向に対して±15°以内となる方向、(3):[−12−10]方向に対して±15°以内となる方向、または、[1−210]方向に対して±15°以内となる方向。
【0031】
ところで、
図3中矢印で示すように、SiC単結晶が結晶成長する際に各ステップが進展する方向(ステップ進展方向)は、(0001)面と略平行な方向である。一方、貫通刃状転位TEDの成長方向は(0001)面と略垂直な方向である。つまりステップ進展方向と貫通刃状転位TEDの成長方向とは略直交する。したがって、SiC種結晶の結晶成長時においては、ステップが貫通刃状転位TEDの上を通過しつつ結晶成長する。すると、
図4に示すように、貫通刃状転位TEDの成長方向が(0001)面と略平行な方向に変化し、貫通刃状転位TEDは基底面転位BPDに変換される。
【0032】
このような現象をより頻度高く生じさせるためには、ステップ高さの高いステップを形成するのが有効だと考えられる。以下、ステップ高さの高いステップをマクロステップと呼ぶ。つまり、貫通刃状転位TEDの成長方向と、SiC単結晶のステップ進展方向とは略直交する。このため、ステップが進展する結晶成長面(0001)において、形成されているステップの高さが大きい場合には(つまり、ステップがマクロステップS
mであれば)、鏡像力(image force)によって貫通刃状転位TEDが曲げられ易く、基底面転位BPDに変換され易いと考えられる。換言すると、本発明のSiC単結晶の製造方法によると、SiC種結晶上にSiC単結晶を結晶成長させる際に、上述した(1)〜(3)から選ばれる少なくとも一つの方向にステップを進展させさえすれば、貫通刃状転位を変換することができるが、この変換の頻度を高めるためには、ステップ高さの高いマクロステップを形成し、マクロステップを進展させるのが有効である。参考までに、従来の結晶成長方法においては、高さの高いステップを形成しないように結晶成長させるのが良いとされていた。このため、従来の結晶成長方法によると、高さの低いステップのみが形成され、マクロステップが形成されず、貫通刃状転位を高頻度で変換することもできなかったと考えられる。
【0033】
なお、ここでいうステップの高さhとは、
図5に示すテラス面P1とP2との距離を指す。より詳しくは、ステップの高さは以下のように説明できる。
図5に示すように、任意のステップS1のテラス面(つまりSiC種結晶自体の結晶成長方向における先端面)をテラス面P1とし、当該テラス面P1を通る直線を直線L1とする。また、当該ステップS1の進展方向の先側に隣接する他のステップS2のテラス面をP2とし、当該テラス面P2を通る直線を直線L2とする。この場合にステップS1の高さは直線L1と直線L2との距離に相当する。なお、本明細書においては、70nmを超える高さのステップをマクロステップと呼ぶ。
【0034】
本発明の製造方法においては、
図6に示すように、貫通刃状転位TEDの基底面転位BPDへの変換が生じた後に、さらにSiCの結晶成長を続ける。基底面転位BPDは基底面の欠陥であり、結晶成長方向には継承されない。このようにして得られたSiC単結晶10は、種結晶1に由来し貫通刃状転位TEDを含む層(第1の層11)と、この第1の層11に連続して形成され基底面転位BPDを含む第2の層12と、この第2の層12に連続して形成され第1の層11に比べて貫通刃状転位TEDの少ない第3の層13と、の3層を持つ。第2の層12は第1の層11に比べて貫通刃状転位TEDの数が少なく、基底面転位BPDの数が多い。第3の層13は貫通刃状転位TEDが基底面転位BPDへ変換した後に成長した部分であるため、第1の層11に比べて貫通刃状転位TEDの数は大きく低減し、かつ、基底面転位BPDの数も大きく低減する。したがって、このSiC単結晶10から第3の層13を切り出すことで、貫通刃状転位TEDの非常に少ないSiC単結晶10を得ることができる。また、SiC単結晶10の用途によっては、SiC単結晶10の結晶成長方向にわたって貫通形成された欠陥の数が低減されれば良く、SiC単結晶10の結晶成長方向の一部分に貫通刃状転位TEDが存在していても良い場合もある。このような場合には、本発明の製造方法で得られたSiC単結晶10をそのまま使用することも可能である。
【0035】
