(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6069783
(24)【登録日】2017年1月13日
(45)【発行日】2017年2月1日
(54)【発明の名称】水酸基保護化剤及び水酸基保護方法
(51)【国際特許分類】
C07D 251/34 20060101AFI20170123BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20170123BHJP
【FI】
C07D251/34 M
C07D251/34 Q
!C07B61/00 300
【請求項の数】8
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2012-252453(P2012-252453)
(22)【出願日】2012年11月16日
(65)【公開番号】特開2013-126976(P2013-126976A)
(43)【公開日】2013年6月27日
【審査請求日】2015年11月4日
(31)【優先権主張番号】特願2011-253002(P2011-253002)
(32)【優先日】2011年11月18日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
(74)【代理人】
【識別番号】100105809
【弁理士】
【氏名又は名称】木森 有平
(72)【発明者】
【氏名】國嶋 崇隆
(72)【発明者】
【氏名】藤田 光
(72)【発明者】
【氏名】山田 耕平
【審査官】
伊藤 佑一
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭52−089684(JP,A)
【文献】
米国特許第03923621(US,A)
【文献】
米国特許第03395147(US,A)
【文献】
特開2011−057559(JP,A)
【文献】
国際公開第2005/014508(WO,A1)
【文献】
Srinivas, K.; Sitha, Sanyasi; Rao, V. Jayathirtha; Bhanuprakash, K.; Ravikumar, K.,NLO Activity in some non-conjugated 3D triazine derivatives: a non-centrosymmetric crystal through conformational flexibility,Journal of Materials Chemistry,2006年,16(5),496-504
【文献】
Srinivas, K.; Srinivas, U.; Rao, V. Jayathirtha; Bhanuprakash, K.; et al,Synthesis and antibacterial activity of 2,4,6-tri substituted s-triazines,Bioorganic & Medicinal Chemistry Letters ,2005年,15(4),1121-1123
【文献】
Spielman, M. A.; Close, W. J.; Wilk, I. J.,Anticonvulsant drugs. V. Some cyanurates,Journal of the American Chemical Society ,1951年,73,1775-7
【文献】
Papin, Caroline; Doisneau, Gilles; Beau, Jean-Marie,Fast access to robust C-sialoside multimers,Chemistry - A European Journal ,2009年,15(1),53-57
【文献】
Likhterov, V. R.; Klenovich, S. V.; Etlis, V. S.; Tsareva, L. A.; et al,Inter- and intramolecular rearrangement of triallyl cyanurates,Khimiya Geterotsiklicheskikh Soedinenii ,1988年,(3),376-9
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
C07C
CAplus/REGISTRY/CASREACT(STN)
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トリアジン環に酸素原子を介して1以上のベンジル基、置換ベンジル基、アリル基または3級アルキル基である保護基が結合していることを特徴とする水酸基保護化剤。
