【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 2012年2月29日公益社団法人応用物理学会発行『2012年春季第59回応用物理学関係連合講演会「講演予稿集」』(DVD) 〔刊行物等〕 2012年3月6日社団法人電子情報通信学会発行『電子情報通信学会2012年総合大会講演論文集』(DVD)
【文献】
Toru Ujihara, et al.,Materials Science Forum,2012年 5月,Vol.717-720,P.351-354
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明のSiC単結晶成長方法は、液相成長法を用いても良いし気相成長法を用いても良い。気相成長法に関しては、化学気相蒸着(CVD:Chemical Vapor Deposition)法や、物理気相成長(PVD:Physical Vapor Deposition)法等の一般的な方法を用いることができる。例えば、シランガスおよび炭化水素系ガスを原料ガスとして用いたCVD法により、3C−SiC単結晶を得ることができる。また、PVD法(昇華法とも呼ばれる)によりSiC単結晶成長をおこなう場合、SiC粉末を原料とし、2000℃以上の高温で原料を昇華させ、SiとCとからなる蒸気を低温にした種結晶上で過飽和にして、SiC単結晶を析出させることができる。
【0023】
液相成長法を用いる場合、原料溶液として、ケイ素元素および炭素元素を含む溶液を用いる。この原料溶液(SiC溶液)に種結晶を接触させて、少なくとも種結晶近傍の溶液を過冷却状態にする。このことで、原料溶液のC濃度が種結晶近傍において過飽和状態になるようにし、種結晶上にSiC単結晶を成長(主としてエピタキシャル成長)させる。なお、成長前に、種結晶を原料溶液中のカーボン濃度が低い場所に浸漬することによって、結晶表面を溶解する工程(メルトバック工程)を行い、種結晶表面の清浄化を行うことができる。液相成長法では、熱平衡状態に近い環境で結晶成長が進行するため、積層欠陥などの欠陥の密度が低い良質なSiC単結晶を得ることが可能である。また、比較的低温で結晶成長をおこなうことが可能であるため、3C−SiC単結晶を得ることも可能である。なお、原料溶液の材料は特に限定されず、一般的なものを使用することができる。例えば、SiC溶液のSi源としては、SiまたはSi合金を用いることができる。具体的には、Siを主成分とし、Ti、Cr、Sc、Ni、Al、Co、Mn、Mg、Ge、As、P、N、O、B、Dy、Y、Nb、Nd、Feから選ばれる少なくとも一種を加えた合金溶液等である。SiC溶液のC源としては、黒鉛、グラッシーカーボン、SiC、メタン、エタン、プロパン、アセチレンなどの炭化水素ガス、および、下記に上げる元素Xの炭化物(X=Li、Be、B、Na、Mg、Al、Ca、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Br、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Ba、Hf、Ta、W、La、Ce、Sm、Eu、Ho、Yb、Th、U、Pu)から選ばれる少なくとも一種を用いることができる。
【0024】
なお、本発明の製造方法に用いるSiC種結晶は、SiC単結晶であれば良く、3C−SiC、4H−SiC、6H−SiCに代表される種々の結晶を用いることができる。
【0025】
何れの場合にも、SiC種結晶の結晶成長面においてSiC単結晶からなる高さの大きなステップ、つまり、マクロステップが形成されれば、その後のマクロステップの進展による結晶成長によって貫通らせん転位の少ないSiC単結晶が得られると考えられる。つまり
図1に示すように、SiC種結晶を結晶成長させる際に、(0001)面に対して略垂直な方向に延びる貫通らせん転位TSD上を、上述したマクロステップSmが進展する(通過する)ことで、
図2、3に示すように(0001)面(つまり基底面)に対して略平行な方向に延びる積層欠陥SFに変換されると考えられる。
【0026】
図2、3および
図4中矢印で示すように、SiC単結晶が結晶成長する際に各ステップが進展する方向(ステップ進展方向)は、(0001)面と略平行な方向である。一方、貫通らせん転位TSDの成長方向は(0001)面と略垂直な方向である。つまりステップ進展方向と貫通らせん転位TSDの成長方向とは略直交する。したがって、SiC種結晶の結晶成長時、すなわち、マクロステップS
mの進展時においては、マクロステップS
mが貫通らせん転位TSDの上を通過しつつ進展する。すると、
図3に示すように貫通らせん転位TSDの成長方向が(0001)面と略平行な方向に変化し、積層欠陥SFに変換される。このような現象が生じる理由は明らかではないが、ステップの高さが関係すると考えられる。つまり、貫通らせん転位TSDの成長方向と、SiC単結晶のステップ進展方向とは略直交する。このため、結晶成長面(0001)において、形成されているステップの高さが大きい場合には(つまり、ステップがマクロステップS
mであれば)、鏡像力(image force)によって貫通らせん転位TSDが曲げられ易く、基底面の積層欠陥SFに変換され易いと考えられる。換言すると、本発明のSiC単結晶の製造方法によると、種結晶にマクロステップを形成し、マクロステップを貫通らせん転位上に進展させさえすれば、貫通らせん転位を変換することができる。従来の結晶成長方法においては、高さの高いステップを形成しないように結晶成長させるのが良いとされていた。このため、従来の結晶成長方法によると、高さの低いステップのみが形成され、マクロステップが形成されず、貫通らせん転位を変換することもできなかったと考えられる。