何れの場合にも、上述したRAF法のように結晶成長→切り出し→方向を変えて結晶成長→切り出し…という工程を繰り返す場合に比べて、工数が大きく低減する。また、貫通刃状転位TEDのない(または貫通刃状転位の非常に少ない)SiC単結晶を得るまでに要する時間を大きく短縮できる。つまり、本発明の製造方法によると、貫通刃状転位の少ないSiC単結晶を比較的少ない工数で比較的短時間に得ることが可能である。さらに、このようにして得た貫通刃状転位の少ないSiC単結晶を種結晶として用いれば、一般的な液相法や気相法によって、貫通刃状転位の少ないSiC単結晶を結晶成長させることも可能である。
【0036】
(実施形態)
(試験1)
以下、具体例を挙げて、本発明のSiC単結晶およびその製造方法を説明する。
【0037】
高周波加熱グラファイトホットゾーン炉を用いて、SiC単結晶を製造した。この単結晶成長装置を模式的に表す説明図を
図7に示す。単結晶成長装置20は、カーボン製の坩堝21と、この坩堝21を加熱する加熱要素22と、坩堝21の内部に対して進退可能である保持要素23と、坩堝21を回転させる坩堝駆動要素24と、これらを収容するチャンバー(図略)とを持つ。坩堝21は上方に開口する有底の略円筒状をなす。坩堝21の内径は45mmであり、深さは50mmである。加熱要素22は誘導加熱式のヒータである。加熱要素22はコイル状の導線25と、導線25と図略の電源とを接続する図略のリード線とを持つ。導線25は坩堝21の外側に巻回されて、坩堝21と同軸的なコイルを形成している。保持要素23は、ロッド状をなすディップ軸部26と、ディップ軸部26を長手方向(
図7中上下方向)に進退させるディップ軸駆動部27と、を持つ。ディップ軸部26の直径は10mmであり、ディップ軸部26の長手方向の一端部(
図7中下端部)には種結晶1を保持可能な保持部28が形成されている。
【0038】
試験1においては、この単結晶成長装置を用い、溶液引き上げ(TSSG:Top Seeded Solution Growth)法に基づいて、種結晶1を坩堝21の中の原料溶液29に浸すとともに引き上げながら結晶成長させた。
【0039】
より具体的には、カーボン製の坩堝21中でSi(純度11N、株式会社トクヤマ製)を加熱要素22により加熱することで、坩堝21に含まれるCを坩堝21中のSi融液に溶出させて、原料溶液29を得た。なお、前処理として、Si種結晶およびSiは予め、メタノール、アセトン、および精製水(18MΩ/cm)中でそれぞれ超音波洗浄した。
【0040】
単結晶成長装置20における加熱要素22の設定温度は1630℃であり、坩堝21中には32K/cmの図中上下方向(坩堝21の液面−底面方向)に向けた温度勾配が形成された。つまり、坩堝21中に収容されている原料溶液29は、導線25の近傍に位置しかつ坩堝21の内面21aに隣接する部分において最も高温である。坩堝21の中心部に近づく程(坩堝の内面21aから離れる程)、あるいは、坩堝21の軸方向すなわち
図7に示す上下方向に導線25から離れる程、原料溶液29の温度は低くなる。このように坩堝21中の原料溶液29に温度勾配を形成した状態で、チャンバー内部に高純度(99.9999体積%)のアルゴンガスを供給しつつ、SiC種結晶1(以下、単に種結晶1と呼ぶ)を保持したディップ軸部26を坩堝中21に挿入した。
【0041】
種結晶1としては、気相成長法(昇華法)で製造された4H−SiC単結晶(10mm×10mm×厚さ0.35mm)を用いた。参考までに、気相成長法で製造された一般的な4H−SiC単結晶は10
4cm
−2程度の貫通刃状転位を含む。本試験で用いた種結晶もまた、10
4cm
−2程度の貫通刃状転位を含んでいた。
図8に示すように、この種結晶1の結晶成長面すなわち(0001)面に、[11−20]方向に向けたオフセット面を切削形成した。このときのオフ角は2°であった。
【0042】
次いで、
図7に示すように、オフ角を形成した結晶成長面が坩堝21中の原料溶液29に対面するように種結晶1を保持部28に取り付け、ディップ軸駆動部27によりディップ軸部26を坩堝21の内部に向けて進行させ、種結晶1を原料溶液29に浸漬した。原料溶液29が温度の低い種結晶1付近で冷却されることで、種結晶1の表面にSiC結晶が成長した。なお、結晶成長は加速るつぼ回転法(accelerated crucible rotation technique)に基づいておこなった。つまり結晶成長中は坩堝駆動要素24によって坩堝21を回転させ、坩堝21と種結晶1とを相対的に逆方向に回転させるとともに、回転方向を交互に切換えた。このときの回転速度(最高速度)は約20rpmであった。
