特許第6069795号(P6069795)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6069795
(24)【登録日】2017年1月13日
(45)【発行日】2017年2月1日
(54)【発明の名称】老眼処置システム
(51)【国際特許分類】
   G02C 7/06 20060101AFI20170123BHJP
   G02C 13/00 20060101ALI20170123BHJP
   G02C 7/04 20060101ALI20170123BHJP
【FI】
   G02C7/06
   G02C13/00
   G02C7/04
【請求項の数】22
【外国語出願】
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-142815(P2014-142815)
(22)【出願日】2014年7月11日
(62)【分割の表示】特願2010-521867(P2010-521867)の分割
【原出願日】2008年8月20日
(65)【公開番号】特開2014-222360(P2014-222360A)
(43)【公開日】2014年11月27日
【審査請求日】2014年8月8日
(31)【優先権主張番号】60/957,183
(32)【優先日】2007年8月22日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】61/125,215
(32)【優先日】2008年4月23日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】504389991
【氏名又は名称】ノバルティス アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100078662
【弁理士】
【氏名又は名称】津国 肇
(74)【代理人】
【識別番号】100146031
【弁理士】
【氏名又は名称】柴田 明夫
(74)【代理人】
【識別番号】100122736
【弁理士】
【氏名又は名称】小國 泰弘
(74)【代理人】
【識別番号】100122747
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 洋子
(74)【代理人】
【識別番号】100132540
【弁理士】
【氏名又は名称】生川 芳徳
(72)【発明者】
【氏名】リンダチャー,ジョゼフ・マイケル
(72)【発明者】
【氏名】シャーストリ,シャマント・ラマナ
【審査官】 横川 美穂
(56)【参考文献】
【文献】 特表2007−503011(JP,A)
【文献】 特表2002−522803(JP,A)
【文献】 特表2003−514597(JP,A)
【文献】 特表2006−516760(JP,A)
【文献】 特表2004−522183(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02C 7/04
G02C 7/06
G02C 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
最大加入度数から、最小加入度数におよぶ加入度数を提供する度数プロファイルを有する中央光学ゾーンであって、最大加入度数が0ジオプトリ〜2.4ジオプトリの間であり、最小加入度数が0ジオプトリ〜0.2ジオプトリの間であり、中央光学ゾーン全体の度数変化率は、なめらかに変動する関数である、中央光学ゾーンと、
レンズの中心から内半径2ミリメートル(mm)及び外半径3mmの間に負の球面収差量を提供する度数プロファイルを有する周辺光学ゾーンであって、周辺光学ゾーンの内半径において提供される負の球面収差量と、周辺光学ゾーンの外半径において提供される負の球面収差量との間の差が、最小絶対値0.65ジオプトリ〜最大絶対値1.25ジオプトリにおよぶ、周辺光学ゾーンと、
中央光学ゾーンと周辺光学ゾーンとの間に介在してそれらを接続させ、中央光学ゾーンと周辺光学ゾーンとの間の移行を提供し、連続的である度数プロファイルを有する移行ゾーンとを含む、老眼を処置するためのレンズ。
【請求項2】
内半径において提供される負の球面収差量と、外半径において提供される負の球面収差量との間の前記差が、絶対値0.85ジオプトリを有する、請求項1記載のレンズ。
【請求項3】
中央光学ゾーンの度数プロファイルが連続的である、請求項1記載のレンズ。
【請求項4】
周辺光学ゾーンの度数プロファイルが連続的である、請求項1記載のレンズ。
【請求項5】
中央光学ゾーンの度数プロファイルによって提供される最大加入度数が、1.6ジオプトリである、請求項1記載のレンズ。
【請求項6】
中央光学ゾーンの度数プロファイルによって提供される最大加入度数が、0.9ジオプトリである、請求項1記載のレンズ。
【請求項7】
中央光学ゾーンの度数プロファイルによって提供される最大加入度数が、0.3ジオプトリである、請求項1記載のレンズ。
【請求項8】
中央光学ゾーンの度数変化率が、中央光学ゾーン及び移行ゾーンの相互接続において不連続である、請求項1記載のレンズ。
