【実施例】
【0015】
実施例に係る熱流束計測システム、太陽集光シミュレータシステムおよび熱流束計測方法につき、
図1から
図9を参照して説明する。
図1は、実施例における熱流束計測システムの構成図を示し、
図2(a)は、実施例における熱流束計測システムを備える太陽集光シミュレータシステムの概略図と、(b)そのA−A断面矢視図を示している。
図3は、実施例における熱流束センサの構成図を示している。
図4は、太陽集光シミュレータシステムの計測位置を示す説明図であり、
図5〜
図9は、実施例における各種計測値を示した図である。
【0016】
図1において、本実施例における熱流束計測システム19は、集光された光の熱流束を計測するものであって、熱電対からなる熱流束センサ28、二本の計測線のアース線29及び素線30を備える熱流束部22と、集光された光の光軸に基づいて熱流束部22の計測位置を調整する調整部21と、熱流束部22への光の入射を遮断する遮断部のシャッタ34とを少なくとも有する。また、熱流束計測システム19は、太陽光を入射して収集する入射部23を有し、入射部23には、太陽光を収集する集光レンズ33と、その集光レンズ33を保持するレンズホルダ32とを備える。調整部21は、集光された光の光軸に基づいて熱流束部22の計測位置を調整する光軸調整土台24及び角度調整土台25と、熱流束部22の配置位置における集光された光の集光径を調整するための熱流束部22をスライドさせるセンサスライド部材27と、入射部23を光軸調整土台24上でスライドさせるレンズスライド部材26と、熱流束センサ28を移動させる移動機構20とを備える。なお、センサスライド部材27とレンズスライド部材26とは、
図1においては、スライド方向を示しているが、熱流束部22の下部または入射部23の下部において光軸調整土台24上をそれぞれスライドさせて移動させるような機構を備えている。また、熱流束計測システム19は、制御部31を有することができ、制御部31は、熱流束部22で計測した計測値を記憶する記憶手段としてのデータロガーのメモリと、熱流束部22における熱吸収率から当該熱流束部22で計測された熱流束の値を較正する較正部としてのCPUとを少なくとも備える。制御部31としては、パーソナルコンピュータなどの情報処理装置を利用することができる。
【0017】
入射部23の集光レンズ33としては、太陽光の波長域の90%を透過する波長特性を備えるようなレンズを利用することで、太陽からの放射エネルギーを大きく損なうことなく集光でき、例えば、φ74.0mmぐらいの大きさで、材質は硼珪酸ガラスのBK7等を利用することができる。また、ビームダウン型太陽集光装置等の太陽光集光装置を利用する場合には、入射部23に集光レンズ33及びレンズホルダ32を備えず、ビームダウン型太陽集光装置で集光された太陽光をそのまま入射して、集光された光の光軸が合うように位置合わせを行い、熱流束部22で計測するようにしてもよい。遮断部としては、シャッタ34により、熱流束部22への光の入射を遮断しているが、これ以外に、熱流束計測システム19全体を覆うような構成にしてもよく、熱流束部22への光の入射を遮断するような構成であればよい。また、遮断部としては、光が入射しない方向へ熱流束部22または熱流束センサ28を移動させることで光の入射を遮断するようにしてもよい。
【0018】
熱流束部22の熱流束センサ28は、単位時間、単位面積当たりの熱の移動量W/m
2を計測するものであり、本実施例における熱流束センサ28は、表面が薄膜型熱電対となっており、表面の時間的な温度変化を計測できるようになっている。
図3に実施例における熱流束センサの構成図を示す。
図3において、熱流束センサ28は、母材45の表面42と内部とにそれぞれ表面接点43、内接点44との2つの接点を備え、2組の熱電対が設けられている。2組の熱電対により熱流束計の表面温度、内部温度が求まる。速い応答性を確保するということから表面接点43は、銅またはニッケルなどを電解メッキさせて薄膜に形成されている。母材45は、S45Cなどの機械構造用炭素鋼鋼材または銅とニッケルの合金などにより構成され、例えば、長さ10.0mm、直径3.2mmの垂直円柱とし、この母材45に中心軸と平行で深さが異なる2つの穴47、48と、1つの貫通孔46とを設けている。貫通孔46は、母材45のほぼ中心軸上に設けられ、例えば、直径0.7mmの大きさとしておく。この貫通孔46に、例えば直径0.65mmの素線30を挿入させた後、これらをかしめることにより素線30を母材45に固定する。