【0027】
なお、ここでいうステップの高さhとは、
図4に示すテラス面P1とP2との距離を指す。より詳しくは、ステップの高さは以下のように説明できる。
図4に示すように、任意のステップS1のテラス面(つまりSiC種結晶自体の結晶成長方向における先端面)をテラス面P1とし、当該テラス面P1を通る直線を直線L1とする。また、当該ステップS1の進展方向の先側に隣接する他のステップS2のテラス面をP2とし、当該テラス面P2を通る直線を直線L2とする。この場合にステップS1の高さは直線L1と直線L2との距離に相当する。なお、本発明においては、ステップ高さが70nmを超えるステップをマクロステップと呼ぶ。ステップの高さが70nmを超える程に高ければ、つまりマクロステップであれば、後述するように貫通らせん転位を変換可能である。
【0028】
本発明の製造方法においては、
図5に示すように貫通らせん転位TSDの積層欠陥SFへの変換が生じた後に、さらにSiCの結晶成長を続ける。積層欠陥SFは基底面の欠陥であり、結晶成長方向には継承されない。このようにして得られたSiC単結晶10は、種結晶1に由来し貫通らせん転位TSDを含む層(第1の層11)と、この第1の層11に連続して形成され積層欠陥SFを含む第2の層12と、この第2の層12に連続して形成され第1の層11に比べて貫通らせん転位TSDの少ない第3の層13と、の3層を持つ。第2の層は第1の層に比べて貫通らせん転位の数が少なく、積層欠陥の数が多い。第3の層13は貫通らせん転位TSDが積層欠陥SFへ変換した後に成長した部分であるため、第1の層11に比べて貫通らせん転位TSDの数は大きく低減し、かつ、積層欠陥の数も大きく低減する。したがって、このSiC単結晶10から第3の層13を切り出すことで、貫通らせん転位TSDの非常に少ないSiC単結晶10を得ることができる。また、SiC単結晶10の用途によっては、SiC単結晶10の結晶成長方向にわたって貫通形成された欠陥の数が低減されれば良く、SiC単結晶10の結晶成長方向の一部分に貫通らせん転位TSDが存在していても良い場合もある。このような場合には、本発明の製造方法で得られたSiC単結晶10をそのまま使用することも可能である。
【0029】
何れの場合にも、上述したRAF法のように結晶成長→切り出し→方向を変えて結晶成長→切り出し…という工程を繰り返す場合に比べて、工数が大きく低減する。また、貫通らせん転位のない(または貫通らせん転位の非常に少ない)SiC単結晶を得るまでに要する時間を大きく短縮できる。つまり、本発明の製造方法によると、貫通らせん転位の少ないSiC単結晶を比較的少ない工数で比較的短時間に得ることが可能である。さらに、このようにして得た貫通らせん転位の少ないSiC単結晶を種結晶として用いれば、一般的な液相法や気相法によって、貫通らせん転位の少ないSiC単結晶を結晶成長させることも可能である。
【0030】
(実施形態)
(試験1)
以下、具体例を挙げて、本発明のSiC単結晶およびその製造方法を説明する。
【0031】
高周波加熱グラファイトホットゾーン炉を用いて、SiC単結晶を製造した。この単結晶成長装置を模式的に表す説明図を
図6に示す。単結晶成長装置20は、カーボン製の坩堝21と、この坩堝21を加熱する加熱要素22と、坩堝21の内部に対して進退可能である保持要素23と、坩堝21を回転させる坩堝駆動要素24と、これらを収容するチャンバー(図略)とを持つ。坩堝21は上方に開口する有底の略円筒状をなす。坩堝21の内径は45mmであり、深さは50mmである。加熱要素22は誘導加熱式のヒータである。加熱要素22はコイル状の導線25と、導線25と図略の電源とを接続する図略のリード線とを持つ。導線25は坩堝21の外側に巻回されて、坩堝21と同軸的なコイルを形成している。保持要素23は、ロッド状をなすディップ軸部26と、ディップ軸部26を長手方向(
図6中上下方向)に進退させるディップ軸駆動部27と、を持つ。ディップ軸部26の直径は10mmであり、ディップ軸部26の長手方向の一端部(
図6中下端部)には種結晶1を保持可能な保持部28が形成されている。
【0032】
試験1においては、この単結晶成長装置を用い、溶液引き上げ(TSSG:Top Seeded Solution Growth)法に基づいて、種結晶1を坩堝21の中のSiC溶液29に浸すとともに引き上げながら結晶成長させた。
【0033】
より具体的には、カーボン製の坩堝21中でSi(純度11N、株式会社トクヤマ製)を加熱要素22により加熱することで、坩堝21に含まれるCを坩堝21中のSi融液に溶出させて、SiC溶液29を得た。なお、前処理として、Si種結晶およびSiは予め、メタノール、アセトン、および精製水(18MΩ/cm)中でそれぞれ超音波洗浄した。
【0034】
単結晶成長装置20における加熱要素22の設定温度は1630℃であり、坩堝21中には32K/cmの図中上下方向(坩堝21の液面−底面方向)に向けた温度勾配が形成された。つまり、坩堝21中に収容されているSiC溶液29は、導線25の近傍に位置しかつ坩堝21の内面21aに隣接する部分において最も高温である。坩堝21の中心部に近づく程(坩堝の内面21aから離れる程)、あるいは、坩堝21の軸方向すなわち
図6に示す上下方向に導線25から離れる程、SiC溶液29の温度は低くなる。このように坩堝21中のSiC溶液29に温度勾配を形成した状態で、チャンバー内部に高純度(99.9999体積%)のアルゴンガスを供給しつつ、SiC種結晶1(以下、単に種結晶1と呼ぶ)を保持したディップ軸部26を坩堝中21に挿入した。
【0035】