【請求項9】
周辺光学ゾーンの度数変化率が連続的である、請求項1記載のレンズ。
【請求項10】
中央光学ゾーンの度数変化率が、実質的に一定である、請求項9記載のレンズ。
【請求項11】
レンズがトーリック多焦点レンズである、請求項1記載のレンズ。
【請求項12】
老眼を処置するためのレンズを含むレンズ系であって、各レンズが、
選択された量の加入度数を提供する度数プロファイルを有する中央光学ゾーンであって、中央光学ゾーンが、最大加入度数から、最小加入度数におよぶ加入度数を提供する度数プロファイルを有し、最大加入度数が0ジオプトリ〜2.4ジオプトリの間であり、最小加入度数が0ジオプトリ〜0.2ジオプトリの間であり、中央光学ゾーン全体の度数変化率は、なめらかに変動する関数である、中央光学ゾーンと、
選択された量の負の球面収差を提供する度数プロファイルを有する周辺光学ゾーンであって、周辺光学ゾーンが、レンズの中心から内半径2ミリメートル(mm)及び外半径3mmの間に負の球面収差量を提供する度数プロファイルを有し、周辺光学ゾーンの内半径において提供される負の球面収差量と、周辺光学ゾーンの外半径にいて提供される負の球面収差量との間の差が、最小絶対値0.65ジオプトリ〜最大絶対値1.25ジオプトリにおよぶ周辺光学ゾーンと、
中央光学ゾーンと周辺光学ゾーンとの間に介在してそれらを接続させ、中央光学ゾーンと周辺光学ゾーンとの間の移行を提供する移行ゾーンとを含み、
レンズ系のレンズは、それぞれがレンズ系のレンズのdcバイアス項が異なることを除いて同一である数学関数によって定義される度数プロファイルを有するレンズ系。
【請求項13】
度数プロファイルが、中央光学ゾーンにおいて、中央光学ゾーン及び移行ゾーンの相互接続において不連続である度数変化率を有する、請求項12記載のレンズ系。
【請求項14】
度数プロファイルが、周辺光学ゾーンにおいて、レンズ中央からの半径2ミリメートル(mm)〜レンズ中央からの半径3mmの間で連続的な変化率を有する、請求項12記載のレンズ系。
【請求項15】
度数プロファイルが、周辺光学ゾーンにおいて、レンズ中央から2.0ミリメートル(mm)の距離で0.50ジオプトリ/mm〜1.00ジオプトリ/mmにおよぶ絶対値と、レンズ中央から3.0mmの距離で0.75ジオプトリ/mm〜1.50ジオプトリ/mmにおよぶ絶対値とを有する度数変化率を有する、請求項12記載のレンズ系。
【請求項16】
度数プロファイルが、周辺光学ゾーンにおいて、レンズ中央から2.0ミリメートル(mm)の距離で絶対値0.65ジオプトリ/mmと、レンズ中央から3.0mmの距離で絶対値1.00ジオプトリ/mmとを有する度数変化率を有する、請求項15記載のレンズ系。
【請求項17】
度数プロファイルが、中央光学ゾーンにおいて、レンズ中央から0.5ミリメートル(mm)の距離で0.15ジオプトリ/mm〜0.8ジオプトリ/mmにおよぶ絶対値と、レンズ中央から1.0mmの距離で0.3ジオプトリ/mm〜2.0ジオプトリ/mmにおよぶ絶対値とを有する度数変化率を有する、請求項12記載のレンズ系。
【請求項18】
移行ゾーンが、連続的である度数プロファイルを有する、請求項12記載のレンズ系。
【請求項19】
老眼を処置するためのレンズ系を提供するための方法であって、
中央光学ゾーンの加入度数と、周辺光学ゾーンの負の球面収差とを提供するレンズ系のための度数プロファイルを選択することであって、
中央光学ゾーンが、最大加入度数から、最小加入度数におよぶ加入度数を提供する度数プロファイルを有する中央光学ゾーンであって、最大加入度数が0ジオプトリ〜2.4ジオプトリの間であり、最小加入度数が0ジオプトリ〜0.2ジオプトリの間であり、中央光学ゾーン全体の度数変化率は、なめらかに変動する関数であり、
周辺光学ゾーンが、レンズの中心から内半径2ミリメートル(mm)及び外半径3mmの間に負の球面収差量を提供する度数プロファイルを有する周辺光学ゾーンであって、周辺光学ゾーンの内半径において提供される負の球面収差量と、周辺光学ゾーンの外半径にいて提供される負の球面収差量との間の差が、最小絶対値0.65ジオプトリ〜最大絶対値1.25ジオプトリにおよぶ周辺光学ゾーンである、ことと、
レンズ系の各レンズごとに、異なるdcバイアス項を有する選択された度数プロファイルを提供して、すべてのレンズが、プロファイルのdcバイアス項がレンズ系のレンズごとに異なることを除き、同じ度数プロファイルを有するようにすることと、を含む方法。
【請求項20】
装着者の第1の目に、レンズ系の第1のレンズを装着することと、
装着者の第2の目に、レンズ系の第2のレンズを装着することと、
をさらに含む、請求項19記載の方法。
【請求項21】
老眼を処置するための少なくとも第1のレンズを設計する方法であって、
最大加入度数から最小加入度数におよぶ加入度数を提供する、レンズの中央光学ゾーンのための度数プロファイルを選択することであって、最大加入度数が0ジオプトリ〜2.4ジオプトリの間であり、最小加入度数が0ジオプトリ〜0.2ジオプトリの間であり、中央光学ゾーン全体の度数変化率は、なめらかに変動する関数である、ことと、