挿入する素線としては、銅、ニッケル等の導線を利用でき、母材45の内部で導通しないように外周に絶縁処理を施しておく。固定後、素線30の先端と母材45の表面42を揃え、電解メッキを表面に施すことで表面接点43を形成している。穴47としては、例えば、直径1.4mm、深さ5.0mmの穴を設けておき、穴47の底部と直径0.65mmの素線50の先端を電気的に点溶接することで内接点44を形成する。この素線50は、例えば銅、ニッケル等の導線を用い、母材45と絶縁させるためにセラミックなどの碍子49で外周を覆っておく。溶接点以外では母材45と電気的絶縁状態になるので、表面から深さ5.0mmの位置での温度を計測することができる。アース線29は、母材と同一素材または熱起電力が発生しないような直径0.65mmの素線を用い、穴48に挿入させて表面接点43と同様にかしめることで固定させておく。2本の素線30、50と母材45とにより2組の熱電対を形成しているが、本実施例においては、素線50と母材45との熱電対は利用していないので、素線30と母材45との熱電対1組のみで熱流束センサ28を構成することできる。また、制御部31まで熱流束センサ28の構成金属と同素材の素線を使用することで表面接点43と内接点44以外で起電力が発生するのを防止させることができる。二本の計測線となる素線30及びアース線29を制御部31に接続させることで、表面温度変化を測定することができる。また、熱流束が小さい場合には、素線50と母材45との熱電対も利用するようにしてもよい。この場合、素線30及びアース線29に加えて、素線50も制御部31に接続させることで、表面温度変化を測定し、表面接点43の温度と内接点44の温度の差から熱流束を求めることができる。
【0019】
太陽光のエネルギーは太陽からの放射による熱エネルギーの移動であるので、この太陽からの放射エネルギーで熱流束部22の熱流束計表面の薄膜型熱電対が加熱されることで、時間的な表面温度変化を計測することができる。時間的な温度変化がわかれば熱伝導方程式から導き出せる以下の数1式及び数2式により熱流束qを求めることができる。数1式に、一次元の非定常熱伝導方程式を示す。ここで、Tは温度、tは時間、aは母材45の熱拡散率、xは母材45におけるメッキ面42からの位置(距離)を示している。半無限大の壁を仮定し、どの位置においても温度が時間について直線的に変化する、すなわち、温度の時間勾配kが一定であるとして数1式を解くと、母材めっき面であるx=0における時間tでの熱流束qは数2式のとおりとなる。ここで、t
iはt=0からi番目にあたる折れ線の接点までの時間であり、k
iはt
iとt
i+1との間の折れ線の勾配を示し、nは時間tまでのデータ数(折れ線の総接点数)を示す。また、λは母材45の熱伝導率である。
【0020】
【数1】
【0021】
【数2】
【0022】
地面に設置される角度調整土台25を移動させて熱流束部22が太陽に向くように配置し、また、角度調整土台25に対して、光軸調整土台24の角度を調整することで、集光された太陽光の光軸に平行となるように角度を調整させることができる。また、集光レンズ33を用いて太陽光を集光させる場合には、集光レンズ33の位置をレンズスライド部材26でスライドさせることで、集光レンズ33をレンズホルダ32ごと光軸方向に動かせるようにして、熱流束部22で計測したい集光径になるように調整することができる。または、センサスライド部材27により熱流束部22をスライドさせることで、熱流束部22で計測したい集光径になるように調整するようにしてもよい。さらに、熱流束部22は、熱流束センサ28を集光面においてX−Y方向に移動させる移動機構20を備え、後述するように熱流束部22で計測したい集光径における原点から、X方向とY方向とに移動させて、各位置における熱流束を計測させることができる。これらの移動機構20、熱流束センサ28、センサスライド部材27、レンズスライド部材26、角度調整土台25、光軸調整土台24等による熱流束部22の位置合わせの調整手段をまとめて調整部21としている。
【0023】
熱流束部22で計測された計測値は、移動機構20によるX−Y軸上の位置情報と共に制御部31のデータロガーに記憶され、較正部により、後述するような較正がなされ、熱流束値が求められる。
【0024】
つぎに、
図2を参照し、本実施例における熱流束計測システム19を利用した一例として、太陽集光シミュレータシステムに適用した場合の構成を説明する。
【0025】