【請求項2】
化2で表される
構造を有することを特徴とする請求項
1記載の水酸基保護化剤。
【化2】
[ただし、式中、Bnはベンジル基を表し、Yは任意の置換基を表す。nは1〜3の整数であり、m≦(3−n)である。]
【請求項3】
下記化3で表される2,4,6−トリベンジルオキシ−1,3,5−トリアジンであることを特徴とする請求項
1記載の水酸基保護化剤。
【化3】
【請求項4】
化4、化5、化6または化7で表される構造を有することを特徴とする水酸基保護化剤。
【化4】
【化5】
【化6】
【化7】
【請求項5】
水酸基を有する対象化合物に対し、酸性条件下、トリアジン環に酸素原子を介して1以上のベンジル基、置換ベンジル基、アリル基または3級アルキル基である保護基が結合している水酸基保護化剤を作用させ、前記水酸基を前記保護基により保護することを特徴とする水酸基保護方法。
【請求項6】
水酸基保護化剤が下記化9で表される化合物であることを特徴とする請求項
5記載の水酸基保護方法。
【化9】
[ただし、式中、Bnはベンジル基を表し、Yは任意の置換基を表す。nは1〜3の整数であり、m≦(3−n)である。]
【請求項7】
前記水酸基保護化剤が下記化10で表される2,4,6−トリベンジルオキシ−1,3,5−トリアジンであることを特徴とする請求項
5記載の水酸基保護方法。
【化10】
【請求項8】
水酸基を有する対象化合物に対し、酸性条件下、トリアジン環に酸素原子を介して1以上の保護基が結合している化11、化12、化13または化14の構造を有する水酸基保護化剤を作用させ、前記水酸基を前記保護基により保護することを特徴とする水酸基保護方法。
【化11】
【化12】
【化13】
【化14】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安定で使い易い水酸基保護化剤に関するものであり、さらには、酸性条件下で水酸基を保護する水酸基保護方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機化合物の合成において、例えば水酸基が反応を阻害する場合、水酸基自身が反応する場合、糖等の水酸基による水溶性を下げ脂溶性にする場合等には、水酸基を保護する必要があり、種々の保護基が用いられている。保護基は、合成反応の際に邪魔になる官能基を一時的に不活性な構造に誘導(保護)し、反応後、脱離させて元に戻すための官能基である。
【0003】
前記保護基としては、種々のものが知られているが、それらの中で、ベンジル基は、非常に安定で壊れ難いこと、パラジウム等の金属を用いた接触還元(水素添加)により簡単に除去できること、除去後はトルエンになるので脱保護された化合物の精製(ろ過及び蒸発)が容易であること等の理由から、非常に良く利用されている。
【0004】
前記ベンジル基の導入方法としては、化1に示すようなウィリアムソン(Williamson)エーテル合成を利用した方法が知られているが、塩基性条件下で反応させることが必要であり、例えば塩基性で不安定化するかあるいは分解する官能基を分子内に含むアルコール類の保護には適用することができない。また、水酸基保護化剤(保護化剤)として使用されるハロゲン化ベンジルは、発がん性や催涙性があり、健康面等から好ましくない。
【0005】
【化1】
【0006】
ハロゲン化ベンジルを用いてベンジル化する反応では、銀塩を用いることも検討されており、例えば、化2に示すように、酸化銀(Ag
2O)を触媒として用いることで、塩基性条件でなくても水酸基をベンジル化して保護することができる。ただし、酸化銀が高価であり、コスト面での課題が大きい。
【0007】
【化2】
【0008】
一方、酸性条件下でのベンジル基の導入については、例えば化3に示すようなベンジルトリクロロアセトイミダードを用いた方法が提案されている。しかしながら、前記ベンジルトリクロロアセトイミダードは、加水分解を受け易く、熱や湿気に弱いことから取り扱いが面倒であり、しかも価格が高いという欠点を有する。
【0009】
【化3】
【0010】