レンズ中央から内半径2ミリメートル(mm)及びレンズ中央から外半径3mmの間で負の球面収差量を提供するレンズの周辺光学ゾーンであって、周辺光学ゾーンの内半径において提供される負の球面収差量と、周辺光学ゾーンの外半径において提供される負の球面収差量との間の差が、最小絶対値0.65ジオプトリから最大絶対値1.25ジオプトリにおよぶ周辺光学ゾーンのための度数プロファイルを選択することと、
中央光学ゾーンと周辺光学ゾーンとの間に介在してそれらを接続させ、中央光学ゾーンと周辺光学ゾーンとの間の移行を提供する移行ゾーンのための、移行ゾーンが連続的であるように選択される度数プロファイルを選択することと、
を含む方法。
【請求項22】
内半径における度数プロファイルによって提供される負の球面収差量と、外半径における度数プロファイルによって提供される負の球面収差量との間の前記差が、絶対値0.85ジオプトリを有する、請求項21記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、老眼に対処するためのシステムに関する。より詳細には、本発明は、人間によって装用されて老眼の症状を矯正するか又はそれに対処することができるレンズ及びレンズ系に関する。
【背景技術】
【0002】
老眼は、人間の目の視覚系の調節が徐々に失われるものである。これは、虹彩及び瞳孔のすぐ後に位置する目の水晶体の弾性係数及び膨らみの増大に起因する。毛様筋と呼ばれる眼内の微細な筋肉が水晶体を引いたり押したりすることによって、水晶体の曲率が調整される。この水晶体の曲率の調整は、結果として目の焦点倍率を調整して、物体に焦点が合わせられる。人間が加齢するに従い、目の水晶体は柔軟性及び弾力性がより少なくなり、また、より少ない程度ではあるが、毛様筋の力強さがより少なくなる。これらの変化により、結果として目の水晶体はさまざまな距離に対して不適当な調整を行い(すなわち調節を喪失し)、このため目に近接した物体がかすんで見えることが生じる。
【0003】
大半の人は、老眼の症状は、普通に見た状態で、40歳前後又はそのまもなく後に顕著になり始める。しかし実際には、老眼は症状が認識可能になる前に生じ始め、人の一生を通じて進む。一般的に、人は残余調節力(Residual Accommodation)が読むために必要とされるレベル以下であると、「症状が現れた」と見なされる。通常の読む距離は、2.0〜3.0ジオプトリの加入度数の調節力(Accommodation ADD)を必要とする。結局は、残余調節力は、個人が50歳以上に完全な老眼となる時点まで減少する。老眼の症状は、結果として手元に近い対象物上で焦点を合わせることをできなくする。水晶体が固くなると、対象物近傍から来る光線に焦点を合わせることが不可能になる。症状が現れた人々は通常、たとえばコンピュータディスプレイモニタ上、電話帳及び新聞広告の小さな活字の読み取りに困難を感じ、読み物を腕の長さに保持する必要がある場合がある。
【0004】
老眼を処置するために現在用いられる多種多様な非外科的システムがあり、遠近両用眼鏡、累進(線が入らない遠近両用)眼鏡、読書用眼鏡、遠近両用コンタクトレンズ、及び単眼視野コンタクトレンズを含む。外科的システムは、たとえば目の中に挿入される多焦点眼内レンズ(IOL)及び調節IOL、及び角膜切除技法を通して変えられる視力システムを含む。これらのシステムはそれぞれ、他のものに対して一定の利点及び不利点を有する。遠近両用眼鏡では、レンズの頂点部が遠視レンズとして機能する一方で、より低い部分は近視レンズとして機能する。一般的には、遠近両用コンタクトレンズがうまく作用するのは、それぞれの目に良好な涙液膜(すなわち湿り気のある目)、良好な両眼視力(すなわち両方の目の焦点を一つに合わせる能力)、良好な視覚鋭さ(すなわち鮮明度)を有し、眼瞼に異常又は疾患がない患者である。遠近両用コンタクトレンズの装着者は、コンタクトレンズを維持するために必要とされる時間をかけなければならず、また一般的には、その人に視覚に対する高い要求を課する職業に従事すべきではない。さらに、遠近両用コンタクトレンズは、両眼視力を制限することがある。加えて、遠近両用コンタクトレンズは比較的高価であり、一つには患者が正確に装着するのに時間がかかるためである。
【0005】
代替の眼鏡及び遠近両用コンタクトレンズは、単眼視野コンタクトレンズである。単眼視野コンタクトレンズでは、一対のレンズの一方が近視を矯正し、他方が遠視を矯正する。正視の人、すなわち遠視矯正の必要がない人に対しては、一方の目に単一のコンタクトレンズのみを装用して近視を矯正する。非正視の人では、一方の単眼視野コンタクトレンズが一方の目、通常は利き目の焦点を遠くに設定し、他方のレンズが他方の目に正の度数バイアスを加える。正の度数バイアスの規模は、個人の残余調節及び近視要件に依存する。低い加入度数要件の人は、通常単眼視野コンタクトレンズに非常によく適応する。単眼視野の利点は、患者が受け入れやすく、便利でより低コストであることである。不利点は、装着者が調整している間に経験する頭痛及び疲労と、視覚鋭さの低下とを含み、これらは人によっては受け入れがたいと見なされる。加入度数の差が増大するにつれ、奥行き知覚、夜間視力及び中間視力の損失によって、単眼視野システムの有効性が制限される。