種結晶1としては、気相成長法(昇華法)で製造された市販の4H−SiC単結晶(10mm×10mm×厚さ0.35mm)を用いた。参考までに、気相成長法で製造された一般的な4H−SiC単結晶は800〜20000cm
−2程度の貫通らせん転位を含む。本試験で用いた種結晶も
図1に示すように3000cm
−2程度の貫通らせん転位を含んでいた。
図7に示すように、この種結晶1の(0001)面に、オフセット角(オフ角)1.25°となるように切削加工を施した。そして、
図6に示すように、オフ角を形成した(0001)面が坩堝21中のSiC溶液29に対面するように種結晶1を保持部28に取り付け、ディップ軸駆動部27によりディップ軸部26を坩堝21の内部に向けて進行させ、種結晶1をSiC溶液29に浸漬した。SiC溶液29が温度の低い種結晶1付近で冷却されることで、種結晶1の表面にSiC結晶が成長した。なお、結晶成長は加速るつぼ回転法(accelerated crucible rotation technique)に基づいておこなった。つまり結晶成長中は坩堝駆動要素24によって坩堝21を回転させ、坩堝21と種結晶1とを相対的に逆方向に回転させるとともに、回転方向を交互に切換えた。このときの回転速度(最高速度)は約20rpmであった。
【0036】
成長開始(つまり種結晶とSiC溶液との接触開始後)から1時間後、ディップ軸駆動部27によりディップ軸部26を上方に移動させ、結晶成長した種結晶1(つまりSiC単結晶10)をSiC溶液29から引き上げた。引き上げたSiC単結晶10は、表面に残存するSiC溶液を除去するため、HNO
3とHFとの混液(HNO
3:HF=2:1)でエッチングした。以上の工程で、試験1のSiC単結晶10を得た。
【0037】
上述した操作で種結晶1を結晶成長させたことで、種結晶1は結晶成長した。また、結晶成長中の種結晶1には、マクロステップS
mが形成されていた。これは以下の機構によると考えられる。
【0038】
〔マクロステップの形成〕
試験1においては、種結晶の(0001)面に対してオフ角を形成し、液相成長法により、この種結晶上にSiC単結晶を成長させることで、マクロステップを形成している。詳細を以下に説明する。
【0039】
図7に示すように種結晶1の(0001)面に対してオフ角を形成すると、種結晶1の表面にはSi原子および/またはC原子からなる微少なステップが多数形成される。オフ角を設けた種結晶上で結晶成長する場合、一般的には、結晶成長面は表面エネルギが低くなるよう形成される。4H−SiCの場合、(0001)面と(30−38)面とが表面エネルギの低い安定面であるため、これらの面を出すように原子単位のステップがバンチングし、マクロステップS
mが形成されると考えられる。より具体的には、(0001)面は
図8における各ステップのテラス面P
tであり、(30−38)面は側面P
Sと考えられる。したがって、(0001)面に対してオフ角を形成すると、(0001)面P
sおよび(30−38)面P
tを結晶成長面としてSiC単結晶が結晶成長し、マクロステップS
mを形成すると考えられる。
【0040】
このようなSi原子および/またはC原子のバンチング(以下、単にバンチングと略する)は、オフ角を形成した種結晶1を結晶成長させるだけでも発生する可能性がある。或いは、オフ角を形成した種結晶1を溶解するだけでも(例えば上述したメルトバック工程によっても)バンチングが発生する可能性がある。つまり、試験1の製造方法においては、(0001)面にオフ角を形成した種結晶1を結晶成長させる初期の段階で、種結晶の(0001)面にバンチングが発生すると考えられる。そして、バンチングが頻度高く生じるとマクロステップS
mが形成されると考えられる。この方法は第2の種結晶15を得る一つの方法であると考えられる。
【0041】
更には、比較的高さの低いステップであっても、種結晶1の結晶成長(ステップの進展)に伴ってステップ高さが高くなり、マクロステップS
mが形成されることも考えられる。ステップへのSiおよびCの供給が上段から行われる場合、上段のステップのテラス幅が大きいほどステップの進展速度は速くなる。すなわち、
図9においてW1>W2であるので、S1のステップ進展速度V1はS2のステップ進展速度V2よりも早くなる。この場合、S1がS2に追いつくためS1とS2は一つのステップとなり、ステップ高さが高くなることになる。つまり、この場合には、下段のステップS
2においてバンチングが進行し、ステップ高さhが高くなり、マクロステップS
mが形成されると考えられる。この工程は、本発明のSiC単結晶の製造方法におけるステップ形成工程に相当する。試験1においては、マクロステップS
mが形成された種結晶1(第2の種結晶15)を
図2、3、5に示すようにさらに結晶成長させることで、マクロステップを貫通らせん転位上に進展させ、試験1のSiC単結晶を得た。この工程は、本発明のSiC単結晶の製造方法における結晶成長工程に相当する。
【0042】
(試験2)
試験2のSiC単結晶製造方法は、種結晶の(0001)面に形成するオフ角が2°となるように切削加工を施したこと以外は、試験1のSiC単結晶製造方法と同じ方法である。試験2のSiC単結晶製造方法により、試験2のSiC単結晶を得た。
【0043】
(試験3)
試験3のSiC単結晶製造方法は、オフ角の角度以外は試験1のSiC単結晶製造方法と同じ方法である。具体的には、試験3において種結晶に形成したオフ角は4°であった。試験3のSiC単結晶製造方法により、試験3のSiC単結晶を得た。
【0044】
(試験4)
試験4のSiC単結晶製造方法は、オフ角の角度以外は試験1のSiC単結晶製造方法と同じ方法である。具体的には、試験4において種結晶に形成したオフ角は0.75°であった。試験4のSiC単結晶製造方法により、試験4のSiC単結晶を得た。