【0043】
成長開始(つまり種結晶と原料溶液との接触開始後)から1時間後、ディップ軸駆動部27によりディップ軸部26を上方に移動させ、結晶成長した種結晶1(つまりSiC単結晶10)を原料溶液29から引き上げた。引き上げたSiC単結晶10は、表面に残存する原料溶液を除去するため、HNO
3とHFとの混液(HNO
3:HF=2:1)でエッチングした。以上の工程で、試験1のSiC単結晶10を得た。なお、上述したように、種結晶1の結晶成長面すなわち(0001)面には、[11−20]方向に向けたオフセット面を切削形成した。このため、この種結晶上に形成されるSiC単結晶のステップは[11−20]方向に進展した。
【0044】
(評価)
放射光X線を用いたX線トポグラフィー法を用いて、上記の試験1のSiC単結晶を観察し、各SiC単結晶に残存する欠陥を評価した。なお、結晶成長前の種結晶についても同じ方法で欠陥の評価をおこなった。X線トポグラフィー法については、ビームラインとしてPhoton factory BL−15Cを用いた。波長は0.150nmであり、反射面は(11−28)であった。
【0045】
図9(a)〜(f)は、種結晶の表面を撮像したX線トポグラフィー像である。
図9に示すように、種結晶にはバーガースベクトルの異なる6種の貫通刃状転位が存在する。なお、各図中の矢印bは、各貫通刃状転位におけるバーガースベクトルの方向を示す。詳しくは、
図9(a)に撮像されている貫通刃状転位はバーガースベクトルを[11−20]方向に向けている。
図9(b)に撮像されている貫通刃状転位はバーガースベクトルを[−12−10]方向に向けている。
図9(c)に撮像されている貫通刃状転位はバーガースベクトルを[−2110]方向に向けている。
図9(d)に撮像されている貫通刃状転位はバーガースベクトルを[−1−120]方向に向けている。
図9(e)に撮像されている貫通刃状転位はバーガースベクトルを[1−210]方向に向けている。
図9(f)に撮像されている貫通刃状転位はバーガースベクトルを[2−1−10]方向に向けている。
【0046】
図10は、種結晶、および、試験1の方法による結晶成長の初期におけるSiC単結晶を同一箇所で撮像したX線トポグラフィー像である。より具体的には、
図10中右側に示す像が種結晶のX線トポグラフィー像であり、
図10中左側に示す像が結晶成長初期における試験1のSiC単結晶のX線トポグラフィー像である。成長前の種結晶には点状のコントラストで表される貫通刃状転位TEDが数多く存在している。この貫通刃状転位TEDの多くは、成長後の結晶においてステップの進展方向に延びる線状のコントラストに変換している。TEM観察の結果から、このようなコントラストを示す欠陥は、基底面転位であることが明らかとなった。この結果から、試験1の製造方法によると種結晶に存在する貫通刃状転位を基底面転位に変換し得ることがわかる。
【0047】
さらに、貫通刃状転位の変換率を、バーガースベクトルの方向毎に算出した。具体的には、SiC種結晶に存在する貫通刃状転位を任意の数(本実施形態においては200〜300個)カウントした。カウントした各貫通刃状転位について、目視でそのバーガースベクトルを調べた。そして、カウントした各貫通刃状転位が、結晶成長工程後に得られた試験1のSiC単結晶において、基底面転位に変換されたか否かを調べた。貫通刃状転位のバーガースベクトル毎に、種結晶に存在した貫通刃状転位の数を100%として、変換が生じた貫通刃状転位の割合(個数%)を算出した。その結果を
図11に示す。
【0048】
図11に示すように、種結晶として4H−SiCを用い、この種結晶上にSiC単結晶を成長させる際に、ステップを[11−20]方向に進展させることで得られた試験1のSiC単結晶においては、バーガースベクトルを[11−20]方向または[−1−120]方向に向けた貫通刃状転位の殆どが基底面転位に変換された。より具体的には、バーガースベクトルを[11−20]方向に向けた貫通刃状転位に関しては約90%が基底面転位に変換され、バーガースベクトルを[−1−120]方向に向けた貫通刃状転位に関しては全数が基底面転位に変換された。この結果から、SiC種結晶に存在する貫通刃状転位のバーガースベクトルと同方向または逆方向に向けてステップを進展させることで、貫通刃状転位を頻度高く基底面転位に変換し得ることがわかる。