このような状況から、酸性条件下で水酸基の保護を安定的に行うことが可能な方法が各方面で研究されており、例えば特許文献1では、アセタール型保護基による水酸基の保護が提案されている。特許文献1では、医薬や農薬等を製造する際に用いられるアセトニル試薬を保護化剤として用いており、弱酸性のような緩和な反応条件下で水酸基に保護基を収率良く導入できるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】再公表WO2005/014508号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、特許文献1に記載される技術は、アセタール型保護基による水酸基の保護であり、前述のベンジル基による保護の利点が損なわれる可能性がある。すなわちアセタール構造は酸性条件下で容易に加水分解するため、水酸基保護試薬(水酸基保護化剤と同義)やこれによってアルコールを保護した誘導体類はいずれも酸に不安定と考えられる。一方、ベンジル基は酸性、塩基性いずれの条件でも安定なため、このような問題は生じない。また、使用する水酸基保護試薬が有するアリルハロゲン構造や、保護基導入後に生ずるα-ハロケトン類には、ハロゲン化ベンジルと同様、発がん性や催涙性あるいは毒性等が懸念される。
【0013】
本発明は、このような従来の実情に鑑みて提案されたものであり、安定で使い易く、発がん性、毒性や催涙性等のない安価な水酸基保護化剤を提供することを目的とし、さらには、それを用いた水酸基保護方法を提供することを目的とする。また、本発明は、酸性条件下で水酸基を保護し得る水酸基保護化剤及び水酸基保護方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、前記目的を達成するために種々の研究を重ねてきた。その結果、2,4,6−トリベンジルオキシ−1,3,5−トリアジンのような窒素を含む電子求引性の複素環に保護基が結合した化合物が、安定な化合物でありながら、酸性条件下で水酸基を保護し得ることを見出し、本発明を案出するに至った。
【0015】
すなわち、本発明の水酸基保護化剤は、窒素を含む電子求引性の複素環に酸素原子、硫黄原子、窒素原子のいずれかを介して1つ以上の保護基が結合していることを特徴とする。また、本発明の水酸基保護方法は、水酸基を有する対象化合物に対し、酸性条件下、窒素を含む電子求引性の複素環に酸素原子、硫黄原子、窒素原子のいずれかを介して1つ以上の保護基が結合している水酸基保護化剤を作用させ、前記水酸基を前記保護基により保護することを特徴とする。
【0016】
窒素を含む電子求引性の複素環に保護基が酸素原子、硫黄原子、窒素原子のいずれかを介して1つ以上結合している化合物では、複素環の電子求引性の効果により、酸性条件下で保護基と水酸基の反応が進み、不活性な構造の形成(すなわち水酸基の保護)が実現される。
【0017】
本発明の水酸基保護化剤は、空気中でも安定な固体であり、原料も安価である。また、催涙性がなく、ハロゲンを構成元素として含んでいないので使用設備や廃液処理の問題が軽減され、さらに、発がん性のリスクが低減されることが期待される。さらに、複素環には1つ以上の保護基が結合することができ、例えば保護基を3つ有する化合物を用いれば、3つの保護基が全て利用可能となり、効率的な水酸基の保護が実現される。
【0018】
また、本発明の水酸基保護化剤では、保護基は任意に選択することができ、例えば特許文献1記載の発明のようなアセタール型保護基に限定されることがなく、ベンジル化等による水酸基の保護が可能である。したがって、前記ベンジル化を例にすれば、前述のベンジル基の有する利点をそのまま活かすことが可能である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、安定で使い易く、催涙性がなく、使用設備や廃液処理の問題が軽減され、さらに発がん性のリスクが低減されることが期待される安価な水酸基保護化剤を提供することが可能である。また、酸性条件下で水酸基を保護し得る水酸基保護化剤及び水酸基保護方法を提供することが可能である。
【0020】
以下、本発明を適用した水酸基保護化剤及び水酸基保護方法の実施形態について詳細に説明する。
【0021】
先ず、本発明の水酸基保護化剤であるが、前述の通り、窒素を含む電子求引性の複素環に、保護基が酸素原子、硫黄原子、窒素原子のいずれかを介して1以上結合していることを特徴とするものである。
【0022】
すなわち、前記水酸基保護化剤の構造は、下記化4に示すようなものである。
【0023】
【化4】
(ただし、式中、HETは複素環を表し、Xは0、S、Nのいずれかを表す。Rは保護基であり、nは1〜3の整数である。)
【0024】
ここで、窒素を含む電子求引性の複素環としては、窒素を含み、共役不飽和結合を有し、電子求引性を示す複素環であれば任意の構造のものを採用することができ、例えば6員環であってもよいし、5員環であってもよい。好ましくは、3つの窒素原子を含むトリアジン環や、2つの窒素原子を含むピリミジン環等を挙げることができ、3つの保護基の結合が可能であること等の理由から、トリアジン環が最も好適である。
【0025】
一方、前記複素環に結合する保護基としては、水酸基を不活性化し得るものであればいかなるものであってもよく、ベンジル基や置換基を有するベンジル基、アリル基、3級アルキル基等を例示することができる。