【0045】
(評価試験)
[貫通らせん転位の変換率]
放射光X線を用いたX線トポグラフィー法を用いて、上記の試験1〜3のSiC単結晶を観察し、各SiC単結晶に残存する欠陥を評価した。なお、結晶成長前の種結晶についても同じ方法で欠陥の評価をおこなった。X線トポグラフィー法については、ビームラインとしてPhoton factory BL−15Cを用いた。波長は0.150nmであり、反射面は(11−28)であった。
【0046】
図10は、種結晶、および、試験1の方法による結晶成長の初期におけるSiC単結晶を同一箇所で撮像したX線トポグラフィー像である。より具体的には、
図10中左に示す像が種結晶のX線トポグラフィー像であり、
図10中右に示す像が結晶成長初期における試験1のSiC単結晶のX線トポグラフィー像である。成長前の種結晶には点状のコントラストで表される貫通らせん転位TSDが数多く存在している。この貫通らせん転位TSDの多くは、成長後の結晶においてステップ進展方向に延びる線状のコントラストに変換している。TEM観察の結果から、このようなコントラストを示す欠陥は、部分転位を伴うフランク型の積層欠陥SFであることが明らかとなった。この結果から、試験1の製造方法によると種結晶に存在する貫通らせん転位を基底面の積層欠陥に変換し得ることがわかる。
【0047】
図11、12は、種結晶、試験3の方法による結晶成長の初期におけるSiC単結晶、および試験3のSiC単結晶を同一箇所で撮像したX線トポグラフィー像である。より具体的には、
図11に示す像は種結晶のX線トポグラフィー像である。
図12に示す像は結晶成長初期における試験3のSiC単結晶のX線トポグラフィー像である。
図13に示す像は試験3のSiC単結晶の表面モフォロジー像である。
図11、12に示すように、試験1に比べてオフ角を大きくした試験3のSiC単結晶は、成長初期において殆どの貫通らせん転位TSDが積層欠陥SFに変換している。そして、
図13に示すように試験3の製造方法で得られたSiC単結晶は、ステップ進展が生じた痕跡である段差が数多く形成され、殆どの貫通らせん転位TSDおよび積層欠陥SFは消失している。より具体的には、段差は試験3のSiC単結晶における結晶成長面の全面にわたって形成されていた。この結果から、オフ角の角度を大きくした試験3の製造方法によっても、種結晶に存在する貫通らせん転位を基底面の積層欠陥に変換し得ることがわかる。
【0048】
上記の方法で得たX線トポグラフィー像から選択される任意の1mm×5mmの領域を目視でカウントすることにより、各試験に用いた種結晶の貫通らせん転位の数、および、各試験で得られたSiC単結晶の貫通らせん転位の数を計測した。そして、各試験で用いた各種結晶における貫通らせん転位の数を100個数%として、各試験による貫通らせん転位の変換率(%)を算出した。結果を
図14に示す。
【0049】
図14に示すように、オフ角の角度が大きくなる程、貫通らせん転位から積層欠陥への変換率(%)が高くなる。
【0050】
[ステップ高さとオフ角との関係]
共焦点レーザー顕微鏡を用い、各試験で得られたSiC単結晶に形成されているステップの高さを測定した。具体的には、共焦点レーザー顕微鏡としてオリンパス株式会社製、LEXT OLS−3100を用い、各SiC単結晶をテラス面側から撮像した。試験1のSiC単結晶のレーザー顕微鏡像を
図15に示し、試験2のSiC単結晶のレーザー顕微鏡像を
図16に示し、試験3のSiC単結晶のレーザー顕微鏡像を
図17に示す。
図15〜
図17に示す各像の濃淡はステップの高さを示す。ステップ進展方向は各図中上下方向(淡色側→濃色側方向)である。
図15〜
図17に示すように、試験1〜3のSiC単結晶には、バンチングした多数のステップが形成されている。そしてこれら多数のステップが縞状に整列していることから、これらのSiC単結晶においてステップの進展が生じていることもわかる。さらに、各ステップの高さは試験3>試験2>試験1であることもわかる。一例として、
図15に示す試験1のSiC単結晶のレーザー顕微鏡像を基に得た、SiC単結晶のステップを模式的に表す説明図を
図18に示す。これらの図から、試験1〜3のSiC単結晶におけるステップの高さおよびテラス幅を読み取った。試験1〜3の各SiC単結晶におけるステップ高さとオフ角との関係を
図19に示し、試験1〜3の各SiC単結晶におけるテラス幅とオフ角との関係を
図20に示す。
図19に示すように、オフ角が大きい程、ステップ高さの高いステップが形成された。このため、オフ角が大きい程、ステップ高さの高いマクロステップを多く含むSiC単結晶を得ることができると考えられる。
【0051】
試験1〜3において種結晶に形成したオフ角と、
図19に示される各SiC単結晶におけるステップ高さの最小値と、の関係を貫通らせん転位の変換率とともに
図14に示す。
図14に示すように、貫通らせん転位の変換率と、SiC単結晶におけるステップ高さの最小値とには正の相関があり、ステップ高さの最小値が大きい程、貫通らせん転位の変換率が高くなることがわかる。オフ角1.25°でありステップ高さの最小値が80nmである試験1のSiC単結晶においては90%以上の貫通らせん転位が変換した。また、オフ角4°でありステップ高さの最小値が100nmである試験3のSiC単結晶では99%以上の貫通らせん転位が変換した。このように、ステップ高さの高いマクロステップを形成することで、貫通らせん転位の積層欠陥への変換率は大きく向上する。なお、本発明のSiC単結晶の製造方法においては、全てのステップがマクロステップでなくても良い。少なくとも一つのマクロステップが形成されれば、種結晶に形成されている貫通らせん転位が変換され、貫通らせん転位の少ないSiC単結晶を得ることが可能である。勿論、上述したようにマクロステップが多く形成されれば(例えば、試験3のようにステップ高さの最小値が100nm以上である場合等には)、貫通らせん転位の著しく低減したSiC単結晶を得ることができる。つまり、本発明のSiC単結晶の製造方法によると、マクロステップの数や高さを適宜調整することで、貫通らせん転位のないSiC単結晶を得ることも可能である。参考までに、