【0006】
また、同時視多焦点コンタクトレンズを用いて、老眼が処置される。多焦点コンタクトレンズのタイプは、中央遠視度数設計、中央近視度数設計、環状度数設計、回折度数設計等を含むが、これらに限定されない。中央遠視度数設計は、多焦点又は累進コンタクトレンズであり、老眼を処置するために用いられる。これらのレンズは、レンズの中央に、レンズの中央から離れて外側に延び近視ゾーンと、レンズの周辺にあって近視ゾーンと同心円でありそれを取り囲む遠視ゾーンとを有する。より最近の多焦点コンタクトレンズは、累進コンタクトレンズとして知られ、近視領域と遠視領域との間の移行が、これまでの設計よりも漸進的である。加入度数は、レンズの近視領域で最も高く、レンズの遠視領域で最も低くなるか又はゼロである。移行領域では、レンズが近視ゾーンから遠視ゾーンへと移行するに従い、近視加入度数から遠視加入度数(又は非加入度数)へと継続的に低下する。
【0007】
多焦点レンズは一般的に、老眼の症状を処置することに効果的である一方、多焦点レンズに関連して多くの不利益な点がある。老眼の症状を処置するように設計された多焦点レンズは、普通はレンズの近視ゾーンに比較的高い加入度数を有して、近視に求められる矯正を提供する。近視ゾーンの高い加入度数は、結果として視覚に不自然な影響、すなわちゴースト画像をもたらし、これが装着者の中間視力に悪影響を及ぼして、結果的に装着者の遠視力を損なうような他の問題をもたらす可能性がある。
【0008】
現在の老眼処理システムの別の欠点は、ほとんどが老眼前段階、又は初期老眼の処置に効果的でないことである。老眼の症状が本人にとってたやすく認識可能になる前であっても、その人は、老眼前段階の症状、たとえば目の視覚システムが暗闇又は微光状態に順応させることができないことを経験しているかもしれない。非常に高い近視加入度数を備える累進多焦点レンズは、老眼前段階を処置するために用いるには好適ではない。Fairport,New Yorkに本社を置くCooperVision社は、最近老眼初期段階に効果的であると主張するコンタクトレンズ試験を開始したが、本製品に関して、レンズが老眼前段階の処置に実際に効果的であると証明するために十分な情報は、今のところ入手可能ではない。
【0009】
したがって、老眼の段階を通して効果的であり、装着者の中間視力又は遠視力を損なわない老眼及び老眼前段階を処置するためのシステムに対する要求がある。
【発明の概要】
【0010】
本発明は、老眼及び老眼前段階を処置するためのレンズ及びレンズ系を提供する。各レンズは、中央光学ゾーン、周辺光学ゾーン及び移行ゾーンを含む。中央光学ゾーンは、約0ジオプトリ〜約2.4ジオプトリの間の最大加入度数から、約0ジオプトリ〜約0.2ジオプトリの間の最小加入度数におよぶ加入度数を提供する度数プロファイルを有する。周辺光学ゾーンは、半径約2mm〜半径約3mmの間で負の球面収差量を提供する度数プロファイルを有する。周辺光学ゾーンの内半径において提供される負の球面収差量と、周辺光学ゾーンの外半径において提供される負の球面収差量との間の差は、最小絶対値約0.65ジオプトリから最大絶対値約1.25ジオプトリにおよぶ。レンズの移行ゾーンは、中央光学ゾーンと周辺光学ゾーンとの間に介在してそれらを接続させ、中央光学ゾーンと周辺光学ゾーンとの間の移行を提供する。移行ゾーンは連続的である度数プロファイルを有する。
【0011】
本発明は、老眼を処置するためのレンズ系を設計するための方法を提供し、レンズ系の各レンズは、選択された量の加入度数を有する中央光学ゾーンを提供し、選択された量の負の球面収差を有する周辺光学ゾーンを提供する度数プロファイルを有する。移行ゾーンは、中央光学ゾーンと周辺光学ゾーンとの間に介在してそれらを接続させ、中央光学ゾーンと周辺光学ゾーンとの間の移行を提供する。レンズごとの度数プロファイルは、関数のdcバイアス項が各系のレンズごとに異なることを除き、同じ数学関数によって定義される。
【0012】
別の実施形態では、本発明は、老眼を処置するためのレンズを設計する方法を提供し、レンズの中央光学ゾーンのための度数プロファイルを選択することと、周辺光学ゾーンのための度数プロファイルを選択することと、移行ゾーンのための度数プロファイルを選択することとを含む。中央光学ゾーンの度数プロファイルは、約0ジオプトリ〜約2.4ジオプトリの間の最大加入度数から約0ジオプトリ〜0.2ジオプトリの間の最小加入度数におよぶ加入度数を提供するように選択される。周辺光学ゾーンは、半径約2mm〜半径約3mmの間で負の球面収差量を提供する度数プロファイルを有する。周辺光学ゾーンの内半径において提供される負の球面収差量と、周辺光学ゾーンの外半径において提供される負の球面収差量との間の差が、最小絶対値約0.65ジオプトリ〜最大絶対値約1.25ジオプトリにおよぶ。移行ゾーンは、中央光学ゾーンと周辺光学ゾーンとの間に介在してそれらを接続させ、中央光学ゾーンと周辺光学ゾーンとの間の移行を提供する。移行ゾーンは、連続的であるように選択される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の説明のための実施形態のコンタクトレンズの平面図を示す。