【0026】
前記保護基は、酸素原子、硫黄原子、窒素原子のいずれかを介して前記窒素を含む複素環に結合していることが必要であり、例えば保護基がブチル基の場合、酸素原子等を介してブチル基が複素環に結合した構造となる。窒素原子の場合、アミノ基を介して保護基が複素環に連結された構造となる。
【0027】
下記化5に、本発明の水酸基保護化剤の代表例である2,4,6−トリス(t−ブトキシ)−1,3,5−トリアジンを示す。2,4,6−トリス(t−ブトキシ)−1,3,5−トリアジンは、下記化5で表されるように、トリアジン環に3つのブチル基が酸素原子を介して結合した形となっている。
【0029】
なお、前記2,4,6−トリス(t−ブトキシ)−1,3,5−トリアジンにおいて、トリアジン環に結合するt−ブトキシ基の数は、3つに限らず、1つまたは2つであっても良い。その場合、t−ブトキシ基以外の任意の置換基が結合していても良い。さらに、t−ブトキシ基は、酸素原子に結合した炭素原子に三つのメチル基が結合した構造であるが、このメチル基は任意の置換基であってもよく、また、その置換基の数や組み合わせも任意である。置換基の例としては、水素、ハロ基、メチル基、エチル基、プロピル以上の長さを持つ直鎖または分岐・環状アルキル基、ビニルまたは置換基を有するアルケニル基、エチニル基または置換基を有するアルキニル基、フェニル基または置換基を有するフェニル基、ナフチル基やピレニル基を含む多環式のアリール基、ピリジル基やチオフェニル基などを含む芳香族複素環基、メトキシ基やベンジルオキシ基などのアルキルオキシ基、アルキルチオ基などがあげられる。例えば、フェニル基三つで置換されれば、トリフェニルメチル基(トリチル基)である。フェニル基、メチル基、水素で置換されれば、1−フェネチル基である。メトキシ基、水素二つで置換されればメトキシメチル基(MOM基)となる。フェニル基、水素二つで置換されればベンジル基となる。4−メトキシフェニル基、水素二つで置換されれば4−メトキシベンジル基となる。ビニル基、水素二つで置換されればアリル基となる。エチニル基、水素二つで置換されればプロパルギル基となる。このように、必要に応じて、任意の置換基が選択できる。
【0030】
また、例えば保護基がベンジル基の場合、酸素原子等を介してベンジル基が複素環に結合した構造となる。前記複素環がトリアジン環であり、保護基がベンジル基である場合の水酸基保護化剤の一般式を化6に示す。安定性や脱保護の容易さ、脱保護後の精製の容易さ等の観点からは、保護基としてベンジル基が好ましい。
【0031】
【化6】
[ただし、式中、Bnはベンジル基を表し、Yは任意の置換基を表す。Yが複数結合している場合、それらは同一の置換基であってもよいし、異なる置換基であってもよい。nは1〜3の整数であり、m≦(3−n)である。]
【0032】
下記化7に、複素環がトリアジン環であり、保護基がベンジル基である水酸基保護化剤の代表例である2,4,6−トリベンジルオキシ−1,3,5−トリアジンを示す。2,4,6−トリベンジルオキシ−1,3,5−トリアジンは、下記化7で表されるように、トリアジン環に3つのベンジル基が酸素原子を介して結合した形となっている。
【0034】
なお、前記2,4,6−トリベンジルオキシ−1,3,5−トリアジンにおいて、各フェニル基が任意の置換基を有していてもよい。また、トリアジン環に結合するベンジルオキシ基の数は、3つに限らず、1つまたは2つであっても良い。その場合、ベンジルオキシ基以外の任意の置換基が結合していても良い。
【0035】
水酸基保護化剤としては、前記化合物に限らず、下記の化8で表される2,4,6−トリス(4−メトキシベンジルオキシ)−1,3,5−トリアジン、化9で表される2,4,6−トリス(プロパルギルオキシ)−1,3,5−トリアジン、化10で表される2,4,6−トリス(アリルオキシ)−1,3,5−トリアジン等も使用可能である。
【0039】
前述の水酸基保護化剤を用いて、合成反応の際に邪魔になる水酸基を保護し不活性化するが、この時の条件としては酸性条件である。酸性条件下で水酸基を有する対象化合物と前記水酸基保護化剤を反応させればよい。酸触媒としては、任意のものが使用可能であるが、トリフルオロメタンスルホン酸等が好適である。前記2,4,6−トリス(t−ブトキシ)−1,3,5−トリアジンを水酸基保護化剤として用いた場合の反応式を化11に、前記2,4,6−トリベンジルオキシ−1,3,5−トリアジンを水酸基保護化剤として用いた場合の反応式を化12にそれぞれ示す。
【0042】