図20に示すように、オフ角が大きい程、テラス幅は小さくなる。
【0052】
ところで、上述したように、らせん転位の成長速度がステップ進展速度より大きいと、ステップが進展し難く、らせん転位が残存するとともにスパイラル成長が生じる。したがって、
図21に示すように、マクロステップの高さをh、マクロステップのステップ進展速度をV
step、テラス幅をw、らせん転位の成長速度をv
spiralとすると、ステップが貫通らせん転位上を進展するための条件は下記のように表される。
【0053】
V
spiral<(h×v
step)/w
実施形態においては、V
spiral=9μm/時間、v
step=500μm/時間であった。これらを上式に代入すると、0.018<h/wとなる。これがSiC単結晶の結晶成長時にステップを進展させるための条件となる。試験1(ステップ高さの最小値80nm、オフ角1.25°、貫通らせん転位の変換率90%)の場合w=8.5μmであったので、これを代入すると、ステップが進展する条件は、近似的に、70nm<hと考えることができる。このような範囲において、マクロステップによるらせん転位の変換が起こると考えられる。つまり、マクロステップ形成工程において高さ70nmを超えるマクロステップを形成すれば、貫通らせん転位の低減したSiC単結晶を得ることができる。換言すると、高さ70nmを超えるマクロステップであれば、貫通らせん転位が存在していても、ステップ進展可能である。
【0054】
マクロステップの高さが高い程、貫通らせん転位の積層欠陥への変換率は高くなる。したがって、本発明の製造方法においてマクロステップの高さは70nmを超えれば良いが、鏡像力を考慮すると、より高い方が好ましい。具体的には、マクロステップの高さは80nm以上であるのが好ましく、100nm以上であるのがより好ましい。このようなマクロステップを少なくとも一つ、好ましくは複数形成した第2の種結晶を用いてSiC単結晶を成長させることで、SiC単結晶における結晶成長時のステップ進展が信頼性高く生じ、貫通らせん転位の大きく低減したSiC単結晶を得ることが可能である。
【0055】
なお、本発明のSiC単結晶の製造方法においては、全てのステップがマクロステップでなくても良い。少なくとも一つのマクロステップが形成され進展すれば、種結晶に形成されている貫通らせん転位が変換され、貫通らせん転位の少ないSiC単結晶を得ることが可能である。勿論、上述したようにマクロステップが多く形成されれば(例えば、試験3のようにステップ高さの最小値が100nm以上である場合等には)、貫通らせん転位の著しく低減したSiC単結晶を得ることができる。つまり、本発明のSiC単結晶の製造方法によると、マクロステップの数や高さを適宜調整することで、貫通らせん転位のないSiC単結晶を得ることも可能である。マクロステップの数は、多ければ多い方が好ましい。一つの貫通らせん転位上を複数のマクロステップが進展すれば、貫通らせん転位が変換される頻度が高まるからである。好ましいマクロステップの数は、以下の計算に基づき、好ましいマクロステップの密度として表すことができる。
【0056】
上述したように、試験3のSiC単結晶においては貫通らせん転位のほぼ100%が変換していた。このSiC単結晶の厚さ(結晶成長した分の厚さ)は20μmであった。このときのマクロステップの高さの最小値は100nm(0.1μm)であったため、結晶成長面上をマクロステップが進展する現象が200回以上生じると、SiC単結晶の貫通らせん転位のほぼ全てが変換すると考えられる。換言すると、一つの貫通らせん転位上をマクロステップが200回以上進展すれば貫通らせん転位はほぼ確実に変換すると考えられる。試験3のSiC種結晶における結晶成長面は1cm×1cmであったため、特に好ましいマクロステップの密度(線密度)は200個/cm以上であると言える。なお、実際にはマクロステップの線密度が100個/cm以上あれば、大多数の貫通らせん転位は変換する。つまり、マクロステップの好ましい線密度は100個/cm以上であると言える。マクロステップの線密度は、250個/cm以上であるのがより好ましく、500個/cm以上であるのがさらに好ましい。なお、本発明のSiC単結晶における平均的なマクロステップの線密度ρは1000個/cm程度であったため、マクロステップの線密度ρは1000個/cm以上であるのが特に好ましく、2000個/cm以上であるのがより一層好ましいといえる。
【0057】
参考までに、ここでいうマクロステップの数とは、結晶成長における任意の時点におけるマクロステップの個数をいう。マクロステップの個数は、本発明の製造方法で得られたSiC単結晶上に残存する縞状の段差の数と近似する。この縞状の段差の数をステップの個数と見なしても良い。また、SiC種結晶における結晶成長面の大きさは、SiC単結晶における結晶成長面の大きさと近似する。したがって、本発明の製造方法で得られたSiC単結晶の結晶成長面に残存する縞状の段差の密度を測定することで、マクロステップの密度を測定することが可能である。なお、SiC単結晶の結晶成長面に残存する縞状の段差の数は、レーザー顕微鏡下で測定することができる。
【0058】
ところで、上述した好ましいマクロステップの個数または密度は、以下のように表現することもできる。