図2図1に示されたレンズに好適な度数プロファイルの例を表す、3つの異なる度数プロファイルのグラフを示す。
図3図2に示された3つのプロファイルの、中央光学ゾーン全体にわたる変化率をジオプトリ/mmで表す、3つの異なる曲線のグラフを示す。
図4】レンズの中央から約2.0mm〜約3.0m延びる、図1に示された周辺光学ゾーンの度数プロファイルの一部のグラフを示す。
図5図4に示されたプロファイルの、周辺光学ゾーン全体にわたる変化率をジオプトリ/mmで表す、曲線81のグラフを示す。
図6】本発明の実施形態の、異なるdcバイアス項を有する同じ系の2つのレンズの2つの度数プロファイルを示す。
図7】老眼の処置向けのレンズ系を提供するための、説明のための実施形態の本発明の方法を表すフローチャートを示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のこれらの及び他の特徴及び利点は、以下に続く明細書、図面及び特許請求の範囲から明らかになろう。
【0015】
本発明は、装着者の中間視力及び遠視力を損なうことのない、老眼及び老眼前を処置するための処置システムに関する。説明を簡略にするために、用語「老眼」及び「老眼前段階」は、本明細書では単に「老眼」と称する。本発明は、中央光学ゾーンに、個人の視覚系の残余調節力及び動きに調和した正の加入度数量を提供し、周辺光学ゾーンに負の球面収差量を提供するように合わせられたレンズを含むレンズ系に向けられる。目が近くへの輻輳(vergence)に対する調節を行うと、瞳孔が収縮して(縮瞳)光学系の球面収差はより負になる。これらの動的な眼球のファクタは、個人の視覚系の焦点深さを増大させるように機能する。本質的に、これらの動的な眼球のファクタは、レンズの中央光学ゾーンによって提供される正の加入度数と、レンズの周辺光学ゾーンによって提供される負の球面収差から得られる有効加入とともに作用して、最小限認識可能な量のぼやけを引き起こす。これらのファクタすべての組み合わが、結果として最小限認識可能な量のぼやけとなり、これは個人の焦点深さを最大にするように調和される。ここで、これらの目的が達成される方法を、本発明のいくつかの説明のための実施形態を参照して記載する。
【0016】
本発明のレンズは、本明細書において屈折度数プロファイルの観点から記載される。本明細書では、レンズ系は所与の加入パラメータに対する加入度数域として定義される。たとえば、通常の球面レンズ系は、0.25ジオプトリずつ−10ジオプトリ〜+6ジオプトリの範囲にわたる加入度数を有する。加入パラメータは、光学ゾーンでの収差又は屈折度数の摂動であり、対象の大きさによって焦点深さを増大させるために必要とされる。所与の加入パラメータの摂動の大きさ及び関数形式は、所与の残余調整の大きさを対象としている。このように、特定の加入パラメータは、特定のレンズ系のすべてのレンズに関連する。多数の加入パラメータが可能であり、各加入パラメータは特定の段階の老眼を対象としている。所与の系の度数プロファイルは、レンズ系の各レンズごとにdc項の式が異なることを除き、すべて同じ式によって定義される。従って、特定の係数及び数学演算子を有する特定の式が加入パラメータに対応するのに対し、その式中のdc項は、加入度数に対応する。
【0017】
図1は、本発明を例証する実施形態の、コンタクトレンズ1の平面図を図示する。本発明の原理及び概念を記載する目的で、本発明のコンタクトレンズは、少なくとも中央光学ゾーン10と、周辺光学ゾーン20と、中央光学ゾーン10を周辺光学ゾーン20につなげる移行ゾーン30とを有するものとされる。これらの目的のために、本発明のコンタクトレンズの全光学ゾーンは、ゾーンのいずれかが複数のゾーンで構成される場合であっても、中央光学ゾーン10、移行ゾーン30及び周辺光学ゾーン20を含むものとされる。
【0018】
通常のコンタクトレンズでは、全光学ゾーンは直径約7.0〜8.0ミリメートル(mm)である。本発明の原理及び概念を記載する目的で、中央光学ゾーンは、直径約2.0〜約4.0mmの範囲にわたり、好ましくは直径約3.0mmであるとされる。周辺光学ゾーン20は、中央光学ゾーン10を取り囲む環状である。周辺光学ゾーン20の外側は、外周縁領域25であり、いかなる光学目的にも役立つものではないが、目の表面にレンズ1の前面を装着する目的に役立つ。レンズ1の全体は、この外周縁領域25を含めて、通常は直径約13.8mm〜約14.60mmである。
【0019】