集光型太陽熱発電を利用する場合、実験段階から実際の太陽熱プラントを製作して研究を行うと莫大な時間と費用がかかってしまうため、太陽集光シミュレータシステムを用いることで、様々な実験を行い、太陽光をより効率的に集光する方法を模索することができる。本実施例における太陽集光シミュレータシステムでは、太陽光と似た波長特性を持つ光源を利用し、楕円鏡等の集光装置で集光することで疑似太陽光を集光した太陽集光シミュレータシステムを構成している。
【0026】
図2において、太陽集光シミュレータシステム35は、上述した熱流束計測システム19を変形した熱流束計測システム19Aを有し、さらに、疑似太陽光を放射する疑似太陽光放射部41と、楕円鏡により、疑似太陽光放射部41から放射された疑似太陽光を集光する集光部40とを有する。疑似太陽光放射部41は、例えば、キセノンショートアークランプを光源として疑似太陽光を放射する。このキセノンショートアークランプは、アーク放電により可視波長域において太陽光と酷似した波長特性を持つ光を照射することができる。実際のビームダウン式太陽集光設備の光路を再現するために、集光部40としては楕円鏡を用いることができ、楕円鏡の鏡面には、分光反射率が平均的に高いアルミを蒸着させておくことで、波長域の広いキセノンショートアークランプの光もほぼ均一に反射することが可能となっている。
【0027】
熱流束計測システム19Aは、集光部40で集光された光39の熱流束を計測することができ、その構成としては、熱電対からなる熱流束センサ28、二本の計測線のアース線29及び素線30を備える熱流束部22と、集光された光の光軸に基づいて熱流束部22の計測位置を調整する調整部21と、熱流束部22への光の入射を遮断する遮断部のシャッタ34とを少なくとも有する。また、熱流束計測システム19Aの入射部23としては、シャッタ34を開放状態とさせることで構成できる。また、太陽集光シミュレータシステム35における調整部21としては、光軸調整をするための位置調整用穴あきアルミ板38と、この位置調整用穴あきアルミ板38の位置を調整する計測位置調整用アルミフレーム36Aと、熱流束センサ28の配置位置を移動させる計測位置調整用アルミフレーム36Bとを備える。位置調整用穴あきアルミ板38は、後述するように、測定前に集光された光39の光軸に基づいて熱流束部22の計測位置を調整するために利用するものであり、計測位置調整用アルミフレーム36Aにより移動される。計測位置調整用アルミフレーム36Bは、熱流束センサ28を移動させる移動機構20の一例を示しており、熱流束センサ28を集光面においてX−Y方向に移動させる。また、熱流束部22で計測したい集光径になるように調整するため、熱流束部22を上下方向(Z方向)に移動させるスライド部材を備えることができる。また、熱流束計測システム19Aは、制御部31を有することができ、制御部31は、熱流束部22で計測した計測値を記憶する記憶手段としてのデータロガーのメモリと、熱流束部22における熱吸収率から当該熱流束部22で計測された熱流束の値を較正する較正部としてのCPUとを少なくとも備える。制御部31としては、パーソナルコンピュータなどの情報処理装置を利用することができる。
【0028】
つぎに、上述した本実施例における熱流束計測システム19及び太陽集光シミュレータ35の熱流束計測システム19Aにおける熱流束の計測方法について説明する。ここで、熱流束計センサ28は、その吸収率により、熱流束の計測値が実際の熱流束の値からずれてしまうため、本実施例においては、熱流束計測システム19及び太陽集光シミュレータ35の熱流束計測システム19Aにおいて同一の熱流束計センサ28を用いて計測を行うことで、熱流束計センサ28の吸収率を把握し、この吸収率を考慮した較正値を、以下に示すような手順にて求めている。実験条件としては、表1に示すように、熱流束計測システム19及び太陽集光シミュレータ35の熱流束計測システム19Aにおいて、同一の熱流束計センサ28を用い、計測のサンプリング間隔を5ms、サンプリング数を10000点、フィルタ(LPS)500Hzとし、それぞれの制御部31のデータロガーに計測値を記憶させている。
【0029】
【表1】
【0030】