【0059】
マクロステップの平均高さをh(cm)、SiC単結晶の成長厚さをt(cm)、マクロステップの線密度、つまり、単位長さ(1cm)あたりに縞状の段差が幾つあるかをρ(1/cm)、平均的なマクロステップの間隔W
aveを1/ρ(cm)とする。
【0060】
結晶成長面上をマクロステップが進展する場合を、結晶成長面上の任意の点Aに注目して考える。SiC単結晶が厚さt成長すると、点A上をマクロステップがn=t/h(回)通過する。また、点A上をマクロステップがn回通過するためには、点Aからn×W
ave(cm)だけ離れたところから点Aに向けてマクロステップが進展する必要がある。つまり、SiC単結晶のステップ進展方向に向けた長さがy(cm)とすると、厚さt(cm)成長するということは、SiC種結晶全体のステップ進展方向に向けた長さのt/yの割合を成長したことになる。
【0061】
また、貫通らせん転位が変換するのに必要なマクロステップ通過回数がN回とすると、SiC単結晶は厚さN×hだけ成長する必要がある。また、マクロステップが貫通らせん転位をN回通過するためには、貫通らせん転位からN×W
ave(cm)離れたところのマクロステップが貫通らせん転位を通過する必要がある。つまり、マクロステップはN×W
ave(cm)以上進展する必要がある。
【0062】
平均的なマクロステップの線密度ρは1000個/cmである。また、マクロステップの好ましい高さは上記のとおり0.1μmである。このため、上式を考慮すると、一つの貫通らせん転位上をマクロステップが100回以上進展するためには、SiC単結晶の成長厚さは、100×0.1μm=10μm以上である事が好ましい。より好ましい成長厚さは、20μm以上である。また、マクロステップの好ましい進展距離(cm)は、100×W
ave=100×1/ρ=100×1/1000=1/10cm=1mmである。
【0063】
なお、多くの貫通らせん転位を変換するためには、マクロステップが広域にわたって連続的に進展するのが好ましい。
図13に示すX線トポグラフィー像の全長は約1000μmである。マクロステップはこの像の全域にわたって形成され、その線密度は上述した好ましい範囲つまり100個/cm以上である。このため、マクロステップは100個/cm以上(より好ましくは200個/cm)の線密度で1mm以上にわたって連続するのが好ましいと言える。マクロステップが連続する長さは長ければ長い方が好ましい。このため、マクロステップは100個/cm以上(より好ましくは200個/cm)の線密度で3mm以上にわたって連続するのが好ましく、5mm以上にわたって連続するのが好ましいと考えられる。
【0064】
また、SiC単結晶における貫通らせん転位の総数を低減するためには、マクロステップが多くの貫通らせん転位上を進展するのが好ましい。つまり、種結晶の結晶成長面上において、マクロステップが進展する領域を大きくするのが好ましい。例えば、マクロステップが結晶成長面全体を進展する場合には、SiC単結晶に残存する貫通らせん転位の総数を大きく低減できる。結晶成長面におけるマクロステップの進展領域は、SiC単結晶における(0001)結晶成長面を100面積%としたときに、30面積%以上であるのが好ましく、50面積%以上であるのがより好ましい。なお、SiC単結晶の表面(結晶成長面)において、上述した規則的な縞状の段差が生じている領域を、マクロステップが進展した領域だとみなすことができる。上述したように、SiC種結晶における結晶成長面とSiC単結晶における結晶成長面とは同じ面積だとみなすことが可能であるため、本発明の製造方法で得られたSiC単結晶の結晶成長面、および、この結晶成長面上において縞状の段差が残存する領域の面積を測定することで、マクロステップの進展領域を測定することが可能である。SiC種結晶の結晶成長面全体にマクロステップを進展させるためには、例えば、試験1のように種結晶の結晶成長面にオフ角を設けるのが好ましいが、この方法に限定されない。
【0065】
[ステップ高さとステップ進展との関係]
ノマルスキー型微分干渉顕微鏡(Leica DM4000 M)を用いて試験4のSiC単結晶を撮像した顕微鏡像を
図22に示す。
図22に示すように、試験4のSiC単結晶の成長表面には、貫通らせん転位によるスパイラル成長によって生じた多くのヒロック(hillock:ステップ状でない隆起)が観察された。この結果から、試験4のSiC単結晶においてはスパイラル成長がステップの進展に優先して生じていることがわかり、試験4のSiC単結晶においては貫通らせん転位の変換が生じているものの、多くは生じていないことが示唆される。つまり、試験4の製造方法では種結晶にマクロステップが形成されているが、その数は試験1等と比較すると少なく、貫通らせん転位の変換頻度もまた試験1に比べると低かったと考えられる。
【0066】
つまり、試験1〜試験3のSiC単結晶の製造方法ではマクロステップ形成工程において高さ70nmを超えるステップであるマクロステップが数多く形成されるとともに、多くの貫通らせん転位上をマクロステップが進展しているのに対し、試験4のSiC単結晶の製造方法では、マクロステップ形成工程において形成されたステップは高さ70nm未満のステップが多く、その数も比較的少なかったと考えられる。つまり、オフ角を形成することによりマクロステップを形成する場合には、オフ角の角度を1°以上にするのが好ましいことがわかる。
【0067】
なお、本発明のSiC単結晶の製造方法においては、マクロステップ形成工程に供するSiC種結晶の(0001)結晶成長面にマクロステップが形成されていれば良い。換言すると、マクロステップ形成工程は、マクロステップを形成することができれば良く、SiC種結晶にオフ角を設ける実施形態の工程に限定されず、種々の方法を用いることができる。つまり、種結晶にオフ角を設けない場合にも、貫通らせん転位を変換することは可能である。以下、