図2は、図1に示されるレンズ1に好適である度数プロファイルの例を表す、3つの異なる度数プファイル40、50及び60のグラフを図示する。グラフの縦軸は、屈折の光学度数を表し、横軸はレンズの中心から外に向かう半径をミリメータで表す。上述のように、本発明によれば、周辺光学ゾーンによって負の球面収差の選択された大きさがもたらされた場合、近視調節に必要とされるよりもわずかに少ない正の加入度数量を提供するレンズを中央光学ゾーンにおいて用いることによって、老眼を効果的に処置することができることが分かっている。このタイプのプロファイルを有するレンズが、老眼処置に効果的である理由は、周辺光学ゾーンによってもたらされる負の球面収差の選択された大きさが、個人の目の残余調節力ともに作用して、目の焦点深さを延長させ、中間視力又は遠視力に対する最小限認識可能なぼやけによって近視を改善するためである。より詳細には、目の動的な眼球のファクタは、レンズの中央光学ゾーンによって提供される正の加入度数と、レンズの周辺光学ゾーンによって提供される負の球面収差から得られる有効加入度数とともに作用して、個人の焦点深さを最大にするように調和させた、最小限認識可能な量のぼやけを引き起こす。度数プロファイル40、50及び60はそれぞれ、中央光学ゾーン、すなわち縦軸上での曲線の切片において、最大加入度数を有し、レンズの周辺光学ゾーンに負の球面収差を備える。図2によって表される例では、プロファイル40に対する中央光学ゾーンでの最大加入度数は約0.3ジオプトリであり、プロファイル50に対する中央光学ゾーンでの最大加入度数は約0.9ジオプトリであり、プロファイル60に対する中央光学ゾーンでの最大加入度数は約1.6ジオプトリである。本発明は、これらの加入度数に限定されない。最大加入度数は通常、中央光学ゾーン10での中央で約0ジオプトリ〜約2.4ジオプトリの範囲にわたる。最小加入度数は通常、中央光学ゾーン10の中央で約0ジオプトリ〜約0.2ジオプトリの範囲にわたる。加入パラメータの振幅(すなわちdcバイアス成分)、及びプロファイルを定義する加入パラメータの関数形式は、個人の残余調節力とともに作用して、輻輳(vergence)を通してなめらかで一定な視力レベルを提供するように設計される。
【0020】
上記で指摘したように、装着者のために選択される度数プロファイルは、装着者の目の動的な眼球のファクタに依存する。中央光学ゾーンに高い振幅加入度数を有するプロファイルは、近点をより近づけるが、結果として中間視力が低下し、輻輳(vergence)を通してより視力を損なう。したがって、中央光学ゾーンの最大加入度数は、目の動的な眼球のファクタに基づいて選択されて、選択された加入度数と、レンズの周辺光学ゾーンによって提供される負の球面収差から得られる有効加入度数とが、個人の焦点深さを最大にするように調和させた最小限認識可能な量のぼやけを引き起こす。
【0021】
中央光学ゾーン10の最小加入度数は、中央光学ゾーン10と移行ゾーン30との境界に現れる。中央光学ゾーン10が終了して移行ゾーン30が始まるレンズ中央からの距離は、レンズ設計に依存して変動する。図1を参照して上記で指摘したように、中央光学ゾーン10は通常、約2.0〜約4.0mmの範囲にわたる直径を有し、好ましくは約3.0mmである。このことは、レンズ中央からの半径距離、すなわち直径の半分約1.0mm〜約2.0mmに対応する。中央光学ゾーンの最小加入度数は、目の動的な眼球のファクタに基づいて選択されて、選択された最小加入度数と、レンズの周辺光学ゾーンによって提供される負の球面収差から得られる有効加入度数とが、個人の焦点深さを最大にするように調和させた最小限認識可能な量のぼやけを引き起こす。負の球面収差とは、本明細書で用いられる用語としては、瞳孔の周辺領域を通して受ける光線が網膜の後で焦点が合わせられると同時に、瞳孔の中心を通して受ける光線は網膜上に焦点が合わせられることを意味する。
【0022】
一般的に、プロファイル40を有するレンズは、多くの場合新生老眼者(emerging presbyopes)と呼ばれる老眼前段階の症状を感じている人々に向けられる。中央光学ゾーン10では、プロファイル40は、プロファイル50及び60の加入度数よりも低い加入度数を有する。中程度の老眼、すなわち老眼の症状を感じ始めている人は、通常40歳前後で生じ、目の残余調節は通常、目に近接した物体上で明確に焦点を合わせるために必要とされるよりもほんのわずか少ない。そのような人にはプロファイル50を有するレンズが好適であるのは、加入度数が、中央視覚ゾーンのプロファイル40によって提供されるものよりもわずかに大きいが、それでも今までこのような人向けに用いられてきたものよりも小さいためである。より進んだ老眼の人向けにプロファイル60を有するレンズは、中央光学ゾーン全体にわたって、プロファイル40及び50によって提供されるものよりも高い、それでも今までこれらの人々向けに設計されたレンズに用いられたものよりも低い加入度数を提供する。
【0023】
図3は、3つの異なる曲線41、51及び61のグラフを図示し、それぞれ図2に示されたプロファイル40、50及び60の中央光学ゾーン10全体における度数変化率を、ジオプトリ/mmで表している。曲線41、51及び61は、プロファイル40、50及び60の第1の微分係数を、r=0mm〜r=1.5mmまで取ることによって得られる。中央光学ゾーンでの度数変化率は、目の残余調節力に対して適正であるべきである。最適な視力のために、中央光学ゾーン全体の度数変化率は、なめらかに変動する関数であるべきである。通常中央光学ゾーンでの度数変化率は、レンズ中央から直径半分約0.5mmにおいて、最小絶対値約0.15ジオプトリ及び最大絶対値約0.8ジオプトリを有する。レンズ中央から直径半分約1.0mmにおいて、中央光学ゾーンの度数変化率は通常、最小絶対値約0.3ジオプトリ及び最大絶対値約2.0ジオプトリを有する。