まず、熱流束計測システム19において、実際の太陽光を集光して熱流束を計測する。この場合、熱流束計測システム19において、午後2時頃に熱流束計センサ28の表面が太陽に向くように角度調整土台25を移動させて熱流束部22が配置し、また、角度調整土台25に対して、光軸調整土台24の角度を調整することで、集光された太陽光の光軸に平行となるように角度を調整させ、熱流束計センサ28全体に光があたっていることを目視にて確認し、集光レンズ33の位置をレンズスライド部材26でスライドさせ、熱流束部22で計測したい集光径がφ10.0mmになるように調整する。その後、シャッタ34により、熱流束部22への光の入射を遮断し、熱流束計センサ28の表面が照射前の温度になるまで待つ。約30秒後、熱流束計センサ28の表面が照射前の温度に戻ったことを確認する。ここまでの処理で計測前の光軸調整等の準備が完了する。その後、熱流束部22で計測を行わせるために、ステップ状の温度変化となるように、計測開始から5秒間はシャッタ34を閉じることにより入射光を遮り、その後シャッタ34を開放して5秒間太陽光を照射し、それ以降は計測終了までシャッタ34を閉じることにより入射光を遮る。その際に、シャッタ34の開放と、制御部31のデータロガーによる計測値の記憶開始と、図示しない時間計測時計とを同時にスタートさせて計測を行わせる。このようにして、熱流束計測システム19において、実際の太陽光の熱流束を計測することができる。
【0031】
つぎに、太陽集光シミュレータ35の熱流束計測システム19Aにおいては、熱流束部22で計測したい集光径になるように調整するため、熱流束部22を上下方向(Z方向)にスライド部材により移動させる。本実施例においては集光部40の楕円鏡を用いて光を集光しているが、最も集光した場合でもφ30mm程度の集光面となる。
【0032】
また、太陽集光シミュレータ35の熱流束計測システム19Aにおいて計測を行う際には、疑似太陽光放射部41の光軸が、熱流束センサ28の集光面の中心位置(X−Y方向の原点位置)となるように調整部21により光軸調整を行う。この場合、疑似太陽光放射部41のキセノンランプの電極位置(光軸位置)から糸を垂らし、計測位置調整用アルミフレーム36A及び計測位置調整用アルミフレーム36Bにより計測位置調整用穴あきアルミ板38の中心を糸が通るように移動させるとともに熱流束センサ28をスライドさせて調整することで、熱流束センサ28の集光面の中心位置に疑似太陽光放射部41の光軸を合わせた。ここまでの処理で計測前の光軸調整等の準備が完了する。熱流束計表面の全体に疑似太陽光放射部41の光を当てて計測させるため、計測位置調整用穴あきアルミ板38は集光面から外れるように、集光路の外側に移動させておく。その後、熱流束部22で計測を行わせるために、ステップ状の温度変化となるように、計測開始から5秒間はシャッタ34を閉じることにより入射光を遮り、その後シャッタ34を開放して5秒間疑似太陽光放射部41を照射し、それ以降は計測終了までシャッタ34を閉じることにより入射光を遮るようにして熱流束の計測を行う。熱流束の計測の際には、光軸を中心に同心円状にエネルギーの分布があることを予想し、
図4に示すような13点の計測を行う。この場合、計測位置調整用アルミフレーム36Bにより、熱流束センサ28を集光面において中心位置からX−Y方向に移動させて、
図4に示すような13点の計測を行う。
【0033】
つぎに、熱流束計センサ28の吸収率を求めるために、以下に示すパラメータを利用する。
図5に太陽光計測時の表面温度変化を、
図6に太陽光計測時の熱流束算出結果を示す。
【0034】
集光した光の倍率は、太陽光がφ70mmからφ10mmまで集光させているので倍率は49倍とする。レンズの透過率は、使用している集光レンズ33の波長透過特性から90%とする。計測日時の直達日射量は、別途実測したデータから745W/m
2であった(平成24年1月29日 14:00頃)。算出された熱流束値は、
図6より光を当てている5秒間の平均値である18kW/m2を熱流束の値とした。吸収率を0.55と仮定し、これらの値から1solarあたりのエネルギーは、算出した結果数3式に示すような値となる。なお、1solarとは地表に届く太陽の放射エネルギーである。
【0035】
【数3】
【0036】
この結果と実測した直達日射量データの745W/m
2とを比較すると、非常に近い値となったので、熱流束センサ28表面の吸収率は仮定した0.55を用いることができることとした。そして、熱流束の実測値を吸収率0.55で割ることで補正値を算出する。なお、吸収率は、上記数2を変形し、実測したデータの745W/m
2から逆算して求めてもよい。
【0037】
上述した調整を行った後に、本実施例における熱流束計測システム19及び太陽集光シミュレータ35の熱流束計測システム19Aにおいて熱流束の計測を行い、その結果を、
図5〜
図9に示す。
図5に、熱流束計測システム19による太陽光計測時の熱流束計の表面の温度変化を示し、
図6に、熱流束計測システム19による太陽光計測時の熱流束の算出結果を示す。また、