前記反応は、溶媒中で行われるが、溶媒としては、水酸基や水酸基保護化剤、酸触媒等に対して不活性な非水系溶媒を用いればよく、例えばジオキサン等が使用可能である。また、反応に際しては、混入する水を除去することが好ましく、例えばモレキュラーシーブ等の脱水剤を共存させることが好ましい。
【0043】
反応に際しては、水酸基と保護基の比率が1:1となるように対象化合物と水酸基保護化剤を仕込めば良く、例えば前記2,4,6−トリス(t−ブトキシ)−1,3,5−トリアジンや2,4,6−トリベンジルオキシ−1,3,5−トリアジンを水酸基保護化剤として用いた場合には、水酸基を1つ有する対象化合物3モルに対して、2,4,6−トリス(t−ブトキシ)−1,3,5−トリアジンや2,4,6−トリベンジルオキシ−1,3,5−トリアジンを1モル仕込めば良いことになる。勿論、保護基の比率が過剰になっても問題はない。
【0044】
なお、本発明において、保護対象である水酸基は、いわゆる水酸基の他、例えばカルボキシル基の水酸基部分等も含む概念である。
【0045】
以上のように、本発明の水酸基保護化剤は、安定性に優れ、取り扱いが容易で、発がん性や催涙性等もなく、実用性に優れたものということができる。また、本発明の水酸基保護化剤によれば、酸性条件下で保護基を導入することができ、例えば塩基に不安定な対象化合物の保護等にも適用することが可能である。
【実施例】
【0046】
以下、本発明を適用した具体的な実施例について、実験結果を基に説明する。
【0047】
2,4,6−トリベンジルオキシ−1,3,5−トリアジンを用いた水酸基保護
水酸基を有する保護対象化合物として下記化13で表されるジエチレングリコールモノメチルエーテル(対象化合物1)を用い、2,4,6−トリベンジルオキシ−1,3,5−トリアジンによる水酸基保護を試みた。なお、2,4,6−トリベンジルオキシ−1,3,5−トリアジンは、文献記載の方法で合成可能である(文献: K. Srinivas, S. Sitha, V. J.Rao, K. Bhanuprakash, K. Ravikumar, J. Mater. Chem. 2006, 16, 496-504)
【0048】
【化13】
【0049】
反応は次のようにして行った。すなわち、試験管に活性化した粉末のモレキュラーシーブ5A(62.5mg)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル58.9μL(0.500mmol)、2,4,6−トリベンジルオキシ−1,3,5−トリアジン(TBnO−T)69.9mg(0.175mmol)、トリフルオロメタンスルホン酸(TfOH)15.4μL(0.175mmol)、1,4−ジオキサン2.50mLを加え、室温、窒素雰囲気下、160分間反応させた。
【0050】
反応終了後、炭酸水素ナトリウムを加えて30分間攪拌し、1,4−ジオキサンを留去した。残さに酢酸エチル10mLを加え、セライトろ過を行った後、5mLの飽和食塩水で洗浄した。得られた有機相を硫酸ナトリウムで乾燥した後、酢酸エチルを留去し、残さをシリカゲルクロマトグラフィーで分離精製し、ジエチレングリコールベンジルメチルエーテル103mg(収率98%)を得た。
【0051】
以上の方法に準じて、反応条件A(TBnO−T=0.60eq、TfOH=0.20eq)及び反応条件B(TBnO−T=0.35eq、TfOH=0.35eq)で、ジエチレングリコールモノメチルエーテルの水酸基の保護を行った。反応条件Aと反応条件BでTBnO−TとTfOHの比率を変えたのは、酸が触媒量で機能するかどうかを評価するためである。いずれの条件でも高い収率でジエチレングリコールベンジルメチルエーテルが得られた。特に後者の条件では、副反応が抑えられ、2,4,6−トリベンジルオキシ−1,3,5−トリアジンを構成する3つのベンジル基が全て有効に利用されていることが示された。
【0052】
さらに、他の水酸基を有する対象化合物2〜6についても、同様の方法で水酸基の保護を試みた。対象化合物は表1に示す通りである。表1には、各条件での収率も併せて示している。なお、表1に示す対象化合物のうち、No3の化合物の場合については、反応条件BをTBnO−T=0.40eq、TfOH=0.40eqにしても収率良く保護基を導入できた(収率94%)。
【0053】
【表1】
【0054】
いずれの対象化合物についても、高い収率でベンジル化された化合物が得られており、2,4,6−トリベンジルオキシ−1,3,5−トリアジンが水酸基保護化剤として有用であることが確認された。
【0055】
水酸基保護化剤の合成例1
塩化シアヌル及びクロロジメトキシトリアジン(CDMT)または2,4,6−トリベンジルオキシ−1,3,5−トリアジンを原料として、水酸基保護化剤1〜5を合成した。合成経路は下記化14に示す通りである。