【0024】
プロファイル40については、対応する変化率41が、中央光学ゾーン10全体で一定(すなわち直線)であることが見受けられる。プロファイル50については、対応する変化率51が、レンズ中央から半径約1.0mmまで大きさが増大するが、半径約1.0mmから半径約1.45mmまで全体として一定であることが見受けられる。プロファイル60については、対応する変化率61がレンズ中央から半径約1.0mmまで増大するが、その後半径約1.0mmから半径約1.45mmに向かって減少することが見受けられる。
【0025】
本発明は、図2のプロファイルに限定されない。プロファイル40、50及び60とは異なる数学関数及び/又は異なる加入度数を用いて、本発明の目的を達成するプロファイルを定義することができる。度数プロファイルを定義するために用いられる数学関数は、特定のタイプ又は類の数学関数に限定されない。各プロファイルは、単一の数学関数、たとえば多項式関数によって定義されてもよく、又は複数の数学関数で構成される区分関数によって定義されてもよい。また、プロファイルは他の関数、たとえば一次関数、スプライン関数(たとえば三次スプライン及び双三次スプライン)、ザイデル関数、ゼルニケ関数、円錐関数及び双円錐関数等によって定義されてもよい。
【0026】
たとえば、図3に示される曲線51及び61は、中央光学ゾーン10の中央から半径約1.45mmにおいて不連続である。しかし、図2に示されるプロファイル50及び60を表す関数が連続的であるために第1の微分係数で微分可能であるため、プロファイル40、50及び60は、老眼処置のために設計されたレンズに好適である。プロファイルが第2の微分係数で微分する必要がないため、区分関数及びスプラインを含むより幅広い数学関数を用いてプロファイルを定義してもよい。
【0027】
本発明は、移行ゾーン30(図1)の度数プロファイルの挙動に関して限定されない。好ましくは、プロファイルは、移行ゾーン30全体で連続的であって、視覚が、普通はゴースティングとも呼ばれる不自然な影響に影響されることを防止する。プロファイルが移行ゾーン30全体にわたって連続的であることを表明する別の方法は、プロファイルが、以降ゾーン30全体にわたって、少なくとも第1の微分係数で微分可能であることを表明することである。図2に示されるより高い加入度数プロファイル50及び60に対しては、図3に示す比率曲線51及び61の、中央光学ゾーン10の中央からほぼ移行ゾーン30(中央から1.5mm)までの連続的な変化は、視覚的に不自然な影響やゴースト像によって視覚が劣化しないことを確実にする。
【0028】
図4は、周辺光学ゾーン20の度数プロファイル80の部分的なグラフを図示し、レンズ1(図1)の中央から約2.0mm〜約4.0mmまで延びている。上記で指摘されたように、周辺光学ゾーン20の度数プロファイルは、負の球面収差量を提供する。通常、負の球面収差量は、周辺光学ゾーン20と移行ゾーン30との境界で約−0.1〜約0.7ジオプトリ、周辺光学ゾーン20と外周縁領域25との境界で約−2.0ジオプトリ〜約2.7ジオプトリの範囲にわたる。上記で指摘したように、この球面収差の効果は、中央光学ゾーン10及び目の眼球動態によって提供される正の加入度数とともに作用して、個人の焦点深さを最大にするように調和させた、最小限認識可能な量のぼやけを引き起こす有効加入度数量を提供する。
【0029】
図5は、周辺光学ゾーン20全体にわたって、プロファイル40、50及び60の度数変化率をジオプトリ/mmで表す曲線81のグラフを示す。曲線81は、プロファイル40、50及び60のいずれか1つの第1の微分係数を、r=2.0mm〜r=3.0mmまで取ることによって、すなわち、図4に示されるプロファイル80の第1の微分係数を取ることによって得られる。破線82及び83は有界関数を表し、周辺光学ゾーン20全体に及ぶ通常度数を表す。周辺光学ゾーン20全体にわたる変化率は、レンズ中心から離れた距離で大きさが増大し、半径約2mmで大きさ約−0.67ジオプトリ/mm、半径約3mmで大きさ約−1.00ジオプトリ/mmを有することが見受けられる。図5ではX軸が半径3mmで止まっているために見られないが、変化率は、半径約4mmで大きさ約−1.33ジオプトリ/mmを有する。有界関数82及び83を見ると、周辺光学ゾーン20全体の度数変化率は、大きさで、半径約2mmで大きさ約−0.5ジオプトリ/mmから、周辺光学ゾーン20と移行ゾーン30との境界の半径約3mmで大きさ約−1.5ジオプトリ/mmに及び、周辺光学ゾーン20と外周縁領域25との境界で最大絶対値約1.5ジオプトリに及ぶ。
【0030】