【0049】
また、[11−20]方向および[−1−120]方向以外の方向にバーガースベクトルを向けた貫通刃状転位に関しては、一部が貫通刃状転位として残存し、他の一部が基底面転位に変換された。より具体的には、バーガースベクトルを[−2110]方向に向けた貫通刃状転位に関しては約40個数%が変換され、バーガースベクトルを[2−1−10]方向に向けた貫通刃状転位に関しては約20個数%が変換された。また、バーガースベクトルを[−12−10]方向に向けた貫通刃状転位に関しては約30個数%が変換され、バーガースベクトルを[1−210]方向に向けた貫通刃状転位に関しては約5個数%が変換された。この結果から、ステップ進展方向と貫通刃状転位のバーガースベクトルとは必ずしも同方向でなくても良い(または逆方向でなくても良い)ことがわかる。つまり、種結晶として4H−SiCまたは6H−SiCを用いる場合、上記(1)〜(3)の何れかの方向にステップを進展させさえすれば、貫通刃状転位の少なくとも一部を基底面転位に変換することができ、貫通刃状転位の少ないSiC単結晶を得ることができる。
【0050】
なお、貫通刃状転位上を進展するステップの数は、多ければ多い方が好ましい。一つの貫通刃状転位上を複数のステップが進展すれば、貫通刃状転位が変換される頻度が高まるからである。好ましいステップの数は、以下の計算に基づき、好ましいステップの密度として表すことができる。
【0051】
本発明の発明者等は、貫通刃状転位のほぼ略100%が変換したSiC単結晶を基に、好ましいステップにの密度を算出した。具体的には、このSiC単結晶の厚さ(結晶成長した分の厚さ)は20μmであった。このときのステップの高さの最小値は100nm(0.1μm)であったため、結晶成長面上をステップが進展する現象が200回以上生じると、SiC単結晶の貫通刃状転位のほぼ全てが変換すると考えられる。換言すると、一つの貫通刃状転位上をステップが200回以上進展すれば貫通刃状転位はほぼ確実に変換すると考えられる。上記のSiC種結晶における結晶成長面は1cm×1cmであったため、好ましいステップの密度は200個/cm以上であると言える。なお、実際にはステップの線密度が100個/cm以上あれば、大多数の貫通刃状転位は変換する。つまり、ステップの好ましい線密度は100個/cm以上であると言える。マクロステップの線密度は、250個/cm以上であるのがより好ましく、500個/cm以上であるのがさらに好ましい。なお、本発明のSiC単結晶における平均的なマクロステップの線密度ρは1000個/cm程度であったため、マクロステップの線密度ρは1000個/cm以上であるのが特に好ましく、2000個/cm以上であるのがより一層好ましいといえる。
【0052】
参考までに、ここでいうステップの数とは、結晶成長における任意の時点におけるステップの個数をいう。ステップの個数は、本発明の製造方法で得られたSiC単結晶上に残存する縞状の段差の数と近似する。この縞状の段差の数をステップの個数と見なしても良い。また、SiC種結晶における結晶成長面の大きさは、SiC単結晶における結晶成長面の大きさと近似する。したがって、本発明の製造方法で得られたSiC単結晶の結晶成長面に残存する縞状の段差の密度を測定することで、ステップの密度を測定することが可能である。なお、SiC単結晶の結晶成長面に残存する縞状の段差の数は、レーザー顕微鏡下で測定することができる。
【0053】
ところで、上述した好ましいステップの個数または密度は、以下のように表現することもできる。
【0054】
ステップの平均高さをh(cm)、SiC単結晶の成長厚さをt(cm)、ステップの個数をρ(個)、ステップの線密度、つまり、単位長さ(cm)あたりに縞状の段差が幾つあるかをρ(1/cm)、平均的なステップの間隔W
aveを1/ρ(cm)とする。
【0055】
結晶成長面上をステップが進展する場合を、結晶成長面上の任意の点Aに注目して考える。SiC単結晶が厚さt成長すると、点A上をステップがn=t/h(回)通過する。また、点A上をステップがn回通過するためには、点Aからn×W