図7に、太陽集光シミュレータシステム35の中心部の計測時の熱流束計表面の温度変化を示し、
図8に、太陽集光シミュレータシステム35の中心部の熱流束の算出結果を示す。また、
図9に、太陽集光シミュレータシステム35の熱流束分布の簡略図を示す。
【0038】
図5及び
図7においては、制御部31のデータロガーのメモリに記憶された時間に対する熱流束計の表面の温度変化を示しており、計測開始後、5秒〜10秒までの5秒間に光を熱流束センサ28に照射した場合の温度変化をグラフにしている。また、
図6及び
図8においては、
図5及び
図7で示された温度変化より、数1に示した数式より算出して求めた熱流束の算出結果をグラフ化したものである。また、
図9は、
図8に示す算出された熱流束値から、光を照射している5秒間の平均値の1の位を四捨五入し、集光径全体の分布として簡略化したものを示している。
図9は、熱流束センサ28で計測された表面温度変化から熱流束値を算出したものであり、上述した吸収率による較正をしていない。これを補正したものが太陽集光シミュレータ35の熱流束計測システム19Aの熱流束値となる。13点の計測箇所の熱流束値を較正した結果(補正値)を表2に示す。
【0039】
【表2】
【0040】
表2に示す補正値は1solarの値を1kW/m
2とし、吸収率を0.55とした場合の熱流束値である。つまり、熱流束センサ28の中心位置は180solar相当のエネルギーを有しているという結果となった。従って、この熱流束センサ28を用いれば、直達日射の180倍以上の熱流束を測定することができる。
【0041】
本実施例における熱流束計測システム19において、実際の太陽光の熱流束を計測した場合、太陽光では集光レンズ33を用いて集光しており、集光レンズ33の位置調整は目盛りを読んで行っている。目盛りの最少目盛りは0.5mmであるので、±0.5mmの誤差があることが考えられる。実際の計測で集光面がφ10.0mmであれば、レンズから熱流束計までの距離は128.6mmであるが、既知の値である745W/m2と較正して導いた吸収率0.55を用いて、実際の集光レンズ33から熱流束計までの距離を算出した場合、128.5mmとなった。この差はわずか0.1mmであり、誤差の範囲内であるので、今回の計測は妥当に行えたものといえ、また、本実施例における熱流束計測システム19により、より正確な熱流束の測定を行えることがわかった。
【0042】
太陽集光シミュレータ35の熱流束計測システム19Aにおいて計測をした場合、熱流束波形の波形形状のばらつきに基づく計測誤差と、光軸を中心に熱流束値が同心円状に小さくなるという予想に基づく設置誤差について考察する。前者については、シャッタ34の開閉の切り替えの代わりに、疑似太陽光放射部41のキセノンランプのオンオフを、チョッパ制御などを使用して電気的に一定間隔で切り替えるようにすることで、波形のばらつきを改善させることができる。また、疑似太陽光放射部41のキセノンランプはアーク放電で光を発生させており計測中に、アークに揺らぎがあるため、揺らぎが生じないような他のランプを利用するようにしてもよい。また、外気の影響を受けないように、太陽集光シミュレータ35の全体をカバーなどの遮断部材で覆うようにしてもよい。
【0043】
また、後者については、予想では計測箇所の中心が熱流束の最大値になるはずであったが結果は違っていたが、
図9によれば、中心位置がずれているだけで、分布は同心円状に小さくなっていることがわかる。このため、中心位置が最大値となっていない理由は熱流束計の中心と太陽集光シミュレータの光軸を合わせることができていなかったためであると考えられる。この問題については、光軸調整する際に、キセノンランプの電極から糸を垂らす方法ではなく、太陽集光シミュレータ35の計測位置調整用アルミフレーム36Aからの距離で熱流束計を調整することで改善することができる。
【0044】
以上、説明したように、本実施例における熱流束計測システム19により、太陽光での表面熱流束の計測を行うことで、熱流束センサ28の吸収率を求めることができる。すなわち、放射エネルギーを熱に変換し、表面の時間的な温度変化から表面熱流束を算出することで熱流束計表面の吸収率を較正することができ、熱流束を高精度に計測することができる。また、実際にビームダウン型太陽集光装置等の太陽光集光装置を利用する場合には、入射部23に集光レンズ33及びレンズホルダ32を備えず、ビームダウン型太陽集光装置で集光された太陽光をそのまま入射して、集光された光の光軸が合うように位置合わせを行い、熱流束部22で計測した場合にも、ここで求めた吸収率を利用することで、計測した値を較正することができる。