【0056】
【化14】
【0057】
先ず、水酸基保護化剤3の合成方法を説明すると、試験管に活性化したモレキュラーシーブ4A、ベンジルアルコール54.1μL(0.525mmol)、1,10−フェナントロリン一水和物118.9mg(0.600mmol)、ジクロロメタン1.00mL、塩化シアヌル92.2mg(0.500mmol)を加えて0度、窒素雰囲気下で5時間反応させた。反応終了後、沈殿をろ過し、ろ液に酢酸エチル20mLを加え、10mLの飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、5mLの水、10mLの1N塩酸、5mLの水、10mLの飽和食塩水で洗浄した。得られた有機相を硫酸マグネシウムを用いて乾燥し、酢酸エチルを留去し、残さをシリカゲルクロマトグラフィーで分離精製したところ、6−ベンジルオキシ−2,4−ジクロロ−1,3,5−トリアジンを58.9mg(収率46%)得た。
【0058】
次に、30mLの茄子型フラスコに6−ベンジルオキシ−2,4−ジクロロ−1,3,5−トリアジン896.2mg(3.50mmol)、ジクロロメタン2.00mL、フェノール365.0mg(3.88mmol)とN,N‐ジイソプロピルエチルアミン0.738mL(4.23mmol)のジクロロメタン溶液5.70mLを加えて0度、窒素雰囲気下で6時間反応させた。反応終了後、ジクロロメタン20mLを加え、20mLの1N塩酸、20mLの1N塩酸、20mLの水、20mLの飽和食塩水で洗浄した。得られた有機相を硫酸マグネシウムを用いて乾燥し、ジクロロメタンを留去し、残さをヘキサン−クロロホルム溶液から再結晶させたところ、6−ベンジルオキシ−2−クロロ−4−フェノキシ−1,3,5−トリアジンを1033.2mg(収率94%)得た。
【0059】
次に、水酸基保護化剤2の合成方法について説明すると、30mLの茄子型フラスコに6−ベンジルオキシ−2−クロロ−4‐フェノキシ−1,3,5−トリアジン470.6mg(1.50mmol)、ジクロロメタン3.00mL、フェノール178.8mg(1.90mmol)とN,N−ジイソプロピルエチルアミン0.390mL(1.90mmol)を加えて0度、窒素雰囲気下で4時間反応させた。反応終了後、ジクロロメタン50mLを加え、20mLの1N塩酸、20mLの1N塩酸、20mLの水、20mLの飽和食塩水で洗浄した。得られた有機相を硫酸マグネシウムを用いて乾燥し、ジクロロメタンを留去し、6−ベンジルオキシ−2,4−ジフェノキシ−1,3,5−トリアジンを548.5mg(収率99%)得た。
【0060】
さらに、水酸基保護化剤5の合成方法について説明すると、10mLの茄子型フラスコに2,4,6−トリベンジルオキシ−1,3,5−トリアジン599.2mg(1.50mmol)、トルエン5.00mL、ヨウ素38,8mg(0.30mmol)を加えて加熱環流し、31時間反応させた。反応終了後、飽和チオ硫酸ナトリウム水溶液5mLを加え、5mLの1N重曹水、5mLの1N塩酸、5mLの水、5mLの飽和食塩水で洗浄した。得られた有機相を硫酸マグネシウムを用いて乾燥し、溶媒を留去し、残さをシリカゲルクロマトグラフィーで分離精製したところ、1,3−ジベンジル−6−(ベンジルオキシ)−1,3,5−トリアジン−2,4(1H,3H)−ジオンを126.2mg(収率21%)得た。
【0061】
合成した水酸基保護化剤1〜5による水酸基の保護
水酸基を有する対象化合物として対象化合物2を用い、2,4,6−トリベンジルオキシ−1,3,5−トリアジンによる水酸基保護に準じて、水酸基の保護を行った。ただし、反応条件としては、水酸基保護化剤=1.2eq、TfOH=0.2eqとした。また、溶剤にはジクロロメタンを用いた。水酸基保護化剤5に関しては、水酸基保護化剤=0.35eq、TfOH=0.35eqとした。また、溶剤には1,4−ジオキサンを用いた。結果を表2に示す。
【0062】
【表2】
【0063】
表2から明らかな通り、収率は低いものの、いずれの水酸基保護化剤を用いた場合にも、酸性条件下で水酸基の保護が可能であることが実証された。
【0064】
水酸基保護化剤の合成例2
塩化シアヌルを原料として、水酸基保護化剤6,7,8を合成した。これら水酸基保護化剤は下記文献記載の方法を参考に合成することができ、合成経路は下記化15に示す通りである。また、水酸基保護化剤9であるアリル化剤(2,4,6−トリス(アリルオキシ)−1,3,5−トリアジン,Tri-AllylOT)は、東京化成工業株式会社(TCI,製品コード:T0333)より購入した。
(文献:K. Srinivas, S. Sitha, V. J. Rao, K.