目の球面収差が、本質的には屈折誤差に依存しないため、レンズ系の負の球面収差は、好ましくはすべてのレンズ系において等しいか、又は異なるレンズ系において周辺光学ゾーン全体にわずかな量だけ変動する。周辺光学ゾーン20の負の球面収差の正しい大きさ領域を提供することで、画像のぼやけの視覚的な許容可能量を提供することによって焦点深さを増大させ、輻輳(vergence)における視覚系の瞳孔の動き(縮瞳)を考慮にいれた上で焦点深さを延長する。上述のように、負の球面収差は、本明細書で用いられる用語としては、瞳孔の周辺領域を通して受ける光線が網膜の後で焦点が合わせられると同時に、瞳孔を通して受ける光が網膜上に焦点が合わせられることを意味する。同様に述べると、瞳孔の周辺は、瞳孔の中央よりも低い度数を有する。
【0031】
図5に示すように、周辺収差(SA)を、2mm半径ゾーンと3mm半径ゾーンとの間の負の球面収差の差の絶対値として定義すると、SA値の好ましい範囲は、
SA(min)=0.65ジオプトリ
SA(max)=1.25ジオプトリ
SA(nominal)=0.85ジオプトリ
である。
【0032】
好ましくは、すべての加入度数パラメータに対して、周辺光学ゾーンの球面収差は等しい。トーリック多焦点レンズに対して、上記範囲は、球の経線に沿って有効である。周辺光学ゾーン20は、ゼルニケ多項式、非球面項、又は等価物によって表し得る。周辺光学ゾーン20の度数プロファイルは、二次又は二次摂動度数関数によって表し得る。
【0033】
上述のように、所与のレンズ系では、好ましくは各レンズが同じ加入度数パラメータに定義された度数プロファイルを有するが、dcバイアス項はその系の各レンズによって異なる。図6は、本発明の実施形態の、異なるdcバイアス項を有する同じ系の2つのレンズの2つの度数プロファイル90及び91を図示する。このように、プロファイル90及び91を定義する数学関数は、dcバイアス項を除いて同一である。dcバイアス項は、プロファイルがY軸と交差する位置に対応する。この値は、ゼロに等しい関数のすべてのX軸項を、関数の値がdcバイアス項に対応するように、すなわち式中で一定に設定することによって得られる。
【0034】
本発明の別の実施形態では、わずかな大きさだけ近視を余分に加えることによって、結果として老眼の処置が改善されることがある。遠視が利き目であるか又は最小限の乱視を有する場合、わずかな量だけ近視を余分に加えることによって焦点深さが増大する。本明細書で用いられる用語「余分に加える」は、加入度数パラメータによって定義されたプロファイルを有するレンズを、他の目に用いられる系の別のレンズとして目に装着することを意味するが、その系のその他のレンズよりも大きいdcバイアス項も有する。たとえば、図6を参照して、近視はプロファイル91を有するレンズを装着するが、一方遠視はプロファイル90を有するレンズを装着する。
【0035】
本発明は、コンタクトレンズに関連して上述されてきたが、本発明は有水晶体又は無水晶体レンズに加え、角膜切除を行うことによって作り出される光学度数プロファイルにも同じように適用される。加えて、本発明は、図1に示された同時視レンズに関連して記載されてきたが、本発明のレンズは単眼視野を改良するためにも用いられる場合があるが、これは本明細書に記載された度数プロファイルが、遠視度数と近視度数との間の不均衡を減少させるためである。
【0036】
図7は、老眼の処置用のレンズ系を提供するための、説明的な実施形態における本発明の方法を表すフローチャートである。レンズ系は、ブロック101によって示されるように、系の各レンズが中央光学ゾーンに加入度数、及び周辺光学ゾーンに負の球面収差を提供する度数プロファイルを有するように備えられる。最大加入度数は、好ましくは中央光学ゾーン10(図1)の中央に現れ、最小加入度数は、好ましくは中央光学ゾーン10と移行ゾーン30と間の境界で現れる。ブロック102に示されるように、レンズ系の各レンズ向けに、それぞれの度数プロファイルは異なるdcバイアス項を備える。レンズ系の各レンズは、ブロック103に示されるように、好ましくは連続的である移行ゾーンを有し、このことは移行領域のプロファイルが少なくとも第1の微分係数で微分されるが、必ずしも第2又はそれ以上の微分係数ではないことを意味する。
【0037】
本発明はいくつかの好ましく説明的な実施形態を参照して説明され、本発明はこれらの実施形態に限定されないことに留意すべきである。当業者においては、本明細書に記載された実施形態に改変をなすことができ、またすべてのそのような改変は本発明の範囲内であることが理解されよう。たとえば、本明細書により提供された記載を考慮して、当業者においては、本発明が、図2を参照して上述された度数プロファイルの一つを有するレンズに限定されないことが理解されよう。上記で指摘されたように、幅広い数学関数及び加入パラメータを用いて、中間視力及び/又は遠視力を犠牲にすることなく、老眼を処置する本発明の目的に合う度数プロファイルを表してもよい。また、図6を参照して上述した方法は、中央光学ゾーン、周辺光学ゾーン及び移行ゾーン向けに度数プロファイルを選択するための別個の方法を示しているが、このことは、これら各ゾーンごとの要件すべてを満たす単一の度数プロファイルが選択される間に、単一の工程で達成されてもよい。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7