図23、
図24を例示して試験5のSiC単結晶の製造方法について説明する。
【0068】
(試験5)
種結晶にオフ角を設けなかったこと以外は、試験1と略同じ方法でSiC単結晶を成長させ、試験5のSiC単結晶を得た。ノマルスキー型微分干渉顕微鏡を用いて試験5のSiC単結晶を撮像した顕微鏡像を
図23に示す。また、試験5のSiC単結晶を
図23と同一箇所で撮像したX線トポグラフィー像を
図24に示す。
【0069】
オフ角を設けない種結晶(オンアクシス種結晶)上では、貫通らせん転位を起点とするスパイラル成長が生じる。試験5のSiC単結晶を撮像した
図24のX線トポグラフィー像においては、点状のコントラストで表される貫通らせん転位TSDが確認される。そして、
図23の表面モフォロジー像においては、この貫通らせん転位TSDと同位置に、六角形のパターンP
Sが確認される。この六角形のパターンP
Sはスパイラル成長が生じたことを表す。この六角形のパターンP
Sが成長するとヒロックが形成される。ヒロックは結晶成長面に沿って広がりながら成長する。このため、ヒロックの周縁部(つまりヒロックの成長端部)のなかで他のヒロックに干渉されない部分では、ステップの進展が生じる。
図23の表面モフォロジー像の下部には、ステップが進展した痕跡である複数のステップSがみられる。
【0070】
図24のX線トポグラフィー像に示すように、ステップの進展が生じた部分においては、ステップ進展方向に延びる線状のコントラストが確認される。例えば、
図24においては楕円で囲んだ部分である。この線状のコントラストは、貫通らせん転位TSDが積層欠陥SFに変換されたことを表す。
図23に示す表面モフォロジー像において、この線状のコントラストが生じた位置と同位置(図中破線で囲った部分)には、六角形のパターンP
Sは認められない。このことからも、この貫通らせん転位TSDが積層欠陥SFに変換されたことが裏づけられる。
【0071】
試験4、5のSiC単結晶の製造方法のように、貫通らせん転位に起因するヒロックが形成され、ヒロックに起因するステップの進展が生じることで、貫通らせん転位の変換が生じる場合もある(
図22、23)。しかし、貫通らせん転位に起因するヒロックが形成されてもステップの進展が生じず、貫通らせん転位が変換されない場合もある。両者の違いは、ステップの進展が継続するか否かにあると考えられ、その原因は、上述した計算式のようにステップ高さによるものと考えられる。つまり、ステップ高さの低いステップが進展する場合には、ステップの進展が何らかの要因により阻害され、継続的におこなわれないと考えられる。そしてこの場合には、貫通らせん転位の変換が生じないと考えられる。一方、ステップ高さの高いマクロステップが進展する場合には、ステップの進展が進行し、貫通らせん転位の変換が生じると考えられる。
【0072】
また、試験5の結果から、種結晶にオフ角を設けることなくマクロステップを進展させる方法の一つとして、ヒロックを形成する方法を使用できることがわかる。ヒロックに起因するステップを進展させる場合には、成長面内において温度分布を設けたり、ステップへのC源供給量に差を生じさせたりすることで、結晶の一部の成長速度を大きくすれば良いと考えられる。例えば、種結晶を局所的に冷却したり、SiC溶液の対流方向や速度を制御することで種結晶の一部分に他の部分に優先してカーボンを供給したりすることで、種結晶近傍に存在するSiC溶液の過飽和度や過冷却度を大きくすることができる。これらの場合には、
図9に示すように上段のステップS
1のステップ進展速度V
1と下段のステップS
2のステップ進展速度V
2との差を大きくでき、マクロステップの進展を促進することができる。
【0073】
〔多形の抑制〕
SiC単結晶は多くの結晶多形を持つ。結晶多形とは、化学量論的には同じ組成でありながら、Si−C結合を持つ正四面体構造からなる正四面体多構造層の積層順序の異なる結晶である。代表的な多形として、3C−SiC、6H−SiC、4H−SiC、15R−SiCが挙げられる。SiC単結晶の用途によっては、多形が発生すると好ましくない場合がある。SiC単結晶が二次元核成長する場合、正四面体多構造層の積層順序が結晶成長方向、つまり、(0001)面に対して垂直な方向に引き継がれ難い場合があることが知られている。一方、上述したようにステップの進展を伴う結晶成長が生じる場合やスパイラル成長が生じる場合には、二次元核成長する場合に比べて、正四面体多構造層の積層順序は結晶成長方向に引き継がれ易いと考えられている。また、スパイラル成長は貫通らせん転位の存在下で生じることが知られている。
【0074】
例えば、
図25の上図に示すように、液相成長法により、オフ角を設けた種結晶1上にSiC単結晶10を結晶成長させる場合、先ず、ステップの進展が生じる。ステップの進展を伴う結晶成長が生じる際には、上述したように、積層順序が継承され易い。このため、多形変化は生じ難い。しかし、種結晶1の結晶成長面には、種結晶1のオフ角からのステップの供給が行われない部分(所謂Mesa部分)が生じる。このような部分では、
図25の中図に示すように、二次元核成長が生じる。二次元核成長した部分100は、ステップ進展方向の後側(つまり上流側)に位置するため、他の部分を覆い易い。また、二次元核成長する際には、上述したように積層順序が継承され難い。したがってこの場合には、
図25の下図に示すように、二次元核成長した部分100に多形変化が生じ、結晶成長面が他の部分とは異なる多形(つまり二次元核成長した部分100)で覆われる場合がある。つまり、ステップの進展を伴う結晶成長が生じる場合には多形変化が生じる可能性がある。