Bhanuprakash, K. Ravikumar, J. Mater.Chem.2006,16,496-504)
【0065】
【化15】
【0066】
先ず、水酸基保護化剤6の合成方法を説明すると、1L三口ナスフラスコに、60%水素化ナトリウム8.64g(216mmol)を入れ、THF360mLに窒素雰囲気下で懸濁させた。0℃に冷却し、p−アニシルアルコール24.4mL(198mmol)を滴下したのちに、室温まで昇温して50分撹拌した。0℃に冷却し、塩化シアヌル11.1g(60mmol)のTHF溶液(100mL)を30分かけて滴下した。THF20mLを用いて洗いこみを行い、室温まで昇温したのちにさらに3時間反応させた。反応終了後、氷冷水2.4Lに反応液を加え、生じた沈殿をろ取した。ろ取した固体を水200mLで二回、ヘキサン100mLで二回、水200mLで一回洗浄した。この固体を塩化メチレンに溶かし、セライト濾過を行った後に、溶媒を留去した。塩化メチレン25mL、メタノール75mLから再結晶し、2,4,6−トリス(4−メトキシベンジルオキシ)−1,3,5−トリアジンを29.4g(収率89%)得た。
【0067】
次に、水酸基保護化剤7の合成方法を説明すると、500mLナスフラスコに、60%水素化ナトリウム4.32g(108mmol)を入れ、THF180mLに窒素雰囲気下で懸濁させた。0℃に冷却し、t−ブチルアルコール9.4mL(99mmol)を滴下したのちに、室温まで昇温して1時間撹拌した。0℃に冷却し、塩化シアヌル5.53g(30mmol)のTHF溶液(60mL)を3分かけて滴下した。室温まで昇温したのちにさらに1.5時間反応させた。反応終了後、氷冷水2.4Lに反応液を加え、生じた沈殿をろ取した。ろ取した固体をアセトンで溶解させ、溶媒を留去した。この固体を酢酸エチルに溶かし、水、飽和食塩水で洗浄した。得られた有機相を硫酸マグネシウムで乾燥した後、酢酸エチルを留去し、残さをシリカゲルクロマトグラフィーで分離精製し、2,4,6−トリス(t−ブトキシ)−1,3,5−トリアジンを1.38g(収率17%)得た。
【0068】
さらに、水酸基保護化剤8の合成方法を説明すると、200mLナスフラスコに、60%水素化ナトリウム1.44g(36mmol)を入れ、THF60mLに窒素雰囲気下で懸濁させた。0℃に冷却し、プロパルギルアルコール1.9mL(33mmol)を滴下したのちに、室温まで昇温して60分撹拌した。0℃に冷却し、塩化シアヌル1.84g(10mmol)のTHF溶液(20mL)を3分かけて滴下した。室温まで昇温したのちに1時間反応させた。反応終了後、氷冷水800mLに反応液を加え、生じた沈殿をろ取した。ろ取した固体をアセトンで溶解させ、溶媒を留去した。この固体を酢酸エチルに溶かし、水、飽和食塩水で洗浄した。得られた有機相を硫酸マグネシウムで乾燥した後、酢酸エチルを留去し、残さをシリカゲルクロマトグラフィーで分離精製し、2,4,6−トリス(プロパルギルオキシ)−1,3,5−トリアジンを1.38g(収率57%)得た。
【0069】
2,4,6−トリス(4−メトキシベンジルオキシ)−1,3,5−トリアジン(水酸基保護化剤6)を用いた水酸基保護
水酸基を有する保護対象化合物として下記化16で表される2−トリメチルシリルエタノールを用い、2,4,6−トリス(4−メトキシベンジルオキシ)−1,3,5−トリアジンによる水酸基保護を試みた。
【0070】
【化16】
【0071】
反応は次のようにして行った。すなわち、試験管に2−トリメチルシリルエタノール142μL(1.00mmol)を加え、酢酸エチル1.50mLに溶解させた。窒素雰囲気下、室温で2,4,6−トリス(4−メトキシベンジルオキシ)−1,3,5−トリアジン195.8mg(0.40mmol)を酢酸エチル2.2mLに溶かしたものの滴下を開始し、その直後、トリフルオロメタンスルホン酸(TfOH)の酢酸エチル溶液(100mM)を30μL加えた。滴下は10分かけて行い、滴下終了後、5分間反応させた。
【0072】
反応終了後、5mLの飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、5mLの水で洗浄し、これらの水相を酢酸エチル5mLで再抽出し、5mLの飽和食塩水で洗浄した。得られた有機相を、硫酸マグネシウムを用いて乾燥し、酢酸エチルを留去し、残さをシリカゲルクロマトグラフィーで分離精製したところ、2−トリメチルシリル−1−(4−メトキシベンジルオキシ)エタンを198.3mg(収率83%)得た。
【0073】
以上の方法に準じて、表3に示した様々な反応条件1〜13で、化17で表される3−フェニル−1−プロパノールの水酸基の保護を行った。
【0074】
【表3】
【0075】
【化17】
【0076】