ave(cm)だけ離れたところから点Aに向けてステップが進展する必要がある。つまり、SiC単結晶のステップ進展方向に向けた長さがy(cm)とすると、厚さt(cm)成長するということは、SiC種結晶全体のステップ進展方向に向けた長さのt/yの割合を成長したことになる。
【0056】
また、貫通刃状転位が変換するのに必要なステップ通過回数がN回とすると、SiC単結晶は厚さN×hだけ成長する必要がある。また、ステップが貫通刃状転位をN回通過するためには、貫通刃状転位からN×W
ave(cm)離れたところのステップが貫通刃状転位を通過する必要がある。つまり、ステップはN×W
ave(cm)以上進展する必要がある。
【0057】
平均的なステップの線密度ρは1000個/cmである。また、ステップの好ましい高さは0.1μm以上であると考えられる。このため、上式を考慮すると、一つの貫通刃状転位上をステップが100回以上進展するためには、SiC単結晶の成長厚さは、100×0.1μm=10μm以上である事が好ましい。より好ましい成長厚さは、20μm以上である。また、ステップの好ましい進展距離(cm)は、100×W
ave=100×1/ρ=100×1/1000=1/10cm=1mmである。
【0058】
ところで、多くの貫通刃状転位を変換するためには、ステップが広域にわたって連続的に進展するのが好ましい。例えば、ステップは100個/cm以上(より好ましくは200個/cm)の線密度で1mm以上にわたって連続するのが好ましく、3mm以上にわたって連続するのがより好ましく、5mm以上にわたって連続するのがさらに好ましいと考えられる。なお、SiC単結晶の表面(結晶成長面)において、上述した規則的な縞状の段差が生じている領域を、ステップが連続する領域だとみなすことができる。上述したように、SiC種結晶における結晶成長面とSiC単結晶における結晶成長面とは同じ面積だとみなすことが可能である。このため、本発明の製造方法で得られたSiC単結晶の結晶成長面上において縞状の段差が残存する領域の長さを測定することで、ステップが連続する長さを測定することが可能である。SiC種結晶の結晶成長面全体にステップを進展させるためには、例えば、試験1のように種結晶の結晶成長面にオフ角を設けるのが好ましいが、この方法に限定されない。
【0059】
〔ステップ高さ〕
ところで、貫通刃状転位を変換するにあたり、貫通刃状転位上を進展させるステップの高さは、高い方が好ましいと考えられる。つまり、ステップ進展速度が貫通刃状転位の成長速度より大きくなると、ステップが進展し易く、刃状転位が変換し易くなる。ステップの進展速度を高めるためには、ステップの高さを高くするのが有効である。高さの高いステップ(マクロステップ)を形成するためには幾つかの方法があるが、その一つとして、種結晶にオフ角を設ける方法が挙げられる。例えば、種結晶の(0001)結晶成長面に対してオフ角を形成し、この種結晶を液相成長法により結晶成長させることで、マクロステップを形成できると考えられる。或いは、オフ角を形成した種結晶を溶解するだけでも(例えば上述したメルトバック工程でも)マクロステップを形成できると考えられる。更には、比較的高さの低いステップであっても、種結晶の結晶成長(ステップの進展)に伴ってステップ高さが高くなり、マクロステップが形成される場合もある。例えば、ステップへのSiおよびCの供給が上段から行われる場合、上段のステップのテラス幅が大きいほどステップの進展速度は速くなるため、上段のステップが下段のステップに追いついて、上下段のステップが一つになり、ステップ高さの高いマクロステップが形成される。
【0060】
(その他)本発明は上記し且つ図面に示した実施形態のみに限定されるものではなく、要旨を逸脱しない範囲内で適宜変更して実施できる。例えば実施形態のSiC単結晶製造方法においては液相成長法を用いて種結晶を成長させているが、気相成長法を用いることも可能である。この場合、例えば上述した貫通刃状転位のバーガースベクトルの何れかに対して±略30°となる方向、つまり、(1)〜(3)方向の何れかにステップ進展するように、SiC種結晶の結晶成長面にマクロステップを形成しておく。そして、その後にマクロステップの形成された種結晶(第2の種結晶)における貫通刃状転位上にステップを進展させれば、実施形態と同様に貫通刃状転位の低減したSiC単結晶を得ることができる。