【0045】
また、本実施例における熱流束計測システム19を太陽集光シミュレータシステムに適用して熱流束分布を計測することで、太陽集光シミュレータシステムの最も集光している部分は、太陽集光シミュレータシステムの疑似太陽光放射部41の光軸を中心として同心円状に広がるにつれ放射エネルギーが小さくなるという分布があることが分かった。
【0046】
上述した実施例によれば、調整部21で、集光された光の光軸に基づいて熱流束部22の計測位置を調整することができ、集光された光の熱流束を、熱電対を備える熱流束部22で計測することができる。調整部21としては、熱流束部22で計測する集光された光の集光径の中心位置に、集光された光の光軸が合うように位置合わせを行うことで調整する。これにより、集光された光の集光径内の各計測位置において、それぞれ熱流束をより高精度に計測することができる。また、シャッタ34は、熱流束部22への光の入射を遮断することができる。このため、光の光軸を調整した際に、熱流束部22の表面温度が上昇して熱流束の値が正確に計測できなくなることを防ぎ、所定時間光の入射を遮断して、熱流束部22の表面温度を照射前の温度まで下げてから、その後、光を入射させることで瞬時の熱流束を計測することができ、高い時間分解能で、熱流束の値をより正確に計測することができる。シャッタ34としては、例えば、遮蔽板などにより熱流束部22への光の入射を遮断するようにしてもよい。また、遮断部としては、光が入射しない方向へ熱流束部22または熱流束センサ28を移動させることで光の入射を遮断するようにしてもよい。また、シャッタ34の代わりに、太陽集光シミュレータシステムにおいては、疑似太陽光放射部による光の放射出力の停止スイッチなどで光の放射を停止させるようにしてもよい。さらに、調整部21は、熱流束部22の計測位置を所望の位置に移動させるように移動機構20により調整するようにしてもよい。
【0047】
また、調整部21により、熱流束部22の位置における集光された光の集光径を調整することで、所望の集光径について、熱流束を計測することができる。この場合、調整部21としては、集光された光の入射位置から熱流束部22の配置位置までの距離を調整することで、光の集光径を調整することができる。
【0048】
また、制御部31の較正部で、熱流束部22における熱吸収率から熱流束の値を較正することができる。例えば、熱流束部22の計測値をデータロガーに記録しておき、記録した計測値から、熱流束部22のセンサの表面における熱吸収率を考慮して熱流束の値を較正することができる。熱流束部22で計測する集光された光の集光径の中心位置に、集光された光の光軸が合うように調整することで、より正確に較正することができる。
【0049】
太陽集光シミュレータシステムにおいて、疑似太陽光放射部で疑似太陽光を放射し、集光部で、疑似太陽光放射部から放射された疑似太陽光を集光することができ、その集光された光の熱流束を熱流束計測システムで計測することができる。
【0050】
以上、本発明の計測システムについて実施例に基づいて説明したが、本発明は、この実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で各種変形を施したものも本発明の範囲に含まれる。
【0051】
制御部31は、熱流束計測システム19の内部に有するようにしているが、熱流束計測システム19の外部に情報処理装置などを接続させて構成するようにしてもよい。
【0052】
調整部21としては、熱流束部22を、X、Y、Z方向それぞれに移動させる移動機構の他に、入射部23または集光部40をX、Y、Z方向それぞれに移動させる移動機構などで構成してもよい。
【0053】
熱流束センサ28は、上述した構成でなくてもよく、熱電対を備えて熱流束を測定できるものであればどのような構成でもよい。上述した実施例によれば、使用する熱流束センサがどのような構成であっても、本実施例における熱流束計測システム19及び太陽集光シミュレータ35の熱流束計測システム19Aにおいて熱流束の計測を行うことで、吸収率を求めることができる。
【0054】
また、本実施例における熱流束計測システム19は、上述した太陽集光シミュレータ35に用いる以外にも、他の用途にも利用することができ、例えば、医学、生理学上の熱流束の計測や、マイクロ気象学および地熱の移動研究、換気および冷凍、航空宇宙技術、物理特性の測定等にも利用することができる。