1,4−ジオキサンを溶媒に、トリフルオロメタンスルホン酸(TfOH)(1mol%)を酸触媒に用いて反応を行うと、室温、5分で反応は終了し、収率91%で目的物を得ることができた(反応条件1)。混入する水を除去する目的でモレキュラーシーブス5Aを添加することで、収率が向上した(反応条件2)。酸触媒であるTfOHは0.1mol%まで減らしても反応は進行した(反応条件3)。溶媒を塩化メチレンに変更すると収率は減少したが(反応条件4)、ジエチルエーテルを共溶媒として加えると収率は上昇した(反応条件5)。そのほか、エステル系溶媒である酢酸エチル(反応条件6)、芳香族溶媒であるトルエン(反応条件8)、エーテル系溶媒である1,2−ジメトキシエタン(反応条件9)を用いても収率よく目的物を得られたことから、使用する溶媒の適用範囲が広く、目的に応じて溶媒を変更することが可能である。
【0077】
酸触媒は、TfOHよりも弱いプロトン酸であるCSA(反応条件9)や硫酸(反応条件10)、ルイス酸であるSc(OTf)3(反応条件11)やBF3・Et2O(反応条件7,8,12)も使用可能であった。また、反応温度は0℃でも進行させることができた(反応条件13)。
【0078】
2,4,6−トリス(t−ブトキシ)−1,3,5−トリアジン(水酸基保護化剤7)を用いた水酸基保護
水酸基を有する保護対象化合物として化17で表される3−フェニル−1−プロパノールを用い、2,4,6−トリス(t−ブトキシ)−1,3,5−トリアジンによる水酸基保護を試みた。
【0079】
試験管に3−フェニル−1−プロパノール40.9μL(0.300mmol)、2,4,6‐トリス(t−ブトキシ)‐1,3,5‐トリアジン35.7mg(0.120mmol)を加え1,4−ジオキサン1.50mLに溶解させた。窒素雰囲気下、室温でトリフルオロメタンスルホン酸(TfOH)5.3μL(0.060mmol)を加え、24時間反応させた。
【0080】
反応終了後、トリエチルアミンを加えてから1,4−ジオキサンを留去した。残さをシリカゲルクロマトグラフィーで分離精製し、3−フェニル−1−t−ブトキシプロパン7.7mg(収率13%)を得た。
【0081】
2,4,6−トリス(プロパルギルオキシ)−1,3,5−トリアジン(水酸基保護化剤8)を用いた水酸基保護
水酸基を有する保護対象化合物として化17で表される3−フェニル−1−プロパノールを用い、2,4,6−トリス(プロパルギルオキシ)−1,3,5−トリアジンによる水酸基保護を試みた。
【0082】
試験管に3−フェニル−1−プロパノール40.9μL(0.300mmol)、2,4,6−トリス(プロパルギルオキシ)−1,3,5−トリアジン29.2mg(0.120mmol)を加え1,4−ジオキサン1.50mLに溶解させた。窒素雰囲気下、室温でトリフルオロメタンスルホン酸(TfOH)5.3μL(0.060mmol)を加え、20時間反応させたのちに60℃で18時間反応させた。
【0083】
反応終了後、トリエチルアミンを加えてから1,4−ジオキサンを留去した。残さをシリカゲルクロマトグラフィーで分離精製し、3−フェニル−1−プロパルギルオキシプロパン4.8mg(収率9%)を得た。
【0084】
2,4,6−トリス(アリルオキシ)−1,3,5−トリアジン(水酸基保護化剤9)を用いた水酸基保護
水酸基を有する保護対象化合物として化17で表される3−フェニル−1−プロパノールを用い、2,4,6−トリス(アリルオキシ)−1,3,5−トリアジンによる水酸基保護を試みた。
【0085】
試験管に3−フェニル−1−プロパノール40.9μL(0.300mmol)、2,4,6−トリス(アリルオキシ)−1,3,5−トリアジン29.9mg(0.120mmol)を加え1,4−ジオキサン1.50mLに溶解させた。窒素雰囲気下、室温でトリフルオロメタンスルホン酸(TfOH)5.3μL(0.060mmol)を加え、22時間反応させたのちに60℃で2時間反応させた。
【0086】
反応終了後、トリエチルアミンを加えてから1,4−ジオキサンを留去した。残さをシリカゲルクロマトグラフィーで分離精製し、3−フェニル−1−アリルオキシプロパン20.6mg(収率39%)を得た。
【0087】
カルボン酸のエステル化反応
水酸基を有する保護対象化合物としてカルボン酸を用い、2,4,6−トリベンジルオキシ−1,3,5−トリアジンによるエステル化を試みた。反応式を化18に示す。
【0088】
【化18】
【0089】
試験管に3−フェニルプロピオン酸45.1mg(0.300mmol)と2,4,6−トリベンジルオキシ−1,3,5−トリアジン41.9mg(0.105mmol)を加え、1,4−ジオキサン1.50mLに溶解させた。窒素雰囲気下、室温でトリフルオロメタンスルホン酸(TfOH)9.2μL加え、80分間反応させた。2,4,6−トリベンジルオキシ−1,3,5−トリアジン12.0mg(0.030mmol)を追加し、40分間反応させた。
【0090】
反応終了後、トリエチルアミンを加えてから1,4−ジオキサンを留去した。残さをシリカゲルクロマトグラフィーで分離精製し、3−フェニルプロピオン酸ベンジルエステル50.1mg(収率69%)を得た。