【0075】
本発明のSiC単結晶の製造方法においても、貫通らせん転位が積層欠陥に変換されると、SiC単結晶のスパイラル成長が生じ難く、主としてステップの進展を伴う結晶成長と二次元核成長とが生じて、多形が生じ易くなると考えられる。
【0076】
本発明の発明者等は、鋭意研究の結果、SiC種結晶上にSiC単結晶を成長させる際に、SiC種結晶の結晶成長面の一部分の上において所定の方向にマクロステップを進展させ、かつ、SiC種結晶の結晶成長面の他の一部分の上においてSiC単結晶をスパイラル成長させることで、貫通らせん転位の変換と多形抑制とを両立できることを見出した。より具体的には、SiC種結晶の一部にのみオフ角を形成し、所定の方向にマクロステップを進展させることで、上述したように貫通らせん転位を積層欠陥に変換できる。一方、SiC種結晶の他の一部にはオフ角を形成せず、二次元核成長による多形変化を抑制する。この場合には、SiC種結晶に含まれる貫通らせん転位に由来して、SiC単結晶が主としてスパイラル成長する。このスパイラル成長に伴ってSiC種結晶の積層順序がSiC単結晶に引き継がれる。したがって、この場合には、SiC種結晶と同じ積層順序のSiC単結晶を得ることが可能である。なお、上述したようにマクロステップが進展した部分においては、貫通らせん転位の少ないSiC単結晶が得られる。したがって、例えばこの部分を切り出せば、多形の発生が抑制されかつ貫通らせん転位の少ないSiC単結晶を得ることができる。また、このようにすれば、多形の発生が抑制されかつ貫通らせん転位の少ないSiC単結晶を得ることもできる。以下に具体例を示す。
【0077】
(試験6)
試験6は、オフ角を種結晶の一部のみに設け、SiC種結晶の他の一部にはオフ角を形成しなかったこと以外は、試験1と同じ方法である。
【0078】
具体的には、
図26に示すように、SiC種結晶の結晶成長面の一部(第1領域A1)にオフ角を形成し、他の領域(第2領域A2)にはオフ角を形成しなかった。つまり第2領域A2は(0001)オンアクシス面である。第1領域に設けたオフ角は2°であり、オフ角を設けた方向(つまりステップ進展方向)は[11−20]方向であった。なお、試験6においては、結晶成長時間は5時間であった。第1領域A1は第2領域A2よりもステップ進展方向の先側(つまり下流側)に配置されている。このため、
図27に示すように、第1領域上A1にはマクロステップの進展を伴う結晶成長が生じた。一方、第2領域A2上にはSiC単結晶がスパイラル成長した。この試験6のSiC単結晶の製造方法によって、試験6のSiC単結晶を得た。
【0079】
ラマン分光法を用い試験6のSiC単結晶の多形構造を評価した。また、溶融KOHエッチングにより、試験6のSiC単結晶の欠陥密度を評価した。
【0080】
結晶成長面の全体にオフ角を設けた種結晶を用いた場合、結晶成長に伴って、種結晶の表面は二次元核形成により成長したSiC単結晶で覆われる。このため、上述した正四面体多構造層の積層順序を維持すること(つまり、SiCの多形発生を抑制すること)は困難である。しかし、
図26、27に示すように、試験6では(0001)面に対してオフ角を設けた第1の領域A1と、(0001)オンアクシス面からなる第2の領域A2と、を組み合わせた種結晶を用いている。このため、第2領域A2においてスパイラル成長により形成したステップが第1領域に供給され続ける。よって試験6のSiC単結晶の製造方法においては、二次元核形成が生じ難い。したがって、試験6のSiC単結晶において、種結晶の第1領域A1上に形成された部分では、多形変化が起こっていなかった。
【0081】
図28および
図29に、溶融KOHエッチング後の結晶表面を示す。
図28は、種結晶の第1領域A1上に形成された結晶表面であり、
図29は、種結晶の第2領域A2上に形成された結晶表面である。転位が存在する場所は、優先的にエッチングされるため、くぼみ(エッチピット)が生じる。
図29に示すように、第2領域A2においては、貫通らせん転位の存在を示す大きなエッチピットとともに、貫通刃状転位、基底面転位の存在を示すエッチピットが多数観察された。第2領域A2におけるエッチピットの密度は2×10
5個/cm
2であり、このうち、貫通らせん転位の密度は3×10
3個/cm
2であった。
【0082】
一方、
図28に示すように、第1領域A1、すなわち、種結晶におけるオフ角部分上に形成された結晶表面には、貫通らせん転位の存在を示す大きなエッチピットはほとんど存在せず、エッチピットの密度も少なかった。第1領域A1におけるエッチピットの密度は8×10
4個/cm
2、貫通らせん転位の密度は1×10
2個/cm
2以下であった。
【0083】
このように、種結晶に第1領域と第2領域とを設けてSiC単結晶を結晶成長させることで、スパイラル成長に起因する多形の抑制と、貫通らせん転位上をステップが進展することに起因する貫通らせん転位の変換と、が両立する。つまり、この場合には多形を抑止しつつエッチピットの密度および貫通らせん転位を低減できることがわかる。
【0084】
(その他)本発明は上記し且つ図面に示した実施形態のみに限定されるものではなく、要旨を逸脱しない範囲内で適宜変更して実施できる。例えば実施形態のSiC単結晶製造方法においては液相成長法を用いて種結晶を成長させているが、気相成長法を用いることも可能である。この場合、予め種結晶にマクロステップを形成しておき、その後にマクロステップの形成された種結晶(第2の種結晶)を結晶成長させれば、マクロステップが貫通らせん転位上を進展し、実施形態と同様に貫通らせん転位の低減したSiC単結晶を得ることができる。